説明

金属化フィルムおよびその製造方法、ならびに該金属化フィルムを用いた金属化フィルムコンデンサ

【課題】フィルムの巻取り性を低下させることなく、金属化フィルムにおける酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制することができる金属化フィルムの製造方法、該金属化フィルム、および該金属化フィルムを用いたコンデンサを提供する。
【解決手段】誘電体フィルム19の表面に、金属蒸着層11が形成される蒸着部19Dと、蒸着部に隣接するマージン部19Mとを有し、金属蒸着層は、前記マージン部と隣接する隣接部分にマージン部に近づくにつれて厚みが減少する傾斜部11Sを備えた金属化フィルム10を、オイル18を蒸発させて誘電体フィルムの表面に付着させ、マージン部を形成するオイル蒸着工程と、マージン部上でマージン部の縁に沿って、オイルを印刷するオイル印刷工程と、オイル蒸着工程およびオイル印刷工程の後に金属蒸着を行うことにより、蒸着部に金属蒸着層を形成する金属蒸着工程とを含む工程で製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化フィルムおよびその製造方法、ならびに該金属化フィルムを用いた金属化フィルムコンデンサに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、金属化フィルムコンデンサ等に用いられる金属化フィルムの製造方法としては、例えば、フィルムにオイルを蒸着等により付着させた後に金属蒸着を行うことにより、フィルムの表面に金属蒸着層を形成するとともに、絶縁マージンを形成する方法が用いられている(例えば、特許文献1、2参照)。
【0003】
従来の金属化フィルム80の製造方法について、図7を用いて説明する。
図7(a)は、従来の金属化フィルム80の製造方法においてフィルム89にオイル88を蒸着させたときの一例を模式的に示す断面図である。図7(b)は、(a)に示したフィルム89に金属蒸着を行ったときの状態を模式的に示す断面図である。
【0004】
従来の金属化フィルムの製造方法では、図7(a)に示すように、まず、フィルム89の表面89aに、オイル88を蒸着する。オイル88は、中央部分が隆起した裾広の山状を呈し、少なくともマージン部89M(マージン形成予定部)を覆う。オイル88の付着範囲は比較的広く、蒸着部89D(金属蒸着予定部)にも及んでいる。
続いて、オイル88が蒸着されたフィルム89に金属蒸着を行うことにより、図7(b)に示す金属化フィルム80を得ることができる。
【0005】
金属化フィルム80は、フィルム89と、フィルム89の表面89aに形成された金属蒸着層81とからなる。フィルム89は、マージン部89Mと蒸着部89Dとからなる。マージン部89Mは、金属蒸着層81が形成されない部分である。蒸着部89Dは、金属蒸着層81が形成される部分である。
金属蒸着においては、オイルが少量でも付着していれば、必ずマスクできるというものではなく、ある一定以上の量(厚さ)のオイルが付着していなければ、繰り返し衝突する金属粒子によりオイルが取り除かれるか、または再蒸発等により拡散してしまい、蒸着金属が付着してしまうので、オイル88の裾部まで金属蒸着層81が形成されることになる。
【0006】
金属化フィルムコンデンサでは、互いに異極となる電極(+と−)が交互に重なるので、電極引き出しと反対側の端部には、絶縁するための絶縁マージンが必要となる。マージン部89Mは、その絶縁マージンとなる部分である。金属蒸着層81は、マージン部89Mの近傍部分に、マージン部89Mに近づくにつれて厚みが減少する傾斜部81Sを有する。
【0007】
このように、図7を用いて説明した金属化フィルム80の製造方法によれば、蒸着部89Dとマージン部89Mとの境界に向けて厚みが徐々に減少する金属蒸着層81が形成される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−266127号公報
【特許文献2】特開2001−76960号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、図7に示す金属化フィルムの製造方法によれば、マージン部89Mの形成が、オイル蒸着のみによって行われ、オイル蒸着では、フィルム89に局所的にオイル88を付着させることが難しいので、図7(a)に示すように、オイル88が広範囲に拡散し、裾広で低い山形となる。そのようなフィルム89を用いて金属化フィルム80を製造すると、図7(b)に示すように、マージン部89Mの境界に向けて厚みが徐々に減少する傾斜部81Sが、なだらかに広い幅(例えば、0.1〜0.5mm)で発生する。
