説明

金属加工用潤滑油組成物

【課題】高い生産性に耐え、過酷な潤滑条件下でも高い加工性を有する一方、良好な油剤除去性を維持し、作業環境の悪化や製品の品質低下を抑えるとともに、油剤コストの上昇をもたらさない金属加工用潤滑油組成物を提供する。
【解決手段】鉱油、合成油および油脂から選ばれる少なくとも一種の基油に、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油の中から選ばれるエポキシ化合物を組成物全量基準で0.01〜10質量%、および一価アルコールと一塩基酸とから得られる合計炭素数7〜26のエステルおよび/または炭素数6〜20の一価アルコールを組成物全量基準で0.01〜70質量%含有することを特徴とする金属加工用潤滑油組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種金属の各種加工において使用される金属加工用潤滑油組成物に関する。本発明の金属加工用潤滑油組成物が適用される金属としては、アルミニウム、マグネシウムおよびこれらの合金のほか、銅、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、スズ、チタン等の遷移金属およびこれらの合金を挙げることができる。また適用しうる加工方法としては、冷間、温間および熱間圧延、プレス、打ち抜き、しごき、絞り、引き抜き、鍛造、極微量切削(MQL)を含む切削および研削等の金属加工等を挙げることができる。特に、アルミニウムフィン材(平板状の純アルミニウム(純度99%以上)またはアルミニウムを主成分とする合金)の加工、高純度アルミニウム(純度99.9%以上(99.99%以上の純度を有するものを含む))およびアルミニウムを主成分とする合金、あるいはアルミニウム以外の金属およびそれらを主成分とする合金の冷間、温間および熱間圧延、に好適である。なお、本発明においては特段の説明がない限り、以後アルミニウムとは、純アルミニウム(高純度アルミニウムを含む)およびアルミニウムを主成分とする合金の総称を表す。
【背景技術】
【0002】
冷蔵庫やエアコン等の冷凍冷蔵システムの熱交換器に使用されているアルミニウムフィンは、アルミニウムフィン材を張り出し加工、絞り加工、打ち抜き加工、カーリング加工、しごき加工等の塑性加工をすることにより製造される。これらのアルミニウムフィン材の加工は、通常、加工油剤を用いて行われ、鉱油またはイソパラフィン等の合成系炭化水素に、脂肪酸、脂肪酸エステル、高級アルコール、α−オレフィン等の油性剤を添加した加工油剤が使用されている(例えば、特許文献1参照。)。しかし、これらの加工油剤では、十分な潤滑性が得られず、ポンチにアルミが凝着したり、素材表面の損傷が見られる場合がある。これらの問題を解決するため添加剤の添加量を多くすると、熱による油剤除去が不完全になり、変色など外観上の問題を引き起こすのに加え、臭気が増して作業環境を悪化させ、水漏れ性といったフィンとしての性能をも阻害し、油剤コストも上昇する。
【0003】
アルミニウムおよびその他の金属の圧延においては、圧延油の油性剤として従来は高級アルコール、脂肪酸エステル、脂肪酸、アルキレングリコールエステル化物、α−オレフィンなどが使用され、特に高級アルコール、次いで脂肪酸エステルが一般的に使用されてきた(例えば、特許文献2〜3参照。)。しかし生産性を向上させるため、より高速度で、かつより高い圧下率で金属を圧延することが必要とされ、潤滑部位はより高温にさらされるようになった。また、一般的にツーナイン、スリーナイン、フォーナインと呼ばれるアルミニウム純度が99%、99.9%、99.99%を超える高純度材の圧延では著しい凝着が発生し、潤滑性が阻害されたり、大量の摩耗紛が発生し生産性向上の妨げとなる。このため従来から知られている油性剤の添加では十分な圧延限界が得られず、油性剤の添加量を増すか圧延速度や圧下率を下げて圧延するといった対策がとられている。しかし油性剤を増すことによって、熱による油剤除去が不完全となり、焼鈍時にステインが発生しやすくなるのに加え、ワークロールと圧延材のスリップ、圧延後の板表面の光沢むらの発生や摩耗粉量の増加等板品質の低下、油剤の臭気の増加による作業環境の悪化、圧延コストの上昇といった問題が生ずる。一方、圧延速度や圧下率を下げると生産性が低下するため好ましくない。
【特許文献1】特開平2−133495号公報
【特許文献2】2003−165993号公報
【特許文献3】2003−165994号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明はこのような実情に鑑みなされたものであり、その目的は、高い生産性に耐え、過酷な潤滑条件下でも高い加工性を有する一方、良好な油剤除去性を維持し、作業環境の悪化をもたらさず、製品品質低下を抑えるとともに、油剤コストの上昇をもたらさない金属加工用潤滑油組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは上記問題点を解決するために鋭意研究を重ねた結果、鉱油、合成油または油脂にエポキシ化合物を配合した高性能な金属加工用潤滑油を使用することにより、高速度・高加工率での加工に耐えるとともに、油剤除去性が良好なため油剤除去後のステインや変色が少なく、臭気、肌荒れ等作業環境の悪化をもたらさず、製品の品質低下を抑え、しかも油剤コスト上昇を抑えることができることを見出し、本発明を完成するに至った。特に、製品品質に関して、アルミニウムフィン加工の場合には、潤滑性が良好なため、ポンチへのアルミの付着、被加工面の損傷や摩耗粉量の増加が抑制され、圧延油の場合には光沢むらや摩耗粉量の増加が抑制されることを見出した。
すなわち、本発明の金属加工用潤滑油組成物は、鉱油、合成油および油脂から選ばれる一種以上の基油に、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油の中から選ばれるエポキシ化合物を組成物全量基準で0.01〜10.0質量%、および一価アルコールと一塩基酸とから得られる合計炭素数7〜26のエステルおよび/または炭素数6〜20の一価アルコールを組成物全量基準で0.01〜70質量%含有してなることを特徴とする。
【0006】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明の基油としては、鉱油、合成油および油脂のいずれでも使用することができ、その種類に制限はないが、鉱油または合成油が特に好ましい。
【0007】
本発明で使用可能な鉱油を例示すれば、例えば、パラフィン系またはナフテン系の原油の蒸留により得られる灯油留分;灯油留分からの抽出操作等により得られるノルマルパラフィン;およびパラフィン系またはナフテン系の原油の蒸留により得られる潤滑油留分を、溶剤脱れき、溶剤抽出、水素化分解、溶剤脱ろう、接触脱ろう、水素化精製、硫酸洗浄、および白土処理等の精製処理を一つ以上適宜組み合わせて精製したもの等が挙げられる。
【0008】
鉱油中の芳香族分は特に制限されないが、作業環境を重視するのであれば、好ましくは25容量%以下、より好ましくは15容量%以下、さらにより好ましくは10容量%以下、一層好ましくは8容量%以下、より一層好ましくは5容量%以下、さらにより一層好ましくは2容量%以下、最も好ましくは1容量%以下であることが望ましい。ここで、芳香族分とは、JIS K 2536「石油製品−炭化水素タイプ試験」の蛍光指示薬吸着法に準拠して測定された値を意味する。特に、アルミニウムフィンの加工においては、芳香族分は5容量%以下であることが好ましく、より好ましくは3容量%以下、更に好ましくは2容量%以下、最も好ましくは1容量%以下である。芳香族分を5容量%以下とすることにより、臭気や肌荒れ等を防止することができる。アルミニウムの圧延においては、芳香族分は10容量%以下、好ましくは8容量%以下、より好ましくは6容量%以下、さらにより好ましくは4容量%以下、さらにより一層好ましくは3容量%以下、最も好ましくは2容量%以下である。
【0009】
ナフテン分についても特に制限はないが、10容量%以上であることが好ましく、より好ましくは15容量%以上、更に好ましくは20容量%以上、更により好ましくは25容量%以上、最も好ましくは30容量%以上である。ナフテン分を10容量%以上とすることにより、油剤除去工程における油剤除去性や加工性が良好となる。一方、ナフテン分は90容量%以下であることが好ましく、より好ましくは80容量%以下、更に好ましくは75容量%以下、最も好ましくは70容量%以下である。ナフテン分を90容量%以下とすることにより、室温での油剤の揮発を防止することができる。
【0010】
また、鉱油中のパラフィン分は5容量%以上であることが好ましく、より好ましくは10容量%以上、更に好ましくは20容量%以上である。パラフィン分を5容量%以上とすることにより、油剤の臭気を防止することができる。一方、パラフィン分は90容量%以下であることが好ましく、より好ましくは80容量%以下、更に好ましくは70容量%以下である。パラフィン分を90容量%以下とすることにより、加工時における凝着発生防止効果を向上させることができる。
【0011】
本発明においてナフテン分、パラフィン分とは、FIイオン化(ガラスリザーバ使用)による質量分析法により得られた分子イオン強度をもって、これらの割合を決定するものである。以下にその測定法を具体的に示す。
【0012】
(1)径18mm、長さ980mmの溶出クロマト用吸着管に、約175℃、3時間の乾燥により活性化された呼び径74〜149μmシリカゲル(富士デビソン化学(株)製grade923)120gを充填する。
(2)n−ペンタン75mlを注入し、シリカゲルを予め湿す。
(3)試料約2gを精秤し、等容量のn−ペンタンで希釈し、得られた試料溶液を注入する。
(4)試料溶液の液面がシリカゲル上端に達したとき、飽和炭化水素成分を分離するためにn−ペンタン140mlを注入し、吸着管の下端より溶出液を回収する。
(5)溶出液をロータリーエバポレーターにかけて溶媒を留去し、飽和炭化水素成分を得る。
(6)飽和炭化水素成分を質量分析計でタイプ分析を行う。質量分析におけるイオン化方法としては、ガラスリザーバを使用したFIイオン化法が用いられ、質量分析計は日本電子(株)製JMS−AX505Hを使用する。
【0013】
測定条件を以下に示す。
加速電圧:3.0kV、カソード電圧:−5〜−6kV、分解能:約500、エミッター:カーボン、エミッター電流:5mA、測定範囲:質量数35〜700、補助オーブン温度:300℃、セパレータ温度:300℃、主要オーブン温度:350℃、試料注入量:1μl
【0014】
質量分析法によって得られた分子イオンは、同位体補正後、その質量数からパラフィン類(C2n+2)とナフテン類(C2n、C2n−2、C2n−4・・・)の2タイプに分類・整理し、それぞれのイオン強度の分率を求め、飽和炭化水素成分全体に対する各タイプの含有量を定める。次いで、飽和炭化水素成分の含有量をもとに、試料全体に対するパラフィン分、ナフテン分の各含有量を求める。
【0015】
