説明

金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法、並びにこの蛍光体組成物を用いた金属センサー及び蛍光フィルム

【解決課題】大量生産が可能な簡便な方法で、しかも、制御された異なる粒子径を持つ種々の金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を幅広く製造することができる金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法、及び、得られた金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を用いた金属イオンセンサー及び蛍光フィルムを提供する。
【解決手段】Au化合物、Ag化合物、Cu化合物、Pt化合物、Pd化合物、Ni化合物、Ir化合物、Si化合物、及びFe化合物からなる群から選択された少なくとも1種の金属化合物を、タンパク質を含むと共にpH調整剤によりpH調整されたタンパク質含有水溶液中で還元し、この還元反応で生成した金属ナノ粒子含有生成物を含む蛍光体組成物を製造することを特徴とする金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物の新規な製造方法に関し、また、この蛍光体組成物を用いて得られた金属センサー及び蛍光フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、蛍光プローブとしては、フルオレセイン、ローダミン、Alexa色素等の低分子蛍光色素や、緑色蛍光色素(GFP)、黄色蛍光タンパク質(YEP)、赤色蛍光タンパク質(REP)等の蛍光性タンパク質や、Eu、Tb、Ru等の金属錯体や、CdSe/ZnS、InAs、PbSe、Si等の量子ドット等が知られており、ナノマテリアル、バイオイメージング、光エレクトロニクス(レーザー、通信)等の分野で研究が進められている。
【0003】
上記の量子ドットの中でも、Auナノ粒子は、粒子サイズに依存した発光波長の蛍光を発することが知られており、また、金属の中でも特に生体適合性が高いことから、バイオセンシング素材としての用途を始めとして、多くの用途への適用が期待されている。
【0004】
このように、Auナノ粒子は、生体適合性の点で他の蛍光プローブよりも優位性があるが、これまでの既存の製造方法においては、特定の粒子径のナノ粒子として得られているに過ぎず、また、その製造過程で危険性の高い試薬を用いる必要がある等の問題がある。
【0005】
例えば、非特許文献1には、アルブミン水溶液中でAuイオンを還元し、Auナノ粒子を含む蛍光体組成物を製造する方法が記載されている。しかしながら、この製造方法では、特定の粒子径以外のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物を合成することができず、より多彩で自由な粒子径のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物を得ることが求められている。
【0006】
また、非特許文献2には、ポリアミドアミンデンドリマー〔poly(amidoamine) dendrimers〕水溶液中でAuイオンを還元し、Auナノ粒子を含む蛍光体組成物を製造する方法が報告されており、Auナノ粒子の粒子径を制御できることも記載されている。しかしながら、この製造方法においては、強力な還元剤である水素化ホウ素ナトリウムを使用しており、また、高価なデンドリマーを調製する必要があるため、実用的規模あるいは工業的規模での大量生産には不向きであり、改良が求められている。
【0007】
更に、非特許文献3には、リゾチーム(lysozyme)水溶液中で安定化されたAuナノ粒子蛍光体をHg2+イオン検出のためのHg2+センサーとして利用することが記載されている。しかしながら、この非特許文献3においては、高pH下でリゾチーム中のチロシン(tyrosine)残基によりAu3+がAu0に還元されることが記載されているだけで、異なる粒子サイズのAuナノ粒子を含む蛍光体組成物を調製することについては記載されていない。
【0008】
また、特許文献1には、ジメチルホルムアミド含有溶媒中でSi化合物、Pt化合物、Pd化合物、Fe化合物、Au化合物、Cu化合物、及びAg化合物から選ばれた少なくとも1種の金属化合物を加熱還流し、金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を製造する方法が記載されている。しかしながら、この特許文献1においても、異なる粒子サイズの金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を調製することについては記載されていない。
【0009】
このようなことから、Auナノ粒子に代表される金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物については、実用的規模あるいは工業的規模での大量生産が可能な簡便な方法であって、かつ、比較的小さな粒子径を持つものから比較的大きな粒子径を持つものまで幅広く制御され、種々の異なる粒子径を持つ金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を製造することができる新たな製造方法の開発が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2011-012,097号公報
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】J. Xie et al., J. Am. Chem. Soc. 2009, 131, 888.
