説明

金属パターン及び有機電子デバイスとその製造方法

【課題】メタルマスクの作成、オーバーハング状ライン隔壁の形成、粘着フィルムによる剥離、などの工程に伴う種々の制約に捕われることなく、自由な形状にかつ高精度に有機デバイスの電極パターンを形成する。
【解決手段】有機電子材料からなる層に電圧を印加して機能させる有機電子デバイスを製造する方法において、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成し、この下地層の1,2−ジアリールエテンを所定パターン状に異性化反応させ、次いでこの下地層の上に電極材料を付与して、この所定パターンに対応した電極パターンを形成する。1,2−ジアリールエテンの異性化反応により、電極材料であるマグネシウム等の付着性に変化が生じ、また、異性化反応を起こすことで、当該部分の開環体分子と閉環体分子との比率がある値を超えた時に、マグネシウムの付着性と非不着性とに顕著な差が生じ、パターニングが可能になる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属パターンの製造方法及び金属パターン、並びに該金属パターンを用いた電極、電気回路に関する。本発明はまた、有機エレクトロルミネッセンス(以下、「有機EL」と記す)ディスプレイや薄膜トランジスタ(以下、「有機TFT」と記す)などの、有機材料を用いた様々な有機電子デバイスと、このような有機電子デバイスの製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、有機ELディスプレイなどに代表されるような、有機薄膜を電極ではさみ、電極間に電圧を印加することによって電流を注入し、発光、その他の機能を利用する有機電子デバイスの研究開発が活発に行われている。
【0003】
これらの有機電子デバイスのうち、有機ELディスプレイデバイスは、ガラス基板上に設けられたITOなどの透明導電体からなる第一電極と、この第一電極上に設けられたホール輸送層、電子輸送層、発光層などからなる多層構造の有機層と、この有機層上に設けられたAlやMgなどからなる第二電極とから構成されている。一般に、ディスプレイデバイスなどでは、各画素ごとに発光(色や強度)を制御する必要があるために、画素ごとに対応した電極パターンが形成される。例えば、ガラス基板上に予めITO陽極(第一電極)がパターン形成されたものが用いられ、必要に応じて各画素ごとに有機材料がメタルマスクを用いて蒸着法により塗りわけられる。第二電極についてもメタルマスクによってパターン形成されることもあるが、他の方法によっても形成することも可能である。
【0004】
例えば、特許文献1には、パッシブ型有機ELディスプレイの陰極パターン形成方法が開示されている。この特許文献1に開示される方法は、同特許文献1の図14で説明されている通り、予め基板上にオーバーハング状のライン隔壁を設け、有機層や陰極金属をその上から蒸着形成するものであり、隔壁のオーバーハングの効果により陰極がその蒸着時に隔壁により分離されて、ライン状陰極が自動的に形成されるというものである。しかしながらこの方法では、予め基板上に隔壁を設けておく必要があり、製造プロセスが煩雑になる上に、陰極のパターン自由度が小さいという問題点がある。
【0005】
また、特許文献2には有機層の上に陰極を全面蒸着形成した後に、所望のパターンに対応した粘着材を塗ったフィルムを貼り付けて剥離するという方法が開示されている。しかしながら、この方法では電極のみが常に所望のパターンに剥離されるとは限らず、粘着材によっては有機層もダメージを受ける恐れがあった。
【特許文献1】特開平8−315981号公報
【特許文献2】特開2004−79373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は上記従来の実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、メタルマスクの作成、オーバーハング状ライン隔壁の形成、粘着フィルムによる剥離、などの工程に伴う種々の制約に捕われることなく、自由な形状に、上記有機ELディスプレイデバイスを含む種々の有機電子デバイスの電極パターン等の金属パターンを形成する技術を与えることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討した結果、フォトクロミック分子材料の一種である1,2−ジアリールエテン(以下、「DAE」と略す。本発明において、DAEは置換基を有していても良く、以下において、置換基を有したものも含めて「DAE」と称す。)等の、光により物性変化する材料、即ち光感応性材料が、その異性化等の物性変化の状態に応じた顕著なマグネシウム等の金属に対する親和性を示し、従って、予めDAE等の光感応性材料の下地層を形成し、該DAE等の光感応性材料の下地層を所定のパターン状に異性化等の物性変化させることにより、極めて容易に電極パターン等の金属パターンを形成することができること、更に、DAE等の光感応性材料の下地層にキャリア輸送性材料を混在させることにより、優れたキャリア輸送性を兼ね備えるDAE等の光感応性材料の下地層とすることができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、本発明は、以下を要旨とするものである。
【0009】
(1) 基板上に金属パターンを製造する方法において、該基板上に、光により物性変化する材料(以下「光感応性材料」と称す。)を含む層を形成する工程と、該光感応性材料を含む層に光照射することにより該光感応性材料の物性変化のパターンを形成する工程と、該パターン上に金属を積層して金属パターンを形成する工程とを含むことを特徴とする金属パターンの製造方法。
【0010】
(2) (1)において、前記光感応性材料の光による物性変化が、異性化又は相変化であることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【0011】
(3) (2)において、前記光感応性材料が光により異性化する、置換基を有していても良い1,2−ジアリールエテンであることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【0012】
(4) (1)〜(3)のいずれかにおいて、前記金属が、マグネシウム、アルミニウム、カリウム及びリチウムよりなる群から選ばれるいずれかの金属であることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【0013】
(5) 基板上に形成された金属パターンであって、該金属パターンを形成する金属層と該基板との間に、光感応性材料を含む層を有することを特徴とする金属パターン。
【0014】
(6) (5)に記載の金属パターンを有する電極。
【0015】
(7) (5)に記載の金属パターンを有する電気回路。
【0016】
(8) (6)に記載の電極又は(7)に記載の電気回路を有する有機電子デバイス。
【0017】
(9) 第一電極及び第二電極と、これらの電極間に設けられた有機層とを有する有機電子デバイスであって、第一電極と有機層との間、及び/又は、第二電極と有機層との間に、異性化状態の異なるパターンが形成された、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層を有することを特徴とする有機電子デバイス。
【0018】
(10) 基板、第一電極、有機層及び第二電極を有する有機電子デバイスであって、基板と第一電極との間、第一電極と有機層との間、及び、第二電極と有機層との間のいずれか1以上に、異性化状態の異なるパターンが形成された、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層を有することを特徴とする有機電子デバイス。
【0019】
(11) (9)又は(10)において、第一電極及び/又は第二電極に、前記1,2−ジアリールエテンを含む層の異性化状態の異なるパターンに対応したパターンが含まれることを特徴とする有機電子デバイス。
【0020】
(12) (9)〜(11)のいずれか1項において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層が、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンとキャリア輸送性材料分子とが混在する層であることを特徴とする有機電子デバイス。
【0021】
(13) 有機電子材料からなる層に電圧を印加して機能させる有機電子デバイスを製造する方法において、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程と、該下地層の1,2−ジアリールエテンを所定パターン状に異性化反応させる工程と、次いで該下地層上に電極材料を付与して、前記所定パターンに対応した電極パターンを形成する工程とを有することを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。
【0022】
(14) (13)において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程が、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンとキャリア輸送性材料分子とが混在する下地層を形成する工程であることを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。
【0023】
(15) (13)又は(14)において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程と、該下地層の1,2−ジアリールエテンを所定パターン状に異性化反応させる工程との間に、デバイスを室温以上の温度でアニールする工程を有することを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、メタルマスクの作成、オーバーハング状ライン隔壁の形成、粘着フィルムによる剥離、などの工程に伴う種々の制約に捕われることなく、自由な形状にかつ高精度に有機デバイスの電極パターン等の金属パターンを形成することが可能とされる。
【0025】
本発明のより形成された金属パターンは、各種電子・電気機器の電極や電気回路、或いは有機EL素子、有機TFT素子、有機メモリ素子、半導体素子等の有機電子デバイスの電極や電気回路などとして用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下に本発明の実施の形態を詳細に説明するが、本発明は、以下の実施の形態の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0027】
[金属パターン形成の原理]
本発明の金属パターンの製造方法においては、光により物性変化する光感応性材料を含む層が表面に形成された基板に、所定のパターンで光照射することにより、その光照射パターンに従って該光感応性材料の物性を変化させ、該物性の変化により、金属の付着性ないし成膜性を制御し、金属パターンを自由な形状に形成する。
【0028】
