説明

金属イオン担持無機粒子粉末

【課題】 ガス吸着材、反応触媒、防錆材等として有用な金属イオンを坦持した粉末であり、活性炭のように黒色に限定されず、また水洗等により容易に活性成分である金属イオンが消失しない機能性材料を得る。
【解決手段】 スルホン酸基等の陽イオン交換基を有する架橋重合体(例えば、架橋ポリスチレンスルホン酸)で被覆されており、かつ陽イオン交換基における対イオンを多価金属イオンとした無機粒子からなる粉末。金属イオンは陽イオン交換基における対イオンとして固定されており、かつ架橋重合体でもあるため、多価金属イオンや重合体自体が水洗等によって粒子から失われる可能性がほとんど無い。陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子を、多価金属イオンを含有する溶液と接触させ、必要に応じて過剰の多価金属イオン等を水洗除去後、乾燥させることにより容易に製造できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス吸着材、充填材、防錆材、合成反応の触媒等として有用な、多価金属イオンを坦持した無機粒子の粉末に関する。
【背景技術】
【0002】
シリカ等の無機酸化物粒子は、機械的強度に優れ、また化学的な安定性が高く、さらには安価に種々の形状や比表面積、細孔をもつものが容易に入手可能な点で、ガス吸着材、各種ゴム等の充填材等の様々な用途に用いられている。
【0003】
従来、ガス吸着材料としては、安価であること、比表面積が大きいことなどから木炭、活性炭等の炭素系材料、および鉱物系の材料が用いられてきた。炭素系材料を用いる場合、その吸着効果を高める目的で母材にアミン類や無機塩類を担持または付着させたものが用いられている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、無機酸化物粒子を使用する場合には、一般的には、ガス種やその目的に応じ、無機酸化物シリカ系粒子の表面を様々な物質で被覆し、吸着機能を付与したりといった表面改質なども行われている。表面改質された無機酸化物粒子の代表的なものとしては、シランカップリング処理された粒子がある。該シランカップリング剤としては、アルキル基、メルカプト基、アミノ基、第4級アンモニウム基、スルホン酸基、エポキシ基、メタアクリルオキシ基、ビニル基等の種々の官能基を持つものが提案されており(例えば、特許文献2、3参照)、ガス吸着を目的とした用途においても多くのものが既に実用化されている。
【0005】
他方、シランカップリング剤等のカップリング剤以外の処理により粒子に官能基を導入したものとして、無機酸化物粒子をビニル系の重合体で被覆して、機能性を付与させたものも種々提案されている。
【0006】
例えば、ビニル系の重合性単量体を吸着させて粒子を被覆した後に、該単量体を重合させたものとして、コロイダルシリカ粒子を溶剤に分散させ、アクリル酸等のカルボン酸系のビニル系単量体で被覆、重合させ、さらにその上からメチルメタクリレート、スチレン等のビニル系単量体でさらに被覆、重合させた中空粒子が提案されている(例えば、特許文献4参照)。また、溶液中に、マレイン酸等の不飽和カルボン酸と、該不飽和カルボン酸と共重合可能なポリビニル化合物(ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジビニルベンゼン等)とシリカ粒子を加えて懸濁液を調整、濃縮、乾燥してシリカ表面に不飽和カルボン酸及びポリビニル化合物からなる皮膜を形成させ、さらに加熱により重合させて架橋型のイオン交換組成物を形成させたもの(例えば、特許文献5参照)、シリカ系粒子をビニル系のシランカップリング剤で処理し、ついで、これを極性溶剤中に分散させ、これに単官能ビニル系単量体を加え、これを重合させて非架橋型のビニル系重合体で被覆された粒子(例えば、特許文献6参照)等が提案されている。
【0007】
【特許文献1】特開2000−217897号公報
【特許文献2】特開平6−199621号公報
【特許文献3】特開平9−48610号公報
【特許文献4】特開平3−281577号公報
【特許文献5】特開平5−96184号公報
【特許文献6】特開平10−226512号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
吸着材料として活性炭を使用する場合、活性炭自体が黒色であるため、これを利用する用途が限定されるという問題があった。さらに、活性炭に無機塩などを添着させたものは、多湿条件下において用いた場合、吸着成分である塩やアミン類が溶出してしまうことによって、吸着性能が低下するといった問題があった。
【0009】
また、シランカップリング剤により表面の改質を行った無機粒子においては、シランカップリング剤が有するSi−X(Xはハロゲン原子、アルコキシ基等)が加水分解して生じるSi−OHが、無機酸化物粒子の表面に存在するM−OH基(Mは無機酸化物粒子を構成する金属元素)と反応することにより該粒子上に結合させる製法であるため、シランカップリング剤の処理量が、被処理粒子の表面積及びM−OH基の量に大きく依存し、官能基量がさほど多くないという問題があった。また、シランカップリング剤は無機酸化物粒子表面のM−OH基と完全に反応するわけではないため、過酷な条件下では加水分解等を起こしてしまい、その性能が低下する場合がある。
【0010】
従って、ガス吸着能に優れ、かつ活性炭のように色調が限定されず、また、種々の条件下で使用しても性能が低下することが少ないガス吸着材として使用可能な材料の提供が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者等は上記課題を解決すべく鋭意検討を進めた。そして、シリカ等の無機酸化物は、化学的に安定で、また通常、着色もなく、さらには、粒径や粒度分布の異なるものが容易かつ安価に入手可能な点に着目し、このような無機酸化物を用いる手法につき種々検討を行い、その結果、本発明を完成した。
【0012】
即ち本発明は、陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆されており、かつ該陽イオン交換基における対イオンの少なくとも一部は、多価金属陽イオンであることを特徴とする、金属イオン担持無機粒子粉末である。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属イオン担持無機粒子粉末は、金属イオンを担持させる官能基を有する被覆層が架橋重合体で形成されているため高湿度や溶液中で陽イオン交換基が脱離することがない。また、シランカップリング剤により直接官能基を導入したものよりも遥かに高濃度で官能基を有する粒子であり、種々の多価金属イオンを担持させたものとすることができる。そして無機粒子が核となっているため、化学的安定性、機械的強度などにも優れたものとなる。従って、本発明の金属イオン担持無機粒子粉末は、種々の条件下での安定性に優れ、ガス吸着能の高いガス吸着剤として好適に使用で切る。さらには、坦持する多価金属イオンに応じて、合成反応の触媒担体や防錆剤としても好適に使用することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末は、核となる無機粒子(以下、核粒子とも呼ぶ)が、陽イオン交換基を有する架橋重合体により被覆されており、かつ、該架橋重合体の有する陽イオン交換基における対イオンの少なくとも一部は、多価金属陽イオンである。
【0015】