なお、FI法質量分析のタイプ分析法によるデータ処理の詳細は、「日石レビュー」第33巻第4号135〜142頁の特に「2.2.3データ処理」の項に記載されている。
【0016】
また、鉱油の初留点は150℃以上であることが好ましく、より好ましくは155℃以上、更に好ましくは160℃以上である。鉱油の初留点を150℃以上とすることにより、室温での油剤の揮発を十分に防止することができる。一方、鉱油の終点は350℃以下であることが好ましく、より好ましくは340℃以下、更に好ましくは330℃以下である。鉱油の終点を350℃以下とすることにより、油剤除去工程における油剤除去性を良好にすることができる。また、鉱油の初留点と終点の温度差は100℃以下であることが好ましく、より好ましくは90℃以下、更に好ましくは80℃以下である。かかる温度差を100℃以下とすることにより、室温での油剤の揮発の防止と油剤除去工程における油剤除去性とを両立することができる。ここで、初留点および終点とは、JIS K 2254「石油製品−蒸留試験方法」に準拠して測定された値を意味する。
【0017】
また本発明で使用可能な合成油としては、例えば、オレフィンオリゴマー(プロピレンオリゴマー、イソブチレンオリゴマー、ポリブテン、1−オクテンオリゴマー、1−デセンオリゴマー、エチレン−プロピレンオリゴマー等)またはその水素化物、アルキルベンゼン、アルキルナフタレン、ジエステル(ジトリデシルグルタレート、ジ−2−エチルヘキシルアジペート、ジイソデシルアジペート、ジトリデシルアジペート、ジ−2−エチルヘキシルセバケート等)、ポリオールエステル(トリメチロールプロパンカプリレート、トリメチロールプロパンペラルゴネート、ペンタエリスリトール2−エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールペラルゴネート等)、ポリグリコール、シリコーン油、ジアルキルジフェニルエーテル、およびポリフェニルエーテル等が挙げられる。これらの中で、プロピレンオリゴマー水素化物、イソブチレンオリゴマー水素化物およびポリブテン水素化物は総称してイソパラフィンと呼ばれている。
【0018】
本発明で使用可能な油脂としては、牛脂、豚脂、大豆油、菜種油、米ぬか油、ヤシ油、パーム油、パーム核油、これらの水素添加物あるいはこれらの2種以上の混合物などが挙げられる。
【0019】
アルミニウムフィン加工油剤の基油としては鉱油またはイソパラフィンが好ましく、更に乾燥性が良好であることおよび低臭気の観点からイソパラフィンがより好ましい。圧延油の基油としては、鉱油、合成油、油脂のいずれでも使用可能であるが、アルミニウム圧延油の基油としては芳香族分10容量%以下、ナフテン分20〜90容量%、パラフィン分5〜80容量%の鉱油がより好ましく、アルミニウム以外の金属の圧延油の基油としては、芳香族分25容量%以下、ナフテン分10〜80容量%、パラフィン分10〜90容量%の鉱油がより好ましい。
【0020】
基油の40℃における動粘度は、1.0〜500mm/s、好ましくは1.2〜400mm/s、さらに好ましくは1.4〜350mm/sの範囲である。粘度が低すぎると潤滑性低下、高すぎると加工部への油剤の供給に問題を生ずる可能性がある。
ただし基油の最適粘度は使用目的によって異なり、アルミニウムフィン加工においては40℃における動粘度は1.2〜5.0mm/s、好ましくは1.3〜4.8mm/s、より好ましくは1.4〜4.7mm/sの範囲である。基油の動粘度(40℃)が低すぎる場合には、十分な潤滑性が得られない恐れがあるほか、揮発性が高いため引火による火災等の危険性が増す恐れがあり、一方、高すぎる場合には、加工部への油剤の供給に問題が生ずる恐れがあるほか、油剤除去工程における油剤除去性が悪化し、変色等が発生する恐れがある。
【0021】
アルミニウム圧延において最適な40℃における動粘度は1.0〜10mm/s、好ましくは1.2〜8.0mm/s、より好ましくは1.4〜6.0mm/sの範囲である。アルミニウム以外の金属の圧延において最適な40℃における動粘度は2.0〜30mm/s、好ましくは2.5〜20mm/s、より好ましくは3.0〜15mm/sの範囲である。基油の動粘度(40℃)が低すぎる場合には、十分な潤滑性が得られない恐れがあるほか、揮発性が高いため引火による火災等の危険性が増す恐れがある。一方、高すぎる場合には、加工部への油剤の供給に問題が生ずる恐れがあるほか、油剤除去性が悪いため焼鈍後にステインと呼ばれる潤滑油成分の焼き付きが生じ易くなり、また被加工材表面にオイルピットと呼ばれる表面損傷が発生することによる表面光沢の悪化、過潤滑によるスリップ、摩耗粉発生量の増加、被加工材表面の傷つき、スリップが著しい場合には加工不能、をもたらす恐れがある。
【0022】
本発明の金属加工用潤滑油組成物に用いられるエポキシ化合物としては、下記(E−1)〜(E−8)で示されるエポキシ化合物を挙げることができる。
(E−1)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物
(E−2)アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物
(E−3)グリシジルエステル型エポキシ化合物
(E−4)アリールオキシラン化合物
(E−5)アルキルオキシラン化合物
(E−6)脂環式エポキシ化合物
(E−7)エポキシ化脂肪酸モノエステル
(E−8)エポキシ化植物油
【0023】
以下に、(E−1)〜(E−8)成分について詳述する。
(E−1)フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、フェニルグリシジルエーテルまたはアルキルフェニルグリシジルエーテルが例示できる。ここでいうアルキルフェニルグリシジルエーテルとは、炭素数1〜13のアルキル基を1〜3個有するものが挙げられ、中でも炭素数4〜10のアルキル基を1個有するもの、例えば、n−ブチルフェニルグリシジルエーテル、i−ブチルフェニルグリシジルエーテル、sec−ブチルフェニルグリシジルエーテル、t−ブチルフェニルグリシジルエーテル、ペンチルフェニルグリシジルエーテル、ヘキシルフェニルグリシジルエーテル、ヘプチルフェニルグリシジルエーテル、オクチルフェニルグリシジルエーテル、ノニルフェニルグリシジルエーテル、デシルフェニルグリシジルエーテル等が好ましいものとして例示できる。
【0024】
(E−2)アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物としては、具体的には、ヘキシルグリシジルエーテル、ヘプチルグリシジルエーテル、オクチルグリシジルエーテル、ノニルグリシジルエーテル、デシルグリシジルエーテル、ウンデシルグリシジルエーテル、ドデシルグリシジルエーテル、トリデシルグリシジルエーテル、テトラデシルグリシジルエーテル、2−エチルヘキシルグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、トリメチロールプロパントリグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールテトラグリシジルエーテル、1,6−ヘキサンジオールジグリシジルエーテル、ソルビトールポリグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールモノグリシジルエーテル、ポリアルキレングリコールジグリシジルエーテル等が例示できる。
【0025】
(E−3)グリシジルエステル型エポキシ化合物としては、具体的には下記一般式(1)で表される化合物が挙げられる。
【化1】

【0026】
上記式(1)中、Rは炭素数1〜18の炭化水素基を表す。このような炭化水素基としては、炭素数1〜18のアルキル基、炭素数2〜18のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜18のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルキルアリール基、炭素数7〜18のアリールアルキル基等が挙げられる。この中でも、炭素数5〜15のアルキル基、炭素数2〜15のアルケニル基、フェニル基および炭素数1〜4のアルキル基を有するアルキルフェニル基が好ましい。
グリシジルエステル型エポキシ化合物の中でも、好ましいものとしては、具体的には、グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート、グリシジルベンゾエート、グリシジル−t−ブチルベンゾエート、グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート等が例示できる。
【0027】
(E−4)アリールオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシスチレン、アルキル−1,2−エポキシスチレン等が例示できる。
【0028】
(E−5)アルキルオキシラン化合物としては、具体的には、1,2−エポキシブタン、1,2−エポキシペンタン、1,2−エポキシヘキサン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシオクタン、1,2−エポキシノナン、1,2−エポキシデカン、1,2−エポキシウンデカン、1,2−エポキシドデカン、1,2−エポキシトリデカン、1,2−エポキシテトラデカン、1,2−エポキシペンタデカン、1,2−エポキシヘキサデカン、1,2−エポキシヘプタデカン、1,2−エポキシオクタデカン、1,2−エポキシノナデカン、1,2−エポキシイコサン等が例示できる。
【0029】
(E−6)脂環式エポキシ化合物としては、下記一般式(2)で表される化合物のように、エポキシ基を構成する炭素原子が直接脂環式環を構成している化合物が挙げられる。
【化2】

【0030】
脂環式エポキシ化合物としては、具体的には、1,2−エポキシシクロヘキサン、1,2−エポキシシクロペンタン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、エキソ−2,3−エポキシノルボルナン、ビス(3,4−エポキシ−6−メチルシクロヘキシルメチル)アジペート、2−(7−オキサビシクロ[4.1.0]ヘプト−3−イル)−スピロ(1,3−ジオキサン−5,3’−[7]オキサビシクロ[4.1.0]ヘプタン、4−(1’−メチルエポキシエチル)−1,2−エポキシ−2−メチルシクロヘキサン、4−エポキシエチル−1,2−エポキシシクロヘキサン等が例示できる。
【0031】
(E−7)エポキシ化脂肪酸モノエステルとしては、具体的には、エポキシ化された炭素数12〜20の脂肪酸と炭素数1〜8のアルコールまたはフェノール、アルキルフェノールとのエステル等が例示できる。特にエポキシステアリン酸のブチル、ヘキシル、ベンジル、シクロヘキシル、メトキシエチル、オクチル、フェニルおよびブチルフェニルエステルが好ましく用いられる。
【0032】
(E−8)エポキシ化植物油としては、具体的には、大豆油、アマニ油、綿実油等の植物油のエポキシ化合物等が例示できる。
【0033】
