説明

金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブ

本発明は、表面に金属ナノ粒子を添加した窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)およびその製造方法および触媒としてのその使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子を表面上に含む窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)およびその製造方法および触媒としてのその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、カーボンナノチューブは、少なくとも1991年にIijimaにより記載されて以来(S.Iijima、Nature 354、第56〜58頁、1991年)、当業者に知られている。それ以降、用語カーボンナノチューブは、炭素を含み、および3〜80nmの範囲の直径および該直径の少なくとも10倍の長さを有する円筒体を包含する。これらのカーボンナノチューブの更なる特徴は、規則炭素原子の層であり、カーボンナノチューブは一般に異なった形態を有する。カーボンナノチューブについての同義語は、例えば「炭素繊維」若しくは「中空炭素繊維」若しくは「カーボンバンブー」、または「ナノスクロール」若しくは「ナノロール」(巻いた構造の場合)である。
【0003】
上記カーボンナノチューブは、その寸法および特定の特性に起因して、複合材料の製造のために工業的に重要である。更なる重要な可能性は、上記カーボンナノチューブが通常、例えば導電性カーボンブラックの形態で、黒鉛炭素より高い比導電率を有するので、電子工学およびエネルギー用途に存在する。カーボンナノチューブの使用は、これらが上記の特性(直径、長さ等)について極めて均一である場合、特に有利である。
【0004】
また、これらのカーボンナノチューブを、ヘテロ原子、例えば第5主族(例えば窒素)の原子で、カーボンナノチューブの製造方法の間にドープすることも可能である。
【0005】
窒素ドープカーボンナノチューブの一般に知られた製造方法は、古典カーボンナノチューブ用の従来法による製造方法、例えばアーク放電法、レーザーアブレーション法および触媒法をベースとする。
【0006】
電気アーク法およびレーザーアブレーション法は、とりわけ、カーボンブラック、非晶質炭素および大きい直径を有する繊維が副生成物としてこれらの製造方法において形成されることを特徴とするので、得られるカーボンナノチューブは通常、該方法から得られた生成物および該方法の経済的魅力を損なわせる複雑な後処理工程に付されなければならない。
【0007】
他方では、触媒法は、品質の高い生成物を該方法によって良好な収率で製造することができるので、カーボンナノチューブの経済的製造について優位性を示す。
【0008】
この種の触媒法、特に流動床法は、DE102006017695A1に開示されている。これに開示の方法は、特にカーボンナノチューブを、新しい触媒の導入および生成物の取り出しにより連続的に処理することができる流動床の操作の有利な態様を包含する。用いる出発物質は、ヘテロ原子を含み得ることも開示される。カーボンナノチューブの窒素ドープをもたらす出発物質の使用は開示されていない。
【0009】
目的とされる窒素ドープカーボンナノチューブの有利な製造のための類似の方法は、WO2009/080204に開示される。WO2009/08204には、該方法により製造される窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、これを製造するための触媒物質の残渣をなお含有し得ることが開示される。これらの触媒物質の残渣は、金属ナノ粒子であり得る。窒素ドープトカーボンナノチューブ(NCNT)に引き続き添加するための方法は、開示されない。WO2009/080204に記載の方法によれば、触媒物質の残渣の除去が更に好ましい。
【0010】
しかしながら、WO2009/080204によれば、常に、ほんの少しの割合の触媒物質が、得られた窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する。製造された窒素ドープカーボンナノチューブ中に少ない割合で存在し得る可能性のある触媒物質の群は、Fe、Ni、Cu、W、V、Cr、Sn、Co、MnおよびMo、および場合によりMg、Al、Si、Zr、Ti、および当業者に既知であり、混合金属酸化物および塩およびその酸化物を形成する更なる元素からなる。
【0011】
さらに、WO2009/080204は、窒素が、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在し得る形態を開示しない。
【0012】
