金属ナノ粒子の製造法及びかくして得られる物質
本発明は、金属元素の塩、水酸化物または酸化物であってクレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で還元しうる先駆物質を選択し、次いで該先駆物質を疑似層状のフィロ珪酸塩クレーから選んだ支持体に沈着せしめたことによる、金属ナノ粒子の製造法及びかくして得られる物質を提供する。本発明の製造法は、(i)先駆物質を支持体に沈着させる沈着工程、(ii)先駆物質が塩や水酸化物から選ばれたときに、先駆物質を分解プロセスに付して、金属元素の酸化物に変換する制御雰囲気中の熱分解工程、および(iii)金属元素の酸化物を制御雰囲気中の還元プロセスに付す還元工程から成り、かつクレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で実施される。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、ナノ粒子分野、特に金属ナノ粒子に関し、さらに詳しくは、支持体に均質に分散したナノ粒子の技術領域に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ物質またはナノ構造物質は、粒度範囲が1〜100nm(10−9〜10−7m)にある粒子によって構成される不均質系である。これらの系は、マイクロメートル粗粒の粒度をもつ等価系に見られるそれとは非常に異なることが可能な物理的特性を有する。最も顕著な物理的特性の中で、ナノメートル規模で出現するものとしては、量子化現象(電荷、電子量);閉じ込め現象(電子、誘電性[Flytzanis C.、Hache F.、Kelin M.C.、
Ricard D.およびRoussignol Ph.の“Nonlinear Optics in Composite Materials”,
Prog. Optics,29, 322 (1991)]);モノドメインの存在(結晶性、強磁性[B.D.
Cullity の“Introduction to Magnetic Materials”, Addison Wesley, California, 1972, 117−119 および309−311]、強誘電性);巨磁気抵抗効果[J.I.Gittleman、Y.
Goldstein および S.Bozowski の Phys.Rev.B5,3609(1972)];Hall−Petch 効果またはディスロケーション(転位)パイルアップ(dislocation Pileups)の抑制[H.Gleiter のProgress in Mater. Sci., 33, 223 (1989); V.G. Gryzanov および L.I.Trusov の
Progress Mater. Sci., 37, 289 (1993)]等がある。
【0003】
目下、これらナノ粒子物質の生産および特性決定の両方に関し、さらに新しい製品や考案物の製造を目的とするグローバルR+Dでの大なる努力が集中している。
特に、金属ナノ粒子が最も研究されているナノ物質の1つであるが、それは、絶縁体や導体あるいは両方の混合物に対し独特な物理的特性を示すからである[H.Gleiter の
Progress in Mater. Sci., 33, 223 (1989); V.G.Gryaznov および L.I.Trusov の
Progress Mater. Sci., 37, 289 (1993)]。これらの物質は目下、コロイドプロセスや触媒作用化学プロセスで使用されている。一方、予想される点は、近い将来に金属ナノ物質が“オプト(opto)”および/または電子考案物の製造に使用しうることである。
【0004】
目下、ナノ粒子の合成は幾つかの方法で遂行されており、かかる方法として、たとえば機械的賦活法[Eric Gaffet、Fre'deric Bernad、Jean−Claude Niepce、Fre'deric
Charlot、Chirstophe Gras、Ge'rard Le Cae'r、Jean−Louis Guichard、Pierre Delcroix、Alain Mocellin および Olivier Tillement の“Some Recent Developments in
Mechanical Activation and Mechanosynthesis”, Journal of Material Chemistry, 9, 305−314 (1998)]; 湿式合成法(先駆物質の熱水および熱分解),ゾル−ゲル法[D.G.Morris の“Mechanical Behavior of Nanostructured Materials”, Vol. 2 of Materials Science Foundations, Trans Tech Publications Ltd., (1998)]; 気相中合成,電気化学法[Ebrahimi F.Bourne、G.R.Kelly、M.S. および Matthews T.E. の Nanostruct.
Mater., 1999,11, 343]; 化学的エピタクシー成長法[Veprek S.J. の Vac.Sci.Technol.A, 1997, 17, 2401]; CVD(化学蒸着)法、または分子ビーム[Philip Moriarty の Nanostructured Materials, Reports on Progress in Physics, 64, 297−381 (2001)](MBE, Molecular Beam Epitaxy),イオンスパッタリング法[J.Musil、I.Leipner 、M.
Kolega の Surf. Coat.Tech., 115, 32−37 (1999)]等がある。
【0005】
これらの技法で得られる物質の種類に応じて、エピタクシー技法(MBE、CVDおよびアブレーション)と質量(massive)技法(他の全て)に分類される。しかして、これらの物質を製造するときに遭遇する主な問題の1つは、クラスター(cluster)への傾向であって、ナノメートル寸法に固有の性質を消失させることである。ミクロ構造の良好なコントロールが達成される場合のみ(たとえばMBEにおいて)、製造される物質の量は非常に少なく、これは可能な製造コストをかなりに増加させ、かつ実行可能な産業活用を妨げる。
【0006】
このことは、幾つかの企業グループに対して、酸化物マトリックス中に完全に分散したナノ結晶を得るのにかなりの努力をささげるよう促した理由である[K.Niihara の“
New Design Concept of Structural Ceramics−Ceramic Nanocomposites”, J.Ceram.
Soc. Jpn. 99 (1991) , 974; S.T.Oh、M.Sando および K.Niihara の“Mechanical and
magnetic properties of Ni−Co dispersed Al2O3 nanocomposites”J.Mater.Sci. 36 (2001), 1817; T.Sekino および K.Niihara の“Microstructural characteristics
and mechanical properties for Al2O3/metal nanocomposites”, Nanostructural
Materials, Vol. 6 (1995) , 663; T.Sekino、T.Nakajima、S.Ueda および K.Niihara の“Reduction and Sintering of a Nickel−Dispersed−Alumina Composite and its
Properties”, J.Am.Ceram.Soc., 80, 5 (1997), 1139; M.Nawa、T.Sekino および K.
Niihara の “Fabrication and Mechanical Properties of Al2O3/Mo Nanocomposites”, J.Mater.Sci., 29 (1994), 3183; S.T.Oh、T.Sekino および K.Niihara の“Fabrication and Mechanical Properties of 5% vol Copper Dispersed Alumina Nanocomposite”, J.Eur.Ceram.Soc., 18 (1998) 31; R.Z.CHen および W.H.TUan の“Pressureless
Sintering of Al2O3/Ni Nanocomposites”, J.Eur.Ceram.Soc., 19 (1999), 463; K.
