説明

金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体

【課題】大容量の情報を重畳させることが可能な金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体を提供する。
【解決手段】互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示する単位セル11を備え、単位セル11は、各吸収すべき可視光の波長に応じて各種金属ナノ微粒子の径が予め制御され、また所望の混合色を表示する上で必要な補色の混合比率に対応した各種金属ナノ微粒子の面積比率が予め制御される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、携帯電話やコンピュータ等の電子機器に情報を入力するために光学的な読み取り可能な金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年において、例えば特許文献1に示すような二次元コードが広く普及しており、その市場規模は今後も拡大すると予想されている。この二次元コードは、単位セル内に白又は黒を表現することにより二進コードを現し、さらにこの単位セルを二次元のマトリックス上にパターンとして配置したものである。この二次元コードの画像をカメラ等の撮像装置を介して撮像することにより取り込み、対象の二次元コード位置を検出して二進コードを切り出す。次に切り出された二次元コードからコードの大きさを求め、その単位セルの座標を求め、更に白又は黒の判別を行うことにより情報に変換する。このような二次元コードは、バーコードとは異なり狭小な面積で多くの情報を重畳させることが可能となる。
【0003】
ところで、このような二次元コードを構成する各単位セルには、あくまで白又は黒による二色のみ表現することを前提としていることから、単位セルには最大でも二進コードのみしか割り当てることができない。単位セルをマトリックス状に二次元的に配置しても、二次元コード全体に重畳できるデータ容量は限られてしまう。特に今後の情報化社会の進展において、より高容量のデータからなる情報を表現することができる二次元コード、ひいては情報表示媒体を提案する必要があった。また、これに加えて製品の小型化が進展するにつれて、この2次元コードをマーキングするエリアは可能な限り小さくすることも求められる。これを実現するために、高開口数の対物レンズを使用し、一の単位セルの大きさが1μmの超高精細マーキング装置も提案されている(例えば、非特許文献1参照。)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平07−254037号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】レーザ加工学会誌「レーザ微細加工用光学システム」vol.12,No.42,December (2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述した非特許文献1による開示技術では、非常に高密度な2次元コードをマーキングすることができるものの、高開口数の対物レンズを使用する必要があり、スループットの減少を招く恐れがあり、マーキングコストが高くなるという問題点があった。
【0007】
そこで、本発明は、上述した問題点に鑑みて案出されたものであり、その目的とするところは、携帯電話やコンピュータ等の電子機器に情報を入力するために光学的な読み取り可能な情報表示媒体において、大容量の情報を重畳させることが可能な金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上述した問題点を解決するために、単位セルを二次元マトリックス状に配列させて2次元コード化を構成する上で、その単位セルにつき互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示させる点に着目した。そして、この単位セルから発せられる混合色は、上記各吸収すべき可視光の波長に応じて上記各種金属ナノ微粒子の径が予め制御され、また所望の混合色を表示する上で必要な補色の混合比率に対応した上記各種金属ナノ微粒子の面積比率が予め制御されていることにより構成される。
【0009】
請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体は、互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示する単位セルを備え、上記単位セルは、上記各吸収すべき可視光の波長に応じて上記各種金属ナノ微粒子の径が予め制御され、また所望の上記混合色を表示する上で必要な上記補色の混合比率に対応した上記各種金属ナノ微粒子の面積比率が予め制御されていることを特徴とする。
【0010】
請求項2記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体は、請求項1記載の発明において、上記単位セルから上記混合色を発光させることにより、これに割り当てられているデータを表示することを特徴とする。
【0011】
請求項3記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体は、請求項2記載の発明において、上記単位セルを二次元マトリックス状に配列させて2次元コード化したことを特徴とする。
【0012】
請求項4記載の情報表示媒体の情報読取システムは、請求項2又は3項記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体と、上記情報表示媒体における各単位セルから発光される混合色を光学的に検出することにより、これに割り当てられているデータを読み取る情報読取装置とを備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明を適用した情報表示媒体では、単位セルをマトリックス状に配列させ、各単位セルは、互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示する。単位セルは、各吸収すべき可視光の波長に応じて各種金属ナノ微粒子の径が予め制御され、また所望の混合色を表示する上で必要な補色の混合比率に対応した各種金属ナノ微粒子の面積比率が予め制御されている。
【0014】
