説明

金属原子を含有する廃液の処理方法及び吸着剤

【課題】金属原子、特に放射性ストロンチウムを含有する廃液から、効率よくかつ簡便に前記放射性ストロンチウムを除去することのできる処理方法及び吸着剤を提供する。
【解決手段】廃液中の金属原子を除去及び回収する廃液処理方法であって、前記廃液に、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加する工程を有することを特徴とする処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属原子、特に放射性ストロンチウムを含有する廃液から、前記金属原子を吸着除去することにより廃液を処理する方法、及び前記金属原子を除去するための吸着剤に関し、詳しくは、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加する工程を有する廃液処理方法、及びリン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合ダイヤモンド微粒子、及び/又はリン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合カーボンナノチューブからなる吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所、使用済み核燃料の再処理工場等の原子力施設では、種々の放射性物質を含む廃液が発生する。放射性廃液は、蒸発濃縮、イオン交換、凝集沈殿等の操作によって放射性物質と水に分けられ、放射性物質が充分に除去された水は放出され、濃縮された放射性物質はガラス固化、アスファルト固化等の方法によって固定され、保管される。
【0003】
これらの方法の中で、蒸発濃縮法は水と放射性物質を分離する効率、すなわち、除染効率は非常に高いが、蒸発設備の建設コスト及び運転コストが高く、また蒸発缶の材料が腐食しやすい等の欠点がある。一方、イオン交換樹脂法や凝集沈殿法は、設備の建設コスト及び運転コストは小さいが、除染効率が低いといった欠点がある。
【0004】
放射性廃液には通常、核燃料物質の抽出剤の洗浄に用いられたナトリウム塩が混入するため、蒸発濃縮法では硝酸ナトリウム等のナトリウム塩が釜残中に析出して濃縮倍率が上がらないといった問題があり、イオン交換樹脂法では、硝酸ソーダの濃度が高くなることによりセシウム等の一価の陽イオンの吸着量が低下し、除染効率が低下するといった問題があり、凝集沈殿法では硝酸ソーダの存在により除染係数が低下するといった問題がある。
【0005】
廃液中の放射性物質には、水酸化物として溶解度の小さいルテニウム、ジルコニウム等の重金属、及び水酸化物として溶解度の高いセシウム、カルシウム、ストロンチウム等のアルカリ金属、アルカリ土類金属等、種々の元素が含まれている。これらの中でルテニウム、ジルコニウム等の重金属は、液性をアルカリ性にすることによって水酸化物として、また、水酸化鉄等との共沈によって析出させ、除去する凝集沈殿法が有効だが、アルカリ金属、アルカリ土類金属等の除去は非常に困難である。
【0006】
アルカリ金属、アルカリ土類金属等の除去法としては、イオン交換体による方法が広く検討されている。ストロンチウム等のアルカリ土類金属及びウラン等の吸着体としては、チタン酸が知られており、例えば、特開昭57-140644号(特許文献1)に示されるような、チタン酸の表面積を非常に大きくして吸着能力を向上させると同時に吸着体としての取り扱い性等を改良した、チタン酸とアクリロニトリル系重合体の複合吸着体成型物が有効である。
【0007】
しかしながら、チタン酸のストロンチウムに対する吸着除去能はそれほど高いものではなく、放射性廃液からストロンチウムを完全に除去することはできず、他の方法との併用が必要であり、より高い吸着除去能を有する吸着剤の開発が望まれている。
【0008】
Sheng-Heng Tan et al., Hydrothermal removal of Sr2+in aqueous solution via formation of Sr-substituted hydroxyapatite, “Journal of Hazardous Materials,” 179 (2010) 559-563(非特許文献1) は、235U及び239Puの核分裂によって生成する廃棄物から放射性ストロンチウム(90Sr及び89Sr)を、Caイオン及びリン酸化合物によってSr置換ハイドロキシアパタイトとして除去する方法を開示している。この方法は、Sr及びCaを含有する水溶液に、リン酸水素ナトリウム及びトリポリリン酸ナトリウムを添加し、オートクレーブで160℃14時間加熱処理して行い、99.5%以上のストロンチウムを除去することができると記載されている。しかしながら、この方法はオートクレーブで160℃14時間加熱処理する必要があるため、大量の放射性廃液を処理することは現実的には不可能であり、改良が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭57-140644号公報
【非特許文献1】Sheng-Heng Tan et al., Hydrothermal removal of Sr2+ in aqueous solution via formation of Sr-substituted hydroxyapatite, “Journal of Hazardous Materials,” 179 (2010) 559-563
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従って、本発明の目的は、金属原子、特に放射性ストロンチウムを含有する廃液から、効率よくかつ簡便に前記放射性ストロンチウムを除去することのできる処理方法及び吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、放射性ストロンチウムを含む廃液に、トリポリリン酸等のリン酸化合物と、バリウム等の金属の水溶性無機塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加することにより、速やかに放射性ストロンチウムを含む沈殿が生成し、廃液から放射性ストロンチウムを除去することができることを見いだし、本発明に想到した。
【0012】
すなわち、本発明の廃液処理方法は、廃液中の金属原子を除去及び回収する方法であって、前記廃液に、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加する工程を有することを特徴とする。
【0013】
前記リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加する工程の後に、凝集剤を添加する工程を有するのが好ましい。
【0014】
前記リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとの添加は、50〜80℃に加熱した前記廃液に対して行うのが好ましい。
【0015】
