説明

金属原子を含有する廃液の処理方法及び吸着剤

【課題】カルシウムやマグネシウムが共存する海水や廃液中から放射性ストロンチウムを選択的に除去することのできる方法、及びそのための吸着剤を提供する。
【解決手段】廃液に、(a)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、(b)リン酸化合物と、(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する水溶性金属塩とを添加する工程を有することを特徴とする廃液中の金属原子を除去及び回収する廃液処理方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属原子、特に放射性ストロンチウムを含有する廃液から、前記金属原子を選択的に沈澱又は吸着させ除去することにより廃液を処理する方法、及び前記金属原子を除去するための吸着剤に関し、詳しくは、水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムとリン酸系化合物と水溶性金属塩とを添加する工程を有する廃液処理方法、及びチタン又はジルコニウムと、リン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる吸着剤に関する。
【背景技術】
【0002】
放射性廃液中の放射性セシウムや放射性ストロンチウムを除去する方法として、フェロシアン化鉄による沈澱、ゼオライトによる吸着等の方法が知られている。しかしながら、これらの方法により放射性物質を含む沈澱物又は吸着剤が大量に生成し、それらの放射性廃棄物を、放射能が問題のないレベルに低下するまで長期保管する必要があり、その保管場所・保管設備等の確保が深刻な問題となる。
【0003】
保管すべき放射性廃棄物の容積及び重量を最小限にするためには、目的金属のみを選択的に、少ない処理剤で除去することができる処理方法が好ましい。前述のフェロシアン化鉄は、放射性セシウムに対して高い選択性を有する沈澱剤であるので、このフェロシアン化鉄を沈澱剤として用いた方法は放射性廃棄物のコンパクト化に大きく貢献するが、放射性ストロンチウムに対して十分に高い選択性を有する沈澱剤及び吸着剤はまだまだ検討の余地がある。
【0004】
Manolis J. Manos et al. “Layered metal sulfides: Exceptionally selective agents for radioactive strontium removal" PNAS, March 11, 2008, 105, 3696-3699(非特許文献1)は、広いpH領域(pH3〜13)で96%以上の高いストロンチウム除去率を有する、マンガンとスズの硫化物からなる吸者剤を開示しており、この吸着剤はカリウムやナトリウムに対して高い選択性を有すると記載している。しかしながら、この吸着剤は、カルシウム及びマグネシウムに対しても高い除去率(それぞれ、89%及び87%)を有しているため、これらの金属イオンが共存した廃液を処理する場合、ストロンチウムの除去率が低下してしまう。また放射性物質以外の金属イオン等も吸着することにより、吸着廃棄物の嵩が高くなり処理に手間とコストがかかってしまう。また相当量の廃棄物を長期保管する際の重量と嵩の問題が深刻になる。
【0005】
V. V. Milyutin et al. "Kinetics of Sorption of Cesium and Strontium Radionuclides on Different Sorbents" Radiochemistry, 1998, 40, 431-433(非特許文献2)は、ストロンチウムの除去能力を有する12種の吸着剤を開示している。これらの吸着剤の中で、酸化マンガンを主体とした吸着剤は、O.1 M硝酸ナトリウム中のストロンチウムの除去率は約90%であり、最も高い除去性能を有すると記載している。しかしながら、非特許文献2は、共存するカルシウムやマグネシウムの影響について記載しておらず、これらの吸着剤が実用的な観点でストロンチウムを選択的に除去する十分な能力を有するかどうか明らかではない。また非特許文献2は、チタンリン酸粒子を吸着剤として記載しているが、この吸着剤はストロンチウムに対する分配係数Kdが0.16×103(25℃)であり(Table 2参照)、この分配係数から求めた除去率は14%程度でしかない。
【0006】
E. P. Lokshin, "Physicochemical Reasons for the Use of TiOHP04 for Treatment of Liquid Radioactive Waste" Radiochemistry, 2003, 45, 394-398(非特許文献3)は、リン酸水素チタニル(TiOHP04)を吸着剤として使用して、Li、Na、K、Rb及びCsのカチオンを含む水溶液から放射性セシウムを選択的に吸着除去する方法を開示している。しかしながら、非特許文献3は、ストロンチウムを選択的に吸着除去する方法については記載していない。
