説明

金属ナノ粒子の分析方法

【課題】液相法により得られた金属ナノ粒子を、付着した保護配位子を除去し、かつ酸化させないようにして分析する方法を提供することを目的とする。
【解決手段】保護配位子が付着した卑金属を含む金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液にアルコールを加えて金属ナノ粒子を沈殿させること、および得られた沈殿物を分散媒に再分散させることを含む精製工程を嫌酸素雰囲気下で2回以上行い、得られた精製コロイド溶液から分析用サンプルを嫌酸素雰囲気下で調製する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相法により調製した金属ナノ粒子の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子はバルクサイズの金属粒子にはない特性を有しており、その製造方法ならびに導電材料、触媒材料、磁性材料、非線形光学材料、着色材料などへの応用に関する研究が広く行われている。
【0003】
例えば特許文献1には、白金族金属または白金族金属の合金を含む金属コアと有機二重コーティングとを有するナノ粒子の触媒としての利用に関する発明が開示されており、そのようなナノ粒子は燃料電池用電極触媒として優れた性質を有することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、固体骨格部と細孔とを有する多孔体に金属ナノ粒子が担持されたナノ粒子含有複合多孔体に関する発明が開示されており、そのようなナノ粒子含有複合多孔体は触媒や電極として好適に用いることができる旨が記載されている。
【0005】
特許文献3には、チオール化合物の存在下、2種の金属塩を高温でポリオール還元することにより得られる異方的に相分離した二元金属ナノ粒子の製造方法に関する発明が開示されている。
【0006】
金属ナノ粒子は、例えば気相中に高温で蒸発させた金属の蒸気を供給し、ガス分子との衝突により急冷させて微粒子を形成する気相法、保護配位子の存在下で金属塩などの金属前駆体の溶液を調製し、これに還元剤を添加して金属イオンを金属に還元する液相法などにより合成することができる。中でも液相法は金属ナノ粒子を比較的安価に大量に合成できるという長所を有する。液相法において金属ナノ粒子はコロイド溶液として得られるが、そのコロイド溶液中の金属ナノ粒子は金属ナノ粒子が凝集してしまうのを防ぐ働きをする保護配位子が付着したものである。
【0007】
一方、金属ナノ粒子の研究においては、調製したナノ粒子の性質を分析することは非常に重要である。金属ナノ粒子の分析方法としては、例えばX線回折法(XRD:X-ray diffraction)やX線光電子分光法(XPS:X-ray Photoelectron Spectroscopy)が挙げられる。これらの分析法によれば、例えば得られた金属ナノ粒子がどの程度酸化されているかなどを知ることができる。上述のような液相法で得られた金属ナノ粒子をX線回折法やX線光電子分光法により分析する場合には、通常分析サンプルは金属ナノ粒子のコロイド溶液を大気中で蒸発乾固させることによって調製する。しかしながら、液相法で得られた金属ナノ粒子には保護配位子が付着しているため、そのようなサンプルを分析してもシグナルがノイズに隠れてしまい解読可能なスペクトルを得ることは難しい。従って、分析サンプルから保護配位子やその他の不純物などを除去することが必要となる。
【0008】
金属ナノ粒子から保護配位子を除去することは、例えば金属ナノ粒子を触媒として用いる際には触媒性能の向上につながるため、これまでも様々な方法が試みられてきた。保護配位子を除去する方法としては、例えば金属ナノ粒子のコロイド溶液にエタノールを加える方法が知られている。しかし、大気中で保護配位子を除去しようとすると、大気中の酸素によって金属ナノ粒子が酸化してしまい、そのようにして得られた金属ナノ粒子を分析しても正しい分析結果は得られない。また特許文献2には、金属ナノ粒子上の保護配位子(有機凝集体)の除去は熱分解反応などを利用して行うことができることが記載されているが、この熱分解による除去方法では分解物が金属ナノ粒子表面に残留してしまい、やはり正しい結果は得られない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特表2007−503302号公報
【特許文献2】WO2004/110930
