説明

金属含有微粒子の製造方法

【課題】金属成分(例えば磁性体成分)が溶出し難い金属含有微粒子、その金属含有微粒子の作成に有用な高分子微粒子、またはそれらの製造方法を提供する。
【解決手段】本発明の一つの特徴は、(a)アクリル酸系エステル化合物を1%以上含む重合性単量体と乳化剤とを用いて乳化重合反応を行い、(b)前期乳化重合反応工程で得られる高分子微粒子中のアクリル酸系エステル化合物のエステル結合を所定のpH範囲および所定の温度範囲下で加水分解し、(c)前記加水分解工程で得られる高分子微粒子と二価以上の金属塩とを所定のpH範囲下で混合することによって前記高分子微粒子に含まれるカルボキシル基と前記金属塩中の金属イオンとのイオン交換を行うことによって得られること、を特徴とする高分子微粒子を、(d)300℃以上で炭素化処理することによって得られる金属含有微粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属含有微粒子およびその製造方法に関し、更に詳しくは、診断薬担体、細菌分離担体、細胞分離担体、核酸分離精製担体、蛋白・糖類分離精製担体、固定化酵素担体、ドラッグデリバリー(以下簡単のため「DDS」と記す)担体、さらにはその磁気誘導加熱特性を利用した温熱療法材料および核磁気共鳴吸収特性を利用したMRI診断用造影剤などとして有用な金属含有微粒子とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属含有微粒子(例えば磁性体含有微粒子)は、磁力を利用した分離回収が容易にできる特性を有すること、磁気誘導加熱が可能となることから、主に医学・生化学分野において、診断薬担体、細菌あるいは細胞分離担体、核酸・蛋白・糖類の分離・精製担体、DDS担体、酵素反応担体、細胞培養担体、温熱療法材料、MRI造影剤等として優れた性能が得られるものと期待されている。
【0003】
磁性体含有微粒子の製造法としては、粒子内部に磁性体が存在するタイプの粒子を得る方法として、各種重合法を駆使して磁性ポリマー粒子を製造する様々な方法が知られている。
【0004】
たとえば、親油化処理が施された磁性体をビニル芳香族モノマーを含む有機相に分散させ、この分散体を、ホモジナイザーを用いて水性相へ均質に分散させた後懸濁重合することにより、比較的小粒径の磁性ポリマー粒子を得る方法(特許文献1)が開示されているが、粒子内部における磁性体の均一分散性に劣るものとなり、当該磁性体は、粒子表面近傍に局在化される。このため、磁性ポリマー粒子から鉄イオンが溶出したり、酸性条件下において磁性体が溶解流出したりして磁性ポリマー粒子としての特性が損なわれるという問題がある。
【0005】
また、特定の官能基を有する多孔ポリマー粒子の存在下に鉄化合物を水酸化物として沈澱させ、この鉄化合物を酸化することで、当該多孔ポリマー粒子の内部に磁性体を導入し、2μm以上の大粒径かつ均一径の磁性ポリマー粒子を得る方法(特許文献2)が開示されているが、磁性ポリマー粒子の製造工程が複雑であり、また、磁性体がポリマーによってカプセル化されていないため、鉄イオンが溶出するという問題がある。
【0006】
以上のように、従来の合成法により得られる磁性ポリマー粒子は、鉄イオンの外部への溶出という問題を有するために、鉄イオンの溶出による影響を受けない用途・分野にしか適用することができないのが現状である。このため、磁性体の分散性に優れ、鉄イオンなどを外部に溶出させない新たな磁性粒子の開発が望まれている。
【0007】
また、実用上の観点から、磁性粒子が、水性媒体中で沈降しにくく、均質な分散状態を維持していることが必要である。
【特許文献1】特公平4−3088号公報
【特許文献2】特公平5−10808号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、金属成分(例えば磁性体成分)が溶出し難い金属含有微粒子、その金属含有微粒子の作成に有用な高分子微粒子、またはそれらの製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
・ 本願発明者らは、上記課題に鑑み、鋭意検討の結果、本発明を完成するに到ったものである。本発明は、以下の1または複数の特徴を有する。
