説明

金属めっき用塗膜

【課題】本発明の目的は、金属めっき層に対して優れた付着性及び透明性を有し、耐チッピング性及び耐傷付き性に優れ、その性能が長期間経過後でも低下しない塗膜を提供することである。
【解決手段】本発明に係る金属めっき用塗膜は、基材の表面に形成した金属めっき層上に形成されたプライマー層とプライマー層上に形成されたトップコート層とを有し、プライマー層は、ガラス転移点が−20℃以上20℃未満のアクリル樹脂(a)とポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)とを含有し、トップコート層は、20℃以上50℃以下のアクリル樹脂(d)と、数平均分子量が500以上9500以下のポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)とを含有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐チッピング性に優れた金属めっき用塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
基材の表面に金属めっき層を形成した部材は、自動車、オートバイなどの外装部品に使用されている。金属めっき層の表面処理として、金属光沢を生かした特徴的な意匠の付与及び金属めっき層の保護を目的とした有色透明のカラークリヤ塗膜を形成する処理が行われている。
【0003】
しかし、走行中の小石、寒冷地における融雪剤などの跳ね返りによる傷(チッピング)によって、カラークリヤ塗膜の剥離が拡大する問題があった。剥離の拡大が、金属めっき層にまで達する傷をきっかけに発生している状況から、耐チッピング性に優れたカラークリヤ塗膜が求められている。
【0004】
このような塗膜の形成方法として、清浄にしたクロムめっき表面上に、シリコン・アクリル系2液反応型塗料で塗膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献1を参照。)。また、清浄にしたクロムめっき表面上に、2液ポリエステル系の透明チッピングプライマによって透明プライマー塗膜を形成し、該透明プライマー塗膜上にシリコン・アクリル系2液反応型塗料又はアクリル・ウレタン系2液反応型塗料を重ね塗りしてクリア塗膜を形成する方法が提案されている(例えば、特許文献2を参照。)。
【0005】
本発明者は、アクリル・ウレタン系2液反応型塗料において、ガラス転移点(Tg)及び架橋点(水酸基価、OHV)を調整し、更にポリエステル系軟質副樹脂を配合した塗料を使用して、耐チッピング性を有する塗膜を形成することができる塗料を提案している(例えば、非特許文献1を参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平8−71496号公報
【特許文献2】特開平8−131939号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Origin Technical Journal No.72 p.III‐8‐p.III‐12(2009)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献1をはじめとするシリコン・アクリル系2液反応型塗料によって塗膜を形成する方法では、塗膜が日光に曝された状態で放置されると、時間が経つにつれて塗膜の硬脆さが増して、耐チッピング性が低下するという問題がある。また、特許文献2をはじめとする2液ポリエステル系の透明チッピングプライマによって透明プライマー塗膜を形成する方法では、透明プライマー上に使用できるトップコートの種類に制限があり、金属めっきとの付着性、耐チッピング性及び耐傷付き性を同時に付与することに限界がある。また、非特許文献1に記載の塗料は、乾燥性が劣るという問題がある。
【0009】
そこで、本発明の目的は、金属めっき層に対して優れた付着性及び高い透明性を有し、耐チッピング性及び耐傷付き性に優れ、その性能が光による暴露が長期間経過した後でも低下することのない塗膜を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属めっき用塗膜は、基材の表面に金属めっき層を形成した部材の少なくとも該金属めっき層の表面を被覆する金属めっき用塗膜において、該塗膜は、前記金属めっき層上に形成されたプライマー層と該プライマー層上に形成されたトップコート層とを有し、前記プライマー層は、アクリル樹脂(a)とポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)とを含有し、かつ、アクリル樹脂(a)のガラス転移点が−20℃以上20℃未満であり、前記トップコート層は、アクリル樹脂(d)と、ポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)と、を含有し、かつ、アクリル樹脂(d)のガラス転移点が20℃以上50℃以下であり、かつ、ポリオール化合物(f)の数平均分子量が500以上9500以下であることを特徴とする。
【0011】
本発明に係る金属めっき用塗膜では、前記プライマー層は、更にポリオール化合物(b)を含有し、かつ、ポリオール化合物(b)の数平均分子量が100以上9500以下であることが好ましい。耐チッピング性をより高めることができる。
【0012】
本発明に係る金属めっき用塗膜では、前記トップコート層は、更にアクリル樹脂(e)を含有し、かつ、アクリル樹脂(e)のガラス転移点が50℃を超え90℃以下であることが好ましい。乾燥性を更に高めることができる。
【0013】
本発明に係る金属めっき用塗膜では、前記プライマー層の厚さが、10μm以上40μm以下であり、前記トップコート層の厚さが、15μm以上40μm以下であり、かつ、前記プライマー層と前記トップコート層との合計厚さが、25μm以上80μm以下であることが好ましい。耐チッピング性及び乾燥性に優れた塗膜とすることができる。
【0014】
本発明に係る金属めっき用塗膜は、前記プライマー層が、更にシランカップリング剤(i)又はガラス転移点が−90℃以上−20℃未満のアクリル樹脂(j)の少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき層の表面に対しても、良好な付着性を発揮することができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、金属めっき層に対して優れた付着性及び高い透明性を有し、耐チッピング性及び耐傷付き性に優れ、その性能が光による暴露が長期間経過した後でも低下することのない塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明について実施形態を示して詳細に説明するが本発明はこれらの記載に限定して解釈されない。本発明の効果を奏する限り、実施形態は種々の変形をしてもよい。
【0017】
本実施形態に係る金属めっき用塗膜は、基材の表面に金属めっき層を形成した部材の少なくとも該金属めっき層の表面を被覆する金属めっき用塗膜において、塗膜は、金属めっき層上に形成されたプライマー層とプライマー層上に形成されたトップコート層とを有し、プライマー層は、アクリル樹脂(a)とポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)とを含有し、かつ、アクリル樹脂(a)のガラス転移点が−20℃以上20℃未満であり、前記トップコート層は、アクリル樹脂(d)と、ポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)と、を含有し、かつ、アクリル樹脂(d)のガラス転移点が20℃以上50℃以下であり、かつ、ポリオール化合物(f)の数平均分子量が500以上9500以下である。
