説明

金属内包フラーレン伝導材料及びその製造方法

【課題】金属内包フラーレンのアダマンタン修飾誘導体から液−液界面析出法により、n型及びp型の両極性のFET特性を有する金属内包フラーレンナノロッドを製造する金属内包フラーレンナノロッド及びその製造方法を実現する。
【解決手段】金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体であるLa@C82アダマンタン修飾誘導体又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体をCS溶液に混合し容器内に入れて、このCS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにしてから、遮光下0℃で静置することによって、CS層とヘキサン層の界面に単結晶の金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体ナノロッドを製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属内包フラーレン伝導材料、その製造方法、及び該材料を利用した電界効果型トランジスタ(以下、本発明では「FET」と言う。)に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノスケールの材料は、その表面積の広さとサイズに依存して制限された量子効果を示すことからバルクな材料とは電子的、光学的、磁気的、化学的そして熱的性質が異なる。それらのうち、次元や構成物質そして結晶性が制御されたワイヤー、ロッド、ベルト、チューブのような一次元ナノ構造は、その方向的異方性から構造と性質との関係や化学的および技術的応用に対して非常に注目を集めている。
【0003】
例えば、カーボンナノチューブをイオン性液体中に分散して磁気抵抗効果が得られるゲル状組成物を、電極が形成された基板上に塗布し、磁場により電気抵抗がスイッチングする機能を有する磁気スイッチング素子として適用できる構成が知られている(特許文献1参照)。
【0004】
金属内包フラーレンは空フラーレンでは見られない特異な構造と性質を有する新しい球形分子として興味がもたれている。例えば、金属内包フラーレンをコアとし、このコアの表面を、スルホン基等の官能基を有する多糖類で被覆し、内包金属の磁気特性に着目した磁気共鳴造影剤として適用した構成が知られている(特許文献2参照)。
【0005】
ところで、金属内包フラーレンのプロトタイプであるLa@C82は分子軌道計算や分光学的実験により3電子がLa原子からC82ケージへと移っており、形式的に(La3+)@C823ーと示され、開殻構造を有している(非特許文献1参照)。
【0006】
その結果、金属内包フラーレンは空フラーレンよりも優れた電子受容性、供与性を示す。実際にLa@C82の酸化還元電位差は0.49 Vと求められており、この値はC60のそれ(2.33 V)よりも小さいものである。
【0007】
一方、サブマイクロメートルサイズを有するC60の結晶性繊維が液−液界面析出法により得られることが報告されており(非特許文献2参照)、燃料電池や太陽電池、電界放出デバイスなどへの応用が期待されている。これに対し、金属内包フラーレンの結晶化は未だに困難とされている。
【0008】
最近、発明者らはLa@C82とアダマンタンジアジリンとの反応によりLa内包フラーレンアダマンタン付加体を得ることに成功した(非特許文献3参照)。また、二硫化炭素溶液からの溶媒濃縮法によって金属内包フラーレン誘導体の柱状晶を得ることにも成功している。金属内包フラーレンの誘導体化は金属内包フラーレンの規則正しく配列させるのに、すなわち、結晶化に対して大変有効な手段であると考えられる。
【0009】
なお、これまでにフラーレン類のFET特性については、いくつかの報告があるが、それらは何れもn型のみを示しているものにすぎない(非特許文献4参照)。
【特許文献1】特開2005−026320号公報
【特許文献2】特開平08−143478号公報
【非特許文献1】Kobayashi, K., Nagase, S. Metallofullerenes MC82 (M = Sc, Y, and La). A theoretical study of the electronic and structural aspects. Chem. Phys. Lett. 214, 57−63 (1996)
【非特許文献2】Miyazawa, K., Kuwasaki, Y., Obayashi, A., Kuwabara, M. C60 nanowhiskers formed by the liquid-liquid interfacial precipitation method. J. Mater. Res. 17, 83−88 (2002)
【非特許文献3】Maeda, Y. et al. Isolation and characterization of a carbon derivative of La@C82. J. Am. Chem. Soc. 126, 6858−6859 (2004)
