説明

金属ナノ粒子の連続製造装置及び連続製造方法

【課題】金属ナノ粒子を大量に合成できる実用性に優れた連続製造装置及び連続製造方法を提供する。
【解決手段】連続製造装置100では、原料導入部1Bを介して原料である錯化反応液と貴金属塩をそれぞれ別々に、あるいは混合状態で反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。そして、マイクロ波発生部10で発生したマイクロ波を、マイクロ波導入部1Aから反応容器1内に導入し、卑金属のギ酸塩と貴金属塩を含む反応混合液に照射する。これにより、貴金属塩が加熱還元されてAgなどの微粒子が生成するとともに、卑金属のカルボン酸塩が還元され、この微粒子を核として卑金属原子の層が成長することにより金属ナノ粒子が生成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の連続製造装置及び連続製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子として、Ag、Au、Ptなどの貴金属類や、Fe、Ni、Cu、Coなどの卑金属類が知られているが、最近ではコストの面から卑金属のナノ粒子が注目を浴びている。また、ナノ粒子化することにより、貴金属と同等の触媒活性が卑金属でも発現できるという報告もなされており、ニッケルをはじめとする卑金属類の金属ナノ粒子の大量合成方法の開発が望まれている。例えば、ニッケルナノ粒子は、銀ナノ粒子等の貴金属ナノ粒子よりも安価であることから、例えば触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等の幅広い分野への利用が期待されている。
【0003】
金属ナノ粒子の合成に関して、マイクロ波を利用して、粒子の均一性の高いニッケルナノ粒子を製造する技術が提案されている(例えば、特許文献1)。しかし、この提案の技術は、あくまでもバッチ反応を前提としており、金属ナノ粒子を大量合成するために必要な連続プロセスへ適用するには、改良が必要であった。
【0004】
ところで、マイクロ波の産業的な利用に関しては、電子レンジなどのようにバッチ反応が一般的であるが、マイクロ波を加熱源とする連続プロセスも数例の提案がされている(例えば特許文献2〜5)。このうち、特許文献2は、金属ナノ粒子ではなく水熱によるチタン酸バリウムの合成に関するものであるが、加圧容器内の原料にマイクロ波照射を行って加熱することが記載されている。特許文献2では、回分式のみならず連続合成も可能であると記載されているものの、その場合の具体的な装置構成や条件などについての検討はされておらず、詳細は述べられていない。
【0005】
特許文献3〜5では、マイクロ波を照射できるアプリケータ内に反応物質を流通できる流通管を通す、連続フロー式が提案されている。特許文献3は、マイクロ波加熱を用いた流通反応装置でシングルモードキャビティを使用するものであるが、金属錯体の連続合成について応用されるものであり、金属ナノ粒子の合成の可能性については触れられていない。特許文献4も同じくマイクロ波加熱を用いた流通反応装置であるが、シングルモードキャビティを使用するものであり、反応管の径もせいぜい2.9mmと非常に小さい。この特許文献4では、反応管内を流れる溶液との接触面積を広げる工夫はされているものの、大量合成にはほど遠い。また、特許文献4では、金属ナノ粒子の合成の可能性については触れられていない。
【0006】
特許文献5は、同様にマイクロ波加熱を用いた流通反応装置であり、反応液流路を形成している充填層は、マイクロ波を透過する固体物質(樹脂、ガラス、セラミックス)によって構成されている。しかし、この特許文献5の装置を金属ナノ粒子の合成に適用した場合、反応液流路の内壁面に生成した金属ナノ粒子が徐々に付着して金属鏡が形成されてしまうと考えられる。反応液流路の内壁面に金属鏡が形成されてしまうと、そこでマイクロ波が反射されてしまうため、反応液流路を流れる反応前駆体までマイクロ波が到達できなくなって合成反応が進行しないことが懸念される。この点は、細い流通管を使用する特許文献3、4についても同様である。
【0007】
一方、特許文献6は、金属ナノ粒子の連続合成に関して、反応前駆体が流通する直径1〜50mmの反応器チャンネルを螺旋形構造のコンデンサ形式の加熱装置によって外側から加熱する方法が提案されている。しかし、特許文献6では、マイクロ波加熱については一切言及されていない。
【0008】
以上のように、金属ナノ粒子を大量に合成する技術は現在までのところ確立されていない状況にあり、実用化に耐えうる大量生産技術の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特許3005683号公報
【特許文献2】特開2010−202440号公報
【特許文献3】特開2010−215677号公報
【特許文献4】特開2010−207735号公報
【特許文献5】特開2010−184230号公報
【特許文献6】特開2008−285749号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記実情に鑑みてなされたものであり、金属ナノ粒子を大量に合成できる実用性に優れた連続製造装置及び連続製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、卑金属のギ酸塩および1級アミンの混合物を加熱して生成した卑金属錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の貴金属塩と、を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、前記原料供給部から、前記錯化反応液及び前記貴金属塩を、前記原料導入部を介して前記反応容器内に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内に導入し、前記錯化反応液及び前記貴金属塩をマイクロ波で加熱することにより金属ナノ粒子を生成させ、該金属ナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収するものである。
【0012】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記卑金属が、ニッケル、銅及びコバルトからなる群より選択される1種以上であってもよい。
【0013】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給するものであってもよいし、前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給するものであってもよい。
【0014】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の反応混合液の液面よりも上方に設けられていてもよい。この場合、前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えていてもよい。
【0015】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器が金属製であってもよい。
【0016】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器内の気相若しくは液相中に不活性ガスを導入するガス導入部と、前記反応容器内のガスを排出するガス排出部をさらに有していてもよい。
【0017】
本発明の第1の観点の金属ナノ粒子の連続製造方法は、上記第1の観点のいずれかの金属ナノ粒子の連続製造装置を用い、金属ナノ粒子を製造するものである。
【0018】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、金属のカルボン酸塩および1級アミンの混合物を加熱して生成した金属錯体を含有する錯化反応液を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、
前記反応容器は、前記反応混合液Sにマイクロ波を直接照射することによって金属核の形成を優勢的に行う第1の領域と、該第1の領域から前記反応混合液を流入可能に連通して設けられ、前記第1の領域で生成した金属核からの粒子の成長を優勢的に行う第2の領域を、を少なくとも含む複数の領域に区分されており、
前記原料供給部から、前記錯化反応液を、前記原料導入部を介して前記反応容器内の第1の領域の反応混合液に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内の第1の領域に導入し、前記錯化反応液を含む反応混合液をマイクロ波で加熱することにより前記反応混合液中で金属核を形成するとともに、該金属核を含む反応混合液を前記第2の領域に流入させ、該第2の領域で前記金属核から粒子を成長させて金属ナノ粒子を生成させ、該金属ナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収するものである。
【0019】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に、前記反応混合液の流通を可能としながら前記第2の領域へのマイクロ波の進入を抑制する貫通開口を有する仕切り壁を有するものであってもよい。