【非特許文献2】R. M. Dickson et al., Phys. Rev. lett. 2004, 93(7), 077402
【非特許文献3】H. Wei et al., Analyst, 2010, 135, 1406.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
そこで、本発明者らは、大量生産が可能な簡便な方法であって、しかも、粒子径の異なる種々の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を製造することができる新たな製造方法を開発すべく鋭意検討した結果、意外なことには、タンパク質を含むと共にpH調整剤によりpHが調整されたタンパク質含有水溶液中で所定の金属化合物を還元することにより、タンパク質含有水溶液のpHに応じて粒子径の異なる種々の金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を制御良く製造できることを見い出し、本発明を完成した。
【0013】
従って、本発明の目的は、大量生産が可能な簡便な方法で、しかも、制御された異なる粒子径を持つ種々の金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を幅広く製造することができる金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法を提供することにある。
また、本発明の他の目的は、このような金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を用いて調製された金属イオンセンサーや蛍光フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
すなわち、本発明は、Au化合物、Ag化合物、Cu化合物、Pt化合物、Pd化合物、Ni化合物、Ir化合物、Si化合物、及びFe化合物からなる群から選択された少なくとも1種の金属化合物を、タンパク質を含むと共にpH調整剤によりpH調整されたタンパク質含有水溶液中で還元し、この還元反応で生成した金属ナノ粒子含有生成物を含む蛍光体組成物を製造することを特徴とする金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法である。
【0015】
また、本発明は、上記の方法によって製造された金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を含む金属イオンセンサーであり、また、蛍光フィルムである。
【0016】
本発明において、金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を製造するために用いられる原料(金属化合物)については、例えば、Au化合物としては、HAuCl4、Na[Au(CN)4]等が挙げられる。Ag化合物としては、AgNO3、[Ag(NH3)2]NO3等が挙げられる。Cu化合物としては、CuCl2、CuSO4等が挙げられる。Pt化合物としては、H2PtCl6、[Pt(NH3)4]Cl2等が挙げられる。Pd化合物としては、PdCl2、[Pd(NH3)4]Cl2等が挙げられる。Ni化合物としては、NiCl2、NiSO4等が挙げられる。Ir化合物としては、IrCl3、IrO2等が挙げられる。Si化合物であればSiCl4、Si2Cl6等が挙げられる。Fe化合物としては、FeCl3、Fe2(SO4)3等が挙げられる。これらの金属化合物の中でも、還元され易く、かつ、微粒子が得られ易いことから、塩化物を用いることが好ましい。
【0017】
また、本発明において、上記金属化合物の還元に際して用いられるタンパク質含有水溶液については、水系溶剤中に所定のタンパク質が含まれていると共に、製造目的である金属ナノ粒子の粒子径に応じてpHが所定の値に調整されていることが必要である。
【0018】
ここで、上記タンパク質含有水溶液の調製に用いられるタンパク質としては、水系溶媒中でpHの変化によりその構造が変化するものであるのがよく、好ましくはチロシン、トリプトファン、ヒスチジン、メチオニン等の残基やチオール基と酸性アミノ酸残基とを有するタンパク質であるのがよく、より好ましくはペプシン、トリプシン、及びブロメラインからなる群から選択される少なくとも1種のタンパク質であるのがよく、特にペプシンを用いることが好ましい。ペプシンは胃酸中に存在するタンパク質として知られている。
【0019】
また、タンパク質含有水溶液の調製に用いられる水系溶剤としては、水単独でもよく、水に他の溶剤(例えば、メタノール、エタノール、エチレングリコール等のアルコール類、アセトン等のケトン類、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類等)が混合されていてもよい。水系溶剤として2種以上の溶剤を混合して用いる場合には、タンパク質の化学構造が変化する可能性があることから、水系溶剤中の水含有量は、好ましくは60重量%以上、より好ましくは90重量%以上であり、60重量%より低くなると、粒子径の制御が困難になるという問題が生じる。
【0020】
このタンパク質含有水溶液のpHの調整に用いられるpH調整剤については、使用するタンパク質の種類や調整目的のpH値等に応じて適宜選択されるものであり、特に制限されるものではないが、塩基としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア水等が挙げられ、また、酸としては、例えば塩酸、硫酸、硝酸等が挙げられる。
