説明

金属含有フラーレン誘導体、それを有する組成物、それを組織化した構造体、並びに、それを用いた液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料及び分子スイッチ材料

【課題】磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性を有するとともに、分子が配向、積層することにより新たな構造体を構築することができる、新規な金属含有フラーレン誘導体、該金属含有フラーレン誘導体を有する組成物、該金属含有フラーレン誘導体を組織化した構造体、並びに、該金属含有フラーレン誘導体を用いた液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料及び分子スイッチ材料を提供する。
【解決手段】シャトルコック状の分子形状を有し、金属原子を含有する、金属含有フラーレン誘導体。この金属含有フラーレン誘導体は、60個の炭素原子から成るC60バックミンスターフラーレン(フラーレンC60)に代表される高級フラーレンからなる炭素クラスター部位と、この炭素クラスター部位に置換される基と、配位子を有してもよい金属原子とから構成され、金属原子は、8族遷移金属原子である事を特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シャトルコック(shuttle−cock)状の分子形状を有する新規な金属含有フラーレン誘導体、該金属含有フラーレン誘導体を有する組成物、該金属含有フラーレン誘導体を組織化した構造体、並びに、該金属含有フラーレン誘導体を用いた液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料及び分子スイッチ材料に関する。
【背景技術】
【0002】
電荷輸送性や光電子物性に優れた機能性材料の素子化において、素子作製の容易さや大面積化などの点から、固体と液体との中間相(メソフェーズ)を有する材料が注目されている。例えば、特許文献1及び非特許文献1には、液晶相を発現するフラーレンC60のアリール5重付加体型のシャトルコック型誘導体が報告されている。また、例えば特許文献2には、これらフラーレン誘導体を含有する液晶配向制御剤が報告されている。
【0003】
さらに、例えば非特許文献2には、芳香族環が−CH2SiMe2−基(本明細書において、特に断らない限り、Meはメチル基を表わす)を介してフラーレンに5個結合したフラーレンC60の五重付加型シャトルコック誘導体が報告されており、ここでも液晶性の発現が報告されている。
【0004】
これらのフラーレン五重付加型のシャトルコック型誘導体は、ディスコチック系と同様に分子が積み重なるが、通常のディスコチック系とは異なり、コニカルな分子としてカップスタック型の積層をしている(非特許文献3)。そのため、ディスコチック系に比べて安定な集合体構造を持ちながら、ディスコチック液晶と同様の用途が期待される。
【0005】
一方、フラーレンを配位子とした金属含有フラーレンは、金属の性質に基づく電子的挙動が付与されたフラーレン誘導体であるため、電気化学的な素子に応用できるとして期待されている。例えば、特許文献3や特許文献4には、アリール5重付加型誘導体から導かれる、フラーレンのη5(hepto−five:5炭素結合)型シクロペンタジエニル金属錯体が報告されている。
【0006】
【特許文献1】特開2003−146915号公報
【特許文献2】特開2004−331848号公報
【特許文献3】特開平11−255509号公報
【特許文献4】特開2002−241389号公報
【非特許文献1】Nature,vol.419,702−,2002
【非特許文献2】J.Am.Chem.Soc., vol.126, 432−, 2004
【非特許文献3】Nature,vol.419,681−,2002
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
上記のように、フラーレンを用いた新たな材料が様々に提案されているが、新たな機能性材料を開発するべく、さらに新規なフラーレン誘導体が望まれていた。特に、磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性を有するとともに、分子が配向、積層することにより、新規な構造体を構築することができる新たなフラーレン誘導体が望まれていた。
【0008】
本発明は上記の課題に鑑みて創案されたもので、磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性を有するとともに、分子が配向、積層することにより新たな構造体を構築することができる、新規な金属含有フラーレン誘導体、及び、それを有する組成物、それを組織化した構造体、並びに、それを用いた液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料及び分子スイッチ材料を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記の課題を解決すべく鋭意検討した結果、フラーレン部位と置換基部位とを有する、シャトルコック(shuttle−cock)状の分子形状の金属含有フラーレン誘導体が、フラーレン部位と置換基部位とのスタックによって、分子同士が自発的にカップスタック型に積層することを見出し、本発明を完成させた。
【0010】
即ち、本発明の要旨は、シャトルコック状の分子形状を有し、金属原子を含有することを特徴とする、金属含有フラーレン誘導体に存する(請求項1)。
【0011】
このとき、該金属含有フラーレン誘導体は、下記一般式(I)で表わされることが好ましい(請求項2)。
【化1】