【0020】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記第1の領域と前記第2の領域との間に、前記反応混合液の流通を可能としながら前記第2の領域へのマイクロ波の進入を抑制する狭隘部分を有するものであってもよい。
【0021】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置において、前記原料供給部は、前記錯化反応液に加え、さらに前記第1の領域内の反応混合液に、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の貴金属塩を連続的または間欠的に供給するものであり、前記第1の領域内で、該貴金属塩から金属核の形成を行うものであってもよい。
【0022】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給するものであってもよいし、前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給するものであってもよい。
【0023】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置において、前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の第1の領域において、前記反応混合液の液面よりも上方に設けられていてもよい。
【0024】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えていてもよい。
【0025】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器が金属製であってもよい。
【0026】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造装置は、前記反応容器内の気相若しくは液相中に不活性ガスを導入するガス導入部と、前記反応容器内のガスを排出するガス排出部をさらに有していてもよい。
【0027】
本発明の第2の観点の金属ナノ粒子の連続製造方法は、上記第2の観点のいずれかの金属ナノ粒子の連続製造装置を用い、金属ナノ粒子を製造するものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明によれば、マイクロ波照射を利用し、粗大粒子をほとんど含まない金属ナノ粒子を連続的にかつ大量に合成できるため、工業的規模での大量生産が可能である。また、本発明により得られる金属ナノ粒子は、粗大粒子の成長が抑えられ、粒子径が比較的均一であるため、例えば触媒、磁性材料、積層セラミックコンデンサにおける電極等の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】本発明の第1の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置の概略構成図である。
【図2】原料供給部の構成例を示す図面である。
【図3】原料供給部の別の構成例を示す図面である。
【図4】ニッケル錯体の構造を示す図であり、(a)は二座配位、(b)は単座配位、(c)は外圏にカルボン酸イオンが存在した状態を、それぞれ示す。
【図5】本発明の第2の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置の概略構成図である。
【図6】本発明の第3の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置の概略構成図である。
【図7】本発明の第4の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置の概略構成図である。
【図8】実施得例1で得られた180分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図9】参考例1で得られた180分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【図10】実施例2で得られた180分経過後のニッケルナノ粒子のSEM写真を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、本発明の実施の形態について、図面を参照しながら説明する。
[第1の実施の形態]
図1に、本発明の第1の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置100の概要を示した。この連続製造装置100は、連続攪拌槽型反応装置(CSTR)として構成され、主要な構成として、反応容器1と、マイクロ波発生部10と、原料供給部20と、を備えている。
【0031】
[反応容器]
反応容器1は、例えば円筒形などの縦長の形状をなし、マイクロ波を反射する性質を有する材質、例えばアルミニウム、ステンレス等の金属により形成されている。反応容器1を金属で形成することにより、反応容器1内に導入されたマイクロ波が、反応容器1の内壁面で反射するため、反応容器1内の原料にむらなく均一にマイクロ波を照射できる。また、金属のシールド機能により、反応容器1の外部へのマイクロ波の漏洩を防止できる。このように、反応容器1は、マイクロ波を直接錯化反応液及び貴金属塩を含む反応混合液Sの液面LSの上部より照射できる釜型をしており、その壁面はマイクロ波を効率的に反射できる金属でできている。そのため、反応容器1の内壁面に金属ナノ粒子の生成による金属鏡が生成しても問題は生じない。これに対し、反応容器1がガラス、セラミックス、樹脂などの場合には、生成する金属粒子が壁面に付着したときに、マイクロ波の集中により局部的に高温となり、変形・破損するおそれがある。
【0032】
反応容器1は、マイクロ波を導入するマイクロ波導入部1A、原料を導入する原料導入部1B、及び、反応生成物を排出する排出部1Cを備えている。また、反応容器1は、反応混合液S中で生成する水分を除去する目的で、反応容器1内へ不活性ガスを供給するガス導入部1D及び1E、並びに、ガス排出部1Fを備えている。
【0033】
マイクロ波導入部1Aは、導波管11によってマイクロ波発生部10と接続され、マイクロ波を反応容器1内に導入できるように構成されている。マイクロ波導入部1Aは、図示は省略するが、例えば石英などの誘電体からなるマイクロ波透過窓部材を備えていてもよい。本実施の形態の連続製造装置100では、マイクロ波導入部1Aは、反応容器1内の反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けられている。マイクロ波導入部1Aを反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けることによって、反応容器1内でマイクロ波を反応混合液Sの上部から浸透させることが可能である。また、マイクロ波導入部1Aを反応容器1内の反応混合液Sの液面LSより上方に十分な距離で離間して設けることによって、マイクロ波透過窓部材に金属Niが付着してマイクロ波の導入の妨げになるといった不都合を回避できる。
【0034】
原料導入部1Bは、配管21によって、原料供給部20に接続され、原料を反応容器1内に供給できるように構成されている。本実施の形態では、原料導入部1Bは、反応容器1の上部に設けられ、反応容器1内の反応混合液Sの上部から、原料を投入できるように構成されている。また、本実施の形態では、図1に示したように、マイクロ波導入部1Aと原料導入部1Bを共に反応容器1の上部において反応混合液Sの液面LSよりも上方に設けたので、反応混合液Sの上部に新しく供給された原料中の未反応の卑金属錯体や、シードとなる貴金属塩に対して、反応混合液Sの上部からマイクロ波を照射できるため、還元反応の効率を高めることができる。
【0035】
排出部1Cは、還元反応によって生成した金属ナノ粒子を含有する反応混合液Sを排出する。排出部1Cは、図示しないポンプや流量調節バルブなどを備えた排出管に接続されている。排出部1Cからの反応生成物の排出は、連続的又は間欠的に行うことができる。なお、図1において、排出部1Cは、反応容器1の底部に位置する例を示しているが、生成したニッケルナノ粒子を排出できれば、排出部1Cを備える位置は特に制限されず、例えば反応混合液Sの液面LSより下部の反応容器1の側面に備えてもよいし、反応混合液Sをオーバーフロー方式にしてニッケルナノ粒子を排出できるような位置に備えてもよい。
【0036】
ガス導入部1D及び1Eはいずれも図示しないガス供給源に接続されている。ここで、不活性ガスとしては、例えば窒素ガスのほか、アルゴンガスなどの希ガスを用いることができる。
【0037】
ガス導入部1Dは、反応容器1内の反応混合液Sの液面LSより上方の気相中に不活性ガスを導入する。ガス導入部1Dは、反応混合液Sの液面LSより上方で気相中にガスを導入できれば図示の位置に限らない。
【0038】
ガス導入部1Eは、反応容器1内の反応混合液Sの液面LSより下方の液相中に不活性ガスを導入し、バブリングを行う。ガス導入部1Eは、反応混合液Sの液面LSより下方で液相にガスを導入できれば図示の位置に限らない。
【0039】
ガス排出部1Fは、反応容器1内の気相中のガスを排出できるように、反応混合液Sの液面LSより上方に設けられている。ガス排出部1Fは、反応混合液Sの液面LSより上方であれば図示の位置に限らない。
