説明

金属化樹脂フィルム基板の製造方法

【課題】 フレキシブル配線板として使用される2層金属化樹脂フィルム基板の生産性を向上させ、同時に寸法安定性やシミ等の変色をなくすことができる金属化樹脂フィルム基板の製造方法を提供する。
【解決手段】 金属薄膜付樹脂フィルムFをめっき液4への浸漬を繰り返して搬送させながら、複数の給電ロール6a〜6dから給電して金属薄膜表面に電気めっきする際に、各給電ロール6a〜6dとめっき液4の液面の間で、金属薄膜付樹脂フィルムFのアノード8a−1〜2、8b−1〜2、8c−1〜2、8d−1〜2に対向しない表面に、10℃〜32℃の温度のめっき液又は水を吹き付ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、配線パターン加工を行うことでフレキシブル配線板などとして使用される金属化樹脂フィルム基板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属化ポリイミドフィルムは、ポリイミドフィルムの少なくとも片方の表面上に金属皮膜層を形成したものであり、近年では液晶画面に画像を表示するための駆動用半導体を実装する半導体実装用基板等の用途に汎用されている。金属化ポリイミドフィルムの基材となるポリイミドフィルムは、優れた耐熱性を有し、機械的、電気的及び化学的な特性においても、他のプラスティック材料に比べ遜色のないものである。
【0003】
そのため、上記金属化ポリイミドフィルムは、例えば、プリント配線板(PWB)、フレキシブルプリント配線板(FPC)、テープ自動ボンディング用テープ(TAB)、チップオンフィルム(COF)等の電子部品用の絶縁基板材料として多用されている。これらの中でも、特に液晶画面表示用ドライバーICチップを実装する手法として、金属化ポリイミドフィルムを用いるCOFが注目されている。
【0004】
COFは、従来の実装法であったTCP(Tape Carrier Package)に比べてファインピッチ実装が可能であり、ドライバーICの小型化とコストダウンを図ることが容易な実装法である。このCOFの製造方法としては、金属被膜層として銅を用いた金属化ポリイミドフィルムを使用し、いわゆるサブトラクティブ法、即ち、その銅皮膜層をフォトリソグラフィー技法によってファインパターニングを施し、更に所望の箇所にスズめっき及びソルダーレジストを被覆して得る方法が一般的である。
【0005】
上記金属化ポリイミドフィルムには、接着剤を用いて金属箔とポリイミドフィルムを張り合わせた3層金属化ポリイミドフィルムと、接着剤を介することなく直接ポリイミドフィルムの表面に金属皮膜層を形成した2層金属化ポリイミドフィルムとがある。微細配線が描ける基材が要求される中で、接着剤層の影響を受けず、ポリイミド本来の安定性を利用した材料が得られる理由から、接着剤層の無い2層金属化ポリイミドフィルムの要求が高まっている。
【0006】
2層金属化ポリイミドフィルムを製造する場合、ポリイミドフィルム表面に金属皮膜層を形成する方法としては、例えば、スパッタリング法等の乾式めっき法により、ニッケルクロム合金等からなるニッケル合金の下地金属薄膜を形成し、その上に良導電性を付与するために銅薄膜を形成して金属薄膜とする。次に、通常は回路形成用として厚膜化するために、電気めっき法又は電気めっきと無電解めっきを併用する方法によって金属薄膜上に銅層を形成して、下地金属薄膜と銅薄膜からなる金属薄膜上に銅層が積層された金属皮膜層を形成することが行われている。
【0007】
尚、上記スパッタリング法等によって形成される下地金属薄膜と銅薄膜からなる金属薄膜の厚さとしては、100〜500nmが一般的である。また、金属薄膜上に電気めっき等で成膜される銅層の厚さは、例えばサブトラクティブ法によって回路を形成する場合には、5〜12μmが一般的である。
【0008】
