説明

金属キレートアフィニティリガンドの合成方法

本発明は、多座金属キレートアフィニティリガンドの合成方法であって、カルボニルとそれに隣接したイオウと求核基とを含む環状骨格を与える段階、求核基の誘導体化によって各骨格に多座金属キレートアフィニティリガンドのアームを与える段階、骨格にさらに金属キレートアフィニティリガンドのアームを追加する試薬の添加によって骨格を開環させる段階、及び必要に応じて、得られたリガンドアームの官能基を脱保護する段階を含む方法に関する。この方法の最も好ましい実施形態では、開環及び脱保護の段階を単一の段階で実施する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多座金属キレートアフィニティリガンドの合成方法に関する。本発明は、かかるリガンドを含む分離媒体の製造方法、並びにかかるリガンド及び媒体も包含する。
【背景技術】
【0002】
いかなる化学産業又はバイオプロセス産業でも、複雑な混合物から生成物を分離精製する必要があることは、生産ラインにおける必要かつ重要な段階である。今日、かかる目標を工業的に達成し得る各種方法には広範な市場が存在し、その一つはクロマトグラフィーである。クロマトグラフィーは、複雑な混合物を非常に高い精度で分離できるので、バイオテクノロジー分野での様々な用途に適しており、また実施条件が概して過酷でないので、タンパク質のような比較的変性しやすい生成物にも適している。
【0003】
特に感度の高い分離法でしかも大半のタンパク質に利用できるクロマトグラフィー法の一つが、固定化金属イオン吸着クロマトグラフィー(IMAC)としても知られる金属キレートアフィニティクロマトグラフィー(MCAC)である。この方法は、イオン交換クロマトグラフィー(IEX)及び/又は疎水性相互作用クロマトグラフィー(HIC)のような他のクロマトグラフィー段階と共に精製スキームで常用されている。
【0004】
さらに具体的には、IMACで利用するマトリックスは遷移金属イオンとキレート形成し得る基を有しており、こうしたキレートを、液体から化合物を吸着するクロマトグラフィーにおけるリガンドとして使用する。IMACの結合強度は、主に、金属イオンの種類、緩衝液のpH及び使用するリガンドの性状によって影響される。金属イオンはマトリックスに強く結合しているので、pHを下げるか或いは競合溶出によって吸着タンパク質を溶出することができる。
【0005】
一般に、IMACは、タンパク質その他マトリックスの遷移金属に親和性を示す分子の分離に有用である。例えば、タンパク質は接近可能なヒスチジン、システイン及びトリプトファン残基(これらはいずれもキレート金属に親和性を示す)が存在していればマトリックスに結合する。
【0006】
分子生物学的方法の出現により、タンパク質の金属キレートリガンドに対する親和性を高めるためのタンパク質の改変又は1以上のヒスチジン残基でのタグ付けが容易に行えるようになり、タンパク質の精製における金属キレートクロマトグラフィーの役割は一段と重要性を増すと考えられている。
【0007】
IMAC用のリガンドとしては、イミノ二酢酸(IDA)のような簡単なキレート剤が提案されている。IDAをアガロース担体に結合した後、Cu2+、Zn2+及びNi2+など様々な金属をチャージしたものがタンパク質及びペプチドの捕捉に用いられており、市販樹脂としても入手できる。具体的には、米国特許第4551271号(Hochuli、Hoffmann−La Roche社に譲渡)には、インターフェロンの精製に用いられるIDAリガンドを含む金属キレート樹脂が開示されている。この樹脂は次式で定義することができる。
[アガロース]−O−(CH)−CHOH−CH−N(CHCOOMe2+
式中、MeはNi又はCuである。
【0008】
この樹脂での最良の結果は、インターフェロンが既に部分精製されているときに得られる。上記米国特許明細書によれば、この樹脂はアガロースをエピクロロヒドリン又はエピブロモヒドリンで処理し、得られたエポキシドをイミノ酢酸二ナトリウム塩と反応させ、その生成物を銅(II)又は亜鉛溶液で洗浄して銅塩又は亜鉛塩に転化させることによって公知の手法で製造することができる。
【0009】
欧州特許出願第87109892.7号(F.Hoffmann−La Roche社)及びその対応米国特許第4877830号(Dobeli他、Hoffmann−La Roche社に譲渡)には、6配位部位を有する金属と使用するための、ニトリロ三酢酸(NTA)として知られる四座配位キレート剤が開示されている。具体的には、マトリックスは、一般式[担体マトリックス]−スペーサー−NH−(CH−CH(COOH)−N(CHCOONi2+で表すことができる(式中、x=2〜4である。)。開示されたマトリックスは、式R−HN−(CH−CH(NH)−COOH(式中、Rはアミノ保護基であり、xは2、3又は4である。)のアミノ酸化合物を、アルカリ性媒質中のブロモ酢酸と反応させ、次いで、中間精製段階後に保護基を脱離し、この基を活性化マトリックスと反応させることによって製造される。従ってこの製造方法では、アミノ酸のアルキル化及び脱保護に別々の段階を要するため、時間がかかり、コストもかかるものとなる。さらに、アルキル化はさほど効率的でなく、脱保護後の生成物は、中和及び解離で得られる他の生成物に関してはっきりとしない。この後、材料を、カルボキシル官能基を有する固体担体にアミド結合の形成によって結合させる。しかし、この手順では、得られる媒体が所望の固定化キレートリガンドだけでなく、若干の未反応カルボキシル基を呈し、不均一な媒体を与えるという短所を伴うおそれがある。さらに、モノ−N−保護アミノ酸化合物は高価な出発物質であり、この方法全体が一段とコストのかかるものになる。
【0010】