Niihara、T.Sekino、Y.H.Choa、T.Kusunose、Y.Hayashi、K.Akamatsu、N.Bamba、T.Hirano および S.Ueda の“Nanocomposite Structural Ceramics with Advanced Properties”, Proc. 4th Japan International SAMPE (1995)]。
【0007】
そのことは、産業上将来の見通しから、金属ナノ粒子を製造する簡単かつ有効で安価な方法の開発がかなり注目されている当該分野においてのことであり、何故なら、ナノ物質の特性に基づく新しい考案物の製造を非常な競争値段で可能ならしめるからである。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、金属化合物を支持体と接触させて均質に分散させて(ここで、支持体は、疑似層状のフイロ珪酸塩クレーから選ばれた珪酸塩網状構造を有する少なくとも1種のクレーである)、工業的規模のナノ粒子を製造する簡単で経済的かつ実行可能な方法を付与することにより、現行技術に存在する障害のほとんどを解消することである。
【0009】
本発明によれば、上記クレーは海泡石クレーであってよく、具体的には、天然鉱物海泡石や処理した海泡石、たとえばレオロジーグレードの海泡石(たとえば特許出願EP−A−0170299およびEP−A−0454222に記載の、繊維破損を実質的に回避する特殊な超微粉砕プロセスにより、天然海泡石から得られる、スペイン、マドリッドのTOLSA S.A.よりPANGEL商標で市販されているものなど)、鉱物または処理したアタパルガイト(atapulgite)、たとえばレオロジーグレードのアタパルガイト(米国のEngelhard Corporation より製造商品化されているATTAGEL製品部類や、
Floridin Company により提供のMIN−U−GEL製品部類に見られるもの、あるいはアタパルガイトを特許出願EP−A−0170299に記載のプロセスで処理して得られるものなど)が挙げられる。
【0010】
便宜上、支持体は粒度が44μm以下、好ましくは5μm以下の粉末である。
海泡石およびアタパルガイトもしくはパリゴルスカイト(palygorskite)は、疑似層状(pseudolaminar)のフイロ珪酸塩クレーに属し、またパリゴルスカイト−海泡石群(類)としても公知であり、その構造は微小繊維状もしくは針状形態に限定される。
【0011】
このため、海泡石は水和マグネシウム系(magnesic)珪酸塩であるが、アルミニウム含有(aluminic)海泡石(ここで、八面体位の19%がアルミニウムイオンで占められている)、鉄含有海泡石(キシロタイル(xylotile)と称す)、ニッケル含有海泡石(ファルコンドイト(falcondoite))およびナトリウム含有海泡石(ラフリナイト(loughlinite))もある。パリゴルスカイトもしくはアタパルガイトは、水和珪酸アルミニウム・マグネシウムであって、海泡石のそれに似た構造を持つ。Brauner およびPreisinger によれば、海泡石は構造上、マグネシウム八面体の中心層に酸素原子を介して珪素八面体の2層が結合して構成されるタルク型ストランドで形成されている。
【0012】
これらのタルク型ストランドは、珪素四面体層が連続するように配列されているが、珪素四面体は六単位の間隔で反転している。この構造は、海泡石粒子の針状形態に限定され、c軸に沿って細長くかつゼオライトチャンネル(溝)(channels)と呼ばれるチャンネルが存在し、針状粒子のc軸の方向に配向し、3.7Å×10.6Åの寸法を有し、水と他の液体が浸透することができる。この構造の結果として、海泡石は、多きな外部表面ばかりでなく、ゼオライトチャンネルによって生じる内部表面による、非常に大きな比表面積を有する。
【0013】
海泡石の理論上の全比表面積は、構造用モデルに基づき計算すると、900m2/gあり、その内400m2/gは外部面積に属し、および500m2/gは内部面積に属する。しかしながら、海泡石表面の全てが、全ての分子に対し均等に利用できる(accessible)とは限らない。海泡石の利用できる表面は、使用する吸着質、その寸法およびその極性に左右され、かつクレーの微細孔やゼオライトチャンネルへの吸着質分子の接近可能性(accessibility)を定める。N2に対する利用できるBET表面は、300m2/g以上であり、最も大きな表面の1つは、天然のコンパウンド(compound)に見られる。
【0014】
アタパルガイトは類似の構造を有するが、この場合、珪素四面体の反転は、海泡石の場合と同様に他の6つの全ての四面体の代わりに、他の4つの全ての四面体を生ずる。その結果、アタパルガイトのゼオライトチャンネルは、3.7Å×6.4Åの、すなわち、海泡石のチャンネルより小さい切断面を有し、従って、アタパルガイト比表面積は、大きいが、約150m2/gであり、これも海泡石のそれより小さい。
【0015】
海泡石およびアタパルガイトの微小繊維状粒子は、その自然状態では、大きな乾燥堆のそれに類似した構造において針状粒子がランダムに配列した大きな束(bundles)を形成するクラスターで配置している。かくして形成される構造は、非常に多孔性で、かつ大量の中間孔と巨大孔を有する。特殊な微粉砕および超微粉砕技法、たとえば特許出願EP−A−0170299に記載の技法を用いることにより、これらの微小繊維ビーム(
microfiber beams)を個々の微小繊維状粒子に脱集塊する(de−agglomerate)ことが可能で、しかも、高い“アスペクト比”、すなわち、長さ/直径比を維持することができる。
【0016】
これらの手順は、被吸着分子の外部表面への接近を容易にならしめ、このため、吸着のために利用できる表面を増大する。表面に吸着した水(特に、構造の端に位置する内部ゼオライトチャンネルおよび開放チャンネルの両方における、海泡石の場合のマグネシウム原子またはアタパルガイトの場合のマグネシウムおよびアルミニウム原子の配位を完成する、結晶化の水分子に水素結合橋を介して結合する水)を除くため、海泡石やアタパルガイトを熱処理すれば、これらクレーの吸着能力の増加にも役立つ。
【0017】
クレー表面上に金属ナノ粒子を得るには、パリゴルスカイト−海泡石クレー、たとえば海泡石、アタパルガイトおよびこれらの組合せ、および海泡石および/またはアタパルガイト鉱物のいずれかの使用によって行なうことができ、但し、これらのクレーは総濃度が50%(好ましくは85%)を上回って存在する。何故なら、他の鉱物、たとえば方解石、ドロマイト、長石、マイカ、石英またはスメクタイトの混入は、その上にナノ粒子を形成できるクレーの効力を弱め、また製品の最終特性並びに塩、水酸化物または酸化物の沈殿中や金属の還元に適用される熱処理中のプロセス自体の発現にも影響を及ぼしうるからである。
【0018】
また金属化合物は少なくとも、金属元素の塩、水酸化物および酸化物から選ばれた先駆物質であり、該金属元素は、クレーの珪酸塩網状構造がつぶれる温度(破壊温度)以下の温度で還元されやすい金属元素から選ばれる。適当な金属元素としては、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびそれらの合金もしくは組合せが挙げられる。これらの金属元素は、水溶性塩(クロリド、硝酸塩および硫酸塩)などの先駆物質中に存在する。
【0019】
また本発明で記載の製造法は、先駆物質を支持体に沈着させる沈着工程を包含し、また該製造法は、先駆物質が塩および水酸化物から選ばれたときに、先駆物質を選択金属元素の酸化物に分解する制御雰囲気中の熱分解工程も必要とする。その後に還元工程を実施し、ここで、金属元素の酸化物を制御した酸素分圧(Po2)および温度条件下の完全還元プロセスに付して、最終的に支持体上に沈着した金属ナノ粒子を得る。
【0020】
かかる製造法は、クレーの珪酸塩網状構造が破壊するような温度以下の温度で、好ましくは850℃以下の温度で行なうが、それは、それより高い温度では、海泡石やアタパルガイトが根深い構造変態をこうむり、珪酸塩網状構造の破壊、並びに海泡石のガラス質相の場合の、クリノステアタイト(clinosteatite)などの他工程の潜在的出現の結果となるからである。
【0021】
沈着工程の具体例の1つは、先駆物質を水に溶解して先駆物質の希釈溶液を得、該溶液に支持体を分散させて先駆物質/支持体分散液を得、次いで先駆物質/支持体分散液を乾燥させて乾燥先駆物質/支持体粒子を得ることを必要とする。クレーの分散度を高めるのに、好ましい方法は、ハイパワー剪断翼による機械式攪拌を利用することである。
【0022】
好ましくは、そして所望の結果に応じて、先駆物質希釈溶液を先駆物質濃度が5〜15%となるように調整し、水または先駆物質希釈溶液に希釈される支持体を5〜15%濃度に調整する。加えて、便宜上、支持体/先駆物質分散液を、支持体の表面上に得るべきナノ粒子の所望密度の関数として、金属元素/支持体の重量比が0.1:100〜100:100、より好ましくは5:100〜50:100となるように調整されてよい。
【0023】
支持体/先駆物質分散液のpHを上げることにより、先駆物質を支持体に沈殿させることが目的であるとき、これは、乾燥段階の前に塩基の添加で達せられる。粒子がクレー表面に均質に沈着するためには、先駆物質の沈殿は制御の方法で行なわなければならない。
【0024】
また先駆物質/支持体分散液を、乾燥段階にとりかかる前に濾過し、および/または乾燥段階の前に固/液分離技法により分離する。濾過または固/液分離を行って、使用した金属塩イオン含有溶液から、表面に金属先駆物質が沈着したクレーを分離することが好ましいが、直接乾燥を行っても、分散液に存在する水の全てを蒸発させることができる。
【0025】
場合によって、濾過して金属先駆物質が沈着したクレーの分離を行なうとき、クレーを洗って、痕跡するいずれの可溶塩も除去することが推奨される。次の工程は熱処理であって、制御雰囲気条件下で実施し、金属塩または水酸化物の適切な酸化物への分解を行ない(但し、該クレーに沈着した先駆物質は上記の酸化物ではない);さらに次の工程は、金属酸化物の適切な金属への還元である。還元の条件(温度および酸素分圧)は、使用する金属元素に左右される。
【0026】
上記技法の利用で、常に30nm以下粒度の、支持体に沈着した単分散金属ナノ粒子を得ることができ、また極めて頻繁には、10〜5nm間のコントロール粒度を得ることから、多様な応用用途に有用なナノ微粒の“ナノ複合材料”物質の形成が可能となる。