Yan等は、「静電気技術を用いる表面官能基化多壁カーボンナノチューブ上での銀ナノ粒子の高分散体の製造(Production of a high dispersion of silver nanoparticles on surface−functionalized multi−walled carbon nanotubes using an electrostatic technique)」、Materials Letters、第63巻、2009年、第171〜173頁において、ヘテロ原子を有さないカーボンナノチューブに、銀を表面上に引き続いて添加することを開示する。従って、カーボンナノチューブは、まず表面上で硝酸および硫酸のような酸化作用を有する酸により官能基化することにより、銀を引き続いて添加することができる。Yan等による開示によれば、堆積する銀ナノ粒子のための「固定部位」として働く官能基は、酸化作用を有する酸との処理中にカーボンナノチューブの表面上に形成される。
【0013】
酸化カーボンナノチューブに添加するための方法は、Yan等による開示によれば、ジメチルスルホキシドにおける酸化カーボンナノチューブの分散の工程、硝酸銀の添加および酸化カーボンナノチューブの表面上のクエン酸ナトリウムによる銀の還元を含む。
【0014】
Yan等によれば、酸の酸化特性が重要であり、Yan等による開示から、ヘテロ原子は酸素であり、従って窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、銀を含むカーボンナノチューブのための出発点として開示されないと考えられる。
【0015】
WO2008/138269は、プラチナまたはルテニウム金属ナノ粒子を有し、炭素に対する窒素の割合として表される0.01〜1.34の窒素の割合(CNx、ここでx=0.01〜1.34)を有する窒素含有カーボンナノチューブを開示する。WO2008/138269によれば、プラチナまたはルテニウム金属ナノ粒子は、0.1〜15nmの直径を有し、窒素含有カーボンナノチューブの全質量の1〜100%の割合で存在する。
【0016】
プラチナまたはルテニウム金属粒子を有する窒素含有カーボンナノチューブを製造するための開示方法は、プラチナの塩およびルテニウムの塩を溶液中に溶解する工程、窒素含有カーボンナノチューブを該溶液中へ導入する工程および窒素含有カーボンナノチューブの表面上に吸着したプラチナの塩およびルテニウムの塩を化学還元剤により還元する工程を含む。
【0017】
WO2008/138269は、プラチナまたはルテニウムの金属ナノ粒子以外の金属ナノ粒子が存在し得ることを開示しない。さらに、WO2008/138269もまた、窒素含有カーボンナノチューブ中の窒素の性質を開示しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】国際公開第2009/080204号パンフレット
【特許文献2】国際公開第2008/138269号パンフレット
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】S.Iijima、Nature 354、第56〜58頁、1991年
【非特許文献2】Yan、「静電気技術を用いる表面官能基化多壁カーボンナノチューブ上での銀ナノ粒子の高分散体の製造(Production of a high dispersion of silver nanoparticles on surface−functionalized multi−walled carbon nanotubes using an electrostatic technique)」、Materials Letters、第63巻、2009年、第171〜173頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
従って、金属ナノ粒子をカーボンナノチューブへ、特に窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)へ引き続き適用することの課題は、先行技術の僅かな分野においてしか解決していない課題である。
【0021】
特に、任意の所望のナノ粒子を、微細に分割した形態で多量に適用した窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)およびこのようなカーボンナノチューブの製造方法を提供する課題が存在する。このような微細に分散した金属ナノ粒子は、窒素ドープカーボンナノチューブ上で、特に触媒物質として、有利である。
【課題を解決するための手段】
【0022】
意外にも、本発明の第1の主題として、上記課題は、少なくとも40モル%が、ピリジン窒素として窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する少なくとも0.5重量%の窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)を含み、2〜60重量%の1〜10nmの範囲の平均粒度を有する金属ナノ粒子が、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に存在する触媒により解決することができることを見出した。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】図1は、実施例1に用いる窒素ドープカーボンナノチューブの使用のX線光電子分光法による調査(ESCA)からの抜粋を示す。