上記核粒子は、無機粒子であれば特に限定されるものではなく、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末の用途等に応じて適宜選択すればよい。粒子径、比表面積、細孔容積、形状等の異なる種々のものが容易に入手可能であり、また化学的安定性にも優れる点で、ケイ素、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、スズ、鉛、鉄、亜鉛等の金属又は半金属の単独酸化物、もしくは複合酸化物が好ましい。また、複合酸化物としては、さらにナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム等のアルカリ金属やアルカリ土類金属を含むものも好適である。これらのなかでも特に、化学的安定性に優れ、また容易に種々の性状のものが入手できる点で、ケイ素の単独酸化物、又はケイ素を構成元素として含む複合酸化物(以下、ケイ素系酸化物)が好ましい。
【0016】
ケイ素系酸化物をより具体的に例示すると、石英、沈降シリカ、ヒュームドシリカ、ゾルゲルシリカ等のシリカ類;シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア、シリカ−バリウムオキサイド、シリカ−アルミナ、シリカ−カルシア、シリカ−ストロンチウムオキサイド、シリカ−マグネシア、シリカ−チタニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−チタニア−カリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−ナトリウムオキサイド、シリカ−ジルコニア−カリウムオキサイド、シリカ−アルミナ−ナトリウムオキサイド、またはシリカ−アルミナ−カリウムオキサイド等の複合酸化物類;ケイ酸カルシウム、タルク、ゼオライト、モンモリロナイト等のケイ酸塩類が挙げられる。
【0017】
陽イオン交換基を有する架橋重合体も特に限定されることはなく、一般に陽イオン交換樹脂として知られる、陽イオン交換基及び母体樹脂からなる公知の架橋重合体でよい。架橋重合体とすることにより、溶剤等に対する溶解性がなくなり、高湿度環境や湿潤条件下での安定性、耐久性に優れたものとなる。また該重合体が陽イオン交換基を有するものであることにより、多価金属イオンが保持されやすくなり、また水洗等により簡単に脱離してしまうことも少なくなる。なお本発明においては、酸型(プロトン型)の状態のみならず、金属イオン等のプロトン以外の陽イオンにより置換されている状態(塩)のものも陽イオン交換基と呼ぶ。また、特に断らない限り、酸の状態であっても塩の状態であっても単に「・・・酸基」と称す(例えば、スルホン酸基と称する場合には、酸型のスルホン酸基と塩型のスルホン酸基の双方を示す)。
【0018】
陽イオン交換基を具体的に例示すると、スルホン酸基、カルボン酸基、ホスホン酸基、リン酸基、フェノール性水酸基、チオール基、パーフルオロ3級アルコール性水酸基、ヒ酸基、セレン酸基等が挙げられる。これらの中でも、化学的安定性に優れ、多価金属イオンを対イオンとしたものの製造が容易であるのみならず、該陽イオン交換基を有する架橋重合体自体の製造も容易である点で、スルホン酸基、カルボン酸基が好ましく、特にスルホン酸基が好ましい。また必要に応じて、異なる複数種の陽イオン交換基を有していてもよい。
【0019】
上記陽イオン交換基が結合している重合体の骨格部分(母体樹脂)としては、架橋型であり、かつ陽イオン交換基が結合可能な構造のものであれば特に制限されない。但し、本発明における該架橋重合体の架橋とは、共有結合性の架橋を示し、イオン架橋は含まない。
【0020】
母体樹脂としては、ポリスチレン系、(メタ)アクリル系、エポキシ系、ポリエステル系、ポリアミド系、ポリイミド系、ポリウレタン系、ポリスルホン系、ポリエーテル系、ポリエーテルスルホン系等の公知の如何なる架橋樹脂でもよい。これらのなかでも、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末の製造が容易な点で、ポリスチレン系、(メタ)アクリル系であることが好ましく、特に耐加水分解性などの化学的安定性等にも優れる点でポリスチレン系の架橋樹脂であることが好ましい。
【0021】
上記陽イオン交換基を有する架橋重合体は、前記核粒子を被覆しているが、本発明においてこの被覆とは、架橋重合体が核粒子の最表面を覆った状態だけでなく、核粒子が細孔を有している場合には、該細孔の壁面を覆った状態や、あるいは該細孔を埋めるように存在している状態、あるいはそれらが組み合わさった状態も含む。
【0022】
本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末が坦持している多価金属イオンは、2価以上の価数の金属イオンであれば特に限定されるものではない。このような多価金属イオンを例示すると、Mg、Ca、Sr、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Mo、W等が挙げられる。なお、上記金属のうち異なる価数を取りうるものについては、坦持させた状態で2価以上であればよく、特定の価数に限定されるものではない。また、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末は、元素種や価数の異なる2種以上の金属イオンを坦持していてもよい。
【0023】
本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末を構成する金属イオン坦持無機粒子においては、上記多価金属イオンは、前記陽イオン交換基における対イオンとして存在する。即ち、前記陽イオン交換基の少なくとも一部は、多価金属イオンの塩(あるいはコンプレックス)の状態で存在することになる。スルホン酸基、カルボン酸基等の陽イオン交換基は1価であるため、これらが多価金属イオンと塩を形成すると、通常、該多価金属イオンの1つと、その価数に応じた数の陽イオン交換基の残基(R−SO、R−COなど。Rは母体樹脂)が1組の塩の形成に関与することになるが、多価金属イオンの一部は半塩の状態で存在していてもよい。例えば、陽イオン交換基がスルホン酸基であり、多価金属イオンの価数が2価である場合、R−SO−M−OSO−R(Mは金属原子を示す)の状態となるが、一部は、−SO−M−L(Lは配位子)の状態で存在する場合もある。また逆に、陽イオン交換基のすべてが多価金属イオンと塩を形成した状態で存在している必要はなく、一部が酸型の状態や、アルカリ金属イオンやアンモニウムイオン等の1価のイオンとの塩の状態で存在していてもよい。
【0024】
本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末における多価金属イオンの坦持量は特に限定されるものではなく、使用目的に応じて適宜選択すればよい。通常、坦持量が多いほど、各種用途において必要とされる効果を得られやすいが、一方で、ある程度以上は、坦持させて得られる効果に対して、高コストになりすぎたり、坦持させるための工程が煩雑になったりする。例えば、ガス吸着材や防錆材用途に用いる場合には、0.01〜2mmol/gであることが好ましく、0.05〜1.5mmol/gであることが特に好ましい。
【0025】