前記リン酸化合物は、リン酸塩、リン酸水素塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩及びメタリン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【0016】
前記水溶性金属塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【0017】
前記水溶性金属塩は、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【0018】
前記凝集剤は、無機凝集剤及び/又は有機高分子凝集剤であるのが好ましい。
【0019】
前記無機凝集剤は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0020】
前記有機高分子凝集剤は、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0021】
前記凝集剤を添加する工程は、前記無機凝集剤及び/又は前記高分子凝集剤を添加混合した後に、さらに前記高分子凝集剤を添加混合する工程からなるのが好ましい。
【0022】
前記ダイヤモンド微粒子は、爆射法で得られたものであるのが好ましい。
【0023】
前記ダイヤモンド微粒子は、酸化処理により表面を親水化したものであるのが好ましい。
【0024】
前記ダイヤモンド微粒子は、2.55〜3.48 g/cm3の比重を有するのが好ましい。
【0025】
前記カーボンナノチューブは、カップスタック型であるのが好ましい。
【0026】
廃液中の金属原子を吸着するための本発明の吸着剤は、リン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合ダイヤモンド微粒子、及び/又はリン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合カーボンナノチューブからなる。
【発明の効果】
【0027】
本発明の廃液処理方法及び吸着剤は、廃液中の金属原子、特にストロンチウムを選択的に、しかも迅速に除去することが可能なので、放射性物質を含有する大量の廃液から放射性ストロンチウム(90Sr及び89Sr)を除去するのに好適である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】爆射法によりダイヤモンド微粒子を合成する際に使用する氷の容器の一例を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
[1]廃液処理方法
本発明の廃液処理方法は、廃液中の金属原子を除去及び回収するものであり、前記廃液に、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加することにより、前記金属原子を含有する沈殿物を生成させ、その沈降物を回収する方法である。
【0030】
本発明の廃液処理方法は、特にストロンチウム等のアルカリ土類金属を選択的に沈殿させることができるので、例えば放射性物質を含有する廃液から、放射性ストロンチウムを除去回収するのに有効である。
【0031】
本発明の方法においては、ストロンチウム等のアルカリ土類金属を含有する水溶液に、前記リン酸化合物と、前記水溶性金属塩と、前記ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加した後、充分に攪拌することにより速やかに沈殿物が生じる。反応を十分に完結させ、沈殿物を十分に沈降させるため、混合後10分以上放置するのが好ましく、1時間以上放置するのがより好ましく、5時間以上放置するのが最も好ましい。
【0032】
ストロンチウム等の水溶液に、リン酸化合物及び水溶性金属塩を添加すると、リン酸と金属との塩が形成されると同時に、前記リン酸と金属との塩にアルカリ土類金属が取り込まれ、複合塩が形成される。これらの複合塩がさらにダイヤモンド微粒子又はカーボンナノチューブに担持され沈殿することにより、廃液中のアルカリ土類金属を効率よく迅速に除去することができる。これらの処理は、室温で行うことが可能であるが、特に迅速に処理を行いたい場合は、25℃よりも高く90℃よりも低い温度に廃液を加熱して行うのが好ましく、50〜80℃で行うのがより好ましい。
【0033】
(1)水溶性金属塩
水溶性金属塩は、廃液中に含まれるストロンチウム等のアルカリ土類金属に対して10当量以上添加するのが好ましく、100当量以上添加するのがより好ましく、1000当量以上添加するのが最も好ましい。10当量よりも少ない添加量の場合、ストロンチウム等のアルカリ土類金属の除去効率が低下する。また、多量に添加するとリン酸化合物の必要量が多くなるため、ストロンチウム等のアルカリ土類金属に対して10000当量以下で使用するのが好ましい。
【0034】
水溶性金属塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。前記アルカリ金属としては、カリウム、ルビジウム又はセシウムが好ましく、前記アルカリ土類金属としては、カルシウム、ストロンチウム又はバリウムが好ましく、前記遷移金属としては、鉄、コバルト、ニッケル又は銅が好ましい。水溶性金属塩は、特にアルカリ土類金属の塩が好ましく、中でも塩化バリウム、硝酸バリウム等のバリウム塩が最も好ましい。
【0035】
(2)リン酸化合物
リン酸化合物は、前記水溶性金属塩に対して、1/10当量以上添加するのが好ましく、1当量以上添加するのがより好ましく、10当量以上添加するのが最も好ましい。上限は特に規定する必要はないが、実用的には前記水溶性金属塩に対して、100当量以下で使用するのが好ましい。
【0036】
リン酸化合物としては、リン酸塩、リン酸アミノ塩、無水リン酸塩、三リン酸塩、四リン酸塩、縮合リン酸塩等が使用できるが、リン酸塩、リン酸水素塩及び縮合リン酸塩が好ましく、特に縮合リン酸塩を単独で、若しくはリン酸塩及び/又はリン酸水素塩と組合せて使用するのが好ましい。縮合リン酸塩とは、オルソリン酸(H3PO4)の脱水縮合によって得られた酸の塩であり、特に限定はしないが、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩及びメタリン酸塩が好ましい。メタリン酸塩[(PO3)n]の中でも、特に低級ポリリン酸塩(n=6以下)が好ましく、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩がより好ましく、特にトリポリリン酸塩が好ましい。
【0037】
リン酸化合物には金属を含んでいても良く、含まれる金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びAl等が好ましい。アルカリ金属としては、Na及びKが好ましく、アルカリ土類金属としては、Mg及びCaが好ましく、遷移金属としては、Fe及びZnが好ましい。
【0038】
