説明

金属不純物量の少ない半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法及び該共重合体を製造するための重合開始剤の精製方法

【課題】簡便かつ効率的な、金属不純物量が極めて少ない半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法及び該共重合体を製造するための重合開始剤の精製方法の提供。
【解決手段】本発明の重合体の製造に用いる重合開始剤の精製方法は、有機溶剤に溶解された重合開始剤の溶液を、公称孔径が1.0μm以下のフィルターに通液させて、重合開始剤溶液のナトリウム含有量を、重合開始剤の質量に対して、300ppb以下に低減させる、通液工程を含んでなるものである。さらに、本発明の半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法は、上記の精製方法により精製された重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により、該半導体リソグラフィー用重合体を合成する、重合工程を含むものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、半導体の製造に使用されるリソグラフィー用共重合体の製造方法及び該共重合体を製造するための重合開始剤の精製方法に関する。更に詳しくは、電気特性の良い半導体を得るのに好適な、金属不純物量が低減された半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法及び、該共重合体製造のための金属が低減された重合開始剤の精製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体の製造に用いられるリソグラフィーにおいては、集積度の増大に伴い、より微細なパターンの形成が求められており、現在ではKrFエキシマレーザー光(波長248nm)やArFエキシマレーザー光(波長193nm)によるリソグラフィー技術が量産で使用されている。また、さらに波長の短いF2エキシマレーザー光(波長157nm)や、これらエキシマレーザーより短波長のEUV(極紫外線)やX線、また、電子線によるリソグラフィー技術についても研究開発が進んでいる。
【0003】
このようにパターンの微細化が進行する中、半導体リソグラフィーに用いる共重合体において、含まれる不純物量の低減に対する要求も一層厳しいものとなっている。中でも、金属不純物は半導体の製造に対して様々な悪影響を及ぼすため極力除去しなければならない。例えば、化学増幅型のレジスト用共重合体にナトリウムや鉄などの金属不純物が含まれていると、露光時、酸発生剤から発生した酸性物質を金属成分が捕捉してしまい、レジストの基材成分である共重合体が十分に溶解せず、所望のパターンを形成することができない。また、レジスト用共重合体に限らず、トップコート用共重合体や反射防止膜用共重合体など半導体リソグラフィー用共重合体に含まれる金属不純物が最終的に半導体基板表面に残留すると、半導体の電気特性を損ない、製品の歩留まりを低下させる。
【0004】
半導体リソグラフィー用共重合体中の金属不純物を除去する方法としては、例えば、共重合体を有機溶媒と水とを用いて抽出し、共重合体を有機層に、金属を水層に分配し、水層を除去する方法(特許文献1)や、脂環式炭化水素系重合体の有機溶媒溶液に当該重合体の貧溶媒及び酸を混合して重合体を凝固させた後に、凝固した重合体、非水溶性有機溶媒、酸、及び水を混合して金属を抽出させる方法(特許文献2)が報告されている。また、ノボラック樹脂溶液を、脱イオン水及び鉱酸溶液で洗浄した陽イオン交換樹脂及び陰イオン交換樹脂に通液する方法(特許文献3)、重合体が分散媒に分散した分散液を、予め酸性水溶液で洗浄したろ布などのフィルターでろ過して、金属含有量が低減された重合体湿粉を得る方法(特許文献4)、重合体溶液を粘土層間化合物、活性炭、及びシリカゲルなどの吸着剤に通すことにより金属を除去する方法(特許文献5)などが報告されている。他にも、レジスト用重合体溶液に、重合体中の金属不純物の当量以上の、水溶性かつ錯形成能力のある化合物を添加し反応を完了させた後、純水で洗浄する方法(特許文献6)が報告されている。しかし、これらの方法は操作が煩雑であり、商業スケールでの共重合体製造には適用するのが難しかった。
【0005】
一方、共重合体製造後に金属を除去するのではなく、金属含有量の少ない原料を用いることにより、共重合体に含まれる金属を低減させる方法もある。例えば、フォトレジスト用重合体の原料となる単量体について、薄膜蒸留によりNa、Mg、K、Ca、Mn、Fe、及びCuの含有量がそれぞれ50ppb以下のフォトレジスト用単量体を得る方法(特許文献7)や、アダマンタン骨格やラクトン骨格等の環式骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルを分子蒸留あるいはキレート樹脂による吸着処理に付すことで金属含有量が500ppb以下の環式骨格を有する(メタ)アクリル酸エステルを得る方法(特許文献8)、超純水で単量体を水洗する方法(特許文献9)が報告されている。
【0006】
ところで、重合開始剤もまた重要な原料のひとつである。半導体リソグラフィー用共重合体は高分子体としては分子量が比較的小さいものが多い。そのため重合開始剤の使用量は比較的多く、原料モノマー総量の数モル%から十数モル%に及ぶことが少なくない。中でもアゾ系重合開始剤はその製造工程に由来して高濃度の金属含有量を有するものもあり、それを用いて製造される共重合体の金属含有量に大きく影響することが懸念される。重合開始剤中の金属含有量の低減方法として、アゾ系重合開始剤を非水溶性溶剤に溶解した溶液に水を加えて、金属を水層に抽出後除去する方法(特許文献10)があり、1回の抽出操作でナトリウム含有量が重合開始剤に対して3300ppbから500ppb以下に低減されることが報告されている。しかしながら、この方法では処理工程が増え、かつ、余分な廃液が出るなどの問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2006−037117号公報
【特許文献2】特開2003−342319号公報
【特許文献3】特開平09−143237号公報
【特許文献4】特開2008−038013号公報
【特許文献5】特開平07−074073号公報
【特許文献6】特開2002−182402号公報
【特許文献7】特開2001−201868号公報
【特許文献8】特開2002−226436号公報
【特許文献9】特開2006−188575号公報
【特許文献10】特開2008−074909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、簡便かつ安価な方法で半導体リソグラフィー用共重合体の製造に用いられる重合開始剤中の金属不純物を効率よく除去し、その金属不純物の含有量が低減された重合開始剤を用いて、金属不純物の含有量が極めて少ない半導体リソグラフィー用共重合体を製造する方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意検討した結果、半導体リソグラフィー用共重合体の製造に用いられる重合開始剤を溶剤に溶解した後、特定の孔径を有するフィルターに通液させることにより、極めて簡便に、重合開始剤中の金属含有量を低減し、その重合開始剤を用いて、金属不純物の含有量が少ない半導体リソグラフィー用共重合体を製造することが可能であることを知見し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明の一態様によれば、
重合体の製造に用いる重合開始剤の精製方法であって、
有機溶剤に溶解された重合開始剤の溶液を、公称孔径が1.0μm以下のフィルターに通液させて、重合開始剤溶液のナトリウム含有量を、重合開始剤の質量に対して、300ppb以下に低減させる、通液工程を含んでなる、重合開始剤の精製方法が提供される。
【0011】
すなわち、本発明の一態様によれば、
ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位(A)、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用で解離する基でヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位(B)、ラクトン構造を有する繰り返し単位(C)、及び環状エーテル構造を有する繰り返し単位(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の繰り返し単位を含む半導体リソグラフィー用重合体の製造方法であって、
上記の精製方法により精製された重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により、前記半導体リソグラフィー用重合体を合成する重合工程を含んでなる、半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法が提供される。
【0012】
すなわち、本発明の一態様によれば、
ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位(A)、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用で解離する基でヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位(B)、ラクトン構造を有する繰り返し単位(C)、及び環状エーテル構造を有する繰り返し単位(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の繰り返し単位を含む半導体リソグラフィー用重合体の製造方法であって、
重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により前記半導体リソグラフィー用重合体を合成する、滴下重合法を用いた重合工程を含んでなり、
前記滴下重合法が、少なくとも、
重合開始剤を含む溶液の貯蔵槽と、
重合反応槽と、
前記貯蔵槽から前記重合反応槽への流路上に設置されてなる公称孔径1.0μm以下のフィルターと
