説明

金属ナノ粒子を用いた表面処理方法、その表面処理方法を用いて表面処理された器具

【課題】 環境公害の発生が少なく人体に安全な方法であって、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子の殺菌効果を最大限に引き出すような金属ナノ粒子を用いた表面処理方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法は、球根植物若しくは塊根植物の一部を乾燥して形成される微細多孔質担体に、金属前駆体を反応させて生成される金属ナノ粒子コロイドを用い、前記金属ナノ粒子コロイドから金属ナノ粒子を被処理体の表面に固定させることを特徴とする。本発明によれば薄膜の超微細積層粒子層を形成させて抗菌性に優れた器具を原価も格段に安く提供でき、殺菌消毒をしながら固着している非衛生な異物などを確実に取り除くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属ナノ粒子を用いた表面処理方法と、その表面処理方法を用いて表面処理された器具に関し、特にその抗菌性に優れた器具を金属ナノ粒子を用いた表面処理にて製造する方法と該表面処理方法を用いた器具に関する。
【背景技術】
【0002】
最近、金属ナノ粒子特に銀ナノ粒子の殺菌効果に関しては多くの分野で認められており、銀ナノ粒子は殺菌力が高く、細菌膜(bio film)を低減し及びカビ防止に効果があることが立証されている。一方、近年の医療現場では、エイズや院内感染などが問題となることがあり、患者の血液の取扱いや、治療の際に生ずる血液や体液の付着した医療器具の取扱いなども重要な課題であり、抗菌や消毒方法なども広く検討されている。
【0003】
ところで、医療器具素材であるステンレスなどの金属に抗菌力ある銀のような金属を形成させる従来技術としてメッキ法が知られている。メッキ法はステンレスなどの金属表面を塩酸などの酸による前処理を施し、シアン化銀(AgCN) などの水溶液に青酸カリ(KCN) などの添加剤を配合して素材を直接浸浴する製造方法で、所要のメッキ膜をステンレスなどの金属の表面に形成することができる。また、真空環境下でスパッタリングを行ってナノシルバー膜を形成する技術も知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0004】
また、歯科用材料への銀ナノ粒子の応用も検討されてきており、人工歯の材料として均質に歯科用材料の中に混入される例も知られている(例えば、特許文献2参照。)。素材中に混入されることから、表面を銀ナノ粒子で被覆する技術とは異なるが、プラスチックや硝子などを素材とする歯科用材料には適用可能とされている。
【0005】
【特許文献1】特開2006−170599号
【特許文献2】特表2007−514675号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが、上述のメッキ法による抗菌性の向上には、次のような問題点がある。すなわち、まず、作業者たちが毒物に露出するので危険が大きく、また毒性廃水が発生など環境にも悪い問題となっている。また、メッキ法やスパッタリング法による銀メッキの膜の厚さは 0.5μm〜50μmとなり、銀が比較的に多量に消耗されてしまい、製造原価が高くなるおそれがある。また、硫黄などの元素に接した場合では、簡単に黄化銀(Ag2S)などに反応し黒く変色するので商品価値が損なわれるという問題も発生する。さらに、素材中に混入させる技術(特許文献2)では、金属材料の表面にだけ処理を施すことはできず、その応用範囲は限定されたものになってしまう。
【0007】
そこで、本発明は、上述の如き従来技術の問題点を解決し、環境公害の発生が少なく人体に安全な方法であって、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子の殺菌効果を最大限に引き出すような金属ナノ粒子を用いた表面処理方法を提供することを目的とする。また、本発明は、このような表面処理方法を用いて製造される抗菌性の高い医療用などの用途の器具を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上述の技術的な課題を解決するため、本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法は、球根植物若しくは塊根植物の一部を乾燥して形成される微細多孔質担体に、金属前駆体を反応させて生成される金属ナノ粒子コロイドを用い、前記金属ナノ粒子コロイドから金属ナノ粒子を被処理体の表面に固定させることを特徴とする。