【0018】
基材は、例えば、プラスチック、繊維強化プラスチック又は金属からなる。プラスチックは、例えば、ポリアセタール(POM)、ポリアミド(PA)、ポリカーボネート(PC)、ポリフェニレンエーテル(PPE)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、アクリロニトリルブタジエンスチレン共重合体(ABS)、ポリメタクリル酸メチル(PMMA)、ポリプロピレン(PP)である。繊維強化プラスチックは、例えば、炭素繊維強化プラスチック(CFRP)、ガラス繊維強化プラスチック(GFRP)である。金属は、例えば、鋼、アルミニウムである。基材の厚さは、例えば、2〜10mmである。なお、本実施形態は、基材の材質及び厚さに制限されない。
【0019】
金属めっきは、例えば、クロムめっき、亜鉛めっき、カドミウムめっき、錫めっき、ニッケルめっき、金めっき、銀めっき、銅めっき、白金めっき又はこれらの合金めっきである。本実施形態では、金属めっきは、クロムめっきであることが好ましい。基材の表面に金属めっきを形成する方法は、特に限定されず、例えば、溶融めっき法、電気めっき法である。金属めっき層の厚さは、例えば、2〜100μmである。なお、本実施形態は、金属めっき層の厚さに制限されない。
【0020】
プライマー層は、アクリル樹脂(a)とポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)とを含有する。
【0021】
アクリル樹脂(a)は、分子中に水酸基を有する水酸基含有アクリル樹脂であることが好ましい。水酸基含有アクリル樹脂は、通常、水酸基含有アクリル単量体とその他のアクリル系又は非アクリル系ビニル単量体との共重合体である。また、水酸基含有アクリル単量体の重合体を包含する。水酸基含有アクリルモノマーは、例えば、2‐ヒドロキシエチルアクリレート、2‐ヒドロキシプロピルアクリレート、4‐ヒドロキシブチルアクリレート、2‐ヒドロキシエチルメタクリレート、2‐ヒドロキシプロピルメタクリレート、4‐ヒドロキシブチルメタクリレートなどの水酸基を有するモノマー類、2‐ヒドロキシエチルメタクリレートへのγ‐ブチロラクトンの開環付加物、2‐ヒドロキシエチルアクリレートへのε‐カプロラクトンの開環付加物である。
【0022】
その他のアクリル系又は非アクリル系ビニル単量体は、例えば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n‐ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、t‐ブチルアクリレート、n‐アミルアクリレート、イソアミルアクリレート、n‐ヘキシルアクリレート、2‐エチルヘキシルアクリレート、n‐オクチルアクリレート、デシルアクリレート、ドデシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、イソボルニルアクリレート、ステアリルアクリレートなどのアクリル酸エステル、メチルメタクリレート、プロピルメタクリレート、n‐ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、t‐ブチルメタクリレート、n‐アミルメタクリレート、n‐ヘキシルメタクリレート、n‐オクチルメタクリレート、2‐エチルヘキシルメタクリレート、デシルメタクリレート、ドデシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、イソボルニルメタクリレート、ステアリルメタクリレートなどのメタクリル酸エステル、アクリル酸、メタクリル酸などのカルボキシル基含有モノマー、スチレン、α‐メチルスチレン、ビニルトルエン、パラメチルスチレン、クロロスチレンなどのスチレン誘導体、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル、塩化ビニル、塩化ビニリデンなどのハロゲン化ビニルモノマー、アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、N‐メチロールアクリルアミド、アクリロニトリル、メタクリルアミド、メタクリロニトリルなどの窒素含有ビニル系モノマーである。これらは、任意の1種を単独で、又は2種以上を適宜組み合わせて用いることができる。本実施形態は、モノマーの種類及び重合方法に制限されない。
【0023】
アクリル樹脂(a)の数平均分子量(Mn)は、3000以上60000以下であることが好ましい。より好ましくは、4000以上30000以下である。特に好ましくは、5000以上10000以下である。アクリル樹脂(a)のMnが3000未満では、塗膜の強度が不足する場合がある。アクリル樹脂(a)のMnが60000を超えると、塗料の粘度が高くなりすぎて、均一なプライマー層を形成できない場合がある。
【0024】
アクリル樹脂(a)のガラス転移点(Tg)は、−20℃以上20℃未満である。より好ましくは、−10℃以上15℃未満である。特に好ましくは、−5℃以上10℃未満である。アクリル樹脂(a)のTgが−20℃未満では、プライマー層が軟化しすぎて、均一な塗膜を形成できない。また、塗膜の耐熱性が劣る。アクリル樹脂(a)のTgが20℃以上では、衝撃吸収性が低下して、耐チッピング性に劣る。
【0025】
アクリル樹脂(a)の水酸基価(OHV)は、20mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、30mgKOH/g以上50mgKOH/g以下であり、特に好ましくは、40mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。アクリル樹脂(a)のOHVが20mgKOH/g未満では、架橋反応点が不足して、プライマー層の耐チッピング性、耐水付着性が劣る場合がある。アクリル樹脂(a)のOHVが60mgKOH/gを超えると、架橋反応による硬化収縮が大きく、金属めっき層との付着性が劣る場合がある。
【0026】
なお、本明細書における水酸基価(OHV)は、JIS K 1557‐1:2007「プラスチック−ポリウレタン原料ポリオール試験方法−第1部:水酸基価の求め方」に従って求めた数値である。また、数平均分子量は、数1から求めた数値である。
(数1)Mn=(56100/OHV)・fn
数1において、OHVはJIS K 1557‐1:2007に従って求めた水酸基価である。また、fnは、1分子当たりの平均官能基数である。
【0027】
ポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)(以降、軟質タイプのイソシアネート(c)という。)は、イソシアネート基(‐NCO)の含有量が5〜15質量%であることが好ましい。より好ましくは、7〜12質量%である。5質量%未満では、プライマー層が軟化しすぎて、塗膜強度が不足する場合がある。15質量%を超えると、プライマー層が硬くなり、衝撃吸収性が低下し、耐チッピング性及び耐水付着性に劣る場合がある。
【0028】
