説明

金属アミジナートを用いる原子層の析出

【課題】マイクロエレクトロニクスにおける電子的連結及び磁気情報記録装置における磁気抵抗に好適な、均一な厚さを有しかつ細孔での優れたステップカバレッジを有する薄膜を提供する。
【解決手段】銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネートの蒸気と水素ガスとを交互に投与する複数回分の投与量を順次反応させて、加熱基板上に銅の金属薄膜を析出させる。コバルト(II)ビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジネート)の蒸気と水素ガスとを交互に投与する複数回分の投与量を順次反応させて、加熱基板上にコバルトの金属薄膜を析出させる。これら金属の窒化物及び酸化物の薄膜は、前記水素をそれぞれアンモニア又は水蒸気に代えることによって形成することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体基板上への金属を含有する相似薄膜の析出材料及び析出方法に関し、更に詳細には、銅、コバルト及び鉄の金属又はそれらの酸化物あるいは窒化物を含む薄膜に関する。本発明は、マイクロエレクトロニクス装置の製作に適用される。
【背景技術】
【0002】
半導体マイクロエレクトロニクス装置の速度と機能が改良されるにつれて、新規な材料が必要となる。例えば、より高導電率をもつ材料が、集積回路におけるトランジスター間の配線をなすために必要となる。銅は、アルミニウムよりも一層高い導電率と、エレクトロマイグレーションに対する一層良好な安定性とを有する。したがって、シリコン半導体では、銅が、より一般的なものとして使われるようになってきている。この傾向は、インターネット上のhttp://public.itrs.net/Files/2001ITRS/Home.htmで公表される「International Technology Roadmap for Semiconductors(半導体のための国際技術ロードマップ)」に記載されている。
【0003】
また、銅の連結には、狭い細孔のような構造においても共形的に配置されなければならず、そして得られる薄膜は、高度に均一な厚さを有していなければならない。仮に、厚さに変化があると、トレンチや通路における銅の導電率は、当該銅の粗面からの電子の散乱が増すために低下してしまう。よって、高品質なバリア/接着層は、極めて平滑な表面を有していることが望ましい。
【0004】
平滑で、共形的な層となすために好適な一つの方法は、「原子層の析出」、即ちALD(原子層エピタキシとしても知られている)である。当該ALD法では、二種以上の異なる蒸気相の先駆物質を用いて、固体材料の薄膜層を析出させる。薄膜が析出される基板表面は、第一の先駆物質からの一回分の蒸気に曝される。次いで、その先駆物質からの過剰な未反応蒸気が、ポンプで吸い出される。次に、第二の先駆物質の一回分の蒸気が当該表面にもたらされて、反応が進む。この工程の作業周期が繰り返されて、より厚い薄膜が形成される。この工程の特に重要な側面の一つでは、ある最大の厚さは各作業周期内でのみ形成でき、その後は、たとえ過剰な反応体が利用可能な状態にあるとしても、更なる析出はその作業周期時に全く起こらないという点で、当該ALD反応が自己制御的であることである。この自己制御的特性のため、ALD反応では、極めて均一な厚さをもつ皮膜が形成される。ALD薄膜の厚さの均一性は、平らな基板表面に亘るばかりでなく、狭い細孔やトレンチにも及んでいる。この共形的な薄膜を形成するという能力は、「良好なステップカバレッジ」と呼ばれている。
【0005】
銅のALDは、Journal of the Electrochemical Society、第145巻、2926〜2931頁(1998年)において、P. Martensson 及び J.O. Carlsson による、銅先駆物質のCu(II)−2,2,6,6−テトラメチル−3,5−ヘプタンジオナートから実証されてきた。都合の悪いことに、このALD法から得られる銅は、単に、先在する白金表面上でしか生長せず、正に自己制御的なALD工程にある温度範囲(<200℃)では、多くの他の表面に核形成し、あるいは付着することがない。銅のALDに関して他の反応が示唆されてきたが、その提案された表面反応が実際に自己制御的であるということを立証するようなデータは、今までのところ全く公表されていない。したがって、白金以外の表面に核形成して付着する銅のALD法があれば、非常に好都合なことであろう。
【0006】
米国特許第6,294,836号明細書には、銅と基板との間にコバルトの「接着剤」層を用いることによって、銅の付着を改良することが報告されている。しかしながら、米国特許第6,444,263号明細書によれば、コバルトを析出させる周知の化学蒸着(CVD)技術では、ステップカバレッジが劣り、アスペクト比5:1をもつ細孔の底部では僅か20%の厚さしか与えない。コバルトのALDは、米国特許出願第2002/0081381号において、コバルトビス(アセチルアセトナート) [Co(acac)2] と水素との反応に関して特許請求されているが、そのステップカバレッジは全く示されてなく、また、その生長に関しても単に先在するイリジウム表面についてしか認められない。また、米国特許出願第2002/0081381号では、Co(acac)2とシランとの反応によるコバルトの非選択的生長についても特許請求されているが、このコバルトはシリコンで汚染されている可能性がある。よって、高いステップカバレッジを有する不純物のないコバルトのための析出方法があれば、好都合であろうと思われる。
【0007】
また、銅及びコバルトの薄層を用いて、磁気情報記憶装置用の磁気抵抗書込み及び読出しヘッドが形成されている。これらの層は、極めて均一な厚さを有し、欠陥やピンホールが殆ど無いことが必要である。これら装置を作るための商業的に成功した方法は存在するが、より一層均一な厚さで、欠陥が少ない層が得られる銅及びコバルトのための析出プロセスがあれば、好都合であろうと思われる。
【0008】
マイクロエレトロニクス回路をもつ集積磁気メモリー(例えば、米国特許出願第2002/0132375号および米国特許第6,211,090号明細書参照)用の先進的な設計には、厳格にコントロールされた厚さと鋭い界面をもつ、高度に均一でかつ共形的な金属(特に、Fe、Co、Ni、Cu、Ru、Mn)層が必要とされる。所要の共形性と厚さの管理とを備えたこれら金属層を析出させる公知な方法は、全く無い。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】米国特許第6,294,836号明細書
【特許文献2】米国特許第6,444,263号明細書
【特許文献3】米国特許第6,211,090号明細書
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Journal of the Electrochemical Society、第145巻、2926〜2931頁(1998年)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の一つの態様には、揮発性の金属アミジナート化合物を用いた、銅、コバルト、ニッケル、鉄、ルテニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ニオビウム、タンタル、チタン又はランタンのような金属を含む薄膜の析出方法が含まれる。当該薄膜は、均一で、共形的な厚さと平滑な表面とを有する。
【0012】
この方法の利点は、極めて均一な厚さをもつ金属含有皮膜の形成能である。
【0013】
本発明の関連する態様では、基板と析出皮膜との間に良好な付着を生ずる条件下で、金属含有皮膜を析出させることにある。
【0014】
この方法の利点は、極めて平滑な表面をもつ金属含有皮膜の析出を可能とすることである。
【0015】
この方法の付加的な利点は、極めて均一な金属含有皮膜の蒸着が、反応器内での反応体の濃度や基板の位置のような広範な条件において達成されることである。
【0016】
本発明のその他の利点は、狭い細孔、トレンチ又は他の構造物を持つ基板上での共形的な金属含有皮膜の形成能である。この能力は、通常、「良好なステップカバレッジ」として知られている。
【0017】
本発明のその他の態様では、実質的にピンホールや機械的な欠陥の無い金属含有皮膜の作製である。
【0018】
本発明のその他の利点は、高導電率をもつ金属含有皮膜の析出能である。
【0019】
本発明のその他の利点は、酸化基板に強く付着する金属含有皮膜の析出能である。
【0020】
本発明のその他の利点には、比較的低い温度下での金属含有皮膜の基板被覆能が含まれる。
【0021】
本発明の更なる態様には、基板に対するプラズマ欠陥の無い金属含有皮膜からなる原子層の析出方法が含まれる。
【0022】
本発明の一つの特別な態様には、マイクロエレクトロニクス装置におけるコネクターとして用いる導電性銅皮膜の析出方法が含まれる。
【0023】
本発明のその他の特別な態様には、有効な磁性を有するコバルト皮膜の析出方法が含まれる。
【0024】
本発明の付加的な態様では、マイクロエレクトロニクス連接構造における拡散バリアー(例えば、TiN、TaN又はWN)上に、コバルト層、次いで銅層を析出させることである。
【0025】
本発明の更なる態様には、有効な磁気抵抗性を有するコバルト/銅ナノラミネート皮膜の析出方法が含まれる。
【課題を解決するための手段】
【0026】
本発明の一つの態様では、金属を含む薄膜は、加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物(M−AMD)、次いで還元性ガスもしくは蒸気に交互に暴露することで、当該基板表面に金属皮膜を形成させることによって製造される。一以上の実施態様では、当該還元性ガスには水素が含まれる。
【0027】
本発明の一つの態様では、金属窒化物を含む薄膜は、加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物(M−AMD)、次いで窒素含有ガスもしくは蒸気に交互に暴露することで、当該基板表面上に金属窒化物皮膜を形成させることによって製造される。一以上の実施態様では、当該窒素含有ガスにはアンモニアが含まれる。
【0028】
本発明のその他の態様では、金属酸化物を含む薄膜は、加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物(M−AMD)、次いで酸素含有ガスもしくは蒸気に交互に暴露することで、当該基板表面上に金属酸化物皮膜を形成させることによって製造される。一以上の実施態様では、当該酸素含有ガスには水が含まれる。
【0029】
一以上の実施態様では、当該揮発性金属アミジナート化合物は、M(I)AMD、M(II)AMD2及びM(III)AMD3からなる群より選ばれる式(式中、Mは金属であり、AMDはアミジナート部分である。)を有する金属アミジナート化合物、並びにそれらのオリゴマーである。
【0030】
本発明の一つの態様では、揮発性銅化合物の蒸気が、水素ガスと表面で交互に反応して、基板上に銅金属の薄層が形成される。特に好適な銅化合物は、銅(I)アミジナートの種類から選定される。
【0031】
本発明のその他の態様では、揮発性コバルト化合物の蒸気が、水素ガスと表面で交互に反応して、基板上にコバルト金属の薄層が形成される。特に好適なコバルト化合物は、コバルト(II)アミジナートの種類から選定される。この方法における水素ガスをアンモニアガスと置換すると、コバルト窒化物を析出させることができる。この方法における水素ガスを水蒸気と置換すると、コバルト酸化物を析出させることができる。
【0032】
本発明の他の実施態様では、ニッケル、鉄、ルテニウム、マンガン、クロム、バナジウム、ニオビウム、タンタル、チタン及びランタンのアミジナートは、一種以上のこれら金属を含む薄層の蒸着に用いられる。
【0033】
本発明のその他の態様では、揮発性ランタン化合物の蒸気が、アンモニアガスと表面で交互に反応して、当該基板上にランタン窒化物の薄層が形成される。特に好適なランタン化合物は、ランタン(III)アミジナートの種類から選定される。この方法におけるアンモニアを水蒸気と置換すると、ランタン酸化物を析出させることができる。
【0034】
ある実施態様では、当該反応は、細孔又はトレンチを含む基板上に薄膜を形成するようにして実施されてもよい。また、皮膜は、粉体、線材の表面上に、あるいは複雑な機械的構造物の周辺及び内部に形成されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】本発明の少なくとも一つの実施態様の実施に使われる原子析出層形成装置の一断面図である。
【図2】本発明の少なくとも一つの実施態様の実施に使われる銅先駆物質の分子構造である。
【図3】本発明の少なくとも一つの実施態様の実施に使われるコバルト先駆物質の分子構造である。
【図4】狭い細孔の壁が本発明の一つの実施態様で用いられる銅金属で被覆されていることを示す、細孔断面の走査電子顕微鏡写真である。
【図5】狭い細孔の壁が本発明の一つの実施態様で用いられるコバルト金属で被覆されていることを示す、細孔の光学顕微鏡写真である。
【図6】基板温度の関数として、各ALD作業周期で析出される銅の厚さを示すプロット図である。
【図7】基板温度の関数として、各ALD作業周期で析出されるコバルトの厚さを示すプロット図である。
【発明を実施するための形態】
【0036】
本発明によれば、金属アミジナートを含む複数の反応体から原子層を析出させることによる、金属含有層の製造方法が提供される。原子層の析出方法では、本明細書中に後に詳述される第1図に示されるような装置によって、所定金属化合物蒸気の複数回分の送出量が、第二の反応体の蒸気と交互に表面に供給される。好ましい金属アミジナートには、金属ホルムアミジナート及び金属アセトアミジナートが含まれる。典型的な第二の反応体には、水素ガス、アンモニアガス又は水蒸気が含まれる。水素ガスが第二の反応体として選ばれた場合には、金属が析出される。アンモニアガスが第二の反応体として選ばれた場合には、金属窒化物が析出される。水蒸気が第二の反応体として選ばれた場合には、金属酸化物が析出される。
【0037】
一以上の実施態様では、一価金属用の先駆物質には、揮発性金属(I)アミジナート、[M(I)(AMD)]x、(式中、x=2,3)が含まれる。これらの化合物のあるものは、以下の二量体構造1を有する。
【化1】

