説明

金属ナノ粒子分散液、金属ナノ粒子凝集体、金属ナノ粒子分散体及びそれらの製造方法

【課題】nmレベルの金属ナノ粒子を調製すると共に、粒子の分散安定性に優れた金属ナノ粒子分散液、金属ナノ粒子凝集体、金属ナノ粒子分散体、及びそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】特定のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤からなる水溶液中で硝酸銀等の金属化合物を水膨潤性粘土鉱物及び/又は還元剤の添加により還元させることで粒径の揃った金属ナノ粒子が得られること、また、上記の特定の界面活性剤によるウオーム状ミセル構造を有する水溶液中で金属ナノ粒子がミセル構造の周囲に凝集して存在すること、更に、ウオーム状ミセルを有する金属ナノ粒子分散液のゾル−ゲル転移が可逆的に生じると共に、金属ナノ粒子の凝集がゲル状態で生じること、加えて、該分散液を基材上に塗布し乾燥または熱処理することにより、上記ミセルをテンプレートとした金属ナノ粒子の凝集体およびそれらの二次元ネットワークが形成できることを見いだした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子の分散液および金属ナノ粒子凝集体および金属ナノ粒子分散体およびそれらの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属ナノ粒子は、その微小粒径に起因してバルク態と異なる多くの特性を示すことから、導電材料を始めとした各種分野で幅広い利用が検討されている。しかし、金属ナノ粒子の粒径をnmレベルの小粒径でできるだけ均質に且つ安価に合成すること、及び、金属ナノ粒子は活性が非常に高く粒子同士の不均一な凝集が生じやすいことから、安定した金属ナノ粒子分散液を調製することが広く求められてきた。
【0003】
例えば、金属ナノ粒子の製造においては、金属塩の溶液に還元剤を一挙に添加する従来の生成方法では金属粒子の核形成ならびにその成長の制御が容易でなく、nmレベルの粒子径のそろった均整な粒子を得ることが難しかった。これに対して、還元を緩慢に起こさせる方法、連続フロー方式での製造方法、ハロゲン化物イオンの存在下で還元させる方法、異種金属を共存させる方法などが提案されている。
【0004】
一方、金属ナノ粒子が不均一に凝集したり沈殿したりするとナノ粒子としての性能が十分に発揮できないことに対する、分散液中または再分散液中での金属ナノ粒子の安定な均一分散の達成に関しては、例えば、金属ナノ粒子の表面を特定の有機化合物で被覆する方法(特許文献1)、脂肪酸金属塩を形成させた後、二段階の置換を経て炭素鎖8〜20のアミンと原料由来の脂肪酸で金属ナノ粒子の表面を被覆する方法(特許文献2)、一端保護した有機化合物を別の有機化合物保護剤に置換する方法(特許文献3)、ポリエチレンイミンとポリエチレングリコールを含む高分子化合物の存在下で銀化合物を還元して銀ナノ粒子を製造する方法(特許文献4)、カルボキシル基を有する有機化合物からなる保護材で金属ナノ粒子表面を被覆する方法(特許文献5)などが提案されている。
【0005】
これらに加えて、金属ナノ粒子の性能を効果的に活かすための方法として、金属ナノ粒子を系全体に均一分散させるのではなく、制御された形態にミクロなレベルで凝集させることが有効と考えられる。しかし、一般に、nmレベルの微小粒径からなる金属ナノ粒子を分散液中または塗布した基板上において、ミクロに制御された形態で凝集させることや、その他の箇所には金属ナノ粒子が存在せず目的とする箇所のみに金属ナノ粒子を凝集させることなどは困難であった。これまでに、例えば、金属イオン担持体に電子線を照射して銀ナノワイヤーを製造する方法、光励起状態において、ハロゲン化物イオンより高い電子親和性を示す金属錯体または金属水酸化物イオンを溶解させた水相と、脂溶性有機塩(例えば、テトラアルキルアンモニウム塩)を有機溶媒(例えば、クロロホルム)に溶解させた有機相とから成る水相−有機相の二相構造に紫外光または可視光を照射して金属ナノワイヤーを製造する方法、レーザー光照射による対流によってナノ粒子を環状に集合させる方法、液晶形態を利用して金属ナノ粒子を凝集させる方法(非特許文献1)などが提案されているが、微小な金属ナノワイヤーや環状形態に限ったものであったり、極めて限定された形状および領域での金属ナノ粒子凝集体のみであった。その他、金属ナノ粒子を含む分散液を用いて通常の印刷方法でパターニング配線回路を作成する方法や、導電性水性インクを用いた筆記具で配線回路を描く方法(特許文献6)などが報告されているが、分散液自体による自発的な金属ナノ粒子のミクロ凝集形態制御ではなく、通常のパターン形成であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2006−089786号