最後に、国際公開第01/81365号(Sigma−Aldrich社)には金属キレート組成物が開示されており、その明細書によれば、該金属キレート組成物は、金属イオンと比較的安定なキレートを形成することができ、ポリヒスチジンタグタンパク質に対して向上した選択性を示す。国際公開第01/81365号によれば、キレート剤と樹脂との連結部は選択性に関する重要なパラメータであり、連結部は、中性エーテル、チオエーテル、セレノエーテル又はアミドである。開示された組成物は、その実施例によればSepharose(商標)のような不溶性担体に結合させる。クロマトグラフィー媒体は、予め活性化しておいた固体担体で直接固相反応を行ってクロマトグラフィー媒体に使用するか、或いは中間生成物N,N,N′,N′−テトラキス(カルボニル)−L−シスチンを溶液中で別途合成してから最終的に固体担体に結合するかの2通りの異なる方法で製造される。
【0011】
上記固相合成は、予めエピクロルヒドリンで活性化しておいたSepharose(商標)ゲルにL−システインを添加してアルカリ条件下で長時間(18時間)反応させた後洗浄することによって実施される。しかる後、ブロモ酢酸を添加して同じくアルカリ条件下で長時間(72時間)反応させた後、再度洗浄し、最終的にゲルに残存する遊離アミノ基を酢酸無水物で封鎖する。
【0012】
こうした固相合成では、反応制御が十分に行えず、副反応を起こす可能性があり、均質性に劣る生成物が得られる。
【0013】
中間生成物の液相合成による代替法は、大量(40倍)のグリオキシル酸をアルカリ性ホウ酸緩衝液中でL−シスチンに添加することから始まる。次いで、反応混合物のpH調整及び導電率の調節の後、中間生成物をイオン交換クロマトグラフィーで精製してN,N,N′,N′−テトラキス(カルボキシメチル)−L−シスチンを得る。
【0014】
固体担体に結合する前に、N,N,N′,N′−テトラキス(カルボキシメチル)−L−シスチンをアルカリ条件下でトリス(カルボキシエチル)ホスフィンを用いてN,N−ビス(カルボキシメチル)−L−システインに還元しなければならない。最終的にはこの物質を用いて予備活性化固体担体に結合させ、クロマトグラフィー媒体を形成することができる。この合成法は複雑で所望生成物の形成に大量の試薬を用いる必要があり、その所望生成物を特定のクロマトグラフィー条件下で精製した後で追加の合成段階として還元を行うので、大規模生産での使用にはさほど適していない。
【0015】
従って、IMACリガンドの改良合成法並びにIMACリガンドをベースマトリックスに固定化する方法に対するニーズが依然として存在する。
【特許文献1】米国特許第4551271号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0253303号明細書
【特許文献3】米国特許第4877830号明細書
【特許文献4】国際公開第01/81365号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
そこで、本発明の一つの目的は、後でベースマトリックスに結合させるための多座金属キレートアフィニティリガンドの改良合成法であって、安価で容易に入手できる出発物質及び試薬を利用して高い収率を与える方法にある。これは、請求項1に記載の通り達成できる。
【0017】
本発明の別の目的は、IMAC用のベースマトリックスに固定化されるリガンドを厳選できるようにすることである。これは、ベースマトリックスに結合した多座金属キレートアフィニティリガンドを含む分離媒体の合成法であって、その結合反応の化学が明確で容易に制御できる方法によって達成できる。
【0018】
本発明の別の目的は、かかる方法であって、均質な生成物が得られる方法を提供することである。
【0019】
本発明のさらに別の目的は、かかる方法であって、2以上の同一又は異なる官能基を導入することもできる方法を提供することである。
【0020】
本発明の別の目的は、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー用のリガンドであって、ベースマトリックス結合用の改良されたハンドルを有し、従来技術のリガンドよりも結合効率の向上したリガンドを提供することである。
【0021】
本発明の別の目的は、固定化金属アフィニティクロマトグラフィー(IMAC)に使用する際の金属イオンの漏れが低減したクロマトグラフィー媒体を提供することである。
【0022】
本発明の別の目的は、同一骨格に基づく多種多様な金属キレートアフィニティリガンドのライブラリーの合成法であって、特定の用途に向けたリガンドの至適化に使用できる方法を提供することである。
【0023】
本発明の以上の目的は、上記請求項のいずれか1以上によって達成できる。本発明のその他の目的、利点及び実施形態は、以下の詳細な説明から明らかであろう。
【課題を解決するための手段】
【0024】
従って第一の態様では、本発明は、
1以上の多座金属キレートアフィニティリガンドの合成方法であって、
(a)一般式(I)で定義される1以上の骨格を与える段階
【0025】
【化1】

【0026】
(式中、X、X及びXは互いに独立にsp又はsp混成炭素原子又はヘテロ原子であり、Xは求核基であり、mは0〜2の整数である。)、
(b)上記骨格の環構造を維持しながら、骨格の求核基Xの誘導体化によって各骨格に1以上の多座金属キレートアフィニティリガンドのアームを適宜金属キレート官能基を保護した形態で与える段階、
(c)骨格に1以上の金属キレートアフィニティリガンドのアームを追加する試薬の添加によって誘導体化骨格のカルボニルとイオウとの間の結合を開環させる段階、及び必要に応じて
(d)段階(b)で準備したリガンドのアームの官能基を脱保護する段階
を含む方法を提供する。
【0027】
定義
「分離媒体」という用語は、本明細書では、例えばクロマトグラフィーカラムの充填材として有用な材料、具体的には、ベースマトリックスに1以上のリガンドが結合したものからなる材料に用いる。ベースマトリックスは担体として作用し、リガンドはクロマトグラフィーで目標物質と相互作用する官能基を与える。
【0028】
「スペーサー」という用語は、ベースマトリックスからリガンドを離隔するための化学物質に用いる。
【0029】
「リガンド」という用語は、本明細書では、目標物質に結合し得る化学物質をいう。かかる目標物質は、クロマトグラフィーでの単離又は除去が望まれる化合物でもよいし、或いは分析の目標物質でもよい。
【0030】
「多座金属キレート」リガンドという用語は、金属に同時に配位(即ちキレート)し得る2以上の供与体原子をもつリガンドをいう。従って、多座リガンドは2以上の供与体原子を有し、配位圏の2以上の部位を占有する。
