説明

金属印刷インキ組成物およびそれを用いた印刷金属板

【課題】金属印刷インキの分野、特に、美術缶、3ピース飲料缶、食缶等の印刷インキにおいて、高光沢および高加工性を有し、かつ、優れた印刷適性を有する金属印刷インキ組成物およびそれを用いた印刷金属板を提供する。
【解決手段】顔料、アルキッド樹脂および炭化水素系溶剤を含む金属印刷インキ組成物において、アルキッド樹脂を構成する多価アルコール成分の一部または全てが、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである金属印刷インキ組成物、および該金属印刷インキ組成物を用いた印刷金属板。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、美術缶、3ピース飲料缶、食缶等に使用される印刷インキにおいて、高光沢、高加工性、優れた印刷適性を有する金属印刷インキ組成物およびそれを用いた印刷金属板に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、金属印刷は、金属を円筒形に加工した後、凸版オフセット方式で印刷を行う方法と、シート状の金属板に平版オフセット方式で印刷を行ったのち円筒形に後加工する方法の2方式に大別され、美術缶や3ピース飲料缶、食缶等は、主に平版オフセット方式で印刷されている。平版オフセット方式で印刷される金属印刷インキの硬化方法には、紫外線照射による硬化と加熱による酸化重合硬化があるが、高加工性が要求される用途では、乾性油および乾性油脂肪酸により変性されたアルキッド樹脂の酸化重合により加熱硬化させる方法が多用されている。
【0003】
ところで、金属印刷インキにおける加工性は、アルキッド樹脂に利用される植物油脂肪酸の含有量によって変わることが知られている(特許文献1)。一般的に、植物油脂肪酸の含有量の大きいアルキッド樹脂を使用したインキは加工性が劣り、植物油脂肪酸の含有量の小さいアルキッド樹脂を使用したインキは加工性が良好である。そのため、高加工性タイプのインキでは、植物油脂肪酸の含有量の小さいアルキッド樹脂を使用することから、樹脂の溶解性や転移性、機上安定性といった印刷適性が、植物油脂肪酸の含有量の大きいアルキッド樹脂を使用したインキと比較して劣ることになる。
【0004】
また、ヨウ素価(単位は試料100gに結合したヨウ素のg数)の大きいアルキッド樹脂は、架橋点間距離が短くなり樹脂の網目構造が細かく柔軟性が乏しくなる。一方、ヨウ素価の小さいアルキッド樹脂は、架橋点間距離が長くなり樹脂の網目構造が粗く柔軟性が増す。したがって、これらのアルキッド樹脂を使用した金属印刷インキの加工性は、アルキッド樹脂の柔軟性が反映される。
【0005】
そのため、金属インキメーカーでは、加工性を必要としない用途には、印刷適性を重視した一般タイプを、また、加工性を必要とする用途には、高加工性タイプの2種類のインキを用意している。しかし、近年、製缶メーカーや金属印刷メーカーから合理化の一環として、金属インキメーカーに対して、高加工性と印刷適性を両立したシート用金属印刷インキの開発が求められている。
【0006】
また、金属印刷における光沢は、印刷インキの塗膜表面のなめらかさ、つまり、レベリング性に影響される。これまでの光沢は、不十分とはいえないがまだまだ改善の余地がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2004−285303号公報
【特許文献2】特開2001−31889号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、その目的は、高光沢および高加工性を有し、かつ、印刷適性に優れた金属印刷インキ組成物、さらにはそのインキ組成物を用いて印刷した印刷金属板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討を重ねた結果、以下の構成を採用することによって、上記目的が達成されることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち本発明は、顔料、アルキッド樹脂および炭化水素系溶剤を含む金属印刷インキ組成物において、アルキッド樹脂を構成する植物油脂肪酸の割合が35〜65質量%であり、かつ、多価アルコール成分の15〜100モル%がトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートである金属印刷インキ組成物に関する。
【0011】
本発明において、アルキッド樹脂のヨウ素価は55〜130であることが好ましい。
【0012】
本発明はまた、金属板上、または金属板上にベースコート層を設けた金属下地板上に、本発明の金属印刷インキ組成物を用いて形成されたインキ層を有する印刷金属板にも関する。
【発明の効果】
【0013】
