説明

金属含有エチレン性不飽和単量体混合物の製造方法

【課題】アルコール系溶剤を用いず貯蔵安定性の良好な金属含有エチレン性不飽和単量体混合物を製造する。
【解決手段】無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造する方法であって、前記反応を、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で行う金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、分子内に金属及びエチレン性不飽和基を有する単量体(以下、金属含有エチレン性不飽和単量体とする)は、アクリル樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステル樹脂等、汎用樹脂の改質を目的として共重合されてきた。また、アクリルオリゴマー等へ添加し紫外線硬化させる検討もなされている。
【0003】
ところで、海中生物の付着による腐食防止や船舶の航行速度低下の防止を目的として塗装される防汚塗料においては、有機錫を含有する塗料が使用されていた。有機錫を含有する塗料から形成される塗膜は、塗膜表面が徐々に溶解する自己研磨性を有し、長期に渡る防汚効果を発現することができる。
【0004】
しかし、近年の環境問題を考慮し、有機錫を使用しない自己研磨型塗料の開発に対する要請が強くなっており、その検討の一環として金属含有樹脂組成物の開発が進められている。
【0005】
ところが金属含有樹脂組成物に用いられる金属含有エチレン性不飽和単量体は一般的に用いられる有機溶剤に対して溶解性が非常に低く、アクリルオリゴマーや他のエチレン性不飽和単量体と混合しないため共重合性が低い。したがって、金属含有エチレン性不飽和単量体を用いて共重合体を得ることは難しかった。そこで特定の溶剤中で反応させることにより、金属含有エチレン性不飽和単量体を生成させ、その後他のエチレン性不飽和単量体と共重合させる提案がなされている。
【0006】
例えば、特許文献1には、プロピレングリコールモノメチルグリコールに代表されるアルコール系溶剤を少なくとも含む有機溶剤中で、無機金属化合物と、カルボキシル基含有不飽和単量体とを反応させることによって、金属含有エチレン性不飽和単量体を含む混合物を安定な溶液状態として得られることが記載されている。特許文献2には特許文献1と同様の製造方法によって得られた金属含有エチレン性不飽和単量体を含む混合物を、アルコール系溶剤を含む有機溶剤中で金属含有エチレン性不飽和単量体以外のエチレン性不飽和単量体と重合することで、金属含有樹脂組成物を得ることが記載されている。また、特許文献3には特許文献1と同様の製造方法において、無機金属化合物、カルボキシル基含有不飽和単量体及び非重合性有機酸を用いて金属含有エチレン性不飽和単量体を製造し、金属含有樹脂組成物を得ることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−12700号公報
【特許文献2】特開2002−12630号公報
【特許文献3】特開2002−194270号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1から3に記載された方法により製造される金属含有樹脂組成物はアルコール系溶剤及びキシレンなどの有機溶剤を含むため、昨今のVOC(Volatile Organic Compound)問題に対応できず、また塗料のハイソリッド化には適さないという問題がある。
【0009】
そこで本発明は、アルコール系溶剤を含むVOCの原因となる有機溶剤を使うことなく、貯蔵安定性の良好な金属含有エチレン性不飽和単量体混合物を製造し、さらにハイソリッド化に対応できる、優れた自己研磨性・防汚性を有する防汚塗料用樹脂組成物を製造することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明に係る金属含有エチレン性不飽和単量体の製造方法は、無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造する方法であって、前記反応を、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で行う。
【発明の効果】
【0011】
本発明の製造方法によれば、エチレン性不飽和単量体(B)中で金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造することで、アルコール系溶剤を用いなくても固化することなく、長期にわたり貯蔵安定性の良好な金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造することができる。また、得られた金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)は他の重合可能な単量体と重合させることで、防汚塗料用樹脂組成物のハイソリッド化が可能となり、更には優れた自己研磨性・防汚性を発揮する防汚塗料用樹脂組成物を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