(一般式(I)中、Rは各々独立に、置換基を有していてもよいアリール基が連結基を介してフラーレン骨格に結合している基を表わし、Mは金属原子を表わし、LはMの配位子を表わし、nはLの数を表わす。)
【0012】
また、上記一般式(I)において、上記Rが、下記一般式(II)で表わされる基であることが好ましい(請求項3)。
−X1−(Y2−X2m−Y1−Ar (II)
(一般式(II)中、X1及びX2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環又は直接結合を表わし、Y1及びY2は、各々独立に、2価の連結基又は直接結合を表わす。ただし、X1及びY1のうち少なくとも1つは直接結合ではない。また、mは0〜2の整数を表わす。さらに、Arは、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香環を表わす。)
【0013】
さらに、上記一般式(II)において、上記X1が置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環であり、m=0であることが好ましい(請求項4)。
【0014】
また、上記一般式(II)において、上記X1が直接結合であり、m=0であり、Y1が下記一般式(III)で表わされる基であっても好ましい(請求項5)。
−CH2−ZMe2− (III)
(一般式(III)中、Zは14族の原子を表わし、Meはメチル基を表わす。)
【0015】
さらに、該金属原子が、8族遷移金属原子であることが好ましい(請求項6)。
【0016】
また、該金属含有フラーレン誘導体は、該8族遷移金属原子の配位子としてη5−シクロペンタジエニル基を有することが好ましい(請求項7)。
【0017】
本発明の別の要旨は、該金属含有フラーレン誘導体を含むことを特徴とする、組成物に存する(請求項8)。
【0018】
このとき、該組成物は、該金属含有フラーレン誘導体を主成分とし、中間相を有することが好ましい(請求項9)。
【0019】
本発明の更に別の要旨は、該金属含有フラーレン誘導体が、自己組織化されてなることを特徴とする、構造体に存する(請求項10)。
【0020】
本発明の更に別の要旨は、該金属含有フラーレン誘導体を有することを特徴とする、液晶ディスプレイ材料に存する(請求項11)。
【0021】
本発明の更に別の要旨は、該金属含有フラーレン誘導体を有することを特徴とする、量子デバイス材料に存する(請求項12)。
【0022】
本発明の更に別の要旨は、該金属含有フラーレン誘導体を有することを特徴とする、分子スイッチ材料に存する(請求項13)。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、分子が配向、積層することにより新たな構造体を構築することができる、新規な金属含有フラーレン誘導体、及び、それを有する組成物、それを組織化した構造体、並びに、それを用いた液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料及び分子スイッチ材料を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、本発明について例示物等を示して説明するが、本発明は以下に示す例示物などに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において、任意に変更して実施することができる。
【0025】
[1.金属含有フラーレン誘導体の説明]
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、シャトルコック(shuttle−cock)状の分子形状を有し、金属原子を含有するものである。また、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、60個の炭素原子から成るC60バックミンスターフラーレン(フラーレンC60)に代表される高級フラーレンからなる炭素クラスター部位と、この炭素クラスター部位に置換される基(以下適宜、「所定置換基」という)と、配位子を有していてもよい金属原子とから構成される。
【0026】
そして、本発明の金属含有フラーレン誘導体分子のシャトルコック形状は、炭素クラスター部位に、所定置換基がシャトルコックの羽根のように結合した形状として形成されている。
【0027】
なお、ここで、シャトルコック状とは、バトミントンの羽根であるシャトルコックがベースに羽根を取り付けて構成されているように、閉殻形状の炭素クラスター部位(ベースに相当)に所定置換基(羽根に相当)が複数結合している形状のことを指す。具体的には、下記式(0)で表わされる部分構造を有するフラーレン誘導体の形状を表わす。なお、下記式(0)において、Aは任意の基(これが、所定置換基となる)を表わす。
【化2】

【0028】
さらに、本発明の金属含有フラーレン誘導体において、炭素クラスター部位に置換された所定置換基は、その長さが、通常10Å以上、好ましくは20Å以上である。なお、ここで、当該所定置換基の長さとは、当該所定置換基が炭素クラスター部位に結合した位置から、当該所定置換基の末端までの長さのことをいう。この所定置換基の長さは、例えば、分子模型の実測により測定することができる。
【0029】
所定置換基は、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は有機基であり、中でも、本発明の金属含有フラーレン誘導体の自己組織化を促進する観点からは、芳香環(詳細は後述する)を有する有機基が好ましい。具体的には、例えば、4〜7員環である炭化水素環又は複素環の、単環又は2〜3縮合環を少なくとも2つ以上有する置換基や、置換基を有するビニル基により構成される。
【0030】
本発明の金属含有フラーレン誘導体の例としては、C605MLn(但し、Rは同一であっても異なっていてもよい)で表される化合物が挙げられる。この化合物(C605MLn)は、下記一般式(I)で表される金属含有フラーレン誘導体である。なお、一般式(I)において、R及びMが結合しているフラーレン骨格はC60により形成される炭素クラスター部位の骨格を示すものであり、ここでは、紙面の反対側にある炭素鎖の図示は省略してある。また、一般式(I)においては、金属含有フラーレン誘導体を、R及びMが結合した方向から見た構造を表わしている。
【0031】
【化3】

(一般式(I)中、Rは各々独立に、置換基を有していてもよいアリール基が連結基を介してフラーレン骨格に結合している基を表わし、Mは金属原子を表わし、LはMの配位子を表わし、nはLの数を表わす。)
【0032】
上記一般式(I)中、Rは、各々独立に、置換基を有していてもよいアリール基が連結基を介してフラーレン骨格に結合している基(以下適宜、「R基」という)を表わす。なお、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体においては、このR基が、上記の「炭素クラスター部位に置換された基(所定置換基)」に相当する。
ここで、R基の有するアリール基は、芳香族の炭化水素環及び複素環(以下適宜、芳香族の炭化水素環及び複素環を総称して「芳香環」という)である。また、R基が有するアリール基の炭素数は本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常4〜20である。
【0033】
R基が有するアリール基の具体例としては、以下の基が挙げられる。
【化4】