【0027】
すなわち、金属元素をCu、Ag、Au、Rh、Pd、Ir、Ni、Ptおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、それ自体触媒または触媒の一成分として有用であり、一方、金属元素がAgであると、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は殺生物剤として、あるいは殺生物剤の一成分として有用である。同じく、金属元素がCuであると、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は殺カビ剤として、あるいは殺カビ剤製品の一成分として有用である。
【0028】
また金属元素をCu、Ag、Auおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、オプトエレクトロニクス(光電子工学)物質の成分として有用であり、一方、金属元素をFe、Ni、Coおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、強磁性流体の成分として有用である。
【0029】
このプロセスにおいて、使用するクレーはいずれの粒度を有してもよいが、ナノ粒子がクレー粒子の表面に形成されるとき、ナノ粒子形成に利用可能な粒子の表面が最大限可能な粒度となるためには、最小限可能な粒度を持つクレー製品の使用が望ましい。このように、クレーは44μm以下の粒度を持つ微粉砕粉末で加えることができる。
【0030】
またレオロジーグレードの製品、たとえば特許出願EP−A−0170299に記載されるような、湿式超微粉砕プロセスによって得られるレオロジーグレードの海泡石も使用でき、この場合、粒子の高い“アスペクト比”を維持しながら、自由に移動する針状粒子が得られ、かつ脱集塊プロセスにより沈着に利用できるより自由な表面状態になる。さらに、この超微粉砕プロセスに従って処理した、コロイド性のクレーはより高い安定性を有しかつ金属塩希釈溶液により良好に分散して、より均質なコーティングが見込まれる。
【0031】
上記の情報から、本発明に記載の製造法は、これら金属塩、酸化物または水酸化物のクレー表面上への沈着、次いで対応する金属を得る予定の還元処理に基づくことが示される。還元プロセスは、制御雰囲気条件下で実施する熱処理によって行なわれる。注目しうる点は、このプロセスで形成されるナノ粒子の粒度が30nm以下で、標準的には約3nmの粒度であり、しかも、表面上に均質に分布し、そしてクラスターになっていないことである。
【0032】
かかるナノ粒子は、線状に分布し、かつ微小繊維状粒子の縦軸に沿って配向する。この特別に配置した金属ナノ粒子の形成の可能な理由は、熱処理中の海泡石やアタパルガイトがもたらす変態かもしれない。350℃で海泡石は、4分子の水和水の2つを失って、海泡石構造の折りたたみ(folding)をひき起こし、かつ珪酸塩の八面体層の端に位置するカチオンが、隣接珪素の四面体層の酸素分子との配位を完成するために、ゼオライトチャンネルのつぶれをひき起こす。
【0033】
この変化は可逆的である。海泡石の再水和によって、元の構造に戻すことができる。500℃の温度で、海泡石は結晶化の2つの残存水分子を失い、そして追加の構造変化はないが、この時点で構造の折りたたみは不可逆となる。アタパルガイトは熱処理中に、同様な構造変化を受ける。金属塩または水酸化物をその対応酸化物に分解するのに実施する熱処理および次の金属酸化物粒子を還元する工程中に、折りたたみの間および構造の端に位置する開放チャンネルがつぶれる間に、これらの粒子が閉じ込められて、金属ナノ粒子のマイグレーションや粒子融合およびより大きな粒度の粒子を形成しうる成長プロセスが防止される。
【0034】
この結果、粒度が30nm以下であって、かつ金属塩、水酸化物および酸化物の含浸(impregnation)条件の関数および還元条件の関数として制御できる単分散ナノ粒子を得、また、10〜5nm間に維持できる制御粒度を得ることができ、そして5nm以下の粒度をも得ることが可能である。このメカニズムは、微小繊維状粒子の軸に沿ったナノ粒子の線状配置、続いて針状粒子の表面上の構造の端に位置する開放チャンネルを説明する。
【0035】
このセクションは、添付図面を参照して説明される本発明の実施態様の幾つかの実施例の記載を包含する。
図1Aは、実施例1に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持された銅ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図1Bは、これも実施例1に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図2Aは、実施例1に係る海泡石支持体上にゲルハーダイト(gerhardite)として沈殿した銅を示すX線回折図である。
図2Bは、実施例1に係る最終製品のX線回折図である。
【0036】
図3は、実施例1により得られる最終製品の拡散反射率で測定したKulbeka−Munk単位で表わした吸光度スペクトルである。
図4Aは、実施例2に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持された銀ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図4Bは、実施例2に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図5Aは、実施例2に係る海泡石支持体上に沈殿した酸化銀を示すX線回折図である。
図5Bは、実施例2に係る最終製品を示すX線回折図である。
【0037】
図6は、実施例2に従って得られる最終製品の拡散反射率で測定したKulbeka−Munk単位の吸光度スペクトルを示す。
図7Aは、実施例3に記載の方法に従って得られる、アタパルガイト上に支持された銅ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図7Bは、実施例3に記載の方法に従って得られる、アタパルガイト上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図8Aは、実施例3に係るアタパルガイト支持体上に水酸化硫酸銅として沈殿した銅を示すX線回折図である。
図8Bは、実施例3に係る最終製品を示すX線回折図である。
【実施例】
【0038】
本発明の種々の実施態様の実施例:
実施例1
製法手順は、理論含浸量5%に対し1リットルの硝酸銅溶液(1リットル当り28.51gの硝酸銅)を調製することにより始める。次いで該溶液をpH2に酸性化して、銅塩の溶解を確実にする。
【0039】
ミキサーにて、超微粉砕の海泡石の水分散液を調製し、ここで、粒子の99.9%の粒度は44μm以下で、95%の粒度は5μm以下である。分散液の濃度は10%固形分(1500gのプレゲルに対し150gの乾燥海泡石ベース)であり、該分散液を機械式攪拌機で5分間混合する。次いでこのクレーの予備分散液(pHは約9.0)をpH2に酸性化し、次に硝酸銅希釈溶液を加え、混合物をさらに5分間攪拌して、該希釈溶液と海泡石の完全な接触を確実にする。硝酸銅希釈溶液中の海泡石分散液は、海泡石濃度6%を有する。
【0040】
その後、最終pH=5.3に到達するまで、1M水酸化ナトリウムを加えることにより、銅はgerhardite(Cu4(NO3)2(OH)6)として沈殿する(図2A)。水酸化ナトリウム希釈溶液をゆっくり加え、その間混合物を機械攪拌する。いったん水酸化銅が沈殿すれば、分散液を減圧濾過し、洗浄し、150℃でオーブン乾燥する。このプロセス中に、海泡石のBET比表面積は439m2/gから121m2/gに減少するのが認められた。
【0041】
次いで先駆物質を持つ海泡石を、管状切断面オーブン中10%H2/90%Arの制御雰囲気による還元プロセスに付す。オーブンにプログラミング装置を取付けて、温度をコントロールする(±1℃)。還元サイクルは、10℃/分の間隔増加で混合物を加熱して500℃の温度に到達せしめ、該温度を2時間維持した後、オーブン内部のフリー冷却期間を必要とする。
【0042】
このプロセスの結果、海泡石繊維支持体上に小さな銅ナノ粒子が得られる。該ナノ粒子は単分散の外観を呈し、かつ添付の顕微鏡写真(図1Aおよび1B)で観察できるように、海泡石繊維の方向と平行に配置している。
【0043】
最後に、H2雰囲気中で実施するか焼プロセスを行ない、上記比表面積をさらに減少させてその値を87m2/gに到達せしめる。
還元試料のX線回折図は、物質(最終製品)が現実に海泡石と金属銅から成ることを示す(図2B)。
【0044】
かくして得られる粒子の金属性質並びにそれらの分散パターンの追加の証拠は、可視紫外範囲内の拡散反射率スペクトルを分析することによって得られる。微細(波長より小さい粒度)でかつ分散した金属が電磁線と相互作用すると、十分に特徴のある出現度数(frequency),表面プラズモン(plasmon)として公知の集合電子励起現象を呈する[C. F. BohrenおよびD. R. Huffmanの“Absorption and Scattering of Light by Small Spheres”, Ed. John Wiley and Sons, New York, 1983, pages 325 on]。
【0045】
この現象が起こる出現度数において、該金属の誘電率の実部は、マトリックスの誘電率のマイナス2倍(E(W)=−2Em)に匹敵することが証明される。この出現度数は、吸収最大によって実験的に認めることができるが、各金属に対して特異的であるので、金属ナノ粒子の金属性質の識別証明として役に立つ。銅の場合、実験スペクトルは2.2eVで最大吸収を示すが(図3)、これは空気中の銅ナノ粒子に相当すると思われる値に一致する[“Handbook of Optical Constants of Solids”, Edited by E. D. Palik, Academic Press, 1985, Orlando, USA]。
【0046】
実施例2
1リットル当り35.45gの硝酸銀を含有する硝酸銀希釈溶液を調製し、次いでHNO3を用いてpH=2に酸性化する。次に該硝酸銀希釈溶液に、固形分濃度10%の海泡石予備分散液を加える。海泡石予備分散液は、ハイパワー剪断翼を持つ機械式攪拌機にて海泡石を5分間分散させて、クレー粒子の良好な分散を確実にすることにより、調製される。本例で用いた海泡石は、TOLSA S.A.製造のレオロジーグレードの海泡石PANGELである。