本発明の金属加工用潤滑油組成物においては、前記(E−1)〜(E−8)から選択されるエポキシ化合物の1種のみを使用しても良く、または2種以上を混合使用しても良い。
また本発明において、エポキシ化合物としては、(E−1)〜(E−8)の中でも、(E−2)と(E−3)と(E−5)が好ましく、(E−2)と(E−5)がより好ましく、(E−5)が最も好ましい。
【0034】
本発明の金属加工用潤滑油組成物において、エポキシ化合物の含有量は組成物全量基準で0.01〜10.0質量、好ましくは0.05〜7.5質量%、より好ましくは0.1〜6.0質量%である。含有量が0.01質量%より少ないと潤滑性向上効果が期待できない場合があり、10質量%より多くなると添加量に見合った潤滑性向上効果が期待できないだけでなく、熱による油剤除去が不十分になる可能性があり、さらに圧延油の場合には条件によっては潤滑性を阻害したり、光沢むらを生じる場合がある。
エポキシ化合物は油性剤の代替としても使用できる上、油性剤と併用した場合には油性剤の使用量を低減させることができる結果、臭気低減等作業環境の改善につながる。
【0035】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、加工性をより向上させるために含酸素化合物を更に含有することができる。かかる含酸素化合物としては、以下の(A1)〜(A8)成分からなる群より選ばれる少なくとも1種の含酸素化合物を挙げることができる。
(A1)数平均分子量が100以上1000以下である水酸基を3〜6個有する多価アルコールのアルキレンオキシド付加物
(A2)上記(A1)成分のハイドロカルビルエーテルまたはハイドロカルビルエステル
(A3)数平均分子量が100以上1000以下のポリアルキレングリコール
(A4)上記(A3)成分のハイドロカルビルエーテルまたはハイドロカルビルエステル
(A5)炭素数2〜20の2価アルコール
(A6)上記(A5)成分のハイドロカルビルエーテルまたはハイドロカルビルエステル
(A7)炭素数3〜20の3価アルコール
(A8)上記(A7)成分のハイドロカルビルエーテルまたはハイドロカルビルエステル
【0036】
(A1)成分を構成する多価アルコールは、水酸基を3〜6個有する。水酸基を3〜6個有する多価アルコールとしては、以下の多価アルコールに加え、糖類も使用可能である。
多価アルコールとしては、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜4量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)、およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール、イジリトール、タリトール、ズルシトール、アリトール等が挙げられる。
糖類としては、キシロース、アラビノース、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマルトース、トレハロース、シュクロース等が挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、グリセリン、トリメチロールアルカン、ソルビトールが好ましい。
【0037】
また、(A1)成分を構成するアルキレンオキシドとしては、炭素数2〜6、好ましくは炭素数2〜4のアルキレンオキシドが用いられる。炭素数2〜6のアルキレンオキシドとしては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2−エポキシブタン(α−ブチレンオキシド)、2,3−エポキシブタン(β−ブチレンオキシド)、1,2−エポキシ−1−メチルプロパン、1,2−エポキシヘプタン、1,2−エポキシヘキサン等が挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシドがより好ましい。
なお、2種以上のアルキレンオキシドを用いた場合には、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。また、水酸基を3〜6個有する多価アルコールにアルキレンオキシドを付加させる際、全ての水酸基に付加させてもよいし、一部の水酸基のみに付加させてもよい。これらの中では、加工性に優れる点から、全ての水酸基に付加させた方が好ましい。
【0038】
さらに、(A1)成分の数平均分子量(Mn)は100以上1000以下であり、好ましくは100以上800以下である。Mnが100未満の場合には、鉱油に対する溶解性が低下する恐れがある。一方、Mnが1000より大きい場合には、油剤除去工程において加工後の被加工材の表面に油剤が残存する恐れがある。なお、本発明におけるMnは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)による標準ポリスチレンの換算の数平均分子量をいう。
【0039】
(A1)成分としては、Mnが100以上1000以下となるように水酸基を3〜6個有する多価アルコールにアルキレンオキシドを付加反応させたものを用いてもよい。また、任意の方法で得られる水酸基を3〜6個有する多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の混合物や市販されている水酸基を3〜6個有する多価アルコールのアルキレンオキシド付加物の混合物を、蒸留やクロマトグラフィーによってMnが100以上1000以下となるように分離したものを用いてもよい。なお、(A1)成分としては、これらの化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0040】
(A2)成分は、Mnが100以上1000以下、好ましくは100以上800以下である水酸基を3〜6個有する多価アルコールのアルキレンオキシド付加物を、ハイドロカルビルエーテル化またはエステル化させたものである。
(A2)成分としては、(A1)成分のアルキレンオキシド付加物の末端水酸基の一部または全てを、ハイドロカルビルエーテル化またはエステル化させたものが使用できる。ここで言うハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24のアルキル基、炭素数2〜24のアルケニル基、炭素数5〜7のシクロアルキル基、炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基、炭素数6〜10のアリール基、炭素数7〜18のアルキルアリール基、炭素数7〜18のアリールアルキル基等の炭素数1〜24の炭化水素基を表す。
【0041】
炭素数1〜24のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、直鎖または分枝のペンチル基、直鎖または分枝のヘキシル基、直鎖または分枝のヘプチル基、直鎖または分枝のオクチル基、直鎖または分枝のノニル基、直鎖または分枝のデシル基、直鎖または分枝のウンデシル基、直鎖または分枝のドデシル基、直鎖または分枝のトリデシル基、直鎖または分枝のテトラデシル基、直鎖または分枝のペンタデシル基、直鎖または分枝のヘキサデシル基、直鎖または分枝のヘプタデシル基、直鎖または分枝のオクタデシル基、直鎖または分枝のノナデシル基、直鎖または分枝のイコシル基、直鎖または分枝のヘンイコシル基、直鎖または分枝のドコシル基、直鎖または分枝のトリコシル基、直鎖または分枝のテトラコシル基等が挙げられる。
【0042】
炭素数2〜24のアルケニル基としては、ビニル基、直鎖または分枝のプロペニル基、直鎖または分枝のブテニル基、直鎖または分枝のペンテニル基、直鎖または分枝のへキセニル基、直鎖または分枝のヘプテニル基、直鎖または分枝のオクテニル基、直鎖または分枝のノネニル基、直鎖または分枝のデセニル基、直鎖または分枝のウンデセニル基、直鎖または分枝のドデセニル基、直鎖または分枝のトリデセニル基、直鎖または分枝のテトラデセニル基、直鎖または分枝のペンタデセニル基、直鎖または分枝のヘキサデセニル基、直鎖または分枝のヘプタデセニル基、直鎖または分枝のオクタデセニル基、直鎖または分枝のノナデセニル基、直鎖または分枝のイコセニル基、直鎖または分枝のヘンイコセニル基、直鎖または分枝のドコセニル基、直鎖または分枝のトリコセニル基、直鎖または分枝のテトラコセニル基等が挙げられる。
【0043】
炭素数5〜7のシクロアルキル基としては、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基等が挙げられる。炭素数6〜11のアルキルシクロアルキル基としては、メチルシクロペンチル基、ジメチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロペンチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘキシル基、ジメチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘキシル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルシクロヘプチル基、ジメチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、メチルエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)、ジエチルシクロヘプチル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0044】
炭素数6〜10のアリール基としては、フェニル基、ナフチル基等が挙げられる。炭素数7〜18のアルキルアリール基としては、トリル基(全ての構造異性体を含む。)、キシリル基(全ての構造異性体を含む。)、エチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のプロピルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のブチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のペンチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のヘキシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のヘプチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のオクチルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のノニルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のウンデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)、直鎖または分枝のドデシルフェニル基(全ての構造異性体を含む。)等が挙げられる。
【0045】