本発明のインキ組成物によれば、印刷適性に優れ、かつ、印刷した金属板に高光沢および高加工性を与えることができる。特に、美術缶、3ピース飲料缶、食缶等の印刷インキにおいて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の金属印刷インキ組成物に用いる各成分について詳細に説明する。
【0015】
(アルキッド樹脂)
本発明の金属印刷インキ組成物に用いるアルキッド樹脂は、多塩基酸と、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを一部または全てとする多価アルコールとの縮合物を骨格とし、油または脂肪酸等で変性した樹脂であり、その製造方法は、特に制限はなく、油を原料とするエステル交換法、脂肪酸を原料とする脂肪酸法など公知の方法が利用できる。
【0016】
本発明において、アルキッド樹脂を構成する多価アルコール成分中に使用されるトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートは、水酸基が対称な三方向に存在する六員環構造を有している。多塩基酸とトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートとの縮合物を骨格とすると、樹脂の網目構造の架橋点間距離が長くなることにより自由度が増し、柔軟性を発現することで加工性の向上が実現できる。このように、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを使用することにより加工性の向上が実現できたことで、これまで加工性を有したインキに使用してきたアルキッド樹脂よりも、植物油脂肪酸の含有量の大きいアルキッド樹脂が使用でき、印刷適性が改善される。
【0017】
さらに、トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを使用したアルキッド樹脂で構成された金属印刷インキ組成物は、高温時の流動性が良好となり、塗布後の加熱乾燥時における塗膜表面が平滑になって高光沢が得られる。
【0018】
本発明においては、アルキッド樹脂を構成する多価アルコール成分の15〜100モル%をトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートとするものである。15モル%未満では印刷適性と加工性のバランスを取ることが難しくなり、また、高光沢が得られなくなる。
【0019】
トリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレート以外の多価アルコール成分としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,3−ブタンジオール、1,4−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、1,9−ノナンジオール、2−メチル−1,8−オクタンジオール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、テトラメチレングリコール、1,4−シクロヘキサンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、水素添加ビスフェノールA、2−ブチル−2−エチル−1,3−プロパンジオール等の二価アルコール;グリセリン、トリメチロールプロパン、トリメチロールエタン等の三価アルコール;ペンタエリスリトール、ジグリセリン、ジトリメチロールプロパン、ジトリメチロールエタン等の四価アルコール等、従来からアルキッド樹脂に使用されてきた多価アルコールが特に限定することなく使用できる。これらは単独または2種以上併用してもよい。
【0020】
本発明で使用するアルキッド樹脂の他方の成分である植物油脂肪酸成分としては、亜麻仁油、桐油、脱水ひまし油、大豆油、サフラワー油、亜麻仁油脂肪酸、桐油脂肪酸、脱水ひまし油脂肪酸、大豆油脂肪酸、サフラワー油脂肪酸等や、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、エレオステアリン酸またはリシノール酸等の不飽和脂肪酸類があげられる。これらは単独または2種以上併用することができる。価格や塗膜物性を考慮すると亜麻仁油、亜麻仁油脂肪酸が好ましい。
【0021】
また、これらの植物油や脂肪酸の一部を脂肪酸以外の一塩基酸に変更してもよい。他の一塩基酸としては、安息香酸、p−t−ブチル安息香酸、アビエチン酸、水素添加アビエチン酸等が使用可能である。
【0022】
また多塩基酸としては、(無水)フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、2,6−ナフタレンジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸等の芳香族二塩基酸;テトラヒドロ(無水)フタル酸、ヘキサヒドロ(無水)フタル酸、1,4−シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環族二塩基酸;(無水)コハク酸、アルケニル(無水)コハク酸、フマル酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、(無水)ハイミック酸等の脂肪族二塩基酸;(無水)トリメリット酸、(無水)ピロメリット酸、(無水)メチルシクロヘキセントリカルボン酸、ベンゾフェノンテトラカルボン酸等があげられる。これらの多塩基酸は単独または2種以上併用してもよい。