プライマー層は、更に、軟質タイプのイソシアネート(c)以外の汎用タイプのイソシアネートを含有することができる(以降、プライマー層に含有可能な汎用タイプのイソシアネートをイソシアネート(h)という。イソシアネート(h)を含有する場合には、イソシアネート(h)の含有量を、軟質タイプのイソシアネート(c)及びイソシアネート(h)の合計含有量に対して、50質量%未満とすることが好ましい。より好ましくは、25質量%未満である。50質量%以上では、プライマー層が硬くなり、衝撃吸収性が低下し、耐チッピング性に劣る場合がある。
【0029】
本実施形態に係る金属めっき用塗膜では、プライマー層は、更にポリオール化合物(b)を含有することが好ましい。ポリオール化合物(b)は、耐チッピング性を更に向上させる役割をもつ。ポリオール化合物(b)は、ポリエステルポリオール、ポリカーボネートポリオール、ポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオールから選ばれる少なくとも1種類であることが好ましい。
【0030】
ポリオール化合物(b)は、数平均分子量(Mn)が100以上9500以下であることが好ましい。より好ましくは、700以上5000以下であり、特に好ましくは、800以上2000以下である。ポリオール化合物(b)のMnが100未満では、プライマー層の耐チッピング性を向上させる効果が得られない場合がある。ポリオール化合物(b)のMnが9500を超えると、アクリル樹脂と混ざらなくなり、プライマー層が白濁して金属めっき層の金属光沢を生かせない場合がある。
【0031】
ポリオール化合物(b)の水酸基価(OHV)は、25mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、40mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、特に好ましくは、50mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。ポリオール化合物(b)のOHVが25mgKOH/g未満では、プライマー層の耐チッピング性が劣る場合がある。ポリオール化合物(b)のOHVが250mgKOH/gを超えると、金属めっき層との付着性が劣る場合がある。
【0032】
アクリル樹脂(a)とポリオール化合物(b)との質量比は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、60/40〜100/0である。
【0033】
軟質タイプのイソシアネート(c)の含有量は、プライマー層が含有する水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基(‐NCO)のモル当量の比が0.5〜2.0となる量であることが好ましい。より好ましくは、1.0〜1.6である。イソシアネート(h)を更に含有する場合には、イソシアネート基のモル当量の比は、軟質タイプのイソシアネート及びイソシアネート(h)の合計モル当量の比である。ここで、プライマー層が含有する水酸基のモル当量は、アクリル樹脂(a)が有する水酸基のモル当量である。または、ポリオール化合物(b)を含有する場合には、プライマー層が含有する水酸基のモル当量は、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)が有する水酸基の合計モル当量である。水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基のモル当量の比が0.5未満では、プライマー層の耐チッピング性が不足する場合がある。また、プライマー層の耐水性が不十分となる場合がある。2.0を超えると、金属めっき層との付着性が劣る場合がある。
【0034】
本実施形態に係る金属めっき用塗膜は、プライマー層が、更にシランカップリング剤(i)又はガラス転移点が−90℃以上−20℃未満のアクリル樹脂(j)の少なくともいずれか一方を含有することが好ましい。高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した基材に対しても、良好な付着性を発揮することができる。
【0035】
シランカップリング剤(i)は、グリシジル系トリメトキシシラン類を含有することが好ましい。シランカップリング剤(i)は、グリシジル系トリメトキシシラン類として、グリシジロキシメチルトリメトキシシラン、グリシジロキシエチルトリメトキシシラン、グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジロキシシクロヘキシルトリトリメトキシシラン、グリシジロキシフェニルトリメトキシシランから選ばれる少なくとも1種を含有することが好ましい。より好ましくは、グリシジル系トリメトキシシラン類として、グリシジロキシメチルトリメトキシシラン、グリシジロキシエチルトリメトキシシラン、グリシジロキシプロピルトリメトキシシラン、グリシジロキシシクロヘキシルトリトリメトキシシラン、グリシジロキシフェニルトリメトキシシランから選ばれる2種以上を含有する。なお、シランカップリング剤(i)は、その他の成分を含有してもよい。
【0036】
シランカップリング剤(i)の含有量は、アクリル樹脂(a)の質量100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、2質量部以上7質量部以下である。また、プライマー層がポリオール化合物(b)を含有する場合には、シランカップリング剤(i)の含有量は、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の合計質量100質量部に対して、1質量部以上10質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、2質量部以上7質量部以下である。1質量部未満では、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対する良好な付着性を発揮できない場合がある。10質量部を超えると、塗膜の耐侯性が劣る場合がある。また、ポットライフが低下する場合がある。
【0037】
アクリル樹脂(j)は、アクリル樹脂(a)で例示した単量体の中から選択した単量体を使用して製造することができる。アクリル樹脂(j)の数平均分子量(Mn)は、10000以上100000以下であることが好ましい。より好ましくは、15000以上70000以下である。アクリル樹脂(j)のMnが10000未満では、付着性が劣る場合がある。アクリル樹脂(j)のMnが100000を超えると塗装作業性が劣る場合がある。
【0038】
アクリル樹脂(j)のガラス転移点(Tg)は、−90℃以上−20℃未満であることが好ましい。より好ましくは、−70℃以上−20℃未満である。アクリル樹脂(j)のTgが−90℃未満では、塗膜の強度が不足して付着性が低下する場合がある。アクリル樹脂(j)のTgが−20℃を超えると、めっきないしトップコートの層間での付着性が低下する場合がある。
【0039】
アクリル樹脂(j)の水酸基価(OHV)は、10mgKOH/g以上60mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、10mgKOH/g以上50mgKOH/g以下である。アクリル樹脂(j)のOHVが10mgKOH/g未満では、耐水付着性が低下する場合がある。アクリル樹脂(j)のOHVが60mgKOH/gを超えると、めっきないしトップコート層間での付着性が低下する場合がある。
