説明

金属ナノ粒子とその凝集体、金属ナノ粒子分散体、それを用いて形成された部材

【課題】極性溶媒に分散する性質を有する金属ナノ粒子とその凝集体および、該金属ナノ粒子の分散した分散体、それを用いて形成された部材、および分散剤を提供する。
【解決手段】数平均粒子径が50nm未満の金属ナノ粒子の表面に、アルコキシポリオキシエチレングリコールマレイン酸のエステル化合物といった、ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物により構成される保護剤で被覆された粒子、該金属ナノ粒子がジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート極性溶媒に分散した分散体を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子とその凝集体、金属ナノ粒子分散体、それを用いて形成された部材、および分散剤に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、微小な粒径に起因して様々なバルク態と異なる特性を示すため、導電材料、電子部材といった分野で利用され始めている。
【0003】
昨今の製造技術の進展に伴って、TEM(透過型電子顕微鏡)による写真測定といった測定方法で計測される平均一次粒径が1nm以上100nm以下といったナノサイズの金属粒子を形成できるまでに発展してきた。ところが、金属ナノ粒子は活性が非常に高く、かつ低温でも焼結が進む性質を有していることから、個々の金属ナノ粒子を保護剤により保護する必要がある。
【0004】
上述のように形成されている金属ナノ粒子は、塗布・焼成といったステップを踏んで金属の薄膜にされることにより利用される。具体的には、金属ナノ粒子を含有するインクやペーストを一旦基板上に塗布した後に加熱を加え、表面を被覆する有機物を分解・蒸散させ、金属を焼結させることで金属膜を形成させる。こうして一旦形成された金属膜は、バルク態の金属と同様の性質を示すことになる。
【0005】
このような性質は次のような場合に利用される。例えば印刷法により配線を形成する事例で言えば、基板上に低温で配線を描画した後、熱を加えて金属配線を形成する。そして、この焼成により一旦形成された金属配線は、焼成時に加えた温度程度まで温度を上昇させても溶融することがないといった性質をもつ。また、金属を容易に得ることができることから、配線用途のみならず、物質間接合といった用途にも利用することができると考えられる。
【0006】
特許文献1で本出願人は、低温焼結性を得るために、当初被覆していた有機保護剤を置換することで低炭素数の有機保護剤により被覆された銀ナノ粒子を得る方法を開示した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2008−297580号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
従来では、このように有機保護剤にて金属ナノ粒子を保護したものを非極性および/または親油性溶媒(例えばテトラデカンなどからなる溶媒)に分散させたもの、すなわち金属ナノ粒子分散液である導電性インクや導電性ペーストが広く知られている。
【0009】
しかし、従来の金属ナノ粒子は、特定の溶媒には分散性を呈するが、異なる性質の分散液には分散性を呈さないことが通常である。例えば、非極性の炭化水素系の溶剤に分散性を呈する粒子は、極性のアルコール系の溶剤には分散性を呈しづらい、といった関係にあるのが通常である。
【0010】
ところが、グラビアオフセット印刷とすると、印刷インクやペーストの分散媒が非極性および/または親油性溶媒であると、このブランケットロールがインクの成分により膨潤したり溶解したりするため、配線パターンが経時的に太ったり、ブランケットロール自身の耐久性が失われたりする不都合があることが指摘されていた。とくに、微細配線用として検討されているシリコンゴムブランケットではその傾向が顕著であり、版を用いた印刷法で微細配線を金属ナノ粒子で形成させるためには、金属ナノ粒子の分散している溶媒の性質をドラスティックに変更する必要がある。
【0011】
もし、シリコーンゴムに対してこのような影響を及ぼさないような性質を有する分散媒、たとえば水を初めとした極性溶媒を使用することができるようになれば、特に印刷法によって配線等を形成することが容易に行えるようになり、電子部材の開発分野で大きな貢献をもたらすことが期待される。
【0012】
そこで本発明の目的としては、極性溶媒に分散する性質を有する金属ナノ粒子とその凝集体、金属ナノ粒子を極性溶媒に分散させるための分散剤、該金属ナノ粒子の分散した分散体、およびそれを用いて形成された部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上述の目的を達成するため、本発明では、金属ナノ粒子に付着する有機保護剤として、カルボキシル基およびポリアルキレンオキサイド基を併せ持つ有機化合物である保護剤を使用することを提案する。また、このような性質の保護剤を溶剤へ添加することにより、極性溶媒に分散性を呈する金属ナノ粒子を提供することができる。
【0014】
具体的な態様は下記の通りになる。
すなわち、第一の構成として、極性を有する溶媒に対して分散する性質を有し、ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物を金属ナノ粒子の保護剤として使用する。
【0015】
第二の構成として、特に上述したポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物により構成される保護剤として、ポリアルキレンオキサイド基におけるアルキレン基の炭素数が2〜4であり、アルキレンオキサイド基の付加モル数を2〜30モルとする。
【0016】
さらに、第三の構成として該ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基とを有する有機化合物に不飽和結合を有する化合物を選択すると好ましい。
【0017】
さらに第四の構成として、特にアルコキシポリエチレングリコールマレイン酸エステルを主骨格として有する化合物を選択することが好ましい。
【0018】
