説明

金属メッキ材料の製造方法

【課題】マスキングテープを必要とせず、フォトリソグラフィー法を利用した電極の製造方法よりも効率よく金属メッキ材料を製造することができる金属メッキ材料の製造方法を提供すること。
【解決手段】高分子材料を用いて金属メッキ材料を製造する方法であって、前記高分子材料として高分子電解質材料を用い、所定のパターンを有するマスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施すことを特徴とする金属メッキ材料の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属メッキ材料の製造方法に関する。さらに詳しくは、例えば、パターン化された電極などに有用な金属メッキ材料の製造方法に関する。本発明の金属メッキ材料の製造方法によれば、基材としてフレキシブルな材料を用いた場合には、金属蒸着などの煩雑な方法を採らなくても、屈曲させることができるフレキシブルな導電性皮膜を有する金属メッキ材料を容易に製造することができることから、フレキシブルな導電性皮膜を有する金属メッキ材料を工業的に量産することが期待される。本発明の金属メッキ材料の製造方法によって得られたパターン化された電極などの金属メッキ材料は、電子機器などへの応用が期待されるものである。さらに、前記金属メッキ材料は、例えば、ダイヤフラムポンプ、人工筋肉などの用途に使用することが期待されるものである。
【0002】
なお、本願明細書において、金属メッキ材料とは、表面上に金属メッキが施された材料を意味する。また、本願明細書において、イオン注入とは、イオン照射の概念を含むものである。
【背景技術】
【0003】
従来、所定の電極パターンを有する電極材料の製造方法として、例えば、金属箔からなる集電体にマスキングテープを貼付し、このマスキングテープが貼付された金属箔上に電極合剤を塗布し、乾燥させることによって電極合剤を形成させた後、マスキングテープを集電体から剥離させる電極の製造方法が知られている(例えば、特許文献1の[請求項1]参照)。しかし、この電極の製造方法には、マスキング法が採られているため、マスキングテープを剥離させるときに、マスキングテープに追随してマスキングテープと電極合剤層との境界部で電極合剤層が剥離するため、電極の品質が低下するという欠点がある。
【0004】
また、他の電極パターンを有する電極材料の製造方法として、例えば、感光性樹脂層を基板上に形成する感光性樹脂層の形成工程、当該感光性樹脂層を露光することにより、パターンの潜像を形成する露光工程、当該感光性樹脂層を現像することによってパターンを形成する現像工程、および形成されたパターンを焼成する焼成工程からなるフォトリソグラフィー法を利用した電極の製造方法が提案されている(例えば、特許文献2の段落[0133]参照)。しかし、この電極の製造方法には、感光性樹脂層の形成工程、露光工程、現像工程および焼成工程という煩雑な4工程を必要とするとともに、電極を製造するのに長時間を要するため、生産効率に劣るという欠点がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2010−027798号公報
【特許文献2】特開2010−243816号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前記従来技術に鑑みてなされたものであり、マスキングテープを必要とせず、フォトリソグラフィー法を利用した電極の製造方法よりも効率よく金属メッキ材料を製造することができる金属メッキ材料の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、
(1) 高分子材料を用いて金属メッキ材料を製造する方法であって、前記高分子材料として高分子電解質材料を用い、所定のパターンを有するマスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施すことを特徴とする金属メッキ材料の製造方法、
(2) 高分子電解質材料が、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基およびホウ酸基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有するポリマーである前記(1)に記載の金属メッキ材料の製造方法、および
(3) 高分子電解質材料の表面へのイオン注入量が、1×1011〜1×1020ions/cm2である前記(1)または(2)に記載の金属メッキ材料の製造方法
に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、マスキングテープを必要とせずに、フォトリソグラフィー法を利用した電極の製造方法よりも効率よく金属メッキ材料を製造することができるという優れた効果が奏される。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜の炭素原子由来のC1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルを示す図である。
