説明

金属コバルトを内包するカーボンナノファイバーとその製造方法

【課題】触媒の残留による影響が少ないカーボンナノファイバーとその製造方法を提供する。
【解決手段】ファイバー内部に金属コバルトが包み込まれた状態で含有(内包)されていることを特徴とするカーボンナノファイバーであり、例えば、Co酸化物とMg酸化物の混合粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によってカーボンナノファイバーを製造する方法において、Co34とMgOの混合粉末を金属コバルトが生じない水素濃度の還元ガスによって水素還元してなるCoOとMgOの混合粉末を触媒として用いることによって、ファイバー内部に金属コバルトが内包されているカーボンナノファイバーを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒の残留による影響が少ないカーボンナノファイバーとその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
カーボンナノファイバーはナノレベルの微細な炭素繊維であり、優れた導電性を有するので導電材料などに広く用いられており、また機械的特性などに基いた機能性材料として広く用いられている。
【0003】
カーボンナノチューブは、電極放電法、気相成長法、レーザ法などによって製造することができる。このうち、気相成長法は、例えば、鉄、ニッケル、コバルト、マグネシウムなどの酸化物を触媒として用い、一酸化炭素または二酸化炭素と水素の混合ガスを原料ガスとし、高温下で原料ガスの熱分解によって生成したカーボンを、触媒粒子を核として繊維状に成長させる製造方法である(特許文献1、2)。
【0004】
触媒を用いた気相成長による製造方法では、原料ガスの気相反応(熱分解)の際に、原料ガス中の水素によって触媒成分の金属酸化物が還元され、生成した金属がカーボンナノファイバーに付着残留し、ファイバー表面に残留する金属によってファイバーの物性が損なわれることがある。
【0005】
例えば、従来の気相成長による製造方法では、CoOとMgOの混合粉末、またはCo34とMgOの混合粉末を触媒として用いることが知られているが、原料ガスの熱分解の際に生じた金属コバルト(金属Co)がファイバー表面に不安定な状態で残留すると、この金属Coによってファイバーの導電性などの電気的特性が影響を受けるようになる。
【0006】
従来、通常は、触媒を用いた気相成長によって製造したカーボンナノファイバーを塩酸や硝酸、フッ酸などに浸漬して残留触媒を除去している。また、触媒粒子をそのままカーボンナノファイバー中に含ませ、担持させた状態で使用することも知られているが(特許文献1)、カーボンナノファイバーに含ませて担持させた状態の金属Coは、必ずしも安定ではないので、金属Coが脱離ないし剥離すると、ファイバーの電気的特性が影響を受けるようになる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特許第4565384号公報
【特許文献2】特開2003−206117号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、カーボンナノファイバー製造方法について、気相成長法における上記問題を解決したものであり、Co酸化物を含む触媒を用いる製造方法において、Co酸化物の還元によって生じた金属Coがファイバー表面に不安定な状態で残留しないように、この金属Coをファイバー内部に閉じ込めて安定化したカーボンナノファイバーとその製造方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、以下の構成を有するカーボンナノファイバーに関する。
〔1〕 Co酸化物を含む金属酸化物粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によって製造されたカーボンナノファイバーであって、ファイバー内部に金属コバルトが包み込まれた状態で含有(内包)されていることを特徴とするカーボンナノファイバー。
〔2〕 ファイバー先端部に粒状の金属コバルトが内包されている上記[1]に記載するカーボンナノファイバー。
〔3〕 ファイバー内径の1割〜9割を占める粒状の金属コバルトが内包されている上記[1]または上記[2]に記載するカーボンナノファイバー。
【0010】
本発明は、また、以下の構成を有するカーボンナノファイバーの製造方法に関する。
〔4〕 Co酸化物とMg酸化物の混合粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によってカーボンナノファイバーを製造する方法において、Co34とMgOの混合粉末を金属コバルトが生じない水素濃度の還元ガスによって水素還元してなるCoOとMgOの混合粉末を触媒として用いることによって、ファイバー内部に金属コバルトが内包されているカーボンナノファイバーを製造することを特徴とする製造方法。
〔5〕 上記[4]に記載する製造方法において、水素濃度1〜10vol%の還元ガスを用いてCo34とMgOの混合粉末を水素還元するカーボンナノファイバーの製造方法。
〔6〕 上記[4]または上記[5]に記載する製造方法において、Co34とMgOの混合粉末の水素還元温度を原料ガスの反応温度範囲とし、該水素還元に引き続いて、還元ガスを原料ガスに切り替え、上記水素還元による触媒の活性化と原料ガスの気相反応を連続して行うカーボンナノファイバーの製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明のカーボンナノファイバーは、触媒成分であるCo酸化物の還元によって生じた金属Coがファイバー内部に包み込まれた状態で含有されており、閉じ込められた状態なので安定であり、脱離ないし剥離し難く、従ってファイバーの導電性や化学的性質などに影響を与えない。
【0012】
また、本発明のカーボンナノファイバーは、金属Coがファイバー先端部などに含有されており、繊維状の形態を妨げない状態で含有されているので、ファイバーの機械的特性などにも影響を与えない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明に係るカーボンナノファイバー(CNF)の顕微鏡断面写真
【図2】図1に示すCNFの内包部分の元素分析チャート
【図3】本発明に係る他のカーボンナノファイバー(CNF)の顕微鏡断面写真
【図4】図3に示すCNFの内包部分の元素分析チャート
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を実施形態に基いて具体的に説明する。
〔金属Co内包CNF〕
本発明のカーボンナノファイバーは、Co酸化物を含む金属酸化物粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によって製造されたカーボンナノファイバーであって、ファイバー内部に金属Coが包み込まれた状態で含有(内包)されていることを特徴とするカーボンナノファイバーである。