そして、第五の構成として、極性を有する溶媒に対して金属粒子を分散させる性質を有し、ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物により構成される分散剤を使用することを提案する。上述の保護剤と同様の性質を有することが期待され、このような分散剤を使用することにより、極性溶媒に良好な分散性を呈する金属ナノ粒子を提供することができる。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、極性媒体に分散性を呈する金属ナノ粒子とその凝集体および、金属ナノ粒子を用いた分散体を提供できるようになる。こうして、大量生産に適した版を用いた印刷法が使用できるようになることから、効率的に金属ナノ粒子を用いた微細配線を有する電子部材を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明におけるナノ粒子分散体の製法を示す概略説明図である。
【図2】個々の粒子の構造を説明する概略図である。
【図3】保護剤Xにより既に被覆され被覆体αが形成された金属ナノ粒子の周囲を、保護剤Yにより形成される被覆体βにより更に被覆した様子を示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本発明者らは、所望の分散溶媒に応じて、良好な分散性を示すような金属ナノ粒子について検討した。その結果、本明細書に開示するように、金属ナノ粒子を特定の有機物で直接被覆、または金属ナノ粒子間に該有機物をいわば緩衝剤として添加することにより、良好な分散安定性を示すことを見出した。つまり、直接的に被覆する場合には、金属ナノ粒子の表面を該有機物にて被覆することで、金属ナノ粒子に分散性が付与される。一方、緩衝剤として使用する場合、他の有機物により既に被覆された金属ナノ粒子の周囲を、該有機物にて少なくとも一部を覆うように存在させれば、該有機物は金属ナノ粒子同士間の緩衝剤として働くことを見出した。
【0022】
このような金属ナノ粒子は、極性溶媒、とりわけグリコールエーテル系の溶媒に対して、好適な分散性を示す。また、分散剤として使用した場合には当初は凝集しやすいようなものでも、優れた分散性を示す分散体として使用することができるようになりうることを見出し、上述の知見より本願発明を完成させた。
【0023】
本願発明における粒子を得る方法について、図1に概略を示した。本明細書において、「金属ナノ粒子の凝集体」とは、金属ナノ粒子表面に存在する保護剤(以降、保護剤の役割を有する物質を「界面活性剤」と称することもある)を置換させた後に、分離・洗浄工程を経て、少なくとも2つ以上の金属ナノ粒子が凝集することにより得られるケーキ状の物質のことを言うとともに、「金属ナノ粒子」は透過型/走査型電子顕微鏡写真により観測される一次粒子における数平均粒子径が50nm未満の粒子のことをいう。
【0024】
図1についての詳細な説明は個別工程の説明の項に譲るが、概要としては下記の通りである。当初、保護剤としてXが被覆している金属ナノ粒子2が有機媒体Aに分散された分散液を準備する。これに、カルボキシル基およびポリアルキレンオキサイド基を併せ持つ有機化合物である保護剤Yの含まれた有機媒体Bを添加し攪拌する。(このとき、有機媒体Aよりも有機媒体Bの方が保護剤Xの溶解性に優れている)(図1(a))。そうすることで、有機媒体Bに金属ナノ粒子表面を被覆していた保護剤Xが溶解して剥離し、代わって周囲にあるカルボキシル基を有した保護剤Yが金属ナノ粒子表面を被覆するようになる(図1(b)、(c))こうして得られた金属ナノ粒子3(図1(e))は別種の有機分散媒Cにも分散するようになる(図1(f))。保護剤Yにより被覆された金属ナノ粒子3は、分離後有機媒体Bにより洗浄することで、表面に残存する保護剤Xをより除くことができる。
【0025】
〔金属ナノ粒子の合成〕
図1(a)に示すように、金属ナノ粒子分散液の原料となる金属化合物を還元処理することにより析出した金属ナノ粒子1の表面に、保護剤Xを付着させることにより、銀ナノ粒子1の表面が保護剤Xで覆われた金属ナノ粒子2を作製する。
【0026】
なお、本実施形態における金属ナノ粒子2(置換前の粒子であり、金属ナノ粒子3の作製という観点で言うと原料に相当する)は、粒度分布等の粒子性状が安定しており、かつ液状媒体中で凝集・沈降しにくい性質を有していることが重要である。そのような粒子は、特に銀については例えば本願出願人による特許第4284283号に記載の方法により得ることができる。
【0027】
特許第4284283号に開示した合成法、及び関連する内容に関連した事項についてその概要、およびその合成法に用いる化合物等について、簡単に説明する。ただし、金属種としては銀のみならず、金、銅、ニッケル、鉄、白金などにも適用可能であるといえるので、ここでの説明では、金属ナノ粒子として記述する。
【0028】
金属の供給源である金属化合物としては、前記溶媒に溶解し得るものであれば種々のものが適用でき、塩化物、硝酸塩、酢酸塩、炭酸塩などが挙げられるが、工業的観点から硝酸塩が好ましい。
【0029】
前記金属化合物を還元するための還元剤を兼ねた溶媒としては、アルコールまたはポリオールを使用する。これによって不純物の混入の少ない金属ナノ粒子2を得ることができる。
【0030】
前記アルコールとしては、具体的には、プロピルアルコール(1−プロピルアルコール)、n−ブタノール、イソブタノール、sec−ブチルアルコール、ヘキシルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、アリルアルコール、クロチルアルコール、シクロペンタノール等が使用できる。またポリオールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール等、またその組み合わせが使用できる。とりわけ、前記化合物の中でもイソブタノール、n−ブタノールが好適である。
【0031】
前記還元反応の温度は、50〜200℃の範囲内とすることが望ましい。また、前記還元反応に際しては還流操作を行うことが効率的である。このため、前記アルコールまたはポリオールの沸点は低い方が好ましく、具体的には80℃以上300℃以下、好ましくは80℃以上200℃以下、より好ましくは80℃以上150℃以下であるのがよい。
【0032】
なお、当該特許には記載していないが、還元反応を促進させるためには還元補助剤を添加しても構わない。還元補助剤としては公知のものを用いればよいが、ジエタノールアミン、トリエタノールアミンを用いるのが特に好ましい。
【0033】
ここで本実施形態においては、前記還元反応を進行させる際に、溶媒中に保護剤として機能する有機化合物を共存させておく。この有機化合物は、後に金属ナノ粒子2の保護剤Xを構成することになる。
【0034】
ここで、保護剤Xを構成する有機化合物は、金属ナノ粒子1表面との付着力が必要以上に高くないことが望まれる。すなわち本実施形態では、後の工程で混合する液状有機媒体Bに溶解でき、かつ金属ナノ粒子1表面から比較的容易に脱離できるような性質の保護剤Xを採用することが極めて有効である。また、保護剤Xには分子量が150〜1000のものを使用することが望ましく、200〜400のものがより好ましい。
