金属ガスケット

【課題】コストを抑えつつシンプルな構造によって性能改善を図ることが可能な金属ガスケット1を提供する。
【解決手段】弾力金属板からなる基板2の燃焼室孔4a周りにだけ副板3を積層し、当該基板2及び副板3に燃焼室孔4aを囲む燃焼室孔側ビード8a、8bを成型し、基板2の外周端部及びボルト孔6周りに増厚部10,12を設け、増厚部10,12を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板2及び副板3からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整した。
【解決手段】弾力金属板からなる基板2の燃焼室孔4a周りにだけ副板3を積層し、当該基板2及び副板3に燃焼室孔4aを囲む燃焼室孔側ビード8a、8bを成型し、基板2の外周端部及びボルト孔6周りに増厚部10,12を設け、増厚部10,12を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板2及び副板3からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整した。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装されて使用される金属ガスケットであって、上記シリンダブロックとシリンダヘッドとが金属ガスケットを介装した状態でボルト締結されるエンジンで使用される当該金属ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属ガスケットとしては、例えば特許文献1及び特許文献2に記載される金属ガスケットがある。
特許文献1に記載の金属ガスケットは、弾性金属板からなる2枚の基板を積層し、その各基板に対し、燃焼室孔を開口し、その燃焼室孔の周囲に対し燃焼室ガスをシールするフルビードからなる燃焼室孔側ビードを成型し、その燃焼室側ビードの外周位置に形成した冷却水孔、オイル孔、ボルト孔等のうちシールを必要とする孔の周囲にビードを成型してシールしている。更に、積層した2枚の基板の間に対し、燃焼室孔周囲にだけシム板を挟持させ、そのシム板と基板の結合は、2枚の基板の内どちらか1方の基板で燃焼室ガスをシールするために成型したビードの燃焼室孔側の平坦部に溶接で固着している。
【0003】
すなわち、燃焼室孔周囲の総板厚を、シム板を配設することにより増厚することで、エンジンに装着しボルトで締結した際に、ボルト孔間の燃焼室孔周囲のみ配置したシム板厚分によってシリンダヘッド(の接合面)を変形させることで、燃焼室孔周囲の面圧が増大して高い燃焼ガス圧をシールすると共に、ビードに対し運転による爆発で繰り返して起こる振動振幅を僅少に抑えて金属ビードの疲労破壊を防止する。
【0004】
また、特許文献2に記載した金属ガスケットは、弾性金属板からなる1枚の基板に対し、燃焼室孔周囲のみに副板を併設し、基板と副板の両方に燃焼室孔周囲に燃焼ガスをシールするフルビードからなる燃焼室孔側ビードを成型した金属ガスケットである。成型した燃焼室孔側ビードのうちの副板に成型するビードの軌線を、ボルト孔近傍において基板に成型したビード軌線に対し最大ビード幅の4分の1ずらすと共に、ボルト孔間は同一軌線とし、その両者の境界部では徐々に変化させている。これによって、金属ガスケットをエンジンに装着しボルトで締結した時に発生する、ビードの変形応力を部分的に変化させることで、限られたボルト軸力を有効に活用すると共に燃焼室孔周囲で発生するビードの発生面圧の平均化を図っている。
【特許文献1】特許第3314371号
【特許文献2】特許第3553099号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その後、エンジン技術は急速に進化を続け、エンジンの小型軽量化、高性能化、省エネ機構の取り入れで熱負荷の増大やハイメカ技術の導入等により、例えばエンジン剛性は低下する傾向にある。この結果、高温高圧な燃焼ガスと発生するエンジン熱を冷却する冷却水、エンジン回転摺動部を潤滑するオイル等条件の異なる気体や液体を1枚の金属ガスケットでシールする技術には、色々な問題が発生している。
このようなエンジン剛性の低下に対する対応と、インターネットの普及で部品を世界市場から調達する傾向からコスト競争力も強いられる現在にあっては、性能とコスト双方で要求がますます厳しくなっている。
そして、エンジンの進化技術に追随が難しくエンジンの使用条件によっては問題が発生する。
【0006】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、燃焼室孔周囲をシム板で増厚して燃焼ガスを中心にシールしているが、ボルト孔より外側位置に張り出しているオイルリターン孔より外端部の基板外周端部側に着目すると、エンジンの運転初期に起こるシリンダヘッドとシリンダブロックとの対向する接合面と、接合面から離れたエンジン部分との温度上昇の時間差で熱膨張差が発生して、対応する上記両接合面はお互いにそり方向に変形(外周部での隙間が大きくなる方向に変形)する。この変形は、燃焼室孔を挟んだボルト孔間ではボルトの軸力で変形を矯正することは可能であるものの、そのボルト孔間に位置する燃焼室孔周囲に設けたシム板の板厚分だけ、ボルト孔部ではシリンダヘッドを変形させている。勿論、このためにシム板のある燃焼室孔周りの増厚部分では高い面圧を発生している。しかしボルト孔より外側では、上記接合面の変形を矯正するものが無いので、温度差によりオイルリターン孔の外側では対応する接合面間に口開きが起こる。この口開きを繰り返すことで、そのオイルリターン孔を囲むシールの経時的な劣化によって、オイルリターン孔からのオイル漏れの原因となる。
【0007】
上記口開き現象は運転が継続して稼働してエンジン全体の温度が平準化したら停止するが、運転停止が繰り返されることでガスケットの表面に塗布されたシール材も口開きの繰り返しによって生じる摺動で削られたりシールの耐久性を劣化させたりしてシール力が低下することでオイル漏れが増大するおそれがある。この現象は、寒冷地のように温度差の大きい地域では大きくなる。
そして、この現象によって、特許文献1及び2ともに同一の不具合を発生する場合がある。
本発明は、コストを抑えつつシンプルな構造によって性能改善を図ることが可能な金属ガスケットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、バネを発生可能な弾力金属板からなる基板と、基板の板厚と同じもしくは異なる厚さで且つバネを発生可能な弾力金属板からなり上記基板の一部と厚さ方向で対向配置される副板とを、備え、
上記基板には、燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むように当該基板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その燃焼室孔側ビードの外周側に冷却水孔が開口すると共にその冷却水孔の外周を囲むように第2のビードが設けられ、その第2のビードよりも外側にボルト孔が開口しており、
上記副板にも、上記基板の燃焼室孔に対応した燃焼室孔が開口していると共にその燃焼室孔を囲むように当該副板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その副板の外周端位置が、上記基板における燃焼室孔側ビード形成位置よりも外周側かつ上記第2のビード形成位置よりも内周側となるように設定され、
上記第2のビードよりも外側に位置する基板部分に対して増厚部を設け、増厚部を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板及び副板からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整したことを特徴とする。
【0009】
本発明では、金属板の積層部分が燃焼室孔周りだけとなって安価な金属ガスケットとなる。また、当該積層部である燃焼室孔周りの総板厚を一番大きくすることで、ボルト締付け時の面圧を燃焼室孔周りで一番高くして燃焼ガスをシールする。また、基板に対する副板との非積層部である冷却水孔外周の第2のビードよりも外側の基板部分に増厚部を設けることで、ボルト締付け時のシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面の変形を調整出来ることで、上記燃焼室孔周りのシール面圧を調整することが出来る。
【0010】
即ち、冷却水孔より外側部分は副板の無い分、板厚差分発生している。この板厚差分は、ボルト孔から冷却水孔部位間の距離では、エンジンの剛性にもよるが、大き過ぎるので、この差を調整する目的で、第2のビードよりも外側、例えばボルト孔又はオイルリターン孔外側端部のどちらか更にはボルト孔及びオイルリターン孔外側端部の双方に増厚部を設ける。すなわち、燃焼室孔周囲に最適面圧を発生させるような最適変形量に接合面が変形するように適正な増厚部を設ける。