好ましいリン酸化合物の使用例としては、リン酸水素塩とポリリン酸との組合せが好ましく、特にリン酸水素二ナトリウムとトリポリリン酸との組合せが好ましい。リン酸水素塩及びポリリン酸の比率は、限定されないが、リン酸水素塩/ポリリン酸のモル比で、1/10〜10/1の範囲が好ましく、1/2〜5/1の範囲がより好ましい。
【0039】
(3)ダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブ
リン酸、金属及びアルカリ土類金属からなる複合塩は、ダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブ表面のカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基に担持されるので、ストロンチウム等の金属原子の吸着除去能を高めることができる。より多くの複合塩をダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブ表面に担持させるためには、酸化処理等の方法により表面をより多くのカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基で修飾(親水化)したダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブを用いるのが好ましい。
【0040】
ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブの添加量は、前記水溶性金属塩に対して、1/10倍(質量)以上添加するのが好ましく、等質量以上添加するのがより好ましく、10倍(質量)以上添加するのが最も好ましい。上限は特に規定する必要はないが、実用的には前記水溶性金属塩に対して、100倍(質量)以下で使用するのが好ましい。
【0041】
ダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブを併用する場合は、それらの混合比率はどのような値でも良いが、ダイヤモンド微粒子を過剰にするのが好ましい。
【0042】
(a) ダイヤモンド微粒子
ダイヤモンド微粒子としては、表面積が大きいこと、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が粒子表面に比較的多く存在すること、及び前記化学修飾の容易さから、爆射法で得られたナノダイヤモンドを用いるのが好ましい。爆射法で得られた未精製のナノダイヤモンドは、ナノサイズのダイヤモンド微粒子の表面をグラファイト系炭素が覆ったコア/シェル構造を有しており、このまま使用することも可能であるが、酸化処理を施すことにより粒子表面のグラファイトを一部除去するとともに、その表面をカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基で修飾して使用するのが好ましい。
【0043】
未精製のナノダイヤモンドは、約2.55 g/cm3の比重を有し、200〜250 nm程度のメジアン径(動的光散乱法)を有する。この未精製のナノダイヤモンドを酸化処理することにより、粒子表面のグラファイト系炭素が除去され、ダイヤモンド含率の高いダイヤモンド微粒子が得られる。酸化処理することにより精製したダイヤモンド微粒子は2〜10 nm程度のダイヤモンドの一次粒子からなるメジアン径150〜250 nm程度の二次粒子である。本発明で使用するダイヤモンド微粒子は、その表面積を大きくするため、さらにメディア分散等の方法によりできるだけ凝集を解いて使用するのが好ましく、そのメジアン径は10〜200 nmであるのが好ましく、20〜150 nmであるのがより好ましい。
【0044】
ダイヤモンド微粒子は、2.55〜3.48 g/cm3の比重を有するのが好ましい。ダイヤモンド微粒子の比重は、ナノダイヤモンドの精製度(グラファイト系炭素の除去率)に伴って増加するので、比重から粒子中のダイヤモンド含率(粒子表面に存在するグラファイト系炭素の量)を求めることができる。すなわち、比重が2.55 g/cm3の場合のダイヤモンド含率は24体積%、比重が3.48 g/cm3の場合のダイヤモンド含率は98体積%である。
【0045】
ダイヤモンド微粒子の比重が2.55 g/cm3未満、すなわち酸化処理を行わない場合であっても、その表面にカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基を有しているが、さらに酸化処理を施すことによって、それらの数を増加させることができる。また過剰に酸化処理を施した場合、ナノダイヤモンドのシェル部分のグラファイト系炭素がほとんど除去されるため、逆にカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が少なくなってしまう。その結果、担持できる前記複合塩の数が少なくなり、ストロンチウム等の金属原子を吸着除去する能力が低下する。従って比重は3.48 g/cm3を越えない程度であるのが好ましい。前記比重は、3.0 g/cm3(ダイヤモンド84体積%)以上3.46 g/cm3(ダイヤモンド97体積%)以下であるのがより好ましく、3.38 g/cm3(ダイヤモンド90体積%)以上3.45 g/cm3(ダイヤモンド96体積%)以下であるのが最も好ましい。なおナノダイヤモンド中のダイヤモンドの体積%は、ダイヤモンドの比重3.50 g/cm3及びグラファイトの比重2.25 g/cm3を用いて、ナノダイヤモンドの比重から算出した値である。
【0046】
(b)カーボンナノチューブ
カーボンナノチューブは、グラファイトを筒状に巻いた形状で、1〜1500 nmの直径、及び数nmから1 mm程度の長さを有する炭素材料である。本発明で用いるカーボンナノチューブの形状は、特に限定されないが、直径1〜1000 nmが好ましく、5〜500 nmがより好ましく、10〜300 nmが最も好ましく、長さは10 nmから5 μmが好ましく、20 nmから1 μmがより好ましい。カーボンナノチューブには単層のもの、多層構造になったもの、カップスタック状のもの等があるが、本発明に使用するカーボンナノチューブは、表面積が大きいこと、カルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が粒子表面に比較的多く存在すること、及び前記化学修飾の容易さから、カップスタック型のものを用いるのが好ましい。
【0047】
カップスタック型カーボンナノチューブは、底のないカップ形状をなす炭素網層が数個〜数百個積層した炭素繊維であり、繊維の内外壁に炭素網層の端面が露出した構造を有している。炭素網層の端面はカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基が多く活性度が高いと考えられるため、カップスタック型カーボンナノチューブは多くの前記複合塩を担持することができるため、ストロンチウム等の金属原子を吸着除去する能力が高い。
【0048】
(4)凝集剤
前記沈殿物は、濾過、デカンテーション等の方法により廃液から除去することができるが、凝集剤を添加することにより、さらに速やかに凝集及び固化させることができる。