【非特許文献4】Hiroshiba, N. et al. C60 field effect transistor with electrodes modified by La@C82. Chem. Phys. Lett. 400, 235−238 (2004)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
前述の金属内包フラーレンのプロトタイプであるLa@C82は、小さなバンドギャップを有し常磁性を示す事から、次世代のナノスケールの電子デバイスや導伝材料としての応用に特別な興味が寄せられている。しかしながら、具体的な電子デバイスへの利用手段はこれまで得られていない。これに鑑み、本発明者は、金属内包フラーレンのプロトタイプであるLa@C82の構造解析、電気的性質等の研究を鋭意行ってきた。
【0011】
本発明は、金属内包フラーレンから形成されるロッド、薄膜等でpn両極性を発現させる伝導材料を得ることを課題とするものである。このため、金属内包フラーレン又はその修飾誘導体について、どのような配列の集合体(具体的な形状としては薄膜やロッド)とすると、pn両極性を発現させる伝導材料を得られるのか、検討した結果、密に規則正しく配列された集合体とすると、pn両極性を発現させる伝導材料を得られるという新規な知見を得た。
【0012】
さらに、本発明の集合体から成る伝導材料の具体的な例として、金属内包フラーレンナノロッドに注目し、La@C82 にAd(アダマンタン)を付加して成るLa@C82アダマンタン修飾誘導体のナノロッド(以下、「La@C82Adナノロッド」という。)を得るとともに、その製造を実現し、さらにそのFETとしての利用を実現することを課題とする。
【0013】
同様に、本発明の集合体から成る伝導材料の具体的な例として、金属内包フラーレンナノロッドに注目し、金属内包フラーレンナノロッドとして、Ce@C82にAd(アダマンタン)を付加して成るCe@C82Adアダマンタンのナノロッド(以下、「Ce@C82Adナノロッド」という。)を得るとともに、その製造方法を実現し、さらにその電気的性質に着目しそのFETとしての利用を実現することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は上記課題を解決するために、複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現することを特徴とする伝導材料を提供する。
【0015】
本発明は上記課題を解決するために、複数の金属内包フラーレン誘導体が規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現することを特徴とする伝導材料を提供する。
【0016】
前記金属内包フラーレンは、常磁性金属を内包するものであることが好ましい。
【0017】
前記金属内包フラーレンは、La、Ce、Sc、Y、Pr、Eu、 Dy、 Tb、 U、 Th又はGdを内包するものであることが好ましい。
【0018】
前記金属内包フラーレン誘導体は、La@C82アダマンタン修飾誘導体又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体であることが好ましい。
【0019】
前記集合体は、ナノロッド又は薄膜の形状であることが好ましい。
【0020】
前記集合体は、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間のチャンネルとして配列され、n型およびp型の両極性を有する電界効果型トランジスタに利用されることが好ましい。
【0021】
本発明は上記課題を解決するために、複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現する伝導材料の製造方法であって、前記金属内包フラーレンを、液界面析出法によって析出させるか、蒸気拡散により拡散させるか、溶媒濃縮により濃縮するか、又は温度変化法により析出させるかすることで、結晶化して製造することを特徴とする伝導材料の製造方法を提供する。
【0022】
本発明は上記課題を解決するために、複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現する伝導材料の製造方法であって、前記金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体をCS溶液に混合し容器内に入れて、該CS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにしてから、遮光下0℃で静置することによって、CS層とヘキサン層の界面に単結晶の金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体ナノロッドを製造することを特徴とする伝導材料の製造方法を提供する。
【0023】
前記金属内包フラーレンを、カルベン若しくはジシリランの付加することにより、又はプラトー(Prato)若しくはビンゲル(Bingel)反応誘導化の方法により、誘導化することが好ましい。
【0024】
前記本発明の伝導材料は、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間に、チャンネルとして配列することで、電界効果型トランジスタを得ることができる。
【0025】
