説明

金属カード

【課題】見栄えや高級感を損なうことなく、金属カード同士の滑り性を向上させて、取り扱いを容易にした金属カードを提供する。
【解決手段】金属箔2の表裏面を透明な保護膜3で被覆し、これら保護膜3の表面に、部分的に絵や文字等の図柄5がUVインクによって直接印刷された金属カードであって、この金属カードの保護膜3の表面には、図柄5とともに平均直径10〜100μmのドット6が1mm当り5〜300個印刷されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属箔の表面に樹脂膜を積層し、その樹脂膜の表面に絵、文字、記号などを印刷した金属カードに関する。
【背景技術】
【0002】
金属箔の表面に透明な樹脂膜をラミネート被覆した複合板に、絵や文字等の装飾を施した金属カードが知られている。
例えば、特許文献1に提案されているように、金属の薄板の表裏面に透明な樹脂の保護膜をラミネート被覆した複合板に、部分的に不透明な絵文字を施した透明装飾板を重ね合わせて、これらを透明な樹脂からなる外保護膜で被覆した金属カード(特許文献1では貴金属複合板と称している)が知られている。
特許文献1の金属カードにおいては、表面を外保護膜で被覆する際、複合板の外周に被覆するための縁を設けなければならず、高級感が阻害されていた。また、金属箔を二重の保護膜で積層するため、金属箔の発色が悪くなり、金属特有の光沢が得られず高級感を損ねていた。
【0003】
一方、特許文献2には、金属箔に樹脂膜を積層した複合板の表面に、直接UVインクにより装飾を施した金属カード(特許文献2では貴金属積層シートと称している)が提案されている。
このように、複合板の表面に直接印刷して装飾を施した場合、保護膜と装飾板とを兼ねて、一重の保護膜で金属箔を被覆した金属カードを構成することができる。しかしながら、保護膜に直接印刷した場合、作製した複数の金属カード同士が密着したり、静電気が帯電したりすることがある。このため、例えば、金属カードをトランプ等とした場合には作業性が悪い。さらには、保護膜の表面に指紋等の汚れが付着するなどして、見栄えを損ねていた。
そこで、保護膜に表面処理を施したり、良好な滑り性を得られる素材のフィルムを選択したりすることが考えられるが、この場合、印刷時のインク付着性が悪くなる等の問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公平5−39787号公報
【特許文献2】特開2008−149554号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、見栄えや高級感を損なうことなく、金属カード同士の滑り性を向上させて、取り扱いを容易にした金属カードを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の金属カードは、金属箔の両面を透明な保護膜で被覆し、前記保護膜の表面に部分的に絵文字等の図柄が印刷された金属カードであって、少なくとも前記図柄を避けた前記保護膜の表面に、平均直径10〜100μmのドットが1mm当り5〜300個印刷されていることを特徴とする。
【0007】
この金属カードにおいては、保護膜の表面に微小なドットが複数施されていることから、これらのドットが金属カード同士の密着を防止し、滑り性を向上させることができるとともに、ハンドリング時において、使用者の手指に接触する接触面積を減らして、金属カード表面に指紋等の汚れが付着することを軽減させることができる。また、ドットの直径及び数をカード表面の反射率や色合いを阻害しない程度に規定しているので、金属カード本来の見栄えや高級感を損なうことがない。
また、金属カードの図柄印刷部分は細かなドット印刷の集合体であり、この部分の密着性は緩和されている。そこで、図柄の無い保護膜の露出面にも微小なドットを印刷することにより、金属カード同士の密着を防止している。この場合、金属カードへの図柄印刷と同時に、図柄の無いカード表面部分にインクを塗布することで、効率的にドット印刷を施すとともに、金属カードの滑り性を向上させることができる。
そして、保護膜に従来の素材を用いることができるので、図柄印刷時のインク付着性等を変化させることはない。
【0008】
ここで、ドットの平均粒径が10μm未満や1mm当り5個未満であると、金属カード同士の密着を防止しにくく、滑り性を十分に向上させることができないことがある。また、ドットの平均粒径が100μmを超えたり、1mm当り300個を超えたりすると、カード表面の反射率が低下し、色合いが変化して、見栄えや高級感を損なう場合がある。
なお、ドットの平均粒径は、より好ましくは30〜100μm、さらに好ましくは40〜60μmである。1mm当りのドット個数は、より好ましくは5〜200個であり、さらに好ましくは10〜20個である。
【0009】
さらに、本発明の金属カードにおいて、前記ドットは、黄色のインクが印刷されたものであるとよい。