【0010】
このような金属化フィルム80を用いたコンデンサでは、金属蒸着層81のマージン部89M側の先端部81Tに電界が集中し、酸化劣化による金属蒸着層81の消失(膜後退)が生じ易いという問題があった。
【0011】
前記問題を解決する方法としては、例えば、ノズルからのオイル噴出角度を調整し、オイル量を増やすことで、金属蒸着層を切り立った形状とする方法がある。
その方法について、図8を用いて説明する。
図8(a)は、従来の金属化フィルムの製造方法においてフィルムにオイルを蒸着させたときの他の例を模式的に示す断面図である。図8(b)は、(a)に示したフィルムに金属蒸着を行ったときの状態を模式的に示す断面図である。なお、図8では、図7と同一部分に、図7と同じ符号を付している。
【0012】
この金属化フィルムの製造方法では、図8(a)に示すように、まず、フィルム89の表面89aに、オイル98を蒸着する。オイル98は、図7(a)に示したオイル88と同様に、少なくともマージン部89Mを覆うが、オイル88より高く盛り上がっており、オイル98の量は、オイル88の量より多い。
続いて、オイル98が蒸着されたフィルム89に金属蒸着を行うことにより、図8(b)に示す金属化フィルム90を得ることができる。
【0013】
金属化フィルム90は、フィルム89と、フィルム89の表面89aに形成された金属蒸着層91とからなる。金属蒸着層91は、マージン部89Mの近傍部分に、マージン部89Mに近づくにつれて厚みが減少する傾斜部91Sを有する。傾斜部91Sの幅(例えば、1〜100μm)は、図7(b)に示す傾斜部81Sの幅より狭く、傾斜部91Sの立ち上がり角は、傾斜部81Sより急である。
【0014】
このように、図8を用いて説明した金属化フィルムの製造方法によれば、傾斜部91Sの立ち上がり角が急な金属蒸着層91を形成することができる。
【0015】
しかしながら、図8に示す金属化フィルムの製造方法によれば、オイル98の拡散を防ぐためには、オイル噴出口(図示せず)とフィルム89とを充分に近づける必要があり、また、大量のオイルを付着させなければならない。そのため、フィルム89の巻取り性が著しく低下し、結果として生産性が低下するという問題があった。
【0016】
また、従来の金属化フィルムの製造方法としては、フィルムにオイルを蒸着するのではなく、オイルを印刷した後に金属蒸着を行うことにより、フィルムの表面に金属蒸着層を形成する方法がある。
【0017】
この金属化フィルムの製造方法におけるオイル印刷工程について、図9を用いて説明する。
図9(a)〜(c)は、オイル印刷の工程を模式的に示す断面図である。なお、図9では、図7と同一部分に、図7と同じ符号を付している。
【0018】
図9(a)に示すように、フィルム89の表面89aにオイル78を印刷する場合、まず、印刷治具70Pの凸部70Bに適量のオイル78を付着させ、凸部70Bをマージン部89Mの上方に位置させる。
次に、図9(b)に示すように、フィルム89の表面89aに印刷治具70Pを近づけて、凸部70Bをフィルム89の表面89aに押し付け、凸部70Bに付着したオイル78を、フィルム89の表面89aに転写する。
【0019】
次に、図9(c)に示すように、フィルム89の表面89aから印刷治具70Pを遠ざけ、凸部70Bとオイル78とを離す。これにより、オイル78の印刷が完了する。
フィルム89に印刷されたオイル78は、マージン部89Mを覆い、さらにマージン部89Mの両側に位置する蒸着部89Dの一部を覆う。また、フィルム89に印刷されたオイル78は、図9(b)に示すように凸部70Bがフィルム89の表面89aに押し付けられることにより、フィルム89に印刷されているので、その中央部78Cが凹み、中央部78Cの両側の縁部78Bが盛り上がっている。
【0020】
オイル印刷は、局所的に一定量のオイル78を付着させることに適しているが、この方法では、印刷治具70Pの凸部70Bの先端に付いたオイル78をフィルム89に押し付けて印刷するため、図9(a)〜(c)に示した工程を経たフィルム89では、オイル78の中央部78Cのオイル量が少なくなる。
【0021】
金属蒸着においては、オイルが少量でも付着していれば、必ずマスクできるというものではなく、ある一定以上の量(厚さ)のオイルが付着していなければ、繰り返し衝突する金属粒子によりオイルが取り除かれるか、または拡散してしまい、蒸着金属が付着してしまう。