【0049】
凝集剤の添加量は、特に限定されず、凝集物を十分に沈降させることのできる量であればよい。なお、十分な沈降とは、生成した凝集物の99%以上が沈降したことを意味する。従って、実際にはこのような除去効率を達成するように適宜凝集剤添加量を調整すればよいが、例えばアニオン系凝集剤を用いる場合、廃液中に添加したリン酸化合物、水溶性金属塩、ダイヤモンド微粒子及びカーボンナノチューブの総量に対して凝集剤を0.1〜10%程度添加すれば十分に凝集沈殿させることができる。
【0050】
凝集剤を添加した廃液から効率的に凝集物を分離するための方法としては、濾過、デカンテーション、遠心分離、不織布等に吸着させる方法等があるが、取り扱いの簡便さから濾過又はデカンテーションが好ましい。凝集剤を添加した後一定時間静置することで、凝集物が処理槽底面に沈殿するので、上澄みを濾過するか、デカンテーションにより除去する。デカンテーションは、ドレンバルブからの抜き出しや、ポンプによる吸引や吸い上げ、サイホン等の利用、処理槽そのものを傾斜させて壁面上端からの排出等の方法が用いられる。さらには不織布をフィルターとして使用しての自然濾過が濾過後の取り扱いに優れておりより好ましい。不織布は、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン等からなるものが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0051】
凝集剤の使用方法としては、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用して用いる方法が好ましい。無機凝集剤のみでは、凝集によって生じたコロイド粒子の機械的強度があまり大きくなく、粒子の大きさや沈降速度に限界がある。有機高分子凝集剤を併用することにより、粒子の結合力を強め、粒径が大きく沈降速度の大きい粗大粒子(フロック)が得られる。
【0052】
無機凝集剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄、その他一般の水処理で用いられている多価金属塩等を用いることができ、中でも硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄が好ましい。これらの無機凝集剤を1種又は2種以上組合せて使用する。
【0053】
有機高分子凝集剤は、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤の中から選択して使用するのが好ましく、特にカチオン性有機高分子凝集剤とアニオン性有機高分子凝集剤との併用、又は両イオン性有機高分子凝集剤が好ましい。
【0054】
カチオン性有機高分子凝集剤としては、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリアクリルアミドにホルマリンとアミン類で変成したポリアクリルアミドのカチオン化変成物、カチオン性ビニルラクタム−アクリルアミド共重合体、ジアリルアンモニウムハロゲン化物の環化重合物、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合物にジアミンを反応させた共重合体、ビニルイミダゾリン重合体、ジアルキルアミノエチルアクリレートの重合体、アルキレンジクロライドとアルキレンポリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルマリンとの重縮合物、アニリンとホルマリンとの重縮合物、アミン類とエピクロヒドリンとの共重合体、アンモニアとエピクロヒドリンとの共重合体、アミン類とアスパラギン酸との共重合体、第4級アンモニウム塩を側鎖に有するアクリルポリマー等が挙げられる。
【0055】
前記アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、メトキシプロピルアミン、ブツルアミン、アミルアミン、アリルアミン、ヘキシルアミン、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、ベンジルアミン、ピペリジン、ピロリジン等のアルキル及び環状アミン類、ポリエチレンポリアミン類、アミノプロピルエタノールアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、ジアルキルアミノプロピルアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0056】
アニオン性有機高分子凝集剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、マレイン酸共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、ポリアクリルアミド-アクリル酸共重合体、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0057】
ノニオン性有機高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、尿素−ホルマリン樹脂、ポリアミノアルキルメタクリレート、キトサン等が挙げられる。
【0058】
両イオン性有機高分子凝集剤は、1つの分子中にカチオン性基及びアニオン性基を有する高分子凝集剤である。カチオン性基としては、第3級アミン、その中和塩、4級塩等、アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン基又はこれらの塩等が挙げられる。特にカルボキシル基を有する両性系高分子凝集剤が好ましい。また、これらのイオン性成分の他にノニオン性成分が含まれていてもよい。より具体的には、アニオン性のモノマー単位として、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。カチオン性のモノマー単位としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アリルジメチルアミン若しくはこれらの中和塩、4級塩等が挙げられる。ノニオン性のモノマー単位としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0059】
両イオン性有機高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチルアクリレート/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノエチルメタクリレート/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノエチルアクリレート/アクリル酸共重合体、アクリル酸ソーダ/アクリルアミド共重合体のマンニッヒ変性物等が好ましい。
【0060】