【0007】
特開2001-133594号(特許文献1)は、チタン酸塩(又は含水酸化チタン)及びフェロシアン化物の内の少なくともいずれか一方に、含水酸化チタン以外の含水金属酸化物、多価金属の酸性塩及びヘテロポリ酸塩からなる群から選ばれた少なくとも一種の水不溶性の無機物を共存させてなる吸着剤を用いて、コバルト、ニッケル、クロム、鉄、マンガン、亜鉛、ストロンチウム及びセシウムの少なくとも一種を選択的に吸着除去する方法を開示している。特許文献1は、ストロンチウムに対して選択性を有する吸着剤として、セリオン(SELION)社製「Sr・トリート(Sr Treat)」(チタン酸塩)が有効であると記載している。しかしながら、実際に実施例で効果を示している吸着剤は、セリオン(SELION)社製「Co・トリート(Co Treat)」による60Coの除去効果に限られ、ストロンチウムに関しての除去効果については記載していない。
【0008】
以上述べたように、放射性ストロンチウムを除去するための吸着剤や除去方法についていくつかの技術が開示されているが、カルシウムやマグネシウムが共存する海水や廃液中から放射性ストロンチウムを選択的に除去する方法は知られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001-133594号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】Manolis J. Manos et al. “Layered metal sulfides: Exceptionally selective agents for radioactive strontium removal" PNAS, March 11, 2008, 105, 3696-3699
【非特許文献2】V. V. Milyutin et al. "Kinetics of Sorption of Cesium and Strontium Radionuclides on Different Sorbents" Radiochemistry, 1998, 40, 431-433
【非特許文献3】E. P. Lokshin, "Physicochemical Reasons for the Use of TiOHP04for Treatment of Liquid Radioactive Waste" Radiochemistry, 2003, 45, 394-398
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
従って、本発明の目的は、カルシウムやマグネシウムが共存する海水や廃液中から放射性ストロンチウムを選択的に除去することのできる方法、及びそのための吸着剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的に鑑み鋭意研究の結果、本発明者らは、放射性ストロンチウムを含む廃液に、(a)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、(b)リン酸化合物と、(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する水溶性金属塩とを添加することにより、カルシウムやマグネシウムが共存する場合でも放射性ストロンチウムを選択的に吸着除去ができることを見いだし、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、廃液中の金属原子を除去及び回収する本発明の廃液処理方法は、前記廃液に、
(a)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、
(b)リン酸化合物と、
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する水溶性金属塩とを添加する工程を有する。
【0014】
前記リン酸化合物は、リン酸塩、リン酸水素塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、メタリン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、フィチン酸塩及びその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有するのが好ましい。
【0015】
前記水溶性金属塩は、前記金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。
