説明

金属ミラーの表面の改質方法

【課題】本発明は、金属ミラーの表面におけるレーザ光の光反射率を向上させて、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることの可能な金属ミラーの表面の改質方法を提供することを課題とする。
【解決手段】光透過性反応用容器21を囲むように配置され、かつ光化学反応に用いるレーザ光を反射する金属ミラー19の表面19aの改質方法であって、金属ミラー19の表面19aに、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射して、金属ミラー19の表面19aをアニーリングするアニーリング工程を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、レーザ光を用いた光化学反応装置に使用する金属ミラーの表面の改質方法に関する。
【背景技術】
【0002】
レーザ光を用いる光化学反応装置は、大別して2種類ある。1つは光化学反応セルと呼ばれる光化学反応容器にレーザ光を1度だけ通過させるone−pass方式であり、もう1つはレーザ光を複数回反射させる多重反射(multi−reflection)方式である。
【0003】
多重反射方式は、反射ミラーを設置し、位置決めなど光学的に複雑かつ精密さを必要とするが、レーザ光を光化学反応に効率よく利用できる。ガス分析用の市販の多重反射セル(例えば、Whitecell;Whiteは人名)では、光路長が200〜300mのものがあり、200〜300回反射させている。
この場合の光吸収は、下記(1)式に示すようにLambert−Beerの法則で表される。
【数1】

上記(1)式において、Iは初期光量[W]、I(z)は光路長z[cm]における光量[W]、σは光吸収断面積[cm/molecule]、Nは分子密度[molecules/cm]を示している。上記(1)式では、光路長zが大きいほど光吸収が大きくなる。
【0004】
また、光利用率ηは、下記(2)式で表され(但し、σNz≪1の場合)、光路長zに比例して大きい。
【数2】

【0005】
特許文献1,2には、酸素同位体である17Oや18Oを含むオゾン分子にレーザ光を照射し、オゾン分子を選択的に分解して17Oや18Oを濃縮する方法が開示されている。
この場合、オゾンのwulf band(近赤外領域700〜1200nm)における比較的吸収が大きい波長での光吸収断面積σは、10−23cm/moleculeという小さな値(水の光吸収断面積より約4桁小さい)であり、光化学反応セルの光路長としては1000m以上が望まれる。
したがって、上記光吸収断面積が小さい光化学反応を行う場合、光化学反応セルは多重反射方式が有利である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特許第4364529号公報
【特許文献2】特開2006−272090号公報
【特許文献3】特開平5−137965号公報
【特許文献4】特開平7−7−265669号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、多重反射方式の光化学反応セルについて考えると、ミラーの反射率が0.90程度では、反射を10回(5往復)させると、最終光強度は0.9010=0.35であり、ミラーにおける光損失は65%となることから、光の利用効率をあまり大きくできないという問題がある。
【0008】
例えば、室温(例えば、20℃)において、波長1000nmにおける金(gold)ミラーの反射率は、0.98であり、室温では大きな反射回数をとれない(反射回数50回での最終光強度は、0.9850=0.36)。
また、反射回数が1000回以上でも光損失が小さいようにするためには、反射率は0.999以上を必要とする(この場合の最終光強度は、0.9991000=0.37)。例えば、反射率が0.9999で反射回数を10000回とした場合、最終光強度は0.999910000=0.37となり、1回反射するまでの平均光路長を1mとすると、全光路長は10000m以上となる。
【0009】
誘電体多層膜は、0.9999以上の高い反射率を有するが、入射角が大きいと反射率が低下する問題がある。そのため、多重反射方式の光化学反応装置に誘電体多層膜を適用するためには、レーザの入射方法や光軸調整など難しい課題を有する。
【0010】
例えば、キャビティーリングダウン分光分析に使用される誘電体多層膜は、0.9999以上の高い反射率を有する。しかし、初めに誘電体多層膜に光を透過させて入射させる方式をとる場合、透過率は数%以下であるため、透過損失が大きく、分光分析には使用できるが光化学反応には向いていない。
【0011】
このように、従来、高い反射率をもつミラーの種類が限られていたため、金属ミラーの表面におけるレーザ光の光反射効率を向上させることが望まれていた。
【0012】
そこで、本発明は、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることの可能な金属ミラーの表面の改質方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
上記課題を解決するため、本願発明者らは、以下に説明するように、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを金属ミラーの表面に照射し、アニーリングすることで、金属ミラーの表面が改質(具体的には、結晶性を高める)されて、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることが可能であることを見出した。
