説明

金属化合物の還元方法

【課題】安全で少ないエネルギーにより効率よく金属化合物を還元できるようにする。
【解決手段】金属化合物をアルコールと接触させながら、密閉系空間において高温高圧下で反応させて、その反応で発生する水素ラジカルにより金属化合物を還元させて金属を得る。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属化合物の還元方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属化合物を還元するには、焙焼法や溶融法や湿式法などがあり、そのなかでも焙焼法や溶融法は、反応温度が高く、エネルギー投入量が極めて多く必要で、経済性が悪い欠点がある。
これに対して、湿式法では、ヒドラジンを用いた還元法(例えば、特許文献1参照)や、ポリオールによる還元法(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2638271号公報
【特許文献2】特公平4−24402号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述した従来の方法で、前者のヒドラジンを用いた方法の場合は、反応性が低くしかもヒドラジンが高価であるばかりか人体に有害であるという欠点があり、また、後者のポリオールを用いた方法の場合には、図1(b)に示すように、開放系の反応装置で行うために、反応によって発生する水素ガスが大気に放出されるために、可燃性で危険であるばかりか、液中での水素の濃度が上がらず、還元反応が促進されず時間が長く、且つ、反応温度を高く必要になるという問題があった。
【0005】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解消し、安全で少ないエネルギーにより効率よく金属化合物を還元できるようにするところにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の第1の特徴構成は、金属化合物をアルコールと接触させながら、密閉系空間において高温高圧下で反応させて、その反応で発生する水素ラジカルにより金属化合物を還元させて金属を得るところにある。
【0007】
本発明の第1の特徴構成によれば、密閉系空間において高温高圧下で反応をさせることにより、アルコールの熱分解により水素ラジカルが発生し、その水素ラジカルにより金属化合物は還元される。しかも、図1(a)に示すように、発生する水素ラジカルは、密閉系空間において分圧が高く外方に逃げることなく溶液中での高い存在率により、他の方法よりも同じ温度でも反応性が高く、短時間で金属化合物の還元反応が促進される。
従って、発生する水素ラジカルが外方に放出されること無く安全で、しかも、焙焼や溶融法に比べて少ないエネルギーにより効率よく金属化合物を還元できるようになった。
【0008】
本発明の第2の特徴構成は、前記金属化合物が遷移金属化合物であり、前記反応において、触媒としてアルカリ金属化合物を添加するところにある。
【0009】
本発明の第2の特徴構成によれば、酸化され易い遷移金属化合物が、沸点より高い温度と圧力で熱分解するアルコールから発生する水素ラジカルにより、効率よく還元され、その上、触媒としてアルカリ金属化合物の添加により還元反応がさらに促進される。
【0010】
本発明の第3の特徴構成は、前記アルコールが多価アルコールであり、前記反応を80℃〜180℃で1.1〜4.2MPaの圧力で行うところにある。
【0011】
本発明の第3の特徴構成によれば、多価アルコールにより80℃〜180℃で1.1〜4.2MPaの圧力による反応で、効率の良い金属化合物の還元反応が行われる。
【0012】
本発明の第4の特徴構成は、前記多価アルコールとして、廃グリセリンを使用するところにある。
【0013】
本発明の第4の特徴構成によれば、多価アルコールに廃グリセリンを使用することにより、廃棄物を利用した再資源化を、安価で経済的に行うことができる。
【0014】
本発明の第5の特徴構成は、前記アルコールが一価のアルコールであるところにある。
【0015】
本発明の第5の特徴構成によれば、一価のアルコールであっても、触媒としてのアルカリ金属化合物が存在すると、アルコキシドの形成により水素ラジカルが発生しやすくなり、還元反応が実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】(a)本発明と,(b)従来法との比較を示した概念図である。
【図2】酸化銅とグリセリンの組み合わせにより得られた反応物のX線回折図である。
【図3】酸化銅と一価アルコールの組み合わせにより得られた反応物のX線回折図である。
【図4】水酸化銅とグリセリンの組み合わせにより得られた反応物のX線回折図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
産業廃棄物中に含まれる金属化合物を有価物である金属に還元して再資源化するために、金属化合物にアルコールを接触させ、密閉系空間において高温高圧下で反応させて、その反応で発生する水素ラジカルにより金属化合物を還元させて金属を得る。
次に、金属化合物として酸化銅(CuO),水酸化銅(Cu(OH)2)、水酸化銅(Cu(OH)2)と水酸化ニッケル(Ni(OH)2)との混合物を原料例として、夫々について還元させる処理を各別に示す。
【実施例1】
【0018】
処理原料の前記金属化合物が酸化銅(CuO)の場合を例にし、接触させるアルコールに多価アルコールとしてのグリセリンを使用する。
表1に示すように、酸化銅とグリセリンの組み合わせで、密閉空間における処理温度、処理圧力、処理時間を夫々変えて反応させた結果を示す(表1の実験例1〜9)。
また、酸化銅に接触させる物として、グリセリンに触媒としてアルカリ(水酸化カリウム(KOH))を添加した例を表1の実験例10〜14に示す。
更に、生成物の結晶構造についてX線回折分析を行った結果を図2に示す。つまり、図2より、生成物が金属銅であることがわかる。
【0019】
【表1】