式中、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、1個以上の非金属原子からなる基である。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、水素、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、トリアルキルシリルもしくはフルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基から独立して選ばれてよい。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、それぞれ独立して、1〜4個の炭素原子を有するアルキルもしくはフルオロアルキルもしくはシリルアルキル基である。好適な一価金属には、銅(I)、銀(I)、金(I)、及びイリジウム(I)が含まれる。一以上の実施態様では、当該金属アミジナートは銅アミジナートであり、そして当該銅アミジナートには、一般式1におけるイソプロピル基としてR1、R2、R1’及びR2’を、そしてメチル基としてR3及びR3’を採る場合に相当する、銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナートが含まれる。一以上の実施態様では、当該金属(I)アミジナートは、一般式[M(I)(AMD)]3を有する三量体である。
【0038】
一以上の実施態様では、二価の金属先駆物質には、揮発性の金属(II)ビス−アミジナート、[M(II)(AMD)2]x、(式中、x=1,2)が含まれる。これらの化合物は、以下の単量体構造2を有してよい。
【化2】

式中、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、1個以上の非金属原子からなる基である。また、一以上の実施態様では、この構造の二量体、例えば[M(II)(AMD2]2が用いられてもよい。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、水素、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、トリアルキルシリルもしくはフルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基から独立して選ばれてよい。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’及びR3’は、それぞれ独立して、1〜4個の炭素原子を有するアルキルもしくはフルオロアルキルもしくはシリルアルキル基である。好適な二価金属には、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、ルテニウム、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、ユーロピウム、マグネシウム及びカルシウムが含まれる。一以上の実施態様では、当該金属(II)アミジナートは、コバルトアミジナートであり、そして当該コバルトアミジナートには、一般式2におけるイソプロピル基としてR1、R2、R1’及びR2’を、そしてメチル基としてR3及びR3’を採る場合に相当する、コバルト(II)ビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)が含まれる。
【0039】
一以上の実施態様では、三価金属用の先駆物質には、揮発性の金属(III)トリス−アミジナート、M(III)(AMD)3が含まれる。典型的には、これらの化合物は、以下の単量体構造3を有する。
【化3】