本発明は上記課題を解決するために、金属内包フラーレンのアダマンタン修飾誘導体から液−液界面析出法により金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体のナノロッドを製造する金属内包フラーレンナノロッドの製造方法であって、前記金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体をCS溶液に混合し容器内に入れて、該CS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにして静置することによって、CS層とヘキサン層の界面に単結晶の金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体ナノロッドを製造することを特徴とする金属内包フラーレンナノロッドの製造方法を提供する。
【0026】
前記金属内包フラーレンナノロッドの製造方法において、金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体はLa@C82アダマンタン修飾誘導体又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体であることを特徴とする。
【0027】
本発明は上記課題を解決するために、金属内包フラーレンのアダマンタン修飾誘導体から液-液界面析出法により製造される単結晶の金属内包フラーレンナノロッドであって、前記金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体がCS溶液に混合し容器内に注がれ、該CS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにして静置することによって、CS層とヘキサン層の界面に生成されて成る金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体のナノロッドであることを特徴とする金属内包フラーレンナノロッドを提供する。
【0028】
前記金属内包フラーレン誘導体ナノロッドは、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間のチャンネルとして配列され、n型およびp型の両極性を有する電界効果型トランジスタに利用される構成とすることが好ましい。
【0029】
前記金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体は、La@C82アダマンタン修飾誘導体又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体であることが好ましい。
【0030】
本発明は上記課題を解決するために、単結晶の金属内包フラーレンナノロッドが、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間に、チャンネルとして配列されてなることを特徴とする電界効果型トランジスタを提供する。
【0031】
前記電界効果型トランジスタにおける金属内包フラーレンロッドは、La@C82アダマンタン修飾誘導体のロッド又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体のロッドであることが好ましい。
【発明の効果】
【0032】
本発明によれば、金属内包フラーレン又はその修飾誘導体を、密に規則正しく配列された集合体とすることで、ロッド、薄膜等でpn両極性を発現させる伝導材料をきわめて簡単に得ることができる。そして、この伝導材料は、pn両極性を発現させることができるから、通常の半導体素子のようにpn接合を作ることなく、FET、レーザ等の材料として使用することが可能となる。
【0033】
上記構成の本発明によれば、La@C82、Ce@C82 に、アダマンタンを付加することで、針状晶の単結晶体であるLa@C82アダマンタン修飾誘導体のナノロッド、Ce@C82Adアダマンタンのナノロッドのような金属内包フラーレンナノロッドを簡単に製造することができる。
【0034】
そして、本発明のLa@C82Adナノロッド、Ce@C82Adアダマンタンのナノロッドは、溶媒に懸濁させて塗布することでFETを製造できるから、簡単な工程で、低コストで、扱いやすい、大面積化が可能な有機薄膜トランジスタを得ることができ、しかもn型およびp型の両極性を有するFET特性を得ることができるから、回路設計の自由度を高めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0035】
本発明に係る金属内包フラーレン伝導材料及びその製造方法を実施するための最良の形態を実施例に基づき図面を参照して、以下説明する。
【0036】
従来、C60、C70のようなフラーレンを結晶化してナノロッドを生成する点、そして、このナノロッドがn型の電気的特性を備えているという点は知られているが、金属内包フラーレンでは、このような結晶化が困難であった。
【0037】
本発明者らは、この金属内包フラーレンの結晶化によるナノロッドの生成について研究開発を行った。その結果、La@C82のような金属内包フラーレンにアダマンタンを付加させて誘導化することで、La@C82誘導体のナノロッドを生成することに成功した。
【0038】
そして、このように生成した金属内包フラーレンのナノロッドについて、その構造、磁気特性、電気特性等について、後述する走査型電子顕微鏡、高分解能透過型電子顕微鏡、及び電子スピン共鳴装置等を使用して測定、検討を行った。