【0040】
ガス導入部1D及び/又は1Eから、不活性ガスを気相中または液相中に導入するとともに、ガス排出部1Fから排気することで、反応容器1内で発生した水(水蒸気)、反応が進行するに従って副生するアンモニア、低揮発のアミン成分等が、不活性ガスとともに排出され、反応容器1内から除去される。なお、ガス導入部1D及び/又は1Eは、どちらか片方を設ければよいが、水分の除去効率を高める観点からは、両方設けることが好ましい。
【0041】
また、反応容器1は、導入された原料を攪拌する攪拌手段として、攪拌機3を備えている。攪拌手段としては、簡便な構成で均一に攪拌できる観点から、図1に示すように、攪拌子として回転羽根を有するものが好ましい。すなわち、攪拌機3は、回転駆動部3aと、回転軸3bと、回転羽根3cとを備えている。このような攪拌機としては、例えば、ホモミキサー、ホモディスパー、リボンミキサーなどの慣用のミキサーを挙げることができる。攪拌機3を構成する回転軸3b及び回転羽根3cも金属製とすることが好ましい。回転軸3b及び回転羽根3cがガラス、セラミックス、樹脂などの場合には、生成する金属粒子が付着したときに、マイクロ波の集中により局部的に高温となり、変形・破損するおそれがある。回転羽根3cの形状は、特に限定されず、例えば、タービン形、プロペラ形など任意の形状のものを利用できる。なお、攪拌手段としては、上記機械的攪拌手段に限らず、例えば有機溶媒などの液流による攪拌、窒素、ヘリウム、アルゴン、空気などの気体によるバブリングなどを利用することもできる。
【0042】
[マイクロ波発生部]
マイクロ波発生部10は、例えばマグネトロン、クライストロンなどを有するマイクロ波発振器(図示省略)を備えている。マイクロ波発生部10は、例えば300MHz〜300GHzの範囲内のマイクロ波を発生できるように構成されている。また、マイクロ波発生部は、必要に応じてパルス発振機能を有していてもよく、マイクロ波を所定のデューティー比でパルス状に発生させてもよい。
【0043】
[原料供給部]
原料供給部20は、原料導入部1Bを介して原料を反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。原料としては、卑金属のカルボン酸塩および1級アミンの混合物を加熱して生成した卑金属錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩、金塩等から選択される1または2以上の貴金属塩と、を含むものが用いられる。
【0044】
図2及び3は、原料供給部20の代表的な構成例を示している。図2は、単一の原料容器23A内に、錯化反応液と貴金属塩とを混合状態して収容した態様であり、図3は、原料容器23B内に錯化反応液を、原料容器23C内に貴金属塩を、それぞれ別々に収容した態様である。図2に示した例では、原料容器23Aに接続された配管22Aには、流量調節装置(MFC)25Aと、バルブ27A1,27A2が設けられており、錯化反応液と貴金属塩との混合原料を所定の流量で反応容器1内に供給できるように構成されている。なお、図2において、配管22Aは、図1の配管21に接続されている。
【0045】
図3に示した例では、原料容器23Bに接続された配管22Bには、流量調節装置(MFC)25Bと、バルブ27B1,27B2が設けられており、錯化反応液を所定の流量で反応容器1内に供給できるように構成されている。また、ホッパー様の原料容器23Cには、バルブ27Cが設けられた配管22Cが接続され、所定量の貴金属塩を反応容器1内に供給できるように構成されている。なお、図3において、貴金属塩を溶液で供給する場合は、配管22Cに流量調節装置(MFC)やバルブを設けてもよい。図3において、配管22B,22Cは、途中で合流して図1の配管21に接続されていてもよいし、それぞれ別々に反応容器1に接続されていてもよい。
【0046】
また、図2及び図3に示したように、錯化反応液を含む原料を収容する原料容器23A又は23Bには、温度調節装置29を設けることができる。温度調節装置29は、原料容器23A又は23B内の錯化反応液を所定の温度に温度調節する。これにより、均一な粒子径の金属ナノ粒子を得る上で重要な錯化反応液の温度管理を適切に行うことができる。すなわち、錯化反応液の温度を、反応容器1内で卑金属錯体(又は卑金属イオン)の還元反応が開始する温度よりも50℃以上、好ましくは100℃以上低温で、かつ、反応容器1内に錯化反応液を供給した場合に反応混合液Sの極端な温度低下が生じない温度範囲に調節することができる。
【0047】
なお、図2,図3に示した原料供給部20の構成はあくまでも例示であり、より多数の原料容器を設け、多種類の原料を供給できるようにしてもよいし、溶媒などの供給容器を備えていてもよい。
【0048】
ここで、原料である錯化反応液と貴金属塩について詳しく説明する。
【0049】
<錯化反応液>
錯化反応液とは、卑金属のカルボン酸塩、例えばギ酸塩と1級アミンの反応によって生成する反応生成液(反応生成物)をいう。
【0050】
(卑金属のカルボン酸塩)
卑金属のカルボン酸塩を構成する卑金属としては、例えば、ニッケル、銅、コバルトなどや、これらの2種以上の混合物を挙げることができる。これら卑金属のカルボン酸塩は、無水物であってもよく、また水和物であってもよい。カルボン酸としては、カルボン酸の種類を限定するものではなく、例えば、カルボキシ基が1つのモノカルボン酸であってもよく、また、カルボキシ基が2つ以上のカルボン酸であってもよい。また、非環式カルボン酸であってもよく、環式カルボン酸であってもよい。このようなカルボン酸塩として、非環式モノカルボン酸塩を好適に用いることができ、非環式モノカルボン酸塩のなかでも、ギ酸塩、酢酸塩、プロピオン酸塩、シュウ酸塩等を用いることがより好ましい。これらの非環式モノカルボン酸塩を用いることによって、例えば、得られるナノ粒子は、その形状のばらつきがより抑制され、均一な形状として形成されやすくなる。さらに、卑金属のカルボン酸塩として、ギ酸塩が好ましく、ギ酸塩はカルボン酸塩の中でも還元温度が150〜220℃と比較的低いので、連続的に還元反応を行う場合には、特に好適に利用できる。例えばニッケルのカルボン酸塩としては、還元温度の低いギ酸ニッケル(還元温度;190〜200℃)を用いることが最も好ましい。ギ酸ニッケルは、分解すると還元性の水素又は一酸化炭素を発生することから、マイクロ波加熱による還元反応を促進する作用も期待できる。また、ギ酸ニッケルは、比較的低温での分解が生じやすいことから、容易に0価のニッケル原子に分解されやすく、生成した0価のニッケル原子は、それ自体がニッケルナノ粒子の核となるとともに、生成したニッケルナノ粒子の核にも付着して、これらの核からニッケルナノ粒子の成長にも使用されることになる。更に、ギ酸そのものが分解しやすいので、錯化剤及び還元剤として作用するアミンとの副反応によるアミド化反応を抑制でき、副生する水を低減できるので、ニッケルナノ粒子の核の生成に必要な活性化エネルギーの上昇を抑えることができるため、核が発生しやすくなる。また、卑金属のカルボン酸塩は、2種以上を組み合わせて使用することが可能であり、例えばギ酸塩とともに酢酸塩を組み合わせて用いることが好ましい。このような組み合わせによって、ギ酸塩を核発生剤として機能させ、ギ酸塩よりも還元温度が高い酢酸塩を金属ナノ粒子の成長剤として機能させることができる。更に、金属種が異なるカルボン酸塩の2種以上を組み合わせて使用することもできる。例えばギ酸銅と酢酸ニッケルの組み合わせによって、銅−ニッケル合金とすることもできるし、ギ酸ニッケルと酢酸コバルトの組み合わせによって、ニッケルとコバルトによって構成されるコア−シェル構造(Core−shell)の金属ナノ粒子とすることもできる。なお、卑金属のカルボン酸塩に代えて、塩化物、硝酸塩、硫酸塩、炭酸塩、水酸化物等の無機塩を用いることも考えられるが、無機塩の場合、解離(分解)が高温であるため、解離後の卑金属イオン(又は卑金属錯体)を還元する過程で更なる高い温度での加熱が必要となるため好ましくない。また、例えばNi(acac)(β−ジケトナト錯体)、ステアリン酸ニッケル等の有機配位子により構成される卑金属塩を用いることも考えられるが、これらの卑金属塩を用いると、原料コストが高くなり好ましくない。
【0051】
(1級アミン)
1級アミンは、卑金属イオンと錯体を形成することができ、卑金属錯体(又は卑金属イオン)に対する還元能を効果的に発揮する。一方、2級アミンは立体障害が大きいため、卑金属錯体の良好な形成を阻害するおそれがあり、3級アミンは卑金属イオンの還元能を有しないため、いずれも使用できない。但し、1級アミンを使用している限りにおいては、1級アミンが優先的に錯体形成に使用されることから、有機溶媒等として2級アミン又は3級アミンを併用しても特に差し支えない。
【0052】
1級アミンは、卑金属イオンとの錯体を形成できるものであれば、その種類は特に限定されるものではなく、常温で固体又は液体のものが使用できる。ここで、常温とは、20℃±15℃をいう。常温で液体の1級アミンは、卑金属錯体を形成する際の有機溶媒としても機能する。なお、常温で固体の1級アミンであっても、100℃以上の加熱によって液体であるか、又は有機溶媒を用いて溶解するものであれば、特に問題はない。
【0053】
