説明

金属コーティングされたプラスチック物品およびそのための方法

本明細書中で開示されているのは、酸性溶液および重フッ化物溶液の組合せを任意の順序で用いてポリマー物品を表面処理するための方法である。このような表面処理済みポリマー物品は、金属でコーティングされた場合、より優れた金属−ポリマーボンディング特性を有する。有用な利用分野としては、自動車のグリルガード;ブレーキ、アクセルまたはクラッチペダル;燃料レール;ステップ;スポイラー;マフラーチップ;ホイール;車両フレーム;および構造的ブラケットが含まれる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一部には、金属コーティングの施用に先立ちポリマー物品を化学的に処理する方法ならびにこのような金属コーティングされた物品に関する。
【背景技術】
【0002】
金属を1つの層としてポリマー物品上にコーティングする場合、物品の表面に対する金属の強力なボンディングがきわめて望ましいということは、周知である。
【0003】
米国特許第5,192,590号明細書は、相当量のガラスおよび/または無機充填材を伴うポリ(アリールエーテルケトン)組成物の表面を重フッ化アンモニウムと硫酸の溶液に付すことを開示している。露出された全てのガラスおよび無機充填材の完全溶解は、水中25%の硫酸中に10〜30分間さらに浸漬させることによって達成可能である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本開示の目的は、ポリマー表面に対する金属のボンド強度が極めて強く、したがって改善されている、ポリマー物品の表面上への金属コーティングの達成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
このニーズを満たすために本明細書中に記載されている技術的解決法は、ポリマー物品をコーティングする方法を提供することにあった。具体的には、本明細書中に記載されているのは、
i) 酸性溶液でポリマー物品を処理して、酸処理済みポリマー物品を得るステップと;
ii) (i)よりも高いpHを有する重フッ化物溶液で酸処理済みポリマー物品を処理して、重フッ化物処理済みポリマー物品を得るステップと;
iii) 重フッ化物処理済みポリマー物品に金属コーティングを施して、金属コーティング済みポリマー物品を得るステップと;
を含み、金属コーティング済みポリマー物品が、ステップ(i)と(iii)のみで処理されたかまたはステップ(ii)と(iii)のみで処理された金属コーティング済みポリマー物品に比べ少なくとも25%高い剥離強度を有する、方法である。
【0006】
同様に本明細書中に記載されているのは、
iv) 酸性溶液でポリマー物品を処理して、酸処理済みポリマー物品を得るステップと;
a) (iv)よりも高いpHを有する重フッ化物溶液で酸処理済みポリマー物品を処理して、重フッ化物処理済みポリマー物品を得るステップと;
v) 重フッ化物処理済みポリマー物品に金属コーティングを施して、金属コーティング済みポリマー物品を得るステップと;
を記述し、金属コーティング済みポリマー物品は、酸性および重フッ化物溶液の構成成分を含む1つの溶液を用いて単一のステップでステップ(iv)と(v)が実施される金属コーティング済みポリマー物品に比べ少なくとも25%高い剥離強度を有する、方法である。
【0007】
本明細書中に同様に記載されているのは、本発明の方法によって調製された物品である。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】先行技術の方法の流れ図である。
【図2】本明細書中に記載されている発明力ある方法の流れ図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
定義
本明細書中で使用される「a」という冠詞は、1ならびに2以上を表わし、必ずしもその指示名詞を単数に限定するものではない。
【0010】
本明細書で使用される「約(about)」および「〜または約〜(at or about)」という用語は、問題の量または値が、指定された値であってもまたはそれとおおよそまたはほぼ同じ何らかのもう1つの値であってもよい、ということを意味している。この用語は、類似の値がクレーム中に記載されたものと同等の結果または効果を促進することを伝えるように意図されている。
【0011】
本明細書で使用される「含む(comprises、comprising、includes、including)」、「有する(has、having)」またはこれらの他のあらゆる変形物は、非排他的包含を意味する。例えば、一要素リストを含むプロセス、方法、物品または装置は、列挙された要素のみに限定されず、明示的に列挙されていないまたは固有でない他の要素をも含んでいてよい。さらに、別段の明示的記載のないかぎり、「または(or)」は、排他的ではなく包含的なまたはを意味する。
【0012】
本明細書で使用される「ポリマー物品」という用語は、ポリマー組成物の成形された三次元型材を意味する。このような三次元ポリマー物品としては、高温での利用分野、玩具、電気器具、動力工具、工業機械、電子デバイス(例えばパーソナル電子デバイス(PED)、例えば携帯電話、携帯情報端末(PDA)、音楽記憶再生デバイス(例えばi−Pod(登録商標))、およびポータブルDVDプレーヤー)、電気マルチメータ、移動式ビデオゲームコンソール、および移動式パソコン(例えばノート型パソコンなど)に適した構造的コンポーネントが含まれるが、これらに限定されない。ポリマー物品は可視的および非可視的の両方のものであってよい。すなわちこれらはPEDの内部にあってよく、例えば、PED周囲の全体的または部分的「フレーム」、1つ以上の別個のビームおよび/または格子形状の一定数のビーム、あるいはこれらの任意の組合せであってよい。
【0013】
本明細書で使用される「酸性溶液」という用語は、5.0以下、好ましくは3、そしてより好ましくは2.5以下のpHを有する溶液を意味する。溶液のpHは、水素イオン含有量(H+)によって測定される。この溶液は、重フッ化水素アニオンを含まない。
【0014】
本明細書で使用される「重フッ化物溶液」という用語は、重フッ化水素アニオン(HF2)を含み、2.5超、好ましくは3超のpHを有する溶液を意味する。
【0015】