【0015】
Co酸化物を含む触媒、例えばCoOとMgOの混合粉末を触媒に用いたカーボンナノファイバーの製造において、原料ガス(炭素酸化物と水素の混合ガス)の熱分解によって生じたカーボンが触媒粒子を核にして繊維状に成長することによってカーボンナノファイバーが形成される。
【0016】
一方、ファイバーの気相成長の際に、原料ガス中の水素によって触媒成分のCoOが還元されて金属Coが生じ、この金属Coがファイバーに取り込まれるようになる。このファイバーに取り込まれた金属Coが不安定であると、脱離ないし剥離して、ファイバーの物性に影響を与える。
【0017】
本発明のカーボンナノファイバーは、このような問題を生じないように、触媒成分のCoOが還元されて生じた金属Coが内部に安定に含有されているファイバーである。
【0018】
本発明のカーボンナノファイバーの顕微鏡断面写真を図1〜図4に示す。図1に示すように、ファイバー先端部の内部に金属Coが包み込まれた状態で含有(内包)されており、金属Coは表面に露出していない。また、図3に示すように、ファイバーの長手方向の途中に金属Coが包み込まれた状態で含有(内包)されており、金属Coは表面に露出していない。
【0019】
図1に示すカーボンナノファイバーの先端部に内包されている部分について、元素分析を行うと、図2のチャートに示すように、Coの高いピークが示されており、金属Coであることがわかる。同様に、図3のカーボンナノファイバーについて、内包されている部分の元素分析を行うと、図4のチャートに示すように、Coの高いピークが示されており、金属Coであることがわかる。
【0020】
触媒粉末(粒子)は、ファイバーの繊維径(太さ)に対応した粒径の粉末が使用され、概ね粒径が数nmの粉末が用いられる。この触媒粒子を核としてファイバーが成長し、CoOが還元された金属Coはファイバーの成長に伴って、図2および図3に示すように、ファイバー内径の1割〜9割を占める大きさの粒状の状態で含有されるようになる。
【0021】
〔製造方法〕
CoOとMgOの混合粉末を触媒として用いる気相成長法において、金属Coがファイバー内部に内包されたカーボンナノファイバーは、水素還元による触媒の活性化状態を調整することによって安定に製造することができる。
【0022】
具体的には、Co酸化物とMg酸化物の混合粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によってカーボンナノファイバーを製造する方法において、Co34とMgOの混合粉末を金属コバルトが生じない水素濃度の還元ガスによって水素還元してなるCoOとMgOの混合粉末を触媒として用いることによって、ファイバー内部に金属Coが内包されているカーボンナノファイバーを製造することができる。
【0023】
Co34とMgOの混合粉末は、例えば、Co34:MgO=90:10〜10:90(重量部)の混合比が好ましく、平均粒径10nm〜100nmの微細な粉末が好ましい。
【0024】
このCo34とMgOの混合粉末を水素還元して活性化したCoOとMgOの混合粉末を触媒として用いる。CoとMgを含有する溶液から沈澱を形成し、この沈澱を酸化処理してCo34とMgOの混合粉末を得ることができる。この湿式製法で得た混合粉末はCo34とMgOが複合ないし固溶した状態で含まれており、これを水素還元することによってCoOとMgOが複合ないし固溶した混合粉末を得ることができる。この混合粉末を触媒として用いることによって、カーボンが繊維状に気相成長する反応が円滑に進み、物性が安定なカーボンナノファイバーを得ることができる。
【0025】
Co34とMgOの混合粉末を水素還元して得たCoOとMgOの混合粉末に代えて、市販のCoO粉末とMgOの粉末を混合した粉末を触媒として用いると、カーボンが繊維状に気相成長する反応が不安定であり、金属Coが十分に内包されたカーボンナノファイバーを得ることができない。
【0026】
Co34とMgOの混合粉末の水素還元は水素と不活性ガス(He等)の混合ガスを用いることができる。還元ガスの水素濃度は1〜10vol%が好ましい。水素濃度が10vol%より高いとCo34が金属Coまで還元されるようになり、また水素濃度が1vol%より低いとCo34の水素還元が不十分になり、何れも好ましくない。
【0027】
Co34とMgOの混合粉末の水素還元温度を原料ガスの反応温度範囲に設定することによって、該水素還元に引き続いて、還元ガスを原料ガスに切り替え、上記水素還元による触媒の活性化と原料ガスの気相反応を連続して行うことができる。この連続した製造方法によれば、生産効率が格段に向上する。
【0028】
上記触媒粒子を炉内の基板に配置し、例えば、0.08〜10MPaの圧力下、450℃〜800℃、好ましくは550℃〜650℃の温度で、COとH2の混合ガス、またはCO2とH2の混合ガス(原料ガス)を炉内に10分〜10時間、好ましくは1時間〜2時間供給して熱分解反応を進める。原料ガスのCO/H2比ないしCO2/H2比は、20/80〜99/1が適当であり、40/60〜90/10が好ましい。原料ガスの供給量は0.2L/min〜10L/minであればよい。
【0029】
原料ガスの熱分解ないし還元分解によって生じたカーボンは触媒粒子を核として繊維状に成長し、本発明の上記製造方法によればこの気相成長反応が安定に進むので、ファイバー内部に金属Coを内包したカーボンナノファイバーを確実に得ることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の実施例を比較例と共に示す。
〔実施例1〜2、比較例1〜2〕
表1に示す触媒を1g用い、横型管状炉を用いて該触媒をアルミナ製の基板に設置し、炉内(0.10MPa)に配置した。550℃〜650℃の温度で、原料ガス(CO/H2比:90/10〜60/40)を炉内に60分〜120分間供給し(供給量0.5L/粉〜5l/min)、カーボンナノファイバーを製造した。得られたカーボンナノファイバーを、10%濃度硫酸を用い、60℃で10分間洗浄し、遊離しているマグネシウム等の触媒を洗浄除去した。
このカーボンナノファイバーを硝酸(濃度55wt%)に90℃にて24時間浸漬した前後のカーボンナノファイバーのCo濃度をICP発光分光分析法によりを測定し、コバルト含有量の変化割合を計算した。この結果を表2に示した。
【0031】
表2に示すように、実施例1および実施例2のカーボンナノファイバーは何れも先端部に金属Coが内包されており、硝酸に長時間浸漬しても金属Coは溶出しなかった。一方、比較例1は一部のCNFには先端部に金属Coが含有されていない。またCNFに先端部に含有されていた金属Coの約半分が硝酸によって溶出し、不安定であった。
比較例2は先端部に金属Coが含有されているCNFの割合が少なく、さらに硝酸によっ金属Coの大半が溶出し、金属Coの状態が非常に不安定であった。
【0032】
【表1】