【図2】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜のフッ素原子由来のF1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルを示す図である。
【図3】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜の酸素原子由来のO1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルを示す図である。
【図4】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜のイオウ原子由来のS2p3/2の結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルを示す図である。
【図5】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜のフーリエ変換赤外分光スペクトルを示す図である。
【図6】イオン注入される前のフッ素樹脂膜および製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜の引っ張り強度を調べた結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の金属メッキ材料の製造方法は、高分子材料を用いて金属メッキ材料を製造する方法であり、前記高分子材料として高分子電解質材料を用い、所定のパターンを有するマスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施すことを特徴とする。
【0011】
本発明者らは、マスキングテープを用いて電極を製造したとき、マスキングテープを剥離させる際にマスキングテープに追随してマスキングテープとともに電極層が剥離するため、マスキングテープを使用しなくても、所定の電極パターンにパターン化された電極材料を効率よく製造することができる方法を開発するべく鋭意研究を重ねたところ、基材として金属基材ではなく高分子材料を用いるとともに、当該高分子材料のなかでも高分子電解質材料を用い、マスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施した場合には、イオン注入が行われた箇所ではメッキ皮膜が形成されずに、イオン注入が行われていない箇所でメッキ皮膜が形成されることが見出された。本発明は、かかる知見に基づいて完成されたものである。
【0012】
本発明においては、メッキ基材を構成する高分子材料として、高分子電解質材料が用いられる。
【0013】
高分子電解質材料を構成するポリマーとしては、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基およびホウ酸基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有するポリマーが好ましい。高分子電解質材料を構成するポリマーに含まれる前記官能基の量は、無電解メッキ条件や金属メッキ材料の用途などによって異なるので一概には決定することができないことから、高分子電解質材料にイオンが注入された箇所では金属メッキ皮膜を形成させずに、高分子電解質材料にイオンが注入されていない箇所で金属メッキ皮膜を形成させることができる範囲内で適宜調整することが好ましい。
【0014】
好適な官能基を有するポリマーの具体例としては、スルホン酸基含有ポリマー、カルボキシル基含有ポリマー、リン酸基含有ポリマー、ホウ酸基含有ポリマーなどが挙げられ、これらのポリマーは、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記官能基を有するポリマーは、例えば、前記官能基を有するモノマーを含むモノマー成分を重合させることによって調製することができるほか、ポリマーを改質することによって当該ポリマーに官能基を導入することができる。例えば、スルホン酸基含有ポリマーは、スチレンスルホン酸、スルホン酸基含有(メタ)アクリレートなどのスルホン酸基含有モノマーを含むモノマー成分を重合させることによって調製することができるほか、ポリマーをスルホン化させることによって調製することができる。
【0015】
前記官能基を有するポリマーに用いられるベースポリマーとしては、例えば、ポリテトラフルオロエチレンなどのフッ素樹脂、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、ポリエチレンテレフタレートなどのポリエステル、ポリスルフォン、ポリアミド、ポリイミド、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリスチレン、ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、ポリフェニレンスルファイドなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらのベースポリマーは、金属メッキ材料の用途に応じて適宜選択して用いることが好ましい。