本発明に係る金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造方法は、無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造する方法であって、前記反応を、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で行う。
【0013】
[エチレン性不飽和単量体(B)]
本発明においては、無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させる際、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で行うことで、得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の貯蔵安定性が向上する。また、該金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を用いて調製した防汚塗料用樹脂組成物はアルコール系溶剤等の揮発性有機溶剤を用いないためVOC問題に対応でき、該防汚塗料用樹脂組成物を塗布した塗膜は優れた自己研磨性、防汚性を有する。さらに、不要な溶剤を含まないため、防汚塗料用樹脂組成物のハイソリッド化や水分散系への応用も可能である。なお、エチレン性不飽和単量体(B)はカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外の化合物であり、無機金属化合物(a1)とは反応しない。
【0014】
本発明で使用されるエチレン性不飽和単量体(B)の具体例としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−(2−エチルヘキサオキシ)エチル(メタ)アクリレート、1−メチル−2−メトキシエチル(メタ)アクリレート、3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、3−メチル−3−メトキシブチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニル(メタ)アクリレート、o−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、m−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、p−メトキシフェニルエチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、i−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、フェニル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、3−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、4−ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマーと、エチレンオキサイド、プロピレンオキサイド、γ−ブチロラクトン又はε−カプロラクトン等との付加物;
2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単量体の二量体又は三量体;
グリセロール(メタ)アクリレート等の水酸基を複数有する(メタ)アクリル酸エステル単量体
ブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド等の第一級、及び第二級アミノ基含有ビニル単量体;
ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノブチル(メタ)アクリレート、ジブチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド等の第三級アミノ基含有ビニル単量体;ビニルピロリドン、ビニルピリジン、ビニルカルバゾール等の複素環族系塩基性単量体等;スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、(メタ)アクリロニトリル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニル系単量体
アリルグリコール、ポリプロピレングリコールアリルエーテル、ポリエチレングリコールアリルエーテル、メトキシポリプロピレングリコールアリルエーテル、メトキシポリエチレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリプロピレングリコールアリルエーテル、ブトキシポリエチレングリコールアリルエーテル等のアリル基含有単量体
を挙げることができる。なお、本発明において「(メタ)アクリル」とは、「アクリル、及び/又はメタクリル」を意味する。
【0015】
中でも、エチレン性不飽和単量体(B)が下記式(b−1)または、(b−2)で示される単量体である場合は、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の貯蔵安定性が良好となる傾向にあり好ましい。
【0016】
CH2=C(R1)−COO−(−Cu2u−O−)m−R2 (b−1)
CH2=C(R3)−CH2−O−(−Cv2v−O−)n−R4 (b−2)。
【0017】