(1)本発明の一つの特徴は、(a)アクリル酸系エステル化合物を1%以上含む重合性単量体と乳化剤とを用いて乳化重合反応を行う工程、(b)前期乳化重合反応工程で得られる高分子微粒子中のアクリル酸系エステル化合物のエステル結合を所定のpH範囲および所定の温度範囲下で加水分解する工程、(c)前記加水分解工程で得られる高分子微粒子と二価以上の金属塩とを所定のpH範囲下で混合することによって前記高分子微粒子に含まれるカルボキシル基と前記金属塩中の金属イオンとのイオン交換を行う工程、(d)前記イオン交換工程によって得られる高分子微粒子を300℃以上で炭素化処理することによって前記金属の微粒子が分散担持された炭素化構造物を得る工程、の各工程を含む金属含有微粒子の製造方法である。
(2)好適な実施形態では、前記金属含有微粒子は、体積平均径が50nm以上500nm以下である。
(3)好適な実施形態では、前記炭素化構造物中に分散した金属微粒子の体積平均径は、50nm以下である。
(4)好適な実施形態では、前記乳化重合反応で用いる乳化剤がスルホン酸系界面活性剤である。
(5)好適な実施形態では、前記工程(b)の所定のpH範囲が、8〜14である。
(6)好適な実施形態では、前記工程(b)の所定の温度範囲が、5〜120℃である。
(7)好適な実施形態では、前記工程(c)の所定のpH範囲が、7〜10である。
(8)〜(11)好適な実施形態では、二価以上の金属塩がコバルト塩、またはニッケル塩、または鉄塩、またはコバルト塩、ニッケル塩、鉄塩のなかから選ばれる2種以上の混合物である。
(12)好適な実施形態では、混合した前記二価以上の金属塩の濃度が、混合液中の水に対して高分子微粒子の限界凝集濃度以下である。
【0010】
上記の各特徴を含む本発明のその他の特徴およびそれらの効果は、以下の実施形態および図面によって明らかにされる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、原料の金属の特性に左右されることなく、かつ金属成分が溶出し難い金属含有微粒子(例えば磁性体含有微粒子)が得られ、診断薬担体、細菌分離単体、細胞分離担体、核酸分離精製担体、蛋白・糖類分離精製担体、固定化酵素担体、DDS担体、温熱療法材料、MRI造影剤などとしての応用が期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
本発明における金属含有微粒子、その金属含有微粒子の作成に有用な高分子微粒子、およびそれらの製造方法について、実施形態によって説明する。
【0013】
1.金属含有微粒子
本発明の金属含有微粒子は、金属微粒子が炭化構造物微粒子中に分散した形態を有する。
【0014】
炭素化構造物とは、有機物を出発物質として炭素化処理によって得られる構造物を示す。炭素化処理とは、有機物を加熱処理により有機物内構造の炭素−炭素結合の開裂または炭素−水素結合の分解を発生させ、低分子化物質が揮発する一方で、開裂、分解した結合部位間で重縮合が起こることで巨大分子(炭素構造)化させる処理のことをいう。その処理温度は有機物の構造や性状(固体、液体など)あるいは水、酸素などの存在の有無により大きく左右される。分解時の挙動については、各種熱天秤分析装置を用いてその重量変化から適切な処理温度を把握することができ、ここでは、熱天秤分析装置で分析したときにもとの有機物の水分を除く重量に対し50%以下の重量になったときの温度以上で処理されたものの構造物を炭素化構造物と呼ぶこととする。
【0015】
従来、金属等を樹脂等に包括する技術は存在したが、いずれも包括後の金属微粒子の大きさや磁性特性が磁性体原料のそれに左右されること、磁性体の溶出抑制が困難である等の制約があった。この点、本発明では、上記のように(1)エステル結合を有する単量体を用いて乳化重合によって微細な高分子微粒子を形成する点、(2)生成した高分子微粒子のエステル結合を加水分解してイオン交換性を有するカルボキシル基を持つ高分子微粒子を生成する点、(3)生成した高分子微粒子中のカルボキシル基をイオン交換して適宜所望のイオンを粒子中に固定し、かつ水中に分散したまま炭素化処理する点、(4)金属微粒子を炭素化構造物に包括すること等の、従来の技術にない複数の特徴を有している。特徴(1)により、従来技術では達成できなかった平均径の微粒子が作成される。エステル結合を有する単量体ではなくアクリル酸系単量体を使うことでもイオン交換性微粒子を作成することはできるが、エステル結合を有する単量体を使うことで、特徴(2)により、イオン交換性高分子微粒子中のイオン交換基(カルボキシル基)の量の調整が可能かつ高収率で得ることが可能となる。特徴(3)により、所望の金属組成の微粒子を生成させることが可能となる。特徴(4)により、金属微粒子が焼結(ブロック化)され、かつ、ポリマー由来の炭素化構造物中に固定化された状態となる。したがって、本発明の実施形態により、金属の特性に左右されることのない金属含有微粒子の作製が高収率で可能となり、かつ得られた金属含有微粒子は、金属成分をほとんど溶出することなく保持することが可能となるという従来にはない効果が達成される。