【0047】
いったん海泡石予備分散液を硝酸銀希釈溶液に対し、Ag/海泡石の比が15/100となるように添加すれば、混合物を高剪断設定でさらに5分間攪拌し、次いでなお攪拌しながら、1M−NaOH溶液をpH=12となるまでゆっくりと加える。pHの上昇により、銀先駆物質の沈殿が起こり、次いで海泡石の表面上に均質に沈着する。その後、分散液を減圧濾過し、150℃でオーブン乾燥する。
【0048】
このプロセス中、海泡石のBET比表面積は439m2/gから204m2/gに減少する。
銀先駆物質(この場合はAg2O)を持つ海泡石(図5A)を、実施例1で記載したものと同様な管状切断面オーブン中の還元プロセスに付し、温度を400℃に設定する。
【0049】
このプロセスの結果として得られる粒子は、細長い海泡石粒子であって、その上に小さな銀ナノ粒子が海泡石繊維の長軸に対し平行方向に出現している。これらの粒子の映像は、図4Aおよび4Bで見ることができる。この場合、数nmの小ナノ粒子と共に、約15nmの多少の粒子が見られる。
【0050】
いったん酸化銀粒子を還元すれば、粉末の最終比表面積は112m2/gに減少する。
還元試料のX線回折図は、物質が現実に海泡石と銀から成ることを示す(図5B)。
【0051】
実施例1と同様に、銀を持つ海泡石試料の光学吸収を、紫外線の可視範囲の拡散反射率によりKulbeka−Munk単位で測定した。この場合、プラズモンも可視であるが、それは高い出現度数のときで(3.4eV)、銀ナノ粒子の場合と同様に不規則なアスペクトを示す(図6)。
【0052】
実施例3
1リットル当り79.11gの硫酸銅を含有する硫酸銅溶液を最初に調製し、次いでpH値2が得られるまでH2SO4を加えて酸性化する。その後、固形分濃度が10%であるアタパルガイトの予備分散液を加える。アタパルガイト予備分散液は、ハイパワー剪断翼を持つ機械式攪拌機にてアタパルガイトを5分間分散させて、クレー粒子の良好な分散を確実にすることにより、調製される。
【0053】
使用したアタパルガイトは、特許出願EP−A−0170299に記載の手順に従い湿式条件で超微粉砕した、Engelhard Corporation製のATTAGEL40である。いったんアタパルガイト予備分散液を硫酸銅希釈溶液に対し、Cu/アタパルガイトの比が15/100となるように添加すれば、混合物を高剪断設定でさらに5分間攪拌し、次いでなお攪拌しながら、1M−NaOH溶液をpH=5.5となるまでゆっくりと加える。pHの上昇により、水酸化硫酸銅の一相の沈殿が起こり(図8A)、次いでアタパルガイトの表面上に均質に沈着する。その後、分散液を減圧濾過し、150℃でオーブン乾燥する。
【0054】
先駆物質を持つアタパルガイトを、管状切断面オーブン中10%H2/90%Arの制御雰囲気条件下の還元プロセスに付す。還元サイクルは加熱プロセスであって、ここで、温度を10℃/分にて上昇させて最終温度500℃に到達せしめ、該温度を2時間維持した後、オーブン内部のフリー冷却期間を設ける。
【0055】
このプロセスの結果として得られる粒子は、アタパルガイト繊維で支持された銅ナノ粒子である。この場合、針状ナノ粒子はアタパルガイト繊維の方向に対し平行配置で出現する。それらの大きさは、長さ約30nm×幅数nmである(図7B)。それらを徹底的に観察すると、これらのナノ粒子は約3nmのナノ粒子クラスターによって作られているのが認められる。
還元試料のX線回折図は、物質が現実にアタパルガイトと金属銅から成ることを示す(図8B)。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】実施例1で得た最終製品(銅ナノ粒子/海泡石)の顕微鏡写真である。
【図1B】図1Aを拡大したものである。
【図2A】実施例1で得た銅先駆物質(Cu4(NO3)2(OH)6)/海泡石のX線回折図である。
【図2B】実施例1で得た最終製品のX線回折図である。
【図3】実施例1で得た最終製品の吸光度スペクトルである。
【図4A】実施例2で得た最終製品(銀ナノ粒子/海泡石)の顕微鏡写真である。
【図4B】図4Aを拡大したものである。
【図5A】実施例2で得た銀先駆物質(Ag2O)/海泡石のX線回折図である。
【図5B】実施例2で得た最終製品のX線回折図である。
【図6】実施例2で得た最終製品の吸光度スペクトルである。
【図7A】実施例3で得た最終製品(銅ナノ粒子/アタパルガイト)の顕微鏡写真である。
【図7B】図7Aの拡大したものである。
【図8A】実施例3で得た水酸化硫酸銅(Cu4(SO4)(OH)6)/アタパルガイトのX線回折図である。
【図8B】実施例3で得た最終製品のX線回折図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は概して、ナノ粒子分野、特に金属ナノ粒子に関し、さらに詳しくは、支持体に均質に分散したナノ粒子の技術領域に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノ物質またはナノ構造物質は、粒度範囲が1〜100nm(10−9〜10−7m)にある粒子によって構成される不均質系である。これらの系は、マイクロメートル粗粒の粒度をもつ等価系に見られるそれとは非常に異なることが可能な物理的特性を有する。最も顕著な物理的特性の中で、ナノメートル規模で出現するものとしては、量子化現象(電荷、電子量);閉じ込め現象(電子、誘電性[Flytzanis C.、Hache F.、Kelin M.C.、
Ricard D.およびRoussignol Ph.の“Nonlinear Optics in Composite Materials”,
Prog. Optics,29, 322 (1991)]);モノドメインの存在(結晶性、強磁性[B.D.
Cullity の“Introduction to Magnetic Materials”, Addison Wesley, California, 1972, 117−119 および309−311]、強誘電性);巨磁気抵抗効果[J.I.Gittleman、Y.
Goldstein および S.Bozowski の Phys.Rev.B5,3609(1972)];Hall−Petch 効果またはディスロケーション(転位)パイルアップ(dislocation Pileups)の抑制[H.Gleiter のProgress in Mater. Sci., 33, 223 (1989); V.G. Gryzanov および L.I.Trusov の
Progress Mater. Sci., 37, 289 (1993)]等がある。
【0003】
目下、これらナノ粒子物質の生産および特性決定の両方に関し、さらに新しい製品や考案物の製造を目的とするグローバルR+Dでの大なる努力が集中している。
特に、金属ナノ粒子が最も研究されているナノ物質の1つであるが、それは、絶縁体や導体あるいは両方の混合物に対し独特な物理的特性を示すからである[H.Gleiter の
Progress in Mater. Sci., 33, 223 (1989); V.G.Gryaznov および L.I.Trusov の
Progress Mater. Sci., 37, 289 (1993)]。これらの物質は目下、コロイドプロセスや触媒作用化学プロセスで使用されている。一方、予想される点は、近い将来に金属ナノ物質が“オプト(opto)”および/または電子考案物の製造に使用しうることである。
【0004】
目下、ナノ粒子の合成は幾つかの方法で遂行されており、かかる方法として、たとえば機械的賦活法[Eric Gaffet、Fre'deric Bernad、Jean−Claude Niepce、Fre'deric
Charlot、Chirstophe Gras、Ge'rard Le Cae'r、Jean−Louis Guichard、Pierre Delcroix、Alain Mocellin および Olivier Tillement の“Some Recent Developments in
Mechanical Activation and Mechanosynthesis”, Journal of Material Chemistry, 9, 305−314 (1998)]; 湿式合成法(先駆物質の熱水および熱分解),ゾル−ゲル法[D.G.Morris の“Mechanical Behavior of Nanostructured Materials”, Vol. 2 of Materials Science Foundations, Trans Tech Publications Ltd., (1998)]; 気相中合成,電気化学法[Ebrahimi F.Bourne、G.R.Kelly、M.S. および Matthews T.E. の Nanostruct.
Mater., 1999,11, 343]; 化学的エピタクシー成長法[Veprek S.J. の Vac.Sci.Technol.A, 1997, 17, 2401]; CVD(化学蒸着)法、または分子ビーム[Philip Moriarty の Nanostructured Materials, Reports on Progress in Physics, 64, 297−381 (2001)](MBE, Molecular Beam Epitaxy),イオンスパッタリング法[J.Musil、I.Leipner 、M.
Kolega の Surf. Coat.Tech., 115, 32−37 (1999)]等がある。
【0005】
これらの技法で得られる物質の種類に応じて、エピタクシー技法(MBE、CVDおよびアブレーション)と質量(massive)技法(他の全て)に分類される。しかして、これらの物質を製造するときに遭遇する主な問題の1つは、クラスター(cluster)への傾向であって、ナノメートル寸法に固有の性質を消失させることである。ミクロ構造の良好なコントロールが達成される場合のみ(たとえばMBEにおいて)、製造される物質の量は非常に少なく、これは可能な製造コストをかなりに増加させ、かつ実行可能な産業活用を妨げる。
【0006】
このことは、幾つかの企業グループに対して、酸化物マトリックス中に完全に分散したナノ結晶を得るのにかなりの努力をささげるよう促した理由である[K.Niihara の“
New Design Concept of Structural Ceramics−Ceramic Nanocomposites”, J.Ceram.
