説明

金属キレート化合物を有効成分とする鎮痛剤

【課題】各種の疼痛の緩和軽減に有効な医薬組成物(鎮痛剤)を提供する。
【解決手段】鎮痛剤の有効成分として、次の一般式(1)で示される金属キレート化合物またはその薬学的に許容される塩を用いる:


(式中、RはOH基、O−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学的に許容される金属を示す)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属キレート化合物を有効成分とする鎮痛剤に関する。
【背景技術】
【0002】
痛みの発症には、疾病や外傷などによって組織に損傷を受け、局所に発痛物質が産生されて生ずる場合、また、侵害刺激の有無に関わらず神経系の機能異常等によって引き起こされる場合などが知られている。
【0003】
痛みをその発生源によって分類すると、(1)侵害受容性疼痛(nociceptive pain)、(2)神経因性疼痛(neuropathic pain)、(3)心因性疼痛(psychogenic pain)の3種類に大別することができる。侵害受容性疼痛とは外傷など生体に外部から刺激が加わって生じる痛みや、内部組織などに病変があることで生じる痛みである。このような痛みの多くは、基礎疾患が治癒すると消失することが多い。一方で、末梢組織あるいは末梢神経終末部の異常や末梢神経に損傷が及んだことによって中枢神経系に生じた機能異常、さらには、中枢神経系の障害および心理的機序などによって生じる疼痛があり、これらは神経因性疼痛および心因性疼痛に属する。痛みは多種多様の要因によって生じ、その発現メカニズムは未だ十分に解明されているとはいえないが、痛みおよびその調節に関連する体内物質としては、ブラジキニン、ヒスタミン、プロスタグランジン、セロトニン、サブスタンスP、オピオイドペプチドなどが報告されている。
【0004】
従来より軽度の痛みの治療薬には、末梢に作用点のあるロキソプロフェンナトリウムやアセトアミノフェンなどに代表される非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などが主に用いられている。また癌性疼痛などに代表される中等度、重度の痛みには、中枢に作用点のあるモルヒネに代表されるオピオイド鎮痛薬などが用いられている。しかし、NSAIDsなどの末梢性鎮痛薬については、十分な鎮痛効果が得られない場合があったり、消化器系、腎・泌尿器系などに対する副作用が問題となるため使用量が制限される場合がある。オピオイド鎮痛薬の場合は、侵害受容性疼痛には効果を示すものの、神経因性疼痛および心因性疼痛に対しては十分な効果を示さないことが多いため、使用量を増量しても十分な鎮痛効果が得られないこともある。このような疼痛を難治性疼痛と言う。かかる難治性疼痛に対して、単独、あるいは従来の鎮痛薬と併用することによって十分な鎮痛効果を発揮し、かつ、副作用の少ない新たな鎮痛剤の創製が望まれている。
【0005】
ところで、6,8−ジメルカプトオクタン酸はミトコンドリア中に存在する補酵素、αリポ酸の還元体であり、酸化型のグルタチオンやビタミンCを還元型に再生させる作用がある。しかし、6,8−ジメルカプトオクタン酸は空気中では非常に不安定で酸化されてαリポ酸に戻ることが知られている。
【0006】
かかるαリポ酸の誘導体としては、αリポ酸にグリシン、メチオニン、グルタミン酸、バリンなどのアミノ酸がそれぞれ結合したαリポイルアミノ酸(特許文献1)、αリポイルアミノエチルスルホン酸のイミダゾール塩(特許文献2)、リポイルエステル(非特許文献1)、及びジヒドロリポ酸およびジヒドロリポアミドの金属誘導体(非特許文献2及び3)が知られている。
【0007】
これらのαリポ酸またはその誘導体は、その還元体を金属でキレート化させることで安定化することができる。かかる金属キレート化合物(6,8−ジメルカプトオクタン酸金属キレート化合物またはその誘導体)には、チロシナーゼ阻害作用、エラスターゼ阻害作用、メラニン産生抑制作用、頭皮脱毛治癒作用、癌治療効果があることが知られている(特許文献3〜6等参照)。しかし、かかる金属キレート化合物に鎮痛作用があることについては知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭42-1286号公報(対応米国特許No.3,238,224)
【特許文献2】特開2000-169371号公報
【特許文献3】国際公開公報WO 02/076935 A1
【特許文献4】国際公開公報WO 04/024139 A1
【特許文献5】特表2008-174453号公報
【特許文献6】特表2002-528446号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】Biochem. J.,(1990)271, 45-49
【非特許文献2】Inorganica Chimica Acta, 192 (1992) 237-242
【非特許文献3】J. Org. Chem., 1985, 50, 2522-2524
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、急性痛から慢性痛などの様々な疼痛を軽減するのに有効な医薬組成物、すなわち鎮痛剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねていたところ、下記の一般式(1)で示される金属キレート化合物:
【0012】
【化1】

【0013】
(式中、RはOH基、O−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学上許容される金属を示す。)、
特に、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジンナトリウム・亜鉛キレート化合物に、鎮痛機序において注目されている炎症細胞の遊走を抑制する作用があり、疼痛惹起物質(FCA)によって誘導した疼痛を有意に軽減することができること、しかもその鎮痛効果に持続性があることを見出した。
【0014】
かかることから、本発明者らは、当該金属キレート化合物(1)は急性疼痛の軽減・緩和のみならず、慢性疼痛の軽減・緩和にも有効であることを確信し、本発明を開発するにいたった。
【0015】
本発明はかかる知見に基づいて完成したものであり、下記の実施態様を包含する。
(I)鎮痛剤
(I-1)次の一般式(1)で示される金属キレート化合物またはその薬学的に許容される塩を、疼痛を低減または消失するために有効な割合で含有する鎮痛剤:
【0016】
【化2】

【0017】
(式中、RはOH基、0−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学的に許容される金属を示す)。
(I-2)金属キレート化合物(1)が、6,8−ジメルカプトオクタン酸低級アルキルエステルの金属キレート化合物、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸の金属キレート化合物、およびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチドの金属キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属キレート化合物である、(I-1)に記載する鎮痛剤。
(I-3)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物が、6,8−ジメルカプトオクタン酸アミド金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタノール金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)イソプロピルアミン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)5−O−メチルセロトニン金属キレートおよびN−(5,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノピリジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(I-2)に記載する鎮痛剤。
(I-4)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸の金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(I-2)に記載する鎮痛剤。