複数の凝集剤を用いる場合、それらの添加順序及び添加方法は特に限定されないが、凝集物の結合を強くしフロックを粗大化させるためには、(a)無機凝集剤及びカチオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらにアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(b)無機凝集剤、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらにアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(c)無機凝集剤を添加し撹拌混合後、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(d)無機凝集剤を添加し撹拌混合後、両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(e)無機凝集剤及び両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらに両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法等が好ましく用いられる。凝集剤の添加方法は上記の方法に限定されず、様々な組合せが考えられ、廃液の種類によって適宜選択するのが好ましい。
【0061】
カチオン性有機高分子凝集剤又はアニオン性高分子凝集剤を使用する場合、前記高分子凝集剤を効果的に働かせるため、それらを添加する前に廃液を、それぞれの高分子凝集剤に応じてpH調節するのが好ましい。カチオン性有機高分子凝集剤を用いる場合、弱酸性に、アニオン性高分子凝集剤を用いる場合、弱アルカリ性に、調製することにより、凝集剤の凝集沈殿効果を高めることができ、凝集剤の添加量も低減できる。また、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用する場合、両イオン性有機高分子凝集剤を使用する場合は、中性付近のpHに調節するのが好ましい。特に、無機凝集剤を添加した後は、pHが大きく酸性側又はアルカリ性側によっていることがあるので、有機高分子凝集剤の凝集効率を高めるため、pH調節を行うのが好ましい。
【0062】
無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用して用いる場合、凝集剤の添加量は、廃液量に対してそれぞれ無機凝集剤(無水分基準)が10〜1000 mg/L好ましくは20〜500 mg/L、カチオン性有機高分子凝集剤が5〜100 mg/L好ましくは10〜50 mg/L、アニオン性有機高分子凝集剤が2〜50 mg/L好ましくは5〜30 mg/L、両イオン性有機高分子凝集剤が5〜100 mg/L好ましくは10〜50 mg/L添加である。
【0063】
本発明の方法は、放射性ストロンチウム等のアルカリ土類金属の濃度が低い廃液からも効率よく前記アルカリ土類金属を除去することが可能なので、あらかじめチタン酸、ゼオライト等の既存の吸着剤で処理し、放射性物質をある程度除去した後、微量に残った放射性ストロンチウムを本発明の方法により除去するのが好ましい。このように二段階で廃液を処理することにより、より効率よく放射性ストロンチウムを除去することができる。
【0064】
[2] 複合ダイヤモンド微粒子及び複合カーボンナノチューブからなる吸着剤
リン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合ダイヤモンド微粒子、及び/又はリン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合カーボンナノチューブは、廃液中の金属原子、特にストロンチウム等のアルカリ土類金属を吸着するための吸着剤として高い効果を発揮する。
【0065】
複合ダイヤモンド微粒子は、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子とを混合することにより生成することができ、複合カーボンナノチューブは、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、カーボンナノチューブとを混合することにより生成することができる。ダイヤモンド微粒子、カーボンナノチューブ、リン酸化合物及び水溶性金属塩は、本発明の方法で用いるものと同じであり、それらの使用量も前記方法と同様で良い。
【0066】
複合ダイヤモンド微粒子及び/又は複合カーボンナノチューブは、ストロンチウム等のアルカリ土類金属を含有する廃液に添加して使用する。前記複合ダイヤモンド微粒子及び/又は複合カーボンナノチューブの廃液への添加量は、廃液中に含まれるストロンチウム等の金属原子に対して前記水溶性金属塩の合計量として10当量以上となる量であるのが好ましく、100当量以上となる量であるのがより好ましく、1000当量以上となる量であるのが最も好ましい。添加量の上限は特に設ける必要はないが、実用的には、廃液1L当たり50 g程度である。前記複合ダイヤモンド微粒子及び/又は複合カーボンナノチューブを添加後、充分に攪拌し1時間以上放置するのが好ましく、5時間以上放置するのがより好ましく、24時間以上放置するのが最も好ましい。
【0067】
前記金属原子を吸着させた複合ダイヤモンド微粒子及び/又は複合カーボンナノチューブは、濾過、デカンテーション等の方法により廃液から除去することができるが、凝集剤を添加することにより、速やかに凝集及び固化させることができる。凝集剤としては、本発明の方法で使用したものを使用するのが好ましく、それらの使用量及び使用方法も前記方法と同様で良い。
【0068】
[3]製造方法
(1)ダイヤモンド微粒子
(a) 爆射法
ダイヤモンド微粒子は公知の方法で作製することができる。特に、本発明の目的には爆射法によって得られたダイヤモンド微粒子が好ましい。爆射法によるダイヤモンド微粒子の合成は、水及び/又は氷の存在下で爆薬を爆発させて行うウエット法、水及び/又は氷を使用しないで空冷するドライ法等があるが、本発明ではどの方法を採用しても良い。
【0069】
ウエット法としては、例えば、氷でできた容器中に充填した爆薬[例えば、TNT(トリニトロトルエン)/HMX(シクロテトラメチレンテトラニトラミン)=50/50]を、耐圧容器のほぼ中央部に配置し、前記耐圧容器の壁面に水を流しながら爆裂させる方法を挙げることができる。この方法において、反応生成物としての未精製のダイヤモンドは容器中の水中から回収する。ウエット法においては、水及び/又は氷中にあらかじめ水溶性の還元剤(酸化防止剤)を含有させて爆発を行うのが好ましい。前記水溶性の還元剤としては、ヒドラジン類、ヘキサメチレンテトラアミン、尿素、アンモニア、アセトニトリル、アスコルビン酸、亜硫酸ナトリウム、ハイドロキノン、エリソルビン酸ナトリウム、カテキン、ヒドラジン、シュウ酸、ギ酸等が挙げられる。
【0070】