式中、R1、R2、R3、R1’、R2’、R3’、R1”、R2”及びR3”は、1個以上の非金属原子からなる基である。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’、R3’、R1”、R2”及びR3”は、水素、アルキル、アリール、アルケニル、アルキニル、トリアルキルシリル、ハロゲンもしくは部分フッ素化アルキル基から独立して選ばれてよい。いくつかの実施態様では、R1、R2、R3、R1’、R2’、R3’、R1”、R2”及びR3”は、それぞれ独立して、1〜4個の炭素原子を有するアルキル基である。好適な三価金属には、ランタン、プラセオジム及び他のランタン系列金属、イットリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、ニオビウム、タンタル、クロム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、及びビスマスが含まれる。一以上の実施態様では、当該金属(III)アミジナートは、ランタンアミジナートであり、そして当該ランタンアミジナートには、一般式3におけるt−ブチル基としてR1、R2、R1’、R2’、R1”及びR2”を、メチル基としてR3、R3’及びR3”を採る場合に相当する、ランタン(III)トリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート) が含まれる。
【0040】
本明細書で用いられるように、単量体としてのアミジナートに対して同じ金属比を有するが、化合物における金属/アミジナート単位の総数において変わる金属アミジナートは、単量体化合物の「オリゴマー」と呼ばれる。よって、単量体化合物M(II)AMD2のオリゴマーには、[M(II)(AMD)2]x、(式中、x=2,3など)が含まれる。同様に、単量体化合物M(I)AMDのオリゴマーには、[M(I)(AMD)]x、(式中、x=2,3など)が含まれる。
【0041】
金属アミジナートは、いかなる好適な方法を用いて製造されてもよい。金属アミジナート先駆物質の一つの製造方法には、先ず、以下のように、1,3−ジアルキルカルボジイミドとアルキルリチウム化合物との反応によってリチウムアミジナートを生成させることが含まれる。
【化4】

次いで、当該リチウムアミジナートは、以下のように、金属ハロゲン化物と反応させて、金属アミジナートを生成させる。
【化5】

【0042】
非対称のカルボジイミド(式中、R1がR2と同じでない)、並びに対称のカルボジイミド(R1=R2)は、以下の反応機構によって合成することができる。
【化6】

1及びR2のアルキル基を提供するために、多くの種類のアルキルアミン及びアルキルイソシアネートが市販されている。異なるR3のアルキル基は、適当なアルキルリチウム化合物を用いることによって提供されてよい。
【0043】
金属アミジナートのその他の製造方法には、カルボジイミドよりもむしろ、以下のN,N’−ジアルキルアミジンが用いられる。
【化7】

【0044】
アミジンは、当該アミジンを以下の金属水素化物(R=H)、金属アルキル(R=アルキル)又は金属アルキルアミド(R=ジアルキルアミド)と反応させることによって金属アミジナートに転換してもよい。
【化8】

【0045】
これに代えて、この最後の反応を用いてアミジンのアルカリ金属塩を形成し、次いで、引き続いて金属ハロゲン化物と反応させて所望の金属アミジンを生成させてもよい。
【0046】
N,N'−ジアルキルアミジンは、有機化学の分野で周知ないかなる慣用の方法によって合成されてもよい。対称アミジン(R1=R2)は、以下のように、ランタントリフルオロメタンスルホネート(ランタントリフレートとしても知られる)により触媒されたニトリルでアミンを縮合させることによって生成させてもよい。
【化9】

【0047】
非対称アミジン(R1とR2とが等しくない)は、対称アミジンと同様に、アミドから出発する以下の反応によって合成されてもよい。ある種のアミドは市販されており、そして他のものは有機酸クロリドをアミンと反応させることによって合成されてもよい。
【化10】

【0048】
次いで、当該アミドは、以下のように、ピリジンのような有機塩基の存在下で、トリフロロメタンスルホン酸無水物(トリフリック無水物としても知られている)と反応させて、イミニウム塩を生成させる。
【化11】

【0049】
この中間イミニウム塩は、次いで、以下のように、アルキルアンモニウム塩化物R2NH3Clと、その後、NaOHのような塩基と反応させて、所望の遊離アミジンを生成させる。
【化12】