【0039】
この結果、この金属内包フラーレンのナノロッドは、金属内包フラーレン誘導体が規則正しく配列された集合体、具体的には、針状晶の単結晶体であることを確認するとともに、その電気的特性として、n型及びp型の両極性 (ambipolar) を有する新規な金属内包フラーレンの単結晶体であるという知見を得た。
【0040】
一方、後述するがLa@C82のような金属内包フラーレンのアモルファス材料について同様にその電気的特性(FET特性)を測定してみたが、n型及びp型の両極性を示すことなく、n型しか示さなかった。
【0041】
以上の測定及び検討結果から、本発明者らは、複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が、密に配列された集合体、或いは規則正しく配列された集合体から成る構造であると、その集合体はpn両極性を発現し、伝導材料として利用可能であるという知見を得た。このようにして、複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現する伝導材料を内容とする本発明を想到した。
【0042】
ここで、「複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された集合体」の具体的な構成としては、前記のとおり、複数の金属内包フラーレンが、単結晶構造として配列された集合体であり、ロッド形状のもの以外にも、針状、柱状、板状および粒状の構造がある。なお、ここで、上記集合体において、複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された状態の一例を図7に示す。
【0043】
その結晶構造として配列された集合体を得る方法は前記液−液界面析出法の他に蒸気拡散、溶媒濃縮や温度変化法なども考えられる。
【0044】
なお、本発明者らは上記測定、検討の結果、金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された集合体では、n型及びp型の両極性を示すという知見を得ているが、その具体的な根拠は、明確ではないが、常磁性金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された集合体の構造であると、伝導性が向上しn型及びp型の両極性を発現するものと考えられる。
【0045】
金属内包フラーレンは、内包金属からフラーレンケージへの電子移動に由来して空フラーレンよりも低い酸化還元電位を有することが知られているが、その中でも奇数個の電子がフラーレンケージに移動した常磁性金属内包フラーレンは特に優れた酸化還元特性を示す。本発明ではこのフラーレンケージにスピンを有する常磁性金属内包フラーレンが規則正しく配列することによりn型及びp型の両極性を発現するものと考えられる。
【0046】
フラーレンケージにスピンを有する常磁性金属内包フラーレンとしてLa、Ce、Y、Pr、Eu、Gd、Dy、Tb、U、Thのような金属を奇数個内包したフラーレンが挙げられる。
【0047】
さらに、本発明はその伝導材料を製造する方法であり、具体的には、金属内包フラーレンにアダマンタンのような物質を付加して誘導化することで、La@C82アダマンタン修飾誘導体のような金属内包フラーレンナノロッドを製造する方法である。このような製造方法で得られたn型及びp型の両極性 (ambipolar) を有する新規な金属内包フラーレンの単結晶体が得られる。
【0048】
そして、このような複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が、密に配列された集合体、或いは規則正しく配列された集合体から成る本発明の伝導材料は、n型及びp型の両極性を有し、これをチャンネルとして備えたFETはきわめて有用である。
【実施例1】
【0049】
(製造方法)
La@C82AdおよびCe@C82Adナノロッドは、液-液界面析出法により次のような製造方法によって得られる。
【0050】
具体的には、La@C82Adナノロッドの製造方法については、次のとおりである。濃縮されたLa@C82AdをCS溶液に混合して容器内に注ぐ。そして、このCS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにする。
【0051】
次に、上記容器に栓をし、遮光下0℃で静置することによって、CS層とヘキサン層の界面にLa@C82Adの針状晶を有するLa@C82Adナノロッドを製造することができる。Ce@C82Adナノロッドについても、La@C82Adナノロッドと同様に製造することができる。
【0052】
(構造)
本発明者らは、このようにして得られたLa@C82Adナノロッドを、走査型電子顕微鏡(SEM)、高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)、及び電子スピン共鳴装置(ESR)を使用して構造解析行った。この構造解析で得られた図及びデータを参照にしてLaCe@C82Adナノロッドの構造について、以下に説明する。
【0053】
図1(a)、(b)は、La@C82Adナノロッドの走査型電子顕微鏡(SEM)で取得したイメージを示している。この図1(a)、(b)に示すように、本発明のLa@C82Adナノロッドは、長く一直線状のナノロッドであった。