【特許文献3】特開2005−240099号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、液相法により得られた金属ナノ粒子を、付着した保護配位子を除去し、かつ酸化させないようにして分析する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは上述したような問題を検討した結果、新規な金属ナノ粒子の分析法を見出した。本発明の要旨は以下のとおりである。
(1)保護配位子が付着した卑金属を含む金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液に含まれる金属ナノ粒子の分析方法であって、前記コロイド溶液は嫌酸素雰囲気下で調製されたものであり、前記コロイド溶液にアルコールを加えて金属ナノ粒子を沈殿させること、および得られた沈殿物を分散媒に再分散させることを含む精製工程を嫌酸素雰囲気下で2回以上行い、得られた精製コロイド溶液から分析用サンプルを嫌酸素雰囲気下で調製することを含む、前記方法。
(2)アルコールおよび再分散に用いる分散媒が、不活性ガスをバブリングさせた後に凍結脱気させることにより溶存酸素が除去されているものである、(1)に記載の方法。
(3)嫌酸素雰囲気が酸素濃度1%以下の雰囲気である、(1)または(2)に記載の方法。
(4)アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。
(5)再分散に用いる分散媒が、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トリメチルペンタン、オクタン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルムおよび四塩化炭素からなる群から選択される少なくとも1種である、(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。
(6)分析がX線光電子分光分析であり、分析用サンプルの調製を不活性ガス雰囲気下でコロイド溶液を蒸発乾固させることにより行う、(1)〜(5)のいずれかに記載の方法。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金属ナノ粒子の分析方法によれば、金属ナノ粒子に付着した保護配位子の除去を金属ナノ粒子のコロイド溶液の状態を維持して行うため、保護配位子の除去を効率よく行うことができる。また、金属ナノ粒子は調製から分析まで常に嫌酸素雰囲気下におかれるため、大気中などの酸素により酸化されることがなく、正しい分析結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】実施例1のコバルトナノ粒子の調製法の概要を示した図である。
【図2】実施例1ならびに比較例1および2で得られたサンプルを用いてX線光電子分光分析(XPS)を行って得られたスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明は、保護配位子が付着した卑金属を含む金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液に含まれる金属ナノ粒子の分析方法に関する。
本明細書において金属ナノ粒子とは、1〜100ナノメートル程度の粒径を有する金属微粒子をいう。金属ナノ粒子はバルクの金属とは異なった性質を有しており、また比表面積が大きいため、例えば燃料電池用電極触媒の材料として用いられる。
【0015】
本発明が分析対象とする金属ナノ粒子は、卑金属を含む金属ナノ粒子である。本明細書において卑金属とは貴金属(金 、銀 、白金、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムおよびオスミウム)以外の金属を意味する。また卑金属を含む金属ナノ粒子は、2種以上の卑金属を含んでいてもよく、あるいは1種以上の卑金属に加えて1種以上の貴金属を含んでいてもよい。
【0016】
金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液は、液相法と呼ばれる金属ナノ粒子の調製法により得ることができる。液相法とは、保護配位子の存在下で、金属塩または金属錯体といった金属前駆体の溶液を調製し、これに還元剤を添加して金属イオンを金属に還元することで金属ナノ粒子を調製する方法である。
【0017】
金属前駆体としては、金属の塩または金属錯体など還元などにより金属を析出するものであれば特に制限されないが、例えば金属の塩化物、硝酸塩、酢酸塩、安息香酸塩あるいは金属のアセチルアセトナート錯体、アンミン錯体、エチレンジアミン錯体が挙げられる。金属の塩または金属錯体は、1種のみならず2種以上を混合して用いてもよい。また、2種以上の金属を含む金属塩または金属錯体を混合して用いると、該2種以上の金属の合金ナノ粒子を得ることができる。