光感応性材料の物性の変化により、金属の付着性ないし成膜性を制御するメカニズムは、後述の実験例でも示すように、金属を成膜すべき基板表面に到達した金属原子(主として工業的には蒸着により与えられることが多い)と基板表面との相互の分子運動の様態に基くものであり、
(1) 基板表面への金属原子の付着、堆積が進行し、結果として成膜がなされる
或いは
(2) 基板表面に金属原子が付着、堆積されることなく散逸していまい、結果として成膜がなされない
ことにより、金属の成膜性が制御される。
【0029】
即ち、金属が成膜される基板表面の状態が堅ければ、この表面に衝突して比較的大きなエネルギーを失った金属原子は余剰のエネルギーで基板表面上で動き回るが、その頻度と、後続してくる金属原子と接触する頻度が拮抗すると考えられる。そして、この金属原子は基板上で後続の金属原子と接触して結合し、塊を形成することにより、基板上で運動エネルギーを殆ど失って安定化し、この結果として基板上での金属の堆積、成膜が進行する。
【0030】
これに対して、基板表面が極端に軟らかいと、基板表面に到達した金属原子は基板との衝突でエネルギーを多少失うものの、その失うエネルギーは少なく、依然として高レベルのエネルギーを有し、このため活発に動き回る。後続の金属原子も同様に活発な状態であるため、金属原子同士の衝突の頻度にかかわらず、高いエネルギーを有する金属原子同士の接触で金属塊が形成される可能性は、上述の基板表面が堅い場合に比べて少ないと予想される。そして、この結果として、このような場合は、金属の成膜が進行しない。
【0031】
基板表面が軟らかいか堅いかを、このように分子運動の状態として考えると、基板表面の分子運動が活発であるかそうでないかにつながる。つまり、金属原子からみたときの基板表面での熱運動のレベルの大小である。基板表面が軟らかい場合、バルクの状態も含めて、基板の表面で金属原子が活発に動いており、基板表面の金属原子は、その活発さゆえに、互いに接触して結合することは殆どない。一方、基板表面が堅い場合は、金属原子は基板表面で安定に定着し、近傍の後続金属原子との間でクラスターを形成し、更に安定化される。
【0032】
このような金属原子の付着し易さ、堆積し易さを左右する基板表面の堅さや軟らかさ(以下、この物性を「基板の動的構造」と称す。)を決定する要素としては、基板材料のガラス転移温度(Tg)、基板表面の形態などがあるが、同じ材料であっても温度を変化させることにより、この動的構造の様態が変化することから、基板材料のガラス転移温度、基板表面の形態の他、基板表面の温度等によっても基板の動的構造を制御して金属の付着性ないし成膜性を制御することができると考えられる。
【0033】
本発明では、このように基板表面の動的構造と成膜される金属原子のクラスター形成性との精妙なバランスにより、金属の付着性ないし成膜性を制御する。この付着性ないし成膜性の制御には、その成膜操作や材料の選定においてパラメーターが存在する。これらパラメーターの最適化により、本発明によれば、後述のマグネシウム以外の金属、例えばアルミニウム、リチウム等の付着性ないし成膜性をも制御して、各種の金属パターンの形成を可能とする。
【0034】
代表的なパラメーターは、DAE等の光感応性材料含有層の材質、即ち、光感応性材料含有層の形成材料となるポリマー媒体、それに含浸させる物質、積層させる金属種、そしてそれらの間の適合性、温度、などである。
【0035】
積層する金属に対して、成膜条件のパラメーターを最適化し、最適化された条件下に基板の表面に光感応性材料含有層を形成して光照射した後金属を積層させることにより、金属原子の付着性ないし成膜性を制御して金属パターンを形成することが可能となる。
【0036】
以下に、本発明における金属パターンの形成原理を、光感応性材料として、光の照射により異性化するDAEを用いた場合を例示して説明するが、DAE以外の光感応性材料を用いた場合でも、上述の如く、同様に光照射による光感応性材料の物性変化で、金属の付着性ないし成膜性が変化することを利用してパターニングを行うことができる。
【0037】
DAEは、2つのアリール基が結合してエテン二重結合を含む環を形成した閉環状態と、これらのアリール基が離れた開環状態との2つの異性体を有するものであるが、このうち、開環状態のものはマグネシウムが付着せず、閉環状態のものはマグネシウムが付着する。本発明では、DAEのこの性質を利用して、例えば次のようにして電極のパターニングを行うことができる。
【0038】
即ち、予めそのデバイスの機能を発現するための有機層が形成された基板の該有機層上に、DAEを含む下地層を形成し、この下地層に所望のパターンに対応したパターンでレーザーなどの光を照射することによって、DAEの異性化状態部分を形成し、さらにその上に電極層を、例えばマグネシウムを蒸着することにより形成する。形成された下地層中のDAEが開環状態であり、異性化により閉環状態となった場合には、異性化状態(閉環状態)部分にマグネシウムが付着して当該パターンに対応した電極パターンを形成することができる。また、形成された下地層中のDAEが閉環状態であり、異性化により開環状態となった場合には、異性化状態(開環状態)部分以外にマグネシウムが付着して、当該パターンのネガパターンに対応した電極を形成することができる。このようにDAEの異性化パターンに対応したパターンで容易に電極パターンを形成することが可能となる。
【0039】
このようにDAEの異性化により電極のパターニングを行うことができるメカニズムの詳細は必ずしも明らかではないが、次のように推定される。即ち、DAEの異性化反応に伴う何らかの物性変化により、マグネシウムの付着性に変化が生じ、また、異性化反応を起こすことで、当該部分の開環体分子と閉環体分子との比率がある値を超えた時に、マグネシウムの付着性と非不着性とに顕著な差が生じ、パターニングが可能になるものと考えられる。DAEは、その1分子程度に相当する膜厚である1nmというような超薄膜でもこのような作用効果を得ることができ、さらにレーザーを集光して形成したミクロンオーダーの異性化パターンに対しても、それに対応した電極パターンを形成することができ、従って、本発明によれば、レーザー光の集光スポットに対応するような微細なパターンを含めて、所望の任意の形状の電極パターンをレーザー光の走査精度と同等の精度で高精度に形成することが可能となる。なお、フィルターの工夫をすれば、レーザー強度の大きな部分のみ光が実効的に働き、波長による制約以下のパターンもつくることができる。
【0040】
なお、DAEは、通常開環状態で無色のものが、閉環状態で着色する。従って、本発明によれば、DAEが閉環状態となり、マグネシウムの付着性を有する部分を色に対応するスペクトルにて確認することができるという利点も有する。
また、DAEは、有機電子デバイスの有機層や電極に何ら影響を及ぼすものではなく、DAE含有層を形成することにより、有機電子デバイスの機能が損なわれることもない。
【0041】
[光により物性変化する光感応性材料]
本発明に用いられる光により物性変化する光感応性材料は、その主旨を変えないかぎりDAEに限るものではない。
光による光感応性材料の物性変化には、光異性化、光相変化等が挙げられる。
【0042】
光により異性化する材料としては、上記のような物性変化を誘起するものであればよく、例えば、DAE、アゾベンゼン、スピロピラン、スピロオキサジンスピロナフトオキサジン、フルギドなどさまざまなフォトクロミック材料を用いることができる。
【0043】
また、光により相変化する材料としては、相変化型の光メモリ材料に用いられる無機材料で、光刺激により上記物性変化をもたらす材料であればよい。例えば、光照射により発生した熱により上記物性変化を付与することができるサーモクロミック材料を用いることが可能である。
【0044】
これらの光感応性材料は、蒸着法等のドライプロセスの他、キャスト法、スピンコート法、インクジェット法やその他の印刷法などのウェットプロセスによっても基板上に成膜することができる。
【0045】
基板上の光感応性材料を含む層は光感応性材料の1種又は2種以上のみを含むものであっても良く、光感応性材料と、必要に応じてポリスチレン、MEH−PPV(ポリ(2−メトキシ−5−(2’−エチルヘキシロキシ)−p−フェニレンビニレン)等のポリマー媒体の1種又は2種以上等を含むものであっても良い。
【0046】
[金属パターンの製造方法]
本発明の金属パターンの製造方法においては、基板上に光感応性材料を含む層を形成した後、この光感応性材料含有層に所定のパターンで光を照射して光感応性材料の物性を変化させ、この物性の変化による金属の付着性ないし成膜性の差を利用して、この光照射後の光感応性材料含有層上に金属を成膜する際に、金属パターンを形成する。
【0047】
即ち、光照射による光感応性材料の物性変化で金属の付着性ないし成膜性が高くなる場合には、光照射したパターンに従って金属が付着して金属パターンが形成される。逆に、光照射による光感応性材料の物性変化で金属の付着性ないし成膜性が低くなる場合には、光照射したパターン以外の部分に金属が付着して、光照射パターンに対してネガ型の金属パターンが形成される。
【0048】
本発明において、光感応性材料含有層を形成する基板としては特に制限はなく、ガラス、プラスチック、金属、セラミック、その他あらゆる材料を用いることができる。
【0049】
また、光感応性材料含有層は、このような基板上に光感応性材料含有層の付着性改善、その他機能性向上のための下地層を形成した後に形成しても良い。
【0050】
光感応性材料含有層は、用いる光感応性材料の種類や層内の光感応性材料濃度等に応じて、光照射によるパターン化が可能な程度の厚さに形成される。
【0051】
光感応性材料含有層への光照射条件にも特に制限はなく、光感応性材料含有層内の光感応性材料が金属パターンを形成可能な程度の明確な物性変化を起こす程度であれば良い。
【0052】
金属パターンの形成に用いられる金属としては、マグネシウム、アルミニウム、カリウム、リチウム、或いはこれらの1種又は2種以上を含む合金が挙げられるが何らこれに限定されるものではない。金属パターンはその用途に応じて、光照射により物性変化した光感応性材料含有層上に、蒸着等により所定の厚さに金属を堆積させることにより形成される。
【0053】
このようにして形成される金属パターンは、基板との間に、光感応性材料を有するものであり、電極、電気回路、特に有機電子デバイスの電極や電気回路として有用である。
【0054】
ただし、本発明の方法で製造した金属パターン及び該金属パターンを用いて作成した電極、電気回路、有機電子デバイスは、上述のように光感応性材料を含む層を有する場合もあるが、金属パターンを製造した後に、光感応性材料を含む層を適宜、転写、洗浄等により除去することも可能であり、この場合には、光感応性材料を含む層を有さないものとなる。
【0055】
[有機電子デバイス]
以下に、本発明の金属パターンの製造方法を、有機電子デバイスの製造に適用する場合を例示して、本発明を詳細に説明するが、本発明に係る金属パターンは、何ら有機電子デバイスに用いられるものに限定されるものではない。
【0056】
有機電子デバイスは、通常、第一電極、有機層及び第二電極をこの順で積層した構造であるか、或いは、更に第一電極側に基板を有する。
【0057】
また、本発明の有機電子デバイスは、さらに
基板と第一電極との間
第一電極と有機層との間