ここで、電気めっき法によって金属薄膜付きポリイミドフィルムの金属薄膜上に銅層を形成する場合、例えば、銅めっき液が供給されるめっき槽を金属薄膜付ポリイミドフィルムの搬送方向に複数並べて設置し、各めっき槽内にカソードの役割を担うめっき面と対向するようにアノードを配置して、各めっき槽に電力を供給する給電部と金属薄膜付ポリイミドフィルムを連続的に搬送させるための機構とを具えた連続めっき装置が用いられている。
【0009】
例えば特許文献1には、アノード及び電解液を有するめっき槽を複数配置し、下地金属薄膜と銅薄膜を有する金属薄膜付ポリイミドフィルムを複数のめっき槽に順次連続的に供給しながら、各めっき槽毎に通電量を制御し、各めっき槽における通電量をフィルムが供給される順に従って順次増加させる方法が記載されている。この特許文献1に記載の方法では、均一で良好な銅層を連続的に形成することができるが、電気めっきの条件によっては、例えば生産性向上のため電流密度を高めた場合などには、配線ピッチの高密度化に要求される寸法安定性が確保できない事態が生じていた。
【0010】
一方、特許文献2には、縦型電界処理装置により鋼ストリップに電解被膜を形成する際に、電解液の液面と通電ロールの間で、鋼ストリップに対して電解液を吹き付けることにより、電解ジュール熱による熱歪を抑制する方法が記載されている。この方法によれば、増産のため通電量を増大させても鋼ストリップの温度上昇を抑制することができる。しかし、上記特許文献2は鋼ストリップの電解に関するものであり、金属化樹脂フィルム基板に求められる寸法安定性を一定の範囲に管理する技術や、シミなどの変色を抑制する技術については何も考慮されていない。
【0011】
このような現状から、特に高密度の配線ピッチが要求される電子機器内の配線材料においては、寸法安定性と変色抑制は重要な課題であることから、この両特性を生産性の向上と同時に達成することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2009−026990号公報
【特許文献2】特開平07−018491号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明は、上記した従来の事情に鑑み、フレキシブル配線板などとして使用される2層金属化樹脂フィルム基板の生産性を向上させるだけでなく、同時に寸法安定性やシミ等の変色の問題を解決することができる金属化樹脂フィルム基板の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者は、上記目的を達成するために、ポリイミドフィルムなどの樹脂フィルム表面に金属薄膜を形成した金属薄膜付樹脂フィルムを連続的に搬送させ、めっき液への浸漬を繰り返しながら、金属薄膜表面に電気めっきして金属化樹脂フィルム基板を製造する際に、寸法安定性と変色の問題を改善する方法について鋭意検討した結果、金属薄膜付樹脂フィルムの金属薄膜への給電後に冷却することが寸法安定性に与える影響を確認し、本発明をなすに至ったものである。
【0015】
即ち、本発明による金属化樹脂フィルム基板の製造方法は、長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介さず金属薄膜を成膜した金属薄膜付樹脂フィルムを、複数のアノードを配置した電気めっき槽でめっき液への浸漬を繰り返して連続的に搬送させながら、電気めっき槽の外部に設けた複数の給電ロールから金属薄膜に給電して、各アノードとの間で金属薄膜の表面に電気めっきを行う金属化樹脂フィルム基板の製造方法において、めっき液への浸漬を繰り返す金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に、各給電ロールとめっき液の液面との間で、10℃〜32℃の温度範囲にあるめっき液又は水を吹き付けることを特徴とする。
【0016】