【図2】図2は、実施例1に記載の通り製造した触媒の第1透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【図3】図3は、実施例1に記載の通り製造した触媒の第2透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【図4】図4は、実施例2に記載の通り製造した触媒の第1透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【図5】図5は、実施例2に記載の通り製造した触媒の第2透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【図6】図6は、実施例3に記載の通り製造した触媒の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、好ましくは0.5重量%〜18重量%、特に好ましくは1重量%〜16重量%の範囲の窒素含有量を有する。
【0025】
本発明の窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する窒素は、黒鉛層中に組み込まれ、そこにピリジン窒素として少なくとも部分的に存在する。しかしながら、本発明の窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する窒素は、ニトロ窒素およびニトロソ窒素および/またはピロール窒素および/またはアミン窒素および/または第4級窒素として更に存在することもできる。
【0026】
第4級窒素および/またはニトロ窒素および/またはニトロソ窒素および/またはアミン窒素および/またはピロール窒素の割合は、これらの存在が、ピリジン窒素の上記の割合が存在する場合に限り本発明を著しく妨げないので、本発明に付随して重要である。
【0027】
本発明の触媒中におけるピリジン窒素の割合は、好ましくは少なくとも50mol%である。
【0028】
本発明では、用語「ピリジン窒素」は、5個の炭素原子からなるヘテロ環式化合物中に存在する窒素原子であって窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中の窒素原子を表す。そのようなピリジン窒素の例を、以下の図(I):
【化1】

に示す。
【0029】
しかしながら、用語ピリジン窒素とは、上記図(I)に示されるヘテロ環式化合物の芳香族形態だけでなく、同じ実験式で示される単一または多重飽和化合物のことでもある。
【0030】
さらに、他の化合物が、5個の炭素原子および窒素原子からなるヘテロ環式化合物を含む場合、そのような他の化合物も用語「ピリジン窒素」に包含される。このようなピリジン窒素の例を、図(II):
【化2】

に示す。
【0031】
図(II)は、例として、多環式化合物の構成成分である3つのピリジン窒素原子を表す。ピリジン窒素原子の1つは、非芳香族ヘテロ環式化合物の構成物質である。
【0032】
これに対し、本発明では、用語「第4級窒素」は、少なくとも3つの炭素原子へ共有結合した窒素原子のことである。例えば、このような第4級窒素は、図(III):
【化3】

に示される多環式化合物の構成成分であり得る。
【0033】
本発明では、用語ピロール窒素は、4つの炭素原子からなるヘテロ環式化合物中に存在する窒素原子であって窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中の窒素を表す。
【0034】
本発明におけるピロール窒素の例を、図(IV):
【化4】

に示す。
【0035】
「ピロール窒素」では、これもまた、図(IV)に示されるヘテロ環式不飽和化合物に限定されないが、本発明では、4個の炭素原子および1個の窒素原子を環式配置に有する飽和化合物も該用語に包含される。
【0036】
本発明のために、用語ニトロ窒素またはニトロソ窒素とは、更なる共有結合に拘わらず、少なくとも1つの酸素原子に結合した、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中の窒素原子のことである。このようなニトロまたはニトロソ窒素の特定の形態を、特に上記ピリジン窒素との違いを説明することを目的として、図(V):
【化5】

に示す。
【0037】
図(V)から、本発明の意味における「ピリジン窒素」を含む化合物に対し、ここでは窒素が少なくとも1つの酸素原子へ共有結合することを見ることができる。従って、ヘテロ環式化合物は、5個の炭素原子および窒素のみからならないが、その代わり、5個の炭素原子、窒素原子および酸素原子からなる。
【0038】