【0023】
本発明の金属印刷インキ組成物に使用するアルキッド樹脂の植物油脂肪酸の含有量は、35〜65質量%である。35質量%未満では、多価アルコール成分としてトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを15〜100モル%使用した場合、インキの流動性が低下し、65質量%を超えると、加工性や塗膜硬度が劣る。さらに好ましくは、インキの流動性、加工性、および塗膜硬度のバランスを考慮すると、45〜60質量%である。
【0024】
また、アルキッド樹脂のヨウ素価は55〜130であることが好ましい。55未満では塗膜硬度が劣り、130を超えると加工性が低下する傾向にある。さらに好ましくは、塗膜硬度と加工性のバランスを考慮すると、65〜115である。
【0025】
さらに、従来より用いられている樹脂を本発明のアルキッド樹脂と混合して使用することもできる。すなわち、印刷適性、塗膜物性等の要求性能に応じて、アルキッド樹脂と相溶する公知の樹脂を単独または複数混合して使用できる。具体的には、たとえばロジン変性フェノール樹脂、ポリエステル樹脂、石油樹脂、エポキシ樹脂、ケトン樹脂、ロジン変性マレイン酸樹脂、アミノ樹脂、ベンゾグアナミン樹脂等を例示できる。
【0026】
酸化重合硬化型印刷インキには、必要に応じて、インキを硬化させるための硬化促進剤として印刷インキ用ドライヤーを添加することがあり、本発明においても印刷インキ用ドライヤーを添加してもよい。本発明に使用できる印刷インキ用ドライヤーとしては、コバルト、マンガン、鉛、鉄、亜鉛等の金属と、オクチル酸、ナフテン酸、ネオデカン酸、桐油脂肪酸、アマニ油脂肪酸、大豆油脂肪酸、樹脂酸等のカルボン酸との塩、すなわち金属石鹸があげられる。これらは単独または2種類以上を組み合わせて用いることができる。
【0027】
(顔料)
本発明に使用される顔料としては、印刷インキ用の公知の無機または有機顔料を特に制限なく単独または複数混合して使用できる。具体的には、たとえば特許文献2などに記載されている顔料があげられる。
【0028】
(炭化水素系溶剤)
本発明のインキ組成物に用いられる金属印刷インキ用溶剤としての炭化水素系溶剤は、沸点範囲が200〜400℃程度の、通常金属印刷インキ用として用いられている炭化水素系溶剤が使用でき、特に制限はない。
【0029】
炭化水素系溶剤としては、通常の石油系溶剤やアルキルベンゼン系の溶剤が好適に用いられる。石油系溶剤としては、新日本石油(株)のAF5、6、7号ソルベント等を例示できる。アルキルベンゼン系の溶剤としては、新日本石油化学(株)のアルケン56N、L、200PやUIC社製のBAB等が例示でき、単独または複数を混合して使用できる。
【0030】
炭化水素系溶剤の使用量は、通常印刷が行われるインキのタック値が5〜40の範囲に調整できればよく、特に制限はない。
【0031】
(その他の成分)
本発明のインキ組成物には、他の成分として、必要に応じて公知の顔料分散剤、ワックス、安定剤、酸触媒等を添加することができる。
【0032】
また、本発明の目的を損なわない範囲で、微粉末シリカ、有機ベントナイト等を助剤としてインキに添加してもよいし、また、印刷インキ用ワニス成分として金属キレートやソルビトール化合物等によるゲルワニスの使用も可能である。
【0033】
本発明の金属印刷インキ組成物は、ロールミル、ボールミル、ビーズミルなどを用いて、常法によって調製できる。
【0034】
本発明のインキ組成物を印刷する金属板としては、ステンレススチール、アルミニウム、錫メッキ鋼板、ティンフリースチールなどの金属の板、または、これらの金属板上にベースコート(プライマー)層を設けた金属下地板が好適であるが、これらに限定されるものではない。ベースコート層の形成には、たとえば金属印刷において一般的に用いられるサイズ塗料やホワイトコーティングなどのベースコート用組成物を用いることができる。また、ペットフィルムがラミネート処理されていてもかまわない。
【0035】
これらの金属板に本発明の金属印刷インキ組成物を印刷する方法としては、湿し水を利用したオフセット方式、ドライオフセット方式など通常の印刷方式によって容易に印刷することができる。インキ膜厚は任意であるが、たとえば0.1〜6μmとなるような範囲で行えばよい。
【0036】
本発明の金属印刷インキ組成物の硬化には、通常の金属印刷に用いられるオーブンが使用でき、加熱温度は通常120〜230℃の範囲で行われる。加熱時間は3分間以上あれば任意であるが、通常3〜30分間の範囲で行われる。