【0016】
前記(a)〜(c)の添加工程の後に、凝集剤を添加する工程を有するのが好ましい。
【0017】
前記凝集剤は、無機凝集剤及び/又は有機高分子凝集剤であるのが好ましい。
【0018】
前記無機凝集剤は、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0019】
前記有機高分子凝集剤は、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であるのが好ましい。
【0020】
前記凝集剤を添加する工程は、前記無機凝集剤及び/又は前記有機高分子凝集剤を添加混合した後に、さらに前記高分子凝集剤を添加混合する工程からなるのが好ましい。
【0021】
廃液中の金属原子を吸着するための本発明の吸着剤は、
(a)チタン又はジルコニウムと、
(b)リン酸化合物と、
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属とからなることを特徴とする。
【発明の効果】
【0022】
本発明の廃液処理方法は、カルシウムやマグネシウムが共存する海水や廃液中からストロンチウムを選択的に除去することができるので、放射性廃液中の放射性ストロンチウムの除去に好適である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
[1]廃液処理方法
本発明の廃液処理方法は、廃液中の金属原子を除去及び回収するものであり、
前記廃液に、
(a)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、
(b)リン酸化合物と、
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する水溶性金属塩とを添加し、前記廃液中の金属原子を含有する沈殿物を生成させ、その沈降物を回収する方法である。
【0024】
本発明の廃液処理方法は、特にストロンチウム等のアルカリ土類金属を選択的に沈殿させることができるので、例えば放射性物質を含有する廃液から、放射性ストロンチウムを除去回収するのに有効である。
【0025】
本発明の方法においては、ストロンチウム等のアルカリ土類金属を含有する水溶液に、前記水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、前記リン酸化合物と、前記水溶性金属塩とを添加した後、充分に攪拌することにより速やかに沈殿物が生じる。反応を十分に完結させ、沈殿物を十分に沈降させるため、混合後10分以上放置するのが好ましく、1時間以上放置するのがより好ましく、5時間以上放置するのが最も好ましい。また添加後pHを6.5以下にすることでよりストロンチウムの除去選択性が向上する。
【0026】
ストロンチウム等のアルカリ土類金属の水溶液に、水酸化チタン又は水酸化ジルコニウム、リン酸化合物、及び水溶性金属塩を添加すると、チタン又はジルコニウムとリン酸と水溶性金属との塩が形成されると同時に、形成された塩に廃液中のストロンチウム等のアルカリ土類金属が取り込まれ、複合塩が形成され沈殿する。このような機構により、廃液中のストロンチウム等のアルカリ土類金属を効率よく迅速に除去することができる。これらの処理は、室温で行うことが可能であるが、特に迅速に処理を行いたい場合は、25〜90℃で行うのが好ましく、30〜80℃で行うのがより好ましい。
【0027】
(1)水溶性金属塩
水溶性金属塩は、廃液中に含まれるストロンチウム等のアルカリ土類金属に対して10当量以上添加するのが好ましく、100当量以上添加するのがより好ましい。10当量よりも少ない添加量の場合、ストロンチウム等のアルカリ土類金属の除去効率が低下する。また、多量に添加するとリン酸化合物の必要量が多くなるため、ストロンチウム等のアルカリ土類金属に対して1000当量以下で使用するのが好ましい。
【0028】
水溶性金属塩は、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であるのが好ましい。前記アルカリ金属としては、ナトリウム又はカリウムが好ましく、前記アルカリ土類金属としては、バリウムが好ましく、前記遷移金属としては、鉄、コバルト、ニッケル、銅又は亜鉛が好ましい。水溶性金属塩は、塩化バリウム、硝酸バリウム等のバリウム塩が最も好ましい。
【0029】
(2)リン酸化合物
リン酸化合物は、前記水溶性金属塩に対して、1/10当量以上添加するのが好ましく、1当量以上添加するのがより好ましく、10当量以上添加するのが最も好ましい。上限は特に規定する必要はないが、実用的には前記水溶性金属塩に対して、100当量以下で使用するのが好ましい。
【0030】