炭素数7〜12のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェニルエチル基、フェニルプロピル基(プロピル基の異性体を含む。)フェニルブチル基(ブチル基の異性体を含む。)、フェニルペンチル基(ペンチル基の異性体を含む。)、フェニルヘキシル基(ヘキシル基の異性体を含む。)等が挙げられる。
【0046】
これらの中では、加工性に優れる点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0047】
エステル化に用いる酸としては、通常、カルボン酸が挙げられる。このカルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよいが、通常、一塩基酸が用いられる。一塩基酸としては、炭素数6〜24の脂肪酸が挙げられ、直鎖状のものでも分枝状のものでもよい。また、一塩基酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸またはこれらの混合物であってもよい。
【0048】
飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のヘキサン酸、直鎖または分枝のオクタン酸、直鎖または分枝のノナン酸、直鎖または分枝のデカン酸、直鎖または分枝のウンデカン酸、直鎖または分枝のドデカン酸、直鎖または分枝のトリデカン酸、直鎖または分枝のテトラデカン酸、直鎖または分枝のペンタデカン酸、直鎖または分枝のヘキサデカン酸、直鎖または分枝のオクタデカン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖または分枝のノナデカン酸、直鎖または分枝のエイコサン酸、直鎖または分枝のヘンエイコサン酸、直鎖または分枝のドコサン酸、直鎖または分枝のトリコサン酸、直鎖または分枝のテトラコサン酸等が挙げられる。
【0049】
不飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のヘキセン酸、直鎖または分枝のヘプテン酸、直鎖または分枝のオクテン酸、直鎖または分枝のノネン酸、直鎖または分枝のデセン酸、直鎖または分枝のウンデセン酸、直鎖または分枝のドデセン酸、直鎖または分枝のトリデセン酸、直鎖または分枝のテトラデセン酸、直鎖または分枝のペンタデセン酸、直鎖または分枝のヘキサデセン酸、直鎖または分枝のオクタデセン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖または分枝のノナデセン酸、直鎖または分枝のエイコセン酸、直鎖または分枝のヘンエイコセン酸、直鎖または分枝のドコセン酸、直鎖または分枝のトリコセン酸、直鎖または分枝のテトラコセン酸等が挙げられる。
【0050】
これらの中では、特に炭素数8〜20の飽和脂肪酸、炭素数8〜20の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物が好ましい。なお、(A2)成分としては、これら化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0051】
(A3)成分は、Mnが100以上1000以下のポリアルキレングリコールであり、炭素数2〜6、好ましくは2〜4のアルキレンオキシドを単独重合または共重合したものが用いられる。炭素数2〜6のアルキレンオキシドとしては、(A1)成分の説明において列挙したアルキレンオキシドが挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、ブチレンオキシドが好ましく、エチレンオキシド、プロピレンオキシドがより好ましい。
なお、ポリアルキレングリコールの調製時に2種以上のアルキレンオキシドを用いた場合には、オキシアルキレン基の重合形式に特に制限はなく、ランダム共重合していても、ブロック共重合していてもよい。
【0052】
また、(A3)成分としては、Mnが100以上1000以下、好ましくは120以上700以下である。Mnが100未満のポリアルキレングリコールは、鉱油への溶解性が低下する恐れがある。一方、Mnが1000より大きいポリアルキレングリコールは、油剤除去工程において加工後の被加工材の表面に油剤が残存する恐れがある。
またさらに、(A3)成分としては、アルキレンオキシドを重合させる際にMnが100以上1000以下となるように反応させたものを用いてもよい。また、任意の方法で得られるポリアルキレングリコール混合物や市販されているポリアルキレングリコール混合物を、蒸留やクロマトグラフィーによってMnが100以上1000以下となるように分離したものを用いてもよい。なお、(A3)成分としては、これらの化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0053】
(A4)成分は、Mnが100以上1000以下、好ましくは120以上700以下のポリアルキレングリコールを、ハイドロカルビルエーテル化またはエステル化させたものである。(A4)成分としては、(A3)成分のポリアルキレングリコールの末端水酸基の一部または全てを、ハイドロカルビルエーテル化またはエステル化させたものが使用できる。ここでいうハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24の炭化水素基を表し、具体的には、(A2)成分の説明において列挙した各基が挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0054】
また、(A4)成分としては、(A3)成分のポリアルキレングリコールの末端水酸基をエステル化させたものも使用できる。エステル化に用いる酸としては、通常カルボン酸が挙げられる。このカルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよいが、通常、一塩基酸が用いられる。具体的には、上記(A2)成分の説明において列挙したものが挙げられる。なお、(A4)成分としては、これら化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0055】
(A5)成分は、炭素数2〜20、好ましくは炭素数3〜18の2価アルコールである。ここでいう2価アルコールとは、分子中にエーテル結合を有しないものをいう。炭素数2〜20の2価アルコールとしては、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,4−ブタンジオール、1,2−ブタンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,2−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、1,2−ヘキサンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,2−ヘプタンジオール、2−メチル−2−プロピル−1,3−プロパンジオール、2,2−ジエチル−1,3−プロパンジオール、1,8−オクタンジオール、1,2−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,2−ノナンジオール、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール、1,10−デカンジオール、1,2−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,2−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール、1,2−ドデカンジオール、1,13−トリデカンジオール、1,2−トリデカンジオール、1,14−テトラデカンジオール、1,2−テトラデカンジオール、1,15−ヘプタデカンジオール、1,2−ヘプタデカンジオール、1,16−ヘキサデカンジオール、1,2−ヘキサデカンジオール、1,17−ヘプタデカンジオール、1,2−ヘプタデカンジオール、1,18−オクタデカンジオール、1,2−オクタデカンジオール、1,19−ノナデカンジオール、1,2−ノナデカンジオール、1,20−イコサデカンジオール、1,2−イコサデカンジオール等が挙げられる。
【0056】
これらの中では、加工性に優れる点から、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、ネオペンチルグリコール、1,6−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、2−エチル−2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,7−ヘプタンジオール、1,8−オクタンジオール、1,9−ノナンジオール、1,10−デカンジオール、1,11−ウンデカンジオール、1,12−ドデカンジオール等が好ましい。なお、(A5)成分としては、これらの化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0057】
(A6)成分は、炭素数2〜20、好ましくは炭素数3〜18の2価アルコール(但し、分子中にエーテル結合を有するものを除く。)を、ハイドロカルビルエーテル化させたものまたはエステル化させたものである。(A6)成分としては、(A5)成分の2価アルコールの末端水酸基の一部または全てを、ハイドロカルビルエーテル化させたものが使用できる。ここでいうハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24の炭化水素基を表し、具体的には、(A2)成分の説明において列挙した各基が挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)が更に好ましい。
【0058】
また、(A6)成分としては、(A5)成分の2価アルコールの末端水酸基の一方または両方を、エステル化させたものも使用できる。エステル化に用いる酸としては、通常、カルボン酸が挙げられる。このカルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよいが、通常一塩基酸が用いられる。具体的には、上記(A2)成分の説明において列挙したものが挙げられる。またさらに、(A6)成分のエステルは、(A5)成分の2価アルコールの末端水酸基の一方をエステル化したもの(部分エステル)であってもよく、末端水酸基の両方をエステル化したもの(完全エステル)であってもよい。これらの中では、加工性に優れる点から、部分エステルであることが好ましい。なお、(A6)成分としては、これら化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0059】