1級アミンは、分散剤としても機能し、卑金属錯体を錯化反応液中に良好に分散させることができるため、錯体形成後に卑金属錯体を加熱分解して金属ナノ粒子を得る際の粒子同士の凝集を抑えることができる。1級アミンは、芳香族1級アミンであってもよいが、錯化反応液における卑金属錯体形成の容易性の観点からは脂肪族1級アミンが好適である。脂肪族1級アミンは、例えばその炭素鎖の長さを調整することによって生成するナノ粒子の粒子径を制御することができ、特に平均粒子径が50nm以下の金属ナノ粒子を製造する場合において有利である。金属ナノ粒子の粒子径を制御する観点から、脂肪族1級アミンは、その炭素数が6〜20程度のものから選択して用いることが好適である。炭素数が多いほど得られるナノ粒子の粒子径が小さくなる。このようなアミンとして、例えばオクチルアミン、トリオクチルアミン、ジオクチルアミン、ヘキサデシルアミン、ドデシルアミン、テトラデシルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、ミリスチルアミン、ラウリルアミン等を挙げることができる。例えばオレイルアミンは、ナノ粒子生成過程に於ける温度条件下において液体状態として存在するため均一溶液での反応を効率的に進行できる。
【0054】
1級アミンは、ナノ粒子の生成時に表面修飾剤として機能するため、1級アミンの除去後においても二次凝集を抑制できる。また、1級アミンは、還元反応により生成したナノ粒子の固体成分と溶剤又は未反応の1級アミン等を分離する洗浄工程における処理操作の容易性の観点からも好ましい。更に、1級アミンは、卑金属錯体を還元して金属ナノ粒子を得るときの反応制御の容易性の観点からは還元温度より沸点が高いものが好ましい。すなわち、脂肪族1級アミンは、沸点が180℃以上のものが好ましく、200℃以上のものがより好ましい。また、脂肪族1級アミンは、炭素数が9以上であることが好ましい。ここで、例えば炭素数が9である脂肪族アミンのC21N(ノニルアミン)の沸点は201℃である。
【0055】
1級アミンの量は、卑金属のカルボン酸塩中に含まれる金属換算の卑金属1molに対して2mol以上用いることが好ましく、2.2mol以上用いることがより好ましく、4mol以上用いることが望ましい。1級アミンの量が2mol未満では、得られる金属ナノ粒子の粒子径の制御が困難となり、粒子径がばらつきやすくなる。また、1級アミンの量の上限は特にはないが、例えば生産性の観点からは卑金属のカルボン酸塩中に含まれる金属換算の卑金属1molに対して20mol以下程度とすることが好ましい。卑金属としてニッケルを用いる場合を例に挙げると、2価のニッケルイオンは配位子置換活性種として知られており、形成する錯体の配位子は温度、濃度によって容易に配位子交換により錯形成が変化する可能性がある。例えば卑金属のギ酸塩および1級アミンの混合物を加熱して錯化反応液を得る工程において、用いるアミンの炭素鎖長等の立体障害を考慮すると、例えば、図4に示すようなカルボン酸イオン(RCOO、RCOO)が二座配位(a)または単座配位(b)のいずれかで配位する可能性があり、さらにアミンの濃度が大過剰の場合は外圏にカルボン酸イオンが存在する構造(c)をとる可能性がある。目的とする反応温度(還元温度)において均一溶液とするには少なくともA、B、C、D、E、Fの配位子のうち少なくとも一箇所は1級アミンが配位している必要がある。その状態をとるには、1級アミンは過剰に反応溶液内に存在している必要があり、少なくとも卑金属イオン1molに対し2mol以上存在していることが好ましく、2.2mol以上存在していることがより好ましく、4mol以上存在していることが望ましい。
【0056】
錯化反応液を得るための錯形成反応は室温においても進行させることができるが、反応を確実、かつ、より効率的に行うために、100℃以上の温度で加熱を行う。この加熱は、卑金属のカルボン酸塩として、例えばギ酸ニッケル2水和物のような水和物を用いた場合に特に有利である。加熱温度は、好ましくは100℃を超える温度とし、より好ましくは105℃以上の温度とすることで、卑金属のカルボン酸塩に配位した配位水と1級アミンとの配位子置換反応が効率よく行われ、この錯体配位子としての水分子を解離させることができ、更にその水を系外に出すことができるので効率よく錯体を形成させることができる。例えば、ギ酸ニッケル2水和物は、室温では2個の配位水と2座配位子である2個のギ酸イオンが存在した錯体構造をとっているため、この2つの配位水と1級アミンの配位子置換により効率よく錯形成させるには、100℃より高い温度で加熱することでこの錯体配位子としての水分子を解離させることが好ましい。また、加熱温度は、卑金属錯体(又は卑金属イオン)のマイクロ波照射による加熱還元の過程と確実に分離し、錯形成反応を完結させるという観点から、175℃以下が好ましい。従って、錯化反応液形成における加熱温度は105℃〜175℃の範囲内が好ましく、より好ましくは、110〜150℃の範囲内である。このように、錯化反応液を形成する段階での加熱温度を、金属ナノ粒子を生成させる際の反応容器1内での反応混合液Sの加熱温度よりも確実に低くしておくことで、粒子径・形状の整った粒子が生成し易くなる。例えば、錯化反応液を形成する段階で加熱温度が高すぎると、卑金属錯体の生成と卑金属(0価)への還元反応が同時に進行し、金属ナノ粒子生成での形状の整った粒子の生成が困難となるおそれがある。また、金属ナノ粒子を生成させる際の加熱温度が低すぎると卑金属(0価)への還元反応速度が遅くなり、添加した貴金属塩由来の核及び卑金属錯体由来の核の発生が少なくなるため粒子が大きくなるだけでなく、金属ナノ粒子の収率の点からも好ましくはない。
【0057】
加熱時間は、加熱温度や、各原料の含有量に応じて適宜決定することができるが、錯形成反応を確実に完結させるという観点から、15分以上とすることが好ましい。加熱時間の上限は特にないが、長時間加熱することは、エネルギー消費及び工程時間を節約する観点から無駄である。なお、この加熱の方法は、特に制限されず、例えばオイルバスなどの熱媒体による加熱であっても、マイクロ波照射による加熱であってもよい。
【0058】
卑金属のカルボン酸塩と1級アミンとの錯形成反応は、卑金属のカルボン酸塩と1級アミンを混合して得られる溶液を加熱したときに、溶液の色の変化によって確認することができる。また、この錯形成反応は、例えば紫外・可視吸収スペクトル測定装置を用いて、300nm〜750nmの波長領域において観測される吸収スペクトルの吸収極大の波長を測定し、原料の極大吸収波長(例えばギ酸ニッケル2水和物ではその極大吸収波長は710nmであり、酢酸ニッケル4水和物ではその極大吸収波長は710nmである。)に対する錯化反応液のシフト(極大吸収波長が600nmにシフト)を観測することによって確認することができる。
【0059】
卑金属のカルボン酸塩と1級アミンとの錯形成により得られた錯化反応液は、後で説明するように、マイクロ波照射によって加熱することにより、卑金属錯体の卑金属イオンが還元され、卑金属イオンに配位しているカルボン酸イオンが同時に分解し、最終的に酸化数が0価の卑金属を含有する金属ナノ粒子が生成する。一般に卑金属のカルボン酸塩は水を溶媒とする以外の条件では難溶性であり、マイクロ波照射による加熱還元反応の前段階として、卑金属のカルボン酸塩を含む溶液は均一反応溶液とする必要がある。これに対して、本実施の形態で使用される1級アミンは、使用温度条件で液体であり、かつそれが卑金属イオンに配位することで液化し、均一反応溶液を形成すると考えられる。
【0060】
(有機溶媒)
均一溶液での反応をより効率的に進行させるために、錯化反応液には、1級アミンとは別の有機溶媒を含有してもよい。有機溶媒を用いる場合、有機溶媒を卑金属のカルボン酸塩及び1級アミンと同時に混合してもよいが、卑金属のカルボン酸塩及び1級アミンをまず混合し錯形成した後に有機溶媒を加えると、1級アミンが効率的に卑金属イオンに配位するので、より好ましい。使用できる有機溶媒としては、1級アミンと卑金属イオンとの錯形成を阻害しないものであれば、特に限定するものではなく、例えば炭素数4〜30のエーテル系有機溶媒、炭素数7〜30の飽和又は不飽和の炭化水素系有機溶媒、炭素数8〜18のアルコール系有機溶媒等を使用することができる。また、マイクロ波照射による加熱条件下でも使用を可能とする観点から、使用する有機溶媒は、沸点が170℃以上のものを選択することが好ましく、より好ましくは200〜300℃の範囲内にあるものを選択することがよい。このような有機溶媒の具体例としては、例えばテトラエチレングリコール、n−オクチルエーテル等が挙げられる。なお、錯形成反応に使用する1級アミンをそのまま錯化反応液でも有機溶媒として用いることができる。
【0061】
<貴金属塩>
貴金属塩は、例えばパラジウム塩、銀塩、白金塩、金塩等の貴金属塩から選択される。貴金属塩は、錯化反応液に添加され、混合される。貴金属塩を添加することで、金属ナノ粒子の生成起点となる核を多量に生じさせることが可能になり、連続合成においても目的とする金属ナノ粒子の粒子径を小さくすることができる。貴金属塩は、いずれも塩の種類を特に限定するものではない。塩を構成する酸(酸基)として、塩酸、硝酸、硫酸および酢酸を用いることは好適な実施の形態である。白金塩および金塩については、例えば塩化白金酸や塩化金酸を用いることも好適な実施の形態である。
【0062】