そのため、図9(c)に示すフィルム89に金属蒸着を行うと、中央部78Cに対応した部分に蒸着金属が付着してしまうという問題があった。
【0022】
上記の問題に鑑みて、本発明の課題は、フィルムの巻取り性を低下させることなく、金
属化フィルムにおける酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制することができる金属化フィルムの製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
オイル蒸着では、図7(a)に示すように、オイル88の中央部分が盛り上がるので、マージン部89Mを確実に確保できるというメリットがあるが、図7(b)に示すように、金属蒸着層81の傾斜部81Sが広い幅で発生するというデメリットがある。
一方、オイル印刷では、図9(c)に示すように、オイル78の中央部78Cが凹んでしまうので、本来マージン部89Mとなるべき位置に蒸着金属が付着してしまうというデメリットがあるが、フィルム89の表面89aと接触する部分におけるオイル78の立ち上がり角は大きくなるというメリットがある。
【0024】
本発明は、それぞれのメリットを利用しデメリットを克服することで、広範囲へのオイルマスクは蒸着によって行い、蒸着金属とマージン部(絶縁マージン)との境界部分にオイル印刷を行うことで、上述した本発明の課題を解決したものである。
【0025】
具体的に、本発明は、以下の構成を採用する。
(1) 誘電体フィルムの表面に、金属蒸着層が形成される蒸着部と、該蒸着部に隣接するマージン部とを有する金属化フィルムの製造方法であって、
オイルを蒸発させて前記誘電体フィルムの表面に付着させ、マージン部を形成するオイル蒸着工程と、
前記マージン部上で該マージン部の縁に沿って、オイルを印刷するオイル印刷工程と、
前記オイル蒸着工程および前記オイル印刷工程の後に金属蒸着を行うことにより、前記蒸着部に前記金属蒸着層を形成する金属蒸着工程と、
を含むことを特徴とする金属化フィルムの製造方法。
【0026】
前記(1)の構成によれば、オイルを蒸発させて前記誘電体フィルムの表面に付着させ、マージン部を形成するオイル蒸着工程と、前記マージン部上で該マージン部の縁に沿って、オイルを印刷するオイル印刷工程と、前記オイル蒸着工程および前記オイル印刷工程の後に金属蒸着を行うことにより、蒸着部に金属蒸着層を形成する金属蒸着工程とを有することにより、マージン部を確実に確保しつつ、金属蒸着層の立ち上がり角を大きくすることができる。
具体的には、オイル印刷によりマージン部との境界部分における金属層の傾斜を急峻にするとともに、オイル蒸着により付着オイル中央部の厚みを確保し、マージン部に金属蒸着層が形成されるのを抑制することができる。
その結果、金属化フィルムにおける酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制することができる。
また、マージン部の縁に印刷されたオイルにより、オイルの立ち上がり角を大きくするので、オイルの噴射量を少なくすることができる。従って、フィルムの巻取り性を低下させることがなく、また金属化フィルムの滑り性が向上する。
【0027】
なお、金属化フィルムを製造する際にマスクによるマージン部の形成を行えば、金属蒸着層のマージン部側の際を切り立った形状とすることができる。しかし、マスク蒸着では、マスクに蒸着金属が堆積していくため、長時間の蒸着ができず、生産性が悪いという問題がある。
そのため、現在、金属化フィルムを製造するときの金属蒸着としては、オイルの蒸着によるマージン部の形成が主流となっている。このような状況において、本発明は、オイル噴き付けによるマージン部の形成でも、マスク蒸着を行った場合と同様の形状の蒸着金属層を得ることを可能とするものである。
【0028】
ここで、本発明において、誘電体フィルムは、「蒸着部」と「マージン部」とからなるが、物理的な金属層の有無によって区別されているわけではない。
本発明の「蒸着部」とは、コンデンサとして構成したときに、電極として静電容量に寄与する部分(または電極引出し部分と電気的に接続されている部分)、「マージン部」とは、電極として静電容量に寄与しない部分(金属が部分的に付着しているとしても、電極と接続されていない部分)をいう。
よって、「突条部」(後述)は、「マージン部」に形成される金属層であるが、本発明の「金属蒸着層」には含まれない。すなわち、本発明の「金属蒸着層」は、「蒸着部」に意図的に蒸着させる金属層を指す。
