説明

金属の耐食性を改良する方法

金属、特に鋼及び高ニッケル含有合金の耐食性を改良する方法が提供される。本方法は、金属部品を1以上の極低温処理に供し、場合によってはその後1以上の熱処理に供することを含む。極低温処理は、好ましくは-90℃〜-195℃の間、最も好ましくは-180℃〜-195℃の間の温度を用いる。熱処理は、好ましくは120℃〜175℃の間の温度を用いる。本方法は、金属部品及び構成要素の処理に用いることができる。本方法により製造される熱交換器配管、冷却器配管、配管、特に化学プロセス配管、ポンプ、反応器容器及び貯蔵タンクも提供される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属、特に鋼類および特に高Ni合金の耐食性を改良する方法に関する。
浅いか深いかのいずれかの極低温焼き戻し、特に深い極低温焼き戻しは、特に工具鋼製の切削工具の寿命を延長することから、最近、多くの注意を喚起している。
【0002】
驚くべきことに、極低温処理は金属の耐食性を改良することができることを知見した。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0003】
本発明によれば、金属の耐食性を改良する方法が提供される。本方法は、金属を極低温処理に供することを含む。
本発明の方法に供することができる金属としては、鋼類、特に、例えば商標「インコロイ:INCOLOY」として入手可能な高ニッケルステンレススチールを含むオーステナイト系ステンレススチールなどのステンレススチールやデュープレックス(duplex)ステンレススチールを挙げることができる。高ニッケルステンレススチールは、一般に、少なくとも5% w/w Ni、典型的には少なくとも8% w/w Niを含み、25〜30 % w/w Niを含み得る。本方法は、高ニッケル合金の処理、例えば少なくとも50% w/w ニッケルを含む合金、特に商標「ハステロイ:HASTELLOY」、「モネル:MONEL」および「インコネル:INCONEL」として市販されているタイプの合金の処理に特に適する。
【0004】
本発明の極低温処理は、一般に、工具鋼の極低温焼き戻しとして当業者に知られている手順に続き、一般に実質的に周囲温度以下の温度まで金属を冷却する工程と、金属を周囲温度まで戻す工程と、を含む。冷却は、例えば、選択された温度の液体中での金属の浸漬により迅速に行われ得る。しかし、多くの実施形態において、これは、熱衝撃の結果として金属における望ましくない変態を含むかもしれない。したがって、熱衝撃を避けるために、金属の温度は制御された態様で低下させることが好ましい。金属は、温度、金属の性質および金属の寸法および容積に依存して5〜30分などの数分〜例えば36〜48時間などの数時間にわたり、選択された周囲温度以下の温度に維持されてもよい。
【0005】
いかなる理論にも拘束されることを望まないが、本発明による極低温処理は、応力割れの機会を減少させる金属の極低温応力解放に効果があり、よって、金属の耐食性を改良すると考えられる。
【0006】
本方法は、例えば用いられる周囲温度よりも低い温度(sub-ambient temperature)が-60℃〜-90℃の範囲にある浅い極低温処理を用いてもよい。このようなプロセスは、典型的には、沸騰している液体窒素からの蒸気に暴露することにより金属を冷却することを含む。
【0007】
多くの実施形態において、本方法は、用いられる温度が-90℃未満、好ましくは130℃未満、最も好ましくは-155℃未満である深い極低温処理を用いることが好ましい。用いられる温度が-180℃〜-195℃の範囲にあることが特に好ましく、約-185℃〜約-190℃であることが最も有利である。このようなプロセスは、典型的には沸騰している液体窒素からの蒸気に暴露することにより金属を冷却することを含む。金属は、典型的には液体窒素が注入された排気口付き容器内に収容されている。制御された速度で液体窒素を容器内に供給することにより、容器内の温度は、容器内に入る際に液体窒素が気化するにつれて下降し、こうして金属サンプルは冷却されることが認識されるであろう。容器は、典型的には絶縁されていて、冷却効率を改良する。
【0008】
用いられる冷却速度は、ユーザーに利便なように選択することができるが、多くの実施形態においては、約0.2℃/分〜約2℃/分の範囲、例えば0.5℃/分〜1℃/分の範囲となるように制御される。
【0009】
所望時間の貯蔵後に、金属を周囲温度まで戻すことができる。これは、金属の積極的な加熱を含むものでもよいし、あるいは容器の温度ひいては金属の温度を周囲温度まで上昇させて戻すことを含むものでもよい。多くの実施形態において、温度は0.5℃〜10℃/分の速度、例えば2℃〜7℃/分、好ましくは約5℃/分の速度で上昇する。
【0010】