【0035】
具体的には、この有機化合物としてはアミン類などが挙げられるが、具体的にはブチルアミン、アミルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン、ノニルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ドデシルアミン、オレイルアミン、イソプロピルアミン、イソペンチルアミン、2−メチルブチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、テトラメチル−1,3−ジアミノプロパン、ジエチルアミノプロピルアミン、モルフォリンが挙げられ、その中でも不飽和結合を持つものが適しており、特にオレイルアミンが好ましい。
【0036】
還元反応時に溶媒中に共存させる有機化合物(保護剤Xを構成させるもの)の量は、金属ナノ粒子が銀である場合には、銀に対して0.1〜20当量とすることができ、1.0〜15当量とすることがより好ましく、2.0〜10当量が一層好ましい。
【0037】
この金属ナノ粒子2の合成工程における、銀の場合には反応時の液中の銀イオン濃度は0.05モル/L以上、好ましくは0.05〜5.0モル/Lとすることができる。還元補助剤/金属のモル比については0.1〜20の範囲とすることができる。
【0038】
場合によっては、前記還元反応を多段に分け実施することもできる。例えば、一度に急激に還元が進行すると粒子の成長が急激に進みすぎる場合がある。粒子径の制御を効果的に行うためには、還元をまず低温で行い、その後、温度を高温に切り替えて、あるいは徐々に高めながら還元を進行させるとよい。このとき、温度の差が大きいと粒度分布に著しい変化が生じることが懸念されるので、最も低い温度と最も高い温度の差を20℃以内とすることが望ましい。好ましくは15℃以内、一層好ましくは10℃以内として厳密にコントロールすることが一層好ましい。
【0039】
以上のような金属ナノ粒子2の合成工程によって、保護剤X(本実施形態においてはオレイルアミン)に覆われた金属ナノ粒子2を得ることができる。すなわち、金属ナノ粒子1がオレイルアミンに覆われることにより、非極性および/または親油性溶媒への分散性に優れた金属ナノ粒子2を得ることができる。
【0040】
〔金属ナノ粒子分散液の作成〕
保護剤Xに覆われた金属ナノ粒子2は、例えば前記のような湿式プロセスでの還元反応で合成されたのち、固液分離および洗浄に供される。その後、図1(a)に示すように、得られた「金属ナノ粒子1/保護剤X複合体」を液状有機媒体Aと混合して分散液を作る。
【0041】
液状有機媒体Aとしては、保護剤Xに覆われた金属ナノ粒子(本実施形態では銀微粉)が良好に分散する物質が好まれ、例えば、炭化水素系が好適に使用できる。特に、イソオクタン、n−デカン、イソドデカン、イソヘキサン、n−ウンデカン、n−テトラデカン、ドデカン、n−ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ペンタデカン、ヘキサデカン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン等の脂肪族炭化水素や、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、ジエチルベンゼン、デカリン、テトラリン、シクロヘキシルベンゼン等の芳香族炭化水素等が使用できる。これらの物質を1種以上使用して液状有機媒体Aとすれば良い。なお、本実施形態においては、液状有機媒体Aとしてテトラデカンを用いて説明する。
【0042】
このようにして、不飽和結合を持つ分子量150〜1000の有機化合物、すなわち本実施形態においては置換される界面活性剤としてオレイルアミン(保護剤X)を付着させた金属ナノ粒子2を非極性および/または親油性の液状有機媒体A(テトラデカン)に分散させ、非極性および/または親油性溶媒分散液を作成する。
【0043】
こうして得られた分散液に対して、置換する界面活性剤(特にカルボキシル基を有し且つアルキレンオキサイド基を有する有機化合物:保護剤Y)の液を準備して、これを金属ナノ粒子2が液状有機媒体Aに分散された液に添加することで、保護剤Xと保護剤Yが置換され、グリコールエーテルのような極性または親水性、あるいは、その両方の性質を有する溶媒(図中の液状有機媒体C)に対して分散性を示すようになり、金属ナノ粒子1の粒子サイズを変化させることなく、優れた分散性を有する金属ナノ粒子分散体を得ることができるという知見を得た。
以上の点を踏まえて、保護剤Yにて保護剤Xを置換する工程について具体的に説明する。
【0044】
〔保護剤置換工程〕
図1(f)に示す金属ナノ粒子1表面を保護剤Yで被覆したものを得るための工程について、図2を用いて説明する。
本実施形態では、図2に示すように「金属ナノ粒子1/保護剤X複合体(金属ナノ粒子2)」の分散液(上述)と、保護剤Xを構成する有機化合物が溶解しやすい液状有機媒体Bとを混合して、保護剤Xを金属ナノ粒子1表面から脱離させる。その際、保護剤Yを構成する有機化合物が存在する状況下で脱離を進行させる。金属ナノ粒子2の近くに保護剤Yを構成する有機化合物が存在すると、保護剤Xが脱離した金属ナノ粒子1同士の凝集や焼結が生じる前に、金属ナノ粒子1表面を素早く保護剤Yで覆ったもの(金属ナノ粒子3)を得ることができる。その意味で、保護剤Yを構成する有機化合物は、金属ナノ粒子1表面との親和性が良好であることに加え、保護剤Xの方が保護剤Yよりも金属ナノ粒子1への親和性が弱いことが望まれる。このような構成にすることで、保護剤Xの保護剤Yへの置換が容易に進むようになる。
【0045】
液状有機媒体Bには、保護剤Xを構成する有機化合物の溶解性が液状有機媒体Yよりも高いものを使用するのがよい。そのような物質として、アルコール類を使用することが簡便かつ経済的である。オレイルアミンをはじめとする多くのアミン化合物は、一般に先に例示した液状有機媒体Aには溶解しにくいが、アルコール類には比較的良好な溶解性を示す。そのようなアルコール類として、比較的安価で入手しやすいメタノール、エタノール、イソプロパノール、イソブタノールなどが使用できる。2種以上の物質で液状有機媒体Bを構成しても良い。
【0046】
保護剤Yは、金属ナノ粒子1に付着するためのカルボキシル基を有する有機化合物であり、なお且つ、極性および/または親水性溶媒に分散させるためにポリアルキレンオキサイド基を有する化合物である。金属ナノ粒子を用いたインクやペーストの焼結温度を100〜200℃、好ましくは100〜150℃に低下できるよう、分子量が例えば1000以下のものから選ばれる。