Soc. Jpn. 99 (1991) , 974; S.T.Oh、M.Sando および K.Niihara の“Mechanical and
magnetic properties of Ni−Co dispersed Al2O3 nanocomposites”J.Mater.Sci. 36 (2001), 1817; T.Sekino および K.Niihara の“Microstructural characteristics
and mechanical properties for Al2O3/metal nanocomposites”, Nanostructural
Materials, Vol. 6 (1995) , 663; T.Sekino、T.Nakajima、S.Ueda および K.Niihara の“Reduction and Sintering of a Nickel−Dispersed−Alumina Composite and its
Properties”, J.Am.Ceram.Soc., 80, 5 (1997), 1139; M.Nawa、T.Sekino および K.
Niihara の “Fabrication and Mechanical Properties of Al2O3/Mo Nanocomposites”, J.Mater.Sci., 29 (1994), 3183; S.T.Oh、T.Sekino および K.Niihara の“Fabrication and Mechanical Properties of 5% vol Copper Dispersed Alumina Nanocomposite”, J.Eur.Ceram.Soc., 18 (1998) 31; R.Z.CHen および W.H.TUan の“Pressureless
Sintering of Al2O3/Ni Nanocomposites”, J.Eur.Ceram.Soc., 19 (1999), 463; K.
Niihara、T.Sekino、Y.H.Choa、T.Kusunose、Y.Hayashi、K.Akamatsu、N.Bamba、T.Hirano および S.Ueda の“Nanocomposite Structural Ceramics with Advanced Properties”, Proc. 4th Japan International SAMPE (1995)]。
【0007】
そのことは、産業上将来の見通しから、金属ナノ粒子を製造する簡単かつ有効で安価な方法の開発がかなり注目されている当該分野においてのことであり、何故なら、ナノ物質の特性に基づく新しい考案物の製造を非常な競争値段で可能ならしめるからである。
【発明の開示】
【0008】
本発明の目的は、金属化合物を支持体と接触させて均質に分散させて(ここで、支持体は、疑似層状のフイロ珪酸塩クレーから選ばれた珪酸塩網状構造を有する少なくとも1種のクレーである)、工業的規模のナノ粒子を製造する簡単で経済的かつ実行可能な方法を付与することにより、現行技術に存在する障害のほとんどを解消することである。
【0009】
本発明によれば、上記クレーは海泡石クレーであってよく、具体的には、天然鉱物海泡石や処理した海泡石、たとえばレオロジーグレードの海泡石(たとえば特許出願EP−A−0170299およびEP−A−0454222に記載の、繊維破損を実質的に回避する特殊な超微粉砕プロセスにより、天然海泡石から得られる、スペイン、マドリッドのTOLSA S.A.よりPANGEL商標で市販されているものなど)、鉱物または処理したアタパルガイト(atapulgite)、たとえばレオロジーグレードのアタパルガイト(米国のEngelhard Corporation より製造商品化されているATTAGEL製品部類や、
Floridin Company により提供のMIN−U−GEL製品部類に見られるもの、あるいはアタパルガイトを特許出願EP−A−0170299に記載のプロセスで処理して得られるものなど)が挙げられる。
【0010】
便宜上、支持体は粒度が44μm以下、好ましくは5μm以下の粉末である。
海泡石およびアタパルガイトもしくはパリゴルスカイト(palygorskite)は、疑似層状(pseudolaminar)のフイロ珪酸塩クレーに属し、またパリゴルスカイト−海泡石群(類)としても公知であり、その構造は微小繊維状もしくは針状形態に限定される。
【0011】
このため、海泡石は水和マグネシウム系(magnesic)珪酸塩であるが、アルミニウム含有(aluminic)海泡石(ここで、八面体位の19%がアルミニウムイオンで占められている)、鉄含有海泡石(キシロタイル(xylotile)と称す)、ニッケル含有海泡石(ファルコンドイト(falcondoite))およびナトリウム含有海泡石(ラフリナイト(loughlinite))もある。パリゴルスカイトもしくはアタパルガイトは、水和珪酸アルミニウム・マグネシウムであって、海泡石のそれに似た構造を持つ。Brauner およびPreisinger によれば、海泡石は構造上、マグネシウム八面体の中心層に酸素原子を介して珪素八面体の2層が結合して構成されるタルク型ストランドで形成されている。
【0012】
これらのタルク型ストランドは、珪素四面体層が連続するように配列されているが、珪素四面体は六単位の間隔で反転している。この構造は、海泡石粒子の針状形態に限定され、c軸に沿って細長くかつゼオライトチャンネル(溝)(channels)と呼ばれるチャンネルが存在し、針状粒子のc軸の方向に配向し、3.7Å×10.6Åの寸法を有し、水と他の液体が浸透することができる。この構造の結果として、海泡石は、多きな外部表面ばかりでなく、ゼオライトチャンネルによって生じる内部表面による、非常に大きな比表面積を有する。
【0013】
海泡石の理論上の全比表面積は、構造用モデルに基づき計算すると、900m2/gあり、その内400m2/gは外部面積に属し、および500m2/gは内部面積に属する。しかしながら、海泡石表面の全てが、全ての分子に対し均等に利用できる(accessible)とは限らない。海泡石の利用できる表面は、使用する吸着質、その寸法およびその極性に左右され、かつクレーの微細孔やゼオライトチャンネルへの吸着質分子の接近可能性(accessibility)を定める。N2に対する利用できるBET表面は、300m2/g以上であり、最も大きな表面の1つは、天然のコンパウンド(compound)に見られる。
【0014】
アタパルガイトは類似の構造を有するが、この場合、珪素四面体の反転は、海泡石の場合と同様に他の6つの全ての四面体の代わりに、他の4つの全ての四面体を生ずる。その結果、アタパルガイトのゼオライトチャンネルは、3.7Å×6.4Åの、すなわち、海泡石のチャンネルより小さい切断面を有し、従って、アタパルガイト比表面積は、大きいが、約150m2/gであり、これも海泡石のそれより小さい。
【0015】
海泡石およびアタパルガイトの微小繊維状粒子は、その自然状態では、大きな乾燥堆のそれに類似した構造において針状粒子がランダムに配列した大きな束(bundles)を形成するクラスターで配置している。かくして形成される構造は、非常に多孔性で、かつ大量の中間孔と巨大孔を有する。特殊な微粉砕および超微粉砕技法、たとえば特許出願EP−A−0170299に記載の技法を用いることにより、これらの微小繊維ビーム(
microfiber beams)を個々の微小繊維状粒子に脱集塊する(de−agglomerate)ことが可能で、しかも、高い“アスペクト比”、すなわち、長さ/直径比を維持することができる。
【0016】
これらの手順は、被吸着分子の外部表面への接近を容易にならしめ、このため、吸着のために利用できる表面を増大する。表面に吸着した水(特に、構造の端に位置する内部ゼオライトチャンネルおよび開放チャンネルの両方における、海泡石の場合のマグネシウム原子またはアタパルガイトの場合のマグネシウムおよびアルミニウム原子の配位を完成する、結晶化の水分子に水素結合橋を介して結合する水)を除くため、海泡石やアタパルガイトを熱処理すれば、これらクレーの吸着能力の増加にも役立つ。
【0017】
クレー表面上に金属ナノ粒子を得るには、パリゴルスカイト−海泡石クレー、たとえば海泡石、アタパルガイトおよびこれらの組合せ、および海泡石および/またはアタパルガイト鉱物のいずれかの使用によって行なうことができ、但し、これらのクレーは総濃度が50%(好ましくは85%)を上回って存在する。何故なら、他の鉱物、たとえば方解石、ドロマイト、長石、マイカ、石英またはスメクタイトの混入は、その上にナノ粒子を形成できるクレーの効力を弱め、また製品の最終特性並びに塩、水酸化物または酸化物の沈殿中や金属の還元に適用される熱処理中のプロセス自体の発現にも影響を及ぼしうるからである。
【0018】
また金属化合物は少なくとも、金属元素の塩、水酸化物および酸化物から選ばれた先駆物質であり、該金属元素は、クレーの珪酸塩網状構造がつぶれる温度(破壊温度)以下の温度で還元されやすい金属元素から選ばれる。適当な金属元素としては、Fe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびそれらの合金もしくは組合せが挙げられる。これらの金属元素は、水溶性塩(クロリド、硝酸塩および硫酸塩)などの先駆物質中に存在する。
【0019】
また本発明で記載の製造法は、先駆物質を支持体に沈着させる沈着工程を包含し、また該製造法は、先駆物質が塩および水酸化物から選ばれたときに、先駆物質を選択金属元素の酸化物に分解する制御雰囲気中の熱分解工程も必要とする。その後に還元工程を実施し、ここで、金属元素の酸化物を制御した酸素分圧(Po2)および温度条件下の完全還元プロセスに付して、最終的に支持体上に沈着した金属ナノ粒子を得る。
【0020】
