説明

金属の腐食防止方法

【課題】薄膜材料の表面の機能を有した状態で、高耐食性を付与させる金属の腐食防止方法を提供する。
【解決手段】シランカップリング剤と酸化剤とを併用させることにより極薄膜の強固な結合を有するシランカップリング反応層を金属基材上に形成させる。または、金属基材をあらかじめ酸化処理させた後に、シランカップリング液と接触させることにより極薄膜の強固な結合を有するシランカップリング反応層を金属基材上に形成させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面の腐食を防止する表面処理に関する。この方法は、1または複数の有機官能性シランと酸化剤とを併用することにより、有機コーティング層を金属表面に形成することにより耐食性を向上させるのみならず、耐熱性,耐溶剤性,摺動性,平滑性に優れた表面を提供する。本発明で対象とする金属表面は、磁気ディスク表面で代表されるように非常に平滑でかつ機能性を有する特性を示すものであり、また薄膜を対象としている。
【背景技術】
【0002】
従来から実施されている耐腐食性の表面処理としては、クロム酸や重クロム酸などの6価のクロムを使用したクロメート処理がある。しかしながら、近年の環境問題の観点から6価のクロムを含む表面処理は規制されており、ノンクロムの表面処理の開発が精力的に実施されている。このような6価のクロムを使用しない表面処理として、たとえば特許文献1には金属表面を少なくとも1つの三価クロムキレート錯体の溶液で処理する方法が知られている。クロム以外の無機成分を用いる技術としては、例えば特許文献2にバナジウム化合物と;ジルコニウム,チタニウム,モリブデン,タングステン,マンガン、およびセリウムから選ばれる少なくとも1種の金属を含む金属化合物:を含有する金属表面処理剤による処理が開示されている。シランカップリング剤を使用した防食法としては、例えば特許文献3に低濃度の有機官能シランおよび架橋剤を含有する水溶液による金属板を処理する方法が、特許文献4に2官能性ポリサルファシランを使用して金属の腐食を防止する方法、特許文献5にアミノシランおよび多シリル官能シランを含有する溶液と接触させた後に溶剤を除去することにより金属基材に長期コーティングを施し方法も開示されている。更に特許文献6には、特定の樹脂化合物(A)と、第1〜3アミノ基および第4アンモニウム塩基から選ばれる少なくとも1種のカチオン性官能基を有するカチオン性ウレタン樹脂(B)と、特定の反応性官能基を有する1種以上のシランカップリング剤(C)と、特定の酸化合物(E)とを含有し、なおかつカチオン性ウレタン樹脂(B)およびシランカップリング剤(C)の含有量が所定の範囲内である表面処理剤を用いて、耐食性に優れ、さらに耐指紋性,耐黒変性および塗装密着性に優れたノンクロム系表面処理鋼板を製造する方法が開示されている。
【0003】
耐食性を向上させるのみならず、耐熱性,耐溶剤性,摺動性に優れた表面を提供することが求められている。しかしながら、これら従来の技術は、三価クロムキレート錯体やバナジウム化合物等を使用する方法では、自己修復性は低いもののクロメート皮膜に匹敵する程度の耐食性は得られるものの、数ミクロン程度の厚い皮膜が生成すること、処理環境が強い酸性領域であることから薄膜に適応した場合、処理工程の途中で対象とする金属が消失してしまうこと、また消失しなくとも表面に厚い生成物が堆積するために従来有する金属表面の機能が消失してしまう問題がある。また、シランカップリング剤を使用した防食法では、耐食性,耐熱性,耐溶剤性,摺動性、とりわけ耐食性に関しては満足するものが得られていない。さらに有機官能性シランが金属表面にあまり良好に結合しないために、すすぎ等により容易に除去されるという問題がある。また、シランカプリング剤を使用して防食性能を高めるためには、複数のシランカップリング剤を次いで処理することが多く、より多くの工程を経ることが多い。このためにエネルギー的に非効率であり、時間を有する。従って実用化に関しては多くの問題点を有している。このために、総合的に満足のいく表面処理剤および表面処理法が強く求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−3019号公報
【特許文献2】特開2002−30460号公報
【特許文献3】米国特許第5292549号
【特許文献4】特表2002−519505号公報