前記のように本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末においては、上記多価金属イオンは、前記陽イオン交換基における対イオンとして存在する。従って、対イオンとして坦持されている該多価金属イオンは、金属イオン坦持無機粒子粉末における陽イオン交換容量が大きなほど、多量に坦持できるが、極端にイオン交換容量の大きなものは製造が困難であり、また、用途によっては、多価金属イオンとの対イオン形成に関与しない陽イオン交換基が悪影響を及ぼす場合もある。本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末における陽イオン交換容量(=陽イオン交換基の数)は、0.005〜4mmol/g(乾燥粉末の重量。以下同じ)が好ましく、0.1〜3mmol/gがより好ましい。なお、後述するような製造方法で、本発明の陽イオン交換基を有する架橋重合体を製造した場合、一般的には、陽イオン交換容量がXmmmol/gの無機粒子粉末が、N価の多価金属イオンを坦持する量は、X/Nの1.2〜0.3倍程度(mmol/g)となる。
【0026】
本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末を構成する金属イオン坦持無機粒子の粒径や粒度分布、形状等は特に限定されるものではなく、用途等に応じて適宜選択すればよい。これら粒径や粒度分布、形状等は、後述するような製造方法により、核粒子の選択や、被覆に用いる重合性単量体の量などで制御できる。
【0027】
平均粒径が小さく、比表面積が大きいほど周囲との接触面積が大きくなり、各種用途に使用した場合の効果に優れ、かつ樹脂等に練り込む際の分散性や塗膜性に優れる点で、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末の平均一次粒子径は、0.005〜300μmであることが好ましく、0.005〜100μmであることがより好ましく、0.005〜10μmであることが特に好適である。
【0028】
形状も特に制限されず球状、板状、層状、ウィスカー状あるいは不定形等、どのような形状でもよい。
【0029】
また、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末における無機粒子は、核粒子を架橋重合体が被覆したものであり、その両者の割合は特に制限されるものではない。通常、架橋重合体の割合が多いほど、陽イオン交換基も多量に有すことができ、よって、多価金属イオンの坦持量も多くなるが、あまりにその割合が多いと、その製造のために粉砕等の工程が必要となる場合が多いため、架橋重合体被覆層の平均厚さが、核粒子の直径の1/10以下、且つ1000nm以下であることが好ましい。
【0030】
上記本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末の製造方法は特に限定されるものではないが、好適には、陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子を、多価金属イオンを含有する溶液で処理して、イオン交換させ、ついで乾燥させればよい。この方法によれば、処理に用いる多価金属イオン溶液として様々な金属イオンのものを選択でき、よって任意の多価金属イオンを坦持させた粉末が極めて容易に製造できる。
【0031】
また、陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子の製造方法も特に限定されるものではないが、好適には、無機粒子の粉体を攪拌下に重合性単量体と接触させて、該粒子に該重合性単量体を吸着させ、ついで吸着した重合性単量体を重合させ、さらに必要に応じて陽イオン交換基を導入することにより製造できる(なお、この方法は、本発明者等が既に、特願2004−131887号として出願している)。この方法では、核粒子を重合性単量体と接触させるに際して粉末の状態で行うため、溶剤に分散させるなどして、懸濁液やペーストのような非粉体状態で行う場合に生じやすい、被覆層の厚さや化学的組成の制御が困難となったり、目的とする重合体被覆層が得られない場合があるなどの問題が生じ難い。以下、これら方法についてより具体的に述べる。
【0032】
まず、陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子(粉末)の製造方法について述べる。該方法では、核となる粒子が架橋重合体によって被覆された構造の粒子からなる粉体が製造される。当該核となる粒子が、前記本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末における核粒子になる。従って、最終的に得られる金属イオン坦持無機粒子粉末の粒径や粒度分布、形状等が、この核粒子として如何なる粒子(の粉末)を用いるかにより大きく依存するのは前述した通りである。
【0033】
この方法では、核粒子に対して、重合により架橋型の重合体を生じる重合性単量体を接触させて吸着させる。核粒子を溶剤中に分散させないため、用いる重合性単量体が溶剤に溶解したままで、ほとんど吸着しないという現象は生じ難いが、重合性単量体を効率良く吸着させるためには、重合性単量体の物性に応じて核粒子の表面を改質した方が好ましい場合がある。
【0034】
具体的には、吸着させようとする重合性単量体(混合物である場合には、主成分である重合性単量体)がカルボキシル基、ホスホン酸基、リン酸基、スルホン酸基等の陽イオン交換基を有し、これにより水に対する溶解度が5質量%以上である化合物の場合には、一般に、核粒子として水/n−ヘキサン分散性向が水側にある粒子を用いることが好ましい。特にスルホン酸基を有し、水に対する溶解度が5質量%以上かつn−ヘキサンに対する溶解度が5質量%以下の化合物である場合には、水/n−ヘキサン分散性向が水側にある粒子を用いることが、均一な重合体層を有する被覆粒子を得るために重要である。
【0035】
一方、陽イオン交換基を有していないか、或いは有していても疎水性基の影響が大きいなどの理由により、水に対する溶解度が5質量%未満の重合性単量体を吸着させようとする場合には、水/n−ヘキサン分散性向がヘキサン側にある粒子を用いることが好ましい。特にスチレン等の、水に対する溶解度が1質量%未満の重合性単量体を吸着させようとする場合には、水/n−ヘキサン分散性向がヘキサン側にあるのみならず、修飾疎水化度が40質量%以上(特に50〜90質量%)の粒子を核粒子とすることが好ましい。
【0036】
なお上記水/n−ヘキサン分散性向は、ガラス製試験管等に水及びn−ヘキサンをほぼ等量入れ、そこへ少量の粒子粉体を加えてよく振とうして、粒子が水側とヘキサン側のどちらに分配しているかで判断できる。また、修飾疎水化度は、水−メタノールの比を変えた溶液に対する粒子粉体の浮遊割合を測定する方法によって求められる浮遊量が50%となるメタノール濃度である。
【0037】
一般に、なんら表面処理等を行っていない無機酸化物粒子等の無機粒子は、水/n−ヘキサン分散性向が水側にある。このような無機粒子の分散性向をn−ヘキサン側にする方法は特に制限されず、公知の表面処理方法を採用すればよい。具体的には、シランカップリング剤、チタネート系カップリング剤、シリコーンオイル、環状シロキサン、ヘキサアルキルジシラザン等により処理する方法が挙げられる。これらのなかでも、粒子の表面のシラノール基等の反応性基の量が少ない場合でも均一に処理され、また反応端が1〜2つしかないため、処理剤自体がゲル化して微小な粒子が混ざったり、該ゲル化によって生じる凝集塊が無機粒子表面に付着して不均一な表面となることもなく、さらに、反応性に富むため、効率よく処理された粒子となり、固定化されていない表面処理剤が溶出してくることなども少ない点で、環状シロキサン又はヘキサアルキルジシラザンにより処理することが好ましい。さらに、環状シロキサン又はヘキサアルキルジシラザンにより処理された粒子である場合には、シランカップリング剤のみで処理された粒子の場合よりも、本発明の製造方法で得られる被覆粒子の耐酸、耐アルカリ性に優れる傾向がある。