本明細書で使用される「金属コーティング」という用語は、金属でのコーティングが所望される表面をコーティングが完全にまたは部分的にコーティングしている、ポリマー物品の表面上の金属コーティングを意味する。一部の利用分野では、ポリマー物品が部分的にコーティングされていることが望ましい。コーティングは、元素の形、金属合金または金属マトリックス組成物の形で、金属を含んでいる。コーティングは、ポリマー物品の表面にボンディングされる。
【0016】
本明細書で使用される「単一溶液」という用語は、溶液の構成成分の全てを含む1つの溶液を意味する。
【0017】
本明細書で使用される「ステップ」という用語は、ポリマー物品の表面に対する1つの作業の実施を意味する。この作業は、例えば酸性溶液を用いた化学的処理であり得、あるいは先の作業からの残留構成成分を除去するためのポリマー物品表面の水洗浄でもあり得る。1つのステップには多数の作業が含まれていてよい。例えば1つのステップは、酸性溶液を用いたポリマー表面の処理とそれに続く水洗浄、それに続く超音波洗浄、それに続く(同じ酸性溶液を用いた)別の酸洗浄、それに続く多数の水洗浄を含んでいてよく、ここでこれらの作業は全て1つのステップとみなされる。
【0018】
多くの物品が、金属コーティングを有するポリマー組成物を用いて製造されている。このような金属コーティングされた物品は、その正常な使用において金属コーティングが容易に除去されたり損傷を受けたりすることなくポリマー物品の表面に強力にボンディングされることが所望される利用分野に適している。この所望される特性は、金属コーティングされた物品の剥離強度を測定することで査定可能である。
【0019】
典型的には、ポリマー物品と金属の間に強いボンドを得るため、ポリマー物品の表面は、金属−ポリマーボンド強度を増大させる目的で、ポリマー表面を粗化するように機械的または化学的に処理される。本発明は、物品のポリマー表面を化学的に改質して金属−ポリマーボンド強度を増大させるための新規の方法に関する。
【0020】
ポリマー物品
金属コーティングされた物品を製造するために使用可能な適切なポリマー物品は、1つ以上のポリマーと1つ以上の添加剤、例えば繊維、粒子、充填材、安定剤などを含むことができ、ここで、ポリマー物品の1つの表面が少なくとも1つの金属によりコーティングされる。
【0021】
さまざまなポリマーが、本発明のポリマー物品を製造するために使用可能である。これらにはポリアミドポリマー、アクリロニトリル/ブタジエン/スチレン(ABS)ポリマー、スチレン系ポリマーならびに他のポリマー材料が、単独でまたは組合せた形で含まれる。ポリアミドおよびABSポリマーが、本発明で使用するために好適なポリマーである。ポリアミドポリマーが特に好ましい。
【0022】
ポリマー物品は、射出成形、圧縮成形、熱成形、圧縮−射出成形、および類似のプロセスなどの従来のプロセスを用いてポリマー組成物を成形することによって形成可能である。
【0023】
ポリアミドポリマー
本発明の金属コーティングされた物品の製造において使用されるポリアミドポリマーは、1つ以上のジカルボン酸と1つ以上のジアミン、および/または1つ以上のアミノカルボン酸、および/または1つ以上の環状ラクタムの開環重合生成物の縮合生成物である。ポリアミドポリマーは、全脂肪族ポリアミドポリマー、半芳香族ポリアミドポリマーおよびそれらの混合物から選択される。「半芳香族」(他の刊行物中では「部分芳香族」とも呼ばれるかもしれない)という用語は、脂肪族カルボン酸モノマーおよび脂肪族ジアミンモノマーを含むポリアミドポリマーを表わす「全脂肪族」と対比させて、少なくとも一部の芳香族カルボン酸モノマーと脂肪族ジアミンモノマーを含むポリアミドポリマーを表現している。
【0024】
全脂肪族ポリアミドポリマーは、脂肪族および脂環式モノマー例えばジアミン、ジカルボン酸、ラクタム、アミノカルボン酸およびその反応性等価物から形成される。適切なアミノカルボン酸には、11−アミノドデカン酸が含まれる。適切なラクタムとしては、カプロラクタムおよびラウロラクタムが含まれる。本発明に関連して、「全脂肪族ポリアミド樹脂」という用語は、2つ以上のこのようなモノマーから誘導されたコポリマーおよび2つ以上の全脂肪族ポリアミドポリマーの配合物を意味する。線状、分岐および環状モノマーを使用してもよい。
【0025】
全脂肪族ポリアミドポリマーの調製において有用なカルボン酸モノマーには、脂肪族カルボン酸、例えばアジピン酸(C6)、ピメリン酸(C7)、スベリン酸(C8)、アゼライン酸(C9)、セバシン酸(C10)、ドデカン二酸(C12)およびテトラデカン二酸(C14)が含まれるが、これらに限定されない。有用なジアミンとしては、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、2−エチルテトラメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミン;トリメチルヘキサメチレンジアミンおよび/またはその混合物を含めた(ただしこれらに限定されない)4つ以上の炭素原子を有するものが含まれる。全脂肪族ポリアミドポリマーの適切な例としては、ポリ(ε−カプロラクタム)PA6;ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)(PA6,6);ポリ(2−メチルペンタメチレンヘキサンジアミド(PAD,6);ポリ(ペンタメチレンデカンジアミド)(PA5,10);ポリ(テトラメチレンヘキサンジアミド)(PA4,6);ポリ(ヘキサメチレンデカンジアミド)(PA6,10);ポリ(ヘキサメチレンドデカンジアミド)(PA6,12);ポリ(ヘキサメチレントリデカンジアミド)(PA6,13);PA6,14;ポリ(ヘキサメチレンペンタデカンジアミド)(PA6,15);PA6,16;ポリ(11−アミノウンデカンアミド)(PA11);ポリ(12−アミノドデカンアミド)(PA12);PA10;PA9,12;PA9,13;PA9,14;PA9,15;PA6,16;PA9,36;PA10,10;PA10,12;PA10,13;PA10,14;PA12,10;PA12,12;PA12,13;PA12,14およびそのコポリマーおよび配合物が含まれる。本明細書中に記載されているポリアミド組成物内に含まれる全脂肪酸ポリアミドポリマーの好ましい例としては、PA6、PA11、PA12、PA4,6、PA6,6、PA,10;PA6,12;PA10,10およびそのコポリマーおよび配合物が含まれる。
【0026】
