説明

金属ナノ粒子の製造方法および導電材料

【課題】安全かつ安価に金属ナノ粒子の懸濁液を製造し、この懸濁液から夾雑物を効率よく除去して高純度の金属ナノ粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子の製造方法は、一般式(1)で示されるポリヒドロシロキサン化合物を用いて標準酸化還元電位が0V以上の金属イオンを溶液中で還元することにより金属ナノ粒子の懸濁液を製造することを特徴とする。
【化1】

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子の懸濁液を製造する方法に係り、特に、懸濁液から余剰還元剤等の夾雑物を効率よく除去して金属ナノ粒子の純度を容易に高めることが可能な金属ナノ粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
粒径がおよそ数nm〜数100nm程度の金属の微粒子のことを金属ナノ粒子という。金属ナノ粒子は、粒径が小さいことに起因する種々の特性を有しており、従来、様々な分野で利用されている。例えば、マトリクス表示液晶ディスプレイ等においては、液晶セルに充填された液晶に金属ナノ粒子を添加することにより、液晶素子の応答が高速化することが知られている。また、金属ナノ粒子は、通常のサブミクロン以上の塊状の金属に比べて焼結温度が低いことから、配線材料としてプリント配線板と電子部品の接続等に用いられている。
【0003】
金属ナノ粒子の製造方法としては、例えば、坩堝に入れて加熱した原料固体から発生した蒸気に対して不活性ガスの分子等を衝突させて急冷することにより微粒子化するガス中蒸発法が知られている。この方法によれば、高濃度かつ高純度の金属ナノ粒子を得ることができる。しかしながら、原料固体から蒸気を発生させるための設備が必要であるため、金属ナノ粒子を安価に製造することができないという課題があった。そこで、このような特別な設備を必要としないものとして、溶液中で金属塩を還元して金属ナノ粒子を製造する方法が注目されている。
【0004】
例えば、特開2004−232012号公報(特許文献1)には、「高濃度金属微粒子分散液の製造方法」という名称で、有機酸の存在下で有機金属塩を還元することにより、金属微粒子分散液を製造する方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属微粒子分散液の製造方法は、有機金属塩を炭素数10以下の有機酸が有機金属塩と等モル以上含有された溶媒に溶解させて、金属換算濃度が少なくとも1質量%となるように調製された有機金属塩溶液をジオール又はヒドラジン又はヒドロキシルアミンで還元することを特徴としている。
【0005】
上記の特許文献1に記載の製造方法によれば、高濃度の有機金属塩溶液が生成されるとともに、還元剤により、この有機金属塩溶液に対し強い還元作用が発揮される。また、還元後に金属イオンが残留し難いという作用を有する。したがって、高濃度の金属微粒子分散液を容易に製造することができる。
【0006】
特開2005−220435号公報(特許文献2)には、「金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法」という名称で、高価な設備を必要とせずに高濃度の金属ナノ粒子分散液を簡便且つ安価に連続して得ることのできる金属ナノ粒子及び金属ナノ粒子分散液の製造方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属ナノ粒子および金属ナノ粒子分散液の製造方法は、少なくとも1種の金属イオンと有機分子からなる保護剤が混合された溶液を溶媒下で還元するとともに、有機分子で保護された金属ナノ粒子集合体を沈降させて回収するものである。
【0007】
上記の特許文献2に記載の製造方法によれば、生成された金属ナノ粒子は有機分子で保護されているため、溶媒に対する親和性が低下して集合体となって沈降するという作用を有する。これにより、金属ナノ粒子集合体を連続して回収することができる。
【0008】
特開2002−180110号公報(特許文献3)には、「金属コロイド溶液の製造方法」という名称で、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を容易に製造可能な方法に関する発明が開示されている。この文献に開示された金属コロイド溶液の製造方法は、標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属塩、安定化剤及び溶媒を混合して調製した金属コロイド溶液調製用母液を、10〜95℃の温度に調整し、さらに、標準水素電極電位が−0.2〜+1.5eVの範囲にあり、かつ上記金属塩を構成する金属よりも標準水素電極電位が高い金属塩を添加するとともに、還元剤を用いてこれら2種類の金属塩を還元することを特徴としている。
