説明

金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子

【課題】 良好な電荷分離性を有することによって、良好な光触媒活性を発揮できる金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を得る。
【解決手段】 本発明の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子表面にカーボンナノチューブが担持されている表面修飾酸化チタン粒子であって、該カーボンナノチューブが、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブであることを特徴とする。前記金属元素は、遷移金属元素であることが好ましく、特に鉄、ニッケル、コバルトから選択される少なくとも1種の元素が好ましい。また、前記金属元素は、酸化チタン粒子に対して0.1〜3.0重量%含まれていることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化、消臭、空気浄化、水質浄化、有害物質や汚れの分解、抗菌、抗カビ等の機能を発現する光触媒である金属元素先端担持カーボンナノチューブで表面修飾された酸化チタン粒子とその製造方法、及び該酸化チタン粒子を用いた有機化合物の酸化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタン粒子(二酸化チタン粒子)は、光が照射されると、価電子帯で強い酸化力を有するヒドロキシラジカルが発生し、さらに伝導帯で強い還元力を有するスーパーオキシドアニオン発生することにより、触媒活性を生じる光触媒として知られている。しかし、このような酸化チタン粒子光触媒は、再結合が起こると量子収率が減少し触媒活性が低下してしまうという問題があり、再結合が生じる確率を減少させて、光触媒能を向上させた酸化チタン粒子が求められている。
【0003】
従来、このような光触媒能を向上させた酸化チタン粒子として、金属粒子を表面に担持させた酸化チタン粒子が知られている。金属粒子を表面に担持させた酸化チタン粒子は、担持した金属粒子表面で酸化反応を生じさせつつ、酸化チタン粒子表面で還元反応を生じさせることができるので、再結合が生じることを防ぐことができる点で有効であるものの、担持する金属を多くすると、同時に酸化チタン粒子表面の表面積が減少するため、触媒能の向上に限界があった。
【0004】
また、電気伝導性の高いカーボンナノチューブで表面修飾した酸化チタン粒子の開発も行われている。例えば、光触媒としての機能を有する酸化チタン担体と、該担体の表面に形成された金属粒子と、該金属粒子を介して担持されたカーボンナノチューブとを備える光触媒が知られている。この光触媒は、カーボンナノチューブの成長触媒である金属イオンを担持した後、好気条件下で酸化処理して酸化チタン粒子表面に固着させ、さらに水素雰囲気下で金属イオンを還元処理し、その後、さらに高い温度で水素雰囲気下で還元処理してから、メタン雰囲気下でカーボンナノチューブを成長させることにより製造されている(特許文献1参照)。しかし、このような条件下で製造された上記光触媒では、酸化チタン担体が還元されているため、光触媒活性は非常に低く、時には全く確認されないこともあった。また、このような金属粒子を介して担持されたカーボンナノチューブで表面修飾された酸化チタン粒子では、酸化チタン粒子表面上に金属粒子が残留するため、金属イオンの種類によっては、酸化チタン粒子中で生成する励起電子のカーボンナノチューブへの注入を阻害することも予想される。
【0005】
【特許文献1】特開2007−21354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
従って、本発明の目的は、良好な電荷分離性を有することによって、良好な光触媒活性を発揮できる金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を得ることにある。
また、本発明の他の目的は、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を用いた有機化合物の酸化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは上記の問題を解決するために鋭意検討した結果、カーボンナノチューブの成長触媒である金属元素を酸化チタン粒子表面に吸着処理して、酸化チタン粒子表面に緩く結合した状態で金属元素を存在させてから、化学蒸着処理に付してカーボンナノチューブを形成・成長させると、酸化チタン粒子表面と金属元素との間にカーボンナノチューブが形成され、カーボンナノチューブ先端に金属元素が存在する形態の金属元素先端担持カーボンナノチューブが酸化チタン粒子表面に直接結合する修飾形態を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子が得られ、該金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子が良好な光触媒活性を発揮することを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は、酸化チタン粒子表面にカーボンナノチューブが担持されている表面修飾酸化チタン粒子であって、該カーボンナノチューブが、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブであることを特徴とする金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を提供する。
【0009】
前記金属元素は、遷移金属元素であることが好ましい。特に、遷移金属元素は、鉄、ニッケル、コバルトから選択される少なくとも1種の元素であることが好ましい。また、金属元素は、酸化チタン粒子に対して0.1〜3.0重量%含まれていることが好ましい。
【0010】
酸化チタン粒子は、硫黄原子又は硫黄イオンがドープしている硫黄ドープ酸化チタン粒子であることが好ましい。
【0011】
また、前記金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、有機化合物の酸化触媒として用いることができる。特に、前記酸化触媒は、光で作用する光酸化触媒であることが好ましい。さらに、このような光酸化触媒は、可視光で作用することが好ましい。