半芳香族ポリアミドポリマーは、酸性モノマーの少なくとも一部分が1つ以上の芳香族カルボン酸から選択されているホモポリマー、コポリマー、ターポリマーまたはより高次のポリマーである。1つ以上の芳香族カルボン酸は、テレフタル酸または、テレフタル酸と1つ以上の他のカルボン酸、例えばイソフタル酸、置換フタル酸、例えば2−メチルテレフタル酸およびナフタレンジカルボン酸の未置換または置換異性体の混合物であり得、ここでカルボン酸構成成分は好ましくは少なくとも55モル%のテレフタル酸を含んでいる(モル%は、カルボン酸混合物に基づいている)。好ましくは、1つ以上の芳香族カルボン酸は、テレフタル酸、イソフタル酸およびその混合物から選択され、より好ましくは、1つ以上のカルボン酸は、テレフタル酸とイソフタル酸の混合物であり、ここでこの混合物は好ましくは少なくとも55モル%のテレフタル酸を含んでいる。さらに、1つ以上のカルボン酸は、1つ以上の脂肪族カルボン酸、例えばアジピン酸;ピメリン酸;スベリン酸;アゼライン酸;セバシン酸およびドデカン二酸と混合され得、アジピン酸が好ましい。より好ましくは、半芳香族ポリアミドの1つ以上のカルボン酸混合物中に含まれたテレフタル酸とアジピン酸の混合物は、少なくとも25モル%のテレフタル酸を含む。半芳香族ポリアミドポリマーは、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、オクタメチレンジアミン、ノナメチレンジアミン、デカメチレンジアミン、2−メチルペンタメチレンジアミン、2−エチルテトラメチレンジアミン、2−メチルオクタメチレンジアミン;トリメチルヘキサメチレンジアミン、ビス(p−アミノシクロヘキシル)メタン;m−キシレンジアミン;p−キシレンジアミンおよび/またはその混合物を含む(ただしこれらに限定されない)4つ以上の炭素原子を有するジアミン類の中から選択可能な1つ以上のジアミンを含む。半芳香族ポリアミドポリマーの適切な例としては、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6,T)、ポリ(ノナメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド9,T)、ポリ(デカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド10,T)、ポリ(ドデカメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド12,T)、ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/6,6)、ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミド(6,T/6,I)、ポリ(m−キシレンアジパミド)(ポリアミドMXD,6)、ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/6,6)、ヘキサメチレンテレフタルアミド/2−メチルペンタメチレンテレフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,T/D,T)、ヘキサメチレンアジパミド/ヘキサメチレンテレフタルアミド/ヘキサメチレンイソフタルアミドコポリアミド(ポリアミド6,6/6,T/6,I);ポリ(カプロラクタム−ヘキサメチレンテレフタルアミド)(ポリアミド6/6,T)およびそのコポリマーおよび配合物が含まれる。本明細書中に記載されているポリアミド組成物中に含まれる半芳香族ポリアミドポリマーの好ましい例としては、PA6,T;PA6,T/6,6,PA6,T/6,I;PAMXD,6;PA6,T/D,Tおよびそのコポリマーおよび配合物が含まれる。
【0027】
ポリアミドの数値添え字は、ジアミンおよび二酸により供与された炭素の数を規定している。ジアミンが最初で、二酸は2番目である。例えば、ポリアミド6,6は、ヘキサメチレンジアミンとヘキサン−1,6−ジカルボン酸の反復単位から調製されたポリアミドであり、ポリアミド66/612コポリマーは、ポリアミド6,6とポリアミド6,12の配合物である。
【0028】
米国特許第6,140,459号明細書(参照により本明細書に援用)中で使用されているポリアミドモノマー、ホモポリマー、コポリマー、ターポリマーの周知の命名法に準じる。
【0029】
脂肪酸ポリアミドおよび半芳香族ポリアミドの物理的配合物は、物品中で各ポリアミドの特性の中間的特性または相乗的特性を得るために有用である。ただし、半芳香族ポリアミドは、脂肪酸ポリアミドに比べて、所望の通りに表面に強力にボンドされた状態にとどまる1つまたは複数の金属を用いてのコーティングがさらに困難であり、半芳香族ポリアミドおよび脂肪酸ポリアミドを含む物理的配合物は、同じ脂肪酸ポリアミドよりもコーティングがむずかしい可能性がある。配合物は、2つのポリアミドPA6TおよびPADTの配合物に対するPA6T/DTなど、公知の略称で表現されるかもしれない。一定の量のコポリマーが存在してもよい。
【0030】
本発明の好ましいポリアミド組成物は、脂肪酸ポリアミドと半芳香族ポリアミドの配合物である。このような1つの好ましい配合物は、大部分(>50%)またはほぼ全て(>90%)がヘキサメチレンアジパミドである脂肪酸ポリアミド、または、ポリ(ヘキサメチレンアジパミド)自体、任意には大部分(>50%)またはほぼ全て(>90%)がヘキサメチレンテレフタルアミドモノマーおよび/またはヘキサメチレンイソフタルアミドモノマーである[なおこの2つの比は0.2、0.5または0.8のうちの1つ以上より大きい、または小さいまたは等しいものである(例えばコポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド(0.666部分)−ヘキサメチレンテレフタルアミド(0.334))]半芳香族ポリアミドとの組合せの形のポリ(ヘキサメチレンアジパミド)を有する配合物である。
【0031】
脂肪酸および半芳香族ポリアミドの配合物組成は、約80重量パーセント〜約20重量パーセントの脂肪酸ポリアミドと、約20重量パーセント〜約80重量パーセントの半芳香族ポリアミド、好ましくは約70重量パーセント〜約30重量パーセントの脂肪酸ポリアミドと約30重量パーセント〜約70重量パーセントの半芳香族ポリアミドを含む。重量百分率は、脂肪酸および半芳香族ポリアミドの総重量に基づく。
【0032】
繊維/充填材
