説明

金属サレン錯体化合物

【解決課題】患部組織など目的領域に局所適用可能な金属サレン錯体化合物を提供する。
【解決手段】結晶粒径が主として1μm以上3μm以下の金属サレン錯体化合物を主成分として含有する自己磁性体化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属サレン錯体化合物に関するものである。金属サレン錯体化合物は磁性を有し、磁性材料、磁性を持った薬剤等に利用される。
【背景技術】
【0002】
一般に薬剤は生体内に投与され患部に到達し、その患部局所において薬理効果を発揮することで治療効果を引き起こすが、薬剤が患部以外の組織(つまり正常組織)に到達しても治療にはならない。
【0003】
したがって、いかにして効率的に患部に薬剤を誘導するかが重要である。薬剤を患部に誘導する技術はドラッグ・デリバリと呼ばれ、近年研究開発が盛んに行われている分野である。このドラッグ・デリバリには少なくとも二つの利点がある。一つは患部組織において十分に高い薬剤濃度が得られることである。薬理効果は患部における薬剤濃度が一定以上でないと生じず、低い濃度では治療効果が期待できない。
【0004】
二つめは薬剤を患部組織のみに誘導して、正常組織への副作用を抑制することができる。
【0005】
このようなドラッグ・デリバリが最も効果を発揮するのが抗がん剤によるがん治療である。抗がん剤は細胞分裂の活発ながん細胞の細胞増殖を抑制するものが大半であるため、正常組織においても細胞分裂の活発な組織、例えば、骨髄あるいは毛根、消化管粘膜などの細胞増殖を抑制する。
【0006】
このため抗がん剤の投与を受けたがん患者には貧血、抜け毛、嘔吐などの副作用が発生する。これら副作用は患者にとって大きな負担となるため、投薬量を制限しなければならず、抗がん剤の薬理効果を十分に得ることが出来ないという問題がある。
【0007】
この抗悪性腫瘍薬の中で、アルキル系抗悪性腫瘍薬は、核酸蛋白などにアルキル基(-CH2-CH2-)を結合させる能力をもつ抗がん剤の総称である。DNAをアルキル化してDNA複製を阻害し、細胞死をもたらす。この作用は細胞周期に無関係に働きG0期の細胞にもおよび、増殖が盛んな細胞に対する作用が強く、骨髄、消化管粘膜、生殖細胞、毛根などに障害を与えやすい。
【0008】
また、代謝拮抗系抗悪性腫瘍薬は、核酸や蛋白合成過程の代謝物と類似の構造をもつ化合物であり、核酸合成を阻害するなどして細胞を障害し、分裂期の細胞に特異的に作用する。
【0009】
また、抗腫瘍性抗生物質は、微生物によって産生される化学物質であり、DNA合成抑制、DNA鎖切断などの作用を持ち抗腫瘍活性を示す。
【0010】
また、微小管阻害薬は、細胞分裂の際に紡錘体を形成したり、細胞内小器官の配置や物質輸送など、細胞の正常機能の維持に重要な役割を果たしている微小管に直接作用することで抗腫瘍効果を示す。微小管阻害剤は細胞分裂が盛んな細胞や神経細胞などに作用を及ぼす。
【0011】
また、白金製剤は、DNA鎖または鎖間結合あるいはDNA蛋白結合を作ってDNA合成を阻害する。シスプラチンが代表的薬剤であるが腎障害が強く、多量の補液が必要とされる。
【0012】
また、ホルモン類似薬系抗悪性腫瘍薬は、ホルモン依存性の腫瘍に対して有効である。男性ホルモン依存性の前立腺がんに対して女性ホルモンを投与したり抗男性ホルモン剤を投与したりする。
【0013】
また、分子標的薬は、それぞれの悪性腫瘍に特異的な分子生物学的特徴に対応する分子を標的とした治療法である。
【0014】
また、トポイソメラーゼ阻害薬は、DNAに一時的に切れ目を入れてDNA鎖のからまり数を変える酵素である。トポイソメラーゼIは、環状DNAの一方の鎖に切れ目を入れ、もう一方の鎖を通過させた後、切れ目を閉じる酵素であり、トポイソメラーゼ阻害薬IIは環状DNAの2本鎖両方を一時的に切断し、その間を別の2本鎖DNAを通過させ、再び切れ目をつなぎ直す酵素である。
【0015】
さらに、非特異的免疫賦活薬は、免疫系を活性することによってがん細胞の増殖を抑制する。
【0016】
ドラッグ・デリバリの具体的な手法としては、例えば、担体(キャリア)を用いたものがある。これは患部に集中しやすい担体に薬剤を載せて、薬剤を患部まで運ばせようというものである。
【0017】
担体として有力視されているのが磁性体であり、薬剤に磁性体である担体を付着させ、磁場によって患部に集積される方法が提案されている(例えば、特開2001−10978号公報参照)。