【0034】
中でも、好ましくは以下のものが挙げられる。
【化5】

【0035】
さらに、その中でもより好ましくは、以下のものが挙げられる。
【化6】

【0036】
R基が有するアリール基が置換基を有する場合、その置換基は本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。その置換基の具体例としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;ジフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロペンチル基等の炭素数1〜12のアルキル基にフッ素原子等のハロゲン原子が置換されたハロゲン置換アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基など上記アルキル基に対応した炭素数1〜20のアルコキシ基;トリフルオロエトキシ基、ジフルオロエトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基にフッ素原子等のハロゲン原子が置換されたハロゲン置換アルコキシ基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基又はエトキシブチル基等の炭素数2〜20のアルコキシアルキル基;−O(Ck2kO)n(k=1〜3、n=2〜20)で表されるポリアルキレンオキシド基;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分枝状のカルボン酸エステル基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ等の炭素数1〜20のアルキルチオ基などが挙げられる。更に、これらのアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ポリアルキレンオキシド基、アルケニル基、カルボン酸エステル基はエポキシ基、アクリル基、ビニル基などの官能性重合基で置換されていても良く、また、ここに挙げた基を置換基として有するポリオルガノシロキサン基も挙げられる。
これらのR基が有するアリール基の置換基のうち、好ましいものとしては、アルコキシ基が挙げられる。
【0037】
また、R基が有するアリール基の置換基の数に制限は無く、本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は0〜3個程度である。
さらに、R基が有するアリール基の置換基の芳香環上の置換位置にも特に制限はなく、本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。
また、R基が有するアリール基が、置換基を複数有する場合、当該置換基は互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0038】
さらに、炭素数が多い金属含有フラーレン誘導体が液晶性を示す傾向にあるため、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体を液晶の用途に用いる場合、R基が有するアリール基の置換基としては、炭素数が通常10以上、好ましくは12以上、また、通常20以下、好ましくは18以下の直鎖状アルコキシ基が望ましい。
一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体においては、置換基の本数及び種類を変化させることで、集合体(後述する構造体など)の形成状態や、安定性、液晶性の有無、流動性などの物性を制御することが出来る。
【0039】
R基において、アリール基とフラーレン骨格とを結合する連結基は本発明の効果を著しく損なわない限り任意の連結基を用いることができるが、通常は、2つの結合部位を有する有機基を用いる。
また、連結基として有機基を用いる場合、この連結基の炭素数も本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は炭素数は3〜20である。
【0040】
さらに、上記の連結基の構造は特に限定されず任意であり、例えば、直鎖状であってもよく、分岐していてもよく、環状構造を有していてもよく、さらにはSi、N、O、S、Cl、Brなどの炭素以外の元素を含んでいてもよい。
【0041】
なかでも、R基としては、以下の一般式(II)で表わされる基が好ましく用いられる。
−X1−(Y2−X2m−Y1−Ar (II)
(一般式(II)中、X1及びX2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環又は直接結合を表わし、Y1及びY2は、各々独立に、2価の連結基又は直接結合を表わす。ただし、X1及びY1のうち少なくとも1つは直接結合ではない。また、mは0〜2の整数を表わす。さらに、Arは、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香環を表わす。)
【0042】
一般式(II)中、X1及びX2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環又は直接結合を表わす。X1及びX2が2価の芳香環である場合、その具体例としては、以下の基が挙げられる。
【化7】

