説明

金属ナノワイヤー及びその製造方法、並びに透明導電体及びタッチパネル

【課題】高い導電性を有し、優れた光透過性を維持しつつ、耐熱性に優れた金属ナノワイヤー及びその製造方法、並びに透明導電体及びタッチパネルを提供すること。
【解決手段】本発明の金属ナノワイヤーは、銀と銀以外の金属とからなり1μm以上の長軸平均長さを有する金属ナノワイヤーであって、前記銀以外の金属が、銀よりも貴な金属であり、前記金属ナノワイヤーにおける前記銀以外の金属の含有量をP(原子%)とし、前記金属ナノワイヤーの短軸平均長さをφ(nm)としたとき、前記Pとφとが、下記式1の関係を満たすことを特徴とする。
0.1<P×φ0.5<30 (式1)
ただし、前記P(原子%)は、0.010原子%〜13原子%であり、前記φ(nm)は、5nm〜100nmである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノワイヤー及びその製造方法、並びに透明導電体及びタッチパネルに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、様々な製造方法による導電性フイルムが検討されている。この中で、ハロゲン化銀乳剤を塗布し、導電性のための銀の導電部と、透明性の確保のための開口部からなるようにパターン露光して、導電性フイルムとして製造される銀塩方式導電性フイルムがある。また、フイルム全面に電力を供給するために、ITOなどの金属酸化物を併用する方法が提案されているが、一般に蒸着法やスパッタリング法、イオンプレーティング法などの真空成膜法によって形成されるため、高コストであることが課題である。製造コストを下げるためにITO微粒子を塗布することで解決を試みた例もあるが、抵抗を低くするために多量に塗布することが必要である。また、透過率の低下など、本質的な課題解決には至っていないのが現状である。
【0003】
透明導電膜としては、透明性、抵抗、使用金属量の低減の面で優れた特徴を有する銀のナノワイヤーを用いた透明導電膜が報告されている(例えば、特許文献1参照)。一般的に、金属ナノ粒子は、通常のバルク金属よりも融点が低いことが知られている。これは、ナノ粒子では、表面に露出している原子(エネルギーが高く、不安定)の内部原子に対する個数の割合が高いためである。
ワイヤー状以外の形状のナノ粒子の場合、加熱をすると表面積を最小にしようと、球形に近づくように変形する。ナノワイヤーの場合には、断線を起こして小片がそれぞれ球形に近づくような変形をすることがあり、加熱による断線の結果、透明導電膜の抵抗値が上昇したり、導通が取れなくなってしまうという問題がある。
したがって、金属ナノワイヤーを用いた導電性材料の製造工程における、配線部の熱圧着工程及び熱可塑性樹脂による貼り合せ工程などで要求される耐熱性を付与するには、ある程度ナノワイヤーの太さを太くして内部原子に対する表面原子の割合を下げる必要があるが、耐熱性向上のためにナノワイヤーを太くすると、反対にヘイズが高くなってしまうという問題がある。
【0004】
金属ナノワイヤーの耐久性を向上させる技術として、耐酸化性及び耐硫化性を向上させるために金属ナノワイヤーを異種金属のメッキ処理によって保護する方法が提案されている(特許文献2参照)。また、異種金属イオンを金属ナノワイヤーの構成原子イオンで還元することによって置換する方法が提案されている(特許文献3参照)。また、銀ナノワイヤーの表面に、銀以外の少なくとも1種の金属を含む薄層を有する金属ナノワイヤーが提案されている(特許文献4参照)。銀は、導電性に優れた材料であり、これを含む金属ナノワイヤーを用いると導電性に優れた導電体が得られる。
しかしながら、これらの方法は、耐酸化安定性、耐硫化物安定性に対して一定の効果が認められるものの、耐熱性に対する効果はこれまでに認められていない。
特に、メッキ処理では、パターニングされた透明導電層に対しては、絶縁部の導通を起こしてしまうなどの問題があるために用いることができず、また、ナノワイヤーの表面に金属を更にコーティングするため、直径が太くなり、ヘイズが上昇してしまうという問題もある。
また、金属ナノワイヤーを異種金属で形成する場合、耐熱性は、金属元素の組み合わせ及びその組成比によって変化するため、直径を細くしたときに、耐熱性が十分な金属ナノワイヤーとしては、満足できるものが提供されていないのが現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願公開第2005/0056118号明細書
【特許文献2】特開2009−127092号公報
【特許文献3】特開2009−215594号公報
【特許文献4】特開2009−120867号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、高い導電性を有し、優れた光透過性を維持しつつ、耐熱性に優れた金属ナノワイヤー及びその製造方法、並びに透明導電体及びタッチパネルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するための手段としては以下の通りである。即ち、
<1> 銀と銀以外の金属とからなり1μm以上の長軸平均長さを有する金属ナノワイヤーであって、前記銀以外の金属が、銀よりも貴な金属であり、前記金属ナノワイヤーにおける前記銀以外の金属の含有量をP(原子%)とし、前記金属ナノワイヤーの短軸平均長さをφ(nm)としたとき、前記Pと前記φとが、下記式1の関係を満たすことを特徴とする金属ナノワイヤーである。
0.1<P×φ0.5<30 (式1)
ただし、前記P(原子%)は、0.010原子%〜13原子%であり、前記φ(nm)は、5nm〜100nmである。
<2> 銀より貴な金属が、金及び白金の少なくともいずれかである前記<1>に記載の金属ナノワイヤー。
<3> P(原子%)と、φ(nm)とが下記(1)〜(4)のいずれかの関係を有する前記<1>から<2>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーである。
(1)φが、5nm〜40nmのとき、Pが、0.015原子%〜13原子%
(2)φが、20nm〜60nmのとき、Pが、0.013原子%〜6.7原子%
(3)φが、40nm〜80nmのとき、Pが、0.011原子%〜4.7原子%
(4)φが、60nm〜100nmのとき、Pが、0.010原子%〜3.9原子%
<4> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー分散液に銀以外の金属塩溶液を添加して酸化還元反応を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法である。