【特許文献2】特開2008−150701号
【特許文献3】特開2008−297580号
【特許文献4】特許第4573138号
【特許文献5】特開2011−38128号
【特許文献6】特開2010−269516号
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】Martin Andersson, Viveka Alfredsson, Per Kjellin, and Anders E. C. Palmqvist, Nanoletters, vol. 2, No.12, Page 1403-1407.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明が解決しようとする課題は、nmレベルの金属ナノ粒子を作成すると共に、粒子の分散安定性に優れた金属ナノ粒子分散液、およびミクロ形態が制御された金属ナノ粒子凝集体および金属ナノ粒子分散体、およびそれらの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究に取り組んだ結果、特定のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤からなる水溶液中で硝酸銀などの金属化合物が水膨潤性粘土鉱物の添加により還元され、粒径のそろった金属ナノ粒子が得られること、また、特定のノニオン界面活性剤とアニオン界面活性剤からなるウオーム状ミセル構造の周囲に金属ナノ粒子が選択的に配置した凝集構造を形成していることを発見したことによる。更に、本発明は、ウオーム状ミセルを有する金属ナノ粒子分散液のゾル−ゲル転移が可逆的に生じると共に、金属ナノ粒子の凝集がゲル状態で生じること、加えて、該分散液を基材上に塗布し乾燥または熱処理することにより、基材上にウオーム状ミセル構造をテンプレートとした金属ナノ粒子の凝集体およびそれらの二次元ネットワークが形成できることなどを発見したことに基づき、本発明を完成するに至った。
【0010】
即ち、本発明は、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び金属ナノ粒子を含む水溶液からなる金属ナノ粒子分散液を提供する。
【0011】
また、本発明は、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び金属ナノ粒子を含有し、且つ前記金属ナノ粒子が(長さ/幅)比が1以上のリボン状に凝集した構造を有することを特徴とする金属ナノ粒子凝集体を提供する。
【0012】
また、本発明は、上記のリボン状に凝集した金属ナノ粒子凝集体を表面に有することを特徴とする基材を提供する。
【0013】
また、本発明は、アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び金属ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子分散体が、表面に均一に分散付着している基材を提供する。
【0014】
また、本発明は、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を水と混合し、次いで金属化合物を添加した後、層状剥離した粘土鉱物の水分散液及び/または還元剤を添加することを特徴とする金属ナノ粒子分散液の製造方法を提供する。
【0015】
また、本発明は、上記の金属ナノ粒子分散液を基材の上に塗布した後、乾燥及び/または熱処理することを特徴とする金属ナノ粒子凝集体、または金属ナノ粒子凝集体または分散体を表面に有する基材の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0016】
本発明によると、均質で微細な金属ナノ粒子が得られること、安定性に優れた金属ナノ粒子の分散液が得られること、界面活性剤の作るミセル構造を反映した粒子凝集構造を有する金属ナノ粒子分散液が得られること、ゾル−ゲル転移を可逆的に生じ、それに伴い分散・凝集の変化する金属ナノ粒子分散液が得られること、これらの金属ナノ粒子分散液を基材上に塗布して乾燥や熱処理を行うことで、基材上に界面活性剤の作るウオーム状ミセル構造を反映したリボン状の金属ナノ粒子凝集体およびその二次元ネットワークを調製できること、または凝集することなく分散した金属ナノ粒子分散体を調製できることなどが達成され、例えば、優れた導電性、表面静電防止性、電磁波シールド性を有する材料として用いられたり、高機能触媒シートなどとして用いられる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】実施例1で得られた銀ナノ粒子分散液の粘弾性特性(G‘およびG“の周波数依存性)。挿入写真は銀ナノ粒子分散液(ゲル)。
