説明

金属加工油組成物

【課題】加工性能が高いとともに、消費量を抑制でき、引火点が高い金属加工油組成物を提供する。
【解決手段】炭素数16以上22以下の炭化水素基とカルボキシル基とを有するカルボン酸と、炭素数2以上18以下のアルコールとを反応して得られたモノエステル化合物を配合することを特徴とする金属加工油組成物。この金属加工油組成物は、40℃動粘度が3mm/s以上14mm/s以下であり、引火点が200℃以上であることが好ましく、前記モノエステル化合物が、組成物全量基準で10質量%以上配合されることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属加工油組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
金属加工油としては、鉱油や合成油を基油として、これに種々の添加剤を配合したものが広く用いられている。例えば、基油に樹脂酸、および硫黄系極圧剤を配合して切削抵抗を小さくし、加工性能を高めた例が知られている(特許文献1参照)。
また、金属加工油としては、加工性能だけでなく引火点が高いことも要求されており(特許文献2参照)、基油に窒化ホウ素を配合することで、引火点を高めた例(特許文献3参照)が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−197183号公報
【特許文献2】特開2008−163115号公報
【特許文献3】特開2007−297528号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、特許文献1に記載された金属加工油は、粘度が低く、引火点は高いものの、加工性能が十分ではない。特許文献2に記載された金属加工油も、引火点は高いが、粘度が高く、加工性能も十分ではない。また、特許文献3に記載された金属加工油は、引火点こそ高いものの加工性能が低い。
金属加工油の加工性能を上げるには、動摩擦係数を低くする必要があるが、動摩擦係数を低くするために、粘度を上げると、消費量が多くなる。逆に、消費量を抑えるため粘度を低くすると、動摩擦係数が高くなり、加工性能が低下するおそれがある。すなわち、加工性の向上と消費量の抑制は相反する。
【0005】
そこで本発明は、加工性能が高いとともに、消費量を抑制でき、引火点も高い金属加工油組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記した課題を解決すべく、本発明は、以下のような金属加工油組成物を提供するものである。
〔1〕炭素数16以上22以下の炭化水素基とカルボキシル基とを有するカルボン酸と、炭素数2以上18以下のアルコールとを反応させて得られたモノエステル化合物を配合してなることを特徴とする金属加工油組成物。
〔2〕上記〔1〕に記載の金属加工油組成物において、40℃動粘度が3mm/s以上14mm/s以下であり、引火点が200℃以上であることを特徴とする金属加工油組成物。
〔3〕上記〔1〕または〔2〕に記載の金属加工油組成物において、前記モノエステル化合物が、組成物全量基準で10質量%以上配合されることを特徴とする金属加工油組成物。
〔4〕上記〔1〕から〔3〕のいずれかに記載の金属加工油組成物において、前記モノエステル化合物が、オレイン酸ブチルであることを特徴とする金属加工油組成物。
〔5〕上記〔1〕から〔4〕のいずれかに記載の金属加工油組成物が切削加工および研削加工の少なくともいずれかに用いられることを特徴とする金属加工油組成物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、加工性能が高いとともに、消費量を抑制でき、引火点が高い金属加工油組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下に本発明の金属加工油組成物(以下、「本組成物」ともいう)について、実施形態を詳細に説明する。
本組成物は、炭素数16以上22以下の炭化水素基とカルボキシル基とを有するカルボン酸と、炭素数2以上18以下のアルコールとを反応して得られたモノエステル化合物を配合することを特徴とする。
【0009】
本組成物に用いられるモノエステルとしては、炭素数16から22までの炭化水素基とカルボキシル基とを有するカルボン酸と、炭素数2から18までのアルコールとを反応して得られるものが挙げられ、例えば一般式(I)で表される化合物を挙げることができる。
RCOOR’ (I)
(一般式(I)中、Rは炭素数16から22までの炭化水素基、R’は炭素数2から18までの炭化水素基を示す。)
このようなモノエステルは、例えば、炭素数16から22までの炭化水素基とカルボキシル基とを有するモノカルボン酸と、炭素数2から18までの一価のアルコールとを反応させることにより得られる。
なお、上述したモノエステルの製法は、カルボン酸とアルコールとの脱水反応に限らずエステル交換法を用いてもよい。
