説明

金属コロイド溶液およびその利用

【課題】 耐候性に優れかつ熱負荷における粒成長を抑制した導電性皮膜を得ることができる金属コロイド溶液を提供する。
【解決手段】 銀と、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種とを含むことを特徴とする金属コロイド溶液を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高温で加熱してもほとんど粒成長が起こらない皮膜を得ることができる金属コロイド溶液および当該金属コロイド溶液を用いて製造する導電性皮膜に関するものである。具体的には、太陽電池パネル配線、フラットパネルディスプレイの電極、回路基板またはICカードの配線、スルーホールまたは回路そのもの、ブラウン管の電磁波遮蔽用途、建材または自動車の赤外線遮蔽用途、電子機器または携帯電話の静電気帯電防止用途、曇ガラスの熱線用途、樹脂に導電性を付与するためのコーティング用途などが挙げられ、これらに好適に用いられる導電材料に関するものである。
【背景技術】
【0002】
導電性皮膜の製造方法としては、従来から、例えば、金属の真空蒸着、化学蒸着、イオンスパッタリングなどが用いられてきた。しかし、これらの方法は、真空系または密閉系での作業を必要とするため、操作が煩雑である、量産性に乏しい、大規模な装置のためのスペースを要するので投資に費用がかかるなどの種々の問題を有していた(例えば、特許文献1を参照のこと)。
【0003】
また、メッキによって導電性皮膜を形成する方法もあるが、この場合、多量の廃液を処理する必要があり、材料ロスが大きく余分なコストがかかる上に、環境に対する付加が大きいという問題を有していた。
【0004】
一方、配線のパターニングを形成する際には、フォトリソグラフィー法が広く用いられているが、本方法では基材上に形成された導電性皮膜の必要部分をマスクする工程が余分に必要である。用いられる感光性樹脂、除去された金属皮膜、これらを溶解させた廃液が多量に排出されるため、処理コストがかかるとともに環境への負荷が大きいという問題を有している。
【0005】
これらの方法に対して、金属粒子を分散媒に分散させた金属コロイド溶液を基材上に塗布し、加熱焼成することによって導電性皮膜を得る方法は、真空系または密閉系での作業を必要とすることなく簡便な操作により導電性皮膜を安価に製造することができるので、注目を集めている。
【0006】
用いる金属としては、コストの面から金は実用的ではなく、銅は容易に酸化してしまうので、実質的には銀に限定されていた。銀は金属の中で最良の導電性を有するものの、銀元素固有の問題から大気中の硫黄、酸素、水分などに対する耐候性が不十分であり、高温での熱負荷によって銀粒子の粒成長が生じ、その結果基材との密着性が損なわれたり、皮膜表面の平滑性が損なわれたりする。これらに起因して他の導電材との接合について信頼性が低くなるという根本的な問題を有しており、適用が困難であった。
【0007】
これらに対して、銀に所定の不純物を添加することにより、耐候性を向上させる技術が開示されている(例えば、特許文献2を参照のこと)。
【特許文献1】特開2002−129259公報(平成14年5月9日公開)
【特許文献2】特開昭57−186244号公報(昭和57年11月16日公開)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
特許文献2に記載される技術に従えば、銀−銅合金についての技術が適用可能である。しかしながら、上記従来の構成では、適用するための製膜方法として有効なものはイオンスパッタリングなどに限定されてしまうという問題を生じる。
【0009】
本発明は、上記の問題点に鑑みてなされたものであり、その目的は、耐候性に問題があり、熱負荷において粒成長を生じさせる銀コロイド溶液に別の金属元素を添加するという簡便な方法で、耐候性に優れかつ熱負荷における粒成長を抑制した導電性皮膜を得ることができる金属コロイド溶液を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属コロイド溶液は、銀と、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種とを含むことを特徴としている。
【0011】
本発明に係る金属コロイド溶液において、上記銀は化学還元法によって製造されることが好ましい。
【0012】
本発明に係る金属コロイド溶液において、Na含有量は0.01重量%以下であることが好ましい。
【0013】
本発明に係る金属コロイド溶液は、化学還元法によって製造された銀と、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種とを含むことを特徴としている。
【0014】
