説明

金属ナノ粒子焼結体層の形成方法

【課題】金属ナノ粒子分散液の塗布膜に50℃〜120℃の温度で低温焼結処理を施して、体積固有抵抗率が少なくとも3×10-5Ω・cm以下の金属ナノ粒子焼結体層の形成を可能とする、新規な金属ナノ粒子焼結体層の形成方法を提供する。
【解決手段】金属ナノ粒子分散液の塗布膜を50℃〜120℃の温度に加熱しつつ、酸素分子を10体積%〜25体積%の範囲で含有する混合気体を5秒間〜15秒間塗布膜表面に吹き付け、金属ナノ粒子表面に酸化被膜を形成する酸化処理と、アルコール性ヒドロキシル基を有する有機化合物の蒸気を10体積%〜30体積%の範囲で含有する混合気体を、120秒間〜300秒間塗布膜表面に吹き付け、金属ナノ粒子表面の酸化被膜を還元する還元処理とを組み合わせた酸化・還元処理サイクルを複数回繰り返すことで、金属ナノ粒子の低温焼結を段階的に進行させ、金属ナノ粒子焼結体層を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子分散液を利用して、金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法に関し、特には、金属ナノ粒子分散液中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結する際、焼結時の加熱温度を120℃以下に選択して、金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の電子機器関連分野において、利用される配線パターンの微細化が進んでいる。また、種々の電極パターン部の形成に利用される金属薄膜層に関しても、極薄い膜厚の金属薄膜層の活用が進められている。例えば、スクリーン印刷法を利用して、微細配線形成や薄膜形成を達成する際、超ファインなパターン描画、あるいは極薄い膜厚の薄膜塗布層形成に、極めて粒子径の小さな金属微粒子分散液、特には、平均粒子径100nm以下の金属ナノ粒子分散液の応用が図られている。現時点において、前記の用途に応用可能な、金および銀のナノ粒子分散液が既に商品化されている。
【0003】
金属ナノ粒子を利用して、超ファインな配線パターンを形成する場合、例えば、金ナノ粒子、銀ナノ粒子などの金属ナノ粒子を用いて、150℃以上の加熱温度で該金属ナノ粒子の焼結体層を形成する手法が利用されている。具体的には、金属ナノ粒子を含む、超ファイン印刷用分散液を利用した極めて微細な回路パターンの描画と、その後、150℃以上に加熱して、金属ナノ粒子相互の焼結を施すことにより、得られる焼結体型配線層において、配線幅および配線間スペースが1〜20μm、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の配線形成が可能となっている(特許文献1参照)。
【0004】
また、平均粒子径100nm以下の金属ナノ粒子に対して、その表面を被覆するアミン化合物などの表面被覆層を設け、加熱した際、このアミン化合物などの被覆分子の溶出、離脱が可能な、高沸点の一種以上の有機溶剤を含んでなる分散溶媒中に均一に分散させた、導電性金属ナノ粒子ペーストも提案されている(特許文献2参照)。該導電性金属ナノ粒子ペーストは、バインダー樹脂成分を含んでなく、該導電性金属ナノ粒子ペーストを利用して作製される導電体層では、200℃〜300℃の温度で加熱処理し、金属ナノ粒子相互が緻密に焼結体層を形成することで良好な導電性を達成している。例えば、平均粒子径3nmの銀ナノ粒子を使用して作製される導電性銀ペースト利用する際、得られる導電体層では、3×10-6 Ω・cm〜3.5×10-6 Ω・cm程度の体積固有抵抗率が達成されている。導電性媒体として、金属ナノ粒子を使用する、該導電性金属ナノ粒子ペースト、所謂、「導電性ナノ粒子ペースト」は、微細な配線の作製に適している。
【0005】
焼結体層の作製に利用する金属ナノ粒子として、酸化を受け易い銅ナノ粒子を採用する場合、該銅ナノ粒子の表面に生成する表面酸化膜を還元、除去した上で、銅ナノ粒子の焼結を行う手法も提案されている(特許文献3参照)。該銅ナノ粒子表面に生成した、表面酸化膜の還元では、還元能を有する有機化合物の蒸気、気体を含む還元性雰囲気下、200℃以上、300℃以下に加熱し、該還元能を有する有機化合物を還元剤として利用している。加えて、一旦、表面酸化膜の還元を行った後、200℃以上、300℃以下の加熱温度において、該銅ナノ粒子の表面を再度酸化し、還元能を有する有機化合物を利用して再還元する処理を施す手法も利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2004−247572号公報
【特許文献2】特開2004−273205号公報
【特許文献3】国際公開2004/103043号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従来の金属微粒子焼結体層を形成する方法は、体積固有抵抗率が1×10-5Ω・cm以下の金属ナノ粒子焼結体層を高い再現性で作製することが可能であるが、焼結時の加熱温度を少なくとも150℃以上、通常、200℃〜300℃の範囲に選択する手法である。
【0008】
一方、金属ナノ粒子焼結体層の利用を拡大するためには、焼結時の加熱温度を、従来の手法で採用されている、少なくとも150℃以上、通常、200℃〜300℃の範囲に代えて、より低い温度範囲、すなわち、少なくとも130℃を超えない温度範囲に選択可能な新たな金属微粒子焼結体層の形成方法の開発が必要であることを、本発明者らは見出した。
【0009】
本発明は、前記の新たに見出した課題を解決するものである。つまり、本発明の目的は、金属ナノ粒子の分散液を利用して、加熱処理を施し、金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、前記加熱処理温度を120℃以下に選択して、体積固有抵抗率が少なくとも3×10-5Ω・cm以下、好ましくは1×10-5Ω・cm以下の金属微粒子焼結体層の形成を可能とする、新規な金属ナノ粒子焼結体層の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく、先ず、従来の手法における、分散液を基板上に塗布した後、その塗布層中に含有される金属ナノ粒子を焼結する工程中に起きる現象を詳細に検討した。
【0011】
検討の結果、塗布層中に含有される金属ナノ粒子を焼結する工程は、下記の二つの過程に区分できることを見出した。まず、第一の過程では、分散液中に分散されている、金属ナノ粒子の表面には、表面被覆剤層が形成されており、この表面被覆剤層の除去がなされる。第二の過程では、表面被覆剤層の除去がなされた、金属ナノ粒子の金属表面相互を接触させ、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結を進行させている。
【0012】
従来の手法では、第一の過程における、表面被覆剤層の除去は、加熱することにより、表面被覆剤層を構成する表面被覆剤分子を分散溶媒中に溶出することにより達成している。従って、塗布層中に含まれる分散溶媒中に、溶出する表面被覆剤分子の全量が溶解可能な温度に加熱する必要がある。第二の過程では、分散溶媒中に溶出した表面被覆剤分子が、金属ナノ粒子の金属表面に再付着しない加熱条件を選択した上で、金属ナノ粒子の金属表面相互を接触させ、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結を行う必要がある。
【0013】
その際、分散溶媒中に溶出した表面被覆剤分子が、金属ナノ粒子の金属表面に再付着すると、金属ナノ粒子の表面における、金属原子の表面マイグレーション過程が阻害されるため、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が阻害される。その結果、塗布層中に含有される金属ナノ粒子の一部では、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が進行するが、一部では、融着、低温焼結が阻害された状態となり、全体としては、金属ナノ粒子相互が緻密に融着、低温焼結した状態が達成できない。
【0014】
従来の手法では、加熱処理温度を、少なくとも、150℃以上に選択する手段を採用し、分散溶媒中における表面被覆剤分子の溶解度を高くすることで、分散溶媒中に溶出した表面被覆剤分子が、金属ナノ粒子の金属表面に再付着する現象を回避していた。
【0015】
分散溶媒中に溶出した表面被覆剤分子、例えば、アルキルアミンなどは、該加熱処理温度において、ある水準以上の平衡蒸気圧を示す場合、分散溶媒の表面から蒸散することが可能である。その際、分散溶媒の沸点と比較し、表面被覆剤分子、例えば、アルキルアミンなどの沸点が有意に低い場合、表面被覆剤分子、例えば、アルキルアミンなどの蒸散速度は、分散溶媒の蒸散速度と比較して、相対的に高い。そのため、金属ナノ粒子の表面から溶出する表面被覆剤分子、例えば、アルキルアミンなどは、分散溶媒の蒸散が進行しても、濃縮されることは無く、一旦分散溶媒中に溶出した表面被覆剤分子が、金属ナノ粒子の金属表面に再付着する現象は回避される。
【0016】
一方、表面被覆剤分子として利用される、長鎖のカルボン酸は、該長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)の形状で、金属ナノ粒子の表面の金属原子に結合している。そのため、分散溶媒中には僅かしか溶出せず、加熱処理温度を、少なくとも、150℃以上に選択することで、該該長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)の分解的に還元反応を起こさせ、その除去を行っている。従って、加熱処理温度が、前記分解的な還元反応が進行する温度よりも有意に低いと、表面被覆剤分子として利用される、長鎖のカルボン酸を除去することができず、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が阻害される。
【0017】
勿論、アルキルアミンなど、分散溶媒中に溶出可能な表面被覆剤分子であっても、加熱処理温度が150℃より有意に低い場合、分散溶媒中における溶解度が十分でなく、金属ナノ粒子の表面には、アルキルアミンなどの表面被覆剤分子が相当の面密度で残余している。そのため、残余している、アルキルアミンなどの表面被覆剤分子の面密度が、一定水準を超えていると、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が阻害される。
【0018】