【0033】
【表2】

【0034】
本発明の製造方法によって得たカーボンナノファイバーを分析した。分析には日本電子株式会社製の透過電子顕微鏡(JEM-2010F)を用いた。元素分析にはサーモフィッシャーサイエンティフィック株式会社製のEDS元素分析装置(NORAN System 7)を用いた。顕微鏡断面図を図1に示した。図示するように、ファイバー先端部の内部に粒状のものが内包されている。この内包部分を元素分析した。この結果を図2に示した。図2のチャートに示すように、内包部分は金属状態のCoであることが確認された。
【0035】
本発明の製造方法によって得た他のカーボンナノファイバーについて、顕微鏡断面図を図3に示した。図示するように、ファイバーの内部に粒状のものが内包されている。この内包部分を元素分析した。この結果を図4に示した。図4のチャートに示すように、内包部分は金属状態のCoであることが確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Co酸化物を含む金属酸化物粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によって製造されたカーボンナノファイバーであって、ファイバー内部に金属コバルトが包み込まれた状態で含有(内包)されていることを特徴とするカーボンナノファイバー。
【請求項2】
ファイバー先端部に粒状の金属コバルトが内包されている請求項1に記載するカーボンナノファイバー。
【請求項3】
ファイバー内径の1割〜9割を占める粒状の金属コバルトが内包されている請求項1または請求項2に記載するカーボンナノファイバー。
【請求項4】
Co酸化物とMg酸化物の混合粉末を触媒とし、炭素酸化物を含む原料ガスの気相反応によってカーボンナノファイバーを製造する方法において、Co34とMgOの混合粉末を金属コバルトが生じない水素濃度の還元ガスによって水素還元してなるCoOとMgOの混合粉末を触媒として用いることによって、ファイバー内部に金属コバルトが内包されているカーボンナノファイバーを製造することを特徴とする製造方法。
【請求項5】
請求項4に記載する製造方法において、水素濃度1〜10vol%の還元ガスを用いてCo34とMgOの混合粉末を水素還元するカーボンナノファイバーの製造方法。
【請求項6】
請求項4または請求項5に記載する製造方法において、Co34とMgOの混合粉末の水素還元温度を原料ガスの反応温度範囲とし、該水素還元に引き続いて、還元ガスを原料ガスに切り替え、上記水素還元による触媒の活性化と原料ガスの気相反応を連続して行うカーボンナノファイバーの製造方法。

【図2】
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【図4】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−75805(P2013−75805A)
【公開日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−217909(P2011−217909)
【出願日】平成23年9月30日(2011.9.30)
【出願人】(000006264)三菱マテリアル株式会社 (4,417)
【出願人】(597065282)三菱マテリアル電子化成株式会社 (151)
【Fターム(参考)】