金属コーティングに適したポリマー物品は1つ以上の繊維を含んでいてよい。各々の繊維は、さまざまな繊維長に細断されるか、または「連続的」でさまざまな直径、断面積、長さおよび縦横比を有する可能性がある。このような繊維は、ポリマー物品のための強化用繊維として使用される。繊維はガラス、炭素、黒鉛およびポリマーなどの成分を含んでいてよい。本発明で使用するための好ましい繊維は、ポリマー材料に対し約0.2、0.5、1、2または5の重量比で、扁平な断面を有する短かいチョップドガラス繊維である。本発明のポリマー物品中で使用される繊維の好ましい重量百分率は、ポリマー物品中のポリマーおよび繊維の総重量パーセントに基づいて、約10〜約70重量パーセントであってよい。
【0033】
ポリマー組成物の任意の成分は、1つ以上の無機充填材、例えば炭酸カルシウム粒子、粘土粒子などである。充填材は、さまざまな平均直径、断面積、長さおよび縦横比を有することができる。好ましい充填材は炭酸カルシウム粒子である。本発明のポリマー物品中で使用される充填材の重量百分率は、金属コーティング前のポリマー物品の全構成成分の総重量パーセントに基づいて約1重量パーセント〜約60重量パーセントであってよい。
【0034】
ポリマー組成物は、任意には、当該技術分野において公知の他の成分、例えば触媒、ポリアミド以外のポリマーなど、接着促進剤、イオン、化合物、保存料などを含むことができる。
【0035】
ポリマー物品の表面処理
図1は、ポリマー物品を金属コーティングする先行技術の方法(米国特許第5,192,59号明細書)の流れ図である。先行技術の方法においては、物品(具体的にはポリ(アリールエーテルケトンを含むもの)が提供され[101]、これがフッ化物化合物(フッ化水素酸、フルオロ硫酸、トリフルオロスルホン酸、五フッ化ニオブなど)および酸(例えば強酸、超酸など)で同時に処理される[103](例えば物品を膨潤させるため)。その後、物品は、メッキにより金属コーティングされる[110]。
【0036】
図2は、本明細書中で開示されている方法についての基本的流れ図を表わしている。任意には充填材例えば無機充填材またはガラス繊維またはその両方と共に少なくとも1つのポリアミドを含む物品が提供され[201]、最初に酸[203]次にフッ化物[204]または最初にフッ化物[253]次に酸[254]による処理が選択され[202]、その後処理済みの物品は、(例えば電気分解によって、電解的になど、任意には金属化を改善するための前処理を伴って)金属コーティングされる[210]。
【0037】
膨潤、エッチング、機械的粗化、照明、加熱、触媒での処理など、その後の金属コーティングのために物品の表面を改質する目的でさまざまな方法を使用することができる。このような方法は、逐次的に使用可能であり、その場合、任意には撹拌または超音波処理で処理しながら、洗浄、清浄、乾燥、加熱、pH極値の部分または完全中和などの前処理または後処理を実施することが適切である可能性がある。
【0038】
金属コーティングの前または途中の物品の表面処理の間に、表面に対する金属接着の最終的な強さを改善させるために、表面をエッチング、酸化、弛緩、または他の形で選択的に除去するかまたは変化させることが可能である。酸性または塩基性pH処理用流体による処理が、この最終目的を達成できる。例えば、炭酸カルシウムのような酸エッチング可能な成分が酸性の処理用流体により処理可能であり、また酸化亜鉛またはクエン酸などの塩基エッチング可能な材料を塩基性流体で除去してもよい。ただし、本発明の目的のためには、酸性の表面処理化学物質/溶液のみが使用される。
【0039】
本発明のポリマー物品の表面前処理を実施する1つの方法は、物品の少なくとも一部分を酸性溶液に曝露することによるものである。酸性溶液は、溶解、分散または未溶解の構成成分を有することができ、1つ以上の溶媒を含み得る。このような1つの溶媒はエチレングリコールである。溶解したおよび未溶解の構成成分としては、ヒドロニウムイオン、水酸化物イオン、塩化物イオン、硫酸イオン、重硫酸イオン、フッ化物イオン、アンモニウムイオン、ナトリウムイオン、イオン金属および元素金属例えば鉄、ニッケル、コバルト、クロムおよび0、+1、+2および+3などの荷電状態にある類似の金属、または塩化水素などの化合物を含めた(ただしこれらに限定されない)、イオン化合物、有機化合物を含めたイオンおよび共有結合化合物、元素などが含まれ得る。処理用液体混合物の任意の構成成分の量は、0.1、1、5、10、30、50、90または95重量パーセントのうちの1つ以上よりも多いか、これに等しいかまたはそれより少ないものであり得る。
【0040】
酸性溶液のpHは、処理温度、撹拌などがそうであり得るように、処理の重要な側面であり得る。酸性は、例えば無機酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸など;または有機酸、例えばシュウ酸、酢酸、安息香酸などの酸を使用することによって確立できる。炭酸、炭酸塩、フッ化水素酸、フッ化物、硫酸、硫酸塩などのうちの1つ以上と共に重炭酸塩、重硫酸塩または類似の緩衝液の存在により構成される緩衝液が使用可能である。
【0041】
ポリマー物品表面の酸処理およびその後の金属化のためのこのような1つの方法が、ポリアミド6および6,6の金属化プロセスについて記述する「Addiposit(商標)PM Process」という題のDow Chemical社の技術パンフレット中で説明されている。この方法では、ポリマー物品の表面を化学処理またはエッチングするために塩酸溶液が使用され、その後パラジウムイオンによる表面活性化および電気分解および無電解コーティング方法などを用いた金属化が行なわれる。
【0042】
異なるpHの2つの異なる酸性溶液でポリマー物品の表面を処理することにより、重フッ化物溶液(酸性溶液よりも弱い酸溶液)が使用されない場合または重フッ化物溶液(比較的弱い酸溶液)と酸性溶液の両方を含む溶液を用いて単一のステップにおいてポリマー物品が処理される場合のボンド強度に比較して著しく強い(剥離強度の25%超の改善)ボンディングを金属とポリマー表面の間に有する金属コーティングされたポリマー物品をその後の金属化時点で提供するポリマー物品の表面が得られる。
【0043】
本発明の一態様において、ポリマー物品の表面処理は、酸性溶液と重フッ化物溶液を用いた2つの別個のステップで実施される。酸性溶液での処理は、重フッ化物溶液での処理の前または後で行なうことができる。追加の酸または重フッ化物処理またはそれらの組合せは、その酸および重フッ化物処理が別個のステップとして行なわれるかぎり、2回以上実施可能である。
【0044】
1つのステップには、強酸、例えば塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸または類似の強酸;または有機酸、例えばシュウ酸、酢酸、安息香酸または類似の有機酸の酸性溶液でのポリマー製品の処理が関与する。酸処理は、約20℃〜約85℃で、任意には雰囲気(空気、窒素、アルゴンなど)の下で約10〜30分間実施される。