本発明者らは、金属ナノ粒子の表面の金属原子に対して、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)の形状で結合している、長鎖のカルボン酸を分散溶媒中に溶出させる手段を探索した。その際、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)自体の分散溶媒中における溶解度は低いが、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体の分散溶媒中における溶解度は遥かに高いことに想到した。加えて、分散溶媒中にアルキルアミンが溶解していると、少なくとも、50℃以上に加熱すると、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)にアルキルアミンが作用して、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体を形成することが可能であることに想到した。形成された長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体は、金属ナノ粒子の表面の金属原子に対して、結合することができず、分散溶媒中に溶解した状態となる。その際、分散溶媒中に多量のアルキルアミンが溶解していると、離脱した長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)に代わって、アルキルアミンが金属原子に結合するため、金属ナノ粒子の表面は、アルキルアミンで被覆された状態に変換されることにも想到した。
【0019】
本発明者は、さらに検討を進め、金属ナノ粒子の表面を被覆する表面被覆剤分子として、アルキルアミンなどのアミン化合物と、長鎖のカルボン酸を併用すると、少なくとも、50℃以上に加熱すると、金属ナノ粒子の表面を被覆している、アルキルアミンなどのアミン化合物の一部が溶出し、この溶出したアルキルアミンなどのアミン化合物を長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体の形成に利用すると、分散溶媒中に溶解しているアルキルアミンなどのアミン化合物の濃度上昇を回避しつつ、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)をアミン錯体として、金属ナノ粒子の表面から離脱させることが可能であることを見出した。
【0020】
但し、分散溶媒の液温度が、例えば、50℃程度である場合、金属ナノ粒子の表面を被覆している、アルキルアミンなどのアミン化合物の一部が溶出するのみで、相当量のアルキルアミンなどのアミン化合物は、金属ナノ粒子の表面上に結合した状態で残留している。すなわち、分散溶媒中に溶解している、アルキルアミンなどのアミン化合物の濃度と、金属ナノ粒子の表面の金属面上に結合している、アルキルアミンなどのアミン化合物の面密度は平衡状態にある。
【0021】
一方、本発明者らは、アルキルアミンなどのアミン化合物は、金属原子に対しては結合できるが、金属酸化物に対しては、その結合能は格段に劣ることに想到した。
【0022】
従って、金属ナノ粒子の表面から、アルキルアミンなどのアミン化合物と、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)を離脱した後、表出する金属表面を酸化して、その表層のみを酸化膜に変換すると、残された金属ナノ粒子の表面の金属面上に結合している、アルキルアミンなどのアミン化合物の面密度は、平衡状態の面密度より高い水準に維持されるので、アルキルアミンなどのアミン化合物の溶出をさらに進めることが可能であることに想到した。理想的には、分散溶媒の液温度が、例えば、50℃程度である場合でも、前記の複合プロセスを利用することで、金属ナノ粒子の金属表面を被覆していた、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)とアルキルアミンなどのアミン化合物を全て離脱させ、金属ナノ粒子の表層のみに単分子酸化膜が形成された状態に変換できることを見出した。その際、分散溶媒中には、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体と、余剰のアルキルアミンなどのアミン化合物が溶解している状態となる。なお、分散溶媒中に溶解している、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体と、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)とアルキルアミンなどのアミン化合物は、解離平衡状態となっているため、極僅かに長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)が生成される。長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)も、金属原子に対しては結合できるが、金属酸化物に対しては、その結合能は格段に劣る。
【0023】
その際、金属ナノ粒子の表層のみに単分子酸化膜を形成させる酸化処理は、分散溶媒の表面から、例えば、酸素分子(O2)を溶解させ、該酸素分子(O2)を金属ナノ粒子表面の金属原子に作用させると、表層のみに単分子酸化膜を形成することが可能である。但し、酸化処理を継続すると、酸化が表層のみでなく、次第に、金属ナノ粒子の内部への進行するため、酸化処理時間は、必要最小限の範囲に留めることが必要である。
【0024】
分散溶媒に対する、酸素分子(O2)などの気体の溶解度は、温度が上昇すると急激に低下する。従って、気相中の酸素分子(O2)の含有比率(分圧)Voxygenを一定に保つと、気相から分散溶媒中に溶解する酸素分子(O2)の溶存濃度C(T,O2)は、温度Theatingが上昇すると急激に低下する。一方、酸素分子(O2)を利用する酸化反応の反応速度定数koxidization(T)は、温度が上昇するとともに増大する。酸素分子(O2)を利用する酸化反応の速度は、koxidization(T)・C(T,O2)に比例するが、前記の二つの要因を考慮すると、温度Theatingが50℃〜120℃の範囲では、酸素分子(O2)を利用する酸化反応の速度は、温度Theatingが上昇しても、さほど上昇しない。従って、温度Tが50℃〜120℃の範囲では、雰囲気中に存在する酸素の体積比率Voxygenを、10体積%〜25体積%の範囲、酸化処理時間t1を5秒間〜15秒間の範囲に選択することで、表面酸化を単分子層に留めることが可能であることに想到した。特に、酸化処理時間t1が経過した後、酸素分子(O2)を含まない雰囲気に曝すと、分散溶媒中に溶解していた酸素分子(O2)は速やかに蒸散するため、酸化反応は、速やかに終了できる。
【0025】
勿論、その表層に単分子酸化膜が形成された状態では、金属ナノ粒子は、相互に融合して、低温焼結を起こすことができない。従って、金属ナノ粒子の金属表面を被覆していた、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)とアルキルアミンなどのアミン化合物の離脱を終えた後、金属ナノ粒子の表層に形成されている単分子酸化膜を還元処理して、金属表面に復した上で、金属ナノ粒子を相互に融合して、低温焼結を進行させる必要がある。
【0026】
金属ナノ粒子の表層に形成されている単分子酸化膜の還元処理は、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を還元剤として利用することで、分散溶媒の存在下で実施できることを見出した。具体的には、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気を分散溶媒の表面に供給すると、該有機化合物を分散溶媒中に溶解させることが可能である。溶解した該有機化合物を金属ナノ粒子の表層に形成されている単分子酸化膜に作用させることで還元処理を行うことができる。
【0027】
該還元処理を行う工程中、雰囲気中にアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気を高い体積比率(分圧)で含有させると、気相から分散溶媒中に、該有機化合物が溶解する。分散溶媒中に溶解する有機化合物の濃度C(T,>CH−OH)は、気相中に存在する該有機化合物の蒸気の体積比率(分圧)Vreducing-agentと平衡する濃度にまで上昇させることが可能である。金属ナノ粒子の表層に形成されている単分子酸化膜の還元に使用されると、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物に由来するケトン化合物(>C=O)、あついは、アルデヒド化合物(−CHO)が生成する。該ケトン化合物(>C=O)、あついは、アルデヒド化合物(−CHO)の沸点は、一般に、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物よりも低いので、分散溶媒表面から蒸散し、気相中に放出される。また、還元反応に付随して、水分子(H2O)も生成するが、加熱状態では、生成する水分子(H2O)も、分散溶媒表面から蒸散し、気相中に放出される。
【0028】
還元処理して、金属ナノ粒子の表面に、金属表面が再生されると、分散溶媒中に溶解している、アルキルアミンなどのアミン化合物と、極僅かに存在している長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)が、金属表面に再結合するため、ある程度金属ナノ粒子相互の融合と低温焼結が進行するが、それ以上の進行は阻害される。
【0029】
但し、当初、表面被覆層を構成していた、アルキルアミンなどのアミン化合物と、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)の大半は、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体として、分散溶媒中に溶解しているので、金属表面に再結合する、アルキルアミンなどのアミン化合物と長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)による被覆率が減少している。
【0030】
再度、表出している金属表面を酸化して、その表層のみを酸化膜に変換する酸化処理を施し、その後、金属ナノ粒子の表層に形成されている単分子酸化膜を還元処理して、金属表面に復すると、金属ナノ粒子相互の融合と低温焼結を更に進めることが可能である。勿論、分散溶媒中に溶解している、アルキルアミンなどのアミン化合物と、極僅かに存在している長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)が、金属表面に再結合するため、ある程度金属ナノ粒子相互の融合と低温焼結が進行するが、それ以上の進行は阻害されるという現象が起こる。
【0031】
しかしながら、前記の酸化処理と、還元処理のサイクルを繰り返すことで、金属ナノ粒子相互の融合と低温焼結が段階的に進行するため、最終的には、目的とする水準まで金属ナノ粒子の低温終結を進行させることが可能であることを見出した。
【0032】
但し、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)は、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体として、分散溶媒中に溶解させているため、前記の処理を行う温度における、分散溶媒中における長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体の溶解度以上に溶解させることはできない。
【0033】
分散溶媒中に溶解している、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体に、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物が作用すると、還元反応が進行して、長鎖のカルボン酸(R−COOH)とアミン化合物が配位した金属原子(R)に変換される。還元処理の過程では、このアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用する還元反応によって、分散溶媒中に溶解している長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体が消費される。
【0034】
加えて、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体は、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)と比較すると、相当に低い温度で分解的な還元反応が可能であることをも見出した。具体的には、80℃程度の温度に加熱すると、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体の分解的な還元反応が開始することを見出した。従って、80℃以上の温度に加熱すると、分散溶媒中に溶解している、長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体は、前記分解的な還元反応によっても、消費されるため、前記の酸化処理と、還元処理のサイクルを繰り返すことで、金属ナノ粒子の表面に再付着可能な長鎖のカルボン酸の金属塩(R−COOM)の量が段階的に低減する。この現象をも利用することで、前記の酸化処理と、還元処理のサイクルを繰り返すことで、金属ナノ粒子相互の融合と低温焼結が段階的に進行させ、最終的には、目的とする水準まで金属ナノ粒子の低温終結を進行させることが可能であることを見出した。
【0035】
本発明者らは、上記の一連の知見に基づき、本発明を完成するに至った。
【0036】
すなわち、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法は、
金属ナノ粒子分散液を利用して、金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法であって、
前記金属ナノ粒子分散液は、平均粒子径が1nm〜100nmの範囲に選択されている金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に形成される被覆剤分子層を構成する被覆剤分子と、分散溶媒を含み、
前記金属ナノ粒子は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルからなる群から選択される1種以上の金属、またはその合金からなる金属ナノ粒子であり;
前記分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲の炭化水素溶媒からなる群から選択され;
沸点が140℃〜400℃の範囲の脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)と、沸点が165℃〜250℃の範囲の(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)を組み合わせて、前記被覆剤分子として使用されており;
前記金属ナノ粒子分散液中に含有される、前記金属ナノ粒子の体積比率Vnano-particleは、5体積%〜25体積%の範囲に選択され;
前記脂肪族モノカルボン酸の分子数総和Ncarboxylateと、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの分子数総和Namineの比(Ncarboxylate:Namine)は、1:1.1〜1:1.5の範囲に選択され;
前記脂肪族モノカルボン酸の体積比率Vcarboxylateと(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの体積比率Vamineの和(Vcarboxylate+Vamine)と、前記分散溶媒の体積比率Vsolventの比{(Vcarboxylate+Vamine):Vsolvent}は、1:1.0〜1:10の範囲に選択されており、
金属ナノ粒子焼結体層を形成するプロセスは、
基材の表面に、前記金属ナノ粒子分散液を塗布し、所定の膜厚の塗布膜を形成する、塗布膜形成工程と、
前記金属ナノ粒子分散液の塗布膜を、50℃〜120℃の範囲に選択される温度Theatingに加熱し、前記塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結させる、低温焼結工程を含み;
前記低温焼結工程は、
不活性気体中に、10体積%〜25体積%の範囲に選択される体積比率Voxygenで酸素分子(O2)が混合されている酸素含有混合気体の気流中において、5秒間〜15秒間の範囲に選択される酸化処理時間t1、前記温度に加熱して、酸素分子を酸化剤として利用し、塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子の表面の酸化被膜を形成する、酸化処理サブステップと、
不活性気体中に、10体積%〜30体積%の範囲に選択される体積比率Vreducing-agentで、酸化によってオキソ基(>=O)またはホルミル基(−CHO)へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気が混合されている還元性混合気体の気流中において、120秒間〜300秒間の範囲に選択される還元処理時間t2、前記温度に加熱して、前記有機化合物を還元剤として利用し、塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子表面の酸化被膜を還元除去する、還元処理サブステップを具え、
前記酸化処理サブステップと還元処理サブステップを組み合わせた、酸化・還元処理ステップをn回(但し、nは、1以上の整数である)繰り返し、金属ナノ粒子の表面を覆う前記被覆剤分子層の除去を行い、
前記酸化・還元処理ステップをn回繰り返す加熱処理時間の合計、n×(t1+t2)を、375秒間〜3150秒間の範囲に選択することで、前記塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結させ、金属ナノ粒子焼結体層を形成し;
前記酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の沸点は、60℃〜120℃の範囲に選択される
ことを特徴とする、金属ナノ粒子焼結体層の形成方法である。
【0037】
その際、
前記金属ナノ粒子は、平均粒子径が2nm〜50nmの範囲に選択されている金属ナノ粒子であることが好ましい。
【0038】
前記分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲の鎖式炭化水素溶媒からなる群から選択されることが望ましい。
【0039】
沸点が140℃〜400℃の範囲の前記脂肪族モノカルボン酸は、総炭素数3〜20の範囲の脂肪族モノカルボン酸であることが好ましい。
【0040】
沸点が165℃〜250℃の範囲の前記(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)中のアルキル基R1A、R2Aは、炭素数2〜4の範囲のアルキル基であることが好ましい。
【0041】
前記酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物は、炭素数1〜6の範囲のアルカノールであることが好ましい。
【0042】
前記低温焼結工程における加熱温度を、80℃〜120℃の範囲に選択することが好ましい。
【0043】
前記低温焼結工程における、酸化・還元処理ステップの繰り返し回数nを、3〜10回の範囲に選択することが好ましい。
【0044】
前記体積比率Vreducing-agentを、15体積%〜25体積%の範囲に選択することが望ましい。
【0045】
前記体積比率Voxygenを、15体積%〜25体積%の範囲に選択することが望ましい。
【0046】
前記低温焼結工程を終えた後、前記還元性混合気体の気流中において、前記温度Theatingから温度を降下させる温度降下工程を有することが望ましい。
【0047】
本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法は、前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子である場合に、好適に適用できる。
【発明の効果】
【0048】
本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法では、焼結処理を行う温度を50℃〜120℃の範囲に選択する際、短い時間酸化処理し、その後、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用する還元処理を行う、酸化処理と還元処理のサイクルを利用し、該酸化処理と還元処理のサイクルを繰り返して、段階的に金属ナノ粒子の低温焼結を進めることができる。従って、従来の金属ナノ粒子の低温焼結処理で利用されていた加熱温度よりも、遥かに低い温度において、従来の金属ナノ粒子の低温焼結処理で作製される焼結体層と遜色の無い、高い導電性を示す金属ナノ粒子の焼結体層の形成が可能である。
【発明を実施するための形態】
【0049】
以下に、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法に関して、より詳しく説明する。
【0050】
金属ナノ粒子分散液中に含まれる、金属ナノ粒子表面の被覆剤分子層を除去し、金属ナノ粒子焼結体層を形成する際、従来の方法では、加熱温度Theatingを150℃以上に選択して、被覆剤分子層を除去する手法を採用しているが、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法では、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択した上で、酸化処理と還元処理のサイクルを繰り返することで、被覆剤分子層を段階的に除去する手法を採用している。具体的には、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択する場合、分散溶媒中における被覆剤分子の溶解度は低く、また、被覆剤分子の蒸気圧も低いため、被覆剤分子層を分散溶媒中に溶出させ、さらに、溶出した被覆剤分子を蒸散させることで、金属ナノ粒子表面の被覆剤分子層を除去することは困難である。また、加熱することで、分解的な還元反応が可能な被覆剤分子を除去する際、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択する場合、前記分解的な還元反応の進行は遅いため、効率的に被覆剤分子の除去を行うことは困難である。それに対して、本発明にかかる金属ナノ粒子焼結体層の形成方法では、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択した上で、金属ナノ粒子の金属表面を酸化処理することにより、被覆剤分子の離脱を促進させ、その後、還元処理を施すことで、酸化処理により形成された酸化被膜を還元、除去することで、金属ナノ粒子の低温焼結を進行させている。前記の酸化処理と還元処理のサイクルを繰り返すことで、金属ナノ粒子の低温焼結を段階的に進行させることで、最終的に、高い導電性を示す金属ナノ粒子の焼結体層の形成を可能としている。