【特許文献5】特開2007−291531号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、金属表面の機能を有した状態で、高耐食性を付与した金属の腐食防止方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、少なくとも部分的に加水分解している有機官能性シラン,酸化剤および溶剤を含有する溶液に金属基材を接触させた後、溶剤を除去することにより金属基材にシランカップリング反応層を施すことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、金属とくに遷移金属もしくはその金属合金に対してシランカップリング剤を酸化剤と併用することにより耐食性に優れた、しかも金属表面の機能をそのまま有する表面を与えることを実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明で対象とする金属防食法は、耐食性を向上させるのみならず、耐熱性,耐溶剤性,摺動性に優れた表面を提供することであり、さらに磁気ディスク表面で代表されるように非常に平滑でかつ機能性を有する特性をそのまま維持する表面を与えるものである。従って、金属表面をコーティングする物質として必要な特性は
(1)対象とする金属またはそれら合金の腐食抑制作用を示すこと。
(2)欠陥ができるだけ少なく、平滑で緻密な膜が構成されること。
(3)金属表面の機能をそのまま有すること。例えば、ハードディスクを例にすれば磁気ヘッドと磁気記録媒体の磁気的距離の増加による磁気記録特性の劣化を引き起こさない構造を有すること。センサーを例にするのであれば、センシング機能をそのまま有することが挙げられる。
【0009】
腐食環境としては基本的には大気系または水系であるが、周辺物質や大気汚染物質等の分解・溶解による酸性化またはアルカリ化,塩化物の混入等の要素があることから、幅広いpH環境での耐食性が要求される。
【0010】
(1)に関しては、種々検討した結果、耐食性をのみならず、耐熱性,耐溶剤性,摺動性,平滑性に優れた表面を付与させるためには、シランカップリング層を安定に金属表面上に保持することにより達成できることを見出した。さらにシランカップリング剤を安定に金属表面上に保持するためには金属表面に極薄い酸化物を生成させることが重要であることを見出した。金属表面に極薄い酸化物を生成させ、その上にシランカップリング層を形成させるためには以下の3つの手法がある。
[1]シランカップリング剤を含む溶液中に金属を酸化させる作用を有する酸化剤を共存させること。
[2]シランカプリング剤を含む溶液に金属を浸漬させる前に、該金属を酸化させる作用を有する溶液に浸漬させること。
[3]シランカプリング剤を含む溶液に金属を浸漬させる前に、該金属をドライ環境で酸化させること。
【0011】
(2)に関しては、シランカップリング剤たとえば1,2−ビス−(トリエトキシシリル)エタン(以下BTSE)を使用し、酸化剤として過酸化水素水を使用した場合、金属の表面に極薄い酸化物が形成されBTSE分子はこの酸化物と強い配位結合を形成すると共に、熱処理を施すことによりBTSE分子同士も共有結合を形成して、金属表面に強固なBTSE分子膜を形成するために、極めて緻密な欠陥のない、しかも。密着性に優れた皮膜が形成される。
【0012】
(3)に関しては、BTSEは分子オーダで配列することから非常に平滑でかつ機能性を有する特性をそのまま維持する表面を与える状態で、腐食を高度に抑制させることが可能となる。
【0013】
本発明は、シランカップリング剤と酸化剤とを併用することにより、金属表面に安定なシランカップリング層を形成させることにより耐食性に優れた、しかも金属表面の機能をそのまま有する表面を与えることを実現することに関する。本発明は、大きく分けて2つの方法に分類することができる。
【0014】
一つは、シランカップリング剤と酸化剤とを共存させた溶液中に、対象とする金属を浸漬することにより金属表面にシランカップリング層を形成する方法である。もう一つは、予めドライ環境に暴露することにより対象とする金属の表面を酸化処理するか、または酸化剤を含む溶液中に対象とする金属を浸漬し表面に酸化物を形成する。ついで、シランカップリング剤を含む溶液中に、酸化処理させた金属を浸漬させることにより表面にシランカップリング層を形成する方法である。それぞれの場合に分けて以下に記述する。
【0015】
(1)シランカップリング剤と酸化剤を共存させる方法に関して
[溶媒]:いくつかのシランカップリング剤の水への溶解性は制限されるために、基本的にはシランカップリング剤の溶解性を向上させるためには、溶媒として1ないし2つ以上のアルコール等の溶媒が使用される。アルコールはさらい処理溶液の安定性並びに金属基材の湿潤性をも向上させる。シヒランカップリング剤は、基本的には加水分解させる必要があるために水との親和性が高い溶剤が好ましい。具体的には、メタノール,エタノール,プロパノール,ブタノールおよびそれらの異性体,アセトン,メチルエチルケトン,ジエチルケトン等のケトン類,ジメチルエーテル,エチルメチルエーテル,ジエチルエーテル,テトラヒドロフラン等のエーテル類,エチレングリコール,プリピレングリコール,ジエチレングリコール等のグリコール類等が使用される。
【0016】