【0031】
従って「金属キレート官能基」という用語は、供与体原子を与える基をいう。通常、官能基は互いに離隔しており、各々の官能基に対して「リガンドアーム」という用語を用いる。
【0032】
「ゲル」という用語は、ゲルの形態の分離媒体に用いる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0033】
段階(a)の骨格は固体として準備してもよいが、好ましくは溶媒中で準備する。最も好適な実施形態では、式(I)におけるX、X及びXは炭素原子である。別の実施形態では、X、X及びXのうちの1以上はヘテロ原子、つまり酸素、イオウ、窒素及び/又はシリカからなる群から選択されるヘテロ原子であるが、該ヘテロ原子が後段でのリガンドの使用に支障をきたさないことを条件とする。
【0034】
式(I)のXは、誘導体化が可能な求核基である。例示的な実施形態では、Xは−OH、−SH又は−NHのような基から選択される。好適な実施形態では、Xは−NHである。
【0035】
上述の通り、mは0〜2の任意の整数であり、換言すれば0、1又は2のいずれでもよい。上記方法の段階から明らかな通り、mの値は、ベースマトリックスを分離媒体に展開する際のベースマトリックスの結合点とリガンドアームとの間の原子数を決定する。
【0036】
好適な実施形態では、式(I)のmは1であり、骨格はホモシステインチオラクトンである。当業者には自明であろうが、ホモシステインチオラクトンは純粋な形態でもラセミ化合物の形態でも使用できる。ホモシステインチオラクトンは市販されており(例えばAldrich社のカタログ番号H1,580−2)、CAS番号は6038−19−3である。
【0037】
段階(b)の誘導体化は、求電子性で式(I)のXと反応し得る第一の部分と金属キレート官能基を含む第二の部分からなる適当な誘導体化剤の添加によって実施される。
【0038】
誘導体化剤の第一の部分(即ち求電子部分)の代表例としては、C=C、C−Y(式中、Yは例えばBr、I、Clなどのハロゲン、メシレート基又はトシレート基である。)、又はWC=O(式中、Wは例えばN−ヒドロスクシンイミド、ペンタフルオロフェノール、パラニトロフェノール又はクロロギ酸イソプロピルからなる。)のような酸又は活性酸が挙げられる。
【0039】
好適な実施形態では、誘導体化は、各々2種類の異なる又は同一の金属キレート官能基(本明細書ではL及びLで示す。)を含む2種類の誘導体化剤の添加によって行われる。この実施形態では、誘導体化剤の求電子部分は、誘導体化を促進するため好ましくは同じ種類のものである。別の実施形態では、当業者には自明であろうが、好ましくは2以上の異なる段階を用いたXの誘導体化によって、3種類以上の異なる又は同一の金属キレート官能基を導入する。こうして、同じ多座金属キレートアフィニティリガンドに複数の官能基を容易に与えることができる。
【0040】
本発明の方法で用いる誘導体化剤は、金属キレート官能基を保護した形態(この場合、骨格の誘導体化に際して供与体原子は反応に利用されない)で含んでいてもよいし、保護されていない形態で含んでいてもよい。官能基が保護されている実施形態では、保護基は後段での除去が容易なものとすべきである。保護基は、アルキル基のような酸不安定なもの、又はt−ブチル基のような塩基不安定なもののいずれでもよい。一実施形態では、保護基はCHCH基である。様々な金属キレート官能基が当技術分野で公知であり、原則的には電子供与基であればどんなものでもよい。具体的には、本発明の方法で用いる金属キレート官能基は、芳香族、ピリジン、チオフェン、フラン、イミダゾールのような複素環式誘導体、酸、エステル、ケトン、アミド、スルホン、スルホンアミド、ニトリル、炭素−炭素二重及び三重結合からなる群から選択される。
【0041】
例示的な実施形態では、誘導体化剤は、ハロゲン化カルボン酸アルキルエステルのようなハロゲン化カルボン酸エステルである。上述の通り、特定の実施形態では、XはNHである。NH基をハロゲンその他の脱離基を有する基と反応させる方法は当技術分野で周知であり、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)のような溶媒中室温で簡便に実施できる。一実施形態では、誘導体化によって各骨格に2個の金属キレートアフィニティリガンドアームを与えるため、誘導体化剤は骨格に対して2:1のモル比で使用される。LC−MSのような慣用法によって反応をモニターし、誘導体化の結果を確認することは当業者が容易になし得る。本発明は、国際公開第01/81365号よりも簡単な多座金属キレートアフィニティリガンドの合成経路を提供する。また、好適な化学反応を用いるので、本発明の方法は均質性に優れた生成物を与える。本発明の方法で得られる収率は90%もの高さにすることができ、出発物質は現在妥当な価格で容易に入手できる。
【0042】
段階(c)では、骨格に1以上の金属キレートアフィニティリガンドのアームを追加する試薬の添加によって誘導体化骨格のカルボニルとイオウとの間の結合を開環させる。即ち、1以上の追加の金属キレートリガンドアームを与えるため環構造を開環する。
【0043】
開環によって、後段でのベースマトリックスとの結合に利用できるハンドルもチオフィリック基の形態で生じ、その求核性のため好適な結合反応化学がもたらされる。好適な実施形態では、開環は、NaOHのようなアルカリ水酸化物の添加による加水分解であり、この場合、骨格のカルボニルはカルボキシル基に転化される。ただし、当業者には自明であろうが、開環を別の試薬で実施すれば、1以上の異なる金属キレート官能基を導入することができる。別の実施形態では、開環はアミノ分解であり、この場合、窒素は1個以上の金属キレート官能基を有する。この実施形態では、試薬は次の一般式IIで定義される。
【0044】
【化2】

【0045】
式中、L及びLは金属キレート官能基を含むもので、同一でも異なるものでもよい。さらに、一実施形態では、上記リガンドアームL及びLは、段階(b)の誘導体化で与えるものと同一である。
【0046】