(I-5)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレートが、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グリシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)セリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラギン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グルタミン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)フェニルアラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)メチオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ノルロイシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)システイン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ハイドロキシプロリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−5−ハイドロキシトリプトファン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ペニシラミン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)リジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(I-4)に記載する鎮痛剤。
(I-6)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−3−アミノプロピオン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−アミノ酪酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−6−アミノヘキサン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−トランスアミノメチル−1−シクロヘキサンカルボン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタンスルホン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スルファニル酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アントラニル酸金属キレートからなる群から選ばれるものである、(I-4)に記載する鎮痛剤。
(I-7)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチド金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラチイルグリシン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニルグリシン金属キレート化合物からなる群から選ばれるものである、(I-4)に記載する鎮痛剤。
(I-8)金属が亜鉛である(I-1)乃至(I-7)のいずれかに記載する鎮痛剤。
(I-9)治療対象とする疼痛が急性疼痛または慢性疼痛である、(I-1)乃至(I-8)のいずれかに記載する鎮痛剤。
(I-10)治療対象とする疼痛が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛である、(I-1)乃至(I-9)のいずれかに記載する鎮痛剤。
【0018】
(II)鎮痛方法
(II-1)次の一般式(1)で示される金属キレート化合物またはその薬学的に許容される塩を、疼痛患者に対して疼痛を低減または消失する有効量投与する工程を有する鎮痛方法:
【0019】
【化3】

【0020】
(式中、RはOH基、0−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学的に許容される金属を示す)。
(II-2)金属キレート化合物(1)が、6,8−ジメルカプトオクタン酸低級アルキルエステルの金属キレート化合物、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸の金属キレート化合物、およびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチドの金属キレート化合物からなる群から選択される少なくとも1種の金属キレート化合物である、(II-1)に記載する鎮痛方法。
(II-3)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物が、6,8−ジメルカプトオクタン酸アミド金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタノール金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)イソプロピルアミン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)5−O−メチルセロトニン金属キレートおよびN−(5,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノピリジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(II-2)に記載する鎮痛方法。
(II-4)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸の金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(II-2)に記載する鎮痛方法。
(II-5)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレートが、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グリシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)セリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラギン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グルタミン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)フェニルアラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)メチオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ノルロイシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)システイン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ハイドロキシプロリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−5−ハイドロキシトリプトファン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ペニシラミン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)リジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、(II-4)に記載する鎮痛方法。
(II-6)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−3−アミノプロピオン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−アミノ酪酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−6−アミノヘキサン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−トランスアミノメチル−1−シクロヘキサンカルボン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタンスルホン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スルファニル酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アントラニル酸金属キレートからなる群から選ばれるものである、(II-4)に記載する鎮痛方法。
(II-7)N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチド金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラチイルグリシン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニルグリシン金属キレート化合物からなる群から選ばれるものである、(II-4)に記載する鎮痛方法。
(II-8)金属キレート化合物(1)の金属が亜鉛である(II-1)乃至(II-7)のいずれかに記載する鎮痛方法。