<5> 前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー塗布膜を、銀以外の金属塩溶液に浸漬して酸化還元反応を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法である。
<6> 少なくとも、前記<1>から<3>のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含有する透明導電層を有することを特徴とする透明導電体である。
<7> 前記<6>に記載の透明導電体を有することを特徴とするタッチパネルである。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、従来における問題を解決することができ、高い導電性を有し、優れた光透過性を維持しつつ、耐熱性に優れた金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤーの製造方法、並びに該金属ナノワイヤーを含有する透明導電体及びタッチパネルを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1における金属ナノワイヤーを撮像した光学顕微鏡写真である。
【図2】図2は、比較例3における金属ナノワイヤーを撮像した光学顕微鏡写真である。
【図3】図3は、タッチパネルの一例を示す概略断面図である。
【図4】図4は、タッチパネルの他の一例を示す概略説明図である。
【図5】図5は、図4に示すタッチパネルにおける透明導電体の配置例を示す概略平面図である。
【図6】図6は、タッチパネルの更に他の一例を示す概略断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
(金属ナノワイヤー)
本発明の金属ナノワイヤーは、銀と銀以外の金属とからなる金属ナノワイヤーとしてなる。
前記銀以外の金属としては、銀より貴な金属であり、金及び白金が好ましく、中でも金がより好ましい。これらの金属材料は、イオン化エネルギーが銀よりも高いために、銀ナノワイヤーを該金属材料と合金化するか表面にメッキすることによって、耐酸化性を向上させられることがすでに知られているが、銀ナノワイヤーに、従来用いられているよりも少量の該金属材料を含有させることによって、銀ナノワイヤーの耐熱性を格段に向上させられることを新たに見出した。なお、少量の該金属材料によって金属ナノワイヤーの耐熱性を向上させられる理由としては、該金属材料の融点が銀よりも高いことが一因であると考えられるが、実際のところ、表面全体を覆うことなく、ごく少量でこれらの効果が生じる原因については解明できていない点がある。
【0011】
前記金属ナノワイヤーの形状としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、円柱状、直方体状、断面が多角形となる柱状等の任意の形状をとることができるが、前記金属ナノワイヤーの長軸平均長さとしては、1μm以上であり、5μm以上が好ましく、10μm以上がより好ましい。
前記金属ナノワイヤーの長軸長さが、1μm未満であると、透明導電体を塗布により作製した場合において、金属同士の接合点が減少し、導通が取りにくくなり、その結果、抵抗が高くなってしまうことがある。
【0012】
前記金属ナノワイヤーの短軸平均長さφ(nm)としては、5nm〜100nmであることを特徴とする。
前記金属ナノワイヤーの前記φ(nm)が、5nm未満であると、前記銀以外の金属材料を含有していても十分な耐熱性を発揮できないことがあり、100nmを超えると、金属の散乱によるヘイズが増加してしまい、該金属ナノワイヤーを含有する透明導電体の光線透過性及び視認性が低下してしまうことがある。
【0013】
前記金属ナノワイヤーは、該金属ナノワイヤーにおける銀以外の金属の含有量をP(原子%)とし(P=100×銀以外の金属の原子数/(銀以外の金属の原子数+銀原子数))、短軸平均長さをφ(nm)としたとき、前記Pとφとが、下記式1の関係を満たすことを技術の重要な核としている。
0.1<P×φ0.5<30 (式1)
即ち、短軸長さφの金属ナノワイヤーにおいて、上記式1を満たすPの割合にて、前記銀以外の金属が含有される時に、該金属ナノワイヤーが優れた耐熱性を有するようになる。式1は、
0.01<P×φ<900 (式2)
と等価であるが、本願では、数値範囲を大きくしすぎないために、式1を採用した。実験値を元に近似的に得た式2の意味するところは、前記φが大きいほど、前記Pは小さくても耐熱性向上の効果が得られるということである。金属ナノワイヤーを構成する金属原子のうち、内部を構成する原子に対する表面原子の割合が、φが大きいほど小さいことを考えると、銀以外の金属が、金属ナノワイヤーの耐熱性を向上させるには、該銀以外の金属が金属ナノワイヤー表面に現れていれば、内部に含有されていなくてもよいことを示唆している。Pの2乗値が現れるのは、おそらく、置換処理した時に、耐熱性向上の効果に寄与する割合がPの関数となっているためである。耐酸化性の向上のためには、表面の被覆率は高いほどよく、均一に表面を覆うことが求められていたが、本発明では、必ずしも処理量が多いほど耐熱性が向上するわけではなく、また、表面を均一に覆う必要もなかった。銀ナノワイヤーに処理する金属材料の陽イオンを、銀ナノワイヤーの表面の銀原子で還元する場合には、該銀以外の金属材料の多価イオン1個あたり、1個以上の銀原子を消費する。そのため、メッキ処理とは異なり、置換処理によってナノワイヤーの径が増加することはなく、径増加に伴うヘイズの上昇はなかった。ナノワイヤーの構成原子数の実質的な減少は、本願に記載の範囲内の少ない処理量であれば問題とならないが、処理量が一定以上となると、局所的にワイヤー径が減少したり、断線したりすることがあり、かえって耐熱性が低下してしまうことや、光透過性の低下や製膜物の表面抵抗の増加を起こすことがあるため、処理量には上限がある。また、銀よりも貴な金属は、高価なため、処理量が多いと製造コストが格段に高くなってしまう問題もある。
前記P×φ0.5が、0.1以下であると、銀原子に対する銀以外の金属の表面置換量が足りず、十分な耐熱性向上の効果が得られないことがあり、30以上であると、かえって耐熱性が低下したり、金属ナノワイヤーの断線を起こしてしまうことがある。
また、このような観点から、前記金属ナノワイヤーは、前記P(原子%)を0.010原子%〜13原子%とし、前記φ(nm)を5nm〜100nmとすることを特徴とする。
【0014】
更に、前記P(原子%)は、前記φ(nm)に応じて変動し、前記P(原子%)と、φ(nm)とは、下記(1)〜(4)のいずれかの関係を満たすことが好ましい。
(1)前記φが、5nm〜40nmのとき、前記Pは、0.015原子%〜13原子%が好ましく、0.045原子%〜4.7原子%がより好ましい。