【0009】
本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法の好適な実施形態によれば、前記微細多孔質担体の孔隙に前記金属前駆体から供給される金属イオンが分散され、前記微細多孔質担体を構成する分子に固定されるようにすることができ、前記微細多孔質担体を構成する分子に固定された金属イオンは、前記微細多孔質担体に含有されたアルカリにより還元されて前記金属ナノ粒子コロイドを形成することができ、さらにアルカリにより還元された前記金属ナノ粒子は前記微細多孔質担体を加水分解して得られる単糖類若しくは二糖類により分散状態を維持するようにすることができる。
【0010】
また、金属ナノ粒子を被処理体の表面に固定させる際に、前記被処理体の表面に緩衝材を形成するようにしてもよく、例えば、このような緩衝材の例示として、前記被処理体の表面に珪酸基若しくはシラノール基を形成して前記金属ナノ粒子を吸着させるようにすることができる。さらに前記金属前駆体としては、種々のものを用いることが可能であるが、例えば硝酸銀を使用することで、取扱も容易であり、製品価格を安価に抑えることも可能となる。
【0011】
ここで、本発明による金属ナノ粒子を用いた表面処理方法について更に説明すると、その工程については、金属前駆体水溶液の調整、微細多孔質担体の生成や、金属ナノ粒子コロイド形成、被処理体の表面処理などに大まかに分けることができる。はじめに、金属前駆体水溶液については、例えば硝酸銀(AgNO3) 5 〜 50 重量部及び蒸溜水50 〜 95重量部を用いて金属前駆体水溶液(銀前駆体水溶液)を調整する。次に微細多孔質担体の生成については、担体となるじゃがいも、さつまいも、ヤコン(Polymnia sonchifolia)、菊芋などからなる水分含有量50〜90%のアルカリ性根植物である球根植物(bulbous plant)若しくは塊根植物(tuberous root plant)の皮を剥いて、1〜20mmの大きさとなるように切断し、多孔体の細孔を破壊しない凍結乾燥(Freeze drying) または超臨界(Supercritical) 乾燥の手法により、水分含有量を2〜6%以内に乾燥させて多孔質乾燥体である微細多孔質担体を得る。
【0012】
このようにして得られた微細多孔質担体は、前述の銀前駆体水溶液に投入され、50〜70℃の温度で24時間から72時間程度維持させて、所要の反応を生じさせる。この温度環境下では、銀前駆体水溶液の銀イオンは、微細多孔質担体に対してまず浸透して分散する。一定時間経過では銀イオンは微細多孔質担体に含まれる分子と結合して膨潤して固定されるが、微細多孔質担体に含まれるアルカリによって中和され、銀イオンを還元した銀金属によるナノ粒子として析出し、この銀ナノ粒子はそのまま微細多孔質担体を加水分解した単糖類若しくは二糖類により分散状態を維持するように保存されて、銀ナノ粒子による金属ナノ粒子コロイド溶液が得られることになる。この時、加水分解は90〜100℃で12〜120時間維持することで進められ、加水分解させて還元体を形成させて銀イオンを銀金属で析出させる。この場合の化学式は次のとおりである。
【0013】
(化学式1) R―CHO+AgNO→R−COO+Ag↓
【0014】
銀ナノ粒子コロイド溶液が得られたところで、所要の緩衝材処理や銀ナノ粒子積層体の形成を行って金属ナノ粒子を用いた表面処理を完了させる。被処理体として、先ず、金属及び無機質、有機質の材料群からなる被処理体を例えば20〜100℃の温度でコルロイダルシリカ水溶液(固形分0.001〜10%)に浸漬させて緩衝材処理をする。次に、銀ナノ粒子の積層のための更なる浸漬工程として、本発明による銀ナノ粒子コロイド溶液0.001〜5重量部と精製水95〜99.999重量部を混合した水溶液に緩衝材処理済みの被処理体を沈積した後、例えば20〜100℃ 下で1〜300分間維持する。この時、温度が上昇すれば、被処理体表面に形成された珪酸基は官能基が増加して吸引力の上昇と同時にコロイド溶液内の銀ナノ粒子もイオン性が増加して移動エネルギーが活性化する。このためコロイド溶液から銀ナノ粒子が容易に離脱して緩衝層の表面に吸着され、その吸着した表面で結合しながら核が形成されて行き、核を中心に続いて吸着と積層が繰り返して起きることで核が成長し、その結果、抗菌性の銀ナノ粒子積層体が被処理体表面に生成されることになる。