上記本発明による金属化樹脂フィルム基板の製造方法においては、前記電気めっき槽内のめっき液の温度が25℃〜30℃の範囲にあることが好ましい。また、前記金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に前記めっき液又は水を吹き付ける角度は、俯角20°〜40°の範囲にあることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明によれば、生産性向上のため高い電流密度を加えた場合でも、優れた寸法安定性を確保でき且つシミなどの変色が抑制された金属化樹脂フィルム基板を製造することができる。特に、金属化樹脂フィルム基板のロット間での寸法安定性を確保することができ、例えば0.5A/dm以上の電流密度の場合でも、金属化樹脂フィルム基板のロット間での寸法変化率の標準偏差σを0.01%以内に抑えることができるため、配線ピッチの高密度化が要求されるフレキシブル配線板の生産性向上に大いに寄与することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明による金属化樹脂フィルム基板の製造方法で使用するロールツーロール方式の連続電気めっき装置の一具体例を示す概略の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明の金属化樹脂フィルム基板の製造方法では、長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介さず金属薄膜を形成した金属薄膜付樹脂フィルムを、めっき液への浸漬を繰り返しながら連続的に搬送し、めっき液への浸漬を繰り返す毎に別個に設けた給電ロールから金属薄膜付樹脂フィルムの金属薄膜に給電して、各アノードとの間で金属薄膜表面に電気めっきを行う。その際、各給電ロールとてめっき液の液面との間で、金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に対して温度10℃〜32℃のめっき液又は水を吹き付ける。
【0020】
上記金属薄膜付樹脂フィルムの基材となる長尺樹脂フィルムとしては、ポリイミド系フィルム、ポリアミド系フィルム、ポリエステル系フィルム、ポリテトラフルオロエチレン系フィルム、ポリフェニレンサルファイド系フィルム、ポリエチレンナフタレート系フィルム、液晶ポリマー系フィルムなどを用いることができ、これらの樹脂フィルムは市場で入手することが可能である。こられの樹脂フィルムのうち、機械的強度や耐熱性や電気絶縁性の観点から、ポリイミド系フィルムが特に好ましい。
【0021】
金属薄膜付樹脂フィルムは、上記長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に、接着剤を介することなく金属薄膜を成膜したものである。また、金属薄膜は、下地金属薄膜と、その下地金属薄膜上に成膜された銅薄膜とで構成される。この金属薄膜の表面に、本発明方法により銅などの金属層を成膜することによって、金属化樹脂フィルム基板を得ることができる。以下に、長尺樹脂フィルムとしてポリイミドフィルムを用いた場合を例に、本発明方法を詳しく説明する。
【0022】
ポリイミドフィルムの表面に設ける下地金属薄膜は、ポリイミドフィルムと銅などの金属層との密着性や耐熱性などの信頼性を確保するものである。従って、下地金属薄膜の材質は、ニッケル、クロム又はこれらの合金の中から選ばれる何れか1種とするが、密着強度や配線作製時のエッチングしやすさを考慮すると、ニッケル・クロム合金が好ましい。また、クロム濃度の異なる複数のニッケル・クロム合金の薄膜を積層して、ニッケル・クロム合金の濃度勾配を設けた下地金属薄膜を構成しても良い。
【0023】
また、上記したニッケル、クロム又はこれらの合金からなる下地金属薄膜を設けることによって、金属化ポリイミドフィルムの耐食性及び耐マイグレーション性が向上する。尚、下地金属薄膜の耐食性を更に高めるために、ニッケル、クロム又はこれらの合金に、バナジウム、チタン、モリブデン、コバルト等を添加しても良い。
【0024】
下地金属薄膜は、乾式めっき法で成膜することができる。乾式めっき法には、スパッタリング法、マグネトロンスパッタリング法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等がある。いずれの方法を用いても良いが、生産効率が高いことから、工業的にはマグネトロンスパッタ法が一般的に用いられる。