【0018】
還元剤としては、慣用の還元剤、例えば、水素化ホウ素ナトリウム類(水素化ホウ素ナトリウム、シアノ水素化ホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素ナトリウム、水素化トリエチルホウ素リチウム(Super Hydride)など)、水素化アルミニウムリチウム、次亜リン酸またはその塩(ナトリウム塩など)、ボラン類(ジボラン、ジメチルアミンボランなど)、1価または多価のアルコール類(エタノール、1,2−ヘキサデカンジオールなど)、ヒドラジン、ホルマリン、水素を、単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。
【0019】
金属前駆体を溶解させる溶媒としては、通常、非水溶性溶媒(または疎水性溶媒)が用いられ、例えば、炭化水素類(ヘキサン、トリメチルペンタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類;シクロヘキサンなどの脂環式炭化水素類;トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;ジクロロメタン、トリクロロエタンなどのハロゲン化炭化水素類など)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチルなど)、ケトン類(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなど)、エーテル類(ジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジオクチルエーテルなど)などが挙げられる。これらの有機溶媒は単独でまたは混合溶媒として用いることができる。
【0020】
保護配位子とは、金属の塩または金属錯体の還元などにより析出した金属ナノ粒子が凝集することを防ぐ(金属ナノ粒子を有機溶媒中で分散安定化させる)ための化合物を意味する。保護配位子は、前記金属ナノ粒子に作用して有機溶媒中で分散安定化する成分、例えば、前記金属ナノ粒子に対して物理的または化学的に親和性を有するかまたは結合(水素結合、イオン結合、配位結合、化学結合など)して安定化する有機化合物であればよい。前記金属ナノ粒子の有機溶媒中での分散安定性を高めるためには、保護配位子が前記金属ナノ粒子表面に配位して結合するのが好ましい。そのため、好ましい保護配位子は前記金属ナノ粒子に配位する親和性有機化合物または配位性有機化合物ということもできる。
【0021】
保護配位子は、金属ナノ粒子(金属ナノ粒子の金属原子)に配位可能な官能基(または金属原子に対する親和性基)を有している場合が多い。このような配位性官能基(または配位子)としては、ハロゲン原子を有する基などであってもよいが、通常、ヘテロ原子(窒素原子、酸素原子、硫黄原子、リン原子など)、代表的には、窒素原子、酸素原子および硫黄原子から選択される少なくとも1種のヘテロ原子を有する基(官能基)である場合が多い。配位性官能基は、同種または異種の複数のヘテロ原子を有していてもよい。配位性官能基は塩(ナトリウム塩などのアルカリ金属塩など)を形成していてもよい。なお、本明細書において、「配位可能」「配位性」とは、金属に対して電子供与可能であることを意味し、必ずしも実際に金属原子に配位しなくてもよい。そのため、「配位性化合物」は、電子供与可能な(または電子供与可能な基を有する)化合物であればよく、金属に対して配位していなくてもよい。
【0022】
具体的な配位性官能基としては、窒素原子を有する基[アミノ基、置換アミノ基(ジアルキルアミノ基など)、イミノ基(−NH−)、アミド基(−CON<)、シアノ基、ニトロ基、含窒素複素環基(ピリジル基などの5〜8員含窒素複素環基、カルバゾール基、モルホリニル基など)など]、酸素原子を有する基[ヒドロキシル基、エーテル基、カルボキシル基、アルコキシ基(例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などのC1−6アルコキシ基)、ホルミル基、カルボニル基(−CO−)、エステル基(−COO−)、含酸素複素環基(テトラヒドロピラニル基などの5〜8員含酸素複素環基など)など]、硫黄原子を有する基[例えば、チオ基(−S−)、メルカプト基(−SH)、チオカルボニル基(−SO−)、アルキルチオ基(メチルチオ基、エチルチオ基などのC1−4アルキルチオ基など)、スルホ基、スルファモイル基、スルフィニル基(−SO−)、スルホニル基(−SO−)など]、リン原子を有する基[ホスフィン基など]、これらの塩を形成した基などが例示できる。保護配位子(配位性化合物)は、配位性官能基を単独でまたは2種以上組み合わせて有していてもよい。