【0014】
ところで、レーザ耐力とよばれる最大光量[J/cm]以上のレーザ光量のレーザ光を金属ミラーの表面に照射した場合、金属ミラーの表面は損傷する。例えば、Cr膜を極薄くアンダーコートした金ミラーのレーザ耐力は、1.2kW/cm程度と言われている。
上記金属ミラーの表面の損傷は、金属ミラーの表面における光吸収により生じた熱により、金属ミラーを構成する金属が部分的に溶融する現象であると考えられる。
【0015】
上記現象を利用することにより、具体的には、例えば、光ファイバを使用して、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを用いて1kW以上の高出力レーザ光を高純度の金属よりなるミラーの表面に照射すると、該金属をアニーリングすることができる。このときのレーザ光の出力は、レーザ耐力よりも少しだけ小さい値とすることが好ましい。
【0016】
ここで、アニーリング(annealing)、或いはアニール(anneal)とは、焼きなますことであって、アニーリングすることにより、金属表面の原子のマイグレーション(migration)が発生して結晶性が高まる効果を得ることができる。
このとき、金属ミラーのアニーリングは、金属ミラーを加温する必要はなく、室温で行なうことができる。
【0017】
また、本願発明者らの検討結果によれば、金属ミラーの表面に数nmの酸化物層が存在する場合、光化学反応に好ましくない程度に光反射率を低下させることが確認できた。
本願発明者らは、室温(例えば、20℃)〜200℃の温度におけるアニーリングを、水素と不活性ガスとの混合ガス(以下、「水素含有ガス」という)の雰囲気で行なうことで、上記酸化物層を除去可能なことを見出した。
【0018】
上記水素含有ガス雰囲気においてアニーリングを行う場合、酸化物層を除去する際、高温(例えば、400℃)に加熱することを必要としないので、一般的な機器の耐熱温度である200℃以下の温度で酸化物層の除去を行うことができる。
【0019】
上記課題を解決するため、請求項1に係る発明によれば、光透過性反応用容器を囲むように配置され、かつ光化学反応に用いるレーザ光を反射する金属ミラーの表面の改質方法であって、前記金属ミラーの表面に、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射して、前記金属ミラーの表面をアニーリングするアニーリング工程を有することを特徴とする金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0020】
また、請求項2に係る発明によれば、前記アニーリング工程では、前記金属ミラーの表面を露出する空間内に、水素と不活性ガスとの混合ガスを導入し、前記金属ミラーの表面に前記炭酸ガスレーザまたは前記チタンサファイヤレーザを照射する第1ステップと、前記第1のステップ後、前記空間から前記混合ガスを排出して、前記金属ミラーの表面に前記炭酸ガスレーザまたは前記チタンサファイヤレーザを照射する第2ステップと、を有することを特徴とする請求項1記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0021】
また、請求項3に係る発明によれば、前記混合ガスが導入される前記空間の圧力は、大気圧以下であることを特徴とする請求項2記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0022】
また、請求項4に係る発明によれば、前記不活性ガスとして、ヘリウム、アルゴン、ネオン、代替フロン、窒素のうち、少なくともいずれか1つよりなることを特徴とする請求項2または3記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0023】
また、請求項5に係る発明によれば、前記混合ガスの温度が、室温〜200℃以下であることを特徴とする請求項2ないし4のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0024】
また、請求項6に係る発明によれば、前記炭酸ガスレーザ及び前記チタンサファイヤレーザは、前記レーザ光を照射するレーザ光導波部材を用いて照射することを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0025】
また、請求項7に係る発明によれば、前記レーザ光導波部材として、光ファイバを用いることを特徴とする請求項6記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0026】
また、請求項8に係る発明によれば、前記光透過性反応用容器の材料として、石英ガラスまたはアクリル樹脂を用いることを特徴とする請求項1ないし7のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0027】
また、請求項9に係る発明によれば、前記石英ガラスとして、純度が99%以上で、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度石英ガラスを用いることを特徴とする請求項8記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0028】
また、請求項10に係る発明によれば、前記金属ミラーを構成する金属として、金、銀、銅、アルミニウムのうちのいずれか1つを用いることを特徴とする請求項1ないし9のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0029】