【0025】
例えば、巻取式スパッタリング装置を用いて下地金属薄膜を成膜する場合、下地金属薄膜の組成を有するターゲットをスパッタリング用カソードに装着し、ポリイミドフィルムをセットした装置内を真空排気した後、Arガスを導入して装置内を1.3Pa程度に保持する。巻出ロールからポリイミドフィルムを毎分3m程度の速さで搬送しながら、カソードに接続したスパッタリング用直流電源より電力を供給してスパッタリング放電を開始し、ポリイミドフィルム上に所望の膜厚の下地金属薄膜を連続的に成膜する。
【0026】
また、乾式めっきを行う前に、ポリイミドフィルムと下地金属薄膜の密着性を改善するため、ポリイミドフィルム表面をコロナ放電やイオン照射などで表面処理した後、酸素ガス雰囲気下において紫外線照射処理を行うことが好ましい。これらの処理条件は、特に限定されるものではなく、通常の金属化ポリイミドフィルムの製造方法に適用されている条件でよい。
【0027】
下地金属薄膜の膜厚は3〜50nmとすることが好ましい。下地金属薄膜の膜厚が3nm未満では、最終的に得られた金属化ポリイミドフィルムの金属皮膜層をエッチングして配線を作製したとき、エッチング液が金属薄膜を浸食してポリイミドフィルムと金属皮膜層の間に染み込み、配線が浮いてしまう場合がある。一方、下地金属薄膜の膜厚が50nmを超えると、エッチングして配線を作製する場合、金属薄膜が完全に除去されず、残渣として配線間に残るため、配線間の絶縁不良を発生させる恐れがある。
【0028】
下地金属薄膜上に積層される銅薄膜は、下地金属薄膜の上に銅などの金属層を電気めっき法により直接設けようとすると通電抵抗が高く、電気めっきの電流密度が不安定になるためである。下地金属薄膜の上に銅薄膜を設けることによって通電抵抗が下がり、電気めっき時の電流密度の安定化を図ることができる。
【0029】
銅薄膜は、乾式めっき法で形成することが好ましい。乾式めっき法は、上記したスパッタリング法、マグネトロンスパッタ法、イオンプレーティング法、クラスターイオンビーム法、真空蒸着法、CVD法等がいずれも使用できる。下地金属薄膜と銅薄膜の成膜は同じ方法でも又は異なる方法でも可能であり、例えば下地金属薄膜をマクネトロンスパッタリング法で成膜した後、銅薄膜を蒸着法で設けることもできる。
【0030】
好ましい銅薄膜の成膜方法としては、銅ターゲットをスパッタリング用カソードに装着したスパッタリング装置を用いて成膜する。この時、下地金属薄膜と銅薄膜は、同一の真空装置内で連続して形成することが好ましい。下地金属薄膜を成膜した後、ポリイミドフィルムを装置内から大気中に取り出し、他のスパッタリング装置を用いて銅薄膜を形成する場合には、銅薄膜を成膜する前に水分を十分に取り除いておく必要がある。
【0031】
銅薄膜の膜厚は10nm〜1μmの範囲が好ましく、20nm〜0.8μmの範囲が更に好ましい。銅薄膜の膜厚が10nmより薄いと、電気めっき時の通電抵抗を十分下げることができない。また、膜厚が1μmよりも厚くなると、成膜に時間が掛かりすぎ、生産性を悪化させ、経済性を損なうからである。
【0032】
上記のごとく下地金属薄膜上に銅薄膜を積層してなる金属薄膜の表面に、本発明方法に従って、電気めっき法より銅層などの金属層を成膜することによって、金属化樹脂フィルム基板が得られる。金属化樹脂フィルム基板に形成する銅層の厚さは、例えばサブトラクティブ法によって配線パターンを形成する場合、数μm〜12μmが一般的である。尚、電気めっきによる銅層などの金属層の形成に先立って、予め金属薄膜の表面に銅等の金属を無電解めっき法で成膜しておくこともできる。
【0033】
本発明による金属化樹脂フィルム基板の製造は、例えば図1に示すようなロールツーロール方式の連続めっき装置を用いて実施する。金属薄膜付樹脂フィルムFは巻出ロール1から巻き出され、電気めっき槽3内のめっき液4への浸漬を繰り返しながら連続的に搬送される。金属薄膜付樹脂フィルムFは、めっき液4に浸漬されている間に電気めっきにより金属薄膜の表面に銅層が成膜され、所定の膜厚の銅層が形成された後、金属化樹脂フィルム基板Sとして巻取ロール2に巻き取れられる。尚、金属薄膜付樹脂フィルムFの搬送速度は、数m〜数十m/分の範囲が好ましい。