【0038】
環状シロキサンのなかでも、ひずみが大きく開裂しやすいために、表面が均一に被覆された無機粒子を入手することが容易な点で、下記一般式
【0039】
【化1】

【0040】
(式中Rは炭素数1〜18の一価の炭化水素基、水素原子もしくは水酸基のいずれかであり、Meはメチル基であり、nは3から6の整数である)
で示される環状シロキサンで処理することが好ましい。
【0041】
上記式において、Rは炭素数1〜18の炭化水素基である。当該炭化水素基は炭素数が1〜18であれば特に限定されず、公知の如何なる基でもよい。当該炭化水素基を具体的に例示すると、メチル基、エチル基、プロピル基、ヘキシル基、オクタデシル基等の炭素数1〜18の直鎖又は分枝状アルキル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数4〜6の環状アルキル基;ビニル基、アリル基、イソプロペニル基、オクタデシニル基等の炭素数2〜18のアルケニル基;フェニル基、ナフチル基、トリル基、スチリル基、キシリル基、メシチル基等の炭素数6〜18の置換又は非置換のアリール基;ベンジル基、フェネチル基等の炭素数7〜9のアラルキル基等が挙げられる。
【0042】
上記炭化水素基のなかでも、炭素数1〜3の直鎖アルキル基、フェニル基、フェネチル基又はビニル基が特に好ましい。また上記式においてnは3〜6であり、特に好ましくは3〜4である。
【0043】
このような環状シロキサンを具体的に例示すると、オクタメチルシクロテトラシロキサン、ヘキサメチルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラフェニルシクロテトラシロキサン、トリメチルトリフェニルシクロトリシロキサン、テトラメチルテトラビニルシクロテトラシロキサン、トリメチルトリビニルシクロトリシロキサン、テトラメチルシクロテトラシロキサン、トリメチルシクロトリシロキサン等が挙げられる。
【0044】
また、ヘキサアルキルジシラザンで処理する場合には、下記一般式
【0045】
【化2】

【0046】
(上記式中、R、R、R、R、R及びRは各々独立に、炭素数1〜18のアルキル基である。)
で示されるヘキサアルキルジシラザンが好ましい。上記式において、R〜Rとして示されるアルキル基としては、前記環状シロキサンにおけるRとして例示したものと同様の基が挙げられる。高い処理効率を得るためには、当該R〜Rとしては炭素数1〜3の直鎖アルキル基が好ましい。また、R〜Rは互いに異なっていても良いが、入手の容易さや表面処理効率の点からいずれも同一の基であることが好ましい。
【0047】
特に好ましいヘキサアルキルジシラザンを具体的に例示すると、ヘキサメチルジシラザン、ヘキサエチルジシラザン、ヘキサプロピルジシラザン等が挙げられる。
【0048】
上記環状シロキサン、ヘキサアルキルジシラザンは各々単独で用いてもよいし、異なる化合物を2種以上併用して表面処理を行っても良い。また、他の表面処理剤と併用しても構わない。
【0049】
上記のような表面処理剤を用いて無機粒子を表面処理、疎水化する方法は、公知の手法に従えばよく特に限定されるものではないが、処理の際に凝集が起こり難く、また、溶剤除去等の手間が不要な点で、溶剤を用いない乾式処理による方法が好ましい。
【0050】
例えば、ヘキサアルキルジシラザンによる処理を行う場合には、特許第2886037号公報、特許第2886105号公報等に記載の方法を採用すると好適である。該方法は、容器に無機粒子の粉末を導入し、容器を密閉して、200〜300℃程度の温度において、不活性ガスの雰囲気下、ヘキサメチルジシラザンを分圧25〜150kPa程度になるように導入し一定時間、好ましくは0.5〜2時間程度保持することにより行う。この時、容器内に水蒸気を分圧で30〜100kPa程度存在させ、さらには必要に応じてアンモニア等の塩基性ガスを分圧で10〜100kPa程度共存させる方法である。
【0051】
また、環状シロキサンで処理する場合には、無機粒子の粉末を撹拌しつつ、そこへ液状あるいはガス状の環状シロキサンを加え、次いで、密閉された反応系で加熱する方法である。この方法をより具体的に述べると、まず、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、ヘンシェルミキサー等の高速撹拌装置で粒子を攪拌しつつ、そこへ環状シロキサン等を気体状もしくは液状で加え、密閉された反応系にて所定の温度まで加熱することにより製造できる。環状シロキサン等を粒子に加える方法は、液状あるいはガス状のいずれでもよく、さらに液状で加える場合には、滴下によっても良いし、噴霧によって加えても良い。均一に処理することが可能な点ではガス状で加えることが特に好ましい。上記加熱温度は、環状シロキサン等によって粒子表面が疎水化できる範囲であれば、特に制限されるものではないが、一般には、用いる環状シロキサンの沸点以上であることが好ましく、通常100〜300℃程度である。また、攪拌の際の攪拌速度等も特に限定されるものではなく、用いる攪拌装置等により一概には言えないが、一般的には、100〜3000rpm程度である。
【0052】
このような乾式処理を採用することにより、無機粒子の表面処理工程における凝集を防止することができ、また必要に応じて、同じ反応容器内で重合体による被覆も可能となり、工業的に有利である。
【0053】
ついで、上記のような疎水性或いは親水性の粒子に、重合性単量体を吸着させる。当該重合性単量体は、重合させることにより架橋重合体を生じ、かつ、陽イオン交換基を有しているか、あるいは重合させた後に陽イオン交換基を導入できるものであればよく、むろん、混合物でもよい。好適には、陽イオン交換基を有するか、又は陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単官能の重合性単量体と、架橋剤となる多官能の重合性単量体との混合物である。また、重合性に優れる点で、(メタ)アクリル基、スチリル基等のラジカル重合性の不飽和二重結合を有する重合性単量体であることが好ましい。
【0054】
これら重合性単量体を具体的に例示すると、以下のものが挙げられる。
【0055】
1.陽イオン交換基を有する単官能単量体
スチレンスルホン酸及びその塩類、ビニルナフタレンスルホン酸及びその塩類等の芳香族ビニル系の単量体類。(メタ)アクリル酸、マレイン酸、コハク酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル及びその塩類、マレイン酸2−(メタ)アクリロイルオキシエチル及びその塩類、フタル酸2−(メタ)アクリオイルオキシエチル等のカルボキシル基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。(メタ)アクリルオキシエチルアシッドフォスフェート等のリン酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。2−(メタ)アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−メタクリロイルオキシプロパンスルホン酸等のスルホン酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類及びこれらの塩類。ビニルホスホン酸等のホスホン酸基を有するビニル単量体及びこれらの塩類等。
【0056】
2.陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単量体