なお、ボルト孔及びオイルリターン孔外側端部双方に設ける場合には、オイルリターン孔外側端部に設ける増厚部の板厚は、ボルト孔周囲に設けた増厚板厚と同等か同等以上とすることが好ましい。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記増厚部の少なくとも一部は、上記ボルト孔周囲に設けることを特徴とするものである。
ここで、ボルト孔周囲とは、平面視で少なくとも一部がボルト座面と対向する部分である。
ボルトの締付けによる接合面の変形に直接関与するボルト孔周囲に増厚部を設けることで、効率良く、ボルト締付け時の上記接合面の変形を調整できるようになる。
【0012】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記増厚部の少なくとも一部は、上記基板の外周端部に設けることを特徴とするものである。
本発明によれば、ボルト締付けによって接合面の外周側における反る方向の変形を、基板外周端部に設けた増厚部による予圧によって付与する。
この作用は次のものである。すなわち、上記課題で説明した、エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面の反るような変形による接合面間の外周側での口開き現象に対し、本発明では、予め反る方向に変形させる予圧を接合面に初期負荷させることで、接合面外周部での熱膨張差による口開き方向の変形をゼロもしくは小さくする結果、基板外周側のシール劣化を抑える。
【0013】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記第2のビードを含む、当該第2のビード形成位置よりも外側に形成するビードをそれぞれ、次の(a)若しくは(b)のいずれかで構成することを特徴とするものである。
(a)ビードを、基板の両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材で構成する。
(b)ビードを、基板自体を板厚方向に加工してなる金属ビードと、その金属ビードの両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材との合成ビードで構成する。
ボルト締付け時に、燃焼室孔周りで荷重が高くなり燃焼室孔側ビードで大きなシール圧を発生する。また、副板との非積層部分の基板に形成したビードでは、燃焼室周りよりも荷重が小さくなるが、本発明のビードを採用することで、接合面との接触部が軟質シール材となることで、面でシールできて相対的に荷重が低くても充分なシールが可能となる。
【0014】
次に、請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成に対し、基板及び副板の少なくとも一方に対し、上記燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側の平坦部、及び燃焼室孔側ビードよりも冷却水孔側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔側の平坦部に、当該平坦部を加工してなる燃焼室孔側ビードよりも低いビードを1条以上成型することで、シールラインを増設することを特徴とするものである。
燃焼室孔周りにだけ副板を設ける事で、ボルト締付け時に燃焼室孔を挟んだボルト孔間では接合面は、燃焼室孔周りで接合面間の距離が大きくなるように変形する。このとき、請求項1に記載のように、基板外周側、特にボルト孔周りに増厚部を設けることで、その接合面の変形は緩和されるものの、やはり燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側で接合面間の隙間が大きくなる傾向に有る。
【0015】
これに対し、本発明では、燃焼室孔側ビードよりも少なくとも燃焼室側の平坦部に1条以上の補助ビードを成型することで、燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側で接合面間の隙間に対応してシールできて、燃焼ガスのシールがより確実となる。
ここで、基板の厚さに対する副板の厚さは、エンジンの硬さなどにもとづき調整すればよい。すなわち、基板の板厚と副板の板厚に板厚差を設けることで、接合面の変形を更に調整可能となって、金属ガスケットを搭載するエンジンの剛性適合範囲を拡大することが可能となったり、燃焼室孔周囲とボルト孔及びオイルリターン孔外側端部の3部位での変形の調整を可能にしたりすることが出来る。さらに補助ビード幅に変化を付け、円周方向に沿ってボルト近傍は広く、ボルト間は狭くして限られた締付け荷重を有効に使用する技術を用いることも出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃焼室孔周りのシールを確保しつつ、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッドの接合面の変形を適正な変形に調整することが可能となる結果、コストを抑えつつシンプルな構造によって性能改善を図ることが可能で性能を保持しながら安価な金属ガスケットを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る金属ガスケット1を一部切り欠いた状態で示す概要平面図である。図2は、図1のC−C断面図である。
(構成)
まず構成について説明すると、図1及び図2に示すように、鋼材などバネ力を発生可能な弾性金属板からなる基板2及び副板3が対向配置されている。厚さは、例えば基板2と副板3と同一もしくは同等厚としておく。もっとも板厚は異なっていっても構わない。
上記基板2には、図1に示すように、エンジンの燃焼室に対応して設けられた複数の燃焼室孔4aが、所定方向に並んで開口している。また、基板2には、燃焼室孔4aを無端状に囲むように燃焼室孔側ビード8aが成型されている。その燃焼室孔側ビード8aは、基板2自体を板厚方向に変形加工してなるフルビードである。もっともステップ状のハーフビードであっても良い。
【0018】
その燃焼室孔側ビード8aよりも外周側の基板部分には、エンジンの冷却水領域(冷却水が通過する空間)と板厚方向で対向する位置に、複数の冷却水孔5が上記燃焼室孔側ビード8aに沿って複数形成されている。更に、その複数の冷却水孔5の外周側には、その燃焼室孔側ビード8aに沿って形成された複数の冷却水孔5を囲むようにして第2のビードである外周側ビード9が形成されている。図2では、外周側ビード9を、基板2を板厚方向に変形加工してなるステップ状のハーフビードで設けた場合を例示している。
【0019】
また、外周側ビード9よりも外側の基板部分には、ボルト孔6及びオイル孔7が形成され、オイル孔7周りなどシールが必要な部分に別途、第3のビード11が形成されてシールされている。第3のビード11は、例えば基板2を板厚方向に変形加工してなるステップ状のハーフビードで構成すればよい。
また、上記のような基板2と板厚方向で対向配置される副板3は、基板2の燃焼室孔4a側で当該基板2と積層配置される。即ち、副板3にも、基板2の燃焼室孔4aと同じ位置に同じ形状の燃焼室孔4bが開口することで、副板3の内周側(燃焼室孔4b側)は、基板2の内周側(燃焼室孔4a側)と同じ位置もしくは同等の位置に配置される。もっとも、基板2の燃焼室孔4aの径と副板3の燃焼室孔4bの径を若干変えてもよい。
【0020】
また、副板3の外周側端部は、基板2に形成した燃焼室孔側ビード8aと外周側ビード9との間に位置するように設定されている。例えば、副板3の外周側は、シリンダブロック50に形成される冷却水領域内と重なる位置に設定する(図11参照)。
その副板3にも、燃焼室孔4bを無端状に囲む燃焼室孔側ビード8bが成型されている。その燃焼室孔側ビード8bは、副板3を板厚方向に変形加工して形成されるフルビードで形成されている。もっとも、燃焼室孔側ビード8bをステップ状のハーフビードに成型しても良い。なお、基板2の冷却水孔5と対向する部分には冷却水孔を形成しておく。
【0021】
上記副板3は、シリンダブロック50の冷却水領域と対向する位置において、基板2に止められている。符号13がその掛止部である。冷却水領域で基板2と副板3とを連結することで、エンジンに締結された後の運転時の振動に対し、基板2のビードと副板3のビードが自由に変形追随できる構造となる。
ここで、基板2に設けるビードのうち、燃焼室孔4a周囲以外の副板3と非対向部位のビードは、副板3の板厚分だけビードの高さを考慮しなければならない。
【0022】
また、図3に燃焼室孔4a間位置の部分の断面図を示す。燃焼室孔4aでは間隔が狭いので、2つの燃焼室孔側ビード8a、8bがそれぞれ合流して1条のビードとなっている。もっとも図4に示すように、燃焼室孔側ビード8a、8bをそれぞれハーフビードとして合流させなくても構わない。