【0016】
高分子電解質材料の形状は、金属メッキ材料の用途に応じて決定することが好ましい。高分子電解質材料の形状としては、例えば、フィルム状、プレート(板)状、球状、線状、ロッド(棒)状、繊維状、網目状などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0017】
本発明においては、まず、無電解メッキ処理を施す対象となる高分子電解質材料上に、所定のパターンを有するマスクを載置する。
【0018】
マスクとしては、イオン注入をしたときにイオンを透過しない材料からなるマスクが好ましい。マスクを構成する材料としては、例えば、アルミニウム、ステンレス鋼、銅、鉄、真鍮などの金属材料からなるプレート、フッ素樹脂フィルム、ポリエステルフィルムなどの樹脂フィルムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。マスクに形成されているパターンは、特に限定されず、金属メッキ材料の用途に応じて適宜決定することが好ましい。また、マスクの厚さは、マスクに使用される材料によって異なるので一概には決定することができないが、所定形状のパターンに精度よく無電解メッキを施す観点から、通常、10μm〜3mm程度の範囲内から選択されることが好ましい。
【0019】
マスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なうと、マスクで覆われている高分子電解質材料にはイオンが注入されないので、無電解メッキが施され、マスクで覆われていない高分子電解質材料にはイオンが注入されるので、無電解メッキが施されない。
【0020】
高分子電解質材料へのイオン注入は、イオン注入装置を用いて行なうことができる。高分子電解質材料に注入されるイオン種としては、例えば、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノンなどの希ガスのイオン;水素、窒素、酸素、二酸化炭素、塩素、フッ素などのイオン;メタン、エタン、プロパン、ブタン、ペンタン、ヘキサンなどのアルカン系ガスのイオン;エチレン、プロピレン、ブテン、ペンテンなどのアルケン系ガスのイオン;ペンタジエン、ブタジエンなどのアルカジエン系ガスのイオン;アセチレン、メチルアセチレンなどのアルキン系ガスのイオン;ベンゼン、トルエン、キシレン、インデン、ナフタレン、フェナントレンなどの芳香族炭化水素系ガスのイオン;シクロプロパン、シクロヘキサンなどのシクロアルカン系ガスのイオン;シクロペンテン、シクロヘキセンなどのシクロアルケン系ガスのイオン;金、銀、銅、白金、ニッケル、パラジウム、クロム、チタン、モリブデン、ニオブ、タンタル、タングステン、アルミニウムなどの導電性金属のイオンなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0021】
イオンを注入する方法としては、例えば、電界によって加速されたイオンビームを高分子電解質材料に照射する方法、プラズマイオンを高分子電解質材料に注入する方法などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0022】
高分子電解質材料の表面に注入されるイオンの注入量は、無電解メッキされる部分とそうでない部分との境界を明確にする観点から、好ましくは1×1011ions/cm2以上、より好ましくは1×1012ions/cm2以上、さらに好ましくは1×1013ions/cm2以上、さらに一層好ましくは1×1014ions/cm2以上、特に好ましくは1×1015ions/cm2以上であり、生産効率を高める観点から、好ましくは1×1020ions/cm2以下である。
【0023】
高分子電解質材料において、イオンが注入される部分の深さは、イオンの種類、印加電圧、印加時間などのイオンを注入する条件を調整することによって容易に制御することができる。また、イオンが注入される部分の深さは、通常、所定の電極パターンにパターン化された電極材料を効率よく製造する観点から、10nm〜5μm程度であることが好ましく、10nm〜3μm程度であることがより好ましい。イオンが注入される部分の深さは、例えば、X線光電子分光分析(XPS)によって高分子電解質材料の厚さ方向における化学的構造変化を解析することによって確認することができる。
【0024】
次に、イオン注入された高分子電解質材料に無電解メッキを施す。無電解メッキを施す方法は、一般に採用されている方法であればよく、特に限定されない。
【0025】