上述の通り、誘導体化段階で金属キレート官能基L及びLを保護する実施形態では、脱保護段階を実施するのが好ましい。一実施形態では、脱保護は段階(c)の後で別個の段階として実施され、上述の通り塩基又は酸の添加によって達成できる。官能基の保護/脱保護に有用な化学は当技術分野で周知であり、かかる段階の実施は当業者が容易になし得る。
【0047】
本発明の方法の特に好適な実施形態では、脱保護は開環と同じ段階、つまり実質的に同時に実施される。この実施形態の大きな利点は、多座金属キレートアフィニティリガンドを、2段階しか含まない簡単な方法を用いて合成できることである。従って、この実施形態は、従来技術の方法よりも簡単な多座金属キレートアフィニティリガンドの合成法を提供する。誘導体化剤が塩基不安定基を含む実施形態では、この段階は水酸化ナトリウムの添加によって行われる。加水分解は好適には室温で例えば1〜2時間実施される。実際、本発明は、すべての出発物質を90分以内に転化させることができ、さらに48時間経過しても副産物を全く生じないことが判明した。このように、本発明による加水分解では安定かつ均質で明確に規定される生成物が得られる。段階(c)の誘導体化剤が酸不安定基を含む別の実施形態では、この段階はHClのような酸の添加によって行われる。
【0048】
本発明の方法の特定の実施形態では、誘導体化骨格を与えるため段階(a)及び(b)を前もって実施しておく。従って、本発明は骨格のカルボキシメチル化を前もって実施しておく方法も包含する。
【0049】
好適な実施形態では、こうして得られた生成物をそのチオール基を介してベースマトリックスに結合させて分離媒体を形成する。(固定化法の概説、特にイオウを介したカップリングに関しては、例えばHermanson他のImmobilized Affinity Ligand Techniques(1992, Greg T.Hermanson, A.Krishna Mallia and Paul K.Smith, Academic Press)の第3章、特に3.4.1.2章を参照されたい。)。かかる分離媒体は、例えば分析などを目的とした目標物質の単離に有用である。本発明の方法で用いるベースマトリックスは、目的とする用途に適した材料であればどんな材料からなるものでもよい。
【0050】
例えば、分離媒体を固定化金属キレートアフィニティクロマトグラフィーに用いる場合、ベースマトリックスは一般にビーズ又はモノリシックの形態で、アガロースやデキストランのような天然高分子、又はジビニルベンゼンやスチレンのような合成ポリマーから作られる。ベースマトリックスは例えばゲルの形態であってもよい。天然高分子に関して、適当なその多孔質ポリマービーズは、逆懸濁ゲル化(S Hjerten:Biochim Biophys Acta 79(2),393〜398(1964))又は回転ディスク法(例えば国際公開第88/07414号(Prometic Biosciences社)参照)などの常法で当業者が容易に得ることができる。或いは、天然高分子ビーズは、Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ)などの供給元から入手できる。かかる有用な天然高分子ビーズの商品名としては、例えばSepharose(商標)やSephadex(商標)として知られるものがある。
【0051】
合成ポリマーに関して、ベースマトリックスは、スチレン又はスチレン誘導体、ジビニルベンゼン、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル、ビニルエステル、ビニルアミドなどの架橋合成ポリマーからなる。かかるポリマーは常法で容易に製造される。例えば“Styrene based polymer supports developed by suspension polymerization”(R Arshady: Chimica e L’Industria 70(9), 70−75(1988))参照。或いは、Source(商標)(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))などの市販品を本発明に従って表面改質することもできる。
【0052】
別の実施形態では、ベースマトリックスは例えばメンブラン、フィルター、1以上のチップ、表面、キャピラリーなどであってもよい。
【0053】
一実施形態では、ベースマトリックスの反応性基はアリル基、即ち炭素−炭素二重結合である。一実施形態では、既にアリル基を有する市販のベースマトリックスを使用する。別の実施形態では、周知の方法でアリル基を与える。例えば、例示的な実施形態では、アリル官能基を有するエポキシドで適当な温度及び反応時間処理することによって本発明のベースマトリックスをアリル化しておく。かかるアリル官能性エポキシドとして常用されるものの一例はアリルグリシジルエーテル(AGE)である。従って、特定の実施形態では、段階(d)で、リガンドのイオウ基をアリルグリシジルエーテル(AGE)の活性化アリル基を介してベースマトリックスに結合させる。この実施形態では、最終生成物においてイオウ基はエーテル基とヒドロキシ基を含むスペーサーを介してベースマトリックスに結合することになり、分離媒体はベースマトリックス−O−CH−CHOH−CH−O−CH−CHOH−CH−S−リガンドと定義することができる。
【0054】
別の実施形態では、エポキシドの開環や二重結合へのラジカル付加など、他の周知のチオール含有リガンドの結合法を用いる。
【0055】
特定の実施形態では、アリル基を臭素化で活性化するか、或いはカップリングをラジカル反応で行う。使用するラジカルは、適当な市販の開始剤でも、UVなどでもよい。
【0056】
本発明の第二の態様は、多座金属キレートアフィニティリガンド又はベースマトリックスに1以上、好ましくは複数の多座金属キレートアフィニティリガンドが結合した分離媒体であり、当該媒体は上述の方法で合成したものである。特定の実施形態では、金属キレートアフィニティリガンドは三座リガンドである。かかる分離媒体には、Cu(II)、Zn(II)、Ni(II)、Ca(II)、Co(II)、Mg(II)、Fe(III)、Al(III)、Ga(III)、Sc(III)のような適当な金属イオンをチャージすることができ、例えば上記「背景技術」の欄で概略を述べたような周知のIMACの原理に従って使用することができる。最も好ましい実施形態では、Ni2+を使用する。