【図2】実施例1で得られた銀ナノ粒子分散液の紫外可視スペクトル。
【図3】実施例1で得られた銀ナノ粒子凝集体のTEM観察結果。
【図4】実施例1で得られた銀ナノ粒子凝集体のSTEM−EDM測定結果。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明でのアニオン界面活性剤としては、水溶液中でミセル構造を形成するアニオン界面活性剤が用いられる。具体的には、ソジウムドデシルサルフェイト(SDS)、ソジウムトリオキシエチレンサルフェイト(SDES)、ソジウムドデシルベンゼンサルフェイト(SDBS)、ジソジウム2,3-ジドデシル-1,2,3,4-ブタンテトラカルボキシレイト(GB)、ソジウムオレエイト(NaOA)、ソジウム4-(8-メタクリロイルオキシオクチル)オキシベンゼンサルフェイト(MOBS)、ソジウムコレート、ソジウムジオキシコレートなどがあげられ、より好ましくは、ノニオン界面活性剤と合わせることでウオーム状ミセルを形成するものが、特に好ましくはSDS、GB、SDESが用いられる。なお、本発明においてウオーム状ミセルとは、界面活性剤により形成される紐状のミセルであって長さ/幅の比が1以上のものであり、紐状ミセルの幅は一般に10〜200nmのものである。より好ましくは長さ/幅が5以上であり、特に好ましくは長さ/幅が10以上であり、ウオーム状ミセル同士が絡み合って系(分散液)がゲル化するものである。
【0019】
本発明で用いるノニオン界面活性剤としては、アニオン界面活性剤と共に用いることでミセル構造、特にウオーム状ミセルを形成するものが好ましく用いられる。より好ましくは、水に単独では溶解できず、アニオン界面活性剤と共に用いることで水中に分散できるノニオン界面活性剤である。具体的にはポリオキシエチレンアルキルエーテル(式1)やポリオキシエチレンコレステリルエーテル(式2:m=10,15,20)があげられる。
【0020】
【化1】

(式1)
【0021】
【化2】

(式2)
【0022】
更に好ましくは、式1で表されるノニオン界面活性剤であって、且つ、n=5〜20およびm=2〜6、且つ、n/m=2〜5のものであり、特に好ましくは、n=12〜14、且つ、n/m=3のものである。
【0023】
本発明の金属ナノ粒子は、分散液中で金属化合物を還元して得られたもので、金属ナノ粒子全般に対して適用され、その種類は特に限定されない。例えば、金、銀、銅、ニッケル、白金、パラジウム、アルミニウム、亜鉛、クロム、鉄、コバルト、モリブデン、ジルコニウム、ルテニウム、イリジウム、タンタル、水銀、インジウム、スズ、鉛、タングステンから選ばれた一種または二種以上からなる合金、あるいは混合物からなる金属ナノ粒子が用いられる。より好ましくは、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、銅、コバルトである。特に好ましくは、高機能性、還元反応の容易さ、取り扱い易さ等の面から、銀、金、白金、銅である。
【0024】
金属ナノ粒子分散液を構成する金属ナノ粒子の粒子径としては、ナノ粒子としての特徴を有するのであれば特に限定されるものではないが、金属ナノ粒子分散液が良好な分散安定性を有するためには、本発明の金属ナノ粒子の平均粒子径は0.5〜50nmの範囲であることが好ましく、より好ましくは1〜30nm、特に好ましくは1〜10nmの範囲である。
【0025】
本発明における金属化合物としては、水溶性金属化合物であって、還元反応によって金属ナノ粒子が得られるものが用いられる。例えば、金属カチオンと対アニオンとの塩類のもの、あるいは金属が対アニオンの中に含まれるものなどが用いられる。金属化合物中の金属としては銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、銅、コバルトなど、前記金属ナノ粒子の所で述べた金属が用いられる。その金属化合物としては、例えば、銀の場合、硝酸銀、酸化銀、酢酸銀、フッ化銀、銀アセチルアセトナート、安息香酸銀、クエン酸銀、銀ヘキサフルオロフォスジェート、乳酸銀、亜硝酸銀、ペンタフルオロプロピオン酸銀などが用いられる。このうち、取り扱い容易性、興行的入手容易性などから硝酸銀、酸化銀、乳酸銀を用いることが好ましく、特に好ましくは硝酸銀が用いられる。金属化合物としては、その他、金属錯体が用いられ、例えば、銀錯体(を含有する水溶液)の場合は、アンモニア水、アンモニウム塩、キレート化合物などを硝酸銀水溶液に添加することにより生成するものが用いられ、特には、アンモニア水を用いて得られるアンミン錯体水溶液は好ましく用いられる。以上の金属化合物において、遷移金属等の金属種(例:銀、金、白金、パラジウム)を有する金属化合物は還元がスムースに進行することや、高い機能性を有するため、特に好ましく用いられる。