【0045】
もう1つのステップには、重フッ化物溶液でのポリマー物品の処理が関与する。重フッ化物溶液は、重フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)、重フッ化水素ナトリウム(NaHF2)、重フッ化水素リチウム(LiHF2)、または重フッ化水素カリウム(KHF2)などの重フッ化物化合物を含む。好ましい重フッ化物化合物としては、重フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)および重フッ化水素ナトリウム(NaHF2)が含まれ、重フッ化水素アンモニウム(NH4HF2)が最も好ましい。
【0046】
フッ化物処理は、周囲条件下で約2〜約30分間、好ましくは約5分〜約15分間、そして最も好ましくは約8〜約12分間実施される。
【0047】
これらの酸性処理は異なるpHで実施される。本発明においては、重フッ化物処理のpHは強酸処理のpHより高い(酸性度が比較的低い)ことが好ましい。好ましくは、重フッ化物溶液のpHは2.5以上であるが、一方酸性溶液のpHは2.5未満であることが好ましい。重フッ化物処理は、あらゆる酸処理の前か後、または前と後に実施可能である。追加の酸または重フッ化物またはその両方の処理を、2回以上行なうことができる。
【0048】
金属化プロセス
本発明において表面処理済みのポリマー物品をコーティングするために用いられる金属コーティングプロセスは、表面処理済みのポリマー物品を金属層でコーティングするための当該技術分野において公知のあらゆる金属化プロセスである。このような金属化は、「Addiposit(商標)PM Process」という題のDow Chemicalのパンフレット中で開示されている。
【0049】
金属コーティングは、少なくとも1つの金属、その合金または金属マトリックス複合材料を含むことができる。金属コーティングは、約0.1ミクロン〜数百ミクロンの厚みであり得る。好ましくは、金属コーティングの厚みは、約5ミクロン〜約400ミクロン、より好ましくは約20ミクロン〜約200ミクロン、そしてさらに一層好ましくは約30ミクロン〜約100ミクロンの厚みである。金属コーティングは、さまざまな金属の多重層を含むことができる。
【0050】
有利なまたは改善された剥離強度が望まれる利用分野としては、高温コンポーネント、航空宇宙部品、防衛部品、消費者製品、医療コンポーネントおよびスポーツ用品が含まれる。適切な部品としては、なかでも、例えばスポーツ用品において使用されるチューブ類またはシャフト類、例えばスキー用ストックおよびハイキングポール、釣りざお、ゴルフクラブのシャフト、ホッケースティック、ラクロススティック、野球/ソフトボール用バット、自転車フレーム、スケートブレード、スノーボード;プレート類、例えばゴルフクラブのヘッドフェースプレート;および複雑な型材、例えばスポーツ用ラケット(テニス、ラケットボール、スカッシュなど)、そしてゴルフクラブヘッドが含まれる。好ましい利用分野としては、高温での利用分野、電子デバイス、またはパーソナル電子デバイス(PED)、例えば携帯電話、携帯情報端末(PDA)、音楽記憶再生デバイス(例えばi−Pod□)、ポータブルDVDプレーヤー)、電気マルチメータ、移動式ビデオゲームコンソール、および移動式パソコン(例えばノート型パソコンなど)に適した構造的コンポーネントが含まれる。利用分野には、可視的および非可視的コンポーネントの両方が含まれる。非可視的コンポーネントはPEDの内部にあってよく、例えば、PED周囲の全体的または部分的「フレーム」、1つ以上の別個のビームおよび/または格子形状の一定数のビーム、あるいはこれらの任意の組合せであってよい。
【実施例】
【0051】
本発明は、以下の実施例E1〜E3および比較例C1〜C4においてさらに定義される。これらの実施例は、本発明の好ましい実施形態を表わしているものの、例示のみを目的として示されているものであるということを理解すべきである。以上の論述およびこれらの実施例から、当業者であれば、本発明の本質的な特徴を解明することができ、その精神および範囲から逸脱することなく、本発明にさまざまな変更および修正を行ない、それをさまざまな用途および条件に適合させることが可能である。
【0052】
本発明の金属コーティングされた物品の調製においてならびに比較例のためには、以下の組成物1〜3を使用した。
【0053】
組成物1は、以下のものを含む:
− 1,6−ジアミノヘキサンおよび1,6−ヘキサン二酸からなるポリアミド6,6(PA66)、34.15部;
− 1,6−ジアミノヘキサン、70モルパーセントのイソフタル酸および30モルパーセントのテレフタル酸(モルパーセントはポリアミドB中に存在するジカルボン酸の総量に基づく)で構成された非晶質ポリアミドB、15部;
− ポリ[(6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチ)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]−1,6−ヘキサンジイル[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]])としても公知のChimassorb 944、0.40部;
− 3,3’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−N,N’−ヘキサメチレンジプロピオンアミドとしても公知のIrganox 1098、0.20部;
− Clariant GmbH、Augsburg、Germanyから入手可能なモンタン酸カルシウム塩の結晶化促進剤であるLICOMONT(登録商標)CAV102、0.25部;
− 典型的な2%のステアリン酸表面処理、平均粒径0.7ミクロン、+325メッシュ残渣0.03重量パーセントおよび表面積7m2/グラムを有し、Specialty Minerals,Inc.,Bethlehem,PAから入手可能な狭い粒径分布を有する表面処理済みで細かい粒径の沈降炭酸カルシウムである、SUPER−PFLEX200、10部;
− フラットガラス繊維、すなわち、日本国日東紡績株式会社製でアミノシランサイジングを有する、長さ3mm、幅28ミクロン、厚み7ミクロン、横断面軸の縦横比4のNITTOBO CSG3PA−820、40部。
【0054】