【0057】
好適な実施形態では、本発明の多座金属キレートアフィニティリガンドは三座リガンドであり、次式で定義される。
−S−(CH−CH(COOH)−N(CHCOO
【0058】
特定の実施形態では、ベースマトリックスに結合した多座金属キレートアフィニティリガンドを含む本発明の分離媒体は、次の一般式で定義される。
ベースマトリックス−O−CH−CHOH−CH−O−CH−CHOH−CHS−(CH−CH(COOH)−N(CHCOONi2+
式中、nは2〜4の整数である。一実施形態では、n=2である。これに関して、ベースマトリックスが例えば粒子の形態の場合、上述の通り各粒子には複数のリガンドが結合する。
【0059】
本発明の第三の態様は、好ましくは上述の方法による多座金属キレートリガンドの製造の出発物質としてホモシステインチオラクトンを使用する方法である。本発明は、多座金属キレートリガンドの製造におけるホモシステインチオラクトンのようなカルボキシメチル化骨格の使用方法も包含する。最も好適な実施形態では、これらの使用方法は上記で説明した通りである。上述の通り、ホモシステインチオラクトンは市販されている。
【0060】
本発明のさらに別の態様は、上記の一般式(I)で定義される骨格を含むキットであり、このキットは、固体状態の骨格と共に、金属キレートアフィニティリガンドの製造又はベースマトリックスに複数の多座金属キレートアフィニティリガンドが結合した分離媒体の製造に骨格を使用するための使用説明(好ましくは文書)を含む。別の実施形態では、本発明に係るキットは、その他の形態の骨格(例えば部分的又は完全に誘導体化されたもの)を、本発明の方法の実施に適した液体及び/又は試薬と共に含む。特定の実施形態では、キットは、脱保護以外は本発明の方法で反応させた骨格からなるが、その場合、キットは、使用説明書と共に塩基や酸などの脱保護に適した試薬も含んでいる。
【0061】
本発明は、本発明の媒体を充填したクロマトグラフィーカラムも包含する。カラムはどんなサイズのものでもよく、大量生産用又は実験室用でも、分析用に適したものでもよい。カラムは分離媒体及び適宜液体と組合せて第二の種類のキットにすることもでき、これも本発明に包含される。一実施形態では、本発明に係るキットはNi2+イオンのような金属イオンを含む。
【0062】
さらに本発明は、液体から目標物質を分離する方法であって、上記で定義した分離媒体を準備し、媒体に適当な金属イオンをチャージしてキレートを形成し、媒体を液体と接触させてその表面に目標物質を吸着させることを含む方法にも関する。好適な実施形態では、この方法は、分離媒体から標的化合物を脱着させる液体の添加によって、分離媒体から標的物質を溶出する段階をさらに含む。一実施形態では、溶出は、減少pH勾配を含む液体の使用又は増加イミダゾール濃度勾配の使用によって行う。上述のように目標物質を分離するためのクロマトグラフィーの一般原理は、当技術分野で周知であり(例えば Protein Purification − Principles, High resolution methods and Applications (J−C Jansson and L. Ryden1989 VCH Publishers)参照)、本発明の方法に用いる所要パラメータを採用することは当業者が容易になし得ることである。
【0063】
最後に、本発明は、スクリーニング及び至適化のため、1以上の多様な金属キレートアフィニティリガンドのライブラリーを生成する方法に関する。例えば、この方法では、1個の配位座をもつアームを一定に保ちながら、最適な性能に関して他のアームを選択すればよい。当業者には自明であろうが、例えば上記のL、L、L及びLのうちの1以上を変更して最適な形態を特定し、最適な形態が特定されたら、それを一定に保って、他のものを変化させる。従って、上記の最適化法は、選り抜きの最適なリガンドを含む分離媒体を製造するためのツールを与える。
【0064】
図面の詳細な説明
図1は、本発明に係る多座金属キレートアフィニティクロマトグラフィーリガンドを含む分離媒体の全体的合成経路を示す概略図である。最初の段階は本発明の方法の段階(b)つまり誘導体化に相当し、第二段階は誘導体化した骨格を開環する加水分解であり、最後の段階は固定化つまり合成したリガンドのベースマトリックスへのカップリングである。以上の説明から明らかな通り、第二段階は好適には開環と脱保護の組合せである。図1で、Rは水素又は酸もしくは塩基不安定保護基を表す。
【0065】
図2(a)及び(b)は、本発明に係るIMAC分離媒体を用いた(His)テールを有するマルトース結合タンパク質(MBP−His)の精製例を示す。具体的には、図2(a)はクロマトグラムであり、図2(b)はクロマトグラムの勾配部分の拡大図である。図2では、A280nmの曲線をAで示し、溶出緩衝液のパーセンテージ(%)をBで示し、導電率をCで示す。
【0066】
図3は、MBP−HisのIMAC精製で得た画分のSDS−PAGE分析を示す。画分の番号は図2のクロマトグラムと同様である。
【0067】
図4は、試験クロマトグラムを示し、UV372nm=A、導電率=B、注入=Cである。以下の実施例5で述べるように、この試作品のニッケル結合容量は16μmol Ni/mlであり、金属の漏れは4%であった。
【0068】
図5は、実施例5に記載の本発明に係る分離媒体で実施したニッケル容量試験の結果を示す。具体的には、X軸はリガンド密度を示し、Y軸はニッケル結合量を示す。ニッケル結合容量はリガンド密度に伴って線形に増加し、勾配は1に近いことが分かる。
【実施例】
【0069】
以下の実施例は、例示を目的としたものにすぎず、特許請求の範囲によって規定される本発明の範囲を限定するものではない。本明細書のいずれかの箇所で引用した文献の記載内容は援用によって本明細書の内容の一部をなす。
【0070】