図(V)に示される化合物とは別に、本発明では、用語ニトロ窒素またはニトロソ窒素は、窒素および酸素のみからなる化合物をも包含する。図(V)に示されるニトロまたはニトロソの形態は、酸化ピリジン窒素とも称される。
【0039】
本発明では、用語アミン窒素は、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中で、少なくとも2つの水素原子へ、および1個以下の炭素原子へ結合するが、酸素へ結合しない窒素原子のことである。
【0040】
意外にも、示した割合のピリジン窒素の存在は、ピリジン窒素が、窒素ドープカーボンナノチューブに金属ナノ粒子を後に添加することを特に簡単にすること、および該窒素種が、特に示される割合で存在する場合に、金属ナノ粒子の微細分散体を窒素ドープカーボンナノチューブの表面上にもたらすことが見出されたので特に有利であり、これは、得られる金属ナノ粒子の非表面積のために特に有利である。
【0041】
とりわけ、上記の金属ナノ粒子の窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上の特に良好な分散は、触媒表面上の反応に同時に利用可能となる多くの触媒活性部位をもたらす。これは、金属ナノ粒子を添加した本発明の窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の、不均一触媒作用における触媒としての後の使用にとって特に有利である。
【0042】
理論に縛られることを望むものではないが、分子間相互作用が窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に存在する金属ナノ粒子およびピリジン窒素基の間に存在するので、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に異方的に存在するピリジン窒素基は、将来の金属ナノ粒子のための縮合部位の存在下で生じ、金属ナノ粒子は、ピリジン窒素基に特に十分に接着するように見える。
【0043】
特に、分子間相互作用は、向上した触媒として純粋な金属ナノ粒子と比べて、本発明により提供されるような金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の有利な使用を十分にもたらし得る。
【0044】
金属ナノ粒子は、Fe、Ni、Cu、W、V、Cr、Sn、Co、Mn、Mo、Mg、Al、Si、Zr、Ti、Ru、Pt、Ag、Au、Pd、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される金属から構成されてよい。
【0045】
金属ナノ粒子は、好ましくはRu、Pt、Ag、Au、Pd、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される金属から構成される。
【0046】
金属ナノ粒子は、特に好ましくは、Ag、Au、Pd、Pt、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される金属から構成される。
【0047】
金属ナノ粒子は、極めて特に好ましくはプラチナ(Pt)から構成される。
【0048】
金属ナノ粒子の平均粒度は、好ましくは2〜5nmの範囲である。
【0049】
金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)を含む触媒上の金属ナノ粒子の割合は、好ましくは20〜50重量%である。
【0050】
本発明は、少なくとも以下の工程:
a)少なくとも40モル%がピリジン窒素である少なくとも0.5重量%の割合の窒素を有する窒素ドープカーボンナノチューブの、金属塩を含む溶液(A)中への導入、
b)溶液(A)中の金属塩の、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の存在下での、必要に応じて化学還元剤(R)の添加による還元、および
c)金属ナノ粒子を添加した窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の、溶液(A)からの分離
を含むことを特徴とする、表面上に存在する金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブの製造方法を更に提供する。
【0051】
本発明の方法の工程a)に用いる窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、通常、WO2009/080204に記載の方法から得られるように通常の窒素ドープカーボンナノチューブである。
【0052】
該方法の第1の好ましい実施態様では、これらは、0.5重量%〜18重量%の範囲の窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)である。これらは、好ましくは、1重量%〜16重量%の範囲の窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)である。
