説明

金属ナノ粒子分散体および金属被膜

【課題】成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体、またこの金属ナノ粒子分散体を用いて得られる、クラックがなく、比抵抗値の小さい金属被膜を提供する。
【解決手段】平均粒子径1〜100nmの銅および/または銀である金属ナノ粒子を、シクロヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、トルエンおよびキシレンから選ばれる少なくとも1種の有機溶媒に分散してなる該金属ナノ粒子分散体にn−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールおよびセチルアルコールから選ばれる少なくとも1種の炭素数8〜16の高級アルコールを加える。この金属ナノ粒子分散体を塗布し、焼成することにより、クラックがなく、比抵抗値の小さい金属被膜が得られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子分散体および金属被膜に関し、詳しくは、成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体およびこの分散体を用いて得られる金属被膜に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子分散体を用いて金属被膜を形成することは一般によく知られている。そして、このような金属ナノ粒子分散体として、例えば、特許文献1、2に記載のものが知られている。
【0003】
特許文献1には、有機酸金属塩とアミン化合物とを反応させて金属ナノ粒子を製造するにあたり、金属核の形成および成長を100℃未満の温度で行ない、得られる金属ナノ粒子をテトラデカンなどの有機溶媒に分散させて金属ナノ粒子分散体とすることが記載されている。
【0004】
また、特許文献2には、有機酸金属塩とアミン化合物とを含む溶液に還元剤を作用させて金属ナノ粒子を形成し、得られる金属ナノ粒子をテトラデカンなどの有機溶媒に分散させて金属ナノ粒子分散体とすることが記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2007−197755号公報
【特許文献2】特開2007−321216号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2に記載の金属ナノ粒子分散体を用いて得られる金属被膜は良好な性能を発揮する。しかし、その後の研究によれば、成膜性になお改善の余地があることが判明した。
【0007】
かくして、本発明は、成膜性に優れた金属ナノ粒子分散体、またこの金属ナノ粒子分散体を用いて得られる、クラックのない、金属被膜を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らの研究によれば、平均粒子径が1〜100nmの金属ナノ粒子を有機溶媒に分散させた金属ナノ粒子分散体に炭素数8〜16の高級アルコールを加えることにより前記課題が解決できることがわかった。すなわち、本発明者らは、平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子、有機溶媒および炭素数8〜16の高級アルコールを含む分散体組成物は、成膜性に優れ、クラックのない金属被膜を形成し得ることを見出した。本発明は、このような知見に基づいて完成されたものである。
【0009】
すなわち、本発明は、平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子、有機溶媒および炭素数8〜16の高級アルコールを含む金属ナノ粒子分散体、並びに、この金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、100〜600℃の温度で焼成して得られる金属被膜に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の金属ナノ粒子分散体は、成膜性に優れ、クラックのない金属被膜を形成することができる。また、本発明の金属ナノ粒子分散体を用いて得られる、クラックのない金属被膜は、比抵抗値が低く、優れた導電性を示す。
【0011】
したがって、本発明の金属ナノ粒子分散体は、電子デバイスなどの製造に極めて好適に用いられる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明で用いる平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子については、特に制限はなく、平均粒子径が1〜100nmの範囲にある金属ナノ粒子であればいずれも用いることができる。具体的には、例えば、前記特許文献1、2に記載の方法によって得られる平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子を用いることができる。特許文献1に記載の方法を例に挙げて説明すると次のとおりである。
【0013】
銅または銀のカルボン酸、例えば、ギ酸銅またはギ酸銀、酢酸銅または酢酸銀、シュウ酸銅またはシュウ酸銀、オレイン酸銅またはオレイン酸銀、ステアリン酸銅またはステアリン酸銀、およびテトラデカ酸銅またはテトラデカ酸銀に代表される有機酸金属塩と、オクチルアミン、ノニルアミン、デシルアミン、ウンデシルアミン、ドデシルアミンなどの炭素数8〜14の一級モノアミンに代表されるアミン化合物とを、アミン化合物が有機酸金属塩1モル当たり3〜15モルとなる割合で混合する。