【0012】
本発明は、また前記金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を用いて有機化合物を酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法を提供する。
【0013】
本発明は、さらに酸化チタン粒子表面に金属元素を付着させた後、化学蒸着処理に付し、付着した金属元素と酸化チタン粒子表面との間でカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブを、酸化チタン粒子表面に担持することを特徴とする金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法を提供する。
【0014】
前記金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法では、アルカン類を用いて化学蒸着を行うことが好ましい。また、化学蒸着処理温度は、300〜800℃であることが好ましい。
【0015】
本発明は、さらにまた前記金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法により得られた金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を触媒として用いて有機化合物を酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法を提供する。
【0016】
なお、金属元素を先端に担持するカーボンナノチューブを「金属元素先端担持カーボンナノチューブ」と称する場合がある。また、金属元素を先端に担持するカーボンナノチューブが、カーボンナノチューブと酸化チタン粒子表面とが接する形態で酸化チタン粒子表面に結合されていることによって、金属元素を先端に担持するカーボンナノチューブで表面修飾されている酸化チタン粒子(前記金属元素先端担持カーボンナノチューブで表面修飾された酸化チタン粒子)を「金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子」と称する場合がある。
【発明の効果】
【0017】
本発明の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、前記構成を有しているので、良好な電荷分離性を有し、良好な光触媒活性を発揮できる。
また、該金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子によれば、光照射という簡便な手段により、容易に有機化合物を酸化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
(金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子)
本発明の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、少なくとも金属元素を先端に担持しているカーボンナノチューブ、及び酸化チタン粒子から構成されており、酸化チタン粒子が金属元素先端担持カーボンナノチューブをカーボンナノチューブと酸化チタン粒子表面とが接する形態で有することにより、酸化チタン粒子が1以上の金属元素先端担持カーボンナノチューブで修飾されている形態を有する。
【0019】
このような金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、電気伝導性の高いカーボンナノチューブを酸化チタン粒子表面とカーボンナノチューブとが直接、接する形態で有しているので、カーボンナノチューブに、酸化チタン粒子中で光照射によって生成された励起電子を捕捉させることができ、さらに金属元素がカーボンナノチューブの酸化チタン粒子と接している側と反対側の先端で存在しているので、金属元素に起因する酸化チタン粒子中で生成された励起電子のカーボンナノチューブへの注入阻害の発生を抑制することができる。このように、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、電荷分離特性にすぐれており、触媒活性の低下をまねく再結合を生じることがない。このため、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、紫外光領域(波長:380nm未満)に加えて、可視光領域(波長:380nm〜700nm)においても光触媒活性を発揮する。
【0020】
このように、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、光励起により生じた電子が電気導電性の高いカーボンナノチューブに移動することによって良好な電荷分離性を発現するので、光照射によって、被酸化部位を有する有機化合物を分子状酸素又は過酸化物により酸化することができる。
【0021】
金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子に用いられる酸化チタン粒子(二酸化チタン粒子)としては、ルチル型、アナターゼ型の何れの結晶構造を有するものであってもよく、またルチル型とアナターゼ型の酸化チタン粒子の混合物(混合型酸化チタン粒子)であってもよい。また、混合型酸化チタン粒子には、ルチル型とアナターゼ型を単に混合したもののほか、混合後に、超音波処理等によって一方の酸化チタン粒子を他方の酸化チタン粒子の表面に担持させたもの、単独の結晶構造を有する酸化チタン粒子(例えばアナターゼ型酸化チタン粒子)を熱処理によりアナターゼ型の結晶構造を有する酸化チタン粒子とルチル型の結晶構造を有する酸化チタン粒子との混合物に変化させたものなどが含まれる。
【0022】
また、酸化チタン粒子は、酸化チタンを構成するチタン及び酸素以外の元素がドープされている酸化チタン粒子(「他元素ドープ酸化チタン粒子」と称する場合がある)であってもよい。他元素ドープ酸化チタン粒子は、可視光領域では光を吸収しない白色粉末の酸化チタン粒子と比較して、他元素をドープすることにより、紫外光領域(波長:380nm未満)に加えて、可視光領域(波長:380nm〜700nm)においても高い光吸収特性を発現できる。