【0029】
本発明は、さらに、以下の構成を採用することができる。
(2) 前記(1)の金属化フィルムの製造方法であって、
前記オイル印刷工程においてオイルを印刷する位置は、前記オイル蒸着工程においてオイルを付着させる領域の外縁位置と重複していることを特徴とする。
【0030】
(2)の構成によれば、誘電体フィルムへのオイルの付着量を少なくしつつ、金属蒸着層の立ち上がり角を大きくすることができる。
【0031】
本発明は、さらに、以下の構成を採用することができる。
(3)誘電体フィルムの表面に、金属蒸着層が形成される蒸着部と、該蒸着部に隣接するマージン部とを有する金属化フィルムにおいて、
前記金属蒸着層は、前記マージン部と隣接する隣接部分に前記マージン部に近づくにつれて厚みが減少する傾斜部を備え、
前記マージン部には、前記金属蒸着層から離間するとともに前記金属蒸着層の縁に沿った突条部が形成されていることを特徴とすることを特徴とする金属化フィルム。
【0032】
(3)の構成によれば、マージン部が確実に確保され、かつ金属蒸着層の立ち上がり角(急傾斜部の立ち上がり角)が大きい。従って、金属化フィルムにおける酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制することができる。
【0033】
本発明は、さらに、以下の構成を採用することができる。
(4) 前記(4)に記載の金属化フィルムが巻回または積層されてなるコンデンサ素子が用いられていることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。
【0034】
(4)の構成によれば、マージン部が確実に確保され、かつ金属蒸着層の立ち上がり層の立ち上がり角が大きく、酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制できる金属化フィルムを使用しているので、金属化フィルムコンデンサの信頼性を向上できる。
【発明の効果】
【0035】
本発明の金属化フィルムの製造方法によれば、フィルムの巻取り性を低下させることなく、金属化フィルムにおける酸化劣化による金属蒸着層の消失(膜後退)を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】(a)は、オイル蒸着工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図であり、(b)は、オイル蒸着工程後にオイル印刷工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図であり、(c)は、金属蒸着工程を行ったときの金属化フィルムを模式的に示す部分断面図である。
【図2】(a)は、オイル印刷工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図であり、(b)は、オイル印刷工程後にオイル蒸着工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図である。
【図3】(a)は、オイル蒸着工程の状態を模式的に示す斜視図であり、(b)は、そのA−A線断面図である。
【図4】(a)は、図3(a)に示すオイル蒸着工程を誘電体フィルムの進行方向の下流側から上流側を見たときの状態を模式的に示す図であり、(b)は、図3(b)に示す断面図におけるノズル近傍を模式的に示す部分拡大図である。
【図5】(a)は、オイル印刷工程の状態を模式的に示す図であり、(b)は、(a)に示すオイル印刷工程によりオイルが印刷された誘電体フィルムの平面図である。
【図6】従来の方法、本発明による方法、従来の方法(オイル増量)について、金属蒸着前から金属蒸着後までの状態を比較した図である。
【図7】(a)は、従来の金属化フィルムの製造方法においてフィルムにオイルを蒸着させたときの一例を模式的に示す断面図であり、(b)は、(a)に示したフィルムに金属蒸着を行ったときの状態を模式的に示す断面図である。
【図8】(a)は、従来の金属化フィルムの製造方法においてフィルムにオイルを蒸着させたときの他の例を模式的に示す断面図であり、(b)は、(a)に示したフィルムに金属蒸着を行ったときの状態を模式的に示す断面図である。
【図9】(a)〜(c)は、従来のオイル印刷の工程を模式的に示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