前記式(b−1)及び(b−2)中、R1及びR3は水素原子又はメチル基を示す。m及びnは0〜50の整数を示す。mは0〜20の整数であることが好ましい。nは0〜20の整数であることが好ましく、0〜10の整数であることがより好ましい。u及びvは2〜5の整数を示す。R2及びR4は水素原子又は炭素原子数が6以下の脂肪族若しくは芳香族炭化水素基を示す。R2、R4としては、水素原子、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1−メチルプロピル、2−メチルプロピル、1,1−ジメチルエチル、ペンチル、ヘキシル、シクロペンチル、シクロヘキシル、フェニル等が挙げられ、メチル、エチル、プロピル、1−メチルエチル、ブチル、1,1−ジメチルエチル、ヘキシル、シクロヘキシルが好ましい。
【0018】
これらエチレン性不飽和単量体(B)は、1種のみを用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0019】
エチレン性不飽和単量体(B)の使用量は、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造に使用する無機金属化合物(a1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)、非重合性有機酸(a3)単量体及びエチレン性不飽和単量体(B)の合計質量を100質量部とした場合、3〜95質量部が好ましく、10〜70質量部がより好ましい。3質量部未満である場合は、生成した金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)が流動性を失い固化する場合がある。いったん固化すると、再度溶解させるには多量の水及び溶剤を必要とするため、作業性が低下し好ましくない。一方、95質量部をこえると、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)中に含まれる金属含有量が低くなり、長期の防汚性が低位となる。なお、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)には、無機金属化合物(a1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)、非重合性有機酸(a3)及びエチレン性不飽和単量体(B)が、含まれる。
【0020】
[無機金属化合物(a1)]
無機金属化合物(a1)としては、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応して金属塩を形成する化合物である。例えば、金属の酸化物、水酸化物、塩化物が挙げられる。ただし、これらに限定されず、(a2)のカルボキシル基、(a3)の有機酸と反応して金属塩を形成するものであれば使用可能である。
【0021】
金属の酸化物としては、酸化亜鉛、酸化アルミニウム、酸化カルシウム、酸化第二銅、酸化マグネシウム、酸化マンガン等が挙げられる。金属の水酸化物としては、水酸化亜鉛、水酸化アルミニウム、水酸化カルシウム、水酸化第二銅、水酸化マグネシウム等が挙げられる。金属の塩化物としては、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化カルシウム、塩化第二銅、塩化マグネシウム、塩化マンガン等が挙げられる。これらは1種のみを用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0022】
無機金属化合物(a1)の金属は、周期律表のIb、IIa、IIb、IIIa、IIIb、IVa、IVb、Va、Vb、VIb、VIIb及びVIII属金属等から選ばれるものであり、必要に応じて2種以上を併用しても良い。この中でも亜鉛、銅、マグネシム、カルシウム、アルミニウムは調製する金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を防汚塗料用樹脂組成物として使用する場合には安定な自己研磨性維持の観点から好ましい。中でも特に金属として亜鉛を使用すると、樹脂の耐水性が良好となり更に好ましい。
【0023】
[カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)]
カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)としては、カルボキシル基を少なくとも1つ含むエチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)としては、例えば、メタクリル酸、アクリル酸、イタコン酸、(無水)マレイン酸、イタコン酸モノアルキル(例えば、メチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等)、マレイン酸モノアルキル(例えば、メチル、エチル、ブチル、2−エチルヘキシル等)、メタクリル酸2−サクシノロイルオキシエチル、メタクリル酸2−マレイノイルオキシエチル、メタクリル酸2−フタロイルオキシエチル、メタクリル酸2−ヘキサヒドロフタロイルオキシエチル等のカルボキシル基含有モノマーが挙げられる。これらは1種で用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。これらの中でも、メタクリル酸、アクリル酸が好ましい。