【0051】
本発明の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法に利用する金属ナノ粒子分散液では、脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)と(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、特には、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)を組み合わせて、金属ナノ粒子表面の被覆剤分子層を構成する被覆剤分子として使用している。実際には、脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)は、該脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)の形態で、金属ナノ粒子表面の金属原子(M)と該金属塩中の金属カチオン(M+)の間の金属結合的な相互作用を介して、金属ナノ粒子表面に結合している。一方、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、そのアミノ基(−NH2)の窒素原子上の孤立電子対を利用して、金属ナノ粒子表面の金属原子(M)に配位的な結合している。
【0052】
本発明で利用する金属ナノ粒子分散液では、分散溶媒として、非極性溶媒である炭化水素溶媒を利用している。該炭化水素溶媒中における、脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)の溶解度は非常に低いため、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択する場合、金属ナノ粒子表面の脂肪族モノカルボン酸の金属塩を分散溶媒中に溶出させることは困難である。一方、該炭化水素溶媒中における、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)の溶解度は比較的に高いため、加熱温度Theatingを50℃〜120℃の範囲に選択する場合、金属ナノ粒子表面の(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの一部は分散溶媒中に溶出させることが可能である。
【0053】
[金属ナノ粒子焼結体層の形成プロセス]
本発明の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法では、まず、塗布膜形成工程において、基体の表面に金属ナノ粒子分散液を所定の膜厚で塗布し、塗布膜層を作製する。次いで、低温焼結工程では、前記金属ナノ粒子分散液の塗布膜を、50℃〜120℃の範囲に選択される温度Theatingに加熱し、前記塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結させる。
【0054】
この低温焼結工程では、下記の酸化処理サブステップと還元処理サブステップを組み合わせた、酸化・還元処理ステップをn回(但し、nは、1以上の整数である)繰り返し、金属ナノ粒子の表面を覆う前記被覆剤分子層の除去を行い、段階的に金属ナノ粒子の低温焼結を進める。
【0055】
(酸化処理サブステップ)
加熱を行うと、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子、特に、金属ナノ粒子の表面の金属原子(M)上に、アミノ基(−NH2)の孤立電子対を利用して、配位的な結合をしていた(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)の一部は、非極性炭化水素溶媒中に溶出される。この(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)が、金属ナノ粒子の表面の金属原子(M)上に結合(吸着)している、カルボン酸の金属塩(R−COOM)に作用して、金属カチオン(M+)に(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)が配位すると、カルボン酸金属塩(R−COOM)のアミン錯体(R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))が形成される。該カルボン酸金属塩(R−COOM)のアミン錯体(R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))は、金属ナノ粒子の表面の金属原子(M)上に結合することができず、分散溶媒中に溶解される。
【0056】
【化1】

【0057】
酸化処理のサブステップにおいては、加熱しているので、金属ナノ粒子の表面を被覆している被覆剤分子の一部は、非極性炭化水素溶媒中に溶出される。金属ナノ粒子の表面が一部露呈するので、非極性炭化水素溶媒中に溶存する酸素分子が、金属原子上に吸着し、反応することが可能となり、金属ナノ粒子の表面に表面酸化膜(MO)が形成される。
【0058】
金属ナノ粒子の表面の金属原子(M)上に、アミノ基(−NH2)の孤立電子対を利用して、配位的な結合をしていた(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、該表面酸化膜(MO)上に再結合できない。
【0059】
【化2】

【0060】
また、金属ナノ粒子の表面の金属原子(M)に対して、金属結合に類する相互作用を介して、吸着していたカルボン酸の金属塩(R−COOM)も、該表面酸化膜(MO)上に再結合できない。
【0061】
【化3】

【0062】
すなわち、金属ナノ粒子の表面の相当部分に表面酸化膜(MO)が形成される結果、溶出された(ジアルキルアミノ)プロピルアミンと、カルボン酸の金属塩(R−COOM)の再結合が抑制される。一方、溶出された(ジアルキルアミノ)プロピルアミンと、カルボン酸の金属塩(R−COOM)は、該カルボン酸の金属塩(R−COOM)の金属カチオン(M+)に対して、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンが配位することで、カルボン酸金属塩(R−COOM)のアミン錯体(R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))を構成している。非極性炭化水素溶媒に対する、カルボン酸金属塩(R−COOM)の炭化水素鎖部分(R−)と、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンのアルキル基(R”−)の親和性によって、該カルボン酸金属塩のアミン錯体は、非極性炭化水素溶媒中に溶解している。
【0063】
その際、金属ナノ粒子の表面に形成される表面酸化膜(MO)は、該酸化処理時間t1を短くし、非極性炭化水素溶媒中に溶解する酸素分子(O2)に因る酸化量を制御することで、単分子層としている。具体的には、加熱温度Theatingは、50℃〜120℃の範囲、好ましくは、80℃〜120℃の範囲に選択し、雰囲気中に存在する酸素の体積比率Voxygenを、10体積%〜25体積%の範囲、好ましくは、15体積%〜25体積%の範囲、特には、20体積%に選択することが望ましい。その際、酸化処理時間t1を5秒間〜15秒間の範囲、特には、10秒間に選択することで、表面酸化を単分子層に留めている。
【0064】
(還元処理サブステップ)
還元処理サブステップにおいては、金属ナノ粒子の表面に形成された表面酸化膜(MO)を、還元能を有する有機化合物、すなわち、酸化によって、オキソ基(>=O)またはホルミル基(−CHO)へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用して、金属原子(M)に還元する。
【0065】
表面酸化膜(MO)の表面に、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物は、金属酸化物(MO)の酸素原子と、ヒドロキシル基(>CH−OH)の水素原子との水素結合を介して、一旦、吸着する。
【0066】
【化4】

【0067】
その後、金属酸化物(MO)の還元と、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の酸化が進行する。
【0068】
MO+(>CH−OH)→M+H2O+(>C=O)
【0069】
【化5】

【0070】
その際、副生する水分子(H2O)は、蒸散する。一方、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の酸化により生成する、ケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)の沸点は、通常、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の沸点よりも相当に低い。また、生成するケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)は、金属表面に対する吸着性は乏しい。そのため、生成するケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)も、速やかに蒸散する。
【0071】
アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物は、金属原子に対して、配位的な結合が可能な孤立電子対を有するアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有しているが、その沸点は120℃以下であるので、加熱温度Theatingでは、金属ナノ粒子の表面の金属原子上に安定に吸着することは困難である。従って、還元処理によって、表面酸化膜が除去された、金属ナノ粒子の金属表面に、付着する分子の密度は格段に低減される。
【0072】
分散溶媒中には、溶出したカルボン酸の金属塩(R−COOM)と、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)とからなるカルボン酸金属塩・アミン錯体(R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))が溶解している。なお、前記カルボン酸金属塩・アミン錯体は、下記の構造を有すると推定される。
【0073】
【化6】

【0074】
例えば、カルボン酸金属塩・アミン錯体は、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用する還元を受けると、アミンにより配位された金属原子(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))とカルボン酸(R−COOH)に変換される。
2R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)+(>CH−OH)
→2(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))+2R−COOH+(>C=O)