錯化反応液に加える貴金属塩の量は特に限定するものでないが、卑金属のカルボン酸塩中に含まれる金属換算の卑金属に対して貴金属塩を金属換算で0.01mol%以上加えると好適である。貴金属塩の量の上限は特にないが、例えば発明の効果とコストのバランス等を勘案して、卑金属のカルボン酸塩中に含まれる金属換算の卑金属に対して、貴金属塩の添加量を金属換算で5mol%以下に設定することが好ましい。
【0063】
原料となる上記錯化反応液と貴金属塩とは、原料供給部20において混合しておき、混合状態で反応容器1内に供給してもよいし、それぞれ別々に反応容器1内に供給し、反応容器1内で混合してもよい。図2に示したように、原料の錯化反応液と貴金属塩とを予め混合した状態で供給することにより、原料供給部20から原料導入部1Bに至るまでの配管21や流量制御装置などの構成を簡素化できるとともに、錯化反応液と貴金属塩とを十分に混合した状態で反応容器1内に供給できる。一方、図3に示したように、錯化反応液と貴金属塩とを、それぞれ別々に反応容器1内に供給する場合は、結晶生成の核となる貴金属塩の供給量を、卑金属錯体の量と独立して調節できる。このため、例えば貴金属塩の濃度を過飽和状態にして核の発生率を高くすることで、金属ナノ粒子を微細化し、金属ナノ粒子の過剰な成長を抑制するといった制御を容易に行うことが可能になる。
【0064】
[金属ナノ粒子の連続合成方法]
以上の構成を有する連続製造装置100では、原料導入部1Bを介して原料である錯化反応液と貴金属塩をそれぞれ別々に、あるいは混合状態で反応容器1内に連続的又は間欠的に供給する。反応容器1内の反応混合液Sは、攪拌機3により攪拌する。そして、マイクロ波発生部10で発生したマイクロ波を、マイクロ波導入部1Aから反応容器1内に導入し、卑金属錯体と貴金属塩とを含む反応混合液Sの上部から照射する。これにより、貴金属塩が加熱還元されてAgなどの貴金属の微粒子が生成するとともに、卑金属錯体が還元されてこの微粒子を核として金属ニッケル、金属銅、金属コバルトなどの原子が付着し、卑金属の核が生成し、成長することにより金属ナノ粒子が生成する。ここで、原料として供給される錯化反応液は、金属ナノ粒子の粒度分布をより均一に保つために、反応容器1内で卑金属錯体(又は卑金属イオン)の還元反応が開始する温度よりも50℃以上低温にしておくことが好ましく、100℃以上低温であることがより好ましい。
【0065】
反応容器1内では、卑金属錯体と貴金属塩とを含む反応混合液Sをマイクロ波で加熱することにより、卑金属錯体(又は卑金属イオン)を金属に還元して金属ナノ粒子を生成させる。マイクロ波で反応混合液Sを加熱することにより、マイクロ波が反応混合液S内に浸透するため、均一加熱が行われ、かつ、エネルギーを媒体に直接与えることができるため、急速加熱を行うことができる。これにより、反応混合液S全体を所望の均一な温度にすることができ、卑金属錯体(又は卑金属イオン)の還元、核生成、核からの粒子成長の各々の過程を反応混合液Sの全体において同時多発的に進行させ、粒子径分布の狭い単分散な粒子を短時間で連続的に製造することができる。このとき、添加された貴金属塩により、卑金属との酸化還元電位の違いによって、先にパラジウム、銀、白金又は金の金属微粒子が多数生成するため、これらを核として、その周囲に卑金属原子の層が形成されることにより、粗大粒子の生成を抑制し、粒子径のばらつきの小さい金属ナノ粒子の連続合成が実現する。従って、連続製造装置100を用いることにより、金属ナノ粒子を工業的規模で大量生産することが可能である。
【0066】
マイクロ波照射による加熱温度は、得られる金属ナノ粒子の形状のばらつきを抑制するという観点から、例えばギ酸ニッケル錯体の場合は、160℃以上であることが好ましく、180℃以上がより好ましく、また、例えば酢酸ニッケル錯体の場合は、200℃以上であることが好ましく、220℃以上がより好ましい。加熱温度の上限は特にないが、処理を効率的に行う観点からは例えば260℃以下程度とすることが好適である。なお、マイクロ波の波長は、特に限定されるものではないが、例えば2.45GHzとすることができる。
【0067】
マイクロ波による加熱時間は、反応容器1内における反応混合液Sの滞留時間によって制御することができる。この滞留時間は、特に限定するものではなく、例えば2〜10分程度とすることができる。反応容器1内における反応混合液Sの滞留時間は、主に排出部1Cにおける排出流量の調節によって行うことができる。卑金属のカルボン酸塩を原料として得られる卑金属錯体は、例えばギ酸ニッケル錯体の場合は180℃以上、また、例えば酢酸ニッケル錯体の場合は220℃以上の温度で、短時間で0価の卑金属原子に分解されると考えられる。生成した0価の卑金属原子は、それ自体が金属ナノ粒子の核となるとともに、生成した貴金属の核にも付着して、これらの核からの金属ナノ粒子の成長にも使用されることになる。したがって、滞留時間が長いほど、生成する金属ナノ粒子の粒子径がばらつきやすくなり、一方、滞留時間が短いほど、十分な金属ナノ粒子の成長が行われず粒子径が小さくなる傾向になる。このように、所望の粒子径の金属ナノ粒子を得るために、適宜滞留時間を調整すればよい。また、供給する卑金属錯体の濃度によっても粒子径は制御でき、例えば金属ナノ粒子の粒子径を大きくする場合には、卑金属錯体の濃度を高めに設定すればよい。
【0068】
CSTR方式の連続製造装置100による製造において、マイクロ波を加熱手段として用いる最大のメリットは、均一な粒度分布を得るというよりも、反応混合液Sの温度に比べ、より低温である錯化反応液を連続的(又は間欠的)に添加することによる反応混合液Sの温度低下を、マイクロ波の急速加熱により補い、反応温度を維持させることにある。通常の外部加熱の場合には、マイクロ波加熱ほどの急速加熱は不可能であることから、金属ナノ粒子の粒度分布が広くなるばかりか、反応容器1内の滞留時間を長く保つ必要があり、大量合成という面から不利となる。もちろん、連続製造装置100においても、補助的な外部加熱手段の併用は、マイクロ波の出力を抑える観点から好ましい。また、連続製造装置100において、均一な粒子径を有する金属ナノ粒子を連続的に生成させるには、マイクロ波照射によって加熱する際に卑金属錯体(又は卑金属イオン)の還元により生成する卑金属(0価)の核の発生・成長を速やかに行うことが重要である。本実施の形態では、錯化反応液とともに貴金属塩を反応混合液Sに供給することによって、Agなどの貴金属微粒子の核の生成を先行させ、この貴金属微粒子を核としてその周囲に卑金属原子による核を生じさせ、さらに卑金属粒子を成長させる方法を採用した。
【0069】
反応容器1内で反応混合液S中に生成した金属ナノ粒子は、スラリーの状態で排出部1Cから反応容器1外へ連続的又は間欠的に排出され、図示しない回収容器に回収される。このスラリーを静置分離し、上澄み液を取り除いた後、適当な溶媒を用いて洗浄し、乾燥することで、金属ナノ粒子が得られる。
【0070】
以上のように、連続製造装置100では、錯化反応液と貴金属塩を含む原料を、反応容器1の上部から、攪拌された反応混合液Sの液面LSへ向けて連続的に導入し、反応容器1の下部の排出部1Cから金属ナノ粒子を含んだ反応混合液Sを連続的に排出することができる。また、連続製造装置100では、反応容器1内に導入した錯化反応液及び貴金属塩を含む原料を所定時間反応させた後、反応混合液Sを一定量排出し、新しく原料を一定量導入し、また所定時間反応させた後、反応混合液Sを一定量排出し、さらに新しく原料を導入する、という操作を繰り返す半回分式での運転も可能である。
【0071】
[金属ナノ粒子]
以上説明したように、連続製造装置100では、平均粒子径が200nm以下、好ましくは10〜150nmの範囲内、より好ましくは、10〜100nmの範囲内の卑金属(Ni、Cu、Co、これらの2種以上の混合物)のナノ粒子を連続的に製造することができる。ここで、平均粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)により粉末の写真を撮影して、そのなかから無作為に200個を抽出したものの面積平均粒子径である。
【0072】
本実施の形態で得られる金属ナノ粒子の形状は、例えば球状、擬球状、長球状、立方体様、切頭四面体様、双角錘状、正八面体様、正十面体様、正二十面体様等の種々の形状であってよいが、例えば金属ナノ粒子を電子部品の電極に使用した場合の充填密度の向上という観点から、球状又は擬球状が好ましく、球状がより好ましい。ここで、ナノ粒子の形状は、走査電子顕微鏡(SEM)で観察することにより確認できる。このような金属ナノ粒子は、例えばインクジェット方式で吐出して用いる導電性ペーストや、高表面積の触媒、低融点を利用した金属バインダー、ブラックマトリックスなどの顔料等の用途に好適に用いることができる。そして、例えば積層セラミックコンデンサの内部電極をはじめ、電子部品の電極等の形成に利用できる。
【0073】
[作用]