また、請求項11に係る発明によれば、前記金属の純度が、99.9999以上であることを特徴とする請求項10記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【0030】
また、請求項12に係る発明によれば、前記金属ミラーとして、金属膜を用いることを特徴とする請求項1ないし11のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法が提供される。
【発明の効果】
【0031】
本発明の金属ミラーの表面の改質方法によれば、金属ミラーの表面に、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射して、金属ミラーの表面をアニーリングすることで、金属ミラーの表面に存在する原子に発生するマイグレーションにより、金属ミラーの表面を構成する金属の結晶性が高められる。
これにより、金属ミラーの表面におけるレーザ光の光反射率を向上可能となるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係る金属ミラーの表面の改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【図2】本発明の第2の実施の形態に係る金属ミラーの表面の改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
(第1の実施の形態)
図1は、本発明の第1の実施の形態に係る金属ミラーの表面の改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。
【0034】
始めに、図1を参照して、第1の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置10について説明する。
図1を参照するに、光化学反応装置10は、クライオスタット11と、蓋体13と、環状部材15と、金属容器16と、フランジ17と、金属ミラー19と、光透過性反応用容器21と、第1の真空断熱空間23と、ヒータ線24と、レーザ光導波部材25と、再液化装置26と、管路27と、を有する。
【0035】
クライオスタット11は、第1の容器31と、第2の容器32と、第2の真空断熱空間33と、を有する。第1の容器31は、極低温液体12を収容する容器である。
第2の容器32は、第1の容器31に対して離間した状態で、第1の容器31の外壁を囲むように配置されている。第2の容器32は、第1の容器31を収容している。第2の容器32は、第1の容器31と一体に構成されている。
【0036】
第2の真空断熱空間33は、第1の容器31と第2の容器32との間に設けられた気密された空間である。第2の真空断熱空間33は、真空とされている。
このように、第1の容器31と第2の容器32との間に、真空とされた第2の真空断熱空間33を設けることにより、第1の容器31に収容された極低温液体12の温度が上昇すること抑制できる。
上記構成とされたクライオスタット11は、極低温液体12により、金属ミラー19の温度を極低温(100K以下)に冷却保持する。
【0037】
冷却された金属ミラー19の温度は、目的に応じて、100K以下の範囲内で適宜選択することができる。また、極低温液体12としては、例えば、液体ヘリウム(温度4.2K)を用いることができる。
【0038】
蓋体13は、クライオスタット11の上端に設けられている。これにより、第1の容器31内の空間31A(極低温液体12、及び金属容器16が収容される空間)は、気密されている。蓋体13は、環状部材15を貫通させるための貫通部13Aを有する。
【0039】
環状部材15は、蓋体13を貫通するように、貫通部13Aに固定されている。環状部材15の上端は、光透過性反応用容器21を構成する後述する管状部35を貫通させるための貫通部15Aを有する。環状部材15の下端は、開放端とされている。環状部材15の材料としては、例えば、ステンレスを用いることができる。
【0040】
金属容器16は、その一部が極低温液体12に浸漬するように、第1の容器31内(空間31A)に収容されている。金属容器16の上端は、環状部材15の下端に対して、フランジ17により固定されている。フランジ17による固定方法としては、溶接フランジ、またはねじ込みフランジを用いることができる。フランジ17は、金属容器16と環状部材15との接合部に設けられている。
金属容器16は、光透過性反応用容器21との間に隙間を介在させた状態で、光透過性反応用容器21を収容している。
【0041】
金属容器16は、金属ミラー19を構成する金属と同じ種類で、かつ金属ミラー19を構成する金属よりも純度の低い金属により構成されている。金属容器16の材料となる金属としては、例えば、金、銀、銅、アルミニウムのうち、いずれか1つの金属を用いることができる。金属容器16の材料となる金属として、金、銀、銅、アルミニウム等を用いた場合、該金属の純度は、99.9999%以上の範囲内とすることができる。
【0042】
金属ミラー19は、金属容器16の内面16aを覆うように設けられている。金属ミラー19は、光透過性反応用容器21の外側に、光透過性反応用容器21を囲むように配置されている。金属ミラー19は、レーザ光導波部材25から照射されたレーザ光を反射することで、反射したレーザ光を光透過性反応用容器21内に封入されたプロセスガスに照射する。
【0043】
金属ミラー19の材料となる金属としては、高純度の金、銀、銅、及びアルミニウム等を用いることができる。