有機層と第二電極との間

のいずれか1以上に、置換基を有していても良い1,2−ジアリールエテン等の光感応性材料を含む層を有するものである。
【0058】
即ち、本発明の有機電子デバイスは、電極と隣接する部材との間にDAE等の光感応性材料を含む層を有する点が、従来の有機電子デバイスとは異なり、DAE等の光感応性材料を含む層以外の各部材の構成及びその形成方法については、従来の有機電子デバイスの構成及び形成方法を適用することができる。例えば、有機EL素子については、特開2004−362930号公報、特開2004−359671号公報、特開2004−331587号公報等に記載の構成を任意に選択して採用することができる。また、有機トランジスタについては特開2003−309268号公報、特開2004−103638号公報等に記載の構成を任意に選択して採用することができる。もちろん、これらの公報に記載の内容に限定されるものではないことは言うまでもない。
【0059】
ただし、第一電極、第二電極の形成方法については、真空蒸着法、スパッタリング法など有機層にダメージを与えないドライプロセスの範囲で任意に選ぶことができるが、本発明のDAE異性化等の光感応性材料の物性変化によるパターニングを適用する電極については、電極となる金属原子の付着時におけるDAE等の光感応性材料への低ダメージ性の理由により、真空蒸着を採用することが好ましい。
【0060】
なお、本発明の有機電子デバイスにおいて基板は必ずしも必要とされず、後述の如く、第一電極や有機層に十分な厚みと強度がある場合には、基板のない構成とすることもできる。
【0061】
〈光感応性材料含有層〉
以下に、本発明の有機電子デバイスの特徴部分である光感応性材料含有層について、DAE含有層についてを例示して説明するが、本発明に係る光感応性材料は何らDAEに限定されるものではない。
【0062】
(DAE)
本発明に係るDAE含有層を形成するDAEとしては、入江らの総説、「有機フォトクロミスムの化学」、学会出版センター、1996や、特開2005−082507号公報に掲載された化合物を用いることができるが、本発明は、上に述べたマグネシウム等の電極材料との選択的付着性が確認されたものであれば良く、何らこれらに限定されるものではない。
このような電極材料との選択的付着性を有する化合物であって、かつ優れた放射線感応性を有する化合物としては、例えば下記一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。中でも下記一般式(I)において、R及びRがアルコキシ基である化合物は、環境光による退色が少なく、好ましい。
【0063】
【化1】

[式中、R及びRは、それぞれ独立に、炭素数1〜4のアルキル基、又は炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。
及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、置換基を有していても良いフェニルエチニル基、又は下記一般式(A)で表される置換フェニル基を示す。
【化2】