【0016】
2.製造方法
本発明の金属含有微粒子の製造方法としては、特に限定されないが例えば以下の方法によって得ることができる。
【0017】
2−1.高分子微粒子(高分子ラテックス)の作製
まず、アクリル酸系エステルを1%以上含む重合性単量体を原料として高分子微粒子(高分子ラテックス)を作製する。このとき重合方法は、乳化重合によって行うことが、目的とする50nm以上500nm以下の微粒子を作製するにはもっとも適当である。上記体積平均径は、例えば、ハネウェル社製「Microtrack UPA」等の一般的な動的光散乱装置を用いて測定することができる。体積平均径(MV[μm])とは体積で重みづけされた平均径をいい、式(1)で一般的に定義される平均径である。
MV=Σ(V・d)/Σ(V) 式(1)
[(μm)]:粒子iの体積(i=1,2,・・・,N)
[μm]:粒子iの直径(i=1,2,・・・,N)
アクリル酸系エステル化合物が単量体全体の1%以上100%以下であることが好ましい。1%未満であるとその後に続く加水分解処理およびイオン交換処理を通して十分なイオン交換が行われず、後に続く炭素化処理で金属微粒子が生成しないことがある。
【0018】
「重合性単量体」の概念には、モノマー、または、モノマーおよびそのモノマーの重合に適した架橋剤の両者が含まれる。使用する重合性単量体としては、1%以上のアクリル酸系エステル化合物以外に適宜ビニル系モノマー(架橋剤)を用いることができる。
【0019】
アクリル酸系エステル化合物としては、メチル(メタ)アクリレート、エチル(メタ)アクリレート、n−プロピル(メタ)アクリレート、i−プロピル(メタ)アクリレート、n−ブチル(メタ)アクリレート、t−ブチル(メタ)アクリレート、n−ヘキシル(メタ)アクリレート、2−エチルヘキシル(メタ)アクリレート、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、(ポリ)プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができ、これらは単独で使用しても、2種以上を適宜併用してもよく、なかでもメチルメタアクリレート、エチルメタアクリレートが、その入手の容易さや、生産コストの面から好ましい。
ビニル系モノマーとしては、スチレン、α−メチルスチレン、o−ビニルトルエン、m−ビニルトルエン、p−ビニルトルエン、ジビニルベンゼンなどの芳香族ビニル化合物;クロトン酸などの不飽和カルボン酸類;(メタ)アクリロニトリル、シアン化ビニリデンなどのシアン化ビニル化合物;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン、テトラフルオロエチレンなどのハロゲン化ビニル化合物;アクリル酸、メタクリル酸などを挙げることができる。これらは単独で使用しても、2種以上を適宜併用してもよい。
【0020】
上記乳化重合をおこなう際に用いる重合開始剤としては水溶性や油溶性の重合開始剤、熱分解型やレドックス型の重合開始剤などが使用され、たとえば通常の過硫酸塩などの無機開始剤、あるいは有機過酸化物、アゾ化合物などを単独で用いるか、前記化合物と亜硫酸塩、亜硫酸水素、チオ硫酸塩、第一金属塩、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレートなどを組み合わせ、レドックス系で用いてもよい。重合開始剤として好ましい過硫酸塩としてはたとえば過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムなどがあげられ、好ましい有機過酸化物としては、たとえばt−ブチルハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、過酸化ベンゾイル、過酸化ラウロイルなどがあげられる。
これら重合開始剤は、重合性モノマー100質量部に対して、通常0.1〜5質量部の範囲で使用するのが一般的であり、重合時に使用する親水性の重合性モノマー量と、使用する重合開始剤の種類や量を適宜設定することによって、調製するポリマー粒子の粒子径を制御することができる。
【0021】
