説明

金属吸着性焼結多孔体およびその製造方法

【課題】金属吸着性を示す機能性吸着材粒子の優れた機能を損なうことなく、機能性吸着材粒子が強固に固定された金属吸着性焼結多孔体を提供する。
【解決手段】機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体とを適切な割合で混合後、熱可塑性樹脂の融点付近の温度で加熱・焼結し、熱可塑性樹脂粉体の融着により、連続孔を有する焼結体の内部に機能性吸着材粒子を固定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、熱可塑性樹脂粉体の融着により形成される連続気孔をもつ焼結多孔体内部にキレート樹脂粒子あるいはイオン交換樹脂粒子からなる機能性吸着材粒子を固定した金属吸着性焼結多孔体およびその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
重金属には高い有害性を示すものが多いところから、環境中への排出に関しては厳しい規制が行われている。そのため、環境中に排出される工場排水や、各種の製品の製造に使用される用水、さらには飲料水等の中から有害重金属を取り除くことが必要である。また、廃棄電子機器中には希少金属が大量に含まれており、これらは都市鉱山とも呼ばれる貴重な資源であるため、これらに含まれる有価金属の回収も必要とされている。
【0003】
被処理溶液から重金属を除去するための材料として、イオン交換樹脂やキレート樹脂が用いられている。しかし、イオン交換樹脂を使用してこれらの重金属を除去しようとすると、これらの被処理溶液中に含まれる高濃度の塩類や有機物のために重金属の除去が困難な場合が多い。このために、特許文献1および特許文献2に開示されているようにキレート樹脂を利用した重金属の除去の技術が提案されている。また、特許文献3ないし6に開示されているように有価金属の回収にも金属選択性の高いキレート樹脂の使用が提案されている。
【0004】
キレート樹脂は、重金属の除去回収について有効な吸着材であると思われるが、これらの先行文献に提案されているキレート樹脂の形態は粒子・粉体状であるため、何らかの管体に充てんして使用しなければならないなどキレート樹脂の粒状・粉体状という形状に伴う問題や不便さがある。さらに、粒状・粉体状という形状であるため、重金属を吸着させた後、再生しようとする場合、まず粒状・粉体状のキレート樹脂を管体から抜き取り、キレート樹脂を再生し、再度管体へ充てんしなければならないなどの煩雑な作業が必要となる。
【0005】
このような問題に対し、キレート能を有する繊維が提案されている。特許文献7には化学的なグラフト法によりキレート性官能基が導入された繊維が、また特許文献8および特許文献9には放射線照射グラフト重合法により合成繊維にキレート性官能基が導入された繊維が開示されている。
【0006】
しかしながら、これらのキレート性官能基が導入された繊維を製造しようとすると、放射線照射装置が必要であったり、繊維にキレート性官能基をグラフトするなど製造工程は煩雑かつ複雑であるという問題がある。しかもキレート性官能基は、繊維の表面のみに導入されるので、繊維では比表面積が少なく、繊維の単位重量あるいは単位面積当たりの重金属の吸着量を多くすることができない。これらの点から重金属の吸着量の大きいイオン交換樹脂やキレート樹脂等の粒子状の形態の吸着材に注意がはらわれることになる。
【0007】
一方、粒子状の吸着材を取り扱いの容易な成型品を得る方法として、熱可塑性樹脂の焼結多孔体(一般に、プラスチック焼結フィルタとよばれる)内部に、活性炭をはじめとする無機系の粒子状吸着材を保持させるという方法が提案されている。たとえば、特許文献10には、熱可塑性樹脂としてポリエチレンを用いて活性炭の粒状物などを保持させたフィルタが開示されている。また、特許文献11に、ポリエチレンやポリプロピレン等の熱可塑性樹脂粉体と市販のイオン交換樹脂の粒子との混合物を焼結して、熱可塑性樹脂の多孔質焼結体のマトリックス中にイオン交換樹脂粒子が一体化された結合製品が開示されている。
【0008】
ところで、汎用のイオン交換樹脂やキレート樹脂は、水中で高度に膨潤して細孔を生じるという特性を有する。乾燥体積を基準とすると、水中での膨潤体積は数倍以上にもなる。膨潤しなければ細孔は生まれず、非膨潤状態での比表面積は数十m/g以下と非常に小さい。このため、イオン交換樹脂やキレート樹脂の粒子を十分に水中で膨潤させた後、管体等に充てんして使用する。しかし、細孔を生じていない非膨潤状態の粒子を熱可塑性樹脂粉体に混合して焼結多孔体を作製しても、その粒子のもつ機能を十分に発揮することができない。そして、水中で使用しても、イオン交換樹脂やキレート樹脂の粒子の周囲は、熱可塑性樹脂との融着によって固定されていて十分に膨潤することができないため、機能性樹脂本来の機能を十分に発揮させることは不可能である。一部が膨潤して細孔を広げたとしても、焼結多孔体が形成する細孔の閉塞を引き起こしてしまう。さらに、膨潤・収縮が繰り返されると、熱可塑性樹脂との融着状態が崩れて、焼結多孔体から脱離・漏出が生じるおそれもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開2001−70989号公報