本発明に係る金属コロイド溶液において、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素はイオン形態にて存在し得る。
【0015】
本発明に係る金属コロイド溶液は、COOH基とOH基とを有しかつ基の数がCOOH≧OHであるヒドロキシ酸またはその塩を分散剤として用いることが好ましい。
【0016】
本発明に係る金属コロイド溶液は、30℃以下で乾燥させて得た固形物について、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温温度にて500℃まで昇温する条件で、熱重量分析を行ったときの重量減少が10重量%以下であることが好ましい。
【0017】
本発明に係る導電性皮膜は、上記のいずれかの金属コロイド溶液を乾燥して得られることを特徴としている。
【0018】
本発明に係る導電性皮膜において、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される金属元素は、固形成分に対して0.001重量%〜2重量%であることが好ましい。
【発明の効果】
【0019】
本発明を用いれば、耐候性に優れかつ熱負荷における粒成長を抑制した導電性皮膜を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明は、第一金属成分と第二金属成分とを含む金属コロイド溶液を提供する。本発明に係る金属コロイド溶液において、第一金属成分は化学還元法によって合成された銀であることが好ましい。また、本発明に係る金属コロイド溶液において、第二金属成分は、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種であり得る。本発明に係る金属コロイド溶液は、その全体が化学還元法によって生成されてもよい。
【0021】
第一金属成分としての銀を得るための出発材料としては、硝酸銀、硫酸銀、塩化銀、酸化銀、酢酸銀、亜硝酸銀、塩素酸銀、硫化銀などが挙げられるが、適当な溶媒中に溶解し得る銀塩であれば特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。上記金属塩を還元させる方法としては、特に限定されず、還元剤を用いて還元させても、紫外線などの光、電子線、熱エネルギーなどを用いて還元させてもよい。上記還元剤としては、アミン化合物(例えば、ジメチルアミノエタノール、メチルジエタノールアミン、トリエタノールアミン、フェニドン、ヒドラジンなど);水素化合物(例えば、水素化ホウ素ナトリウム、ヨウ素化水素、水素ガスなど);酸化物(例えば、一酸化炭素、亜硫酸など);低原子価金属塩(例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズなど);有機化合物(例えば、ホルムアルデヒド、ハイドロキノン、ピロガロール、タンニン、タンニン酸、サリチル酸、D−グルコースなどの糖など)などが挙げられるが、分散媒に溶解し上記金属塩を還元し得るものであれば特に限定されない。上記還元剤を使用する場合は、光および/または熱を加えて還元反応を促進させてもよい。
【0022】
第二金属成分は、金属粒子形態や金属酸化物粒子形態であってもイオン形態であってもよい。金属粒子形態の場合、予め合成した金属粒子を銀コロイド溶液に第二金属成分として添加しても、銀粒子を還元させる際に同時に存在させて還元させることによって合成してもよい。同時に還元させる場合は上述した還元剤を適用することができる。金属酸化物粒子形態の場合、予め金属酸化物粒子を銀コロイド溶液に添加すればよい。イオン形態の場合、金属イオンを銀コロイド溶液に第二金属成分として添加しても、銀粒子を還元させる際に添加してもよい。例えば、還元剤として、低原子価金属塩(例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズなど)を用いても、鉄イオン(2価または3価)またはスズイオン(2価または4価)を添加してもよい。
【0023】
第二金属成分の出発材料としては、金塩(例えば、塩化金酸、塩化金カリウム、塩化金ナトリウムなど);白金塩(例えば、塩化白金酸、塩化白金、酸化白金、塩化白金酸カリウムなど);パラジウム塩(例えば、硝酸パラジウム、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、酸化パラジウム、硫酸パラジウムなど);低原子価金属塩(例えば、硫酸第一鉄、酸化鉄、フマル酸鉄、乳酸鉄、シュウ酸鉄、硫化鉄、酢酸スズ、塩化スズ、二リン酸スズ、シュウ酸スズ、酸化スズ、硫酸スズなど);ガドリニウム塩(例えば、硫酸ガリウム、塩化ガリウム、硝酸ガリウムなど);ニッケル塩(例えば、酢酸ニッケル、塩化ニッケル、硫酸ニッケル、硝酸ニッケルなど);亜鉛塩(例えば、臭化亜鉛、塩化亜鉛、ヨウ化亜鉛、硫酸亜鉛など);アルミニウム塩(例えば、硫酸アルミニウムカリウム二水和物、酢酸アルミニウム、アルミニウムアセチルアセトナート、硫酸アルミニウムアンモニウム二水和物、塩化アルミニウムなど)などの金属塩が挙げられるが、適当な溶媒に溶解するものであれば特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0024】