【0018】
しかしながら、磁性体担体をキャリアとして使用する場合、経口投与が困難なこと、担体分子が一般に巨大であること、担体と薬剤分子との間の結合強度、親和性に技術的な問題があることがわかり、そもそも実用化が困難であった。
【0019】
そこで、本発明者は、有機化合物の基本骨格に対して、正又は負のスピン電荷密度付与する側鎖が結合され、全体として外部磁場に対して磁気共有誘導される範囲の適性を持ち、人体や動物に適用された際に、体外からの磁場によって局所的に磁場が与えられている領域で保持され、元来保有している医薬効果を前記領域において発揮するようにした、局所治療薬を提案した(WO2008/001851号公報)。この治療薬は、磁性体の担体を用いなくても、自己で磁性を有する。当該公報には、このような薬剤として、鉄サレン錯体化合物が記載されている。特開2009−173631号公報には、鉄サレン錯体化合物を含有する抗腫瘍薬剤が開示されている。
【0020】
さらに、本願の発明者は、金属サレン錯体に医薬分子等を結合して、磁場によって、個体の目的の領域に誘導できる各種医薬を提案した(WO2010/058280号公報)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】特開2001−10978号公報
【特許文献2】WO2008/001851号公報
【特許文献3】特開2009−173631号公報
【特許文献4】WO2010/058280号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
金属サレン錯体の粒径が小さいと必要な磁性が発揮できず、一方、金属サレン錯体の粒径が大きいと毛細血管内を通過することができない。そこで、金属サレン錯体は、毛細血管を閉塞させることなく、医薬として生体に適用可能であり、かつ、磁場によって目的の領域に誘導可能な程度の粒径を持つことが好ましい。
【0023】
一方、本発明者は、金属サレン錯体の結晶粒径が毛細血管を通過できないほど大きくても、患部組織に対して局所適用可能であり、かつ、磁場によって、局所の範囲で金属サレン錯体化合物の動態を制御することを目的として鋭意検討した。そこで、本発明は、患部組織など目的領域に局所適用可能な金属サレン錯体化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
前記目的を達成するために、本発明は、人又は動物の毛細血管の通過に抵抗となり得る程度の結晶粒径を備え、外部磁場によって動態を制御できる金属サレン錯体化合物あることを特徴とする。毛細血管の直径が8μm〜20μmであること、そして、毛細血管を通過する赤血球の粒径がほぼ8μm、白血球の粒径が約8〜20μmであること、を考慮すると、本発明の金属サレン錯体化合物の結晶粒径は、前記結晶粒径が、1μm以上8μm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、5μm以下、特に、3μm以下である。金属サレン錯体化合物は自己磁性を有しており、例えば、患部に局所適用された後、外部磁場によって患部に留置させることができる。
【0025】
金属サレン錯体化合物の粒径が1μm未満であると、外部磁場によって局所に留まるための磁性が十分でなく目的患部組織から目的患部組織外の毛細血管に漏えいするおそれがある。所望の結晶粒径値、例えば、1μm以上3μm以下の結晶粒径を持つ金属サレン錯体化合物は、全体の70%以上であることが好ましい。
【0026】
本発明の金属サレン錯体化合物は、例えば、金属サレン錯体(下記(I)式のa〜hが全て水素である。)、金属サレン錯体の置換体(金属サレン錯体のa〜hの少なくとも一つが水素以外の官能基・置換基で置換されたもの。)を包含する。さらに、本発明の金属サレン錯体化合物は、金属サレン錯体及び/又は金蔵サレン錯体の置換体が、医薬分子、酵素、抗体などの機能性分子に結合したものを包含する。本発明は、金属サレン錯体の置換体及び医薬分子との複合体として、WO 2010/058280号公報に記載されたものを援用することができる。本願の明細書は当該公報の記載内容を全て引用する。医薬分子との複合体における、金属サレン錯体及び/又はその置換体は、当該複合体の医薬分子を目的の患部組織に局在化させるためのキャリアとして有用である。
【0027】
(I)