かかる製造法は、クレーの珪酸塩網状構造が破壊するような温度以下の温度で、好ましくは850℃以下の温度で行なうが、それは、それより高い温度では、海泡石やアタパルガイトが根深い構造変態をこうむり、珪酸塩網状構造の破壊、並びに海泡石のガラス質相の場合の、クリノステアタイト(clinosteatite)などの他工程の潜在的出現の結果となるからである。
【0021】
沈着工程の具体例の1つは、先駆物質を水に溶解して先駆物質の希釈溶液を得、該溶液に支持体を分散させて先駆物質/支持体分散液を得、次いで先駆物質/支持体分散液を乾燥させて乾燥先駆物質/支持体粒子を得ることを必要とする。クレーの分散度を高めるのに、好ましい方法は、ハイパワー剪断翼による機械式攪拌を利用することである。
【0022】
好ましくは、そして所望の結果に応じて、先駆物質希釈溶液を先駆物質濃度が5〜15%となるように調整し、水または先駆物質希釈溶液に希釈される支持体を5〜15%濃度に調整する。加えて、便宜上、支持体/先駆物質分散液を、支持体の表面上に得るべきナノ粒子の所望密度の関数として、金属元素/支持体の重量比が0.1:100〜100:100、より好ましくは5:100〜50:100となるように調整されてよい。
【0023】
支持体/先駆物質分散液のpHを上げることにより、先駆物質を支持体に沈殿させることが目的であるとき、これは、乾燥段階の前に塩基の添加で達せられる。粒子がクレー表面に均質に沈着するためには、先駆物質の沈殿は制御の方法で行なわなければならない。
【0024】
また先駆物質/支持体分散液を、乾燥段階にとりかかる前に濾過し、および/または乾燥段階の前に固/液分離技法により分離する。濾過または固/液分離を行って、使用した金属塩イオン含有溶液から、表面に金属先駆物質が沈着したクレーを分離することが好ましいが、直接乾燥を行っても、分散液に存在する水の全てを蒸発させることができる。
【0025】
場合によって、濾過して金属先駆物質が沈着したクレーの分離を行なうとき、クレーを洗って、痕跡するいずれの可溶塩も除去することが推奨される。次の工程は熱処理であって、制御雰囲気条件下で実施し、金属塩または水酸化物の適切な酸化物への分解を行ない(但し、該クレーに沈着した先駆物質は上記の酸化物ではない);さらに次の工程は、金属酸化物の適切な金属への還元である。還元の条件(温度および酸素分圧)は、使用する金属元素に左右される。
【0026】
上記技法の利用で、常に30nm以下粒度の、支持体に沈着した単分散金属ナノ粒子を得ることができ、また極めて頻繁には、10〜5nm間のコントロール粒度を得ることから、多様な応用用途に有用なナノ微粒の“ナノ複合材料”物質の形成が可能となる。
【0027】
すなわち、金属元素をCu、Ag、Au、Rh、Pd、Ir、Ni、Ptおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、それ自体触媒または触媒の一成分として有用であり、一方、金属元素がAgであると、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は殺生物剤として、あるいは殺生物剤の一成分として有用である。同じく、金属元素がCuであると、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は殺カビ剤として、あるいは殺カビ剤製品の一成分として有用である。
【0028】
また金属元素をCu、Ag、Auおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、オプトエレクトロニクス(光電子工学)物質の成分として有用であり、一方、金属元素をFe、Ni、Coおよびこれらの組合せから選ぶと、ナノ微粒の“ナノ複合材料”物質は、強磁性流体の成分として有用である。
【0029】
このプロセスにおいて、使用するクレーはいずれの粒度を有してもよいが、ナノ粒子がクレー粒子の表面に形成されるとき、ナノ粒子形成に利用可能な粒子の表面が最大限可能な粒度となるためには、最小限可能な粒度を持つクレー製品の使用が望ましい。このように、クレーは44μm以下の粒度を持つ微粉砕粉末で加えることができる。
【0030】
またレオロジーグレードの製品、たとえば特許出願EP−A−0170299に記載されるような、湿式超微粉砕プロセスによって得られるレオロジーグレードの海泡石も使用でき、この場合、粒子の高い“アスペクト比”を維持しながら、自由に移動する針状粒子が得られ、かつ脱集塊プロセスにより沈着に利用できるより自由な表面状態になる。さらに、この超微粉砕プロセスに従って処理した、コロイド性のクレーはより高い安定性を有しかつ金属塩希釈溶液により良好に分散して、より均質なコーティングが見込まれる。
【0031】
上記の情報から、本発明に記載の製造法は、これら金属塩、酸化物または水酸化物のクレー表面上への沈着、次いで対応する金属を得る予定の還元処理に基づくことが示される。還元プロセスは、制御雰囲気条件下で実施する熱処理によって行なわれる。注目しうる点は、このプロセスで形成されるナノ粒子の粒度が30nm以下で、標準的には約3nmの粒度であり、しかも、表面上に均質に分布し、そしてクラスターになっていないことである。
【0032】
かかるナノ粒子は、線状に分布し、かつ微小繊維状粒子の縦軸に沿って配向する。この特別に配置した金属ナノ粒子の形成の可能な理由は、熱処理中の海泡石やアタパルガイトがもたらす変態かもしれない。350℃で海泡石は、4分子の水和水の2つを失って、海泡石構造の折りたたみ(folding)をひき起こし、かつ珪酸塩の八面体層の端に位置するカチオンが、隣接珪素の四面体層の酸素分子との配位を完成するために、ゼオライトチャンネルのつぶれをひき起こす。
【0033】
この変化は可逆的である。海泡石の再水和によって、元の構造に戻すことができる。500℃の温度で、海泡石は結晶化の2つの残存水分子を失い、そして追加の構造変化はないが、この時点で構造の折りたたみは不可逆となる。アタパルガイトは熱処理中に、同様な構造変化を受ける。金属塩または水酸化物をその対応酸化物に分解するのに実施する熱処理および次の金属酸化物粒子を還元する工程中に、折りたたみの間および構造の端に位置する開放チャンネルがつぶれる間に、これらの粒子が閉じ込められて、金属ナノ粒子のマイグレーションや粒子融合およびより大きな粒度の粒子を形成しうる成長プロセスが防止される。
【0034】
この結果、粒度が30nm以下であって、かつ金属塩、水酸化物および酸化物の含浸(impregnation)条件の関数および還元条件の関数として制御できる単分散ナノ粒子を得、また、10〜5nm間に維持できる制御粒度を得ることができ、そして5nm以下の粒度をも得ることが可能である。このメカニズムは、微小繊維状粒子の軸に沿ったナノ粒子の線状配置、続いて針状粒子の表面上の構造の端に位置する開放チャンネルを説明する。
【0035】
このセクションは、添付図面を参照して説明される本発明の実施態様の幾つかの実施例の記載を包含する。
図1Aは、実施例1に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持された銅ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図1Bは、これも実施例1に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図2Aは、実施例1に係る海泡石支持体上にゲルハーダイト(gerhardite)として沈殿した銅を示すX線回折図である。
図2Bは、実施例1に係る最終製品のX線回折図である。
【0036】
図3は、実施例1により得られる最終製品の拡散反射率で測定したKulbeka−Munk単位で表わした吸光度スペクトルである。
図4Aは、実施例2に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持された銀ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図4Bは、実施例2に記載の方法に従って得られる、海泡石上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図5Aは、実施例2に係る海泡石支持体上に沈殿した酸化銀を示すX線回折図である。
図5Bは、実施例2に係る最終製品を示すX線回折図である。
【0037】
図6は、実施例2に従って得られる最終製品の拡散反射率で測定したKulbeka−Munk単位の吸光度スペクトルを示す。
図7Aは、実施例3に記載の方法に従って得られる、アタパルガイト上に支持された銅ナノ粒子の顕微鏡写真である。
図7Bは、実施例3に記載の方法に従って得られる、アタパルガイト上に支持されたナノ粒子の少し引き伸ばした顕微鏡写真である。
図8Aは、実施例3に係るアタパルガイト支持体上に水酸化硫酸銅として沈殿した銅を示すX線回折図である。
図8Bは、実施例3に係る最終製品を示すX線回折図である。
【実施例】
【0038】
本発明の種々の実施態様の実施例:
実施例1
製法手順は、理論含浸量5%に対し1リットルの硝酸銅溶液(1リットル当り28.51gの硝酸銅)を調製することにより始める。次いで該溶液をpH2に酸性化して、銅塩の溶解を確実にする。
【0039】
ミキサーにて、超微粉砕の海泡石の水分散液を調製し、ここで、粒子の99.9%の粒度は44μm以下で、95%の粒度は5μm以下である。分散液の濃度は10%固形分(1500gのプレゲルに対し150gの乾燥海泡石ベース)であり、該分散液を機械式攪拌機で5分間混合する。次いでこのクレーの予備分散液(pHは約9.0)をpH2に酸性化し、次に硝酸銅希釈溶液を加え、混合物をさらに5分間攪拌して、該希釈溶液と海泡石の完全な接触を確実にする。硝酸銅希釈溶液中の海泡石分散液は、海泡石濃度6%を有する。
【0040】
