説明

金属イオン除去装置

【課題】燃料中の金属イオンを除去する金属イオン除去装置1において、金属イオンを捕捉する活性粒子63の充填層64で、活性粒子63の偏在が発生する虞を低減する。
【解決手段】金属イオン除去装置1は、活性粒子63の充填層64を備え、充填層64に燃料を通過させることで、燃料から金属イオンを除去する。また、充填層64は、円筒状の壁66により、複数の環状の充填領域67に区画され、活性粒子63は、壁66により径方向への移動が規制される。これにより、活性粒子63は、燃料の流れに垂直な径方向に関して充填当初と略同一の分布を維持することができる。このため、充填層64内で、活性粒子63の偏在が発生する虞を低減することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料に含まれる金属イオンを除去する金属イオン除去装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、内燃機関等に供給される燃料には、不純物として極微量のNa、K等の金属イオンが含まれる一方、潤滑剤としてオレイン酸等の脂肪酸が添加されている。このため、燃料中で、これら金属イオンと脂肪酸との間に塩反応が起こり、脂肪酸金属塩が生成される可能性がある。そして、脂肪酸金属塩は、一般的に燃料に不溶であるため、例えば、インジェクタの摺動部等に析出して作動不良を引き起こす虞がある。
【0003】
そこで、燃料タンクからインジェクタに至る燃料の供給路に、金属イオンを除去する金属イオン除去手段を配する技術が公知となっている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1によれば、この金属イオン除去手段は、例えば、キレート樹脂や活性炭のような金属イオンを捕捉する活性粒子が充填された充填層であり、燃料は、この充填層を通過することで金属イオンを除去される。
【0004】
ところで、このような充填層は、燃料の圧力損失を増加させ、ポンプ等の加圧源の負荷を増大させる。このため、充填層における活性粒子の充填量を必要最小限に留めて、圧力損失の増加を抑制するのが望ましい。
しかし、活性粒子の充填量が少なくなると、燃料の流動に伴って、個々の活性粒子が浮遊しやすくなる。この結果、充填層内において、活性粒子が偏在して燃料の偏流が発生する虞がある。そして、充填層内において燃料の偏流が発生すると、燃料からの金属イオンの除去が不十分になって、金属イオン除去手段の機能が十分に果たせなくなる。
【特許文献1】特開2006−105092号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記の問題点を解決するためになされたものであり、その目的は、燃料に含まれる金属イオンを除去する金属イオン除去装置において、金属イオンを捕捉する活性粒子の充填層で、活性粒子の偏在が発生する虞を低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
〔請求項1の手段〕
請求項1に記載の金属イオン除去装置は、燃料に含まれる金属イオンを除去するものであり、金属イオンを捕捉する活性粒子が充填された充填層を備え、この充填層に燃料を通過させることで、燃料から金属イオンを除去する。また、活性粒子の充填層は、壁により複数の充填領域に区画され、壁は、活性粒子が1つの充填領域から他の充填領域へ移動するのを阻止することで、活性粒子が燃料の流れに対し垂直な方向に移動するのを規制する。
【0007】
これにより、活性粒子は、燃料の流れに垂直な面方向において充填当初と略同一の分布を維持することができる。このため、充填層内で、活性粒子の偏在が発生する虞を低減することができる。
【0008】
〔請求項2の手段〕
請求項2に記載の金属イオン除去装置によれば、燃料は、活性粒子の充填層を下から上に通過する。
これにより、燃料を充填層の上から下に通過させることの弊害(つまり、活性粒子が下側に密に偏って存在することで圧力損失が増大すること)を阻止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
最良の形態の金属イオン除去装置は、燃料に含まれる金属イオンを除去するものであり、金属イオンを捕捉する活性粒子が充填された充填層を備え、この充填層に燃料を通過させることで、燃料から金属イオンを除去する。また、活性粒子の充填層は、壁により複数の充填領域に区画され、壁は、活性粒子が1つの充填領域から他の充填領域へ移動するのを阻止することで、活性粒子が燃料の流れに対し垂直な方向に移動するのを規制する。
また、燃料は、活性粒子の充填層を下から上に通過する。
【実施例】
【0010】
〔実施例の構成〕