スチレン、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、2,4−ジメチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、p−クロロスチレン、ビニルナフタレン等の芳香族ビニル系の単量体類等;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ラウリル、(メタ)アクリル酸トリトリデシル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸グリシジル、(メタ)アクリル酸ベンジル、(メタ)アクリル酸フェノキシエチル、(メタ)アクリル酸2−メトキシエチル、(メタ)アクリル酸2−エトキシエチル等の単官能の(メタ)アクリル酸エステル系の単量体類。
【0057】
3.架橋剤となる多官能の重合性単量体
ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、トリビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の多官能の芳香族ビニル化合物類等の芳香族ビニル系の単量体類;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールメタントリ(メタ)アクリレート、テトラメチロールメタンテトラ(メタ)アクリレート、メチレンビス(メタ)アクリルアミド、ヘキサメチレンジ(メタ)アクリルアミド等の多官能の非フッ素系(メタ)アクリル系の単量体類;ジビニルスルホン、フタル酸ジアリル等。
【0058】
核粒子を架橋重合体で被覆するためには、上記陽イオン交換基を有する単官能単量体又は陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単量体と、架橋剤となる多官能の重合性単量体との混合物を用いればよく、代表的には、架橋剤となる多官能の重合性単量体を、全重合性単量体中、0.05〜99質量%程度、好適には0.5〜30質量%程度配合した重合性単量体を用いればよい。なお上記各重合性単量体は、必要に応じて異なる複数のものを併用してもよい。
【0059】
さらに上記したような重合性単量体を核粒子に吸着させやすくしたり、その他、種々の物性を付与するために、上記した以外の重合性単量体を混合して用いることも可能である。例えば、陽イオン交換基を有する単官能単量体や陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単量体が常温、常圧下で固体の場合などには、該重合性単量体と共重合する液状の重合性単量体に溶解することも好ましい。このような重合性単量体としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸3−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3−クロロ−2−ヒドロキシプロピル、N−メチロール(メタ)アクリルアミド等の水酸基を有する(メタ)アクリル系の単量体類;(メタ)アクリロニトリル、(メタ)アクロレイン、酢酸ビニル、N−ビニルピロリドン、ジアセトン(メタ)アクリルアミド、メチルビニルケトン等が挙げられる。
【0060】
上記重合性単量体(若しくはその混合物)はそれ単独で核粒子と接触させても良いが、後述する重合工程を効率よく行うために、重合開始剤を加えた状態の混合物で加えることが好ましい。
【0061】
用いる重合開始剤としては、用いる重合性単量体に応じて、公知の重合開始剤を適宜選択して用いればよく特に制限されることはないが、加熱により重合開始能を発現するものであることが操作がより簡便であり好ましい。例えば、重合性単量体としてビニル系単量体を採用した場合には、オクタノイルパーオキシド、ラウロイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシイソブチレート、t−ブチルパーオキシラウレート、t−ヘキシルパーオキシベンゾエート、ジ−t−ブチルパーオキシド等の有機過酸化物や、2,2,−アゾビスイソブチロニトリルや2,2,−アゾビス−(2,4,−ジメルバレロニトリル)等のアゾビス系重合開始剤等が好適な重合開始剤として挙げられる。これら重合開始剤は、重合性単量体100質量部に対して、0.1〜20質量部、好適には0.5〜10質量部用いるのが一般的である。
【0062】
また、必要に応じて、重合禁止剤や重合抑制剤、紫外線吸収剤等の他の添加剤を配合したものを用いても良い。さらに、重合性単量体が固体である場合には、少量の溶剤を用いて液状のものとすることも可能である。
【0063】
上記のような重合性単量体及び必要に応じて配合される任意成分の混合物(以下、重合性単量体混合物)を前記核粒子の粉体と接触させる際には、該核粒子粉体を攪拌下に行うことが好ましい。攪拌を行わないと、被覆層が不均一となってしまう。当該攪拌の方法は特に限定されるものではなく、粒子が該攪拌により浮遊する程度の状態を得られるのであれば、公知の如何なる方法でも良い。例えば、ヘンシェルミキサー等を用いて直接機械的に攪拌してもよいし、また高速気流を吹き込んで攪拌したり、外部から振動や揺動等を与える方法でも良い。直接機械的に攪拌する場合の攪拌速度は、核粒子の材質や形状、粒子径により一概には言えないが、一般的には、100〜3000rpm程度でよい。
【0064】
重合性単量体混合物を、核粒子と接触させる方法は特に制限されるものではないが、好ましくは、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気中、重合性単量体混合物を気体状もしくは液状で加える方法であり、より好ましくは、不活性ガス雰囲気中で液状の重合性単量体混合物を噴霧して加える方法である。噴霧に際しては公知のスプレーノズル等が好適に使用できる。また添加速度も特に限定されず、他の種々の条件によって決定すれば良いが、一般的には、核粒子100g当たり1〜20ml/minである。これらを加える際の温度条件も特に制限されず、冷却下でも、加熱下でも良いが、あまりに高い温度では被覆前に単量体が重合してしまうため、一般には−10〜40℃程度が好ましい。
【0065】
加える重合性単量体の量は特に制限されるものではなく、所望の被覆厚さにより適宜設定すればよいが、重合性単量体混合物の使用量が多すぎる場合には、粒子同士の凝集が生じ、粉末ではなく塊となってしまう傾向があり、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末を得るためには、その後に粉砕工程が必要となってしまう。さらに多すぎると重合体中に核粒子が存在するかたちになり、本発明の粉末を得ることが困難になる。適度な厚さの被覆層とするために用いる重合性単量体の量は、核粒子の比表面積や粒子径等に依存し一概には言えないが、一般的には、粒子の比表面積1mあたり、2×10−4〜8×10−4gの重合性単量体を使用すれば、約1nm相当の厚さの被覆層が形成されるため、この値を元に、粒径や比表面積に応じて適宜決定することができる。代表的な重合性単量体の使用量としては、核粒子1gあたり、0.001〜0.4gである。
【0066】
また、前記したような溶剤、あるいは他の任意成分を加える場合に、この溶剤等の使用量も多すぎると粒子同士の凝集を生じやすくする。従って、加える重合性単量体、溶剤及びその他成分の全量を加えた時点でも、ペースト状や分散液の状態を形成しない、粉体の状態を維持する範囲内に収めることが好ましい。粒子同士の凝集を避けるために、一般的には、加える重合性単量体、溶剤及びその他成分の量を、核粒子からなる粉末の吸油量(重合性単量体、溶剤及びその他成分の混合物に対するもの)の3/4以下、より好ましくは1/2、さらに好ましくは1/3以下、特に好ましくは1/5以下、最も好ましくは1/10以下となるようにすればよい。