【0037】
かくして得られる本発明の印刷金属板は、必ずしもオーバープリント用ワニスの塗装を必要としないが、オーバープリント用ワニスを使用することにより、より良好な塗膜物性を得ることができる。
【0038】
本発明の印刷金属板の金属印刷インキ印刷層上にオーバープリント用ワニスを塗装する場合、通常は、本発明の金属印刷インキ組成物を加熱硬化させた後に行うことが好ましいが、ウェットオンウェット方式で重ねて塗装した後、両方を同時に加熱硬化させることもできる。
【0039】
本発明の金属印刷インキ組成物は、優れた印刷適性を有し、高光沢、高加工性のインキ塗膜を金属板上に形成することができることから、シート用金属印刷インキとして好適に使用することができる。
【実施例】
【0040】
以下本発明を合成例、実施例などに基づいて説明するが、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。なお、各例中の部および%は質量基準によるものである。
【0041】
合成例1
撹拌機、水分離器、コンデンサー、窒素導入管、温度計を具備した反応装置に、亜麻仁油脂肪酸45部、無水フタル酸25.4部、THEIC26.3部、グリセリン9.3部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(1)を得た。なお、脱水量は6.0部であった。また、この樹脂(1)のヨウ素価は86であった(ヨウ素価の測定は、JISK0070に準拠して行った。以下同様)。
【0042】
合成例2
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸50部、無水フタル酸20.9部、THEIC23.0部、トリメチロールプロパン11.8部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(2)を得た。なお、脱水量は5.7部であった。また、この樹脂(2)のヨウ素価は93であった。
【0043】
合成例3
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸50部、イソフタル酸21.1部、THEIC32.4部、ペンタエリスリトール4.2部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(3)を得た。なお、脱水量は7.7部であった。また、この樹脂(3)のヨウ素価は95であった。
【0044】
合成例4
合成例1と同一の反応装置に、脱水ひまし油脂肪酸40部、無水フタル酸25.6部、THEIC26.5部、トリメチロールプロパン13.6部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(4)を得た。なお、脱水量は5.7部であった。また、この樹脂(4)のヨウ素価は60であった。
【0045】
合成例5
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸45部、イソフタル酸30.7部、THEIC11.1部、トリメチロールプロパン22.7部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(5)を得た。なお、脱水量は9.5部であった。また、この樹脂(5)のヨウ素価は87であった。
【0046】
合成例6
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸55部、イソフタル酸14.6部、THEIC37.1部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(6)を得た。なお、脱水量は6.7部であった。なお、この樹脂(6)のヨウ素価は106であった。
【0047】
合成例7
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸30部、無水フタル酸30.0部、THEIC30.1部、トリメチロールプロパン15.4部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(7)を得た。なお、脱水量は5.5部であった。また、この樹脂(7)のヨウ素価は56であった。
【0048】
合成例8
合成例1と同一の反応装置に、脱水ひまし油脂肪酸70部、無水フタル酸6.5部、THEIC23.6部、トリメチロールプロパン5.2部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(8)を得た。なお、脱水量は5.3部であった。また、この樹脂(8)のヨウ素価は110であった。
【0049】
合成例9
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸40部、無水フタル酸31.9部、トリメチロールプロパン34.5部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(9)を得た。なお、脱水量は6.4部であった。また、この樹脂(9)のヨウ素価は75であった。