実施例の金属イオン除去装置1の構成を、図面に基づいて説明する。
金属イオン除去装置1は、車両の内燃機関(図示せず)に噴射供給される燃料から金属イオンを除去するものであり、例えば、燃料に含まれる異物を除去する燃料フィルタ2と一体に設けられている。そして、燃料フィルタ2は、例えば、図1に示すように、コモンレール3を介して高圧状態に蓄圧された燃料を内燃機関に噴射供給する蓄圧式の燃料噴射装置4の一部を構成している。
【0011】
なお、燃料噴射装置4は、例えば、燃料タンク6から燃料を汲み上げる電動式の低圧供給ポンプ7と、低圧供給ポンプ7から供給された燃料を高圧化して吐出する高圧供給ポンプ8と、高圧供給ポンプ8から吐出された燃料を高圧状態で蓄圧する蓄圧容器としてのコモンレール3と、内燃機関の気筒ごとに搭載され、コモンレール3から燃料の分配を受けて各気筒内に燃料を噴射するインジェクタ9と、各種センサから内燃機関の運転状態を示す検出信号の入力を受けるとともに、これらの検出信号に基づいて低圧、高圧供給ポンプ7、8およびインジェクタ9等の動作を制御する電子制御装置(以下、ECU10とする)とを備える周知構造を有するものである。
【0012】
ここで、インジェクタ9は、例えば、図2に示すように、噴孔13を開閉するニードル弁14を有し、ニードル弁14の動作により燃料を噴射するノズル15と、ECU10からの指令に基づき、ニードル弁14を動作させる駆動力を発生するアクチュエータ16と、燃料のインレット17、およびアウトレット18を有し、ノズル15およびアクチュエータ16を、各々、先端側、後端側に装着される本体19とからなる周知構造を有する。
【0013】
ノズル15は、ニードル弁14を軸方向に摺動自在に支持して収容するためのガイド孔24と、ガイド孔24の先端側に設けられたサック室25と、サック室25とノズル15の外部とを連通する噴孔13とを有する。ガイド孔24とサック室25との間はテーパ状に縮径されてテーパ面を形成しており、このテーパ面は、ニードル弁14の先端が離着するシート面26をなす。
【0014】
また、ニードル弁14は、後端部が摺動軸部28をなし、摺動軸部28が後端側のガイド孔24に収容されて摺動自在に支持され、摺動軸部28よりも先端側の部分は、ガイド孔24の内周壁との間に、コモンレール3から受け入れた高圧の燃料が導入されるノズル室29を形成する。また、ニードル弁14の先端にはシート面26に離着するシート部30が設けられ、シート部30がシート面26に離着することで、ノズル室29とサック室25および噴孔13との間が開閉されて、燃料の噴射が開始または停止される。
【0015】
なお、ノズル室29には、コモンレール3から受け入れた高圧の燃料が通る高圧流路32が接続しており、高圧流路32を介して高圧の燃料が導入される。また、ノズル室29の燃料圧は、ニードル弁14に対して、常時、噴孔13を開放する方向に作用している。
【0016】
アクチュエータ16は、ECU10からの指令に応じて通電開始または停止されるソレノイドコイル34、ソレノイドコイル34への通電開始または停止により軸方向に駆動されるアーマチャ35、アーマチャ35の先端に保持されてアーマチャ35とともに軸方向に変位して背圧室36を開閉する弁体37、アーマチャ35の摺動軸部を摺動自在に支持して弁体37の軸方向変位を安定させる弁ボディ38、アーマチャ35および弁体37の復元バネ39を有する。そして、アクチュエータ16は、弁体37を軸方向に変位させてニードル弁14に作用する背圧を操作することでニードル弁14を軸方向に駆動する。
【0017】
ここで、ニードル弁14の後端にはコマンドピストン43が当接しており、コマンドピストン43の後端側に、コマンドピストン43を介してニードル弁14に背圧を及ぼす燃料が流出入する背圧室36が形成されている。また、背圧室36は、入側オリフィス44を介して、常時、高圧流路32と連通する一方、出側オリフィス45を介して弁体37により低圧流路46との間を開閉される。
【0018】
つまり、アクチュエータ16は、弁体37により背圧室36と低圧流路46との間を開閉することで背圧を操作する。なお、低圧流路46とは、コモンレール3から受け入れた燃料の内、ノズル15から噴射されることなく燃料タンク6に戻される燃料が通る流路である。また、入側、出側オリフィス44、45は、背圧室36の後端側を形成するオリフィスプレート47に設けられており、出側オリフィス45は、弁体37による開弁時に、入側オリフィス44よりも燃料の通過流量が大きくなるように設けられている。
【0019】
本体19は、コマンドピストン43を軸方向に摺動自在に支持して収容するためのガイド孔50が設けられ、さらに、高圧、低圧流路32、46が、それぞれインレット17の燃料受入口、アウトレット18の燃料戻し口に通じるように設けられている。