(2)前記φが、20nm〜60nmのとき、前記Pは、0.013原子%〜6.7原子%が好ましく、0.022原子%〜3.9原子%がより好ましい。
(3)前記φが、40nm〜80nmのとき、前記Pは、0.011原子%〜4.7原子%が好ましく、0.016原子%〜3.4原子%がより好ましい。
(4)前記φが、60nm〜100nmのとき、前記Pは、0.010原子%〜3.9原子%が好ましく、0.013原子%〜3.0原子%がより好ましい。
前記(1)〜(4)のいずれかの関係を満たす場合、光透過性を維持しつつ、優れた耐熱性が得られることの効果がより顕著に発揮される。
【0015】
ここで、前記金属ナノワイヤーの長軸及び短軸の各々の平均長さは、例えば、透過型電子顕微鏡(TEM)を用い、TEM像を観察することにより求めることができる。
また、前記金属ナノワイヤーにおける各金属原子の含有量は、例えば、試料を酸などにより溶解後、ICP(高周波誘導結合プラズマ)により測定することができる。
【0016】
前記銀以外の金属としては、前記金属ナノワイヤー中に含有されていてもよく、又は前記金属ナノワイヤーを被覆していてもよいが、前記金属ナノワイヤーを被覆していることが好ましい。
前記金属ナノワイヤーを被覆している場合、銀以外の金属は、必ずしもコアとなる銀の全表面積を被覆している必要はなく、その一部を被覆していればよい。
【0017】
前記金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸、短軸の各々の長さ)及び銀以外の金属の含有量は、後述する金属ナノワイヤーの製造方法で、金属塩、無機塩、有機酸(又はその塩)の濃度、粒子形成時の溶媒種、還元剤の濃度、それぞれの薬品の添加速度や温度などを適宜選択することにより制御することができる。
【0018】
前記金属ナノワイヤーの耐熱性としては、以下の耐熱性を有することが好ましい。
前記金属ナノワイヤーを透明導電体として、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止材、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止材、太陽電池用電極等の各種デバイス用途に用いる場合、各種デバイスの製造プロセスにおいて、一般に150℃以上の熱可塑性樹脂による貼り合せ(パネル化)の工程や、220℃以上の配線部のはんだリフロー工程に耐え得る耐熱性が要求される。前記製造プロセスに対して、信頼性の高い透明導電体を提供する観点から、240℃30分間の加熱に対する耐熱性を有することが好ましく、60分間の加熱に対する耐熱性を有することが特に好ましい。
即ち、前記金属ナノワイヤーとしては、大気下、240℃で30分間加熱した後の金属ナノワイヤーの長軸平均長が、加熱前の金属ナノワイヤーの長軸平均長の60%以上であることが好ましく、同時に、大気下、240℃で60分間加熱した後の金属ナノワイヤーの長軸平均長が、加熱前の金属ナノワイヤーの長軸平均長の60%以上であることが特に好ましい。
【0019】
(金属ナノワイヤーの製造方法)
本発明の金属ナノワイヤーの製造方法は、本発明の前記金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー分散液に銀以外の金属塩溶液を添加して酸化還元反応を行うことを第一の実施形態とする。また、第二の実施形態として、本発明の金属ナノワイヤーの製造方法は、本発明の前記金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー塗布膜を銀以外の金属塩を少なくとも含有する溶液に浸漬して酸化還元反応を行う。前記銀以外の金属としては、銀よりも貴な金属を用い、金及び白金のいずれか、または、両方が好ましい。なお、銀以外の金属塩溶液による処理は、分散液への添加処理と塗布膜の浸漬処理を組み合わせて行ってもよい。前記銀ナノワイヤー塗布膜は、銀以外の金属塩で処理した金属ナノワイヤーの代わりに、金属塩処理をしていない銀ナノワイヤーを用いること以外は、後述の塗布用分散物及び透明導電体の製造方法と全く同様にして、作製できる。
前記銀ナノワイヤー分散液の溶媒としては、特に制限することなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、水、プロパノール、アセトン、エチレングリコールなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0020】
前記銀以外の金属は、銀により還元されて生成されることが好ましい。
前記銀以外の金属塩溶液の添加による還元は、室温でも反応は進行するが、銀ナノワイヤーと金属塩を含む溶液、もしくは、銀ナノワイヤー塗布膜を浸漬した金属塩溶液を加熱することが好ましい。前記溶液を加熱することにより、銀が酸化されること(Ag→Ag)による、金属塩の還元(Mn+→M)が促進される。更に目的に応じて適宜、光還元、還元剤添加、化学還元法などを組み合わせてもよい。
前記溶液の加熱方法としては、例えば、オイルバス、アルミブロックヒーター、ホットプレート、オーブン、赤外線ヒーター、ヒートローラ、蒸気(熱気)、超音波、マイクロ波などを用いて行うことができる。この際、加熱温度としては、35℃〜200℃が好ましく、45℃〜180℃がより好ましい。
前記光還元としては、例えば、紫外線、可視光線、電子線、赤外線などの照射が挙げられる。
前記還元剤添加に用いる還元剤としては、例えば、水素ガス、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素リチウム、ヒドラジン、アスコルビン酸、アミン類、チオール類、ポリオール類などが挙げられる。なお、化学還元法としては、電気分解法を用いて行うこともできる。
【0021】
前記銀以外の金属塩としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、硝酸塩、塩化物、燐酸塩、硫酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、アンミン錯体、クロロ錯体、有機酸塩などが挙げられる。これらの中でも、水に対する溶解度の大きい硝酸塩、テトラフルオロホウ酸塩、アンミン錯体、クロロ錯体、有機酸塩が特に好ましい。
【0022】
前記有機酸、及び有機酸塩を形成する有機酸としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、酢酸、プロピオン酸、クエン酸、酒石酸、コハク酸、酪酸、フマル酸、乳酸、シュウ酸、グリコール酸、アクリル酸、エチレンジアミン四酢酸、イミノ二酢酸、ニトリロ三酢酸、グリコールエーテルジアミン四酢酸、エチレンジアミン二プロピオン酸、エチレンジアミン二酢酸、ジアミノプロパノール四酢酸、ヒドロキシエチルイミノ二酢酸、ニトリロトリメチレンホスホン酸、ビス(2−エチルヘキシル)スルホコハク酸など挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、有機カルボン酸又はその塩が特に好ましい。