【0023】
酸化チタン粒子にドープされる他元素(チタン及び酸素以外の元素)としては、例えばコバルト、バナジウム、銅、鉄、マグネシウム、銀、パラジウム、ニッケル、マンガン、白金、ホウ素、リン、バナジウム、マンガン、亜鉛、ガリウム、硫黄、炭素、ケイ素、ロジウム、クロム、セリウムなどが挙げられる。中でも、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子において紫外光領域(波長:380nm未満)に加えて可視光領域(波長:380nm〜700nm)においても高い光吸収特性を発現させる観点からは、硫黄、窒素、炭素などが好ましい。なお、酸化チタン粒子にドープされる、チタン及び酸素以外の元素(他元素)は、単独で又は2種以上組み合わせて用いられていてもよい。
【0024】
酸化チタン粒子における他元素のドープ形態は、特に制限されず、例えば他元素自体がドープされた形態、他元素を含む分子がドープされた形態、他元素を含むイオンがドープされた形態(例えば4価の陽イオン(S4+)がドープされた形態など)などが挙げられる。
【0025】
他元素ドープ酸化チタン粒子は、酸化チタン結晶のチタンサイトの一部が他元素を含むイオンで置換された構造、チタン結晶格子間に他元素自体、他元素を含む分子あるいは他元素を含むイオンがドープされた構造、酸化チタン結晶の多結晶の集合体の粒界に、他元素自体、他元素を含む分子あるいは他元素を含むイオンがドープされた構造などのいずれの構造を有していてもよく、これらの構造が混在していてもよい。
【0026】
他元素ドープ酸化チタン粒子は、例えば、酸化チタン粒子と他元素源としての化合物との混合物を焼成処理することにより製造することができる。例えば、硫黄ドープ酸化チタン粒子は、例えば、酸化チタン粒子と、硫黄源としての含硫黄有機化合物(特に、チオ尿素、ジメチルチオ尿素などの酸素原子を含まず硫黄原子と窒素原子とが混在した有機化合物)とを混合してから、焼成処理することにより製造することができる。なお、他元素源としては、分子内に少なくとも1つの他元素原子を有する限り、何れも用いることができる。
【0027】
酸化チタン粒子と他元素源としての化合物の混合物は、例えば、溶媒に溶解又は分散させる方法(ゾルゲル法)、粉砕して混合する方法(物理的混合法)などにより得ることができる。
【0028】
焼成処理は、酸化チタン粒子と他元素源としての化合物との混合物を、例えば電気炉等の加熱手段を用いて実施される。焼成処理は、無酸素条件下で行うと触媒活性のない亜酸化チタンが生成することから、通常酸素存在下で行われる。焼成温度は、300℃未満であるとドープの速度が遅くなる場合があり、一方700℃を超えると可視光領域での光の吸収がみられなくなる場合があることから、通常300〜700℃(好ましくは350℃〜650℃)に設定される。
【0029】
酸化チタン粒子の形態としては、特に制限されず、例えば、粒子状(粉末状)、塊状、膜状等が挙げられる。粒子状の酸化チタン粒子を用いる場合、その平均粒径は、例えば5〜1000nm程度(好ましくは10〜500nm程度、より好ましくは20〜200nm程度)である。また、酸化チタン粒子の表面積としては、特に制限されることはないが、カーボンナノチューブ修飾による反応性向上の点から、通常10〜200m2/g程度である。例えばルチル型結晶構造を有する酸化チタン粒子では、10〜200m2/g程度(好ましくは20〜100m2/g程度)の比表面積を有するものを好ましく用いることができる。
【0030】
金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子において、カーボンナノチューブの先端に担持される金属元素は、酸化チタン粒子表面と金属元素との間にカーボンナノチューブを形成・成長させる触媒として作用し、且つ金属の性質を有する元素であれば特に制限されないが、通常遷移金属元素が用いられる。
【0031】
このような遷移金属元素としては、例えば、鉄、ニッケル、チタン、クロム、マンガン、コバルト、亜鉛、銅、モリブテン、タンタル、タングステン、イリジウム、白金、金、銀、パラジウムなどが挙げられる。中でも、カーボンナノチューブを形成・成長させる触媒としての活性の点から、鉄、ニッケル、コバルト等が好ましい。
【0032】
なお、金属元素として、1種の金属元素のみが用いられていてもよいし、2種以上の金属元素が同時に用いられていてもよい。
【0033】
金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子において、金属元素は、酸化チタン粒子に対して0.1〜3.0重量%程度(好ましくは0.2〜2.5重量%程度、より好ましく0.3〜2.0重量%程度)含まれていることが好ましい。金属元素を酸化チタン粒子に対して0.1重量%未満の量を含む金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子や、金属元素を酸化チタン粒子に対して1.0重量%を超える量を含む金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子では、十分な触媒活性を得られないおそれがあるためである。これは、金属元素が、化学蒸着処理によって金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を作製する際に金属元素と酸化チタン粒子表面との間でカーボンナノチューブを形成・成長させる触媒として作用するので、金属元素の含有量が0.1重量%未満であると、カーボンナノチューブの形成・成長が十分に生じず、酸化チタン粒子表面にカーボンナノチューブが形成されることによる電荷分離特性に悪影響を及ぼす場合があり、一方、金属元素の含有量が3.0重量%を超えると、金属元素先端担持カーボンナノチューブの修飾密度が増加しすぎて酸化チタン粒子表面への光(励起光)の到達が阻害される場合があると考えられることによる。
【0034】
金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子において、カーボンナノチューブは、酸化チタン粒子と金属元素との間に形成される。つまり、カーボンナノチューブの先端に保持されている金属元素は、カーボンナノチューブを介して、酸化チタン粒子と結合している。