また、本実施形態では、基板2の外周端部における周方向に沿ったボルト孔6間の部分に対して薄板金属板12aが溶接で固定されることで増厚されて増厚部12となっている。
【0023】
また、ボルト孔6周囲も、図5に示すように、シム板10aを折り返し鳩目方式で増厚して増厚部10としている。ボルト孔6周囲の増厚部10は、図1のB−B断面である図6に示すように、鳩目の代わりに金属薄板10bをボルト孔6周縁に固着して増厚してもよい。鳩目ではボルト孔6を大きくして鳩目を掛けることになるが、この鳩目では技術的にシム板10aの板厚を余り薄く出来ない。また、ボルト孔6の周囲に制約があって余り広く外側に面積が取れない場合がある。この場合に、図6のような構成が採用され、増厚用の金属10bの面積を稼ぐのにボルト孔6ぎりぎりまで詰めて面積を稼ぐ。すなわち、増厚面積がどの程度必要かを考慮する必要がある。例えば、エンジンの材料がアルミ合金になった為に剛性が低くなって、ボルト孔6直下の荷重が大きく且つ面積が小さいとエンジンを陥没させるおそれがある。更に、本実施形態では、面積に不安がある場合には、増厚をボルト52周縁の増厚部10と外周端部の増厚部12の双方に設けることで増厚部の面積を稼ぐことで面圧を下げられることが出来る安価な製品となる。
【0024】
また、ボルト孔6形成位置よりも外側に、シールすべき孔、例えばオイル孔7が形成され、そのオイル孔7を囲むビード11が形成されている場合には、図5のように、基板2外周端部の薄板12bを固定して増厚部12を形成しておく。
ここで、上記増厚部10,12の総板厚は、副板3の積層位置の総板厚よりも小さくなるように、増厚の量を調整する。
また、基板2外周端部での増厚部12の総板厚と、ボルト孔6周囲の増厚部10の総板厚とは、基板2外周端部側の増厚部12の総板厚の方が厚いか、基板2外周端部での増厚部の12総板厚と、ボルト孔6周囲の増厚部10の総板厚とを同じ厚さに設定する。
【0025】
(作用効果)
基板2に積層する副板3が燃焼室孔4a周りだけとなって安価な金属ガスケット1となる。
また、基板2と副板3とからなる金属ガスケット1をシリンダブロック50の接合面Sとシリンダヘッド51との間に介挿し、エンジンをボルト52で締め付けて締結した際、副板3の配置が燃焼室孔4a周りであり、その部分の総板厚が一番大きいので、燃焼室孔4a周りで面圧を一番高くして燃焼ガスを高いシール圧でシールする。
また、基板2に対する副板3との非積層部である冷却水孔5外周の外周側ビード9よりも外周側の基板部分に増厚部10,12を設けることで、ボルト52締付け時のシリンダヘッド51及びシリンダブロック50との接合面Sの変形を調整出来ることで、上記燃焼室孔4a周りのシール面圧を調整することが出来る。
【0026】
即ち、冷却水孔5より外側部分は副板3の無い分、板厚差分発生している。この板厚差分は、ボルト孔6から冷却水孔5部位間の距離では、締付け荷重やエンジンの剛性によっては大き過ぎる結果、例えばアルミ合金からなる接合面Sに陥没が発生して燃焼室孔4a周りの荷重がその分だけ小さくなる場合もある、これに対して、副板3とは非積層部分である外周側ビード9よりも外側の基板部分に増厚部10,12を設けることで、副板3の板厚差分による接合面Sの変形が緩和されて、即ち、増厚部10,12によって、燃焼室孔4a周囲に最適面圧を発生させるような最適変形量に接合面Sを変形させることが出来る。特に軟質のアルミ合金製のエンジンに好適である。
【0027】
この場合でも、増厚部10,12の総板厚よりも副板3積層位置の総板厚の方を厚くすることで、燃焼室孔4a周りの荷重を大きくしている。
またこのとき、ボルト52の締付けによる変形に直接関与するボルト孔6周囲に増厚部10を設けることで、効率良く、ボルト52締付け時の上記接合面Sの変形を調整できるようになる。
【0028】
また、基板2外周端部に増厚部12(オイル孔7よりも外側部分)を設けると、ボルト孔6よりも外側位置の接合面Sに対し、ボルト52締付けによって接合面S間が離れる方向に反る変形を与える予圧を付与出来る。即ち、燃焼室孔4a周りの総板厚を一番厚くすると、接合面Sは、ボルト52締付けによって、燃焼室孔4a側で接合面S間の間隔が大きく、ボルト孔6位置で接合面S間の間隔が小さくなるように傾斜する傾向にある。これに対して、本実施形態では、燃焼室孔4aからの距離で、ボルト孔6位置よりも外周側の基板2に増厚部12を設けることで、図7に示すように、接合面Sの外周部を若干反らせるような予圧を付与することになる。図7中、破線Lはシリンダヘッド51の変形ラインである。また、図8にボルト孔6周りの増厚部10を省略した場合を示し、その場合の接合面Sの変形の模式図を図9に示す。
【0029】
これによって、前述の課題で説明した、エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面Sの反るような変形による接合面S間の外周側での口開き現象に対し、予め反る方向に変形させる力を接合面Sに初期負荷を掛けているので、接合面S外周部での熱膨張差による口開き方向の変形をゼロもしくは小さくなる。この結果、基板2外周側のシール劣化を抑える。
【0030】
また、各増厚部10,12は、副板3と非積層位置の基板2に設けたビードの過圧縮を防止する作用も有する。この作用は、後述のような軟質シール材を使用した場合に特に有効である。
これは、ボルト孔6の外側にシールすべきオイル孔7を設けた場合も同様であり、オイル孔7の外周側に増厚部を設けることでも、上記エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面Sの反るような変形による接合面S間の外周側での口開き現象を抑えて、オイル孔7周囲をシールするビードの経時的劣化を抑えることが可能となる。
【0031】
(応用)
ここで、上記実施形態では、ボルト孔6周囲と基板2外周端の両方に増厚部10,12を設けているが、どちらか一方にだけ増厚部を設けても良い。また、ボルト荷重を余り受けない他の位置に増厚部を設けても良い。上述の図8は、ボルト孔周りの増厚部10を省略した例である。また、図10は、ボルト孔6よりも外側の位置する増厚部12を省略したものである。この場合の接合面Sの変形の模式図を図11に示す。この場合でも周方向に沿ったボルト孔6間に位置する増厚部12(板12aで増厚した部分)は設ける方が好ましい。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記実施形態と同様な部品などについては同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、外周側ビード9及び第3のビード11を、図12のように、弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bを固着して形成したものである。
その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0033】
(作用効果)
この軟質シール材16a、16bは、ゴム、樹脂系のシール材等があり、その高さ、幅、硬度を自由に設計でき、変形追随量も大きく当ガスケット構成のように燃焼室孔4a周囲と外部シール部との板厚さの大きいシールには最適である。なお、シール材の過圧縮を防止する為の増厚部は必要である。
そして、ボルト52締付け時に、燃焼室孔4a周りで荷重が高くなり燃焼室孔側ビード8aで大きなシール圧を発生する。また、副板3との非積層部分の基板2に形成したビード9,11では、燃焼室孔4a周りよりも荷重が小さくなるが、本発明のビードを採用することで、接合面Sとの接触部が軟質シール材16a、16bとなることで、面でシールできて相対的に荷重が低くても充分なシールが可能となる。
【0034】
即ち、耐熱弾力性のある軟質シール材16a、16bからなるビードは、ガスケット係数が小さく大きな発生荷重を与えることが可能である。また、なじみ性も良く、接合面Sの加工粗さを吸収出来、アルミ製のエンジンの欠点である鋳造時に発生する鋳巣に対してもビードシール幅を広く抑えることが出来る。更に、変形追従量も大きくエンジンの動きでシール材が削り取られにくいという作用もある。
【0035】
(応用)
上記弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bだけからビードを形成する代わりに、図13のようなビード構成としても良い。即ち、基板2を板厚方向に変形加工して金属ビード9aを形成し、その金属ビード9aの両面に弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bを成型して、金属ビード9aとゴムビードとの合成バネによるビード9としても良い。よりシール圧を稼ぐことが可能となる。即ち、金属ビード9aのバネとシール材16a、16bの弾力性が合成されてシール面圧を発生する。高い内圧に対してもシール材のみのビードと異なり変形も少なく高い内圧シールに適している。また、金属ビードでシール材の変形を制限しているため、高い圧力にもシール材が必要以上に変形することを抑えて長期に亘ってシールを担保可能となる。