【0009】
上記の特許文献3に記載の製造方法によれば、標準水素電極電位が−0.8〜+1.5eVの範囲にある金属からなる核微粒子の表面に、この核微粒子よりも標準水素電極電位が高く、かつ標準水素電極電位が−0.8〜+1.2eVの範囲にある金属が析出した複合金属微粒子が分散したコロイド溶液が生成される。そして、このコロイド溶液中には、粒径分布が狭く、大きさが揃った金属コロイド微粒子が単分散している。すなわち、本製造方法によれば、均一な粒子径を有する金属コロイド微粒子が単分散した溶液を製造することが可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−232012号公報
【特許文献2】特開2005−220435号公報
【特許文献3】特開2002−180110号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
上述の特許文献1に開示された発明においては、還元剤としてジオールを用いた場合、反応させる際の温度を100℃以上にしなければならず、そのための設備を必要とする。また、ヒドラジンやヒドロキシルアミンは刺激臭を有するため、取扱いが容易でないという課題があった。
【0012】
また、特許文献2及び特許文献3に開示された発明においては、水素化ホウ素ナトリウムを還元剤として利用するため、夾雑物がナトリウム塩となる。この場合、ナトリウム塩を除去する操作を行うための設備が必要となり、製造コストが高くなるという課題があった。
【0013】
本発明は、かかる従来の事情に対処してなされたものであり、安全かつ安価に金属ナノ粒子の懸濁液を製造し、この懸濁液から夾雑物を効率よく除去して高純度の金属ナノ粒子を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記目的を達成するため、本発明に従った金属ナノ粒子の製造方法は、金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、金属イオンの標準酸化還元電位は0V以上であり、還元剤は一般式(1)で示されるポリヒドロシロキサン化合物であることを特徴とするものである。
【0015】
【化1】

【0016】
本願発明の製造方法によれば、標準酸化還元電位が0Vよりも小さいヒドロシラン化合物が金属イオンを還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を生成するという作用を有する。なお、ポリヒドロシロキサン化合物はほとんど無臭であり、刺激臭がないため、安全である。また、金属イオンが還元される際に、還元剤として使用するポリヒドロシロキサンの官能基が原料の陰イオンにより変換されるという作用を有する。例えば、酢酸銀を原料に用いた場合、還元剤のケイ素−水素結合が変換されて酢酸のシリルエステルが生成する。このように金属イオンの還元反応後の夾雑物は高分子量のものとなるため、限外濾過等による操作により金属ナノ粒子と高分子量の夾雑物や余剰の還元剤とを分離することとが可能となる。さらに、ポリヒドロシロキサン化合物がナノ粒子のまわりを保護することで、より安定な粒子を得ることができる。
【0017】
請求項2に記載したように、ポリヒドロシロキサン化合物に含まれる有機基は、例えば、無置換のアルキル基である。無置換のアルキル基を有機基として含むポリヒドロシロキサン化合物は製造性及び取扱い性に優れている。従って、このようなポリヒドロシロキサン化合物を還元剤として使用すれば、還元剤の調達が容易であるとともに、製造工程における作業効率が向上する。
【0018】
請求項3に記載したように、好ましくは、金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオンおよび過塩素酸イオンからなる群から選ばれる少なくとも1種である。このような製造方法においては、金属イオンが還元される際に、加水分解し難く、空気中の湿気に対して強いケイ素化合物が生成されるという作用を有する。
【0019】
請求項4に記載の導電材料は、請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって製造された金属ナノ粒子を利用したものである。
【発明の効果】
【0020】
以上説明したように、本発明の請求項1に記載の金属ナノ粒子の製造方法によれば、還元剤の取扱いが容易であるため、安全かつ効率的に製造作業を行うことができる。また、有機ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物を限外濾過等により容易に除去することができる。従って、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。
【0021】