これらの反応をできるだけ安価に行うために、非対称アミジンの合成には、R1基よりも立体的に障害の大きい基R2が選定される。
【0050】
一般に、液体の先駆物質は、本発明を実行するに際していくつかの利点を有する。仮に、金属アミジナートの融点が室温以下であるならば、そのときは、当該液体化合物は分別蒸留によって高純度にすることが可能である。逆に、固体材料は、昇華によって精製することはより困難であり、この昇華は、不純物を取り除くには、蒸留よりも非効率的である。また、感気性液体化合物は、一般に、固体よりも取り扱い及び移動が容易である。
【0051】
低融点をもつ金属アミジナートは、R1、R2及び/又はR3に長鎖アルキル基を用いることによって製造できる。非対称金属アミジナート(式中、R1がR2と同じでない)は、一般に、対称金属アミジナートよりも低い融点を有する。また、第二ブチルのような、1個以上の立体異性体をもつアルキル基も、結果として低融点となる。一つ以上のこれらの戦術を用いると、比較的に好ましくない固体化合物よりもむしろ望ましい液体先駆物質に導くことが可能となる。
【0052】
また、低融点は、本発明による析出法の場合に、蒸気を供給する際にも望ましいことである。仮に、化合物の融点がその化合物の蒸発温度よりも低ければ、そのときは蒸気の液体源は、一般に、固体化合物が有するよりも速い気化動力学を有する。また、固体の昇華では、屡、その表面が、更に気化を遅らせる揮発性に乏しい物質の残渣で覆われたままになることがある。他方、液体源では、非揮発性の残渣が液体本体中に浸漬して、その液体表面を清浄に保ち、そして望ましい迅速な蒸発が可能となる。
【0053】
本発明の一以上の実施態様では、金属アミジナートは、基板上に蒸気として導入される。先駆物質の蒸気は、液体又は固体のいずれの先駆物質から慣用の方法によって形成されてもよい。一以上の実施態様では、液体先駆物質が、その気化温度以上、例えば約100〜200℃に予熱されたキャリアガス中に噴霧化されることによって気化されてもよい。噴霧化は、空気作用で、超音波で、あるいは他の適当な方法で実施されてよい。噴霧化される固体先駆物質は、デカン、ドデカン、テトラデカン、トルエン、キシレン及びメシチレンのような炭化水素、エーテル、エステル、ケトン及び塩素化炭化水素を含む有機溶媒に溶解されてよい。液体先駆物質の溶液は、一般に、純粋な溶液よりも低粘度を有するので、ある場合には、それが、純粋な溶液よりもむしろ噴霧化されるか、あるいは気化される方が好適である。また、先駆物質の液体又は先駆物質の溶液は、薄膜蒸発器を用いて、液体又は溶液を直接加熱帯域に噴射して、あるいは通気ビン中で加熱することによって気化されてもよい。液体蒸発用の市販装置は、MKS Instruments(マサチューセッツ州、アンドーバー)、ATMI, Inc.(コネチカット州、ダンバリー)、Novellus Systems, Inc.(カリフォルニア州、サンホゼ)及びCOVA Technologies(コロラド州、コロラドスプリングス)で作られている。超音波噴霧器は、Sonotek Corporation(ニューヨーク州、ミルトン)及びCetac Tecknologies(ネブラスカ州、オマハ)で作られている。
【0054】
本発明の金属先駆物質は、還元剤、例えば水素ガスと反応させて、当該金属の薄膜が形成されてよい。例えば、銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナートを水素ガスと反応させて、銅金属が形成されてよい。また、他の実施態様では、本発明の金属先駆物質は、他の適当な反応性の還元性化合物と反応させて、金属が形成されてもよい。ある実施態様では、本発明の金属先駆物質は、アンモニアガスと反応させて、金属窒化物が形成されてよい。例えば、コバルト(II)ビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)をアンモニアガスと反応させて、窒化コバルトが形成されてよい。他の実施態様では、本発明の金属先駆物質は、水蒸気と反応させて、金属酸化物が形成されてよい。例えば、ランタン(III)トリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を水蒸気と反応させて、酸化ランタンが形成されてよい。
【0055】
本発明の方法では、原子層の析出(ALD)を用いて実施されてよい。ALDは、計量された量の第一の反応体を、内部に層の析出用基板を有する析出チェンバー内に導入することで開始される。当該第一の反応体の薄層が、基板上に析出する。次いで、未反応の第一の反応体及び揮発性の反応副生物が、真空ポンプによって、選択的には、不活性のキャリアガス流によって取り除かれる。次に、計量された量の第二の反応体成分が、析出チェンバー内に導入される。当該第二の反応体が析出し、それが、第一の反応体から既に析出されている層と反応する。第一及び第二反応体の交互の複数回分の投与量が析出チェンバー内に導入され、基板上に析出して、調整された組成と厚さの層が形成される。当該複数回の各投与間の時間は秒のオーダーであり、そしてそれは、適量で導入される成分が当該薄膜の表面と反応し、かつ過剰の蒸気と副生物とを基板上方の空間から取り除くための適当な時間が与えられるように選定される。当該表面反応は自己制御的であるので、それによって予測可能な組成の再生層が析出されるように決められている。二種以上の反応体成分を用いる析出方法が、本発明の技術的範囲に含まれることは、当業者にとって自明であろう。
【0056】
本発明の一以上の実施態様では、通常、ガスクロマトグラフにサンプルを注入させるために使われる6口試料採取バルブ(テキサス州、ヒューストンにある Valco Instruments社製のValco 型EP4C6WEPH)が、反応体ガスのパルスを送出するために用いられてよい。当該バルブがコンピュータ制御により切り換わる毎に、「サンプルループ」内で計量された量のガスが析出チェンバーに流入する。キャリアガスの絶え間のない流れが、チューブから加熱析出ゾーンに導入される残留反応体ガスを清浄化する作用をする。この送出方法は、水素やアンモニアのような反応体ガスに好都合である。
【0057】
蒸気圧が析出チェンバー内の圧力よりも高い反応体の作業回数の投与量は、図1に示されるような装置を用いて導入することが可能である。例えば、水は、析出チェンバー内の典型的な圧力(通常、1トール未満)よりもはるかに高い蒸気圧(室温で約24トール)を有している。かかる揮発性先駆物質20は、一対の空気作動ダイアフラムバルブ50及び70(カリフォルニア州、リッチモンドにある Parker-Hannifin により作製されたチタンII型)を用いて加熱析出チェンバー110内に導入される蒸気30を有している。2個のバルブは、実測容積Vを有するチェンバー60でつながっていて、この装置は、調整された温度T2に保持されているオーブン80内に配置されている。先駆物質溜め10内の当該反応体蒸気30の圧力は、取り囲むオーブン40により決定される温度T1での、固体もしくは液体の反応体20の平衡蒸気圧Peqに等しい。当該温度T1は、先駆物質の平衡蒸気圧Peqの方が析出チェンバー内の圧力Pdepよりも高くなるように、十分高圧となるように選定される。当該温度T2は、バルブ50及び70あるいはチェンバー60内に蒸気のみが存在して、濃縮相が全く存在しないように、T1よりも高くなるように選定される。また、ガス状反応体の場合にも、この送出方法を用いることが可能である。このケースでは、容積Vにおけるガス圧は、当該ガス状反応体を蓄える容器内の圧力よりもその圧力を減らす圧力調整器(図示されていない)によって設定されてもよい。
【0058】
(窒素ガスのような)キャリアガスは、析出チェンバーへ向かう反応体の流入速度を速め、また反応副生物や未反応の反応体蒸気をパージするため、制御された速度で吸気口90に流入させる。キャリアガスが、炉120によって加熱された一以上の支持体130を収容する析出チェンバー110に導入される際に、キャリアガス中により均一な濃度の先駆物質ガスが供給されるように、静的攪拌機が、反応器に導くチュービング100内に配置されてもよい。その副生物や未反応の反応体蒸気は、真空ポンプ150を通過する前に、トラップ140によって除かれる。キャリアガスは、排出口160から出る。
【0059】
操作に当たっては、先ず、チェンバー60内の圧力が析出チェンバー110のそれに近い値Pdepになるまで減圧するように、バルブ70が開放される。次いで、バルブ70が閉じられ、バルブ50が開放されて、先駆物質溜め10からチェンバー60内に先駆物質蒸気が導入される。その後、チェンバー60の容積Vが圧力Peqで先駆物質の蒸気を収容するように、バルブ50が閉じられ、最後に、バルブ70が開放されて、チェンバー60内に収容した殆どの先駆物質蒸気が析出チェンバー中に導入される。このサイクルによって送出される先駆物質のモル数nは、当該蒸気が理想気体の法則:
n=(Peq−Pdep)(V/RT1)
に従うということを仮定して概算できる。式中、Rは、気体定数である。また、この数式は、チューブ90からのキャリアガスは、バルブ70が開放されて先駆物質蒸気が解放される短い時間中には、当該バルブを通してチェンバー60に入らないということを仮定している。仮に、バルブ70が開放されている時間中に、キャリアガスと先駆物質の蒸気との混合が起こるとすると、そのときは、多量の先駆物質蒸気の投与量が最大値:
n=(Peq)(V/RT1)
となるまで送出されてしまう。仮に、チェンバー60内の残留先駆物質の蒸気の全てがキャリアガスと置換されてしまうとすると、比較的高い蒸気圧(Pew>>Pdep)をもつ先駆物質の場合には、これら二つの先駆体物質量の投与量の概算値には、通常、大きな差異はない。
【0060】
先駆物質20を送出するこの作業周期は、必要な場合には、所要投与量の先駆物質20が反応チェンバー内に送出されるまで繰り返される。典型的に、ALD法では、この作業周期(あるいは多量の投与量が与えられるまで繰り返される数回のかかる作業周期)で送出される先駆物質の投与量は、表面反応を完結させる(「飽和」ともいう)に十分な量であるように選定される。
【0061】
eqの方がPdepより低いような蒸気圧をもつ先駆物質の場合には、上記した方法では、析出チェンバー内にいかなる先駆物質の蒸気も送出されない。その蒸気圧は、当該蒸気溜めの温度を上げることによって高めることはできるが、あるケースでは、その高温によって、先駆物質が熱分解してしまうという結果になることが予想される。金属アミジナート先駆物質は、析出チェンバー内で、操作圧より低い蒸気圧を有することが屡ある。低い蒸気圧をもつ感熱性先駆物質21の場合には、その蒸気31が図1の装置を用いて送出されてもよい。チェンバー19が、先ず、圧力調整器(図示していない)からチューブ15及びバルブ17を通って送出されるキャリアガスで加圧される。次いで、バルブ17が閉じられ、バルブ51が開放されて、当該キャリアガスによって先駆物質溜めが圧力Ptotとなるまで放置される。そのときの溜め11の蒸気空間31における先駆物質の蒸気のモル分率は、Peq/Ptotである。バルブ51が閉じられ、次いでバルブ71が開放されて、一回分の投与量の反応体蒸気31が送出される。仮に、Ptotが析出チェンバー内での圧力Pdepより大きい圧力に設定されると、そのときは、一回分の投与量に送出されるモル数は、式:
n=(Peq/Ptot)(Ptot−Pdep)(V/RT1’)
から推定することができる。式中、Vは、チェンバー11内の蒸気空間31の容積であり、そしてT1’は、オーブン41によって保持される温度である。オーブン81は、凝縮を避けるため、T1’より十分高い温度T2’に維持されている。仮に、チューブ91からのキャリアガスが、バルブ71の開放中に当該容積に入り込むと、そのときは、この推定値よりも幾分多い一回分の投与量が送出されることとなる。当該容積Vを十分に大きくすることによって、表面反応を最大値まで進めるに足るような、確実に多量な先駆物質の一回分の投与量が送出されてもよい。仮に、蒸気圧Peqが低いため、所要の容積Vが実行不能な程度に成る程大きくなるならば、そのときは、一回分の他の反応体の投与量を送出する前に、容積Vからの付加的な複数回分の投与量が送出されてもよい。