(II-9)疼痛患者が、急性疼痛患者または慢性疼痛患者である、(II-1)乃至(II-8)のいずれかに記載する鎮痛方法。
(II-10)疼痛患者が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛の患者である、(II-1)乃至(II-9)のいずれかに記載する鎮痛方法。
【発明の効果】
【0021】
本発明により、一般式(1)で表される金属キレート化合物またはその薬理学上許容される塩を有効成分とする鎮痛剤を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】左足底に痛み惹起物質(FCA)、右足底に生理食塩水をそれぞれ皮下注射して作成した亜急性疼痛モデルラットの「DHLHzn投与群」に本化合物(DHLHzn)を、また「生食投与群」に生理食塩水を、それぞれ7日間、1日2回の割合で連日皮下投与し、DHLHZnの鎮痛効果をplanter testにて評価した結果を示す(実験例1)。足底に熱刺激を与えた際に足を引っ込めるまでにかかった時間(逃避時間:Latency of response:秒)を測定した結果を示す。統計処理は、Mann-WhitneyのU検定を行い、P<0.05を有意差ありとした。
【図2】実験例1の実験後、「生食投与群」のFCA投与足(A群)、「生食投与群」の生食投与足(B群)、および「DHLHZn投与群」のFCA投与足(C群)から採取した各組織をヘマトキシリン・エオシン染色した結果を示す(実験例2)。
【図3】上記A〜C群から採取した各組織について、ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を測定した結果を示す(実験例2)。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の鎮痛剤は、次の一般式(1)で示される金属キレート化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とすることを特徴とする:
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、RはOH基、O−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学的に許容される金属を示す)。
【0026】
ここで上記式中、Mで示す「薬学的に許容される金属」とは、生体毒性がなく2つのチオール基と配位結合またはキレート結合し得るものであればよく、例えば亜鉛、コバルトまたはセレン等の2価の金属、鉄等の2価または3価の金属、ゲルマニウムやセレン等の4価の金属を挙げることができる。好ましくは2価の金属であり、より好ましくは亜鉛である。
【0027】
上記式中、RがO−低級アルキル基である場合の金属キレート化合物(1)を、本発明では「6,8−ジメルカプトオクタン酸低級アルキルエステルの金属キレート化合物」と総称する。この場合の「低級アルキル基」としては、炭素数1〜6の直鎖状または分岐状のアルキル基を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基、ヘキシル基、2−メチルペンチル基、3−メチルペンチル基、4−メチルペンチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基などが挙げられる。好ましくはメチル基およびエチル基である。
【0028】
上記式中、Rがアミノ基またはN−置換アミノ基である場合の金属キレート化合物(1)を「N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物」と総称する。この場合の「N−置換アミノ基」としては、第一級アミノ基の1または2の水素原子または第二級アミノ基の1の水素原子が、炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基;炭素数1〜5の脂肪族アルコール残基;またはピリジン環、ピリミジン環もしくはインドール環などの窒素原子を含むヘテロ環で置換された基を挙げることができる。なお、ここで脂肪族炭化水素基、脂肪族アルコール残基、及び窒素原子を含むヘテロ環は、それぞれ置換基を有するものであってもよく、かかる置換基としては水酸基;ハロゲン原子(塩素原子、フッ素原子、ヨウ素元素等);炭素数1〜6のO−低級アルキル基;炭素数1〜6のアルキル基;並びに修飾されていてもよいピリジン環、ピリミジン環もしくはインドール環などの窒素原子を含むヘテロ環基等を、特に制限なく挙げることができる。
【0029】
炭素数1〜5の脂肪族炭化水素基としては、炭素数1〜5の直鎖状または分岐状の低級アルキル基、炭素数2〜5の直鎖状または分岐状の低級アルケニル基、及び炭素数2〜5の直鎖状または分岐状の低級アルキニル基を挙げることができる。好ましくは低級アルキル基である。かかる低級アルキル基としては、前述するように、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、tert−ペンチル基などが挙げられる。好ましくはメチル基およびエチル基である。
【0030】
また炭素数2〜5の低級アルケニル基としてはビニル基、プロペニル基、ブテニル基およびペンテニル基などを、炭素数2〜5の低級アルキニル基としてはエチニル基、プロピニル基、ブチニル基、ペンチニル基等が挙げられる。
【0031】
炭素数1〜5の脂肪族アルコール残基としては、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、およびイソブタノール等の低級アルコールが挙げられる。
【0032】
RがN−置換アミノ基である本発明の金属キレート化合物(1)として、具体的には、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタノール金属キレート(R=−NHの1つの水素原子がエタノール残基で置換された基)、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)イソプロピルアミン金属キレート(R=−NHの1つの水素原子がイソプロピル基で置換された基)、N−(5,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノピリジン金属キレート化合物(R=−NHの1つの水素原子が2−ピリジル基で置換された基)、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)5−O−メチルセロトニン金属キレート(R=5−O−メチルセロトニンの側鎖のNH基の水素原子の1つが置換された基)などを挙げることができる。
【0033】
上記式中、Rがアミノ酸残基である場合の金属キレート化合物(1)を、本発明では「6,8−ジメルカプトオクタン酸アミノ酸の金属キレート化合物」と総称する。この場合の「アミノ酸」としては、同一分子内にカルボキシル基とアミノ基を有する、α−アミノ酸;β−アミノ酸、γ−アミノ酸、δ−アミノ酸、及びε−アミノ酸(β−〜ε−アミノ酸を総称して「ω−アミノ酸」という);アミノメチルシクロヘキサンカルボン酸、アントラニル酸およびアントラニル酸エチル;及び同一分子内にスルホン酸基とアミノ基を有するアミノエタンスルホン酸(タウリン)やp−アミノベンゼンスルホン酸(スルファニル酸)などのアミノ酸(以上のアミノ酸を総称して「特殊アミノ酸」という)を挙げることができる。
【0034】
α−アミノ酸としては、たとえばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、ノルロイシン、セリン、スレオニン、チロシン、システイン、メチオニン、アスパラギン酸、アスパラギン、グルタミン酸、グルタミン、アルギニン、リジン、ヒスチジン、フェニルアラニン、トリプトファン及びペニシラミンなどが挙げられる。好ましくはグリシン、アラニン、スレオニン、セリン、アスパラギン酸、グルタミン酸、フェニルアラニン、メチオニン、システイン、リジン、ヒスチジン、及びペニシラミンである。なお、これらのα−アミノ酸は、置換基として水酸基を有するものであってもよい。水酸基を有するα−アミノ酸としては、制限されないが、例えばハイドロキシプロリンやハイドロキシトリプトファン等を挙げることができる。
【0035】
β−アミノ酸としてはβ−アラニンが挙げられる。γ−アミノ酸としてはγ−アミノ−n−酪酸(GABA)やカルニチンが挙げられる。δ−アミノ酸としては5−アミノレブリン酸や5−アミノ吉草酸が、ε−アミノ酸としては6−アミノヘキサン酸が挙げられる(前述するように、これらのアミノ酸を総称して「ω−アミノ酸」という)。
【0036】
これらのアミノ酸のうち、好ましくはメチオニン、ヒスチジン、リジン、フェニルアラニン等のα−アミノ酸;γ−アミノ−n−酪酸や6−アミノヘキサン酸等のω−アミノ酸;及びアントラニル酸やアミノエタンスルホン酸等の特殊アミノ酸であり、より好ましくはヒスチジンである。
【0037】
上記式中、Rがペプチド残基である場合の金属キレート化合物(1)を、本発明では「6,8−ジメルカプトオクタン酸ペプチドの金属キレート化合物」と総称する。この場合の「ペプチド」としては、好ましくは同種または異種の2個のアミノ酸(前記と同義)が、互いに一方のカルボキシル基と他方のアミノ酸のアミノ基とが酸アミド結合したジペプチドを挙げることができる。かかるジペプチドとして、具体的にはアスパラチイルグリシンやスレオニイルグリシンなどを挙げることができる。