H−NMR、13C−NMR、CH−相関、APT及びCOSYスペクトルは、参照としてTMSを用いて、Bruker 300MHzでδスケール(ppm)で記録した。特記しない限り、スペクトルはすべてCDCl中で記録した。TLCは、MerckプレコートシリカゲルF254プレートを用いて実施した。TLCプレート上のスポット検出には、ニンヒドリン又はMo/Ce混合物を使用した。LC−MSデータは、Hewlett Packard 1100 MSDエレクトロスプレーを用いて記録した。フラッシュカラムクロマトグラフィー精製はMerck G−60シリカゲルを用いて実施した。
【0071】
実施例1:骨格のカルボキシメチル化によるN,N−ビス(エチル−カルボキシメチルエステル)+/−ホモシステインチオラクトンの合成
乾燥250ml丸底フラスコ中で、D/Lホモシステインチオラクトン(4.5g、29.22mmol)を100mlのDMFに溶解した。これにブロモ酢酸エチルエステル(9.76g、58.44mmol、6.48ml)、KI(4.850g、29.22mmol)及びNaHCO(14.727g、175mmol)を添加した。反応混合物を室温で撹拌した。反応は、TLC(3:1トルエン:酢酸エチル)及びLC−MSデータで追跡した。3.5時間後に反応を完了した。
【0072】
所望の生成物はR=0.35(3:1トルエン:酢酸エチル)を有する。溶媒を蒸発させ、得られた固体をCHClに再び溶解し、HOで2回抽出した。有機相をNaSOで乾燥し、濾過し、蒸発させた。生成物をフラッシュカラムクロマトグラフィー(3:1トルエン:酢酸エチル)で精製した。収量:7.636g(26.422mmol)、90%。
【0073】
H−NMR:δ1.52(t,6H,C−CH−O−)、δ2.05−2.56(m,2H,−S−C−CH−CH−C=O)、δ3.25(m,2H,−S−CH−C−CH−C=O)、δ3.52(s,4H,−N−C−N−C−)、δ3.65(dd,1H,S−CH−CH−C−C=O)、δ4.24(m,4H,CH−C−O−);13C−NMR:δ14.71(−CH−O−)、δ27.42(S−−CH−CH−C=O)、δ29.68(S−−CH−CH−C=O)、δ54.01(CH−O−)、δ60.99(−N−−N−)、δ67.15(−S−CH−CHH−C=O)、δ170.94(O=−CH−N−CH=O)、δ207.20(−S−CH−CH−CH−=O).LC−MS:M 290。
【0074】
実施例2:加水分解によるN,N−ビス(カルボキシメチル)+/−ホモシステインの合成及び安定性試験
上記の実施例1に記載の通り製造したN,N−ビス(エチルカルボニルエステル)+/−ホモシステインチオラクトン(50mg、0.173mmol)を100ml丸底フラスコ中で1mlの1M NaOHに溶解した。反応混合物を室温で100分間撹拌した。反応は、LC−MSで出発物質が検出されなくなるまで追跡した。
【0075】
安定性試験:加水分解終了後、上記反応混合物を、HOで5mlに希釈した。pHを12.5に調整し、反応混合物を撹拌しながら50℃に加熱した。4時間にわたって1時間毎に50μLの試料を混合物から採取した。50μLの各試料を次いで1mlのMeOHと混合し、LC−MS分析に用いた。この段階の後、反応混合物を一晩放置し、最後に50μLの試料を上述の通りLC−MS分析用に採取した。この実験期間中分解は観察されなかった。
【0076】
粗生成物を凍結乾燥した。
【0077】
H−NMR(DO):δ1.52(m,2H,−CH−CH−C−SH),δ2.24(m,2H,−CH−C−CH−SH),δ3.20(m,5H,O=C−C−N−C−);13C−NMR(DO):δ22.34(−CH−CH−SH),δ35.39(−CH−−CH−SH),δ57.33(O=C−−N−−),δ67.30(−H−CH−CH−SH),δ180.55(O=−CH−N−CH=O),δ181.84(−N−CH−=O);LC−MS:M 252。
【0078】
実施例3:実施例2で得た生成物とアリル化アガロースとのAGEを用いたカップリング
10mlのSepharose(商標)HP−アリル(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))(44μmol/mlゲル)を、1gのNaOAcと共に20mlの蒸留水中で撹拌した。Br飽和水溶液を、持続的な黄色が生成するまで添加した。次いでギ酸ナトリウムを黄色が消えるまで添加した。次いでゲルを蒸留水で洗浄した。N,N−ビス(エチルカルボキシメチルエステル)+/−ホモシステインチオラクトン(102mg)を、2mlの1M NaOH中で室温で2時間撹拌した。5mlの蒸留水と3mlの1M NaHCOを添加し、2M NaOHでpHを11.0に調整した。
【0079】
次いでリガンド溶液を、バイアルに排出したゲルに添加して、蓋をした。
【0080】
バイアルを50℃で16時間振盪し、次いでゲルをガラス濾過漏斗上で蒸留水で洗浄した。
【0081】
実施例4:本発明で合成したIMAC分離媒体を用いた(His)テールを有するマルトース結合タンパク質(MBP−His)の精製及び金属漏れ試験
材料及び方法:
MBP−Hisを含む抽出液
C末端ヘキサHisテールマルトース結合タンパク質、MBP−His、理論Mr及びpIは43781及び5.4であった。
【0082】
MBP−Hisを発現する大腸菌クローンの発酵及び細胞の均質化は常法によって実施した。この抽出液中のMBP−His濃度は約1.9mg/mlと推定された。
【0083】
IMAC A−緩衝液:
1リットルについて:(水1000mlにPBS錠剤1個添加すると、10mMリン酸Na、140mM NaCl及び3mM KCl、pH 7.4が得られる。)。PBS錠剤2個を水に溶解し、NaClを5M保存溶液から720mM分余計に添加し(最終的に140+140+720mM=1M)、pHをNaOHで7.4に調節し、最終体積を1000mlとした(緩衝液は6mM KClも含有する)。
【0084】
溶出緩衝液(IMAC B−緩衝液):
IMAC A緩衝液と同じ方法で製造したが、イミダゾールも500mM添加し(イミダゾール−HClの2.0M保存溶液、pH7.4から)、pH及び体積を最終的に調節した。
【0085】
硫酸Ni2+溶液:100mM水溶液。フィルター0.2μm。pH約4.6。