【0054】
一直線状のナノロッドのサイズは、図1(a)、(b)からすると、ナノロッドのサイズは、径0.1〜5 μmでアスペクト比が約30:1であった。
【0055】
ところで、従来、La@C82の場合針状晶の析出はこれまでに観測されたことがなく、SEMでは、非晶形物質のみしか観測されなかった。しかし、本発明では、前述のとおり、La@C82にアダマンタンを付加させて誘導体としたことで、La@C82Adの針状晶の単結晶体であるナノロッドを得ることができた。このように、金属内包フラーレンにアダマンタンを付加することによる誘導化はナノロッド作成において重要な役割を果たしている。
【0056】
図2(a)は、La@C82Adの針状晶を高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で撮影した画像であり、図2(b)は、(a)をフーリエフィルターでフーリエ変換した図である。この画像でも見られるように、La@C82Adが密に配列した結晶性の構造が観測された。
【0057】
図2(a)右上の挿入図は、La@C82Adナノロッドの電子回折パターン(SAEDP)の画像を示すが、この画像からも、このナノロッドはLa@C82Adの単結晶からなる事を示している。これらの測定から、La@C82Adの針状の析出物は、La@C82Adの単結晶性のナノロッドであることが確認できた。
【0058】
図3は、La@C82Adの針状晶の電子エネルギー損失(EELS)分光を示す図である。図3の横軸はエネルギー損失であり、縦軸は光強度を示している。この図3のデータに、Laに特有のM-edge(Laの存在によって観察されるM型のエッジ)が観測され、La原子の存在が確認されている。
【0059】
(磁気的性質)
La@C82Adナノロッドの磁気的性質を明らかにするために、そのESR測定を行ったが、La@C82Adナノロッドは、ESRシグナルを示し、図4(a)のように、そのシグナルは6Kから室温においてLa@C82Ad単結晶のサンプルのものと似ていた。
【0060】
La@C82Adを溶液中でESR測定すると、La核に由来するオクテットシグナル(ESRのスペクトル中で示される8本から成る波状部分)が観察されるが、La@C82AdナノロッドをESR測定すると、分子間の磁気的相互作用によって、平均化され、6Kにおいて線幅が約25ガウスと幅広のシングレットシグナル(1本の波状部分)を示した。単結晶中での分子間の異方的な磁気的相互作用によってシグナルの線幅とg値は異方性を示した。
【0061】
測定器の磁界中で試料のナノロッドを回転させながらESR測定を行うと、図4(b)のように、スペクトルの中心を表すg値は変化し、また、図4(c)のように、線幅は低温にすると共に減少した。これらの結果は既に測定しているLa@C82Adの単結晶と同様であったことから、このナノロッドは部分的に配列した単結晶であるとして理解される。
【0062】
(FET特性)
図5は、La@C82Adナノロッド利用のFETの構成を示す模式図である。このFET1の構成は、図5(a)において、絶縁性基板2の裏面(図5(a)中下面)にゲート電極3が形成されている。絶縁性基板2の表面(図5(a)中上面)には、ゲート絶縁膜4と、このゲート絶縁膜4を挟んでその両側にソース電極5とドレイン電極6が形成されている。ソース電極5とドレイン電極6の間にチャンネルとしてLa@C82Adナノロッド7が配列されている。なお、図5(b)(符号は(a)の部分と同様に付した。)のような構成としてもよい。
【0063】
絶縁性基板の材料は、酸化シリコン、窒化シリコン等の無機系絶縁性材料でもよいし、エポキシ樹脂、アクリル樹脂等の絶縁性樹脂材でもよい。ゲート電極、ソース電極及びドレイン電極は、それぞれ金、銀、白金、その他の金属材料から形成する。ゲート絶縁膜は、窒化シリコン、二酸化シリコン等の材料から形成する。
【0064】
FETのチャンネルを構成するLa@C82Adナノロッドは、La@C82Adナノロッド懸濁液を絶縁性基板表面に形成されたソース電極、ゲート絶縁膜及びドレイン電極上に滴下して乾燥することで配列することができる。La@C82Adナノロッド懸濁液は、La@C82AdのCS2溶液にヘキサンを加えて調製する。なお、ソース電極とゲート電極の間にチャンネルは、本実施例のFETの寸法は、0.5×200μmとした。
【0065】
図6は、この実施例のLa@C82Adナノロッド利用のFET特性を、La@C82Adアモルファスフィルム利用のFET特性と比較して示す図である。具体的には、この実施例におけるLa@C82Adナノロッドを利用したFETと、比較例であるLa@C82Adアモルファスフィルムについて、ゲート電圧に対するソース-ドレイン電流の測定結果を示す図である。
【0066】
この図6に示す電気的特性から明らかなように、La@C82Adナノロッド利用のFETについては、n型およびp型の両極性 (ambipolar) の性質が観測された。一方、La@C82Adアモルファスフィルム利用のFETについては、n型のみしか示されていない。
【0067】