(A7)成分は、炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜18の3価アルコールである。ここでいう3価アルコールとは、分子中にエーテル結合を有しないものをいう。炭素数3〜20の3価アルコールとしては、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−ヘキサントリオール、1,2,4−ヘキサントリオール、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3,4−ヘキサントリオール、1,3,5−ヘキサントリオール、1,3,6−ヘキサントリオール、1,4,5−ヘキサントリオール、1,2,7−ヘプタントリオール、1,2,8−オクタントリオール、1,2,9−ノナントリオール、1,2,10−デカントリオール、1,2,11−ウンデカントリオール、1,2,12−ドデカントリオール、1,2,13−トリデカントリオール、1,2,14−テトラデカントリオール、1,2,15−ペンタデカントリオール、1,2,16−へキサデカントリオール、1,2,17−ヘプタデカントリオール、1,2,18−オクタデカントリオール、1,2,19−ノナデカントリオール、1,2,20−イコサントリオール等が挙げられる。
【0060】
これらの中では、加工性に優れる点から、1,2,12−ドデカントリオール、1,2,13−トリデカントリオール、1,2,14−テトラデカントリオール、1,2,15−ペンタデカントリオール、1,2,16−ヘキサデカントリオール、1,2,17−ヘプタデカントリオール、1,2,18−オクタデカントリオールが好ましい。なお、(A7)成分としては、これら化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0061】
(A8)成分は、炭素数3〜20、好ましくは炭素数3〜18の3価アルコール(但し、分子中にエーテル結合を有するものを除く。)を、ハイドロカルビルエーテル化させたものまたはエステル化させたものである。(A8)成分としては、(A7)成分の3価アルコールの末端水酸基の一部または全てを、ハイドロカルビルエーテル化させたものが使用できる。ここでいうハイドロカルビル基とは、炭素数1〜24の炭化水素基を表し、具体的には、(A2)成分の説明において列挙した各基が挙げられる。これらの中では、加工性に優れる点から、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルキル基、炭素数2〜18の直鎖または分枝のアルケニル基が好ましく、炭素数3〜12の直鎖または分枝のアルキル基、オレイル基(オレイルアルコールから水酸基を除いた残基)がより好ましい。
【0062】
また、(A8)成分としては、(A7)成分の3価アルコールの末端水酸基の一方または全部を、エステル化させたものが使用できる。エステル化に用いる酸としては、通常、カルボン酸が挙げられる。このカルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸でもよいが、通常一塩基酸が用いられる。具体的には、上記(A2)成分において列挙したものが挙げられる。なお、(A8)成分のエステルとしては、(A7)成分の3価アルコールの末端水酸基の一つまたは2つをエステル化したもの(部分エステル)であってもよく、末端水酸基の全部をエステル化したもの(完全エステル)であってもよい。これらの中では、加工性に優れる点から、部分エステルであることが好ましい。
【0063】
(A8)成分としては、(A7)成分のうち、グリセリン、1,2,3−ブタントリオール、1,2,4−ブタントリオール、1,2,5−ペンタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,3−ペンタントリオール、1,2,4−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3−へキサントリオール、1,2,4−ヘキサントリオール、1,2,5−ヘキサントリオール、1,3,4−ヘキサントリオール、1,3,5−ヘキサントリオール、1,3,6−へキサントリオールおよび1,4,5−へキサントリオールのハイドロカルビルエーテルまたは部分エステルが好ましい。なお、(A8)成分としては、これら化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0064】
本発明において、上記(A1)〜(A8)成分の中から選ばれる1種の含酸素化合物を単独で用いてもよいし、異なる構造を有する2種以上の含酸素化合物の混合物を用いてもよい。上記(A1)〜(A8)成分の中では、加工性に優れる点から、(A3)成分、(A4)成分、(A5)成分および(A8)成分が好ましく、(A3)成分、(A4)成分および(A8)成分がより好ましい。
【0065】
また、本発明の金属加工用潤滑油組成物に占める含酸素化合物の含有量は、該潤滑油組成物の全量基準で0.005〜10.0質量%である。すなわち、含酸素化合物の含有量は0.005質量%以上であり、好ましくは0.05質量%以上、より好ましくは0.1質量%以上である。一方、含酸素化合物の含有量は10質量%以下であり、好ましくは5.0質量%以下、より好ましくは2.0質量%以下である。含酸素化合物の含有量が少なすぎると加工性の向上効果が不十分となることがあり、含有量を多くしても含有量に見合う効果が得られないことがある。
【0066】
本発明の金属加工用潤滑油組成物においては、油性剤を更に含有する。
油性剤としては、加工性をより向上させるために、下記(B1)〜(B2)成分の中から選ばれる少なくとも1種の油性剤を使用することが好ましい。
(B1)エステル
(B2)一価アルコール
【0067】
(B1)成分であるエステルは、アルコールとカルボン酸とを反応させることにより得られる。アルコールとしては、一価アルコールでも多価アルコールでもよい。また、カルボン酸としては、一塩基酸でも多塩基酸であってもよい。
【0068】
一価アルコールとしては、通常炭素数1〜24の一価アルコールが用いられる。このようなアルコールとしては、直鎖状のものでも分枝状のものでもよい。炭素数1〜24の一価アルコールとしては、メタノール、エタノール、直鎖または分枝のプロパノール、直鎖または分枝のブタノール、直鎖または分枝のペンタノール、直鎖または分枝のヘキサノール、直鎖または分枝のヘプタノール、直鎖または分枝のオクタノール、直鎖または分枝のノナノール、直鎖または分枝のデカノール、直鎖または分枝のウンデカノール、直鎖または分枝のドデカノール、直鎖または分枝のトリデカノール、直鎖または分枝のテトラデカノール、直鎖または分枝のペンタデカノール、直鎖または分枝のヘキサデカノール、直鎖または分枝のヘプタデカノール、直鎖または分枝のオクタデカノール、直鎖または分枝のノナデカノール、直鎖または分枝のエイコサノール、直鎖または分枝のヘンエイコサノール、直鎖または分枝のトリコサノール、直鎖または分枝のテトラコサノールおよびこれらの混合物等が挙げられる。
【0069】
多価アルコールとしては、通常2〜10価、好ましくは2〜6価の多価アルコールが用いられる。2〜10価アルコールとしては、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(エチレンオキシドの3〜15量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(プロピレンオキシドの3〜15量体)、1,3−プロパンジオール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、1,2−ペンタンジオール、1,3−ペンタンジオール、1,4−ペンタンジオール、1,5−ペンタンジール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ポリグリセリン(グリセリンの2〜8量体、例えば、ジグリセリン、トリグリセリン、テトラグリセリン)、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)およびこれらの2〜8量体、ペンタエリスリトールおよびこれらの2〜4量体、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等が挙げられる。
また、キシロース、アラビトール、リボース、ラムノース、グルコース、フルクトース、ガラクトース、マンノース、ソルボース、セロビオース、マントース、イソマルトース、トレハロース、スクロース等の糖類も使用可能である。
【0070】
これらの中では、エチレングリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール(より好ましくはエチレンオキシドの3〜10量体)、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール(より好ましくはプロピレンオキシドの3〜10量体)、1,3−プロパンジオール、2−メチル−1,2−プロパンジオール、2−メチル−1,3−プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ジグリセリン、トリグリセリン、トリメチロールアルカン(例えば、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、トリメチロールブタン)およびこれらの2〜4量体、ペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトール、1,2,4−ブタントリオール、1,3,5−ペンタントリオール、1,2,6−ヘキサントリオール、1,2,3,4−ブタンテトロール、ソルビトール、ソルビタン、ソルビトールグリセリン縮合物、アドニトール、アラビトール、キシリトール、マンニトール等の2〜6価の多価アルコールおよびこれらの混合物等がより好ましい。更に好ましくは、エチレングリコール、プロピレングリコール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、トリメチロールエタン、トリメチロールプロパン、ペンタエリスリトール、ソルビタンおよびこれらの混合物である。
【0071】
また、エステル油性剤を構成する一塩基酸としては、通常炭素数6〜24を有する直鎖または分枝の脂肪酸が挙げられる。また、一塩基酸としては、飽和脂肪酸、不飽和脂肪酸またはこれらの混合物であってもよい。
【0072】
飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のへキサン酸、直鎖または分枝のオクタン酸、直鎖または分枝のノナン酸、直鎖または分枝のデカン酸、直鎖または分枝のウンデカン酸、直鎖または分枝のドデカン酸、直鎖または分枝のトリデカン酸、直鎖または分枝のテトラデカン酸、直鎖または分枝のペンタデカン酸、直鎖または分枝のヘキサデカン酸、直鎖または分枝のオクタデカン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデカン酸、直鎖または分枝のノナデカン酸、直鎖または分枝のエイコサン酸、直鎖または分枝のヘンエイコサン酸、直鎖または分枝のドコサン酸、直鎖または分枝のトリコサン酸、直鎖または分枝のテトラコサン酸等が挙げられる。
【0073】