【0024】
[非重合性有機酸(a3)]
非重合性有機酸(a3)は重合性官能基を有しない有機酸であり、カルボシキル基、スルホ基等を含む。具体的には、例えばモノクロル酢酸、モノフルオロ酢酸、プロピオン酸、オクチル酸、バーサチック酸、オレイン酸、リノール酸、イソステアリン酸、パルミチン酸、クレソチン酸、α−ナフトエ酸、β−ナフトエ酸、安息香酸、2,4,5−トリクロロフェノキシ酢酸、2,4−ジクロロフェノキシ酢酸、キノリンカルボン酸、ニトロ安息香酸、ニトロナフタレンカルボン酸、プルビン酸、末端がカルボキシル変性されたカルボキシル基含有シリコーン等の一価の非重合性有機酸から誘導されるものが挙げられる。本発明においてはこれらの非重合性有機酸の中でも脂肪酸系のものが長期にわたりクラックや剥離のない塗膜を維持できる観点から好ましい。
【0025】
無機金属化合物(a1)、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)の反応により得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)中に含まれる金属の含有量は金属の種類によって異なるが、0.1〜70質量%が好ましい。70質量%以下とすることによって金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の固化が抑えられ、後述する防汚塗料用樹脂組成物の製造において、エチレン性不飽和単量体(B)又は他のエチレン性不飽和単量体と混合して重合することが可能となる。また、0.1質量%以上とすることによって前記重合の際の作業性が良くなる。より好ましくは2〜40質量%である。
【0026】
無機金属化合物(a1)に対する、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と非重合性有機酸(a3)の和との配合比は特に限定はしないが、無機金属化合物(a1)1モルに対して、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と非重合性有機酸(a3)の和が(無機金属化合物中の金属の価数)×0.8モル以上であることが好ましい。(無機金属化合物中の金属の価数)×0.8モル未満の場合は未反応の無機金属化合物(a1)が混合物中に残りやすくなり、得られた金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の透明性が低くなるため、これを用いて製造する重合物の塗膜は僅かに濁る。また、本発明の金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を防汚塗料用樹脂組成物に使用する場合は、無機金属化合物(a1)1モルに対して、カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)と非重合性有機酸(a3)の和が(無機金属化合物の価数)×0.8〜(無機金属化合物の価数)×1.2モルであることが好ましい。(無機金属化合物の価数)×1.2モルを超える場合は塗膜の耐水性の低下が問題となる。
【0027】
非重合性有機酸(a3)の量については、無機金属化合物(a1)1モルに対して、非重合性有機酸(a3)が0.01〜2モルであることが好ましい。0.01モル以上であると金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の固化が抑えられ、2モル以下であると、塗膜の防汚性がより十分な期間維持されやすくなる。より好ましくは、0.01〜1モルであり、更に好ましくは0.05〜0.8モルである。
【0028】
エチレン性不飽和単量体(B)中で、無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させる際の反応温度は、20℃〜180℃であることが好ましく、40℃〜150℃であることがより好ましい。
【0029】
本発明に係る金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造方法においては、前記反応の反応系内に水を添加することが好ましい。具体的には、無機金属化合物(a1)1モルに対して、水を0.01モル以上、50モル以下添加することが好ましく、0.1モル以上、50モル以下添加することがより好ましい。ただし、無機金属化合物(a1)とカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)との反応によって生成される水は除外する。また、水は反応中に全て添加しても良く、反応中と反応終了後に分けて添加しても良い。反応系内に水を前記範囲の量添加することにより、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)が流動性を失うことなく溶液状態として得られ易くなる。
【0030】
本発明に係る金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)はエチレン性不飽和単量体(B)及びエチレン性不飽和単量体(B)とは異なる種のエチレン性不飽和単量体などと重合させることで、金属含有樹脂組成物を得ることができる。非重合性有機酸(a3)及びその金属塩は、重合体マトリックス中に取り込まれ、クラックや剥離のない塗膜の維持に貢献する。