【0062】
一以上の実施態様では、図1の装置には、同様の送出チェンバーであって、例えば、両者とも析出圧よりも高いか、あるいは低い蒸気圧を有する試料を送出するために用いられる2個の送出チェンバーが含まれていてもよい。
【0063】
恒温析出領域110では、一般に、基板および内側のチェンバー壁を含む、先駆物質の蒸気に曝されている全ての表面に材料が析出される。よって、基板及び暴露したチェンバー壁の全面積で割り算されたモルによって、使用された先駆物質の多数回分の投与量を報告することが適当である。また、ある場合には、析出が基板の裏面の一部又は全部に起こることがあり、その場合には、その領域もまた全面積に含ませるべきである。
【実施例】
【0064】
本発明は、以下の実施例にしたがって理解されてよいが、当該実施例は、単に本発明を説明する目的で記載されたものにすぎず、本発明について限定するものではない。本発明の技術的範囲は、特許請求の範囲の記載によって解されるべきものである。
【0065】
本実施例に記載される反応及び操作は、不活性雰囲気のボックス、あるいは標準のシュレンク(Schlenk)技術のいずれかを用いて、純窒素雰囲気下で行った。テトラヒドロフラン(THF)、エーテル、ヘキサン及びアセトニトリルを、革新的な技術である溶媒精製法を用いて乾燥し、そして4Åの分子篩に貯蔵した。第二ブチルアミンを、酸化バリウムからの蒸留によって乾燥した。メチルリチウム、第三ブチルリチウム、1,3−ジイソプロピルカルボジイミド、1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミド、CuBr,AgCl、CoCl2、NiCl2、MnCl2、MgCl2、SrCl2、TiCl3、VCl3、BiCl3、RuCl3、Me3Al(トリメチルアルミニウム)、(CF3SO3)3La(Laトリフレート)、La及びPrは、Aldrich Chemical Company から入手して使用した。これらの手順によって得られた金属化合物は、一般に、周囲空気中の湿分及び/又は酸素と反応するので、純窒素ガスあるいはアルゴンガスのような不活性な、乾燥雰囲気下で、貯蔵し、また取り扱わなければならない。
【0066】
実施例1:銅(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Cu(iPr−AMD)]2)の合成
メチルリチウムのエーテル溶液(エーテル34mL中1.6モル、0.054モル)を、−30℃下で、100mLの1,3−ジイソプロピルカルボジイミド(6.9g、0.055モル)エーテル溶液に滴下して加えた。この混合物を室温まで暖め、4時間攪拌した。次いで、得られた無色溶液を、50mLの臭化銅(7.8g、0.054モル)溶液に添加した。この反応混合物を、光を排除した下で12時間攪拌した。次いで、減圧下で全ての揮発物を除き、得られた固体をヘキサン(100mL)で抽出した。このヘキサン抽出物をガラスフリット上のセライトパッドを通過させて濾過して、淡黄色の溶液を得た。炉液を濃縮し、それを−30℃に冷却したところ、9.5gの無色の結晶を生成物(83%)として得た。昇華:50ミリトール下で70℃。1H NMR(C66、25℃):1.16(d,12H)、1.65(s,3H)、3.40(m,2H)。C16344Cu2の計算値:C,46.92、H,8.37、N,13.68。実測値:C,46.95、H,8.20、N,13.78。
[Cu(iPr−AMD)]2結晶を、X線結晶学によって構造決定した。図2に示す[Cu(iPr−AMD)]2は、アミジナート配位子がμ,η1:η1様に銅金属原子を橋架けしている固体状態の二量体である。その平均Cu−Nの距離は、1.860(1)Åである。Cu−N−C−N−Cuの5員環の形状は、結晶構造的に中心に対して対称である平面状である。
【0067】
実施例2: コバルトビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Co(iPr−AMD)2])の合成
この化合物を、溶媒としてエーテルとTHFの1:1の混合物を用いたことを除いて、 [Cu(iPr−AMD)]2に関して記載したと同様な方法で得た。−30℃下で、ヘキサン中で再結晶したところ、暗緑色の結晶を生成物(77%)として得た。昇華:50ミリトール下で40℃。融点:72℃。C16344Coの計算値:C,56.29、H,10.04、N,16.41。実測値:C,54.31、H,9.69、N,15.95。
図3に示されるCo(iPr−AMD)2は、歪んだ四面体位置におけるそれぞれのコバルト原子の近傍に配位した2個のアミジナート配位子をもつ単量体である。その平均Co−Nの距離は、2.012(8)Åである。Co−N−C−Nの4員環は、強制鏡面をもつ平面である。
【0068】
実施例3: コバルトビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Co(iBu−AMD)2])の合成
この化合物を、1,3−ジイソプロピルカルボジイミドの代わりに1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いて、実施例2における([Co(iPr−AMD)2])と同様な方法で得た。暗青色の結晶(84%)。昇華:50ミリトール下で45℃。融点:90℃。C20424Coの計算値:C,60.43、H,10.65、N,14.09。実測値:C,58.86、H,10.33、N,14.28。
【0069】
実施例4: ランタントリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([La(iPr−AMD)3])の合成
CoCl2の代わりにLaCl3(THF)2を用いて、[Co(iPr−AMD)2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、灰色がかった白色の固体を、粗原料の固体材料を昇華した生成物として得た。昇華:40ミリトール下で80℃。1H NMR(C66、25℃):1.20(d,36H)、1.67(s,18H)、3.46(m,6H)。C24516Laの計算値:C,51.24、H,9.14、N,14.94。実測値:C,51.23、H,8.22、N,14.57。
【0070】
実施例5: ランタントリス(N,N'−ジイソプロピル−2−t−ブチルアミジナート)([La(iPr−iBuAMD)3]・1/2C612)の合成
LaCl3(THF)2を用いることを除いて、[Co(iPr−AMD)2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、灰色がかった白色固体を、粗原料の固体材料を昇華した生成物として得た。無色の結晶(80%)。昇華:50ミリトール下で120℃。融点:140℃。1H NMR(C66、25℃):1.33(br,21H)、4.26(m,6H)。C33756Laの計算値:C,57.04、H,10.88、N,12.09。実測値:C,58.50、H,10.19、N,11.89。
【0071】
実施例6: 鉄ビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Fe(iPr−AMD)2]2)の合成
FeCl2を用いたことを除いて、[Co(iPr−AMD)2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、黄緑色の固体[Fe(iPr−AMD)2]2を、そのヘキサン抽出から溶媒を蒸発させた生成物として得た。昇華:50ミリトール下で70℃。融点:110℃。
【0072】
実施例7: 鉄ビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Fe(iBu−AMD)2])の合成
1,3−ジイソプロピルカルボジイミドに代えて1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いたことを除いて、[Fe(iPr−AMD)2]2に関して上記したと同様な手順にしたがって、白色の結晶(77%)を得た。昇華:60ミリトール下で55℃。融点:107℃。C20424Feの計算値:C,60.90、H,10.73、N,14.20。実測値:C,59.55、H,10.77、N,13.86。
【0073】
実施例8: ニッケルビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ni(iPr−AMD)2])の合成
NiCl2を用いたことを除いて、[Co(iPr−AMD)2]に関して実施例2に記載したと同様な手順にしたがい、かつ当該反応混合物を一晩還流して、褐色の固体[Ni(iPr−AMD)2]2を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。褐色の結晶(70%)。昇華:70ミリトール下で35℃。融点:55℃。C16344Niの計算値:C,56.34、H,10.05、N,16.42。実測値:C,55.22、H,10.19、N,16.12。
【0074】
実施例9: マンガンビス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Mn(iPr−AMD)2]2)の合成
MnCl2を用いたことを除いて、[Co(iPr−AMD)2]に関して記載したと同様な手順にしたがい、固体[Mn(iPr−AMD)2]2を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。黄緑色の結晶(79%)。昇華:50ミリトール下で65℃。C32688Mn2の計算値:C,56.96、H,10.16、N,16.61。実測値:C,57.33、H,9.58、N,16.19。
【0075】
実施例10: マンガンビス(N,N'−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mn(iBu−AMD)2])の合成
1,3−ジイソプロピルカルボジイミドに代えて1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドを用いたことを除いて、[Mn(iPr−AMD)2]に関して上記したと同様な手順にしたがって、淡黄色の結晶(87%)を得た。昇華:60ミリトール下で55℃。融点:100℃。
【0076】
実施例11: チタントリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ti(iPr−AMD)3])の合成
LaCl3(THF)2の代わりにTiCl3を用いたことを除いて、[La(iPr−AMD)3]に関して上記したと同様な手順にしたがって、[Ti(iPr−AMD)3]を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。褐色の結晶(70%)。昇華:50ミリトール下で70℃。C24516Tiの計算値:C,61.13、H,10.90、N,17.82。実測値:C,60.22、H,10.35、N,17.14。
【0077】
実施例12: バナジウムトリス(N,N'−ジイソプロピルアセトアミジナート)([V(iPr−AMD)3])の合成
TiCl3の代わりにVCl3を用いたことを除いて、[Ti(iPr−AMD)3]に関して上記したと同様な手順にしたがって、[V(iPr−AMD)3]を、そのヘキサン抽出物から溶媒を蒸発させた生成物として得た。赤褐色の粉体(80%)。昇華:45ミリトール下で70℃。