なお、面圧の調整はシール材の過圧縮を制限する増厚部は、ボルト孔6周囲か基板2の外周端部に、又はその双方に設け、シール材の幅及び高さ、硬度と共に調整すればよい。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記各実施形態と同様な部品などについては同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1及び2実施形態と同様であるが、図14,図15に示すように、副板3に対して、燃焼室孔側ビード8a、8bより低い補助ビード14,15を形成した点が異なる。
【0037】
すなわち、副板3に対し、上記燃焼室孔側ビード8aよりも燃焼室孔4a側の平坦部、及び燃焼室孔側ビード8aよりも冷却水孔5側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔4a側の平坦部に、当該平坦部を加工してなるビードを1条以上成型することで、シールラインを増設したものである。
図14は、補助ビードを、燃焼室孔4a側の平坦部にステップ状のハーフビード14で構成した場合の例を示し、冷却水孔5側の平坦部にフルビート15から構成する例を示している。図15では、燃焼室孔4a側の平坦部にフルビートから構成する補助ビード14を形成した例を示している。
その他の構成は上記実施形態と同様である。
【0038】
(作用効果)
燃焼室孔4a側平坦部に小さいビードを成型して、燃焼室孔4a近くに局部的に面圧の高い部分を形成することで、燃焼室孔4a側から来る高温高圧ガスを2重にシールする事が出来る。
より具体的に説明すると、ボルト52で締結されたガスケットは、燃焼室孔4a中心を挟んだボルト孔6間では、冷却水孔5の下側部分でシリンダブロック50に接触している副板3の最も外側部分と燃焼室孔4a周囲のビードシールライン部分が高い面圧を発生してエンジンを湾曲に変形させている。湾曲変形したシリンダヘッド51の接合面Sは、燃焼室孔4a中心部の変形が1番大きく、ガスケット部分では燃焼室孔4a周囲に成型したビードより燃焼室孔4a側の平坦部には僅かな隙間が発生している。また、ビード荷重によっても接合面Sの変形を助長している。この僅かな隙間は、エンジンの爆発振動で燃焼ガスや冷却水を吸排する作用が発生するので、長期的にみると弊害となることがある。
【0039】
これに対し、本願発明では、この僅かな隙間を、本実施形態では、この平坦部に形成したバネ応力の弱い補助ビード14,15で補い、燃焼ガスが主要ビードまで浸入することを防止する。
補助ビード14,15は、燃焼室孔4a周囲に成型した燃焼室孔側ビード8aより燃焼室孔4a側の平坦部又は燃焼室孔側ビード8aより外側の水孔までの平坦部か、更にはビード内外の双方に設けるかは、エンジンの剛性により判断する。勿論補助ビード14,15の形状や大きさもエンジンの剛性により判断して決定するが、補助ビードの幅に変化を設け、限られた締付け荷重を効率的に配分するために、周方向に沿ってボルト近傍は広く、ボルト間は狭くする方法も採用する。
【0040】
(応用)
上記実施形態では、副板3に補助ビード14,15を形成する場合を例示しているが、副板3に替え、もしくは副板3と共に、基板2側に補助ビード14,15を形成しても良い。燃焼室孔4a間の部分の図である図10に、補助ビード16を基板2に形成する場合を例示する。
また、全実施形態は、上記実施形態に構成に限定されるものでは無い。例えば、基板2及び副板3の各両面にシール材を全面、又は部分的に塗布及び貼り付けても良い。
また、エンジンの剛性に応じて基板2と副板3とに板厚差を設けても良い。
ここで、ガスケットの板厚が規定されたとき、副板3の板厚又は基板2の板厚を調整して要求板厚に合わせる。このとき、本発明は、板厚が制限されても、第1実施形態のように、ボルト孔周りや外周端部に設ける増厚部を調整して、燃焼ガス、水、オイルの漏れを防止できる最適バランスを構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る金属ガスケットを示す一部破断した平面図である。
【図2】図1のC−C断面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のA−A断面図の別例である。
【図5】図1のD−D断面図である。
【図6】図1のD−D断面図の別例である。
【図7】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図8】図1のD−D断面図の別例である。
【図9】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図10】図1のD−D断面図の別例である。
【図11】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図12】本発明に基づく第2実施形態に係る金属ガスケットを説明する断面図である。
【図13】本発明に基づく第2実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【図14】本発明に基づく第3実施形態に係る金属ガスケットを説明する断面図である。
【図15】本発明に基づく第3実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【図16】本発明に基づく第3実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 金属ガスケット
2 基板
3 副板
4a 燃焼室孔
4b 燃焼室孔
5 冷却水孔
7 オイル孔
8a 燃焼室孔側ビード
8b 燃焼室孔側ビード
9 外周側ビード
9a 金属ビード
10 増厚部
10a シム板
10b 金属
11 第3のビード
12 増厚部
12a 薄板金属板
12b 薄板
14,15 補助ビード
16a、16b シール材
50 シリンダブロック
51 シリンダヘッド
52 ボルト
S 接合面
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンを構成するシリンダブロックとシリンダヘッドとの対向する接合面間に介装されて使用される金属ガスケットであって、上記シリンダブロックとシリンダヘッドとが金属ガスケットを介装した状態でボルト締結されるエンジンで使用される当該金属ガスケットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来の金属ガスケットとしては、例えば特許文献1及び特許文献2に記載される金属ガスケットがある。
特許文献1に記載の金属ガスケットは、弾性金属板からなる2枚の基板を積層し、その各基板に対し、燃焼室孔を開口し、その燃焼室孔の周囲に対し燃焼室ガスをシールするフルビードからなる燃焼室孔側ビードを成型し、その燃焼室側ビードの外周位置に形成した冷却水孔、オイル孔、ボルト孔等のうちシールを必要とする孔の周囲にビードを成型してシールしている。更に、積層した2枚の基板の間に対し、燃焼室孔周囲にだけシム板を挟持させ、そのシム板と基板の結合は、2枚の基板の内どちらか1方の基板で燃焼室ガスをシールするために成型したビードの燃焼室孔側の平坦部に溶接で固着している。
【0003】
すなわち、燃焼室孔周囲の総板厚を、シム板を配設することにより増厚することで、エンジンに装着しボルトで締結した際に、ボルト孔間の燃焼室孔周囲のみ配置したシム板厚分によってシリンダヘッド(の接合面)を変形させることで、燃焼室孔周囲の面圧が増大して高い燃焼ガス圧をシールすると共に、ビードに対し運転による爆発で繰り返して起こる振動振幅を僅少に抑えて金属ビードの疲労破壊を防止する。
【0004】
また、特許文献2に記載した金属ガスケットは、弾性金属板からなる1枚の基板に対し、燃焼室孔周囲のみに副板を併設し、基板と副板の両方に燃焼室孔周囲に燃焼ガスをシールするフルビードからなる燃焼室孔側ビードを成型した金属ガスケットである。成型した燃焼室孔側ビードのうちの副板に成型するビードの軌線を、ボルト孔近傍において基板に成型したビード軌線に対し最大ビード幅の4分の1ずらすと共に、ボルト孔間は同一軌線とし、その両者の境界部では徐々に変化させている。これによって、金属ガスケットをエンジンに装着しボルトで締結した時に発生する、ビードの変形応力を部分的に変化させることで、限られたボルト軸力を有効に活用すると共に燃焼室孔周囲で発生するビードの発生面圧の平均化を図っている。
【特許文献1】特許第3314371号
【特許文献2】特許第3553099号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