本発明に係る金属コロイド溶液を調製する際に用いられる溶媒としては、特に限定されないが、水および/または水溶性溶剤が挙げられる。上記溶媒として水および/または水溶性溶剤を用いると、本発明に係る金属コロイド溶液を用いて製造される導電性インクを乾燥させる際、または焼成する際に生じ得る溶剤臭が強くなく、環境に対する悪影響も少ない。
【0025】
本発明に係る金属コロイド溶液中の金属粒子の平均粒子径は、1〜400nmであることが好ましく、5〜80nmであることがより好ましい。上記金属粒子の粒子径が1nm未満であっても得られる導電性インクの性能は良好であるが、コスト面から実用的ではない。また上記金属粒子の粒子径が400nmを超えると、金属コロイド粒子の分散安定性が経時的に変化しやすい。
【0026】
本発明に係る金属コロイド溶液は、上記金属粒子を分散させる分散剤を含有する。分散剤としては、有機酸(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸など);イオン性化合物(例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸一カリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、リンゴ酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素ナトリウム、グリコール酸ナトリウムなど);界面活性剤(例えば、トデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、パーフルオロアルキルエチレンオキシド付加物など);高分子物質(例えば、ゼラチン、アラビアゴム、アルブミン、ポリエチレンイミン、ポリビニルセルロース類、アルカンチオール類など)が挙げられるが、分散媒に溶解しかつ分散効果を示すものであれば特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0027】
上記分散剤は、本発明に係る金属コロイド溶液を30℃にて乾燥させて得られた固形物を、窒素雰囲気下にて10℃/分で500℃まで昇温させた後の熱重量分析において、重量変化が10重量%以下であることが好ましく、5重量%以下であることがより好ましい。上記重量変化が10重量%を超えると、本発明に係る金属コロイド溶液を用いて形成される導電性皮膜の導電率が低下してしまう。
【0028】
また、分散剤は、COOH基とOH基とを有しかつ基の数がCOOH≧OHであるヒドロキシ酸またはその塩であることが好ましい。かような分散剤としては、有機酸(例えば、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、グリコール酸など);イオン性化合物(例えば、クエン酸三ナトリウム、クエン酸三カリウム、クエン酸三リチウム、クエン酸一カリウム、クエン酸水素二ナトリウム、クエン酸二水素カリウム、リンゴ酸二ナトリウム、酒石酸二ナトリウム、酒石酸カリウム、酒石酸ナトリウムカリウム、酒石酸水素カリウム、酒石酸水素ナトリウム、グリコール酸ナトリウムなどが挙げられる。かような分散剤を使用すれば、100℃程度の低温であっても高導電性を示しかつ十分な耐候性を有する導電性皮膜を得ることができ、当該導電性皮膜は、高温での熱負荷による銀粒子の粒成長が抑制されている。
【0029】
さらに、分散剤および/または還元剤としてナトリウムを含有しないものを用いることが好ましい。導電性皮膜がフラットパネルディスプレイの電極に用いられる場合、動作不良または他の基材への悪影響を考慮してナトリウムフリーであることが要求される。したがって、かような用途に適用する場合、本発明に係る金属コロイド溶液は、ナトリウムの含有量が0.01重量%以下であることが好ましい。
【0030】
なお、「粒成長」は、加熱されて構成粒子間の空隙率が減少した粉体が、強度を顕著に増した粉末集合体へ変化する過程(すなわち、焼結)において構成粒子どおしが合体して粒子が成長する現象が意図される。「耐候性」は、一般には屋外にさらした時の抵抗力、すなわち、紫外線、雪、雨、乾燥などの環境の変化に対応できる強度が意図される。
【0031】
本発明はまた、導電性皮膜を提供する。本発明に係る導電性皮膜は、上記金属コロイド溶液を乾燥して得られる。本明細書中で使用される場合、用語「固形物」は金属コロイド溶液を乾燥させて得られたものであり、「導電性皮膜」は膜形態の固形物が意図される。
