説明

金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法

【課題】沸点未満での純粋な金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法を提供する。
【解決手段】基本構造が一般式(1):
[Si3−a10(OH)b−・Zc+b/c(1)(式(1)において、Rはマグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、鉛、カドミウムイオンから選らんだ少なくとも1種の金属イオン、Zc+はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価重金属イオン又はアンモニウムイオン、a及びbは、0≦a≦1、0<b≦1の関係を満たす数、cは1又は2である)で表わされる層状珪酸塩の調製に際し、式(1)の化合物を形成するために必要な所定のケイ素、金属イオン(R)、及び水を含む混合液の溶液濃度が10−2M未満10−6M以上であるアルカリ性混合液を反応させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スメクタイトが有する特性を備え、結晶格子内に金属イオンを有する金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法に関するものである。詳しくは、金属イオン含有混合液の希薄な濃度制御、pH制御および沸点以下での省エネルギー・エコロジカル工程による不純物を含まない金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スメクタイトは、マグネシウム八面体層もしくはアルミニウム八面体層を2層のケイ素四面体層が挟んだ三層構造を有する層状珪酸塩であり、陽イオン交換能、さらには金属多核水酸化イオンや各種有機物を層間にインターカレートする機能を有する。
【0003】
天然には、八面体層に三価のアルミニウムを含む2−八面体型スメクタイトであるモンモリロナイト、バイデライトおよび八面体層に二価のマグネシウムを含む3−八面体型スメクタイトであるサポナイト、ヘクトライト、スティーブンサイトなどが知られている。3−八面体型スメクタイトの八面体層中のマグネシウムイオンは、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウムなどの金属イオンで置換される
【0004】
現在工業的利用の対象となる天然物は、モンモリロナイトを含有するベントナイトである。商品化されているモンモリロナイト製品は、このベントナイトより抽出されている。1−2%程度の希薄ベントナイト分散水溶液より抽出して製造するため、乾燥などに大量のエネルギーを必要とし、精製コストをかなり要し、極めて高価格で市販されている。さらに天然物であるがために、その化学組成、構造、欠陥、不純物などの材料特性が変動する傾向があり、その制御が不可能に近く高機能性素材としての応用が困難である。この欠点を補うために、スメクタイト類似構造を有する合成膨潤性珪酸塩の製造方法が提供されている。
【0005】
例えば、ヘクトライト型スメクタイトに類似した構造を有し、その八面体層に位置するマグネシウムイオンの全てあるいは一部がマンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、鉛、カドミウムなどの2価金属イオンで置換された合成膨潤性珪酸塩の製造方法が開示されている(特許文献1−4)。第1工程として、ケイ素と2価金属イオンおよび必要によりマグネシウムを含有する均質複合沈殿物を調整し、第2にこの均質複合沈殿物に水、リチウムおよび交換性陽イオン成分を添加して出発原料スラリーとし、第3にこのスラリーを沸点以上好ましくは150℃〜350℃の水熱条件で反応させることにより合成膨潤性珪酸塩を生成させ、第4にこの水熱反応物を乾燥後粉砕することにより得る。
【0006】
また硝酸コバルト、コロイダルシリカおよび水酸化ナトリウムを含有する均質複合沈殿物を250℃の水熱条件で反応させることによる合成膨潤性珪酸塩の製造方法が開示されている(非特許文献1)。
【0007】
一方、メタ珪酸ナトリウム溶液、金属塩水溶液(マグネシウム、鉄など)の均質酸性溶液を沸点以下で反応させることによる合成膨潤性珪酸塩の製造方法が開示されている(非特許文献2)
【0008】
しかしながら、上記いずれの報告も、高濃度スラリーを反応させるために、もしくは酸性水溶液条件で反応させるために、非晶質シリカなどの不純物の共存が避けられない。さらに高濃度スラリーを反応させる場合には、沸点以上150℃〜350℃の水熱条件で反応させているため、製造に際して高エネルギーを必要とする。
【0009】
サステナブル社会、省エネルギー社会の創製に際して、機能性工業材料としての有用な用途を考えた場合、沸点未満での効率よく製造する方法とともに純粋な、不純物を含有しない製造法の開発が望まれる。
【特許文献1】特許第1348692号
【特許文献2】特許第1458272号
【特許文献3】特許第1841413号
【特許文献4】特許第1917866号
【非特許文献1】L. A. Bruce, J. V. Sanders and T. W. Turney, Clays and Clay Minerals, vol. 34, No. 1, 25−36, 1986
【非特許文献2】J. T. Kloprogge, S. Komarneni and J. E. Amonette, Clays and Clay Minerals, No. 5, 529−554, 1999.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、困難とされていた沸点未満での純粋な金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、かかる課題について鋭意研究を重ねた結果、目的とする層状珪酸塩を形成するために必要な所定の金属イオン含有混合液の濃度制御およびpH制御を行うことにより、沸点以下での反応温度条件という省エネルギー条件での純粋な金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法を見出し、この知見に基づいて本発明をなすにいたった。