不飽和脂肪酸としては、直鎖または分枝のヘキセン酸、直鎖または分枝のヘプテン酸、直鎖または分枝のオクテン酸、直鎖または分枝のノネン酸、直鎖または分枝のデセン酸、直鎖または分枝のウンデセン酸、直鎖または分枝のドデセン酸、直鎖または分枝のトリデセン酸、直鎖または分枝のテトラデセン酸、直鎖または分枝のペンタデセン酸、直鎖または分枝のヘキサデセン酸、直鎖または分枝のオクタデセン酸、直鎖または分枝のヒドロキシオクタデセン酸、直鎖または分枝のノナデセン酸、直鎖または分枝のエイコセン酸、直鎖または分枝のヘンエイコセン酸、直鎖または分枝のドコセン酸、直鎖または分枝のトリコセン酸、直鎖または分枝のテトラコセン酸等が挙げられる。これらの中では、特に炭素数8〜20の飽和脂肪酸、炭素数8〜20の不飽和脂肪酸およびこれらの混合物が好ましい。
【0074】
エステル油性剤を構成する多塩基酸としては、炭素数2〜16の二塩基酸およびトリメリット酸等が挙げられる。炭素数2〜16の二塩基酸としては、直鎖のものでも分枝のものでもよく、また飽和二塩基酸、不飽和二塩基酸またはこれらの混合物であってもよい。
【0075】
飽和二塩基酸としては、エタン二酸、プロパン二酸、直鎖または分枝のブタン二酸、直鎖または分枝のペンタン二酸、直鎖または分枝のへキサン二酸、直鎖または分枝のオクタン二酸、直鎖または分枝のノナン二酸、直鎖または分枝のデカン二酸、直鎖または分枝のウンデカン二酸、直鎖または分枝のドデカン二酸、直鎖または分枝のトリデカン二酸、直鎖または分枝のテトラデカン二酸、直鎖または分枝のヘプタデカン二酸、直鎖または分枝のヘキサデカン二酸等が挙げられる。
【0076】
不飽和二塩基酸としては、直鎖または分枝のヘキセン二酸、直鎖または分枝のオクテン二酸、直鎖または分枝のノネン二酸、直鎖または分枝のデセン二酸、直鎖または分枝のウンデセン二酸、直鎖または分枝のドデセン二酸、直鎖または分枝のトリデセン二酸、直鎖または分枝のテトラセン二酸、直鎖または分枝のヘプタデセン二酸、直鎖または分枝のヘキサデセン二酸等が挙げられる。
【0077】
エステル油性剤としては、例えば、以下の(1b)〜(7b)成分が挙げられる。エステル油性剤としては、これらの例示成分のように、任意のアルコールとカルボン酸とを反応させて得られるエステルが使用可能であり、特にこれらに限定されるものではない。
(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステル
(2b)多価アルコールと一塩基酸とのエステル
(3b)一価アルコールと多塩基酸とのエステル
(4b)多価アルコールと多塩基酸とのエステル
(5b)一価アルコールおよび多価アルコールの混合物と、多塩基酸との混合エステル
(6b)多価アルコールと、一塩基酸および多塩基酸の混合物との混合エステル
(7b)一価アルコールおよび多価アルコールの混合物と、一塩基酸および多塩基酸の混合物との混合エステル
【0078】
なお、上記アルコール成分として多価アルコールを用いた場合には、エステルとしては、多価アルコール中の水酸基が全てエステル化された完全エステルを示す。また、上記カルボン酸成分として多塩基酸を用いた場合には、エステルとしては、多塩基酸中のカルボキシル基が全てエステル化された完全エステルでもよく、カルボキシル基の一部がエステル化されずにカルボキシル基のままで残っている部分エステルであってもよい。
【0079】
エステル油性剤としては、上記した何れのものも使用可能であるが、加工性に優れる点から、(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステルおよび(3b)一価アルコールと多塩基酸とのエステルが好ましい。特にアルミフィン加工およびアルミニウム圧延においては(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステルがより好ましく、アルミニウム以外の金属の圧延においては、(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステルがより好ましく、(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステルと(3b)一価アルコールと多塩基酸とのエステルの併用が最も好ましい。
【0080】
油性剤として用いる(1b)一価アルコールと一塩基酸とのエステルの合計炭素数には特に制限はないが、加工性の向上の点からエステルの合計炭素数は7以上が好ましく、9以上がより好ましく、11以上が最も好ましい。また、油剤除去性の点から、エステルの合計炭素数は26以下が好ましく、24以下がより好ましく、22以下が最も好ましい。前記一価アルコールの炭素数には特に制限はないが、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらにより好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。前記一塩基酸の炭素数には特に制限はないが、炭素数8〜22が好ましく、炭素数10〜20がより好ましく、炭素数12〜18が最も好ましい。前記合計炭素数、前記アルコールの炭素数および前記一塩基酸の炭素数を前述のように設定することが好ましいのは、上限値に関してはステインや腐食の発生を増大させる恐れが大きくなる点、冬季において流動性を失い扱いが困難になる恐れが大きくなる点および基油への溶解性が低下して析出する恐れが大きくなる点を考慮してであり、下限値に関しては、潤滑性能の点および臭気による作業環境悪化の点を考慮してである。
【0081】
本発明において油性剤として用いられる(3b)一価アルコールと多塩基酸とのエステルの形態は特に制限されないが、下記式(3)で表されるジエステル、またはトリメリット酸のエステルであることが好ましい。
−O−CO(CHCO−O−R (3)
(式(3)中、RおよびRは互いに同一または異なる基であって炭素数3〜10の炭化水素基を示し、nは4〜8を示す。)
【0082】
潤滑性能の向上効果が期待できなくなる恐れがある、臭気により作業環境が悪化するなどの点から、前記式(3)においてRおよびRは炭素数3以上の炭化水素基であることが好ましい。また、ステインや腐食の発生を増大させる恐れが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になる恐れが大きくなる、基油への溶解性が低下して析出する恐れが大きくなるなどの点から、前記式(3)においてRおよびRは炭素数10以下の炭化水素基であることが好ましい。また、ステインや腐食の発生を増大させる恐れが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になる恐れが大きくなる、基油への溶解性が低下して析出する恐れが大きくなるなどの点から、nは8以下であることが好ましい。一方、潤滑性能の向上効果が期待できなくなる恐れがある、臭気により作業環境が悪化するなどの点から、nは4以上であることが好ましい。このうち、原料の入手のしやすさ、および価格の点からn=4、6が特に好ましい。
【0083】
前記ジエステルのRおよびRとしては、アルキル基、アルケニル基、アルキルシクロアルキル基、アルキルフェニル基、フェニルアルキル基等が挙げられ、特にアルキル基が好ましい。このアルキル基には直鎖アルキル基または分岐アルキル基が含まれ、直鎖アルキル基と分岐アルキル基が混在していてもよいが、分岐アルキル基が好ましい。前記RおよびRとしては、例えば、直鎖または分岐のプロピル基、直鎖または分岐のブチル基、直鎖または分岐のペンチル基、直鎖または分岐のヘキシル基、直鎖または分岐のヘプチル基、直鎖または分岐のオクチル基、直鎖または分岐のノニル基、直鎖または分岐のデシル基等を挙げることができる。前記式(3)で表されるジエステルは任意の方法で得られるが、例えば、炭素数6〜10の直鎖飽和ジカルボン酸(炭素数6から順に、アジピン酸、ピメリン酸、コルク酸、アゼライン酸、セバシン酸)またはその誘導体と、炭素数3〜10のアルコールとをエステル化させる方法などが例示される。トリメリット酸をエステル化する1価アルコールの炭素数は特に制限はないが、ステインや腐食の発生を増大させる恐れが大きくなる、冬季において流動性を失い扱いが困難になる恐れが大きくなる、基油への溶解性が低下して析出する恐れが大きくなるなどの点から、炭素数1〜10が好ましく、炭素数1〜8がより好ましく、炭素数1〜6がさらに好ましく、炭素数1〜4が最も好ましい。トリメリット酸のエステルは、部分エステル(モノエステルまたはジエステル)でも完全エステル(トリエステル)でもよい。
【0084】
(B2)成分の一価アルコールとしては、上記(B1)成分の説明においてエステルを構成するアルコールとして列挙した化合物等が挙げられる。一価アルコールとしては、加工性により優れる点から、一価アルコールの合計炭素数は6以上が好ましく、8以上がより好ましく、10以上が最も好ましい。また、油剤除去性の点から、一価アルコールの合計炭素数は20以下が好ましく、18以下がより好ましく、16以下が最も好ましい。
【0085】
本発明の金属加工用潤滑油組成物に使用する油性剤としては、上記各種油性剤の中から選ばれる1種のみを単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよいが、加工性をより向上できることから、(1)一価アルコールと一塩基酸とから得られる合計炭素数7〜26のエステル、(2)炭素数6〜20の一価アルコール、特に炭素数が9以上の一価アルコールと炭素数8以下の一価アルコールの併用、またはこれらの混合物であることが好ましい。
【0086】
また、油性剤の含有量は、本発明の金属加工用潤滑油組成物の全量基準で0.01〜70質量%である。油性剤の含有量は、加工性の観点から、好ましくは0.01質量%以上であり、より好ましくは0.05質量%以上、更に好ましくは0.07質量%以上である。一方、油性剤の含有量の上限値は70質量%以下であり、油剤除去性の点から、好ましくは50質量%以下であり、より好ましくは15質量%以下、更に好ましくは10質量%以下である。
【0087】
本発明の金属加工用潤滑油組成物にはアルキルベンゼンを配合することができ、特に芳香族分の少ない基油、具体的には芳香族5容量%以下(より具体的には1容量%以下)の鉱油やイソパラフィンを用いた場合に、アルキルベンゼンを添加すると、油性剤の添加効果をより増大させることができる。本発明で用いられるアルキルベンゼンの40℃における動粘度は1〜60mm/sの範囲であり、40℃における動粘度が1mm/s未満の場合には、添加効果が期待できない場合があり、40℃における動粘度が60mm/sを超える場合には、ステインや腐食の発生を増大させる可能性があり、好ましくは40mm/s以下、より好ましくは20mm/s以下である。
【0088】
また、本発明で用いるアルキルベンゼンのベンゼン環に結合するアルキル基としては直鎖状であっても、分枝状であっても良く、また、炭素数についても特に限定されるものではないが、炭素数1〜40のアルキル基が好ましい。