前記有機酸の塩としては、例えば、アルカリ金属塩、アンモニウム塩などが挙げられ、アンモニウム塩が特に好ましい。
【0023】
前記銀ナノワイヤー分散物は、有機酸及びその塩のいずれかを全固形分に対し0.01質量%〜10質量%含有することが好ましく、0.05質量%〜5質量%がより好ましい。前記含有量が0.01質量%未満であると、分散安定性が悪くなることがあり、10質量%を超えると、導電性、耐久性が低下することがある。
前記有機酸又はその塩の含有量は、例えば熱分析(TG)などにより測定することができる。
【0024】
前記酸化還元反応後、前記銀に対して銀以外の金属を含有する金属ナノワイヤーが形成され、該金属ナノワイヤーの分散物が得られる。
この分散物に対しては、更に脱塩処理が行われる。
前記脱塩処理は、金属ナノワイヤーを形成した後、限外ろ過、透析、ゲルろ過、デカンテーション、遠心分離などの手法により行うことができる。
【0025】
−塗布用分散物−
前記脱塩処理後の金属ナノワイヤー分散物としては、更に、塗布用分散物として調製することができる。
即ち、前記金属ナノワイヤー塗布用分散物は、分散溶媒中に前記金属ナノワイヤーを含有してなる。
前記金属ナノワイヤーの前記塗布分散物における含有量としては、特に制限はないが、0.1質量%〜99質量%が好ましく、0.3質量%〜95質量%がより好ましい。前記含有量が、0.1質量%未満であると、製造時、乾燥工程における負荷が多大となり、99質量%を超えると、粒子の凝集が起こりやすくなることがある。
この場合、長軸長さが10μm以上の金属ナノワイヤーを0.01質量%以上、より好ましくは0.05質量%以上含有することが、より少ない塗布銀量で導電性を高くすることができ、透明性との両立の観点で特に好ましい。
【0026】
前記塗布用分散物における分散溶媒としては、主として水が用いられ、水と混和する有機溶媒を50容量%以下の割合で併用することができる。
前記有機溶媒としては、例えば、沸点が50℃〜250℃、より好ましくは55℃〜200℃のアルコール系化合物が好適に用いられる。このようなアルコール系化合物を併用することにより、塗布工程での塗り付け良化、乾燥負荷の低減をすることができる。
前記アルコール系化合物としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール200、ポリエチレングリコール300、グリセリン、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1−エトキシ−2−プロパノール、エタノールアミン、ジエタノールアミン、2−(2−アミノエトキシ)エタノール、2−ジメチルアミノイソプロパノールなどが挙げられ、好ましくはエタノール、エチレングリコールである。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
【0027】
前記塗布用分散物は、アルカリ金属イオン、アルカリ土類金属イオン、ハロゲン化物イオン等の無機イオンを含まないことが好ましい。
前記塗布用分散物の電気伝導度としては、1mS/cm以下が好ましく、0.1mS/cm以下がより好ましく、0.05mS/cm以下が更に好ましい。
前記水性分散物の20℃における粘度は、0.5mPa・s〜100mPa・sが好ましく、1mPa・s〜50mPa・sがより好ましい。
【0028】
前記塗布用分散物には、必要に応じて、各種の添加剤、例えば、界面活性剤、重合性化合物、酸化防止剤、硫化防止剤、腐食防止剤、粘度調整剤、防腐剤などを含有することができる。
【0029】
前記腐食防止剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、アゾール類が好適である。該アゾール類としては、例えば、ベンゾトリアゾール、トリルトリアゾール、メルカプトベンゾチアゾール、メルカプトベンゾトリアゾール、メルカプトベンゾテトラゾール、(2−ベンゾチアゾリルチオ)酢酸、3−(2−ベンゾチアゾリルチオ)プロピオン酸、及びこれらのアルカリ金属塩、アンモニウム塩、並びにアミン塩から選ばれる少なくとも1種が挙げられる。該腐食防止剤を含有することで、一段と優れた防錆効果を発揮することができる。前記腐食防止剤は直接、塗布用散物中に適した溶媒で溶解した状態、又は粉末で添加するか、後述する透明導電体を作製後に、これを腐食防止剤浴に浸すことで付与することができる。
【0030】
前記塗布用分散物は、インクジェットプリンター用水性インク及びディスペンサー用水性インクにも好ましく用いることができる。
前記インクジェットプリンターによる画像形成用途において、塗布用分散物を塗工する基板としては、例えば、紙、コート紙、表面に親水性ポリマー等を塗設したPETフイルムなどが挙げられる。
【0031】
(透明導電体)
本発明の透明導電体は、本発明の前記金属ナノワイヤーを含んでなる。
前記透明導電体としては、少なくとも、前記塗布用分散物により形成される透明導電層を有し、例えば、前記塗布用分散物を、基板上に塗工し、乾燥したものなどが挙げられる。
【0032】
前記基板としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、透明導電体用基板には、以下のものが挙げられるが、これらの中でも、製造適性、軽量性、可撓性などの観点からはポリマーフイルムが好ましく、ポリエチレンテレフタレート(PET)フイルム、トリアセチルセルロース(TAC)フイルムが特に好ましい。また、耐熱性の観点からは、ガラスまたは耐熱性の高いポリマーフイルムが好ましい。
(1)石英ガラス、無アルカリガラス、結晶化透明ガラス、パイレックス(登録商標)ガラス、サファイア等のガラス
(2)ポリカーボネート、ポリメチルメタクリレート等のアクリル樹脂、ポリ塩化ビニル、塩化ビニル共重合体等の塩化ビニル系樹脂、ポリアリレート、ポリサルフォン、ポリエーテルサルフォン、ポリイミド、PET、PEN、TAC、フッ素樹脂、フェノキシ樹脂、ポリオレフィン系樹脂、ナイロン、スチレン系樹脂、ABS樹脂等の熱可塑性樹脂
(3)エポキシ樹脂等の熱硬化性樹脂
【0033】
前記基板材料としては、所望により併用してもよい。用途に応じてこれらの基板材料から適宜選択して、フイルム状等の可撓性基板、又は剛性のある基板とすることができる。
前記基板の形状としては、円盤状、カード状、シート状等のいずれの形状であってもよい。また、三次元的に積層されたものでもよい。更に基板のプリント配線を行う箇所にアスペクト比1以上の細孔、細溝を有していてもよく、これらの中に、インクジェットプリンター又はディスペンサーにより前記塗布用分散物を吐出することもできる。