この各種金属ナノ微粒子の径と、その面積比率を調整することで、所望の混合色を表示させることができ、しかもその混合色は、可視域の色彩全てを割り当てることもできることから、従来の白と黒の2値と比較して、そのデータ数を増やすことができる。また、この単位セルのデータ数を増やすことができれば、これをマトリックス状に配列させた二次元コードのデータ容量を飛躍的に増大させることが可能となる。特に本発明は、極めてシステム構成を簡略化させることも可能となり、安価なシステムとすることも可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明を適用した金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体の平面図である。
【図2】単位セルの詳細な構成例を示す図である。
【図3】金属ナノ微粒子の表面に生じた金属の自由電子による表面プラズモンの概念図である。
【図4】金属ナノ微粒子を金で構成した場合と、銀で構成した場合における、微粒子の径に対する吸収波長の関係を示す図である。
【図5】単位セルの詳細な構成例を示す他の図である。
【図6】本発明を適用した情報表示媒体から実際の情報を読み取る情報読取システムの例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態として、金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体について図面を参照しながら詳細に説明をする。
【0017】
本発明を適用した金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体の平面図を図1(a)に示す。この情報表示媒体1は、単位セル11を二次元マトリックス状に配列させて2次元コード10として構成したものである。
【0018】
この単位セル11には、色彩の異なる複数種類のセルが用いられてなる。即ち、この単位セル11は、白色と黒色の2原色のみならず、赤、緑、黄、青等の可視色も表現することが可能なセルである。
【0019】
図1(b)は、複数の単位セル11を集合させてなるコードブロック12の例である。このコードブロック12は、データコードブロック又は誤り訂正コードブロック等として機能するようになっている。そして、このコードブロック12を構成する単位セル11の色彩や組み合わせ、或いは配置に応じて様々な情報を表現する。なお、コードブロック12では、4×4の単位セル11からなる略正方形状の規則的なマトリックス配列で構成されている場合を例に挙げているが、これに限定されるものではなく、例えば2×4の単位セル11からなる長方形状のコードブロック12、或いは単位セル11の不規則な集合からなるコードブロック12で構成されるものであってもよい。
【0020】
図2は、単位セル11の詳細な構成例を示している。単位セル11は、平面視においてミクロンオーダーもの微細な四角形状で構成されている。例えば、この単位セル11は、平面形状が60μm×60μmの正方形状で構成されていてもよい。この単位セル11は、互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子20a、20bを形成されることにより構成される。図2(a)は、より径小な金属ナノ微粒子20aが左側に形成され、より径大な金属ナノ微粒子20bが右側に形成された例である。
【0021】
図2(b)は、金属ナノ微粒子20aが形成されている領域S1と、金属ナノ微粒子20bが形成されている領域S2を示している。この領域S1と、領域S2との間で面積比S1:S2を求めることが可能となる。ちなみに各領域S1、S2において、金属ナノ微粒子20a、20bの形成密度は、実際の二次元コード1への応用時において求められる発光強度に応じて予め調整されるものであってもよい。
【0022】
ガラス基板25上への金属ナノ微粒子20の形成方法、並びにその単位セル11内における各領域S1、S2の制御方法は、例えば、特開2009−57222号公報に開示の技術を適用するようにしてもよい。
【0023】
このような金属ナノ微粒子20は、図2(a),(c)に示すようにガラス基板25上において形成されている。また、この金属ナノ微粒子20の材質は、例えば、金、銀、銅、プラチナ等で構成されている。このような金属ナノ微粒子20の表面には図3に示すように金属の自由電子による表面プラズモンが生じている。この表面プラズモンの振動状態は、バルク金属とは異なり、可視域の振動数の光と共鳴して光吸収を起こす。この光吸収の補色として、ガラス基板25が着色して見えることとなる。可視域の光の吸収波長は、あくまで金属ナノ微粒子20の粒径に依存する。
【0024】
図4は、金属ナノ微粒子20を金で構成した場合と、銀で構成した場合における、微粒子の径に対する吸収波長の関係を示している。それぞれ、金属ナノ微粒子20を構成する材料及び径に応じて、吸収する可視光の波長が異なり、また発生する補色も異なることが示されている。これは、金属ナノ微粒子20の径に応じて電子運は固有のプラズマ角振動をしている。共鳴する光の波長は、これら金属ナノ微粒子20によって吸収され、その吸収された可視域の色彩に応じた補色が現れることになる。
【0025】
なお、各種金属ナノ微粒子20の誤差は5〜10μmの範囲内において調整されていることが望ましい。あまりに誤差が大きくなると所望の混合色を精度よく表示させることができなくなるためである。
【0026】
互いに径の異なる2種の金属ナノ微粒子20a、20bを単位セル11に形成させることにより、当該単位セル11では、金属ナノ微粒子20a、20bそれぞれから互いに異なる波長の可視光が補色として現れることになる。そして、この単位セル11においては、金属ナノ微粒子20a、20bそれぞれから現れる可視光の混合色が現れる。この混合色は、金属ナノ微粒子20aが形成されている領域S1と、金属ナノ微粒子20bが形成されている領域S2との比率に応じたものとなる。この単位セル11から最終的に発せられる混合色が、当該単位セル11により表現されるデータとなる。
【0027】