【0043】
中でも、好ましくは、以下のものが挙げられる。
【化8】

【0044】
また、X1及びX2が置換基を有する場合、X1及びX2が有する置換基は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。その具体例としては、フッ素原子、塩素原子等のハロゲン原子;シアノ基;ニトロ基;メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ドデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−オクタデシル基等の炭素数1〜20のアルキル基;ジフルオロメチル基、トリフルオロエチル基、ペンタフルオロペンチル基等の炭素数1〜12のアルキル基にフッ素原子等のハロゲン原子が置換されたハロゲン置換アルキル基;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基など上記アルキル基に対応した炭素数1〜20のアルコキシ基;トリフルオロエトキシ基、ジフルオロエトキシ基等の炭素数1〜12のアルコキシ基にフッ素原子等のハロゲン原子が置換されたハロゲン置換アルコキシ基;メトキシメチル基、メトキシエチル基、メトキシブチル基、エトキシメチル基、エトキシエチル基又はエトキシブチル基等の炭素数2〜20のアルコキシアルキル基;−O(Ck2kO)n(k=1〜3、n=2〜20)で表されるポリアルキレンオキシド基;ビニル基、アリル基、1−プロペニル基、1−ブテニル基、2−ブテニル基等の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分枝状のアルケニル基;メトキシカルボニル基、エトキシカルボニル基等の炭素数1〜20の直鎖状もしくは分枝状のカルボン酸エステル基;メチルチオ基、エチルチオ基、n−プロピルチオ等の炭素数1〜20のアルキルチオ基などが挙げられる。更に、これらのアルキル基、アルコキシ基、アルコキシアルキル基、ポリアルキレンオキシド基、アルケニル基、カルボン酸エステル基はエポキシ基、アクリル基、ビニル基などの官能性重合基で置換されていても良く、また、ここに挙げた基を置換基として有するポリオルガノシロキサン基も挙げられる。
【0045】
一般式(II)中、Y1及びY2は、各々独立に、2価の連結基又は直接結合を表わす。Y1及びY2が2価の連結基である場合、その具体例としては、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OC(O)O−、−OCH2−、−CH=N−、−CH=CH−、−C≡C−、−O−、−COS−、−CON−、−N=N−、−CH2−、−CH2−CH2−、−CH2SiMe2−、−CH2CMe2−などが挙げられる。
【0046】
中でも、好ましくは、−C(=O)O−、−OC(=O)−、−OCH2−、−CH2SiMe2−、−CH2CMe2−が挙げられる。さらに、その中でもより好ましくは、−O(C=O)−及び−CH2SiMe2−が挙げられる。
なお、上記の連結基にはフラーレン骨格側の結合手とアリール基側の結合手とが存在するが、ここで例示した連結基では、いずれの記載においても、左側の結合手がフラーレン骨格側の結合手であり、右側の結合手がアリール基(Ar)側の結合手である。
ただし、一般式(II)においては、X1、Y1のうち少なくとも1つは直接結合ではない。
【0047】
さらに、一般式(II)中、mは(−Y2−X2−)部位の数を表わす整数である。通常0〜2であり、合成の容易さから好ましくは0である。
また、一般式(II)中、Arは、上記のR基が有するアリール基のうち、炭素数4〜20の芳香環を有するものを表わす。即ち、Arは、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の芳香環を表わす。
【0048】
一般式(II)で表わされるR基の中でも、特に、以下の一般式(IV)または(V)で表わされる基が、五重付加型フラーレン金属錯体(即ち、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体)及びその前駆体である五重付加型フラーレン誘導体を合成しやすいので、好ましく用いられる。
【0049】
−X1−Y1−Ar (IV)
一般式(IV)中、X1、Y1及びArは、一般式(II)で説明したものと同様である。ただし、X1は直接結合ではない。したがって、一般式(IV)で表わされる基は、上記一般式(II)において、上記X1が置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環であり、m=0である場合に該当する。
【0050】
−CH2−ZMe2−Ar (V)
一般式(V)中、Zは14族の原子を表わす。具体的にはC、Si、Ge、Snを表わし、安定性及び合成の容易さからはC,Siがより好ましい。また、一般式(V)中、Arは一般式(II)で説明したものと同様である。したがって、一般式(V)で表わされる基は、上記一般式(II)において、上記X1が直接結合であり、m=0であり、Y1が下記一般式(III)で表わされる基である場合に該当する。
−CH2−ZMe2− (III)
(一般式(III)中、Zは14族の原子を表わす。また、Meは、上記の通りメチル基を表わす。)
【0051】
上述したR基の中でも、好ましくは一般式(II)で表される基であり、より好ましくはm=0の場合に一般式(II)で表わされる基であり、さらに好ましくは一般式(IV)又は一般式(V)で表される基であり、特に好ましくは一般式(IV)で表される基である。
なお、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体において、一化合物中の5個のR基は、同一であっても異なっていてもよいが、合成が容易である点からは全て同じであることが好ましい。
【0052】
また、前記一般式(I)中、Mは金属原子を表わす。一般式(I)中のMは、金属原子であれば本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができ、典型金属でも遷移金属であってもよい。
Mの具体例を挙げると、Li、K、Na、Mg、Al,Tl等の典型金属;Ti、Zr、Hf、V、Cr、Mo、W、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、NI、Pd、Pt、Cu、Zn等の遷移金属などが挙げられる。
【0053】
なかでも、Mは遷移金属であることが、金属に特有の酸化還元挙動に基づく電子的性質がフラーレン骨格に付与されるため、電子材料としての観点から好ましい。さらに、遷移金属の中でも、Fe、Ru、Os、Rh、Ir、Ni、Pd、Pt等の8〜10族の遷移金属が好ましく、特にFe、Ru、Os等の8族の遷移金属が好ましい。
【0054】
さらに、前記一般式(I)中、LはMの配位子を表わし、nはLの個数を表わす。nは、0以上の整数であれば本発明の効果を著しく損なわない限り任意であるが、通常は0〜5の整数である。なお、nが2以上の場合、配位子Lは同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0055】
また、Lの種類は本発明の効果を著しく損なわない限り任意である。例えば、η1型のシグマ結合性配位子、η2型のパイ配位子のほか、η3型、η5型などの多座配位子であってもよい。
具体的には、Lとしては以下のものが例示される。η1型の配位子としては、水素原子;塩素、臭素、ヨウ素等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;メチル基、エチル基等のアルキル基などが挙げられる。η2型の配位子としては、CO;トリメチルホスフィン、トリフェニルホスフィン等の3級ホスフィン;エチレン等のオレフィンなどが挙げられる。多座配位子としては、η3型のアリル基、η5型のシクロペンタジエニル基、η4型の1,5−シクロオクタジエニル基やその置換体などが例示される。
【0056】
ただし、Lの種類及び個数nは、Mの種類及び価数によって選択される。例えば、MがFeやRuなどの8族遷移金属である場合には、Lは、η5−シクロペンタジエニル基(以下、適宜「Cp」で表わす)であることが好ましく、また、nが1であることが好ましい。即ち、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体の中で、MLnがFeCpあるいはRuCpであるものが好ましい。これらは、η5型の配位子を2つ有する8族の遷移金属錯体、即ち、フェロセン型もしくはルテノセン型の錯体であり、極めて安定である。フェロセン型又はルテノセン型の策内のうちでも、より安定なのはMLnがFeCpであるフェロセン型錯体である。
【0057】
ところで、上記の一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体は、別の表現を用いれば、下記一般式(I’)で表わされる部分構造を有するフラーレン誘導体(炭素クラスター誘導体)ということもできる。
【化9】