【0020】
尚、表中の結果の列の○は還元反応が行われたことを示し、×は還元反応が行われなかったことを示す。
結果として、グリセリンを使用した場合の反応では、酸化銅(CuO):グリセリン(C35(OH)3)=1:5で、30分〜60分、150℃〜180℃、1.3MPa〜1.9MPaの反応条件で還元反応が行われ金属銅が生成した。
また、グリセリンに触媒としてアルカリ(KOH)を添加した場合は、還元反応が更に促進されて、酸化銅(CuO):グリセリン(C35(OH)3):アルカリ(KOH)=1:5:1.4で、60分、80℃〜150℃、1.1MPa〜4.2MPaの反応条件で還元反応が行われ金属銅が生成した。
【実施例2】
【0021】
処理原料の前記金属化合物が酸化銅(CuO)の場合を例にし、接触させるアルコールに多価アルコールとしてエチレングリコールを使用する。
表2に示すように、酸化銅とエチレングリコールの組み合わせ(1:5)で、密閉空間における処理温度(120℃〜180℃)、処理圧力を夫々変えて60分間反応させた結果を示す(表2の実験例1〜3)。
【0022】
【表2】

【0023】
その結果は、実験例3以外は還元反応が起こらなかった。
【実施例3】
【0024】
処理原料の前記金属化合物が酸化銅(CuO)の場合を例にし、接触させるアルコールに多価アルコールとして廃グリセリンを使用する。
表3に示すように、酸化銅(CuO):廃グリセリン=5:25で60分、180℃、1.4MPaの反応条件で金属銅が生成した。尚、廃グリセリンにアルカリ(KOH)を添加することで、反応は促進し、80℃〜180℃、1.1〜1.9MPaの条件で金属銅が生成する。
【0025】
【表3】

【実施例4】
【0026】
処理原料の前記金属化合物が酸化銅(CuO)の場合を例にし、接触させるアルコールに一価アルコールとしてメタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)を使用する。
表4に示すように、酸化銅(CuO)に対して一価のアルコールは反応しにくいが、アルカリ(KOH)を添加してより高温(180℃)で高圧(10MPa)の反応条件にすることで還元反応が起こり金属銅を生成する。生成物の結晶構造についてX線回折分析を行った結果を図3に示す。つまり図3より、生成物が金属銅であることが分かる。この時の酸化銅(CuO):メタノール(CH3OH):アルカリ(KOH)=10:18:14である。
【0027】
【表4】

【実施例5】
【0028】
次に、金属化合物が水酸化銅(Cu(OH)2)の場合を例にし、接触させるアルコールにグリセリン又は廃グリセリンを使用し、夫々にアルカリ(KOH)を添加した実験例3,4、7〜10を表5に示した。
更に、生成物の結晶構造についてX線回折分析を行った結果を図4に示す。つまり、図
4より、生成物が金属銅であることが分かる。
【0029】
【表5】