[酸化剤]:一般的な酸化剤であればいずれも使用することができる。酸化剤として要求される項目としては、当然のことながら金属表面を酸化させる能力があることが必要である。しかしながら、酸化力が強すぎると上記に記述した溶媒をも酸化させてしまうために、種類と濃度が非常に重要となる。また当然ながら、溶液の主成分は上記溶媒となり、水は下記のシランカップリング剤を加水分解させる分しか存在しないために、低濃度でも酸化作用があり、しかも溶解度が高いものが供給される。過酸化水素,塩素酸,過塩素酸,過硫酸,硝酸およびそれらの塩や硝酸第二アンモニウムセリウムなどが使用される。
【0017】
[シランカップリング剤]
シランカップリング剤として使用されるものとしては、大きく下記の2つのタイプに分類される。一つは、X3-nSiR′SiX3-nの構造で示され、nは0または1であり、Xは加水分解基(メトキシ,エトキシ,メトキシエトキシ,プロピル,ブチル,イソブチル,s−ブチル,t−ブチルおよびアセチル)から成る群から選択され、Xどうしが同じでも異なっていてもよい。またR′はアルキル,アルケニル、少なくとも1個のアミノ基またはS基で置換されたアルケニルから成る群から選択される。たとえば、ビストリエトキシシルエタン(BTSE)(H52O)3Si−CH2CH2−Si(OC25)3,ビストリエトキシシルプロピルアミン(BTSPA)(H52O)3Si−(CH2)3−NH−(CH2)3−(OC25)3,ビストリエトキシシルプロピルテトラスルフィド(BTSPS)(H22O)3Si−(CH2)3−S4−(CH2)3−Si(OC25)3などが挙げられる。もう一つのタイプは、有機官能性シランとして、X3-nnSi−Yの構造で示され、nは0または1であり、Xは加水分解基(メトキシ,エトキシ,メトキシエトキシ,プロピル,ブチル,イソブチル,s−ブチル,t−ブチルおよびアセチル)から成る群から選択され、Xどうしが同じでも異なっていてもよくYはアミノ,メルカプト,フェニル,ビニル,エポキシ,メタクリル,イソシアネート,ウレイド,サルファーで代表される有機官能基やアリキル基から成る群から選択される。たとえば
ビニルシランCH2=CHSi(OCH2CH3)3
3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン
CH2−(O)−CHCH2OCH2CH2CH2Si(OCH3)3
3−メルカプトプロピルトリエトキシシラン
HSCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
3−アミノプロピルトリエトキシシラン
2NCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
フェニルトリエトキシシラン
(C25O)3Si−C65
3−メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン
CH2=C(CH3)COOCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
3−イソシアネートプロピルトリメトキシシラン
O=C=NCH2CH2CH2Si(OCH2CH3)3
デシルトリメトキシシラン
CH3(CH2)9Si(OCH3)3
3−ウレイドプロピルトリエトキシシラン
(C25)3SiC36NHC(O)NH2
などが挙げられる。
【0018】
それ以外にもオクタデシルトリエトキシシラン,ビストリエトキシシルエタン,ビストリエトキシシルヘキサン,ビストリエトキシシルエチレン,ビストリメトキキシルエチルベンゼンなども有効である。上述のシランカップリング剤は、少なくとも部分的に、好ましくは完全に加水分解される。これらシランカップリング剤の濃度は、約0.05〜10重量%、より好ましくは0.2〜1重量%である。シランカップリング剤を加水分解させる必要があるために水を添加する必要がある。使用する水の量は、処理液全体に対して数%〜10%程度の範囲が適している。過酸化水素水の場合、一般的には30%程度の状態で添加するために、それ自身に既に水が含まれているので新たに水を添加する必要はない。
【0019】
この処理液は、浸漬することを基本とするがスプレー,ロール被覆でも適用することができる。
【0020】
[シランカップリング溶液のpH調整剤]
溶液のpHは加水分解反応速度および酸化物生成速度に大きく関係する。加水分解反応の観点からはpHが7以下程度に維持されるのが好ましい半面、酸化物はPourbaixダイヤグラム(文献 Atlas of Electrochemical Equilibria in Aqueous Solutions, Marcel Pourbaix, NACE International Cebelcor)によれば、たとえばCoに関してはpH7〜13、Niに関してはpH8〜12、Feに関してはpH7〜12程度の領域でそれぞれが安定に存在することができることから、処理溶液のpHは、3〜12の範囲に維持されるのが好ましい。pH調整剤としては、水酸化カリウム等の水酸化物,アンモニア,硫酸,塩酸,硝酸等が適している。