炭素数1〜40のアルキル基としては、具体的には例えば、メチル基、エチル基、直鎖状または分枝状のプロピル基、直鎖状または分枝状のブチル基、直鎖状または分枝状のペンチル基、直鎖状または分枝状のヘキシル基、直鎖状または分枝状のヘプチル基、直鎖状または分枝状のオクチル基、直鎖状または分枝状のノニル基、直鎖状または分枝状のデシル基、直鎖状または分枝状のウンデシル基、直鎖状または分枝状のドデシル基、直鎖状または分枝状のトリデシル基、直鎖状または分枝状のテトラデシル基、直鎖状または分枝状のペンタデシル基、直鎖状または分枝状のヘキサデシル基、直鎖状または分枝状のヘプタデシル基、直鎖状または分枝状のオクタデシル基、直鎖状または分枝状のノナデシル基、直鎖状または分枝状のイコシル基、直鎖状または分枝状のヘンイコシル基、直鎖状または分枝状のドコシル基、直鎖状または分枝状のトリコシル基、直鎖状または分枝状のテトラコシル基、直鎖状または分枝状のペンタコシル基、直鎖状または分枝状のヘキサコシル基、直鎖状または分枝状のヘプタコシル基、直鎖状または分枝状のオクタコシル基、直鎖状または分枝状のノナコシル基、直鎖状または分枝状のトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のヘントリアコンチル基、直鎖状または分枝状のドトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のトリトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のテトラトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のペンタトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のヘキサトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のヘプタトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のオクタトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のノナトリアコンチル基、直鎖状または分枝状のテトラコンチル基が挙げられる。
【0089】
アルキルベンゼン中のアルキル基の個数は通常1〜4個であるが、安定性、入手可能性の点から1個または2個のアルキル基を有するアルキルベンゼン、すなわちモノアルキルベンゼン、ジアルキルベンゼン、またはこれらの混合物が最も好ましく用いられる。また、用いるアルキルベンゼンとしては、もちろん、単一の構造のアルキルベンゼンだけでなく、異なる構造を有するアルキルベンゼンの混合物であっても良い。
【0090】
本発明に係るアルキルベンゼンの数平均分子量については、なんら制限はないが、添加効果の点から、100以上が好ましく、130以上がより好ましい。また、分子量が大き過ぎるとステインや腐食の発生を増大させる可能性が大きくなることから、数平均分子量の上限は340以下が好ましく、320以下がより好ましい。
【0091】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、上記したアルキルベンゼンを組成物全量基準で、0.1〜50質量%含有することができる。含有量の下限値は、添加効果の点から、0.1質量%以上が好ましく、より好ましくは0.5質量%以上、さらに好ましくは1質量%以上である。また、含有量が多過ぎるとステインや腐食の発生を増大させる可能性が大きくなることから、上限値は50質量%以下が好ましく、より好ましくは40質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下である。
【0092】
本発明の金属加工用潤滑油組成物においては、炭素数6〜40の直鎖オレフィンを更に含有していてもよい。該潤滑油組成物が直鎖オレフィンを含有することにより、潤滑性が更に向上する。
炭素数が6未満の直鎖オレフィンは、引火点が低いため適当ではない。適度な高さの引火点を有するためには、炭素数が8以上であることが好ましく、炭素数10以上であることがより好ましく、炭素数12以上であることが更に好ましい。一方、炭素数が40を越えると、固体状となるため使用が困難となり、しかも他の成分(鉱油や添加剤)等との混合や溶解が困難となるため不適当である。また、炭素数が40を越える直鎖オレフィンは一般的ではなく、入手も困難である。このような不都合を考慮して、炭素数が30以下の直鎖オレフィンが好ましい。
【0093】
このような直鎖オレフィンとしては、分子内に二重結合を1個有しているものであっても、2個以上有しているものであってもよいが、二重結合を1個有しているものが好ましい。また、二重結合の位置についても特に制限はないが、潤滑性に優れる点から、末端に二重結合を有している直鎖オレフィン、すなわちn−α−オレフィンであることが好ましい。
直鎖オレフィンとしては、例えば、1−オクテン、1−デセン、1−ドコセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、1−イコセンまたはこれらの2種以上の混合物等が挙げられる。なお、直鎖オレフィンとしては、様々な製法によって得られるものを用いることができるが、例えば、エチレンを通常の手段で重合させて得られるエチレンオリゴマーを使用することができる。また、直鎖オレフィンとしては、これらの化合物を単独でまたは2種以上の混合物として用いてもよい。
【0094】
なお、直鎖オレフィンの含有量は任意であるが、本発明の金属加工用潤滑油組成物の潤滑性向上の観点から、かかる含有量は該潤滑油組成物の全量基準で1質量%以上が好ましく、3質量%以上がより好ましく、5質量%以上が更に好ましい。一方、かかる含有量は、添加量に見合った効果が得られる点から、該潤滑油組成物の全量基準で30質量%以下が好ましく、25質量%以下がより好ましく、20質量%以下が更に好ましい。
【0095】
本発明の金属加工用潤滑油組成物においては、その優れた効果をより一層向上させるため、必要に応じて極圧添加剤、酸化防止剤、さび止め剤、腐食防止剤、消泡剤、抗乳化剤、かび防止剤等の添加剤を単独でまたは2種以上を組み合わせて更に含有させることができる。
極圧添加剤としては、トリクレジルフォスフェート等のリン系化合物、およびジアルキルジチオリン酸亜鉛等の有機金属化合物が挙げられる。酸化防止剤としては、2,6−ジターシャリーブチル−p−クレゾール(DBPC)等のフェノール系化合物、フェニル−α−ナフチルアミン等の芳香族アミンおよびジアルキルジチオリン酸亜鉛等の有機金属化合物が挙げられる。さび止め剤としては、オレイン酸等の脂肪酸の塩、ジノニルナフタレンスルホネート等のスルホン酸塩、ソルビタンモノオレエート等の多価アルコールの部分エステル、アミンおよびその誘導体、リン酸エステルおよびその誘導体が挙げられる。腐食防止剤としては、ベンゾトリアゾール等が挙げられる。消泡剤としては、シリコーン系のものが挙げられる。抗乳化剤としては界面活性剤が用いられ、カチオン系として四級アンモニウム塩、イミダゾリン型、アニオン系として硫酸化油、エアロゾル型、ノニオン系としてひまし油のエチレンオキサイド付加物、エーテル型非イオン活性剤のりん酸エステル、エチレンオキサイドとプロピレンオキサイドのブロック共重合物、ダイマー酸とのエステルなどが挙げられる。かび防止剤としてはフェノール系化合物、ホルムアルデヒド供与体化合物、サリチルアニリド系化合物などが挙げられる。
なお、上記添加剤の合計含有量は、本発明の金属加工用潤滑油組成物の全量基準で通常15質量%以下、好ましくは10質量%以下である。
【0096】
本発明の金属加工用潤滑油組成物(以下、本発明の組成物ともいう。)は、保管時の自然吸湿分を除き実質的に水を含有しない不水の状態で使用するのが原則であるが、場合によりさらに水を含有することができ、また本発明の組成物を水と併せて使用することもできる。水を含有する場合、本発明の組成物は、水を連続層とし、これに油成分が微細に分散しエマルションを形成した乳化状態、水が油成分に溶解している可溶化状態、もしくは強攪拌により水と油剤を混合した懸濁状態のいずれの形態をもとりうる。また、本発明の組成物と水を各々別に加工部位に供給し使用することもできる。本発明の組成物(原液)を水で希釈、もしくは水と併用するだけで、実際に使用する金属加工油剤とすることができる。希釈倍率(併用使用する際は、原液に対する原液+水の倍率を希釈倍率とする。)は使用条件によって任意に選択されるが、一般には原液を重量比で2〜100倍に、好ましくは3〜70倍に水で希釈して実用の金属加工油剤を得るのが通例である。この場合の希釈水には、水道水、工業用水、イオン交換水、蒸留水などが使用可能で、硬水であるか軟水であるかを問わない。エマルション型の場合、本発明の組成物を水で希釈すると、水を連続相とし、これに油成分が微細に分散した状態のエマルションが得られるが、水に分散する油滴の平均粒径は300nm以下、特に100nm以下であることが好ましい。分散油滴の平均粒径が大きいと、オイルピットが生成し易くなって加工製品の表面光沢が損なわれるばかりなく、金属加工油剤の清浄化に微細なフィルターを使用できなくなるからである。
【0097】
本発明の金属加工用潤滑油組成物の粘度は、格別の限定はないが、40℃における動粘度は0.5〜500mm/s、好ましくは1.0〜200mm/sである。アルミニウムフィン加工においては、加工性、油剤の揮発性および油剤除去性の観点から、好ましくは1.0〜5.0mm/s、より好ましくは1.2〜3.0mm/s、最も好ましくは1.3〜2.8mm/sである。アルミニウム圧延加工においては、潤滑性と表面品質の観点から、好ましくは1.0〜10mm/s、より好ましくは1.0〜8.0mm/sである。アルミニウム以外の金属の圧延加工においては、好ましくは1.0〜20mm/s、より好ましくは2.0〜15mm/s、最も好ましくは3.0〜15mm/sである。
【0098】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、種々の金属の加工油として用いられ、適用される金属としては、アルミニウム、マグネシウム、および銅、鉄、クロム、ニッケル、亜鉛、スズ、チタン等の遷移金属、並びにそれらの合金を挙げることができる。また適用しうる加工方法としては、冷間、温間および熱間圧延、プレス、打ち抜き、しごき、絞り、引き抜き、鍛造、極微量切削(MQL)を含む切削および研削等の金属加工等を挙げることができる。本発明の金属加工用潤滑油組成物は、特に、アルミニウムフィン材(平板状の純アルミニウム(純度99%以上)またはアルミニウムを主成分とする合金)の加工や、各種金属の冷間、温間および冷間圧延に好適である。これらの圧延の中でも、特に冷間圧延に好適である。また、各種金属の圧延の中でも、高純度アルミニウム(純度99.9%以上(99.99%以上の純度を有するものを含む))およびアルミニウムを主成分とする合金、ステンレス、銅および銅合金の圧延に好適であり、最も好適なのは高純度アルミニウムおよびアルミニウムを主成分とする合金の圧延である。
【0099】
アルミニウムフィン材の加工においては、本発明の金属加工用潤滑油組成物は、アルミニウムフィン材の表面を予め被膜処理したプレコート材はもとより、そのような処理を施していない材料にも用いることができる。