乳化剤(界面活性剤、または乳化重合剤)としては、公知のものが使用される。例えば脂肪酸塩、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホコハク酸ジエステル塩などのアニオン系界面活性剤や、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の非イオン系界面活性剤などがあげられる。これらは単独で使用しても、2種以上を適宜併用してもよい。なかでもαオレフィンスルホン酸ナトリウム、アルキル硫酸エステル塩、アルキルベンゼンスルホン酸塩、アルキルリン酸エステル塩、スルホコハク酸ジエステル塩といったスルホン酸系界面活性剤(例えばスルホン酸系のアニオン系界面活性剤)が、その後のイオン交換時に高分子ラテックスの安定性を維持したままの処理が容易となり好ましい。
【0022】
重合反応時の温度や時間なども特に限定はなく、使用目的に応じて所望の重量平均分子量になるように適宜調整すればよい。
【0023】
重合反応時のpHも特に限定はなく、使用するモノマーや界面活性剤によって適宜調整すればよい。
【0024】
2−2.高分子ラテックス中のエステル加水分解反応
上記重合方法によって得られた高分子ラテックス中に含まれるエステル結合をアルカリ水中において加水分解処理によってカルボキシル基を生成させる。このとき処理pHは8〜14でおこなうことが、加水分解処理の生産性の観点から好ましい。また、処理温度は50〜120℃でおこなうことが、処理にかかる生産コストおよびラテックスの安定性の観点から好ましい。
【0025】
このとき、加水分解の反応率は、ポリマーを塩酸によってpH滴定してカルボキシル基に由来する2つの変曲点間の滴定量(滴定モル数)をその中に含まれるエステル量(エステル化合物のモル数)で割ることによって計算できる。pH滴定の事例を図1に示す。図1に示す滴定結果からは、エステル化合物のモル数に対する滴定の変曲点間の使用された塩酸のモル数が0.5であることから、反応率は50%と計算される。
【0026】
加水分解の反応率は、1%以上100%以下とすることが、このあとに続くイオン交換処理で高分子微粒子内全体的にイオン交換が行われるために好ましい。
【0027】
2−3.高分子ラテックスと金属塩水溶液との混合(イオン交換)
2−2.までの処理によって得られた高分子ラテックスを金属塩水溶液と混合することによって、イオン交換を行う。このとき金属塩水溶液は特に限定されないが、二価以上の金属塩が金属微粒子を形成するのに好ましい。
【0028】
二価以上の金属塩としては、特に限定されないが、硝酸コバルト、硫酸コバルト、塩化コバルトなどのコバルト塩;硝酸ニッケル、硫酸ニッケル、塩化ニッケルなどのニッケル塩;硝酸銅、硫酸銅、塩化銅などの銅塩;硝酸鉄、硫酸鉄、塩化鉄などの鉄塩;硝酸アルミニウム、硫酸アルミニウム、塩化アルミニウムなどのアルミニウム塩;硝酸マグネシウム、硫酸マグネシウム、塩化マグネシウムなどのマグネシウム塩;硝酸銀、塩化銀、硫酸銀などの銀塩などを挙げることができ、このうちコバルト塩、ニッケル塩、鉄塩は、生成する金属微粒子を磁性体として発現させるには好ましい。
【0029】
金属塩水溶液の濃度は、これも特に限定されないが、高分子ラテックスの限界凝集濃度以下としたものを用いるのが、高分子ラテックスが水中に分散したまま後に続く炭化処理を行えるため、好ましい。
高分子ラテックスの限界凝集濃度とは「分散・乳化系の化学」北原文雄、古澤邦夫共著、工学図書、p.113(1991)などに示されるように、高分子ラテックスの持つ静電反発力より生み出される分散状態が塩によって破壊される臨界濃度にあたり、高分子ラテックスが急凝集をおこす臨界濃度である。この臨界濃度以下であれば、後述する炭素化処理終了までに高分子ラテックスが水中に分散したまま残存する量が多いため好ましい。
限界凝集濃度の測定法としては、「分散・乳化系の化学」北原文雄、古澤邦夫共著、工学図書、p.129(1991)に示されるように、各種金属塩濃度に調製された水溶液を作製しそれに高分子ラテックスを滴下して光の透過率で測定する方法もある。その他の限界凝集濃度の測定法としては、各種金属塩濃度に調製された水溶液を作製しそれに高分子ラテックスを滴下して凝集体の生成の有無を目視により確認する方法もある。
【0030】
高分子ラテックスと混合する金属塩水溶液中の金属塩の量としては、高分子ラテックス中に含まれるカルボキシル基の全量に対して0.001〜2当量とするのが、効率的に微小磁性体を形成させるのに好ましく、0.01〜1当量とするのがさらに好ましい。
【0031】