【0040】
アクリル樹脂(j)の含有量は、アクリル樹脂(a)の質量100質量部に対して、10質量部以上40質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量部以上30質量部以下である。また、プライマー層がポリオール化合物(b)を含有する場合には、アクリル樹脂(j)の含有量は、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の合計質量100質量部に対して、10質量部以上30質量部以下であることが好ましい。より好ましくは、10質量部以上20質量部以下である。10質量部未満では、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対する良好な付着性を発揮できない場合がある。30質量部を超えると、塗膜の強度が不足して付着性が低下する場合がある。
【0041】
トップコート層は、アクリル樹脂(d)と、ポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)と、を含有する。アクリル樹脂(d)は、アクリル樹脂(a)で例示した単量体の中から選択した単量体を使用して製造することができる。アクリル樹脂(d)の数平均分子量(Mn)は、3000以上60000以下であることが好ましい。より好ましくは、5000以上10000以下である。アクリル樹脂(a)のMnが3000未満では、塗膜の強度が不足する場合がある。アクリル樹脂(d)のMnが60000を超えると、塗料の粘度が高くなりすぎて、均一なトップコート層を形成できない場合がある。
【0042】
アクリル樹脂(d)のガラス転移点(Tg)は、20℃以上50℃以下である。より好ましくは、25℃以上45℃以下である。アクリル樹脂(d)のTgが20℃未満では、乾燥性が劣る。アクリル樹脂(d)のTgが50℃を超えると、衝撃吸収性が低下して、トップコート層の耐チッピング性が劣る。
【0043】
アクリル樹脂(d)の水酸基価(OHV)は、20mgKOH/g以上80mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、25mgKOH/g以上45mgKOH/g以下であり、特に好ましくは、30mgKOH/g以上40mgKOH/g以下である。アクリル樹脂(d)のOHVが20mgKOH/g未満では、架橋反応点が不足して、トップコート層の耐チッピング性が劣る場合がある。アクリル樹脂(d)のOHVが80mgKOH/gを超えると、架橋反応による硬化収縮が大きく、プライマー層との密着性が劣る場合がある。また、乾燥性が劣る場合がある。
【0044】
ポリオール化合物(f)は、ポリオール化合物(b)で例示した化合物の中から選択できる。ポリオール化合物(f)の数平均分子量(Mn)は、500以上9500以下である。より好ましくは、700以上3000以下であり、特に好ましくは、800以上2000以下である。ポリオール化合物(f)のMnが500未満では、トップコート層の耐チッピング性及び乾燥性が不足する。ポリオール化合物(f)のMnが9500を超えると、トップコート層が白濁して金属めっき層の金属光沢を生かせない。
【0045】
ポリオール化合物(f)の水酸基価(OHV)は、25mgKOH/g以上250mgKOH/g以下であることが好ましい。より好ましくは、30mgKOH/g以上150mgKOH/g以下であり、特に好ましくは、50mgKOH/g以上130mgKOH/g以下である。ポリオール化合物(f)のOHVが30mgKOH/g未満では、トップコート層の耐チッピング性が劣る場合がある。ポリオール化合物(f)のOHVが250mgKOH/gを超えると、乾燥性が劣る場合がある。
【0046】
イソシアネート(g)は、ポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類である前記した軟質タイプのイソシアネート(c)を除くイソシアネートである。イソシアネート(g)は、イソシアネート基(‐NCO)の含有量が5〜35質量%であることが好ましい。より好ましくは、10〜30質量%であり、特に好ましくは、15〜25質量%である。5質量%未満では、トップコート層が柔らかすぎて、乾燥性に劣る場合がある。35質量%を超えると、トップコート層が硬くなり、衝撃吸収性が低下し、耐チッピング性及び耐傷付き性に劣る場合がある。
【0047】
当該イソシアネート(g)と前記汎用タイプのイソシアネート(h)とは、同一の化合物とするか、又は異なる化合物としてもよい。
【0048】
本実施形態に係る金属めっき用塗膜では、トップコート層は、更にアクリル樹脂(e)を含有することが好ましい。アクリル樹脂(e)は、アクリル樹脂(a)で例示した単量体の中から選択した単量体を使用して製造することができる。アクリル樹脂(e)は、乾燥性を更に高める役割をもつ。アクリル樹脂(e)のガラス転移点(Tg)は、50℃を超え90℃以下であることが好ましい。より好ましくは、65℃以上80℃以下である。アクリル樹脂(e)のTgが50℃以下では、乾燥性を高める効果が小さい場合がある。アクリル樹脂(e)のTgが90℃を超えると、衝撃吸収性が低下して、トップコート層が硬くて脆くなり、耐チッピング性及び耐傷付き性が劣る場合がある。
【0049】
アクリル樹脂(d)とポリオール化合物(f)とアクリル樹脂(e)との質量比は、本発明の効果を奏する限り、特に限定されないが、例えば、45/30/25〜90/10/0である。
【0050】
イソシアネート(g)の含有量は、トップコート層が含有する水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基(‐NCO)のモル当量の比が0.8〜2.0となる量であることが好ましい。より好ましくは、1.2〜1.6である。ここで、トップコート層が含有する水酸基のモル当量は、アクリル樹脂(d)及びポリオール化合物(f)が有する水酸基の合計モル当量である。または、アクリル樹脂(e)を含有する場合には、プライマー層が含有する水酸基のモル当量は、アクリル樹脂(d)、アクリル樹脂(e)及びポリオール化合物(f)が有する水酸基の合計モル当量である。水酸基のモル当量1に対するイソシアネート基のモル当量の比が0.8未満では、トップコート層の傷つき性が不足する場合がある。また、トップコート層の耐水性が不十分となる場合がある。2.0を超えると、硬化収縮が大きくなり金属めっき層との密着性が劣る場合がある。
【0051】
プライマー層の厚さは、10μm以上40μm以下とすることが好ましい。より好ましくは、15μm以上35μm以下である。特に好ましくは、20μm以上30μm以下である。プライマー層の厚さが10μm未満では、金属めっき層との付着性に劣る場合がある。プライマー層の厚さが40μmを超えると、硬化収縮が大きくなり金属めっき層との密着性が低下する場合がある。また、トップコート層の厚さは、15μm以上40μm以下とすることが好ましい。より好ましくは、20μm以上30μm以下である。トップコート層の厚さが15μm未満では、耐チッピング性に劣る場合がある。トップコート層の厚さが40μmを超えると硬化収縮が大きくなり金属めっき層との密着性が低下する場合がある。
【0052】