N,N’-Bis(salicylidene)ethylenediamine metal
(I)式中のMは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdである。
【0028】
本発明の金属サレン錯体化合物の人体又は動物の患部組織への局所適用の好適な例は患部組織近傍の動脈に対する動注、患部組織自体に対する注入である。その他の局所適用の形態として、軟膏剤、ローション剤、貼付剤など公知の形態を採用することができる。金属サレン錯体化合物の注射剤の代表的処方例は、溶媒は生理食塩水であり、懸濁剤又は乳濁剤を使用してもよい。本発明の金属サレン錯体化合物は、既述の先行技術に記載されているように、好適には、抗癌剤としての用途を有する。その他、既述のとおり他の医薬分子と結合して当該医薬分子のドラッグデリバリのためのキャリアとして用途、さらに、MRI用診断薬としての用途を有する。
【0029】
本発明の金属サレン錯体化合物を個体(人又は動物)に適用する際、患部器官、患部組織が存在する目的領域に磁場(500mTから1T(1000mT))を供給することにより、金属サレン錯体化合物を目的領域に少なくとも磁気供給の期間留め置くことができる。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、患部領域に局所適用可能で、かつ、患部領域に磁場が供給している間患部領域に金属サレン錯体化合物留め置くことができる金属サレン錯体化合物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の実施例に係る鉄サレン錯体化合物の粒径粗大結晶の透過電子顕微鏡写真(長尺方向が1μmを越える。)である。
【図2】本発明の比較例に係る鉄サレン錯体化合物結晶の透過電子顕微鏡写真である(粒径は最大でも300nm以下である。)。
【図3】本発明の比較例に係る鉄サレン錯体化合物結晶の粒径分布に係るグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
実施例1:金属サレン錯体(鉄サレン)の製造
サレン配位子(N,N’-Bis(salicylidene)ethylenediamine)とその誘導体は、相当するサリチルアルデヒドとエチレンジアミンの誘導体の脱水縮心反応によって合成される。得られた配位子は、フェノキシドイオン誘導体とした後あるいは塩基性条件下で金属イオンと反応させることにより、金属サレン錯体に至る。以下詳しく説明する。
Step 1:

【0033】
4-nitrophenol (25g, 0.18mol)、hexamethylene tetramine (25g, 0.18mol)、polyphosphoric acid (200ml)の混合物を1時間100℃で攪拌した。その後、その混合物を500mlの酢酸エチルと1Lの水の中に入れ、完全に溶解するまで攪拌した。さらにその溶液に400mlの酢酸エチルを追加で加えたところその溶液は2つの相に分離し、水の相を取り除き、残りの化合物を塩性溶剤で2回洗浄し、無水Mg2SO4で乾燥させた結果、compound 2が17g(収率57%)合成できた。
【0034】
Step 2:

【0035】
Compound 2 (17g, 0.10mol) compound 2 (17g, 0.10mol), acetic anhydride (200ml),H2SO4 (少々)を室温で1時間攪拌させた。得られた溶液は、氷水(2L)の中に0.5時間混ぜ、加水分解を行った。得られた溶液をフィルターにかけ、大気中で乾燥させたところ白い粉末状のものが得られた。酢酸エチルを含む溶液を使ってその粉末を再結晶化させたところ、24gのCompound 3(収率76%)の白い結晶を得ることができた。
【0036】
Step 3:

【0037】
compound 3 (24g, 77mmolとメタノール(500ml)に10%のパラジウムを担持したカーボン(2.4g)の混合物を一晩 1.5気圧の水素還元雰囲気で還元した。終了後、フィルターでろ過したところ茶色油状のcompound 4 (21g)が合成できた。
【0038】
Step 4, 5:

【0039】
無水ジクロメタン(DCM) (200ml)にcompound 4 (21g, 75mmol), di(tert-butyl) dicarbonate (18g, 82mmol)を窒素雰囲気で一晩攪拌した。得られた溶液を真空中で蒸発させた後、メタノール(100ml)で溶解させた。その後、水酸化ナトリウム(15g, 374mmol)と水(50ml)を加え、5時間還流させた。その後冷却し、フィルターでろ過し、水で洗浄後、真空中て乾燥させたところ茶色化合物がえられた。得られた化合物は、シリカジェルを使ったフラッシュクロマトグラフィーを2回行うことで、10gのcompound 6(収率58%)が得られた。
【0040】
Step 6:

【0041】
無水エタノール400mlの中にcompound 6 (10g, 42mmol)を入れ、加熱しながら還流させ、無水エタノール20mlにエチレンジアミン(1.3g, 21mmol)を0.5時間攪拌しながら数滴加えた。そして、その混合溶液を氷の容器に入れて冷却し15分間かき混ぜた。その後、200mlのエタノールで洗浄しフィルターをかけ、真空で乾燥させたところcompound 7(サレン)が8.5g (収率82%)で合成できた。
【0042】
Step 7:

【0043】
無水メタノール(50ml)の中にcompound 7(8.2g,16mmol)、triethylamine (22ml,160mmol)をいれ、10mlメタノールの中にFeCl3(2.7g,16mmol)を加えた溶液を窒素雰囲気下で混合した。室温窒素雰囲気で1時間混合したところ茶色の化合物が得られた。得られた化合物を80℃まで加熱し、次いで、室温になるまで空冷するなどの徐冷処置(例えば、10時間〜12時間)の後ろ過し、濾過された結晶を真空中で乾燥させた。得られた結晶をジクロロメタン400mlと、塩性溶液(テトラヒドロフラン)とで、それぞれ2回洗浄した後、Na2SO4で乾燥させ、さらに、真空中で乾燥させたところcomplex A(鉄サレン錯体化合物(a〜hが全てHである。))を得た。この化合物をジエチルエーテルとパラフィンの溶液中で再結晶させ、結晶を高速液化クロマトグラフィーで測定したところ純度95%以上のcomplex A5.7g(収率62%)を得た。再結晶も既述と同様に徐冷条件下で行われる。なお、Step7の反応を加熱下で行ってもよい。この場合、得られた化合物の加熱は不要である。
【0044】
鉄サレン錯体化合物以外の金属錯体を用いる場合には、FeCl3の代わりに鉄以外の金属の塩化物MCl3を利用すればよい。なお、鉄サレン錯体化合物以外のMnサレン錯体、Crサレン錯体、Coサレン錯体に、外部磁場によって誘導できる程度の磁性があることは、本願出願人の特願2009−177112号において示されたとおりである。そして、金属鉄サレン錯体化合物などが抗腫瘍作用を有することも特開2009−173631号公報において明らかである。
【0045】
実施例2:粒径の測定
次に、再結晶化後の結晶粒の粒径の測定を行う。先ず、結晶を2g程度計量し、乳鉢で約30分すりつぶす。すりつぶしたものを回収し、重量を再度計量して、溶媒(生理食塩水)の希釈量を決定し、この希釈量の溶媒で希釈する。その際の、結晶粒の濃度は、20mMである。
【0046】
次に、50mlチューブに移し、溶媒20mlをいれ、超音波で粉砕する。これを、肉眼的に粒が見えなくなるまで攪拌しながら行う。次に、正確な希釈量(実際に静脈注射する濃度:9.25mM)に薄め、40μmのcell strainer(BD Falcon)を用い、濾過をする。
【0047】
濾過した結果得られた結晶粒の粒径の測定は電顕画像を用いて行った。使用装置及び条件等は次の通りである。
【0048】
装置: 透過型電子顕微鏡(日立製 H-7100FA)
条件: 加速電圧 100kV
試料調整:分散法(乳鉢ですりつぶした後、純粋を加えTEMでグリッドに分散させた)粒度分布測定ソフトウエァア:Image-Pro plus (Media ctbermetrics, MD, U.S.A.)
測定対象:TEM写真における鉄サレン錯体化合物分子のトレース像
【0049】
結晶及び再結晶を空冷で行い、粒径を測定した(サンプル数140)。その結果、平均粒径は450nmであり、標準偏差は360であった。図1は代表的サンプルの電顕写真である。これによれば、粒径が1μmを越える結晶が存在し、かつ、粒径が1μm以上3μm以下の粒子が全体の70%(粒子の数の頻度の割合として)以上であることが確認できた。
【0050】
比較例1:粒径の測定
結晶及び再結晶を水冷で行い、サンプルを透過電子顕微鏡で観察した。その結果、平均粒径は300nmであり、標準偏差は300であった。図2は、代表的サンプルの電顕写真である。この場合、図3によれば、粒径が1μm以下であった。
【0051】
実施例2:磁性の確認
実施例1で得られた粒径の結晶が、強磁性を持つことを確認した。実施例1で得られた粒径の結晶について、Quantum Design MPMS7を用いて磁場―磁化曲線を測定したところ、‐268℃から37℃まで強磁性体特有のヒステリシスループが現れ強磁性体であることを確認した。
【0052】
次に、丸型シャーレの中にメラノーマ細胞(clone M3)を細胞培養し、そのあと鉄サレンを均等にふりかけた。その後、磁束密度240mTのボタン磁石をシャーレの下に24時間おいた。その結果、ボタン磁石の縁に沿って、メラノーマ細胞が死滅しているのが確認された。
【0053】
実施例3:病態組織に対する局所適用
ウサギの大腿部にウサギ由来の扁平上皮癌(VX2)を移植し、2から3週間かけて生着した。その後、透過電子顕微鏡で確認された粒径1500nm(1.5μm)の粗大粒径の鉄サレン錯体化合物を、生理食塩水を用いて濃度100μMで希釈し、5mg/kg量を、カテーテルを用いて動脈注射を行った。動注は大腿部動脈から行った。その詳細は、日本医学放射学会、50(4), 426-428, 1990に従った。投与を開始して7日後、鉄サレン錯体化合物を動注しない群では、腫瘍の体積が当初の約2倍となったが、鉄サレン錯体化合物を動注した群では、腫瘍の体積が治療前に対して20%まで縮小されることが確認された。動脈注射時には、他の臓器に薬剤が回らないように磁束密度600mTの永久磁石で鉄サレン錯体を患部に留めた。鉄サレン錯体が癌組織にとどまっていることは、患部から細胞切片を採取して確認した。染色の方法は、シグマ製 Prussian blue (ferric hexacyanoferrate and hydrochloric acid)を用いた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
人又は動物の毛細血管の通過に抵抗となり得る程度の結晶粒径を備え、外部磁場によって動態を制御できる金属サレン錯体化合物。
【請求項2】
前記結晶粒径が、1μm以上8μm以下である、請求項1記載の金属サレン錯体化合物。
【請求項3】
下記構造式(I)の化合物からなる、請求項1乃至3のいずれか1項記載の金属サレン錯体化合物。
(I)



N,N’-Bis(salicylidene)ethylenediamine metal
Mは、Fe、Cr、Mn、Co、Ni、Mo、Ru、Rh、Pd、W、Re、Os、Ir、Pt、Nd、Sm、Eu、又は、Gdである。
【請求項4】
請求項1乃至3の何れか1項記載の金属サレン錯体化合物を主成分として含有し、患部組織に局所適用され、外部磁場によって前記患部組織に留置される磁性医薬。
【請求項5】
前記患部組織である腫瘍組織に局所適用され、前記患部組織に対して抗腫瘍効果を発揮する請求項4記載の磁性医薬。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate


【公開番号】特開2012−176905(P2012−176905A)
【公開日】平成24年9月13日(2012.9.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−40233(P2011−40233)
【出願日】平成23年2月25日(2011.2.25)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)
【出願人】(505328683)
【Fターム(参考)】