【0021】
(2)酸化処理を施した後にシランカップリング剤溶液に浸漬させる方法に関して
[酸化剤]:一般的な酸化剤であればいずれも使用することができる。酸化剤として要求される項目としては、当然のことながら金属表面を酸化させる能力があることが必要である。この方法では、(1)の方法とは異なり、ウエット環境で処理する場合は溶媒を共存させる必要がないために強い酸化剤を使用することができる。ウエット環境で使用する酸化剤としては、過酸化水素水を初め、過マンガン酸,塩素酸,二クロム酸,臭素酸,硝酸,次亜塩素酸,塩素酸およびそれらの塩,過酢酸,オゾン水などが使用できる。ドライの環境では、加熱下での空気酸化,オゾンによる酸化の方法が挙げられる。
【0022】
[シランカップリング剤]
(1)の方法で記述したシランカップリング剤を使用することができる。(1)の方法では、シランカップリング剤を加水分解させることが必要であるが、(2)の方法のウエットの方法で酸化処理をした場合、生成させた酸化物表面には多くの水酸基が存在し、それがシランカップリング剤の加水分解反応を引き起こすためにあえて水を添加する必要はない。ただし、ドライ環境で酸化物を生成させた場合は、(1)の方法と同様に水を添加する必要がある。
【0023】
[シランカップリング溶液のpH調整剤]
(1)の方法の場合とは異なり、シランカップリングの際に酸化物を生成させる必要がないために、加水分解反応を促進させることにのみ注目し、pHを調整すればよい。加水分解反応を向上させるためには好ましくはpHを7以下に維持するのが良く、できれば3〜6の間に維持するのが好ましい。pH調整剤としては、水酸化カリウム等の水酸化物,アンモニア,硫酸,塩酸,硝酸等が適している。
【0024】
(1)または(2)いずれの手法を用いた場合においても、シランカップリング剤に浸漬させる時間は、1時間程度が適しているが、シランカップリング剤の濃度を1wt%以下にした場合などは、24時間程度に延長したほうが耐食性が向上する場合がある。
【0025】
シランカップリング処理後は、使用した溶媒(酸化剤およびシランカップリング剤を含有しない)で洗浄した後に、エアーを吹付けることにより乾燥させる。または、室温〜50℃の温度範囲に維持することにより乾燥させてもよい。
【0026】
またシランカプリング処理後に、後処理として熱処理を施すことにより耐食性を向上させることができる。熱処理としては、温度100〜200℃,時間30分〜2時間が好ましく、温度100〜150℃,時間30分〜1時間がより好ましい。
【0027】
さらに、更に熱処理後、または乾燥後に再度、シランカップリング処理を複数回重ねることによりさらに耐食性を向上させることも可能である。この場合、最初のシランカップリング処理液とその後のシランカプリング液が同じでなくてもよい。
【0028】
腐食評価として以下のことを実施した。試料としては、シリコンウエハ上に密着層として酸化チタンをスパッタした後に、その上に対象とする金属、たとえばコバルト,ニッケル,鉄などをスパッタし、成膜したものを試料とした。上記の2種類の方法でシランカップリング層を形成させた。一部の試料に関しては、シランカップリング層を形成させた後に、熱処理、例えば空気中、100℃,1hで熱処理を施した。
【0029】
耐食性の評価は以下の2つの方法を評価した。
(1)恒温恒湿試験:温度65℃,相対湿度90%RH以上の高温多湿状態の条件下にシランカップリング処理を施したサンプルを96時間放置する。試料に、2.5インチのシリコンウエハ上に成膜させたものを使用した。次に、Optical Surface Analyzerを用いて半径14mmから25mmまでの範囲内における腐食点の数をカウントし、以下のようにランク付けした。カウント数が50未満のものをA、50以上200未満のものをB、200以上500未満のものをC、500以上のものをDとして評価した。実用的にはB以上のランクが望ましい。
【0030】
(2)電気化学試験:シランカップリング処理を施したサンプルを1cm2残し、他の部分をシールした。それをpH7.47のホウ酸塩水溶液または3%NaCl水溶液に浸漬した。10分間浸漬し、電位が安定した時点で、浸漬電位から−100mVの低い電位を基準とし、アノード方向に30mV/minのスキャン速度で電位を走査させ、電流を測定した。測定後、ターフェルの関係式を使用して腐食電流密度を求めた。未処理の場合に対して、腐食電流密度が10%未満の場合をA、10%以上20%未満のものをB、20%以上50%未満のものをC、50%以上のものをDとして評価した。
【0031】
以下、本発明を適用した具体的な実施例について、表を参照して説明する。
【0032】
(比較例1−4)
未処理のCo,Ni,Fe,Cuに関しては、比較例1−4(表1)に示すように、恒温・恒湿試験を実施した場合の、耐食性に関する評価はDレベルであり、耐食性は非常に悪い。この試験結果を以下の腐食評価結果の基準にする。
【0033】
【表1】