【0067】
このようにして、重合性単量体(及びその他任意成分)を攪拌された状態の核粒子に加えることにより、この重合性単量体(及びその他任意成分)は、該核粒子に吸着される。本発明の製造方法では、ついで、該重合性単量体を重合させて重合体とし、核粒子が該重合体により被覆された状態の粒子からなる粉体とする。
【0068】
このようにして吸着した重合性単量体を重合させる方法としては、用いた重合性単量体の重合方法として公知の方法を採用すればよく、特に制限されるものではないが、好適な方法としては、加熱により重合を開始させる方法である。用いた重合性単量体がビニル系単量体である場合には、前記したような熱重合開始剤を用いることにより、より効率的に重合させることができる。また、当該加熱温度は、用いた重合性単量体及び重合開始剤の種類等により公知の条件を適宜設定すればよく、一般には40〜230℃、好ましくは50〜180℃程度である。
【0069】
また、用いた重合性単量体がビニル系単量体である場合には、酸素による重合阻害を防止するため、これら操作は窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0070】
反応容器内の圧力は、特に制限されず、加圧でもよいし、常圧でもよいし、減圧でもよい。用いた重合性単量体の種類にもよるが、それらの中でも加圧が好ましい。加圧する際の圧力としては、一般的には0.01〜0.6MPa程度である。重合時間も上記したような他の条件に合わせて適宜設定すればよく、一般的には、30〜180分程度である。
【0071】
なお、上記架橋重合体により被覆された粒子の製造方法は一例であり、湿式法で製造したり、非架橋の重合体で被覆を行った後、電子線照射等により架橋させて製造したりしてもよい。
【0072】
上記のようにして得られる架橋重合体で被覆された粒子が、スルホン酸基、カルボン酸基等の陽イオン交換基を有する重合性単量体を用いて製造された場合には、そのまま後述する多価金属イオンを坦持させる工程に供すればよい。
【0073】
一方、陽イオン交換基を導入可能な官能基を有する単量体を用いた場合には、多価金属イオンを坦持させる前に、陽イオン交換基を導入する必要があり、これは陽イオン交換樹脂の製造方法における陽イオン交換基の導入手法に準じて行うことができる。
【0074】
例えばスチレン等の重合性単量体を用い、重合体がその構造中にベンゼン環等の芳香族炭化水素環を有する場合には、発煙硫酸、クロルスルホン酸、三酸化硫黄等と反応させる公知の方法でスルホン化等を行えばよい。メタクリル酸メチルの重合体等のエステル構造を持つ重合体である場合には、該エステルの加水分解を行えば酸基を導入することができる。さらには、エポキシ基やクロロメチル基を有する場合には、スルファニル酸、亜硫酸ナトリウム等を用いることによりスルホン化させてスルホン酸基を導入することができる。
【0075】
また、その他公知の化学反応を応用して、種々のイオン交換性基を導入することが可能である。なおこれらの官能基導入の際には、被覆している重合体が剥離等により喪失してしまわないよう、適宜その導入形態や反応条件を選択すべき必要がある。一般に、芳香族ビニル系の単量体の重合体は、エステル構造を有する(メタ)アクリル系単量体に比して化学的に安定であり、種々の官能基の導入が容易である。
【0076】
このような官能基の導入に際しては、得られる粒子の凝集を防止するため、溶剤を用いず、温度、圧力等の反応条件を適宜設定し、反応化剤をガス状で被覆粒子と接触させる方法を採用することが好ましい。例えば、上記陽イオン交換性基の導入において、スルホン酸基を導入する場合には、三酸化硫黄のガスと接触させる方法が好適に採用できる。
【0077】
このような製造方法で得られる陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子(粉末)は、該陽イオン交換基における対イオンを多価金属イオンと交換することにより、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末ができる。陽イオン交換基における対イオンを多価金属イオンと交換する方法としては、従来公知の各種方法を採用することができ、特に制限されない。好適には、対象となる多価金属イオンを含む溶液と混合、ついでろ過し、さらにイオン交換水等で洗浄する方法や、同じく多価金属イオンを含む溶液と混合した後、そのまま乾燥させる方法などが挙げられる。
【0078】
多価金属イオンを含む溶液における、多価金属イオン源は特に制限されず、溶液を調整できるものであればよい。具体的には、硝酸塩、硫酸塩、塩酸塩(塩化物)等の無機酸の塩や、酢酸塩等の有機酸塩、アンモニウム塩、水酸化物等が挙げられる。
【0079】
溶液とする場合の溶媒も特に限定されず、水でも有機溶媒でも良いが、多価金属イオンを含む溶液の調整が容易で、また経済面、環境面、安全面から水を用いることが特に好ましい。また、多価金属イオンを含む溶液を調製する際の溶解度の調整などが必要な場合には、該溶液には追加で酸(硫酸、硝酸、塩酸等)やアルカリ(アンモニア等)が加えられていてもよい。
【0080】
上記多価金属イオン溶液の濃度も特に限定されないが、調製が容易で、また各種操作性にも優れる点で、金属イオン濃度が0.001〜5mol/L程度のものを用いればよい。好ましくは0.01〜1mol/L程度である。
【0081】
陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子粉末と、多価金属イオン溶液とを混合する場合、その混合比は、該無機粒子粉末のイオン交換容量や、多価金属イオン溶液の濃度、さらには坦持させようとする多価金属イオンの量等により一概には言えないが、ろ過、洗浄を行う場合には、前記X/Nに対して、1倍以上、好ましくは1.5倍以上、より好ましくは2倍以上、特に好ましくは3倍以上となるように多価金属イオンを過剰に用いることが好ましい。一方、多すぎても多価金属イオンを含む廃液が多量に生じるなど問題があるため、好ましくは1000倍以下、より好ましくは100倍以下とするとよい。一方、混合後、直接乾燥させる場合には、X/Nに対して1.2〜0.3倍程度の範囲となるように、溶液の濃度及び量を調製するとよい。
【0082】
また、陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子粉末と、多価金属イオン溶液との混合は攪拌下に行うことが好ましい。混合、攪拌時間は通常、1分〜24時間程度である。また該混合の際の温度は溶液の凝固点〜沸点の範囲で行えばよく、通常は室温下で行えばよい。
【0083】
ろ過、洗浄を行う場合、該ろ過は、目的物である無機粒子が保持される条件であれば特に限定されず、必要に応じて公知のろ過手段を選択すればよい。また、ろ過に代えて遠心沈降等でもよい。
【0084】
洗浄はイオン交換水や蒸留水等の夾雑イオンを含まない水で行うことが好適である。洗浄は不要な成分、例えば、過剰に用いた多価金属イオンや、イオン交換により溶出してきたアニオン成分が、必要な程度まで洗い流されるまで行えばよい。洗浄の終点は、ろ液中の多価金属イオン濃度や、pH、色調などにより確認することができる。
【0085】