【0021】
本発明において、上記金属化合物、タンパク質、及びpH調整剤の使用量については、使用される金属化合物を完全に還元できる割合であれば特に制限はなく、また、使用する金属化合物、タンパク質、及びpH調整剤の種類によっても異なるが、金属化合物の1molに対して、タンパク質が0.0001g以上100g以下、好ましくは0.1g以上10g以下であって、pH調整剤が調整目的のpH値を達成できる量である。
【0022】
本発明においては、タンパク質含有水溶液中で原料の金属化合物を還元して金属ナノ粒子蛍光体を製造するが、このときの反応方法としては、攪拌下に、好ましくは800rpm以上の攪拌強度での激しい攪拌下に、反応温度10℃以上50℃未満、好ましくは30℃以上40℃以下のタンパク質含有水溶液中に、原料の金属化合物を一度に添加し、その後、引き続き所定時間攪拌下に反応温度を維持して還元することが好ましい。激しく攪拌することにより、得られる金属ナノ粒子蛍光体の粒子径が整い易くなり、また、上記の反応温度で還元することにより、得られる金属ナノ粒子蛍光体の平均粒子径を制御し易くなる。また、反応温度が10℃未満の場合には還元力が弱くなり、反対に、50℃以上の場合はタンパク質の化学構造が変化して粒子径の制御が困難になる。
【0023】
上記金属化合物の還元により、この金属化合物に対応する金属、すなわちAu、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Ir、Si及びFeから選択される少なくとも1種の金属種からなる金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物が得られるが、この際に、得られる蛍光体組成物中の金属ナノ粒子は、還元の際のpH値に応じてその粒子径が制御され、また、この粒子径に応じた蛍光性を示す。
【0024】
具体的には、例えば、Auナノ粒子含有蛍光体組成物を製造する際に、還元時のpHを10.2以上に調整することにより、Au原子25個からなる粒子径1〜2nm程度のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物が得られ、360nmの紫外線を照射した際に波長600〜700nmの赤色の蛍光を発し、また、還元時のpHを1.8未満に調整することにより、Au原子13個からなる粒子径1nm前後のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物が得られ、330nmの紫外線を照射した際に波長450〜550nmの緑色の蛍光を発し、更に、還元時のpHを1.8未満に調整して粒子径1nm前後のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物を得た後、再び還元時のpHを8.5以上9.5未満に調整して反応を継続することにより、Au原子5個若しくは8個からなる粒子径1nm以下のAuナノ粒子を含む蛍光体組成物が得られ、330nmの紫外線を照射した際に波長350〜450nmの青色の蛍光を発する。
【0025】
このようにして調製される蛍光体組成物中の金属ナノ粒子の平均粒子径については、通常0.5〜4nm程度が好ましく、具体的には、Auナノ粒子の場合には0.5nm以上4nm以下、好ましくは0.5nm以上3nm以下程度がよく、このAuナノ粒子以外の他の金属ナノ粒子の場合にはいずれも0.5nm以上2nm以下程度が好ましい。なお、金属化合物の還元の終了時は、金属ナノ粒子の平均粒子径が目的の値に到達した時点とすればよい。
【0026】
本発明の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物については、上記の還元反応で用いられた水系溶剤を含む液体状の蛍光体組成物として種々の用途に用いることができるほか、この還元反応で用いた水系溶剤を除去して得られた粉末状の蛍光体組成物として種々の用途に用いることもできる。
【0027】
例えば、本発明の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物は、Hg2+イオンの存在下においてその発光が消失する性質を有している。この性質は、複数種の金属イオンが共存する環境においても発揮される。そのため、本発明による金属ナノ粒子蛍光体は、複数種の金属イオンが共存する溶液に対して、金属種の分離を必要とせずにHg2+イオンを検出できるHg2+イオンセンサーとして用いることができる。
【0028】
また、本発明の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物は、Pb2+イオンの存在下においてその発光が増大する性質を有している。この性質は、複数種の金属イオンが共存する環境においても発揮される。そのため、本発明による金属ナノ粒子蛍光体は、複数種の金属イオンが共存する溶液に対して、金属種の分離を必要とせずにPb2+イオンを検出できるPb2+イオンセンサーとしても用いることができる。
【0029】
そして、本発明の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物をこれらHg2+イオンセンサーやPb2+イオンセンサー等の金属イオンセンサーとして用いる場合、還元反応で用いられた水系溶剤を含む液体状の蛍光体組成物として用いてもよく、また、この還元反応で用いた水系溶剤を除去して得られた粉末状の蛍光体組成物として用いてもよく、更には、液体状の蛍光体組成物を吸水樹脂、紙等の担体に担持させ、用途に適した形態の金属イオンセンサーにして用いることもできる。