【0010】
炭素数16から22までの炭化水素基とカルボキシル基とを有するモノカルボン酸の具体例としては、各種ヘプタデカン酸、各種ノナデカン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、イソステアリン酸、エライジン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレイン酸等が挙げられる。これらのモノカルボン酸の中でも、好ましくは炭素数16から20までの炭化水素基を有するものが用いられる。
炭化水素基の炭素数が16よりも少ないと、本組成物の引火点が低くなり、炭素数が22よりも多いと、本組成物の粘度が高くなり、被加工物に付着して持ち去られる量が多くなり、経済的でなくなる場合があり好ましくない。
【0011】
炭素数2から18までの一価のアルコールとしては、直鎖状又は分岐状のいずれでもよく、また飽和又は不飽和のいずれでもよい。炭素数2から18までの一価の飽和アルコールの具体例としては、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノニルアルコール、デシルアルコール、ウンデシルアルコール、ドデシルアルコール、トリデシルアルコール、テトラデシルアルコール、ペンタデシルアルコール、ヘキサデシルアルコール、へプタデシルアルコール、オクタデシルアルコールが挙げられる。炭素数2から18までの一価の不飽和アルコールの具体例としては、エテニルアルコール、プロペニルアルコール、ブテニルアルコール、ペンチニルアルコール、ヘキセニルアルコール、ペプテニルアルコール、ノネニルアルコール、デセニルアルコール、ウンデセニルアルコール、ドデセニルアルコール、トリデセニルアルコール、テトラデセニルアルコール、ペンタデセニルアルコール、ヘキサデセニルアルコール、ヘプタデセニルアルコール、オクタデセニルアルコールが挙げられる。これらの一価のアルコールの中でも、好ましくは炭素数2から12まで、より好ましくは炭素数2から8までの一価のアルコールが用いられる。
【0012】
上記モノエステルの具体例としては、ステアリン酸ブチル、ステアリン酸オクチル、オレイン酸ブチル、オレイン酸ヘキシル、オレイン酸2−エチルヘキシルが挙げられる。これらの中でも、オレイン酸ブチルが好ましい。オレイン酸ブチルとしては、ブチル基が、ノルマル、イソ、ターシャリーであるものをいずれも用いることができる。
【0013】
また、本組成物に用いられるモノエステルとしては、多価アルコールの部分エステルとしてのモノエステルとしてもよい。
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール,ジエチレングリコール,プロピレングリコール,ジプロピレングリコール,ブチレングリコール,ネオペンチルグリコール,グリセリン,トリメチロールエタン,トリメチロールプロパン,ペンタエリスリトール,ソルビトールが挙げられる。
多価アルコールの部分エステルとしてのモノエステルとしては、上記多価アルコールと上記モノカルボン酸とを反応させることにより得られるモノエステルが挙げられる。
【0014】
本組成物においては、モノエステルとして、上記モノエステルを1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
モノエステルの40℃における動粘度は、3mm/s以上14mm/s以下であって、引火点は、200℃以上であることが好ましい。
また、本組成物において、モノエステル化合物が、組成物全量基準で10質量%以上であることが好ましく、30質量%以上であることがより好ましく、50質量%以上であることがさらに好ましい。特に好ましくは70質量%以上であり、最も好ましくは80質量%以上である。モノエステル化合物の配合量が10質量%よりも少ないと、本組成物の粘度を低くすること、および引火点を高くすることができない。
【0015】
本組成物は、40℃動粘度が3mm/s以上14mm/s以下であって、引火点が200℃以上であることが好ましい。
40℃動粘度が3mm/sよりも低いと、金属加工時にミストが発生し、作業性悪化を招く場合があり好ましくない。
引火点が200℃以上であれば、本組成物を金属加工に用いる場所、例えば工場等において、消防法に対応する設備を軽微にすることができる。
また、本組成物の動摩擦係数は、0.05以上0.2以下であることが好ましい。0.05よりも小さいと、工具が被削材に食いつきにくくなり、加工性能が低下する恐れがある。0.2よりも大きいと、工具と被削材との摩擦が大きくなり、加工性能が低くなる可能性がある。なお、ここで動摩擦係数とは、後述する往復動摩擦試験において測定されるものを言う。
このような本組成物は、動摩擦係数が小さいので、金属加工に用いた場合、加工性能が高く、工具寿命を長くすることができる。特に、切削加工および研削加工、ならびに切削加工または研削加工のいずれかに好適に用いることができる。