【0038】
本発明の金属キレート化合物(1)の薬理学的に許容できる塩としては、ナトリウム塩やカリウム塩などのアルカリ金属塩、およびカルシウム塩やマグネシウム塩などのアルカリ土類金属塩を挙げることができる。なお、これら以外の塩であっても薬理学的に許容できる塩であればいずれのものであっても本発明の目的のため適宜に用いることができる。また、本発明が対象とする金属キレート化合物(1)には、その水和物や溶媒和も含まれる。
【0039】
本発明の鎮痛剤の有効成分として使用する金属キレート化合物(1)の合成法を、Mで示される金属が亜鉛である場合を例に挙げて次に説明する。
【0040】
【化5】

【0041】
具体的には、α−リポ酸またはα−リポ酸アミドを亜鉛と塩酸(または酢酸)で還元することで、上記式においてRが水酸基である、6,8−ジメルカプトオクタン酸亜鉛キレート化合物またはそのアミド化合物を合成することができる。また、6,8−ジメルカプトオクタン酸低級アルキルエステル亜鉛キレートは、α−リポ酸の低級アルキルエステルを、上記と同様にして還元することで得ることができる。
【0042】
さらに、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミン、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸またはN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ペプチドは、たとえばα−リポ酸をクロロホルムまたはアセトニトリルに溶かし、トリエチルアミン存在下、クロル炭酸エチルを用いて混合酸無水物法によりアミン、アミノ酸またはペプチドを各々、カップリングさせ、N−α−リポイルアミン、N−α−リポイルアミノ酸またはN−α−リポイルペプチドを得る。これらを亜鉛と酢酸(または塩酸)で還元することで、各々、目的の化合物を得ることができる。
【0043】
さらに、Rとしてアミノ酸残基またはペプチド残基を有する金属キレート化合物(1)を、例えばアルカリ塩(アルカリ金属塩、アルカリ金属土類塩)に導く方法としては、その遊離酸を水に溶解または懸濁しておき、これを水酸化アルカリ(例えば、水酸化ナトリウム、水酸化マグネシウムなど)で中和して溶解した後、濃縮し、アルコールを加えて結晶を析出させる方法を挙げることができる。斯くして本発明が対象とする金属キレート化合物(1)の塩を得ることができる。
【0044】
α−リポ酸またはα−リポ酸誘導体の還元体、すなわち、6,8−ジメルカプトオクタン酸またはその誘導体は空気中で非常に不安定であるが、金属、例えば亜鉛等の金属でこれをキレート化させると六員環となり結晶性の良い安定な化合物となる。
【0045】
本発明の金属キレート化合物(1)、特にN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジン亜鉛キレート化合物のラットでの急性毒性LD50は、経口投与で2000mg/kg以上であり、毒性がない分類に属する安全性の高い化合物である。
【0046】
後述する実験例1で示すように、本発明の金属キレート化合物(1)はフロイント完全アジュバント(FCA)投与で誘導した疼痛を軽減・緩和することができる。しかも、その鎮痛効果には持続性がある。従来から多くの急性および慢性疼痛の機序に炎症細胞の遊走が関与することが報告されていることから、本化合物(1)は炎症細胞の遊走抑制作用に基づいて、急性疼痛を軽減または緩和するのみならず、慢性疼痛をも軽減または緩和するための有効成分として有用であると考えられる。
【0047】
従って本化合物(1)を有効成分とする本発明の医薬品及び医薬組成物は、急性および慢性疼痛の軽減剤または緩和剤(本発明ではこれらを総称して「鎮痛剤」という)として、疼痛患者に対する疼痛の制御及び管理に有効に用いることができる。
【0048】
ここで疼痛とは、不快な知覚や、実際又は潜在的な組織の障害に伴う感情経験(Classification of Chronic Pain,2nd Edition, IASP Task Force on Taxonomy, edited by H. Merskey and N. Bogdug, IASP Press, Seattle, 1994, p209)として定義される。急性疼痛は、自律(反射)反応が関与する不快な感覚、知覚、感情経験の型、及び傷害や急性疾患によって引き起こされる精神的、行動的反応である(Halpern, 1984, Advances in Pain Research and Therapy, Vol 7, Ed. C. Bendetii et al, page 47)。組織の傷害は侵害受容器によって脊髄に伝達される活動電位に変換される一連の侵害性刺激を引き起こし、その刺激は、上位の神経系へと伝達される。急性疼痛の例としては、歯痛、術後疼痛、産科痛、神経痛および筋痛等が挙げられる。慢性疼痛は、上記Halpern, ibid, 1984に、急性疾患の通常の経過を越える持続する痛み、又は創傷治癒の通常の経過を越える痛みと定義されるが、これに限定されない。慢性疼痛は侵害性疼痛系の持続的な機能障害の典型的な結果である。慢性疼痛の例としては、三叉神経痛、発疹後の神経痛(急性ヘルペスに引き続いて起こる皮膚に分布する皮膚変化に伴う慢性疼痛の一形態)、糖尿病性神経痛、灼熱痛、および幻肢痛、並びに骨関節炎,リューマチまたは癌に伴う疼痛等が挙げられる。
【0049】
背景技術の欄で説明するように、痛みをその発生源によって分類すると、(1)侵害受容性疼痛(nociceptive pain)、(2)神経因性疼痛(neuropathic pain)、(3)心因性疼痛(psychogenic pain)の3種類に大別することができる。本化合物はその炎症細胞の遊走抑制作用に基づいて、これらの疼痛のいずれにも有効に鎮痛効果を発揮することができる。
【0050】
ここで侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛としては、例えば、癌性疼痛及び癌性疼痛症候群、術後疼痛、椎間板ヘルニア、頚椎症、腰椎術後疼痛症候群、Tolosa-Hunt症候群、後縦靭帯骨化症、黄色靭帯骨化症、腰椎分離すべり症、変形性脊椎症を挙げることができる。侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛のうち、神経因性疼痛が主と思われるものとしては、帯状疱疹及び帯状疱疹後神経痛、複合性局所疼痛症候群(CRPS)、中枢性疼痛症候群、視床痛、頚椎症性脊髄症、頚髄症、幻肢痛、断端痛、脊柱管狭窄症、三叉神経痛、神経絞扼症候群、舌咽神経痛、パンコースト症候群、胸郭出口症候群、助間神経痛、開胸術後神経痛を挙げることができる。侵害受容性疼痛及び神経因性疼痛に属する疼痛のうち、侵害受容性疼痛が主と思われるものとしては、筋・筋膜症候群、骨粗鬆症、線維筋痛症、リウマチ性脊椎炎、関節疾患、強直性脊椎炎、外傷性頚部症候群、脊椎炎、椎間板炎、肩関節周囲炎、痛風、顎関節症、椎間関節症、バージャー病、閉塞性動脈硬化症を挙げることができる。
【0051】
また本化合物は、その炎症細胞の遊走抑制作用に基づいて、上記のいずれにも該当しない疼痛に対しても効果を発揮すると考えられる。かかる疼痛としては、片頭痛、非定型顔面痛、群発頚痛、筋緊張型頭痛、及び側頚動脈炎を挙げることができる。
【0052】
本化合物(1)は、鎮痛剤として、ヒトまたはその他の哺乳動物(例えば、マウス、ラット、ハムスター、ウサギ、ネコ、イヌ、ウシ、ヒツジ、サルなど)に、経口的にあるいは非経口的〔静脈投与、皮下投与、経皮投与、経肺投与、経粘膜投与(点鼻など)、直腸投与など〕に投与される。鎮痛剤は、疼痛の軽減または緩和に有効な割合の本化合物(1)と、経口または非経口投与に通常用いられる薬学的に許容される担体(賦形剤、結合剤、崩壊剤、崩壊補助剤、滑沢剤、湿潤剤など)や添加剤とを混合し、顆粒剤、散剤、錠剤(糖衣錠を含む)、丸剤、バッカル剤、カプセル剤、シロップ剤、液剤、乳剤、懸濁剤、クリーム剤、軟膏剤、点眼剤、注射剤、点滴剤、点鼻剤、貼付剤、坐剤などの所望の形態に製剤化することにより調製することができる。
【0053】
これらの製剤には通常用いられる薬学的に許容される担体として、例えば、結合剤(例えば、シロップ、アラビアゴム、ゼラチン、ソルビット、トラガント、ポリビニルピロリドン)、賦形剤(例えば、乳糖、砂糖、コーンスターチ、リン酸カリウム、ソルビット、グリシン)、潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、ポリエチレングリコール、シリカ)、崩壊剤(例えば、ジャガイモ澱粉)、湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)、増粘剤、分散剤等を、またその他の添加剤として、再吸収促進剤、pH調整剤、界面活性剤、溶解補助剤、保存剤、乳化剤、等張化剤、安定化剤等を例示することができる。
【0054】