【特許文献2】特開2001−9481号公報
【特許文献3】特開2005−238181号公報
【特許文献4】特開2002−249828号公報
【特許文献5】特開2002−173665号公報
【特許文献6】特開2002−80918号公報
【特許文献7】特開2001−113272号公報
【特許文献8】特許4119966号公報
【特許文献9】特許3247704号公報
【特許文献10】特表2008−500165号公報
【特許文献11】特開平07−204429号公報
【特許文献12】特開2008−221611号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、これらの点にかんがみてなされたもので、単位重量ないし単位面積当たりの金属の吸収量が高く、しかも共存する塩類や有機物の影響を受けることがなく、取扱いが容易で、製造が簡便でしかも各種の要求を満たしやすい金属吸着性の焼結多孔体およびその製造方法を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、鋭意研究を行った結果、特定の機能性樹脂粒子10〜70重量%および熱可塑性樹脂粉体90〜30重量%からなる粒子と粉体との混合物を熱可塑性樹脂の融点付近の温度で加熱・焼結することにより製造された焼結多孔体が、単位重量ないし単位表面積あたりの金属吸着量が高く、しかも共存する塩類や有機物の影響を受けることなく、取扱いが容易で、製造方法が簡便で、しかも各種の要求を満たしやすい金属吸着性の焼結多孔体となるという知見に基づいてなされたものである。
【0012】
より詳しくは、本発明は、
以下の(i)または(ii)から選ばれる機能性樹脂粒子10〜70重量%および熱可塑性樹脂粉体90〜30重量%からなる粒子と粉体との混合物を熱可塑性樹脂の融点付近の温度で加熱・焼結することを特徴とする金属吸着性の焼結多孔体を製造する方法とこのようにして製造された金属吸着性の焼結多孔体に関するものである。
(i)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマー10〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー30〜90重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られた多孔質の架橋高分子担体粒子を、平均分子量が200〜600のポリエチレンイミンと反応させ、ついでハロゲン化酢酸と反応させてカルボキシメチル化した機能性樹脂粒子。または
(ii)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマー0〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー100〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を、細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られる多孔質の架橋高分子担体粒子にさらにアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入して多孔質の架橋高分子担体粒子を製造し、この架橋高分子担体粒子を平均分子量が200〜600のポリエチレンイミンと反応させ、ついでハロゲン化酢酸と反応させてカルボキシメチル化した機能性樹脂粒子。
【0013】
さらに、(i)および(ii)の多孔質の架橋高分子担体粒子は、水系懸濁重合方法により製造されたものであるか、あるいは塊状重合により製造された多孔質の架橋高分子を粉砕・分級して製造されたものである。
機能性樹脂粒子と混合する熱可塑性樹脂粉体の樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物、およびこれらの樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂混合物が使用される。ポリエチレンやポリプロピレンと混合して使用することができる樹脂としては、たとえばエチレン−酢酸ビニル共重合体あるいはエチレン−ビニルアルコール共重合体があげられる。この混合使用される熱可塑性樹脂の使用割合は、ポリエチレン、ポリプロピレンまたはポリエチレンとポリプロピレンの混合物と同じ重量まで添加混合して使用してもよい。
【0014】
さらに、機能性樹脂粒子の重量の30重量%まで、以下の(a)または(b)の陰イオン交換樹脂粒子で置換することができる。
(a)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマー10〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー90〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られた多孔質の架橋高分子担体粒子をアミンと反応させて陰イオン交換基とした陰イオン交換樹脂粒子。