本発明の金属化フィルムの製造方法について、図1を用いて説明する。
図1(a)は、オイル蒸着工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図である。図1(b)は、オイル蒸着工程後にオイル印刷工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図である。図1(c)は、金属蒸着工程を行ったときの金属化フィルムを模式的に示す部分断面図である。
【0038】
図中、19は、誘電体フィルムを指し、19aは、誘電体フィルム19の表面を指し、19Dは、蒸着部を指し、19Mは、マージン部を指す。誘電体フィルムとしては、特に限定されず、例えば、PP(ポリプロピレン)フィルム等を挙げることができる。
【0039】
図1に示す金属化フィルムの製造方法では、まず、図1(a)に示すように、誘電体フィルム19の表面19aに、オイル18Dを蒸着させる。オイル18Dは、マージン部19Mの全域を覆い、さらに、蒸着部19Dの一部を覆っている。また、オイル18Dは、オイル88(図7(a))よりも蒸着高さが低く、蒸着範囲が狭い。
このように、本発明では、オイル印刷を併用するので、オイルの蒸着量を少なく設定することができる。なお、オイル18Dは、図中における手前側から奥側へ向けて延びる平面視帯状を呈するように蒸着されている。
【0040】
次に、マージン部19Mの縁に沿って、誘電体フィルム19の表面19aにオイルを印刷する。オイルの印刷量は、オイルの蒸着量より少ない。その結果、図1(b)に示すように、オイル18Dの両脇には、凸部18aが形成される。本実施形態において、凸部18aは、マージン部19Mに形成されている。
【0041】
ここで、凸部18a(オイル印刷工程においてオイルが印刷された位置にあるオイル)の最頂部は、図1(b)に示すように、突出している。なお、図1(b)は、オイルの形状の一例を模式的に示すものであり、実際のオイルの形状を厳密に反映したものではない。
【0042】
次に、図1(b)に示した誘電体フィルム19に金属蒸着を行う。金属蒸着としては、従来公知の方法を用いることができる。
以上の工程を経た後、オイルは蒸着用の蒸発源からの輻射熱により除去され、図1(c)に示す金属化フィルム10を得ることができる。金属化フィルム10が、本発明の金属化フィルムである。
金属化フィルム10は、誘電体フィルム19と、誘電体フィルム19の表面19aに形成された金属蒸着層11とからなる。金属蒸着層11は、アルミニウムからなる。
【0043】
誘電体フィルム19は、マージン部19Mと、蒸着部19Dとからなる。マージン部19Mは、金属蒸着層11が形成されない部分である。蒸着部19Dは、金属蒸着層11が形成される部分である。金属蒸着層11は、マージン部19Mの近傍部分に、マージン部19Mに近づくにつれて厚みが減少する傾斜部11Sを有する。
【0044】
傾斜部11Sは、マージン部19M側に向かって曲線を描いて傾斜している。傾斜部11Sの幅は、例えば、1〜100μmである。
【0045】
また、マージン部19Mには、金属蒸着層11から間隔を空け、かつ金属蒸着層11の縁に沿う突条部12が形成されている。突条部12は、オイル18の両外縁部に形成されている凸部18aに対して内側に、凸部18aが形成されていた領域(スリット19S)に隣接するように形成されている。
金属蒸着層11の縁は、図中における手前側から奥側へ向けて延びる直線状を呈し、突条部12は、金属蒸着層11の縁と平行な平面視帯状を呈する。金属蒸着層11と突条部12との間の間隔は、スリット19Sとなっている。
【0046】
図1では、まずオイル蒸着工程を行い、その後にオイル印刷工程を行う場合について説明したが、本発明において、オイル蒸着工程とオイル印刷工程との順序は、この例に限定されず、まずオイル印刷工程を行い、その後にオイル蒸着工程を行うこととしてもよい。
【0047】
次に、まずオイル印刷工程を行い、その後にオイル蒸着工程を行う場合について、図2を用いて説明する。
図2(a)は、オイル印刷工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図である。図2(b)は、オイル印刷工程後にオイル蒸着工程を行ったときの誘電体フィルムを模式的に示す部分断面図である。
【0048】