高分子ラテックスを金属塩水溶液と混合するときのpHは、これも限定されないが、高分子ラテックス中のアクリル酸またはメタクリル酸あるいはその他の単量体由来のカルボキシル基と金属塩中の金属イオンとのイオン交換が効率的に行われる範囲であることが磁性体生成させるためには好ましい。具体的にはpH3〜11が好ましく、さらにはpH7〜10がより好ましい。pHが7〜10であれば、イオン交換が効率的に行われ、金属が微粒子として分散させやすくなる。好適な実施形態では、pHは7以上9以下、またはpH7.5以上8.5以下、またはpH約8である。
【0032】
得られた高分子ラテックスは、後述炭素化処理によって金属含有微粒子とする場合のほか、水中の不純物としての塩類を回収するイオン交換性樹脂等に利用可能である。
【0033】
2−4.炭素化処理
高分子ラテックスを金属塩水溶液と混合することにより高分子ラテックス中のカルボキシル基と金属塩中の金属イオンとのイオン交換処理をした水溶液(以後「高分子含有水溶液」と呼ぶ)を、引き続き、炭素化処理により炭素化することができる。
【0034】
炭素化処理の温度としては、先に述べたように、熱天秤分析装置で分析したときにもとの有機物の水分を除く重量に対し50%以下の重量になったときの温度以上とする。ここで通常のアクリル系単量体を主成分とする高分子では、特に限定されないが熱分解させるに必要な温度範囲と生産性の観点から300℃以上1500℃未満が好ましい。300℃未満では炭素化が十分進行しない。一方1500℃以上では水熱処理時の内圧上昇が激しく、不必要に高圧での処理となってしまう恐れがある。
【0035】
炭素化処理前の高分子含有水溶液に対して、必要に応じて水を追加することができる。このとき水の量は、高分子含有水溶液中の高分子の濃度が0.0001%以上50%未満となるように追加するのが、取り扱いやすさおよび微粒子の収率の面から好ましい。0.0001%未満であれば、必要量に比べて処理する水溶液量が膨大となるため効率的でなく、50%以上では高分子微粒子間距離が小さいため炭素化処理時に凝集する恐れがある。
【0036】
炭素化処理装置としては、特に限定されないが、一般的な耐圧撹拌槽または耐圧容器を用いることができる。加熱媒体としては、これも限定されないが、ジャケットあるいは内部コイルによる加熱方法、耐圧容器をサンドバスなどの熱媒体に投入する方法などが挙げられる。
【0037】
炭素化処理によって生成する金属微粒子(「炭素化構造物中に分散した金属微粒子」に対応)の体積平均径は50nm以下であることが、磁性体としての効果の上で好ましい。50nm以上とすると、包括される金属微粒子の磁化率や磁化量の均一性が損なわれる恐れがある。
【0038】
2−5.金属含有微粒子の適用例
以上によって得られる水溶液は、金属含有微粒子が水中に分散したものとして得られ、含有される金属微粒子が磁性体である場合は、これをそのまま診断薬担体、細菌分離担体、細胞分離担体、核酸分離精製担体、蛋白・糖類分離精製担体、固定化酵素担体、DDS担体、温熱療法材料、MRI造影剤などの用途として用いることが期待される。
金属含有微粒子が水中に分散したものは、その用途に応じて、水で希釈あるいは濃縮することができる。希釈方法としては、特に限定されないが、撹拌槽で金属含有微粒子水溶液と水とを混合する方法が一般的である。濃縮方法としては、これも限定されないが、撹拌槽内で加熱して水を揮発させる方法、スチームストリッピング処理、エバポレーターなどの濃縮装置などを用いることができる。
【実施例】
【0039】
実施例にて用いた各種測定法は以下の通りである。
【0040】
(限界凝集濃度の測定)
尚、実施例中、限界凝集濃度は以下の方法で測定した。限界凝集濃度は、上述したように高分子ラテックスの持つ静電反発力より生み出される分散状態が塩によって破壊される臨界濃度にあたり、その濃度以上では急凝集を起こす。限界凝集濃度は、例えば吸光度によって測定できるほか、凝集の有無が確認できる程度で十分なため目視にて十分確認できる。
まず、イオン交換させる無機塩(すなわち、高分子ラテックス中のカルボキシル基と金属塩中の金属イオンとの間でイオン交換処理を行う金属塩水溶液)を用いて各濃度の水溶液を調製する。本実施例においては、様々な濃度に調整した50mlの水溶液を50ml遠心管(アズワン社製:ねじ口遠沈管)に用意し、そこに2mlのアクリル酸高分子ラテックスを加え、攪拌する。その後、大気圧室温下で1時間静置し、凝集体の有無を観察する。このとき凝集する最小濃度を限界凝集濃度とした。
(TEM観察)
実施例中、TEM(Transmission Electron Microscope)観察には、日本電子(株)製透過型電子顕微鏡JEM−1011を用いた。