黄色のインクを用いることで、ドットによる金属光沢感の損失を最小限に抑えることができる。特に、金または黄金色等を発する金属に好適である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、金属カードの見栄えや高級感を損なうことなく、金属カード同士の滑り性を向上させて、取り扱いを容易にすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】本発明の一実施形態である金属カードの構成を説明する分解斜視図である。
【図2】金属カードの要部断面図である。
【図3】滑り性の評価装置の概略構成図である。
【図4】金属カードの反射率と波長との関係を示すグラフである。
【図5】金属カード表面の光学顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の金属カードの一実施形態を、図面を参照しながら説明する。
図1及び図2に示すように、本実施形態の金属カード1は、金属箔2の表裏面に透明な保護膜3をラミネート被覆することにより形成されている。
金属箔2は、純度99.9%以上の金の塊状素材に圧延を繰り返して、例えば厚さ7μmに仕上げ、名刺大の大きさに切断されたものである。金属箔2の厚さとしては、3〜100μm程度が好適である。
なお、金属箔2は名刺大の大きさに限ることなく、B5版、A4版等、他の大きさのものにも適用でき、またその形状も長方形に限るものではない。そして、金属箔2の材料は金以外に銀,銅,白金(プラチナ),ステンレス等またはこれらを用いた合金が利用できる。
【0013】
保護膜3は、図示例では金属箔2と同形状の名刺大に設けられた透明な樹脂製のフィルムであり、これら保護膜3の素材は、例えば、アクリル系樹脂やガラス繊維入り樹脂からなるハードコートラミネートフィルムである。ハードコートラミネートフィルムは耐摩耗性や耐スクラッチ性に優れ、表面に傷等が付き難く、透光性を長期間にわたり維持することができる。そして、これらの保護膜3の厚みは、光透過率及び必要とされる機械的強度を考慮して適宜設定される。
【0014】
保護膜3の表面には部分的に絵や文字等の図柄5が施される。図柄5は、インクジェット法により保護膜3に対して直接印刷され、この印刷にはUVインクが用いられる。UVインクは、光硬化型インクの一種で、プラスチック樹脂上に直接印刷する際に、インク密着性、乾燥性、耐摩耗性に優れたものである。そして、これらの保護膜3の表面には、図柄5の印刷と同時に、図柄5以外の箇所に微小なドット6の印刷が全面にわたって施される。これらのドット6は、黄色のUVインクが平均直径30〜100μmの大きさで印刷されて設けられるものであり、例えば、保護膜3の表面に1mm当り5〜200個(好ましくは11〜15個)印刷されている。ドット6の平均直径は、保護膜3の表面を光学顕微鏡(NikonMEASURE SCOPE MM−II)で観察し、任意の100個のドット6について測定した直径の平均値である。
【0015】
このようにして製造された金属カード1は、保護膜3の表面に微小なドット6が複数印刷されていることから、例えば金属カード1を複数枚重ねた場合に、ドット6が、金属カード1同士の密着性を阻害して、互いの滑り性を向上させることができる。また、金属カード1の取り扱い時においては、ハンドリング時において使用者の手指に接触する接触面積を減らして、金属カード1の表面に指紋等の汚れが付着することを軽減させることができる。
また、ドット6を構成するUVインクに黄色を帯びたインクを用いることで金属光沢感の損失を最小限に抑えることができるとともに、ドット6の直径及び数を金属カード1表面の反射率や色合いを阻害しない程度に規定しているので、ドット6による見栄えや高級感を損なうことなく滑り性が向上した金属カードを作製することができる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明の金属カードに係る実施例について説明する。
金属カードとしては、銀の圧延材の金属箔(厚さ22μm)の表裏面にハードコートラミネートフィルムの保護膜をロール圧延で熱圧着被覆したものを用いた。このハードコートラミネートフィルムは、厚さ25μmのエチレンアクリル酸エチル共重合樹脂(EEA樹脂)からなる接着層と、その接着層の外層に接して積層したポリプロピレン(PP)からなる厚さ50μmの中間層からなる複合樹脂シートである。そして、ミマキエンジニアリング社製のUVインク(イエロー:SPC−040HY)を下記の表1に示す実施例1〜10の条件で保護膜の全面にドット印刷したものを作製した。また、比較例として、同様に、銀の圧延材の金属箔の表裏面にハードコートラミネートフィルムの保護膜を熱圧着被覆し、ドット印刷を施さないものも作製した。
【0017】
表1の「平均ドット径(μm)」は、保護膜の表面を光学顕微鏡で観察し、任意の100個のドットについて測定した直径の平均値である。ここで各ドットは、上記観察領域の写真を撮影し、写真上の最大長と最小長とを求め、その平均値をもって1つのドットの直径とした。「平均ドット密度(個/mm)」は、保護膜の表面を光学顕微鏡で観察して任意の観察領域(1.33×1.79mm)の写真を撮影し、ドットの数をカウントすることで単位面積当り(mm)のドット数に換算し、その領域を5箇所測定して平均値を出し、「平均ドット密度(個/mm)」として求めた。