【0047】
この様な化合物としては、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル酢酸(R−O−(RO)n−CHCOOH、R=アルキル基、アリール基、アリル基、シクロアルカン、複素環等を表し、炭素数1〜30、R=炭素数2〜4のアルキレン基、付加モル数n=3〜20)、および、アルコキシポリオキシエチレングリコールマレイン酸(n=3〜30、R=炭素数1〜50)が例示できる。加えて、アルコキシポリオキシエチレングリコールフマール酸、アルコキシポリオキシエチレングリコールイタコン酸が挙げられる。なかでも不飽和結合(二重結合)を有するマレイン酸のハーフエステルのアルキレンオキサイドでエチレンオキサイドにおいて付加モル数nが2〜30のものが好ましい。そのなかでも特に、アルキレン基の炭素数がC=2〜4、付加モル数nが5〜20のものが更に好ましい。
【0048】
ポリアルキレンオキサイド基の例として、エチレンオキサイド(C2)、プロピレンオキサイド(C3)、ブチレンオキサイド(C4)が挙げられる。ここで、形態としては、これらアルキレンオキサイド基が単独、混合形態を取ってもよい。さらにこれらの結合態様がランダム結合、ブロック結合、グラフト結合のいずれの結合態様をとっても良い。
【0049】
エチレンオキサイドの付加モル数2未満では、極性溶剤に対する分散性が劣り、且つ、導電性金属配線を焼結させる際の焼結性が劣るようになる。
一方、金属インクやペーストが導電性配線を形成した後に150〜500℃の範囲で、最適な温度で加熱焼成されるが、溶媒Cもしくは保護剤Yが乾燥、蒸散する際に膜中に残存してしまうと、膜中に残存する不純物元素となり、電気抵抗値が上昇してしまう。したがって、有機層である保護剤Yは加熱焼成時には揮散する必要があるが、エチレンオキサイド基が30モルを越えると、分子量が大きくなりすぎるためエチレンオキサイド基が加熱焼成で揮散されず電気抵抗値を上昇させてしまうことになるので好ましくない。
【0050】
特に、セラミック/樹脂フィルム、セラミック/金属、金属/金属の接合において端部以外の中心部近傍では、焼成雰囲気から供給される酸素の量が極端に少なく、所謂“蒸し焼き”状態になるため、金属インキやペーストの焼成膜中に有機物の残渣が発生する。エチレンオキサイド基を有することにより自らによる酸素補給が可能となり、酸化分解によって保護剤Yの残渣を確実に除去することができるようになる。前記保護剤Yは、カルボキシル基およびポリアルキレンオキサイド基以外にも、エーテル基およびエステル基のうちの少なくとも一つを有するのが好ましい。こうすることで分散体において、極性および/または親水性をさらに高めることができ、分散状態の経時安定性がさらに高められると考えている。発明者らの知見では特にグリコールエーテルを使用すると、その傾向が顕著である。
【0051】
保護剤Yとしては、特に硫黄は絶縁性の金属化合物を作るので、電子部品関係の用途においては、硫黄元素を含む有機化合物を使用しないことが望ましい。更に、界面活性剤として広く用いられる、ナトリウム塩、カリウム塩は微細配線用途ではイオン成分によるマイグレーションが発生する結果、断線を引き起こすため、当該用途では使用しないことが望ましい。
【0052】
金属ナノ粒子1表面からの脱離が容易である保護剤Xを使用したときには、保護剤Yを構成する有機化合物として金属表面との親和性(吸着性)を特段に高めた官能基、例えば硫黄を含む官能基(例えばチオール基)を持つ有機化合物を使用しなくても、保護剤Yで金属ナノ粒子1表面を被覆することが可能になる。具体的には、保護剤Yを構成する有機化合物として、カルボキシル基を有する有機化合物を使用すれば、金属ナノ粒子1の表面への被覆が十分可能である。
【0053】
また保護剤Yにより、インクやペーストの焼結温度を低下させることができる。その理由として、上記保護剤Yを被覆した金属ナノ粒子3によって、金属濃度60質量%以上の分散液を構築することができる。保護剤Yを構成する有機化合物としては、100〜500℃の温度で脱離もしくは蒸散が生じ、金属ナノ粒子が焼結を生じることが出来る物質とすることが好ましい。こうした有機物とすることで、金属分散液をガラス基板上にスピンコート法などによって塗布し、膜厚15ミクロン以下の塗膜を大気中で焼成し、低抵抗な導電膜を形成することが出来る。焼結が生じたかどうかは、焼成体の電気抵抗を測定することによって判断できる。すなわち、焼結が起こった焼成体は、焼結が起こっていない焼成体と比べ、電気抵抗が著しく低下する。なお、部分的にしか焼結が起こっておらず電気抵抗が十分に低下していない状態は、ここでは「焼結が起こる」とはみなさない。
【0054】
このような保護剤Yで被覆された金属ナノ粒子2を得る為には金属ナノ粒子1を例にして述べると、下記(i)〜(iii)のものを混合する。
(i)「金属ナノ粒子1/保護剤X複合体」が液状有機媒体Aに分散した分散液
(ii) 保護剤Yとして金属ナノ粒子1を被覆するための有機化合物
(iii)液状有機媒体Aよりも保護剤Xの溶解性が高い液状有機媒体B
その際、(ii)の有機化合物存在下で(i)と(iii)の液を混合することが肝要である。換言すれば、(i)と(iii)の液を混合して金属ナノ粒子2から保護剤Xの脱離が進行してしまった後に(ii)の有機化合物を添加しても、保護剤Yによって個々の金属ナノ粒子1を被覆することは難しい。つまり、金属ナノ粒子2から保護剤Xの脱離が生じるときに、その粒子の近傍には保護剤Yを構成させるための有機化合物が存在していることが重要である。その結果、液状有機媒体B中への被置換剤Xの溶解と、金属ナノ粒子1表面への置換剤Yの付着とを、同時に進行させるのがより好ましい。
【0055】
前記(i)〜(iii)を混合する方法として、例えば以下の混合方法1〜3が採用できる。
〔混合方法1〕
(i)の分散液に、(ii)の有機化合物と(iii)の液状有機媒体Bを同時に添加していく方法。
〔混合方法2〕
(i)の分散液と(ii)の有機化合物を予め混合しておき、その混合液と(iii)の液状有機媒体Bを混合する方法。
〔混合方法3〕
(iii)の液状有機媒体Bと(ii)の有機化合物を予め混合しておき、その混合液と(i)の液を混合する方法。
【0056】
いずれの混合方法も常温から50℃の範囲で実施することができる。液の撹拌は特別に強撹拌とする必要はない。液状有機媒体Bの使用量は「金属ナノ粒子1/保護剤X複合体」の保護剤Xが全量溶解するに足る量とすることが好ましい。また、保護剤Yを構成する有機化合物の使用量は、金属ナノ粒子1を完全に被覆することができる量、すなわち金属ナノ粒子1の金属表面同士が混合時に常温で焼結しない量を確保する。