高分子電解質材料に無電解メッキを施す際に用いられるメッキ液に使用される金属としては、例えば、白金、金、銀、銅、ニッケル、パラジウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。これらの金属は、それぞれ単独で用いてもよく、2種類以上を併用してもよい。前記金属は、水中に溶解させるために、通常、金属イオン錯体として用いることが好ましい。前記金属錯体としては、例えば、ジクロロテトラアンミン白金(II)、ジアミンジニトロ白金(II)、ジクロロジアミン白金(II)、テトラクロロ白金酸(II)アンモニウムなどが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。メッキ液における金属濃度は、特に限定されないが、通常、0.3〜10g/L程度であることが好ましい。
【0026】
高分子電解質材料に無電解メッキを施す際のメッキ液の液温は、通常、10〜60℃程度であることが好ましい。また、高分子電解質材料に無電解メッキを施す時間は、通常、5分間〜数時間程度であるが、本発明は、かかる無電解メッキを施す時間によって限定されるものではない。
【0027】
高分子電解質材料の無電解メッキは、一般的な無電解メッキ法、例えば、高分子電解質材料をメッキ液に浸漬させた後、その表面を還元させることによって行なうことができる。
【0028】
高分子電解質材料をメッキ液に浸漬させる際には、高分子電解質材料の表面に付着している気泡などを除去し、均一なメッキ皮膜を形成するために、メッキ液を適宜撹拌することが好ましい。なお、メッキ液に高分子電解質材料を浸漬させた後は、必要により、高分子電解質材料の表面上に存在しているメッキ液を除去するために水洗してもよい。
【0029】
次に、メッキ液に高分子電解質材料を浸漬させた高分子電解質材料の表面を還元させることにより、金属を析出させる。高分子電解質材料の表面を還元させる際には、還元剤を用いることができる。還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどの水素化ホウ素化合物、ジメチルアミンボラン、ジエチルアミンボラン、トリメチルアミンボラン、トリエチルアミンボランなどのボラン化合物、ヒドラジン、アスコルビン酸などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0030】
高分子電解質材料表面の還元は、例えば、メッキ液に浸漬させた高分子電解質材料を還元剤水溶液中に浸漬させることによって行なうことができる。還元剤水溶液における還元剤の濃度は、特に限定されないが、通常、0.03〜0.1モル/L程度であることが好ましい。還元剤水溶液の液温は、特に限定されないが、通常、10〜50℃程度であることが好ましい。また、メッキ皮膜の還元に要する時間は、通常、30分間〜2時間程度であることが好ましい。その際、高分子電解質材料の表面に付着している気泡などを除去し、均一なメッキ皮膜を形成させるために、還元剤の水溶液を適宜撹拌することが好ましい。
【0031】
高分子電解質材料の表面を還元させた後は、必要により、高分子電解質材料の表面上に存在している還元液水溶液を除去するために当該高分子電解質材料表面を水洗してもよい。その後、必要により、高分子電解質材料の表面を中和してもよい。高分子電解質材料の表面の中和は、例えば、高分子電解質材料を酸性水溶液に浸漬することによって行なうことができる。酸性水溶液としては、例えば、硝酸水溶液、塩酸水溶液などの無機酸水溶液、酢酸水溶液などの有機酸水溶液などが挙げられるが、本発明は、かかる例示のみに限定されるものではない。
【0032】
また、無電解メッキによって高分子電解質材料の表面にメッキ皮膜を形成した後、さらに当該メッキ皮膜に電解メッキを施すことにより、メッキ皮膜の厚さを大きくしたり、導電性を高めたりしてもよい。例えば、無電解メッキによって白金のメッキ皮膜を高分子電解質材料の表面上に形成した後、形成された白金のメッキ皮膜上にこれと同じ種類の白金のメッキ皮膜を電解メッキによってさらに形成することにより、メッキ皮膜の厚さを大きくしてもよく、あるいはメッキ皮膜の導電性をより高めるために、白金のメッキ皮膜上に電解メッキによって金のメッキ皮膜をさらに形成させてもよい。電解メッキの際に用いられる金属の種類は、無電解メッキの際に用いられる金属と同一であってもよく、あるいは異なっていてもよく、特に限定されない。
【0033】
以上のようにして高分子電解質材料に無電解メッキを施すことにより、高分子電解質材料のイオン非注入箇所ではメッキ皮膜が形成されるが、高分子電解質材料のイオン注入箇所ではメッキ皮膜が形成されないことから、マスクが有する所定のパターンに対応したパターンを有するメッキ皮膜を高分子電解質材料の表面上に形成することができる。
【0034】
なお、高分子電解質材料の表面上に形成されるメッキ皮膜の膜厚を大きくする場合には、前記高分子電解質材料の無電解メッキ操作を繰り返して行なえばよい。高分子電解質材料の表面上に形成されるメッキ皮膜の膜厚は、特に限定されないが、通常、1〜10μm程度であることが好ましい。