周囲温度まで戻した後、金属を好ましくは熱処理、例えば慣用のマルテンパー手法を用いるマルテンパーに供する。しばしば数回、例えば2〜3回繰り返される加熱と冷却のサイクルを含むマルテンパーは、金属を周囲温度にて所定時間貯蔵した後に行ってもよいし、あるいは金属を周囲温度にまで戻すプロセスの直後に行ってもよい。実施形態において、マルテンパーは金属を約120℃〜175℃、好ましくは約150℃に加熱し、その後、周囲温度にまで戻す工程を含む。
【0011】
多くの好ましい実施形態において、本発明の方法は、周囲温度よりも低い温度、好ましくは約-185℃〜-190℃から2〜7℃/分、好ましくは約5℃/分の速度で約140℃〜160℃まで加熱することにより金属をマルテンパーすることを含む。
【0012】
極低温処理プロセスは、工具鋼の極低温焼き戻し用の公知の市販装置を用いて行うことができる。このような装置は、マルテンパーを効果的に行うための設備機器を追加的に含むものでもよい。
【0013】
本発明の方法は、フィルター、ヒーター、クーラー、交換器、配管、機械的プロセス設備機器などの製作に用いられる金属の耐食性を改良するために特に適する。本方法は、所与の商業的取引対象品の製作前に金属に適用してもよいが、製作された物品に適用することが好ましい。本方法は、塩化物腐食に供される金属の耐食性を改良するために特に適する。商業的取引対象品の例としては、特に熱交換器配管、冷却器配管、プロセス配管、特に化学プロセス配管、フィルター、ポンプ、反応器容器及び貯蔵タンクを挙げることができる。
【0014】
本発明の方法において、所与の耐食性を有する金属もしくはこのような金属から製作された物品は、改良された耐食性を有するように選択することができる。ここで、耐食性は、金属を極低温的に処理することにより、好ましくは金属を深い極低温処理に供することにより改良される。
【0015】
さて、本発明の方法を以下の実施例により説明するが本発明はこれらに限定されない。
【実施例】
【0016】
ハステロイ(Hastelloy)C276 Schedule 40配管を断熱容器内で液体窒素蒸気に暴露させて-187℃まで冷却することにより、極低温処理した。冷却は1℃/分の速度で行い、配管を-187℃に10時間維持した。次いで、配管を周囲温度まで暖めて、その後、150℃まで加熱して、周囲温度まで冷却することにより、マルテンパーに供した。マルテンパープロセスは3回の加熱/冷却サイクルを用いた。
【0017】
ベンゼン及び三塩化リン反応混合物を650℃の反応温度まで加熱するために用いられる反応器容器内のヒーター要素として、前記配管を組み込んだ。このように処理された配管は、同じ使用条件に暴露されたハステロイ(Hastelloy)の同じ等級から作られた対応する極低温処理されなかった配管よりも少なくとも8倍長い有効寿命を有していたことが観察された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を極低温処理に供することを含む、金属の耐食性を改良する方法。
【請求項2】
前記金属は高Ni-合金である、請求項2に記載の方法。
【請求項3】
前記極低温処理は、-180℃〜-195℃の温度で行われる、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記極低温処理は沸騰している液体窒素の蒸気に暴露させることによって金属を冷却することを含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
極低温処理は複数回行われる、請求項1〜4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
極低温処理の後、前記金属を熱処理に供する、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記熱処理は、120℃〜175℃の温度で行われる、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記金属は、熱交換器配管、冷却器配管、配管、特に化学プロセス配管、フィルター、ポンプ、反応器容器および貯蔵タンクを含む、請求項1〜7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項8に記載の方法によって製造された熱交換器配管、冷却器配管、配管、特に化学プロセス配管、ポンプ、反応器容器および貯蔵タンク。
【請求項10】
金属の耐食性を改良するための極低温処理の使用。

【公表番号】特表2007−503528(P2007−503528A)
【公表日】平成19年2月22日(2007.2.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−530534(P2006−530534)
【出願日】平成16年5月24日(2004.5.24)
【国際出願番号】PCT/GB2004/002232
【国際公開番号】WO2004/106559
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(301003344)アベシア・インコーポレーテッド (1)
【Fターム(参考)】