図2に示す金属化フィルムの製造方法では、まず、図2(a)に示すように、誘電体フィルム19の表面19aに、オイル18Pを印刷する。オイル18Pは、マージン部19M上において、マージン部19Mの縁に沿うように印刷される。なお、本発明のオイル印刷工程において、オイル18Pが印刷される面積は小さく、オイル18Pの量は少ないので、オイル18Pの横方向の広がりは抑えられる。従って、オイル18Pは、図9(c)に示したような形状にはならない。
【0049】
次に、図2(b)に示すように、誘電体フィルム19の表面19aに、オイル18を蒸着させる。オイル18は、マージン部19Mの全域を覆い、さらに、蒸着部19Dの一部に及んでいる。また、オイル18Pが印刷されていた位置では、オイル18Pの上に、オイル18が蒸着されることにより、凸部18aが形成されている。
【0050】
図2(a)に示したオイル印刷工程と、図2(b)に示したオイル蒸着工程とを終えた後に、金属蒸着を行い、オイルを除去することにより、図1(c)に示した金属化フィルム10を得ることができる。
【0051】
本発明の金属化フィルムの製造方法において、誘電体フィルムの搬送方法は、特に限定されない。
【0052】
次に、オイル蒸着工程とオイル印刷工程とについて説明する。
まず、オイル蒸着工程について説明する。
図3(a)は、オイル蒸着工程の状態を模式的に示す斜視図である。図3(b)は、そのA−A線断面図である。図4(a)は、図3(a)に示すオイル蒸着工程を誘電体フィルムの進行方向の下流側から上流側を見たときの様子を模式的に示す図である。図4(b)は、図3(b)に示す断面図におけるノズル近傍を模式的に示す部分拡大図である。
【0053】
図3(a)に示す誘電体フィルム19は、下流側の巻出ロール(図示せず)から上流側の巻取ロール(図示せず)に向けて搬送される。図中、白抜きの矢印は、誘電体フィルム19の搬送方向を示す。誘電体フィルム19の近くには、ドラム状のオイル噴射ロール20が設置されている。オイル噴射ロール20の外周面には、スリット状のノズルNが、複数形成されている。
【0054】
図3(a)および図4(a)に示すように、複数のノズルNは、各ノズルNの長手方向が誘電体フィルム19の搬送方向に対して垂直になるように、ドラム状のオイル噴射ロール20の外周における誘電体フィルム19の表面19aに最も近い場所において、間隔を空けて、一列に並んでいる。オイル噴射ロール20はヒータ(図示せず)を備えており、ヒータが加熱されることにより、オイルOが蒸発し、蒸発したオイルVがノズルNから噴射される。
【0055】
図3(b)に示すように、オイル噴射ロール20のノズルNから噴射された、蒸発したオイルVは、誘電体フィルム19の表面19aに付着する。
【0056】
図4(b)に示すように、ノズルNから噴射されたオイルVは、誘電体フィルム19の表面19aにオイル18として付着する。図中、寸法aは、ノズルNからフィルム19の表面19aまでの距離を示し、例えば、1mm以下である。寸法bは、ノズルNの長手方向の幅を示し、例えば、2〜8mm程度である。寸法cは、誘電体フィルム19の表面19aにおけるオイル18の幅を示し、例えば、bより若干大きい。
図4(b)は、オイル印刷を行う前にオイル蒸着を行う場合におけるオイル蒸着の状態を示しているが、寸法a〜cについては、オイル印刷を行った後にオイル蒸着を行う場合であっても同じである。
【0057】
次に、オイル印刷工程について説明する。
本発明において、オイル印刷工程では、回転ロールによる印刷が行われる。
図5(a)は、オイル印刷工程の状態を模式的に示す図である。図5(b)は、図5(a)に示すオイル印刷工程によりオイルが印刷された誘電体フィルム19の平面図である。図5(a)において、白抜きの矢印は、誘電体フィルム19の搬送方向を示す。
【0058】
図5(a)に示すように、オイル印刷工程では、印刷ロール21により、誘電体フィルム19へのオイル印刷が行われる。図中、印刷ロール21上に示した矢印は、ロール回転方向を示している。印刷ロール21の表面には、それぞれロール径方向に突出した、円筒軸方向に延びる凸状部21aと、ロール周方向に延びる凸状部21bとが形成されている。
【0059】
凸状部21a、21bと誘電体フィルム19との接触位置より上流側では、これらの凸状部にオイル18が付着している。オイル18は、印刷ロール21の回転に伴って、凸状部21a、21bと誘電体フィルム19との接触位置において、誘電体フィルム19の表面19aに転写される。
その結果、誘電体フィルム19の表面19aには、凸状部21a、21bのパターンに応じたオイルの凸部18aと凸部18b(スリットパターン)が形成され、図5(b)に示す形状となる。図中、19Mは、マージン予定部であり、19Dは、金属蒸着予定部である。