【0012】
即ち、本発明は、基本構造が一般式(1):
[Si3−a10(OH)b−・Zc+b/c(1)(式(1)において、Rはマグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、鉛、カドミウムイオンから選らんだ少なくとも1種の金属イオン、Zc+はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価重金属イオン又はアンモニウムイオン、a及びbは、0≦a≦1、0<b≦1の関係を満たす数、cは1又は2である)で表わされる金属イオン含有層状珪酸塩の新規な製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明に従えば、純粋な金属イオン含有合成層状珪酸塩は、式(1)の層状珪酸塩を形成するために必要な所定の金属イオン(R)及び水を含む混合液の溶液濃度を10−2M未満10−6M以上に調整し、そのpH条件を金属イオンが水酸基を配位した状態(R−OH)にあるpH条件(pH =10〜12)にアルカリ水溶液を用いて調整した後に、その混合液を100℃未満で反応させることにより、製造することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の製造方法による金属イオン含有合成層状珪酸塩は、基本構造が一般式
[Si3−a10(OH)b−・Zc+b/c(1)
で表されるものである。
【0015】
前記式(1)において、Rは、金属イオンであり、例えばマグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、鉛、カドミウムイオンなどが挙げられる。これらの金属イオンは、それぞれにおいて、1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよい。また、Zc+は陽イオンで、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価重金属イオン又はアンモニウムイオンである。ここで、アルカリ金属イオンとしては、例えばナトリウムイオン、カリウムイオン、リチウムイオンなどが、アルカリ土類金属イオンとしては、例えばカルシウムイオン、バリウムイオン、マグネシウムイオン、ストロンチウムイオンなどが、二価の重金属イオンとしては、例えばニッケルイオン、コバルトイオン、銅イオン、鉄イオン、亜鉛イオン、マンガンイオン、鉛イオン、カドミウムイオンなどが挙げられる。このZc+で示される陽イオンは1種含まれていてもよいし、2種以上含まれていてもよいが、アルカリ金属イオンが好ましく、特にナトリウムイオンが好適である。
【0016】
さらに、式(1)において、a及びbは、0≦a≦1、0<b≦1の関係を満たす数であり、cは陽イオン(Zイオン)の価数で1又は2である。
【0017】
本発明の製造方法では、まず式(1)の層状珪酸塩を形成するために必要な所定のケイ素、金属イオン及び水を含む混合液を調整する。その溶液濃度は、10−2M未満10−6M以上に調整することが好ましい。更に好ましくは3x10−3M以下10−4M以上の範囲である。10−2Mを越える濃度では、不純物が共存する。一方10−6M未満の濃度では金属イオン含有合成層状珪酸塩の回収が不可能である。この混合液の調製方法としては、例えば(1)ケイ酸ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と金属塩を含有する酸性水溶液とを混合する方法、(2)ケイ酸と金属塩を含有する酸性水溶液混合する方法、(3)コロイド状シリカ又はケイ酸そして金属塩からなる酸性水溶液を混合する方法、(4)ケイ素など金属アルコキシド、金属塩を含有する酸性水溶液混合する方法、(5)金属マグネシウムを酸で溶解した酸性水溶液に金属塩を混合する方法などを好ましく用いることができる。
【0018】
次いで、前記混合液のpH条件を含有される金属イオンが水酸基を配位した状態(R−OH)にあるpH条件にアルカリ水溶液を用いて調整する。このpH条件は含有される金属イオンに依存し、pH =10〜12の間の値に調整する。アルカリ水溶液としては、例えば例えば水酸化ナトリウム水溶液、水酸化カリウム水溶液、アンモニア水などを用いることができる。pH10未満では非晶質シリカなどの不純物が共存することとなり、pH12を超えると層状珪酸塩が溶解し回収が不可能となる。
【0019】
次いで、前記混合液をテフロン容器などに仕込み、100℃未満の温度において反応を行う。反応時間は2分以上、好ましくは3時間以上行えばよい。
【0020】
反応終了後、生成物を容器より回収する。この回収処理については特に制限はなく、(1)遠心分離法、(2)デカンテーション(自然沈降)法、(3)凍結乾燥法、(4)噴霧乾燥法などを用いればよい。
【0021】
このようにして、本発明の金属イオン含有合成層状珪酸塩が得られるが、このものは例えばX線回折、走査型電子顕微鏡、透過型電子顕微鏡、示差熱分析、赤外線吸収スペクトル、化学分析、陽イオン交換容量、分散水溶液の粘性特性、細孔特性などによって評価することができる。
【0022】
次に、本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【実施例1】
【0023】
ケイ酸ナトリウム(和光純薬:メタ珪酸ナトリウム)0.1953gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、ケイ酸ナトリウム溶液をつくる。別に塩化マグネシウム六水和物(和光純薬:98%+)0.2426gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、塩化マグネシウム溶液をつくる。このケイ酸ナトリウム溶液500mlと塩化マグネシウム溶液500mlを混合した。その溶液濃度は、2.8x10−3Mである。この混合溶液を攪拌しながら、1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを12に調整した。この均質溶液を40℃で3時間反応を行った。反応後遠心分離法(15000回転で30分間の処理)にて反応物を回収した。
【0024】