【0034】
具体的に説明すると、金属薄膜付樹脂フィルムFは巻出ロール1から巻き出され、ガイドロール5aと給電ロール6aを経て、電気めっき槽3内のめっき液4に浸漬される。電気めっき槽3内に入った金属薄膜層付樹脂フィルムFは、反転ロール7aを経て搬送方向が反転され、ガイドロール5bにより電気めっき槽3外へ引き出される。このように、金属薄膜付樹脂フィルムFがめっき液4への浸漬を複数回(図1では4回)繰り返す間に、金属薄膜付樹脂フィルムFの金属薄膜上に銅層が形成される。
【0035】
即ち、給電ロール6a、6b、6c、6dは金属薄膜付樹脂フィルムFの金属薄膜に接触して、個別の電源装置(図示せず)から電気めっきに必要な電流を供給する。例えば、給電ロール6aは、金属薄膜付樹脂フィルムFの金属薄膜に対向するように配置されたアノード8a−1、8a−2と対になって電気めっきの回路(めっきセル)を構成し、金属薄膜上に銅層を成膜する。同様に給電ロール6bとアノード8b−1、8b−2、給電ロール6cとアノード8c−1、8c−2、給電ロール6dとアノード8d−1、8d−2が対になって電気めっきの回路(めっきセル)を構成し、それぞれ金属薄膜上に銅層を成膜する。
【0036】
上記アノードとしては、公知の無酸素含リン銅若しくは不溶性アノードを用いることができる。めっき液は、アノードに応じためっき液を用いればよい。また、連続めっき装置では、金属薄膜付樹脂フィルムの搬送経路において、各給電ロールは対となるアノードよりも上流側に配置されている。
【0037】
ところで、設備数を増やすことなく、金属化樹脂フィルム基板の生産量を増やすためには、電気めっきでの電析速度を向上させればよい。具体的には、電気めっきの電流密度を高くして、電気めっきに要する時間を短縮する。しかし、給電ロールで給電される電流が増えると、給電ロールからめっき液面までの間で金属薄膜付樹脂フィルムがジュール熱によって発熱する。特に電流密度が0.5A/dm以上になる通電を行うと金属薄膜付樹脂フィルムの発熱が顕著になり、その発熱を放射温度計などで測定すると100℃付近を示すこともある。
【0038】
発熱した金属薄膜付樹脂フィルムは、めっき液に浸漬されて電気めっきされるが、その際に金属薄膜付樹脂フィルムは伸縮することがある。即ち、めっき液に浸漬される直前及び浸漬された直後の金属薄膜付樹脂フィルムは、めっき液よりも温度が高い。金属薄膜付樹脂フィルムの温度が高くても、めっき液に浸漬された直後から電気めっき槽の電流密度に従い電気めっきが行われるが、次第にめっき液の温度に冷却される。発熱により膨張したまま電気めっきが施された金属化樹脂フィルム基板は、冷却による収縮の応力を溜め込むために、寸法安定性が確保できなくなる。この伸縮が原因となって、得られる金属化樹脂フィルム基板の寸法安定性が低下してしまうのである。
【0039】
金属化樹脂フィルム基板の寸法安定性については、特にロット間での寸法安定性が問題となる。寸法安定性がロット間で問題となる理由は、金属化樹脂フィルム基板をパターン加工すると寸法が変化するが、ロット毎に寸法変化率が変動するとプリント配線基板の収率に大きく影響するからである。尚、金属化樹脂フィルム基板の寸法安定性の評価方法は、金属化樹脂フィルム基板をパターン加工し、加工前後の寸法を測定し、寸法変化率を算出して評価する。
【0040】
本発明方法では、上記した金属化樹脂フィルム基板の製造方法において、各給電ロールとめっき液の液面との間で、金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に、温度が10℃〜32℃のめっき液又は水を吹き付ける。これによって、金属化樹脂フィルム基板の寸法安定性、即ちロット間での寸法変化率の標準偏差を小さくすることが可能となる。具体的には、ロット間での寸法変化率の標準偏差σを0.01%以内に抑えることが可能となり、COFとして使用される場合の微細配線化の要求を満たすことができる。