一般式(I’)中、R、M、L及びnは、それぞれ、上記一般式(I)と同様のものを表わす。ただし、一般式(I’)において、R及びMは、フラーレン骨格に結合している。
【0058】
一般式(I)で表される金属含有フラーレン誘導体の具体例を下記に示す。ただし、一般式(I)で表される金属含有フラーレン誘導体はこれに限定されるものではない。なお、以下の表1及び表2の表中において、例えば化合物1とは、一般式(I)における5つのRがすべて表中に記載した構造であり、MLnがFeCpである化合物を意味する。同様に、化合物2以下も全て、1分子中に含まれる5個のRとMLn部位がいずれも表中の構造である、一般式(I)で表される化合物を意味する。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
なお、本発明の金属含有フラーレン誘導体の製造方法に制限は無く、本発明の金属含有フラーレン誘導体を得ることができる限り任意の方法で製造することができる。例えば、表1、表2に示した化合物は、本発明の実施例に記載の方法や、特開平10−167994号公報、特開平11−255509号公報、特開2002−241389号公報などに記載の方法、またはこれらに準ずる公知の方法にて製造できる。
【0062】
より詳しくは、特開2002−241389号公報に記載の製造法のように、上記R基を5つ有するフラーレン誘導体C605HやC605Brに対して適当な条件の下で金属前駆体を作用させて合成してもよい。また、本発明の実施例に記載のように、反応性を有する基R’を5個有する金属含有フラーレン誘導体C60R’5MLnを合成したのち、R’基に反応を行なって目的とするC605MLnに変換する方法で合成することも出来る。
【0063】
[2.金属含有フラーレンの性質並びにその組成物及び構造体の説明]
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、積み重なる形の自己集合性を有するフラーレン誘導体である。即ち、本発明の金属含有フラーレン誘導体の炭素クラスター部位(フラーレン骨格)をHeadとし、所定置換基(R基など)をTailとした場合、ある金属含有フラーレン誘導体の炭素クラスター部位に他の金属含有フラーレン誘導体の所定置換基が相互作用することにより、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、各分子が配向し、集積することにより、カップスタック型に直線状に積層することが可能となっている。
【0064】
なおかつ、本発明の金属含有フラーレン誘導体が金属原子を有するため、本発明の金属含有フラーレン誘導体には、金属原子固有の性質が付与される。さらに、これのみならず、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、フラーレン骨格の電気的、光学的、磁気的性質を大きく変化させた誘導体である。特に、フラーレン骨格に由来する酸化還元挙動に加えて、金属原子の酸化還元に基づく電気的挙動を示すため、電子材料用素子として有用である。
【0065】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、金属原子(一般式(I)中のM)、及び、適宜使用される配位子(一般式(I)中のL)の種類を変えることにより、酸化還元挙動の微調整をすることも出来る。さらに、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、金属原子の種類によっては錯体特有の化学反応性を示すため、自己集合状態において金属部位の反応性を利用した重合等の化学反応を行なうこともできる。
【0066】
(中間相に関する説明)
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、本発明の金属含有フラーレンのみを集合させた場合(純物質である場合、2種以上の本発明の金属含有フラーレン誘導体を共存させて組成物とした場合など)や、その他の物質(添加剤)と共存させて組成物とした場合に、中間相(メソフェーズ)となりうる。なお、本明細書において、本発明の金属含有フラーレン誘導体を含む組成物を、適宜「本発明の組成物」という。したがって、2種以上の本発明の金属含有フラーレン誘導体を共存させた組成物も、本発明の金属含有フラーレン誘導体と添加剤とを共存させた組成物も、本発明の組成物である。
【0067】
中間相(メソフェーズ)とは、柔粘性結晶または液晶の状態をいう。本発明の金属含有フラーレン誘導体は、通常、中間相の中でも柱状相となる。柱状相(カラムナー)とは分子が積層してできる柱状組織をいう。例えば、柱状相とは、一次元の分子配向様式を示す柱状ラメラ相(カラムナー・ラメラ相)、柱状ネマチック相(カラムナーネマチック相)、二次元の分子配向様式を示す六方柱状相(ヘキサゴナルカラムナー)、矩形柱状相(レクタンギュラーカラムナー)、正方柱状相(テトラゴナルカラムナー)、さらに三次元の格子空間を定義できる中間相(柔粘性結晶:柱状組織中の積層分子が互いに相関して配向したもの、または柱状組織間で位置の相関をもつもの)を指す。また、これらの中間相の発現メカニズムにより、リオトロピック(ライオトロピック)系と、サーモトロピック系、さらには、リオトロピックとサーモトロピックの両方の性質を備えたアンフォトロピック系がある。
【0068】
本発明の金属含有フラーレン誘導体及び本発明の組成物が中間相を有することは、通常DSC(示差走査熱分析)により、結晶相から中間相への転移及び中間相から等方相(液相)の転移が観測されることで確認される。さらに、偏光顕微鏡による観察により中間相の存在が確認され、また、その種類形状が判別できる場合もある。なお、本発明の五重付加型フラーレン金属錯体(即ち、一般式(I)で表わされる金属含有フラーレン誘導体)においては、フラーレンC60骨格が有するR基の物理的な長さが長いもの、具体的には、R基の長さが20Å以上のものが中間相を有する傾向にある。
【0069】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体を含有する本発明の組成物において、その組成物中の本発明の金属含有フラーレン誘導体としては、1種を単独で用いてもよく、2種以上を任意の組み合わせ及び比率で併用してもよい。
さらに、本発明の組成物がその他の物質(添加剤)を含有する場合、この各種添加剤としては、本発明の効果を著しく損なわない限り任意のものを用いることができる。添加剤の例を挙げると、リオトロピック系中間相等の多分子系超分子構造体を形成させることを目的とした溶媒及び塩などの添加剤;サーモトロピック系中間相等の結晶系超分子構造体を基板などに均一に形成するための配向処理剤;柱状構造において柱と柱の隙間に内包させて構造体の高機能化を図るための添加剤;官能性重合基を有するモノマー等の添加剤;などが挙げられる。
【0070】
さらに、本発明の組成物がその他の物質を含有する場合における、金属含有フラーレン誘導体の濃度および各種添加剤の濃度は、特に制限は無く任意である。ただし、中間相、柱状相および構造体の発現に支障のない範囲で選択することが好ましい。特に、本発明の組成物に中間相を有させようとする際には、本発明の組成物全体に対して、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上の本発明の金属含有フラーレン誘導体を含有させるようにすると、中間相を有することができるようになるため好ましい。なお、本明細書中において適宜、本発明の組成物全体に対して、通常40重量%以上、好ましくは50重量%以上の本発明の金属含有フラーレン誘導体を含有する場合に、本発明の金属含有フラーレン誘導体を「主成分として含有する」という。
【0071】
また、本発明の組成物のうち、中間相を有するものの中でも、リオトロピック系の中間相を示す組成物は、適当な溶媒と塩とを共存させた状態で中間相を得ることができる。また、サーモトロピック系の中間相を示す組成物は、ある温度範囲に組成物を加熱もしくは冷却することにより中間相を得ることができる。
【0072】