【0030】
結果としては、グリセリンにより180℃、2MPaの反応条件により60分で金属銅が生成し、更にアルカリ(KOH)を添加することで、150℃に下げても2.8Mpaで還元反応が起こる。
また、廃グリセリンの利用においては、180℃、2.2MPaで還元され、アルカリ(KOH)の添加により120℃〜180℃、1.2〜3MPaの反応条件で還元反応が起こる。
尚、実験例11,12のように、水分を含んでいるといずれも還元反応が起こりにくい。
【実施例6】
【0031】
金属化合物が水酸化銅(Cu(OH)2)で、アルコールに一価のアルコール(アルコキシド)を使用して夫々にアルカリ(KOH)を添加した。その結果を、表6に示した。
【0032】
【表6】

【0033】
結果としては、180℃、2.0〜2.2MPaの反応により,60分間でいずれも還元反応が行われなかった。
【実施例7】
【0034】
金属化合物が水酸化銅(Cu(OH)2)と水酸化ニッケル(Ni(OH)2)との混合物の場合、アルコールにグリセリンを使用すると共に、アルカリ(KOH)を添加した。
表7に示すように、120℃〜180℃、1.2〜2.5MPaで反応させて、120℃、1.2MPaの条件で金属銅は生成するがニッケルは生成せず,180℃、2.5MPaで反応させた場合は、金属銅とニッケルが生成する。
【0035】
【表7】

【0036】
次に前記実施例1〜実施例7の温度条件による結果を、表8、表9に簡単に示した。
尚、表中の○は、還元反応が起こったことを示し、×は還元反応が起こらなかったことを示す。
【0037】
【表8】

【0038】
【表9】

【0039】
〔比較例〕
本発明と従来技術との違いを示すために、表10の実験結果を示す。
【0040】
【表10】

【0041】
表10によると、常圧での環境下では、197.3℃〜250℃の温度で90分〜1020分の長時間により還元が行われる物で、本発明の還元方法よりも高温、長時間の処理が必要であることが分かる。
【0042】
〔別実施形態〕
以下に他の実施の形態を説明する。
【0043】
〈1〉 金属化合物としては、銅、鉄、ニッケル、コバルト等の遷移金属化合物が、本発明の還元反応により有価物としての金属になる。
〈2〉 金属化合物と接触させるアルコールは、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリメチレングリコール、プロピレングリコール、テトラエチレングリコール、グリセリン等のポリオール(多価アルコール)の他に、メチルアルコール、エチルアルコール等の一価のアルコールが使用できる。
〈3〉 本発明の反応をさせる金属化合物とアルコールは、反応前に脱水処理して含水率を低下させたほうが反応効率が良い。
〈4〉 本発明の反応においては、触媒として水酸化ナトリウム、水酸化カリウムなどのアルカリ金属化合物を添加することにより、還元反応性の低い一価のアルコールであっても還元反応が促進される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属化合物をアルコールと接触させながら、密閉系空間において高温高圧下で反応させて、その反応で発生する水素ラジカルにより金属化合物を還元させて金属を得る金属化合物の還元方法。
【請求項2】
前記金属化合物が遷移金属化合物であり、前記反応において、触媒としてアルカリ金属化合物を添加する請求項1に記載の金属化合物の還元方法。
【請求項3】
前記アルコールが多価アルコールであり、前記反応を80℃〜180℃で1.1〜4.2MPaの圧力で行う請求項1または2に記載の金属化合物の還元方法。
【請求項4】
前記多価アルコールとして、廃グリセリンを使用する請求項3に記載の金属化合物の還元方法。
【請求項5】
前記アルコールが一価のアルコールである請求項2に記載の金属化合物の還元方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate


【公開番号】特開2012−117099(P2012−117099A)
【公開日】平成24年6月21日(2012.6.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−266990(P2010−266990)
【出願日】平成22年11月30日(2010.11.30)
【出願人】(599023107)リマテック株式会社 (9)
【Fターム(参考)】