その後、エンジン技術は急速に進化を続け、エンジンの小型軽量化、高性能化、省エネ機構の取り入れで熱負荷の増大やハイメカ技術の導入等により、例えばエンジン剛性は低下する傾向にある。この結果、高温高圧な燃焼ガスと発生するエンジン熱を冷却する冷却水、エンジン回転摺動部を潤滑するオイル等条件の異なる気体や液体を1枚の金属ガスケットでシールする技術には、色々な問題が発生している。
このようなエンジン剛性の低下に対する対応と、インターネットの普及で部品を世界市場から調達する傾向からコスト競争力も強いられる現在にあっては、性能とコスト双方で要求がますます厳しくなっている。
そして、エンジンの進化技術に追随が難しくエンジンの使用条件によっては問題が発生する。
【0006】
例えば、特許文献1及び特許文献2では、燃焼室孔周囲をシム板で増厚して燃焼ガスを中心にシールしているが、ボルト孔より外側位置に張り出しているオイルリターン孔より外端部の基板外周端部側に着目すると、エンジンの運転初期に起こるシリンダヘッドとシリンダブロックとの対向する接合面と、接合面から離れたエンジン部分との温度上昇の時間差で熱膨張差が発生して、対応する上記両接合面はお互いにそり方向に変形(外周部での隙間が大きくなる方向に変形)する。この変形は、燃焼室孔を挟んだボルト孔間ではボルトの軸力で変形を矯正することは可能であるものの、そのボルト孔間に位置する燃焼室孔周囲に設けたシム板の板厚分だけ、ボルト孔部ではシリンダヘッドを変形させている。勿論、このためにシム板のある燃焼室孔周りの増厚部分では高い面圧を発生している。しかしボルト孔より外側では、上記接合面の変形を矯正するものが無いので、温度差によりオイルリターン孔の外側では対応する接合面間に口開きが起こる。この口開きを繰り返すことで、そのオイルリターン孔を囲むシールの経時的な劣化によって、オイルリターン孔からのオイル漏れの原因となる。
【0007】
上記口開き現象は運転が継続して稼働してエンジン全体の温度が平準化したら停止するが、運転停止が繰り返されることでガスケットの表面に塗布されたシール材も口開きの繰り返しによって生じる摺動で削られたりシールの耐久性を劣化させたりしてシール力が低下することでオイル漏れが増大するおそれがある。この現象は、寒冷地のように温度差の大きい地域では大きくなる。
そして、この現象によって、特許文献1及び2ともに同一の不具合を発生する場合がある。
本発明は、コストを抑えつつシンプルな構造によって性能改善を図ることが可能な金属ガスケットを提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、バネを発生可能な弾力金属板からなる基板と、基板の板厚と同じもしくは異なる厚さで且つバネを発生可能な弾力金属板からなり上記基板の一部と厚さ方向で対向配置される副板とを、備え、
上記基板には、燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むように当該基板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その燃焼室孔側ビードの外周側に冷却水孔が開口すると共にその冷却水孔の外周を囲むように第2のビードが設けられ、その第2のビードよりも外側にボルト孔が開口しており、
上記副板にも、上記基板の燃焼室孔に対応した燃焼室孔が開口していると共にその燃焼室孔を囲むように当該副板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その副板の外周端位置が、上記基板における燃焼室孔側ビード形成位置よりも外周側かつ上記第2のビード形成位置よりも内周側となるように設定され、
上記第2のビードよりも外側に位置する基板部分に対して増厚部を設け、増厚部を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板及び副板からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整したことを特徴とする。
【0009】
本発明では、金属板の積層部分が燃焼室孔周りだけとなって安価な金属ガスケットとなる。また、当該積層部である燃焼室孔周りの総板厚を一番大きくすることで、ボルト締付け時の面圧を燃焼室孔周りで一番高くして燃焼ガスをシールする。また、基板に対する副板との非積層部である冷却水孔外周の第2のビードよりも外側の基板部分に増厚部を設けることで、ボルト締付け時のシリンダヘッドとシリンダブロックとの接合面の変形を調整出来ることで、上記燃焼室孔周りのシール面圧を調整することが出来る。
【0010】
即ち、冷却水孔より外側部分は副板の無い分、板厚差分発生している。この板厚差分は、ボルト孔から冷却水孔部位間の距離では、エンジンの剛性にもよるが、大き過ぎるので、この差を調整する目的で、第2のビードよりも外側、例えばボルト孔又はオイルリターン孔外側端部のどちらか更にはボルト孔及びオイルリターン孔外側端部の双方に増厚部を設ける。すなわち、燃焼室孔周囲に最適面圧を発生させるような最適変形量に接合面が変形するように適正な増厚部を設ける。
なお、ボルト孔及びオイルリターン孔外側端部双方に設ける場合には、オイルリターン孔外側端部に設ける増厚部の板厚は、ボルト孔周囲に設けた増厚板厚と同等か同等以上とすることが好ましい。
【0011】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記増厚部の少なくとも一部は、上記ボルト孔周囲に設けることを特徴とするものである。
ここで、ボルト孔周囲とは、平面視で少なくとも一部がボルト座面と対向する部分である。
ボルトの締付けによる接合面の変形に直接関与するボルト孔周囲に増厚部を設けることで、効率良く、ボルト締付け時の上記接合面の変形を調整できるようになる。
【0012】
次に、請求項3に記載した発明は、請求項1又は請求項2に記載した構成に対し、上記増厚部の少なくとも一部は、上記基板の外周端部に設けることを特徴とするものである。
本発明によれば、ボルト締付けによって接合面の外周側における反る方向の変形を、基板外周端部に設けた増厚部による予圧によって付与する。
この作用は次のものである。すなわち、上記課題で説明した、エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面の反るような変形による接合面間の外周側での口開き現象に対し、本発明では、予め反る方向に変形させる予圧を接合面に初期負荷させることで、接合面外周部での熱膨張差による口開き方向の変形をゼロもしくは小さくする結果、基板外周側のシール劣化を抑える。
【0013】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記第2のビードを含む、当該第2のビード形成位置よりも外側に形成するビードをそれぞれ、次の(a)若しくは(b)のいずれかで構成することを特徴とするものである。
(a)ビードを、基板の両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材で構成する。
(b)ビードを、基板自体を板厚方向に加工してなる金属ビードと、その金属ビードの両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材との合成ビードで構成する。
ボルト締付け時に、燃焼室孔周りで荷重が高くなり燃焼室孔側ビードで大きなシール圧を発生する。また、副板との非積層部分の基板に形成したビードでは、燃焼室周りよりも荷重が小さくなるが、本発明のビードを採用することで、接合面との接触部が軟質シール材となることで、面でシールできて相対的に荷重が低くても充分なシールが可能となる。
【0014】
次に、請求項5に記載の発明では、請求項1〜4のいずれか1項に記載の構成に対し、基板及び副板の少なくとも一方に対し、上記燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側の平坦部、及び燃焼室孔側ビードよりも冷却水孔側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔側の平坦部に、当該平坦部を加工してなる燃焼室孔側ビードよりも低いビードを1条以上成型することで、シールラインを増設することを特徴とするものである。
燃焼室孔周りにだけ副板を設ける事で、ボルト締付け時に燃焼室孔を挟んだボルト孔間では接合面は、燃焼室孔周りで接合面間の距離が大きくなるように変形する。このとき、請求項1に記載のように、基板外周側、特にボルト孔周りに増厚部を設けることで、その接合面の変形は緩和されるものの、やはり燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側で接合面間の隙間が大きくなる傾向に有る。
【0015】
これに対し、本発明では、燃焼室孔側ビードよりも少なくとも燃焼室側の平坦部に1条以上の補助ビードを成型することで、燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側で接合面間の隙間に対応してシールできて、燃焼ガスのシールがより確実となる。