【0057】
前記(i)〜(iii)を混合すると、図1(c)に示すように、保護剤Xで被覆されていた金属微粉は、保護剤Yにて置換処理される。その結果、保護剤Yで被覆された金属ナノ粒子3が生成する。
【0058】
〔固液分離・洗浄〕
保護剤置換工程により作製された保護剤Yで被覆された金属ナノ粒子3は通常、液状有機媒体Bの液中に沈降する(図1(d))。遠心分離や沈降によりこの液を固液分離した後、保護剤Yで被覆された金属ナノ粒子3を、液状有機媒体Bから抽出する(図1(e))。その後、メタノールやイソプロパノールを用いて金属ナノ粒子3を洗浄する。なお、この固液分離および洗浄の組み合わせは、複数回行ってもよい。
【0059】
本実施形態においては、この固液分離・洗浄工程を行うことにより、液状有機媒体Bに溶解された保護剤Xおよび置換に用いられず、余剰の残存した保護剤Yを、金属ナノ粒子3から取り除く。
【0060】
このように液状有機媒体Bから金属ナノ粒子3のみを抽出することにより、この抽出工程後に新たに用意する金属ナノ粒子分散体用溶媒Cに前記金属ナノ粒子3を分散させる際に、溶解された保護剤Xからなる異物の混入を防ぐことができる。その結果、金属ナノ粒子の品質を向上することができる。
【0061】
〔金属分散液の調整〕
図1(f)に示すように、本実施形態においては、このように抽出された金属ナノ粒子3に、金属ナノ粒子分散体用溶媒Cとなるグリコールエーテル、すなわち極性および/または親水性溶媒を加え分散させる。
【0062】
先に述べた工程を踏まえて言い換えると、保護剤Yより銀ナノ粒子1への親和性が弱い保護剤Xを金属ナノ粒子1表面に付着させて金属ナノ粒子2を作製し、前記金属ナノ粒子の保護剤Xを溶解すると同時に、金属ナノ粒子表面に保護剤Yを付着させて金属ナノ粒子3を作製し、その金属ナノ粒子3をグリコールエーテルに対して分散させる。
【0063】
この場合、金属ナノ粒子3と極性溶媒としてグリコールエーテルとを混合してその混合液を攪拌後に静置することで、沈降が生じない分散状態が少なくとも一ヶ月間維持される程度の分散性を有するようになる。このような粒子は分散体としての寿命が長いため、使用する場合に長期間にわたって使用可能となり、取り扱う上で非常に好都合となる。
【0064】
前記グリコールエーテルとしては、エチレン系としてエチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル(エチルセルソルブ)、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルセルソルブ)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ−2−エチルヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノー2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテルといったものが挙げられる。
【0065】
また、プロピレン系として、プロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレンリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルが挙げられる。
【0066】
さらに、ジアルキル系として、エチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールが挙げられる。
【0067】
グリコールエステル系として、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(BCA)、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートなどが挙げられるが、上記のグリコールエーテルは単独、あるいは複数種の組み合わせが使用される。特に金属ナノ粒子分散体を基板に印刷する工程での蒸発、乾燥速度のバランスが良いことから、より好ましいのはジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートである。
【0068】
なお、本実施形態では、金属ナノ粒子分散体用溶媒Cとしてグリコールエーテルを用いた場合について説明しているが、それ以外のケトン、ポリオール、アルコール、ポリオール、水などの極性および/または親水性溶媒を用いることもできる。
【0069】
前記ケトンとしては、メチルイソブチルケトン、アセチルアセトン、ジ−n−プロピルケトン、メチル−n−アミルケトン、エチル−n−ブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルシクロヘキサノン、ジイソブチルケトン、ジアセトンアルコール、アセトフェノン、イソホロン、テキサノールおよびそれらの組み合わせが挙げられる。
【0070】
前記ポリオールとして、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールおよびその組み合わせが挙げられる。
【0071】
前記アルコールとしては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール(IPA)、n−ブタノール、イソブタノール、t−ブタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、1−オクタノール、2−オクタノール、1−デカノール、ドデカノール、ベンジルアルコール、テルピネオールおよびその組み合わせが挙げられる。
【0072】
一方、本実施形態は種々の設計上の調整が可能であり、例えば本実施形態とは逆に、極性および/または親水性溶媒に良好な分散性を有する金属ナノ粒子を、非極性および/または親油性溶媒に良好な分散性を有する金属ナノ粒子へと性質を変化させる場合にも適用できる。
【0073】
このように、金属ナノ粒子1の表面に保護剤Yが付着された金属ナノ粒子3を、グリコールエーテルといった極性溶媒である金属ナノ粒子分散体用溶媒Cに分散させ、極性および/または親水性溶媒分散液を作製することができる。
【0074】