【0023】
保護配位子として用いられる代表的な化合物としては、例えば、窒素原子含有有機化合物{例えば、アミン類、アミド類[例えば、アルカン酸アミド(アセトアミドなど)、N−置換アルカン酸アミド、ラクタム類など]、ニトロ化合物、ニトリル類(カプロニトリル、ラウロニトリルなどのC6−22脂肪族ニトリルなど)など}、酸素原子含有有機化合物{例えば、アルコール類[例えば、アルカノール類(ヘキサノール、オクタノール、デカノール、ドデカノール、オクタデカノールなどのC6−20アルカンモノオール)、シクロアルカノール類(シクロヘキサノールなど)、アルカンジオール類(エチレングリコール、プロピレングリコールなど)、ポリアルキレングリコール類(ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコールなど)、アラルキルアルコール類、多価アルコール類など]、エーテル類(セロソルブ類、カルビトール類など)、カルボン酸類[例えば、酢酸、酪酸、ペンタン酸、カプロン酸、ヘキサン酸、カプリン酸(デカン酸)、ペンタデカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ベヘン酸、セロチン酸、モンタン酸などのC2−30飽和脂肪族カルボン酸、オレイン酸、エルカ酸、リノール酸などのC4−24不飽和脂肪族カルボン酸(好ましくはC10−24高級不飽和カルボン酸)など]、ケトン類[例えば、アルカノン類、シクロアルカノン類、ジケトン類(アセチルアセトンなどのβ−ジケトン類)など]、エステル類(例えば、脂肪酸エステル類、グリコールエーテルエステル類など)、アルデヒド類(カプリルアルデヒド、ラウリルアルデヒド、パルミトアルデヒド、ステアリルアルデヒドなどのC6−20脂肪族アルデヒド)など}、硫黄原子含有有機化合物[例えば、チオール類(例えば、ヘキサンチオール、オクタンチオール、ドデカンチオールなどのアルカンチオールなど)、スルホキシド類、スルホン酸類(例えば、アルカンスルホン酸;ベンゼンスルホン酸、トルエンスルホン酸、ドデシルベンゼンスルホン酸などのアレーンスルホン酸など)またはその塩、例えば、ナトリウム塩など]、リン原子含有有機化合物(例えば、フェニルホスホン酸、トリオクチルホスフィンなど)などが挙げられる。
【0024】
アミン類としては、モノアミン類、ポリアミン類、アミノカルボン酸類(グリシンなど)などが挙げられる。モノアミン類としては、例えば、第1級アミン類[例えば、脂肪族アミン類(プロピルアミン、ブチルアミン、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、ヘプチルアミン、オクチルアミン(n−オクチルアミン、2−エチルへキシルアミンなど)、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ラウリルアミン(ドデシルアミン)、トリデシルアミン、ミリスチルアミン(テトラデシルアミン)、ペンタデシルアミン、パルミチルアミン(セチルアミン)、ステアリルアミン(オクタデシルアミン)、オレイルアミンなどのC3−24脂肪族アミン、好ましくはC5−24脂肪族アミン、さらに好ましくはC10−24高級脂肪族アミンなど)、シクロアルキルアミン類(例えば、シクロブチルアミン、シクロペンチルアミン、シクロヘキシルアミンなどのC4−10シクロアルキルアミン)、アリールアミン類(例えば、アニリン、トルイジン、アミノナフタレンなどのC6−10アリールアミン)、アラルキルアミン類(ベンジルアミンなど)、ヒドロキシルアミン類(例えば、エタノールアミンなどのアルカノールアミン類)など]、第2級アミン類[例えば、ジアルキルアミン類(ジプロピルアミン、ジイソプロピルアミン、ジブチルアミン、ジヘキシルアミン、ジオクチルアミン、ジデシルアミン、ジドデシルアミン、ジテトラデシルアミンなどのジC3−20アルキルアミン、好ましくはジC4−16アルキルアミンなど)、ジシクロアルキルアミン類(例えば、ジシクロヘキシルアミンなどのジC4−10シクロアルキルアミン)、ジアリールアミン類(例えば、ジフェニルアミンなどのジC6−10アリールアミン)、ジアラルキルアミン類(ジベンジルアミンなど)、アルキルシクロアルキルアミン類(メチルシクロヘキシルアミンなど)、アルキルアリールアミン類(N−メチルアニリンなど)、複素環式アミン(例えば、ピロール、ピペリジン、ヘキサメチレンイミン、モルホリンなどの5〜8員環状第2級アミンなど)、ヒドロキシルアミン類(例えば、ジエタノールアミンなどのジアルカノールアミン類)など]、第3級アミン類[例えば、トリアルキルアミン類(トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、トリヘキシルアミン、トリオクチルアミン、トリデシルアミンなどのトリC3−20アルキルアミン、好ましくはトリC5−16アルキルアミンなど;ジメチルデシルアミン、ジメチルテトラデシルアミン、ジメチルヘキサデシルアミンなどのジC1−2アルキルC6−20アルキルアミンなど)、トリシクロアルキルアミン類(トリシクロへキシルアミンなど)、トリアリールアミン類(トリフェニルアミンなど)、トリアラルキルアミン類(トリベンジルアミンなど)、ジシクロアルキルアルキルアミン類(ジシクロヘキシルメチルアミンなど)、シクロアルキルジアルキルアミン類(シクロヘキシルジメチルアミンなど)、アリールジアルキルアミン類(N,N−ジメチルアニリンなど)、複素環式アミン(例えば、ピリジン、ピコリン、キノリン、イソキノリン、キノキサリン、キナゾリン、フタラジン、N−フェニルモルホリンなどの5〜8員環状第3級アミン、1,8−ジアザビシクロ[5.4.0]ウンデセン−1など)、ヒドロキシルアミン類(例えば、トリエタノールアミンなどのトリアルカノールアミン類)など]などが挙げられる。
【0025】
ポリアミン類としては、前記モノアミン類に対応するポリアミン類、例えば、鎖状ポリアミン類{例えば、アルカンジアミン類(エチレンジアミン、プロピレンジアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどのC2−20アルカンジアミン)などのジアミン類;ポリアルキレンポリアミン類(ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタアミンなどのポリC2−4アルキレンポリアミン)などの第1級ポリアミン類}、環状ポリアミン類[例えば、環状第2級ポリアミン(例えば、ピペラジン、1,4,8,11−テトラアザシクロテトラデカン、トリエチレンジアミンなど)、環状第3級ポリアミン(ピリミジンなど)など]などが挙げられる。
【0026】
これらの保護配位子は、単独でまたは2種以上組み合わせてもよい。例えば保護配位子として、トリオクチルホスフィンとオレイン酸の組み合わせを用いることができる。
【0027】
卑金属は酸素により比較的容易に酸化されてしまうため、本発明が分析対象とする卑金属を含む金属ナノ粒子も酸化されやすい性質を有する。したがって液相法による卑金属を含む金属ナノ粒子の調製は、嫌酸素雰囲気下で行われる。ここで本明細書において嫌酸素雰囲気とは、酸素濃度が1%以下、より好ましくは酸素濃度が0.5%以下の雰囲気を意味する。しかし、たとえ調製を嫌酸素雰囲気下で行ったとしても、例えば保護配位子として加えた化合物と反応するなどして、得られた卑金属を含む金属ナノ粒子が酸化していることが多く見受けられる。酸化は金属ナノ粒子の物性に大きく影響すると考えられるため、卑金属を含む金属ナノ粒子の調製法の開発あるいは卑金属を含む金属ナノ粒子の利用にあたっては、その調製直後の酸化の程度を測定可能とすることは重要である。液相法により得られた金属ナノ粒子の調製直後の酸化の程度を正しく分析するためには、金属ナノ粒子に付着した保護配位子を除去し、かつ大気中の酸素などにより金属ナノ粒子がそれ以上酸化されないようにする必要がある。
【0028】
金属ナノ粒子に付着した保護配位子は、以下のような精製工程により除去することができる:(a)保護配位子が付着した金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液にアルコールを加えて金属ナノ粒子を沈殿させる;(b)(必要に応じて遠心分離を行い)沈殿物を取り出す;(c)沈殿物を有機溶媒である分散媒に再分散させる。精製工程(a)で用いるアルコールとしては、保護配位子を溶解可能なものであれば制限されないが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールなどを好適に用いることができる。最も好ましいアルコールはエタノールである。