前記還元反応は、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物と、前記カルボン酸金属塩・アミン錯体とが水素結合を介して、会合体を構成した後、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)から、カルボン酸アニオン種(R−COO-)への水素原子の供与に因って進行すると、推察される。結果的に、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)は、オキソ基(>C=O)へと酸化される。
【0075】
【化7】

【0076】
アミンにより配位された金属原子(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))は、金属ナノ粒子の金属面上に付着する。その結果、該金属原子に配位していた(ジアルキルアミノ)プロピルアミンは、再び、金属ナノ粒子の表面の金属原子に配位的な結合をした状態となる。一方、遊離したカルボン酸(R−COOH)は、非極性炭化水素溶媒中では、水素結合により会合し、二量体(R−COOH:HOCO−R)を形成する。あるいは、遊離したカルボン酸(R−COOH)と(ジアルキルアミノ)プロピルアミンが水素結合により会合して、カルボン酸・アミン錯体(R”2N-CH2CH2CH2-NH2:HOCO−R)が形成される。カルボン酸二量体ならびにカルボン酸・アミン錯体は、非極性炭化水素溶媒中に溶解した状態となり、徐々に気化して、蒸散される。一方、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の酸化により生成する、生成するケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)は、一旦は、非極性炭化水素溶媒中に溶解するが、最終的には、気化して、蒸散される。
【0077】
さらには、カルボン酸金属塩・アミン錯体では、カルボン酸金属塩の種類によっては、下記の分解過程が進行する可能性もある。
4−CH2−CH2−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2
→R4−CH=CH2+(HCOOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))
その後、生成するギ酸金属塩・アミン錯体は、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用する還元を受けると、アミンにより配位された金属原子(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))とギ酸(HCOOH)に変換される。
2HCOOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)+(>CH−OH)
→2(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))+2HCOOH+(>C=O)
遊離したギ酸(HCOOH)は、非極性炭化水素溶媒中では、水素結合により会合し、二量体(HCOOH:HOCOH))を形成する。ギ酸の二量体(HCOOH:HOCOH))の沸点は、100.8℃であり、蒸散可能である。また、表面酸化膜の還元により生成する水分子(H2O)と、ギ酸(HCOOH)とが水素結合により会合し、分子化合物(HCOOH:H2O)を形成する可能性がある。ギ酸と水とから構成される共沸混合物の沸点は、107℃であり、前記分子化合物(HCOOH:H2O)も、蒸散可能である。
【0078】
一般に、アルコールの酸化により生成するケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)の沸点は、アルコールの沸点よりも低い。従って、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の酸化により生成する、生成するケトン化合物(>=O)あるいはアルデヒド化合物(−CHO)は、一旦は、非極性炭化水素溶媒中に溶解するが、最終的には、気化して、蒸散される。
【0079】
一方、アミンにより配位された金属原子(M:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))は、金属ナノ粒子の金属面上に付着する。その結果、該金属原子に配位していた(ジアルキルアミノ)プロピルアミンは、再び、金属ナノ粒子の表面の金属原子に配位的な結合をした状態となる。
【0080】
なお、還元処理サブステップにおける還元処理時間t2は、後述するように、還元処理条件に応じて、酸化処理サブステップにおいて形成される表面酸化膜の除去が達成されるように設定される。
【0081】
結果的に、酸化処理と還元処理のサイクルを施すことで、金属ナノ粒子の表面を被覆していたカルボン酸の金属塩(R−COOM)の相当部分は、金属原子(M)へと還元され、除去される。また、金属ナノ粒子の表面を被覆していた(ジアルキルアミノ)プロピルアミンは、一旦、遊離される間に、一部は蒸散されるため、結果的に、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの一部が除去される。
【0082】
上記の還元処理のサブステップの間、還元された金属ナノ粒子の金属表面相互が接する部位では、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が進行する。
【0083】
第1回目のサイクルにおいて、還元処理のサブステップが終了した時点では、金属ナノ粒子の表面を被覆する、カルボン酸の金属塩(R−COOM)の密度、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの密度は、当初の密度と比較すると、相当に低減されている。
【0084】
第2回目の酸化処理と還元処理のサイクルを施すと、還元処理のサブステップが終了した時点では、金属ナノ粒子の表面を被覆する、カルボン酸の金属塩(R−COOM)の密度、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの密度は、さらに低減する。その間、還元処理のサブステップ中に、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結がさらに進行する。すなわち、酸化処理と還元処理のサイクルを繰り返すと、金属ナノ粒子の表面を被覆する、カルボン酸の金属塩(R−COOM)の密度、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの密度は、段階的に低減される。同時に、各サイクル中、還元処理のサブステップの間、還元された金属ナノ粒子の金属表面相互が接する部位において、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結が段階的に進行する。
【0085】
上記の還元処理のサブステップにおける、表面から離脱したカルボン酸の金属塩(R−COOM)を還元する反応では、金属ナノ粒子から遊離する(ジアルキルアミノ)プロピルアミンを二座配位の配位子として利用している。従って、加熱温度Theatingが高いと、分散溶媒中に、金属ナノ粒子から遊離する(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの量が増すため、表面から離脱したカルボン酸の金属塩(R−COOM)を、効率的にアミン錯体に変換して、還元反応を行うことができる。従って、該アミン錯体形成を経由する還元反応の反応速度は増す。そのため、加熱温度Theatingが高くなるに伴い、各サイクルにおいて、金属ナノ粒子の表面を被覆する、カルボン酸の金属塩(R−COOM)の密度、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの密度の低減する比率は高くなり、金属ナノ粒子相互の融着、低温焼結の進行速度も増す。
【0086】
従って、本発明の方法では、加熱温度Theatingを50℃から120℃へと高くすると、金属ナノ粒子の焼結の進行速度は上昇する。しかし、加熱温度Theatingを50℃から120℃へと高くすると、気相から液相(分散溶媒)中への溶解した、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の液相(分散溶媒)中への溶解速度は徐々に低下する。そのため、離脱したカルボン酸の金属塩(R−COOM)を還元する反応の速度の上昇率は、加熱温度Theatingが100℃を超えると、僅かになる。
【0087】
なお、還元処理のサブステップにおいては、酸化処理のサブステップの間に金属ナノ粒子表面に形成される表面酸化膜(MO)の還元と、表面から離脱したカルボン酸の金属塩(R−COOM)の還元を行う必要がある。そのため、還元処理条件は、少なくとも、酸化処理のサブステップの間に金属ナノ粒子表面に形成される表面酸化膜(MO)の還元が十分に達成されるように選択する。具体的には、加熱温度Theatingは、50℃〜120℃の範囲、好ましくは、80℃〜120℃の範囲に選択する。この加熱温度Theatingにおける、雰囲気中に存在するアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の気体の体積比率(分圧)Vreducing-agentを、10体積%〜30体積%(0.1×1013hPa〜0.3×1013hPa)の範囲、好ましくは、15体積%〜25体積%(0.15×1013hPa〜0.25×1013hPa)の範囲、例えば、20体積%(0.2×1013hPa)に選択することが望ましい。また、還元処理時間t2は、120秒間〜300秒間の範囲、好ましくは、150秒間〜300秒間の範囲に選択することが望ましい。
【0088】
該還元処理において利用される、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物では、酸化によって、該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)は、オキソ基(>=O)またはホルミル基(−CHO)へと変換される。また、雰囲気中に含まれる、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の気体の体積比率(分圧)Vreducing-agentを上記の範囲に設定するため、該加熱温度Theatingにおける、その液体の平衡蒸気圧は、0.3×1013hPa以上であるものを利用する。
【0089】
従って、該加熱温度Theatingに対して、前記酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の沸点は、60℃〜120℃の範囲に選択することが望ましい。例えば、64℃〜120℃の範囲に沸点を示す、第1級アルコールまたは第2級アルコールを選択することが望ましい。
【0090】
前記の範囲に沸点を有する、酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物として、沸点が120℃以下の脂肪族モノアルコール、好ましくは、炭素数1〜6の範囲のアルカノール、より好ましくは、炭素数1〜5の範囲のアルカノールを利用することできる。