を備えてなる重合反応装置を用いる、半導体リソグラフィー用重合体の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、イオン交換能やゼータ電位を有さないフィルターであっても、特定の大きさ以下の孔径を有するフィルターであれば、重合開始剤中の金属不純物を除去することが可能である。また、本発明によれば、大掛かりな製造装置の改造や手間のかかる工程を必要とすることなく、金属不純物の含有量が少ない半導体リソグラフィー用共重合体を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態について説明するが、本発明は以下の実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で、当業者の通常の知識に基づいて、以下の実施の形態に対し適宜変更、改良等が加えられたものも本発明の範囲に入ることが理解されるべきである。
【0015】
重合開始剤の精製方法
本発明の重合体の製造に用いる重合開始剤の精製方法は、重合開始剤の金属不純物を除去する通液工程を含むものである。以下、通液工程について、詳細に説明する。
【0016】
通液工程
本発明の通液工程は、半導体リソグラフィー用共重合体の製造に用いられる重合開始剤の金属不純物を除去する工程である。通液工程では、様々な種類の金属不純物を除去できることが好ましく、金属不純物としては、例えば、ナトリウム、鉄、カリウム、カルシウム、アルミニウム、マグネシウム、鉛、及びバリウム等が挙げられ、特にナトリウムを除去できることが好ましい。
【0017】
半導体リソグラフィー用共重合体の製造に用いられる重合開始剤は、ラジカル重合開始剤として公知のものを用いることができる。重合開始剤としては、例えば、アゾ化合物や過酸化物等のラジカル重合開始剤が好ましい。アゾ系化合物の重合開始剤の具体例として、2,2'−アゾビスイソブチロニトリル、2,2'−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、ジメチル2,2’−アゾビス(2−メチルプロピオネート)、1,1'−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、4,4'−アゾビス(4−シアノ吉草酸)等を挙げることができる。過酸化物の重合開始剤の具体例として、デカノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(3,5,5−トリメチルヘキサノイル)パーオキサイド、コハク酸パーオキサイド、tert−ブチルパーオキシ−2−エチルへキサノエート、tert−ブチルパーオキシピバレート、1,1,3,3−テトラメチルブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート等を挙げることができる。これらは単独若しくは混合して用いることができる。アゾ系化合物の重合開始剤は取り扱いの安全性が優れることからより好ましい。また、アゾ系化合物の重合開始剤はその製造方法に由来して金属分の極めて多い製品もあり、本発明による金属低減の効果が大きい点でも好ましい。
【0018】
重合開始剤を溶解する有機溶剤は、重合開始剤を溶解するものであれば特に制限されない。具体例としては、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸プロピル、酢酸イソプロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等を挙げることができる。これらの溶剤はそれぞれ単独で用いても良いし、複数の溶剤を混合して用いても良い。さらに、上記有機溶剤や重合開始剤と溶解可能な範囲で、水を混合しても良い。
【0019】
本発明の通液工程において、重合開始剤の金属除去に用いられるフィルターは、通常、液体ろ過用として市販されているものを使用することができる。フィルターの形態としては、メンブレンフィルター、中空糸膜フィルター、プリーツ膜フィルター、並びに不織布、セルロース、及びケイソウ土などの濾材を充填したフィルターなどを用いることができる。メンブレンフィルター、中空糸膜フィルター、及びプリーツ膜フィルターのろ材はポリエチレン、超高密度ポリエチレン、及びポリプロピレンなどのポリオレフィン製、PTFEなどのフッ素樹脂製、並びにナイロン製などであることが好ましい。また、それらのフィルターには陽イオン交換樹脂などのイオン交換体や、濾過される有機溶媒溶液にゼータ電位を生じさせるカチオン電荷調節剤などが含まれていてもよい。
【0020】
上記のフィルターの公称孔径は、1.0μm以下、好ましくは0.5μm以下、より好ましくは0.03μm以下である。また、フィルターの公称孔径の下限値は、特に限定されるものではないが、通常、0.01μmである。ここでいう公称孔径とは、フィルターの分離性能を示す名目上の孔径であり、例えば、バブルポイント試験、水銀圧入法試験、標準粒子補足試験など、フィルターの製造元により決められた試験法により決定される孔径である。市販品を用いた場合、製造元のカタログデータに記載の値である。公称孔径を1.0μm以下程度にすることで、重合開始剤溶液を1回フィルターに通液させた後の重合開始剤溶液の金属含有量を300ppb以下に低減することができ、それを用いて製造した共重合体の金属含有量も低減することができる。本発明においては、重合開始剤の金属含有量をより低減させるために、通液工程を2回以上行ってもよい。
【0021】
なお、本発明はいかなる理論にも拘束されるものではないが、金属不純物の除去のメカニズムとしては、およそ以下のようなものではないかと推察される。もっとも、本発明が以下の説明によって限定されることがあってはならないことは言うまでもない。通常、金属分は、水溶液中でイオン状態にあるため、その径は極小であり、公称孔径が0.01〜1.0μm程度のフィルターで除去できるものではない。そのため、イオン交換能やゼータ電位を有するフィルターを用いて除去することが通常である。しかし、金属不純物を含む重合開始剤を有機溶媒に溶解させると、金属はイオン状態を保持できず、各金属粒子は、数個〜数十個ないしそれ以上の数の原子が集合したクラスターの様な状態を形成しているのではないかと考えられる。そこで、本発明においては、イオン交換能やゼータ電位を有さないフィルターであっても、特定の大きさ以下の公称孔径を有するフィルターを用いることで、意外にも、重合開始剤中の金属不純物を除去できることを知見した。
【0022】
重合開始剤精製時の温度は、高すぎると重合開始剤が分解するため好ましくなく、低すぎると、重合開始剤の溶剤への溶解度が小さくなるので効率的でない。通常、0〜40℃、好ましくは5〜30℃、特に好ましくは10〜25℃の範囲を選択するのがよい。
【0023】
なお、本発明による重合開始剤の精製方法においては、重合開始剤が通液工程以外の精製工程をさらに経ることは特に制限されない。
【0024】
半導体リソグラフィー用重合体の製造方法
本発明の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法は、本発明による重合開始剤の精製方法により精製された重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により、重合体を合成する重合工程を含むものである。本発明の製造方法は、重合工程により得られた重合体を精製する精製工程をさらに含んでもよい。以下、共重合体の構造及び各工程について、詳細に説明する。
【0025】
本発明による半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法においては、本発明による重合開始剤の精製方法によって金属不純物量が低減された重合開始剤を用いることで、重合工程で得られる重合体に含まれる金属不純物量を低減することができる。
【0026】
なお、本発明による半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法においては、重合開始剤の水洗処理を行わないことが好ましい。水洗処理とは、例えば、重合開始剤を非水溶性溶剤に溶解した溶液に水を加えて、金属不純物を水層に抽出して、金属不純物を除去する方法のことである。水洗処理を行うことで、処理工程が増え、かつ、余分な廃液が出るためである。
【0027】
共重合体の構造
本発明により製造される半導体リソグラフィー用共重合体は、ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位(A)、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用で解離する基(以下、「酸解離性溶解抑制基」と言うことがある)でヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位(B)、ラクトン構造を有する繰り返し単位(C)、環状エーテル構造を有する繰り返し単位(D)から選ばれる少なくとも1種以上の繰り返し単位を含むものである。また、必要に応じて、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用に安定な構造(以下、「酸安定性溶解抑制構造」と言うことがある)を有する繰り返し単位(E)等を含むことができる。これらの繰り返し単位は、半導体リソグラフィーに使用する薄膜の目的に応じて選択することができる。
【0028】
例えば、化学増幅ポジ型レジスト膜に用いる場合、繰り返し単位(B)を必ず含み、繰り返し単位(A)及び(C)から選ばれる少なくとも1種以上と、必要に応じて、繰り返し単位(E)を含むことができる。ネガ型レジスト膜に用いる場合、繰り返し単位(A)及び(D)から選ばれる少なくとも1種以上を必ず含み、必要に応じて、繰り返し単位(C)及び(E)から選ばれる少なくとも1種以上を含むことができる。反射防止膜や液浸用トップコート膜に用いる場合、繰り返し単位(A)及び(D)から選ばれる少なくとも1種以上を必ず含み、必要に応じて、繰り返し単位(B)、(C)、及び(E)から選ばれる少なくとも1種以上を含むことができる。
【0029】
繰り返し単位(A)
繰り返し単位(A)は、側鎖にヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位であり、重合体の、基板や下地膜への密着性を高めたり、リソグラフィー溶媒やアルカリ現像液への溶解性を制御したり、硬化剤と反応して架橋構造を形成したりする働きを与える。
【0030】
繰り返し単位(A)の構造としては、式(A1)乃至(A3)で表される構造が特に好ましい。
【0031】
【化1】