なお、ここでいう被膜とは、アルミニウムフィン材上に形成された耐食性下地被膜とその被膜上に形成される親水性被膜とからなる膜をいう。耐食性下地被膜としては、無機系下地被膜と有機系下地被膜が挙げられる。無機系下地被膜としては、例えば、クロメート被膜、ベーマイト被膜、ケイ酸被膜またはこれらを組み合わせた被膜が挙げられる。また、有機系下地被膜としては、例えば、ポリ塩化ビニル−酢酸ビニル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のビニル系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、ウレタン系樹脂、スチロール系樹脂、フェノール系樹脂、フッ素系樹脂、ケイ素系樹脂、ジアリルフタレート系樹脂、ポリカーボネート系樹脂、ポリアミド系樹脂、アルキッド系樹脂、ポリエステル系樹脂、ユリアメラミン樹脂、ポリアセタール系樹脂および繊維系樹脂が挙げられる。
【0100】
親水性被膜としては、例えば、以下の(a)〜(e)が挙げられる。
(a)カルボニル基を有する低分子有機化合物とアルカリケイ酸塩とを主成分とするもの
(b)上記(a)に水溶性有機高分子化合物を加えたものを主成分とする特殊水ガラス
(c)ケイ酸ナトリウム、ケイ酸カリウム、水ガラス等のケイ酸塩、ケイ酸、シリカゲルまたはアルミナゾル
(d)カルボニル基を有する低分子量有機化合物からなる架橋剤と、親水性有機高分子とを反応させることにより得られる親水性の変性有機高分子
(e)ポリビニルアルコール系親水性有機高分子、水溶性有機高分子および架橋剤を反応させることによって得られる親水性のポリビニルアルコール系変性有機高分子
なお、アルニウムフィン材の加工としては、例えば、張り出し加工、絞り加工、打ち抜き加工、カーリング加工およびチューブ挿通孔周辺の筒形立ち上がり壁をしごいて高くするしごき加工が挙げられる。
【発明の効果】
【0101】
本発明の金属加工用潤滑油組成物は、上記したように、高い生産性に耐え、過酷な潤滑条件下でも高い加工性を有する一方、良好な油剤除去性を維持し、作業環境の悪化や製品の品質低下を抑えるとともに、油剤コストの上昇をもたらさないという優れた特徴を有する。
【実施例】
【0102】
以下、本発明の好適な実施例について更に詳細な説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0103】
<参考例1〜18および比較例1〜6>
参考例1〜18および比較例1〜6においては、下記に示す各成分を用いて金属加工用潤滑油組成物を調製し、アルミニウムフィン材の加工に供した(各成分の数値単位は組成物全量基準での質量%を表す)。各参考例または比較例の金属加工用潤滑油の各成分の含有量を表1に示す。
【0104】
(1)基油
基油1:芳香族分0.5容量%、ナフテン分45容量%、パラフィン分54.5容量%、初留点207℃、終点288℃、動粘度(40℃)1.60mm/sの鉱油
基油2:初留点161℃、終点263℃、動粘度(40℃)2.45mm/sのイソパラフィン
【0105】
(2)エポキシ化合物
エポキシ化合物1:ノニルフェニルグリシジルエーテル
エポキシ化合物2:2−エチルヘキシルグリシジルエーテル
エポキシ化合物3:グリシジル−2,2−ジメチルオクタノエート
エポキシ化合物4:1,2−エポキシスチレン
エポキシ化合物5:1,2−エポキシドデカン
エポキシ化合物6:1,2−エポキシシクロペンタン
エポキシ化合物7:エポキシステアリン酸ヘキシル
エポキシ化合物8:大豆のエポキシ化物
【0106】
(3)比較添加剤
比較添加剤1:ラウリン酸ブチル
比較添加剤2:ラウリルアルコール
【0107】
参考例1〜18および比較例1〜6の各潤滑油について、以下の評価試験を行った。
(潤滑性試験)
参考例1〜18および比較例1〜6の各潤滑油を長さ300mm×幅30mm×厚さ0.8mmのアルミニウム板(材質:A1050材)の両面に塗布し、平面部を有する金属製ブロック(材質:SKD11)と平面部を有する金属製ブロック(材質:SKD11)の間に挟み、アルミニウム板を下記の条件で一方向に引き抜く際の力を測定した。なお、結果は引き抜き力を摩擦係数に換算して表示した。
引き抜き条件
ブロックの押さえ方:980N(100kgf)
引き抜き速度 :100mm/min
【0108】
(揮発性試験)
溶剤で洗浄したアルミニウム材の試験片を145℃恒温槽内に3分静置した後、試験片の重量を秤量した。これをA(g)とした。次いで、この試験片をデシケータ内で室温まで冷却した後、参考例1〜18および比較例1〜6の各潤滑油を2g/cmになるように試験片に塗布した。塗布前後の試験片の重量を秤量し、それぞれB(g)、C(g)とした。この試験片を130℃の恒温槽内で3分間静置した後、直ちに試験片の重量を秤量し、これをD(g)とした。A、B、CおよびDの値から以下の式に従い各潤滑油の揮発量を求めた。
揮発量(質量%)=100×(D−A)/(C−B)
【0109】
(貯蔵安定性1)
参考例1〜18および比較例1〜6の各潤滑油を100ccのローソク瓶に入れ、22℃の室内(室温)にて静置保管し、1ヶ月後の状態を観察した。
評価としては透明が○、曇りが△、沈殿が×である。
(貯蔵安定性2)
参考例1〜18および比較例1〜6の各潤滑油を100ccのローソク瓶に入れ、0℃の恒温槽にて静置保管し、1ヶ月後の状態を観察した。
評価としては透明が○、曇りが△、沈殿が×である。
【0110】
評価結果を同じく表1に示すが、エポキシ化合物を含まない場合は潤滑性が劣る。
【0111】
<実施例1〜15および比較例7〜14>
実施例1〜15および比較例7〜14においては、下記に示す成分を用いて金属加工用潤滑油を調製し、各材料について圧延試験を行った(各成分の数値単位は組成物全量基準での質量%を表す)。各実施例および比較例の金属加工用潤滑油の各成分の含有量を表2に示す。
【0112】
(1)基油
基油3:40℃における動粘度2.3mm/sの鉱油(パラフィン35容量%、ナフテン64.5容量%、芳香族0.5容量%)
基油4:40℃における動粘度6.9mm/sの鉱油(パラフィン48容量%、ナフテン50容量%、芳香族2容量%)
(2)油性剤
油性剤1:ラウリルアルコール
油性剤2:ステアリン酸ブチル
油性剤3:アジピン酸ジイソノニル
(3)エポキシ化合物
エポキシ化合物9 :i−ブチルフェニルグリシジルエーテル
エポキシ化合物10:オクチルグリシジルエーテル
エポキシ化合物11:グリシジル−t−ブチルベンゾエート
エポキシ化合物4 :1,2−エポキシスチレン
エポキシ化合物5 :1,2−エポキシドデカン
エポキシ化合物12:1,2−エポキシシクロヘキサン
(4)含酸素化合物
含酸素化合物1:1,2−ドデカンジオール
含酸素化合物2:トリプロピレングリコール
【0113】
圧延試験に用いた材料、圧延条件および評価方法は下記のとおりである。
(1)材料
材料1:アルミニウムJIS A1050 0.33mm厚,60mm幅
材料2:アルミニウムJIS A5182 0.33mm厚,60mm幅
材料3:ステンレス鋼SUS304 0.33mm厚,60mm幅
材料4:銅 0.33mm厚,60mm幅
材料5:7/3黄銅(70%銅,30%亜鉛) 0.33mm厚,60mm幅
(2)圧延条件
ワークロール直径:51mm
圧延速度 :35m/min、380m/min
圧延距離 :420m
【0114】
(3)評価方法
(圧延限界圧下率)
上記油剤を用いて圧延速度35m/minで圧延を行い、30%から徐々に圧下率を上昇させ、焼きつきなどの表面損傷なしに正常に圧延可能な最大の圧下率を求めた。
(光沢むら)
上記油剤10Lを用いて圧延速度400m/min、圧下率18%で1分40秒間圧延を行い、圧延開始後から材料長さで400mの場所をサンプリングし,幅方向に5点一定間隔で光沢値を測定し,その標準偏差を求めた.
【0115】
(摩耗紛発生量)
光沢むら試験後の使用油を0.1μフィルタにてろ過を行い、捕捉された摩耗紛を酸により溶解し、その量を原子吸光により求めた。また、圧延後の材料表面をふき取った後,その脱脂綿に捕捉されたアルミニウムを酸溶解後,原子吸光法で定量した。なお,脱脂綿の押し付け冶具は,常に一定の力が材料表面にかかるよう,2ヶ所の締め付けねじを0.4Nmのトルクで固定した.上記油中摩耗紛と材料に付着した摩耗紛の合計を、材料1mあたりの量に換算し、摩耗紛発生量とした。各材料に対しては以下の元素を摩耗紛として測定した。
材料1および2:アルミニウム
材料3:鉄
材料4および5:銅
【0116】
(焼鈍性(アルミニウム材料1および2のみ))
光沢むら試験後のコイル(圧延開始から400mまで)を350℃で焼鈍をおこない、オイルステインの発生の有無を評価した。
○:ステインなし
△:ごく軽微なステイン発生
×:ステイン発生
××:著しいステイン発生
【0117】
評価結果を同じく表2に示すが、エポキシ化合物を添加した場合は比較例に比べて、圧延限界%、光沢むら、摩耗粉量、またステイン発生のすべてにおいて満足すべき結果が得られる。これに対し、エポキシ化合物を添加しない場合は、圧延限界が低いあるいは摩耗が多い(比較例7、12、14)、光沢むらおよび摩耗が多い(比較例8)等の欠点を有する。またエポキシ化合物の添加量が多すぎる場合は光沢むらが悪く、ステインも多い(比較例10)。
【0118】
【表1】

【0119】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
鉱油、合成油および油脂から選ばれる少なくとも一種の基油に、フェニルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、アルキルグリシジルエーテル型エポキシ化合物、グリシジルエステル型エポキシ化合物、アリールオキシラン化合物、アルキルオキシラン化合物、脂環式エポキシ化合物、エポキシ化脂肪酸モノエステルおよびエポキシ化植物油の中から選ばれるエポキシ化合物を組成物全量基準で0.01〜10.0質量%、および一価アルコールと一塩基酸とから得られる合計炭素数7〜26のエステルおよび/または炭素数6〜20の一価アルコールを組成物全量基準で0.01〜70質量%含有することを特徴とする金属加工用潤滑油組成物。
【請求項2】
アルミニウムフィン材の加工に用いられることを特徴とする請求項1に記載の金属加工用潤滑油組成物。

【公開番号】特開2012−224860(P2012−224860A)
【公開日】平成24年11月15日(2012.11.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−154541(P2012−154541)
【出願日】平成24年7月10日(2012.7.10)
【分割の表示】特願2005−261948(P2005−261948)の分割
【原出願日】平成17年9月9日(2005.9.9)
【出願人】(000004444)JX日鉱日石エネルギー株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】