【0091】
本発明において利用可能な還元能を有する、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の好適な例として、その沸点が120℃以下の脂肪族アルコールを挙げることができる。例えば、沸点が120℃以下の脂肪族モノアルコールとして、メタノール(沸点64.65℃)、エタノール(沸点78.32℃)、1−プロパノール(沸点96.15℃)、2−プロパノール(沸点82.4℃)、2−ブタノール(沸点99.50℃)、1−ブタノール(沸点117〜118℃)、2−メチル−1−プロパノール(沸点107.89℃)、2−ペンタノール(沸点119.85℃)などの第1級アルカノールまたは第2級アルカノールを例示することができる。また、沸点が120℃以下のアルキルオキシアルカノール(R1-O-R2-OH)、あるいは、アルキレングリコールモノアルキルエーテル、例えば、1−メトキシ−2−プロパノール(沸点118〜119℃)などを使用することもできる。
【0092】
該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気を、不活性ガス、例えば、窒素ガス(N2)、希ガス(He、Ar、Ne)と混合して、加熱温度Theatingに加熱した上で、金属ナノ粒子分散液の塗布膜の表面に吹き付ける。その結果、塗布膜中に含まれる、非極性炭化水素溶媒中に、気相から供給される該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物が溶解する。非極性炭化水素溶媒中に溶解する該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の濃度Creducing-agentは、気相中の該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の気体の体積比率(分圧)Vreducing-agentに比例する。加熱温度Theatingが上昇すると、溶解する該アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の濃度C(T、>CH−OH)は相対的に低下する。一方、加熱温度Theatingが上昇すると、還元反応の速度定数kreduction(T)は上昇する。還元反応の速度は、kreduction(T)・C(T、>CH−OH)に比例するため、前記の二つの要因を考慮すると、温度Theatingが50℃〜120℃の範囲では、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物を利用する還元反応の速度は、温度Theatingが上昇しても、さほど上昇しない。
【0093】
従って、前記低温焼結工程では、温度Theatingが50℃〜120℃の範囲では、
酸化処理サブステップにおける酸化処理時間t1を、5秒間〜15秒間の範囲、好ましくは、10秒間〜15秒間の範囲に選択し、
還元処理サブステップにおける還元処理時間t2を、120秒間〜300秒間の範囲、好ましくは、150秒間〜300秒間の範囲に選択し、
酸化処理サブステップと還元処理サブステップを組み合わせた、酸化・還元処理ステップをn回(但し、nは、1以上の整数である)繰り返すが、
該低温焼結工程中の加熱処理時間の合計、n×(t1+t2)を、375秒間(例えば、3×(5+120)秒間)〜3150秒間(例えば、10×(15+300)秒間)の範囲、好ましくは、450秒間(例えば、3×150秒間)〜2000秒間(例えば、10×200秒間)の範囲に選択することが望ましい。
【0094】
低温焼結は、酸化・還元処理ステップを繰り返すことにより、段階的に進行するが、繰り返し回数が、ある水準を超えると、低温焼結は、実質的にそれ以上進行しない状態となる。従って、加熱処理時間の合計、n×(t1+t2)を前記の範囲に保ちつつ、酸化・還元処理ステップの繰り返し回数nを、3〜10回の範囲に選択することが好ましい。
【0095】
前記低温焼結工程を終えた後、温度を降下させる。その際、還元処理サブステップ時に使用していた還元性混合気体の気流中において、前記温度Theatingから温度を降下させる温度降下工程を有することが望ましい。すなわち、温度降下の間も、アルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気を供給することによって、形成された金属ナノ粒子の低温焼結体の酸化を防止することが望ましい。
【0096】
[金属ナノ粒子分散液]
本発明の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法に利用する金属ナノ粒子分散液は、平均粒子径が1nm〜100nmの範囲に選択されている金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に形成される被覆剤分子層を構成する被覆剤分子と、分散溶媒を含んでいる。
【0097】
その際、前記金属ナノ粒子は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルからなる群から選択される1種以上の金属、またはその合金からなる金属ナノ粒子である。その際、金属ナノ粒子の平均粒子径は、1nm〜100nmの範囲、好ましくは、2nm〜50nmの範囲、より好ましくは、5nm〜30nmの範囲に選択する。
【0098】
一方、分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲、好ましくは、190℃〜290℃の範囲の炭化水素溶媒からなる群から選択する。例えば、分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲の鎖式炭化水素溶媒からなる群から選択されることが望ましい。利用可能な分散溶媒として、炭素数11〜16の範囲の鎖式炭化水素溶媒、例えば、炭素数11〜16の範囲のアルカンを例示することができる。具体的には、テトラデカン(沸点253.57℃)、ウンデカン(沸点195℃)、ヘキサデカン(沸点287℃)などを例示することができる。
【0099】
前記分散溶媒中に、金属ナノ粒子を均一に分散させるため、金属ナノ粒子の表面に被覆剤分子層を形成している。該被覆剤分子層を形成する被覆剤分子として、沸点が140℃〜400℃の範囲、好ましくは、140℃〜380℃の範囲の脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)と、沸点が165℃〜250℃の範囲、好ましくは、169℃〜240℃の範囲の(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)を組み合わせ使用する。
【0100】
被覆剤分子に利用される、前記の範囲に沸点を有する脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)は、例えば、総炭素数3〜20の範囲の脂肪族モノカルボン酸、よりこのましくは、総炭素数3〜18の範囲の脂肪族モノカルボン酸から選択することが望ましい。例えば、オレイン酸(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH、沸点:360℃)、プロパン酸(CH3CH2COOH、沸点140℃)などを、好適に使用できる。
【0101】
また、前記の範囲沸点を有する、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)中のアルキル基R1A、R2Aには、炭素数2〜4の範囲のアルキル基を選択することが望ましい。例えば、アルキル基R1A、R2Aが同じである(R1A=R2A=R”)場合、すなわち、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)中のアルキル基R”には、炭素数2〜4の範囲のアルキル基を選択することが望ましい。例えば、アルキル基R”としてブチル基を選択している、ジブチルアミノプロピルアミン((C4H9)2N(CH2)3NH2、沸点:238℃)、アルキル基R”としてエチル基を選択している、ジエチルアミノプロピルアミン(沸点169〜171℃)などを、好適に使用できる。
【0102】
実際には、脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)は、該脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)の形態で、金属ナノ粒子表面の金属原子(M)と該金属塩中の金属カチオン(M+)の間の金属結合的な相互作用を介して、金属ナノ粒子表面に結合している。一方、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、そのアミノ基(−NH2)の窒素原子上の孤立電子対を利用して、金属ナノ粒子表面の金属原子(M)に配位的な結合を形成している。
【0103】
脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)自体は、非極性溶媒である炭化水素溶媒中には溶解しないが、金属結合的な相互作用を介して、金属ナノ粒子の表面に結合している状態では、脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)の炭化水素基(R−)は、炭化水素溶媒に対して、親和性を示す。また、配位的な結合を介して、金属ナノ粒子の表面に結合している、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、その(ジアルキルアミノ)プロピル原子団(R1A2AN-CH2CH2CH2-)は、炭化水素溶媒に対して、親和性を示す。金属ナノ粒子は、その表面を被覆している被覆剤分子が、炭化水素溶媒に対して、親和性を示すため、表面に被覆剤分子層が形成されている金属ナノ粒子は、炭化水素溶媒中に均一に分散された状態となっている。
【0104】
(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、炭化水素溶媒中に溶解可能である。そのため、炭化水素溶媒中に溶解している(ジアルキルアミノ)プロピルアミンと、配位的な結合を介して金属ナノ粒子の表面に結合している(ジアルキルアミノ)プロピルアミンは、解離平衡状態となっている。
【0105】
一方、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)、例えば、(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R”2N-CH2CH2CH2-NH2)は、金属カチオン(M+)に対しては、そのアミノ基(−NH2)とジアルキルアミノ基(R”2N−)を利用することで、二座配位が可能である。加熱した際には、脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)に対して、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンが作用して、金属表面から離脱した脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)をアミン錯体に変換することができる。脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体は、脂肪族モノカルボン酸に由来する炭化水素基(R−)と、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンに由来するアルキル基(R”−)は、炭化水素溶媒に親和性を示すため、炭化水素溶媒中に溶解することが可能である。