【0078】
実施例13: 銀(N,N'−ジ−イソプロピルアセトアミジナート)([Ag(iPr−AMD)]x(x=2及びx=3)の合成
これら二種の化合物は、[Cu(iPr−AMD)]に関して記載したと同様な方法で同時に調製して、二量体と三量体の1:1の混合物として得た。無色の結晶(90%)。昇華:40ミリトール下で80℃。融点:95℃。1H NMR(C66、25℃):1.10(d,二量体)、1.21(d,三量体)、1.74(s,三量体)、1.76(s,二量体)、3.52(m,二量体及び三量体に係るピークは明瞭に分解されない)。[C8172Ag]xの計算値:C,38.57、H,6.88、N,11.25。実測値:C,38.62、H,6.76、N,11.34。
【0079】
実施例14.銅材料の原子層の析出
図1の装置を用いて、銅材料を析出させた。銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナートの二量体を、蒸気容積125cm3をもつステンレス鋼製の容器11内に置いて、85℃に加熱した。その温度では、約0.15トールの蒸気圧を有する。1.0ミクロモルの投与量の銅先駆物質を、窒素のキャリアガスを用いて10トールまでチェンバーを加圧することによって導入した。水素を、ガスクロマトグラフの試料採取バルブを用いて1.4ミリモルの投与量で導入した。基板130とチェンバー110の加熱壁の面積の合計は、約103cm2となった。よって、銅先駆物質の1回分の投与量は1×10-9モル/cm2で、水素の1回分の投与量は1.4×10-6モル/cm2であった。その「暴露」は、析出領域における先駆物質の蒸気の分圧とこの蒸気が基板表面の所定の位置で接触する時間との積として定義される。当該銅先駆物質に対する基板の暴露は、2.3×104ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は3.4×107ラングミュア/作業周期であった。
【0080】
一枚のシリコン基板130を、希塩酸溶液中に数秒間浸漬してその固有の酸化物を溶解させることによって調製した。次いで、当該基板を、その表面が親水性になるまで(約2分)、空気中で紫外線(例えば、UV水銀灯)を照射した。その後、基板130をチェンバー110内に配置し、225℃の温度まで加熱した。その他の狭い細孔(4.5:1比の長さ対直径)を有するシリコン基板を、同様に処理してチェンバー110内に配置した。ガラス状の炭素基板を、乾燥及びUV洗浄前に、10%のHF(5秒)、脱イオン水(30秒)、及びイソプロパノール(10秒)で洗浄した。シリコン上のガラス及びスパッタされた白金と銅からなる基板を、イソプロパノール(10秒)で洗浄し、乾燥した。
【0081】
キャリアガスを、銅先駆物質と水素との交互の複数回分の投与量の間に、10秒間流した。500回の作業周期が完了した後、析出チェンバー用の加熱器の電源を切った。基板が室温まで冷却した後に、それらを反応器から取り出した。炭素及びシリコン基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、8×1016原子/cm2厚、即ち1.4×10-7モル/cm2厚の新鮮な銅からなる薄膜を有していることが判明した。
【0082】
多数の細孔を有するシリコンウェーハを切り取り、その細孔の断面について走査電子顕微鏡(SEM)観察をした。図4の顕微鏡写真では、銅が約10:1のアスペクト比(長さ対直径の比として定義される)を有する細孔の内面全体を覆っていることが示されている。よって、この銅のALD法は、優れたステップカバレッジを示している。
【0083】
実施例15.表面反応が自己制御的であることの立証
両反応体の複数回分の投与量を2倍にしたことを除いて、実施例14を繰り返した。薄膜の厚さ及びその特性は、実施例14のそれと不変であった。この結果は、その表面反応が自己制御的であることを示している。
【0084】
実際例16.薄膜の厚さは、作業周期の数と共に直線的に変わることの立証
500回の作業周期に代えて1000回の作業周期を用いたことを除いて、実施例14を繰り返した。2倍量の材料が析出した。この結果は、それぞれの自己制御的反応が、再度開始するための他の反応に必要な条件を再生していること、および基板表面での開始反応又は核生長に、実質的な遅れが全くないことを示している。
【0085】
実施例17.銅の原子層の析出に係る温度範囲の立証
基板温度を180℃〜300℃の範囲内で変えたことを除いて、実施例14を繰り返した。作業周期当たりの厚さが図6に示されるように温度と共に変化したことを除いては、同様な結果が得られた。基板温度が180℃以下では、銅の析出は全く観察されなかった。この観察によると、反応チェンバーの壁の温度が180℃以下でかつ先駆物質の露点以上に保持されるならば、当該壁には望ましくない銅の析出物は残留しないことを教示している。
【0086】
実施例18.コバルト金属の原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持されたコバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を300℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、内径20μmを有する溶融シリカ製の毛管と共に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、コバルト先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水素の一回分の投与量は9×10-7モル/cm2であった。コバルト先駆物質に対する基板の暴露は、1×105ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、2×107ラングミュア/作業周期であった。
【0087】
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×1016原子/cm2厚、即ち8×10-8モル/cm2厚の新鮮なコバルト金属からなる薄膜を有していることが判明した。その被覆された溶融シリカの毛管を光学顕微鏡で調べたところ、当該コバルト薄膜が管の細孔中に少なくとも60倍(即ち、アスペクト比>60)まで延びていることが判明した。図5において、1は細孔の開口端部を示し、そして2は細孔中に皮膜がどこまで浸透したかの程度を示している。この結果は、このコバルトALD法によって達成された、優れたステップカバレッジを示している。
【0088】
実施例19.コバルトの原子層析出に係る温度範囲の立証
基板温度を250℃〜350℃の範囲内で変えたことを除いて、実施例18を繰り返した。作業周期当たりの厚さが図7に示されるように温度と共に変化したことを除いては、同様な結果が得られた。基板温度が250℃以下では、コバルトの析出は全く観察されなかった。この観察によると、反応チェンバーの壁の温度が250℃以下でかつ先駆物質の露点以上に保持されるならば、当該壁には望ましくないコバルトの析出物は残留しないことを教示している。
【0089】
実施例20. Co/WN接着剤層/拡散バリア上への付着性銅薄膜の原子層の析出
先に二酸化珪素上に被覆された窒化タングステン(WN)層、WN/SiO2/Si上に、実施例14と実施例18における作業を交互に繰り返した。多層構造Cu/Co/WN/SiO2をもつ平滑な、付着性薄膜が得られた。次いで、この多層構造の表面に接着テープを接着した。当該テープを引き剥がしたときに、接着力の喪失は全く観察されなかった。
【0090】
実施例21. 酸化コバルトの原子層の析出
水素ガスを水蒸気に代えたことを除いて、実施例18を繰り返した。略CoOの組成をもつ酸化コバルトの均一で、平滑な層が析出した。
【0091】
実施例22. 金属ニッケルの原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持されたニッケルビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を280℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、ニッケル先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水素の一回分の投与量は8×10-7モル/cm2であった。ニッケル先駆物質に対する基板の暴露は、3×104ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、7×106ラングミュア/作業周期であった。
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×1016原子/cm2厚、即ち8×10-8モル/cm2厚の新鮮なニッケル金属からなる薄膜を有していることが判明した。
【0092】
実施例23. 金属鉄の原子層の析出
銅先駆物質に代えて75℃に保持された鉄ビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を用い、かつ基板温度を280℃に上げたことを除いて、実施例14を繰り返した。析出チェンバー内に、先に二酸化珪素で次いで窒化タングステンで被覆したシリコン基板を配置した。各回の作業周期では、鉄先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水素の一回分の投与量は4×10-6モル/cm2であった。鉄先駆物質に対する基板の暴露は、8×104ラングミュア/作業周期で、水素に対するそれの暴露は、4×107ラングミュア/作業周期であった。
当該基板をラザフォード後方散乱分光分析法で調べたところ、5×1016原子/cm2厚、即ち8×10-8モル/cm2厚の新鮮な鉄金属からなる薄膜を有していることが判明した。
【0093】
実施例24. 酸化鉄のALD
コバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて85℃に保持された鉄ビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Fe(iBu-AMD)2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、鉄先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10-8モル/cm2であった。鉄先駆物質に対する基板の暴露は、8×104ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、7×105ラングミュア/作業周期であった。略FeOの組成をもつ酸化鉄の均一で、平滑な層が250℃に加熱された基板上に析出した。
【0094】
実施例25. 酸化ランタンのALD
コバルトトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて120℃に保持されたランタントリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([La(iBu-AMD)3])を用いて、実施例21を繰り返した。50回の作業周期のそれぞれでは、ランタン先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10-8モル/cm2であった。ランタン先駆物質に対する基板の暴露は、3×104ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、7×105ラングミュア/作業周期であった。略La23の組成をもち、約5nm厚の酸化ランタンの均一で、平滑な層が300℃に加熱された基板上に析出した。
【0095】