式(A1)中、R10は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のフッ素原子が置換しても良いアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R11は置換、又は非置換の芳香族炭化水素基である。R12は単結合、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の2価の炭化水素基、又はカルボニル基を表し、具体的には、単結合、メチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−プロピレン基、1,1,1−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2,3−プロピレン基等のフッ素原子が置換もよい炭素数1〜4のアルキレン基を挙げることができ、好ましくは、単結合、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−プロピレン基、1,1,1−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2,3−プロピレン基であり、特に好ましくは単結合である。iは1又は2の整数を表す。
【0032】
【化2】

式(A2)中、R13は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のフッ素原子が置換しても良いアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R14はフッ素原子、酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数2〜14の2〜4価の炭化水素基を表し、具体的には、エチレン基、イソプロピレン基等の炭素数2〜4の直鎖状若しくは分岐状の飽和炭化水素基と、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、7−oxa−ノルボルナン環、7−thia−ノルボルナン環、アダマンタン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等を有する酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数5〜14の飽和脂環炭化水素基を挙げることができ、好ましくは、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、アダマンタン環である。R15は単結合、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の2価の炭化水素基を表し、具体的には、単結合、メチレン基、1,1−エチレン基、2,2−プロピレン基、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−プロピレン基、1,1,1−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2,3−プロピレン基等のフッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4のアルキレン基を挙げることができ、好ましくは、単結合、1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2,2−プロピレン基、1,1,1−トリフルオロ−2−トリフルオロメチル−2,3−プロピレン基である。R14がアダマンチル基、R15が単結合である組合せが特に好ましい。jは1〜3の整数を表す。
【0033】
【化3】

式(A3)中、R16は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等のフッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R17は、酸素原子若しくは硫黄原子を含んでも良い炭素数6〜12の2価の脂環炭化水素基を表し、具体的には、ノルボルナン環、7−oxa−ノルボルナン環、7−thia−ノルボルナン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等を有する酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い脂環炭化水素基を挙げることができ、好ましくはノルボルナン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環である。kは0又は1の整数を表す。
【0034】
以下に繰り返し単位(A)の具体的な例を挙げるが、本発明を限定するものではない。繰り返し単位(A)の中から、1種類、又は異なる構造の複数種類を選択して用いることができる。
【0035】
【化4】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0036】
【化5】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0037】
【化6】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0038】
繰り返し単位(B)
繰り返し単位(B)は、OH基を酸解離性溶解抑制基で保護した構造を有する繰り返し単位であり、アルカリ現像液に対する重合体の溶解性を変化させる働きをする。好ましい例として、式(A1)乃至(A3)で表される構造のOH基を、式(b1)又は(b2)で表される酸解離性溶解抑制基で保護した構造を挙げることができる。
【0039】
【化7】

式(b1)中、*は式(b1)としての結合部位を表し、R20及びR21はそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができる。R22は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル基等の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基及び、フェニル基、ナフチル基等の炭素数6〜12のアリール基等を挙げることができる。尚、R22はR20又はR21と結合して環、具体的にはシクロペンタン環、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、アダマンタン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等の炭素数5〜12の脂環を形成しても良い。特に、R22に、又は、R22がR20若しくはR21と結合して、飽和脂環、具体的にはシクロペンタン環、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、アダマンタン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等が含まれると、リソグラフィー前後でのアルカリ現像液に対する溶解性の差が大きく、微細パターンを描くのに好ましい。
【0040】
【化8】

式(b2)中、*は式(b2)としての結合部位を表し、R23及びR24はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等の炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができる。R25は炭素数1〜12の炭化水素基を表し、具体的にはメチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、t−ブチル基、2−エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、ノルボルニル基、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、アダマンチル基、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル基等の炭素数1〜12の直鎖、分岐鎖又は環状のアルキル基を挙げることができる。尚、R23は、R24又はR25と結合して環を形成しても良く、R23がR24と結合した環の具体例として、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン環、アダマンタン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等を、又、R23がR25と結合した環の具体例として、ヒドロフラン環、ヒドロピラン環等をそれぞれ挙げることができる。
【0041】
以下に、繰り返し単位(B)の具体的な例を挙げるが、本発明を限定するものではない。繰り返し単位(B)の中から、1種類、若しくは異なる構造の複数種類を選択して用いることができる。
【0042】
【化9】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0043】
【化10】


(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0044】
繰り返し単位(C)
繰り返し単位(C)は、ラクトン構造を有する繰り返し単位であり、基板や下地膜への密着性を高めたり、リソグラフィー溶媒やアルカリ現像液への溶解性を制御したりする働きを与える。好ましい例として、式(C1)で表される構造を挙げることができる。
【0045】
【化11】