【0041】
(pH測定)
また、実施例中のpHとは、日本工業規格pH測定方法(JIS Z 8802 1984)によって測定された値のことを示し、pHの測定値は、採取したサンプルをビーカーなどの容器に入れ、25℃に保温したウォーターバスなどの中でサンプル温度が25℃になったことを確認して測定した値をいう。測定には(株)堀場製作所製D−51Sを用いた。
【0042】
(実施例1)
(1)高分子微粒子(高分子ラテックス)の作製
以下に実施例を示して、本発明の具体的な実施形態をより詳細に説明するが、これらは何ら本発明を限定するものではない。
邪魔板を4枚入れたセパラブルフラスコ(アズワン社製:筒型2000ml、口内径120mm、胴径130mm、高さ230mm)に蒸留水1250mlを加え、乳化剤としてドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウムを4.8g添加した。さらにメタクリル酸メチルモノマーを480gを添加した。
水酸化ナトリウム水溶液を用いて上記の溶液のpHを12に調整した。
上記セパラブルフラスコを密閉し70℃に設定した恒温水槽で温浴させた。反応器内の酸素を除去するために同時に窒素の流入を開始し、攪拌数を800rpmに設定し攪拌を開始した。撹拌翼には6枚パドル翼(内径50mm)を用いた。
1時間後、セパラブルフラスコ内の温度が70℃に達していることを確認して、重合開始剤の過硫酸カリウム0.144g加えて重合を開始した。
4時間後ほぼ重合が完了したところで攪拌を停止し、さらに窒素ガスの供給を停止し、高分子ラテックス(A)(以下、製造工程で得られる要素を適宜A、B、C、D等の記号によって表す)を回収した。
【0043】
(2)高分子ラテックスの加水分解
上記(1)で回収した高分子ラテックスと1Nの水酸化ナトリウム水溶液を混合してラテックスのpHを10.5とし、30℃に加温しながらスターラーで10時間撹拌して反応させた。このとき、加水分解の進行にともなってpHが低下するため、pHを監視しながら1Nの水酸化ナトリウム水溶液でpHが10.5で一定となるようにした。これによって加水分解高分子ラテックス(B)を得た。この加水分解ラテックス(B)の加水分解反応率は46%であった。
【0044】
(3)高分子ラテックスと金属塩水溶液との混合(イオン交換)
上記(2)で回収した加水分解高分子ラテックス(B)の限界凝集濃度を測定したところ、7.0mmol/Lであったため、6.0mmol/Lの硝酸コバルト水溶液を調製して、この硝酸コバルト水溶液230mlに対して加水分解高分子ラテックス(B)を1ml加えて高分子微粒子中のカルボキシル基をイオン交換させた。このときイオン交換を十分進行させるために水酸化ナトリウムを加えてpHを8.2に調整した。これによって水溶液(C)を得た。
【0045】
(3)炭素化処理
イオン交換処理した水溶液(C)を図2に示す炭素化装置の耐圧耐熱反応器2(容量6ml)に2ml入れた。炭素化装置は、当業者に周知の装置を利用すればよい。図2に示す炭素化装置は、例示として、圧力計4、パージバルブ6、窒素ボンベ8を備える。反応器2を取り付けて、窒素ボンベ8およびパージバルブ6の操作により、窒素ガスで加圧(0.3MPaG)とパージを30回繰り返して反応器1の内部の酸素を除去した。
【0046】
図3に示す流動サンドバスを予熱し300℃にした。流動サンドバスは、当業者に周知の装置を利用すればよい。図3の流動サンドバス10は、例示として、耐圧耐熱反応器12、圧力計14、パージバルブ16、コンプレッサー18、温度コントローラー20を備える。用意した反応器12をサンドバス10に入れてサンドバス10を10℃/分の昇温速度で500℃まで加熱する。反応器12内が500℃に達したら30分加熱し続けて取り出して反応器12ごと水冷する。
【0047】
反応器が十分冷却されたら反応器内から水溶液を取り出して、目的とする微粒子(金属含有微粒子)の水溶液(D)を得た。
【0048】
(4)金属含有微粒子の観察
得られた水溶液(D)を100mlビーカーに移して撹拌子を入れずにスターラーで撹拌すると水溶液(D)が撹拌される様子が確認された。
【0049】