【0026】
本発明における粘土鉱物としては、層状に剥離することができるものであることが必要であり、好ましくは水又は水溶液中で膨潤して微細分散するものであることが必要であり、より好ましくはアニオン界面活性剤存在下の水溶液中でマクロに凝集せず、微細分散するものである。分散状態としては10層以下に層状剥離していることが好ましく、より好ましくは3層以下、特に好ましくは1層または2層の厚みに層状剥離して分散するものである。更に、粘土鉱物としては、水媒体中の金属化合物を還元または還元を促進する性質を有するものが特に好ましい。かかる粘土鉱物としては、例えば、水膨潤性スメクタイト類や水膨潤性雲母などの水中で膨潤し、層状剥離した状態で微分散することが可能な、表面負電荷を有する無機粘土鉱物が用いられ、具体的には、水膨潤性ヘクトライト、水膨潤性モンモリロナイト、水膨潤性サポナイト、水膨潤性合成雲母などが挙げられる。また、アニオン界面活性剤との共存で凝集せず、水または水溶液中で層状剥離可能であれば、界面活性剤などにより部分的に有機化した粘土鉱物を用いることもできる。
【0027】
本発明における還元剤としては、種々の還元剤を用いることができ、特に限定されるものではなく、得られる金属ナノ粒子分散液および金属ナノ粒子凝集体の使用用途や用いる金属種などにより還元剤を選択することができる。用いられる還元剤としては、例えば、水素、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素アンモニウムなどのホウ素化合物、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロピルアルコール、エチレングリコール、プロピレングリコールなどのアルコール類、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒドなどのアルデヒド類、アスコルビン酸、クエン酸、クエン酸ナトリウムなどの酸類、プロピルアミン、ブチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジメチルエチルアミン、トリエチルアミン、エチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、メチルアミノエタノール、ジメチルアミノエタノール、トリエタノールアミンなどのアミン類、ヒドラジン、炭酸ヒドラジンなどのヒドラジン類、水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ類などが挙げられる。これらのなかでも、還元性や取り扱い性などから水素化ホウ素ナトリウムやアルカリが好ましく、水素化ホウ素ナトリウムは特に好ましい。
【0028】
本発明で得られる金属ナノ粒子分散液は、アニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤の働きで、静置状態でゲルとなるものであり、好ましくは、静置状態ではゲル状態、一定以上の応力場、例えば、撹拌状態ではゾル状態にと可逆的に変化するものであり、特に好ましくは、静置状態でウオーム状ミセルを形成してゲルとなるものである。更に、本発明における金属ナノ粒子分散液としては、液中に有機溶媒を含ませたり除去したりすることでもゾル−ゲル状態変化またはウオーム状ミセルの形成−消失を生じるものが含まれる。かかる有機溶媒としては、ウオーム状ミセルの形成に影響を与える水混和性の有機溶媒であれば特に限定されず、好ましくは、揮発性の高い有機溶媒であるものがよい。具体的には、メタノール、エタノール、アセトン、テトラヒドロフランなどが挙げられる。
【0029】
本発明における金属ナノ粒子分散液は、金属ナノ粒子を分散または凝集した状態で安定的に含むものである。例えば、本発明における金属ナノ粒子分散液は、数日以上、好ましくは数ヶ月以上にわたって安定であり不均一な凝集や沈殿を生じることがない。これは、金属ナノ粒子分散液を構成しているアニオン及びノニオン界面活性剤および/または層状剥離した粘土鉱物の効果によるものである。また、金属ナノ粒子分散液は、ゲル状態において、金属ナノ粒子が安定したミクロな凝集構造を形成できるものが好ましく用いられ、より好ましくは、界面活性剤の作るミセルの表面に沿って凝集構造を形成するもの、特に好ましくは、ウオーム状ミセルの表面に沿って凝集構造を形成するものである。
【0030】