【0086】
ExcelGel(商標)(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))の使用説明書に準拠した試料緩衝液及び実験操作条件
ゲル:ExcelGel(商標)SDS、勾配8〜18%。
【0087】
試料調製:試料を2×試料緩衝液と1+1で混合(大量の目標タンパク質の精製用)又は1倍量の試料を1/3倍量の4×試料緩衝液と混合(少量のタンパク質の精製用)した。(4×試料緩衝液=100mM Tris−HAc pH7.5、2%SDS)。95℃で3〜5分間加熱した。
【0088】
試料添加:IEF用試料添加片(5×10mm濾紙片、#80−1129−46(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ)))を使用した。最大30〜32枚の紙片を、その短辺を泳動方向に配置した。20μlの試料混合物を各紙片に添加した。これらの紙片は全電気泳動期間中ゲル上に放置した。
【0089】
電気泳動:Multiphor(商標)II(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))装置で15℃(循環冷却浴)。電源EPS 3500。限界設定:600V、50mA、30W。
【0090】
染色:30%MeOH、10%HAcに溶解した0.1%クーマシーR350中。脱色は25%EtOH、8%HAc中で実施。
【0091】
クロマトグラフィー: 媒体をHR5/5カラム(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))にベッド高さ5cm=1.0mlベッドに充填した。使用に先だって、カラムに硫酸ニッケル溶液(5カラム体積)を流して媒体にNi2+をチャージした後、水を流し、結合緩衝液(=IMAC A緩衝液)で平衡化し、5mMのイミダゾールを添加した。溶出緩衝液を流した後再度結合緩衝液で平衡化することによって短いブランクランを実施した。
【0092】
MBP−His、1.0M NaCl、5mM イミダゾール及び1mM PMSF(新たに添加)による大腸菌抽出液を、遠心分離及び0.45μm濾過によって清澄化した。次いで所要体積を0.2μmフィルターを通してSuperloop(商標)(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))に導入してからIMACを開始した。次いで3mlをカラムに加えた。結合緩衝液で十分に洗浄した後、AKTA(商標)Explorer 10システム(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))を使用して、20mlの直線勾配をかけた(40%溶出緩衝液=200mMイミダゾールまで)。最後に、100%溶出緩衝液(500mMイミダゾール)で5ml溶出させた。以上の段階はすべて1.0ml/分で実施した。
【0093】
実施例5:pH4.0でのニッケル結合容量及び金属漏れの決定
ニッケル結合容量
本発明の分離媒体のニッケル(Ni2+)結合容量は、UV/Vis DAD検出器を備えたAKTA(商標)Explorer 10システム(Amersham Biosciences社(スウェーデン、ウプサラ))を用いたクロマトグラフィーで決定した。試験は、1mlのHR5/5カラムに充填し、上述の通りN,N−ビス(カルボキシメチル)+/−ホモシステインをカップリングしたゲルで実施した(図4)。その結果を、元素分析(窒素分析、各リガンドは1個の窒素原子を含有する)で求めたゲルに存在するリガンド密度と比較した。
【0094】
ニッケル結合容量とリガンド密度との相関関係は非常に良好であり、1個のリガンドが1個の金属イオンをもつと考えられた。典型的な結果を図5に示す。
【0095】
方法の説明
NiSO溶液を注入してゲルにN2+イオンを添加した。過剰の金属は、水及びリン酸緩衝液(20mM PO、500mM NaCl、pH7.4)で洗浄することによって除去した。ゲルに結合したニッケルイオンを、非常に強力なキレート剤でゲルから金属イオンを効率的に取り去るEDTAで溶出した。溶出した緑色のNi−EDTA錯体のピーク面積を372nmで測定した。濃度の種々異なるNi−EDTA溶液から線形較正曲線を作成し、これを用いて定量を行った。ニッケル結合容量(図4、ピーク1)はμmol Ni/ml充填ゲルとして示した。
【0096】
金属漏れ
リガンド−ニッケル錯体の安定性を試験するため金属漏れ試験を行った。ニッケル添加ゲルをアセトン緩衝液、pH4.0で洗浄してから、ゲル上のNi含量を求めた(図4)。
【0097】
本発明で製造したすべての試験ゲルで金属の漏れは極めて低いと考えられ、典型的には漏れは4%であった。
【0098】
方法の説明
ニッケルイオンの漏れは、ニッケル結合容量と同じように試験した。ただし、EDTAでニッケルイオンを溶出する前に、ゲルを10カラム体積の酢酸緩衝液、100mM、pH4.0で洗浄した。漏れは結合容量に対する%として示し、式:(面積ピーク2−面積ピーク1)/面積ピーク1に従ってニッケル結合容量とpH4での洗浄後の溶出量(図4、ピーク2)との差として求めた。
【図面の簡単な説明】
【0099】
【図1】本発明に係る多座金属キレートアフィニティクロマトグラフィーリガンドを含む分離媒体の全体的合成経路を示す概略図である。
【図2】本発明に従って製造したIMAC分離媒体を用いた(His)テールを有するマルトース結合タンパク質(MBP−His)の精製例を示す。具体的には、図2(a)はクロマトグラムであり、図2(b)はクロマトグラムの勾配部分の拡大図である。図2では、A280nmでの曲線をAで示し、溶出緩衝液のパーセンテージ(%)をBで示し、導電率をCで示す。
【図3】MBP−HisのIMAC精製で得た画分のSDS−PAGE分析を示す。画分の番号は図2のクロマトグラムと同様である。
【図4】試験クロマトグラムを示し、UV372nm=A、導電率=B、注入=Cである。この試作品のニッケル結合容量は16μmol Ni/mlであり、金属漏れは4%であった。