【0106】
金属ナノ粒子分散液中に含まれる、脂肪族モノカルボン酸の分子数総和Ncarboxylateと、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの分子数総和Namineの比(Ncarboxylate:Namine)は、1:1.1〜1:1.5の範囲、好ましくは、1:1.2〜1:1.5の範囲に選択されている。すなわち、脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体(R−COOM:(R”2N-CH2CH2CH2-NH2))の形成に十分な量の(ジアルキルアミノ)プロピルアミンが含有されている。
【0107】
また、分散液中に含有される、脂肪族モノカルボン酸の体積比率Vcarboxylateと(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの体積比率Vamineの和(Vcarboxylate+Vamine)と、分散溶媒の体積比率Vsolventの比{(Vcarboxylate+Vamine):Vsolvent}は、1:1.0〜1:10の範囲、好ましくは、1:1.2〜1:5の範囲に選択する。すなわち、加熱した際、分散溶媒中に、金属ナノ粒子表面から溶出する(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)と、脂肪族モノカルボン酸の金属塩(R−COOM)のアミン錯体が溶解する際、これら溶質分子が、分散溶媒によって取り囲まれた状態を達成するに十分な量の分散溶媒を含むように、分散溶媒の体積比率を選択している。
【0108】
一方、金属ナノ粒子分散液中に含有される、前記金属ナノ粒子の体積比率Vnano-particleは、5体積%〜25体積%の範囲、好ましくは、7体積%〜20体積%の範囲に選択されている。
【0109】
その際、分散液中に含有される、金属ナノ粒子の体積比率Vnano-particleと、脂肪族モノカルボン酸の体積比率Vcarboxylateと(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの体積比率Vamineの和(Vcarboxylate+Vamine)の比、{Vnano-particle:(Vcarboxylate+Vamine)}は、1:1.0〜1:4.0の範囲、好ましくは、1:1.1〜1:3.0の範囲に選択することが望ましい。
【0110】
金属ナノ粒子分散液の塗布には、例えば、インクジェット印刷法が適用できる。インクジェット印刷法を利用する際、該金属ナノ粒子分散液の粘度は、5mPa・s〜30mPa・sの範囲(25℃)、好ましくは、7mPa・s〜30mPa・sの範囲に選択することが望ましい。
【0111】
また、金属ナノ粒子分散液の塗布に、スクリーン印刷法を利用することもできる。スクリーン印刷法を利用する際には、該金属ナノ粒子分散液の粘度は、50Pa・s〜200Pa・sの範囲(25℃)、好ましくは、60Pa・s〜180Pa・sの範囲に選択することが望ましい。
【0112】
本発明の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法を利用する場合、例えば、金属ナノ粒子の体積比率Vnano-particleが25体積%であり、スクリーン印刷法を利用する際、該金属ナノ粒子分散液の塗布膜の平均厚さは、5μm〜30μmの範囲、好ましくは、8μm〜25μmの範囲に選択することが望ましい。その際、作製される金属ナノ粒子の低温焼結体層の平均膜厚は、1.8μm〜11μmの範囲、好ましくは、2.9μm〜9.5μmの範囲に選択することが望ましい。
【実施例】
【0113】
以下に、実施例を示し、本発明をより具体的に説明する。これらの実施例は、本発明にかかる最良の実施形態の一例ではあるものの、本発明は、これら実施例に記載する実施形態に限定されるものではない。
【0114】
(実施例1)
本実施例1では、下記の銀ナノ粒子分散液を利用して、銀ナノ粒子焼結体層の形成を行っている。
【0115】
利用する銀ナノ粒子分散液は、市販のナノペースト:NPS−J(HPタイプ)である。その組成は、Ag:64.3質量%、ジブチルアミノプロピルアミン:5.8質量%、オレイン酸:5.0質量%、テトラデカン:24.9質量%である。
【0116】
該銀ナノ粒子分散液中に含有される銀ナノ粒子の平均粒子径は5nmである。銀ナノ粒子の表面被覆剤として、オレイン酸(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOH、分子量282.5、沸点:360℃)、ならびに、ジブチルアミノプロピルアミン((C4H9)2N(CH2)3NH2、分子量186.34、沸点:238℃)が使用されている。分散溶媒として、テトラデカン(沸点:253.57℃)を使用している。銀ナノ粒子の表面には、オレイン酸、ならびに、ジブチルアミノプロピルアミンからなる被覆剤分子層が形成されている。該被覆剤分子層は、銀ナノ粒子分散液を保管する際、銀ナノ粒子相互の凝集を防止するとともに、分散溶媒中に、銀ナノ粒子を分散させる分散剤の機能を有している。
【0117】
オレイン酸は、オレイン酸銀(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7COOAg(I))の形状で、銀ナノ粒子の金属表面に吸着している。一方、ジブチルアミノプロピルアミンは、そのアミノ基(−NH2)を利用して、銀ナノ粒子表面の銀原子に配位的な結合をしている。
【0118】
オレイン酸銀自体は、非極性炭化水素溶媒であるテトラデカンに対する溶解度は低い。しかし、オレイン酸銀中の炭化水素基(CH3(CH2)7CH=CH(CH2)7-)部分は、疎水性炭化水素基であるため、非極性炭化水素溶媒であるテトラデカンに対する親和性を有するので、該オレイン酸銀は、銀ナノ粒子の分散性を向上する機能を具えている。一方、ジブチルアミノプロピルアミンは、非極性炭化水素溶媒であるテトラデカンに対して、ある程度の溶解性を有している。また、ジブチルアミノプロピルアミン中、(C4H9)2N(CH2)3−部分は、非極性炭化水素溶媒であるテトラデカンに対する親和性を有するので、ジブチルアミノプロピルアミンも、銀ナノ粒子の分散性を向上する機能を具えている。
【0119】
金属銀の密度10.49g/cm3(20℃)、ジブチルアミノプロピルアミンの密度0.826g/cm3(20℃)、オレイン酸の密度0.895g/cm3(20℃)、テトラデカンの密度0.7645g/cm3(20℃)を用いると、該分散液の平均密度ρは、1.9g/cm3となっている。なお、分散液中、銀ナノ粒子の体積比率は、11.95体積%、ジブチルアミノプロピルアミンの体積比率は、13.68体積%、オレイン酸の体積比率は、10.89体積%、テトラデカンの体積比率は、63.48体積%に相当している。該銀ナノ粒子分散液の粘度は、9mPa・sであり、インクジェット法による微細な液滴の形成に適合する粘度となっている。
【0120】
上記銀ナノ粒子分散液を用いて、下記する条件で銀ナノ粒子の焼結体層を作製した。作製された銀ナノ粒子焼結体層の体積固有抵抗率の測定、ならびに、銀ナノ粒子焼結体層における銀ナノ粒子相互の凝集状態を評価した。
【0121】
[銀ナノ粒子焼結体層の作製条件]
基板として、スライドガラスを用い、その表面上に該銀ナノ粒子分散液を幅1cm、長さ5cm、平均塗布層厚さ10μmで塗布し、短冊状の塗布層を形成する。
【0122】
100℃に加熱し、10秒間、乾燥空気を表面から吹き付けつつ、酸化処理を行う。
【0123】
次いで、乾燥空気に代えて、メタノール蒸気/窒素ガスの混合気体を表面から吹き付けつつ、還元能を有するメタノール蒸気を含む雰囲気下で、100℃、2分50秒間保持して、還元処理を施す。
【0124】
前記酸化処理と還元処理のサイクル(10秒間+2分50秒間=3分間)を、計5回繰り返した後、メタノール蒸気/窒素ガスの混合気体を表面から吹き付けつつ、室温まで放置冷却する。
【0125】
なお、本実施例1で用いたメタノール蒸気/窒素ガスの混合気体中、メタノール蒸気の含有比率は、20体積%である。メタノール(沸点:64.65℃)を沸点に加熱し、発生するメタノールの蒸気を、キャリアガスの窒素ガスにより輸送し、温度100℃の混合気体として供給している。従って、該還元処理時、吹き付けられる混合気体中における、気体状のメタノールの分圧は、0.2気圧(0.2×1013hPa)に相当している。
【0126】
乾燥空気には、酸素分子を20体積%、窒素分子を80体積%含み、予め水分を除去したものを使用している。
【0127】
上記の加熱処理を施すことで、平均塗布層厚さ10μmの塗布層から、平均膜厚2μmの焼結体層が形成されていた。
【0128】
分散液中、銀ナノ粒子の体積比率は、11.95体積%に相当しており、作製された焼結体層中の金属銀の占める比率は、10μm×(11.95体積%)/2μm=59.8体積%と見積もられる。従って、金属銀の抵抗率1.59μΩ・cm(20℃)を考慮すると、作製された焼結体層の体積抵抗率は、通常、(1.59/0.598)μΩ・cm≒2.66μΩ・cm以上となる。
【0129】
[焼結体層の体積固有抵抗率測定]
作製された焼結体層について、シート抵抗を測定し、幅1cm、長さ5cmの平面形状、平均膜厚5μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を算定した。算定された体積固有抵抗率は、3.6μΩ・cmであった。
【0130】
[焼結体層における銀ナノ粒子相互の凝集状態評価]
作製された焼結体層について、その表面から容易に剥落する銀ナノ粒子の有無を観察し、銀ナノ粒子相互の凝集状態を評価する。具体的には、作製された焼結体層の表面を、ラテックス手袋をした指で擦る程度の摩擦を加えた際、剥落する銀ナノ粒子の有無を観察する。
【0131】
本実施例1の条件で作製された焼結体層においては、該摩擦処理によって、表面から剥落する銀ナノ粒子は見出されなかった。
【0132】
(実施例2〜実施例4)
実施例2〜実施例4では、実施例1に記載される銀ナノ粒子の分散液を用いて、短冊状の塗布層を形成し、その後の加熱処理における、加熱温度を、50℃、80℃、120℃に変更し、それ以外の条件は実施例1と同じに選択して、焼結体層の作製を行っている。
【0133】
なお、メタノールの平衡蒸気圧が、200mmHgとなる温度は、34.03℃であり、温度50℃において、気体状のメタノール分圧0.2atmは、メタノールの平衡蒸気圧よりも遥かに低い。従って、混合気体中に含まれる、分圧0.2atmの気体状のメタノールは、温度50℃においては、凝集(液化)することは無い。
【0134】
表1に、実施例1、ならびに実施例2〜4における焼結体層の作製条件、作製された焼結体層の評価結果を併せて示す。
【0135】
【表1】

【0136】