【0034】
前記基板の表面は親水化処理を施すことが好ましい。また、前記基板表面に親水性ポリマーを塗設したものが好ましい。これらにより、前記塗布用分散物の基板に対する塗布性、及び密着性が良化する。
【0035】
前記親水化処理としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば薬品処理、機械的粗面化処理、コロナ放電処理、火炎処理、紫外線処理、グロー放電処理、活性プラズマ処理、レーザー処理などが挙げられる。これらの親水化処理により表面の表面張力を30dyne/cm以上にすることが好ましい。
【0036】
前記基板表面に塗設する親水性ポリマーとしては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ゼラチン、ゼラチン誘導体、ガゼイン、寒天、でんぷん、ポリビニルアルコール、ポリアクリル酸共重合体、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルピロリドン、デキストランなどが挙げられる。
前記親水性ポリマー層の層厚(乾燥時)は、0.001μm〜100μmが好ましく、0.01μm〜20μmがより好ましい。
前記親水性ポリマー層には、硬膜剤を添加して膜強度を高めることが好ましい。前記硬膜剤としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、ホルムアルデヒド、グルタルアルデヒド等のアルデヒド化合物;ジアセチル、シクロペンタンジオン等のケトン化合物;ジビニルスルホン等のビニルスルホン化合物;2−ヒドロキシ−4,6−ジクロロ−1,3,5−トリアジン等のトリアジン化合物;米国特許第3,103,437号明細書等に記載のイソシアネート化合物などが挙げられる。
前記親水性ポリマー層は、上記化合物を水などの適当な溶媒に溶解又は分散させて塗布液を調製し、スピンコート、ディップコート、エクストルージョンコート、バーコート、ダイコート等の塗布法を利用して親水化処理した基板表面に塗布することにより形成することができる。更に、基板と上記親水性ポリマー層の間に、更なる密着性の改善など必要により下引き層を導入してもよい。前記乾燥温度は120℃以下が好ましく、30℃〜100℃がより好ましい。
【0037】
前記透明導電体としては、前記透明導電体形成後に、腐食防止剤浴に通すことも好ましく行うことができ、これにより、更に優れた腐食防止効果を得ることができる。
【0038】
前記透明導電体を用いる各種デバイスの製造プロセスにおいて、一般に150℃以上の熱可塑性樹脂による貼り合せ(パネル化)の工程や、220℃以上の配線部のはんだリフロー工程に耐え得る耐熱性が要求される。前記製造プロセスに対して、信頼性の高い透明導電体を提供する観点から、240℃、30分間の加熱に対する耐熱性を有することが好ましく、60分間の加熱に対する耐熱性を有することが特に好ましい。
即ち、前記透明導電体としては、大気下で240℃、30分間加熱したときの表面抵抗値が、加熱前の表面抵抗値の2倍を超えないことが好ましく、同時に、大気下で240℃、60分間加熱したときの表面抵抗値が、加熱前の表面抵抗値の2倍を超えないことが特に好ましい。
【0039】
−用途−
前記透明導電体としては、例えば、タッチパネル、ディスプレイ用帯電防止材、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止材、太陽電池用電極、各種デバイスなどに幅広く適用される。
特に、前記透明導電体としては、タッチパネルの透明導電体として好適に用いることができる。即ち、前記透明導電体を前記タッチパネルの透明導電体として使用した場合、透過率の向上により視認性に優れ、且つ、導電性の向上により素手、手袋を嵌めた手、指示具のうち少なくとも一つによる文字等の入力または画面操作に対し応答性に優れるタッチパネルを製作することができる。
前記タッチパネルとしては、広く公知のタッチパネルが挙げられ、いわゆるタッチセンサ−及びタッチパッドとして知られているものに対して、前記透明導電体を適用することができる。
【0040】
(タッチパネル)
本発明のタッチパネルは、本発明の前記透明導電体を有してなる。
前記タッチパネルとしては、前記透明導電体を有する限り、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、表面型静電容量方式タッチパネル、投影型静電容量方式タッチパネル、抵抗膜式タッチパネルなどが挙げられる。
【0041】
前記表面型静電容量方式タッチパネルの一例を図3を用いて説明する。該図3において、タッチパネル10は、透明基板11の表面を一様に覆うように透明導電膜12を配してなり、透明基板11の端部の透明導電膜12上に、図示しない外部検知回路との電気接続のための電極端子18が形成されている。
なお、図中、13は、シールド電極となる透明導電膜を示し、14、17は、保護膜を示し、15は、中間保護膜を示し、16は、グレア防止膜を示す。
透明導電膜12上の任意の点を指でタッチ等すると、前記透明導電膜12は、タッチされた点で人体を介して接地され、各電極端子18と接地ラインとの間の抵抗値に変化が生じる。この抵抗値の変化を前記外部検知回路によって検知し、タッチした点の座標が特定される。
【0042】
前記表面型静電容量方式タッチパネルの他の一例を図4を用いて説明する。該図4においてタッチパネル20は、透明基板21の表面を覆うように配された透明導電膜22と透明導電膜23と、該透明導電膜22と該透明導電膜23とを絶縁する絶縁層24と、指等の接触対象と透明導電膜22又は透明導電膜23の間に静電容量を生じる絶縁カバー層25とからなり、指等の接触対象に対して位置検知する。構成によっては、透明導電膜22,23を一体として構成することもでき、また、絶縁層24又は絶縁カバー層25を空気層として構成してもよい。
絶縁カバー層25を指等でタッチすると、指等と透明導電膜22又は透明導電膜23の間の静電容量の値が変化に変化が生じる。この静電容量値の変化を前記外部検知回路によって検知し、タッチした点の座標が特定される。
また、図5により、投影型静電容量方式タッチパネルとしてのタッチパネル20を透明導電膜22と透明導電膜23とを平面から視た配置を通じて模式的に説明する。
タッチパネル20は、X軸方向の位置を検出可能とする複数の透明導電膜22と、Y軸方向の複数の透明導電膜23とが、外部端子に接続可能に配されている。透明導電膜22と透明導電膜23とは、指先等の接触対象に対し複数接触して、接触情報が多点で入力されることを可能とされる。
このタッチパネル20上の任意の点を指でタッチ等すると、X軸方向及びY軸方向の座標が位置精度よく特定される。