【0041】
即ち、本発明方法では、図1に示すように、各給電ロール6a、6b、6c、6dとめっき液4の液面との間で、即ちめっき液4への浸漬を繰り返す金属薄膜付樹脂フィルムFが各給電ロール6a、6b、6c、6dから離れ且つめっき液4に浸漬されるまでの間に、金属薄膜付樹脂フィルムFのアノード8a−1〜2、8b−1〜2、8c−1〜2、8d−1〜2に対向しない表面(非めっき面)に、ノズル9a、9b、9c、9dから、温度が10℃〜32℃のめっき液又は水を吹き付ける。
【0042】
上記のごとく各給電ロール6a、6b、6c、6dとめっき液4の液面との間で、温度10℃〜32℃のめっき液又は水を金属薄膜付樹脂フィルムFに吹き付けることによって、各給電ロール6a、6b、6c、6dから給電された金属薄膜付樹脂フィルムFの発熱をめっき液4に浸漬されるまでに抑制し若しくは冷却することができる。尚、電気めっき槽3内のめっき液4の温度は、銅の電気めっきの場合を含めて、25℃〜30℃の範囲が望ましい。
【0043】
32℃を越えて高い温度のめっき液又は水を吹き付けても、冷却が十分に行えなえず、寸法安定性は確保できないうえ、外観のムラが発生することもある。一方、10℃未満のめっき液又は水を吹き付けると、吹き付けためっき液や水が電気めっき槽3内に入り、めっき液の液温が低下することにより、銅の電析速度が低下すると共に、金属薄膜付樹脂フィルムFの収縮が大きくなって寸法安定性が確保できなる場合がある。
【0044】
また、図1のような連続めっき装置では、金属薄膜付樹脂フィルムFに吹き付けためっき液又は水は、電気めっき槽3内に落下してめっき液4に混入する。そのため、めっき液に混入した場合でも濃度などへの影響を少なくするために、電気めっき槽3内のめっき液4を吹き付けることが望ましい。具体的には、電気めっき槽3内のめっき液4を、ノズル9a、9b、9c、9dにポンプ供給して吹き付ければよい。また、めっき液の温度は、金属薄膜付樹脂フィルムFに吹き付けるまでに、熱交換器などを介して管理することができる。
【0045】
更に、金属薄膜付樹脂フィルムFにめっき液又は水を吹き付ける位置を、各給電ロール6a、6b、6c、6dとめっき液4の液面との間とするのは、給電によって発熱する金属薄膜付樹脂フィルムFを電気めっきの開始前に冷却するためである。給電ロール6a、6b、6c、6dを離れる前の金属薄膜付樹脂フィルムFにめっき液又は水を吹き付けると、給電ロール6a、6b、6c、6dが汚染されて金属樹脂フィルム基板Sの表面トラブルにつながる。尚、給電ロール6a、6b、6c、6dの汚染を防ぐために、搬送経路上の各給電ロールより上流側に金属薄膜付樹脂フィルムFの洗浄手段を設けてもよい。
【0046】
金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に対して、めっき液又は水を吹き付ける角度は、俯角20°〜40°の範囲であることが好ましい。めっき液又は水を吹き付ける角度を俯角20°〜40°の範囲とすることで、給電ロール6a、6b、6c、6dの汚染を防ぐと共に、給電ロール6a、6b、6c、6dからめっき液4の液面までの広い広い範囲での冷却が可能となる。また、ノズル9a、9b、9c、9dは、給電ロール6a、6b、6c、6dを汚染しない位置に、例えば金属薄膜付フィルムFが給電ロール6a、6b、6c、6dから離れた状態となる位置に向くように配置する。
【0047】
金属薄膜付樹脂フィルムにめっき液又は水を吹き付ける手段としては、ノズルの他にシャワーを用いることもできる。ノズル又はシャワーは、金属薄膜付樹脂フィルムに略均等にめっき液又は水を吹き付けるため、金属薄膜付樹脂フィルムの幅方向に略均等な間隔で配することが望ましい。めっき液又は水を吹き付ける量や圧力は、金属薄膜付樹脂フィルムの温度が上昇しないように適宜選択することができる。但し、めっき液又は水の吹き付けによって、金属薄膜付樹脂フィルムが揺れ動くこと無いように留意する必要がある。
【0048】