式(C1)中、R30は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R31は単結合又は2価の連結基を表す。2価の連結基はC1〜C4のアルキレン基又は該アルキレン基に酸素原子、カルボニル基、又はカルボニルオキシ基が置換した基を表す。R32は式(c)で表されるラクトン構造含有基を表す。
【0046】
【化12】

式(c)中、R301〜R308のいずれか1つは、R32としての結合部位である単結合を表し、残りの、R301〜R308は、水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基又はアルコキシ基を表すか、或いは、R301〜R308のいずれか1つは、R32としての結合部位を有し、他の、R301〜R308のいずれか1つ又は2つと結合して炭素数5〜15の脂環を形成する、酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数3〜14の炭化水素基を表し、残りの、R301〜R308は、いずれか1つ又は2つが該炭素数5〜15の脂環を形成するための単結合を表し、その他の、R301〜R308は、水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基又はアルコキシ基を表す。mは0又は1の整数を表す。
【0047】
上記の脂環の具体例としては、シクロペンタン環、シクロヘキサン環、ノルボルナン環、7−oxa−ノルボルナン環、7−thia−ノルボルナン環、テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカン環等、好ましくは、ノルボルナン環、7−oxa−ノルボルナン環を挙げることができる。炭素数1〜4の炭化水素基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基等を挙げることができ、炭素数1〜4のアルコキシ基の具体例としては、メトキシ基、エトキシ基等を挙げることができる。
【0048】
式(c)中、R301〜R308のいずれか1つがR32としての結合部位を有する単結合を表し、残りのR301〜R308は、水素原子、又は、炭素数1〜4の炭化水素基若しくはアルコキシ基を表すラクトン構造の特に好ましい例として、γ−ブチロラクトン構造、δ−バレロラクトン構造を挙げることができる。R301〜R308のいずれか1つがR32としての結合部位を有し、他のR301〜R308のいずれか1つ又は2つと結合して炭素数5〜15の脂環を形成する、酸素原子若しくは硫黄原子を含んでも良い炭素数3〜14の炭化水素基を表し、残りのR301〜R308は、水素原子、又は、炭素数1〜4の炭化水素基若しくはアルコキシ基を表すラクトン構造の特に好ましい例として、1,3−シクロヘキサンカルボラクトン構造、2,6−ノルボルナンカルボラクトン構造、7−oxa−2,6−ノルボルナンカルボラクトン構造、4−oxa−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカン−3−オン構造を挙げることができる。
【0049】
以下に繰り返し単位(C)の具体的な例を挙げるが、本発明を限定するものではない。繰り返し単位(C)の中から、1種類、若しくは異なる構造の複数種類を選択して用いることができる。
【0050】
【化13】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0051】
繰り返し単位(D)
繰り返し単位(D)は、環状エーテル構造を有する繰り返し単位であり、基板や下地膜への密着性を高めたり、リソグラフィー溶媒やアルカリ現像液への溶解性を制御したり、硬化剤と反応して架橋構造を形成したりする働きを与える。好ましい例として、式(D1)で表される構造を挙げることができる。
【0052】
【化14】

式(D1)中、R40は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等の炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R41は3乃至6員環の環状エーテル構造を含む炭素数3〜7の炭化水素基を表し、具体的には、エポキシ環、オキセタン環、テトラヒドロフラン環、テトラヒドロピラン環を有する炭化水素基であり、より具体的にはグリシジル基、オキセタニルメチル基、テトラヒドロフラニルメチル基、テトラヒドロピラニルメチル基等を挙げることができ、特に好ましくはグリシジル基である。
【0053】
以下に、繰り返し単位(D)の具体的な例を挙げるが、本発明を限定するものではない。繰り返し単位(D)の中から、1種類、若しくは異なる構造の複数種類を選択して用いることができる。
【0054】
【化15】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0055】
繰り返し単位(E)
繰り返し単位(E)は、酸の作用にあっても解離しない酸安定性溶解抑制基でヒドロキシ基又はカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位であり、リソグラフィー溶媒やアルカリ現像液への溶解性、薄膜の屈折率や光線透過率等の光学特性等を制御する働きを与える。好ましい例として、式(A1)、式(A2)、及び式(A3)で表される単量体の水酸基の水素原子と酸安定性溶解抑制基が置換した、それぞれ繰り返し単位(E1)、(E2)、及び(E3)を挙げることができる。
【0056】
繰り返し単位(E1)乃至(E3)の酸安定性溶解抑制基としては、OH基の水素原子と置換して酸素原子と結合する炭素が1〜2級炭素である炭素数1〜12の脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基、又は、メチル基及び1−アダマンチル基が結合した構造を挙げることができる。具体的には、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、2−ノルボルニル基、2−イソボルニル基、8−トリシクロ[5.2.1.02,6]デカニル基、1−アダマンチル基、2−アダマンチル基、4−テトラシクロ[4.4.0.12,5.17,10]ドデカニル基、フェニル基、ベンジル基、ナフチル基、アントラセニル基等を挙げることができる。
【0057】
また、もう一つの好ましい例として、式(E4)で表される繰り返し単位を挙げることができる。
【0058】
【化16】

式(E4)中、R60は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、具体的には、水素原子、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、トリフルオロメチル基等のフッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4のアルキル基を挙げることができ、好ましくは、水素原子、メチル基、トリフルオロメチル基である。R61は水素原子、又は、R62と結合する単結合又は炭素数1〜4のアルキレン基であり、具体的には、水素原子、単結合、メチレン基、エチレン基、イソプロピレン基等を挙げることができる。R62は炭素数6〜14の芳香族炭化水素基であり、具体的にはベンゼン環、ナフタレン環、アントラセン環等を挙げることができる。
【0059】
以下に、繰り返し単位(E)の具体的な例を挙げるが、本発明を限定するものではない。繰り返し単位(E)の中から、1種類、又は異なる構造の複数種類を選択して用いることができる。
【0060】
【化17】