さらにこの水溶液(D)を乾燥してTEM観察すると図4に示すように、炭素化構造物微粒子内に分散したコバルト粒子(金属微粒子)が観察された。このとき図4の炭素化された微粒子の粒子径は約200nm、炭素化構造物微粒子中のコバルト粒子の粒子径は約10nmであった。図4に示すように、本実施例により、従来技術では達成できなかった極めて小さい平均径の金属組成の微粒子が生成されるとともに、その金属微粒子が焼結(ブロック化)され、かつ、金属微粒子を炭素化物質に包括する金属含有微粒子を作成することができた。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】図1は、加水分解の反応率を算出するためにHCl滴定したときの滴定曲線図である。
【図2】図2は、本発明の実施例にもちいた水熱炭素化処理の耐圧耐熱反応器の説明図である。
【図3】図3は、本発明の実施例にもちいた流動サンドバスの説明図である。
【図4】図4は、本発明の実施例で得られた磁性体含有微粒子のTEM観察をおこなった写真図である。
【符号の説明】
【0051】
2 耐圧耐熱反応器
4 圧力計
6 パージバルブ
8 窒素ボンベ
10 流動サンドバス
12 耐圧耐熱反応器
14 圧力計
16 パージバルブ
18 コンプレッサー
20 温度コントローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)アクリル酸系エステル化合物を1%以上含む重合性単量体と乳化剤とを用いて乳化重合反応を行う工程、
(b)前期乳化重合反応工程で得られる高分子微粒子中のアクリル酸系エステル化合物のエステル結合を所定のpH範囲および所定の温度範囲下で加水分解する工程、
(c)前記加水分解工程で得られる高分子微粒子と二価以上の金属塩とを所定のpH範囲下で混合することによって前記高分子微粒子に含まれるカルボキシル基と前記金属塩中の金属イオンとのイオン交換を行う工程、
(d)前記イオン交換工程によって得られる高分子微粒子を300℃以上で炭素化処理することによって前記金属の微粒子が分散担持された炭素化構造物を得る工程、
の各工程を含む金属含有微粒子の製造方法。
【請求項2】
体積平均径が50nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1に記載の前記金属含有微粒子。
【請求項3】
炭素化構造物中に分散した金属微粒子の体積平均径が50nm以下であることを特徴とする請求項1または2に記載の前記金属含有微粒子。
【請求項4】
前記乳化重合反応で用いる乳化剤がスルホン酸系界面活性剤であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の前記高分子微粒子の製造方法または金属含有微粒子の製造方法。
【請求項5】
前記工程(b)の所定のpH範囲が、8〜14であることを特徴とする請求項1〜4のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項6】
前記工程(b)の所定の温度範囲が、5〜120℃であることを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項7】
前記工程(c)の所定のpH範囲が、7〜10であることを特徴とする請求項1〜6のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項8】
二価以上の金属塩がコバルト塩であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項9】
二価以上の金属塩がニッケル塩であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項10】
二価以上の金属塩が鉄塩であることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項11】
二価以上の金属塩が、コバルト塩、ニッケル塩、鉄塩のなかから選ばれる2種以上の混合物よりなることを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の前記製造方法。
【請求項12】
混合した前記二価以上の金属塩の濃度が、混合液中の水に対して高分子微粒子の限界凝集濃度以下であることを特徴とする請求項1〜11のいずれか1項に記載の前記製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2009−293052(P2009−293052A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−111506(P2007−111506)
【出願日】平成19年4月20日(2007.4.20)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】