【0031】
特に、本発明の製造方法により得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)は、エチレン性不飽和単量体(B)中にて反応を行うため有機溶剤を含まない。そのため、エチレン性不飽和単量体(B)及び他の重合可能な単量体と重合させる場合、VOCの原因となるアルコール系溶剤等の揮発性有機溶剤が低減でき、ハイソリッド型防汚塗料用樹脂組成物に有用である。また、溶剤を含まないため、水性の防汚塗料用樹脂組成物を製造する際にも有用である。本発明の製造方法により得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)は、溶液重合、懸濁重合、乳化重合に適用ができ、ハイソリッド型のアクリル系シラップにも適用が可能である。
【0032】
本発明の製造方法により得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を重合することにより金属含有樹脂を製造することができる。
【0033】
アクリル系シラップは、本発明の方法で得られる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)及びアクリル重合体を含み、さらにエチレン性不飽和単量体(B)とは異なる種のエチレン性不飽和単量体を含有してもよい。
【0034】
アクリル系シラップに含有されるアクリル重合体としては、(メタ)アクリル系単量体を単独又は共重合して得られる重合体を用いることができる。特に防汚塗料用のアクリル系シラップの場合には、アクリル重合体に2価の金属エステル構造を有していることが防汚性の点から好ましい。2価の金属エステル構造を導入するためには、2価の金属含有エチレン性不飽和単量体を単独重合又は共重合すればよい。あるいは、(メタ)アクリル酸を単独重合又は共重合した後、2価の金属酸化物又は塩を用いてエステル化すればよい。また、アクリル重合体は、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を重合した金属含有樹脂であってもよい。
【0035】
有機過酸化物としては、−O−O−結合を有する有機化合物であって、加熱や分解促進剤の作用により分解して遊離ラジカルを生成するものを用いることができる。この遊離ラジカルにより、本発明に係る金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)と混合物(A)中に含まれるエチレン性不飽和単量体(B)がラジカル重合する。
【0036】
有機過酸化物の具体例としては、
ジイソプロピルベンゼンヒドロパーオキシド、1,1,3,3−テトラメチルブチルヒドロパーオキシド、クメンヒドロパーオキシド、t−ブチルヒドロパーオキシド等のヒドロパーオキシド;
ジ(2−t−ブチルパーオキシイソプロピル)ベンゼン、ジクミルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキサン、t−ブチルクミルパーオキシド、ジ−t−ヘキシルパーオキシド、ジ−t−ブチルパーオキシド、2,5−ジメチル−2,5−ジ(t−ブチルパーオキシ)ヘキシン−3等のジアルキルパーオキシド;
ジイソブチリルパーオキシド、ジ(3,5,5−トリメチルヘキサノニル)パーオキシド、ジラウロイルパーオキシド、ジスクシニックアシッドパーオキシド、ジベンゾイルパーオキシド、ジ(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ベンゾイル(3−メチルベンゾイル)パーオキシド、ジ(4−メチルベンゾイル)パーオキシド等のジアシルパーオキシド;
メチルエチルケトンパーオキシド、シクロヘキサンパーオキシド、アセチルアセトンパーオキシド等のケトンパーオキサイド;
が挙げられる。有機過酸化物は、1種のみを用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0037】
また、有機過酸化物の分解の促進を目的として分解促進剤を用いることができる。この分解促進剤の作用により、常温(例えば20℃)で有機過酸化物が分解して、生成した遊離ラジカルにより金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)と混合物(A)中に含まれるエチレン性不飽和単量体(B)がラジカル重合する。
【0038】
分解促進剤の具体例としては、
N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N−(2−ヒドロキシエチル)−N−メチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン又はそのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン又はそのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等のN,N−置換−p−トルイジン;4−(N,N−ジメチルアミノ)ベンズアルデヒド、4−[N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)アミノ]ベンズアルデヒド、4−(N−メチル−N−ヒドロキシエチルアミノ)ベンズアルデヒド等の4−(N,N−置換アミノ)ベンズアルデヒド;N,N−ジメチルアニリン、N,N−ビス(ヒドロキシエチル)アニリン、ジエタノールアニリン等のN,N−置換アニリン等の芳香族3級アミン;