本発明により得られる粒子は極性溶媒に対する分散性を呈するため、場合によっては極性溶媒に加えることのできる分散剤を分散体に別途追加しても構わない。具体的には水溶性樹脂、とりわけ水溶性多糖類を添加することもできる。特に水溶性多糖類としては、水溶性ヘミセルロース、アラビアガム、トラガントガム、カラギーナン、キサンタンガム、グワーガム、タラガム、布海苔、寒天、ファーセレラン、タマリンド種子多糖、カラヤガム、トロロアオイ、ペクチン、プルラン、ジェランガム、ローカストビーンガム、各種澱粉等、カルボキシメチルセルロース(CMC)、メチルセルロース(MC)、エチルセルロース(EC)、ヒドロキシメチルセルロース(HMC)、ヒドロキシエチルセルロース(HEC)、ヒドロキシプロピルセルロース(HPC)、ヒドロキシエチルメチルセルロース(HEMC)、ヒドロキシエチルエチルセルロース(HEEC)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、ヒドロキシプロピルエチルセルロース(HPEC)、ヒドロキシエチルヒドロキシプロピルセルロース(HEHPC)、スルホエチルセルロース、ジヒドロキシプロピルセルロース(DHPC)、アルギン酸プロピレングリコールエステル、及び可溶性澱粉に代表される加工澱粉等を添加することができる。
【0075】
水溶性多糖類の添加量は、金属成分に対して10質量%未満、好ましくは5質量%未満、一層好ましくは3質量%未満であるのがよい。10質量%以上の水溶性樹脂の添加は、金属ナノ粒子の粒子間焼結を阻害し、さらには粒子と粒子の隙間に入り込み、その存在部分における抵抗が増大するため、導電性皮膜として十分にその性能が発揮できなくなるため好ましくない。
【0076】
本発明で得られる金属ナノ粒子に対し、基板との密着性を向上させるためカップリング剤を添加しても良い。具体的にはシランカップリング剤として、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(β−メトキシエトキシ)シラン、β−(3,4−エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、γ−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ−メタクロキシプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノプロピルトリメトキシシラン、N−β−(アミノエチル)−γ−アミノメチルジメトキシシラン、γ−アミノプロピルトリエトキシシラン、γ−クロロプロピルトリメトキシシラン、γ−メルカプトプロピルトリメトキシシランといったものが例示できる。また、焼結性を阻害しない範囲で、公知のポリマーなど、例えばエポキシ樹脂、ウレタン樹脂、アクリル樹脂、フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、フェノキシ樹脂、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、ポリエーテルウレタン変性物、ポリエーテル系樹脂等を添加することも妨げない。
【0077】
なお、別の実施形態として、上述の保護剤Yを別の保護剤により被覆された金属ナノ粒子の添加された液に添加し、金属ナノ粒子の分散剤として使用することが出来る。
【0078】
具体的には、オレイルアミンあるいはヘキシルアミンなどにより被覆された金属ナノ粒子分散液(図1(a))に液状有機媒体Bの単独からなる媒体を添加し、金属ナノ粒子2を凝集、沈降させる。上澄みの有機媒体Aもしくは有機媒体A及び有機媒体Bからなる混合媒体を取り除き、この操作を数回繰り返して上澄みを取り除いた金属ナノ粒子2に上述の極性溶剤と保護剤Yとを予め混合しておき、この混合液を金属ナノ粒子2の凝集体に添加して、分散液としても良い。あるいは、このような分散液の形態ではなく、凝集体そのものを上述の極性溶媒と保護剤Yとを予め混合した液中に添加して、分散液を形成してもよい。この場合、減圧操作等により有機媒体Bを出来るだけ取り除くと、分散液の安定性が長期間保持可能となる。
【0079】
この分散剤が機能を発揮するメカニズムとしては、未だ不確かなところが多いが、以下のように作用しているのではないかと推測している。
【0080】
すなわち図3に示すように、既に保護剤Xにより被覆された金属ナノ粒子は、分散剤として保護剤Yを利用することにより、保護剤X(オレイルアミンあるいはヘキシルアミンなど)により既に被覆され被覆体αが形成された金属ナノ粒子1の周囲は、保護剤Yにより形成される被覆体βにより更に被覆されることになる。これにより、保護剤Yは、分散剤として機能すると同時に、金属ナノ粒子同士間の緩衝剤として働き、分散性を更に向上させる。
【0081】
また、上述の保護剤Yで置換された金属ナノ粒子3を用いて極性溶媒への分散性を向上させた上で、更に、上述の分散剤として保護剤Yを使用することも出来る。このような形態とすることで、粒子を直接被覆する被覆体α、分散剤として作用する被覆体βをともに同じ有機物で形成させることができ、被覆体αの影響で向上した分散性を被覆体βで更に高めることが出来るようになるので好ましい。
【0082】
このような保護剤Yによる二重の覆いによって、化学的に分散性を向上させるのみならず、金属ナノ粒子同士が物理的に接近する機会をも減少させることができることから、ひいては極性溶媒への金属ナノ粒子の分散性向上に寄与する。
【0083】
また、極性溶媒に対する分散剤として保護剤Yを利用する例として、保護剤Xで被覆された金属ナノ粒子を挙げたが、先にも述べたように既に保護剤Yで被覆された金属ナノ粒子を用いてもよいし、上述の保護剤X以外の物質で被覆されていてもよく、公知の界面活性剤にて被覆された金属ナノ粒子を用いてもよい。
【0084】
また、分散剤として保護剤Yを利用する混合のタイミングとしては、上述のように極性溶媒との混合の際に加えてもよいし、金属ナノ粒子2が形成された後ならば、金属ナノ粒子2を含む有機溶媒に対して、予め保護剤Yを分散剤として加えていてもよい。また、保護剤Yを加える前に予め撹拌を行って分散性を上げておき、加えて保護剤Yを分散剤として加えてもよい。また、極性溶媒と金属ナノ粒子2を混合させた上で、他の分散剤等の添加物を加える場合、最終的に良好な分散性を有する分散液を得るために、最後に保護剤Yを分散剤として加えてもよい。
【実施例】
【0085】
本実施例では特に、金属種として銀を選択した場合を説明する。
(実施例1)
〔銀ナノ粒子合成工程〕
オレイルアミン(保護剤X,和光純薬工業株式会社製試薬)6009.2g、2−オクタノール(東京化成工業株式会社製試薬)2270.3g、硝酸銀結晶(関東化学株式会社製特級試薬)1495.6gを用意した。2−オクタノールと、オレイルアミンと、硝酸銀結晶を混合して、硝酸銀が完全に溶解した液を作成した。配合は以下のとおりである。ここで、銀に対するオレイルアミンはモル比で2.5、銀に対する2−オクタノールはモル比で2.0、オレイルアミンに対する2−オクタノールはモル比で0.8である。
【0086】