(b)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマー0〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー100〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を、細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られる多孔質の架橋高分子担体粒子にさらにアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入して多孔質の架橋高分子担体粒子をアミンと反応させて陰イオン交換基とした陰イオン交換樹脂粒子。
すなわち、機能性樹脂粒子と陰イオン交換樹脂粒子の混合割合は、100〜70重量%:0〜30重量%の範囲である。
陰イオン交換樹脂粒子は、金属オキソ酸類の吸着特性の改善のために混合されるものであり、混合しても混合しなくてもよい。ただし、大量に混合した場合には、キレート樹脂粒子の金属吸着特性が極度に減少してしまうおそれがあるため、30重量%以下、好ましくは20重量%以下で混合される。
陰イオン交換樹脂を製造する場合に使用されるアミンは、どのようなものであってもよいが、低分子アミンを用いることが好ましく、たとえば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−アミノエタノール等の一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチル−2−アミノエタノール等の二級アミン、トリチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール等の三級アミンがあげられる。
【0015】
機能性樹脂粒子と熱可塑性樹脂粉体との粒子と粉体との混合物を熱可塑性樹脂の融点付近の温度で加熱・焼結すると、混合物中の熱可塑性樹脂粉体は、その表層付近が融着して相互に結合し、多孔質で三次元網目状の構造を形成するが、この際機能性樹脂粒子がこの網目状の構造中に固定された焼結体となるので、機能性樹脂粒子の機能を損なうことなく、取り扱いが容易で各種要求に対応しやすい金属吸着性の焼結多孔体を製造することができる。この際、機能性樹脂粒子の表面と熱可塑性樹脂粉体の表面とが融着により結合して一体的になることも予想される。
【0016】
細孔調節剤となる溶媒は、ビニルモノマーと相溶性をもちかつ重合反応に寄与しない溶媒を意味し、生成した高分子を多孔質にするとともに、比表面積を大きくするために必要なものであり、溶媒(細孔調節剤)の種類と量により細孔径および比表面積を調節する。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択される。これら溶媒(細孔調節剤)の使用量が少なすぎると十分な細孔径および比表面積を得るとことはできない。一方、細孔調節剤の量が多すぎる場合には、軟質になって膨潤度合いが大きくなるとともに、細孔径が大きくなり過ぎて比表面積が小さくなるとともに機械的強度が低下する、さらには、水系懸濁重合を用いる場合には粒子が形成されないなどの問題が生じる。したがって、重合させるモノマー総量100重量部に対して50〜200重量部、好ましくは100〜200重量部の範囲で使用する。
【0017】
アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基、酸無水物基などがあげられる。
ハロゲン化アルキル基を有するビニルモノマーとしては、たとえばクロロメチルスチレン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート等があげられる。
エポキシ基を有する官能性モノマーとしては、たとえばグリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等があげられる。
酸無水物基を有するビニルモノマーとしては、たとえば無水マレイン酸があげられる。
アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマーとしては、二次反応によりハロゲン化アルキル基あるいはエポキシ基を導入しやすいビニルモノマーが好ましく、たとえばスチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0018】
2個以上のビニル基を有する架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族架橋性モノマー、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレート等の多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のシアヌル酸骨格を有する架橋性モノマーなどがあげられる。
【0019】