【0034】
(実施例1−4)
実施例1−4は、試料にCo,Ni,FeまたはCuを使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた。pHは4.2、浸漬時間は1hとした。溶媒にはエタノールを使用した。腐食評価結果は、恒温恒湿度試験,電気化学試験(ホウ酸塩中)に関して、Co,Ni,Cuに関しては全てAであり、良い耐食性を示した。Feに関しては、恒温恒湿試験および電気化学試験では腐食評価はBであり、他の金属と比較して若干耐食性は落ちるものの、未処理の場合と比較すると、格段に良い耐食性を示した。溶媒にアセトン,トルエン,エチルエーテルを使用しても同様の結果が得られた。
【0035】
【表2】

【0036】
(実施例3,5−6)
実施例3および5−6は、試料にFeを使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた場合の、腐食評価におよぼす浸漬時間の影響を示す。溶媒にはエタノールを使用した。浸漬時間が1h(実施例3)の場合は、全ての試験において腐食評価はBであったが、浸漬時間4hにおいては恒温恒湿試験での腐食評価がAに、24h浸漬することにより全ての試験において腐食評価はAになり、時間とともに耐食性が向上していることが分かる。
【0037】
【表3】

【0038】
(実施例7−15)
実施例7−15は、試料にCoを使用し、1wt%の各種のシランカップリング剤を使用し、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた場合の、腐食評価結果を示す。溶媒にはエタノールを使用した。使用したシランカップリング剤は、それぞれ多官能性シラン系,ビニルシラン系,ウレイド系,エポキシシラン系,メルカプトシラン系,サルファーシラン系等である。いずれの場合においても、各種腐食評価結果はAであり、良い耐食性を示した。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0039】
【表4】