2軸押出し機の中で上述の構成成分を溶融配合することによって、組成物1のペレットを調製した。サイドフィーダを用いて、溶融したポリマーマトリックス内にガラスを補給した。ペレット化/押出し機の温度は、およそ280〜310℃であった。押出し機ダイを退出した時点で、これらを水中で急冷しペレット化した。ペレットの直径はおよそ3mm、長さは5mmである。その後、除湿乾燥機内で6〜8時間100℃でペレットを乾燥させ、次に、射出成形機を用いて280〜300℃の溶融温度そして85〜105℃の金型温度で、6cm×6cm×2mmの標準的なISO294タイプD2プラックの形に成形して、組成物1のプラックを得た。
【0055】
組成物2は、以下のものを含む:
− 1,6−ジアミノヘキサンおよび1,6−ヘキサン二酸からなるポリアミド6,6、49部;
− ポリ[(6−[(1,1,3,3−テトラメチルブチ)アミノ]−1,3,5−トリアジン−2,4−ジイル][(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]−1,6−ヘキサンジイル[(2,2,6,6−テトラメチル−4−ピペリジニル)イミノ]])としても公知のChimassorb 944、0.40部;3,3’−ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)−N,N’−ヘキサメチレンジプロピオンアミドとしても公知のIrganox 1098、0.20部;
− Clariant GmbH、Augsburg、Germanyから入手可能なモンタン酸カルシウム塩の結晶化促進剤であるLICOMONT(登録商標)CAV102、0.25部;
− 典型的な2%のステアリン酸表面処理、平均粒径0.7ミクロン、+325メッシュ残渣0.03重量パーセントおよび表面積7m2/グラムを有し、Specialty Minerals,Inc.,Bethlehem,PAから入手可能な狭い粒径分布を有する表面処理済みで細かい粒径の沈降炭酸カルシウムである、SUPER−PFLEX200、10部;ガラス繊維、すなわちPPG Industries,Pittsburgh,PA15272,USAから入手可能な公称長さ3.2mmのPPG3540、40部。
【0056】
組成物1と同じ方法を用いて溶融配合により、組成物2のペレットを調製した。ペレット化温度は、およそ310〜330℃であった。組成物1の場合と同じ方法を用いて、280〜310℃の溶融温度そして90〜110℃の金型温度で、プラック標本を調製して、組成物2のプラックを得た。
【0057】
組成物3は、以下のものを含む:
− テレフタル酸、(存在する総ジアミンの)50モルパーセントの1,6−ヘキサンジアミンおよび残りの50モルパーセントの2−メチル−1,5−ペンタンジアミンからなるポリアミド、47.3部;
− 1,6−ジアミノヘキサンおよび1,6−ヘキサン二酸からなるポリアミド、6,6、2部;
− Ciba Specialty Chemicalsから入手可能なヨウ化カリウム、ヨウ化第一銅およびステアリン酸アルミニウムの7:1:1の三元配合物、0.40部;
− Licowax OP、0.25部
− 典型的な2%のステアリン酸表面処理、平均粒径0.7ミクロン、+325メッシュ残渣0.03重量パーセントおよび表面積7m2/グラムを有し、Specialty Minerals,Inc.,Bethlehem,PAから入手可能な狭い粒径分布を有する表面処理済みで細かい粒径の沈降炭酸カルシウムである、SUPER−PFLEX200、10部;ガラス繊維、すなわちPPG Industries,Pittsburgh,PA15272,USAから入手可能な公称長さ3.2mmのPPG3660、40部。
【0058】
組成物1と同じ方法を用いて溶融配合により、組成物3のペレットを調製した。ペレット化温度は、およそ330〜345℃であった。組成物1の場合と同じ方法を用いて、310〜330℃の溶融温度そして140〜160℃の金型温度で、プラック標本を調製して、組成物3のプラックを得た。
【0059】
本明細書に記載されている実験的プロセスでは、以下の材料を使用した。
【0060】
PM847− Dow Chemical,Philadelphia,PAから入手可能なエッチング化学溶液
PM−857− Dow Chemical,Philadelphia,PAから入手可能な活性化溶液
PM−867− Dow Chemical,Philadelphia,PAから入手可能な促進剤溶液
PM−980RおよびS −Dow Chemical,Philadelphia,PAから入手可能な無電解ニッケルメッキ溶液
PM−941− Dow Chemical,Philadelphia,PA製のエッチング溶液、
PM−955− Dow Chemical,Philadelphia,PA製の中和剤溶液
PM−964− Dow Chemical,Philadelphia,PA製の促進剤溶液
PM−980− Dow Chemical,Philadelphia,PAから入手可能な無電解ニッケルメッキ溶液
Conductron DP−Dow Chemical,Philadelphia,PA製の活性剤溶液
【0061】
実験プロセス
比較用プロセスC1:
ステップ1) 30L入りの容器内で19.5Lのエチレングリコール、6.5LのPM847を混合することにより調製された溶液を用いて35〜50℃で5〜15分間、以上で調製したプラックをエッチングし、HCl濃度が1.08〜1.33モル/Lとなるまで無水塩酸(HCl)を添加する。その後、この処理に続いて室温で2分間、水洗浄し、それに続いて室温で5〜15分間超音波水洗浄し、その後室温で1分間水洗浄する。
【0062】
ステップ2) ステップ1由来のプラックを、30℃で5〜10分間機械的に撹拌しながらPM−857活性剤溶液で活性化し、その後室温で2分間水洗浄した。
【0063】
ステップ3) ステップ2由来のプラックを、30℃で1〜3分間PM−867促進剤溶液の水溶液で処理し、その後室温で2分間水洗浄した。
【0064】
ステップ4) その後、メッキ溶液を圧送しながら、35〜45℃で10〜30の間PM−980溶液を用いて、ステップ3由来のプラックに無電解ニッケルメッキを施し、その後室温で1分間水洗浄を行なった。
【0065】
ステップ5) その後、ステップ4由来のプラックに、硫酸銅水溶液を用いて約20ミクロンの厚みの金属銅が得られるまで電気メッキを施した。プラックを、機械的に撹拌しながら室温で40分間硫酸銅溶液で処理し、その後続いて、室温で1分間水洗浄し、メッキされた物品を乾燥させることによって仕上げた。