上記の配合液を混合し、還流器の付いた容器に移してオイルバスに載せ、プロペラにより撹拌しながら120℃まで昇温速度1.0℃/minで昇温させた。次いで140℃まで昇温速度0.5℃/minで昇温した。その後、上記撹拌状態を維持しながら、140℃で1時間保持した。その際、容器の気相部に窒素ガスを500mL/minの流量で供給してパージした。その後、加熱を止め、冷却した。反応後のスラリーを3日間以上静置した後、上澄みを除去した。その際、還元された銀が全スラリーに対して20質量%となるように上澄みの除去量を調整した。
【0087】
上澄み除去後のスラリーにイソプロパノールを、スラリー中の銀:イソプロパノール=1:30のモル比にて混合し攪拌洗浄した。このとき、攪拌回転数は400rpm、攪拌時間は60minとした。その後、遠心分離により銀粒子を含む固形分を回収した。このようにして洗浄された固形分中には、保護剤X(オレイルアミン)に被覆された金属(銀)ナノ粒子2が存在している。透過型電子顕微鏡(TEM)による写真により、500個の粒子の粒子径を計測し、その粒子径の数平均粒子径を求めたところ、数平均粒子径は8.7nmであった。
【0088】
また、上記のうち洗浄前スラリーをTG(熱重量測定)法により加熱して金属(銀)成分の存在量を算出したところ、金属成分として20%が存在していることがわかった。これは、スラリー100g中に金属銀が20g存在していることを示し、これは0.19モルに相当する。
【0089】
続いて保護剤Xを保護剤Y(アルキレンオキサイド化合物)に置換する。保護剤Yとして、ポリオキシエチレンアルキルエーテルマレイン酸とラウリルアルコールとのエステルである、Antox(登録商標)LMH−20:日本乳化剤株式会社製、そして液状有機媒体Bとしてイソプロパノール(和光純薬株式会社製特級試薬、分子量60.1)を、前記銀粒子に加えられる保護剤置換用溶液として用意した。
【0090】
前記マレイン酸エステルのポリエチレンオキサイド付加物とイソプロパノールとを、マレイン酸エステル:イソプロパノール=0.014:1のモル比にて混合して、液温を40℃に保った。この液中へ、保護剤X(オレイルアミン)に被覆された金属(銀)ナノ粒子2を添加し、プロペラにて撹拌した。この撹拌状態を維持しながら40℃で5時間保持した。この場合、銀に対する保護剤Y(マレイン酸エステル)の量は0.1当量となるように、仕込量を調整した。この操作により、保護剤Y(マレイン酸エステル)により被覆された金属ナノ粒子3を得た。
【0091】
〔固液分離・洗浄〕
得られたスラリーを3000rpmで5分間の遠心分離により固液分離した。その後、前記固体成分:メタノール=1:30のモル比にて、前記固体成分を攪拌洗浄した。このとき、攪拌回転数は400rpm、攪拌時間は30分とした。
【0092】
本実施例においては、この固液分離・沈降工程をさらにもう一度行い、その後固液分離を行い、固体成分を回収することにより金属(銀)ナノ粒子3を抽出した。
なお、本実施例における金属(銀)ナノ粒子3に対して、保護剤による置換の有無の確認をGC−MS(ガスクロマトグラフ質量分析計)による有機分析にて行ったところ、オレイルアミンに起因するピークは確認されなかったことからオレイルアミンは、ほぼ全てマレイン酸エステルに置換されていると判断できた。
【0093】
さらに置換時における粒子に対する影響を確認するため、XRD(X線回折法)により(111)回折面における結晶粒子の成長度合を確認するとともに、TEM像から一次粒子径の成長の有無を確認したが、いずれも極端な変化(結晶子径の増加や一次粒子径の増大)は確認されなかった。
【0094】
〔金属ナノ粒子分散液の調整〕
前記固液分離・沈降により金属ナノ粒子3を得た後、金属ナノ粒子分散体用溶媒Cであるジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート10gに対して、前記銀ナノ粒子3を0.3g加えた後、40℃を維持しつつ超音波分散を5分間行った。
【0095】
〔分散安定性の評価〕
その後、得られた分散体を常温で一ヶ月間静置させ、液の状態を確認することで沈殿物の有無を確認したところ、沈殿等は確認されず、粒子は分散性を維持したままであることが確認された。
【0096】
〔導電性の評価〕
液中における金属(銀)ナノ粒子を濃度が60%となるよう、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートを添加して調整した。その後、自転公転式脱泡機(株式会社シンキー製のARV−3000TWIN)を使用して、4分間処理したところ、得られた分散液の粘度は850dPa・sであった。
【0097】
得られた分散体を、グラビアオフセット印刷機(株式会社紅羊社製作所製、エクター印刷機ブラーフG1型)を用いて印刷しパターンを形成させた。用いたブランケットはメチルビニル系シリコーンゴム(藤倉ゴム工業株式会社製)を用い、印刷版に石英ガラス製版を使用し、描画は耐熱性セラミック基板を用いて行った。得られた配線パターンは400℃にて焼成することで金属配線を形成させた。
【0098】
得られた印刷後の細線の幅は“印刷にじみ”が無く印刷版のライン幅を再現していた。さらに、銀膜の導電性を抵抗率計(三菱化学アナリテック株式会社製ロレスタGP)4端子4探針法で測定したところ、比抵抗2.3×10−6Ω・cmと低い抵抗値を示した。また、膜厚は表面粗度計(株式会社東京精密製サーフコム1500D)を用いて測定したところ3.5μmであった。
【0099】
〔接合の評価〕
本分散体は物質間接合にも使用できることを下記の方法を用いて確認した。すなわち、接合面に前記分散体をディスペンサー塗布法により被接合体である銅板に均等な厚さに印刷する。次いで対向する接合体にシリコン−チタン−ニッケルが順に積層され、最表層が銀でめっきされたチップをマウントして、接合面に対して垂直に10Nで加圧しながら、400℃で30分加熱した。
【0100】
上記の接合方法によれば、銀ナノ粒子3を構成する保護剤Yの有機化合物に含まれる炭素およびエチレンオキサイド基に含まれる酸素によって、半導体素子裏面の銀からなる金属層の最表面と第一の金属からなる銅金属板の最表面が酸化還元され、銀ナノ粒子の焼結によって互いに結合する。その結果、チップと銅金属基板が銀の接合された接合体が完成する。この接合強度の評価は、JISZ−03918−5:2003の「鉛フリーはんだ試験方法 第5部はんだ継ぎ手の引張およびせん断試験方法」に記載のある方法に準じて行った。すなわち、ダイボンディングされた被接合体を水平方向に押し、押される力に耐えかねて接合面が破断するときの力を算出する方法で算出している。この結果、接合の際に従来使用されていた鉛はんだとほぼ同等な接合強度が得られることがわかった。
