説明

金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラス

【課題】金属ガラスの表面を生体活性化することができる金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラスを提供する。
【解決手段】金属ガラス基材を、リン酸水素カルシウムII水和物と水酸化カルシウムとの混合粉とともに、水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、温度50℃〜300℃、保持時間30分〜720分で加圧する。これにより製造された生体活性化金属ガラスは、基材の金属ガラスとハイドロキシアパタイト層との間に中間層が存在している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
生体材料や医療材料として利用する材料は、表面を生体活性化する必要があるが、金属ガラスは、本質的に生体不活性である。金属ガラスは、機械的特性や熱的・化学的耐久性に優れた材料が少なくないが、生体材料とするためには、表面を生体活性化する必要がある。本発明は、金属ガラスの表面を生体活性化する方法に関するものであり、本発明により、広く金属ガラスの新規生体材料としての利用が可能となった。
【背景技術】
【0002】
従来の生体用金属ガラス材料では、生体内での耐生体液腐食性に重点が置かれており、金属ガラスは耐食性が良いことから、生体鉱物を人体内で誘起する材料に対する注目度は大きくなかった。誘起する材料には、例えば骨や歯の成分であるハイドロキシアパタイトを誘起するTiO,Fe,CaTiO、あるいはそれらを含む金属ガラスなどがある。
【0003】
一方、セラミックや金属の基材上にアパタイトを主成分とする皮膜を生成させる技術として、プラズマ溶射(例えば、特許文献1参照)、強磁場(例えば、特許文献2参照)、酸化を防止するためハイドロキシアパタイトの分解生成薄膜コーティング処理(例えば、特許文献3参照)によるものなどが開示されているが、金属ガラス基材には、適した方法とはなっていなかった。
【0004】
【特許文献1】特開2006−131469号公報
【特許文献2】特開2004−149386号公報
【特許文献3】特開2003−253424号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記した従来技術の実情に鑑みてなされたものであり、金属ガラスの表面を生体活性化することができる金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラスを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、金属ガラスは、酸化しにくい材料であるため、酸化を気にする必要のない金属ガラスと、ハイドロキシアパタイト材料との接合手段で、金属ガラスを生体活性化できると考えた。接合する手段として水熱ホットプレス法に注目して研究を行った結果、好結果を得ることができ、水熱ホットプレス法の条件を確定し、本発明を完成するに至った。なお、水熱ホットプレスは、粉体を固化させる技術として用いられている方法である。
【0007】
本発明に係る金属ガラス生体活性化法は、金属ガラス基材と、ハイドロキシアパタイト成分となる粉体とを水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、低熱で加圧することを、特徴とする。
【0008】
本発明に係る金属ガラス生体活性化法で、前記ハイドロキシアパタイト成分となる粉体が、リン酸水素カルシウムII水和物と水酸化カルシウムとの混合粉であることが好ましい。また、前記水熱ホットプレス用オートクレープにより、温度50℃〜300℃、保持時間30分〜720分で加圧することが好ましい。さらに、金属ガラス素材を、リン酸水素カルシウムII水和物(DCPD)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)との混合粉とともに、水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、温度50℃〜300℃、保持時間30分〜720分、加圧力10MPa〜200MPaで処理してもよい。
【0009】
本発明に係る生体活性化金属ガラスは、本発明に係る金属ガラス生体活性化法で製造され、基材の金属ガラスとハイドロキシアパタイト層との間に中間層が存在することを、特徴とする。基材とハイドロキシアパタイト層との間にできる中間層は、残留応力緩和機構として、二重の効果が期待できる。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、生体不活性の金属ガラスの基材とハイドロキシアパタイト成分となる粉体とを水熱ホットプレスすることにより、生体活性のある金属ガラスとすることができた。金属ガラスは、機械的特性や耐久性が良好であり、本発明により、半永久的に体内での使用に耐える生体材料を供することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施の形態の金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラスについて、その実施例に基づいて説明する。
【実施例1】
【0012】
金属材料としては、人工関節などで多くの使用実績がある、Tiを基材とした、Ti40Zr10Cu36Pd14の表面を活性化する目的で、水熱ホットプレスを行った。
Ti40Zr10Cu36Pd14丸棒(直径4mm、高さ2mm)の表面をエミリー紙2000番まで研磨したものを、純水およびエタノールで洗浄・乾燥した。これをリン酸水素カルシウムII水和物(DCPD)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)との混合粉とともに、図1で示す水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、150℃、40MPa、2時間の条件で処理した。
【0013】
水熱ホットプレス処理後のTi40Zr10Cu36Pd14を擬似体液(SBF)に浸漬させたときの結果を、図2に示す。SBFは、ヒトの血漿とほぼ等しい無機イオン濃度を有しており、生体活性評価方法に広く用いられている。表面改質したTi40Zr10Cu36Pd14は、図2に示すように、旺盛な骨類似アパタイトの析出が認められており、十分な生体活性化を有している。水熱ホットプレスにより、金属ガラス表面を生体活性化することができた。
【実施例2】
【0014】
金属ガラスTi40Zr10Cu36Pd14に、高い生体活性をもつCa,Nb,Taのメチルシロキサンコーティングを行い、pH1〜5,121℃,1時間オートクレーブ処理した二層構造被覆材の表面生体活性の耐腐食性試験の結果を、図3に示す。図3に示すように、pH1の過酷な酸性環境下においても金属イオンの溶出濃度が半減し、SBF浸漬後も剥離が無く、骨類似アパタイトの形成が観察された。
【実施例3】
【0015】
金属ガラス基材を、リン酸水素カルシウムII水和物(DCPD)と水酸化カルシウム(Ca(OH)2)との混合粉とともに、図1で示す水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、150℃、40MPa、2時間の条件で処理した後、界面を観察したところ、基材とハイドロキシアパタイト層との間に中間層が見られた。この中間層は、残留応力緩和機構として働くと思われる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の実施の形態の金属ガラス生体活化法で使用される、水熱ホットプレス法を示す概略図である。
【図2】本発明の実施の形態の金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラスの、図1に示す方法による水熱ホットプレス体の擬似生体液浸漬後のSEM像である。
【図3】本発明の実施の形態の金属ガラス生体活化法および生体活性化金属ガラスの、オートクレーブ処理した後の二層構造被覆材の表面生体活性の耐腐食性試験の結果を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ガラス基材と、ハイドロキシアパタイト成分となる粉体とを水熱ホットプレス用オートクレープに充填し、低熱で加圧することを、特徴とする金属ガラス生体活性化法。
【請求項2】
前記ハイドロキシアパタイト成分となる粉体が、リン酸水素カルシウムII水和物と水酸化カルシウムとの混合粉であることを、特徴とする請求項1記載の金属ガラス生体活性化法。
【請求項3】
前記水熱ホットプレス用オートクレープにより、温度50℃〜300℃、保持時間30分〜720分で加圧することを、特徴とする請求項1または2記載の金属ガラス生体活性化法。
【請求項4】
請求項1、2または3記載の金属ガラス生体活性化法で製造され、基材の金属ガラスとハイドロキシアパタイト層との間に中間層が存在することを、特徴とする生体活性化金属ガラス。


【図1】
image rotate

【図3】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2009−61136(P2009−61136A)
【公開日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−232225(P2007−232225)
【出願日】平成19年9月7日(2007.9.7)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 研究集会名:3大学3研究所連携プロジェクト公開討論会 主催者名:大阪大学接合科学研究所 東北大学金属材料研究所 東京工業大学応用セラミックス研究所 開 催 日:2007年(平成19年)3月9日
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【出願人】(304021417)国立大学法人東京工業大学 (1,821)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】