【0016】
本発明の金属加工油組成物には、上記モノエステルの他、本発明の目的を損なわない範囲で各種の基油および添加剤を配合することができる。
【0017】
基油としては、特に制限はないが、代表例としては、鉱油や合成油が挙げられる。鉱油としては、様々なものを使用することができる。例えば、パラフィン基系原油、中間基系原油、あるいはナフテン基系原油を常圧蒸留するか常圧蒸留の残渣油を減圧蒸留して得られる留出油、またはこれを常法にしたがって精製することによって得られる精製油、例えば、溶剤精製油、水添精製油、脱ロウ処理油、白土処理油等を挙げることができる。
【0018】
また、合成油としては、ポリ−α−オレフィン、オレフィンコポリマーアルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ポリオキシアルキレングリコール、ポリフェニルエーテル等が挙げられる。ポリ−α−オレフィンとしては、例えば、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー等が挙げられる。オレフィンコポリマーとしては、例えば、エチレン−プロピレンコポリマーなどが挙げられる。
【0019】
本発明においては、基油として、上記鉱油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。また、上記合成油を1種用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。さらには、鉱油1種以上と合成油1種以上とを組み合わせて用いてもよい。
【0020】
本発明の金属加工油組成物に配合できる添加剤としては、極圧剤、油性剤、酸化防止剤、防錆剤、金属不活性化剤、および消泡剤などを挙げることができる。これらは1種を単独でまたは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
極圧剤としては、硫黄系極圧剤、リン系極圧剤、硫黄および金属を含む極圧剤、リンおよび金属を含む極圧剤が挙げられる。これらの極圧剤は一種を単独でまたは二種以上組み合わせて用いることができる。極圧剤としては、分子中に硫黄原子および/またはリン原子を含み、耐荷重性や耐摩耗性を発揮しうるものであればよい。分子中に硫黄を含む極圧剤としては、例えば、硫化油脂、硫化脂肪酸、硫化エステル、硫化オレフィン、ジヒドロカルビルポリサルファイド、チアジアゾール化合物、アルキルチオカルバモイル化合物、トリアジン化合物、チオテルペン化合物、ジアルキルチオジプロピオネート化合物などを挙げることができる。これらの極圧剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.05〜0.5質量%程度となるように原液に配合される。
【0022】
油性剤としては、脂肪族アルコール、脂肪酸や脂肪酸金属塩などの脂肪酸化合物、ポリオールエステル、ソルビタンエステル、グリセライドなどのエステル化合物、脂肪族アミンなどのアミン化合物などを挙げることができる。脂肪酸としては、オレイン酸やラウリン酸などが挙げられる。
油性剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、0.1〜30質量%程度であり、好ましくは0.5〜10質量%である。
【0023】
酸化防止剤としては、アミン系酸化防止剤、フェノール系酸化防止剤および硫黄系酸化防止剤を使用することができる。これらの酸化防止剤は、一種を単独でまたは二種以上を組み合わせて用いることができる。
アミン系酸化防止剤としては、例えば、モノオクチルジフェニルアミン、モノノニルジフェニルアミンなどのモノアルキルジフェニルアミン系化合物、4,4’−ジブチルジフェニルアミン、4,4’−ジペンチルジフェニルアミン、4,4’−ジヘキシルジフェニルアミン、4,4’−ジヘプチルジフェニルアミン、4,4’−ジオクチルジフェニルアミン、4,4’−ジノニルジフェニルアミンなどのジアルキルジフェニルアミン系化合物、テトラブチルジフェニルアミン、テトラヘキシルジフェニルアミン、テトラオクチルジフェニルアミン、テトラノニルジフェニルアミンなどのポリアルキルジフェニルアミン系化合物、α−ナフチルアミン、フェニル−α−ナフチルアミン、ブチルフェニル−α−ナフチルアミン、ペンチルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘキシルフェニル−α−ナフチルアミン、ヘプチルフェニル−α−ナフチルアミン、オクチルフェニル−α−ナフチルアミン、ノニルフェニル−α−ナフチルアミンなどのナフチルアミン系化合物が挙げられる。
【0024】