【0035】
以上のようにして金属メッキ材料が得られる。本発明の金属メッキ材料の製造方法は、従来使用されているマスキングテープが不要であるので、マスキングテープを剥離させるときにマスキングテープに追随してマスキングテープと電極合剤層との境界部で電極合剤層が剥離し、電極の品質が低下するという欠点を解消することができる。また、従来のフォトリソグラフィー法を利用した電極の製造方法で必要とされている感光性樹脂層の形成工程、露光工程、現像工程および焼成工程という煩雑な工程が不要であるので、金属メッキ材料を短時間で効率よく製造することができる。
【0036】
本発明の金属メッキ材料の製造方法によって得られた金属メッキ材料は、例えば、パターン化された電極、ダイヤフラムポンプ、人工筋肉などの種々の用途に使用することが期待されるものである。
【実施例】
【0037】
次に、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はかかる実施例のみに限定されるものではない。
【0038】
製造例1〜4
高分子固体電解質材料として、スルホン酸基を有する正方形状のフッ素樹脂膜〔縦:30mm、横:30mm、厚さ:180μm、デュポン社製、ナフィオン(登録商標)117〕を用いた。また、マスクとして、ステンレス鋼板(SUS304)からなり、スリットが形成されたテンプレート(縦:30mm、横:30mm、厚さ:300μm)を用いた。
【0039】
次に、フッ素樹脂膜上にテンプレートを載置し、得られた積層体をイオン注入装置〔(株)日立製作所製〕に入れ、その周囲雰囲気を1×10-4Pa程度の圧力となるように脱気した後、室温(約25℃)でヘリウムイオンを100keVの加速エネルギーにてイオン注入量が1×1013ions/cm2(製造例1)、1×1014ions/cm2(製造例2)、1×1015ions/cm2(製造例3)または1×1016ions/cm2(製造例4)となるようにテンプレート面にイオンビームを照射することにより、イオンを注入した。
【0040】
その結果、フッ素樹脂膜のイオン注入された箇所は、イオン注入量の増大に伴い製造例1〜4の順に着色された黄色の濃度が高くなっていることが確認された。また、X線光電子分光分析(XPS)によって高分子電解質材料の厚さ方向における化学的構造変化を解析したところ、フッ素樹脂膜の表面近傍の厚さ約1μmの範囲内でイオン注入されていることが確認された。
【0041】
次に、イオン注入される前のフッ素樹脂膜および各製造例でイオン注入されたフッ素樹脂膜の化学構造をX線光電子分光スペクトルの測定によって調べた。その結果を図1〜4に示す。図1は、炭素原子由来のC1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトル、図2は、フッ素原子由来のF1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトル、図3は、酸素原子由来のO1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトル、図4は、イオウ原子由来のS2p3/2の結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルを示す。
【0042】
各図において、aは、イオン注入される前のフッ素樹脂膜のX線光電子分光スペクトル、b〜eは、それぞれ順に、製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜のX線光電子分光スペクトルを示す。
【0043】
図1に示された結果から、イオンの注入量が1×1014ions/cm2程度(図1中のc、製造例2)から結合エネルギー294eVにおけるピークが大きく減少しはじめ、287eVのピークが大きく増大していることがわかる。また、イオンの注入量が1×1016ions/cm2程度(図1中のe、製造例4)のとき、結合エネルギー294eVにおけるピークがほぼ消失し、結合エネルギー287eVにおけるピークが主となっていることがわかる。結合エネルギー294eVにおけるピークは、C−F結合に由来するものであると考えられることから、このピーク強度が減少していることにより、フッ素原子が脱離していることが推察される。また、結合エネルギー287eVにおけるピークは、C−C結合に由来するものであると考えられることから、このピーク強度が増大していることにより、架橋などによって相対的にC−C結合が増加しているものと考えられる。
【0044】
図2に示された結果から、イオンの注入量が増加するにしたがって結合エネルギー692eV近傍のC−F結合に由来するフッ素原子の結合エネルギーのピーク強度が大きく減少していることがわかる。このことは、フッ素原子の量が減少していることを示唆し、図1に示された炭素原子C1sの結合エネルギーについてのX線光電子分光スペクトルにおいてフッ素原子が脱離していることが示唆されていることと一致する。
【0045】