(式中、RxはH,CH又はCFを表す。)
【0061】
各繰り返し単位の組成は、半導体リソグラフィーに使用する薄膜の目的によって異なる。以下に、使用する薄膜の目的毎の繰り返し単位の組成範囲を例示する。
【0062】
化学増幅ポジ型レジスト膜に用いる場合、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(C)を合わせて20〜95モル%、好ましくは30〜90モル%、より好ましくは40〜85モル%、繰り返し単位(B)が5〜80モル%、好ましくは10〜70モル%、より好ましくは15〜60モル%、繰り返し単位(E)が0〜50モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%の範囲から選択する。
【0063】
ネガ型レジスト膜に用いる場合、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(D)を合わせて50〜100モル%、好ましくは60〜100モル%、より好ましくは70〜100モル%、繰り返し単位(C)が0〜50モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%、繰り返し単位(E)が0〜50モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%の範囲から選択する。
【0064】
反射防止膜や液浸用トップコート膜に用いる場合、繰り返し単位(A)と繰り返し単位(D)を合わせて5〜80モル%、好ましくは10〜70モル%、より好ましくは15〜60モル%、繰り返し単位(B)が0〜50モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%、繰り返し単位(C)が0〜50モル%、好ましくは0〜40モル%、より好ましくは0〜30モル%、繰り返し単位(E)が0〜95モル%、好ましくは10〜90モル%、より好ましくは20〜85モル%の範囲から選択する。
【0065】
重合工程
本発明の重合工程は、上記の共重合体の繰り返し単位を与える単量体を、ラジカル重合開始剤の存在下、有機溶媒中でラジカル重合させる工程であり、公知の方法にて実施できる。例えば、単量体を重合開始剤と共に溶媒に溶解し、そのまま加熱して重合させる一括昇温法、単量体及び重合開始剤を、加熱した溶媒中に滴下して重合させる滴下重合法がある。さらに、滴下重合法には、単量体を重合開始剤と共に必要に応じて溶媒に溶解し、加熱した溶媒中に滴下して重合させる混合滴下法、単量体と重合開始剤を別々に、必要に応じて溶媒に溶解し、加熱した溶媒中に別々に滴下して重合させる独立滴下法、等が挙げられる。本発明においては、滴下重合法が好ましい。
【0066】
ここで、一括昇温法は重合系内において、又、混合滴下法は重合系内に滴下する前の滴下液貯槽内において、未反応単量体の濃度が高い状態で低濃度のラジカルと接触する機会があるため、パターン欠陥発生原因のひとつである分子量10万以上の高分子量体(ハイポリマー)が生成しやすい傾向にある。一方、独立滴下法は、滴下液貯槽で重合開始剤と単量体が共存しないこと、重合系内に滴下した際も未反応単量体濃度が低い状態を保つことから、ハイポリマーが生成しにくいので、本発明における重合方法としては独立滴下法が特に好ましい。尚、混合滴下法及び独立滴下法において、滴下時間と共に滴下する単量体の組成、単量体、重合開始剤及び連鎖移動剤の組成比等を変化させても良い。
【0067】
重合開始剤は先に述べた方法により、公称孔径が1.0μm以下のフィルターに通液して金属を除去したものを使用する。重合開始剤の使用量は、目的とする分子量や、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、溶媒等の種類、繰り返し単位組成、重合温度や滴下速度等に応じて選択することができる。
【0068】
連鎖移動剤は、連鎖移動剤として公知のものを、必要に応じて用いることができる。中でもチオール化合物が好ましく、公知のチオール化合物の中から幅広く選択することがでる。具体的には、t−ドデシルメルカプタン、メルカプトエタノール、メルカプト酢酸、メルカプトプロピオン酸等を挙げることができる。また、2−ヒドロキシ−1,1,1,3,3,3−ヘキサフルオロ−2−プロピル基が飽和脂肪族炭化水素に結合した構造を有するチオール化合物は、リソグラフィーパターンのラフネスや欠陥を抑える効果があるため特に好ましい。連鎖移動剤の使用量は、目的とする分子量や、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤及び溶媒等の種類、繰り返し単位組成、重合温度や滴下速度等に応じて選択することができる。
【0069】
滴下液中の単量体、及び重合開始剤は、それ自体が液体の場合は溶媒に溶解することなく、そのまま供給することも可能であるが、単量体若しくは重合開始剤が粘調な液体や、固体である場合は、溶媒に溶解して用いる必要がある。単量体や重合開始剤の濃度は生産性の面で言えば高い方が好ましいが、濃度が高すぎると、溶液粘度が高くなって操作性が悪くなったり、単量体又は重合開始剤が固体である場合は析出したり、重合系内での拡散に時間がかかったりしてハイポリマーが生成しやすい場合がある。したがって、供給操作に問題のない粘度範囲で、各単量体及び重合開始剤が十分に溶解し、かつ、供給中に析出せず、重合系内で拡散し易い濃度を選択することが好ましい。具体的な濃度は、各溶液の溶質と溶媒の組合せ等により異なるが、通常、全単量体の合計濃度及び重合開始剤濃度が、例えば各々5〜60質量%、好ましくは10〜50質量%の範囲となるように調製する。
【0070】
また、重合系内に低温の単量体溶液を滴下すると、局所的に低温で、単量体濃度が高く、ラジカル濃度が低い環境が発生し、ハイポリマーが生成する可能性があるため好ましくない。このため、単量体溶液は予備加熱して供給することが好ましい。
【0071】
単量体溶液を予備加熱する方法としては、単量体溶液を貯槽内若しくは重合系内に供給する直前で熱交換器等により加温する方法が挙げられる。予備加熱の温度は25℃以上が好ましく、30℃以上がより好ましい。但し、単量体溶液を貯槽内で予備加熱する場合は、加熱状態で長時間保持することになるため、温度が高いとハイポリマーが生成する可能性がある。このため、貯槽内での予備加熱する場合は、好ましくは50℃以下、より好ましくは40℃以下とする。なお、開始剤溶液も予備加熱することが可能であるが、温度が高すぎると重合開始剤が供給前に分解してしまうので、通常、40℃以下、好ましくは30℃以下、より好ましくは25℃以下とする。
【0072】
混合滴下法及び独立滴下法における滴下時間は、短時間であると分子量分布が広くなりやすいことや、一度に大量の溶液が滴下されるため重合液の温度低下が起こることから好ましくない。逆に、長時間であると共重合体に必要以上の熱履歴がかかることと、生産性が低下することから好ましくない。従って、通常0.5〜24時間、好ましくは1〜12時間、特に好ましくは2〜8時間の範囲から選択する。
【0073】
また、滴下終了後、及び、一括昇温法における重合温度への昇温後は、一定時間温度を維持するか、若しくは更に昇温する等して熟成を行い、残存する未反応単量体を反応させることが好ましい。熟成時間は長すぎると時間当たりの生産効率が低下すること、共重合体に必要以上の熱履歴がかかることから好ましくない。従って、通常12時間以内、好ましくは6時間以内、特に好ましくは1〜4時間の範囲から選択する。
【0074】
重合反応に用いる溶媒は、原料単量体、得られた共重合体、重合開始剤及び連鎖移動剤を安定して溶解し得る溶媒であれば特に制限されない。重合溶媒の具体例としては、水、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、メチルイソアミルケトン、メチルアミルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール等のアルコール類;エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル等のエーテルアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル、乳酸メチル、乳酸エチル等のエステル類;エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート等のエーテルエステル類;テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類;トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類;N,N−ジメチルホルムアミド、アセトニトリル等を挙げることができる。単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、共重合体の溶解性と沸点から、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、イソプロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸イソプロピル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル、テトラヒドロフラン、1,4−ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、アセトニトリルが好ましい。これらは、単独又は2種以上を混合して用いることができる。また、エチレングリコールモノブチルエーテル、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブチルアセテート、3−エトキシプロピオン酸エチル、γ−ブチロラクトン、ジエチレングリコージメチルエーテル、N−メチルピロリドン、ジメチルスルホキシド等の、単量体、重合開始剤、連鎖移動剤、共重合体の溶解性が高く、高沸点の化合物を混合して用いても良い。
【0075】
重合溶媒の使用量には特に制限はないが、溶媒の使用量があまりに少なすぎると単量体が析出したり高粘度になりすぎて重合系を均一に保てなくなったりする場合があり、多すぎると単量体の転化率が不十分であったり共重合体の分子量が所望の値まで高めることができなかったりする場合がある。通常、単量体1重量部に対して0.5〜20重量部、好ましくは1〜10重量部である。