プライマー層とトップコート層との合計厚さは、25μm以上80μm以下であることが好ましい。より好ましくは、30μm以上70μm以下である。特に好ましくは、40μm以上60μm以下である。合計厚さが25μm未満では、耐チッピング性に劣る場合がある。合計厚さが80μmを超えると、硬化収縮が大きくなり金属めっき層との密着性が低下する場合がある。
【0053】
プライマー層は、アクリル樹脂(a)と、軟質タイプのイソシアネート(c)と、必要に応じて配合するポリオール化合物(b)とを含有するプライマー層用塗料を部材の金属めっき層の表面上に塗装し、乾燥して形成することができる。トップコート層は、アクリル樹脂(d)と、ポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)と、必要に応じて配合するアクリル樹脂(e)とを含有するトップコート層用塗料をプライマー層上に塗装し、乾燥して形成することができる。プライマー層用塗料及びトップコート層用塗料の両方又はいずれか一方には、特徴的な意匠を付与することを目的として、更に透明着色顔料を配合することが好ましい。
【0054】
プライマー層用塗料及びトップコート層用塗料の塗装方法は、本実施形態では特に限定されず、一般公知の方法で塗装することができる。一般公知の塗装方法は、例えば、刷毛塗り法、ローラー塗り法、スプレーガンによる吹付法、ロールコーター法、浸漬法である。1回の塗装で所望の厚さの塗膜を形成するか、又は複数回塗装することで所望の厚さの塗膜を形成してもよい。
【0055】
プライマー層用塗料及びトップコート層用塗料を塗装後の乾燥方法は、本実施形態では特に限定されず、自然乾燥するか、又は強制乾燥してもよい。
【実施例】
【0056】
次に、本発明の実施例を挙げて説明するが、本発明はこれらの例に限定されるものではない。また、例中の「部」、「%」は、特に断らない限りそれぞれ「質量部」、「質量%」を示す。なお、添加部数は、固形分換算の値である。
【0057】
(実施例1)
<プライマー層用塗料の調製>
アクリル樹脂(a)(商品名 アクリディック WHU‐443、DIC社製)100部と軟質タイプのイソシアネート(c)として、ポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート(商品名 デュラネート E‐402‐80B、旭化成ケミカルズ社製)37.8部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度25%のプライマー層用塗料を調製した。ここで、アクリル樹脂(a)のガラス転移点は0℃であり、水酸基価は40mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は17000であった。また、アクリル樹脂(a)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基含有量は、9.5質量%であった。
【0058】
<プライマー層の形成>
基材(材質:ABS、厚さ5mm)の表面に金属めっき層として、厚さ2μmのクロムめっき層を形成した部材のクロムめっき層上に、調製したプライマー層用塗料を、スプレーガンを用いて塗装した。得られた塗装面を70℃の乾燥炉で30分静置して乾燥させ、厚さ25μmのプライマー層を形成した。
【0059】
<トップコート層用塗料の調製>
アクリル樹脂(d)(商品名 アクリディック WHU‐741、DIC社製)90部と、ポリオール化合物(f)として、ポリエステルポリオール(商品名 プラクセルL205AL、ダイセル化学社製)10部と、イソシアネート(g)として、ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名 デュラネート TPA‐100、旭化成ケミカルズ社製)22.7部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度25%のトップコート層用塗料を調製した。ここで、アクリル樹脂(d)のガラス転移点は45℃であり、水酸基価は40mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は7000であった。ポリオール化合物(f)の水酸基価は224mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は500であった。イソシアネート(g)のイソシアネート基含有量は、23.1質量%であった。また、アクリル樹脂(d)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。
【0060】
<トップコート層の形成>
クロムめっき層上に形成したプライマー層上に、調製したトップコート層用塗料を、スプレーガンを用いて塗装した。得られた塗装面を70℃の乾燥炉で30分静置して乾燥させ、厚さ25μmのトップコート層を形成し、金属めっき用塗膜を形成した。
【0061】
(実施例2)
実施例1において、プライマー層用塗料の調製で、実施例1で配合したアクリル樹脂60部と、ポリオール化合物(b)として、ポリエステルポリオール(商品名 プラクセルL205AL、ダイセル化学社製)40部と、実施例1で配合した軟質タイプのイソシアネート(c)89.5部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度25%とした以外は、実施例1に準じて金属めっき用塗膜を形成した。ここで、ポリオール化合物(b)の水酸基価は224mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は500であった。また、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1であった。
【0062】
(実施例3)
実施例2において、トップコート層用塗料の調製で、実施例1で配合したアクリル樹脂(d)45部と、アクリル樹脂(e)(商品名 ダイヤナール LR‐193、三菱レイヨン社製)25部と、実施例1で配合したポリオール化合物(f)30部と、実施例1で配合したイソシアネート(g)37.5部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度25%とした以外は実施例2に準じて金属めっき用塗膜を形成した。ここで、アクリル樹脂(e)のガラス転移点は65℃であり、水酸基価は45mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は5600であった。また、アクリル樹脂(d)、アクリル樹脂(e)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。
【0063】
(実施例4)
実施例2において、プライマー層用塗料の調製で、アクリル樹脂(a)として、ガラス転移点が−10℃であり、水酸基価が30mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量が15000であるアクリル樹脂(商品名 アクリディック WEU‐1158、DIC社製)に変更し、軟質タイプのイソシアネート(c)の配合部数を84.8部に変更した以外は、実施例2に準じて金属めっき層を形成した。ここで、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1であった。
【0064】
(実施例5)