多孔質の架橋高分子担体粒子とポリエチレンイミンとを反応させて、ポリエチレンイミンを導入するが、このポリエチレンイミンの導入反応は、公知のとおりである。たとえば、ポリエチレンイミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、その溶液中に反応性官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体を分散させ、撹拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応を行う。ただし、アミド構造で導入されたものを還元する必要がある場合には、LiALH、BH−THFを用いた公知の方法で還元する。
【0020】
ポリエチレンイミンを多孔質の架橋高分子担体に導入後、公知の方法により、アルカリ条件下でハロゲン化酢酸を用いてカルボキシメチル化を行う。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等が用いられる。アルカリ濃度に関しては特に規定はしないが、一般には0.5〜3mol/Lの水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等を用いる。カルボキシメチル化して得られたキレート樹脂粒子は、水、酸、水の順に洗浄し、目的に応じて対イオン交換を行った後、乾燥して、金属吸着性焼結多孔体製造に供せられる。
本発明で使用する樹脂などについては、発明を実施するための形態のところでさらに説明する。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、多孔質の架橋高分子担体を基材とする機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体とを混合し、熱融着法を用いて焼結多孔体を製造することにより、機能性吸着材粒子のもつ金属吸着性を損なうことなく、工場排水、用水、環境水等の中の重金属除去回収に適した金属吸着性の焼結多孔体を得ることができる。本発明の金属吸着性の焼結多孔体は、使用目的に適した金型を用いることにより、多彩な形状を有する金属吸着性の焼結多孔体を得ることが可能である。すなわち、金型の変更により、平板状や円盤状、円柱状や角柱状、中空の円筒状や角筒状、さらには、これらの一端を閉塞させたカップ状等の多彩な成形体とすることが可能である。この金属吸着性焼結多孔体の使用に当たっては、粒子状の吸着材のように管体に充てんして使用するということも可能ではあるが、本発明の金属吸着性の焼結多孔体を流路に差し込む、あるいは槽内に投入するだけでよく、作業性が大幅に改善される。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1は、実施例1の金属吸着性の焼結多孔体Aとその製造に用いたキレート樹脂粒子aの金属吸着特性の比較を行ったグラフである。そして、図1a、図1b、図1c、図1d、図1e、図1f、図1g、図1h、図1i、図1j、図1k、図1lは、それぞれ五価ヒ素As(V)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znの各pHにおける吸着特性比較を示すものである。
図2は、実施例1の金属吸着性の焼結多孔体Aと実施例2の金属吸着性の焼結多孔体Bとの金属吸着特性の比較を行ったグラフである。そして、図2a、図2b、図2c、図2d、図2e、図2f、図2g、図2h、図2i、図2j、図2k、図2lは、それぞれ五価ヒ素As(V)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znの各pHにおける吸着特性比較を示すものである。
図3は、実施例3の金属吸着性焼結多孔体Cとその製造に用いた混合機能性樹脂粒子dの金属吸着特性の比較を行ったグラフである。そして、図3a、図3b、図3c、図3d、図3e、図3f、図3g、図3h、図3i、図3j、図3k、図3lは、それぞれ五価ヒ素As(V)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znの各pHにおける吸着特性比較を示すものである。
図4は、実施例3の金属吸着性の焼結多孔体Cとキレート樹脂粒子bとの金属吸着特性の比較を行ったグラフである。そして、図4a、図4b、図4c、図4d、図4e、図4fは、それぞれカドミウムCd、ニッケルNi、鉛Pb、五価ヒ素As(V)、モリブデンMo、バナジウムVの各pHにおける吸着特性比較を示すものである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明において用いる機能性吸着材粒子の基材となる多孔質の架橋高分子担体は、アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマーとビニル基を2個以上有する架橋性モノマーとをこれらビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒の存在下で共重合させて得られる多孔質の架橋高分子担体粒子、あるいは、アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマーとビニル基を2個以上有する架橋性モノマーとを細孔調節剤となる溶媒の存在下で共重合させて得られる多孔質の架橋高分子に二次的な反応によりアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入したものである。