(式中、Rは置換基を有していても良いアルコキシ基、置換基を有していても良いアラルキルオキシ基、置換基を有していても良いアルキルチオ基、置換基を有していても良いアルキル基、置換基を有しても良いフェノキシ基、置換基を有しても良いフェニル基、置換基を有していても良いアルキルアミノ基、又は置換基を有していても良いアリールアミノ基を示す。
,R,R10,R11は、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。但し、R〜R11として後述する各基のうち、隣接する基同士が結合し、置換基を有していても良い環を形成していても良い。)
及びRは、それぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。]
【0064】
以下に、上記一般式(I)で表される化合物について詳細に説明する。
一般式(I)において、R及びRは、それぞれ独立に、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基、又は、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、シクロプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、シクロブトキシ基等の炭素数1〜4のアルコキシ基を示す。中でも環境光による退色の問題がないアルコキシ基であることが好ましく、特にメトキシ基が好ましい。
【0065】
及びRは、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、置換基を有していても良いフェニルエチニル基、又は前記一般式(A)で表される置換フェニル基を示し、このうち、置換基を有しても良いナフチル基、置換基を有しても良いフェニルエチニル基、又は前記一般式(A)で示される置換フェニル基が好ましい。
【0066】
又はRが一般式(A)で示される場合、Rとしては、例えばメトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基等の、炭素数1〜10のアルコキシ基;ベンジルオキシ基、α−フェネチルオキシ基、β−フェネチルオキシ基等の、炭素数1〜7のアラルキルオキシ基;メチルチオ基、エチルチオ基、プロピルチオ基、ブチルチオ基、イソブチルチオ基、sec−ブチルチオ基、tert−ブチルチオ基等の、炭素数1〜10のアルキルチオ基;メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、シクロプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、シクロブチル基、ペンチル基、ヘキシル基等の、炭素数1〜10のアルキル基;フェノキシ基;フェニル基;メチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、メチルエチルアミノ基等の、炭素数1〜6のアルキル鎖部分を有するアルキルアミノ基;フェニルアミノ基、ジフェニルアミノ基等のアリールアミノ基;メチルフェニルアミノ基などのアルキルアリールアミノ基;などが挙げられる。
上記した各基は、いずれも置換基を有していてもよく、該置換基としては、前記一般式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り特に制限はないが、好ましくは、R9の例として前述した基及びハロゲン原子から選択される。
【0067】
としては前述した基の中でも電子供与性であるアルコキシ基、アラルキルオキシ基、アルキルチオ基、アルキル基、フェノキシ基、アルキルアミノ基、アリールアミノ基が好ましく、これらはいずれも置換されていても良い。Rはさらに好ましくは、アルコキシ基、アルキル基、置換基を有していても良いフェノキシ基、ジアルキルアミノ基又はジアリールアミノ基であり、特に好ましくはアルコキシ基である。
【0068】
,R,R10,R11はそれぞれ独立に、水素原子又は任意の置換基を表す。この任意の置換基は、前記一般式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り特に制限はないが、例えばRの例として前述した各基などが挙げられる。
なお、R〜R11の各基のうち、隣接する基同士、つまりRとR、RとR、RとR10、R10とR11がそれぞれ結合して、環を形成しても良く、該環は置換基を有していても良い。このような環を形成した場合、前記一般式(A)で表される置換フェニル基としては、例えば下記のものが挙げられる。
【0069】
【化3】

【0070】
上記例では記載を省略したが、R〜R11のうち隣接する基同士が結合してなる環は、前記一般式(I)で表される化合物の特性を損なわない限り、任意の置換基を有していても良く、該置換基としては、例えば(環を形成しない場合の)R〜R11として前述した各基が挙げられる。
〜R11についても、前記一般式(A)のp−位の置換基であるRと同様に、比較的電子供与性の基であることが好ましいため、R〜R11に相当する任意の置換基として好ましいものも、Rにおける好ましい基と同様の基、及びこれらが結合して形成する環が挙げられる。
【0071】
特に、R及びR11としては水素原子が好ましく、R及びR10としては、水素原子、アルコキシ基又はアルキル基が好ましい。
【0072】
及びRが、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、又は置換基を有していても良いフェニルエチニル基を表す場合、該置換基としては、前記一般式(I)で表される化合物の特性を損なわない限り、任意の置換基が挙げられ、具体的には、例えばRの例として挙げたものと同様の基が挙げられる。中でも、Rと同様に電子供与性の基が好ましいが、特に好ましくはアルコキシ基、アルキル基、又はジアルキルアミノ基である。
及びRが、それぞれ独立に、置換基を有していても良いナフチル基、置換基を有していても良いスチリル基、又は置換基を有していても良いフェニルエチニル基を表す場合、最も好ましくは、これらが無置換の場合である。
【0073】
及び/又はRが置換基を有していても良いナフチル基を示す場合、このナフチル基としては2−ナフチル基がより好ましい。
及びRとしては、熱安定性及び繰り返し耐久性の点からは、置換基を有していても良いナフチル基又は前記一般式(A)で表される置換フェニル基が好ましい。
【0074】
及びRは、それぞれ独立に、水素原子であるか、前記一般式(I)で表される化合物の性能を損なわない限り任意の置換基であって良いが、あまり嵩高い基ではない方が好ましいため、特に水素原子又はメチル基が好ましい。
【0075】
とR、RとR、RとRはそれぞれ同一でも異なっても良いが、同一の方が好ましい。
【0076】
前記一般式(I)で示される前記一般式(I)で表される化合物の、好ましい例としては下記のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0077】
【化4】