実施例21の手順を50回以上の作業周期で繰り返すと、反応チェンバーの異なる部分での試料を覆う厚さは均一に分布せず、そして作業周期当たりの厚さは、特に真空ポンプの排出口に近い領域では作業周期当たり0.1nmより大きかった。この結果についての我々の解釈によれば、水の投与時に、水蒸気が、より厚い酸化ランタン層の塊中に吸収されるということである。噴射水に続く数秒のパージ時間中に、吸収された水の全部でなく一部が、解放されて窒素ガス中に戻り、チェンバー外に搬出された。しかしながら、更なる水蒸気の解放が、次のランタン先駆物質の投与時に継続した。La23の化学蒸着があると、次いでこの残留水蒸気とランタン先駆物質との反応が起こり、期待以上の成長速度が、特に真空ポンプの排出口に最も近い析出チェンバーの部分に得られる。均一な厚さは、水蒸気のパージ時間を長くすることによって回復することができる。厚さの均一性を回復させるより実際的な解決は、実施例26に記載される。
【0096】
実施例26. 酸化ランタン/酸化アルミニウムのナノラミネートのALD
実施例25を、16回の作業周期の酸化ランタンを析出させるために繰り返した。次いで、当該分野の周知技術にしたがい、トリメチルアルミニウム蒸気と水蒸気の交互の複数回の投与量を用いて、6回の作業周期の酸化アルミニウムをALDによって析出させた。このパターン(16La23+6Al23)の作業周期を5回繰り返した。約10nm厚の均一で、平滑な層が、300℃に加熱された基体上に析出した。当該層は、略LaAlO3の平均組成を有していた。この材料から作られたコンデンサーは、約18の誘電率を有し、1ボルトの印加電圧下で、非常に低い約5×10−8アンペア/cm2の漏れ電流しか生じなかった。
実施例26で達成した厚さの均一性についての我々の解釈によれば、その酸化アルミニウム層が、下方の酸化ランタン層への水の拡散を防止するバリアとして作用しているということである。
【0097】
実施例27. 酸化マンガンのALD
コバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて75℃に保持されたマンガンビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mn(iBu-AMD)2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、マグネシウム先駆物質の一回分の投与量は4×10-9モル/cm2であり、水蒸気の一回分の投与量は8×10-8モル/cm2であった。マンガン先駆物質に対する基板の暴露は、3×104ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、6×105ラングミュア/作業周期であった。略MnOの組成をもつ酸化マンガン(II)の均一で、平滑な層が、約0.1nm/作業周期の析出速度で、250℃に加熱された基板上に析出した。
【0098】
実施例28. 酸化マグネシウムのALD
実施例21で用いたコバルトビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)に代えて、実施例3に記載したそれと同様な手順によって調製された、80℃に保持されたマグネシウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([Mg(iBu-AMD)2])を用いて、実施例21を繰り返した。各回の作業周期では、マグネシウム先駆物質の一回分の投与量は3×10-9モル/cm2であり、水蒸気の一回分の投与量は6×10-8モル/cm2であった。マグネシウム先駆物質に対する基板の暴露は、3×104ラングミュア/作業周期で、水蒸気に対するそれの暴露は、5×105ラングミュア/作業周期であった。略MgOの組成をもつ酸化マグネシウムの均一で、平滑な層が、0.08nm/作業周期の析出速度で、250℃に加熱された基板上に析出した。
【0099】
実施例29. リチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートの合成
1当量の乾燥第二ブチルアミン、1当量の乾燥アセトニトリル及び0.02当量のランタントリフレート、触媒を、還流冷却器付シュレンクフラスコに投入した。反応混合物を3日間還流させながら、乾燥窒素を、還流カラムを通して通気ビンからフラスコ中にゆっくりと通過させた。次いで、過剰の反応体を真空下に取り除き、残留液を蒸留により精製して、第二ブチルアセトアミジンを得た。1H NMR(C66、25℃):δ1.49(m,4H)、δ1.38(s,3H)、δ1.11(d,J=6Hz,6H)、δ0.90(t,J=8Hz,6H)。
【0100】
第二ブチルアセトアミジンのエーテル溶液を、還流カラムとオイル通気ビンをもつ反応フラスコ内で、1g/乾燥エーテル10mLの濃度で調製した。次いで、1当量のメチルリチウムエーテル溶液をゆっくりとこの第二ブチルアセトアミジン溶液に添加して、反応混合物を1時間攪拌した。得られたリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート溶液を、その後、更に精製することなく、他の金属sec−ブチルアセトアミジナート塩の合成に使用した。リチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートの1H NMR(C66、25℃):δ3.16(m,2H)、δ1.71(s,3H)、δ1.68(m,2H)、δ1.52(m,2H)、δ1.19(d,J=6Hz,4H)、δ0.94(m,6H)。
【0101】
実施例30. コバルトビス(N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート)([Co(sec−Bu−AMD)2])の合成
無水塩化コバルト(II)、CoCl2を、乾燥箱内のシュレンクフラスコ中に秤量装填した。実施例29で作製した2当量のリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート溶液を、等容量の乾燥THFと共に添加した。反応混合物を一晩攪拌し、次いで揮発物を室温下、真空中で取り除いた。当該固体を乾燥ヘキサンに溶解し、濾過して、真空中、室温下で濾液からヘキサンを除いたところ、粗収率82%のコバルトビス(N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート)を得た。この液体を蒸留(60ミリトール下で55℃)により精製した。
【0102】
実施例31. 銅(I)N,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナート二量体([Cu(sec−Bu−AMD)]2)の合成
実施例30の手順を、塩化コバルトと実施例29で調製した1当量のリチウムN,N’−ジ−sec−ブチルアセトアミジナートとに代えて、1当量の塩化銅(I)、CuClを用いて実施した。[Cu(sec−Bu−AMD)]2を、実施例30の手順で単離した。昇華:50ミリトール下で55℃。融点:77℃。[Cu(sec−Bu−AMD)]2は、銅のALD用の先駆物質として、それが蒸発に用いられる温度(約100℃)下で液体であり、その結果、固体先駆物質の昇華により得られるよりも一層再生可能な蒸気の送出が得られるという点で利点を有する。
【0103】
実施例32. ビスマストリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)二量体([Bi(iBu−AMD)3]2)の合成
1当量の三塩化ビスマス、BiCl3、及び3当量のリチウムN,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート(1,3−ジ−t−ブチルカルボジイミドとメチルリチウムとの反応によって得られる)を、THF中で一晩還流した。THFを蒸発した後、乾燥ヘキサンで抽出し、濾過して、濾液からヘキサンを抽出し、粗生成物を昇華(80ミリトール下で70℃)によって単離した。融点:95℃。p−キシレン溶液中での凝固点降下法による二量体。
【0104】
実施例33. ストロンチウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)([St(iBu−AMD)2]n)の合成
実施例32で用いたそれと同様な手順にしたがって、ストロンチウムビス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を得た。粗生成物を、昇華(90ミリトール下で130℃)によって生成した。
【0105】
実施例34. 酸化ビスマス、Bi23のALD
実施例25と同様な手順にしたがって、酸化ビスマス、Bi23の薄膜を、85℃でビスマストリス(N,N’−ジ−t−ブチルアセトアミジナート)を含む蒸発源から、200℃の温度下で基板上に析出させた。当該薄膜の厚さは、約0.03nm/作業周期であった。
【0106】
実施例35. ルテニウムトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ru(iPr−AMD)3])の合成
実施例11と同様な手順にしたがって、ルテニウムトリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)([Ru(iPr−AMD)3])を、低収率で得た。
【0107】
比較例1
実施例14を、銅先駆物質のみを用い、かつ水素ガスを用いないで繰り返した。基板表面に析出された薄膜は、全く観察されなかった。
【0108】
比較例2
実施例18を、コバルト先駆物質のみを用い、かつ水素を用いないで繰り返した。基板表面に析出された薄膜は、全く観察されなかった。
【0109】
当業者であれば、単に慣用の実験のみをもってしても、本明細書に特定して記載される発明の特定の実施態様に相当する多くの発明が認められるか、あるいはそれを確認することが可能となろう。かかる発明についても、本発明の技術的範囲に含まれることは言うまでもない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物の蒸気に、次いで、還元性ガス又は蒸気に交互に暴露して、当該基板表面に金属皮膜を形成させることを含んでなる、金属を含む薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記還元性ガスが水素である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物の蒸気に、次いで、窒素含有ガス又は蒸気に交互に暴露して、当該基板表面に金属窒化物皮膜を形成させることを含んでなる、金属窒化物を含む薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記窒素含有ガスがアンモニアである、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
加熱基板を一種以上の揮発性金属アミジナート化合物の蒸気に、次いで、酸素含有ガス又は蒸気に交互に暴露して、当該基板表面に金属酸化物皮膜を形成させることを含んでなる、金属酸化物を含む薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記酸素含有ガスが水蒸気である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記揮発性金属アミジナート化合物がM(I)AMD、M(II)AMD2及びM(III)AMD3からなる群より選ばれる一つの式(式中、Mは、金属であり、AMDは、アミジナート部分である。)、並びにそれらのオリゴマーを有する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記揮発性金属(I)アミジナート化合物が以下の一般式:
【化1】