通常、金属ナノ粒子の生成は、まず、前駆体である卑金属錯体から0価の卑金属原子が発生し、過飽和状態になることで、卑金属原子の核が生成し、それらがいくつか凝集し、または卑金属原子の核表面に卑金属原子が付着することで成長していく。マイクロ波による均一なナノ粒子合成のメカニズムは、マイクロ波の均一加熱による同時核発生によるものと考えられており、核の生成と成長がバラバラに起こるとナノ粒子の粒度分布が広くなると考えられる。バッチ式製造の場合は、マイクロ波照射によって核の発生が同時に起こるため、粒度分布の狭い均一な粒子径の金属ナノ粒子を製造することが比較的容易である。しかし、CSTR方式を用いた連続的な製造においては、反応混合液S中にすでに存在する金属粒子(金属核を含む)と新たに導入される前駆体による0価金属が共存することになり、すでに存在している金属表面に0価金属が付着して粒子成長をしていくことになる。粒子は無限に大きく成長するものではなく、粒子表面のエネルギーが低くなるある時点で成長がストップするものの、CSTRを用いた連続的な製造においては、多数の卑金属原子の核の発生と、粒子の成長とが独立的かつ同時進行で生じるために、反応容器1内から排出される金属ナノ粒子の成長度合いにばらつきが発生し、均一な粒度分布の金属ナノ粒子の製造は不可能と考えられていた。
【0074】
しかし、本発明者らは、反応混合液S中に、前駆体とともに、卑金属よりも核を発生させやすい貴金属による、いわゆる核剤を共存させることで、多数の金属核を常に優先して発生させることに成功した。これによって、新たに供給される前駆体が、卑金属粒子の過剰な成長に消費されるのではなく、新しく生成する多数の金属核からの粒子成長に利用されるようになり、CSTR方式でも粒度分布が狭い均一な粒子径の金属ナノ粒子の合成を実現した。
【0075】
[第2の実施の形態]
次に、図5を参照しながら、本発明の第2の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置について説明する。この金属ナノ粒子の連続製造装置101は、例えば円筒形などの縦長の反応容器1内に、仕切り壁30を備えている。仕切り壁30は、反応容器1と同様の材質の金属によって構成され、複数の貫通開口31を有している。仕切り壁30は、例えば貫通開口31を有する金属板でもよいし、金属製の網目状、格子状等の部材でもよい。
【0076】
仕切り壁30により、反応容器1内は、第1の領域R1と第2の領域R2とに区分されている。第1の領域R1は、反応混合液Sにマイクロ波を直接照射することによって金属核の形成を優勢的に行う核生成領域である。第2の領域R2は、第1の領域R1で生成した金属核から金属ナノ粒子への成長を優勢的に行う粒子成長領域である。仕切り壁30には、貫通開口31が設けられているため、第1の領域R1と第2の領域R2とは、互いに反応混合液Sが流入できるように連通している。
【0077】
また、仕切り壁30は、金属により形成されているため、マイクロ波導入部1Aから導入されたマイクロ波は、その大部分が仕切り壁30により反射され、第2の領域R2への侵入が抑制されている。
【0078】
第1の領域R1から第2の領域R2への反応混合液Sの流入には重力を利用するが、その流入量(流入速度)は、第1の領域R1で所望の滞留時間が得られるように、仕切り板30の貫通開口31の開口率、並びに、排出部1Cにおける図示しないポンプや流量調節バルブを利用することによって調節することができる。
【0079】
また、第1の領域R1から第2の領域R2へのマイクロ波の侵入量(あるいは仕切り壁30におけるマイクロ波の反射量)は、仕切り板30の貫通開口31の開口率によって調節できる。
【0080】
以上の構成を有する連続製造装置101では、原料供給部20から、錯化反応液(及び供給する場合は貴金属塩)を含む原料を、原料導入部1Bを介して反応容器1内の第1の領域R1の反応混合液Sに連続的又は間欠的に供給するとともに、マイクロ波発生部10からマイクロ波をマイクロ波導入部1Aを介して反応容器1内の第1の領域R1に導入し、錯化反応液(及び供給する場合は貴金属塩)を含む反応混合液Sをマイクロ波で加熱することにより反応混合液S中で金属核を形成する。そして、第1の領域R1で生成した金属核を含む反応混合液Sを第2の領域R2に流入させ、第2の領域R2で金属核から粒子を成長させて金属ナノ粒子を生成させる。
【0081】
ここで、第1の領域R1内の反応混合液Sには、原料供給部20からの錯化反応液を含む原料が直接投入されるので、卑金属錯体(及び供給する場合は貴金属塩)の濃度が、相対的に第2の領域R2に比べ高まり、核生成に必要な過飽和状態を作りやすくなっている。そして、第1の領域R1では、反応混合液S中の卑金属錯体(及び供給する場合は貴金属塩)に直接マイクロ波が照射されて加熱され、金属核(卑金属原子の核、及び供給する場合は貴金属原子の核)の生成が優勢的に生じる。一方、仕切り壁30の存在によってマイクロ波があまり到達しない第2の領域R2では、加熱された反応混合液S中での金属核からの粒子成長が優勢的に起こり、所望の粒子径の金属ナノ粒子になるまで成長する。このようにして形成された金属ナノ粒子を含む反応混合液Sを排出部1Cから反応容器1外へ連続的又は間欠的に排出して金属ナノ粒子を回収する。
【0082】
本実施の形態の連続製造装置101では、仕切り壁30は1箇所に限らず、仕切り壁30を複数箇所に設けて、領域をさらに増やすことができる。なお、本実施の形態の連続製造装置101では、第1の領域R1に回転羽根3c、第2の領域R2に回転羽根3cを備えた攪拌機3を設けているが、第1の領域R1と第2の領域R2においてそれぞれ別々に攪拌手段を設けてもよい。
【0083】
本実施の形態の連続製造装置101における他の構成及び効果は、第1の実施の形態の連続製造装置100と同様であるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。
【0084】
[第3の実施の形態]
次に、図6を参照しながら、本発明の第3の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置について説明する。この金属ナノ粒子の連続製造装置102は、縦長の反応容器1として、上から順に、第1反応室1aと、これに連設された第2反応室1bと、これに連設された第3反応室1cとを備えている。第1反応室1aには、第1の領域R1が設けられ、第2反応室1bには、第2の領域R2が設けられ、第3反応室1cには、第3の領域R3が設けられている。
【0085】
第1反応室1aと第2反応室1bとの間には、第1の領域R1と第2の領域R2との間で反応混合液Sの流通を可能としながら第2の領域R2へのマイクロ波の進入を抑制する狭隘部分1dが設けられている。第2反応室1bと第3反応室1cとの間には、第2の領域R2と第3の領域R3との間で反応混合液Sの流通を可能としながら第3の領域R3へのマイクロ波の進入をさらに抑制する狭隘部分1fが設けられている。つまり、狭隘部分1dにより、第1の領域R1と第2の領域R2とが区分されている。また、狭隘部分1fにより、第2の領域R2と第3の領域R3とが区分されている。
【0086】
第1の領域R1は、反応混合液Sにマイクロ波を直接照射することによって金属核の形成を優勢的に行う核生成領域である。第2の領域R2及び第3の領域R3は、第1の領域R1で生成した金属核から金属ナノ粒子への成長を優勢的に行う粒子成長領域である。なお、第3の領域R3(第3反応室1c)は設けず、第1の領域R1(第1反応室1a)及び第2の領域R2(第2反応室1b)のみとしてもよい、
【0087】
狭隘部分1d,1fは、金属製の壁により縮径された断面積が小さな流路である。従って、マイクロ波導入部1Aから導入されたマイクロ波は、その大部分が第1反応室1aの底壁に反射されて狭隘部分1dに侵入せず、第2の領域R2への侵入が抑制される。さらに、第2の領域R2に侵入したマイクロ波は、その大部分が第2反応室1bの底壁に反射されて狭隘部分1fにほとんど侵入せず、第3の領域R3への侵入がよりいっそう抑制されている。
【0088】
第1の領域R1から第2の領域R2、及び第2の領域R2から第3の領域R3への反応混合液Sの流入には重力を利用するが、その流入量(流入速度)は、第1の領域R1及び第2の領域R2で所望の滞留時間が得られるように、狭隘部分1d,1fの断面積(流路抵抗)、並びに、排出部1Cにおける図示しないポンプや流量調節バルブを利用することによって調節することができる。
【0089】
また、第1の領域R1から第2の領域R2、第3の領域R3へのマイクロ波の侵入量は、狭隘部分1d,1fの断面積によって調節できる。
【0090】
また、本実施の形態の連続製造装置102では、第2反応室1b及び第3反応室1cの外側に、それぞれ、例えばヒーターやジャケット式熱交換器などの加熱手段40A,40Bを設けている。このような加熱手段40A,40Bは必須の構成ではない。しかし、マイクロ波を直接導入する第1反応室1a内の第1の領域R1に比べて、第2反応室1b内の第2の領域R2及び第3反応室1c内の第3の領域R3での反応混合液Sの温度は相対的に低下する傾向がある。この温度低下を外部からの熱供給によって補うことで、核からの粒子成長反応の効率を維持する観点から、加熱手段40A,40Bを設けることが好ましい。なお、第1の反応室1aにも同様の加熱手段を設けてもよい。
【0091】
また、第2反応室1b及び第3反応室1cの上部には、これらの内部で発生したガスを外部へ放出するためのガス排出部41A,41Bが設けられている。
【0092】