【0078】
【化5】

【0079】
【化6】

【0080】
【化7】

【0081】
【化8】

【0082】
【化9】

【0083】
【化10】

【0084】
【化11】

【0085】
【化12】

【0086】
本発明に係るDAE含有層には、このようなDAEの1種のみが含まれていても良く、2種以上のDAEが任意の組み合わせ、任意の配合比率で含まれていても良い。
【0087】
(キャリア輸送性材料)
本発明に係るDAE含有層は、DAEの異性化による、マグネシウム等の電極材料(通常、後述する金属材料)の蒸着選択性を有するが、DAE自体が優れたキャリア輸送性を示すとは限らない。このため、DAE含有層を設けることにより、電極のパターン形成が容易に行えても、電子注入輸送特性(キャリア輸送性)が低下するおそれがあり、この場合にはデバイスとしての特性が低下する。
そこで、本発明に係るDAE含有層には、キャリア輸送性を高める目的で、キャリア輸送性材料分子を混在させることが好ましい。DAEとキャリア輸送性材料分子を混在させることにより、電極材料の蒸着選択性と優れたキャリア輸送性の両方を兼ね備えた層とすることができる。
【0088】
キャリア輸送性材料としては、DAEの特性を阻害しないものであれば特に制限は無く、例えば、アルミニウムのキノリノール錯体であるAlq3(アルミナート−トリス−8−ヒドロキシキノラート)、α−NPB(N,N−ジ(ナフタレン−1−イル)−N,N’−ジフェニルベンジデン)、トリフェニルアミンなどの有機分子材料や、ポリビニルカルバゾール、MEH−PPV(ポリフェニレンビニレン)などのポリマー系キャリア輸送材料を始め、既知のものが1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いられる。
【0089】
(その他の成分)
本発明に係るDAE含有層には、DAEの性質を損なわない範囲で任意に他の有機分子材料や、ポリマーなどを加えても良い。例えば、膜性向上のためのバインダーを配合しても良い。バインダーとしては通常のポリマー材料であるポリスチレンなどが挙げられるが、前述のポリマー系キャリア輸送材料として既知のものもバインダーとして機能する。これらの他の成分は、1種を単独で、或いは2種以上を混合して用いられる。
【0090】
(DAE含有層中のDAE等の割合)
DAE含有層はDAEのみで構成されても良く、上述の如く、キャリア輸送性材料、その他の成分を含んでいても良い。
DAE含有層がDAE以外の他の成分を含む場合、DAE含有層中のDAEの割合が過度に少ないと、本発明の所期の目的を達成し得ないため、電極材料の蒸着選択性を維持する上では、DAE含有層に占めるDAEの割合が通常5重量%以上、好ましくは20重量%以上、更に好ましくは45重量%以上、特に好ましくは50重量%以上となるようにする。
【0091】
なお、DAE含有層中のDAEの割合は、DAE含有層のいずれの部分においても必ずしも同じである必要はなく、DAE含有層の成膜方法によって、厚さ方向に濃度分布が生じるものであっても良い。
【0092】
また、DAE含有層がキャリア輸送性材料を含む場合、DAE含有層中のキャリア輸送性材料の割合は、電極材料の蒸着選択性を維持した上で、十分なキャリア輸送性を発揮する割合とすることが必要である。具体的なキャリア輸送性材料の割合は、用いるキャリア輸送性材料のキャリア輸送性、DAE含有層に必要とされるキャリア輸送性等によって適宜決定されるが、キャリア輸送性材料分子を混在させることによるDAE含有層の電極材料の蒸着選択性の低下を防止した上で十分なキャリア輸送性を得るために、DAE含有層中のキャリア輸送性材料の割合は通常20重量%以上、好ましくは50重量%以上で、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下とすることが好ましい。
なお、キャリア輸送性材料分子を混在させる場合は、キャリア輸送性材料分子の割合を高めてキャリア輸送性を高めた上で、後述のアニール処理を施して、DAEによる蒸着選択性の発現性を高めることが好ましい。
【0093】
(成膜方法)
本発明に係るDAE含有層の成膜方法としては特に制限はなく、真空蒸着法、スパッタリング法等のドライプロセスを採用することができる。
【0094】
DAE含有層として、DAEとキャリア輸送性材料の混合層を成膜する方法としては、例えばDAEとキャリア輸送性材料の蒸着ソースを別々に準備して独立に加熱制御する2元蒸着法で行えるが、予め所定の濃度の単一混合ソースを準備して所定の膜厚が得られる量だけ蒸着ボートに投入し、急激に温度を上げて投入した分を蒸着する手法(フラッシュ蒸着)も利用できる。ただし単一混合ソースを用いる場合、通常DAEよりもキャリア輸送性材料の方が蒸気圧が低いので、先にDAEが蒸着され後からキャリア輸送性材料が付着し、その結果、表面がキャリア輸送性材料リッチな薄膜が形成され、この場合は、形成されたDAE含有層に十分なDAE蒸着選択性が得られない可能性がある。
【0095】
この様な場合には、DAE含有層成膜後、電極材料の蒸着前、特にDAE含有層の成膜後、異性化パターン形成前に、デバイスを、例えば室温より高い温度環境下で数時間程度アニールすることが好ましい。このようなアニール処理を行うことにより、DAE含有層中のDAEとキャリア輸送性材料分子の熱拡散による混合が適度に行われて、これらが均一に混在した薄膜とすることができる。
【0096】
このアニール処理温度は通常30℃以上、好ましくは45℃以上であり、通常120℃以下、好ましくは100℃以下である。アニール処理温度が低すぎると熱拡散による混合効果が十分で無く、反対にアニール処理温度が高過ぎるとDAE含有層やその下層に有機層を有する場合は当該有機層にダメージを与える恐れがあるので望ましくない。アニール処理時間は温度条件によって一概に決められないが、通常30分〜30時間程度である。一般に低めの温度の場合は時間を長く、高めの温度の場合は時間を短くすることが好ましく、処理温度(℃)と処理時間(時間)との積が1〜5℃・時間程度であることが好ましい。
【0097】
アニール処理は具体的には、有機層形成後のサンプルを所定温度に設定された恒温槽中に所定時間光が当たらないように保管することでなされるが、このような処理は乾燥窒素雰囲気中で行うことが望ましい。
【0098】
(膜厚)
本発明に係るDAE含有層の膜厚には特に制限はなく、DAE含有層がキャリア輸送性材料分子、その他の成分を含むか否かによっても異なるが、後述の実施例に示す如く、DAEのみで形成されるDAE含有層の場合、単分子層に相当する1nm程度であっても、本発明によるパターニングが可能である。ただし、膜厚が過度に薄いとDAE分子が全体を覆う層を形成し得ず、局所的にその下の層が表出することにより、この部分に電極材料が付着することとなる。従って、膜厚の下限としては1nm以上、好ましくは2nm以上である。膜厚の上限については、過度に厚いとDAEの不所望な性質、例えば低いキャリア輸送能力や低いガラス転移点を有する材料の場合、動作電圧上昇や高温に対する耐久性の劣化をもたらす可能性があるため、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、更に好ましくは20nm以下、特に好ましくは10nm以下とする。ただし、DAE自体が優れたキャリア輸送性や高いガラス転移点を有する場合は、このような膜厚の上限の制限はない。
【0099】
DAE含有層がキャリア輸送性材料分子、その他の成分を含む場合の膜厚は、これらの混在成分の含有量によっても異なるが、上記と同様な理由から、通常1nm以上、特に2nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは20nm以下、中でも特に好ましくは10nm以下とする。
【0100】
本発明の有機電子デバイスにおいて、DAEは、その異性化による開環状態と閉環状態との差異による電極材料の付着性の差を利用して電極のパターニングを行うために形成されるものである。従って、DAEは、電極と他の部材との間に介在して形成される。また、パターニングされた電極パターンに対応する部分に、閉環状態のDAEが存在する。