金属ミラー19を構成する金属として、金、銀、銅、アルミニウム等を用いる場合、金属ミラー19を構成する金属の純度は、例えば、99.9999以上とすることができる。
【0044】
金属ミラー19としては、例えば、CVD(Chemical Vapor Deposition))法、めっき法、コーティング法、及び蒸着法等の方法により形成された金属膜(具体的には、金膜、銀膜、銅膜、アルミニウム膜等)を用いることができる。
【0045】
金属ミラー19として金属膜を非金属表面にコーティングする場合、該金属膜の厚さは、例えば、0.02〜10μmとすることができる。また、金属ミラー19として金属膜を金属表面にコーティングする場合、該金属膜の厚さは、例えば、20nm〜1mm(或いは1mm以上)とすることができる。
【0046】
光透過性反応用容器21は、管状部35と、反応室36と、を有する。管状部35は、貫通部15Aに固定されており、金属容器16の内部に延在している。管状部35の内径は、反応室36の内径よりも狭くなるように構成されている。管状部35は、一方の端部は、プロセスガスを供給するプロセスガス供給装置(図示せず)と接続されており、他方の端部が反応室36と接続されている。
【0047】
反応室36は、金属ミラー19に対して隙間を介在させた状態で、金属容器16内に収容されている。反応室36は、管状部35と一体に構成されている。反応室36では、管状部35を介してプロセスガスが供給された際、レーザ光によりプロセスガスを光化学反応させる。光透過性反応用容器21の材料としては、純度99%以上、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度の石英ガラス、或いは、アクリル樹脂を用いるとよい。
【0048】
第1の真空断熱空間23は、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に設けられている。第1の真空断熱空間23は、真空とされた空間である。
このように、光透過性反応用容器21と金属ミラー19との間に、第1の真空断熱空間23を設けることで、極低温液体12により光透過性反応用容器21が冷却されにくくすることが可能となる。これにより、光透過性反応用容器21内に供給されたプロセスガスが固化することを抑制できる。
【0049】
ヒータ線24は、反応室36の外壁36aに巻きつけられている。このように、反応室36の外壁36aにヒータ線24を巻きつけることで、反応室36を加熱可能となるので、反応室36内の温度を光化学反応に適した温度に調整できる。
【0050】
レーザ光導波部材25は、管状部35、及び反応室36の上部に配置されている。レーザ光導波部材25は、プロセスガスを光化学反応させるためのレーザ光を照射すると共に、金属ミラー19の表面19aの改質を行なう際に使用する炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射する。レーザ光導波部材25は、その先端25Aに、レーザ光と、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザと、を照射するレーザ照射面25aを有する。
【0051】
本発明におけるレーザ光導波部材25とは、レンズ・ミラー等により構成された光学システム機器であって、レーザ光と、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザと、を光透過性反応用容器21に導入するための部材である。レーザ光導波部材25としては、光ファイバが好適である。
【0052】
光ファイバは、低損失な材料であるため、プロセスガスを光化学反応させるためのレーザ光のみでなく、1kW以上の高出力とされた炭酸ガスレーザ光及びチタンサファイヤレーザ光を照射することができる。
【0053】
なお、レーザ光、炭酸ガスレーザ、及びチタンサファイヤレーザは、レーザ照射面25aから広がった状態で照射してもよいし、レーザ光導波部材25の先端25Aにレンズ(図示せず)を配置することで平行光として照射してもよい。
【0054】
再液化装置26は、クライオスタット11の外部に設けられている。再液化装置26は、クライオスタット11の側壁を貫通し、かつ第1の容器31内の空間31Aと接続された管路27と接続されている。再液化装置26は、蒸発した極低温液体12をパルスチューブ式冷凍機あるいはギフォード・マクマホン式冷凍機などで冷却して再液化して極低温液体12へ戻す装置である。
【0055】
このように、第1の容器31内に収容された極低温液体12を再液化させる再液化装置26を設けることにより、連続して極低温液体12を冷却することが可能となるので、金属ミラー19の温度を安定して極低温に保つことができる。
【0056】
ここで、上記構成とされた光化学反応装置10を用いた第1の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法について説明する。
第1の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法では、レーザ光導波部材25として光ファイバを使用し、該光ファイバにより、1kW以上の高出力レーザ光とされた炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを高純度の金属よりなる金属ミラー19の表面19aに照射することで、金属ミラー19の表面19aをアニーリングする。
【0057】
本発明におけるアニーリング(annealing)、或いはアニール(anneal)とは、焼きなますことである。