なお、比較例1は、金属カードにドット印刷を施していないため、「平均ドット径(μm)」及び「平均ドット密度(個/mm)」の欄を「−」で示した。また、実施例5及び実施例10は、同径のドットを施した実施例4及び実施例9の金属カードよりもさらにドット密度を上げて金属カードを作製したが、表面上のドット同士が一部重なり正確な測定ができなかった為に、「平均ドット密度(個/mm)」の欄を「※1」及び「※2」で示した。重なっているドットについて、その大きさからドット数を割り出して計測すると、300個/mm以内と想定される。
【0018】
そして、以下に示す滑り性評価及び表面反射率の測定を行った。
(滑り性評価)
図3に示す評価装置30を用いて、ドット印刷のない金属カード(比較例1)及び表面にドット印刷を施した金属カード(実施例1〜10)の滑り性を評価した。
評価装置30は、支柱31に取り付けられた目盛板32と、この目盛板32に軸33を介して0〜90°の間で回転自在に可動するステージ34とで構成される。ステージ34の表面には、保護膜3と同じ素材のラミネート材34aが貼り付けられている。
滑り性は、ステージ34を実線で示すように水平に配置して、その上に金属カード1を載置した状態で、ステージ34を傾けていき、二点鎖線で示すように金属カード1がステージ34から滑り落ちた時の角度を滑り出し角度θとして、この滑り出し角度θを比較例及び実施例の金属カード毎に比較することにより評価した。そして、それぞれの条件につき10枚ずつ金属カードを作製し、これら10枚の測定結果の平均値を表1に示した。
【0019】
【表1】

【0020】
表1に示すとおり、金属カード表面にドット印刷を施すことにより、劇的に滑り性が向上することが確認できた。比較例1のドット印刷のない金属カードは、ステージに密着してはり付き、90°まで落下しなかった。また、平均ドット径が小さい方が、より良好な滑り性を得られる傾向があり、平均ドット密度の違いによる大きな差はなかった。
【0021】
(表面反射率測定)
次に、表1に示す比較例1及び実施例1〜10の金属カードの表面反射率をJASCO社製の分光光度計(V−550−DS7)を用いて測定し、これらの結果を図4に示した。
図4(a)は、比較例1及び平均ドット径51μmのドットを施した実施例1〜5の金属カードの測定結果であり、(b)は、比較例1及び平均ドット径92μmのドットを施した実施例6〜10の金属カードの測定結果である。
【0022】
図4に示すとおり、金属カード表面の平均ドット密度を高くする程、反射率が低下することがわかる。また、平均ドット密度の高い金属カードでは、短波長成分のスペクトルが若干弱くなっており、表面がインクによってやや黄色みがかっている。
実施例5及び実施例10においては、ドット印刷のない比較例1と比べて反射率が6割以下となっているが、金属光沢感を維持できる限界である。
【0023】
図5は、実施例3の金属カード表面の光学顕微鏡(5倍)写真である。表面にドット6が複数印刷されているのが確認できる。これらのドットは、目視においては確認できない程度に微小なものであるので、金属カードの見栄えや高級感を損なうことがない。
また、ドットは黄色を帯びたインクにより設けられているので、特に、金または黄金色等を発する金属に好適であるが、本実施例のように、銀の金属カードに施した場合においても、ドット密度の低い状態(実施例1及び実施例6)では、良好な反射率を得ることができる。
【0024】
以上のとおり、本実施形態の金属カードによれば、カード表面に微小なドットを複数施すことにより、見栄えや高級感を損なうことなく、滑り性を向上させることができる。
【0025】
なお、本発明は前記実施形態の構成のものに限定されるものではなく、細部構成においては、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。
例えば、上述実施形態では、ドット印刷は図柄を避けて印刷していたが、図柄の上にドットを施してもよい。この場合にも同様の効果が得られる。
【符号の説明】
【0026】
1 金属カード
2 金属箔
3 保護膜
5 図柄
6 ドット
30 評価装置
31 支柱
32 目盛板
33 軸
34 ステージ
34a ラミネート材


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属箔の両面を透明な保護膜で被覆し、前記保護膜の表面に部分的に絵文字等の図柄が印刷された金属カードであって、少なくとも前記図柄を避けた前記保護膜の表面に、平均直径10〜100μmのドットが1mm当り5〜300個印刷されていることを特徴とする金属カード。
【請求項2】
前記ドットは、黄色のインクが印刷されたものであることを特徴とする請求項1記載の金属カード。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−230319(P2011−230319A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−100739(P2010−100739)
【出願日】平成22年4月26日(2010.4.26)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【Fターム(参考)】