乾燥の条件は、核粒子を被覆している架橋重合体が分解等しない条件で行えばよく、加熱乾燥、送風乾燥、減圧乾燥等、公知の如何なる乾燥方法を適用してもよい。また水溶液を用いた場合には、乾燥時間を節約するため、アルコール、アセトン等の揮発性有機溶媒で置換してから乾燥してもよい。加熱する場合、その温度は150℃以下が好ましく、120℃以下がより好ましい。なお、大気中などの酸素存在下で加熱すると酸化されて価数が変化する金属イオンの場合には、窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で加熱するとよい。逆に、本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末の製造に際しては、上記のような方法で金属イオンを坦持させた後、積極的に酸化したり、あるいは還元したりして目的とする価数の金属イオンにすることもできる。
【0086】
上記のようにして得られた乾燥品は、通常、前記した陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子と同等の粒径、粒度分布を有する粉末であるが、乾燥工程で軽く凝集した状態になることがある。このような凝集は、通常、使用条件下(例えば、樹脂成分と混合する)で解砕されるが、必要に応じて解砕し、微粉化してもよい。逆に、取り扱い性を向上させるなどの目的で、公知の方法で造粒することもできる。
【0087】
上記例のようにして製造可能な本発明の金属イオン坦持無機粒子粉末は、核となっている無機粒子の機械的強度と、架橋重合体による被覆層に存在する多価金属イオンに由来する種々の物性、さらには、架橋重合体自体の物性をも併せ持つ優れた粉末であり、例えば、ガス吸着充填材、各種金属触媒反応の固相触媒、各種樹脂製品用の抗菌性充填材、防錆剤等として有用性が高い。使用に際しては各々の用途に応じた公知の方法を適用すればよく、例えば、粉末のまま用いたり、各種溶剤やバインダーに分散、塗布、乾燥させたり、硬化性樹脂との混合物を調製、成形後に硬化させたりしればよい。
【実施例】
【0088】
以下、実施例を挙げて本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0089】
1.各物性の測定方法
各実施例、比較例で用いた原料、及び中間生成物、最終生成物等における各種物性は以下の方法で測定した。
【0090】
平均粒子径A(平均一次粒子径)
走査型電子顕微鏡(SEM)もしくは透過型電子顕微鏡(TEM)によって撮影した粒子に関し、それぞれ1000個以上2000個未満の画像を使って、高精細画像解析ソフトウェアIP−1000PC(旭エンジニアリング社製)で解析し、粒子の形状を球形に仮定し、一次粒子の平均粒子径を求めた。
【0091】
平均粒子径B
粒子粉体をエタノールに分散して超音波をかけながら、光散乱回折式粒度分布測定装置(ベックマンコールター社製:コールターLS230)により粒度分布を測定し、個数基準算術平均径D50の値を平均粒子径Bとした。
【0092】
比表面積
比表面積測定装置(島津製作所製:フローソーブ2−2300型)を用いて、窒素ガスを吸着ガスとしBET法により求めた。
【0093】
炭素量
粒子を被覆している炭素の量は、微量炭素分析装置(堀場製作所製EMIA−511型)を用い粒子粉体を酸素雰囲気中で1350℃に加熱して測定した。この測定により得られた炭素量を被覆粒子1g当たりに換算して示した。なお、被覆量測定のための前処理として、粒子粉末を80℃で加熱し、系内を減圧にすることによって表面の被覆に関与してない単量体及び空気中で吸着した水分等を除いた後、該粒子粉体の炭素含有量を求めた。
【0094】
陽イオン交換容量
粒子粉体を、1mol/lのHCl水溶液中に分散させて10時間以上撹拌し、水素イオン型とした後、ろ過、水洗し、残渣を1mol/lのNaCl水溶液中に10時間以上撹拌してナトリウムイオン型に置換させた。続いて、ろ過して得られた溶液中に含まれる遊離した水素イオンを電位差滴定装置(COMTITE−900、平沼産業株式会社製)で定量した(A:mol)。
【0095】
続いて上記粒子を1mol/lのHCl水溶液中に分散させて4時間以上撹拌し、ろ過して得られた残渣をイオン交換水で十分水洗した後、60℃で5時間乾燥させその重量を測定した(W:g)。上記測定値に基づいて、陽イオン交換容量を下記式
*陽イオン交換容量=A×1000/W[mmol/g−乾燥重量]
により求めた。
【0096】
金属イオン量測定
蛍光X線分析装置(株式会社リガク製:X線スペクトロメーター3270)により金属原子の含有量を測定し、担持量(mmol/g)を求めた。
【0097】
2.原料無機粒子粉末の製造
各実施例、比較例で製造原料として用いた無機粒子粉末のうち、市販されていないものは以下の方法で市販品から製造した。製造した無機粒子粉末の物性は原料の物性と併せて表1に示す。
【0098】
QS102−D4の製造
熱分解法により製造された比表面積200m/g、平均粒子径A(平均一次粒子径)が0.016μm、平均粒子径B(平均二次粒子径)が0.07μmで表面処理を行っていないシリカ粉末(トクヤマ社製、商品名QS102;以下、QS102)50gを内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌羽を400rpmで回転させながら20gのオクタメチルシクロテトラシロキサンを二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に均一に吹き付けた。窒素ガスを流通させたまま30分間撹拌した後、オートクレーブを密閉し、275℃で1時間加熱した。続いて、加熱したまま系中を減圧し、未反応のD4を除去した。得られた粒子粉体(以下、QS102−D4)の物性を表1に示す。また処理前後の粒度分布パターン(平均粒子径Bの測定方法による)を図1として示す。
【0099】
X37B−D4の製造
沈降法により製造された比表面積290m/g、平均粒子径Aが3.7μm、平均粒子径Bが5.4μmで表面処理を行っていないシリカ粉末(トクヤマ社製、商品名X37B;以下、X37B)を用いた以外は製造例1と同様にして環状シロキサン処理シリカ粒子の粉末を得た。得られた粒子粉体(以下、X37B−D4)の物性を表1に示す。
【0100】
【表1】

【0101】
実施例1
50gのQS102−D4を、内容積1000mlのステンレス製オートクレーブに仕込んだ。オートクレーブ内を窒素ガスで内部ガス置換した後、オートクレーブ付属の撹拌羽を800rpmで回転させ、スチレン5g、ジビニルベンゼン0.5g、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート0.3gの重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に吹き付け、表面を濡らした。30分間撹拌した後、オートクレーブのコックを閉じて密閉し、20℃から80℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させて架橋ポリスチレンで被覆された粒子の粉末を得た。この粉末の平均粒子径Aは0.019μm、平均粒子径Bは0.082μm、炭素量は0.08g/gであった。
【0102】
この被覆粒子のうちの50gを耐圧性ポリテトラフルオロエチレン容器に移し、それに直結したフラスコ内へ固体の三酸化硫黄を入れ、気化した三酸化硫黄を窒素ガスで架橋性樹脂被覆シリカの入った容器に15分間送り込み、系内の三酸化硫黄ガス濃度を30vol%以上とし、さらに系内に窒素ガスを導入して、0.3MPa程度に加圧して、密閉下にて撹拌しながら80℃で1時間加熱してスルホン化した。続いて、系中を減圧にして、未反応の三酸化硫黄ガスを完全に除去し粉末を回収した。得られた粉末の比表面積は130m/g、イオン交換容量は1.01mmol/gであった。