上記アニーリングすることにより、金属ミラー19の表面19aに存在する原子のマイグレーション(migration)が発生するため、金属ミラー19の表面19aに存在する金属の結晶性が高められる。
【0058】
これにより、金属ミラー19の表面19aにおけるレーザ光の光反射率を向上させることが可能となるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
上記アニーリング時間は、例えば、30分〜数時間程度の範囲内で適宜選択することができる。
【0059】
また、金属ミラー19の表面19aを改質する際に使用する炭酸ガスレーザ光またはチタンサファイヤレーザ光の出力は、レーザ耐力よりも少しだけ小さい値とすることが好ましい。
一般的に、金属の結晶性を高めるアニーリング温度は、融点より少し低い温度(数10℃低め)が好ましい。本発明では、炭酸ガスレーザ光等でこの効果を得ようとしており、レーザ耐力の出力で溶融するので、レーザ耐力の9割程度の出力が好ましい。しかし、溶融しないように余裕を考えると、レーザ耐力の8割程度がより好ましい。
また、上記金属ミラー19のアニーリングは、金属ミラー19を加温する必要はなく、室温(例えば、20℃)で行なうことができる。例えば、Cr膜を極薄くアンダーコートした金ミラー19のレーザ耐力は、1.2kW/cm程度である。
【0060】
第1の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法によれば、光透過性反応用容器21を囲むように配置され、レーザ光を反射する金属ミラー19の表面19aに、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射して、金属ミラー19の表面19aをアニーリングすることにより、金属ミラー19の表面19aに存在する原子にマイグレーションが発生して結晶性が高められる。
これにより、金属ミラー19の表面におけるレーザ光の光反射率を向上可能となるので、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0061】
(第2の実施の形態)
図2は、本発明の第2の実施の形態に係る金属ミラーの表面の改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置の概略構成を示す断面図である。図2に示す光化学反応装置40において、図1に示す光化学反応装置10と同一構成部分には、同一符号を付す。
【0062】
始めに、図2を参照して、第2の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法を行なう際に使用する光化学反応装置40について説明する。
図2を参照するに、光化学反応装置40は、図1に示す光化学反応装置10の構成に、さらに混合ガス供給及び排出管41を設けた以外は、光化学反応装置10と同様に構成される。
【0063】
混合ガス供給及び排出管41は、環状部材15の上端を貫通するように設けられている。これにより、混合ガス供給及び排出管41の下端は、第1の真空断熱空間23に露出されている。混合ガス供給及び排出管41は、水素と不活性ガスとの混合ガス(水素含有ガス)を第1の真空断熱空間23内に供給するための供給管である。
【0064】
上記混合ガスを構成する不活性ガスとしては、アルゴン、ヘリウム、アルゴン、ネオン、代替フロン、窒素のうち少なくとも一種の不活性ガスを用いることができる。上記混合ガスは、室温(20℃)〜200℃以下の温度にして第1の真空断熱空間23内に供給する。このとき、第1の真空断熱空間23内の圧力は、大気圧以下とする。
【0065】
また、混合ガス供給及び排出管41は、図示していない真空ポンプと接続されており、第1の真空断熱空間23内に存在する混合ガスを排出する。
【0066】
ここで、上記構成とされた光化学反応装置40を用いた第2の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法について説明する。
第2の実施の形態に係る金属ミラー19の表面19aの改質方法では、始めに、金属ミラー19の表面19aを露出する第1の真空断熱空間23内に、水素と不活性ガスとの混合ガス(温度が室温(20℃)〜200℃以下とされたガス)を導入し、金属ミラー19の表面19aに、1kW以上の高出力とされた炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射する(第1ステップ)。
【0067】
これにより、金属ミラー19の表面19aに存在し、かつ金属ミラー19の表面19aの光反射率を低下させる酸化物層(図示せず)を除去することが可能となる。これにより、金属ミラー19の表面19aの光反射率を向上させることができる。
【0068】
次いで、第1の真空断熱空間23から上記混合ガスを排出しながら、金属ミラー19の表面19aに、1kW以上の高出力とされた炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射することで、金属ミラー19の表面19aをアニーリングする(第2ステップ)。
【0069】
これにより、金属ミラー19の表面19aに存在する原子にマイグレーションが発生して結晶性が高められるため、金属ミラー19の表面におけるレーザ光の光反射率を向上させることが可能となり、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
上記アニーリング時における炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザの照射時間は、例えば、30分〜数時間の範囲内で適宜選択することができる。