【0076】
混合滴下法及び独立滴下法における、反応槽内に初期に張り込む重合溶媒(以下、初期張り溶媒と言うことがある)の量は、攪拌が可能な最低量以上であればよいが、必要以上に多いと、供給できる単量体溶液量が少なくなり、生産効率が低下するため好ましくない。通常は、最終仕込み量(即ち、初期張り溶媒と、滴下する単量体溶液及び開始剤溶液の総量)に対して、例えば容量比で1/30以上、好ましくは1/20〜1/2、特に好ましくは1/10〜1/3の範囲から選択する。なお、初期張り溶媒に単量体の一部を予め混合しても良い。
【0077】
重合温度は、溶媒、単量体、連鎖移動剤等の沸点、重合開始剤の半減期温度等によって適宜選択することができる。低温では重合が進みにくいため生産性に問題があり、又、必要以上に高温にすると、単量体及び共重合体の安定性の点で問題がある。したがって、好ましくは40〜160℃、特に好ましくは60〜120℃の範囲で選択する。重合温度は、共重合体の分子量や共重合組成に大きく影響するので、精密に制御する必要がある。一方、重合反応は一般的に発熱反応であり、重合温度が上昇する傾向にあるため、一定温度に制御することが難しい。このため、本発明では、重合溶媒として、目標とする重合温度に近い沸点を有する少なくとも1種以上の化合物を含有させ、重合温度を、該化合物の、重合圧力における初留点以上に設定することが好ましい。この方法によれば、重合溶媒の気化潜熱によって重合温度の上昇を抑制することができる。
【0078】
重合圧力は、適宜設定することができるが、開始剤からラジカルが発生する際に、アゾ系の場合は窒素ガスが、過酸化物径の場合は酸素ガスが発生することから、重合圧力の変動を抑制する為に、重合系を開放系とし大気圧近傍で行うことが好ましい。
【0079】
重合反応装置
本発明の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法には、従来公知の重合反応装置を用いることができる。例えば、上記の滴下重合法においては、少なくとも、重合開始剤を含む溶液の貯蔵槽と、重合反応槽と、該貯蔵槽から該重合反応槽への流路上に設置されてなる公称孔径が1.0μm以下のフィルターとを備えてなる重合反応装置を用いることが好ましい。さらに、重合反応装置は、原料単量体を含む溶液の貯蔵槽を備えてもよい。このような装置を用いれば、重合開始剤の金属不純物の除去と、重合体の合成とを同一装置内において同時進行で行うことができるため、製造工程の手順や時間、コストを削減できるからである。
【0080】
精製工程
重合して得た共重合体は、重合溶媒、未反応単量体、オリゴマー、重合開始剤や連鎖移動剤及びこれらの反応副生物等の低分子量不純物を含んでおり、これらを精製工程によって除くことが好ましい。具体的には、重合反応液を、必要に応じて良溶媒を加えて希釈した後、貧溶媒と接触させて共重合体を固体として析出させ、不純物を貧溶媒相に抽出する(以下、再沈という)か、若しくは、液−液二相として貧溶媒相に不純物を抽出することによって行われる。再沈させた場合、析出した固体を濾過やデカンテーション等の方法で貧溶媒から分離した後、この固体を、良溶媒で再溶解して更に貧溶媒を加えて再沈する工程、若しくは、析出した固体を貧溶媒で洗浄する工程によって更に精製することができる。又、液−液二層分離した場合、分液によって貧溶媒相を分離した後、得られた共重合体溶液に貧溶媒を加えて再沈若しくは液液二相分離によって更に精製することができる。これらの操作は、同じ操作を繰り返しても、異なる操作を組み合わせても良い。
【0081】
この精製工程に用いる貧溶媒としては、水、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、乳酸エチル等の水酸基を有する化合物、ペンタン、n−ヘキサン、iso−ヘキサン、n−ヘプタン、シクロペンタン、エチルシクロヘキサン等の直鎖状、分岐状若しくは環状の飽和炭化水素類、若しくは、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類を挙げることができる。これらの溶媒は、それぞれ単独若しくは2種以上を混合して用いることができる。又、良溶媒としては、上記の重合溶媒や後述する塗膜形成用溶媒で例示する溶媒等を挙げることができ、良溶媒に貧溶媒を混合して用いることもできる。
【0082】
精製工程に用いる貧溶媒の種類と量は、共重合体を低分子量化合物と分離できれば特に制限されないが、共重合体の貧溶媒への溶解度、重合に用いた溶媒の種類と量、不純物の種類と量等に応じて適宜選択することができる。貧溶媒の量は、少ないと重合溶媒や未反応単量体等の不純物の分離が不十分となり、逆に多すぎると廃液が増えるなど、作業性及びコストの面で好ましくない。一般的には、必要に応じて良溶媒で希釈した重合反応液の総量に対して重量で0.5〜50倍であり、好ましくは1〜20倍であり、更に好ましくは2〜10倍である。
【0083】
精製工程の温度は、共重合体の分子量、分子量分布、残存単量体や開始剤残査等の不純物の除去率、更にはリソグラフィーにおける様々な特性等に大きく影響するため、厳密に制御する必要がある。精製工程の温度は、低すぎると再沈溶媒や洗浄溶媒への不純物の溶解性が不十分となり、不純物の除去が十分に行われないため効率的でなく、逆に高すぎると共重合体が再沈溶媒及び洗浄溶媒に溶出し、共重合体の低分子領域における組成バランスが崩れたり、収率が低下したりするため好ましくない。このため、精製工程は温度0〜40℃の範囲で、好ましくは0〜30℃の範囲で実施することが好ましい。
【0084】
このようにして精製した後の共重合体は、乾燥し粉体として取り出すか、若しくは乾燥前若しくは乾燥後に良溶媒を投入して再溶解し、溶液として取り出すことができる。再溶解に用いる良溶媒は、上記の重合溶媒や後述する塗膜形成用溶媒で例示する溶媒等を用いることができる。
【0085】
上記精製後、共重合体溶液の溶媒は、後述するリソグラフィー組成物に適した塗膜形成用溶媒に置換してもよい。置換の方法は、共重合体溶液を減圧下で加熱して精製に用いた溶媒などの低沸点物質を留去させ、ここに塗膜形成用溶媒を供給しながら更に初期の溶媒と供給した溶媒とを一緒に留去させることによりおこなう。精製時に用いた溶媒などの低沸点不純物を除去し、共重合体を塗膜形成用溶液に仕上げることができる。
【0086】
減圧加熱時の温度は、共重合体が変質しない温度であれば特に制限されないが、通常100℃以下が好ましく、80℃以下がより好ましく、更に好ましくは70℃以下、特に好ましくは60℃以下である。
【0087】
また、溶媒を置換する際に、後から供給する塗膜形成用溶媒の量は、少なすぎると低沸点化合物が十分に除去できず、多すぎると置換に時間がかかり、共重合体に必要以上に熱履歴を与えるため好ましくない。その供給量は、通常、仕上がり溶液の溶媒として必要な量の1.05倍〜10倍、好ましくは1.1倍〜5倍、特に好ましくは1.2倍〜3倍の範囲から選択できる。
【0088】
塗膜形成用の溶媒としては、共重合体を溶解するものであれば特に制限されないが、通常、沸点、半導体基板やその他の塗布膜への影響、リソグラフィーに用いられる放射線の吸収を勘案して選択される。塗膜形成用に一般的に用いられる溶媒の例としては、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールn−ブチルエーテル、ジプロピレングリコールn−プロピルエーテル、ジプロピレングリコールn−ブチルエーテル、乳酸エチル、メチルアミルケトン、γ−ブチロラクトン、シクロヘキサノン、4−メチル−2−ペンタノール等の溶媒が挙げられる。
【0089】
なお、精製後に共重合体を粉体として取り出した場合は、塗膜形成溶媒と混合して溶解し、塗膜形成用溶液に仕上げることができる。
【0090】
本発明では、開始剤の金属除去により共重合体中の金属不純物は大幅に低減できているが、必要に応じてさらに共重合体から金属不純物を除去する工程を行っても良い。この工程は、共重合体溶液を、カチオン交換能を有するフィルターや、ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂などの正のゼータ電位を有する物質を含むフィルターに通液させる工程である。また、これらの工程は組み合わせて実施することができる。
【0091】
ポリアミドポリアミンエピクロロヒドリンカチオン樹脂などの正のゼータ電位を有する物質を含むフィルターとして、具体的には、(以下、商標)キュノ(株)製ゼータプラス40QSHやゼータプラス020GN、あるいはライフアシュアEFシリーズ等を例示できる。
【0092】
さらに、レジストのパターン欠陥の原因となるため好ましくないハイポリマー等のマイクロゲルを除去するために、共重合体溶液(あるいは上記の塗膜形成用溶液)をフィルターでろ過することが好ましい。フィルターの濾過精度は、0.2μm以下、好ましくは0.1μm以下、特に好ましくは0.05μm以下である。フィルターの材質は、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン、ポリアミド、ポリエステル、ポリアクリロニトリルなどの極性基含有樹脂、フッ化ポリエチレンなどのフッソ含有樹脂を挙げることができ、特に好ましくはポリアミドである。ポリアミド系フィルターの例としては、(以下、商標)、日本ポール(株)製のウルチプリーツP−ナイロン66、ウルチポアN66、キュノ(株)製のライフアシュアPSNシリーズ、ライフアシュアEFシリーズなどを挙げることができる。ポリオレフィン系フィルターとしては、日本インテグリス(株)製のマイクロガードプラスHC10、オプチマイザーD等を挙げることができる。これらのフィルターはそれぞれ単独で用いても2種類以上を組み合わせて用いても良い。
【実施例】
【0093】
以下、実施例を挙げて、本発明の実施の形態を更に具体的に説明する。但し、本発明は、これらの実施例に何ら制約されるものではない。以下、特に断りのない限り、部は質量基準である。
【0094】
実施例1