本発明における金属ナノ粒子凝集体は、金属ナノ粒子分散液を基材上に塗布することにより得られ、基材上において、界面活性剤ミセルに沿って金属ナノ粒子が凝集したものである。より好ましくは、基材上のウオーム状ミセルに沿って、(長さ/幅)比が1以上のリボン状に形成された金属ナノ粒子凝集体である。具体的には、幅が10〜200nmの範囲であり、(長さ/幅)比が1以上、好ましくは10以上のものである。特に好ましくは、リボン状に凝集した金属ナノ粒子凝集体が、基材上で二次元ネットワークを形成しているものである。
【0031】
本発明における基材としては、高分子、不織布、紙、ガラス、セラミック、金属などが特に限定されず用いられ、好ましくは、金属ナノ粒子分散液の塗布またはそれに引き続く乾燥、熱処理などにより、金属ナノ粒子および/または金属ナノ粒子凝集体が基材上に強く密着するものが用いられる。金属ナノ粒子および凝集体の密着性を上げるために、金属ナノ粒子分散液に基材との密着を強める成分、具体的には水溶性高分子、シランカップリング剤などを添加して用いられる。
【0032】
本発明における金属ナノ粒子分散液の製造においては、最終的にアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤および金属ナノ粒子を含むもの、もしくはアニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、金属ナノ粒子および層状剥離した粘土鉱物を含むものが得られれば良く、必ずしも限定されないが、好ましくは、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を水と混合し、次いで金属化合物を添加した後、粘土鉱物の分散液を添加することで金属イオンを還元して金属ナノ粒子分散液を調製する方法、または、アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を水と混合し、次いで金属化合物を添加した後、粘土鉱物の分散液および/または還元剤を添加することで金属イオンを還元して金属ナノ粒子分散液を調製する方法が用いられる。ここで、金属化合物は粘土鉱物とノニオン界面活性剤中のオキシエチレングループの働きによって、または、還元剤及び/または粘土鉱物の働きによって還元され、金属ナノ粒子が得られる。
【0033】
本発明における基板上の金属ナノ粒子凝集体または金属ナノ粒子分散体の製造においては、前記金属ナノ粒子分散液を基材上に塗布することで調製される。塗布方法としては、特に限定されず、従来知られている全ての塗布方法が用いられ、具体的には、ゾル液を一定厚みとなるように流延したり、スピンコートしたり、ゲル液を塗布したりする方法が用いられる。
【0034】
本発明に用いるアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤の濃度は、それらがミセル構造を形成する濃度、特に好ましくはウオーム状ミセルを形成する濃度から任意に選択できる。例えば、SDS(アニオン界面活性剤)の場合、水に対して3〜15質量%が好ましく用いられ、特に好ましくは4〜14質量%である。一方、トリオキシエチレンドデシルエーテル(ノニオン界面活性剤)の場合、SDSと共に用いられる場合、水に対して2〜8質量%が好ましく用いられ、より好ましくは3〜7質量%、特に好ましくは5〜7質量%である。
【0035】
本発明における金属ナノ粒子分散液中の金属ナノ粒子含有量は、均一な金属ナノ粒子分散液または金属ナノ粒子凝集体または金属ナノ粒子分散体が得られれば良く、特に限定されるものではない。
【0036】
本発明において、金属ナノ粒子分散液中の粘土鉱物は金属化合物中の金属イオンを還元するまたは還元を促進する働きをする。用いる粘土鉱物の量は、金属化合物中の金属イオンが還元されるのに必要な量以上であれば特に限定されるものではなく、上限は特に規定するものではない。また、粘土鉱物の添加方法も限定されるものではなく、例えば、粘土鉱物をそのまま、又は水や水溶液に溶解、分散させて混合させることができ、好ましくは、希薄濃度(例:0.1〜4wt%)に調製した粘土鉱物水溶液を添加することである。粘土鉱物は単独または下記に示す還元剤と併用して用いることができる。
【0037】
本発明における還元剤の使用量は、金属化合物中の金属イオンを還元するのに必要な量以上であれば特に限定されるものではなく、上限は特に規定するものではないが、金属イオンの10モル倍以下であることが好ましく、2モル倍以下であることがより好ましい。また、還元剤の添加方法も限定されるものではなく、例えば、還元剤をそのまま、又は水溶液やその他の溶媒に溶解、分散させて混合させることができる。還元剤は単独または前記粘土鉱物と併用して用いることができる。
【0038】