アニリン、p−トルイジン、N−エチル−m−トルイジン、トリエタノールアミン、m−トルイジン、ジエチレントリアミン、ピリジン、フェニルモルホリン、ピペリジン等のその他のアミン;
メチルチオ尿素、ジエチルチオ尿素、アセチルチオ尿素、テトラメチルチオ尿素、エチレンチオ尿素等のチオ尿素化合物;
ナフテン酸コバルト、ナフテン酸銅、ナフテン酸マンガン、ナフテン酸ニッケル、バナジルアセチルアセトナート、チタンアセチルアセトナート等の金属塩;
が挙げられる。分解促進剤は、1種を用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0039】
この中でも芳香族3級アミンが好ましい。芳香族3級アミンとしては、少なくとも1個の芳香族残基が窒素原子に直接結合しているものがより好ましい。そのような芳香族3級アミンとしては、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ジエチルアニリン、N−(2−ヒドロキシエチル)N−メチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジン;N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン又はN,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンのエチレンオキサイドもしくはプロピレンオキサイド付加物等が挙げられる。また、芳香族3級アミンはp(パラ)体に限定されず、o(オルト)体、m(メタ)体でもよく、防汚塗料用アクリル系シラップの場合反応性、硬化性の点から、N,N−ジメチル−p−トルイジン、N,N−ジエチル−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシエチル)−p−トルイジン、N,N−ビス(2−ヒドロキシプロピル)−p−トルイジンが好ましい。
【0040】
分解促進剤は、アクリル系シラップを硬化させる直前に添加してもよく、予めアクリル系シラップに添加しておいてもよい。
【0041】
また、塗膜表面における酸素による重合禁止効果を抑え、耐水性の向上を目的として、40℃以上の融点を有するパラフィン及びワックスの一方又は双方を併用することができる。パラフィン及びワックスとしては、パラフィンワックス、ポリエチレンワックス、ステアリン酸等の高級脂肪酸等が挙げられるが、融点の異なる2種以上を併用することができる。
【0042】
防汚塗料用アクリル系シラップの場合には、要求性能に応じて、防汚剤を配合することができる。防汚剤の具体例としては、亜酸化銅、チオシアン銅、銅粉末等の銅系防汚剤を始め、鉛、亜鉛、ニッケル等その他の金属化合物、ジフェニルアミン等のアミン誘導体、ニトリル化合物、ベンゾチアゾール系化合物、マレイミド系化合物、ピリジン系化合物等が挙げられる。
【0043】
特に、(社)日本造船工業会等によって調査研究の対象とされ選定されたものが好ましい。具体的には、マンガニーズエチレンビスジチオカーバメイト、ジンクジメチルジチオカーバメート、2−メチルチオ−4−t−ブチルアミノ−6−シクロプロピルアミノ−s−トリアジン、2,4,5,6−テトラクロロイソフタロニトリル、N,N−ジメチルジクロロフェニル尿素、ジンクエチレンビスジチオカーバメート、ロダン銅、4,5−ジクロロ−2−n−オクチル−3(2H)イソチアゾロン、N−(フルオロジクロロメチルチオ)フタルイミド、N,N’−ジメチル−N’−フェニル−(N−フルオロジクロロメチルチオ)スルファミド、2−ピリジンチオール−1−オキシド亜鉛塩、テトラメチルチウラムジサルファイド、Cu−10%Ni固溶合金、2,4,6−トリクロロフェニルマレイミド−2,3,5,6−テトラクロロ−4−(メチルスルホニル)ピリジン、3−ヨード−2−プロピニールブチルカーバメート、ジヨードメチルパラトリスルホン、ビスジメチルジチオカルバモイルジンクエチレンビスジチオカーバメート、フェニル(ビスピリジル)ビスマスジクロライド、2−(4−チアゾリル)−ベンズイミダゾール、ピリジン−トリフェニルボランから選択することが好ましい。前記防汚剤は、1種のみを用いることもでき、2種以上を組み合わせて用いることもできる。
【0044】
防汚剤の配合量は、目的とする防汚性に応じて適宜選択することができるが、効率よく防汚性を発揮できる観点から、防汚塗料用アクリル系シラップの固形分100質量部に対して、0.1〜80質量部が好ましく、1〜60質量部がより好ましい。
【0045】
防汚塗料用アクリル系シラップは、塗膜表面に潤滑性を付与し、生物の付着を防止する目的で、ジメチルポリシロキサン、シリコーンオイル等のシリコン化合物や、フッ化炭素等の含フッ素化合物等を配合して防汚塗料用樹脂組成物として使用することができる。さらに、防汚塗料用樹脂組成物には、必要に応じて、体質顔料、着色顔料、可塑剤、各種塗料用添加剤、その他の樹脂等を配合することができる。
【0046】