【0060】
上述したオイル蒸着工程およびオイル印刷工程の後に、金属蒸着工程を行うことにより、金属化フィルム10を製造することができる。
【0061】
本発明の金属化フィルムの製造方法によれば、オイルの噴射量を小さくすることができるとともに、金属蒸着層の立ち上がり角を大きくすることができ、さらにマージン部の幅を充分に確保することができる。この点について、図6を用いて説明する。
【0062】
図6は、従来の方法、本発明による方法、従来の方法(オイル増量)について、金属蒸着前から金属蒸着後までの状態を比較した図である。
図6(a)は、図7に示す従来方法を示しており、図7と同一部分には、同様の符号を付している。また、二点破線は金属蒸着前の蒸着オイル形状である。
図6(b)は、図1に示す本発明に係る方法を示しており、図1と同一部分には、同様の符号を付している。また、一点破線は従来の金属蒸着前の蒸着オイル形状であり、二点破線は本発明に係る方法による金属蒸着前の蒸着オイル形状である。
図6(c)は、図8に示す従来方法(オイル増量)を示しており、図6(c)では、図8と同一部分には、同様の符号を付している。また、二点破線は金属蒸着前の蒸着オイル形状である。
なお、図6において、Nは、ノズルを示している。
【0063】
図6(a)〜(c)より明らかなように、本発明の方法(図6(b))におけるオイルの付着量は、他の方法(図6(a)、(c))よりも少ない。また、本発明の方法においては、オイルの付着量が少ないにもかかわらず、マージン部と隣接する隣接部分における金属蒸着層の立ち上がり角は、他の方法よりも大きく、本発明の方法におけるマージン部の幅W1は、従来の方法(図6(a))と同程度であり、充分に確保されている。
これに対し、従来の方法(図6(a))では、本発明の方法(図6(b))と比べて、オイルの付着量が多く、マージン部と隣接する隣接部分における金属蒸着層の立ち上がり角は、小さくなっている。また、従来の方法(オイル増量)(図6(c))では、マージン部の幅W2が最大で、オイルの付着量も最も多い。
従って、本発明の金属化フィルムの製造方法によれば、オイルの噴射量を少なくすることができるとともに、金属蒸着層の立ち上がり角を大きくすることができ、さらに、マージン部の幅を必要最小限に確保することができる。
【0064】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明は、上述した実施形態に限定されない。
図1(a)では、オイル蒸着工程において、オイル18Dをマージン部19の全域を覆うように蒸着させる場合について説明したが、オイル蒸着工程においてオイルを蒸着する範囲は、少なくともマージン部の略全域を覆う範囲であればよく、オイル蒸着工程のみによって、必ずしも、マージン部の全域にオイルを蒸着する必要はない。オイル蒸着工程およびオイル印刷工程を終えたときにオイルがマージン部の全域を覆っていればよい。
【0065】
すなわち、オイル蒸着工程では、オイル蒸着工程およびオイル印刷工程を終えたときにオイルがマージン部の全域を覆うように、オイルを蒸着すればよい。
例えば、オイル蒸着工程を行ってからオイル印刷工程を行う場合、オイル蒸着工程では、マージン部の縁部に、オイルが蒸着されていない領域があってもよい。オイル蒸着工程の後のオイル印刷工程において、該領域にオイルを印刷すれば、オイル蒸着工程およびオイル印刷工程を終えたときにオイルがマージン部の全域を覆うことになる。
一方、オイル印刷工程を行ってからオイル蒸着工程を行う場合、オイル蒸着工程を終えた時点で、オイルがマージン部の全域を覆っている必要がある。
【0066】
また、オイル蒸着工程においてオイルが蒸着される範囲は、マージン部と蒸着部との境界を越えて蒸着部に達していてもよい。ただし、オイルがマージン部を越えて蒸着部に達する範囲は、できるだけ狭い方が好ましい。オイルの付着量をできるだけ少なくすることにより、金属化フィルムの巻取り性を低下させることなく、金属化フィルムの滑り性を向上させることができるからである。
【0067】
オイルが印刷される範囲とオイルが蒸着される範囲との関係について、オイルが印刷される範囲は、図1(b)に示すように、オイルが蒸着される範囲の外縁であるか、またはオイルが蒸着される範囲の外側である。オイルが充分に蒸着される部分(例えば、図1に示すオイル18Dの中央部分)にオイルを印刷しても、金属蒸着層の立ち上がり角の増大に寄与しないからである。