めっき液又は水は、金属薄膜付樹脂フィルムの電気めっきを施す面の裏面、即ちアノードに対向していない面に吹き付けられる。金属薄膜付樹脂フィルムの電気めっきを施す面にめっき液又は水を吹き付けると、電気めっきにより成膜された金属層の表面が変色する恐れがある。尚、両面に電気めっきを施す場合には、同時に両面に電気めっきを行うのではなく、片方の面に電気めっきを行いながら他方の面にめっき液又は水を吹き付け、その後、金属薄膜付樹脂フィルムの他方の面に電気めっきを行いながら片方の面にめっき液又は水を吹き付ければ良い。
【実施例】
【0049】
図1に示すロールツーロール方式の連続電気めっき装置を用いて、金属薄膜付ポリイミドフィルムFに厚さ8μmとなるように銅電気めっきを行った。尚、金属薄膜付ポリイミドフィルムは、めっき液の液面から最深1mの深さまで浸漬される。アノードは溶解性の陽極(リン脱酸素銅)を用いた。めっき液はpH1未満の硫酸銅溶液であり、更に銅めっき層の平滑性等を確保する目的で市販の有機系添加剤を所定量添加した。また、電気めっき槽内のめっき液の温度は27℃に設定した。
【0050】
また、電流密度は、図1において、給電ロール6aとアノード8a−1、8a−2の間が1A/dm、給電ロール6bとアノード8b−1、8b−2の間が2A/dm、給電ロール6cとアノード8c−1、8c−2の間が3A/dm、給電ロール6dとアノード8d−1、8d−2の間が4A/dmとなるように設定した。
【0051】
金属薄膜付ポリイミドフィルムFは、幅50cm、厚み38μmのポリイミドフィルム(登録商標「カプトン」、東レデュポン社製)の表面に、スパッタリング法により、膜厚7nmの20%Cr−Ni合金からなる下地金属薄膜と膜厚100nmの銅薄膜とを積層して得た。即ち、金属薄膜は、20%Cr−Ni合金の下地金属薄膜と銅薄膜とからなる。
【0052】
寸法変化率は、JPCA−BM03−2006(付属書2)に準拠し、金属薄膜及び銅層をエッチングして全て除去した後の熱風乾燥による寸法変化率を測定した。その際のエッチング液には、塩化第二鉄水溶液を用いた。具体的には、1ロットにつき1試料を用意し、試料は穴を開口して穴の間隔を測定した後、室温で24時間放置した。その後、金属薄膜及び銅層をエッチング除去して室温で24時間放置した後、150℃にて30分の熱風乾燥を行い、室温に戻した後に穴の間隔を測定して、寸法変化率を算出した。尚、1試料につき開口した穴の直径が0.8mmであることと、寸法変化率をTD方向(幅方向)のみ測定したことが、JPCA−BM03−2006とは異なる。
【0053】
[実施例1]
金属薄膜付ポリイミドフィルムにロールツーロール連続めっき装置を用いて銅電気めっきを行う際に、電気めっき槽内のめっき液を温度27℃にして、給電ロールと電気めっき槽のめっき液面との間で、ノズルから金属薄膜付ポリイミドフィルムのカソードに対向しない表面(非めっき面)に俯角30°で噴射しながら、厚さ8μmの銅層を成膜して金属化樹脂フィルム基板フィルムを製造した。
【0054】
得られた12ロットの金属化樹脂フィルム基板について、ロットごとに寸法変化率を測定した結果、12ロット間での寸法変化率の標準偏差σは0.0042%であり、微細配線のために必要とされる0.01%以内の良好な結果が得られた。
【0055】
[実施例2]
金属薄膜付ポリイミドフィルムに噴射するめっき液の温度を30℃とした以外は上記実施例1と同様にして、12ロットの金属化樹脂フィルム基板を製造した。ロットごとに寸法変化率を測定した結果、12ロット間での寸法変化率の標準偏差σは0.0056%であり、微細配線のために必要とされる0.01%内の良好な結果が得られた。
【0056】
[実施例3]
金属薄膜付ポリイミドフィルムに噴射するめっき液の温度を20℃とした以外は上記実施例1と同様にして、12ロットの金属化樹脂フィルム基板を製造した。ロットごとに寸法変化率を測定した結果、12ロット間での寸法変化率の標準偏差σは0.0047%であり、微細配線のために必要とされる0.01%内の良好な結果が得られた。
【0057】
[比較例1]