【0101】
[有機電子デバイスの製造方法]
以下に本発明の有機電子デバイスの製造方法についてその操作手順に従って説明する。
【0102】
なお、以下においては、基板上に常法に従って第一電極を形成した後、その上に有機層を形成し、この有機層上に形成する第二電極のパターニングのためにDAE含有層を形成して所定のパターン形状に第二電極を形成する場合を例示して本発明の方法を説明するが、本発明は何らこの方法に限らず、
(1) 基板上にDAE含有層を形成し、このDAE含有層について異性化パターンを形成した後、第一電極をこのパターンに倣って形成し、更に有機層及び第二電極を形成する方法
(2) 上記(1)の方法において、第二電極についても後述の如く、有機層上のDAE含有層の異性化パターン形成によりパターニングする方法
(3) 十分な厚みと強度を有する有機層の一方の面又は両面にDAE含有層を形成し、このDAE含有層の異性化パターン形成により、第一電極及び/又は第二電極をパターニングする方法
など様々な態様で電極のパターニングを行うことができる。
【0103】
〈第二電極のパターニング〉
[1]基板上に常法に従って第一電極を形成する。
【0104】
[2]第一電極上に所定の有機層を常法に従って形成する。
【0105】
[3]前述のDAEを含む下地層を形成する。
ここで、下地層は、真空蒸着法、スパッタリング法等により形成することが好ましいが、ドクターブレード法、キャスト法、スピンコート法、浸漬法などの湿式法により形成する場合、DAEを溶媒で希釈して塗布液を調製し、この塗布液を用いることが望ましい。この場合、溶媒の種類としては、有機層を侵さない溶媒であれば、特に限定されない。
ここで、DAE含有層に更にキャリア輸送性材料分子を混在させる場合、前述の如く、2元蒸着法等により、DAEと共にキャリア輸送性材料を成膜する。また、湿式法であれば、DAEと共にキャリア輸送性材料を溶媒に溶解して塗布液を調製して用いれば良い。
【0106】
このDAEを含む下地層は、DAEのみよりなる層の場合は、前述のように通常1nm以上、好ましくは2nm以上で、通常100nm以下、好ましくは50nm以下、特に10nm以下の厚さに形成される。また、DAEとキャリア輸送性材料分子、その他の成分が混在する下地層の場合は、前述のように、通常1nm以上、特に2nm以上で、通常200nm以下、好ましくは100nm以下、更に好ましくは50nm以下、特に好ましくは20nm以下、中でも特に好ましくは10nm以下の厚さに形成される。
【0107】
DAE含有層の成膜後は必要に応じて前述のアニール処理を施す。
【0108】
[4]下地層中のDAEを、所定のパターンに異性化反応を起こさせる。
この異性化反応を起こさせる方法としては、光の照射による方法が簡便であり、かつパターニング精度も高いことから好ましい。即ち、本発明で用いるDAEは、一般に、300〜430nm、中でも300〜400nmの波長領域の紫外光を照射されることにより、開環状態から閉環状態に異性化し、また、450〜600nm、中でも500〜600nmの光が照射されることにより、閉環状態から開環状態に異性化する。
従って、この性質を利用して、例えば、以下の(A)又は(B)のようにして下地層に所定のパターンでDAEの異性化を起こさせることが好ましい。
【0109】
(A)DAEを含む下地層に、300〜430nm、中でも300〜400nmの波長領域の紫外光を全面的に照射して、下地層のDAEを全面的に閉環状態とする。その後、450〜600nm、中でも500〜600nmの光をレーザースポット走査により、所定のパターンに照射して照射部分のDAEを閉環状態から開環状態に異性化する。これにより、DAEの閉環分子のマトリックス中に、所定のパターン形状でDAEの開環分子が存在する下地層が形成される。なお、下地層が全て閉環状態である場合には、最初の全面照射工程は省略することができる。
【0110】
(B)DAEを含む下地層に、450〜600nm、中でも500〜600nmの波長領域の光を全面的に照射して、下地層のDAEを全面的に開環状態する。その後、300〜430nm、中でも300〜400nmの紫外光をレーザースポット走査により、所定のパターンに照射して照射部分のDAEを開環状態から閉環状態に異性化する。これにより、DAEの開環分子のマトリックス中に、所定のパターン形状でDAEの閉環分子が存在する下地層が形成される。なお、下地層が全て開環状態である場合には、最初の全面照射工程は省略することができる。
【0111】
[5]上述の如く、所定のパターンに従って、DAEの異性化反応をさせた下地層上に第二電極を形成する。
この第二電極は真空蒸着法により形成することが好ましい。
第二電極の構成材料としては特に制限はないが、DAEの異性化により付着性に差異が生じるものが好ましく用いられ、例えば、マグネシウム、アルミニウム、カルシウム、リチウム等の金属の1種又は2種以上が挙げられる。
【0112】
この第二電極の膜厚には特に制限はなく、当該有機電子デバイスの用途において要求される電極性能を十分に発揮し得る程度であれば良いが、通常50nm以上、通常100nm以下である。
【0113】
このように異性化パターンが形成された下地層上に電極材料を蒸着することにより、下地層のDAEが閉環状態となった部分に選択的に電極材料が付着し、DAEが開環状態の部分には電極材料が付着しなことにより、第二電極を所定のパターンに形成することが可能となる。
【0114】
即ち、前述の(A)の方法でレーザースポット走査により所定のパターンにDAEの開環分子を形成したものにあっては、この所定のパターン部分が電極材料の未蒸着部分となり、その他のマトリックス部分に、第二電極が形成される。また、前述の(B)の方法でレーザースポット走査により所定のパターンにDAEの閉環分子を形成したものにあっては、この所定のパターン部分が電極材料の蒸着部分となり、この部分に第二電極が形成される。
【0115】
このような本発明の方法によれば、幅450nm以下、例えば260〜450nmというような極細の電極のパターニングも、高精度に行うことができる。即ち、一般にレーザー光のスポットは、直径600nm以下、例えば260〜450nmというような極めて小さいスポットに絞ることができる。従って、このような小さいレーザースポットを走査することにより、このスポット径に応じた幅でレーザー光を照射することができる。
【0116】
一方、DAEは、開環状態で電極材料が付着せず、閉環状態で電極材料が付着するが、後述の実験例1,2に示すように、下地層の光照射部分のDAEが100%閉環状態になっていなくても、DAEの種類に応じて例えば50%以上が閉環状態であっても電極材料が付着する。従って、例えば、レーザー光が直接光照射されることにより閉環状態となった部分と、その近傍において、レーザー光の影響を受けて一部閉環状態となった部分を含めて、レーザー光のスポット径は、更にフィルターを工夫するなどすれば調節可能である。例えば、レーザー強度の強いところだけのスポットが可能となり、レーザー光のスポット以下の幅にDAEの閉環分子部を形成することができる。このため、この部分に電極材料を付着させて、幅400nm以下の極細パターンを形成することが可能となる。
【0117】
なお、上記の光照射は、レーザースポットの走査によるものに限られず、光遮断マスクを用いても良く、マスクとスポット走査とを併用しても良い。
また、本発明において、電極のパターニングは、上述のようなDAEの異性化のみを利用する方法に限らず、別途メタルマスク等の他のパターニング手段を併用し、より一層高精度で効率的なパターニングを行うことも可能である。
【0118】
上述のようにして、基板上に第一電極、有機層及び第二電極を形成して本発明の有機電子デバイスを製造することができる。
【実施例】
【0119】
以下に実験例及び実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。
【0120】
[DAEの電極パターニング機能を示す実験例と実施例]
実験例1
下記構造式で表されるDAEを用いて、真空蒸着法によってスライドガラス基板上に膜厚100nmでDAE薄膜を形成した。
【0121】
【化13】