【0030】
更に、還元反応で用いた水系溶剤を除去して得られた粉末状の蛍光体組成物については、例えば、水溶液の状態で水溶性樹脂中に混合する方法、懸濁重合、乳化重合、溶液重合等により透明樹脂を製造する際に添加する方法等の適当な方法で樹脂中に添加し、所望の形状、例えばフィルム、ペレット、ビーズ等の形状に成形し、太陽電池増感剤、サインディスプレイ、インビジブルインク、蛍光塗料、等の用途に用いることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の製造方法によれば、Au、Ag、Cu、Pt、Pd、Ni、Ir、Si及びFeから選択される少なくとも1種の金属種からなる金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を、製造過程で危険性の高い試薬を用いることなく、実用的規模あるいは工業的規模での大量生産が可能な簡便な方法で、しかも、制御された異なる粒子径を持つ種々の金属ナノ粒子を含む蛍光体組成物を幅広く製造することができる。
【0032】
また、本発明の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を用いて調製された金属イオンセンサーは、例えば、Hg2+イオンセンサーやPb2+イオンセンサー等として好適に用いることができ、また、蛍光フィルムは、紫外線を可視光線に変換可能なので、例えば、太陽電池増感剤、サインディスプレイ、インビジブルインク、蛍光塗料等の用途に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】図1は、本発明の実施例1〜3で得られた液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物a〜cの蛍光性を示す写真である。
【0034】
【図2】図2は、本発明の実施例1〜3で得られた液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物a〜cにおける発光の波長と強度を示すグラフ図である。
【0035】
【図3】図3は、本発明の実施例1〜3で得られた液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物a〜cについて、蛍光体組成物a〜c中のAuナノ粒子の粒子径を測定するために撮影されたTEM画像写真である。
【0036】
【図4】図4は、本発明の実施例1〜3で得られた液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物a〜cについて測定された紫外-可視吸収スペクトルを示すグラフ図である。
【0037】
【図5】図5は、実施例1で得られた液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物aに各種の金属イオンを添加した後の蛍光の強度変化を示すグラフ図である。
【0038】
【図6】図6は、実施例1〜3で得られた粉末状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物a〜cを含む蛍光フィルムを示す写真である。
【発明を実施するための形態】
【0039】
以下、実施例及び比較例に基づいて、本発明の実施の形態を具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例及び比較例に限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例で使用された測定装置は以下の通りである。
紫外可視近赤外分光光度計:V-670、JASCO製
蛍光分光光度計:FP-6300、JASCO製
透過型電子顕微鏡:JEM-2010F、JEOL製
【0040】
〔実施例1〕
サンプル管(9ml)に空気雰囲気下で蒸留水(2.4ml)とペプシン(100mg)とを加えた。インキュベーター中でサンプル管を37℃に加温し、マグネティックスターラーを用いて空気雰囲気下で約10分激しく撹拌した。次に、マイクロピペットを用い、空気雰囲気下で攪拌強度800rpm以上の激しい撹拌下にHAuCl4水溶液(2.5ml、0.0125mmol)をサンプル管中に添加し、37℃を保ちながら5分間激しい撹拌を継続した。
【0041】
その後、マイクロピペットを用い、空気雰囲気下で激しい撹拌を継続しながらpH調整剤としてNaOH水溶液(0.75ml、0.75mmol)を反応液中に添加し、pHを13に調整した後、更に37度を保ちながら2時間激しい撹拌を継続し、Auナノ粒子を含む液体状の蛍光体組成物を得た。
【0042】
得られたAuナノ粒子を含む蛍光体組成物について、蛍光分光光度計FP-6300を用い、発光の波長と強度との関係を調べ、更に、透過型電子顕微鏡JEM-2010Fを用い、粒子径の測定を行った。
【0043】
結果を図1(a)、図2(a)、図3(a)、及び図4(a)に示す。
得られたAuナノ粒子含有蛍光体組成物は、Au原子25個を有し、360nmの紫外線を吸収し670nmにピークを有する赤色の蛍光性を示し、その粒子径は1〜2nmの範囲であって平均粒子径が1.8nmであった。
【0044】
〔実施例2〕
pH調整剤として塩酸(0.75ml、0.75mmol)を用い、pHを1に調整した後、37℃を保ちながら72時間撹拌した以外は、上記実施例1と同様にしてAuナノ粒子蛍光体を得た。
【0045】