ここで、基板の厚さに対する副板の厚さは、エンジンの硬さなどにもとづき調整すればよい。すなわち、基板の板厚と副板の板厚に板厚差を設けることで、接合面の変形を更に調整可能となって、金属ガスケットを搭載するエンジンの剛性適合範囲を拡大することが可能となったり、燃焼室孔周囲とボルト孔及びオイルリターン孔外側端部の3部位での変形の調整を可能にしたりすることが出来る。さらに補助ビード幅に変化を付け、円周方向に沿ってボルト近傍は広く、ボルト間は狭くして限られた締付け荷重を有効に使用する技術を用いることも出来る。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、燃焼室孔周りのシールを確保しつつ、エンジンのシリンダブロック及びシリンダヘッドの接合面の変形を適正な変形に調整することが可能となる結果、コストを抑えつつシンプルな構造によって性能改善を図ることが可能で性能を保持しながら安価な金属ガスケットを提供することが出来る。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
次に、本発明の第1実施形態を図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係る金属ガスケット1を一部切り欠いた状態で示す概要平面図である。図2は、図1のC−C断面図である。
(構成)
まず構成について説明すると、図1及び図2に示すように、鋼材などバネ力を発生可能な弾性金属板からなる基板2及び副板3が対向配置されている。厚さは、例えば基板2と副板3と同一もしくは同等厚としておく。もっとも板厚は異なっていっても構わない。
上記基板2には、図1に示すように、エンジンの燃焼室に対応して設けられた複数の燃焼室孔4aが、所定方向に並んで開口している。また、基板2には、燃焼室孔4aを無端状に囲むように燃焼室孔側ビード8aが成型されている。その燃焼室孔側ビード8aは、基板2自体を板厚方向に変形加工してなるフルビードである。もっともステップ状のハーフビードであっても良い。
【0018】
その燃焼室孔側ビード8aよりも外周側の基板部分には、エンジンの冷却水領域(冷却水が通過する空間)と板厚方向で対向する位置に、複数の冷却水孔5が上記燃焼室孔側ビード8aに沿って複数形成されている。更に、その複数の冷却水孔5の外周側には、その燃焼室孔側ビード8aに沿って形成された複数の冷却水孔5を囲むようにして第2のビードである外周側ビード9が形成されている。図2では、外周側ビード9を、基板2を板厚方向に変形加工してなるステップ状のハーフビードで設けた場合を例示している。
【0019】
また、外周側ビード9よりも外側の基板部分には、ボルト孔6及びオイル孔7が形成され、オイル孔7周りなどシールが必要な部分に別途、第3のビード11が形成されてシールされている。第3のビード11は、例えば基板2を板厚方向に変形加工してなるステップ状のハーフビードで構成すればよい。
また、上記のような基板2と板厚方向で対向配置される副板3は、基板2の燃焼室孔4a側で当該基板2と積層配置される。即ち、副板3にも、基板2の燃焼室孔4aと同じ位置に同じ形状の燃焼室孔4bが開口することで、副板3の内周側(燃焼室孔4b側)は、基板2の内周側(燃焼室孔4a側)と同じ位置もしくは同等の位置に配置される。もっとも、基板2の燃焼室孔4aの径と副板3の燃焼室孔4bの径を若干変えてもよい。
【0020】
また、副板3の外周側端部は、基板2に形成した燃焼室孔側ビード8aと外周側ビード9との間に位置するように設定されている。例えば、副板3の外周側は、シリンダブロック50に形成される冷却水領域内と重なる位置に設定する(図11参照)。
その副板3にも、燃焼室孔4bを無端状に囲む燃焼室孔側ビード8bが成型されている。その燃焼室孔側ビード8bは、副板3を板厚方向に変形加工して形成されるフルビードで形成されている。もっとも、燃焼室孔側ビード8bをステップ状のハーフビードに成型しても良い。なお、基板2の冷却水孔5と対向する部分には冷却水孔を形成しておく。
【0021】
上記副板3は、シリンダブロック50の冷却水領域と対向する位置において、基板2に止められている。符号13がその掛止部である。冷却水領域で基板2と副板3とを連結することで、エンジンに締結された後の運転時の振動に対し、基板2のビードと副板3のビードが自由に変形追随できる構造となる。
ここで、基板2に設けるビードのうち、燃焼室孔4a周囲以外の副板3と非対向部位のビードは、副板3の板厚分だけビードの高さを考慮しなければならない。
【0022】
また、図3に燃焼室孔4a間位置の部分の断面図を示す。燃焼室孔4aでは間隔が狭いので、2つの燃焼室孔側ビード8a、8bがそれぞれ合流して1条のビードとなっている。もっとも図4に示すように、燃焼室孔側ビード8a、8bをそれぞれハーフビードとして合流させなくても構わない。
また、本実施形態では、基板2の外周端部における周方向に沿ったボルト孔6間の部分に対して薄板金属板12aが溶接で固定されることで増厚されて増厚部12となっている。
【0023】
また、ボルト孔6周囲も、図5に示すように、シム板10aを折り返し鳩目方式で増厚して増厚部10としている。ボルト孔6周囲の増厚部10は、図1のB−B断面である図6に示すように、鳩目の代わりに金属薄板10bをボルト孔6周縁に固着して増厚してもよい。鳩目ではボルト孔6を大きくして鳩目を掛けることになるが、この鳩目では技術的にシム板10aの板厚を余り薄く出来ない。また、ボルト孔6の周囲に制約があって余り広く外側に面積が取れない場合がある。この場合に、図6のような構成が採用され、増厚用の金属10bの面積を稼ぐのにボルト孔6ぎりぎりまで詰めて面積を稼ぐ。すなわち、増厚面積がどの程度必要かを考慮する必要がある。例えば、エンジンの材料がアルミ合金になった為に剛性が低くなって、ボルト孔6直下の荷重が大きく且つ面積が小さいとエンジンを陥没させるおそれがある。更に、本実施形態では、面積に不安がある場合には、増厚をボルト52周縁の増厚部10と外周端部の増厚部12の双方に設けることで増厚部の面積を稼ぐことで面圧を下げられることが出来る安価な製品となる。
【0024】
また、ボルト孔6形成位置よりも外側に、シールすべき孔、例えばオイル孔7が形成され、そのオイル孔7を囲むビード11が形成されている場合には、図5のように、基板2外周端部の薄板12bを固定して増厚部12を形成しておく。
ここで、上記増厚部10,12の総板厚は、副板3の積層位置の総板厚よりも小さくなるように、増厚の量を調整する。
また、基板2外周端部での増厚部12の総板厚と、ボルト孔6周囲の増厚部10の総板厚とは、基板2外周端部側の増厚部12の総板厚の方が厚いか、基板2外周端部での増厚部の12総板厚と、ボルト孔6周囲の増厚部10の総板厚とを同じ厚さに設定する。
【0025】
(作用効果)
基板2に積層する副板3が燃焼室孔4a周りだけとなって安価な金属ガスケット1となる。
また、基板2と副板3とからなる金属ガスケット1をシリンダブロック50の接合面Sとシリンダヘッド51との間に介挿し、エンジンをボルト52で締め付けて締結した際、副板3の配置が燃焼室孔4a周りであり、その部分の総板厚が一番大きいので、燃焼室孔4a周りで面圧を一番高くして燃焼ガスを高いシール圧でシールする。
また、基板2に対する副板3との非積層部である冷却水孔5外周の外周側ビード9よりも外周側の基板部分に増厚部10,12を設けることで、ボルト52締付け時のシリンダヘッド51及びシリンダブロック50との接合面Sの変形を調整出来ることで、上記燃焼室孔4a周りのシール面圧を調整することが出来る。
【0026】
即ち、冷却水孔5より外側部分は副板3の無い分、板厚差分発生している。この板厚差分は、ボルト孔6から冷却水孔5部位間の距離では、締付け荷重やエンジンの剛性によっては大き過ぎる結果、例えばアルミ合金からなる接合面Sに陥没が発生して燃焼室孔4a周りの荷重がその分だけ小さくなる場合もある、これに対して、副板3とは非積層部分である外周側ビード9よりも外側の基板部分に増厚部10,12を設けることで、副板3の板厚差分による接合面Sの変形が緩和されて、即ち、増厚部10,12によって、燃焼室孔4a周囲に最適面圧を発生させるような最適変形量に接合面Sを変形させることが出来る。特に軟質のアルミ合金製のエンジンに好適である。
【0027】
この場合でも、増厚部10,12の総板厚よりも副板3積層位置の総板厚の方を厚くすることで、燃焼室孔4a周りの荷重を大きくしている。
またこのとき、ボルト52の締付けによる変形に直接関与するボルト孔6周囲に増厚部10を設けることで、効率良く、ボルト52締付け時の上記接合面Sの変形を調整できるようになる。
【0028】