通常、サーモトロピック系の中間相を示す組成物においては、等方性液体状態もしくは中間相状態まで加熱した後、徐冷することにより分子が自発的に配向、積層した組成物を得ることができる。この時、組成物の均一性の高い配向や大面積の配向を得る方法として、例えば、電場や磁場などの外場を組成物に印加する方法;ポリイミド系樹脂やポリビニルアルコールなどの高分子系配向膜を塗布後、ラビングを行なった基板あるいは、SiOなどの酸化物を真空蒸着させた基板を用いて組成物を配向させる基板面変形配向処理法;界面活性剤などの添加剤を組成物に溶解させて配向させる基板面間接配向処理法などがある。これらを利用して、本発明の金属含有フラーレン誘導体及びその組成物を各種素子に使用する場合は、中間相による分子配向を利用した状態で使用する以外に、中間相による分子配向を施した後、固体状態においても使用することができる。
【0073】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体及び本発明の組成物の中でも、エポキシ基、アクリル基、ビニル基などの官能性重合基で置換された置換基を有する金属含有フラーレン誘導体およびそれを含有する組成物は、例えば、中間相により分子配向した状態おいて、光重合などを行なうことにより、分子の配向、積層を保持したまま薄膜(フィルム)として扱うことが可能となり、使用範囲が拡大できる。
【0074】
(組織化に関する説明)
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、炭素クラスター部位(フラーレン骨格)上の所定置換基と、炭素クラスター部位とが分子間相互作用することにより、カップスタック型の自己組織化(即ち、金属含有フラーレン誘導体が一定の秩序を持って集合した構造体の構築)をしやすい。このように、本発明の金属含有フラーレン誘導体が自己組織化して形成された構造体(以下適宜、「本発明の構造体」という)も、本発明の一形態である。
【0075】
本発明の構造体においては、本発明の金属含有フラーレン誘導体のうち、所定置換基として芳香環を有するものを用いている場合には、本発明の金属含有フラーレン誘導体のフラーレン骨格は通常5つの所定置換基上の芳香環と相互作用するため、屈曲した構造をとることは困難である。従って、この構造体は、通常、直線状の極性カラム構造をとる。
【0076】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体では、金属の種類により電気的、磁気的性質を付与することが出来るので、電子材料向けのナノサイズの素子として特に有用である。なお、本発明の金属含有化合物及び本発明の組成物は液晶性を示す場合があるが、これは本発明の金属含有フラーレン誘導体が直線状に自己組織化した上記の極性カラム構造の構造体を1つの構造単位とし、これが配向することにより液晶相の発現が達成されると考えられる。
【0077】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体の所定置換基には反応性部位を付与することが出来る。このため、これを利用して、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、自己組織化した構造体の状態で分子間反応させて、金属含有フラーレン誘導体分子同士を結合させて重合体とすることも出来る。このようにして得られる重合体は、高分子中に金属原子が規則的に分散した重合体であり、ナノコンポジット材料として種々の用途に用いられる。
【0078】
さらに、本発明の構造体のなかでも、特に、本発明の組成物により金属含有フラーレン誘導体が組織化されてなる構造体、即ち、本発明の組成物において金属含有フラーレン誘導体を配向、積層させて得た構造体は、集合体状態の安定性、配向性、溶解性という点で優れている。
【0079】
[3.効果]
本発明の金属含有フラーレン誘導体並びに本発明の組成物及び本発明の構造体は、金属含有フラーレン誘導体特有の磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性を有し、中間相などによる分子の配向、積層により分子柱(カラム)や分子ワイヤー等の超分子構造を構築することが可能となり、各種表示素子、光学素子や光電変換素子等に応用できる。特に、遷移金属を有する本発明の金属含有フラーレン誘導体は、遷移金属電子の性質に基づく特徴的な酸化還元挙動を示すため電子材料等の用途に有用である。
【0080】
以下、詳しく説明する。
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性のうち、1以上を有する。
ここで、磁気的特性とは強磁性、反強磁性、フェリ磁性、常磁性等の性質のことをいい、これは、量子干渉磁束計(SQUID)によりその特性を確認することができる。
また、電気的特性とは導電性等の性質のことをいい、これは、四端子法によって抵抗を測定し導電率を求めることによりその特性を確認することができる。
さらに、光学的特性とは吸収、発光等の性質のことをいい、これは、紫外可視近赤外分光法、蛍光分光法によりその特性を確認することができる。
また、電気化学的特性とは電圧の印加により酸化還元される性質のことをいい、これは、サイクリックボルタンメトリーによりその特性を確認することができる。
【0081】
さらに、本発明の金属含有フラーレン誘導体によれば、金属含有フラーレン誘導体の磁気的、電気的、光学的、電気化学的特性などの各種特性を利用した素子を得ることができる。また、本発明の金属含有フラーレン誘導体によれば、当該素子の製造において、中間相(例えば、柔粘性結晶相、液晶相等)の発現などにより、金属含有フラーレン誘導体の分子が自発的に配向し、積層するため、容易に素子作製を実現したり、大面積化を実現したりすることができるようになる。
【0082】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、自発的に分子が配向し、積層するため、これを利用して、光導電性など新しい性質、性能を発現可能な、新規な組成物を得ることができる。さらに、本発明の金属含有フラーレン誘導体の分子の配向、積層を利用すれば、新しい性質、性能を発現可能な、新規な構造体を得ることもできる。また、特に、金属含有フラーレン誘導体を主成分とする組成物により金属含有フラーレン誘導体を自己組織化すれば、薄膜や分子ワイヤーなど、構成分子により規則性の高い秩序構造を有する超分子構造体を得ることができる。
【0083】
[4.用途の説明]
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、液晶ディスプレイ材料、量子デバイス材料、分子スイッチ材料などとして用いて好適である。以下、詳しく説明する。
本発明の金属含有フラーレン誘導体は、本発明の構造体を形成して液晶性を示す場合がある。特許文献1及び非特許文献1に示されたフラーレン誘導体は、従来の棒状もしくはディスク状の液晶性物質とは異なる、極性カラム構造を有する新しいタイプの液晶性化合物として、省電力液晶ディスプレイや量子デバイスの材料として有用である。
【0084】
また、本発明の金属含有フラーレン誘導体は、このような液晶性化合物中にさらに金属原子を有するフラーレン誘導体なので、その集合体は、極性カラムに金属原子がドープされた液晶性化合物と見ることができる。金属原子の種類によって、極性カラム構造の安定性や極性を制御することが出来るため、より低い電場によって配向が可能でかつ実用的に安定な、液晶性を有する集合体構造となる。そのため、液晶ディスプレイ材料(特に、省電力型)として極めて有用である。
【0085】
一方、本発明の金属含有フラーレン誘導体は量子デバイスとしての用途としても有用である。特許文献1及び非特許文献1に示されたフラーレン誘導体について、フラーレン骨格に基づく電子授受が可能な液晶性誘導体として、redox−activeな分子スイッチとしての用途が特に期待がもたれている。本発明の金属含有フラーレン誘導体は、このフラーレン誘導体分子上にさらに金属原子を有しているため、金属原子の種類によっては金属原子の酸化還元の性質が付与されたフラーレン誘導体となる。よって極性カラム構造の電子的性質を、金属原子及びその配位子を変化させることによって精密に制御することが可能であり、実用的な量子デバイス材料、特に分子スイッチ材料としても有用である。
【実施例】
【0086】
[実施例1:下記例示化合物1の製造方法]
【化10】