【0015】
本発明による金属ナノ粒子を用いた表面処理方法における金属前駆体については、例えば銀前駆体としては抗菌性を持つ金属である銀を含む硝酸銀(AgNO3)を利用する。 その他、電気分解銀、金コロイド及び塩酸、硫酸、フッ化水素酸(hydrofluoric acid)、または混合酸等にイオン化した銀(Ag) 及び金(Au)、白金(Pt) 前駆体を利用して同様の効果を得ることができる。硝酸銀は比較的に安価で手軽く購入できるため、特に銀前駆体として望ましい。
【0016】
本発明では上記金属前駆体を精製水に溶解させて担体であるアルカリ性の球根植物若しくは塊根植物と混合すれば担体の内部に金属イオンが浸透すると共に分散し、担体が膨潤すれば微細な状態として担体内に固定される。この過程で担体のアルカリ性成分によって銀イオンの中和が一部進行される。引き続き60〜100℃に加熱すれば多糖である担体が加水分解して二糖類(disaccharide) 及び単糖類に変わっていく。この過程で一部に還元糖が形成され、この還元糖によって銀イオンが還元反応を起こし金属を析出させた銀ナノ粒子コロイドが得られることになる。
【0017】
得られた銀ナノコロイドに緩衝材形成工程で官能基が形成された医療器具などの器具を浸漬すれば、銀ナノ粒子のイオン性が増加し、移動エネルギーが活性化になって担体から離脱して先に核として医療機器の表面に吸着する。これら核を中心にナノ粒子がさらに吸着して成長し、これらナノ粒子が積層されて島を形成する。この時、積層時間を長くすればするほどナノ粒子の積層量も増加する。この時、加熱温度を上げれば積層時間を短縮することもできる。もし長い時間(例えば、約5時間以上)処理する場合、島と島の間がつながり、器具の表面全体に成膜が形成されることもある。
【0018】
本発明における微細多孔質担体は、アルカリ性根植物すなわちアルカリ性の球根植物若しくは塊根植物を用いており、カリウム、カルシウム、ナトリウムのようなアルカリ性成分を含んでおり、二糖及び単糖に加水分解すれば一部の還元糖を生成することができる天然材料である。具体的には、根菜等の球根植物または塊根植物であって、じゃがいも(Potato)、さつまいも(Sweet potato)、ヤコン(Polymnia sonchifolia)、キクイモ(Jerusalem artichoke) 、タロイモ、サトイモ、ミズイモ、ヤツガシラ、ヤムイモ、キャッサパ(マニオク)、コンニャクイモ、オカなどの根菜をその皮を剥くように処理し、次いで凍結乾燥または超臨界乾燥で水分含有量50〜90%から2〜6%まで乾燥して再水和(Re-hydration) 及び加水分解(Hydrolysis)が容易にとなるように超微細多孔質乾燥体を生成する。この時、凍結乾燥または超臨界乾燥ではない一般加熱乾燥でも担体を製造することができるが乾燥過程で分子または粒子間に結集することがあり、耐水性となる物性が形成されて銀イオンの浸透が難しくなるため、加水分解時に分解反応を円滑に行うためには、凍結乾燥または超臨界乾燥が望ましい。
【0019】
アルカリ性球根植物若しくは塊根植物を利用する主な理由は次の通りである。アルカリ性球根植物若しくは塊根植物は、アルカリ金属及びアルカリ土金属であるカリウム、カルシウム、ナトリウムなどを多量に含んでおり、これらアルカリは水溶液状態で硝酸銀イオンを徐々に安定的に中和させる。同時に担体はその体積の大部分がアミロペクチン(amylopectin) とアミロース(amylose)で構成されている。これら成分の間には複数の孔隙(微細な穴)またはマイセル(micell) が形成されており、本発明にかかる銀イオンが孔隙に浸透して分散した後、一定時間後にはアミロペクチンなどと結合して膨潤して固定される。当該担体が生成された際に自然に含有されているアルカリによって、固定された銀イオンは徐々に中和反応し、その後、繰り返し加水分解すれば多糖が二糖及び単糖に分解され、その一部には還元糖(Reducing sugar)が形成されて銀イオン(Ag+)を完全に還元させた銀金属(Ag) 粒子が析出された銀ナノ粒子コロイドを形成する。
【0020】
この時の反応は化学式1のように表現される。
(化学式1) R-CHO+AgNO3 → R-COO+Ag↓
【0021】