本化合物(1)を鎮痛剤として使用する際の投与量は、使用する本化合物(1)の種類、疼痛患者の体重や年齢、対象とする疼痛の種類やその状態および投与方法などによっても異なるが、たとえば、本化合物(1)の量に換算して、注射剤の場合は成人1日1回約1mg〜約30mg、錠剤等の経口投与剤の場合は、成人1日数回、1回量約1mg〜約100mg程度、さらに軟膏やクリーム及び貼付剤等の外用剤の場合は、1回量約1mg〜約1000mg程度を投与するのがよい。また、点眼剤等のような粘膜投与剤の場合は、成人1日数回、1回数滴、濃度が約0.01〜5(w/v)%の製剤を投与するのがよい。
【0055】
本化合物(1)を含有する医薬組成物(鎮痛剤)には、本発明の目的に反しない限り、その他の鎮痛剤や疼痛緩和剤または別種の薬効成分を適宜含有させてもよい。
【0056】
例えば本化合物(1)と共に投与することができる鎮痛剤や疼痛緩和剤の例としては、鎮痛作用または疼痛緩和作用を有するものであればよく、特に制限されないが、例えば非麻薬性鎮痛薬もしくは麻薬性鎮痛薬などの鎮痛薬;非ステロイド系抗炎症剤(NSAID)、ステロイドもしくは抗リウマチ剤などの抗炎症剤;βアドレナリン遮断薬、麦角誘導体、もしくはイソメテプテンなどの片頭痛製剤;アミトリプチリン、デシプラミン、もしくはイミプラミンなどの三環系抗うつ剤;ガバペンチン、カルバマゼピン、トピラメート、バルプロ酸ナトリウム、もしくはフェニトインなどの抗てんかん薬;α刺激薬;または選択的セロトニン再取り込み阻害薬/選択的ノルエピネフリン取り込み阻害薬、あるいはそれらの組合せを挙げることができる。また、その他の薬効成分としては、疼痛を伴う疾患の治療に用いられる薬効成分、例えば血管新生阻害剤、抗悪性腫瘍剤、抗糖尿病剤、感染治療薬、胃腸薬、などを挙げることができる。
【実施例】
【0057】
次に、製造例、実験例および実施例を挙げて本発明を説明するが、本発明の範囲に限定されない。
【0058】
〔製造例1〕 6,8−ジメルカプトオクタン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物および6,8−ジメルカプトオクタン酸・亜鉛キレート モノエタノールアミン(アミノエタノール)塩
DL−α−リポ酸6.2gをメタノール70mLに溶かし、亜鉛未3.0gおよび1N−塩酸40mLを加えて50℃で1時間撹拌した。つぎに、末反応の亜鉛を濾別し、濾液を減圧下で濃縮させ、これに水を加えて析出した白色結晶を濾取する。これを水150mLに懸濁して置き、2N−水酸化ナトリウムで約pH9にして溶解し、不溶物を濾別した。濾液を濃縮し、これにエタノールを加えて析出する白色結晶を濾取し、水/エタノールから再結晶させることで掲題の6,8−ジメルカプトオクタン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物6.0gを得た。mp.300℃以上、TLC,Rf=0.88(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0059】
また、上記の水酸化ナトリウムの代わりにモノエタノールアミンを用いることで、6,8−ジメルカプトオクタン酸・亜鉛キレート モノエタノールアミン(アミノエタノール)塩8.5gを得た。mp.137〜139℃。
【0060】
〔製造例2〕 6,8−ジメルカプトオクタン酸エチル・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸エチル3.5gをテトラハイドロフラン60mLに溶かし、これに亜鉛末2.0gおよび70%酢酸水溶液40mLを加えて、50℃で2時間撹伴した。次いで、末反応の亜鉛を濾別し、濾液を濃縮し、これに水を加えて析出した白色結晶を濾取し、酢酸/水から再結晶させて掲題の金属キレート化合物3.6gを得た。mp.290℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.88(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0061】
〔製造例3〕 6,8−ジメルカプトオクタン酸アミド・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸アミド4.2gをテトラハイドロフラン70mLに溶かし、これに亜鉛末2.5gおよび50%酢酸水溶液30mLを加えて50℃で2時間撹拌した。次いで、溶媒を留去した後、析出した亜鉛混じりの結晶を濾取し、水およびエタノールで洗い、酢酸/水から再結晶させて、白色結晶の掲題の金属キレート化合物4.5gを得た。mp.257〜259℃、TLC,Rf=0.80(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0062】
〔製造例4〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グリシンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびグリシン1.9gを用いて、N−α−リポイルグリシンナトリウム(mp.218〜220℃)を経て、白色結晶の掲題の金属キレート化合物3.9gを得た。mp.297℃付近から分解、TLC,Rf=0.64(クロロホルム:メタノール:水=5:4:1)。
【0063】
〔製造例5〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラギン酸モノナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−アスパラギン酸2.9gを用いて、N−α−リポイルアスパラギン酸ナトリウム(mp.300℃以上)を経て、白色結晶の掲題の金属キレート化合物4.2gを得た。mp.295℃付近から分解。TLC,Rf=0.53(クロロホルム:メタノール:水=5:4:1)。
【0064】
〔製造例6) N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)メチオニンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−メチオニン3.5gを用いて、N−α−リポイルメチオニン(mp.108〜109℃)を経て、白色結晶の掲題化合物2.8gを得た。mp.260℃付近から分解。TLC,Rf=0.82(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0065】
〔製造例7〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)システイン・亜キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−システイン2.6gを用いて、N−α−リポイルシステインナトリウム(mp.150℃付近から分解)を経て、白色結晶の掲題化合物4.1gを得た。mp.280℃付近から分解。TLC,Rf=0.71(クロロホルム:メタノール:水=5:4:1)。
【0066】
〔製造例8〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)フェニルアラニンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−フェニルアラニン3.5gを用いて、N−α−リボイルフェニルアラニン(mp.154〜156℃)を経て、白色結晶の掲題化合物3.9gを得た。mp.270℃付近から分解。TLC,Rf=0.82(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0067】
〔製造例9〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−アミノ酪酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよび4−アミノ酪酸2.3gを用いて、N−α−リポイル−4−アミノ酪酸(mp.235℃付近から分解)を経て、白色結晶の掲題化合物5.2gを得た。mp.297℃付近から分解。TLC,Rf=0.70(クロロホルム:メタノール:水=5:4:1)。
【0068】
〔製造例10〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−6−アミノヘキサン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよび6−アミノヘキサン酸3.0gを用いて、N−α−リポイル−6−アミノヘキサン酸ナトリウム(mp.200〜202℃)を経て、白色結晶の掲題化合物2.0gを得た。mp.295℃付近から分解。TLC,Rf=0.84(クロロホルム:メタノール:水=5:4:1)。
【0069】
〔製造例11〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アントラニル酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびアントラニル酸2.9gを用いて、N−α−リポイルアントラニル酸ナトリウム(mp.300℃以上)を経て、白色結晶の掲題化合物2.1gを得た。mp.290℃付近から分解。TLC,Rf=0.88(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0070】