爆薬としては公知の有機系爆薬を用いることができる。有機系爆薬としては、トリニトロトルエン(TNT)、トリニトロベンゼン(TNB)、シクロトリメチレントリニトラミン(RDX)、シクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX)、テトラニトロメチルアニリン(テトリル)、トリアミノトリニトロベンゼン(TATB)、ジアミノトリニトロベンゼン(DATB)、ヘキサニトロスチルベン(HNS)、ヘキサニトロアゾベンゼン(HNAB)、ヘキサニトロジフェニルアミン(HNDP)、ピクリン酸、ピクリン酸アンモニウム、ベンゾトリアゾール(TACOT)、エチレンジニトラミン(EDNA)、ニトログアニジン(NQ)、ペンタエリスリトールテトラナイトレート(ペンスリット)、ベンゾトリフルオキサン(BTF)等が挙げられ、これらを単独又は混合して使用する。特に、RDX(60%)とTNT(40%)との混合爆薬として知られているコンポジションB等を使用するのが好ましい。
【0071】
これらの有機系爆薬は、炭素原子含有率が15質量%以上、好ましくは20〜35質量%、密度が1.5 g/cc以上、好ましくは1.6 g/cc以上、爆速は7000 m/s以上、好ましくは7500 m/s以上であり、酸素バランスが負、好ましくは-0.2〜-0.6であり、爆射圧が18 GPa以上、好ましくは20〜30 GPa、爆射温度が3000 K以上、好ましくは3000〜4000 Kである。そのため、爆薬中の炭素原子を効率よくダイヤモンドに転換することができ、また酸素バランスが負であることから爆発時にダイヤモンドが酸化されて収率を低下させることがない。
【0072】
前記爆射法は、Science, Vol. 133, No.3467(1961), pp1821-1822、特開平1-234311号、特開平2-141414号、Bull. Soc. Chem. Fr. Vol. 134(1997), pp. 875-890、Diamond and Related materials Vol. 9(2000), pp861-865、Chemical Physics Letters, 222(1994), pp. 343-346、Carbon, Vol. 33, No. 12(1995), pp. 1663-1671、Physics of the Solid State, Vol. 42, No. 8 (2000), pp. 1575-1578、K. Xu. Z. Jin, F. Wei and T. Jiang, Energetic Materials, 1, 19(1993)、特開昭63-303806号、特開昭56-26711報、英国特許第1154633号、特開平3-271109号、特表平6-505694号(WO93/13016号)、炭素, 第22巻, No. 2, 189〜191頁(1984)、Van Thiei. M. & Rec., F. H., J. Appl. Phys. 62, pp. 1761〜1767 (1987)、特表平7-505831号 (WO94/18123号)、米国特許第5861349号、特開2006-239511号及び特開2003-146637号等に記載の方法を用いることができる。
【0073】
(b)酸化処理
未精製のダイヤモンドの酸化処理方法としては、(i) 過塩素酸、重クロム酸、硝酸等の酸化剤共存下で高温高圧処理する方法(酸化処理A)、(ii)水及び/又はアルコールからなる超臨界流体中で処理する方法(酸化処理B)、(iii)水及び/又はアルコールからなる溶媒に酸素を共存させて、前記溶媒の標準沸点以上の温度及び0.1 MPa(ゲージ圧)以上の圧力で処理する方法(酸化処理C)、又は(iv)375〜630℃で酸素を含む気体により処理する方法(酸化処理D)が挙げられる。これらの酸化処理は、単独で行ってもよいし、組合せて行っても良い。酸化処理を組合せる場合は、爆射法で得られた未精製のダイヤモンドにまず酸化処理Aを施し、さらに酸化処理B〜Cのいずれかを施すのが好ましい。
【0074】
爆射法で得られた未精製のダイヤモンドに酸化処理Aを施すことによりグラファイト相の一部が除去されたナノダイヤモンド(グラファイト-ダイヤモンド微粒子)が得られ、このグラファイト-ダイヤモンド微粒子に酸化処理B〜Cのいずれかの処理を施すことにより前記グラファイト相をさらに除去することができる。粒子表面をカルボキシル基、スルホン酸基、水酸基等の官能基で修飾するために、酸化処理Aで使用する酸化剤としては高い酸化力を有するものが好ましい。具体的には、過塩素酸、重クロム酸又は硝酸が好ましい。
【0075】
(c)メディア分散処理
爆射法により得られた未精製のダイヤモンド、及び前記酸化処理を施したナノダイヤモンドの動的光散乱法で求めたメジアン径は150〜250 nmである。これらの粒子は、前述したように、メジアン径2〜10 nm程度のダイヤモンド一次粒子が強固に凝集した凝集体である。凝集がより少ないダイヤモンド微粒子を得るために、未精製又は前記酸化処理を施したダイヤモンド微粒子をビーズミル等の公知のメディア分散法により粉砕するのが好ましい。ビーズミルによる分散は、ジルコニアビーズを使用するのが好ましい。未精製又は前記酸化処理を施したダイヤモンド微粒子をメディア分散することにより、メジアン径を100 nm以下にするのが好ましく、50 nm以下にするのがより好ましく、30 nm以下にするのが最も好ましい。
【0076】
ビーズミルによる分散は市販の装置を用いて行うことができる。連続的に分散液を供給しながら、ビーズによる粉砕を行うことができる装置を使用するのが好ましく、例えば0.1 mm径のジルコニアビーズを0.15 Lのベッセルに充填し、10 m/s程度の周速で回転子を回転させながら、5%程度の前記ダイヤモンド微粒子の水分散物を0.12 L/minで供給し粉砕する。さらに細かく分散させたいときは、0.05 mm径のジルコニアビーズを用いてもよい。
【0077】
(2)カーボンナノチューブ
カップスタック型カーボンナノチューブは、市販のもの、国際公開第2008/004347号、特開2003-147644号、Qingfeng Liu et al. “Synthesis, Purification and Opening of Short Cup-Stacked Carbon Nanotubes”, Journal of Nanoscience and Nanotechnology, vol. 9, 4554-4560, 2009等に記載のものを用いることができる。カップスタック型カーボンナノチューブの製造法の一例を以下に説明するが、本発明はこの方法に限定されるものではない。
【0078】
カップスタック型カーボンナノチューブは、CoO-A1203系の触媒を用いて合成することができる。CoO-A1203系の触媒は、硝酸コバルトと硝酸アルミニウムとを加熱して熱分解し、得られた反応物を粉砕して作製する。合成触媒の組成はCoO:A1203=80:20〜40:60(質量比)であるのが好ましい。カップスタック型カーボンナノチューブは、前記合成触媒を銅製の容器に配置し、約650℃で、触媒に向けてプロパン/ブタンの混合ガスを流すことによって合成することができる。得られたカップスタック型カーボンナノチューブは、塩酸処理によってアモルファスカーボン及び合成触媒を溶解除去し、さらに前述のダイヤモンド微粒子と同様にして酸化処理を施し、その表面に親水基を修飾するのが好ましい。