精製工程(c)で用いる分散媒としては、水と不混和であって金属ナノ粒子を分散可能な有機溶媒であれば特に制限されないが、非極性あるいは低極性の有機溶媒を好適に用いることができ、例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トリメチルペンタン、オクタン、トルエンおよびキシレンなどの炭化水素系溶媒あるいはジクロロメタン、クロロホルムおよび四塩化炭素などのハロゲン化炭化水素系溶媒を好適に用いることができる。なお、分析用サンプルの調製を金属ナノ粒子のコロイド溶液を蒸発乾固させて行う場合は、分散媒は低沸点で気化しやすいものであることが好ましい。最も好ましい分散媒はヘキサンである。前記精製工程(a)〜(c)は、少なくとも2回以上、好ましくは3回以上繰り返して行う。保護配位子の除去を金属ナノ粒子のコロイド溶液状態で行うことにより、金属ナノ粒子を固体粉末状にしてから保護配位子の除去を試みるよりも、効率よく保護配位子を除去することが可能となる。
【0029】
保護配位子を除去した金属ナノ粒子は、各種の分析法によって分析することが可能となる。金属ナノ粒子の分析法は特に制限されず、X線光電子分光分析およびX線回折分析などによって分析することができる。特にX線光電子分光分析によれば、金属ナノ粒子の酸化の状態などを知ることができる。ただし、いずれの分析法においても金属ナノ粒子が酸化してしまわないよう、嫌酸素雰囲気下で測定を行う必要がある。またいずれの分析法においても、分析サンプルの調製も嫌酸素雰囲気下で行う必要がある。例えばX線光電子分光分析のための分析サンプルの調製は、アルゴンや窒素といった不活性ガス雰囲気下で、金属ナノ粒子のコロイド溶液を蒸発乾固させることにより行うことができる。
【0030】
精製工程で用いるアルコールおよび有機溶媒である分散媒は、水を実質的に含まない脱水処理済みのものであって、かつ金属ナノ粒子が精製過程で酸化してしまわないよう、溶存酸素が除去されたものを用いることが好ましい。溶媒中の溶存酸素の除去は、例えば以下の手順により行うことができる:(a)密閉容器(シュレンクなど)に溶媒を入れて不活性ガスを満たす;(b)溶媒に不活性ガスをバブリングする(溶媒中に不活性ガスを吹き込む);(c)容器を液体窒素などで冷却して溶媒を凍結させる;(d)容器を減圧にする;(e)溶媒を温めて融解させガスを発生させる;(f)前記(c)〜(e)の手順を溶媒からガスが発生しなくなるまで繰り返す。なお、前記(c)〜(e)の手順、すなわち脱気しようとする溶媒を凍結させてから減圧し、次いで減圧状態で溶媒を融解させて酸素などの溶存気体を放出させる手法は、一般に凍結脱気と呼ばれている。不活性ガスをバブリングさせた後に凍結脱気した溶媒は、溶存酸素の濃度が1ppm以下となっていることが好ましい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を用いて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
1.分析用サンプルの調製
[実施例1]
(コバルトナノ粒子の調製)
図1に示したコバルト(Co)ナノ粒子の製造スキームに従って、コバルトナノ粒子を調製した。コバルト前駆体である安息香酸コバルト0.25mmol、保護配位子であるオレイン酸(OAc)80μL(0.25mmol)ならびにジ−n−オクチルエーテル5mlを反応容器に入れ、容器内を窒素で置換した後100℃まで昇温した。保護配位子であるトリオクチルホスフィン(TOP)335μL(0.75mmol)を加え、真空脱気(減圧下、100℃、30分)した後に容器内を窒素で置換し、200℃まで昇温した。別の反応容器(シュレンク)に、1M Super Hydride(SH)(LiBEtHのTHF溶液)10mL(10mmol)とジ−n−オクチルエーテル10mlとを加え、水浴中において攪拌および減圧してTHFを除去し、1MジオクチルエーテルSH溶液を得た。この1MジオクチルエーテルSH溶液を0.5mL(0.5mmol)反応容器に加え、200℃で20分攪拌した後放冷し、コバルトナノ粒子を含むコロイド溶液を得た。
【0032】
(コバルトナノ粒子の精製)