その後、最終pH=5.3に到達するまで、1M水酸化ナトリウムを加えることにより、銅はgerhardite(Cu4(NO3)2(OH)6)として沈殿する(図2A)。水酸化ナトリウム希釈溶液をゆっくり加え、その間混合物を機械攪拌する。いったん水酸化銅が沈殿すれば、分散液を減圧濾過し、洗浄し、150℃でオーブン乾燥する。このプロセス中に、海泡石のBET比表面積は439m2/gから121m2/gに減少するのが認められた。
【0041】
次いで先駆物質を持つ海泡石を、管状切断面オーブン中10%H2/90%Arの制御雰囲気による還元プロセスに付す。オーブンにプログラミング装置を取付けて、温度をコントロールする(±1℃)。還元サイクルは、10℃/分の間隔増加で混合物を加熱して500℃の温度に到達せしめ、該温度を2時間維持した後、オーブン内部のフリー冷却期間を必要とする。
【0042】
このプロセスの結果、海泡石繊維支持体上に小さな銅ナノ粒子が得られる。該ナノ粒子は単分散の外観を呈し、かつ添付の顕微鏡写真(図1Aおよび1B)で観察できるように、海泡石繊維の方向と平行に配置している。
【0043】
最後に、H2雰囲気中で実施するか焼プロセスを行ない、上記比表面積をさらに減少させてその値を87m2/gに到達せしめる。
還元試料のX線回折図は、物質(最終製品)が現実に海泡石と金属銅から成ることを示す(図2B)。
【0044】
かくして得られる粒子の金属性質並びにそれらの分散パターンの追加の証拠は、可視紫外範囲内の拡散反射率スペクトルを分析することによって得られる。微細(波長より小さい粒度)でかつ分散した金属が電磁線と相互作用すると、十分に特徴のある出現度数(frequency),表面プラズモン(plasmon)として公知の集合電子励起現象を呈する[C. F. BohrenおよびD. R. Huffmanの“Absorption and Scattering of Light by Small Spheres”, Ed. John Wiley and Sons, New York, 1983, pages 325 on]。
【0045】
この現象が起こる出現度数において、該金属の誘電率の実部は、マトリックスの誘電率のマイナス2倍(E(W)=−2Em)に匹敵することが証明される。この出現度数は、吸収最大によって実験的に認めることができるが、各金属に対して特異的であるので、金属ナノ粒子の金属性質の識別証明として役に立つ。銅の場合、実験スペクトルは2.2eVで最大吸収を示すが(図3)、これは空気中の銅ナノ粒子に相当すると思われる値に一致する[“Handbook of Optical Constants of Solids”, Edited by E. D. Palik, Academic Press, 1985, Orlando, USA]。
【0046】
実施例2
1リットル当り35.45gの硝酸銀を含有する硝酸銀希釈溶液を調製し、次いでHNO3を用いてpH=2に酸性化する。次に該硝酸銀希釈溶液に、固形分濃度10%の海泡石予備分散液を加える。海泡石予備分散液は、ハイパワー剪断翼を持つ機械式攪拌機にて海泡石を5分間分散させて、クレー粒子の良好な分散を確実にすることにより、調製される。本例で用いた海泡石は、TOLSA S.A.製造のレオロジーグレードの海泡石PANGELである。
【0047】
いったん海泡石予備分散液を硝酸銀希釈溶液に対し、Ag/海泡石の比が15/100となるように添加すれば、混合物を高剪断設定でさらに5分間攪拌し、次いでなお攪拌しながら、1M−NaOH溶液をpH=12となるまでゆっくりと加える。pHの上昇により、銀先駆物質の沈殿が起こり、次いで海泡石の表面上に均質に沈着する。その後、分散液を減圧濾過し、150℃でオーブン乾燥する。
【0048】
このプロセス中、海泡石のBET比表面積は439m2/gから204m2/gに減少する。
銀先駆物質(この場合はAg2O)を持つ海泡石(図5A)を、実施例1で記載したものと同様な管状切断面オーブン中の還元プロセスに付し、温度を400℃に設定する。
【0049】
このプロセスの結果として得られる粒子は、細長い海泡石粒子であって、その上に小さな銀ナノ粒子が海泡石繊維の長軸に対し平行方向に出現している。これらの粒子の映像は、図4Aおよび4Bで見ることができる。この場合、数nmの小ナノ粒子と共に、約15nmの多少の粒子が見られる。
【0050】
いったん酸化銀粒子を還元すれば、粉末の最終比表面積は112m2/gに減少する。
還元試料のX線回折図は、物質が現実に海泡石と銀から成ることを示す(図5B)。
【0051】
実施例1と同様に、銀を持つ海泡石試料の光学吸収を、紫外線の可視範囲の拡散反射率によりKulbeka−Munk単位で測定した。この場合、プラズモンも可視であるが、それは高い出現度数のときで(3.4eV)、銀ナノ粒子の場合と同様に不規則なアスペクトを示す(図6)。
【0052】
実施例3
1リットル当り79.11gの硫酸銅を含有する硫酸銅溶液を最初に調製し、次いでpH値2が得られるまでH2SO4を加えて酸性化する。その後、固形分濃度が10%であるアタパルガイトの予備分散液を加える。アタパルガイト予備分散液は、ハイパワー剪断翼を持つ機械式攪拌機にてアタパルガイトを5分間分散させて、クレー粒子の良好な分散を確実にすることにより、調製される。
【0053】
使用したアタパルガイトは、特許出願EP−A−0170299に記載の手順に従い湿式条件で超微粉砕した、Engelhard Corporation製のATTAGEL40である。いったんアタパルガイト予備分散液を硫酸銅希釈溶液に対し、Cu/アタパルガイトの比が15/100となるように添加すれば、混合物を高剪断設定でさらに5分間攪拌し、次いでなお攪拌しながら、1M−NaOH溶液をpH=5.5となるまでゆっくりと加える。pHの上昇により、水酸化硫酸銅の一相の沈殿が起こり(図8A)、次いでアタパルガイトの表面上に均質に沈着する。その後、分散液を減圧濾過し、150℃でオーブン乾燥する。
【0054】
先駆物質を持つアタパルガイトを、管状切断面オーブン中10%H2/90%Arの制御雰囲気条件下の還元プロセスに付す。還元サイクルは加熱プロセスであって、ここで、温度を10℃/分にて上昇させて最終温度500℃に到達せしめ、該温度を2時間維持した後、オーブン内部のフリー冷却期間を設ける。
【0055】
このプロセスの結果として得られる粒子は、アタパルガイト繊維で支持された銅ナノ粒子である。この場合、針状ナノ粒子はアタパルガイト繊維の方向に対し平行配置で出現する。それらの大きさは、長さ約30nm×幅数nmである(図7B)。それらを徹底的に観察すると、これらのナノ粒子は約3nmのナノ粒子クラスターによって作られているのが認められる。
還元試料のX線回折図は、物質が現実にアタパルガイトと金属銅から成ることを示す(図8B)。
【図面の簡単な説明】
【0056】
【図1A】実施例1で得た最終製品(銅ナノ粒子/海泡石)の顕微鏡写真である。
【図1B】図1Aを拡大したものである。
【図2A】実施例1で得た銅先駆物質(Cu4(NO3)2(OH)6)/海泡石のX線回折図である。
【図2B】実施例1で得た最終製品のX線回折図である。
【図3】実施例1で得た最終製品の吸光度スペクトルである。
【図4A】実施例2で得た最終製品(銀ナノ粒子/海泡石)の顕微鏡写真である。
【図4B】図4Aを拡大したものである。
【図5A】実施例2で得た銀先駆物質(Ag2O)/海泡石のX線回折図である。
【図5B】実施例2で得た最終製品のX線回折図である。
【図6】実施例2で得た最終製品の吸光度スペクトルである。
【図7A】実施例3で得た最終製品(銅ナノ粒子/アタパルガイト)の顕微鏡写真である。
【図7B】図7Aの拡大したものである。
【図8A】実施例3で得た水酸化硫酸銅(Cu4(SO4)(OH)6)/アタパルガイトのX線回折図である。
【図8B】実施例3で得た最終製品のX線回折図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
支持体に均質に分散した金属ナノ粒子を製造する方法において、
上記支持体は、疑似層状のフイロ珪酸塩クレーから選ばれた珪酸塩網状構造を有する少なくとも1種のクレーであり;金属化合物は、金属元素の塩、水酸化物および酸化物から選ばれた少なくとも1種の先駆物質であり;
該金属元素が、クレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で還元されやすい金属元素から選ばれ;および上記金属ナノ粒子の粒度が30nm以下であり;さらに該方法が、
上記先駆物質を支持体に沈着させる沈着工程、
上記先駆物質が塩および水酸化物から選ばれたときに、先駆物質を分解処理に付して、先駆物質を金属元素の酸化物に変換する、制御雰囲気条件下で実施される熱分解工程、および
上記金属元素の酸化物を還元プロセスに付して、支持体に沈着した金属元素のナノ粒子を得る、制御条件下で実施される熱還元工程
から成り、かつ該方法がクレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で実施される
ことを特徴とする金属ナノ粒子の製造法。
【請求項2】
熱分解工程および熱還元工程を、850℃以下の温度で実施する請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
クレーが海泡石クレーである請求項1に記載の製造法。
【請求項4】
クレーがレオロジーグレードの海泡石である請求項1に記載の製造法。
【請求項5】
クレーがアタパルガイトである請求項1に記載の製造法。
【請求項6】
クレーがレオロジーグレードのアタパルガイトである請求項1に記載の製造法。
【請求項7】
金属元素がFe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらの合金から選ばれる請求項1に記載の製造法。
【請求項8】
先駆物質が金属元素の水溶性塩である請求項1に記載の製造法。
【請求項9】
塩がクロリド、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩およびハライドから選ばれる請求項8に記載の製造法。