なお、透明基板、保護層等のその他の構成としては、前記表面型静電容量方式タッチパネルの構成を適宜選択して適用することができる。また、タッチパネル20において、複数の透明導電膜22と、複数の透明導電膜23とによる透明導電膜のパターンの例を示したが、その形状、配置等としては、これらに限られない。
【0043】
前記抵抗膜式タッチパネルの一例を図6を用いて説明する。該図6において、タッチパネル30は、透明導電膜32が配された基板31と、該透明導電膜32上に複数配されたスペーサ36と、空気層34を介して、透明導電膜32と接触可能な透明導電膜33と、該透明導電膜33上に配される透明フィルム35とが支持されて構成される。
このタッチパネル30に対して、透明フィルム35側からタッチすると、透明フィルム35が押圧され、押し込まれた透明導電膜32と透明導電膜33とが接触し、この位置での電位変化を図示しない外部検知回路で検出することで、タッチした点の座標が特定される。
【実施例】
【0044】
以下、本発明の実施例を説明するが、本発明は、これらの実施例に何ら限定されるものではない。
以下の実施例及び比較例において、「金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)」、「金属ナノワイヤーにおける銀以外の金属の含有量」は、以下のようにして測定した。
【0045】
<金属ナノワイヤーの平均粒径(長軸・短軸の長さ)>
金属ナノワイヤーの平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM;日本電子株式会社製、JEM−2000FX)を用い、TEM像を観察することにより求めた。
【0046】
<金属ナノワイヤーにおける銀以外の金属の含有量>
金属ナノワイヤーにおける銀及び銀以外の金属の含有量は、ICP(高周波誘導結合プラズマ;島津製作所製、ICPS−1000IV)により測定した。
【0047】
(実施例1)
−添加液Aの調製−
硝酸銀粉末0.51gを純水50mLに溶解した。その後、1Nのアンモニア水を、溶液が無色透明になるまで添加した。そして、全量が100mLになるように純水を添加し、添加液Aを調製した。添加液Aの調製は、前記調製法により、所望量行った。
【0048】
―添加液Bの調製―
塩化金酸四水和物0.041gを100mLの純水で溶解して、1mM金溶液として添加液Bを調製した。添加液Bの調製は、前記調製法により、所望量行った。
【0049】
−添加液Cの調製−
グルコース粉末0.5gを140mLの純水で溶解して、添加液Cを調製した。添加液Cの調製は、前記調製法により、所望量行った。
【0050】
−添加液Dの調製−
HTAB(ヘキサデシル−トリメチルアンモニウムブロミド)粉末0.5gを27.5mLの純水で溶解して、添加液Dを調製した。添加液Dの調製は、前記調製法により、所望量行った。
【0051】
−銀ナノワイヤー分散物の作製−
三口フラスコにて、27℃で攪拌しながら、純水410mL、添加液D 82.5mL、及び添加液C 206mLを添加した(1段目)。
この溶液を攪拌回転数800rpmで攪拌子ながら、添加液A 206mLを流量2.0mL/minで添加した(2段目)。
その10分後、添加液Dを82.5mL添加した。その後、3℃/分で内温75℃まで昇温した。その後、攪拌回転数を200rpmに落とし、5時間加熱した。
得られた分散物を冷却した後、限外濾過モジュールSIP1013(旭化成株式会社製、分画分子量6,000)、マグネットポンプ、ステンレスカップをシリコンチューブで接続し、限外濾過装置とした。銀ナノワイヤー分散液(水溶液)をステンレスカップに入れ、ポンプを稼動させて限外濾過を行った。モジュールからの濾液が950mLになった時点で、ステンレスカップに950mLの蒸留水を加え、再び限外ろ過を行うことで、洗浄を行った。上記の洗浄を10回繰り返した後、母液の量が50mLになるまで濃縮を行い、銀ナノワイヤーを得た。
得られた銀ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、31.8nm、長軸平均長さは、30.5μmであった。
【0052】
−金属ナノワイヤーの作製−
攪拌中の銀ナノワイヤー分散物50mLに、添加液B 6.2mLと純水43.8mLとの混合溶液を、流量2.0mL/minで添加した。全量添加後、1時間、室温で攪拌し、金を0.10原子%含む、実施例1における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例1における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、32.5nm、長軸平均長さは、29.0μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.57であった。
【0053】
(実施例2)
実施例1の添加液Bの調製において、100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから0.41gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を1.0原子%含む、実施例2における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例2における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、32.2nm、長軸平均長さは、31.3μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、5.7であった。
【0054】
(実施例3)
実施例1の添加液Bの調製において、100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから0.0205gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を0.05原子%含む、実施例3における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例3における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、32.1nm、長軸平均長さは、25.5μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)との積P×φは、0.28であった。
【0055】
(実施例4)
