説明

金属含有スラグの還元及び/又は精錬法

【課題】 本発明は金属含有スラグの還元及び/又は精錬方法に関し、課題はスラグの還元性の向上にある。
【解決手段】 この課題は炭化カルシウムを還元剤としてスラグに添加することで解決される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属含有スラグの還元及び/又は精錬法に関する。
【0002】
本発明は特に中でも銅スラグの溶融物及び変換物を強力に還元する方法並びにそれらから銅を回収する方法に関する。しかしながらこの方法は他の金属を含有するスラグにも全く同様に使用することができる。
【0003】
銅濃縮物の溶融物は鉱石及びスラグから得られる。銅鉱石は粗銅に変換されそしてスラグはスラグ精錬工程に送られる。銅スラグの精錬は例えば還元及び沈殿、ゆっくり冷やした後の湿式冶金学的なスラグ浸出又はスラグ浮遊選鉱、粉末化及び磨砕の様な種々の技術によって実施される。高温冶金法は電気炉、テニエンテ式(Teniente)スラグ精錬炉又はアウスメルト式(Ausmelt)転炉中でのスラグ処理をべースとしている。
【0004】
銅は5〜1000μmの大きさの銅鉱石を封入した状態で及び溶解した酸化銅(I)の状態でスラグ中に存在している。銅鉱石封入物の回収には、スラグの見掛け粘度を下げそして封入された封入物をマグネタイト結晶によって解放するためにマグネタイトの還元を必要とする。炭素でのマグネタイトの還元は最初に直接還元、次いでブードア(Boudouard)反応及び間接マグネタイト還元によって行われる。
【0005】
(Fe3O4)スラグ + [C]固体 → 3 (FeO)スラグ + {CO2}ガス
[C]固体 + {CO2}ガス → 2 {CO}ガス
(Fe3O4)スラグ + {CO}ガス → 3 (FeO)スラグ + {CO2}ガス
スラグからの溶解した銅の回収は酸化銅(I)の還元を必要とする:
(Cu2O)スラグ + {CO}ガス → 2 (Cu)金属 + {CO2}ガス
酸化銅(I)の還元はマグネタイトの共還元に限られている。共還元の条件は反応平衡によって決まる:
(Cu2O)スラグ + 3 (FeO)スラグ ⇔ 2 (Cu)金属 + (Fe3O4)スラグ
炭素でのマグネタイト還元の反応は顕著な吸熱反応である。排ガス中のCO/CO
比=1であるという前提のもとで当てはまる:
3 (Fe3O4)スラグ + 2 [C]固体 → 9 (FeO)スラグ + {CO}ガス + {CO2}ガス
この場合以下の反応熱が適用される:
ΔH1250oC = 128 kJ/mol Fe3O4
これは、20%のマグネタイト含有量を5%に減少するために、89MJの高さのエネルギーが必要であることを意味している。このエネルギーは1tのスラグ当たりに電流又は燃料の燃焼によって供給される。スラグ表面に浮遊するコークスベッド中でのブードア反応のために、CO/COは非常に高く、このことが約138MJ/tの比較的に高いエネルギー需要をもたらす。これは38kWh/t(スラグ)に相当する。スラグ温度を約1300℃に高める必要があり、かつ、炉中の熱損失のために、総装置エネルギー消費量は100kWh/tの規模である。
【0006】
米国特許第5,865,872号明細書には、金属を回収する方法及びベース金属よりなる二次スラグを製造する方法が開示されており、この場合にはスラグには少なくとも1種類の還元剤が添加され、その際に種々の剤が注目される。特に炭素が使用され、その際に40%までの割合が提案されている。スラグから金属を回収するために珪化鉄を使用することが米国特許第5,626,646号明細書で提案されている。米国特許第4,036,636号明細書で提案される方法によっても、溶融物からニッケルを回収する際に固体の還元剤を添加することが提案されている。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の課題は、金属を含有する溶融物を還元する改善された方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の課題は、スラグに還元剤として炭化カルシウム(CaC)を添加することを特徴とする発明によって解決される。この場合、炭化カルシウム(CaC)は好ましくはスラグ質量の0.1〜2.0%の量で添加され、その際に特に好ましい量として、スラグ質量の0.5〜1.5%の量が提案されている。この場合、供給された炭化カルシウム(CaC)の量の決定は好ましくはスラグ中のマグネタイト及び/又は酸化銅(I)の含有量に依存して行う。