【0050】
合成例10
合成例1と同一の反応装置に、亜麻仁油脂肪酸60部、イソフタル酸21.8部、THEIC4.8部、トリメチロールプロパン22.0部を仕込み、窒素ガス存在下でキシロールを回流させながら、220〜230℃で酸価が10以下になるまで反応させた後、キシロールを蒸留分離して液状のアルキッド樹脂(10)を得た。なお、脱水量は8.6部であった。また、この樹脂(10)のヨウ素価は115であった。
【0051】
合成例1〜10でそれぞれ得たアルキッド樹脂の組成および性状を表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
実施例1
顔料としてリオノールブルーFG−7351(東洋インキ製造(株)製)15部、アルキッド樹脂(1)60部、ナフテン酸マンガン1部、炭化水素系溶剤としてアルキルベンゼン(UIC製。BAB)25部を、3本ロールミルを用いて練肉し、藍色インキ(1)を得た。
【0054】
得られた藍色インキ(1)を用いて金属板に印刷し、硬化性、光沢、加工性および印刷適性について、以下の方法で評価した。結果を表2に示す。
【0055】
〈硬化性試験〉
インキ0.3mLをRIテスター((株)明製作所製)2分割ロールで、電気錫メッキ鋼板(ブリキ板)上に印刷した印刷板を電気オーブンで150℃10分間加熱する。加熱乾燥後、板温を室温に冷却し、JIS K5400に基づき印刷表面の鉛筆硬度を測定する。
評価基準
○:印刷板のインキ面に、HBの鉛筆で傷が入らない。
△:印刷板のインキ面に、HBで傷が入るがBで傷が入らない。
×:印刷板のインキ面に、Bで傷が入る。
【0056】
〈光沢評価〉
前記硬化性試験で加熱硬化させた印刷板のインキ面の写像性、つまり、インキ面に投影した蛍光灯の像の鮮明度を目視で観察する。
評価基準
○:蛍光灯の像が鮮明なもの。
△:蛍光灯の像が中程度のもの。
×:蛍光灯の像が不鮮明なもの。
【0057】
〈加工性試験〉
前記硬化性試験で作製した印刷板に、東洋インキ製造(株)製金属シート用クリヤー塗料を塗膜量が60mg/100cm2となるように塗装し、160℃にて10分間電気オーブンで加熱硬化する。この印刷塗装板を室温下で、プレス機で角型缶(深さ20mmで、各コーナー部の径が4、6、8、10mm)に加工し、各コーナー部を目視で観察する。
評価基準
○:塗膜の剥離が見られないもの。
×:塗膜の剥離が見られるもの。
【0058】
〈印刷適性試験〉
高速印刷適性試験機((株)エスエムテー製PM904PT)で、インキ被膜厚が1μmになるように試験用ゴムロールにインキを採取し、電気錫メッキ鋼板を2m/sの速度で移動させながら、インキをゴムロールから電気錫メッキ鋼板に印刷し、加熱硬化後、インキの転移状態を観察する。インキの塗膜が、潰しが良く平滑な仕上がりのものを:○、中程度のものを:△、潰しが劣り下地が見えるものを:×と評価した。
【0059】
実施例2〜6および比較例1〜4
アルキッド樹脂として合成例2〜10でそれぞれ合成した樹脂(2)〜(10)を用い、表2に示す配合割合としたほかは実施例1と同様にしてインキ(2)〜(10)を調製し、各特性を評価した。結果を表2に示す。
【0060】
【表2】

【0061】
表2から、多価アルコール成分中の一部もしくは全てにトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートを使用し、且つ、植物油脂肪酸の含有量が特定の範囲におけるアルキッド樹脂を使用した金属印刷インキは、これまでなしえなかった印刷適性と加工性の両立を可能とし、さらに、高光沢性を発現することができたことが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
顔料、アルキッド樹脂および炭化水素系溶剤を含む金属印刷インキ組成物において、アルキッド樹脂を構成する植物油脂肪酸の割合が35〜65質量%であり、かつ、多価アルコール成分の15〜100モル%がトリス(2−ヒドロキシエチル)イソシアヌレートであることを特徴とする金属印刷インキ組成物。
【請求項2】
アルキッド樹脂のヨウ素価が55〜130であることを特徴とする請求項1記載の金属印刷インキ組成物。
【請求項3】
金属板上、または金属板上にベースコート層を設けた金属下地板上に、請求項1または2に記載の金属印刷インキ組成物を用いて形成されたインキ層を有する印刷金属板。

【公開番号】特開2011−137098(P2011−137098A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−298259(P2009−298259)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(592057961)マツイカガク株式会社 (8)
【Fターム(参考)】