【0024】
機能性吸着材粒子の焼結多孔体内での膨潤による問題を解消させるため、本発明の多孔質の架橋高分子担体におけるビニル基を2個以上有する架橋性モノマーの量は、全モノマーの重量に対して30%以上である。アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマーとの共重合により多孔質の架橋高分子担体を得る場合には、金属吸着性を示すアミン系化合物を反応させる官能基が10重量%未満では金属吸着量が低くなりすぎるため、架橋性モノマーの量は30〜90重量%の範囲である必要がある。アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマーとの共重合により多孔質の架橋高分子担体を得る場合には、アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基は二次反応により導入するため、架橋性モノマーの量は30〜100重量%の範囲でよい。
【0025】
アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマーの官能基としては、ハロゲン化アルキル基、エポキシ基、酸無水物基などがあげられる。ハロゲン化アルキル基を有する反応性モノマーとしては、例えば、クロロメチルスチレン、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルメタクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−クロロエチルメタクリレート、2−クロロエチルアクリレート等があげられる。エポキシ基を有する官能性モノマーとしては、例えば、グリシジルメタクリレート、グリシジルアクリレート、ビニルベンジルグリシジルエーテル等があげられる。酸無水物基を有するビニルモノマーとしては、例えば、無水マレイン酸があげられる。
【0026】
上記モノマーと共重合が可能なビニル基を2個以上有する架橋性モノマーとしては、ジビニルベンゼン、ジビニルナフタレン等の芳香族架橋性モノマー、エチレンジメタクリレート、ジエチレングリコールジメタクリレート、グリセリンジメタクリレート、トリメチロールプロパントリメタクリレート、ネオペンチルグリコールトリメタクリレート等の多官能メタクリレート系モノマー、エチレンジアクリレート、ジエチレングリコールジアクリレート、グリセリンジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、ネオペンチルグリコールトリアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート等の多官能アクリレート系モノマー、この他、トリアリルイソシアヌレート、トリメタアリルイソシアヌレート等のシアヌル酸骨格をもつ架橋性モノマー等があげられる。
【0027】
本発明では、アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマーとビニル基を2個以上有する架橋性モノマーとの共重合により得られる多孔質の架橋高分子に二次反応によりアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入した多孔質の架橋高分子担体粒子を使用することが可能である。二次反応によりアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入する場合、酸無水物基を導入することも可能ではあるが、導入反応が煩雑であるため、本発明においては、ハロゲン化アルキル基あるいはエポキシ基を導入する。二次反応によりハロゲン化アルキル基あるいはエポキシ基を導入しやすいモノマーとしては、フェニル基、水酸基、アミノ基などをもつモノマーが用いられる。このようなモノマーとしては、例えば、スチレン、エチルビニルベンゼン、ビニルナフタレン、2−ヒドロキシエチルメタクリレート、グリセリンメタクリレート、ネオペンチルグリコールメタクリレート、トリメチロールプロパンメタクリレート、N,N−ジエチルアミノエチルメタクリレートなどがあげられる。
【0028】
本発明においては、非膨潤状態においても十分な比表面積を有する多孔質の高分子担体粒子である必要があるため、ビニルモノマーの共重合時に、ビニルモノマーと相溶性を持ちかつ重合反応に寄与しない細孔調節剤となる溶媒を存在させて共重合を行う。細孔調節剤は生成した高分子を多孔質にするとともに、比表面積を大きくするために必要なものであり、細孔調節剤の種類と量により細孔径および比表面積を調節する。細孔調節剤は、使用するモノマーの物性により適宜選択されるものであるが、一般的に、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素、酢酸ブチル、フタル酸ジメチルなどのエステル類、アミルアルコール、オクチルアルコールなどの難溶性アルコール類、オクタン、ドデカンなどのパラフィン類が使用される。これら細孔調節剤の使用量が少なすぎると十分な細孔径および比表面積を得るとことはできない。一方、細孔調節剤の量が多すぎる場合には、軟質になって膨潤度合いが大きくなる、細孔径が大きくなり過ぎて比表面積が小さくなるとともに機械的強度が低下する、さらには、水系懸濁重合を用いる場合には粒子が形成されないなどの問題が生じる。したがって、重合させるモノマー総量100重量部に対して50〜200重量部、好ましくは100〜200重量部の範囲で使用する。多孔質の架橋高分子担体の細孔径、比表面積は吸着対象成分や共存成分の特性にも依存するが、本発明においては、非膨潤時の細孔物性として、平均細孔径4〜50nm、比表面積100〜1000m/gのものを用いるのが好ましい。