実施例1の添加液Bの調製において、100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから2.05gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を5.0原子%含む、実施例4における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例4における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、30.7nm、長軸平均長さは、30.1μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、28であった。
【0056】
(実施例5)
実施例1の1段目の温度を27℃から20℃に変更し、添加液Bの調製において、100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから0.41gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を1.0原子%含む、実施例5における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例5における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、17.8nm、長軸平均長さは、36.7μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.42であった。
【0057】
(実施例6)
実施例1の1段目の温度を27℃から40℃に変更し、Bの調製において、100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから1.23gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を3.0原子%含む、実施例6における金属ナノワイヤーを製造した。
この実施例6における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、61.1nm、長軸平均長さは、25.2μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、23.4であった。
【0058】
(比較例1)
実施例1の添加液Bの調製において、塩化金酸四水和物0.041gを溶解させる純水の量を100mLから1,000mLに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を0.010原子%含む、比較例1における金属ナノワイヤーを製造した。
この比較例1における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、31.7nm、長軸平均長さは、31.2μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.056であった。
【0059】
(比較例2)
実施例1の添加液Bの調製において、塩化金酸四水和物を100mLの純水に溶解させる塩化金酸四水和物の量を0.041gから2.88gに変えたこと以外は、実施例1と同様にして、金を8.1原子%含む、比較例2における金属ナノワイヤーを製造した。
この比較例2における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、32.1nm、長軸平均長さは、28.3μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、46であった。
【0060】
(比較例3)
実施例1の金属ナノワイヤーの作製において、添加液B 6.2mLに代えて純水6.2mL(純水の合計添加量50mL)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、銀以外の金属を含有しない(0原子%)比較例3における金属ナノワイヤーを製造した。
この比較例3における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、30.8nm、長軸平均長さは、31.4μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.0であった。
【0061】
(比較例4)
実施例6の金属ナノワイヤーの作製において、添加液B 6.2mLに代えて純水6.2mL(純水の合計添加量50mL)を用いたこと以外は、実施例6と同様にして、銀以外の金属を含有しない(0原子%)比較例4における金属ナノワイヤーを製造した。
この比較例4における金属ナノワイヤーに対して、前記TEM像による観察を行い、200個の粒子の短軸平均長さ及び長軸平均長さを測定した結果、短軸平均長さは、58.2nm、長軸平均長さは、22.2μmであった。
また、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.0であった。
【0062】
(実施例1〜6及び比較例1〜4における透明導電体の製造)
−金属ナノワイヤーの塗布用分散物の作製−
実施例1〜6及び比較例1〜4における金属ナノワイヤーを含む状態の各分散物に対して、水を加えて遠心分離し、伝導度が50μS/cm以下になるまで精製し、金属の含有量が22質量%、となるよう調製した。これらの金属ナノワイヤー分散物の粘度は、すべて10mPa・s(25℃)以下であった。なお、粘度の測定は、CBCマテリアルズ社製VISCOMATE VM−1G により行った。さらに、該金属ナノワイヤー分散物に、ヒドロキシエチルセルロースを、金属重量に対して約50%の含有量となるように混合、調製することによって、金属ナノワイヤーの塗布用分散物を作製した。
【0063】
次に、ドクターコーターを用いて、白板ガラス(松浪硝子工業株式会社製、0050−JFL)上に、前記各塗布用分散物を塗布、乾燥させ、金属ナノワイヤーを含む透明導電層を形成した。この際、塗布する銀と銀以外の金属の量を蛍光X線分析装置(SII社製、SEA1100)にて測定し、0.02g/mとなるように塗布量を調節した。
以上により、実施例1〜6及び比較例1〜4における金属ナノワイヤーに対応する、実施例1〜6及び比較例1〜4における透明導電体を製造した。
【0064】
(実施例7における透明導電体の製造)
比較例3の銀以外の金属を含有しない銀ナノワイヤーを用いて作製した透明導電体を、塩化金酸四水和物の0.1質量%水溶液に10秒間浸漬した後に、流水で洗浄し、乾燥させて、実施例7の金属ナノワイヤーを含む透明導電体を作製した。
透明導電体を半分に切断し、一片の金属ナノワイヤー層を濃硝酸で溶解させ、その溶液をICP分析した結果、金属ナノワイヤーにおける金の含有量は、0.07原子%であった。したがって、金属ナノワイヤーにおける、金の含有量P(原子%)と、短軸平均長さφ(nm)の平方根との積P×φ0.5は、0.39であった。