還元糖の還元基、例えばアルデヒド基(aldehyde group)やケトン基 (ketone group)が反応してカルボキシル基(carboxyl group)に酸化され、銀イオンは中和(pH2〜4→pH6〜8)されて還元し、化学式1のように金属(Ag)として析出する。一般的に金属イオンの沈積または析出時には粒子の凝集反応が強く発生する。しかし本発明ではじゃがいもなどの根菜を充分に加水分解すれば単糖であるグルコース(Glucose)などの超親水性粘液質を形成し、銀粒子を分散後も担体し、銀粒子は超微細なナノ単位状態で安定するように分散しながら維持されることになる。被処理体の表面処理工程のように生成された銀ナノコロイド溶液内の銀ナノ粒子は加熱によってイオン性が増加して移動エネルギーも増加する。 また加熱によって担体におけるグルコースなどは粘液性質を失って低粘度となる。その結果、銀ナノ粒子を担持している力を失って放すようになれば、銀ナノ粒子は医療器具などの素材表面に先にプライマーとして形成された緩衝材の珪酸基に吸着結合される。この時、担体は反応せずに溶液内に残るようになっており、その役目を終える。
【0022】
本発明においては、緩衝材は銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子を固定し難いステンレス及びプラスチックなどの表面に形成されるプライマーとしての材料であり、緩衝層(Buffer layer) として形成され吸引性を付与する材料である。一般的に銀ナノ粒子と医療器具素材であるステンレスなどの金属表面は結合性が低く、緩衝層を形成することで金属ナノ粒子を吸着させることができる。本発明の緩衝材としては、珪酸アルカリ化合物、コロイダルシリカ(colloidal silica)、シリコーン樹脂、アルコキシシラン化合物等が使用可能である。珪酸アルカリ化合物は、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム、アルキルアンモニウム等のアルカリ成分と、珪酸とを含む化合物である。具体的には、オルソ珪酸リチウム、メタ珪酸リチウム、二珪酸リチウム、オルソ珪酸ナトリウム、ピロ珪酸ナトリウム、メタ珪酸ナトリウム、二珪酸ナトリウム、メタ珪酸カリウム、二珪酸カリウム、四珪酸カリウム等があげられ、これらから選ばれる1種、または2種以上を用いることが好ましい。本発明の一実施形態においては、1〜20nm の大きさのコロイダルシリカが使用され、またはメタ珪酸ナトリウム(Na2SiO3)、オルト珪酸ナトリウム(Na4SiO4)、二珪酸ナトリウム (Na2Si2O5)の中から選択的に使用することもできる。
【0023】
このような緩衝材は珪酸基又は珪酸(H2SiO3)のイオンを形成し、代表的な医療器具素材であるステンレスのような金属表面と結合する。本発明の緩衝材はその表面に官能性珪酸基またはシラノール基(Si-OH)を形成して銀ナノ粒子を容易に吸着させることができる。
【0024】
本発明において、希釈や水溶液の生成などにおいては、不要な反応を抑制するために精製水、蒸溜水、イオン交換精製水、または脱イオン水などが使用される。また、本発明は医療用などの多種の器具に関するものでもあり、本発明にかかる器具はステンレス、チタン、アルミニウム、ジルコニウム、クロム、ニッケル、鉛、亜鉛、鉄、銅などの殆どの金属及び酸化ジルコニウム(ZrO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化ケイ素(SiO2)、アパタイト(Apatite) などのセラミックス及び鉱物、硝子(Glass) などの大部分の無機質素材であるシリコーン、ふっ素樹脂、ポリカーボネート、ポリエチレン、ポリプロピレン、ABS、アクリル、EVA、PVC、ポリエステル、天然ゴム及び合成ゴム類などの有機及び無機有機複合高分子素材を表面に有しており、それに本発明の処理を施すようなものであれば良い。
【0025】
本発明は、医療用器具、歯科用器具、生物医学的器具、健康器具、生活雑貨製品、厨房、食料品、飲料品等の器物、調理器具、容器および保温容器ならびに生活環境において衛生に関連する器具、電子機器や輸送機械等に用いられる種々の器具など、人体若しくは動物などの接触により抗菌特性が必要と思われる全ての機械、器具の表面に適用可能である。特に本発明は、入れ歯、金属義歯、矯正器具、歯冠材料、義歯床材料、歯科補綴物、インプラント用部材などの歯科用器具や人工骨などの医療用や治療用の各種器具などの表面処理に好適である。
【発明の効果】
【0026】
本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法によれば、抗菌性が優秀な銀ナノ積層体を形成させる製造方法を提供することができ、人体無害であるが殺菌力と抗菌性を持つ例えば銀ナノ粒子コロイド溶液を医療機器及び歯科材料の素材である金属、セラミックス、または高分子材料の素材に積層し、殺菌消毒をしながら固着している異物 (使用中の入れ歯の歯苔及びメスの血痕など)を十分に取り除くことができる。
【0027】
また、本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法によれば、0.35nm〜5nm程度の超微細積層粒子を形成させて比表面積を画期的に増加させながら原価も格段と安い素材を提供することができる。また金属ナノ粒子の結合性も優秀であり、容易に剥がれないという特性も有している。特に使用中の医療器具は血痕、歯苔、歯垢、細菌膜(Bio Film)などの非衛生的な異物が固着している場合もあり、本発明の器具を用いることで、金属ナノ粒子の吸着力によって、これらの非衛生的な異物が置き換えられて除去されるメリットが大きい。本発明によれば、細菌は死滅して、銀ナノ粒子が積層された後は、長期間抗菌性を保持できることになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0028】
以下、本発明の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法をより詳細に説明する。図1は本発明にかかる銀ナノ粒子を用いた表面処理方法の一例における処理工程を示すブロック図である。
【0029】
初めに、銀前駆体である硝酸銀5乃至50重量部に精製水50乃至95重量部を添加して、銀イオン水溶液を製造する(S10)。次に、球根植物若しくは塊根植物の例としてじゃが芋を用意し、そのじゃが芋の皮を剥いて例えば1〜20mmとなるような大きさで切断し(S11)、その切断後、水分含有量が2〜6%となるように凍結乾燥または超臨界乾燥して微細多孔質担体を製造する(S12)。このとき、凍結乾燥または超臨界乾燥を用いることで、担体に形成された微細な多孔体の孔隙を破壊せずに乾燥させることができる。
【0030】
硝酸銀を調整した銀イオン水溶液100重量部に微細多孔質担体を20乃至400重量部を添加して50?70℃の温度で24〜72時間維持する(S13)。すると担体の超微細多孔質構造及び主成分であるアミロペクチンとアミロース分子の間に形成されている微細な孔隙に銀イオンが浸透すると共に担体が膨潤して銀イオンが分散した状態で固定される。この時、微細多孔質担体成分中のアルカリによって一部pH値2〜4がpH値4〜5に変化する中和反応が生ずる。引き続き、精製水を100乃至1000重量部追加して90〜100℃に12〜120時間加熱する(S14)ことで、多糖である微細多孔質担体が加水分解して二糖と単糖になり、前述の化学式1に従う還元作用によって銀イオンは0.35乃至5nm程度のサイズの銀粒子として析出される。またアミロースなどの分子は鎖が完全に切られ、これらの単量体である粘液質のグルコースなどになり、 銀ナノ粒子を含むコロイド溶液が生成される(S15)。
【0031】
このように生成された銀ナノ粒子コロイド溶液は、表面処理に対象となる被処理材との相性によっては、そのまま被覆するようにスプレーや刷毛塗り等で塗布したり、浸漬したりというような方法で被処理材の表面に直接的に形成することも可能であるが、次のような緩衝材を形成することで、ステンレスなどの金属表面にも銀ナノ粒子被膜を形成することができる。まず、このような被処理材の表面処理は第1の浸漬工程と第2の浸漬工程からなる。
【0032】
まず、第1の浸漬工程である緩衝材形成工程(S16)は次のように行われる。例えば、金属、硝子、セラミック、プラスチック、ゴム、シリコーン、及びこれらの複合材などの医療器具素材を被処理材とする場合には、緩衝材となるコルロイダルシリカまたは珪酸ナトリウム水溶液(固形分、例えば0.001乃至10%)の液中に沈めて、5乃至120分間 、20乃至100℃に維持すればコルロイダルシリカのシラノール(Si-OH)基または珪酸ナトリウム内の珪酸イオン(H2SiO3)が被処理材の表面に吸着され、吸着層として機能する緩衝材膜が医療器具素材からなる被処理材の表面に形成される。
【0033】