【0040】
(実施例12)
実施例3,16−19は、試料にCoを使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた場合の、腐食評価におよぼすpHの影響を示す。溶媒にはエタノールを使用した。pHが1.5の場合、Coの溶解速度が速いために1h浸漬では溶出するために、浸漬時間を5minとした。恒温恒湿度試験では腐食評価はBであったが、電気化学試験での腐食評価はCであった。未処理の場合と比較して耐食性向上は確認されたものの、腐食抑制作用は小さい。これは、溶液のpHが低いために、Co上に十分な酸化物が生成されなかったためである。処理溶液のpHが4.0以上の場合では、いずれも腐食評価結果はAであり、良い耐食性を示した。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0041】
【表5】

【0042】
(実施例20−23)
実施例20−23は、試料にCoを使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤を変化させ、金属上にシランカップリング層を生成させた場合の、腐食評価におよぼす酸化剤の種類の影響を示す。溶媒にはエタノールを使用した。酸化剤として使用したものは、過硫酸アンモニウム,過塩素酸ナトリウム,硝酸二アンモニウムセリウムおよび塩素酸ナトリウムである。これらは強い酸化剤であるために、過酸化水素を使用した場合より濃度を低く設定している。腐食評価は、いずれの酸化剤を使用した場合においても、恒温恒湿試験および電気化学試験ともに腐食評価結果はAであり、良い耐食性を示した。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0043】
【表6】

【0044】
(実施例24−26)
実施例24−26は、試料にFeまたはCoを使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた場合後に、熱処理を施した試料の腐食評価を実施した結果を示している。実施例3で示したFeでは、各種の腐食試験評価結果はBであったが、熱処理を施すことにより腐食評価結果Aになった。またCoに関する腐食評価結果もAのままであることから、熱処理を施すことにより耐食性が向上することが分かる、これは、縮合反応が促進したためである。
【0045】
【表7】

【0046】
(実施例27−31)
実施例27−30は、前述した(2)の方法に関するものである。シランカップリング処理を実施する前に、ウエット環境での前酸化処理を実施した。酸化剤としては、30%H0%H22/10%,硫酸アンモニウム/10%,過塩素酸ナトリウム/10%,過マンガン酸ナトリウム/10%,オゾン/水10%であり、ウエット環境で酸化処理を実施した場合である。シランカップリング処理剤としては、pH4.2のBTSE(浸漬時間1h−溶媒にエタノール)を使用した。前述したように、前酸化処理により使用表面には多くの水酸基が導入されるために、BTSE溶液に加水分解用の水を添加しなくとも良い。いずれの場合においても、腐食評価結果は、Aであり良い耐食性を示した。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0047】
【表8】

【0048】
(実施例31−32)
実施例31−32は、前述した(2)の方法に関するものである。シランカップリング処理を実施する前に、ドライ環境での前酸化処理を実施した。酸化剤としては、空気またはオゾンを使用した。シランカップリング処理剤としては、pH4.2のBTSE(浸漬時間1h−溶媒にエタノール+10%H2O)を使用した。シランカップリング剤を加水分解させる必要があることから、シランカップリング処理液には、10%の水を含有させた。いずれの場合においても、腐食評価結果は、Aであり良い耐食性を示した。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0049】
【表9】

【0050】
(比較例5−13)
比較例5−13は、酸化剤を含まないシランカップリング剤で処理した場合の腐食評価を実施した場合である。酸化剤は含まないもののシランカップリング剤を加水分解させるために10%の水を添加している。主溶媒はエタノールである。いずれのシランカップリング剤で処理した場合でも、恒温恒湿試験および電気化学試験のどちらの場合においても腐食評価はC以下であり、耐食性を示さなかった。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0051】
【表10】

【0052】
(比較例14−17)
比較例14−17は、シランカップリング処理を実施せず、酸化処理のみを実施した場合の腐食評価結果を示す。恒温恒湿試験および電気化学試験のどちらの場合においても腐食評価はDであり、耐食性を示さなかった。ここでは、データを示していないが、Fe,Ni,Cuに関しても同様の結果が得られた。
【0053】
【表11】