【0087】
1,2−ジクロロベンゼン16.6mLに(C55)Fe[C60(C64−OMe−4)5](166mg,0.120mmol)と臭化ホウ素ジメチルスルフィド錯体(522mg,1.67mmol)とを溶解し、165℃で24時間撹拌後、0.5mLの水を加えた。この反応混合液を酢酸エチルで抽出し、水及び飽和食塩水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥したのち、ひだつきろ紙でろ過し、ろ液を濃縮した。約10mLに濃縮された溶液にヘキサンを加え、生じた沈殿をブフナー漏斗で集め乾燥した。この粗生成物を高速液体クロマトグラフィーで精製することにより、134mg(収量85%)の(C55)Fe[C60(C64−OH−4)5]を得た。
【0088】
この(C55)Fe[C60(C64−OH−4)5](17.9mg,13.7mol)と3,4−ジメトキシベンゾイルクロライド(17.8mg,86.3μmol)とをテトラヒドロフラン1.8mLに溶解し、トリエチルアミン(13.7μL,98.3μmol)と4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(8.7mg,71.2μmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、10%塩酸0.1mLを加えて反応を停止させた。反応液をヘキサンで抽出し、水と飽和食塩水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥した。ひだつきろ過で濾過したのち、ろ液を濃縮し、メタノールを加えることによって得られた沈殿を、サイズ排除カラムクロマトグラフィーおよび再結晶法によってさらに精製を行ない、21.8mg(収率75%)の上記例示化合物1を得た.
【0089】
なお、精製により得られた化合物は1H NMR(500MHz,CDCl3)により分析を行ない、例示化合物1であることを確認した。1H NMRの結果を以下に示す。
1H NMRの結果]
1H NMR: d 8.04 (d, J = 8.6 Hz, 10H), 7.88 (dd, J = 8.6, 2.3 Hz, 5H), 7. 68 (d, J = 2.3 Hz, 5H), 7.26 (d, J = 8.6 Hz, 10H), 6.95 (d, J = 8.6 Hz, 5H), 3.97 (s, 15H), 3.96 (s, 15H), 3.41 (s, 5H).
なお、この例示化合物1における、分子モデルによる有機基(R基)1本の長さは約16オングストロームである。
【0090】
また、上記例示化合物1及びその構造体の結晶構造を、X線結晶構造解析法により構造決定した。結果を、以下に示す。また、構造決定の結果得られた例示化合物1の結晶構造及び構造体の結晶構造を、それぞれ図1(a),(b)及び図2に示す。なお、図1において、(a)は横から見た様子を示し、(b)は上から見た様子を示している。また、図2は構造体の結晶構造を表わすパッキング図である。
【表3】