(式中、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3’のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
によって表される請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記Mが、銅(I)、銀(I)、金(I)及びイリジウム(I)からなる群より選ばれる、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記揮発性金属(II)アミジナート化合物が以下の一般式:
【化2】

(式中、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3’のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
によって表される請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記M’が、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、ルテニウム、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、ユーロピウム、マグネシウム及びカルシウムからなる群より選ばれる、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記揮発性金属(III)アミジナート化合物が以下の一般式:
【化3】

(式中、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3”のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
によって表される請求項1〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記M”が、ランタン、プラセオジム及び他のランタン系列金属、イットリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、ニオビウム、タンタル、クロム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、アルミニウム、ガリウム、インジウム、及びビスマスからなる群より選ばれる、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
以下の二量体に係る一般式:
【化4】

(式中、Mは、銅、銀、金、イリジウム、リチウム及びナトリウムの金属から選ばれ、そして、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3’のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
で表される揮発性金属(I)アミジナートであるか、あるいはそれと同じ単量体ユニットのオリゴマーである物質からなる組成物。
【請求項15】
前記物質が化学名:銅(I)N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナートを有し、そして以下の構造式:
【化5】

で表される、請求項14に記載の物質からなる組成物。
【請求項16】
以下の一般式:
【化6】

(式中、金属Mは、コバルト、鉄、ニッケル、マンガン、ルテニウム、亜鉛、チタン、バナジウム、クロム、ユーロピウム及びカルシウムから選ばれ、そして、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3’のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
で表される揮発性金属(II)ビス(アミジナート)であるか、又はそれのオリゴマーである物質からなる組成物。
【請求項17】
前記物質が化学名:コバルト(II)ビス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を有し、そして以下の構造式:
【化7】

によって表される、請求項16に記載の物質からなる組成物。
【請求項18】
以下の一般式:
【化8】

(式中、金属Mは、ランタン、プラセオジム及び他のランタン系列金属、イットリウム、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、鉄、ルテニウム、コバルト、ロジウム、イリジウム、及びビスマスから選ばれ、そして、Rnは、水素、アルキル基、フルオロアルキル基又は他の非金属原子もしくは基を表し、Rnは、基R1〜基R3”のいずれか一つであって、当該Rnは同じであっても異なってもよい。)
によって表される揮発性金属(III)トリス(アミジナート)である物質からなる組成物。
【請求項19】
前記物質が化学名:ランタン(III)トリス(N,N’−ジイソプロピルアセトアミジナート)を有し、そして以下の構造式:
【化9】

によって表される、請求項18に記載の物質からなる組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図6】
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【図7】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−162804(P2012−162804A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2012−33846(P2012−33846)
【出願日】平成24年2月20日(2012.2.20)
【分割の表示】特願2004−570408(P2004−570408)の分割
【原出願日】平成15年11月14日(2003.11.14)
【出願人】(502072134)プレジデント アンド フェロウズ オブ ハーバード カレッジ (92)
【氏名又は名称原語表記】President and Fellows of Harvard College
【Fターム(参考)】