【0009】
炭化カルシウム(CaC)は溶融したスラグに添加することができる。炭化カルシウム(CaC)は、溶融したスラグを炉に装入する前に炉に装入することができる。しかしながら炭化カルシウム(CaC)を、炉中に存在する溶融したスラグの表面に装入することも提案することができる。更に、炭化カルシウム(CaC)を炉中に存在する溶融したスラグの内部に装入することも提案できる。この場合には、炭化カルシウム(CaC)を溶融したスラグの内部に吹き込みノズルによって又はランスによって導入することができる。
【0010】
炭化カルシウム(CaC)の他に別の還元剤も添加してもよい。別の還元剤としては先ず第一に固体物質、特にコークス、木炭及び/又は銑鉄が適する。この目的には炭素含有物質、特にバンカー油、ディーゼル油、天然ガス及び/又は石炭粉も用いることができる。別の還元剤を溶融したスラグ中に吹き込むこともできる。
【0011】
スラグは銅(Cu)を含有するのが有利である。しかし全く同様にスラグが鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)又はニッケル(Ni)を含有していてもよい。
【0012】
本発明は本発明の新規の効果的なスラグ還元及び精錬法を目指している。この場合、スラグ還元及び精錬の高温冶金法が適する。
【0013】
本発明によれば、効果的な以下のスラグ還元が行われる:
a)液状スラグ上への炭化カルシウムの添加又はスラグ中への炭化カルシウムの吹き込み;
b)吹き込みノズルによる固体、液体又はガス状還元剤の選択的吹き込み;
c)スラグ沈殿。
【0014】
炭化カルシウムは、鉄かんらん石スラグ中に溶解されているマグネタイトと次の様に反応する:
4(Fe3O4)スラグ + [CaC2]固体 + (Fe2SiO4)スラグ → 14(FeO)スラグ + (CaSiO3)スラグ+ {CO}ガス+ {CO2}ガス
この反応は1250℃での発熱反応である。
【0015】
ΔH1250oC = - 11 kJ/mol Fe3O4
液状鉄カンラン石スラグからの酸化銅(I)の還元は強い発熱反応である。
4(Cu2O)スラグ+ [CaC2]固体 + (Fe2SiO4)スラグ → 8(Cu)金属 + (CaSiO3)スラグ + (FeO)スラグ+{CO}ガス+ {CO2}ガス
ΔH1250oC = - 184 kJ/mol Cu2O
発生する熱は 液体スラグ/炭化物の間の変換の際に温度上昇をもたらし、このことがCaOによる変換の際にスラグ構造に変化をもたらすのと一緒に還元速度の著しい促進をもたらす。
【0016】
本発明はスラグ還元及び精錬の慣用の方法に比較して以下の長所を有している。
a)スラグ還元の非常に早い速度がプロセスを強化し、スラグ還元期間が短縮しそして装置エネルギー損失のためのエネルギー消費量が減少する。
b)電気エネルギー又は燃料の消費がマグネタイト還元の発熱効果のために及び酸化銅(I)の還元の強い発熱効果のために減少する。
【実施例1】
【0017】
テニエンテ式スラグ精錬炉でのスラグの精錬:
溶融炉からの液状スラグを装入する前に、炭化カルシウムを開口から炉に供給する。炭化カルシウムの量はスラグの組成によって、特にマグネタイト含有量によって決められ、全スラグ質量の0.5〜1.5%の範囲内で変化する。その後にスラグを炉口又は供給管を通して炉にゆっくり注ぎ込む。装入する間の激しい還元反応が、マグネタイト含有量を約5%の必要水準に減少させる。発熱効果のために反応は装入及び還元の間のスラグ温度を、燃焼する燃料で炉の熱損失を相殺する場合には、1250℃から1263℃に高める。
【0018】
スラグ装入後にスラグ還元反応を終えそして沈降が開始し、次いでスラグを除去しそして銅マットを掻き落とす。これは旧来の方法と同じである。
【0019】
スラグ精錬のサイクルはテニエント式炉において約50%程短縮できる。これは炉のスラグ処理能力を倍に高めたことに相当する。
【実施例2】
【0020】
電気炉でのスラグ精錬:
溶融スラグを電気炉でコークス及び電極の炭素で還元することによって処理し、その際に過熱に続いて沈殿がある。