防汚塗料用樹脂組成物を用いて塗膜を形成(塗工)するには、前記防汚塗料用樹脂組成物を船舶、各種漁網、港湾施設、オイルフェンス、橋梁、海底基地等の水中構造物等の基材表面に直接、又は基材にウオッシュプライマー、塩化ゴム系、エポキシ系等のプライマー、中塗り塗料等を塗布した塗膜の上に、刷毛塗り、吹き付け塗り、ローラー塗り、沈漬塗り等の手段で塗布することができる。塗布量は、一般的には、乾燥塗膜の厚さが50〜400μmになる量が好ましい。塗膜の乾燥は、一般的には室温で行われるが、加熱乾燥を行っても差し支えない。
【0047】
塗工の際には、塗工直前にアクリル重合体、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)および有機過酸化物を混合する。さらに分解促進剤を混合しても良い。
【0048】
防汚塗料用樹脂組成物の原料の混合方法としては、アクリル重合体、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)、並びに分解促進剤の混合物を調製し、塗工直前に有機過酸化物を加えて重合する方法が好ましい。金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)に有機過酸化物を加えておいてアクリル重合体を加え、次いで分解促進剤を加えてもよい。また、アクリル重合体、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)に有機過酸化物を加え、次いで分解促進剤を加えてもよい。さらに、アクリル重合体、有機過酸化物の混合物と、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)と分解促進剤を混合してもよい。
【実施例】
【0049】
以下、本発明を実施例及び比較例によりさらに詳しく説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。なお、例中の部は質量部を表す。
【0050】
[実施例1]
(金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造)
冷却器、温度計、滴下ロート、及び攪拌機を備えた四つ口フラスコにメタクリル酸メチル63部、及び酸化亜鉛41部を仕込み、撹拌しながら75℃に昇温した。続いて、滴下ロートからメタクリル酸39部、アクリル酸32部、オクチル酸14部、水6部からなる混合物を3時間かけて等速滴下した。さらに2時間保持し撹拌することで、透明な金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)であるM1を得た。なお、滴下終了後反応溶液は乳白色状態であったが、反応終了後には透明になった。
【0051】
[実施例2〜14、比較例1、参考例1]
原料を下記表1に示される組成に変更した以外は、実施例1と同様に反応を行い、混合物M2〜M16を得た。表1に、目視による反応終了後の溶液状態と、貯蔵安定性試験結果を示した。
【0052】
(貯蔵安定性試験)
前記製造方法によって得られた混合物を25℃で貯蔵し、1週間後、1ヶ月後に透明性を目視で確認した。
○ :不溶解物の析出が全くない。
△ :僅かに不溶解物が析出している。
× :不溶解物が多く析出している。
【0053】
【表1】

【0054】
MAA:メタクリル酸
AA:アクリル酸
MMA:メチルメタクリレート
EA:エチルアクリレート
n−BA:n−ブチルアクリレート
「PKA−5001」(商品名):ポリエチレングリコールアリルエーテル(日本油脂(株)製)
AG:アリルグリコール
HEA:2−ヒドロキシエチルアクリレート
2−MTA:2−メトキシエチルアクリレート
n−BMA:n−ブチルメタクリレート
2−EHA:2−エチルヘキシルアクリレート
PGM:プロピレングリコールモノメチルエーテル
なお、「PKA−5001」は前記式(b−2)においてR3、R4は共に水素原子、v=2、n=3〜4である。また、AGは前記式(b−2)においてn=1である。
【0055】
実施例1〜14では金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造時にアルコール系溶剤などの揮発性有機溶媒を使うことなく、僅かに白濁〜透明で、貯蔵安定性の良好な金属含有エチレン性不飽和単量体混合物を含む溶液を得ることが出来た。一方、非重合性有機酸(a3)を混合せずに調製した比較例1は反応終了直後に固化した。
【0056】
[実施例15]
(アクリル重合体(P)の製造)
冷却器、温度計、滴下ロート及び攪拌機を備えた四つ口フラスコに、PGM15部、キシレン54.5部及びエチルアクリレート4部を仕込み、撹拌しながら100℃に昇温した。続いて、メチルメタクリレート12部、エチルアクリレート50.9部、2−メトキシエチルアクリレート5.4部、製造例1で得られた混合物(M1)30部、連鎖移動剤(日本油脂社製、商品名:「ノフマーMSD」)1部、AIBN(2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル))2.5部及びAMBN(2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)6.3部からなる透明な混合物を、滴下ロートから6時間で等速滴下した。滴下終了後、さらにt−ブチルパーオクトエート0.5部及びキシレン5部の混合物を30分で滴下し、さらに1時間30分撹拌した後キシレンを5部添加して、固形分が56.0%、ガードナー粘度がZ2〜Z3の不溶解物のない淡黄色透明なアクリル重合体(P)の溶液を得た。アクリル重合体(P)の理論固形分は55.0%である。