【請求項10】
沈着工程が、
先駆物質を水に溶解して先駆物質の溶液を得、
該先駆物質溶液に支持体を分散させて先駆物質/支持体分散液を得、
該先駆物質/支持体分散液を乾燥させて乾燥先駆物質/支持体粒子を得る
ことを必要とする請求項1に記載の製造法。
【請求項11】
先駆物質/支持体分散液を乾燥前に濾過する請求項10に記載の製造法。
【請求項12】
乾燥にとりかかる前に、固/液分離技法により支持体/先駆物質を分離する請求項10に記載の製造法。
【請求項13】
支持体分散液を、支持体濃度が5〜15%となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項14】
支持体/先駆物質分散液を、金属元素/支持体の重量比が0.1:100〜100:100となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項15】
支持体/先駆物質分散液を、金属元素/支持体の重量比が5:100〜50:100となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項16】
乾燥段階の前に、支持体/先駆物質分散液に塩基を加えてそのpHを上げることにより、先駆物質を支持体に沈殿させる請求項10に記載の製造法。
【請求項17】
支持体が、50%濃度以上の少なくとも1種のクレーを有する請求項1に記載の製造法。
【請求項18】
支持体が、85%濃度以上の少なくとも1種のクレーを有する請求項1に記載の製造法。
【請求項19】
支持体が粒度44μm以下の粉末である請求項1に記載の製造法。
【請求項20】
金属ナノ粒子の粒度が10〜3nmである請求項1に記載の製造法。
【請求項21】
金属ナノ粒子が支持体の表面に沈着して成るコンパウンド物質であって、請求項1〜20のいずれか1に記載の製造法によって得られることを特徴とするコンパウンド物質。
【請求項22】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCu、Ag、Au、Rh、Pd、Ir、Ni、Pt、およびこれらの組合せから選ばれることを特徴とする触媒。
【請求項23】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がAgであることを特徴とする殺生物剤物質。
【請求項24】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCuであることを特徴とする殺カビ剤物質。
【請求項25】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCu、Ag、Auおよびこれらの組合せから選ばれることを特徴とするオプトエレクトロニクス物質。
【請求項26】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がFe、Ni、Coおよびこれらの組合せから選ばれることを特徴とする強磁性流体。
【請求項1】
支持体に均質に分散した金属ナノ粒子を製造する方法において、
上記支持体は、疑似層状のフイロ珪酸塩クレーから選ばれた珪酸塩網状構造を有する少なくとも1種のクレーであり;金属化合物は、金属元素の塩、水酸化物および酸化物から選ばれた少なくとも1種の先駆物質であり;
該金属元素が、クレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で還元されやすい金属元素から選ばれ;および上記金属ナノ粒子の粒度が30nm以下であり;さらに該方法が、
上記先駆物質を支持体に沈着させる沈着工程、
上記先駆物質が塩および水酸化物から選ばれたときに、先駆物質を分解処理に付して、先駆物質を金属元素の酸化物に変換する、制御雰囲気条件下で実施される熱分解工程、および
上記金属元素の酸化物を還元プロセスに付して、支持体に沈着した金属元素のナノ粒子を得る、制御条件下で実施される熱還元工程
から成り、かつ該方法がクレーの珪酸塩網状構造の破壊温度以下の温度で実施される
ことを特徴とする金属ナノ粒子の製造法。
【請求項2】
熱分解工程および熱還元工程を、850℃以下の温度で実施する請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
クレーが海泡石クレーである請求項1に記載の製造法。
【請求項4】
クレーがレオロジーグレードの海泡石である請求項1に記載の製造法。
【請求項5】
クレーがアタパルガイトである請求項1に記載の製造法。
【請求項6】
クレーがレオロジーグレードのアタパルガイトである請求項1に記載の製造法。
【請求項7】
金属元素がFe、Co、Ni、Cu、Mo、Ru、Rh、Pd、Ag、W、Re、Os、Ir、Pt、Auおよびこれらの合金から選ばれる請求項1に記載の製造法。
【請求項8】
先駆物質が金属元素の水溶性塩である請求項1に記載の製造法。
【請求項9】
塩がクロリド、硝酸塩、硫酸塩、酢酸塩、リン酸塩およびハライドから選ばれる請求項8に記載の製造法。
【請求項10】
沈着工程が、
先駆物質を水に溶解して先駆物質の溶液を得、
該先駆物質溶液に支持体を分散させて先駆物質/支持体分散液を得、
該先駆物質/支持体分散液を乾燥させて乾燥先駆物質/支持体粒子を得る
ことを必要とする請求項1に記載の製造法。
【請求項11】
先駆物質/支持体分散液を乾燥前に濾過する請求項10に記載の製造法。
【請求項12】
乾燥にとりかかる前に、固/液分離技法により支持体/先駆物質を分離する請求項10に記載の製造法。
【請求項13】
支持体分散液を、支持体濃度が5〜15%となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項14】
支持体/先駆物質分散液を、金属元素/支持体の重量比が0.1:100〜100:100となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項15】
支持体/先駆物質分散液を、金属元素/支持体の重量比が5:100〜50:100となるように調整する請求項10に記載の製造法。
【請求項16】
乾燥段階の前に、支持体/先駆物質分散液に塩基を加えてそのpHを上げることにより、先駆物質を支持体に沈殿させる請求項10に記載の製造法。
【請求項17】
支持体が、50%濃度以上の少なくとも1種のクレーを有する請求項1に記載の製造法。
【請求項18】
支持体が、85%濃度以上の少なくとも1種のクレーを有する請求項1に記載の製造法。
【請求項19】
支持体が粒度44μm以下の粉末である請求項1に記載の製造法。
【請求項20】
金属ナノ粒子の粒度が10〜3nmである請求項1に記載の製造法。
【請求項21】
金属ナノ粒子が支持体の表面に沈着して成るコンパウンド物質であって、請求項1〜20のいずれか1に記載の製造法によって得られることを特徴とするコンパウンド物質。
【請求項22】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCu、Ag、Au、Rh、Pd、Ir、Ni、Pt、およびこれらの組合せから選ばれることを特徴とする触媒。
【請求項23】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がAgであることを特徴とする殺生物剤物質。
【請求項24】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCuであることを特徴とする殺カビ剤物質。
【請求項25】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がCu、Ag、Auおよびこれらの組合せから選ばれることを特徴とするオプトエレクトロニクス物質。
【請求項26】
請求項1〜6および8〜21のいずれか1に記載の製造法によって得られるコンパウンド物質から成り、かつ金属元素がFe、Ni、Coおよびこれらの組合せから選ばれることを特徴とする強磁性流体。
【図1A】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【図1B】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4A】
【図4B】
【図5A】
【図5B】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8A】
【図8B】
【公表番号】特表2007−509234(P2007−509234A)
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−534772(P2006−534772)
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000441
【国際公開番号】WO2005/035124
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506129359)トルサ・ソシエダッド・アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】TOLSA, S.A.
【Fターム(参考)】
【公表日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月15日(2004.10.15)
【国際出願番号】PCT/ES2004/000441
【国際公開番号】WO2005/035124
【国際公開日】平成17年4月21日(2005.4.21)
【出願人】(506129359)トルサ・ソシエダッド・アノニマ (2)
【氏名又は名称原語表記】TOLSA, S.A.
【Fターム(参考)】
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