図3に示された結果から、イオンの注入量が増加するにしたがって結合エネルギー538eVにおけるピーク強度が減少するとともに、それよりも低エネルギー側の結合エネルギー536eVにおけるピーク強度が増大していることがわかる。また、図4に示された結果から、イオンの注入量の増加に伴って結合エネルギー173eV近傍のイオウ原子の結合エネルギーのスペクトルが顕著に減少していることがわかる。これらのことから、酸素原子は、C−O結合とスルホン酸基のS−O結合またはS=O結合とに由来することから、スルホン酸基が脱離しているものと考えられる。
【0046】
次に、イオン注入される前のフッ素樹脂膜および各製造例でイオン注入されたフッ素樹脂膜について、減衰全反射(ATR)法によるフーリエ変換赤外分光スペクトルを図5に示す。図5において、aは、イオン注入される前のフッ素樹脂膜のフーリエ変換赤外分光スペクトル、b〜eは、それぞれ順に、製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜のフーリエ変換赤外分光スペクトルを示す。
【0047】
図5に示される赤外分光スペクトルにおいて、波数1199cm-1、1146cm-1、1056cm-1、985cm-1および970cm-1におけるピークは、スルホン酸基を有するフッ素樹脂膜に特徴的なピークである。それらのピークのなかで、波数1056cm-1、985cm-1および970cm-1におけるピークの強度が減少していることがわかる。波数1146〜1199cm-1におけるピークは、スルホン酸基およびCF2−CF2結合に由来する伸縮振動であるが、イオンの注入量の増加により、特に波数1199cm-1におけるピークの強度の減少とピークのブロード化により、スルホン酸基およびC−F結合が強く影響を受けているものと考えられる。
【0048】
これらの結果から、スルホン酸基を有するフッ素樹脂膜にイオン注入することにより、当該スルホン酸基を有するフッ素樹脂膜の化学的構造が変化し、その化学構造の変化がフッ素原子およびスルホン酸基の脱離であると考えられる。
【0049】
次に、イオン注入される前のフッ素樹脂膜および各製造例でイオン注入されたフッ素樹脂膜を裁断し、ダンベル型の試験片(幅:10mm、長さ:32mm、くびれ部の幅:4mm、くびれ部の長さ:12mm)を作製し、各試験片の引っ張り強度を調べた。その結果を図6に示す。なお、図6において、(a)は、イオン注入される前のフッ素樹脂膜の引っ張り強度、(b)〜(e)は、それぞれ順に、製造例1〜4でイオン注入されたフッ素樹脂膜の引っ張り強度を示す。また、図6に記載の伸び倍率は、式:
〔伸び倍率(倍)〕
=〔伸長後の長さ(mm)−伸長前の長さ(mm)〕÷〔伸長前の長さ(mm)〕
に基づいて求めたときの値である。
【0050】
図6に示された結果から、イオン注入される前のフッ素樹脂膜では、荷重が約9Nのときに降伏点が生じるのに対し〔図6中の(a)〕、イオン注入量が1×1016ions/cm2であるフッ素樹脂膜では、荷重が約12Nのときに降伏点が生じることから〔図6中の(e)〕、引っ張り強度などの機械的強度がイオン注入される前のフッ素樹脂膜よりも約30%向上していることがわかる。
【0051】
以上のことから、スルホン酸基を有するフッ素樹脂膜にイオン注入することにより、当該スルホン酸基を有するフッ素樹脂膜の機械的強度を向上させることができることがわかる。なお、降伏点後の破断までの伸びは、イオン注入の有無およびイオン注入量に関係なく、伸び倍率が約1.5倍のときに破断が生じた。
【0052】
実施例1
製造例1で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜をメッキ液〔2g/Lジクロロテトラアンミン白金(II)水溶液、液温:約25℃〕に浸漬し、約20分間軽く撹拌した。次に、フッ素樹脂膜をメッキ液から取り出し、脱イオン水で洗浄した後、0.079モル/Lの水素化ホウ素ナトリウム水溶液(液温:約25℃)中に浸漬し、1時間軽く撹拌することにより、ジクロロテトラアンミン白金(II)を還元させて白金を析出させ、無電解メッキを完了した。
【0053】
無電解メッキが施されたフッ素樹脂膜を脱イオン水で洗浄し、1モル/Lの硝酸水溶液(液温:約25℃)中に浸漬し、硝酸水溶液を軽く10分間撹拌した後、脱イオン水で洗浄した。白金メッキ皮膜を厚くするために、以上の操作を5回繰り返すことにより、金属メッキ材料を得た。
【0054】
実施例2
実施例1において、製造例1で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜の代わりに製造例2で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属メッキ材料を得た。
【0055】
実施例3
実施例1において、製造例1で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜の代わりに製造例3で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属メッキ材料を得た。