重合開始剤としてジメチル2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)製)3部を、メチルエチルケトン7部に溶解して均一な溶液とした後、公称孔径が0.01μmのポリプロピレン製中空糸膜フィルター(キュノ(株)製、商品名:ナノシールド)に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、ICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー(株)製、商品名:Agilent7500cs)を用いたICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して83ppbであった。
【0095】
実施例2
公称孔径が0.03μmのポリエチレン製メンブレンフィルター(日本インテグリス(株)製、商品名:47mmUPEディスクフィルター)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して120ppbであった。
【0096】
実施例3
公称孔径が0.2μmのPTFE製メンブレンフィルター(WHATMAN製、商品名:プラディスクシリンジフィルター)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して143ppbであった。
【0097】
実施例4
公称孔径が0.5μmのポリエチレン製メンブレンフィルター(日本インテグリス(株)製、商品名:47mmUPEディスクフィルター)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して180ppbであった。
実施例5
公称孔径が1.0μmのPEFE製メンブレンフィルター(Millipore(株)製、商品名:オムニポア)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して280ppbであった。
【0098】
実施例6
公称孔径が0.2μmのゼータプラスフィルター40QSH(イオン交換能あり、キュノ(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して2ppbであった。
【0099】
実施例7
公称孔径が0.2μmのゼータプラスフィルター020GN(ゼータ電位あり、キュノ(株)製)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して6ppbであった。
【0100】
実施例8
重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル((株)日本ファインケム製)1部を、メチルエチルケトン8部と水1部に溶解して均一な溶液とした後、公称孔径が0.2μmのゼータプラスフィルター40QSHフィルター(キュノ(株)製、イオン交換能あり)に通液した。実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して22ppbであった。
【0101】
比較例1
重合開始剤としてジメチル2,2´−アゾビス(2−メチルプロピオネート)(和光純薬工業(株)製)3部を、メチルエチルケトン7部に溶解して均一な溶液とした。この重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して4600ppbであった。
【0102】
比較例2
公称孔径が3μmのPTFE製メンブレンフィルター(Millipore(株)製、商品名:フロリナート)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して650ppbであった。
【0103】
比較例3
公称孔径が10μmのPTFE製メンブレンフィルター(Millipore(株)製、商品名:オムニポア)を使用した以外は、実施例1と同様に通液した。通液後の重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して1067ppbであった。
【0104】
比較例4
重合開始剤として2,2'−アゾビスイソブチロニトリル((株)日本ファインケム製)1部を、メチルエチルケトン9部に溶解して均一な溶液とした。この重合開始剤溶液を、実施例1と同様にICP質量分析法にて分析した結果、重合開始剤溶液のナトリウム濃度は重合開始剤の質量に対して6200ppbであった。
【0105】
実施例9
γ−ブチロラクトンメタクリレート/メタクリル酸グリシジル/メタクリル酸メチル/アントラセンメチルメタクリレート共重合体の製造
γ−ブチロラクトンメタクリレート1.2kg、メタクリル酸グリシジル0.9kg、メタクリル酸メチル1.6kg、アントラセンメチルメタクリレート0.7kgをメチルエチルケトン4.4kgに溶解し、滴下液1Aを調整した。実施例1で得られた重合開始剤溶液1.5kg(重合開始剤濃度:30重量%)を滴下液1Bとした。攪拌機と冷却器を備え付けたガラスライニング製の重合槽にメチルエチルケトン2.6kgを仕込み、窒素雰囲気とした。重合槽内のメチルエチルケトンを80℃に加熱した後、そこへ、25〜30℃に保った滴下液1Aと滴下液1Bをそれぞれ別々の貯蔵槽から、定量ポンプを用いて一定速度で4時間かけて79〜81℃に保った重合槽内に滴下して重合させた。滴下終了後、更に80〜81℃に保ったまま2時間熟成させた後、室温まで冷却して、重合液1を得た。
【0106】
この重合液1を、ICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー(株)製、商品名:Agilent7500cs)を用いたICP質量分析法にて分析した結果、ナトリウム含有量は4.5ppbであった。
【0107】
実施例10
3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート/2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート/γ−ブチロラクトンメタクリレート共重合体の製造
3−ヒドロキシ−1−アダマンチルメタクリレート1.2kg、2−メチル−2−アダマンチルメタクリレート2.8kg、及びγ−ブチロラクトンメタクリレート1.8kgをメチルエチルケトン6.5kgに溶解し、滴下液2Aを調製した。実施例5で得られた重合開始剤溶液(重合開始剤濃度:30重量%)0.6kgを滴下液2Bとした。攪拌機と冷却器を備え付けたガラスライニング製の重合槽にメチルエチルケトン4.2kgを仕込み、窒素雰囲気とした。重合槽内のメチルエチルケトンを80℃に加熱した後、そこへ、25℃から30℃に保った滴下液2Aと滴下液2Bをそれぞれ別々の貯蔵槽から、定量ポンプを用いて一定速度で4時間かけて79〜81℃に保った重合槽内に滴下して重合させた。滴下終了後、更に80〜81℃に保ったまま2時間熟成させた後、室温まで冷却して、重合液2を得た。
【0108】
この重合液2を、ICP質量分析装置(アジレント・テクノロジー(株)製、商品名:Agilent7500cs)を用いたICP質量分析法にて分析した結果、ナトリウム含有量は4.1ppbであった。
【0109】
比較例5
重合開始剤を、比較例2の重合開始剤溶液に変更した以外は、実施例9と同様に操作した。得られた重合液のナトリウム濃度は28ppbであった。
【0110】
比較例6
重合開始剤を、比較例1の重合開始剤溶液に変更した以外は、実施例10と同様に操作した。得られた重合液のナトリウム濃度は55ppbであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合体の製造に用いる重合開始剤の精製方法であって、
有機溶剤に溶解された重合開始剤の溶液を、公称孔径が1.0μm以下のフィルターに通液させて、重合開始剤溶液のナトリウム含有量を、重合開始剤の質量に対して、300ppb以下に低減させる、通液工程を含んでなる、重合開始剤の精製方法。
【請求項2】
前記フィルターがメンブレンフィルターである、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項3】
前記フィルターが中空糸膜フィルターである、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項4】
前記フィルターのろ材がポリオレフィン製である、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項5】
前記フィルターのろ材がフッ素樹脂製である、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項6】
前記フィルターが、イオン交換能を有するフィルターである、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項7】
前記フィルターが、ゼータ電位を有するフィルターである、請求項1に記載の重合開始剤の精製方法。
【請求項8】
ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位(A)、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用で解離する基でヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位(B)、ラクトン構造を有する繰り返し単位(C)、及び環状エーテル構造を有する繰り返し単位(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の繰り返し単位を含む半導体リソグラフィー用重合体の製造方法であって、
請求項1〜7のいずれか一項に記載の精製方法により精製された重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により、前記半導体リソグラフィー用重合体を合成する重合工程を含んでなる、半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法。
【請求項9】
前記重合開始剤がアゾ化合物を含む、請求項8に記載の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法。
【請求項10】
繰り返し単位(A)が、式(A1)
【化1】