実施例2において、トップコート層用塗料の調製で、アクリル樹脂(d)として、ガラス転移点が50℃であり、水酸基価が80mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量が5600であるアクリル樹脂(商品名 ダイヤナール LR‐2542、三菱レイヨン社製)に変更し、イソシアネート(g)の配合部数を36.7部に変更した以外は、実施例2に準じて金属めっき層を形成した。ここで、アクリル樹脂(d)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。
【0065】
(実施例6)
実施例3において、プライマー層の形成で、プライマー層の厚さを40μmとし、かつ、トップコート層の形成で、トップコート層の厚さを40μmとした以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0066】
(実施例7)
実施例3において、プライマー層の形成で、プライマー層の厚さを15μmとし、かつ、トップコート層の形成で、トップコート層の厚さを15μmとした以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0067】
(実施例8)
実施例3において、プライマー層用塗料の調製で、ポリオール化合物(b)として、ポリカーボネートポリオール(商品名 プラクセル CD220、ダイセル化学社製)に変更し、軟質タイプのイソシアネート(c)として、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート(商品名 Desmolux VP LS 2396、住化バイエルウレタン社製)に変更し、かつ、軟質タイプのイソシアネート(c)の配合部数を68.7部に変更し、更にトップコート層用塗料の調製で、ポリオール化合物(f)として、ポリカーボネートポリオール(商品名 プラクセル CD210、ダイセル化学社製)に変更し、かつ、イソシアネート(g)の配合部数を17.9部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。ポリオール化合物(b)の水酸基価は112mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は1000であった。ポリオール化合物(f)の水酸基価は56mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は2000であった。また、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1であった。アクリル樹脂(d)、アクリル樹脂(e)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基含有量は、7.5質量%であった。
【0068】
(実施例9)
実施例3において、プライマー層用塗料の調製で、ポリオール化合物(b)として、ポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオール(商品名 デスモフェン C‐1200、住化バイエルウレタン社製)に変更し、軟質タイプのイソシアネート(c)として、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネート(商品名 デスモジュール ME‐20、旭化成ケミカルズ社製)に変更し、かつ、軟質タイプのイソシアネート(c)の配合部数を40.9部に変更し、更にトップコート層用塗料の調製で、ポリオール化合物(f)として、ポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオール(商品名 デスモフェン C‐1200 住化バイエルウレタン社製)に変更し、かつ、イソシアネート(g)の配合部数を17.9部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。ポリオール化合物(b)の水酸基価は56mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は2000であった。ポリオール化合物(f)の水酸基価は56mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は2000であった。また、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1であった。アクリル樹脂(d)、アクリル樹脂(e)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基含有量は、8.5質量%であった。
【0069】
(実施例10)
実施例3において、プライマー層の形成で、プライマー層の厚さを10μmとし、かつ、トップコート層の形成で、トップコート層の厚さを15μmとした以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0070】
(比較例1)
実施例3において、トップコート層用塗料の調製で、ポリオール化合物(f)を水酸基価が23mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量が10000であるポリエステルポリオール(商品名 アラキードKA2101、荒川化学社製)に変更し、かつ、イソシアネート(g)の配合部数を14.1部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。アクリル樹脂(d)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。
【0071】
(比較例2)
実施例3において、プライマー層用塗料の調製で、軟質タイプのイソシアネート(c)に替えて実施例1のトップコート層用塗料で配合したイソシアネート(g)とし、かつ、イソシアネート(g)の配合部数を36.8部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0072】
(比較例3)
実施例3において、トップコート層用塗料の調製で、イソシアネート(g)に替えて実施例1のプライマー層用塗料で配合した軟質タイプのイソシアネート(c)とし、かつ、イソシアネート(c)の配合部数を91.2部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0073】
(比較例4)
実施例3において、プライマー層用塗料の調製で、軟質タイプのイソシアネート(c)に替えて実施例1のトップコート層用塗料で配合したイソシアネート(g)とし、かつ、イソシアネート(g)の配合部数を36.8部に変更し、更にトップコート層用塗料の調製で、イソシアネート(g)に替えて実施例1のプライマー層用塗料で配合した軟質タイプのイソシアネート(c)とし、かつ、イソシアネート(c)の配合部数を91.2部に変更した以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0074】
(比較例5)
実施例3において、トップコート層用塗料の調製で、アクリル樹脂(d)に替えて実施例1のプライマー層用塗料で配合したアクリル樹脂(a)とした以外は、実施例3に準じて金属めっき層を形成した。
【0075】
得られた実施例及び比較例の金属めっき用塗膜の組成を表1に示す。また、得られた実施例及び比較例の金属めっき用塗膜について、次の方法で評価を行った。評価結果を表2に示す。