【0021】
新しいサイクルを開始するために、液状スラグを装入する前に、炭化カルシウムを炉に装入する。炭化カルシウムの添加量はスラグ組成に依存しており、スラグ質量の0.5〜1.5%の範囲内にある。次いで液状スラグを炉に注ぎ込む。液状スラグを装入する間に激しく迅速なスラグ還元反応が炭化物粒子とスラグ流との接触により発生する。炭化カルシウムはスラグ表面に浮き上がり始めそして還元反応が浸漬された電極及び電気エネルギーの供給で進行する。還元反応の発熱効果のために、スラグ温度は低下しない。電気導入部は熱損失を防止しそしてスラグ温度が容易に上昇することを実現するように調整する。マグネタイト還元の度合及び酸化銅(I)の共還元が比較的に高くそして銅回収の増加を確実にする。非常に激しいスラグ還元が同様な沈殿期間を維持しながら還元時間の短縮を可能とする。これは激しい還元反応であるためにサイクルが短縮される。このことが最終的には炉の生産性を向上させる。
【0022】
還元剤としてコークスを炭化カルシウムに交換することが装置のエネルギー消費量を減少させそして還元剤の装置消費量も著しく減少させる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含有するスラグを還元及び/又は精錬する方法において、スラグに還元剤として炭化カルシウム(CaC)を添加することを特徴とする、上記方法。
【請求項2】
炭化カルシウム(CaC)をスラグ質量の0.1〜2.0%の量で添加する請求項1に記載の方法。
【請求項3】
炭化カルシウム(CaC)をスラグ質量の0.5〜1.5%の量で添加する請求項2に記載の方法。
【請求項4】
添加される炭化カルシウム(CaC)の量の決定をスラグ中のマグネタイト及び/又は酸化銅(I)の含有量に依存して行う、請求項2又は3に記載の方法。
【請求項5】
炭化カルシウム(CaC)を溶融したスラグに添加する、請求項1〜4のいずれか一つに記載の方法。
【請求項6】
溶融したスラグを炉に装入する前に、炭化カルシウム(CaC)を炉に装入する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項7】
炉中に存在する溶融したスラグの表面上に炭化カルシウム(CaC)を装入する、請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項8】
炉中に存在する溶融したスラグの内部に炭化カルシウム(CaC)を装入する請求項1〜5のいずれか一つに記載の方法。
【請求項9】
炭化カルシウム(CaC)を溶融したスラグの内部に吹き込みノズルによって又はランスによって導入する請求項8に記載の方法。
【請求項10】
炭化カルシウム(CaC)の他に別の還元剤も添加する、請求項1〜9のいずれか一つに記載の方法。
【請求項11】
別の還元剤としては固体物質、特にコークス、木炭及び/又は銑鉄を使用する、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
別の還元剤として炭素含有物質、特にバンカー油、ディーゼル油、天然ガス及び/又は石炭粉を用いる請求項10又は11に記載の方法。
【請求項13】
別の還元剤を溶融したスラグ中に吹き込む請求項10〜12のいずれか一つに記載の方法。
【請求項14】
スラグが銅(Cu)を含有する、請求項1〜13のいずれか一つに記載の方法。
【請求項15】
スラグが鉛(Pb)、亜鉛(Zn)、白金(Pt)又はニッケル(Ni)を含有している、請求項1〜14のいずれか一つに記載の方法。

【公表番号】特表2008−542549(P2008−542549A)
【公表日】平成20年11月27日(2008.11.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−515140(P2008−515140)
【出願日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際出願番号】PCT/EP2006/005496
【国際公開番号】WO2006/131371
【国際公開日】平成18年12月14日(2006.12.14)
【出願人】(390035426)エス・エム・エス・デマーク・アクチエンゲゼルシャフト (320)
【Fターム(参考)】