【0054】
(実施例33−35,比較例17−19)
実施例33−35は、耐食性を示したシランカップリング剤+酸化剤の系に関して、処理後のCoの表面上をXPSで測定・同定した結果を示す。また比較例17−19は、耐食性を示さなかったシランカップリング剤のみの処理に関して、処理後のCoの表面をXPSで測定・同定した結果を示す。耐食性を示した実施例においては、耐食性を示さなかった比較例の場合と比較して、O1sピークにおけるOxideの占める割合が多く、酸化物がより多く生成していることが分かる。実施例27に示した、前酸化処理による場合に関しても同様の結果が得られた。従って、シランカップリング剤により耐食性を付与させるためには、酸化剤を共存させまたはあらかじめ酸化処理をすることが必要であることが分かる。
【0055】
【表12】

【0056】
【表13】

【0057】
(実施例36−38)
実施例36−38は、試料に各種遷移金属を含有する合金を使用し、シランカップリング剤として1wt%のBTSEを、共存させる酸化剤として30%H22を10%添加した処理液を使用し、金属上にシランカップリング層を生成させた。pHは4.2、浸漬時間は1hとした。溶媒にはエタノールを使用した。腐食評価結果は、恒温恒湿度試験,電気化学試験(ホウ酸塩中)に関して、各種遷移金属を含有する合金に関しては全てAであり、良い耐食性を示した。溶媒にアセトン,トルエン,エチルエーテルを使用しても同様の結果が得られた。
【0058】
【表14】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも部分的に加水分解している有機官能性シラン,酸化剤および溶剤を含有する溶液に金属基材を接触させた後、溶剤を除去することにより金属基材にシランカップリング反応層を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項2】
金属基材を酸化処理し、次いで、少なくとも部分的に加水分解している有機官能性シランおよび溶剤を含有する溶液に前記金属基材を接触させ後に、溶剤を除去することにより金属基材にシランカップリング反応層を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項3】
酸化剤を含む溶液に金属基材を浸漬させた後に、少なくとも1種の有機官能性シランを含有する溶液に接触させることにより金属基材にシランカップリング反応層を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項4】
請求項1または3において、前記酸化剤が、過酸化水素,硝酸,過硫酸アンモニウム,2アンモニウムセリウムおよびその塩から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項5】
請求項2において、前記酸化処理で使用する酸化剤が、空気,オゾンであることを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項6】
請求項1において、前記金属基材にシランカップリング反応層を施した後に、さらに、熱処理を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項7】
請求項2において、前記金属基材にシランカップリング反応層を施した後に、さらに、熱処理を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項8】
請求項3において、前記金属基材にシランカップリング反応層を施した後に、さらに、熱処理を施すことを特徴とする金属の腐食防止方法。
【請求項9】
請求項2または3において、前記有機官能性シランが、下記式(1)で示されることを特徴とする金属の腐食防止方法。
3-nnSi−YまたはX3-nSiR′SiX3-n …(1)
(式中、nは0または1、Xは加水分解性基(メトキシ,エトキシ,メトキシエトキシ,プロピル,ブチル,イソブチル,s−ブチル,t−ブチルおよびアセチル)から選択され、Xどうしが同じでも異なっていてもよい。Yはアミノ,メルカプト,フェニル,ビニル,エポキシ,メタクリル,イソシアネート,ウレイド,サルファーで代表される有機官能基またはアルキル基から選択され、Rはメチル基であり、R′はアルキル,アルケニル、少なくとも1個のアミノ基またはS基で置換されたアルケニルから選択される)
【請求項10】
請求項1−9のいずれかにおいて、前記金属基材が、Fe,Co,Ni,Cuまたはそれらの合金であることを特徴とする金属の腐食防止方法。

【公開番号】特開2012−167342(P2012−167342A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−30359(P2011−30359)
【出願日】平成23年2月16日(2011.2.16)
【出願人】(000005108)株式会社日立製作所 (27,607)
【Fターム(参考)】