【0053】
本発明の第2の好ましい実施態様では、これらは、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する窒素の少なくとも50モル%のピリジン窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)である。
【0054】
意外にも、他のカーボンナノチューブの使用とは異なり、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の予備処理は、その存在下での金属塩の還元前に必要ではないことが見出された。これは、上記好ましい窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)を用いる場合に特に当てはまる。先行技術とは異なり、これは、製造方法の著しい単純化である。
【0055】
理論に縛られることを望むものではないが、これは、「通常」のカーボンナノチューブの表面構造とは異なり、特に、金属塩/金属のための好ましい縮合/吸着部位を形成する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)のピリジン表面構造により明らかに可能となる。
【0056】
工程a)により得られる窒素ドープカーボンナノチューブを導入する金属塩の溶液(A)は、通常、Fe、Ni、Cu、W、V、Cr、Sn、Co、Mn、Mo、Mg、Al、Si、Zr、Ti、Ru、Pt、Ag、Au、Pd、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される金属の1つの塩の溶液である。
【0057】
金属は、好ましくはRu、Pt、Ag、Au、Pd、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される。
【0058】
金属は、特に好ましくはAg、Au、Pd、Pt、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される。金属は、極めて特に好ましくはプラチナ(Pt)である。
【0059】
金属塩は、通常、上記金属と、硝酸塩、酢酸塩、塩化物、臭化物、ヨウ化物、硫酸塩からなる群から選択される化合物との塩である。好ましいのは、塩化物または硝酸塩である。
【0060】
金属塩は、通常、1〜100ミリモル/Lの範囲、好ましくは5〜50ミリモル/Lの範囲、特に好ましくは5〜15ミリモル/Lの範囲の濃度で溶液(A)中に存在する。
【0061】
溶液(A)の溶媒は、通常、水、エチレングリコール、モノアルコール、ジメチルスルホキシド(DMSO)、トルエンおよびシクロヘキサンからなる群から選択される溶媒である。
【0062】
溶媒は、好ましくは、水、DMSO、エチレングリコールおよびモノアルコールからなる群から選択される。
【0063】
モノアルコールは、通常メタノールまたはエタノール、またはこれらの混合物である。
【0064】
その表面上でピリジン窒素の高い割合を有する特に有利な窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の使用は、例えばコロイド安定化のために、処方される添加剤の更なる添加を可能とする。しかしながら、例えばコロイド安定化のためのこのような添加剤の添加は、該方法から得られた触媒を更に向上させるために有利であり得る。
【0065】
本発明の方法の工程b)における還元は、通常、エチレングリコール、モノアルコール、クエン酸塩、ホウ化水素、ホルムアルデヒド、DMSOおよびヒドラジンからなる群から選択される化学還元剤(R)を用いて行う。
【0066】
このように、上に開示の可能性のある溶液(A)の溶媒の量は、単に開示の可能性のある還元剤(R)の量に等しい場合があることを見ることができる。従って、還元剤(R)の更なる添加を、多くの場合に処方することができる。
【0067】
従って、好ましいのは、化学還元剤(R)および溶液(A)が、少なくとも部分的に同一であることである。
【0068】
意外にも、本発明の方法の多くの実施態様において、該方法は、溶媒および化学還元剤(R)が少なくとも部分的に同一であることにより単純化することができるが、これは、本発明の方法に用いるピリジン窒素の高い割合を表面上に有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)により可能となり、該ピリジン窒素は、上記の通り、金属の表面上の堆積のための活性部位/吸着点として働くことが見出された。また、この高い親和力は、多くの実施態様において、還元剤(R)の更なる添加を不要とする。
【0069】