本発明において、金属ナノ粒子凝集体および金属ナノ粒子分散体の製造方法としては、金属ナノ粒子分散液を塗布・乾燥する方法の他、引き続き、熱処理、焼成、ドライエッチング(プラズマ処理など)などにより、有機成分の一部または全部を除去すること、または、金属ナノ粒子の融合を促進させることなどが効果的に併用して用いられる。
【実施例】
【0039】
次いで本発明を実施例により、より具体的に説明するが、もとより本発明は、以下に示す実施例にのみ限定されるものではない。
【0040】
(実施例1)
ソジウムドデシルサルフェイト(SDS)の水溶液(SDS濃度=4.5質量%)5g
を調製し、次いで、水に対して7質量%のトリオキシエチレンモノドデシルエーテル(C12EO)0.35gを加えて均一無色透明水溶液を調製した。得られた水溶液はゲルであり、撹拌状態ではゾル、静置状態でゲル状態であった。上記水溶液に1Mの硝酸銀(ANO)水溶液20μlを撹拌して添加して、SDS−C12EO−AgNOからなる均一水溶液を得た。この状態では透明性や粘度に大きな変化はなく、無色透明のゲル(静置)およびゾル(撹拌)であった。次いで、水膨潤性粘土鉱物であるスメクタイト類の一種である合成ヘクトライト(ラポナイトXLG:Rockwood社)を2質量%含む均一透明な粘土鉱物水分散液を調製し、得られた粘土鉱物水分散液を系全体に対する粘土鉱物の含有率が0.15質量%となるように、前記SDS−C12EO−AgNOからなる均一透明水溶液に撹拌して添加した。その結果、透明で黄土色をした静置状態ではゲル、撹拌時ゾルとなる均一透明分散液が得られた(図1の挿入写真)。得られた分散液は3ヶ月室温で保持しても不均一凝集や沈殿は一切見られず安定していた。得られた分散液の粘弾性特性を図1に示す。得られた分散液の紫外可視スペクトルを図2に示す。405nm近傍に極大ピークが観測され、Aナノ粒子が形成していることが示された。得られた銀ナノ粒子分散液を透過型電子顕微鏡(TEM)用のカーボン膜の上に垂らし、溶媒(水)を乾燥により除いてから、TEM測定を行った。結果を図3に示す。この結果、水溶液中で銀イオンが還元され、3〜5nm程度の粒径を持つ銀ナノ粒子が形成されていること、且つ、銀ナノ粒子が、基材上において、SDSとC12EOから形成されるウオーム状ミセル構造を反映したリボン状の形状に凝集した銀ナノ粒子凝集体であること、更に、基材上でそれらのリボン状に凝集した銀ナノ粒子凝集体が二次元ネットワークをつくって広がっていることが明らかとなった。一方、銀ナノ粒子が形成されていることは、STEM−EDS測定によるマッピングでも確認された(図4)。
【0041】
(実施例2)
粘土鉱物水分散液の代わりに水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)(0.01M)を100μl用いる以外は実施例1と同様にして実験を行った所、実施例1の同様な粒径4〜10nmの銀ナノ粒子の安定した分散液およびリボン状の銀ナノ粒子凝集体およびそれらの二次元ネットワークが得られた。
【0042】
(実施例3)
用いるトリオキシエチレンモノドデシルエーテル(C12EO)の濃度が4.5質量%であることを除くと実施例1と同様にして、銀ナノ粒子分散液を調製した。TEM測定結果、銀ナノ粒子(粒径2〜6nm)の多くがリボン状に凝集した構造が観測された。但し、リボン状の凝集体はその長さが短いものが含まれ、実施例1のような系全体に広がるリボン状凝集体のネットワークは観測されなかった。
【0043】
(実施例4)
用いるトリオキシエチレンモノドデシルエーテル(C12EO)の濃度が3質量%であることを除くと実施例1と同様にして、銀ナノ粒子分散液を調製した。実施例1と同様にしてTEM測定結果を行った結果、銀ナノ粒子(粒径3〜10nm)が凝集することなく分散した銀ナノ粒子分散体が得られた。
【0044】
(実施例7−9)
AgNOの代わりに実施例7ではNa(AuCl)2HOを、実施例8ではK(PtCl)を、実施例9ではPdClを用いる以外は、実施例2と同様にして金属ナノ粒子分散液を得た。各分散液は安定しており、3ヶ月後も変化は見られなかった。金属ナノ粒子分散液の紫外可視スペクトルを図6に示す。スペクトル結果およびTEM観察およびSTEM−EDS測定からそれぞれAu(実施例7)、Pt(実施例8)、Pd(実施例9)のナノ粒子が形成していることが確認された。
【0045】
(比較例1−3)
比較例1ではアニオン界面活性剤およびノニオン界面活性剤をいずれも用いず、比較例2ではアニオン界面活性剤のみを用いて、比較例3ではノニオン界面活性剤のみを用いて行う以外は、実施例2と同様にして実験を行った。その結果、比較例1−3のいずれでもAgのマクロな凝集沈殿が生じた。また、比較例3ではノニオン界面活性剤が水に溶け無い状態で共存した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び金属ナノ粒子を含む水溶液からなる金属ナノ粒子分散液。