本発明の請求項2に記載の製造方法によれば、材料コスト及び製造コストの削減を図ることが可能である。
【0022】
本発明の請求項3に記載の製造方法によれば、製造環境を無水条件に設定する必要がないため、乾燥設備の設置等による余分な設備費用が発生しない。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明の実施形態に係る金属ナノ粒子の製造方法は、ポリヒドロシロキサン化合物によって金属イオンを溶液中で還元し、金属ナノ粒子の懸濁液を製造することを特徴とする。
【0024】
ポリヒドロシロキサン化合物は、ケイ素原子と酸素原子が直鎖状に結合した高分子であり、ケイ素原子(Si)の有する4つの結合手のうち、少なくとも1つの結合手に水素原子(H)が直接結合したものである。この水素原子の数によって区別され、それぞれポリモノヒドロシロキサン(Hが1つ)、ポリジヒドロシロキサン(Hが2つ)と呼ばれている。そして、ポリヒドロシロキサン化合物はほとんど無臭であり、刺激臭を伴わないため、取扱いが容易である。従って、ポリヒドロシロキサン化合物を還元剤として用いることによれば、金属ナノ粒子を安全かつ効率よく製造することができる。
このように、上記2種類のポリヒドロシロキサン化合物はいずれも還元剤として優れた特性を有している。なお、本実施例では、特に、以下の一般式(2)で示されるポリモノヒドロシロキサン化合物を用いている。
【0025】
【化2】

【0026】
一般式(2)において、ポリモノヒドロシラン化合物の製造性及び取扱い性が容易であるという理由から、有機基は無置換のアルキル基を有するものであることが望ましい。このポリモノヒドロシロキサンは他のシロキサンポリマーの原料として利用されることもあり、還元剤の調達が容易となるとともに、製造工程における作業効率が向上する。従って、材料コスト及び製造コストの削減を図ることができる。
【0027】
なお、アルキル基とは、炭素原子が1列に結合した、いわゆる脂肪族炭化水素から1個の水素原子(H)を取り去った原子団の総称のことである。このようなアルキル基としては、メチル基(−CH)、エチル基(−C)、プロピル基(−C)、ブチル基(−C)、ペンチル基(−C11)、ヘキシル基(−C13)、フェニル基(−C)、シクロヘキシル基(−C11)などが例示される。なお、ケイ素化合物自体の安定性を損なわないものであれば、これらの有機基以外にも、例えば、ハロゲン原子(周期表の17族のフッ素(F)、塩素(Cl)、臭素(Br)、ヨウ素(I)の4元素を含む化合物の総称)、アルコキシ基(アルコールの水酸基から水素を取り除いた官能基)、シアノ基(−CN)等の各種官能基やヘテロ原子(水素と炭素以外の原子)又は不飽和結合を有するものを用いても良い。また、ハロゲン原子で置換された、フルオロメチル基(−CHF)、クロロメチル基(−CHCl)、2−クロロエチル基(−CCl)等のアルキル基やアルコキシ基で置換された、メトキシメチル基(−CHOCH)、メトキシエチル基(−CHCHOCH)、2−エトキシエチル基(−COC)等のアルキル基を用いることもできる。
【0028】
なお、これらのポリヒドロシロキサン化合物の標準酸化還元電位はおよそ−0.4〜0Vである。したがって、これらのポリヒドロシロキサン化合物によって還元されるべき金属イオンは標準酸化還元電位が0V以上のものでなければならない。なお、金属塩からの電離によって生成される金属イオンの標準酸化還元電位は、サイクリックボルタンメトリー等の測定法により測定することができる。
【0029】
金属イオンとは、単数あるいは複数の電子を失った金属原子のことであり、一般に、金属と酸の反応等の化学的な方法や電気分解等の電気的な方法あるいは金属塩を水若しくは有機溶媒に溶解させる方法によって生成される。本実施例においては、金属イオンの供給源として塩化金(AuCl)等の金塩、塩化白金酸(HPtCl・6HO)等の白金塩、酢酸パラジウム(Pd(CHCOO))、塩化パラジウム(PdCl)等のパラジウム塩、酢酸銀(CHCOOAg)、トリフルオロ酢酸銀(CFCOOAg)等の銀塩等を用いている。同様に、塩化白金(IV)(PtCl)の白金(IV)塩、塩化銅(I)(CuCl)、酢酸銅(Cu(CHCOO))等の銅塩等を用いることも可能である。
【0030】
これらの金属塩は溶液中で金属イオンと陰イオンに電離する。そして、金属イオンとして、パラジウムイオン(Pd2+)、白金イオン(Pt2+、Pt4+)、金イオン(Au3+)、銅イオン(Cu、Cu2+)等が生成される。なお、本願発明に用いる金属イオンは、既に述べたように標準酸化還元電位が0V以上であり、ポリヒドロシロキサン化合物と還元反応するものであればよく、その元素および価数は本実施例に示す場合に限定されるものではない。とくに金属イオンに銅イオンを用いて請求項1乃至3に記載の方法によって銅ナノ粒子を製造する際、この銅ナノ粒子は極めて空気に対して不安定なため、銅イオンにパラジウムイオンを混合することが好ましい。パラジウムイオンを添加することで製造された銅/パラジウムナノ粒子は、銅ナノ粒子と比較して空気に対して安定である。銅/パラジウムナノ粒子製造について、銅イオンとパラジウムイオンの比は特に限定されるものではない。