【0068】
オイルを印刷する位置と、オイルを蒸着する位置との少なくとも一部が重複した場合、金属蒸着によって金属蒸着層から間隔(図1(c)に示すスリット19S)を空け、かつ金属蒸着層の縁に沿う突条部(図1(c)に示す突条部12)が形成される。
【0069】
オイルを印刷する位置(スリットを形成する位置)は、蒸着によるオイル付着が少なくなって蒸着金属が付着し始める位置、すなわち蒸着されるオイルの少なくとも一部が重複する位置であることが好ましい。
【0070】
上述した実施形態では、金属蒸着層11がアルミニウムからなる場合について説明したが、本発明において、金属蒸着層の形成に用いられる金属は、この例に限定されず、例えば、亜鉛、ニッケル、銅またはこれらの合金等を挙げることができる。
【0071】
オイル蒸着工程のオイルとしては、特に限定されず、例えば、シリコーン系オイル、フッ素系オイル等を挙げることができる。シリコーン系オイルとしては、例えば、ジメチルポリシロキサン、メチルフェニルポリシロキサン等を挙げることができる。フッ素系オイルとしては、例えば、パーフルオロオレフィン、パーフルオロアルキルポリエーテル等を挙げることができる。
【0072】
また、オイル印刷工程のオイルとしては、特に限定されず、例えば、上述したオイル蒸着工程において使用され得るオイルを挙げることができる。オイル蒸着工程とオイル印刷工程とで同じオイルを用いてもよく、異なるオイルを用いてもよい。
【0073】
上述した金属化フィルムを用いることにより、本発明の金属化フィルムコンデンサを製造することができる。本発明の金属化フィルムコンデンサは、本発明の金属化フィルムが巻回または積層されて用いられるものであるが、その点を除けば、従来公知の構成を採用することができ、従来公知の方法により製造することができる。
【0074】
なお、本発明は、上述した例に限定されるものではなく、本発明の構成を充足する範囲内で、適宜設計変更を行うことが可能である。
【符号の説明】
【0075】
10 金属化フィルム
11 金属蒸着層
11S 傾斜部
11T 先端部
12 突条部
18 オイル
18a 凸部
18D (蒸着された)オイル
18P (印刷された)印刷オイル
19 誘電体フィルム
19a (誘電体フィルム19の)表面
19D 蒸着部
19M マージン部
19S スリット
20 オイル噴射ロール
21 オイル印刷ロール
21a 凸状部(ロール円筒軸方向)
21a 凸状部(ロール周方向)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルムの表面に、金属蒸着層が形成される蒸着部と、該蒸着部に隣接するマージン部とを有する金属化フィルムの製造方法であって、
オイルを蒸発させて前記誘電体フィルムの表面に付着させ、マージン部を形成するオイル蒸着工程と、
前記マージン部上で該マージン部の縁に沿って、オイルを印刷するオイル印刷工程と、
前記オイル蒸着工程および前記オイル印刷工程の後に金属蒸着を行うことにより、前記蒸着部に前記金属蒸着層を形成する金属蒸着工程と、
を含むことを特徴とする金属化フィルムの製造方法。
【請求項2】
前記オイル印刷工程においてオイルを印刷する位置は、前記オイル蒸着工程においてオイルを付着させる領域の外縁位置と重複していることを特徴とする請求項1に記載の金属化フィルムの製造方法。
【請求項3】
誘電体フィルムの表面に、金属蒸着層が形成される蒸着部と、該蒸着部に隣接するマージン部とを有する金属化フィルムにおいて、
前記金属蒸着層は、前記マージン部と隣接する隣接部分に前記マージン部に近づくにつれて厚みが減少する傾斜部を備え、
前記マージン部には、前記金属蒸着層から離間するとともに前記金属蒸着層の縁に沿った突条部が形成されていることを特徴とすることを特徴とする金属化フィルム。
【請求項4】
請求項3に記載の金属化フィルムが巻回または積層されてなるコンデンサ素子が用いられていることを特徴とする金属化フィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−231389(P2011−231389A)
【公開日】平成23年11月17日(2011.11.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−105073(P2010−105073)
【出願日】平成22年4月30日(2010.4.30)
【出願人】(000004606)ニチコン株式会社 (656)
【Fターム(参考)】