【0035】
このようなカーボンナノチューブの構造については、特に制限されず、単層型であってもよく、積層型であってもよい。
【0036】
また、カーボンナノチューブの太さやその長さは、酸化チタン粒子表面への光(励起光)の到達に影響を及ぼすことから、カーボンナノチューブの直径は、通常1〜10nm程度(好ましくは2〜5nm程度)であり、その長さは、通常1〜2000nm程度(好ましくは1〜500nm程度、より好ましくは2〜5nm程度)である。さらに、カーボンナノチューブのアスペクト比は、通常2〜100程度(好ましくは2〜50程度、より好ましくは2〜5程度)である。
【0037】
酸化チタン粒子表面を修飾している金属元素先端担持カーボンナノチューブの数は、1つの酸化チタン粒子に対して少なくとも1以上であれば特に制限されないが、金属元素先端担持カーボンナノチューブの修飾密度の増加に起因する酸化チタン粒子表面への光(励起光)の到達阻害を防止する点からは、通常1〜20程度(好ましくは1〜5程度)である。
【0038】
なお、1つの酸化チタン粒子が1以上の金属元素先端担持カーボンナノチューブで修飾されている場合、これらの金属元素先端担持カーボンナノチューブは、全てあるいはその一部において、共通する構造を有していてもよい。
【0039】
金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子表面に金属元素を付着させた後、化学蒸着処理(CVD処理)に付し、付着した金属元素と酸化チタン粒子表面との間でカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブが酸化チタン粒子表面に担持した形態とすることにより得ることができる。つまり、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、酸化チタン粒子表面に金属元素を付着させた後、化学蒸着処理に付し、付着した金属元素と酸化チタン粒子表面との間でカーボンナノチューブを形成・成長させることにより得ることができる。
【0040】
酸化チタン粒子表面に金属元素を付着させることは、例えば酸化チタン粒子及び金属元素源となる化合物[金属硝酸塩(例えば鉄を用いる場合におけるFe(NO32・9H2O、ニッケルを用いる場合におけるNi(NO32・6H2Oなど)]を大気中や水中で混合することや、金属塩水溶液を酸化チタン粒子に直接噴霧することなどの吸着処理によって行われる。
【0041】
このような吸着処理によって得られる金属元素を付着させた酸化チタン粒子において、金属元素は、酸化チタン粒子表面に緩く結合した状態で存在している。また、金属元素は、金属元素イオンであることが多い。
【0042】
化学蒸着処理(CVD処理)は、吸着処理によって得られた、金属元素を付着させた酸化チタン粒子を電気炉等の内部に入れ、炭素源としての炭化水素ガスを注入して、高温処理で炭化水素ガスを熱分解させて、金属元素を付着させた酸化チタン粒子の金属元素と酸化チタン粒子表面との間に、金属元素の触媒作用によってカーボンナノチューブを形成・成長させる処理である。該化学蒸着処理によって、酸化チタン粒子と金属元素とがカーボンナノチューブを介して結合している構造を有する金属元素先端担持カーボンナノチューブを得ることができる。
【0043】
化学蒸着処理により金属元素と酸化チタン粒子表面との間にカーボンナノチューブを形成させることができるのは、金属元素がカーボンナノチューブの成長触媒として作用し、さらに金属元素が、酸化チタン粒子表面に強く結合した状態(固着した状態)で存在するのではなく、酸化チタン粒子表面に緩く結合した状態で存在するためである。なお、金属原子が酸化チタン粒子表面に強く結合した状態(固着した状態)で存在する金属元素固着酸化チタン粒子を用いて化学蒸着処理を行った場合、金属元素表面にカーボンナノチューブが形成され、酸化チタン粒子表面と金属元素と間にカーボンナノチューブは形成されることはない。
【0044】
化学蒸着処理に用いられるカーボンナノチューブの炭素源としては、炭化水素ガスである限り特に制限されないが、通常メタン、エタン、プロパン、ブタンなどのアルカン類、エチレンなどのアルケン類、アセチレンなどのアルキン類等が用いられる。中でも、熱分解のしやすさの点から、アルカン類、特に炭素数が1〜4のアルカン類が好適に用いられる。
【0045】
化学蒸着処理の温度(焼成温度)は、300〜800℃(好ましくは400〜700℃、さらに好ましくは500〜600℃)の範囲から選択される。300℃未満であると、カーボンナノチューブの形成・成長が生じないおそれがあり、一方800℃を超えると、炭化水素ガスの分解が促進されすぎて、酸化チタン粒子表面に炭素の堆積が生じて励起光が到達できる酸化チタン粒子表面の表面積の減少が生じるおそれがあるためである。
【0046】
化学蒸着処理の時間(焼成時間)は、特に制限されないが、金属元素と酸化チタン粒子との間で最大限にカーボンナノチューブを形成・成長させる点から、通常、1〜12時間(好ましくは2〜3時間)程度である。
【0047】
(金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を用いた有機化合物の酸化方法)
本発明の有機化合物の酸化方法は、光触媒としての金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の存在下、被酸化部位を有する有機化合物を光照射下に分子状酸素又は過酸化物により酸化することを特徴としている。前記有機化合物としては、少なくとも1つの被酸化部位を有する有機化合物であれば特に限定されないが、被酸化部位を有する有機化合物としては、(A1)ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物、(A2)炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物、(A3)メチン炭素原子を有する化合物、(A4)不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物、(A5)非芳香族性環状炭化水素、(A6)共役化合物、(A7)アミン類、(A8)芳香族化合物、(A9)直鎖状アルカン、及び(A10)オレフィン類等が挙げられる。