【0014】
次に、還元剤として、ジメチルアミンボラン、tert−ブチルアミンボラン、水素化ホウ素ナトリウム、シュウ酸、アスコルビン酸、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒドなどを、還元剤/有機酸金属塩(モル比)が0.1/1〜1/1となる割合で添加し、100℃未満の温度で必要時間還元処理を行うことにより金属ナノ粒子を生成させる。
【0015】
反応液中の金属ナノ粒子を適宜な方法により分離回収した後、有機溶媒に分散させることにより平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子分散体が得られる。なお、本発明の「金属ナノ粒子の平均粒子径」とは、透過電子顕微鏡(TEM)を用いて、上記分散体中の金属ナノ粒子の粒子径を測定して求めたものである。
【0016】
上記有機溶媒、すなわち、本発明の金属ナノ粒子分散体の有機溶媒としては、n−ヘキサン、シクロヘキサン、n−ペンタン、n−ヘプタン、デカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカンなどの炭素数5〜16の飽和炭化水素類;ベンゼン、エチルベンゼン、トリメチルベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類;メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;クロロホルム、四塩化炭素などの塩素化合物;酢酸エチル、酢酸ブチル、酢酸イソブチルなどの炭素数1〜6のアルコール類の酢酸エステル類;テルピネオール;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの炭素数1〜6のアルコール類などを用いることができる。なかでも、シクロヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、トルエンおよびキシレンが好適に用いられる。これらは単独でも、あるいは2種以上混合して使用することもできる。
【0017】
本発明の金属ナノ粒子分散体は、上記のようにして得られる金属ナノ粒子分散体に炭素数8〜16の高級アルコールを加えて得られる。この高級アルコールとしては、炭素数8〜16の第一級アルコール、具体的には、n−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールなどが用いられる。なかでも、n−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールおよびセチルアルコールが好適に用いられる。
【0018】
これら高級アルコールは、金属ナノ粒子分散体中に安定して存在するので、その取り扱いに特段の注意は必要とならない。
【0019】
高級アルコールの添加は、上記のように、金属ナノ粒子分散体を製造した後、添加してもよいが、金属ナノ粒子分散体の製造前、あるいは製造過程で添加してもよい。上記いずれの添加方法を用いるかは、作業性などを考慮して適宜決定することができる。
【0020】
本発明の金属ナノ粒子分散体において、金属ナノ粒子の含有量は、分散体の質量基準で、10〜80質量%、好ましくは15〜70質量%、より好ましくは20〜60質量%である。高級アルコールの含有量は、分散体の質量基準で、1〜50質量%、好ましくは2〜40質量%、より好ましくは3〜30質量%である。
【0021】
本発明で用いる金属ナノ粒子を構成する金属としては、銅、銀、白金、パラジウム、ルテニウム、鉄、コバルト、ニッケル、モリブデン、インジウム、イリジウム、チタン、アルミニウムなどが用いられるが、なかでも銅および銀が好適に用いられる。本発明の金属ナノ粒子とは、上記金属(0価)のナノ粒子、上記金属の酸化物からなるナノ粒子、およびこれらの混合物を包含するものである。
【0022】
本発明の金属ナノ粒子分散体を基材に塗布し、100〜600℃、好ましくは100〜450℃、より好ましくは100〜350℃で焼成することにより金属被膜が得られる。
上記金属ナノ粒子分散体としては、前記の方法により得られる金属ナノ粒子分散体をそのまま使用しても、あるいは濃縮もしくは希釈して、または他の有機溶媒で溶媒置換した後使用してもよい。
【0023】
上記温度以外の焼成条件については特に制限はなく、一般に知られている条件下に焼成を行い、金属被膜を形成させればよい。例えば、特開2007−200659号公報に記載の方法にしたがって実施することができる。具体的には、金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、酸化性雰囲気中において100〜600℃の温度で焼成し、次いで還元性雰囲気中において100〜600℃の温度で焼成する。
【0024】
上記酸化性雰囲気としては、酸素、あるいは酸素ガスと窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスとの混合ガス、代表的には空気が用いられる。また、上記還元性雰囲気としては、水素、あるいは水素ガスと窒素ガスやヘリウムガスなどの不活性ガスとの混合ガス(水素濃度:2〜10%)などが挙げられる。