得られたコバルトナノ粒子を含むコロイド溶液を窒素で満たしたグローブボックス内に移し、以降の手順は全て窒素雰囲気下で行った。コロイド溶液を4ml計りとり、精製用容器に移した。脱気した脱水エタノールを12ml容器に加えて攪拌したところ、コバルトナノ粒子の沈殿が形成した。(脱水エタノールの脱気は以下の手順に従って行った:(1)無水エタノール60mlをシュレンクに入れ、窒素(もしくは希ガス)で15分間バブリングする(2)バブリング終了後シュレンクを密閉して液体窒素に浸しエタノールを凍結させる(3)シュレンクのコック部に減圧装置をつなぎ、コックを開いてシュレンク内のガスを引く(4)コックを閉めてからシュレンクを加温してエタノールを溶かし、エタノールから気泡を発生させる(5)減圧装置によりシュレンク内のガスを引く(6)シュレンクを密閉して液体窒素に浸しエタノールを凍結させる(7)(3)〜(6)の手順をエタノールから気泡が発生しなくなるまで繰り返す。)コバルトナノ粒子の沈殿を含む溶液を、グローブボックス内に設置した遠心分離機にかけて(5000rpm、10分間)上澄みを除去したところ、湿潤状態(ペースト状)の残留物(コバルトナノ粒子の沈殿)を得た。この残留物にエタノールと同様に脱気を行ったヘキサン4mlを加えてコバルトナノ粒子を再分散させた。エタノールを加えて沈殿を形成させ、遠心分離しコバルトナノ粒子の沈殿を取り出し、ヘキサンを加えて再分散させる工程を合計3回行った。最終的に得られたコバルトナノ粒子が分散した液をグリッドに滴下して乾燥させ、分析用サンプルを得た。
【0033】
[比較例1]
実施例1のコバルトナノ粒子の精製手順を窒素雰囲気下ではなく大気中で行った以外は、実施例1と同様にして分析用サンプルを得た。
【0034】
[比較例2]
実施例1のコバルトナノ粒子の精製手順において、エタノールを加えて沈殿を形成させ、遠心分離しコバルトナノ粒子の沈殿を取り出し、ヘキサンを加えて再分散させる工程を1回のみとした以外は、実施例1と同様にして分析用サンプルを得た。
【0035】
2.サンプルのXPS分析結果
実施例1ならびに比較例1および2で得られたサンプルを用いてX線光電子分光分析(XPS)を行った。得られたスペクトルを図2に示す。実施例1の窒素雰囲気下でコバルトナノ粒子の精製を3回行ったサンプルでは、金属コバルトに由来するシグナル(778eV付近)および酸化コバルト(調製過程でオレイン酸と反応するなどして生成したと考えられる)に由来するシグナル(780〜782eV付近)が現れていることがわかる。一方、コバルトナノ粒子の精製を大気中で行った比較例1およびコバルトナノ粒子の精製を1回しか行わなかった比較例2のサンプルでは、保護配位子などに由来すると考えられるノイズがひどく、シグナルの検出は困難であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保護配位子が付着した卑金属を含む金属ナノ粒子が分散したコロイド溶液に含まれる金属ナノ粒子の分析方法であって、
前記コロイド溶液は嫌酸素雰囲気下で調製されたものであり、
前記コロイド溶液にアルコールを加えて金属ナノ粒子を沈殿させること、および得られた沈殿物を分散媒に再分散させることを含む精製工程を嫌酸素雰囲気下で2回以上行い、得られた精製コロイド溶液から分析用サンプルを嫌酸素雰囲気下で調製することを含む、前記方法。
【請求項2】
アルコールおよび再分散に用いる分散媒が、不活性ガスをバブリングさせた後に凍結脱気させることにより溶存酸素が除去されているものである、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
嫌酸素雰囲気が酸素濃度1%以下の雰囲気である、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
アルコールが、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−メチル−1−プロパノール、2−ブタノール、2−メチル−2−プロパノールからなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
再分散に用いる分散媒が、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、トリメチルペンタン、オクタン、トルエン、キシレン、ジクロロメタン、クロロホルムおよび四塩化炭素からなる群から選択される少なくとも1種である、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
分析が、X線光電子分光分析であり、分析用サンプルの調製を不活性ガス雰囲気下でコロイド溶液を蒸発乾固させることにより行う、請求項1〜5のいずれか1項に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−286283(P2010−286283A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−138472(P2009−138472)
【出願日】平成21年6月9日(2009.6.9)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】