上記の通り、表現本発明の方法の工程b)による窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の存在下での還元は、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上の金属塩の還元、および溶液(A)において行う形成された金属ナノ粒子核の吸着による同一溶液(A)中における金属塩の還元をいずれも包含する。
【0070】
より正確な区別は、例えば、これらの処理は、表面上での引き続きの吸着による溶液中における還元の場合には部分的に同時に行うので可能ではない。
【0071】
しかしながら、とりわけ、いずれの場合も、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の有利な特性が、特に、ナノチューブの表面上に堆積する微細に分散した金属ナノ粒子をもたらし、本発明の方法により得られた触媒が、特に極めて高い金属ナノ粒子の比表面積を示し、および引き続きの金属ナノ粒子の焼結も同様に、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の上記縮合部位の表面上の金属ナノ粒子の固定化により防止されるかまたは少なくとも著しく減少するので区別する必要はない。
【0072】
本発明の方法の工程c)における分離は、通常、当業者に一般に既知の方法を用いて行う。このような分離の非限定的例は、ろ過である。
【0073】
更に、本発明は、少なくとも40モル%がピリジン窒素である少なくとも0.5重量%の窒素の割合を有し、2〜60重量%の1〜10nmの粒度を有する金属ナノ粒子が、触媒として窒素ドープトカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に存在する窒素ドープトカーボンナノチューブの使用を提供する。
【0074】
好ましいのは、触媒としての電気分解における使用である。
【0075】
本発明の方法および金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)を含む本発明による触媒を、幾つかの実施例を用いて以下に説明するが、該実施例は、本発明の範囲の限定と解釈されるものではない。
【0076】
さらに、本発明を、図を用いて、それに制限されることなく説明する。
【0077】
図1は、実施例1に用いる窒素ドープカーボンナノチューブの使用のX線光電子分光法による調査(ESCA)からの抜粋を示す。具体的には、実施例1に用いる窒素ドープカーボンナノチューブの390〜410eVの範囲の結合エネルギー[B]のN1sスペクトルを示す。測定スペクトル(O:黒色、太い斜線の実線)下で、ピリジン窒素種の近似理想測定信号(A:黒色、細い長い区域での波線)、ピロール窒素種(B:黒色、細い短い区域での波線)、第1第4級窒素種(C:黒色、細い実線)、第2第4級窒素種(D:灰色、太い実線)、ニトロソ窒素種または酸化ピリジン窒素種(E:灰色、太い波線)およびニトロ窒素種(F:濃い灰色、太い実線)を示す。特定の窒素種について測定値最大が位置する結合エネルギー(eV)の各値もx軸上に示す。さらに、近似理想測定信号の合計は、測定スペクトル(O)の平滑化描写を与える。
【0078】
図2は、実施例1に記載の通り製造した触媒の第1透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0079】
図3は、実施例1に記載の通り製造した触媒の第2透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0080】
図4は、実施例2に記載の通り製造した触媒の第1透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0081】
図5は、実施例2に記載の通り製造した触媒の第2透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【0082】
図6は、実施例3に記載の通り製造した触媒の透過型電子顕微鏡写真(TEM)を示す。
【実施例】
【0083】
実施例1:本発明による触媒の製造
窒素ドープカーボンナノチューブを、WO2009/080204の実施例5に記載の通り、これからの唯一の差異としてピリジンを出発物質として用いて製造し、反応を700℃の反応温度にて行い、該反応時間を30分に制限した。
【0084】
用いた触媒(触媒は、WO2009/080204の実施例1に記載の通り調製し、用いた)の残存量は、2モル塩酸中で3時間、還流下で得られた窒素ドープカーボンナノチューブを洗浄することにより除去した。
【0085】
得られた窒素ドープカーボンナノチューブの一部は、実施例4に記載の試験へ通した。
【0086】
次いで、こうして得られた窒素ドープカーボンナノチューブは、これらを467mL中のエチレングリコール中に添加することにより、固定子付属品を有するSILVERSON撹拌機を用いて10分間、3000回転にて撹拌することにより、該液体中に実質的に分散した。
【0087】