残りの一片を後述の評価及び測定に用いた。
【0065】
(測定及び評価)
<耐久性試験>
実施例1〜7及び比較例1〜4の透明導電体に対して、オーブンを用いて、240℃、30分間、及び240℃、60分間加熱を行い、加熱後の透明導電層における、金属ナノワイヤーの長軸平均長さを測定し、この測定結果に基づき、加熱前と、加熱後とにおける長軸平均長さの変化率を求めた。
各金属ナノワイヤーの長軸平均長さの測定は、電界放出形走査電子顕微鏡(SEM;株式会社日立ハイテクノロジーズ製、S−4300)を用いて撮像したSEM像を観察し、100個の金属ナノワイヤーの平均をとることにより行った。
240℃、30分間と240℃、60分間の各条件における測定は、個別に用意した試料、及び前記オーブンを用い、試料を途中で取り出すことなく、連続加熱する条件で行った。結果を下記表1に示す。なお、試験後の長軸長さが試験前の長軸長さを超えたものに関しては、100%と記載した。SEM像の撮影の際に、視野によって、平均の長軸長さの数値がばらつくために、試験前よりも長い値が出たものと推定され、試験前後でナノワイヤーが伸びているのではない。
【0066】
【表1】

【0067】
<表面抵抗>
実施例1〜7及び比較例1〜4における透明導電体の透明導電層に対して、以下のように表面抵抗を測定及び評価を行った。結果を下記表2に示す。
即ち、加熱前と、オーブンを用いて、240℃、30分間加熱した後と、同じく240℃、60分間加熱した後における各金属ナノワイヤー分散材料の表面抵抗を、三菱化学株式会社製Loresta−GP MCP−T600を用いて測定した。
【0068】
【表2】

表2中に記載の「OL」は、試料の抵抗値が高すぎるために、表面抵抗値を測定できなかったことを示す。
【0069】
実施例1における金属ナノワイヤーの光学顕微鏡写真を図1、比較例における金属ナノワイヤーの光学顕微鏡写真を図2に示す。
実施例1における金属ナノワイヤーは、図1に示すように、加熱前と、240℃、60分間加熱後とで、断線が生じておらず、極めて高い耐熱性を有している。これに対して、比較例3における金属ナノワイヤーは、図2に示すように、240℃、60分間加熱後において激しい断線がみられ、耐熱性を有しない。したがって、比較例3における透明導電体は、金属ナノワイヤー間の導通が取れず、要求される導電性が得られない。
【0070】
(タッチパネルの作製)
実施例1に記載の金属ナノワイヤーを用いて作成した透明導電体をタッチパネルの透明導電体として使用した場合、透過率の向上により視認性に優れ、且つ、導電性の向上により素手、手袋を嵌めた手、指示具のうち少なくとも一つによる文字等の入力または画面操作に対し応答性に優れるタッチパネルを製作できることがわかった。なお、タッチパネルとは、いわゆるタッチセンサ及びタッチパッドを含むものとする。
タッチパネルの作製に際しては、『最新タッチパネル技術』(2009年7月6日発行(株))テクノタイムズ社)、三谷雄二監修,“タッチパネルの技術と開発”,シーエムシー出版(2004,12)、FPD International 2009 Forum T−11講演テキストブック、Cypress Semiconductor Corporation アプリケーションノートAN2292等に記載の公知な方法を用いた。
【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の金属ナノワイヤー及び金属ナノワイヤー分散材料は、例えばタッチパネル、ディスプレイ用帯電防止、電磁波シールド、有機又は無機ELディスプレイ用電極、その他フレキシブルディスプレイ用電極・帯電防止、太陽電池用電極、各種デバイスなどに幅広く適用される。
【符号の説明】
【0072】
10、20、30 タッチパネル
11、21、31 透明基板
12、13、22、23、32、33 透明導電膜
24 絶縁層
25 絶縁カバー層
14、17 保護膜
15 中間保護膜
16 グレア防止膜
18 電極端子
33 スペーサ
34 空気層
35 透明フィルム
36 スペーサ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
銀と銀以外の金属とからなり1μm以上の長軸平均長さを有する金属ナノワイヤーであって、
前記銀以外の金属が、銀よりも貴な金属であり、
前記金属ナノワイヤーにおける前記銀以外の金属の含有量をP(原子%)とし、前記金属ナノワイヤーの短軸平均長さをφ(nm)としたとき、前記Pと前記φとが、下記式1の関係を満たすことを特徴とする金属ナノワイヤー。
0.1<P×φ0.5<30 (式1)
ただし、前記P(原子%)は、0.010原子%〜13原子%であり、前記φ(nm)は、5nm〜100nmである。
【請求項2】
銀より貴な金属が、金及び白金の少なくともいずれかである請求項1に記載の金属ナノワイヤー。
【請求項3】
P(原子%)と、φ(nm)とが下記(1)〜(4)のいずれかの関係を有する請求項1から2のいずれかに記載の金属ナノワイヤー。
(1)φが、5nm〜40nmのとき、Pが、0.015原子%〜13原子%
(2)φが、20nm〜60nmのとき、Pが、0.013原子%〜6.7原子%
(3)φが、40nm〜80nmのとき、Pが、0.011原子%〜4.7原子%
(4)φが、60nm〜100nmのとき、Pが、0.010原子%〜3.9原子%
【請求項4】
請求項1から3のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー分散液に銀以外の金属塩溶液を添加して酸化還元反応を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項5】
請求項1から3のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを製造する方法であって、銀ナノワイヤー塗布膜を、銀以外の金属塩溶液に浸漬して酸化還元反応を行うことを特徴とする金属ナノワイヤーの製造方法。
【請求項6】
少なくとも、請求項1から3のいずれかに記載の金属ナノワイヤーを含有する透明導電層を有することを特徴とする透明導電体。
【請求項7】
請求項6に記載の透明導電体を有することを特徴とするタッチパネル。

【図4】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−149092(P2011−149092A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−270493(P2010−270493)
【出願日】平成22年12月3日(2010.12.3)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】