本発明に係る導電性皮膜において、金属元素の含有量は固形成分に対して0.001〜5重量%であることが好ましく、0.001〜2重量%であることがより好ましい。金属コロイド粒子中の金属元素の量が固形成分に対して0.001重量%未満であると、耐候性、高温での熱負荷による銀粒子の粒成長の問題を解決することができない。また、金属コロイド粒子中の金属元素の量が固形成分に対して5重量%を超えると、導電性皮膜の導電率が低下してしまう。
【0032】
なお、導電性皮膜の膜厚は、用途に応じて適宜設定すればよく、例えば、配線用途の場合は、数μm〜数十μmであり得る。
【0033】
本発明はまた、金属コロイド溶液を製造する方法を提供する。本発明に係る金属コロイド溶液を製造する方法は、上述したような金属塩、分散剤および還元剤を用いることを特徴としており、例えば、金属塩、分散剤および還元剤を溶媒に溶解し、その溶液を攪拌しながら混合する方法が挙げられる。かような方法によって得られた金属コロイド溶液は、金属粒子以外に還元剤の残留物または不純物イオンが存在する。これらの夾雑物は、金属粒子の分散安定性および/または皮膜の導電性に悪影響を及ぼすので除去されることが好ましい。夾雑物の除去方法としては、例えば、金属コロイド溶液を一定期間静置し、生じた上清を除去した後に純水を加えて攪拌し、再度静置し、生じた上清を除去する工程を反復する方法、上記静置の代わりに遠心分離を行う方法、限外濾過膜または逆浸透膜を用いる濾過、イオン交換カラムなどによる脱塩が挙げられる。
【0034】
本発明に係る金属コロイド溶液は、公知の粘度調整剤、チキソ剤、表面張力調整剤、造膜助剤などを導電性皮膜の性能を阻害しない範囲で含み得る。上記粘度調整剤としては、エマルジョン(例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂、ブロックドイソシアネートなど)、ポリエステル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、水性ポリアニオン系樹脂などが挙げられるが特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0035】
上記チキソ剤としては、粘度鉱物(例えば、クレイ、ベントナイト、ヘクトライトなど)、エマルジョン(例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂、ブロックドイソシアネートなど)が挙げられるが特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0036】
上記表面張力調整剤としては、界面活性能を有するものであれば特に限定されない。
【0037】
上記造膜助剤としては、エマルジョン(例えば、ポリエステル系エマルジョン樹脂、アクリル系エマルジョン樹脂、ポリウレタン系エマルジョン樹脂、ブロックドイソシアネートなど)、ポリエステル系樹脂、ポリアクリレート系樹脂、ポリアクリルアミド系樹脂、ポリエーテル系樹脂、メラミン系樹脂、セルロース系樹脂、アクリレート系樹脂、ポリビニルアルコール系樹脂、水性ポリアニオン系樹脂などが挙げられるが特に限定されず、これらは単独で用いられても2種類以上が併用されてもよい。
【0038】
本発明に係る金属コロイド溶液を適用する基材としては、例えば、基板(例えば、アルミナ焼結体、フェノール樹脂、ガラスエポキシ樹脂、ガラスなどからなるもの);建材(例えば、ガラス、樹脂、セラミックなどからなるもの);電子機器(例えば、樹脂またはセラミックなどによって表面が形成されたもの)が挙げられるが、これらに限定されない。また上記基材の形状は、例えば、板状、フィルム状であり得る。
【0039】
本発明に係る金属コロイド溶液を上記基材上に塗布する方法としては、例えば、ディッピング、スクリーン印刷、スプレー方式、バーコート方式、スピンコート方式、刷毛による方法などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0040】
尚、発明を実施するための最良の形態の項においてなした具体的な実施態様および以下の実施例は、あくまでも、本発明の技術内容を明らかにするものであって、そのような具体例にのみ限定して狭義に解釈されるべきものではなく、当業者は、本発明の精神および添付の特許請求の範囲内で変更して実施することができる。
【0041】
また、本明細書中に記載された学術文献および特許文献の全てが、本明細書中において参考として援用される。
【実施例】
【0042】
〔実施例1〕
硝酸銀2.0g、塩化金酸0.05gをイオン交換水100ml中に溶解して硝酸銀+塩化金酸水溶液を調製した。次いで、2−メルカプトエタノール1.7g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら1N 水酸化ナトリウム水溶液10mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀+塩化金酸水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。