以上の構成を有する連続製造装置102では、原料供給部20から、錯化反応液(及び供給する場合は貴金属塩)を含む原料を、原料導入部1Bを介して反応容器1の第1反応室1a内の第1の領域R1の反応混合液Sに連続的又は間欠的に供給するとともに、マイクロ波発生部10からマイクロ波を、マイクロ波導入部1Aを介して第1反応室1a内の第1の領域R1に導入し、錯化反応液(及び供給する場合は貴金属塩)を含む反応混合液Sをマイクロ波で加熱することにより反応混合液S中で金属核を形成する。そして、金属核を含む反応混合液Sを第2反応室1b内の第2の領域R2に流入させ、第2の領域R2で金属核の周囲に金属層を成長させて金属ナノ粒子を生成させる。さらに、第2の領域R2から、反応混合液Sを第3反応室1c内の第3の領域R3へ流入させ、金属ナノ粒子の成長をさらに進行させることによって、所望の粒子径の金属ナノ粒子が形成される。
【0093】
ここで、第1の領域R1内の反応混合液Sには、原料供給部20からの錯化反応液を含む原料が直接投入されるので、卑金属錯体(及び供給する場合は貴金属塩)の濃度が、相対的に第2の領域R2、第3の領域R3に比べ高まり、核生成に必要な過飽和状態を作りやすくなる。そして、第1の領域R1では、反応混合液S中の卑金属錯体(及び供給する場合は貴金属塩)に直接マイクロ波が照射されて加熱されるため、金属核(卑金属原子の核、及び供給する場合は貴金属原子の核)の生成が優勢的に生じる。一方、マイクロ波があまり照射されない第2の領域R2及び第3の領域R3では、加熱された反応混合液S中で金属核の周囲への金属層の成長(ナノ粒子の成長)が優勢的に起こる。この金属ナノ粒子を含む反応混合液Sを第3反応室1cの底部に設けられた排出部1Cから反応容器1外へ連続的又は間欠的に排出して金属ナノ粒子を回収する。
【0094】
なお、本実施の形態の連続製造装置101では、第1の領域R1に回転羽根3c、第2の領域R2に回転羽根3c、さらに第3の領域R3に回転羽根3cを備えた攪拌機3を設けているが、第1の領域R1と第2の領域R2と第3の領域R3においてそれぞれ別々に攪拌手段を設けてもよい。
【0095】
本実施の形態の連続製造装置102における他の構成及び効果は、第1及び第2の実施の形態の連続製造装置100,101と同様であるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。なお、本実施の形態の連続製造装置102で用いた加熱手段40A,40Bは、第1及び第2の実施の形態の連続製造装置100,101にも設けることができる。
【0096】
[第4の実施の形態]
次に、図7を参照しながら、本発明の第4の実施の形態にかかる金属ナノ粒子の連続製造装置について説明する。この金属ナノ粒子の連続製造装置101Aは、第2の実施の形態にかかる連続製造装置101(図5)の変形例である。以下の説明では、図5の連続製造装置101との相違点を中心に説明する。
【0097】
金属ナノ粒子の連続製造装置101Aは、反応容器1の下部に、第2の領域R2に直接原料を導入できるように原料導入部1Gを設けている。つまり、連続製造装置101Aは、第1の領域R1に原料を供給する原料導入部1Bに加え、第2の領域R2に原料を供給する原料導入部1Gを備えている。原料導入部1Bは配管21Aにより、また原料導入部1Gは配管21Bにより、それぞれ原料供給部20に接続されている。
【0098】
以上の構成を有する連続製造装置101Aでは、原料供給部20から、例えばAgなどの貴金属塩を含む原料を、原料導入部1Bを介して反応容器1内の第1の領域R1の反応混合液Sに連続的又は間欠的に供給するとともに、マイクロ波発生部10からマイクロ波をマイクロ波導入部1Aを介して反応容器1内の第1の領域R1に導入し、貴金属塩を含む反応混合液Sをマイクロ波で加熱することにより反応混合液S中で貴金属の核を形成する。そして、第1の領域R1で生成した貴金属の核を含む反応混合液Sを第2の領域R2に流入させる。第2の領域R2では、原料供給部20から、例えばNiなどの卑金属錯体を含む錯化反応液を、原料導入部1Gを介して供給し、貴金属の核の周囲に、卑金属原子を付着させ、卑金属層を成長させることにより、Agなどの貴金属の周囲にNiなどの卑金属層が形成されたコア−シェル構造の金属ナノ粒子を生成させる。このようにして形成された金属ナノ粒子を含む反応混合液Sを排出部1Cから反応容器1外へ連続的又は間欠的に排出して金属ナノ粒子を回収する。
【0099】
連続製造装置101Aでは、第1の領域R1と第2の領域R2との間に仕切り壁30が設けられていることに加え、第1の領域R1へ供給する原料と、第2の領域R2へ供給する原料の種類を変えることによって、これら二つの領域の役割分担(核生成と、核からの粒子成長)をより明確にして、上記のように異種金属によるコア−シェル構造の金属ナノ粒子を効率よく生成させることができる。なお、連続製造装置101Aにおいて、第1の領域R1と第2の領域R2へ供給する原料は、貴金属と卑金属の組み合わせに限らず、例えば貴金属と貴金属でもよいし、卑金属と卑金属でもよい。また、原料導入部1Bを介して第1の領域R1に貴金属塩と他の金属の錯化反応液を供給し、さらに、原料導入部1Gを介して第2の領域R2へ前記錯化反応液と同種若しくは異種の金属の錯化反応液を供給してもよい。連続製造装置101Aでは、異種の金属の組み合わせに限らず、同種の金属を供給する場合でも、第1の領域R1と第2の領域R2との役割分担(核生成と、核からの粒子成長)を明確にできるため、粒子径の制御がしやすく、均一な粒子径の金属ナノ粒子を製造できる。
【0100】
本実施の形態の連続製造装置101Aにおける他の構成及び効果は、第2の実施の形態の連続製造装置101と同様であるため、同じ構成には同一の符号を付して説明を省略する。なお、図6に示した第3の実施の形態の連続製造装置102についても、本実施の形態と同様に複数箇所に原料導入部を設け、第1〜第3の領域R1〜R3にそれぞれ異なる機能を持たせることが可能である。
【実施例】
【0101】
次に、実施例を挙げて、本発明をさらに説明するが、本発明は、以下に説明する実施例に限定されるものではない。なお、金属ナノ粒子の粒子径は、SEM(走査電子顕微鏡)によりニッケル粉末の写真を撮影して、その中から無作為に200個を抽出し、その平均粒子径及び最大粒子径を求めた。また、CV値(変動係数)は(標準偏差)÷(平均粒子径)によって算出した。
【0102】
[実施例1]
金属ニッケルナノ粒子の製造:
ニッケル粒子の前駆体には、還元性を有するオレイルアミンなど高級1級アミンを配位子とするギ酸ニッケルアミン錯体を用い、溶媒としては、同様なアミンを用いた。ニッケル前駆体を含む錯化反応液に対してAgイオン(硝酸銀)をAg/Ni=1/100モル(1mol%)添加した。これらを図1と同様の構成の連続製造装置の反応容器に所定量投入し、190℃までマイクロ波により加熱して金属ニッケルナノ粒子を得た。なお、マイクロ波の出力は、反応容器内の反応混合液1リットルあたり0.6kWとした。ここまではバッチ反応である。マイクロ波の導入を続けて温度を維持したまま、40℃の前駆体を含む反応液をポンプにより投入し、投入前の反応液の重量を維持するように、反応容器内の反応液をポンプにより抜き取った。すなわち、投入前の反応混合液全量10kgに対して新たな錯化反応液を2kg/minで投入し、2kg/minの反応混合液の抜き取りを行った。
【0103】
前駆体を含む錯化反応液の投入開始から180分後に抜き取った反応混合液中の金属ナノ粒子の平均粒子径は60nm(最小30nm、最大100nm)で粒度分布はCV値=0.20であった。実施例1における180分経過後の金属ナノ粒子の状態を図8に示した。
【0104】
[参考例1]
金属ニッケルナノ粒子の製造:
実施例1におけるギ酸ニッケルアミン錯体に代えて酢酸ニッケルアミン錯体を用い、マイクロ波による加熱温度を250℃とした以外は、実施例1と同様にして金属ニッケルナノ粒子を製造した。前駆体を含む錯化反応液の投入開始から180分後に抜き取った反応混合液中の金属ナノ粒子の平均粒子径は90nm(最小30nm、最大200nm)で粒度分布はCV値=0.37であった。参考例1における180分経過後の金属ナノ粒子の状態を図9に示した。
【0105】
[実施例2]
金属ニッケルナノ粒子の製造:
ニッケル粒子の前駆体には、還元性を有するオレイルアミンなど高級1級アミンを配位子とするギ酸ニッケルアミン錯体を用い、溶媒としては、同様なアミンを用いた。ニッケル前駆体を含む錯化反応液に対してAgイオン(硝酸銀)をAg/Ni=1/100モル(1mol%)添加した。これらを図5と同様の構成の仕切り壁を備えた連続製造装置の反応容器に所定量投入し、190℃までマイクロ波により加熱して金属ニッケルナノ粒子を得た。なお、マイクロ波の出力は、反応容器内の反応混合液1リットルあたり0.6kWとした。ここまではバッチ反応である。マイクロ波の導入を続けて温度を維持したまま、40℃の前駆体を含む反応液をポンプにより投入し、投入前の反応液の重量を維持するように、反応容器内の反応液をポンプにより抜き取った。すなわち、投入前の反応混合液全量10kgに対して新たな錯化反応液を2kg/minで投入し、2kg/minの反応混合液の抜き取りを行った。
【0106】
前駆体を含む錯化反応液の投入開始から180分後に抜き取った反応混合液中の金属ナノ粒子の平均粒子径は40nm(最小30nm、最大70nm)で粒度分布はCV値=0.18であった。実施例2における180分経過後の金属ナノ粒子の状態を図10に示した。
【0107】