【0122】
次に、このDAE薄膜に波長365nmの紫外光をその照射量を部分的に変えて照射して、同一のDAE薄膜に5段階の異性化状態を形成した。即ち、
状態0=全DAE分子が開環状態
状態1=全DAE分子の約20%が閉環状態(約80%が開環状態)
状態2=全DAE分子の約50%が閉環状態
状態3=全DAE分子の約80%が閉環状態
状態4=全DAE分子のほぼ100%が閉環状態
とした。このとき、DAEは閉環状態となることにより着色することから、異性化状態の程度によって、DAE薄膜は部分的に異なる程度に着色した。
【0123】
次に、このDAE薄膜上にマグネシウムを厚さ100nmに真空蒸着することよって、マグネシウムの付着状況を調べた。
その結果、図1に示す様に、閉環分子が50%以下(状態1,2)ではマグネシウムの付着が見られなかったが、80%以上(状態3,4)ではマグネシウムが付着することが分かった。
なお、図1には閉環分子比率を調べるための各状態における吸収スペクトルも併せて示してある。
【0124】
実験例2
実験例1において、DAEとして、下記構造式で表されるものを用いたこと以外は同様にして、マグネシウムの付着状況を調べる実験を行った。
【0125】
【化14】

【0126】
その結果、このDAEも、閉環状態でマグネシウム付着性を示し、開環状態でマグネシウムの非付着性を示すが、その程度は実験例1で用いたDAEと異なり、閉環分子が全分子の50%であってもマグネシウムが付着した。
【0127】
これらの結果から、DAEはその異性化状態により、マグネシウムの選択的付着性を示すが、マグネシウム付着性を示す閉環体比率は絶対的なものではなく、個々のDAEにより異なることが分かる。
【0128】
実験例3
図2(a)〜(d)に示す手順でDAE薄膜へのマグネシウムの付着実験を行った。まず、実験例1と同様にしてガラス基板1に膜厚50nmのDAE薄膜2を形成した(図2(a))。
【0129】
このDAE薄膜2に波長365nmの紫外光3を全面的に照射して全面着色状態(閉環状態)とし(図2(b))、次に波長650nmの赤色レーザー(パワー1mW)4を直径10μm程度のスポットでこのDAE薄膜2面上をライン状に走査して消色させ、異性化パターン5を形成した(図2(c))。即ち、閉環体分子中に開環体分子のラインを形成した。その後、このDAE薄膜2上にマグネシウムを厚さ100nmに真空蒸着した後(図2(d))、顕微鏡によって観察したところ、図3に示す如く、異性化パターン(開環体分子のライン)に対応したマグネシウム未蒸着ライン(約15μm幅)が形成されている様子が観察された。
【0130】
なお、上記マグネシウムの付着実験を、DAEの1分子層レベルである1nmの膜厚のDAE薄膜に対して行ったところ、このような1分子層レベルの膜厚のDAE薄膜においても同様にマグネシウム付着の選択性があることが確認された。
【0131】
実施例1
典型的な有機電子デバイスである有機EL素子に、本発明を適用してマグネシウム陰極を形成した。
【0132】
ITO基板上にホール注入層として銅フタロシアニン層を膜厚2nmに形成し、その上にホール輸送層としてα−NPB層を膜厚30nmに形成し、更にその上に発光層兼電子輸送層としてアルミニウムキノリノール錯体Alq3層を膜厚30nmで形成した。そしてこのAlq3層上に実験例1で用いたDAEの薄膜を膜厚1nmに蒸着してDAE薄膜を形成した。その後、実験例3と同様にして、このDAE薄膜に紫外線を10分間全面照射してDAE含有層を閉環状態とした後、波長650nmの赤色レーザーのスポット走査により、幅15μmの開環状態のパターンを直線状及びジグザグ状に形成した。その後、DAE薄膜上にマグネシウムを厚さ100nmに真空蒸着して顕微鏡観察したところ、レーザーで走査して異性化反応させたパターンに対応したマグネシウム未蒸着パターンが形成され、それ以外の部分にマグネシウムが蒸着されたことが確認された。
【0133】
次に、基板のITOを陽極、形成したマグネシウム蒸着膜を陰極として、両極間に電圧を印加して電流注入を行い、ITO側から発光の様子を観察した所、赤色レーザーの走査パターンに対応して未発光パターンが形成されていることが確認された。
【0134】
なお、本実施例では、マグネシウム未付着パターンを赤色レーザー走査によって形成したが、紫外光レーザーの走査により着色(開環体から閉環体への異性化)ラインを形成し、この走査パターンに倣う形状のマグネシウム付着パターンにより、同様に有機EL素子の電極のパターニングを行うこともできた。
【0135】
[DAEにキャリア輸送性材料を併用した場合のキャリア輸送性向上効果を示す実験例]
実験例4
実験例1で用いたDAEのキャリア輸送性を評価するために、以下のような実験を行った。
アセトン及びUVオゾン洗浄が行われたITO基板に対して、ホール輸送材料であるα−NPB、及び代表的電子輸送材料であるAlq3をそれぞれ真空蒸着により膜厚100nmに成膜した。次に、これらの試料の上にDAEを膜厚1nmに真空蒸着したものとしていないもの、計4試料を準備した。即ち、下記のサンプル1〜4である。サンプル1,3については、DAEを紫外線照射により着色状態とした上で、すべてのサンプル上に膜厚200nmのマグネシウム電極を蒸着形成した。
サンプル1:ITO基板/α−NPB層/DAE含有層
サンプル2:ITO基板/α−NPB層
サンプル3:ITO基板/Alq3層/DAE含有層
サンプル4:ITO基板/Alq3層
【0136】
まず、α−NPBサンプル1,2について、ITO側を陽極、マグネシウム側を陰極として電圧電流特性を調べた。α−NPBは電子輸送性よりもホール輸送性が非常に優れており、流れている電流は殆どがホールによるものと考えられる。その結果、図4に示すように、DAE含有層の有無によらずほぼ同じ電圧電流特性が得られた。これはDAE含有層がホール伝導に影響を与えていないことを示すものである。
【0137】
次に、Alq3サンプル3,4について同様に電圧電流特性を調べたところ、図5に示すようにDAE含有層有りのサンプル3では、無しのサンプル4に比べて大幅に電流量が低下した。Alq3は電子輸送性がホール輸送性よりも非常に優れているので、流れる電流は殆どが電子によるものと考えることが出来るので、この実験結果は、DAE含有層の存在によって陰極側からの電子注入輸送特性が大幅に低下していることを表している。
【0138】
実験例5
DAE含有層を設けることにより、陰極のパターン形成が容易に行えても、電子注入輸送特性が低下してはデバイスとしての特性が低下する恐れがある。そこで、次に、DAEとキャリア輸送性材料の混存層を形成した場合の電極金属の蒸着選択性と電子注入輸送特性について調べた。
【0139】
DAE濃度75重量%、50重量%、25重量%、10重量%、5重量%としたDAE/Alq3混合一元蒸着ソースを準備し、ガラス基板上に膜形成(膜厚3nm)して、DAE濃度が異なる下記のサンプル5〜9を作製した。
サンプル5:DAE濃度75重量%
サンプル6:DAE濃度50重量%
サンプル7:DAE濃度25重量%
サンプル8:DAE濃度10重量%
サンプル9:DAE濃度 5重量%
【0140】
その直後(アニール処理無し)に各サンプルのDAE含有層上にマグネシウムを蒸着した。このときDAEは消色状態であり、DAEの蒸着選択機能が現れればマグネシウムは付着し得ない。
この結果、DAE濃度50重量%以上のサンプル5,6だけに蒸着選択性が現れることがわかった。
【0141】
次に、上記と同様の条件で膜形成した各試料を、恒温槽中で遮光状態において50℃の環境下で2時間アニール処理を行った後に同様にマグネシウムを蒸着したところ、DAE濃度25重量%以上のサンプル5〜7について蒸着選択性が現れ、アニール処理を行わない場合よりも低いDAE濃度でマグネシウムの蒸着選択性が現れることが確認された。
【0142】
このような結果が得られた原因は、前述の通りAlq3が混在することでDAEの蒸着選択性が低下するが、アニール処理を施すことにより、Alq3とDAEとが熱拡散により均一混合され、この結果、DAE濃度が低くてもDAEによる蒸着選択性を発現させることができたことによる。
電子輸送性を考慮すると出来るだけ低いDAE濃度で蒸着選択性が現れる方がデバイスとしての特性は向上すると考えられるので、このようにアニール処理を施すことが望ましいといえる。
【0143】
本実験例による蒸着選択性の有(○)、無(×)を下記表1にまとめて示す。
【0144】
【表1】

【0145】
なお、本実験例のアニール処理条件は、一例であるが、過度に高い温度で処理を行うと、前述の如く、有機層自体にダメージを与える恐れがあるので望ましくない。やや高めの室温程度である30℃でのアニール処理では、24時間程度で上記と同等の効果が得られることが確認された。
【0146】
実験例6
次に、DAEとAlq3の混存層の電子物性を評価した。
実験例4と同様に、ITO基板上にAlq3を膜厚100nmで形成し、その上にDAE濃度25重量%の1元蒸着ソースを用いてDAE濃度25重量%の混存層を膜厚2nmで形成した。次いで、50℃で2時間アニール後、紫外線照射によりDAEを着色状態としてからマグネシウム電極を蒸着してサンプル10とした。
【0147】
このサンプル10について、ITO側を陽極、マグネシウム側を陰極として電圧電流特性を調べたところ、図5のサンプル10のプロットで示されるように、実験例4のサンプル4(Alq3単層のみDAE含有層無し)に匹敵する電流が流れることが確認できた。この結果は、この構成・製造プロセスにより、蒸着選択性による微細電極パターンを有し、かつ優れた電子注入輸送特性を有する有機電子デバイスが実現できることを示している。
【0148】
なお、本発明は有機ELデバイスに制限されることはなく、有機TFTや有機メモリ素子など様々な有機電子デバイスに適用可能であることは明らかである。また、用いるDAE、キャリア輸送性材料分子についても、ここに挙げた例以外のものを同様に適用可能であることも明らかである。
【0149】
[基板表面温度又はガラス転移温度(Tg)と金属の付着性との関係を調べる実験例]
実験例7
真空蒸着により成膜した、下記構造式で表されるMTDATA(トリフェニルアミンを基本にした星型(スターバスト)分子はスターバストアミン)(Tg=76℃)とα−NPB(Tg=95℃)アモルファス膜について、それぞれ表面温度を表2の通り変えて、マグネシウムを真空蒸着し、マグネシウムが付着するか否かを調べ、結果を表2に示した。
【0150】
【化15】

【0151】
【表2】

【0152】
実験例8
基板材料のTgが、マグネシウムの付着性にいかなる影響を与えるのかを調べるために、Tgの異なる表3の材料に対して、マグネシウムを真空蒸着し、マグネシウムが付着するか否かを調べ結果を表3に示した。
【0153】
【表3】