【0043】
〔実施例2〕
硝酸銀2.0gをイオン交換水3mlに溶解して硝酸銀水溶液を調製した。次いで、グリシン1.7g、タンニン酸1.5gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら28% アンモニア水溶液4mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して銀コロイド溶液を得た。得られた銀コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。濾過後、銀コロイド溶液に塩化金酸0.02gを添加して金属コロイド溶液を得た。
【0044】
〔実施例3〕
硝酸銀2.0gをイオン交換水3mlに溶解して硝酸銀水溶液を調製した。次いで、クエン酸ナトリウム170g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら1N 水酸化ナトリウム水溶液10mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して銀コロイド溶液を得た。得られた銀コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。濾過後、銀コロイド溶液に硫酸鉄0.01gを添加して金属コロイド溶液を得た。
【0045】
〔実施例4〕
硝酸銀2.0g、塩化金酸0.05gをイオン交換水100ml中に溶解して硝酸銀+塩化金酸水溶液を調製した。次いで、グリシン1.7g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら28% アンモニア水溶液4mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀+塩化金酸水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。
【0046】
〔実施例5〕
硝酸銀2.0gをイオン交換水100mlに溶解して硝酸銀水溶液を調製した。次いで、クエン酸11g、硫酸第一鉄5gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら28% アンモニア水溶液6mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。
【0047】
〔実施例6〕
硝酸銀2.0g、塩化白金酸0.03gをイオン交換水3ml中に溶解して硝酸銀+塩化白金酸水溶液を調製した。次いで、クエン酸ナトリウム17g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら1N 水酸化ナトリウム水溶液10mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀+塩化白金酸水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。
【0048】
〔実施例7〕
硝酸銀2.0g、塩化金酸0.02g、塩化白金酸0.015gをイオン交換水3ml中に溶解して硝酸銀+塩化金酸+塩化白金酸水溶液を調製した。次いで、2−メルカプトエタノール1.7g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら1N 水酸化ナトリウム水溶液10mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀+塩化金酸+塩化白金酸水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。
【0049】
〔実施例8〕
硝酸銀2.0gをイオン交換水3mlに溶解して硝酸銀水溶液を調製した。次いで、クエン酸ナトリウム17g、タンニン酸0.33gをイオン交換水100ml中に添加し、この溶液を攪拌しながら1N 水酸化ナトリウム水溶液10mlを滴下してpHを調整し、硝酸銀水溶液を加えた後さらに1時間攪拌して金属コロイド溶液を得た。得られた金属コロイド溶液を、分画分子量50,000の限外濾過膜(アドバンテック東洋製)を用いて濾過し、不純物イオンを除去した。100mlのイオン交換水で20回(合計2000ml)によって濾過を行った。濾過後、銀コロイド溶液に硫酸鉄0.2gを添加して金属コロイド溶液を得た。
【0050】
〔比較例1〕
塩化金酸を添加しなかったことを除いて、実施例1と同様に行った。
【0051】
〔比較例2〕
塩化金酸を添加しなかったことを除いて、実施例2と同様に行った。
【0052】
〔評価〕
実施例1〜7および比較例1〜3を以下に従って評価した。
【0053】
(電気抵抗)