これによって、金属内包フラーレン誘導体であるLa@C82Adが規則正しく配列された集合体(この実施例ではこの集合体の一種であるナノロッド)は、npの両極性を発現することが実証された。La@C82Adアモルファスフィルムではn型しか示されないことからすると、集合体がLa@C82Adが規則正しく配列されていることが、npの両極性を発現する根拠に関係するものと考えられる。
【0068】
La@C82Adナノロッド利用のFETが両極性のFET特性を示すことについては、その明確な理由は、現在、必ずしも明らかになっていないが、ナノロッド中のLa@C82Adの一次元的配列が影響していると考えられる。
【0069】
なお、Ce@C82Adナノロッドを利用するFETについても、La@C82Adナノロッドと同様にFETのチャンネルとして配列して構成され、n型およびp型の両極性を有するFETを得ることができる。
【0070】
前記比較例であるLa@C82Adアモルファスフィルムについては、La@C82Adの二硫化炭素溶液をFET基盤(ゲート電極に対して絶縁膜を介して配置したソースとドレイン上を含む基盤)の上に滴下した後、直ちに溶媒を蒸発させ、薄膜のFET特性も測定したものである。この場合には、前述のとおりn型の特性のみが観測された(図6参照)。このことからも、La@C82Adナノロッドが両極性の特性を示した理由は、金属内包フラーレンが規則正しく密に配列した構造に由来していると考えられる。
【実施例2】
【0071】
金属内包フラーレン誘導体は前記アダマンチリデン等の各種カルベンの付加反応の他、ケイ素化反応、Prato(プラトー)反応及びBingel(ビンゲル)反応によっても得られる。
【0072】
具体的には、ジシラン、シリレンや含ケイ素3員環化合物等との反応によってケイ素付加体が得られ、アゾメチンイリド等との1,3−双極子環化付加反応によってPrato付加体が得られ、また、塩基性条件下マロン酸エステルや活性メチレン化合物との反応によりBingel付加体が得られる。
【0073】
また、金属内包フラーレン誘導体ナノロッドは、液-液界面析出法の他に、閉鎖系で金属内包フラーレン誘導体溶液に対してヘキサン、エーテル、アルコール、アセトンおよびアセトニトリル等貧溶媒の蒸気を拡散させる蒸気拡散法や、金属内包フラーレン誘導体溶液を徐々に濃縮させる溶媒濃縮法、そして金属内包フラーレン誘導体溶液の温度を降下させることにより金属内包フラーレン誘導体の溶媒に対する溶解度を下げる温度変化法によっても得られる。
【実施例3】
【0074】
金属内包フラーレンの規則正しい配列は、ナノロッドの作成の他にスピンコートによる薄膜化や分子間相互作用を利用した自己組織化によっても達成される。
【0075】
具体的には、La@C82誘導体のCS等の良溶媒溶液を基盤上にスピンコートすることによって良好な結晶性薄膜を作成できる。さらに、ポルフィリン等の環状化合物、ピレン等のπ電子系化合物または高分子存在下、金属内包フラーレンの溶液を塗布することで分子間相互作用による自己組織化複合体が形成される。
【0076】
以上、本発明を実施するための最良の形態を実施例に基づいて説明したが、本発明はこのような実施例に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された技術的事項の範囲内でいろいろな実施例があることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0077】
上記の構成の本発明は、次のようの産業上の利用可能性がある。
(1)超高速FET
本発明の金属内包フラーレン伝導材料は、1つの分子の集合体で出来ており、また溶媒に可溶で蒸着も可能な為、理想的な1次元量子細線としても形成可能であり、キャリア輸送特性を活用し、超高速トランジスタを実現できる。
【0078】
また、本発明の金属内包フラーレン伝導材料は、両極性伝導を示す事から超省力型トランジスタを実現できる。具体的には、金属内包フラーレン伝導材料(例.La@C82Adのような金属内包フラーレンナノロッド)は、n型およびp型の両極性のFET特性を有するから、FETとして適用すれば、回路構成の自由度を高めることができ、しかも懸濁液を塗布して、簡単な工程で、低コストで、扱いやすい、大面積化が可能な、トランジスタを作ることが可能である。
【0079】
また、本発明の金属内包フラーレン伝導材料(例.La@C82Adのような金属内包フラーレンナノロッド)は、同じ物質でn型およびp型の両極性のFET特性を有し、非常にきれいな界面でP、Nジャンクションが形成されるので、整流回路等の演算トランジスタへの応用が可能である。
【0080】
(2)光・電子融合素子
通常の半導体素子ではpn接合を作り、電子と正孔を再結合させる事により発光させている。しかし本発明の金属内包フラーレン伝導材料(例.La@C82Adのような金属内包フラーレンナノロッド)では、pn接合を作らなくてもホールと電子の再結合を利用したレーザー素子への適用が可能である。
【0081】
この場合、その発光エネルギーはバンドギャップで決まる為、金属の種類、個数、フラーレンのサイズ、官能基の4つパラメータを変える事により発光波長を変ることができる。FET機能と発光機能の両方を有する光・電子融合素子という全く新しい概念のデバイスが実現の可能性がある。
【0082】
(3)光起電効果による太陽電池