【0070】
第2の実施の形態の金属ミラーの表面の改質方法によれば、金属ミラー19の表面19aに存在し、かつ金属ミラー19の表面19の光反射率を低下させる酸化物層(図示せず)を除去し、その後、該酸化物層が除去された金属ミラー19の表面19aの結晶性を高めることで、金属ミラー19の表面19aの光反射率をさらに向上できる。これにより、光化学反応におけるレーザ光の利用効率を高めることができる。
【0071】
以上、本発明の好ましい実施の形態について詳述したが、本発明はかかる特定の実施の形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲内に記載された本発明の要旨の範囲内において、種々の変形・変更が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0072】
本発明は、プロセスガスに照射するレーザ光を反射する金属ミラーを備えた光化学反応装置、及び該光化学反応装置を用いた金属ミラーの表面の改質方法に適用可能である。
【符号の説明】
【0073】
10,40…光化学反応装置、11…クライオスタット、12…極低温液体、13…蓋体、13A,15A…貫通部、15…環状部材、16…金属容器、16a…内面、17…フランジ、19…金属ミラー、19a…表面、21…光透過性反応用容器、23…第1の真空断熱空間、24…ヒータ線、25…レーザ光導波部材、25a…レーザ照射面、25A…先端、26…再液化装置、27…管路、31…第1の容器、31A…空間、32…第2の容器、33…第2の真空断熱空間、35…管状部、36…反応室、36a…外壁、41…混合ガス供給及び排出管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
光透過性反応用容器を囲むように配置され、かつ光化学反応に用いるレーザ光を反射する金属ミラーの表面の改質方法であって、
前記金属ミラーの表面に、炭酸ガスレーザまたはチタンサファイヤレーザを照射して、前記金属ミラーの表面をアニーリングするアニーリング工程を有することを特徴とする金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項2】
前記アニーリング工程では、前記金属ミラーの表面を露出する空間内に、水素と不活性ガスとの混合ガスを導入し、前記金属ミラーの表面に前記炭酸ガスレーザまたは前記チタンサファイヤレーザを照射する第1ステップと、
前記第1のステップ後、前記空間から前記混合ガスを排出して、前記金属ミラーの表面に前記炭酸ガスレーザまたは前記チタンサファイヤレーザを照射する第2ステップと、
を有することを特徴とする請求項1記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項3】
前記混合ガスが導入される前記空間の圧力は、大気圧以下であることを特徴とする請求項2記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項4】
前記不活性ガスとして、ヘリウム、アルゴン、ネオン、代替フロン、窒素のうち、少なくともいずれか1つよりなることを特徴とする請求項2または3記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項5】
前記混合ガスの温度が、室温〜200℃以下であることを特徴とする請求項2ないし4のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項6】
前記炭酸ガスレーザ及び前記チタンサファイヤレーザは、前記レーザ光を照射するレーザ光導波部材を用いて照射することを特徴とする請求項1ないし5のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項7】
前記レーザ光導波部材として、光ファイバを用いることを特徴とする請求項6記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項8】
前記光透過性反応用容器の材料として、石英ガラスまたはアクリル樹脂を用いることを特徴とする請求項1ないし7のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項9】
前記石英ガラスとして、純度が99%以上で、かつ光透過損失0.1dB/m以下の高純度石英ガラスを用いることを特徴とする請求項8記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項10】
前記金属ミラーを構成する金属として、金、銀、銅、アルミニウムのうちのいずれか1つを用いることを特徴とする請求項1ないし9のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項11】
前記金属の純度が、99.9999以上であることを特徴とする請求項10記載の金属ミラーの表面の改質方法。
【請求項12】
前記金属ミラーとして、金属膜を用いることを特徴とする請求項1ないし11のうち、いずれか1項記載の金属ミラーの表面の改質方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−226165(P2012−226165A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−94390(P2011−94390)
【出願日】平成23年4月20日(2011.4.20)
【出願人】(000231235)大陽日酸株式会社 (642)
【Fターム(参考)】