【0091】
[実施例2:下記例示化合物2の製造方法]
【化11】

【0092】
1,2−ジクロロベンゼン16.6mLに(C55)Fe[C60(C64−OMe−4)5](166mg,0.120mmol)と臭化ホウ素ジメチルスルフィド錯体(522mg,1.67mmol)とを溶解し,165℃で24時間撹拌後、0.5mLの水を加えた。この反応混合液を酢酸エチルで抽出し、水および飽和食塩水で洗浄した。硫酸マグネシウムで乾燥したのち、ひだつきろ紙でろ過し、ろ液を濃縮した。約10mLに濃縮された溶液にヘキサンを加え、生じた沈殿をブフナー漏斗で集め乾燥した。この粗生成物を高速液体クロマトグラフィーで精製することにより、134mg(収量85%)の(C55)Fe[C60(C64−OH−4)5]を得た。
【0093】
この(C55)Fe[C60(C64−OH−4)5](10.0mg,8.04μmol)と3,4−ジ(オクタデカニロキシ)ベンゾイルクロライド(47.2mg,69.7μmol)とをテトラヒドロフラン1.0mLに溶解し、トリエチルアミン(8.0μL,57μmol)と4−(N,N−ジメチルアミノ)ピリジン(6.1mg,50μmol)を加えた。室温で1時間撹拌した後、10%塩酸0.1mLを加えて反応を停止させた。反応液をヘキサンで抽出し、水と飽和食塩水で洗浄したのち硫酸マグネシウムで乾燥した。ひだつきろ紙で濾過したのち、ろ液を濃縮し、メタノールを加えることによって得られた沈殿を、サイズ排除カラムクロマトグラフィーおよび再結晶法によってさらに精製を行い、26.6mg(収率73%)の上記例示化合物2を得た。
【0094】
なお、精製により得られた化合物は1H NMR(500MHz,CDCl3)により分析を行ない、例示化合物2であることを確認した。1H NMRの結果を以下に示す。
1H NMRの結果]
1H NMR (500 MHz, CDCl3): d 8.03 (d, J = 8.6 Hz, 10H), 7.82 (dd, J = 8.6, 1.7 Hz, 5H), 7.66 (s, 5H), 7.24 (d, J = 8.6 Hz, 10H), 6.93 (d, J = 8.6 Hz, 5H), 4.08-4.04 (m, 20H), 3.41 (s, 5H), 1.89-1.80 (m, 20H), 1.57-1.44 (m, 20H), 1.39-1.24 (m, 280H), 0.88-0.86 (m, 30H); 13C NMR (125 MHz, CDCl3): d 165.06 (C=O), 153.81 (C60), 152.45 (C60), 150.68, 148.61 (C60), 148.52 (C60), 148.25, 147.44 (C60), 143.99 (C60), 143.30 (C60), 140.66, 130.27, 124.43, 121.46, 121.26, 114.39, 111.76, 92.87 (C60(Cp)), 73.62 (Cp), 69.28 (OCH2), 69.01 (OCH2), 58.00 (C60(sp3)), 31.92, 29.71, 29.66, 29.65, 29.63, 29.45, 29.42, 29.36, 29.18, 29.07, 26.05, 25.99, 22.68, 14.12 (CH3).
なお、この化合物における、分子モデルによる有機基(R基)1本の長さは約36オングストロームである。
【0095】
[実施例3:例示化合物2の電気化学測定]
実施例2で作製した例示化合物2について、以下の条件でサイクリックボルタノグラムを測定した。
〔CV測定条件〕
溶媒:THF
作用電極:グラッシーカーボン電極
対極:白金ワイヤー電極
参照電極:銀/塩化銀電極
電解質:テトラ(n−ブチル)アンモニウム過塩素酸塩
サンプル濃度:1 mM
電解質濃度:100 mM
スキャンレート:100 mV/sec
温度:室温
装置名:北斗電工 HZ−5000
【0096】
測定結果を、図3に示す。図3のように、サイクリックボルタノグラムにより、フラーレン骨格の還元に由来する3つの可逆なピークが観測された。また、鉄の酸化に由来する1本の可逆なピークが観測された。これにより、例示化合物2がフラーレン骨格及び鉄に由来する電気化学的特性を有していることが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0097】
本発明は産業上の任意の分野に適用可能であり、特に、液晶ディスプレイ、量子デバイス、分子スイッチなどに関する分野において用いて好適である。
【図面の簡単な説明】
【0098】
【図1】(a),(b)はいずれも本発明の実施例1において構造決定した結果得られた、例示化合物1の結晶構造を表わす図である。
【図2】本発明の実施例1において構造決定した結果得られた、構造体の結晶構造を表わすパッキング図である。
【図3】本発明の実施例3で測定したサイクリックボルタノグラムである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シャトルコック状の分子形状を有し、
金属原子を含有する
ことを特徴とする、金属含有フラーレン誘導体。
【請求項2】
下記一般式(I)で表わされる
ことを特徴とする、請求項1記載の金属含有フラーレン誘導体。
【化1】

(一般式(I)中、
Rは各々独立に、置換基を有していてもよいアリール基が連結基を介してフラーレン骨格に結合している基を表わし、
Mは金属原子を表わし、
LはMの配位子を表わし、
nはLの数を表わす。)
【請求項3】
上記一般式(I)において、上記Rが、下記一般式(II)で表わされる基である
ことを特徴とする、請求項2記載の金属含有フラーレン誘導体。
−X1−(Y2−X2m−Y1−Ar (II)
(一般式(II)中、X1及びX2は、各々独立に、置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環又は直接結合を表わし、Y1及びY2は、各々独立に、2価の連結基又は直接結合を表わす。ただし、X1及びY1のうち少なくとも1つは直接結合ではない。また、mは0〜2の整数を表わす。さらに、Arは、置換基を有していてもよい炭素数4−20の芳香環を表わす。)
【請求項4】
上記一般式(II)において、上記X1が置換基を有していてもよい炭素数4〜20の2価の芳香環であり、m=0である
ことを特徴とする、請求項3記載の金属含有フラーレン誘導体。
【請求項5】
上記一般式(II)において、上記X1が直接結合であり、m=0であり、Y1が下記一般式(III)で表わされる基である
ことを特徴とする、請求項3記載の金属含有フラーレン誘導体。
−CH2−ZMe2− (III)
(一般式(III)中、Zは14族の原子を表わし、Meはメチル基を表わす。)
【請求項6】
該金属原子が、8族遷移金属原子である
ことを特徴とする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体。
【請求項7】
該8族遷移金属原子の配位子としてη5−シクロペンタジエニル基を有する
ことを特徴とする、請求項6記載の金属含有フラーレン誘導体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体を含む
ことを特徴とする、組成物。
【請求項9】
該金属含有フラーレン誘導体を主成分とし、中間相を有する
ことを特徴とする、請求項8記載の組成物。
【請求項10】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体が、自己組織化されてなる
ことを特徴とする、構造体。
【請求項11】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体を有する
ことを特徴とする、液晶ディスプレイ材料。
【請求項12】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体を有する
ことを特徴とする、量子デバイス材料。
【請求項13】
請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属含有フラーレン誘導体を有する
ことを特徴とする、分子スイッチ材料。

【図3】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−126389(P2007−126389A)
【公開日】平成19年5月24日(2007.5.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319750(P2005−319750)
【出願日】平成17年11月2日(2005.11.2)
【出願人】(504137912)国立大学法人 東京大学 (1,942)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】