【0048】
ヘテロ原子の隣接位に炭素−水素結合を有するヘテロ原子含有化合物(A1)としては、(A1-1)第1級若しくは第2級アルコール又は第1級若しくは第2級チオール、(A1-2)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するエーテル又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するスルフィド、(A1-3)酸素原子の隣接位に炭素−水素結合を有するアセタール(ヘミアセタールも含む)又は硫黄原子の隣接位に炭素−水素結合を有するチオアセタール(チオヘミアセタールも含む)などが例示できる。
【0049】
前記炭素−ヘテロ原子二重結合を有する化合物(A2)としては、(A2-1)カルボニル基含有化合物、(A2-2)チオカルボニル基含有化合物、(A2-3)イミン類などが挙げられる。
【0050】
前記メチン炭素原子を有する化合物(A3)には、(A3-1)環の構成単位としてメチン基(すなわち、メチン炭素−水素結合)を含む環状化合物、(A3-2)メチン炭素原子を有する鎖状化合物が含まれる。
【0051】
前記不飽和結合の隣接位に炭素−水素結合を有する化合物(A4)としては、(A4-1)芳香族性環の隣接位(いわゆるベンジル位)にメチル基又はメチレン基を有する芳香族化合物、(A4-2)不飽和結合(例えば、炭素−炭素不飽和結合、炭素−酸素二重結合など)の隣接位にメチル基又はメチレン基を有する非芳香族性化合物などが挙げられる。
【0052】
前記非芳香族性環状炭化水素(A5)には、(A5-1)シクロアルカン類及び(A5-2)シクロアルケン類が含まれる。また、アダマンタン骨格を有する化合物などの橋かけ環式不飽和炭化水素類も含まれる。
【0053】
前記共役化合物(A6)には、共役ジエン類(A6-1)、α,β−不飽和ニトリル(A6-2)、α,β−不飽和カルボン酸又はその誘導体(例えば、エステル、アミド、酸無水物等)(A6-3)などが挙げられる。
【0054】
前記アミン類(A7)としては、第1級または第2級アミンなどが挙げられる。
【0055】
前記芳香族炭化水素(A8)としては、少なくともベンゼン環を1つ有する芳香族化合物、好ましくは少なくともベンゼン環が複数個(例えば、2〜10個)縮合している縮合多環式芳香族化合物などが挙げられる。
【0056】
前記直鎖状アルカン(A9)としては、炭素数1〜30程度(好ましくは炭素数1〜20程度)の直鎖状アルカンが挙げられる。
【0057】
前記オレフィン類(A10)としては、置換基(例えば、ヒドロキシル基、アシルオキシ基等の前記例示の置換基など)を有していてもよいα−オレフィン及び内部オレフィンの何れであってもよく、ジエンなどの炭素−炭素二重結合を複数個有するオレフィン類も含まれる。
【0058】
中でも、上記の被酸化部位を有する有機化合物としては、カーボンナノチューブとの相互作用の点から、非極性のものが好ましい。また、上記の被酸化部位を有する有機化合物が気相あるいは液相のいずれに存在しても、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子は、光酸化触媒として用いることができる。なお、上記の被酸化部位を有する有機化合物は単独で用いてもよく、同種又は異種のものを2種以上組み合わせて用いてもよい。
【0059】
本発明の酸化方法において、光触媒としての金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の使用量は、反応速度や経済性等を考慮して適宜選択できるが、基質として用いる有機化合物100重量部に対して、例えば1〜100重量部、好ましくは5〜60重量部、さらに好ましくは10〜30重量部程度である。
【0060】
本発明の方法では、基質としての有機化合物を光照射下に分子状酸素及び/又は過酸化物で酸化する。照射する光としては、380nm未満の紫外線に加えて、例えば380nm以上650nm程度以下の長波長の可視光線を使用することもできる。好ましい光の波長域は350〜400nm程度である。
【0061】
分子状酸素としては、純粋な酸素を用いてもよく、窒素、ヘリウム、アルゴン、二酸化炭素などの不活性ガスで希釈した酸素や空気を用いてもよい。分子状酸素の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.5モル以上、好ましくは1モル以上である。有機化合物に対して過剰モルの分子状酸素を用いることが多い。
【0062】
過酸化物としては、特に限定されず、ペルオキシド、ヒドロペルオキシド等の何れも使用できる。代表的な過酸化物として、過酸化水素、クメンヒドロペルオキシド、t−ブチルヒドロペルオキシド、トリフェニルメチルヒドロペルオキシド、t−ブチルペルオキシド、ベンゾイルペルオキシドなどが挙げられる。上記過酸化水素としては、純粋な過酸化水素を用いてもよいが、取扱性の点から、通常、適当な溶媒、例えば水に希釈した形態(例えば、30重量%過酸化水素水)で用いられる。過酸化物の使用量は、基質として用いる有機化合物1モルに対して、例えば0.1〜5モル程度、好ましくは0.3〜1.5モル程度である。
【0063】
本発明の酸化方法では、分子状酸素と過酸化物のうち一方のみを用いてもよいが、分子状酸素と過酸化物とを組み合わせることにより、反応速度が大幅に向上する場合がある。
【0064】
反応は、溶媒存在下で行われれてもよい。該溶媒としては、例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、リグロイン、石油エーテル等の脂肪族炭化水素;シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタン等の脂環式炭化水素;エチルエーテル、イソプロピルエーテル、テトラヒドロフラン等のエーテル類;酢酸エチル等のエステル類;、アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル、ベンゾニトリル等のニトリル類;N,N−ジメチルホルムアミド等の非プロトン性極性溶媒;酢酸等の有機酸;水;これらの混合溶媒などが挙げられる。
【0065】