リン酸化合物としては、リン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、リン酸アミノ塩、無水リン酸塩、三リン酸塩、四リン酸塩、縮合リン酸塩、フィチン酸塩及びその誘導体等が使用できるが、オルソリン酸塩、オルソリン酸水素塩、メタリン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、縮合リン酸塩が好ましく、特に縮合リン酸塩及び/又はメタリン酸塩、もしくはオルソリン酸塩及び/又はオルソリン酸水素塩を使用するのが好ましい。縮合リン酸塩とは、オルソリン酸(H3PO4)の脱水縮合によって得られた酸の塩であり、特に限定はしないが、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩及びテトラポリリン酸塩が好ましい。また、これらの縮合リン酸塩と、メタリン酸塩及び/又はフィチン酸塩との組合せが好ましい。
【0031】
リン酸化合物には金属を含んでいても良く、含まれる金属としては、アルカリ金属、アルカリ土類金属、遷移金属及びAl等が好ましい。アルカリ金属としては、Na及びKが好ましく、アルカリ土類金属としては、Mgが好ましく、遷移金属としては、Fe及びZnが好ましい。
【0032】
リン酸化合物の使用例としては、メタリン酸塩とポリリン酸塩との組合せが好ましく、特にピロリン酸ナトリウムとメタリン酸塩との組合せが好ましい。ピロリン酸塩及びメタリン酸塩の比率は、限定されないが、ピロリン酸/メタリン酸のモル比で、1/10〜10/1の範囲が好ましく、1/2〜5/1の範囲がより好ましい。
【0033】
(3)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウム
水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムは、前記リン酸化合物に対して、1/10当量以上添加するのが好ましく、1当量以上添加するのがより好ましく、10当量以上添加するのが最も好ましい。上限は特に規定する必要はないが、実用的には前記リン酸化合物に対して、100当量以下で使用するのが好ましい。
【0034】
水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムは、塩化チタン(IV)又は塩化ジルコニウム(IV)の水溶液に、アンモニア水又は水酸化ナトリウム水溶液を加えpH7以上にした状態で得られるものを使用するのが好ましい。
【0035】
(4)凝集剤
前記沈殿物は、濾過、デカンテーション等の方法により廃液から除去することができるが、凝集剤を添加することにより、さらに速やかに凝集及び固化させることができる。
【0036】
凝集剤の添加量は、特に限定されず、凝集物を十分に沈降させることのできる量であればよい。なお、十分な沈降とは、生成した凝集物の99%以上が沈降したことを意味する。従って、実際にはこのような除去効率を達成するように適宜凝集剤添加量を調整すればよいが、例えばアニオン系凝集剤を用いる場合、廃液中に添加した水酸化チタン又は水酸化ジルコニウム、リン酸化合物、及び水溶性金属塩の総量に対して凝集剤を0.1〜10%程度添加すれば十分に凝集沈殿させることができる。
【0037】
凝集剤を添加した廃液から効率的に凝集物を分離するための方法としては、濾過、デカンテーション、遠心分離、不織布等に吸着させる方法等があるが、取り扱いの簡便さから濾過又はデカンテーションが好ましい。凝集剤を添加した後一定時間静置することで、凝集物が処理槽底面に沈殿するので、上澄みを濾過するか、デカンテーションにより除去する。デカンテーションは、ドレンバルブからの抜き出しや、ポンプによる吸引や吸い上げ、サイホン等の利用、処理槽そのものを傾斜させて壁面上端からの排出等の方法が用いられる。さらには不織布をフィルターとして使用しての自然濾過が濾過後の取り扱いに優れておりより好ましい。不織布は、レーヨン、ポリエステル、ポリプロピレン等からなるものが好ましく用いられるが、これらに限定されるものではない。
【0038】
凝集剤の使用方法としては、無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用して用いる方法が好ましい。無機凝集剤のみでは、凝集によって生じたコロイド粒子の機械的強度があまり大きくなく、粒子の大きさや沈降速度に限界がある。有機高分子凝集剤を併用することにより、粒子の結合力を強め、粒径が大きく沈降速度の大きい粗大粒子(フロック)が得られる。
【0039】
無機凝集剤としては、塩化ナトリウム、塩化カリウム、臭化ナトリウム、塩化カルシウム、硫酸ナトリウム、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、硫酸第一鉄、ポリ硫酸第二鉄、その他一般の水処理で用いられている多価金属塩等を用いることができ、中でも硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄及びポリ硫酸第二鉄が好ましい。これらの無機凝集剤を1種又は2種以上組合せて使用する。