【0029】
多孔質の架橋高分子担体を製造する場合の共重合反応としては、水系懸濁重合法、塊状重合法などの公知の重合方法を用いることが可能である。ただし、無水マレイン酸などの酸無水物基を有するモノマーを使用する場合は、水系懸濁重合で重合することはできない。水系懸濁重合で多孔質の高分子粒子を得る場合、ポリビニルアルコールや水溶性セルロースなどの水溶液中に重合性モノマー、細孔調節剤、重合開始剤の混合溶液を入れ、撹拌羽根、ホモミキサー、スターティックミキサー等を用いて適切な油滴径に分散した後、加温により重合反応を開始させて粒子状の高分子を得る。塊状重合法を用いる場合には、重合性モノマー、細孔調節剤、重合開始剤の混合溶液を加温して重合反応を開始させて塊状の高分子を得る。その後、ハンマーミル、ロールクラッシャー、ボールミル等を用いて粉砕後、目的の粒子径に分級して使用する。
【0030】
高度に膨潤する機能性吸着材粒子を用いて焼結多孔体を成形した場合には、焼結多孔体の細孔の閉塞や機能性吸着材粒子の脱離などの問題が生じるため、本発明においては機能性吸着材粒子の膨潤度を押さえるため、膨潤度の低い多孔質の架橋高分子担体を用いる。膨潤度は、一般に乾燥時のベッド体積とメタノール等の極性溶媒に膨潤させた時のベッド体積から、式1により求められる。本発明においては1.0〜2.0、好ましくは1.0〜1.8の膨潤度を示す架橋高分子担体が用いられる。
【式1】
【0031】

【0032】
本発明の機能性吸着材粒子は、多孔質の架橋高分子担体にポリエチレンイミンを導入後、ハロゲン化酢酸によりカルボシキメチル化されたものである。ポリエチレンイミンそのものもキレート性官能基として機能するが、多くの重金属を一斉に吸着するためには、カルボキシメチル化を行ったアミノ化カルボン酸型官能基が優れている。
【0033】
一般に、ポリエチレンイミンは鎖長の異なる化合物の混合物であるとともに、直鎖状構造の他に分岐構造の化合物も混在している。つまり、ポリエチレンイミンに含まれるアミノ基構造は、一級、二級、三級のアミノ基が存在しうるが、本発明において使用されるポリエチレンイミンの構造や一級〜三級アミンの比率はどのようなものであってもよく、本発明ではそれらを総合してポリエチレンイミン骨格の化合物という。
【0034】
アミノカルボン酸型キレート剤においては、ポリエチレンイミン骨格の鎖長が長いほど強い金属錯体を形成することが知られている。また、鎖長が長い官能基を担体に固定した場合には、スペーサ効果によって官能基の自由度も高くなり、吸脱着が迅速になるという利点がある。しかし、鎖長が長すぎる(平均分子量600以上、特に1,000以上) 場合には、高分子担体の細孔内部まで官能基を高密度に導入することができない。したがって、本発明の製造法において高分子担体に導入されるポリエチレンイミンは、至適な鎖長を有していなければならず、その平均分子量は200ないし600である。
【0035】
ポリエチレンイミンの導入反応は、公知のとおりである。すなわち、ポリエチレンイミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、その溶液中に反応性官能基を有する多孔質の架橋高分子担体を分散させ、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応を行う。ただし、アミド構造で導入されたものを還元する必要がある場合には、LiALH、BH−THFを用いた公知の方法で還元する。
【0036】
ポリエチレンイミンを多孔質の架橋高分子担体に導入後、公知の方法により、アルカリ条件下でハロゲン化酢酸を用いてカルボキシメチル化を行う。ハロゲン化酢酸としては、クロロ酢酸、ブロモ酢酸等が用いられる。アルカリ濃度に関しては特に規定はしないが、一般には0.5〜3mol/Lの水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム等を用いる。このようにして得られたキレート樹脂粒子は、水、酸、水の順に洗浄し、目的に応じて対イオン交換を行った後、乾燥して、金属吸着性焼結多孔体の製造に供せられる。
【0037】