反応温度は、反応速度及び反応選択性を考慮して適宜選択できるが、一般には−20℃〜100℃程度である。反応は室温付近で行われることが多い。反応はバッチ式、セミバッチ式、連続式などの何れの方法で行ってもよい。
【0066】
上記反応により、有機化合物から対応する酸化開裂生成物(例えば、アルデヒド化合物)、キノン類、ヒドロペルオキシド、ヒドロキシル基含有化合物、カルボニル化合物、カルボン酸などの酸素原子含有化合物などが生成する。例えば、アダマンタンからは1−アダマンタノール、2−アダマンタノール、2−アダマンタノンなどが生成する。また、2−メチルピリジンからは2−ピリジンカルボキシアルデヒド、2−ピリジンカルボン酸などが生成する。さらに、2−プロパノールからはアセトンなどが生成する。なお、2以上の生成物が生成する場合、その生成割合(選択率)は、反応条件等を適宜選択することにより調整できる。
【0067】
反応生成物は、例えば、濾過、濃縮、蒸留、抽出、晶析、再結晶、カラムクロマトグラフィーなどの分離手段や、これらを組み合わせた分離手段により分離精製できる。また、金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子からなる光触媒は濾過により容易に分離でき、分離した触媒は、必要に応じて洗浄等の処理を施した後、リサイクル使用できる。
【実施例】
【0068】
以下に、実施例に基づいて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0069】
(実施例1〜5)
500mlビーカーに、酸化チタン粒子(商品名「AMT−600」テイカ社製、アナタース型結晶構造、表面積:59m2/g、粒子径:≦30nm):5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量が下記表1の各実施例の欄に示した量となるような量のFe(NO32・9H2O(和光純薬工業社製)を入れてから、500mlのイオン交換水を加えて、3時間攪拌することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
該鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を、CVD装置(商品名「ARF−50K」アサヒ理化製作所社製)を用いて、下記表1の各実施例の欄に示した焼成温度、メタンガス(CH4)の流量:30sccm(1.8×10-33/min)、焼成時間:1時間の条件下、CVD処理を行ってカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を作製した。
【0070】
【表1】

なお、表1において、酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量は、吸着する酸化チタン粒子に対する重量%で示されている。
【0071】
(実施例6〜11)
500mlビーカーに、酸化チタン粒子(商品名「MT−600B」テイカ社製、ルチル型結晶構造、白色粉末、表面積:37.30m2/g、粒子径:50nm):5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量が下記表2の各実施例の欄に示した量となるような量のFe(NO32・9H2O(和光純薬工業社製)を入れてから、500mlのイオン交換水を加えて、3時間攪拌することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
該鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を、CVD装置(商品名「ARF−50K」アサヒ理化製作所社製)を用いて、下記表1の各実施例の欄に示した焼成温度、メタンガス(CH4)の流量:30sccm(1.8×10-33/min)、焼成時間:1時間の条件下、CVD処理を行ってカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を作製した。
【0072】
【表2】

なお、表2において、酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量は、吸着する酸化チタン粒子に対する重量%で示されている。
【0073】
(実施例12〜14)
イオン交換水:200ml、エタノール:20mlの入ったナスフラスコに、酸化チタン粒子(商品名「AMT−600」テイカ社製、アナタース型結晶構造、表面積:59m2/g、粒子径:≦30nm):5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着するニッケル元素量が下記表3の各実施例の欄に示した量となるような量のNi(NO32・6H2O(和光純薬工業社製)を入れて混合し、窒素で30分間バブリングしてから、攪拌しながら5時間光(紫外線、強度:0.5mW/cm2)を照射することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、ニッケル元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
該ニッケル元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を、CVD装置(商品名「ARF−50K」アサヒ理化製作所社製)を用いて、下記表3の各実施例の欄に示した焼成温度、メタンガス(CH4)の流量:30sccm(1.8×10-33/min)、焼成時間:1時間の条件下、CVD処理を行ってカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を作製した。
【0074】
【表3】

なお、表3において、酸化チタン粒子表面に吸着する元素量は、吸着する酸化チタン粒子に対する重量%で示されている。
【0075】
(実施例15〜19)