【0025】
本発明の金属ナノ粒子分散体は、電子デバイスの回路などの製造に用いられる。この分散体から形成される金属被膜は比抵抗値が低く、導電性に優れていることから高性能の電子デバイスなどが得られる。
【実施例】
【0026】
本発明の有利な実施態様を示している以下の実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明する。
(実施例1)
3L(リットル)のセパラブルフラスコに酢酸銅一水和物(和光純薬工業株式会社製)62.8g、オクチルアミン(和光純薬工業株式会社製)244.1g、およびメタノール(和光純薬工業株式会社製)142.2gを40℃にて20分間攪拌混合した。次に、溶液中に1.5L/minの窒素ガスをバブリングさせながら30分間保持して、セパラブルフラスコ内を窒素ガス雰囲気下とした。続いて、1.5L/minの窒素ガスの供給を維持した状態で、上記セパラブルフラスコに10質量%ジメチルアミンボラン−メタノール溶液92.7gを徐々に添加することにより銅の還元処理を実施した。
【0027】
上記還元処理後の溶液を5LのSUS製溶液に移し替えた後、メタノール0.6Lと水0.5Lとを添加し、しばらく放置した後、ろ過により銅および有機物からなる沈殿物をろ過により分離した。分離した沈殿物にトルエンを添加して再溶解し、10℃以下まで冷却した後、0.1μmの孔径を有するメンブレンフィルターを用いてろ過した。得られたろ液からトルエンを減圧除去した後、適量のテトラデカン(和光純薬工業株式会社製)およびn−オクチルアルコール(和光純薬工業株式会社製)を加えて攪拌混合することにより、銅ナノ粒子を30質量%、n−オクチルアルコールを10質量%含有する銅ナノ粒子分散体(1)を得た。
【0028】
得られた分散体をTEMで観測したところ、平均粒子径5nmの銅ナノ粒子を含有していることが確認された。
(実施例2および3)
実施例1において、n−オクチルアルコールの代わりに、ラウリルアルコール(実施例2)またはミリスチルアルコール(実施例3)を用いた以外は実施例1と同様にして銅ナノ粒子分散体(2)および(3)を得た。なお、いずれの分散体も銅の含有量は30質量%であり、高級アルコールの含有量は10質量%であった。
(比較例1)
実施例1において、n−オクチルアルコールを加えなかった以外は実施例1と同様にして、銅ナノ粒子を30質量%含有する銅ナノ粒子分散体(比較1)を得た。
(実施例4)
実施例1〜3および比較例1で得られた銅ナノ粒子分散体(1)〜(3)および(比較1)を、それぞれ、2.5cmx3.5cmの面積のガラス基板上にスピンコーターを用いて塗布した後、ガラス基板を焼成炉に入れた。焼成炉内に4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)を流通させながら室温から200℃まで20分で昇温した。温度が200℃に到達してから10分間保持し還元性雰囲気中での焼成を行った。続いて、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを5容量%の酸素(残りの95容量%は窒素)に切り替えて10分間保持し、酸化性雰囲気中での焼成を行った。その後、温度を200℃に維持した状態で、流通させるガスを4容量%の水素(残りの96容量%は窒素)に切り替えて20分間保持し、還元性雰囲気中での焼成を行い金属被膜を得た。金属被膜の膜厚はいずれも0.5μmであった。
【0029】
続いて、得られた金属被膜の状態(クラックの有無)を目視により観察し、また、比抵抗値を低抵抗率計(ロレスタGP、三菱化学株式会社製)を用いて測定した。結果を表1に示す。
【0030】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均粒子径1〜100nmの金属ナノ粒子、有機溶媒および炭素数8〜16の高級アルコールを含有することを特徴とする金属ナノ粒子分散体。
【請求項2】
有機溶媒がシクロヘキサン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、ヘキサデカン、トルエンおよびキシレンから選ばれる少なくとも1種であり、高級アルコールがn−オクチルアルコール、n−ノニルアルコール、n−デシルアルコール、ラウリルアルコール、ミリスチルアルコールおよびセチルアルコールから選ばれる少なくとも1種である請求項1記載の金属ナノ粒子分散体。
【請求項3】
金属ナノ粒子の含有量が10〜80質量%、高級アルコールの含有量が1〜50質量%である請求項1または2記載の金属ナノ粒子分散体。
【請求項4】
金属ナノ粒子の金属が銅および/または銀である請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子分散体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかの金属ナノ粒子分散体を基板に塗布した後、100〜600℃の温度で焼成して得られる金属被膜。

【公開番号】特開2010−13723(P2010−13723A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177084(P2008−177084)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】