得られたAuナノ粒子蛍光体について、実施例1と同様にして発光の波長と強度との関係を調べ、また、粒子径の測定を行った。
結果を図1(b)、図2(b)、図3(b)、及び図4(b)に示す。
得られたAuナノ粒子蛍光体は、Au原子13個を有して緑色の蛍光性を有し、330nmの紫外線を吸収し510nmにピークを有する赤色の蛍光性を示し、その粒子径は1nm前後であって平均粒子径0.9nmであった。
【0046】
〔実施例3〕
実施例2で得られた反応混合物中に、pH調整剤としてNaOH水溶液(0.43ml、0.43mmol)をマイクロピペットで空気雰囲気下に添加し、pHを9に調整した後、37℃を保ちながら1時間激しく撹拌し、Auナノ粒子蛍光体を得た。
【0047】
得られたAuナノ粒子含有蛍光体組成物について、実施例1と同様にして発光の波長と強度との関係を調べ、また、粒子径の測定を行った。
結果を図1(c)、図2(c)、図3(b)、及び図4(b)に示す。
得られたAuナノ粒子蛍光体は、Au原子5個又はAu原子8個を有して青色の蛍光性を有し、330nmの紫外線を吸収し400nmにピークを有する赤色の蛍光性を示し、その粒子径は1nm以下であって平均粒子径が0.5nmであった。
【0048】
実施例1〜3において得られたAuナノ粒子を含む蛍光体組成物の発光の波長と強度(a.u.)との関係を示す図2から、還元反応の際におけるpHの値を変化させることにより、発光波長が変化することが判明した。
【0049】
〔実施例4:金属イオンセンサー〕
実施例1で製造した反応混合物(液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物)に対して、金属イオンのCa2+、Cd2+、Co2+、Hg2+、Mg2+、Ni2+、Pb2+、又はZn2+を含む硝酸塩水溶液を、それぞれ添加後のイオン濃度が0.01mmol/Lになるように添加し、金属イオン添加前の蛍光強度を100として金属イオン添加後の蛍光強度を比較した。
【0050】
結果は図5に示す通りであり、Hg2+を添加したものについてはその蛍光が完全に消失し、また、Pb2+を添加したものについてはその蛍光が大幅に増大した。
従って、この実施例1のAuナノ粒子含有蛍光体組成物については、Hg2+イオンセンサーやPb2+イオンセンサーとして使用できることが判明した。
【0051】
〔実施例5:蛍光フィルム〕
実施例1〜3で得られた反応混合物(液体状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物)1mLにポリビニルアルコール(20wt%-PVOH水溶液)1mLを混合し、次いでこの混合溶液を常温で乾燥させ、粉末状のAuナノ粒子含有蛍光体組成物を含む蛍光フィルムa〜cを調製した。
得られた蛍光フィルムa〜cについて、UVランプ(UVLS-28、UVP社製)を用いて目視により発光性を調べた。
結果を図6に示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Au化合物、Ag化合物、Cu化合物、Pt化合物、Pd化合物、Ni化合物、Ir化合物、Si化合物、及びFe化合物からなる群から選択された少なくとも1種の金属化合物を、タンパク質を含むと共にpH調整剤によりpH調整されたタンパク質含有水溶液中で還元し、この還元反応で生成した金属ナノ粒子含有生成物を含む蛍光体組成物を製造することを特徴とする金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法。
【請求項2】
前記タンパク質が、ペプシン、トリプシン、及びブロメラインからなる群から選択された少なくとも1種である請求項1に記載の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法。
【請求項3】
前記金属ナノ粒子蛍光体の平均粒子径が0.5〜4nmである請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法。
【請求項4】
蛍光体組成物が、還元反応で用いられた水系溶剤を含む液体状の蛍光体組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法。
【請求項5】
蛍光体組成物が、還元反応で用いた水系溶剤を除去して得られた粉末状の蛍光体組成物である請求項1〜3のいずれかに記載の金属ナノ粒子含有蛍光体組成物の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかの方法によって製造された金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を含むことを特徴とする金属イオンセンサー。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれかの方法によって製造された金属ナノ粒子含有蛍光体組成物を含むことを特徴とする蛍光フィルム。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2012−246449(P2012−246449A)
【公開日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−121283(P2011−121283)
【出願日】平成23年5月31日(2011.5.31)
【出願人】(399030060)学校法人 関西大学 (208)
【出願人】(000003322)大日本塗料株式会社 (275)
【Fターム(参考)】