【0040】
有機高分子凝集剤は、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤の中から選択して使用するのが好ましく、特にカチオン性有機高分子凝集剤とアニオン性有機高分子凝集剤との併用、又は両イオン性有機高分子凝集剤が好ましい。
【0041】
カチオン性有機高分子凝集剤としては、ポリエチレンイミン、ハロゲン化ポリジアリルアンモニウム、水溶性アニリン樹脂、ポリチオ尿素、ポリアクリルアミドにホルマリンとアミン類で変成したポリアクリルアミドのカチオン化変成物、カチオン性ビニルラクタム−アクリルアミド共重合体、ジアリルアンモニウムハロゲン化物の環化重合物、イソブチレンと無水マレイン酸との共重合物にジアミンを反応させた共重合体、ビニルイミダゾリン重合体、ジアルキルアミノエチルアクリレートの重合体、アルキレンジクロライドとアルキレンポリアミンとの重縮合物、ジシアンジアミドとホルマリンとの重縮合物、アニリンとホルマリンとの重縮合物、アミン類とエピクロヒドリンとの共重合体、アンモニアとエピクロヒドリンとの共重合体、アミン類とアスパラギン酸との共重合体、第4級アンモニウム塩を側鎖に有するアクリルポリマー等が挙げられる。
【0042】
前記アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、n−プロピルアミン、イソプロピルアミン、メトキシプロピルアミン、ブツルアミン、アミルアミン、アリルアミン、ヘキシルアミン、カプリルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、オレイルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、ベンジルアミン、ピペリジン、ピロリジン等のアルキル及び環状アミン類、ポリエチレンポリアミン類、アミノプロピルエタノールアミン、メチルイミノビスプロピルアミン、モノメチルアミノプロピルアミン、ジアルキルアミノプロピルアミン、ヒドロキシエチルアミノプロピルアミン、ジエチルアミノエチルアミン、テトラメチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミン等が挙げられる。
【0043】
アニオン性有機高分子凝集剤としては、ポリアクリル酸ナトリウム、マレイン酸共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、ポリアクリルアミド-アクリル酸共重合体、部分スルホメチル化ポリアクリルアミド等が挙げられる。
【0044】
ノニオン性有機高分子凝集剤としては、ポリアクリルアミド、ポリエチレンオキシド、尿素−ホルマリン樹脂、ポリアミノアルキルメタクリレート、キトサン等が挙げられる。
【0045】
両イオン性有機高分子凝集剤は、1つの分子中にカチオン性基及びアニオン性基を有する高分子凝集剤である。カチオン性基としては、第3級アミン、その中和塩、4級塩等、アニオン性基としては、カルボキシル基、スルホン基又はこれらの塩等が挙げられる。特にカルボキシル基を有する両性系高分子凝集剤が好ましい。また、これらのイオン性成分の他にノニオン性成分が含まれていてもよい。より具体的には、アニオン性のモノマー単位として、アクリル酸、メタクリル酸、又はこれらのアルカリ金属塩等が挙げられる。カチオン性のモノマー単位としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、ジエチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、アリルジメチルアミンもしくはこれらの中和塩、4級塩等が挙げられる。ノニオン性のモノマー単位としては、(メタ)アクリルアミド、N,N−ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N−ジエチル(メタ)アクリルアミド等が挙げられる。
【0046】
両イオン性有機高分子凝集剤としては、ジメチルアミノエチルアクリレート/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノエチルメタクリレート/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノプロピルアクリルアミド塩酸塩/アクリル酸/アクリルアミド共重合体、ジメチルアミノエチルアクリレート/アクリル酸共重合体、アクリル酸ソーダ/アクリルアミド共重合体のマンニッヒ変性物等が好ましい。
【0047】