【実施例】
【0079】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0080】
実施例1
(1)ナノダイヤモンドの作製
TNT(トリニトロトルエン)とRDX(シクロトリメチレントリニトラミン)を40/60の比で含む0.65 kgの爆薬1を、脱気した水を凍らせて形成した氷の容器2aに充填し(図1(a))、同じく脱気した水を凍らせて形成した氷の容器2bで蓋をした(図1(b))。前記爆薬1には、起爆用爆薬及び電気雷管を取り付けた。氷の重さは容器2a,2b合わせて15 kgであった。
【0081】
この爆薬1を充填した氷の容器2a,2bを、3 m3の耐圧性容器内に銅線で吊り下げ、耐圧性容器内の空気を窒素と置換した。爆薬を起爆するための電気雷管への電流は前記銅線を通して供給した。耐圧性容器内は1気圧であり、酸素濃度は4容量%であった。耐圧性容器の上部から内壁全体に水をかけながら氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を爆発させた。
【0082】
5分間静置した後、前記氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を再度同様にして設置し、耐圧性容器内の窒素置換の操作は行わないで二度目の爆発を行った。ただし、氷の容器2a,2bに充填した爆薬1を設置する際には、窒素を耐圧性容器に供給しながら素早く作業を行った。
【0083】
二度目の爆発後、耐圧性容器の上蓋を開け、水で耐圧性容器の内壁面を洗浄しながら黒色液状の爆発生成物(未精製のナノダイヤモンド)を回収し、加熱乾燥し、未精製のナノダイヤモンド粉末を得た。この未精製のナノダイヤモンドの収率は使用した爆薬量に対して11質量%であり、比重は2.55 g/cm3、メジアン径(動的光散乱法)は220 nmであった。この未精製のナノダイヤモンドは、比重から計算して、76体積%のグラファイト系炭素と24体積%のダイヤモンドからなっていると推定された。この未精製のナノダイヤモンドは、ラマンスペクトルにおける1,330±10 cm-1のピーク強度Iaと、1,610±100 cm-1のピーク強度Ibとの比が0.86であった。
【0084】
得られた未精製のナノダイヤモンドを60質量%硝酸水溶液と混合し、160℃、14気圧、20分の条件で酸化性分解処理を行った後、130℃、13気圧、1時間で酸化性エッチング処理を行った。酸化性エッチング処理により、未精製のナノダイヤモンドからグラファイトが一部除去された粒子が得られた。この粒子を、アンモニアを用いて、210℃、20気圧、20分還流し中和処理した後、自然沈降させデカンテーションにより35質量%硝酸での洗浄を行い、さらにデカンテーションにより3回水洗し、遠心分離により脱水し、120℃で加熱乾燥し、酸化処理したナノダイヤモンドの粉末を得た。この酸化処理したナノダイヤモンドの粉末の比重は3.38 g/cm3であり、メジアン径は130 nm(動的光散乱法)であった。比重から計算して、90体積%のダイヤモンドと10体積%のグラファイト系炭素からなっていると推定された。この酸化処理したナノダイヤモンドを水に分散し、1%ナノダイヤモンド分散液を作製した。
【0085】
(2)ストロンチウム吸着除去試験
0.07%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び6.5 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、1 M塩化バリウム水溶液2 g、1%ナノダイヤモンド分散液4 g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、100 g/Lのトリポリリン酸ナトリウム水溶液8 gを加えたところ、瞬時に灰白色の沈殿が生成した。なお、各水溶液は全て60℃に温調して試験を行った。この溶液を十分攪拌した後、室温で10時間静置し、上澄み液を分離した。上澄み液に含まれるストロンチウムをICP-AESで定量したところ、98%のストロンチウムが除去されていた。
【0086】
実施例2
ストロンチウム吸着除去試験
0.07%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び6.5 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、1 M塩化バリウム水溶液2 g、1%ナノダイヤモンド分散液4 g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、100 g/Lのトリポリリン酸ナトリウム水溶液8 gを加えたところ、瞬時に灰白色の沈殿が生成した。なお、各水溶液は全て60℃に温調して試験を行った。
【0087】
この分散液に、室温で2 gのポリ塩化アルミニウム水溶液(10質量%)、0.01 gのカチオン系高分子凝集剤(ユニフロッカUF-340、ポリメタアクリル酸エステル系分子量約310万、ユニチカ(株)製)、0.01 gのアニオン系高分子凝集剤(ユニフロッカUF-105、ポリアクリルアミド系分子量約1300万、ユニチカ(株)製)を加え30分攪拌後、3時間静置したところ、石ころ状に固化した沈殿物と上澄みとに分離した。この上澄み液を100μmφのメンブランフィルターで濾過し沈殿物を除去した。濾過後の水に含まれるストロンチウムをICP-AESで定量したところ、99%以上のストロンチウムが除去されていた。
【0088】
比較例1
1%ナノダイヤモンド分散液を添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてストロンチウム吸着除去試験を行ったところ、ストロンチウムの除去率は80%であった。
【0089】
実施例3
(1) カーボンナノチューブの合成
24gの蒸留水に溶解した14.6 gの硝酸コバルト6水和物と9.4 gの硝酸アルミニウム9水和物とを650℃±10℃に維持したマッフル炉内で加熱して1時間熱分解させ、空気中で放冷し、得られた樹枝状の生成物を粉砕してカップスタック型カーボンナノチューブを合成するためのCoO-A1203系触媒を得た。得られた触媒の組成はCoO:A1203=60:40(質量比)であった。
【0090】
この合成触媒O.4 gを直径60 mmの銅製皿上に均等に配置し、650±5℃に維持したパイロット炉中で、上方から触媒に向けてプロパン:ブタン=1:1の混合ガスを120 L/hrの流量で供給し、30分間反応させ39%の収率でグラファイト化合物を得た。得られたグラファイト化合物は、走査型電子顕微鏡での観測から、カップスタック型カーボンナノチューブを含有することが確認できた。X線回折により、このカーボンナノチューブは74%の結晶化炭素を含有していることがわかった。このようにして作製したカップスタック型カーボンナノチューブを含むグラファイト化合物を塩酸処理し、アモルファスカーボン及び合成触媒を溶解除去した後、60質量%硝酸水溶液と混合し酸化処理を施し、粒子表面をカルボキシル基、水酸基等の官能基で修飾した。この酸化処理したカーボンナノチューブを水に分散し、1%カーボンナノチューブ分散液を作製した。