【0031】
上記金属塩から電離する陰イオンとしては、例えば、水酸化物イオン(OH)、酢酸イオン(CHCOO)、硝酸イオン(NO)、トリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、塩化物イオン(Cl)、臭化物イオン(Br)、フッ化物イオン(F)などがあげられる。これらの陰イオンは、多くの場合、ポリヒドロシロキサン化合物と反応して新たな化合物を形成する。例えば、酢酸イオン(CHCOO)と金属イオンの溶液にポリヒドロシロキサン化合物を加えると、ポリヒドロシロキサン化合物のケイ素−水素結合の部位が酢酸シリルエステルに変換される。また、塩化物イオン(Cl)を含む溶液の場合は、クロロシラン化合物が生成される。また、陰イオンとしてトリフルオロ酢酸イオン(CFCOO)、臭化物イオン(Br)及びヨウ化物イオン(I)を用いた場合にも、対応する化合物が生成される。しかし、臭化物イオン(Br)若しくはヨウ化物イオン(I)とポリヒドロシロキサン化合物との反応によって生成されるブロモシラン又はヨードシランは加水分解性が強いため、それらの取扱いは無水状態で行う必要がある。
【0032】
なお、金属イオンとモノヒドロシラン化合物を反応させる際には、溶媒や添加剤等を共存させても良い。溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブタノール、sec−ブタノール、tert−ブタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、フェノール、シクロへキサノール等のアルコール類、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、テトラヒドロフラン、2−メチルテトラヒドロフラン、ジオキサン等のエーテル類、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、ビニルベンゼン、フェニルアセチレン、トラン等の炭化水素類、フルオロベンゼンクロロベンゼン、クロロホルム、ジクロロメタン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン等のハロゲン化炭化水素類、トリエチルアミン、アニリン、ピリジン等のアミン類、アセトン、シクロヘキサノン、アセトフェノン等のケトン類、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、安息香酸メチル、γ―ブチロラクトン、エチレンカーボート、プロピレンカーボネート等のエステル類等、N−メチル−2−ピロリドン、アセトアニリド等のアミド類、ベンゾニトリル、4−シアノ−4’−ペンチルビフェニル、4−シアノ−4’−ペンチルオキシビフェニル、等のニトリル化合物類、ニトロベンゼン等のニトロ化合物類、ヘキサンチオール、ヘプタンチオール、オクタンチオール等のチオール類および水等の溶媒から単独あるいは混合して用いることができる。また、カルボン酸塩、アルキルスルホン酸塩等の界面活性剤類、ポリ(N−ビニルピロリドン)、オレイン酸等のカルボン酸類等の酸類、ポリアクリル酸、ポリエチレングリコール、ポリ(ジメチルシロキサン)等の高分子類を添加しても良い。なお、本願発明で使用可能な溶媒は本実施例に示すものに限定されるものではない。すなわち、ポリヒドロシロキサン化合物による金属イオンの還元反応を阻害しないものであれば、上記溶媒以外の溶媒であっても良い。
【0033】
金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物を反応させる際に溶媒を用いる場合、反応温度は、溶媒の還流温度以下であることが望ましい。ただし、これに限定されるものではなく、溶媒の沸点以上とすることもできる。また、金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物とを、溶媒を蒸発させながら反応させても良い。なお、金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物とを反応させる際には、反応を均一に進行させる必要があるため、磁気攪拌子やスリーワンモーター等の攪拌機で溶液を攪拌することが好ましい。また、撹拌機は、得られる金属ナノ粒子の均一性を高めるため、せん断速度が0.5m/秒以上となるように設定することが望ましい。
【0034】