【0101】
該接合体は一旦接合が形成されると、その形成された温度ではもはや剥離せず、金属の融点近傍まではその形態を維持することができる。ここで例示した銀の場合には、銀のバルク状態での融点961℃近傍までは維持されるため、実に、当初形成時に加えた温度の2倍程度の加熱に対しても接合状態を維持できるようになる。
【0102】
(実施例2〜3)
保護剤Yの官能基を変更して実施例1を繰り返した。得られた結果について評価した結果を表1にあわせて示す。なお、分散安定性は少なくとも一ヶ月程度分散を維持したものを○、一週間以上分散を維持していたものを△とし、一週間も経たずに沈降してしまったものを×と表現している。
【0103】
【表1】

【0104】
(実施例4)
実施例1における保護剤Xで保護層を形成した洗浄後の金属(銀)ナノ粒子2を用い、分散剤としてポリオキシエチレンラウリルエーテル酢酸(ビューライトLCA−H、エチレンオキサイド付加モル数3〜5、三洋化成工業株式会社製)をテルピネオール2.0gに対して1.6gを添加し溶解させた。
【0105】
次いで、前記銀ナノ粒子2を10g添加して40℃を維持しながら超音波分散を5分間行なった。分散体を常温で保存して観察したところ一週間までは沈降物はなかったが、二週間目で底部に僅かながら沈降物が認められた。
【0106】
分散体の粘度を730dPa・sに調製した後、グラビアオフセット印刷法により50μm幅のラインで硝子基板に印刷した。焼成は200℃で行い印刷細線には“印刷にじみ“は無く印刷版のライン幅を再現していた。導電性をデジタルマルチメーター(ハイテスター:日置電機株式会社製)で測定したところ、比抵抗値は6.5×10−6Ω・cmと低い抵抗値を示した。
【0107】
(実施例5)
実施例4において、分散剤にオクチルポリオキシエチレングリコールマレイン酸を用いた以外は実施例4を繰り返した。同様に分散安定性を観察したところ、3週間目で僅かな沈降が認められた。また、50μmの170℃焼成細線の比抵抗値は8.2×10−6Ω・cmと低い抵抗値を示した。
【0108】
(比較例)
比較例では、実施例1において保護剤Yにオレイルアルコールとエチレンオキサイドの8モルを縮合させたC1835−O−(CH−CH−O)−Hを用いて、分散体を形成させた。置換後の分散体は分散性が初期の段階から凝集が著しく、超音波分散を施しても1週間が経過した状態では銀ナノ粒子が底部に沈殿したため、分散体としては使用できなかった。
なお、比較例2と3についても表1に示すように実施したが、実施例に比べると、いずれも良好な結果は得られなかった。
【0109】
以上のことから、その骨格内にエチレンオキサイドを有するものは分散性に優れ、特にアルキレンオキサイドを有するものは分散性に優れることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明に従う分散体は、「プリンテッド・エレクトロニクス」へ好適に使用でき、現在検討が進められている、印刷CPU、印刷照明、印刷タグ、オール印刷ディスプレイ、センサ、プリント配線板、有機太陽電池、電子ブック、ナノインプリントLED、液晶・PDPパネル、印刷メモリといったものに使用することができる。
【0111】
また、接合に関しては、非絶縁型半導体装置、ベアチップ実装組み立て技術への応用、パワーデバイス(整流ダイオード、パワートランジスタ、パワーMOSFET、絶縁ゲートバイポーラトランジスタ、サイリスタ、ゲートターンオフサイリス、トライアック)への応用も可能である。
【符号の説明】
【0112】
A 分散液(非極性媒体)
B 保護剤Xの溶解性がAよりも高い溶媒
C 分散液(極性媒体)
X 合成当初付着の界面活性剤
Y 置換後の界面活性剤
1 界面活性剤の付着のない金属ナノ粒子
2 合成当初の金属ナノ粒子(界面活性剤Xと金属ナノ粒子1からなる)
3 置換後の金属ナノ粒子(界面活性剤Yと金属ナノ粒子1からなる)


【特許請求の範囲】
【請求項1】
極性を有する溶媒に対して分散する性質を有し、ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物により構成される保護剤が表面に被覆された、金属ナノ粒子。
【請求項2】
ポリアルキレンオキサイド基におけるアルキレン部における炭素数が2〜4であり、ポリアルキレンオキサイドの付加モル数が2〜30である、請求項1に記載の金属ナノ粒子。
【請求項3】
ポリアルキレンオキサイド基を有する有機化合物には少なくとも一つの不飽和結合が存在する、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子。
【請求項4】
ポリアルキレンオキサイド基を有する有機化合物はアルコキシポリオキシエチレングリコールマレイン酸エステルを主骨格として有する、請求項1ないし3のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項5】
金属ナノ粒子を構成する金属は金、銀、銅、ニッケルのいずれかである、請求項1ないし4のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項6】
金属粒子の一次粒子における数平均粒子径は50nm未満である、請求項1ないし5のいずれかに記載の金属ナノ粒子。
【請求項7】
請求項1ないし6のいずれかに記載の金属ナノ粒子のうち少なくとも2つ以上の粒子が凝集して存在している凝集体。
【請求項8】
請求項1ないし6のいずれかに記載の金属ナノ粒子が極性溶媒に分散している金属ナノ粒子分散体。
【請求項9】
極性溶媒がジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートである、請求項8に記載の金属ナノ粒子分散体。
【請求項10】
請求項8または9に記載の金属ナノ粒子分散体が印刷法を用いて描画されることにより、形成された導電性回路。
【請求項11】
請求項8または9に記載の金属ナノ粒子分散体を加熱することにより金属化され、接合されている接合体。
【請求項12】
極性を有する溶媒に対して金属粒子を分散させる性質を有し、ポリアルキレンオキサイド基とカルボキシル基を有する有機化合物により構成される、分散剤 。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−68988(P2011−68988A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−192972(P2010−192972)
【出願日】平成22年8月30日(2010.8.30)
【出願人】(506334182)DOWAエレクトロニクス株式会社 (336)
【Fターム(参考)】