〔製造例12] N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタンスルホン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸6.2gおよび2−アミノエタンスルホン酸4.5gを用いて、N−α−リポイルアミノエタンスルホン酸ナトリウム(mp.235〜237℃)を経て、白色結晶の掲題化合物4.5gを得た。mp.293℃付近から分解。TLC,Rf=0.51(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0071】
〔製造例13〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ハイドロキシプロリンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−4−ハイドロキシプロリン2.8gから白色結晶の掲題化合物4.9gを得た。mp.300℃以上。TLC,Rf=0.66(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0072】
〔製造例14〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−ヒスチジン3.4gから白色粉末結晶の掲題化合物5.8gを得た。mp.300℃以上。TLC,Rf=0.39(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。当該化合物は水によく溶解し、アルコールやエーテルに溶解しない。
【0073】
〔製造例15〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グルタミン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−グルタミン酸3.5gから白色結晶の掲題化合物5.7gを得た。mp.300℃以上。TLC,Rf=0.74(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0074】
〔製造例16〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニンナトリウム亜鉛・キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−スレオニン2.6gから白色結晶の掲題化合物5.5gを得た。mp.300℃以上。TLC,Rf=0.73(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0075】
〔製造例17〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アラニンナトリウム亜鉛・キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−アラニン2.1gから白色結晶の掲題化合物5.4gを得た。mp.290℃付近から分解。TLC,Rf=0.78(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0076】
〔製造例18〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)セリンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−セリン2.4gから白色結晶の掲題化合物5.0gを得た。mp.285℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.64(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0077】
〔製造例19〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ノルロイシンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−ノルロイシン3.0gからN−α−リポイルノルロイシン(mp.120〜121℃)を得て、白色結晶の掲題化合物5.1gを得た。mp.295℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.90(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0078】
〔製造例20〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−5−ハイドロキシトリプトファンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびL−5−ハイドロキシトリプトファン5.0gから灰白色結晶の掲題化合物6.5gを得た。mp.290℃付近から分解。TLC,Rf=0.81(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0079】
〔製造例21〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ペニシラミンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびD−ペニシラミン3.5gから白色結晶の掲題化合物6.0gを得た。mp.280℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.80(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0080】
〔製造例22〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−3−アミノプロピオン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびβ−アラニン2.0gから白色結晶の掲題化合物5.8gを得た。mp.295℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.83(n-ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0081】
〔製造例23〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−トランスアミノメチル−1−シクロヘキサンカルボン酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物(別名、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−トラネキサム酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物)
DL−α−リポ酸4.2gおよび4−トランスアミノメチルシクロヘキサンカルボン酸3.5gから白色結晶の掲題化合物5.8gを得た。mp.297℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.81(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0082】
〔製造例24] N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スルファニル酸ナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびスルファニル酸3.8gから白色結晶の掲題化合物5.4gを得た。mp.300℃以上。TLC,Rf=0.57(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0083】
〔製造例25〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)イソプロピルアミン・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびトリエチルアミン2.4gをアセトニトリル50mLに溶かして撹件下−5℃に冷却し、これにクロル炭酸エチル2.4gを徐々に滴下した。滴下終了20分後、さらに、イソプロピルアミン1.5gをアセトニトリル30mLに溶かしたものを速やかに加えて30分間撹拌し、室温に戻してから更に1時間撹拌した。これを減圧下で溶媒を留去し、残渣に水を加えて冷却し、析出した淡黄色結晶を濾取した。これをテトラハイドロフラン(THF)60mLに溶かし、50%酢酸水溶液20mLおよび亜鉛末2.0gを加えて、50℃で2時間撹拌した後、未反応の亜鉛を濾別し、濾液を濃縮した。残渣に水を加えて析出した白色結晶を濾取し、THF/酢酸/水から再結晶させて掲題合物5.0gを得た。mp.271〜273℃。TLC,Rf=0.89(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0084】