複数の凝集剤を用いる場合、それらの添加順序及び添加方法は特に限定されないが、凝集物の結合を強くしフロックを粗大化させるためには、(a)無機凝集剤及びカチオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらにアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(b)無機凝集剤、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらにアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(c)無機凝集剤を添加し撹拌混合後、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(d)無機凝集剤を添加し撹拌混合後、両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法、(e)無機凝集剤及び両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合後、さらに両イオン性有機高分子凝集剤を添加し撹拌混合する方法等が好ましく用いられる。凝集剤の添加方法は上記の方法に限定されず、様々な組合せが考えられ、廃液の種類によって適宜選択するのが好ましい。
【0048】
カチオン性有機高分子凝集剤又はアニオン性高分子凝集剤を使用する場合、前記高分子凝集剤を効果的に働かせるため、それらを添加する前に廃液を、それぞれの高分子凝集剤に応じてpH調節するのが好ましい。カチオン性有機高分子凝集剤を用いる場合、弱酸性に、アニオン性高分子凝集剤を用いる場合、弱アルカリ性に、調製することにより、凝集剤の凝集沈殿効果を高めることができ、凝集剤の添加量も低減できる。また、カチオン性有機高分子凝集剤及びアニオン性高分子凝集剤を併用する場合、両イオン性有機高分子凝集剤を使用する場合は、中性付近のpHに調節するのが好ましい。特に、無機凝集剤を添加した後は、pHが大きく酸性側又はアルカリ性側によっていることがあるので、有機高分子凝集剤の凝集効率を高めるため、pH調節を行うのが好ましい。
【0049】
無機凝集剤及び有機高分子凝集剤を併用して用いる場合、凝集剤の添加量は、廃液量に対してそれぞれ無機凝集剤(無水分基準)が10〜1000 mg/L好ましくは20〜500 mg/L、カチオン性有機高分子凝集剤が5〜100 mg/L好ましくは10〜50 mg/L、アニオン性有機高分子凝集剤が2〜50 mg/L好ましくは5〜30 mg/L、両イオン性有機高分子凝集剤が5〜100 mg/L好ましくは10〜50 mg/L添加である。
【0050】
本発明の方法は、放射性ストロンチウム等のアルカリ土類金属の濃度が低い廃液からも効率よく放射性ストロンチウムを除去することが可能なので、あらかじめゼオライト等の既存の吸着剤で処理し、放射性物質をある程度除去した後、微量に残った放射性ストロンチウムを本発明の方法により除去するようにしても良い。このように二段階で廃液を処理することにより、より効率よく放射性ストロンチウムを除去することができる。
【0051】
[2]吸着剤
チタン又はジルコニウムと、リン酸化合物と、アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属とからなる複合塩は、廃液中の金属原子、特にストロンチウム等のアルカリ土類金属を吸着するための吸着剤として高い効果を発揮する。
【0052】
前記吸着剤は、水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、リン酸化合物と、前記アルカリ金属、アルカリ土類金属又は遷移金属の水溶性金属塩とを混合することにより生成することができる。水酸化チタン又は水酸化ジルコニウム、リン酸化合物、及び水溶性金属塩は、本発明の方法で用いるものと同じものを使用することができ、これらの化合物を混合するときの使用量は、本発明の方法で使用する用途と同様で良い。
【0053】
吸着剤は、ストロンチウム等のアルカリ土類金属を含有する廃液に添加して使用する。前記吸着剤の廃液への添加量は、廃液中に含まれるストロンチウム等の金属原子に対して前記吸着剤に含まれる水溶性金属の合計量として10当量以上となる量であるのが好ましく、100当量以上となる量であるのがより好ましく、1000当量以上となる量であるのが最も好ましい。添加量の上限は特に設ける必要はないが、実用的には、廃液1L当たり50 g程度である。前記吸着剤を添加後、充分に攪拌し1時間以上放置するのが好ましく、5時間以上放置するのがより好ましく、24時間以上放置するのが最も好ましい。
【0054】
前記ストロンチウム等のアルカリ土類金属を吸着させた吸着剤は、濾過、デカンテーション等の方法により廃液から除去することができるが、凝集剤を添加することにより、速やかに凝集及び固化させることができる。凝集剤としては、本発明の方法で使用したものを使用するのが好ましく、それらの使用量及び使用方法も前記方法と同様で良い。