表1に示す結果を比較すると、作製された焼結体層において、剥落する銀ナノ粒子は無く、焼結が完了している。作製された焼結体層の抵抗率は、加熱温度を50℃から120℃に高くするに伴って、低下している。その際、加熱温度が100℃以上では、加熱温度を高くしても、抵抗率の低減は僅かとなっている。
【0137】
少なくとも、酸化処理と還元処理のサイクルを、酸化処理の時間10秒、還元処理の時間2分50秒に選択し、繰り返し回数を5回とする条件では、加熱温度が50℃〜120℃において、良好な導電性が達成されている。
【0138】
(実施例5、実施例6、参考例7)
実施例5、実施例6、参考例7では、実施例1に記載される銀ナノ粒子の分散液を用いて、短冊状の塗布層を形成し、その後の加熱処理における、加熱温度を100℃に設定し、酸化処理と還元処理のサイクルの繰り返し回数を、10回、3回、1回とし、それ以外の条件は実施例1と同じに選択して、焼結体層の作製を行っている。
【0139】
表2に、実施例1、ならびに実施例5、実施例6、参考例7における焼結体層の作製条件、作製された焼結体層の評価結果を併せて示す。
【0140】
【表2】

【0141】
表2に示す結果を比較すると、酸化処理と還元処理のサイクル繰り返し回数が1回では、焼結が不十分な部分が残余しているが、繰り返し回数が増すとともに、段階的に焼結が進行していることが判る。具体的に、作製された焼結体層の抵抗率は、繰り返し回数が増すとともに低下している。但し、繰り返し回数が5回以上となると、その後は、作製された焼結体層の抵抗率の低減が僅かとなっている。
【0142】
(実施例8、実施例9)
実施例8、実施例9では、実施例1に記載される銀ナノ粒子の分散液を用いて、短冊状の塗布層を形成し、その後の加熱処理において利用する、還元能を有する化合物を、メタノールに代えて、エタノール(CH3CH2OH、沸点:78.32℃)およびイソプロパノール((CH3)2CHOH、沸点:82.4℃)に変更して、それ以外の条件は実施例1と同じに選択して、焼結体層の作製を行っている。
【0143】
なお、温度100℃は、エタノールの沸点、イソプロパノールの沸点よりも高いので、混合気体中に含まれる、分圧0.2atmの気体状のエタノール、イソプロパノールの凝集(液化)は生じない。
【0144】
表3に、実施例1、ならびに実施例8、実施例9における焼結体層の作製条件、作製された焼結体層の評価結果を併せて示す。
【0145】
【表3】

【0146】
表3に示す結果を比較すると、加熱温度100℃、酸化処理と還元処理のサイクル繰り返し回数が5回の条件を採用する際、還元能を有する化合物として、メタノール、エタノール、イソプロパノールを利用することで、作製された焼結体層の抵抗率は、4μΩ・cm以下となっている。
【0147】
表3に示す様に、メタノールと同様に、エタノールおよびイソプロパノールを、還元能を有する化合物として用いた場合には、体積固有抵抗率が、3μΩ・cm台と良好な導電性が達成されている。利用される還元能を有する化合物の種類の広範な範囲において、酸化処理と還元処理を繰り返し実施することによる効果が同程度に達成できることが確認された。
【0148】
(比較例1)
実施例1で調製されるペースト状の分散液を用いて、短冊状の塗布層を形成し、その後の加熱処理において、酸化処理と還元処理の繰り返しに代えて、窒素雰囲気中で15分間加熱保持する処理に変更し、それ以外の条件は実施例1と同じに選択して、焼結処理を行った
平均塗布層厚さ10μmの塗布層から得られた焼結体層について、幅1cm、長さ5cmの平面形状、平均膜厚2μmを有する均一な薄膜層として、その体積固有抵抗率を測定した。測定された体積固有抵抗率は、2.3×102 μΩ・cmであった。
【産業上の利用可能性】
【0149】
本発明は、微細配線形成に適用可能な、良好な導電性を有する金属ナノ粒子焼結体層の形成に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属ナノ粒子分散液を利用して、金属ナノ粒子焼結体層を形成する方法であって、
前記金属ナノ粒子分散液は、平均粒子径が1nm〜100nmの範囲に選択されている金属ナノ粒子と、該金属ナノ粒子の表面に形成される被覆剤分子層を構成する被覆剤分子と、分散溶媒を含み、
前記金属ナノ粒子は、金、銀、白金、パラジウム、ニッケルからなる群から選択される1種以上の金属、またはその合金からなる金属ナノ粒子であり;
前記分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲の炭化水素溶媒からなる群から選択され;
沸点が140℃〜400℃の範囲の脂肪族モノカルボン酸(R−COOH)と、沸点が165℃〜250℃の範囲の(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)を組み合わせて、前記被覆剤分子として使用されており;
前記金属ナノ粒子分散液中に含有される、前記金属ナノ粒子の体積比率Vnano-particleは、5体積%〜25体積%の範囲に選択され;
前記脂肪族モノカルボン酸の分子数総和Ncarboxylateと、(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの分子数総和Namineの比(Ncarboxylate:Namine)は、1:1.1〜1:1.5の範囲に選択され;
前記脂肪族モノカルボン酸の体積比率Vcarboxylateと(ジアルキルアミノ)プロピルアミンの体積比率Vamineの和(Vcarboxylate+Vamine)と、前記分散溶媒の体積比率Vsolventの比{(Vcarboxylate+Vamine):Vsolvent}は、1:1.0〜1:10の範囲に選択されており、
金属ナノ粒子焼結体層を形成するプロセスは、
基材の表面に、前記金属ナノ粒子分散液を塗布し、所定の膜厚の塗布膜を形成する、塗布膜形成工程と、
前記金属ナノ粒子分散液の塗布膜を、50℃〜120℃の範囲に選択される温度Theatingに加熱し、前記塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結させる、低温焼結工程を含み;
前記低温焼結工程は、
不活性気体中に、10体積%〜25体積%の範囲に選択される体積比率Voxygenで酸素分子(O2)が混合されている酸素含有混合気体の気流中において、5秒間〜15秒間の範囲に選択される酸化処理時間t1、前記温度に加熱して、酸素分子を酸化剤として利用し、塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子の表面の酸化被膜を形成する、酸化処理サブステップと、
不活性気体中に、10体積%〜30体積%の範囲に選択される体積比率Vreducing-agentで、酸化によってオキソ基(>=O)またはホルミル基(−CHO)へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の蒸気が混合されている還元性混合気体の気流中において、120秒間〜300秒間の範囲に選択される還元処理時間t2、前記温度に加熱して、前記有機化合物を還元剤として利用し、塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子表面の酸化被膜を還元除去する、還元処理サブステップを具え、
前記酸化処理サブステップと還元処理サブステップを組み合わせた、酸化・還元処理ステップをn回(但し、nは、1以上の整数である)繰り返し、金属ナノ粒子の表面を覆う前記被覆剤分子層の除去を行い、
前記酸化・還元処理ステップをn回繰り返す加熱処理時間の合計、n×(t1+t2)を、375秒間〜3150秒間の範囲に選択することで、前記塗布膜中に含まれる金属ナノ粒子を低温焼結させ、金属ナノ粒子焼結体層を形成し;
前記酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物の沸点は、60℃〜120℃の範囲に選択される
ことを特徴とする、金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項2】
前記金属ナノ粒子は、平均粒子径が2nm〜50nmの範囲に選択されている金属ナノ粒子である
ことを特徴とする、請求項1に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項3】
前記分散溶媒は、沸点が180℃〜300℃の範囲の鎖式炭化水素溶媒からなる群から選択される
ことを特徴とする、請求項1または2に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項4】
沸点が140℃〜400℃の範囲の前記脂肪族モノカルボン酸は、総炭素数3〜20の範囲の脂肪族モノカルボン酸である
ことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項5】
沸点が165℃〜250℃の範囲の前記(ジアルキルアミノ)プロピルアミン(R1A2AN-CH2CH2CH2-NH2)中のアルキル基R1A、R2Aは、炭素数2〜4の範囲のアルキル基である
ことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項6】
前記酸化によってオキソ基またはホルミル基へと変換可能なアルコール性ヒドロキシル基(>CH−OH)を有する有機化合物は、炭素数1〜6の範囲のアルカノールである
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項7】
前記低温焼結工程における加熱温度を、80℃〜120℃の範囲に選択する
ことを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項8】
前記低温焼結工程における、酸化・還元処理ステップの繰り返し回数nを、3〜10回の範囲に選択する
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項9】
前記体積比率Vreducing-agentを、15体積%〜25体積%の範囲に選択する
ことを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項10】
前記体積比率Voxygenを、15体積%〜25体積%の範囲に選択する
ことを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項11】
前記低温焼結工程を終えた後、前記還元性混合気体の気流中において、前記温度Theatingから温度を降下させる温度降下工程を有する
ことを特徴とする、請求項1〜10のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。
【請求項12】
前記金属ナノ粒子は、銀ナノ粒子である
ことを特徴とする、請求項1〜11のいずれか一項に記載の金属ナノ粒子焼結体層の形成方法。

【公開番号】特開2012−140669(P2012−140669A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−293368(P2010−293368)
【出願日】平成22年12月28日(2010.12.28)
【出願人】(000233860)ハリマ化成株式会社 (167)
【Fターム(参考)】