〔製造例26〕 N−(6,8−ジメルカブトオクタノイル)−2−アミノエタノール・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびモノエタノールアミン1.5gを用いて白色結晶の掲題化合物4.2gを得た。mp.298℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.77(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0085】
〔製造例27] N−(5,8−ジメルカプトオクタノイル)5−O−メチルセロトニン・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびO−メチルセロトニン4.0gを用いて、白色結晶の掲題化合物6.5gを得た。mp.210〜212℃。TLC,Rf=0.84(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0086】
〔製造例28〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノピリジン・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよび2−アミノピリジン2.2gを用いて白色結晶の掲題化合物5.3gを得た。mp.243〜245℃。TLC,Rf=0.87(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0087】
〔製造例29〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アントラニル酸エチル・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2gおよびアントラニル酸エチル3.6gを用いて白色結晶(THF−酢酸−水から再結晶)の掲題化合物4.6gを得た。mp.290℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.88(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0088】
〔製造例30〕 Nεー(6,8−ジメルカプトオクタノイル)リジン・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸4.2g、トリエチルアミン2.4gおよびクロル炭酸エチル2.4gをアセトニトリル50mL中、冷却下で混合酸無水物とし、これにL−リジン3.1g、硫酸銅(5水和物)5.5gおよび水酸化ナトリウム2.0gを水60mLに溶かしたものを加えて反応させた。析出したNε−(α−リポイル)リジンの銅塩を濾取し、水およびメタノールで洗った後、これを70%の酢酸水溶液にサスペンドして置き、硫化水素で銅を硫化銅として濾別した。濾液を濃縮し、残渣にメタノールを加えて析出した淡黄色の結晶3.5gを濾取した。mp.254〜255℃。
【0089】
つぎに、これを60%酢酸水溶液に溶かし、亜鉛末2.0gを加えて、50℃で3時間撹伴し、亜鉛を濾別した後、濾液を濃縮し、これにメタノールを加えて析出した白色結晶の掲題化合物3.4gを得た。mp.295℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.47(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0090】
〔製造例31〕 N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラチイルグリシンジナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸2.1gおよびL−アスパラチイルグリシン2.1gを用いて、同様にして、N−(α−リポイル)アスパラチイルグリシンナトリウムを径由して、掲題化合物の白色結晶3.1gを得た。mp.270℃付近から徐々に分解。TLC,Rf=0.54(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0091】
〔製造例32〕 N−(ジメルカプトオクタノイル)スレオニルグリシンナトリウム・亜鉛キレート化合物
DL−α−リポ酸2.1gおよびL−スレオニルグリシン2.1gを用いて、掲題化合物の淡黄白色結晶2.6gを得た。mp.260℃付近から徐々に分解、TLC,Rf=0.60(n−ブタノール:酢酸:水=4:1:2)。
【0092】
実験例1
以下の実験例では、疼痛に対する本発明の金属キレート化合物(1)の鎮痛効果を調べた。なお、本発明の金属キレート化合物(1)として、製造例14で調製した下式のN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−L−ヒスチジンナトリウム・亜鉛キレート化合物(以下、単に「DHLHZn」という)を用いた。
【0093】
【化6】

【0094】
痛みを惹起する物質としてフロイント完全アジュバント(FCA:ROCKRAND製)を用いて疼痛モデル動物を作成し、機械的刺激に対する足引っ込め時間を測定することで、本発明の金属キレート化合物の鎮痛効果(疼痛軽減効果、疼痛緩和効果)を評価した。なお、データはすべてMann-WhitneyのU検定を行い、P<0.05を統計的有意とした。
【0095】
(1)被験動物
体重200-250gの雄SDラット(6週齢)を使用した。ラットはすべて、実験前後に食物と水に無制限に摂取できるようにした。研究は国立大学法人大分大学医学部の動物研究の倫理委員会によって承認された。すべてのプロトコルは国立衛生研究所(NIH)のガイドラインに沿って行った。かかるラットを無作為に、生理食塩水(0.3ml)投与群(以下、「生食投与群」という)(n=7)とDHLHZn(10mg/kg)投与群(以下、「DHLHZn投与群」という)(n=7)の2群に分けた。各群の各ラットの左足底にFCAを、また右足底に生理食塩水をそれぞれ皮下注射により投与し(1.0 ml/kg)、亜急性疼痛モデル動物を作成した。
【0096】
(2)実験方法
上記で作成した亜急性疼痛モデル動物の「DHLHZn投与群」に上記本化合物(DHLHZn)を、また「生食投与群」に生理食塩水を、それぞれ7日間、1日2回の割合で連日皮下投与し、DHLHZnの鎮痛効果をplanter testにて評価した。
【0097】
具体的には、ラットの足底に熱刺激を与えると、ラットは痛みを感じたところで足を引っ込める。すなわち、痛みが強いほど短時間で足を引っ込めることになる。そこで、本化合物(DHLHZn)の投与から1日目〜7日目の毎日、疼痛モデル動物の両足底に熱刺激を与え、各足(左足:FCA投与、右足:生食投与)を引っ込めるまでの時間(秒)(以下、これを「逃避時間(Latency of response)」という)を測定した。
【0098】
(3)実験結果
結果を図1に示す。図1中、―■―「DHLHZn+FCA」は「DHLHZn投与群」のFCA投与足(左足)の結果、―●―「Saline+FCA」は「生食投与群」のFCA投与足(左足)の結果、―▲―「DHLHZnのみ」は「DHLHZn投与群」の生理食塩水投与足(右足)の結果、―◆―「Salineのみ」は「生食投与群」の生理食塩水投与足(右足)の結果を示す。
【0099】
その結果、「DHLHZn+FCA」(「DHLHZn投与群」のFCA投与足)では1日目と2日目は、疼痛閾値の有意な改善は認められなかったが、3日目から逃避時間が有意に延長し(疼痛閾値改善)、以降7日目まで継続して著明な延長(疼痛閾値改善)を認めた。一方、「Saline+FCA」(「生食投与群」のFCA投与足)は、1日目も7日目も逃避時間にあまり差異がなく、7日目も1日目と同様に痛みが持続していることが確認された。すなわち、「生食投与群」のFCA投与足と比べて、「DHLHZn投与群」のFCA投与足は逃避時間が長く、DHLHZnを投与することにより痛みをあまり強く感じない状態になることが確認された。以上に示すように、FCAを用いた亜急性疼痛モデル動物に対してDHLHZnを皮下投与することで疼痛閾値が有意に改善されたことから、DHLHZnを始めとする本化合物は急性及び慢性疼痛に対する鎮痛薬として有用であるといえる。
【0100】
また、DHLHZnそのものに痛みを惹起するような作用や、鎮静を起こす作用はないことが確認された。また、実験データは示さないが、DHLHZnは、腎機能などの生体臓器に対しても影響を及ばせず、安全な化合物であることが確認された。
【0101】
実験例2
実験例1の実験後、「生食投与群」のFCA投与足(以下「A群」という)、「生食投与群」の生食投与足(以下「B群」という)、および「DHLHZn投与群」のFCA投与足(以下「C群」という)からそれぞれ組織を採取した。得られた各組織について、下記試験を行い、DHLHZnの抗炎症作用を評価した。
【0102】
(1)組織ヘマトキシリン・エオシン染色
A〜C群から採取した各組織を10%ホルマリン中性リン酸緩衝液で固定した。次いで、定法に従ってパラフィン切片を作成し、ヘマトキシリン・エオシン染色(HE染色)した後にデジタルカメラ(オリンパス社製のDP11)にて撮影した。