酸化チタン粒子粉末(商品名「ST−01」石原産業製、アナタース型結晶構造、表面積:335m2/g、粒子径:6.62nm)とチオ尿素とを、1:4の重量比の割合で物理的に混合したものを、電気炉に投入し、焼成温度:400℃、焼成時間:3時間の条件で空気中焼成処理をした。焼成処理後、酸化チタン粒子表面に残留している硫酸イオンや硝酸イオンを除去するため、洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、乳鉢を用いて粉砕し、硫黄ドープ酸化チタン粒子を調製した。なお、該硫黄ドープ酸化チタン粒子をX線回折装置(XRD)を用いて分析したところ、アナタース型結晶構造を有し、粒子径は12.38nmであり、表面積は126.2m2/gであった。
500mlビーカーに、調製した硫黄ドープ酸化チタン粒子:5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量が下記表4の各実施例の欄に示した量となるような量のFe(NO32・9H2O(和光純薬工業社製)を入れてから、500mlのイオン交換水を加えて、3時間攪拌することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、鉄元素を表面に吸着させた硫黄ドープ酸化チタン粒子を得た。
該鉄元素を表面に吸着させた硫黄ドープ酸化チタン粒子を、CVD装置(商品名「ARF−50K」アサヒ理化製作所社製)を用いて、下記表4の各実施例の欄に示した焼成温度、メタンガス(CH4)の流量:30sccm(1.8×10-33/min)、焼成時間:1時間の条件下、CVD処理を行ってカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、カーボンナノチューブで表面修飾されている硫黄ドープ酸化チタン粒子を作製した。
【0076】
【表4】

なお、表4において、硫黄ドープ酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量は、吸着する硫黄ドープ酸化チタン粒子に対する重量%で示されている。
【0077】
(比較例1)
500mlビーカーに、酸化チタン粒子(商品名「AMT−600」テイカ社製、アナタース型結晶構造、表面積:59m2/g、粒子径:≦30nm):5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着する鉄元素量が上記酸化チタン粒子に対して1重量%となるような量のFe(NO32・9H2O(和光純薬工業社製)を入れてから、500mlのイオン交換水を加えて、3時間攪拌することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、比較例1の鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
【0078】
(比較例2)
酸化チタン粒子として、酸化チタン粒子(商品名「MT−600B」テイカ社製、ルチル型結晶構造、白色粉末、表面積:37.30m2/g、粒子径:50nm)を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例2の鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
【0079】
(比較例3)
イオン交換水:200ml、エタノール:20mlの入ったナスフラスコに、酸化チタン粒子(商品名「AMT−600」テイカ社製、アナタース型結晶構造、表面積:59m2/g、粒子径:≦30nm):5g、及び酸化チタン粒子表面に吸着するニッケル元素量が上記酸化チタン粒子に対して1重量%となるような量のNi(NO32・6H2O(和光純薬工業社製)を入れて混合し、窒素で30分間バブリングしてから、攪拌しながら5時間光(紫外線、強度:0.5mW/cm2)を照射することにより懸濁液を得た。
該懸濁液を吸引濾過して固体粒子を取り出して、該固体粒子を洗浄後の洗浄液のpHが7付近(6.9〜7.1)になるまで繰り返しイオン交換水で洗浄した。洗浄後、真空乾燥(60℃、1時間)してから、固体粒子を乳鉢を用いて粉砕し、比較例3のニッケル元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得た。
【0080】
(比較例4)
酸化チタン粒子として、前記実施例15〜19で調製した硫黄ドープ酸化チタン粒子を用いたこと以外は、比較例1と同様にして、比較例4の鉄元素を表面に吸着させた硫黄ドープ酸化チタン粒子を得た。
【0081】
(比較例5〜6)
実施例1〜5と同様にして、鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を得て、該鉄元素を表面に吸着させた酸化チタン粒子を、CVD装置(商品名「ARF−50K」アサヒ理化製作所社製)を用いて、比較例6については700℃の焼成温度、また比較例7については800℃の焼成温度、アルゴンガス(Ar)の流量:30sccm(1.8×10-33/min)、焼成時間:1時間の条件下、CVD処理を行って酸化チタン粒子を作製した。
【0082】
(評価)
実施例及び比較例について、下記の(触媒活性の評価)により、触媒活性を評価した。これらの評価結果を、表5〜7に示した。
また、透過型電子顕微鏡(TEM)を用いて、酸化チタン粒子を観察した。その電子顕微鏡写真を図1〜2に示した。なお、透過型電子顕微鏡(TEM)として、日立ハイテクノロジーズ社製H−9000NARを使用し、倍率は11万倍である。
各図において、「TiO2」は「酸化チタン粒子」を示し、「Ni」は「ニッケル(ニッケルナノ粒子)」を示し、「CNT」は「カーボンナノチューブ」を示す。
【0083】
[光触媒活性の評価1(液相)]
酸化チタン粒子:100mgと2−プロパノール:20mMとを、パイレックス(登録商標)試験管に入れ、常圧、空気雰囲気下、25℃にて、攪拌を行いながら、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2、照射時間:1時間)を行った。その後、遠心分離で酸化チタン粒子を除去し、ガスクロマトグラフィーを用いて、2−プロパノールの減少量及びアセトンの生成量を求めた。なお、酸化チタン粒子を加えることなく、2−プロパノールのみで、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2、照射時間:1時間)を行っても、2−プロパノールの減少や新たな生成物の生成はみられなかった。
【0084】
【表5】

【0085】
[光触媒活性の評価3(気相)]