このような緩衝材層が被処理材の表面に形成された後、第2の浸漬工程として先に生成された銀ナノ粒子コロイド溶液0.001乃至10重量部に蒸溜水10乃至90重量部を混合し、緩衝材層が表面に形成された被処理材を20乃至100℃を維持しながら5乃至120分間銀ナノ粒子コロイド溶液に浸漬する(S17)。この時最も適切な温度範囲は40〜90度であり、温度が上昇すればナノ粒子はイオン性が増加し移動エネルギーが大きくなり、緩衝層の珪酸基またはシラノール基は反応性が増加して吸引力が大きくなる。従って、銀ナノ粒子コロイド溶液中の銀ナノ粒子が担体から離脱され被処理材表面に吸着して結合し、先に形成された核を中心に徐々に銀ナノ粒子が成長するように吸着し、銀ナノ粒子が積層した膜のように形成されて本発明による抗菌性銀ナノ粒子積層体が形成される(S18)。図2は第1の浸漬工程と第2の浸漬工程からなる被処理材の表面処理について説明する図であり、図2に示すように、第1の浸漬工程の前では金属面では酸化した金属が露出しているが、第1の浸漬工程で緩衝層の珪酸基またはシラノール基が表面に臨んで形成され、第2の浸漬工程で銀ナノ粒子の薄い析出層が得られていることが判る。
【0034】
この抗菌性銀ナノ粒子積層体の形成過程で、被処理材自体が使用中のメス、インプラント用部材、入れ歯などの医療器具である場合、このような医療器具は殺菌消毒され、固着した非衛生な異物が確実に除去される効果がある。また、本発明による銀前駆体は超微細銀ナノ粒子の積層によって良好な抗菌特性が得られるものであり、人体には無害であって、殺菌消毒力と固着した異物の除去力が優れていることから、材料効率が高くて原価を抑えた抗菌性医療器具で使用できる。さらに本発明にかかる器具は、医療器具に限らず、その他纎維、フィルター、包装材、建築材料または各種生活用品などで多様な分野にも抗菌機能性を活かして使用できる。
【0035】
本発明は以下に説明される実施例によってより詳しく理解できるものである。下記の実施例は本発明を例示するため示しており、これらの実施例によって本発明の保護される範囲は制限されるものではない.
【0036】
[実施例1]
銀前駆体として硝酸銀(AgNO3=169.88、含量63.37%) 373gに精製水913gを添加して硝酸銀を溶解させた(pH3.5)。一方、担体としてじゃがいもの皮をむいたものをサイズ10mmに切って凍結乾燥してその水分保有率を4%まで下げた。この凍結乾燥させた担体を銀イオン溶液1286gに添加して60℃に加熱し24時間維持してpH値を4.5程度に調整した。その後、精製水2572gを追加し、100℃に24時間加熱して常温(20〜25℃)で 48時間放置しておいた後、精製水2572gを更に添加して粉砕した後、600目の濾過布で濾過してpH値6.9の銀ナノコロイド溶液(Ag含量30.604ppm)を得た。
【0037】
緩衝材形成のための第1の浸漬工程で医療器具素材として典型的なステンレス製の平板(大きさ 5cm×5cm)8個を水道水で洗浄した後、緩衝材であるコルロイダルシリカ(固形分0.1%)に浸漬して60℃の温度下で1時間維持した後、33℃に冷却してステンレス製の平板の表面に緩衝層を形成した。続いて、第2の浸漬工程で先に得られた銀ナノコロイド溶液と精製水を0.5:99.5の割合で混ぜ合わせて、緩衝層が形成されたステンレス製平板を液中に沈めて80℃の温度下で約1時間浸漬した後水洗いし、銀ナノ粒子が積層されたステンレス製銀ナノ積層平板を得た。
【0038】
当該実施例1で得られた銀ナノ粒子積層ステンレス平板に対する抗菌性試験を日本産業規格JIS Z 2801:2000 フィルム密着法によって実施した。抗菌性試験結果を次の表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
表1に示す結果からは、黄色ブドウ状球菌においても大腸菌においても、それぞれ24時間後ではその菌の数が激減していることが判明し、本発明の表面処理方法を用いて表面処理されたステンレス製平板に抗菌作用があることが確認された。また、この実施例 1で得られた銀ナノ粒子積層ステンレスの表面における原子プロファイル図を電子スペクトラムを利用して調査した結果を図3と表2に示す。
【表2】

【0041】
これら表2および図3のスペクトラム図に示すように、ステンレス製平板表面にはAg(銀)の原子によるスペクトラムのピークがあることが判明し、前述の抗菌機能は銀ナノ粒子によるものとの推論を裏付けるものとなっていた。
【0042】
[実施例2]