直流精密測定器(ダブルブリッジ2769−10(横河M&C(株)製))を用いて電気抵抗を測定した。ガラス基板上に金属コロイド溶液を刷毛で塗布し、300℃×1時間の条件で焼成して、皮膜を形成した。測定端子間距離と皮膜厚みから体積抵抗率に換算した。換算式を以下に示す:
(体積抵抗率ρv)=(抵抗値R)×(皮膜幅w)×(皮膜厚みt)/(端子間距離L)
ここで、皮膜厚みを、三次元表面形状測定装置(日本ビーコ(株)製)を用いて測定した。
【0054】
(固形物重量減少)
30℃以下で乾燥させた固形物について、セイコー電子工業社製重量分析機を用いて、窒素雰囲気下にて10℃/分で500℃まで昇温した際の重量変化を測定した。初期時の固形物重量に対する減少分の割合から重量減少を算出した。
【0055】
(元素定量)
30℃以下で乾燥させた固形物を酸融解させて、セイコー電子工業社製SPQ−9000を用いてICP/MS法により元素の定量を行った。元素量を、固形物に対する重量分率で表した。
【0056】
(耐高温性)
各金属コロイド溶液を用いてスピンコート法によってガラス基板上に製膜し、300℃×1時間の条件で焼成して導電性皮膜を形成した。皮膜の一部をさらに300℃×1時間焼成し、それらの皮膜表面をSEM観察した。観察結果を比較することによって皮膜表面の耐高温性を評価した。
【0057】
〔結果〕
【0058】
【表1】

【0059】
なお、耐高温性を評価する際、図1に示す状態を「変化なし」、図2に示す変化を「粒成長あり」と判定した。
【産業上の利用可能性】
【0060】
太陽電池パネル配線、フラットパネルディスプレイの電極、回路基板またはICカードの配線、スルーホールまたは回路そのものに利用し得るだけでなく、ブラウン管の電磁波遮蔽用途、建材または自動車の赤外線遮蔽用途、電子機器または携帯電話の静電気帯電防止用途、曇ガラスの熱線用途、樹脂に導電性を付与するためのコーティング用途にも適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】本発明の一実施形態として300℃×1時間焼成して形成した導電性皮膜の皮膜表面(A)およびさらに300℃×1時間(合計2時間)焼成して形成した導電性皮膜の皮膜表面(B)をSEM観察した写真を示す。
【図2】比較例として300℃×1時間焼成して形成した導電性皮膜の皮膜表面(A)およびさらに300℃×1時間(合計2時間)焼成して形成した導電性皮膜の皮膜表面(B)をSEM観察した写真を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
化学還元法によって製造された銀と、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種とを含むことを特徴とする金属コロイド溶液。
【請求項2】
化学還元法によって製造された銀と、金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素の少なくとも1種とを含み、かつNa含有量が0.01重量%以下であることを特徴とする金属コロイド溶液。
【請求項3】
金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される元素がイオン形態にて存在することを特徴とする請求項1または2に記載の金属コロイド溶液。
【請求項4】
COOH基とOH基とを有しかつ基の数がCOOH≧OHであるヒドロキシ酸またはその塩を分散剤として用いることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属コロイド溶液。
【請求項5】
30℃以下で乾燥させて得た固形物について、窒素雰囲気下、10℃/分の昇温温度にて500℃まで昇温する条件で、熱重量分析を行ったときの重量減少が10重量%以下であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属コロイド溶液。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属コロイド溶液を乾燥して得られることを特徴とする導電性皮膜。
【請求項7】
金、白金、パラジウム、鉄、スズ、チタン、ガリウム、ニッケル、亜鉛およびアルミニウムからなる群より選択される金属元素が、固形成分に対して0.001重量%〜2重量%であることを特徴とする請求項6に記載の導電性皮膜。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−16301(P2007−16301A)
【公開日】平成19年1月25日(2007.1.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−202188(P2005−202188)
【出願日】平成17年7月11日(2005.7.11)
【出願人】(000005061)バンドー化学株式会社 (429)
【Fターム(参考)】