金属薄膜付ポリイミドフィルムにめっき液あるいは水を噴射しなかった以外は上記実施例1と同様にして、19ロットの金属化樹脂フィルム基板フィルムを製造した。ロットごとに寸法変化率を測定した結果、19ロット間での寸法変化率の標準偏差σは0.0189%であり、微細配線のために必要とされる0.01%を超える値となった。
【0058】
[比較例2]
金属薄膜付ポリイミドフィルムに噴射するめっき液の温度を40℃とした以外は上記実施例1と同様にして、12ロットの金属化樹脂フィルム基板を製造した。ロットごとに寸法変化率を測定した結果、12ロット間での寸法変化率の標準偏差σは0.0194%であり、微細配線のために必要とされる0.01%を超える値となった。
【0059】
[比較例3]
金属薄膜付ポリイミドフィルムの電気めっきを施す面(金属薄膜の表面)に向けてめっき液を噴射した以外は上記実施例1と同様にして、金属化樹脂フィルム基板を製造した。しかし、1ロット目の金属化樹脂フィルム基板の表面に目視で確認できるシミが発生したため、以後の試験を中止した。
【符号の説明】
【0060】
1 巻出ロール
2 巻取ロール
3 電気めっき槽
4 めっき液
5a、5b、5c、5d、5e ガイドロール
6a、6b、6c、6d 給電ロール
7a、7b、7c、7d 反転ロール
8a−1〜2、8b−1〜2、8c−1〜2、8d−1〜2 アノード
9a、9b、9c、9d ノズル
F 金属薄膜付樹脂フィルム
S 金属化樹脂フィルム基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尺樹脂フィルムの少なくとも片面に接着剤を介さず金属薄膜を成膜した金属薄膜付樹脂フィルムを、複数のアノードを配置した電気めっき槽でめっき液への浸漬を繰り返して連続的に搬送させながら、電気めっき槽の外部に設けた複数の給電ロールから金属薄膜に給電して、各アノードとの間で金属薄膜の表面に電気めっきを行う金属化樹脂フィルム基板の製造方法において、
めっき液への浸漬を繰り返す金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に、各給電ロールとめっき液の液面との間で、10℃〜32℃の温度範囲にあるめっき液又は水を吹き付けることを特徴とする金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項2】
前記電気めっき槽内のめっき液の温度が25℃〜30℃の範囲にあることを特徴とする、請求項1に記載の金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項3】
前記金属薄膜付樹脂フィルムのアノードに対向しない表面に前記めっき液又は水を吹き付ける角度が俯角20°〜40°の範囲にあることを特徴とする、請求項1又は2に記載の金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項4】
前記電気めっきが銅めっきであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の金属化樹脂フィルム基板の製造方法。
【請求項5】
前記長尺樹脂フィルムがポリイミドフィルムであって、前記金属薄膜が乾式めっき法で成膜されたニッケル合金の下地金属薄膜と、該下地金属薄膜の表面に乾式めっき法で成膜された銅薄膜とからなることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の金属化樹脂フィルム基板の製造方法。

【図1】
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【公開番号】特開2011−246754(P2011−246754A)
【公開日】平成23年12月8日(2011.12.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−120028(P2010−120028)
【出願日】平成22年5月26日(2010.5.26)
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)
【Fターム(参考)】