フェノール系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェノール、2,6−ジ−tert−ブチル−4−エチルフェノールなどのモノフェノール系化合物、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)などのジフェノール系化合物が挙げられる。
硫黄系酸化防止剤としては、例えば、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(4,6−ビス(オクチルチオ)−1,3,5−トリアジン−2−イルアミノ)フェノール、五硫化リンとピネンとの反応物などのチオテルペン系化合物、ジラウリルチオジプロピオネート、ジステアリルチオジプロピオネートなどのジアルキルチオジプロピオネートなどが挙げられる。
これらの酸化防止剤の配合量は、組成物全量基準で、0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.03〜5質量%である。
【0025】
防錆剤としては、金属系スルホネート、コハク酸エステルなどを挙げることができる。これら防錆剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.05〜5質量%である。
金属不活性化剤としては、ベンゾトリアゾール、チアジアゾールなどを挙げることができる。これら金属不活性化剤の好ましい配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、通常0.01〜10質量%程度であり、好ましくは0.01〜1質量%である。
消泡剤としては、メチルシリコーン油、フルオロシリコーン油、ポリアクリレートなどを挙げることができる。これらの消泡剤の配合量は、配合効果の点から、組成物全量基準で、通常0.0005〜0.01質量%程度である。
【実施例】
【0026】
[実施例1〜4,比較例1〜4]
表1に示す配合組成の金属加工油組成物(試料油)を調製した。以下に用いたモノエステルおよび鉱油について示す。
【0027】
<モノエステル>
オレイン酸ブチル:花王(株)製 カオールーブ804
オレイン酸メチル:日本油脂(株)製 ユニスターM182A
ポリアルファオレフィン:Neste oil社製 NEXBASE 2004
<鉱油>
鉱物油1:出光興産(株)製 ダイアナ フレシア C−20
鉱物油2:出光興産(株)製 ダイアナ フレシア P−05
鉱物油3:出光興産(株)製 ダイアナ フレシア W8
【0028】
[評価]
各試料油につき、40℃動粘度(JIS K 2283準拠)および引火点(JIS K 2265準拠 COC法)を測定するとともに、下記の条件で往復動摩擦試験を行い、動摩擦係数を測定した。結果を表1に示す。
【0029】
<往復動摩擦試験>
試験機:(株)オリエンテック製 F−2100
球:3/16インチSUJ2
試験板:SPCC−SB
摺動速度:20mm/s
摺動距離:2cm
荷重:3kg
【0030】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の金属加工油組成物は、切削や研削等の金属加工に好適に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素数16以上22以下の炭化水素基とカルボキシル基とを有するカルボン酸と、炭素数2以上18以下のアルコールとを反応させて得られたモノエステル化合物を配合してなる
ことを特徴とする金属加工油組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の金属加工油組成物において、
40℃動粘度が3mm/s以上14mm/s以下であり、引火点が200℃以上である
ことを特徴とする金属加工油組成物。
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属加工油組成物において、
前記モノエステル化合物が、組成物全量基準で10質量%以上配合される
ことを特徴とする金属加工油組成物。
【請求項4】
請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の金属加工油組成物において、
前記モノエステル化合物が、オレイン酸ブチルである
ことを特徴とする金属加工油組成物。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の金属加工油組成物が切削加工および研削加工の少なくともいずれかに用いられることを特徴とする金属加工油組成物。

【公開番号】特開2013−100397(P2013−100397A)
【公開日】平成25年5月23日(2013.5.23)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−244342(P2011−244342)
【出願日】平成23年11月8日(2011.11.8)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】