【実施例】
【0055】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0056】
実施例1
3Mの塩化チタン(IV)水溶液100 gに、2.5 N水酸化ナトリウム水溶液125 gを加えてpHを7にした。水を加えて全量を300 gとし、1 M水酸化チタン水溶液を得た
【0057】
0.15%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び1 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLを攪拌しつつ、得られた1 Mの水酸化チタン水溶液4 g、1 M塩化バリウム水溶液2 g、7質量%ピロリン酸ナトリウム水溶液2.85 g、及び20質量%メタリン酸ナトリウム水溶液1 gをそれぞれ1分間のインターバルをおいて順次添加した。全ての試薬を添加後、さらに5分間攪拌を続け、15時間静置したところ、上澄みと沈殿物とに分離した。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムの除去率は、それぞれ85.0%、67.7%及び30.9%であった。
【0058】
実施例2
0.15%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び1 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、実施例1で得られた1 Mの水酸化チタン水溶液4 g、1 M塩化バリウム水溶液2 g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、及び10質量%トリポリリン酸ナトリウム水溶液4 gを攪拌しながらそれぞれ1分間のインターバルをおいて順次添加した。全ての試薬を添加後、さらに5分間攪拌を続け、15時間静置したところ、上澄みと沈殿物とに分離した。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムの除去率は、それぞれ86.0%、81.8%及び31.7%であった。
【0059】
実施例3
全ての試薬を添加後、1 N塩酸でpHを5に調節した以外実施例2と同様にして、上澄みと沈殿物とを得た。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムの除去率は、それぞれ88.5%、41.0%及び14.3%であった。
【0060】
実施例4
実施例2で得られた上澄みと沈殿物との混合物に、室温で2 gのポリ塩化アルミニウム水溶液(10質量%)、0.01 gのカチオン系高分子凝集剤(ユニフロッカUF-340、ポリメタアクリル酸エステル系分子量約310万、ユニチカ(株)製)、0.01 gのアニオン系高分子凝集剤(ユニフロッカUF-105、ポリアクリルアミド系分子量約1300万、ユニチカ(株)製)を加え30分攪拌後、3時間静置したところ、石ころ状に固化した沈殿物と上澄みとに分離した。この上澄み液を100μmφのメンブランフィルターで濾過し沈殿物を除去した。濾過後の水に含まれるストロンチウムをICP-AESで定量したところ、88.2%のストロンチウムが除去されていた。
【0061】
比較例1
水酸化チタン水溶液を添加しなかった以外は、実施例2と同様にして上澄みと沈殿物とを得た。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、94.6%のストロンチウムが除去されていたが、カルシウム及びマグネシウムの除去率も、それぞれ99%及び80%と高く、ストロンチウムに対する選択性がなかった。
【0062】
比較例2
0.15%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び1 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、20質量%炭酸ナトリウム水溶液8 gを添加し、5分間攪拌後、15時間静置したところ、上澄みと沈殿物とに分離した。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、ストロンチウムの除去率は45.4%と低い値であった。またカルシウム及びマグネシウムの除去率も、それぞれ56.2%及び60.9%であり、ストロンチウムに対する選択性も低かった。
【0063】
比較例3