【0066】
発明力あるプロセスE1およびE2
ステップ1) 比較用プロセスC1の場合と同じPM−847酸性溶液を用いて42〜43℃で12.5分間エッチングし、その後室温で1分間水洗浄した;
【0067】
ステップ2) 次に、ステップ1)に由来するプラックを、5分間室温で重フッ化水素アンモニウムHNH42の重フッ化物水溶液(80g/lit)で処理し(HNH42はMerck製)、その後室温で2分間水洗浄した。脱イオン水1Lあたり_80gの重フッ化水素アンモニウム(HNH42)を混合することによって重フッ化物溶液を調製した。
【0068】
ステップ3) ステップ2由来のプラックを、比較用プロセス1の場合と同様にPM−857溶液で活性化した。
【0069】
ステップ4) その後、ステップ3由来のプラックを、比較用プロセスC1と同じ要領で促進剤(PM−867)を用いて処理した。
【0070】
ステップ5) その後、ステップ4由来のプラックに、比較用プロセスC1と同じ要領でPM−980を用いて無電解ニッケルメッキを施した。発明力あるプロセスE1については、処理は35〜40℃で10分間であった。発明力あるプロセスE2については、処理は、メッキ用溶液を圧送しながら35〜40℃で30分間であった。両方のプロセスE1およびE2共、その後、室温で1分間の水洗浄を行なった。
【0071】
ステップ6) 次にステップ5由来のプラックを、約20ミクロンの厚みの金属銅が得られるまで電気銅メッキ溶液で処理し、それに続いて室温で1分間水洗浄し、比較用プロセス1の場合と同様に、メッキされた物品を乾燥させることにより仕上げた。
【0072】
酸性表面処理が、80gr/litのHNH42を含む比較用プロセスC1のステップ1の酸性溶液を用いて実施されたという点を除いて、発明力あるプロセスE1およびE2と類似の要領で、比較用プロセスC2を実施した。温度と時間の数多くの組合せを試験した。35〜55℃の温度と5〜30分の時間を使用したが、これらの条件では充分な表面粗化を生み出すことができず、結果として表面に金属をコーティングすることができなかった。表面の濡れ性は全く見られなかった。
【0073】
発明力あるプロセスE3:
ステップ1) Dow製PM941とスルホクロム酸の酸性溶液を用いて68〜70℃で10分間プラックをエッチングし、それに続いて室温で1分の水洗浄を2回行なった。これに続いて、空気下そしてポンプ撹拌下でPM955(Dow製)溶液中で3分間Cr(VI)の中和を行ない、その後室温で1分間水洗浄を行なった。
【0074】
ステップ2) 次にステップ1)に由来するプラックを、10分間室温で重フッ化水素アンモニウムHNH42の重フッ化物水溶液(80g/lit)で処理し(HNH42はMercK製)、その後室温で2分間水洗浄した。
【0075】
ステップ3) ステップ2に由来するプラックを、30℃で4分間Conductron DP(Dow製)の水溶液を用いて活性化し、その後室温で1分間水洗浄した。
【0076】
ステップ4) その後、ステップ3に由来するプラックを、45℃で5分間促進剤PM−964(Dow製)の水溶液で処理し、続いて、室温で1分間水洗浄した;
【0077】
ステップ5) 次にステップ4に由来するプラックに、35〜40℃の温度で10〜30分間比較用プロセスC1と同じ要領でPM−980を用いた無電解ニッケルメッキを施し、続いて室温で1分間水洗浄した。
【0078】
ステップ6) 次にステップ5)由来のプラックを、約20ミクロンの厚みの金属銅が得られるまで、以上で使用した電気銅メッキ溶液で処理し、それに続いて室温で1分間水洗浄し、比較用プロセス1の場合と同様に、メッキされた物品を乾燥させることにより仕上げた。
【0079】
比較用プロセスC3:プロセスE3と同様であるが、ステップ2は削除した。
【0080】
80gr/litのHNH42を含むスルホクロム酸の単一溶液を用いて酸性表面処理を実施したという点を除いて、発明力あるプロセスE3と類似の要領で、比較用プロセスC4を実施した。50〜80℃の温度および5〜20分の時間を使用したが、これらの条件では充分な表面粗化を生み出すことができず、結果として表面に金属をコーティングすることができなかった。表面の濡れ性は全く見られなかった。
【0081】
剥離強度
2.5kNのロードセルを伴うZ005引張試験器(Zwick USA LP,Atlanta,GA)を用いてISO試験方法34−1により、金属コーティングされた物品の剥離強度(銅−ポリマーボンド強度の強度を判定する)を測定した。引張試験器の片端に取付けたスライドテーブル上に電気メッキされたプラックを固定した。1cm離隔した2本の平行なカットを金属表面に施し、こうして幅1cmの金属帯が表面上に作り上げられるようにした。テーブルを、カットに平行な方向にスライドさせた。幅1cmの銅ストリップを機械のもう一方の端部に取付け、50mm/分の試験速度(温度23℃、相対湿度50%)で金属ストリップを(直角に)剥離させた。各々の実施例および比較例の剥離強度を表1および2に示す(例えば、E1の剥離強度は、1センチメートルあたり7.1ニュートンである)。
【0082】
【表1】

【0083】
表1は、酸および重フッ化物の単一溶液が単一のステップで適用された場合(C2)または重フッ化物ステップが全く使用されない場合(C1)に比べ、表面前処理中に別個のステップで重フッ化物溶液処理と酸性溶液処理が適用された場合に、E1およびE2について少なくとも25%の剥離強度の改善が得られることを示している。
【0084】
表1は同様に、硫酸溶液(C3)または硫酸とフッ化物(300〜350g/lit)の溶液C4の使用とそれに続くH2O中の25%のH2SO4を用いた追加の酸処理では、いずれの実施例においても金属コーティングを維持するのに適したポリマー表面が生成されないということも示している。しかしながら、1つのステップにおける硫酸でのポリマー表面の処理とそれに続く第2のステップにおける重フッ化物溶液での処理であれば、金属でコーティングされた場合にC3およびC4に比べ少なくとも33%の剥離強度の改善を有する金属ボンディングされた物品を提供するポリマー表面が提供される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリマー物品に金属コーティングを施すための方法であって、前記方法が、
i) 前記ポリマー物品を酸性溶液で処理して、酸処理済みポリマー物品を得るステップと;
ii) 前記酸処理済みポリマー物品を(i)の前記酸性溶液よりも高いpHを有する重フッ化物溶液で処理して、重フッ化物処理済みポリマー物品を得るステップと;