次いで蒸留水中に2.5gのヘキサクロロ白金(IV)酸水和物(Umicoreから)の187mLの銀塩溶液を、約1mL/分の速度にて窒素ドープカーボンナノチューブの得られる分散体へ添加した。この添加中に該分散体を更に撹拌した。プラチナ塩容器の添加が完了した後、分散体のpHをエチレングリコール中に1.5モルNaOH溶液により11〜12へ設定した。
【0088】
次いでこうして得られた分散体を、三口フラスコへ移し、この中で、約140℃にて還流および保護ガス雰囲気下で3時間、反応させた。
【0089】
次いで分散体を、周囲条件下(1013hPa、23℃)で単に放置することにより室温へ冷却し、次いで濾紙(青バンド、Schleicher&Schuell)を通過させ、蒸留水で一回洗浄し、本発明による触媒を分散体から分離した。次いで得られるなお湿った固体を80℃にて真空乾燥炉(圧力〜10ミリバール)中で更に12時間乾燥した。
【0090】
次いで本発明による触媒は、実施例5に記載の試験を通した。
【0091】
実施例2:本発明によらない第1触媒の製造
窒素ドープカーボンナノチューブを、反応を120分間行ったことを唯一の差異として実施例1と同じ方法により製造した。
【0092】
窒素ドープカーボンナノチューブも同じく、467mLのエチレングリコール中の分散前に実施例4に記載の通り試験に部分的に通した。
【0093】
次いで、実施例1に記載の処理と同一の処理を再び行った。次いで得られた触媒を同様に実施例5に記載の試験へ通した。
【0094】
実施例3:本発明によらない更なる触媒の製造
実施例1に記載の同一の実験を、市販のカーボンナノチューブ(BayTubesからのBayTubes(登録商標))を、実施例1に用いた窒素ドープカーボンナノチューブの代わりに用いたことを唯一の差異として行った。
【0095】
次いで、2モル塩酸中でのカーボンナノチューブの洗浄後に、触媒の製造を同様に行った。
【0096】
実施例4に記載の試験は、市販のカーボンナノチューブ中の窒素成分の欠如により行わなかった。
【0097】
次いで、得られた触媒を、実施例5に記載の試験へ同様に通した。
【0098】
実施例4:実施例1および実施例2に記載の触媒のX線光電子分光法による調査(ESCA)
窒素ドープカーボンナノチューブ中の窒素の質量による割合および窒素ドープカーボンナノチューブに見出される窒素の質量による割合内での種々の窒素種のモル割合を、実施例1および実施例2の間にX線光電子分光法分析(ESCA、機器:hermoFisher、ESCALab 220iXL、方法:製造業者の説明書による)により、得られた窒素ドープカーボンナノチューブについて決定した。決定した値を、表1に集約する。
【0099】
種々の窒素種のモル割合または窒素種の結合状態の決定を、N1s分光法により各窒素種を特徴付ける結合エネルギー値下で面積近似により行った。
【0100】
【表1】

【0101】
この目的のために、窒素種を特徴付ける個々の測定値の重ね合わせを考慮し、得られる割合を、測定スペクトルへ数学的に適合させた。例示の目的のために、これを、本発明により用いた実施例1による窒素ドープカーボンナノチューブの測定スペクトルについて図1に示す。
【0102】
本発明により用いた実施例1による窒素ドープカーボンナノチューブと、実施例2による本発明の窒素ドープカーボンナノチューブとの比較から、実施例2による窒素ドープカーボンナノチューブ中の窒素の割合は、実施例1により窒素ドープカーボンナノチューブの場合より高く、実施例1による窒素ドープカーボンナノチューブ中のピリジン窒素種のモル割合は、実施例2による窒素ドープカーボンナノチューブ中のピリジン窒素種のモル割合より高い。そして、逆のことが第4級窒素の割合について当てはまる。
【0103】
実施例5:実施例1、実施例2および実施例3による触媒の透過型電子顕微鏡写真(TEM)
次いで、実施例1〜3に記載の通り得られた触媒を、透過型電子顕微鏡(TEM、Philips TECNAI 20、200kV加速電圧による)下でプラチナを添加するために光学的に試験した。
【0104】
実施例1による本発明の触媒を、図2および3に示す。窒素ドープカーボンナノチューブに、ナノチューブの表面上に微細に分散した約2〜5nmの寸法を有するプラチナ粒子を添加した。窒素ドープカーボンナノチューブへのプラチナの添加は、本発明の触媒の全質量を基準に約50重量%のプラチナである。
【0105】
本発明の触媒を示す図2および3とは対照的に、本発明によらない第1触媒に関する図4および5は、窒素ドープカーボンナノチューブの表面上にプラチナ粒子の微細な分散が起こらないことを示す。
【0106】
プラチナ粒子は、大部分は、10nmを超え、これらの幾つかはまた、寸法が窒素ドープカーボンナノチューブの直径でさえ越える凝集体として存在する。従って、窒素ドープカーボンナノチューブ中のピリジン窒素の異なった割合のみが、窒素ドープカーボンナノチューブの表面上の金属の所望の微細な分散体について重要であるように考えられる。
【0107】
この考えは、実施例3による触媒の測定の結果により更に支持される。これらを図6に示す。
【0108】