【0103】
結果を図2に示す。
【0104】
この結果からわかるように、DHLHZnの投与は炎症部位における各種炎症細胞の浸潤を抑制できることが示された。
【0105】
(2)組織ミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性の測定
A〜C群から採取した各組織について、好中球集積のマーカー酵素であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)活性を、下記方法により測定した。
【0106】
A〜C群から採取した各組織をホモジネートし、遠心後の上清液に、過酸化水素と検出試薬としてADHP(10-acetyl-3,7-dihydroxyphenoxazine)を添加し、生成する蛍光物質(resorufin)をマイクロプレートリーダーにより検出した(Ex 530-540nm/Em 585-595nm)。なお、MPO活性(unit/g)は標準物質としてMPOを用いて作成した検量線から算出した。
【0107】
結果を図3に示す。
【0108】
この結果からわかるように、「DHLHZn投与群」のFCA投与足(C群)において、組織MPO活性が有意に抑制されていた。このことから、DHLHZnの投与により、FCAによって誘導された炎症(好中球集積を伴う炎症)が有意に抑制されることが確認された。この結果から、DHLHZnは抗炎症作用を有し、それに伴い鎮痛作用を発揮すると考えられる。
【0109】
実施例
〔製剤実施例1〕 内服錠
製造例1〜32のいずれかの化合物 30mg
乳糖 80mg
馬鈴薯澱粉 17mg
ボリエチレングリコール6000 3mg
以上の成分を1錠分の材料として常法により成型する。
【0110】
〔製剤実施例2〕 注射剤
製造例1〜32のいずれかの化合物 1.09
マニトール 4. 09
注射用蒸留水 残 部
全量 100mL
以上を常法により混合溶解させ注射剤とする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の一般式(1)で示される金属キレート化合物またはその薬学的に許容される塩を有効成分とする鎮痛剤:
【化1】

(式中、RはOH基、O−低級アルキル基、アミノ基、N−置換アミノ基、アミノ酸残基、またはペプチド残基を示し、Mは薬学的に許容される金属を示す)。
【請求項2】
金属キレート化合物(1)が、6,8−ジメルカプトオクタン酸低級アルキルエステル、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミン、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸、及びN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチドからなる群から選択される少なくとも1種の金属キレート化合物である、請求項1に記載する鎮痛剤。
【請求項3】
N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミンの金属キレート化合物が、6,8−ジメルカプトオクタン酸アミド金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタノール金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)イソプロピルアミン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)5−O−メチルセロトニン金属キレートおよびN−(5,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノピリジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載する鎮痛剤。
【請求項4】
N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アミノ酸の金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項2に記載する鎮痛剤。
【請求項5】
N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−α−アミノ酸金属キレートが、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グリシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)セリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラギン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)グルタミン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)フェニルアラニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)メチオニン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ノルロイシン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)システイン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ハイドロキシプロリン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ヒスチジン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−5−ハイドロキシトリプトファン金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ペニシラミン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)リジン金属キレート化合物からなる群から選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載する鎮痛剤。
【請求項6】
N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−ω−アミノ酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)特殊アミノ酸金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−3−アミノプロピオン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−アミノ酪酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−6−アミノヘキサン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−4−トランスアミノメチル−1−シクロヘキサンカルボン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)−2−アミノエタンスルホン酸金属キレート、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スルファニル酸金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アントラニル酸金属キレートからなる群から選ばれるものである、請求項4に記載する鎮痛剤。
【請求項7】
N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)ジペプチド金属キレート化合物が、N−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)アスパラチイルグリシン金属キレートおよびN−(6,8−ジメルカプトオクタノイル)スレオニルグリシン金属キレート化合物からなる群から選ばれるものである、請求項2に記載する鎮痛剤。
【請求項8】
金属が亜鉛である請求項1乃至7のいずれかに記載する鎮痛剤。
【請求項9】
治療対象とする疼痛が急性疼痛または慢性疼痛である、請求項1乃至8のいずれかに記載する鎮痛剤。
【請求項10】
治療対象とする疼痛が、侵害受容性疼痛、神経因性疼痛または心因性疼痛である、請求項1乃至9のいずれかに記載する鎮痛剤。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−190236(P2011−190236A)
【公開日】平成23年9月29日(2011.9.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−158114(P2010−158114)
【出願日】平成22年7月12日(2010.7.12)
【出願人】(304028726)国立大学法人 大分大学 (181)
【出願人】(502384060)有限会社オガ リサーチ (14)
【Fターム(参考)】