通常の半導体素子ではpn接合を作り、光起電効果によって光を電子に変換するが、本発明の金属内包フラーレン伝導材料(例.La@C82Adのような金属内包フラーレンナノロッド)では、同じ物質でn型およびp型の両極性を有するので、pn接合を作らなくても、光エネルギーを照射して発電を可能とする太陽電池への応用も可能であり、より高い変換効率を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0083】
【図1】本発明の実施例のLa@C82Adナノロッドを構造を示すSEM像である。
【図2】(a)は本発明の実施例のLa@C82Adナノロッドの高分解能透過型電子顕微鏡(HRTEM)で取得したイメージを示す図であり、(b)は、(a)をフーリエフィルターでフーリエ変換した図である。
【図3】本発明の実施例のLa@C82Adナノロッドを電子スピン共鳴(ESR)測定して得た電子エネルギー損失(EELS)分光結果を示す図である。
【図4】(a)はLa@C82Adナノロッドの6K、24Kおよび96KにおけるESRシグナルを示す図であり、(b)は測定器の磁界中で試料のナノロッドを回転させながらESR測定を行ったときのスペクトルの中心を表すg値の変化をプロットしたもの、また、(c)はそのときの線幅の変化をプロットしたものである。
【図5】本発明の実施例のLa@C82Adナノロッド利用のFETの構成を示す図である。
【図6】本発明の実施例のLa@C82Adナノロッド利用のFET特性を、La@C82Adアモルファスフィルム利用のFET特性と比較して示す図である。
【図7】本発明の集合体において、複数の金属内包フラーレン又はその誘導体が規則正しく配列された状態の一例を示す図である。
【符号の説明】
【0084】
1 FET
2 絶縁性基板
3 ゲート電極
4 ゲート絶縁膜
5 ソース電極
6 ドレイン電極
7 La@C82Adナノロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現することを特徴とする伝導材料。
【請求項2】
複数の金属内包フラーレン誘導体が規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現することを特徴とする伝導材料。
【請求項3】
前記金属内包フラーレンは、常磁性金属を内包するものであることを特徴とする請求項1又は2記載の伝導材料。
【請求項4】
前記金属内包フラーレンは、La、Ce、Sc、Y、Pr、Eu、 Dy、 Tb、 U、 Th又はGdを内包するものであることを特徴とする請求項1又は2のいずれか1つに記載の伝導材料。
【請求項5】
前記金属内包フラーレン誘導体は、La@C82アダマンタン修飾誘導体又はCe@C82アダマンタン修飾誘導体であることを特徴とする請求項2〜4のいずれか1つに記載の伝導材料。
【請求項6】
前記集合体は、ナノロッド又は薄膜の形状であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の伝導材料。
【請求項7】
前記集合体は、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間のチャンネルとして配列され、n型およびp型の両極性を有する電界効果型トランジスタに利用されることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1つに記載の伝導材料。
【請求項8】
複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現する伝導材料の製造方法であって、
前記金属内包フラーレンを、液界面析出法によって析出させるか、蒸気拡散により拡散させるか、溶媒濃縮により濃縮するか、又は温度変化法により析出させるかすることで、結晶化して製造することを特徴とする伝導材料の製造方法。
【請求項9】
複数の金属内包フラーレンが規則正しく配列された集合体から成り、pn両極性を発現する伝導材料の製造方法であって、
前記金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体をCS溶液に混合し容器内に入れて、該CS溶液にヘキサンを徐々に加え、CS層とヘキサン層が交じり合わないようにして静置することによって、CS層とヘキサン層の界面に単結晶の金属内包フラーレンアダマンタン修飾誘導体ナノロッドを製造することを特徴とする伝導材料の製造方法。
【請求項10】
前記金属内包フラーレンを、カルベン若しくはジシリランの付加することにより、又はプラトー(Prato)若しくはビンゲル(Bingel)反応誘導化の方法により、誘導化することを特徴とする請求項8又は9記載の伝導材料の製造方法。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか一つに記載の伝導材料が、ゲート絶縁膜を挟んで両側に形成されたソース電極とドレイン電極の間に、チャンネルとして配列されてなることを特徴とする電界効果型トランジスタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2007−254195(P2007−254195A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−78938(P2006−78938)
【出願日】平成18年3月22日(2006.3.22)
【出願人】(504171134)国立大学法人 筑波大学 (510)
【Fターム(参考)】