また、基板2外周端部に増厚部12(オイル孔7よりも外側部分)を設けると、ボルト孔6よりも外側位置の接合面Sに対し、ボルト52締付けによって接合面S間が離れる方向に反る変形を与える予圧を付与出来る。即ち、燃焼室孔4a周りの総板厚を一番厚くすると、接合面Sは、ボルト52締付けによって、燃焼室孔4a側で接合面S間の間隔が大きく、ボルト孔6位置で接合面S間の間隔が小さくなるように傾斜する傾向にある。これに対して、本実施形態では、燃焼室孔4aからの距離で、ボルト孔6位置よりも外周側の基板2に増厚部12を設けることで、図7に示すように、接合面Sの外周部を若干反らせるような予圧を付与することになる。図7中、破線Lはシリンダヘッド51の変形ラインである。また、図8にボルト孔6周りの増厚部10を省略した場合を示し、その場合の接合面Sの変形の模式図を図9に示す。
【0029】
これによって、前述の課題で説明した、エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面Sの反るような変形による接合面S間の外周側での口開き現象に対し、予め反る方向に変形させる力を接合面Sに初期負荷を掛けているので、接合面S外周部での熱膨張差による口開き方向の変形をゼロもしくは小さくなる。この結果、基板2外周側のシール劣化を抑える。
【0030】
また、各増厚部10,12は、副板3と非積層位置の基板2に設けたビードの過圧縮を防止する作用も有する。この作用は、後述のような軟質シール材を使用した場合に特に有効である。
これは、ボルト孔6の外側にシールすべきオイル孔7を設けた場合も同様であり、オイル孔7の外周側に増厚部を設けることでも、上記エンジンの運転初期に起こる、熱膨張差を原因とした接合面Sの反るような変形による接合面S間の外周側での口開き現象を抑えて、オイル孔7周囲をシールするビードの経時的劣化を抑えることが可能となる。
【0031】
(応用)
ここで、上記実施形態では、ボルト孔6周囲と基板2外周端の両方に増厚部10,12を設けているが、どちらか一方にだけ増厚部を設けても良い。また、ボルト荷重を余り受けない他の位置に増厚部を設けても良い。上述の図8は、ボルト孔周りの増厚部10を省略した例である。また、図10は、ボルト孔6よりも外側の位置する増厚部12を省略したものである。この場合の接合面Sの変形の模式図を図11に示す。この場合でも周方向に沿ったボルト孔6間に位置する増厚部12(板12aで増厚した部分)は設ける方が好ましい。
【0032】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記実施形態と同様な部品などについては同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1実施形態と同様であるが、外周側ビード9及び第3のビード11を、図12のように、弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bを固着して形成したものである。
その他の構成は、上記実施形態と同様である。
【0033】
(作用効果)
この軟質シール材16a、16bは、ゴム、樹脂系のシール材等があり、その高さ、幅、硬度を自由に設計でき、変形追随量も大きく当ガスケット構成のように燃焼室孔4a周囲と外部シール部との板厚さの大きいシールには最適である。なお、シール材の過圧縮を防止する為の増厚部は必要である。
そして、ボルト52締付け時に、燃焼室孔4a周りで荷重が高くなり燃焼室孔側ビード8aで大きなシール圧を発生する。また、副板3との非積層部分の基板2に形成したビード9,11では、燃焼室孔4a周りよりも荷重が小さくなるが、本発明のビードを採用することで、接合面Sとの接触部が軟質シール材16a、16bとなることで、面でシールできて相対的に荷重が低くても充分なシールが可能となる。
【0034】
即ち、耐熱弾力性のある軟質シール材16a、16bからなるビードは、ガスケット係数が小さく大きな発生荷重を与えることが可能である。また、なじみ性も良く、接合面Sの加工粗さを吸収出来、アルミ製のエンジンの欠点である鋳造時に発生する鋳巣に対してもビードシール幅を広く抑えることが出来る。更に、変形追従量も大きくエンジンの動きでシール材が削り取られにくいという作用もある。
【0035】
(応用)
上記弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bだけからビードを形成する代わりに、図13のようなビード構成としても良い。即ち、基板2を板厚方向に変形加工して金属ビード9aを形成し、その金属ビード9aの両面に弾力耐熱性がある軟質シール材16a、16bを成型して、金属ビード9aとゴムビードとの合成バネによるビード9としても良い。よりシール圧を稼ぐことが可能となる。即ち、金属ビード9aのバネとシール材16a、16bの弾力性が合成されてシール面圧を発生する。高い内圧に対してもシール材のみのビードと異なり変形も少なく高い内圧シールに適している。また、金属ビードでシール材の変形を制限しているため、高い圧力にもシール材が必要以上に変形することを抑えて長期に亘ってシールを担保可能となる。
なお、面圧の調整はシール材の過圧縮を制限する増厚部は、ボルト孔6周囲か基板2の外周端部に、又はその双方に設け、シール材の幅及び高さ、硬度と共に調整すればよい。
【0036】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について図面を参照して説明する。なお、上記各実施形態と同様な部品などについては同一の符号を付して説明する。
(構成)
本実施形態の基本構成は、上記第1及び2実施形態と同様であるが、図14,図15に示すように、副板3に対して、燃焼室孔側ビード8a、8bより低い補助ビード14,15を形成した点が異なる。
【0037】
すなわち、副板3に対し、上記燃焼室孔側ビード8aよりも燃焼室孔4a側の平坦部、及び燃焼室孔側ビード8aよりも冷却水孔5側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔4a側の平坦部に、当該平坦部を加工してなるビードを1条以上成型することで、シールラインを増設したものである。
図14は、補助ビードを、燃焼室孔4a側の平坦部にステップ状のハーフビード14で構成した場合の例を示し、冷却水孔5側の平坦部にフルビート15から構成する例を示している。図15では、燃焼室孔4a側の平坦部にフルビートから構成する補助ビード14を形成した例を示している。
その他の構成は上記実施形態と同様である。
【0038】
(作用効果)
燃焼室孔4a側平坦部に小さいビードを成型して、燃焼室孔4a近くに局部的に面圧の高い部分を形成することで、燃焼室孔4a側から来る高温高圧ガスを2重にシールする事が出来る。
より具体的に説明すると、ボルト52で締結されたガスケットは、燃焼室孔4a中心を挟んだボルト孔6間では、冷却水孔5の下側部分でシリンダブロック50に接触している副板3の最も外側部分と燃焼室孔4a周囲のビードシールライン部分が高い面圧を発生してエンジンを湾曲に変形させている。湾曲変形したシリンダヘッド51の接合面Sは、燃焼室孔4a中心部の変形が1番大きく、ガスケット部分では燃焼室孔4a周囲に成型したビードより燃焼室孔4a側の平坦部には僅かな隙間が発生している。また、ビード荷重によっても接合面Sの変形を助長している。この僅かな隙間は、エンジンの爆発振動で燃焼ガスや冷却水を吸排する作用が発生するので、長期的にみると弊害となることがある。
【0039】
これに対し、本願発明では、この僅かな隙間を、本実施形態では、この平坦部に形成したバネ応力の弱い補助ビード14,15で補い、燃焼ガスが主要ビードまで浸入することを防止する。
補助ビード14,15は、燃焼室孔4a周囲に成型した燃焼室孔側ビード8aより燃焼室孔4a側の平坦部又は燃焼室孔側ビード8aより外側の水孔までの平坦部か、更にはビード内外の双方に設けるかは、エンジンの剛性により判断する。勿論補助ビード14,15の形状や大きさもエンジンの剛性により判断して決定するが、補助ビードの幅に変化を設け、限られた締付け荷重を効率的に配分するために、周方向に沿ってボルト近傍は広く、ボルト間は狭くする方法も採用する。
【0040】
(応用)
上記実施形態では、副板3に補助ビード14,15を形成する場合を例示しているが、副板3に替え、もしくは副板3と共に、基板2側に補助ビード14,15を形成しても良い。燃焼室孔4a間の部分の図である図10に、補助ビード16を基板2に形成する場合を例示する。
また、全実施形態は、上記実施形態に構成に限定されるものでは無い。例えば、基板2及び副板3の各両面にシール材を全面、又は部分的に塗布及び貼り付けても良い。
また、エンジンの剛性に応じて基板2と副板3とに板厚差を設けても良い。
ここで、ガスケットの板厚が規定されたとき、副板3の板厚又は基板2の板厚を調整して要求板厚に合わせる。このとき、本発明は、板厚が制限されても、第1実施形態のように、ボルト孔周りや外周端部に設ける増厚部を調整して、燃焼ガス、水、オイルの漏れを防止できる最適バランスを構成可能である。
【図面の簡単な説明】
【0041】
【図1】本発明に基づく第1実施形態に係る金属ガスケットを示す一部破断した平面図である。