【0103】
この陽イオン交換基(スルホン酸基)を導入した架橋ポリスチレンで被覆された粒子からなる粉末35gをガラス容器に移し、銅イオン濃度0.1mol/Lの塩化第二銅の水溶液700mlを加えて分散させ、撹拌しながら室温で2時間イオン交換処理を行った。続いてろ過を行い、さらに300mlのイオン交換水で4回洗浄を行った。なお最後の洗浄におけるろ液は、ほぼ中性の無色透明の液体であった。洗浄終了後、100℃で乾燥して、比表面積が125m/g、銅イオン坦持量が0.56mmol/g、僅かに青みがかった粉末を得た。
【0104】
さらに、上記乾燥粉末の10gを再度200mlのイオン交換水で洗浄、乾燥させた後、銅イオン坦持量を測定したが、洗浄前後で変化していなかった。このことから、単に粒子表面に塩化銅の結晶が付着しているのではないことが明らかである。
【0105】
また別途、上記の銅を坦持させた乾燥粉末10gを200mlの熱水に24時間浸漬した後、放冷、ろ過、乾燥し、銅坦持量を測定したところ、0.55mmol/gであり、ほとんど変化はなかった。
【0106】
比較例1
実施例1と同様の方法で、架橋ポリスチレンで被覆された粒子粉末を得た。この粉末をスルホン化せずにそのまま塩化第二銅の水溶液に分散させようとしたが、全く分散しなかった。そこで、銅イオン濃度が0.1mol/Lの塩化第二銅の水−メタノール溶液(水20質量%)700mlに分散させ、室温で2時間攪拌後、ろ過した。300mlの水−メタノール溶液で4回洗浄を行い、70℃で乾燥後、銅イオン坦持量を測定したが、銅は検出されなかった。
【0107】
上記実施例1と比較例1との対比から、陽イオン交換基(スルホン酸基)を有さない場合には銅イオンが坦持されず、よって、銅イオンは該イオン交換基における対イオンとして存在、保持されていることがわかる。また、実施例1において、イオン交換容量に対して若干多い量の銅イオンが坦持されていることから、銅イオンの一部は半塩(R−SO−Cu(II)−L)として粒子上に保持されていると推測される。
【0108】
比較例2
50gのQS102をジューサーミキサーに入れ、浮遊状態になるように撹拌しながら、フェネチルトリメトキシシラン(アヅマックス製)20gをヘキサン5gに溶解させた溶液を二流体ノズルにて霧状にし、シリカ粉末に吹き付け表面を濡らした。その後、1リットルセパラブルフラスコに移し、窒素気流下100℃で2時間加熱して、表面が上記アルコキシシラン化合物で処理されたシリカ粉末を得た。ついでこれを実施例1と同様の処理操作で三酸化硫黄と接触させスルホン化を行った。得られた粒子粉末の炭素量は0.051g/g−被覆粒子、陽イオン交換容量は0.11mmol/gであった。
【0109】
この粉末を実施例1と同様にして塩化第二銅水溶液で処理、イオン交換させて、銅坦持量が0.03mmol/gの粉末を得た。これを実施例1と同様にして100℃の熱水で24時間処理した後の銅イオン坦持量は0.02mmol/gであり、約7割に低下していた。
【0110】
実施例2〜9
塩化第二銅に代えて、表2に示す金属塩の水溶液(いずれも金属イオン濃度が0.1mol/L)を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、金属イオンを坦持させた粒子の粉末を得た。得られた粉末の比表面積、金属イオン坦持量を併せて表2に示す。
【0111】
実施例10
塩化第二銅に代えて、ジルコニウムイオン濃度15wt%の酢酸ジルコニウム水溶液を用いた以外は、実施例1と同様の操作を行って、金属イオンを坦持させた粒子の粉末を得た。得られた粉末の比表面積、金属イオン坦持量を併せて表2に示す。
【0112】
【表2】

【0113】
実施例11
QS102−D4に代えて、X37B−D4を用いた以外は実施例1と同様の処理操作を行い、架橋ポリスチレンで被覆された無機粒子粉末を得た。この粉末の平均粒子径Bは4.8μm、炭素量は0.08g/gであった。この架橋ポリスチレン被覆粉末を実施例1と同様にしてスルホン化し、比表面積140m/g、イオン交換容量0.97mmol/gの粉末を得た。さらに実施例1と同様にして塩化第二銅水溶液で処理して得られた乾燥粉末は、比表面積135m/g、銅イオン坦持量0.44mmol/gであった。
【0114】
実施例12
50gのX37Bを、内容積2000mlのガラス製セパラブルフラスコに仕込んだ。内部を窒素ガスで置換した後、撹拌羽を800rpmで回転させつつ、15gのアクリルアミド2−メチルプロパンスルホン酸ナトリウム塩、1gのエチレングリコールジメタクリレート、15gの水、16gの2−ヒドロキシエチルメタクリレート及び0.5gのt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエートからなる重合性単量体混合溶液を、約15秒かけて二流体ノズルにて霧状にして吹き付けた。30分間撹拌した後、20℃から90℃まで1時間かけて昇温し、同温度で1時間保持して単量体を重合させた。得られた粉末の比表面積は125m/g、イオン交換容量は0.81mmol/gであった。
【0115】
この陽イオン交換基(スルホン酸Na塩)を有する架橋アクリル系樹脂で被覆された無機粒子粉末を、実施例1と同様にして塩化第二銅水溶液で処理してイオン交換させ、乾燥後得られた粉末の物性を測定したところ、比表面積が120m/g、銅イオン坦持量が0.32mmol/gであった。
【0116】
実施例14
側面に撹拌装置を設けた内容量20Lのアクリル製容器に、実施例1で得られた銅イオン坦持シリカの乾燥粉末を3g入れ、ガスの初期濃度が8ppmになるようにメチルメルカプタンガスを注入した。気相を撹拌しながら表3に示した所定の時間毎に容器内部の残留ガス濃度を、ガス検知管にて測定した。銅イオン坦持シリカ粉末を入れなかった場合(ブランク値)と併せて結果を表3及び図2に示す。
【0117】
比較例3
銅イオン坦持シリカ粉末に代えて、市販の機能性活性炭を用いた以外は実施例14と同様にしてガス吸着能を測定した。結果を表3及び図2に示す。
【0118】
【表3】

【図面の簡単な説明】
【0119】
【図1】原料として用いたオクタメチルシクロテトラシロキサンで処理されたシリカ粒子(QS102−D4)、及び該処理前のシリカ粒子(QS102)の粒度分布パターンを示す図。
【図2】実施例1で製造した銅(II)イオン坦持シリカ粉末と、市販の機能性活性炭の、メチルメルカプタン吸着速度を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆されており、かつ該陽イオン交換基における対イオンの少なくとも一部は、多価金属陽イオンであることを特徴とする、金属イオン担持無機粒子粉末。
【請求項2】
請求項1記載の金属イオン坦持無機粒子粉末からなるガス吸着材。
【請求項3】
陽イオン交換基を有する架橋重合体で被覆された無機粒子を、多価金属イオンを含有する溶液と接触させて、前記陽イオン交換基における対イオンの少なくとも一部を前記多価金属イオンと交換し、ついで乾燥することを特徴とする、金属イオン担持無機粒子粉末の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−188383(P2006−188383A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−838(P2005−838)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】