銀前駆体(A)として硝酸銀(AgNO3=169.88、含量63.37%) 300gに精製水800gを添加して硝酸銀を溶解させた(pH値3.5)。次に、担体としてさつまいもの皮をむいた後、 サイズ10mmに切って凍結乾燥により水分3%となるまで乾燥させ、微細多孔質担体とされたところで、 先の硝酸銀溶液を1100gを添加して60℃で24時間維持(pH値4.5)した。 さらに精製水2200gを追加した後、100℃に18時間加熱し、常温(20〜25℃)で48時間放置しておいた後、精製水2200g(Ag含量 28,800ppm)を更に添加して粉砕して600目濾過布で濾過してpH値6.8の銀ナノコロイド溶液を得た。
【0043】
緩衝材を形成する第1の浸漬工程で歯科患者が使用している入れ歯を緩衝材であるコルロイダルシリカ(固形分0.2%)に浸漬して55℃の温度下で90分間維持した後、第2の浸漬工程で上述の方法で得られた銀ナノコロイド溶液と精製水を0.5:99.5の割合(Ag含量144ppm)となるように調整して、緩衝材処理した入れ歯を浸漬して53℃の温度下の60分間浸漬した後、水洗いして銀ナノの置換性によって歯苔が完全に取り除かれ殺菌消毒されてなる抗菌性銀ナノ積層入れ歯を得た。この実施例2で得られた銀ナノ粒子積層入れ歯を処理前と処理後の写真を撮ったものを図4、図5に図面代用写真で示す。
【0044】
図4は実施例2で説明した表面処理前の入れ歯の様子を示す図面代用写真であり、図中"bio1"で示す領域において歯科材料(入れ歯)の歯苔(細菌膜)は残存しているが、一方図5は実施例2で説明した表面処理後の入れ歯の様子を示す図面代用写真であり、歯科材料(入れ歯)の歯苔(細菌膜)は図中"bio2"で示す領域において除去されていることが確認された。
【0045】
また、図6、図7はそれぞれ表面処理前の入れ歯と表面処理後の入れ歯に対して細菌を培養して様子を見たところでの図面代用写真である。これらは3M社製 ペトリフィルム(Petrifilm:商品名)を用いた好気性細菌試験を行った結果を示しており、その試験方法は、実施例2によって表面処理された試料と比較例1(無処理) 試料のそれぞれ表面に好気性細菌を0.1g投与したガーゼを付けた後、フィルムで密着させ、30℃に維持したまま24時間後にガーゼを剥がして、0.5gの無菌シートにそれぞれ湧出させてペトリフィルム試験培地に投与して 32℃で48時間定置させたら上記のような結果を得た。図6に示すように、比較例1(無処理)は投与した細菌が生存(赤い斑点)しているが、一方、図7は細菌は完全死滅していることを示しており、表面処理後の入れ歯に残された細菌は全滅していたことが確認された。
【0046】
[実施例3]
銀前駆体として硝酸銀(AgNO3=169.88、含量63.37%) 250gに精製水850gを添加して溶解させpH3.5の硝酸銀溶液を得た。微細多孔質担体の原料としてヤコンの皮をむいたものをサイズ10mmとなるように切って凍結乾燥(水分3.5%)して微細多孔質担体を得た。先の硝酸銀溶液にヤコンを用いた微細多孔質担体1100gを添加して50℃に24時間維持してpH4とした後、精製水2200gを追加しながら100℃に24時間加熱して、さらに 常温(20〜25℃)で48時間放置しておいた後、精製2200g(Ag含量18,002ppm)を添加して粉砕して600目濾過布で濾過して pH7.0の本実施例の銀ナノコロイド溶液を得た。
【0047】
緩衝材形成のための第1の浸漬工程で医療器具用シリコーンゴムを平板50mm×50mmのサイズに切断した後、緩衝材であるコルロイダルシリカ(固形分0.1%)に浸漬して60℃の温度下で30分間維持してシリコーンゴム板の表面に緩衝層を形成した。続いて、第2の浸漬工程で先に得られた銀ナノコロイド溶液と精製水を1:99の割合(Ag含量 180ppm)で混ぜ合わせて、緩衝層が形成されたシリコーンゴム板を液中に沈めて55℃の温度下で約1時間浸漬した後水洗いし、銀ナノ粒子が積層された抗菌性シリコーンゴムを得た。当該実施例3で得られた銀ナノ粒子積層シリコーンゴム板に対する抗菌性試験を日本産業規格JIS Z 2801:2000 フィルム密着法によって実施した。抗菌性試験結果を次の表3に示す。
【0048】
【表3】

【0049】
このように微細多孔質担体の原料としてヤコンを用いた場合であっても、表3に示す結果からは、黄色ブドウ状球菌においても大腸菌においても、それぞれ24時間後ではその菌の数が激減していることが判明し、本発明の表面処理方法を用いて表面処理されたシリコーンゴム板に対しても抗菌作用があることが確認された。