【図2】図1のC−C断面図である。
【図3】図1のA−A断面図である。
【図4】図1のA−A断面図の別例である。
【図5】図1のD−D断面図である。
【図6】図1のD−D断面図の別例である。
【図7】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図8】図1のD−D断面図の別例である。
【図9】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図10】図1のD−D断面図の別例である。
【図11】接合面Sの変形を示す模式図である。
【図12】本発明に基づく第2実施形態に係る金属ガスケットを説明する断面図である。
【図13】本発明に基づく第2実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【図14】本発明に基づく第3実施形態に係る金属ガスケットを説明する断面図である。
【図15】本発明に基づく第3実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【図16】本発明に基づく第3実施形態に係る別の金属ガスケットを説明する断面図である。
【符号の説明】
【0042】
1 金属ガスケット
2 基板
3 副板
4a 燃焼室孔
4b 燃焼室孔
5 冷却水孔
7 オイル孔
8a 燃焼室孔側ビード
8b 燃焼室孔側ビード
9 外周側ビード
9a 金属ビード
10 増厚部
10a シム板
10b 金属
11 第3のビード
12 増厚部
12a 薄板金属板
12b 薄板
14,15 補助ビード
16a、16b シール材
50 シリンダブロック
51 シリンダヘッド
52 ボルト
S 接合面
【特許請求の範囲】
【請求項1】
バネを発生可能な弾力金属板からなる基板と、基板の板厚と同じもしくは異なる厚さで且つバネを発生可能な弾力金属板からなり上記基板の一部と厚さ方向で対向配置される副板とを、備え、
上記基板には、燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むように当該基板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その燃焼室孔側ビードの外周側に冷却水孔が開口すると共にその冷却水孔の外周を囲むように第2のビードが設けられ、その第2のビードよりも外側にボルト孔が開口しており、
上記副板にも、上記基板の燃焼室孔に対応した燃焼室孔が開口していると共にその燃焼室孔を囲むように当該副板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その副板の外周端位置が、上記基板における燃焼室孔側ビード形成位置よりも外周側かつ上記第2のビード形成位置よりも内周側となるように設定され、
上記第2のビードよりも外側に位置する基板部分に対して増厚部を設け、増厚部を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板及び副板からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整したことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
上記増厚部の少なくとも一部は、上記ボルト孔周囲に設けることを特徴とする請求項1に記載した金属ガスケット。
【請求項3】
上記増厚部の少なくとも一部は、上記基板の外周端部に設けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属ガスケット。
【請求項4】
上記第2のビードを含む、当該第2のビード形成位置よりも外側に形成するビードをそれぞれ、次の(a)若しくは(b)のいずれかで構成することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
(a)ビードを、基板の両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材で構成する。
(b)ビードを、基板自体を板厚方向に加工してなる金属ビードと、その金属ビードの両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材との合成ビードで構成する。
【請求項5】
基板及び副板の少なくとも一方に対し、上記燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側の平坦部、及び燃焼室孔側ビードよりも冷却水孔側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔側の平坦部に、当該平坦部を加工してなる上記燃焼室孔側ビードよりも低いビードを1条以上成型することで、シールラインを増設することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ガスケット。
【請求項1】
バネを発生可能な弾力金属板からなる基板と、基板の板厚と同じもしくは異なる厚さで且つバネを発生可能な弾力金属板からなり上記基板の一部と厚さ方向で対向配置される副板とを、備え、
上記基板には、燃焼室孔が開口すると共にその燃焼室孔を囲むように当該基板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その燃焼室孔側ビードの外周側に冷却水孔が開口すると共にその冷却水孔の外周を囲むように第2のビードが設けられ、その第2のビードよりも外側にボルト孔が開口しており、
上記副板にも、上記基板の燃焼室孔に対応した燃焼室孔が開口していると共にその燃焼室孔を囲むように当該副板を板厚方向に加工してなる燃焼室孔側ビードが成型され、その副板の外周端位置が、上記基板における燃焼室孔側ビード形成位置よりも外周側かつ上記第2のビード形成位置よりも内周側となるように設定され、
上記第2のビードよりも外側に位置する基板部分に対して増厚部を設け、増厚部を設けた位置の総板厚が、上記積層された基板及び副板からなる総板厚よりも小さくなるように、当該増厚部の高さを調整したことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
上記増厚部の少なくとも一部は、上記ボルト孔周囲に設けることを特徴とする請求項1に記載した金属ガスケット。
【請求項3】
上記増厚部の少なくとも一部は、上記基板の外周端部に設けることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載した金属ガスケット。
【請求項4】
上記第2のビードを含む、当該第2のビード形成位置よりも外側に形成するビードをそれぞれ、次の(a)若しくは(b)のいずれかで構成することを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
(a)ビードを、基板の両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材で構成する。
(b)ビードを、基板自体を板厚方向に加工してなる金属ビードと、その金属ビードの両面に固定した耐熱弾力性ある軟質シール材との合成ビードで構成する。
【請求項5】
基板及び副板の少なくとも一方に対し、上記燃焼室孔側ビードよりも燃焼室孔側の平坦部、及び燃焼室孔側ビードよりも冷却水孔側の平坦部の両平坦部のうち、少なくとも燃焼室孔側の平坦部に、当該平坦部を加工してなる上記燃焼室孔側ビードよりも低いビードを1条以上成型することで、シールラインを増設することを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属ガスケット。
【図1】


【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図16】




【図2】


【図3】


【図4】


【図5】


【図6】


【図7】


【図8】


【図9】


【図10】


【図11】


【図12】


【図13】


【図14】


【図15】


【図16】


【公開番号】特開2008−215467(P2008−215467A)
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−52820(P2007−52820)
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年9月18日(2008.9.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年3月2日(2007.3.2)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
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