反応物を蒸留水とともにガラス基板上に塗布し、乾燥させた定方位試料のX線回折像では、11Åにブロードな底面反射ピークが観察された。X線回折像には、スメクタイト以外の反射ピークは観測されなかった。このガラス基板上試料をエチレングリコールが下層に入った密閉容器中に入れ、60℃、1日間のエチレングリコール蒸気にさらす処理(エチレングリコール処理)を行った。処理後の試料の底面反射ピークが、15Åに変化した。この変化は、反応物が一般のスメクタイトの特性である有機物インターカレート能を有することを示している(図1)。
【0025】
さらに、反応物の透過型電子顕微鏡像は、一般のスメクタイトの特徴であるナノシートの形態を示している(図2)。
【実施例2】
【0026】
ケイ酸ナトリウム(和光純薬:メタ珪酸ナトリウム)0.0976gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、ケイ酸ナトリウム溶液をつくる。別に塩化亜鉛(関東化学:97%+)0.0818gを蒸留水1000mlに攪拌しながら溶解させ、塩化亜鉛溶液をつくる。このケイ酸ナトリウム溶液500mlと塩化亜鉛溶液500mlを混合した。その溶液濃度は、1.4x10−3Mである。この混合溶液を攪拌しながら、1規定水酸化ナトリウム水溶液を滴下し、pHを10に調整した。この均質溶液を60℃で24時間反応を行った。反応後遠心分離法(15000回転で30分間の処理)にて反応物を回収した。
【0027】
反応物の定方位試料のX線回折像では、14Åにブロードな底面反射ピークが観察された。エチレングリコール処理後の試料の底面反射ピークが、18.5Åに変化した(図3)。X線回折像には、スメクタイト以外の反射ピークは観測されなかった。
【0028】
さらに、反応物の走査型電子顕微鏡像は、ナノメートルサイズの擬六角形のスメクタイト様化合物の集合体である球状の形態を示す。特徴であるナノシート(長さ20nm程度)の形態を示している。また反応物の透過型電子顕微鏡像は、一般のスメクタイトの特徴であるナノシートの形態を示し、その制限視野電子線回折像は、反応物がスメクタイト様結晶質であることを示している(図4)。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の金属イオン含有合成層状珪酸塩は、そのインターカレートする機能から、水溶性塗料、化粧品、セラミックス原料、吸着剤、分離剤、鮮度保持剤、脱臭剤、断熱材、除放剤などとしても利用することができる。また、層状構造を有することから、平板状であるため、高分子材料の充てん剤、複合材などにも用いることができる。さらに、その化学組成より、殺菌、抗菌、抗かび、防虫、消毒などの目的でフィルター、吸着材にも用いることができ、また、触媒、触媒担体としても有用である。さらに、紫外線や可視光線のカット剤、吸収剤としても利用できる。さらに、焼成することによって、セラミックスとして用いることもでき、センサー、電磁遮蔽材、放射線遮蔽材、磁性材料、半導体などとしても有用である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施例1で得られた試料のX線回折パターンを示す図面代用写真である。
【図2】実施例1で得られた試料の透過型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。
【図3】実施例2で得られた試料のX線回折パターンを示す図面代用写真である。
【図4】実施例2で得られた試料の走査型電子顕微鏡像及び透過型電子顕微鏡像を示す図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基本構造が一般式(1):
[Si3−a10(OH)b−・Zc+b/c(1)(式(1)において、Rはマグネシウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、鉛、カドミウムイオンから選らんだ少なくとも1種の金属イオン、Zc+はアルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、二価重金属イオン又はアンモニウムイオン、a及びbは、0≦a≦1、0<b≦1の関係を満たす数、cは1又は2である)で表わされる層状珪酸塩の調製に際し、式(1)の化合物を形成するために必要な所定のケイ素、金属イオン(R)、及び水を含む混合液の溶液濃度が10−2M未満10−6M以上であり、式(1)の化合物を形成するために必要な所定の金属イオンが水酸基を配位した状態(R−OH)にあるアルカリ性pH条件(pH =10〜12)でのアルカリ性混合液を反応させることを特徴とする金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法。
【請求項2】
一般式(1)の層状珪酸塩を形成するために必要な所定のケイ素、金属イオン、水及び陽イオンを含む混合液の処理温度が100℃未満の請求項1記載の金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法。
【請求項3】
一般式(1)の層状珪酸塩を形成するために必要な所定のケイ酸と金属塩を含有する酸性水溶液とアルカリ水溶液とを混合して混合液を調製する請求項1および2記載の金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法
【請求項4】
一般式(1)の層状珪酸塩を形成するために必要な所定のケイ酸ナトリウムを含有するアルカリ水溶液と金属塩を含有する酸性水溶液とを混合して混合液を調製する請求項1および2記載の金属イオン含有合成層状珪酸塩の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−87971(P2008−87971A)
【公開日】平成20年4月17日(2008.4.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−261776(P2006−261776)
【出願日】平成18年9月27日(2006.9.27)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.テフロン
【出願人】(301023238)独立行政法人物質・材料研究機構 (1,333)
【Fターム(参考)】