本発明では、この単位セル11から発せられる混合色が、データの最小単位である。この混合色は、白、黒の二色ではなくて、あくまで可視域の色彩全てである。このため、この単位セル11から発せられる可視域の混合色に対してそれぞれデータを割り当てる。これにより、単位セル11における混合色を変化させることで、この単位セル11から様々なデータを表示させることが可能となる。例えば、単位セル11から発せられる混合色において、青が“1”、赤が“2”、黄緑が“3”、紫が“4”、緑が“5”、黄色が“6”、・・等と予めデータを割り当てておく。これにより、例えば、所望のデータ“4”を表示したい場合には、そのデータに応じた混合色である紫となるように混合色を調整しておく必要がある。
【0028】
この混合色の調整については、2種の金属ナノ微粒子20a、20bによる補色の混合比率を調整を行えばよく、その2種の金属ナノ微粒子20a、20bによる補色の混合比率は、金属ナノ微粒子20aが形成されている領域S1と、金属ナノ微粒子20bが形成されている領域S2との比率に対応するものとなる。このため、この領域S1と、領域S2と比率を調整することにより、単位セル11から所望の混合色を発生させることが可能となり、ひいては所望のデータを表示させることが可能となる。
【0029】
なお、2種の金属ナノ微粒子20a、20bは、図2(a)に示すように並べられている場合に限定されるものではなく、例えば図5(a)に示すように金属ナノ微粒子20a、20bが縞状に構成されていてもよい。また、図5(b)に示すようにランダムに並べられているものであってもよい。かかるランダムに並べられている場合においても、単位セル11内の2種の金属ナノ微粒子20a、20bの面積比率が調整され、これに応じた波長の可視光が発光されることになる。なお、上述した例ではあくまで2種類の金属ナノ微粒子20a、20bを単位セル11に形成させる場合を例にとり説明をしたが、これに限定されるものではなく、3種類以上の金属ナノ微粒子の混合色を表示させるようにしてもよいことは勿論である。
【0030】
図6は、上述した構成からなる本発明を適用した情報表示媒体1から実際の情報を読み取る情報読取システム6の例を示している。この情報読取システム6は、カラーCCD(Charge Coupled Device)カメラ51と、このカラーCCDカメラ51に接続されたデコーダ52と、デコーダ52に接続されたPC(Personal Computer)53とを備えた情報読取装置50を有している。この情報読取装置50では、情報表示媒体1における各単位セル11から発光される混合色を光学的に検出することにより、これに割り当てられている情報を読み取る。具体的には、先ずカラーCCDカメラ51によりこの情報表示媒体1を撮像して、その撮像信号をデコーダ52へ出力する。デコーダ52は、この撮像信号に基づいて単位セル11から発せられるそれぞれの色彩をデータに数値化する。PC53は、このデコーダから各単位セル11のデータが送信され、単位セル11を二次元マトリックス状に配列させて2次元コード10から情報の読み取りを行う。
【0031】
上述したように、本発明を適用した情報表示媒体1では、単位セル11をマトリックス状に配列させ、各単位セル11は、互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子20を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子20の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示する。単位セル11は、各吸収すべき可視光の波長に応じて各種金属ナノ微粒子60の径が予め制御され、また所望の混合色を表示する上で必要な補色の混合比率に対応した各種金属ナノ微粒子60の面積比率が予め制御されている。
【0032】
この各種金属ナノ微粒子60の径と、その面積比率を調整することで、所望の混合色を表示させることができ、しかもその混合色は、可視域の色彩全てを割り当てることもできることから、従来の白と黒の2値と比較して、そのデータ数を増やすことができる。また、この単位セル11のデータ数を増やすことができれば、これをマトリックス状に配列させた二次元コードのデータ容量を飛躍的に増大させることが可能となる。特に本発明は、カラーCCDカメラ51を使用することにより容易に情報を読み取れるものであることから、高開口数の対物レンズを使用する必要も無くなり、極めてシステム構成を簡略化させることも可能となり、安価なシステムとすることも可能となる。
【符号の説明】
【0033】
1 情報表示媒体
11 単位セル
10 2次元コード
12 コードブロック
20 金属ナノ微粒子
25 ガラス基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに径の異なる2種以上の金属ナノ微粒子を形成させることにより、各種金属ナノ微粒子の径に応じた波長の可視光を吸収してその補色を混合させて表示する単位セルを備え、
上記単位セルは、上記各吸収すべき可視光の波長に応じて上記各種金属ナノ微粒子の径が予め制御され、また所望の上記混合色を表示する上で必要な上記補色の混合比率に対応した上記各種金属ナノ微粒子の面積比率が予め制御されていること
を特徴とする金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体。
【請求項2】
上記単位セルから上記混合色を発光させることにより、これに割り当てられているデータを表示すること
を特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体。
【請求項3】
上記単位セルを二次元マトリックス状に配列させて2次元コード化したこと
を特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体。
【請求項4】
請求項2又は3項記載の金属ナノ粒子を用いた情報表示媒体と、上記情報表示媒体における各単位セルから発光される混合色を光学的に検出することにより、これに割り当てられているデータを読み取る情報読取装置とを備えること
を特徴とする情報表示媒体の情報読取システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−190084(P2012−190084A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−50883(P2011−50883)
【出願日】平成23年3月8日(2011.3.8)
【出願人】(592253736)シグマ光機株式会社 (46)
【出願人】(504190548)国立大学法人埼玉大学 (292)
【Fターム(参考)】