【0076】
【表1】

【0077】
【表2】

【0078】
<乾燥性>
トップコート層の形成後(乾燥後)、雰囲気温度24℃及び雰囲気湿度50%RHで10分放置し、摩擦感テスター(型式 KES‐SE FRICTION TESTER、カトーテック社製)を用いて計測した。評価基準は、計測値(MIU:平均摩擦係数)が1以下である場合を実用レベルとし、計測値が1を超える場合を実用不適とした。
【0079】
<透明性>
塗膜の透明性を目視評価した。評価基準は次のとおりである。
○:塗膜が透明で、目視で金属めっき層の金属光沢を阻害しない(実用レベル)。
×:塗膜が白濁し、目視では金属めっき層の金属光沢を阻害する(実用不適)。
【0080】
<耐水付着性>
塗膜を形成した部材を40℃の温水に360時間浸漬させた後、温水から取り出して、表面の温水をふき取り、塗膜の付着性を評価した。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)。
【0081】
<耐チッピング性>
飛石試験機(型式 飛石試験機、スガ試験機社製)を用いて、部材を5cm×10cmに切断した試験板の塗膜上に、砕石7号100gを衝突角度90°及び圧力4kg/cmで衝突させ、めっき表面まで届いた傷の数を数えた。雰囲気温度は、−20℃とした。評価基準は次のとおりである。
○:めっき表面まで届いた傷の数が10個以下である(実用レベル)。
△:めっき表面まで届いた傷の数が10個を超え50個以下の範囲内にある(実用下限レベル)。
×:めっき表面まで届いた傷の数が50個を超える(実用不適)。
【0082】
<耐侯性>
耐光試験機(型式 スーパーキセノンウェザーメーター SX‐75、スガ試験機社製)を用いて、部材を5cm×10cmに切断した試験板の塗膜表面を、光源としてキセノンアークランプを用いて500MJ/cm照射した。光照射後の試験板について耐チッピング性試験を行った。試験方法は、耐チッピング性の試験方法と同様に行った。光照射後の耐チッピング性及び光照射による耐チッピング性の低下の有無を次の評価方法で評価した。
【0083】
(光照射後の耐チッピング性)
評価基準は、耐チッピング性評価の評価基準と同様に評価した。
○:めっき表面まで届いた傷の数が10個以下である(実用レベル)。
△:めっき表面まで届いた傷の数が10個を超え50個以下の範囲にある(実用下限レベル)。
×:めっき表面まで届いた傷の数が50個を超える(実用不適)。
【0084】
(光照射による耐チッピング性の低下の有無)
耐チッピング性の評価結果と光照射後の耐チッピング性の評価結果とを比較した。
○:照射後に評価が低下していない(実用レベル)。
×:照射後に評価が低下した(実用不適)。
【0085】
<耐傷付き性>
平面摩擦試験機(東洋精機製作所社製)を用いて、塗膜の表面をクレンザー(商品名 クリームクレンザージフ、ユニリーバ社製)で擦った。荷重500g/cm、速度10cm/秒で50往復させた。試験前後で光沢度を光沢計(型式 micro‐TRI‐gloss、BYK社製)を用いて測定し、光沢保持率を求めた。評価基準は、光沢保持率が85%以上である場合を実用レベルとし、光沢保持率が85%未満である場合を実用不適とした。
【0086】
なお、光沢保持率は、試験前の光沢度に対する試験後の光沢度の割合であり、数2により求めた。
(数2)G=G1/G0×100
数2において、Gは光沢保持率であり、単位は%である。G0は、試験前の光沢値、G1は試験後の光沢値を示す。
【0087】
実施例1〜10の塗膜は、いずれも金属めっき層に対して優れた付着性及び高い透明性を有し、耐チッピング性及び耐傷付き性に優れ、その性能が光による暴露が長期間経過した後でも低下しないものであった。
【0088】
比較例1は、トップコート層のポリオール化合物(f)の数平均分子量が9500を超えたため、塗膜の透明性が劣った。比較例2は、プライマー層のイソシアネート(c)に替えて軟質タイプではないイソシアネート(g)としたため、耐水付着性及び耐チッピング性に劣った。比較例3は、トップコート層のイソシアネート(g)に替えて軟質タイプのイソシアネート(c)としたため、乾燥性に劣った。また、光照射による耐チッピング性の低下が見られた。比較例4は、プライマー層のイソシアネート(c)に替えて軟質タイプではないイソシアネート(g)とし、トップコート層のイソシアネート(g)に替えて軟質タイプのイソシアネート(c)としたため、乾燥性に劣った。また、光照射による耐チッピング性の低下が見られた。比較例5は、トップコート層のアクリル樹脂(d)に替えてガラス転移点が0℃(20℃未満)のアクリル樹脂(a)としたため、乾燥性に劣った。また、光照射による耐チッピング性の低下が見られた。
【0089】
次に、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対する付着性の評価を行った。
【0090】
部材として、実施例1で使用した部材(以降、初期部材ということもある。)、初期部材を雰囲気温度24℃、雰囲気湿度50%RHで2週間放置したもの(以降、劣化部材1ということもある。)及び初期部材を雰囲気温度50℃、雰囲気湿度90%RHで2週間放置したもの(以降、劣化部材2ということもある。)を用意し、それぞれのクロムめっき層上に、次に示す実施例11〜実施例15に示すプライマー層用塗料及びトップコート層用塗料を用いて、実施例1に準じて金属めっき用塗膜を形成した。得られた金属めっき用塗膜の組成を表3に示す。
【0091】
【表3】

【0092】
(実施例11)
<プライマー層用塗料の調製>
アクリル樹脂(a)(開発品、ハリマ化成社製)80部と、ポリオール化合物(b)としてポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオール(商品名 デスモフェン C‐1100、住化バイエルウレタン社製)20部と、軟質タイプのイソシアネート(c)として、(商品名 デュラネート E‐402‐80B、旭化成ケミカルズ社製)54.1部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度が25%であるプライマー層用塗料を調製した。ここで、アクリル樹脂(a)のガラス転移点は4℃であり、水酸基価は50mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は25000であった。ポリオール化合物(b)の水酸基価は112mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は1000であった。また、アクリル樹脂(a)及びポリオール化合物(b)の水酸基と軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.1であった。軟質タイプのイソシアネート(c)のイソシアネート基含有量は、9.5質量%であった。
【0093】
<トップコート層用塗料の調製>