【0056】
実施例4
実施例1において、製造例1で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜の代わりに製造例4で得られたイオン注入されたフッ素樹脂膜を用いたこと以外は、実施例1と同様にして金属メッキ材料を得た。
【0057】
次に、各実施例で得られた金属メッキ材料に形成されているメッキ皮膜を目視によって観察した。その結果、実施例1および実施例2では、フッ素樹脂膜にイオンが注入された箇所で白金メッキ皮膜が多少形成されておらず、フッ素樹脂膜にイオンが注入されていない箇所で白金メッキ皮膜が均一に形成されていることが確認された。なかでも、実施例3および実施例4で得られた金属メッキ材料では、イオン注入量が1×1015ions/cm2以上であるが、フッ素樹脂膜にイオンが注入された箇所では白金メッキ皮膜がまったく形成されずに、フッ素樹脂膜にイオンが注入されていない箇所で白金メッキ皮膜が均一に形成されていることが確認された。これらのことから、フッ素樹脂膜にイオンが注入された箇所で白金メッキ皮膜がまったく形成されないようにし、フッ素樹脂膜にイオンが注入されていない箇所で白金メッキ皮膜が均一に形成されるようにするためには、フッ素樹脂膜へのイオン注入量を1×1015ions/cm2以上とすることが好ましいことがわかる。
【0058】
以上の結果から、高分子電解質材料を用い、所定のパターンを有するマスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施した場合には、イオン注入が施されていない部分にのみ無電解メッキを施すことができるので、マスキングテープを必要とせずに、所定のパターンに金属メッキ皮膜が形成された金属メッキ材料を効率よく製造することができることがわかる。
【0059】
また、各実施例では、高分子電解質材料としてスルホン酸基を有する高分子電解質材料が用いられたが、カルボキシル基、リン酸基、ホウ酸基などの官能基は、スルホン酸基と同様に、イオン注入によって高分子電解質材料から脱離するので、これらの官能基を有する高分子電解質材料を用いた場合にも、スルホン酸基を有する高分子電解質材料と同様に、高分子電解質材料にイオンが注入された箇所では金属メッキ皮膜を形成させずに、高分子電解質材料にイオンが注入されていない箇所で金属メッキ皮膜を形成させることができる。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明の金属メッキ材料の製造方法によって得られた金属メッキ材料は、例えば、パターン化された電極などに使用することが期待されるものである。また、本発明の金属メッキ材料の製造方法において、金属メッキ材料に用いられている高分子電解質材料として薄膜を用いた場合には、従来のような金などの金属蒸着などの煩雑な方法を採らなくても、屈曲させることができるフレキシブルな導電性皮膜を有する金属メッキ材料を容易に製造することができることから、フレキシブルな導電性皮膜を有する金属メッキ材料を工業的に量産することが期待される。このフレキシブルな導電性皮膜を有する金属メッキ材料は、例えば、フレキシブルな電極材料、フレキシブルなプリント基板などをはじめ、ダイヤフラムポンプ、人工筋肉などの種々の用途に展開して使用することが期待されるものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
高分子材料を用いて金属メッキ材料を製造する方法であって、前記高分子材料として高分子電解質材料を用い、所定のパターンを有するマスクを介して当該高分子電解質材料の表面にイオン注入を行なった後、当該高分子電解質材料に無電解メッキを施すことを特徴とする金属メッキ材料の製造方法。
【請求項2】
高分子電解質材料が、スルホン酸基、カルボキシル基、リン酸基およびホウ酸基からなる群より選ばれた少なくとも1種の官能基を有するポリマーである請求項1に記載の金属メッキ材料の製造方法。
【請求項3】
高分子電解質材料の表面へのイオン注入量が、1×1011〜1×1020ions/cm2である請求項1または2に記載の金属メッキ材料の製造方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図6】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−184474(P2012−184474A)
【公開日】平成24年9月27日(2012.9.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−48415(P2011−48415)
【出願日】平成23年3月5日(2011.3.5)
【出願人】(504145320)国立大学法人福井大学 (287)
【出願人】(397022885)財団法人若狭湾エネルギー研究センター (36)
【Fターム(参考)】