金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物との反応時間は、反応温度や溶媒等により異なるが、反応の終点についてはイオンクロマトグラフィー等で残留する金属イオンを定量することで調べることができる。なお、反応の終点は、生成される金属ナノ粒子と原料の金属イオンとで可視−紫外領域の吸収スペクトルが異なるという現象を利用することによっても調べることができる。また、金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物を反応させるときの圧力は、特に限定されるものではないが、少なくとも反応に使用する容器の耐圧限界以下で行う必要がある。
【0035】
金属イオンとポリヒドロシロキサン化合物との反応濃度は特に限定されるものではなく、適宜変更可能である。すなわち、金属ナノ粒子の用途に応じて、懸濁液中の金属含有量が所望の値となるように、溶媒等の添加や濃縮等で反応濃度を調整すると良い。例えば、金属ナノ粒子を液晶に添加する場合には、懸濁液中の金属含有量が100ppm以上10%未満となるように反応濃度を設定し、また、金属ナノ粒子を配線材料として利用する場合には、懸濁液中の金属含有量が5%以上95%未満となるように反応濃度を設定することが望ましい。
【0036】
なお、金属イオンに対するポリヒドロシロキサン化合物の添加量が少ない場合には、生成された懸濁液中の金属イオン濃度が低くなるため、本実施例においてはポリヒドロシロキサン化合物の添加量を金属イオンが完全に金属に還元される理論値の1乃至10倍に設定している。
【0037】
上記方法によって製造した金属ナノ粒子の懸濁液は、還元剤であるポリヒドロシロキサン化合物に由来するケイ素化合物が含まれている。例えば、酢酸銀(CHCOOAg)とポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH)O−]n)の反応では、酢酸エステル([−Si(OCOCH)(CH)O−]n)が生成される。このように、還元反応後に生成されるケイ素化合物は、とくに不都合がなければ取り除く必要はないが、一般には金属ナノ粒子の高純度化のため、分離・除去する必要がある。すなわち、本願発明の金属ナノ粒子の製造方法においては、金属ナノ粒子の懸濁液中に残留する有機ケイ素化合物や余剰還元剤などの夾雑物が限外濾過によって容易に除去され得るという作用を有する。
【0038】
なお、これらの夾雑物を限外濾過により除去する際の条件は、とくに限定されるものではないが、温度は0℃以上150℃以下にすると良い。ただし、金属ナノ粒子を高温に曝すと焼結が進行するため、温度については0℃以上100℃以下とすることがより好ましい。
【0039】
以上説明したように、本実施例の製造方法によれば、金属ナノ粒子を製造する過程でポリヒドロシロキサン化合物と金属塩の陰イオンの反応によって生成されるケイ素化合物及び懸濁液中に残留する余剰還元剤を限外濾過や遠心分離により安全かつ効率よく除去することが可能である。これにより、懸濁液中の金属ナノ粒子の純度を効率よく高めることができる。そして、このように懸濁液中の夾雑物を限外濾過や遠心分離によって除去することによれば、高価な設備が不要であるため、設備コストの削減を図ることができる。従って、金属ナノ粒子を安価に製造することが可能である。
【実施例】
【0040】
以下に、本発明の実施例を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。金属微粒子の粒径は、透過型電子顕微鏡、X線小角散乱法により測定を行った。金属ナノ粒子の純度は、熱重量分析装置で1分間に5℃昇温を行い、500℃となった時点での重量減少量から金属量を求めた。導電性の評価は四探針法により測定した。
【0041】
[実施例1]
硝酸銀(AgNO)10gを水20gに、ポリ(N‐ビニルピロリドン)(以下PVP)6.5gをエタノール20gに、オクチルアミン(C17NH)7.6gをエタノールに、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH)O−]n)(以下PMHSと略記する)3.5gをエタノールに溶解した。その後、硝酸銀水溶液とPVPエタノール溶液の混合物を30分間攪拌し、オクチルアミンエタノール溶液を追加し30分間攪拌した。その後、PMHSエタノール溶液を加え、室温で1時間攪拌することで銀ナノ粒子の懸濁液を得た。このとき、銀ナノ粒子の平均粒径は25nmであった。得られた銀ナノ粒子懸濁液にメタノールを添加すると銀ナノ粒子の沈殿と夾雑物が溶解した上澄み溶液に分離した。30分放置して十分に分離したところで濾紙によって濾過を行い、銀ナノ粒子を精製した。この精製操作を3回行うことで、純度の高い銀ナノ粒子を得た。銀ナノ粒子とバインダー樹脂(積水化学製BL−2)エタノール溶液を混合し、銀含有率80%の銀ペーストを調製し、大気中180℃で30分焼成し導電性を評価したところ、抵抗率5.5μΩcmであった。