シャーレに酸化チタン粒子:100mgをとり、該シャーレをテドラーバッグに入れてから、テドラーバック内にアセトアルデヒドガス濃度を500ppmに調節したアセトアルデヒド・純空気混合気体を封入した。気体封入後、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2)を行った。その後、ガスクロマトグラフィーを用いて、光照射開始から所定時間経過ごとの生成した二酸化炭素量を求めた。なお、酸化チタン粒子を加えることなく、アセトアルデヒドガス濃度を500ppmに調節したアセトアルデヒド・純空気混合気体のみで、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2、照射時間:1時間)を行っても、二酸化炭素ガスの生成はみられなかった。
【0086】
【表6】

【0087】
表6の「所定時間経過後に生成した二酸化炭素量」の欄における「−」は、測定を行わなかったことを示す。
【0088】
[光触媒活性の評価4(気相)]
シャーレに酸化チタン粒子:100mgをとり、該シャーレをテドラーバッグに入れてから、テドラーバック内にアセトアルデヒド・純空気混合気体を封入した。気体封入後、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2)を行った。その後、ガスクロマトグラフィーを用いて、光照射開始から所定時間経過ごとのアセトアルデヒド減少量を求めた。なお、酸化チタン粒子を加えることなく、アセトアルデヒド・純空気混合気体のみで、光源として500Wのキセノンランプを用いて、350nm以下の波長の光をカットするカットオフフィルターを介して光照射(照射強度:10mW/cm2、照射時間:1時間)を行っても、アセトアルデヒドの減少はみられなかった。
【0089】
【表7】

【0090】
なお、比較例5及び6について、透過型電子顕微鏡で観察したところ、カーボンナノチューブの形成・成長は生じていなかった。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】図1は、実施例13の透過型電子顕微鏡写真である。
【図2】図2は、実施例14の透過型電子顕微鏡写真である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化チタン粒子表面にカーボンナノチューブが担持されている表面修飾酸化チタン粒子であって、該カーボンナノチューブが、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブであることを特徴とする金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項2】
金属元素が、遷移金属元素である請求項1記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項3】
遷移金属元素が、鉄、ニッケル、コバルトから選択される少なくとも1種の元素である請求項1記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項4】
金属元素が、酸化チタン粒子に対して0.1〜3.0重量%含まれている請求項1〜3の何れかの項に記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項5】
酸化チタン粒子が、硫黄原子又は硫黄イオンがドープしている硫黄ドープ酸化チタン粒子である請求項1〜4の何れかの項に記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項6】
有機化合物の酸化触媒として用いる請求項1〜5の何れかの項に記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項7】
酸化触媒が、光で作用する光酸化触媒である請求項6記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項8】
光酸化触媒が、可視光で作用する請求項7記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子。
【請求項9】
請求項又6〜8の何れかの項に記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を用いて有機化合物を酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法。
【請求項10】
酸化チタン粒子表面に金属元素を付着させた後、化学蒸着処理に付し、付着した金属元素と酸化チタン粒子表面との間でカーボンナノチューブを形成・成長させることにより、酸化チタン粒子に接している側と反対側の先端に金属元素を有している金属元素先端担持カーボンナノチューブを、酸化チタン粒子表面に担持することを特徴とする金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項11】
アルカン類を用いて化学蒸着を行う請求項10記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項12】
化学蒸着処理温度が、300〜800℃である請求項10又は11記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法。
【請求項13】
請求項10〜12の何れかの項に記載の金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子の製造方法により得られた金属元素先端担持カーボンナノチューブ表面修飾酸化チタン粒子を触媒として用いて有機化合物を酸化することを特徴とする有機化合物の酸化方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2009−249206(P2009−249206A)
【公開日】平成21年10月29日(2009.10.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−96622(P2008−96622)
【出願日】平成20年4月2日(2008.4.2)
【出願人】(000002901)ダイセル化学工業株式会社 (1,236)
【Fターム(参考)】