【0020】
また、コマンドピストン43は、後端部が摺動軸部51をなし、摺動軸部51が後端側のガイド孔50に収容されて摺動自在に支持され、摺動軸部51よりも先端側の部分は、ガイド孔50の内周壁との間に、ノズル室29および背圧室36からリークした燃料を受け入れる低圧室52を形成する。なお、低圧室52は、低圧流路46に通じるように設けられており、低圧室52の燃料は、低圧流路46を通って燃料タンク6に戻される。また、低圧室52には、ニードル弁14およびコマンドピストン43の復元バネ53が収容されている。
【0021】
以上の構成により、ソレノイドコイル34に通電が開始されると、アーマチャ35および弁体37が後端側に変位して背圧室36から低圧流路46への燃料の流出が始まり、背圧が低下する。このため、ニードル弁14に軸方向に作用する合力は、噴孔13を開放する方向に強くなり、ニードル弁14が後端側に変位して噴孔13を開放し、燃料の噴射が開始される。
【0022】
そして、ソレノイドコイル34への通電が停止されると、アーマチャ35および弁体37が先端側に変位して背圧室36から低圧流路46への燃料の流出が止まり、高圧流路32から背圧室36への燃料の流入により背圧が上昇する。このため、ニードル弁14に軸方向に作用する合力は、噴孔13を閉鎖する方向に強くなり、ニードル弁14が先端側に変位して噴孔13を閉鎖し、燃料の噴射が停止される。
【0023】
このように、インジェクタ9内には、噴射開始および停止の動作に重要な各種の摺動部等(例えば、ニードル弁14の摺動軸部28およびシート部30、コマンドピストン43の摺動軸部51、ならびにアーマチャ35の摺動軸部)が設けられている。そして、これらの摺動部等に脂肪酸金属塩が析出すると、インジェクタ9の作動不良を引き起こす虞がある。
【0024】
すなわち、内燃機関に供給される燃料には、不純物として極微量のNa、K等の金属イオンが含まれる一方、潤滑剤としてオレイン酸等の脂肪酸が添加されている。このため、燃料中で、これら金属イオンと脂肪酸との間に塩反応が起こり、脂肪酸金属塩が生成される可能性がある。そして、脂肪酸金属塩は、一般的に燃料に不溶であるため、インジェクタ9の摺動部等に析出して作動不良を引き起こす虞がある。
【0025】
そこで、燃料噴射装置4によれば、例えば、燃料に含まれる異物を除去する燃料フィルタ2に、金属イオン除去装置1が一体に設けられて、燃料から金属イオンが積極的に除去されている。なお、燃料フィルタ2は、例えば、低圧供給ポンプ7から高圧供給ポンプ8に至る燃料流路に配されている。
【0026】
燃料フィルタ2は、例えば、図3に示すように、異物を捕捉する濾過部55を備え、金属イオン除去装置1は濾過部55の下側に装備されている。金属イオン除去装置1の下側には、濾過部55により燃料から分離された水分が溜まる水溜室56が形成されている。そして、水溜室56の滞留成分は、燃料フィルタ2の経時使用とともに、徐々に燃料から水分に置き換わっていく。
【0027】
また、濾過部55および金属イオン除去装置1の軸心部には、入側パイプ58から受け入れた燃料を水溜室56の方に導く軸心流路59が設けられている。そして、入側パイプ58から燃料フィルタ2内に導入された燃料は、軸心流路59を上から下に向かって流れた後、水溜室56にて径方向外側に分散するとともに流れ方向を上向きに変え、金属イオン除去装置1および濾過部55を順次に通過して出側パイプ60に達する。
【0028】
金属イオン除去装置1は、例えば、軸方向(上下方向)に所定の高さを有する円板状のケース62に活性粒子63が充填されて設けられている。つまり、金属イオン除去装置1には、活性粒子63の充填層64が形成されている。ここで、活性粒子63とは、イオン交換樹脂、キレート樹脂、または活性炭のように金属イオンを捕捉することができる物質であって、粒子状に成形されているものである。
【0029】
また、ケース62の上下面は、活性粒子63の飛散を防止しつつ燃料の通過を可能とするように、メッシュ、ネットまたは網により設けられている。そして、燃料は、充填層64を下から上に通過することで、活性粒子63により金属イオンを除去される。
さらに、充填層64は、例えば、円筒状の壁66により、複数の環状の充填領域67に区画されており、活性粒子63は、壁66により径方向への移動が規制される。
【0030】
〔実施例の効果〕
実施例の金属イオン除去装置1は、活性粒子63の充填層64を備え、充填層64に燃料を通過させることで、燃料から金属イオンを除去する。また、充填層64は、円筒状の壁66により、複数の環状の充填領域67に区画され、活性粒子63は、壁66により径方向への移動が規制される。