【図5】実施例5に記載の本発明に係る分離媒体で実施したニッケル容量試験の結果を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1以上の多座金属キレートアフィニティリガンドの合成方法であって、
(a)一般式(I)で定義される1以上の骨格を与える段階
【化1】

(式中、X、X及びXは互いに独立にsp又はsp混成炭素原子又はヘテロ原子であり、Xは求核基であり、mは0〜2の整数である。)、
(b)上記骨格の環構造を維持しながら、骨格の求核基Xの誘導体化によって各骨格に1以上の多座金属キレートアフィニティリガンドのアームを適宜金属キレート官能基を保護した形態で与える段階、
(c)骨格に1以上の金属キレートアフィニティリガンドのアームを追加する試薬の添加によって誘導体化骨格のカルボニルとイオウとの間の結合を開環させる段階、及び必要に応じて
(d)段階(b)で準備したリガンドのアームの官能基を脱保護する段階
を含む方法。
【請求項2】
式(I)のX、X及びXが炭素原子である、請求項1記載の方法。
【請求項3】
式(I)のXが−NHである、請求項1又は請求項2記載の方法。
【請求項4】
式(I)のmが1であって、前記骨格がホモシステインチオラクトンである、請求項1乃至請求項3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
段階(b)における前記誘導体化を、求電子性で式(I)のXと反応し得る部分と金属キレートアフィニティリガンドである部分からなる1種以上の誘導体化剤の添加によって行う、請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記誘導体化を、2種類の異なる又は同一の金属キレート官能基を含む2種類の誘導体化剤の添加によって行う、請求項5記載の方法。
【請求項7】
1種類の誘導体化剤がハロゲン化保護エステルである、請求項5又は請求項6記載の方法。
【請求項8】
1種類の誘導体化剤がブロモ酢酸エチルエステルである、請求項7記載の方法。
【請求項9】
段階(c)における前記開環が塩基の添加による加水分解である、請求項1乃至請求項8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
金属キレート官能基が段階(b)で保護されており、次いで段階(c)及び段階(d)を実質的に同時に実施する、請求項1乃至請求項9のいずれか1項記載の方法。
【請求項11】
誘導体化骨格を与えるため段階(a)及び(b)を前もって実施しておく、請求項1乃至請求項10のいずれか1項記載の方法。
【請求項12】
段階(d)で得た生成物をそのチオール基を介してベースマトリックスに結合させて分離媒体を形成する、請求項1乃至請求項11のいずれか1項記載の方法。
【請求項13】
チオール基をベースマトリックスのアリル基に結合させる、請求項12記載の方法。
【請求項14】
ベースマトリックスをアリル化して反応性基を得る段階をさらに含む、請求項12又は請求項13記載の方法。
【請求項15】
前記リガンドのチオール基を、アリルグリシジルエーテル(AGE)のアリル基を介してベースマトリックスに結合させる、請求項12乃至請求項14のいずれか1項記載の方法。
【請求項16】
ベースマトリックスの反応性基を活性化させる段階をさらに含む、請求項12乃至請求項15のいずれか1項記載の方法。
【請求項17】
前記活性化を臭素化によって実施する、請求項16記載の方法。
【請求項18】
多座金属キレートアフィニティリガンド又はベースマトリックスに複数の多座金属キレートアフィニティリガンドが結合した分離媒体であって、当該リガンド又は媒体が請求項1乃至請求項17のいずれか1項記載の方法で合成したものである、リガンド又は媒体。
【請求項19】
前記リガンドが三座リガンドである、請求項18記載のリガンド又は分離媒体。
【請求項20】
一般式(I)で定義される請求項1乃至請求項4のいずれか1項記載の骨格を含むキットであって、ベースマトリックスに複数の多座金属キレートアフィニティリガンドが結合した分離媒体の製造に前記骨格を使用するための使用説明書と共に固体状態の前記骨格を含むキット。
【請求項21】
前記骨格がホモシステインチオラクトンである、請求項20記載のキット。
【請求項22】
次の一般式で定義される、ベースマトリックスに結合した多座金属キレートアフィニティリガンドを含む分離媒体。
ベースマトリックス−O−CH−CHOH−CH−O−CH−CHOH−CHS−(CH−CH(COOH)−N(CHCOONi2+
式中、nは2〜4の整数である。
【請求項23】
n=2である、請求項22記載の媒体。
【請求項24】
固定化金属イオン吸着クロマトグラフィー(IMAC)用のクロマトグラフィーカラムであって、請求項18、請求項19、請求項22又は請求項23のいずれか1項記載の分離媒体を充填したカラム。
【請求項25】
液体から目標物質を分離する方法であって、請求項18、請求項19、請求項22又は請求項23のいずれか1項記載の分離媒体を準備し、媒体に適当な金属イオンをチャージしてキレートを形成し、媒体を液体と接触させてその表面に目標物質を吸着させることを含む方法。
【請求項26】
分離媒体から目標化合物を脱着させる液体の添加によって、分離媒体から目標物質を溶出する段階をさらに含む、請求項25記載の方法。
【請求項27】
前記溶出が、減少pH勾配を含む液体の使用又は増加イミダゾール濃度勾配の使用によって得られる、請求項26記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2007−528835(P2007−528835A)
【公表日】平成19年10月18日(2007.10.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−568813(P2004−568813)
【出願日】平成15年12月8日(2003.12.8)
【国際出願番号】PCT/SE2003/001903
【国際公開番号】WO2004/076475
【国際公開日】平成16年9月10日(2004.9.10)
【出願人】(597064713)ジーイー・ヘルスケア・バイオサイエンス・アクチボラグ (109)
【Fターム(参考)】