{式(A1)中、R10は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R11は置換、又は、非置換の芳香族炭化水素基を表し、R12は単結合、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の2価の炭化水素基、又はカルボニル基を表し、iは1又は2の整数を表す。}、
式(A2)
【化2】

{式(A2)中、R13は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R14はフッ素原子、酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数2〜14の2〜4価の炭化水素基を表し、R15は単結合、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の2価の炭化水素基を表し、jは1〜3の整数を表す。}、及び
式(A3)
【化3】

{式(A3)中、R16は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R17は酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数6〜12の2価の脂環炭化水素基を表し、kは0又は1の整数を表す}
から選ばれる少なくとも1種以上の構造を含む、請求項8又は9に記載の半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法。
【請求項11】
繰り返し単位(B)が、繰り返し単位(A)の水酸基を、式(b1)
【化4】

{式(b1)中、*は式(b1)としての結合部位を表し、R20及びR21はそれぞれ独立して炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R22は炭素数1〜12の炭化水素基を表す。R22はR20又はR21と結合して環を形成しても良い。}、及び
式(b2)
【化5】

{式(b2)中、*は式(b2)としての結合部位を表し、R23及びR24はそれぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R25は炭素数1〜12の炭化水素基を表す。R23は、R24又はR25と結合して環を形成しても良い。}から選ばれる少なくとも1種以上の酸解離性溶解抑制基で保護した構造を含む、請求項8〜10のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法。
【請求項12】
繰り返し単位(C)が、式(C1)
【化6】

[式(C1)中、R30は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R31は単結合、又は、炭素数1〜4のアルキレン基、又は、該アルキレン基に酸素原子、カルボニル基、又はカルボニルオキシ基が置換した基を表し、R32は式(c)
【化7】

{式(c)中、R301〜R308のいずれか1つは、R32としての結合部位である単結合を表し、残りのR301〜R308は、水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基又はアルコキシ基を表すか、或いは、R301〜R308のいずれか1つは、R32としての結合部位を有し、他のR301〜R308のいずれか1つ又は2つと結合して炭素数5〜15の脂環を形成する、酸素原子又は硫黄原子を含んでも良い炭素数3〜14の炭化水素基を表し、残りのR301〜R308は、いずれか1つ又は2つが前記炭素数5〜15の脂環を形成するための単結合を表し、その他のR301〜R308は、水素原子、炭素数1〜4の炭化水素基又はアルコキシ基を表し、mは0又は1の整数を表す。}で表されるラクトン構造含有基を表す。]で表される構造を含む、請求項8〜11のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法。
【請求項13】
繰り返し単位(D)が、式(D1)
【化8】

{式(D1)中、R40は水素原子、又は、フッ素原子が置換しても良い炭素数1〜4の炭化水素基を表し、R41は3〜6員環の環状エーテル構造を含む炭素数3〜7の炭化水素基を表す。}で表される構造を含む、請求項8〜12のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用共重合体の製造方法。
【請求項14】
前記重合開始剤が、水洗処理を経ないものである、請求項8〜13のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法。
【請求項15】
前記重合工程において、重合方法として滴下重合法を用いる、請求項8〜14のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法。
【請求項16】
前記重合工程により得られた重合体を精製する、精製工程をさらに含んでなる、請求項8〜15のいずれか一項に記載の半導体リソグラフィー用重合体の製造方法。
【請求項17】
ヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を有する繰り返し単位(A)、アルカリ現像液への溶解を抑制すると共に酸の作用で解離する基でヒドロキシ基あるいはカルボキシ基を保護した構造を有する繰り返し単位(B)、ラクトン構造を有する繰り返し単位(C)、及び環状エーテル構造を有する繰り返し単位(D)からなる群から選ばれる少なくとも1種以上の繰り返し単位を含む半導体リソグラフィー用重合体の製造方法であって、
重合開始剤の存在下、ラジカル重合反応により前記半導体リソグラフィー用重合体を合成する、滴下重合法を用いた重合工程を含んでなり、
前記滴下重合法が、少なくとも、
重合開始剤を含む溶液の貯蔵槽と、
重合反応槽と、
前記貯蔵槽から前記重合反応槽への流路上に設置されてなる公称孔径1.0μm以下のフィルターと
を備えてなる重合反応装置を用いる、半導体リソグラフィー用重合体の製造方法。

【公開番号】特開2012−224793(P2012−224793A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−95415(P2011−95415)
【出願日】平成23年4月21日(2011.4.21)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】