以上の結果から、ニッケル錯体とともに、Ag,Au,Pt,Pdなどの貴金属イオンを反応混合液中に共存させておくことにより、粗大粒子の形成が少なく、均一な粒子径の金属ナノ粒子を連続的にかつ大量に合成することが可能であった。ニッケル前駆体を含む錯化反応液が高温の反応混合液に供給されると、即座に0価のニッケル原子に還元されるが、同時に共存する貴金属イオンはニッケル原子が生成するよりも早く貴金属原子に還元されるため、これが核となり、その表面にニッケル原子が集合して金属ニッケルの核が生成し、さらに、0価のニッケル原子が金属ニッケルの核に付着し一定の大きさにまで成長する。この理由は未だ明らかではないが、新たに供給されたニッケル錯体からの0価のニッケル原子は、反応混合液中に既に存在する金属ナノ粒子の成長に使用されるよりも、貴金属原子の表面に付着してニッケル金属核になるほうが優先されていると考えられる。その結果、新たに供給されるニッケル前駆体の0価の金属原子から、ニッケル粒子の生成が次々に起こりやすくなり、全体として比較的粒子径の小さな金属ナノ粒子が生成するとともに、金属ナノ粒子の過剰な成長を抑制することが可能となるものと考えられる。
【0108】
以上、本発明の実施の形態を例示の目的で詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に制約されることはなく、種々の変形が可能である。
【符号の説明】
【0109】
1…反応容器、1A…マイクロ波導入部、1B…原料導入部、1C…排出部、3…攪拌機、3a…回転駆動部、3b…回転軸、3c…回転羽根、10…マイクロ波発生部、11…導波管、20…原料供給部、21…配管、100…連続製造装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、卑金属のギ酸塩および1級アミンの混合物を加熱して生成した卑金属錯体を含有する錯化反応液と、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の貴金属塩と、を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、
前記原料供給部から、前記錯化反応液及び前記貴金属塩を、前記原料導入部を介して前記反応容器内に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内に導入し、前記錯化反応液及び前記貴金属塩をマイクロ波で加熱することにより金属ナノ粒子を生成させ、該金属ナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収する金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項2】
前記卑金属が、ニッケル、銅及びコバルトからなる群より選択される1種以上である請求項1に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項3】
前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給する請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項4】
前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給する請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項5】
前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の反応混合液の液面よりも上方に設けられている請求項1から4のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項6】
前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えている請求項1から5のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項7】
前記反応容器が金属製である請求項1から6のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項8】
前記反応容器内の気相若しくは液相中に不活性ガスを導入するガス導入部と、前記反応容器内のガスを排出するガス排出部をさらに有している請求項1から7のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項9】
請求項1から8のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置を用い、金属ナノ粒子を製造する金属ナノ粒子の連続製造方法。
【請求項10】
マイクロ波を導入するマイクロ波導入部、原料を導入する原料導入部、及び、反応生成物を含む反応混合液を排出する排出部を備えた反応容器と、
前記マイクロ波導入部に接続されたマイクロ波発生部と、
前記原料導入部に接続され、金属のカルボン酸塩および1級アミンの混合物を加熱して生成した金属錯体を含有する錯化反応液を含む原料を供給する原料供給部と、
を備え、
前記反応容器は、前記反応混合液Sにマイクロ波を直接照射することによって金属核の形成を優勢的に行う第1の領域と、該第1の領域から前記反応混合液を流入可能に連通して設けられ、前記第1の領域で生成した金属核からの粒子の成長を優勢的に行う第2の領域を、を少なくとも含む複数の領域に区分されており、
前記原料供給部から、前記錯化反応液を、前記原料導入部を介して前記反応容器内の第1の領域の反応混合液に連続的又は間欠的に供給するとともに、前記マイクロ波発生部からマイクロ波を前記マイクロ波導入部を介して前記反応容器内の第1の領域に導入し、前記錯化反応液を含む反応混合液をマイクロ波で加熱することにより前記反応混合液中で金属核を形成するとともに、該金属核を含む反応混合液を前記第2の領域に流入させ、該第2の領域で前記金属核から粒子を成長させて金属ナノ粒子を生成させ、該金属ナノ粒子を含む反応混合液を前記排出部から前記反応容器外へ連続的又は間欠的に排出して回収する金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項11】
前記第1の領域と前記第2の領域との間に、前記反応混合液の流通を可能としながら前記第2の領域へのマイクロ波の進入を抑制する貫通開口を有する仕切り壁を有する請求項10に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項12】
前記第1の領域と前記第2の領域との間に、前記反応混合液の流通を可能としながら前記第2の領域へのマイクロ波の進入を抑制する狭隘部分を有する請求項10に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項13】
前記原料供給部は、前記錯化反応液に加え、さらに前記第1の領域内の反応混合液に、パラジウム塩、銀塩、白金塩および金塩からなる群より選択される1または2以上の貴金属塩を連続的または間欠的に供給するものであり、前記第1の領域内で、該貴金属塩から金属核の形成を行う請求項10から12のいずれか1項記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項14】
前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、混合状態で前記反応容器内に供給する請求項13に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項15】
前記錯化反応液と、前記貴金属塩とを、それぞれ別々に前記反応容器内に供給する請求項13に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項16】
前記マイクロ波導入部は、前記反応容器内の第1の領域において、前記反応混合液の液面よりも上方に設けられている請求項10から15のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項17】
前記反応容器内に導入された原料を攪拌する攪拌手段をさらに備えている請求項10から16のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項18】
前記反応容器が金属製である請求項10から17のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項19】
前記反応容器内の気相若しくは液相中に不活性ガスを導入するガス導入部と、前記反応容器内のガスを排出するガス排出部をさらに有している請求項10から18のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置。
【請求項20】
請求項10から19のいずれか1項に記載の金属ナノ粒子の連続製造装置を用い、金属ナノ粒子を製造する金属ナノ粒子の連続製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2013−7082(P2013−7082A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139513(P2011−139513)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000006644)新日鉄住金化学株式会社 (747)
【Fターム(参考)】