iii) 金属コーティングを前記重フッ化物処理済みポリマー物品に施して、金属コーティング済みポリマー物品を得るステップと;
を含み、前記金属コーティング済みポリマー物品が、ステップ(i)と(iii)のみで処理されたかまたはステップ(ii)と(iii)のみで処理された金属コーティング済みポリマー物品に比べ少なくとも25%高い剥離強度を有する、方法。
【請求項2】
ステップ(ii)がステップ(i)の前に実施される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ポリマー物品がさらに、約10重量%〜約70重量%の強化用繊維を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記強化用繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、チョップドガラス繊維、チョップド炭素繊維またはこれらの組合せを含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリマー物品が約1重量%〜約60重量%の無機充填材をさらに含んでいる、請求項1に記載の方法。
【請求項6】
前記無機充填材が炭酸カルシウムである、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記ポリマー物品がポリアミドを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項8】
前記ポリアミドが、約20重量パーセント〜約80重量パーセントの脂肪族ポリアミドと約20重量パーセント〜約80重量パーセントの半芳香族ポリアミドの配合物を含み、前記ポリアミド各々の重量パーセントが前記脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドの総重量に基づいている、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記ポリアミドが、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)またはそれらの組合せを含む、請求項7に記載の方法。
【請求項10】
ポリマー物品に金属コーティングを施すための方法であって、前記方法が、
iv) 前記ポリマー物品を酸性溶液で処理して、酸処理済みポリマー物品を得るステップと;
v) 前記酸処理済みポリマー物品を(iv)の前記酸性溶液よりも高いpHを有する重フッ化物溶液で処理して、重フッ化物処理済みポリマー物品を得るステップと;
vi) 金属コーティングを前記重フッ化物処理済みポリマー物品に施して、金属コーティング済みポリマー物品を得るステップと;
を含み、前記金属コーティング済みポリマー物品は、前記酸性および重フッ化物溶液の構成成分を含む1つの溶液を用いて単一のステップでステップ(iv)と(v)が実施される金属コーティング済みポリマー物品に比べ少なくとも25%高い剥離強度を有する、方法。
【請求項11】
ステップ(v)がステップ(iv)の前に実施される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
前記ポリマー物品がさらに、約10重量%〜約69重量%の強化用繊維を含む、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
前記強化用繊維が、ガラス繊維、炭素繊維、チョップドガラス繊維、チョップド炭素繊維またはこれらの組合せを含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記ポリマー物品が約1重量%〜約60重量%の無機充填材をさらに含んでいる、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
前記無機充填材が炭酸カルシウムである、請求項14に記載の方法。
【請求項16】
前記ポリマー物品がポリアミドを含む、請求項10に記載の方法。
【請求項17】
前記ポリアミドが、約20重量パーセント〜約80重量パーセントの脂肪族ポリアミドと約20重量パーセント〜約80重量パーセントの半芳香族ポリアミドの配合物を含み、前記ポリアミド各々の重量パーセントが前記脂肪族ポリアミドと半芳香族ポリアミドの総重量に基づいている、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記ポリアミドが、ポリ(ε−カプロラクタム)、ポリ(ヘキサメチレンヘキサンジアミド)、ポリ(ヘキサメチレンイソフタルアミド)、ポリ(ヘキサメチレンテレフタルアミド)またはそれらの組合せを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
高温での利用分野、玩具、電気器具、動力工具または工業機械、電子デバイス、パーソナル電子デバイス、携帯電話、携帯情報端末、音楽記憶再生デバイス、ポータブルDVDプレーヤー、電気マルチメータ、移動式ビデオゲームコンソール、移動式パソコン、ノート型パソコンにおける使用に適したコンポーネントの形で、請求項1に記載の方法により調製された物品。
【請求項20】
高温での利用分野、玩具、電気器具、動力工具または工業機械、電子デバイス、パーソナル電子デバイス、携帯電話、携帯情報端末、音楽記憶再生デバイス、ポータブルDVDプレーヤー、電気マルチメータ、移動式ビデオゲームコンソール、移動式パソコン、ノート型パソコンにおける使用に適したコンポーネントの形で、請求項10に記載の方法により調製された物品。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−513033(P2013−513033A)
【公表日】平成25年4月18日(2013.4.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543233(P2012−543233)
【出願日】平成22年12月8日(2010.12.8)
【国際出願番号】PCT/US2010/059417
【国際公開番号】WO2011/071991
【国際公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【出願人】(390023674)イー・アイ・デュポン・ドウ・ヌムール・アンド・カンパニー (2,692)
【氏名又は名称原語表記】E.I.DU PONT DE NEMOURS AND COMPANY
【Fターム(参考)】