これらの結果は、実施例1において首尾良く示された本発明の触媒を製造するための本発明の方法が、カーボンナノチューブの引き続きの官能基化を伴わず、および金属ナノ粒子を安定化するための添加剤の使用を伴わずに行うことができるが、窒素含有量を含まない、特にピリジン種の形態で窒素含有量を含まないカーボンナノチューブの使用が、カーボンナノチューブ上の金属ナノ粒子の所望の高い分散をもたらさないことを明らかとする。
【0109】
用いた本発明ではない市販のカーボンナノチューブは、ほとんど覆われておらず、プラチナは、大部分は凝集体の形態で存在する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも40モル%が、ピリジン窒素として窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)中に存在する少なくとも0.5重量%の窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)を含み、2〜60重量%の1〜10nmの範囲の平均粒度を有する金属ナノ粒子が、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に存在する、触媒。
【請求項2】
ピリジン窒素の割合は、少なくとも50mol%であることを特徴とする、請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
金属ナノ粒子は、Fe、Ni、Cu、W、V、Cr、Sn、Co、Mn、Mo、Mg、Al、Si、Zr、Ti、Ru、Pt、Ag、Au、Pd、Rh、Ir、Ta、Nb、ZnおよびCdからなる群から選択される金属から構成されることを特徴とする、請求項1または2に記載の触媒。
【請求項4】
金属は、プラチナ(Pt)であることを特徴とする、請求項3に記載の触媒。
【請求項5】
金属ナノ粒子は、2〜5nmの範囲の平均粒度を有することを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の触媒。
【請求項6】
表面上に存在する金属ナノ粒子を有する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の製造方法であって、少なくとも以下の工程:
a)少なくとも40モル%がピリジン窒素である少なくとも0.5重量%の窒素の割合を有する窒素ドープカーボンナノチューブの、金属塩を含む溶液(A)中への導入、
b)溶液(A)中の金属塩の、窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の存在下での、必要に応じて化学還元剤(R)の添加による還元、および
c)金属ナノ粒子を添加した窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の、溶液(A)からの分離
を含むことを特徴とする、方法。
【請求項7】
窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、0.5重量%〜18重量%の範囲の窒素含有量を有することを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)は、少なくとも50モル%のピリジン窒素の割合を有することを特徴とする、請求項6または7に記載の方法。
【請求項9】
化学還元剤(R)および溶液(A)の溶媒が、少なくとも部分的に同一であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも40モル%がピリジン窒素である少なくとも0.5重量%の窒素の割合を有し、2〜60重量%の1〜10nmの粒度を有する金属ナノ粒子が、触媒として窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の表面上に存在する窒素ドープカーボンナノチューブ(NCNT)の使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2013−514164(P2013−514164A)
【公表日】平成25年4月25日(2013.4.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−543679(P2012−543679)
【出願日】平成22年12月14日(2010.12.14)
【国際出願番号】PCT/EP2010/069607
【国際公開番号】WO2011/080066
【国際公開日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(512137348)バイエル・インテレクチュアル・プロパティ・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング (91)
【氏名又は名称原語表記】Bayer Intellectual Property GmbH
【Fターム(参考)】