【0154】
以上の結果から、マグネシウムは、同じ材料でも表面温度が低い程金属原子の運動が不活発であるため付着し易く、表面温度が高いと金属原子の運動が活発になるため付着し易く、また、Tgの異なる材料では、Tgの高い材料ほど付着し易く、Tgの低い材料ほど付着し難いことが分かる。
【0155】
実験例9
基板材料のTgが、マグネシウム以外の他の金属であるアルミニウムの付着性にいかなる影響を与えるのかを調べるために、表4の材料に対してアルミニウムを真空蒸着し、アルミニウムが付着するか否かを調べ、結果を表4に示した。
【0156】
【表4】

【0157】
この結果から、アルミニウムはTgの非常に高いガラスには十分に付着するが、Tgの低い、常温では非常に軟らかい、従って基板表面での金属原子のエネルギーが高く、運動が活発である基板表面には、マグネシウムのシリコンゴムに対する付着性に比較するとやや多いものの殆ど付着(積層)しないことが明らかになった。
【0158】
これらの結果から、種々の金属について、基板の適合性を最適化すれば、その付着性ないし成膜性の制御が可能であることが分かる。
【0159】
実験例10
代表的ポリマーの一種であるポリスチレン(スチレンポリマー)、又は代表的高分子系有機電子材料であるMEH−PPV(American Dye Source,Inc製ADS100RE)に、実験例1で用いたと同様のDAEを表5に示す種々の濃度で混合し、これをシクロヘキサノン溶媒に溶解して、キャスト法によりガラス基板上に厚さ0.5μmで膜形成したサンプルを準備した。次に、このサンプルに紫外光(波長365nm)を充分に照射して着色状態(開環分子)とした後、赤色レーザー光を集光して走査することで幅5μmの消色ライン(閉環分子)を形成した。このサンプルに対してマスクを用いずにマグネシウムを真空蒸着し、マグネシウムの選択的蒸着現象が生じるかどうかを調べた。結果を表5に示す。
【0160】
表5中、○印が選択的蒸着現象が現れ消色ラインに対応した幅5μmのマグネシウム未付着ラインが形成されたものを示し、×印は選択的蒸着現象が現れず、マグネシウムが全面的に付着したものを示す。
表5より、スチレンポリマーではDAE5%重量で、MEH−PPVではDAE10重量%で選択的蒸着現象が現れることが判明した。
他の種々のポリマーに対しても調べてみたところ、DAE1〜30重量%、さらにそれよりも高い濃度でこの様な現象が現れはじめることが判った。
【0161】
次に、上記と同様にして作製したサンプルを着色させずにDAEが消色体のまま、波長405nmのバイオレットレーザーにより同様に幅5μmの着色ラインを形成した。このDAEは波長405nmでの吸収は非常に小さいが、着色感度(着色反応の量子収率)が高いため、バイオレットレーザー照射により異性化反応を起こすことが可能である。
このサンプルにマスクを用いずにマグネシウムの真空蒸着を行ったところ、上記消色ラインの形成の場合と同様に、スチレンポリマーではDAE5重量%以上で、MEH−PPVではDAE10重量%以上で対応する幅5μmのマグネシウムラインが形成されることが確認できた。
従って、ポリマー材料中のDAEであっても、消色によるパターン形成、着色によるパターン形成のどちらでも、対応するマグネシウムパターンの形成が可能であることが確認された。
【0162】
【表5】

【0163】
この結果は、ポリスチレンは有機電子材料として用いられず、電気伝導性は無いが、例えば電子デバイス周辺の電気絶縁体として用いたとき、レーザー走査による異性化反応とその後のマスクレス蒸着により任意の微小な電気配線パターンが簡単に形成可能であることを示している。さらに、MEH−PPVは電子輸送性材料であるが、DAEを10重量%程度ドープしてもその電子輸送性は変化しないことが判明した。これはポリマー系の有機電子デバイスの陰極としてもこの方法が使用できることを示している。
【0164】
以上述べたようにDAEの異性化反応を用いたこの選択的蒸着法は、有機EL、有機TFTや有機メモリなどの様々な有機電子デバイスの電極パターン・配線パターン形成に用いることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0165】
【図1】図1(a)は実験例1におけるDAEの異性化状態とマグネシウムの付着状態を示す写真であり、図1(b)は同DEAの閉環分子比率を示す吸収スペクトルである。
【図2】実験例3における実験方法を示す説明図である。
【図3】実験例3におけるマグネシウムの未蒸着ラインを示す顕微鏡写真である。
【図4】実験例4におけるサンプル1,2の電圧電流特性を示すグラフである。
【図5】実験例4におけるサンプル3,4と、実験例6におけるサンプル10の電圧電流特性を示すグラフである。
【符号の説明】
【0166】
1 基板
2 DAE薄膜
3 紫外光
4 赤色レーザー
5 異性化パターン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に金属パターンを製造する方法において、該基板上に、光により物性変化する材料(以下「光感応性材料」と称す。)を含む層を形成する工程と、該光感応性材料を含む層に光照射することにより該光感応性材料の物性変化のパターンを形成する工程と、該パターン上に金属を積層して金属パターンを形成する工程とを含むことを特徴とする金属パターンの製造方法。
【請求項2】
請求項1において、前記光感応性材料の光による物性変化が、異性化又は相変化であることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【請求項3】
請求項2において、前記光感応性材料が光により異性化する、置換基を有していても良い1,2−ジアリールエテンであることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記金属が、マグネシウム、アルミニウム、カリウム及びリチウムよりなる群から選ばれるいずれかの金属であることを特徴とする金属パターンの製造方法。
【請求項5】
基板上に形成された金属パターンであって、該金属パターンを形成する金属層と該基板との間に、光感応性材料を含む層を有することを特徴とする金属パターン。
【請求項6】
請求項5に記載の金属パターンを有する電極。
【請求項7】
請求項5に記載の金属パターンを有する電気回路。
【請求項8】
請求項6に記載の電極又は請求項7に記載の電気回路を有する有機電子デバイス。
【請求項9】
第一電極及び第二電極と、これらの電極間に設けられた有機層とを有する有機電子デバイスであって、第一電極と有機層との間、及び/又は、第二電極と有機層との間に、異性化状態の異なるパターンが形成された、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層を有することを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項10】
基板、第一電極、有機層及び第二電極を有する有機電子デバイスであって、基板と第一電極との間、第一電極と有機層との間、及び、第二電極と有機層との間のいずれか1以上に、異性化状態の異なるパターンが形成された、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層を有することを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項11】
請求項9又は10において、第一電極及び/又は第二電極に、前記1,2−ジアリールエテンを含む層の異性化状態の異なるパターンに対応したパターンが含まれることを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む層が、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンとキャリア輸送性材料分子とが混在する層であることを特徴とする有機電子デバイス。
【請求項13】
有機電子材料からなる層に電圧を印加して機能させる有機電子デバイスを製造する方法において、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程と、該下地層の1,2−ジアリールエテンを所定パターン状に異性化反応させる工程と、次いで該下地層上に電極材料を付与して、前記所定パターンに対応した電極パターンを形成する工程とを有することを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。
【請求項14】
請求項13において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程が、置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンとキャリア輸送性材料分子とが混在する下地層を形成する工程であることを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。
【請求項15】
請求項13又は14において、前記置換基を有しても良い1,2−ジアリールエテンを含む下地層を形成する工程と、該下地層の1,2−ジアリールエテンを所定パターン状に異性化反応させる工程との間に、デバイスを室温以上の温度でアニールする工程を有することを特徴とする有機電子デバイスの製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−188854(P2007−188854A)
【公開日】平成19年7月26日(2007.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−55090(P2006−55090)
【出願日】平成18年3月1日(2006.3.1)
【出願人】(304025138)国立大学法人 大阪教育大学 (13)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】