アクリル樹脂(d)(開発品、三菱レイヨン社製)60部と、アクリル樹脂(e)(商品名 ダイヤナール LR‐193、三菱レイヨン社製)20部と、ポリオール化合物(f)として、ポリエステルで変性されたポリカーボネートポリオール(商品名 デスモフェン C‐1100、住化バイエルウレタン社製)20部と、イソシアネート(g)として、ヘキサメチレンジイソシアネート(商品名 スミジュールHT、住化バイエルウレタン社製)38.3部とを配合し、有機溶剤で希釈して固形分濃度が25%である実施例11のトップコート層用塗料を調製した。ここで、アクリル樹脂(d)のガラス転移点は25℃であり、水酸基価は40mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は9000であった。アクリル樹脂(e)のガラス転移点は65℃であり、水酸基価は45mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は5600であった。ポリオール化合物(f)の水酸基価は112mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は1000であった。イソシアネート(g)のイソシアネート基含有量は、13.0質量%であった。また、アクリル樹脂(d)及びポリオール化合物(f)の水酸基とイソシアネート(g)のイソシアネート基とのモル当量比は、1:1.2であった。
【0094】
(実施例12)
実施例11において、プライマー層用塗料の調製で、更に、シランカップリング剤(i)としてグリシジル系トリメトキシシラン類のシランカップリング剤(3‐グリシジロシキプロピルトリメトキシシラン、商品名 SILQUEST(登録商標) A‐187 SILANE、MOMENTIVE PERFORMANCE MATERIALS社製)3部を配合した以外は、実施例11に準じてプライマー層用塗料を調製した。
【0095】
(実施例13)
実施例12において、プライマー層用塗料の調製で、シランカップリング剤(i)の配合量を6部に変更した以外は、実施例12に準じてプライマー層用塗料を調製した。
【0096】
(実施例14)
実施例11において、プライマー層用塗料の調製で、更に、アクリル樹脂(j)(開発品、オリジン電気社製)を10部配合した以外は、実施例11に準じてプライマー層用塗料を調製した。ここで、アクリル樹脂(j)のガラス転移点は−30℃であり、水酸基価は20mgKOH/gであり、かつ、数平均分子量は25000であった。
【0097】
(実施例15)
実施例14において、プライマー層用塗料の調製で、アクリル樹脂(j)の配合量を20部に変更した以外は、実施例14に準じてプライマー層用塗料を調製した。
【0098】
実施例11〜実施例15の塗料を用いて金属めっき用塗膜を形成した部材について、初期付着性、耐水付着性、透明性、耐チッピング性及び耐候性の評価を行った。初期付着性は次の方法で評価した。また、耐水付着性、透明性、耐チッピング性及び耐候性の評価方法は、実施例1〜10及び比較例1〜5で行った方法と同様である。評価結果を表4に示す。
【0099】
<初期付着性>
塗膜を形成した直後の部材について、塗膜の付着性を評価した。評価方法は、JIS K5600−5−6:1999「クロスカット法」に準じて、1mm×1mmの碁盤目状の切込みを100個入れ、粘着テープによる剥離試験を行った。評価基準は次のとおりである。
○:剥離なし(実用レベル)。
△:剥離はしないが外観異常あり(実用不適)。
×:剥離する(実用不適)。
【0100】
【表4】

【0101】
実施例11は、初期部材に対しては、初期付着性、耐水付着性、透明性、耐チッピング性及び耐候性に優れていた。実施例12及び実施例13は、初期部材、劣化部材1及び劣化部材2のいずれに対しても、初期付着性、耐水付着性、透明性、耐チッピング性及び耐候性に優れていた。実施例11と実施例12又は実施例13との比較によれば、プライマー層にシランカップリング剤(i)を配合することで、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対しても優れた付着性(初期付着性及び耐水付着性)、耐チッピング性及び耐候性を発揮できることを確認できた。また、実施例14及び実施例15は、初期部材、劣化部材1及び劣化部材2のいずれに対しても、初期付着性、耐水付着性、透明性、耐チッピング性及び耐候性に優れていた。実施例11と実施例14又は実施例15との比較によれば、プライマー層にアクリル樹脂(j)を配合することで、高温高湿環境下に放置されたことで付着性が劣化した金属めっき表面に対しても優れた付着性(初期付着性及び耐水付着性)、耐チッピング性及び耐候性を発揮できることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明に係る金属めっき用塗膜は、金属めっき層に対して優れた付着性及び高い透明性を有し、耐チッピング性及び耐傷付き性に優れ、その性能が光による暴露が長期間経過した後でも低下することがないため、自動車、オートバイの外装部品に適している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材の表面に金属めっき層を形成した部材の少なくとも該金属めっき層の表面を被覆する金属めっき用塗膜において、
該塗膜は、前記金属めっき層上に形成されたプライマー層と該プライマー層上に形成されたトップコート層とを有し、
前記プライマー層は、アクリル樹脂(a)とポリエステル成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリカーボネート成分が骨格に導入されたイソシアネート、ポリエーテル成分が骨格に導入されたイソシアネートから選ばれる少なくとも1種類(c)とを含有し、かつ、アクリル樹脂(a)のガラス転移点が−20℃以上20℃未満であり、
前記トップコート層は、アクリル樹脂(d)と、ポリオール化合物(f)と、イソシアネート(g)と、を含有し、かつ、アクリル樹脂(d)のガラス転移点が20℃以上50℃以下であり、かつ、ポリオール化合物(f)の数平均分子量が500以上9500以下であることを特徴とする金属めっき用塗膜。
【請求項2】
前記プライマー層は、更にポリオール化合物(b)を含有し、かつ、ポリオール化合物(b)の数平均分子量が100以上9500以下であることを特徴とする請求項1に記載の金属めっき用塗膜。
【請求項3】
前記トップコート層は、更にアクリル樹脂(e)を含有し、かつ、アクリル樹脂(e)のガラス転移点が50℃を超え90℃以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の金属めっき用塗膜。
【請求項4】
前記プライマー層の厚さが、10μm以上40μm以下であり、前記トップコート層の厚さが、15μm以上40μm以下であり、かつ、前記プライマー層と前記トップコート層との合計厚さが、25μm以上80μm以下であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一つに記載の金属めっき用塗膜。
【請求項5】
前記プライマー層が、更にシランカップリング剤(i)又はガラス転移点が−90℃以上−20℃未満のアクリル樹脂(j)の少なくともいずれか一方を含有することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一つに記載の金属めっき用塗膜。


【公開番号】特開2012−61850(P2012−61850A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−178207(P2011−178207)
【出願日】平成23年8月17日(2011.8.17)
【出願人】(000103976)オリジン電気株式会社 (223)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】