【0050】
なお、上述の実施形態においては、器具として医療用や歯科用の器具について説明したが、本発明の表面処理が施される器具は、医療用器具、歯科用器具に加えて、生物医学的器具、健康器具、生活雑貨製品、厨房、食料品、飲料品等の器物、調理器具、容器および保温容器ならびに生活環境において衛生に関連する器具、電子機器や輸送機械等に用いられる種々の器具など、人体若しくは動物などの接触により抗菌特性が必要と思われる全ての機械、器具の表面に適用可能である。特に本発明は、入れ歯、金属義歯、矯正器具、歯冠材料、義歯床材料、歯科補綴物、インプラント用部材などの歯科用器具や人工骨などの医療用や治療用の各種器具などの表面処理に好適である。
【図面の簡単な説明】
【0051】
【図1】本発明の表面処理方法の一例をその工程順に示すフローチャートである。
【図2】本発明の表面処理方法の一例における第1と第2の浸漬工程における被処理材表面の状態の遷移を示す模式図である。
【図3】本発明の表面処理方法を施したステンレス製平板の表面のスペクトラム図である。
【図4】本発明にかかる銀ナノ粒子積層入れ歯を処理前の写真を撮ったものを示す図面代用写真である。
【図5】本発明にかかる銀ナノ粒子積層入れ歯を処理後の写真を撮ったものを示す図面代用写真である。
【図6】本発明にかかる表面処理前の入れ歯に対して細菌を培養して様子を見たところでの図面代用写真である。
【図7】本発明にかかる表面処理後の入れ歯に対して細菌を培養して様子を見たところでの図面代用写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
球根植物若しくは塊根植物の一部を乾燥して形成される微細多孔質担体に、金属前駆体を反応させて生成される金属ナノ粒子コロイドを用い、前記金属ナノ粒子コロイドから金属ナノ粒子を被処理体の表面に固定させることを特徴とする金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項2】
前記微細多孔質担体の孔隙に前記金属前駆体から供給される金属イオンが分散され、前記微細多孔質担体を構成する分子に固定されることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項3】
前記微細多孔質担体を構成する分子に固定された金属イオンは、前記微細多孔質担体に含有されたアルカリにより還元されて前記金属ナノ粒子コロイドを形成することを特徴とする請求項2記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項4】
アルカリにより還元された前記金属ナノ粒子は前記微細多孔質担体を加水分解して得られる単糖類若しくは二糖類により分散状態を維持することを特徴とする請求項3記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項5】
金属ナノ粒子を被処理体の表面に固定させる際に、前記被処理体の表面に緩衝材が形成されることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項6】
前記緩衝材は前記被処理体の表面に珪酸基若しくはシラノール基を形成して前記金属ナノ粒子を吸着させることを特徴とする請求項5記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項7】
前記金属前駆体は硝酸銀であることを特徴とする請求項1記載の金属ナノ粒子を用いた表面処理方法。
【請求項8】
球根植物若しくは塊根植物の一部を乾燥して形成される微細多孔質担体に、金属前駆体を反応させて生成される金属ナノ粒子コロイドを用い、前記金属ナノ粒子コロイドから供給された金属ナノ粒子が表面に固定されてなることを特徴とする器具。

【図2】
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【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−174031(P2009−174031A)
【公開日】平成21年8月6日(2009.8.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−15849(P2008−15849)
【出願日】平成20年1月28日(2008.1.28)
【出願人】(508029147)有限会社アイビーネット (1)
【Fターム(参考)】