0.15%の海水塩(海水と同じ組成の塩)及び1 ppmの塩化ストロンチウムを含む水溶液試料40 mLに、実施例1で得られた1 Mの水酸化チタン水溶液4 g及び20質量%メタリン酸ナトリウム水溶液1 gを、攪拌しながら1分間のインターバルをおいて順次添加した。全ての試薬を添加後、さらに5分間攪拌を続け、15時間静置したところ、上澄みと沈殿物とに分離した。上澄み液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、ストロンチウム、カルシウム及びマグネシウムの除去率は、それぞれ75.8%、40.8%及び26.4%であり、ストロンチウムの選択性はあるが、その除去率が低かった。
【0064】
実施例5
(1)吸着剤の作製
実施例1で得られた1 Mの水酸化チタン水溶液4 gに、1 M塩化バリウム4 g、0.6 Mリン酸水素二ナトリウム水溶液4 g、及び100 g/Lトリポリリン酸ナトリウム水溶液8 gを攪拌しながら1分間のインターバルをおいて順次加えたところ、白色の沈殿が生成した。デカンテーションで上澄み液を除き、水酸化チタン、リン酸化合物及びバリウムからなる吸着剤を得た。
【0065】
(2) ストロンチウム吸着除去試験
6.5 ppmの塩化ストロンチウム水溶液40 mLに、前記吸着剤4 gを加え2時間攪拌した後、1 gの硫酸バンド水溶液(10%質量%)、及び0.3 gのポリエチレンイミン水溶液(30質量%)を加え30分攪拌し、さらに2gのポリアクリル酸ナトリウム水溶液(0.3質量%)を加え30分攪拌後、3時間静置したところ、石ころ状に固化した沈殿物と上澄みとに分離した。この上澄み液を100μmφのメンブランフィルターで濾過し沈殿物を除去した。濾過後の水溶液に含まれる金属をICP-AESで定量したところ、75%以上のストロンチウムが除去されていた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
廃液中の金属原子を除去及び回収する廃液処理方法であって、前記廃液に、
(a)水酸化チタン又は水酸化ジルコニウムと、
(b)リン酸化合物と、
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属を含有する水溶性金属塩とを添加する工程を有することを特徴とする処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の廃液処理方法において、前記リン酸化合物が、リン酸塩、リン酸水素塩、ピロリン酸塩、トリポリリン酸塩、テトラポリリン酸塩、メタリン酸塩、亜リン酸塩、次亜リン酸塩、フィチン酸塩及びその誘導体からなる群から選ばれた少なくとも1種を含有することを特徴とする処理方法。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の廃液処理方法において、前記水溶性金属塩が、前記金属のハロゲン化物、硝酸塩及び硫酸塩からなる群から選ばれた少なくとも1種であることを特徴とする処理方法。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記(a)〜(c)の添加工程の後に、凝集剤を添加する工程を有することを特徴とする処理方法。
【請求項5】
請求項4に記載の廃液処理方法において、前記凝集剤が、無機凝集剤及び/又は有機高分子凝集剤であることを特徴とする処理方法。
【請求項6】
請求項5に記載の廃液処理方法において、前記無機凝集剤が、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウム、ポリ塩化アルミニウム、塩化第二鉄、ポリ硫酸第二鉄からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする処理方法。
【請求項7】
請求項5又は6に記載の廃液処理方法において、前記有機高分子凝集剤が、カチオン性有機高分子凝集剤、アニオン性有機高分子凝集剤、ノニオン性有機高分子凝集剤、両イオン性有機高分子凝集剤からなる群から選ばれた少なくとも一種であることを特徴とする処理方法。
【請求項8】
請求項5〜7のいずれかに記載の廃液処理方法において、前記凝集剤を添加する工程が、前記無機凝集剤及び/又は前記有機高分子凝集剤を添加混合した後に、さらに前記高分子凝集剤を添加混合する工程からなることを特徴とする処理方法。
【請求項9】
廃液中の金属原子を吸着するための吸着剤であって、
(a)チタン又はジルコニウムと、
(b)リン酸化合物と、
(c)アルカリ金属、アルカリ土類金属、鉄、コバルト、ニッケル、銅及び亜鉛からなる群から選ばれた少なくとも1種の金属とからなる吸着剤。

【公開番号】特開2013−94694(P2013−94694A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−237321(P2011−237321)
【出願日】平成23年10月28日(2011.10.28)
【出願人】(500462834)ビジョン開発株式会社 (51)
【Fターム(参考)】