【請求項2】
層状剥離した粘土鉱物を含む請求項1記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項3】
前記アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤がウオーム状ミセルを形成している請求項1又は2記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項4】
金属ナノ粒子が前記ウオーム状ミセルの周囲に凝集している請求項3記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項5】
撹拌時にゾル状態、および静置時にゲル状態であり、それらが可逆的に変化すること、且つ、金属ナノ粒子がゲル状態でミクロな凝集構造を有する請求項1〜4のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項6】
金属ナノ粒子が凝集することなく分散している請求項1又は2記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項7】
前記ノニオン界面活性剤が単独では水に溶解しない疎水性である請求項1〜6のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項8】
前記ノニオン界面活性剤が一般式、C2n+1−(OCHCH−OHで表され、且つ、n=5〜20、m=2〜6、且つn/m=3〜5であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項9】
前記粘土鉱物が水膨潤性粘土鉱物である請求項2〜8のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液。
【請求項10】
アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤及び金属ナノ粒子を含有し、且つ前記金属ナノ粒子が(長さ/幅)比が1以上のリボン状に凝集した構造を有することを特徴とする金属ナノ粒子凝集体。
【請求項11】
層状剥離した粘土鉱物を含む請求項10記載の金属ナノ粒子凝集体。
【請求項12】
請求項10または11に記載のリボン状に凝集した金属ナノ粒子凝集体を表面に有することを特徴とする基材。
【請求項13】
前記リボン状の金属ナノ粒子凝集体が二次元ネットワークを形成している請求項12記載の基材。
【請求項14】
前記金属ナノ粒子凝集体の形状が、前記アニオン界面活性剤及びノニオン界面活性剤により形成されたウオーム状ミセルをテンプレートとして形成されたものである請求項12又は13記載の基材。
【請求項15】
アニオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、層状剥離した粘土鉱物及び金属ナノ粒子を含有する金属ナノ粒子分散体が、表面に均一に分散付着している基材。
【請求項16】
アニオン界面活性剤とノニオン界面活性剤を水と混合し、次いで金属化合物を添加した後、層状剥離した粘土鉱物の分散液及び/または還元剤を添加することを特徴とする金属ナノ粒子分散液の製造方法。
【請求項17】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液を基材の上に塗布した後、乾燥及び/または熱処理することを特徴とする金属ナノ粒子凝集体の製造方法。
【請求項18】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液を基材の上に塗布した後、乾燥及び/または熱処理することを特徴とする金属ナノ粒子分散体の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜9のいずれか一つに記載の金属ナノ粒子分散液を基材の上に塗布した後、乾燥及び/または熱処理することを特徴とする金属ナノ粒子凝集体または分散体を表面に有する基材の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−40374(P2013−40374A)
【公開日】平成25年2月28日(2013.2.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−177588(P2011−177588)
【出願日】平成23年8月15日(2011.8.15)
【出願人】(000173751)一般財団法人川村理化学研究所 (206)
【Fターム(参考)】