【0057】
(防汚塗料用樹脂組成物の製造)
表2に示す配合割合で、混合物M1、アクリル重合体(P)、及びメチルメタクリレートを混合して、防汚塗料用アクリル系シラップを得た。その後、表2に示す配合割合で、分解促進剤を添加して攪拌混合し、さらに20℃で有機過酸化物を添加して、防汚塗料用樹脂組成物を調製した。そして、得られた防汚塗料用樹脂組成物を速やかに所定の基板上に塗布し、室温で48時間乾燥して、乾燥膜厚が180μmの塗膜を得た。防汚塗料用樹脂組成物、及び塗膜に関し、以下の評価を行った。結果を表2に示す。
【0058】
(ゲル化時間)
調製した防汚塗料用アクリル系シラップの流動性がなくなるまでの時間を測定した。
【0059】
(塗膜の透明性)
ガラス板上に塗膜を形成し、その塗膜の透明性を目視にて以下の基準で判定した。
○ :透明である。
× :濁り有り。析出物もあり。
【0060】
(塗膜の耐水性)
あらかじめ防錆塗料が塗布されているサンドプラスト鋼板上に塗膜を形成し、得られた試験片を滅菌濾過海水中に1ヶ月間浸漬した後、20℃で1週間乾燥した。そして、塗膜表面を観察し、以下の基準で判定した。
◎ :クラック、及び剥離が、全く観察されない。
○ :クラックがわずかに観測される。
× :クラック、及び剥離が、全面に観察される。
【0061】
(塗膜の耐キシロールラビング性)
あらかじめ防錆塗料が塗布されているサンドブラスト鋼板上に塗膜を形成し、その塗膜の面に対してキシレンを浸したガーゼでラビングした。そして、塗膜が溶解してサンドブラスト鋼板が露出するまでの往復回数をカウントした。
【0062】
(塗膜の消耗度試験)
50mm×50mm×2mm(厚さ)の硬質塩化ビニル板上に塗膜を形成し、得られた試験片を海水中に設置した回転ドラムに取り付けた。そして、周速7.7m/s(15ノット)で回転させて、1ヵ月後及び3ヶ月後の消耗膜厚を測定した。
【0063】
[実施例16〜28、比較例2、参考例2]
原料を下記表2に示される組成に変更した以外は実施例15と同様に塗料用樹脂組成物を調製し、評価を行った。結果を表2に示す。
【0064】
【表2】

【0065】
実施例15〜28において、調製された防汚塗料用樹脂組成物は配合する金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)はアルコール系溶剤を含まないため、VOCの原因となる揮発性有機溶剤の量を低減することができ、防汚塗料用樹脂組成物を塗布した塗膜の透明性、耐キシロールラビング性は良好であった。また、防汚塗料として必要な海水中における耐水性に優れ、自己研磨性も良好であった。さらに、防汚塗料用樹脂組成物中の理論固形分を65%以上とすることができ、ハイソリッド塗料を作製することができた。
【0066】
非重合性有機酸(a3)を混合せずに調製したM17を用いた比較例2では、塗膜の透明性が不良であり、耐水性も低かった。なお、参考例2において調製した防汚塗料用樹脂組成物は塗料特性及び塗膜評価結果は良好であるが、アルコール系溶剤を多く含むため前述したVOC問題に対応できない。また、理論固形分が60.6%と実施例と比較して低く、ハイソリッド塗料とは言えない。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、貯蔵安定性が高く、アルコール溶剤を含まず、一般的な溶液重合、乳化重合、懸濁重合、塊状重合などに容易に使用できる金属含有エチレン性不飽和単量体混合物を提供でき、工業上非常に有益なものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機金属化合物(a1)をカルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)及び非重合性有機酸(a3)と反応させ、金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)を製造する方法であって、
前記反応を、前記カルボキシル基含有エチレン性不飽和単量体(a2)以外のエチレン性不飽和単量体(B)中で行う金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)の製造方法。
【請求項2】
前記反応の反応系内に前記無機金属化合物(a1)1モルに対して、水を0.01モル以上、50モル以下添加する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
請求項1又は2記載の方法により製造される金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)及びアクリル系重合体を含むアクリル系シラップ。
【請求項4】
請求項1又は2記載の方法により製造される金属含有エチレン性不飽和単量体混合物(A)、アクリル系重合体及び有機過酸化物を混合して、その混合物を塗布し、塗膜を形成する方法。

【公開番号】特開2011−140544(P2011−140544A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−1190(P2010−1190)
【出願日】平成22年1月6日(2010.1.6)
【出願人】(000006035)三菱レイヨン株式会社 (2,875)
【Fターム(参考)】