【0042】
[実施例2〜8]
溶媒、銀塩、保護剤について条件を変更し、実施例1と同様の操作を行ったところ、銀ナノ粒子が得られた。結果を以下に示す。
【0043】
【表1】

【0044】
[実施例9]
トルエン10g、オクタンチオール2g、塩化金(III)0.1gの混合物に攪拌しながらPMHS0.5gを加えて室温で1時間攪拌することで、暗赤色の金微粒子懸濁液を得た。平均粒径は3.8nmであった。
【0045】
[実施例10]
エタノール50gにポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、酢酸パラジウム0.2gを溶解し、攪拌しながらPMHS0.5gを加えて室温で1時間攪拌することで、暗褐色のパラジウム微粒子懸濁液を得た。平均粒径は8.2nmであった。
【0046】
[実施例11]
エタノール50gにポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、塩化白金酸(IV)0.1gを溶解し、攪拌しながらPMHS0.5gを加えて室温で1時間攪拌することで、黒色の白金微粒子懸濁液を得た。平均粒径は10.9nmであった。
【0047】
[実施例12]
トルエン10g、ポリ(N−ビニルピロリドン)2.0g、酢酸銅(II)0.05g、酢酸パラジウム(II)0.02gの混合物に攪拌しながらPMHS0.5gを加えて1時間還流することで、黒色の銅/パラジウム微粒子懸濁液を得た。平均粒径は25.8nmであった。
【0048】
[比較例1]
酢酸亜鉛10gを水20gに、ポリ(N‐ビニルピロリドン)(以下PVP)6.5gをエタノール20gに、オクチルアミン(C17NH)7.6gをエタノールに、ポリ(ヒドロメチルシロキサン)([−Si(H)(CH)O−]n)(以下PMHS)5gをエタノールに溶解後30分間攪拌し、オクチルアミンエタノール溶液を追加し30分間攪拌する。その後、PMHSエタノール溶液を加え、室温で3時間攪拌したが亜鉛ナノ粒子を得ることができなかった。
【0049】
[比較例2]
エチレングリコール10g、オクチルアミン3.0g、酢酸銀1.0gの混合物にフェニルメチルシラン0.5gを加えて室温で1時間攪拌したところ、黒色の銀が沈殿し分散液を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明は、電子部品の配線材料や液晶表示装置等、各種分野で使用される金属ナノ粒子に対して適用可能である。例えば、本発明の方法によって製造された銀ナノ粒子をバインダー樹脂、溶媒等と混合することで銀ペーストを作成し、これをインクジェット印刷、スクリーン印刷等の印刷技術等によりパターンを形成し、適当な温度、適当な時間で焼成することで銀の導電パターンを形成することができる。パラジウムナノ粒子や白金ナノ粒子は燃料電池等の触媒に広く利用することができる。さらに本発明における金属微粒子の懸濁液製造方法は、特殊な製造設備を必要としないため、適用範囲が広く極めて工業的な意義が高い。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属イオンに還元剤を反応させて金属ナノ粒子を製造する方法において、前記金属イオンの標準酸化還元電位は0V以上であり、前記還元剤は一般式(1)で示されるポリヒドロシロキサンであることを特徴とする金属ナノ粒子の製造方法。
【化1】

【請求項2】
前記ポリヒドロシロキサン化合物に含まれる前記有機基は、無置換のアルキル基であることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項3】
前記金属イオンは金属塩からの電離によって生成され、この金属塩から前記金属イオンともに電離する陰イオンは、酢酸イオン、トリフルオロ酢酸イオン、塩化物イオン、フッ化物イオン、硝酸イオン、過塩素酸イオンから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の金属ナノ粒子の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の方法によって製造された金属ナノ粒子を利用した導電材料。

【公開番号】特開2012−162772(P2012−162772A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−24284(P2011−24284)
【出願日】平成23年2月7日(2011.2.7)
【出願人】(503221643)日本アトマイズ加工株式会社 (3)
【出願人】(509164164)地方独立行政法人山口県産業技術センター (22)
【出願人】(803000115)学校法人東京理科大学 (545)
【Fターム(参考)】