【0091】
(2)ストロンチウム吸着除去試験
0.07%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び6.5 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、1 M塩化バリウム水溶液2 g、1%カーボンナノチューブ分散液4 g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、100 g/Lのトリポリリン酸ナトリウム水溶液8 gを加えたところ、瞬時に灰白色の沈殿が生成した。なお、各水溶液は全て60℃に温調して試験を行った。この溶液を十分攪拌した後、室温で6時間静置し、上澄み液を分離した。上澄み液に含まれるストロンチウムをICP-AESで定量したところ、96%のストロンチウムが除去されていた。
【0092】
実施例4
(1)複合ナノダイヤモンドの作製
1 M塩化バリウム4 gを攪拌しながら、1%ナノダイヤモンド分散液4g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、及び100 g/Lトリポリリン酸ナトリウム水溶液8 gを順次加えたところ、灰白色の沈殿が生成した。デカンテーションで上澄み液を除き、ポリリン酸塩で修飾した複合ナノダイヤモンドを得た。
【0093】
(2) ストロンチウム吸着除去試験
6.5 ppmの塩化ストロンチウム水溶液40 mLに、前記複合ナノダイヤモンド4 gを加え2時間攪拌した後、1 gの硫酸バンド水溶液(10%質量%)、及び0.3 gのポリエチレンイミン水溶液(30質量%)を加え30分攪拌し、さらに2gのポリアクリル酸ナトリウム水溶液(0.3質量%)を加え30分攪拌後、3時間静置したところ、石ころ状に固化した沈殿物と上澄みとに分離した。この上澄み液を100μmφのメンブランフィルターで濾過し沈殿物を除去した。濾過後の水溶液に含まれるストロンチウムをICP-AESで定量したところ、99%以上のストロンチウムが除去されていた。
【符号の説明】
【0094】
1・・・爆薬
2a,2b・・・容器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液中の金属原子を除去及び回収する廃液処理方法であって、前記廃液に、リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとを添加する工程を有することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃液処理方法において、前記添加工程の後に、凝集剤を添加する工程を有することを特徴とする処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の廃液処理方法において、前記リン酸化合物と、水溶性金属塩と、ダイヤモンド微粒子及び/又はカーボンナノチューブとの添加は、50〜80℃に加熱した前記廃液に対して行うことを特徴とする処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記リン酸化合物が、リン酸塩、リン酸水素塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩及びメタリン酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする処理方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記水溶性金属塩が、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする処理方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記水溶性金属塩が、カリウム、ルビジウム、セシウム、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする処理方法。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記凝集剤が、無機凝集剤及び/又は有機高分子凝集剤であることを特徴とする処理方法。
【請求項8】
請求項7に記載の廃液処理方法において、前記無機凝集剤が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする処理方法。
【請求項9】
請求項7又は8に記載の廃液処理方法において、前記有機高分子凝集剤が、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする処理方法。
【請求項10】
請求項2〜9のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記凝集剤を添加する工程が、前記無機凝集剤及び/又は前記高分子凝集剤を添加混合した後に、さらに前記高分子凝集剤を添加混合する工程からなることを特徴とする処理方法。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記ダイヤモンド微粒子が、爆射法で得られたものであることを特徴とする処理方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記ダイヤモンド微粒子が、酸化処理により表面を親水化したものであることを特徴とする処理方法。
【請求項13】
請求項1〜12のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記ダイヤモンド微粒子が、2.55〜3.48 g/cm3の比重を有することを特徴とする処理方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記カーボンナノチューブが、カップスタック型であることを特徴とする処理方法。
【請求項15】
廃液中の金属原子を吸着するための吸着剤であって、リン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合ダイヤモンド微粒子、及び/又はリン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる塩を担持してなる複合カーボンナノチューブからなる吸着剤。

【図1】
image rotate


【公開番号】特開2013−27809(P2013−27809A)
【公開日】平成25年2月7日(2013.2.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−164864(P2011−164864)
【出願日】平成23年7月27日(2011.7.27)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】