これにより、活性粒子63は、燃料の流れに垂直な径方向に関して充填当初と略同一の分布を維持することができる。このため、充填層64内で、活性粒子63の偏在が発生する虞を低減することができる。
【0031】
また、燃料は、充填層64を下から上に通過する。
これにより、燃料を充填層64の上から下に通過させることの弊害(つまり、活性粒子63が下側に密に偏って存在することで圧力損失が増大すること)を阻止することができる。
【0032】
〔変形例〕
実施例の金属イオン除去装置1によれば、充填層64は、円筒状の壁66により複数の環状の充填領域67に区画されていたが、壁66の構成は、この態様に限定されない。すなわち、壁66は、活性粒子63が1つの充填領域67から他の充填領域67へ移動するのを阻止することで、活性粒子63が燃料の流れに対し垂直な方向に移動するのを規制できればよい。例えば、図4に示すように、壁66を矩形状に設けて充填層64を周方向に区画してもよく、充填層64を径方向に区画する壁66、および充填層64を周方向に区画する壁66を両方とも充填層64に配し、充填層64を径方向および周方向の両方向で区画してもよい。
【0033】
また、実施例の燃料フィルタ2によれば、燃料は、軸心流路59を上から下に向かって流れた後、水溜室56にて径方向外側に分散して流れ方向を上向きに変え、金属イオン除去装置1および濾過部55を順次に通過して出側パイプ60に達していたが、燃料フィルタ2内の燃料の流れ方向は、このような態様に限定されない。
【0034】
例えば、軸心流路59の替わりに濾過部55の外周側に環状の流路を設け、この環状の流路を通じて燃料を水溜室56の方に導いた後、水溜室56にて径方向内側に分散させて流れ方向を上向きに変えさせ、金属イオン除去装置1、濾過部55を順次に通過させてもよい。また、金属イオン除去装置1の下側に入側パイプ58を接続して、燃料フィルタ2内に導入した燃料に、直ちに金属イオン除去装置1を通過させるようにしてもよい。
【0035】
また、実施例の金属イオン除去装置1は、燃料フィルタ2と一体に設けられていたが、金属イオン除去装置1を配する位置は、この態様に限定されない。例えば、金属イオン除去装置1を、燃料タンク6内に配してもよく、燃料タンク6から燃料フィルタ2に向かう燃料流路に配してもよい。
【0036】
また、実施例の金属イオン除去装置1を有する燃料噴射装置4によれば、インジェクタ9は、内燃機関の気筒ごとに搭載され、コモンレール3から燃料の分配を受けて各気筒内に燃料を直接噴射するものであったが、燃料噴射装置4の構成は、この態様に限定されるものではない。例えば、インジェクタ9を吸気管に配し、吸気管内に燃料を噴射して混合気を形成し、この混合気を内燃機関に供給するようにしてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】燃料噴射装置の構成図である(実施例)。
【図2】インジェクタの構成図である(実施例)。
【図3】(a)は燃料フィルタの内部を示す部分断面図であり、(b)は、金属イオン除去装置における活性粒子の充填状態を示す説明図であり、(c)は金属イオン除去装置の充填層における壁の配置を示す平面図である(実施例)。
【図4】金属イオン除去装置の充填層における壁の配置を示す平面図である(変形例)。
【符号の説明】
【0038】
1 金属イオン除去装置
63 活性粒子
64 充填層
66 壁
67 充填領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃料に含まれる金属イオンを除去する金属イオン除去装置において、
金属イオンを捕捉する活性粒子が充填された充填層を備え、この充填層に燃料を通過させることで、燃料から金属イオンを除去し、
前記活性粒子の充填層は、壁により複数の充填領域に区画され、
前記壁は、前記活性粒子が1つの充填領域から他の充填領域へ移動するのを阻止することで、前記活性粒子が燃料の流れに対し垂直な方向に移動するのを規制することを特徴とする金属イオン除去装置。
【請求項2】
請求項1に記載の金属イオン除去装置において、
燃料は、前記活性粒子の充填層を下から上に通過することを特徴とする金属イオン除去装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−121510(P2010−121510A)
【公開日】平成22年6月3日(2010.6.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−295489(P2008−295489)
【出願日】平成20年11月19日(2008.11.19)
【出願人】(000004260)株式会社デンソー (27,639)
【Fターム(参考)】