アミノカルボン酸型官能基は、ヒ素、モリブデン、バナジウム等のように水溶液中で陰イオン(金属オキソ酸と呼ばれる) として存在する金属元素の吸着性が必ずしも高いとはいえない。本発明においては、この問題を解消するため、キレート樹脂と同様の多孔質の架橋高分子担体に陰イオン交換基を導入した陰イオン交換樹脂粒子をキレート樹脂粒子に適宜混合して、これら金属オキソ酸に対する吸着性を改善する。前記反応性官能基を有する多孔質の架橋高分子担体への陰イオン交換基の導入は、ポリエチレンイミンの導入方法と同様である。すなわち、導入目的のアミンを、水、アルコール、ジメチルホルムアミド等あるいはそれらの混合溶媒中に溶解し、反応性官能基を有する多孔質の架橋高分子担体を分散させて、攪拌しながら、室温〜80℃で、3〜24時間の反応により多孔質高架橋性陰イオン交換樹脂を得る。
【0038】
陰イオン交換樹脂を製造する場合、導入するアミンに関しては特に規定しないが、キレート性官能基を立体的に阻害しない低分子アミンを用いることが好ましい。例えば、メチルアミン、エチルアミン、プロピルアミン、ブチルアミン、2−アミノエタノール等の一級アミン、ジメチルアミン、ジエチルアミン、ジプロピルアミン、ジブチルアミン、N−メチル−2−アミノエタノール等の二級アミン、トリチルアミン、トリエチルアミン、ジメチルエチルアミン、ジメチルプロピルアミン、ジメチルブチルアミン、N,N−ジメチル−2−アミノエタノール等の三級アミンが用いられる。
【0039】
本発明において、陰イオン交換樹脂粒子は金属オキソ酸類の吸着特性の改善のために混合されるものであり、混合しても混合しなくてもよい。ただし、大量に混合した場合には、キレート樹脂粒子の金属吸着特性が極度に減少してしまう恐れがあるため、30重量%以下、好ましくは20重量%以下で混合される。
【0040】
本発明の金属吸着性焼結多孔体は、機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体とを混合後に加熱成形するため、機能性吸着材粒子の熱変性が問題となる。そのため、融点が比較的低いポリエチレンやポリプロピレンが用いられる。これら熱可塑性樹脂粉体を単独あるいは混合して用いることができる。これらの材質は撥水性の強い材質であるが、濡れ性を改善させるため、さらには柔軟性を改善するために、エチレン−酢酸ビニル共重合体やエチレン−ビニルアルコール共重合体の粉体を混合することができる。
【0041】
本発明において使用される機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体の粒子径は、任意に設定することができるが、一般に、機能性吸着材粒子の平均粒子径は5〜300μm、熱可塑性樹脂粉体の平均粒子径は20〜800μmのものが用いられる。機能性吸着材粒子の平均粒子径が小さい場合には焼結多孔体からの漏出が起きてしまう可能性がある。このような場合、熱可塑性樹脂の溶融度合いを高めることで機能性吸着材粒子の脱落を防ぐことが可能であるが、得られた焼結多孔体の開孔率が低下し、透過性の悪い焼結多孔体となってしまう。そのため、通常は、混合する機能性吸着材粒子の平均径に対して0.5〜4倍の平均径を有する熱可塑性樹脂粉体が使用される。一方、機能性吸着材粒子の粒子径が大きすぎる場合には熱可塑性樹脂粉体との融着度が低くなり、強度、柔軟性ともに不十分な焼結多孔体となってしまう。なお、熱可塑性樹脂粉体の形状に関しては、不定形の破砕型であっても、球形であってもかまわない。
【0042】
本発明において、熱可塑性樹脂粉体に混合される機能性吸着材粒子の量は10〜70重量%であり、好ましくは10〜60重量%である。添加量が10重量%未満では焼結多孔体中に固定される機能性吸着材粒子量が少なくなり、十分な金属吸着機能を発揮することができなくなる。また、機能性吸着材粒子の添加量が70重量%を超えると、焼結多孔体の成形性が低下したり、強度や柔軟性等の物性が低下したりする。
【0043】
本発明の金属吸着性の焼結多孔体の製造は、つぎの工程によって製造することができる。すなわち、a)反応性官能基を有する多孔質の架橋高分子担体を合成する工程、b)前記多孔質の架橋高分子担体にキレート性官能基を導入したキレート樹脂粒子、あるいは、前記多孔質の架橋高分子担体にキレート性官能基を導入したキレート樹脂粒子と前記多孔質の架橋高分子担体にイオン交換性官能基を導入したイオン交換樹脂粒子からなる機能性吸着材粒子を合成する工程、c)機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体とを混合する工程、d)前記機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂粉体との混合物を金型のキャビティに振動させながら充てんする工程、e)前記粒子と粉体との混合物が充てんされた金型を熱可塑性樹脂の融点付近の温度に設定された恒温炉に入れて所定時間加熱して焼結多孔体を成形する工程、および、f)金型を冷却して成形された焼結多孔体を取り出す工程、により製造される。金型の代わりに、金属板あるいは耐熱性のあるプラスチックシート上に、粒子と粉体との混合物を均一にまき、所定の温度に設定した恒温炉中で所定時間加熱するという方法によっても焼結多孔体を得ることが可能である。
【0044】
本発明の金属吸着性の焼結多孔体の製造方法によれば、得られる焼結多孔体の細孔径は、使用する熱可塑性樹脂粉体の平均粒子径および粒度分布により決定されると考えてよい。焼結多孔体の濾過精度や通液精度を調節するために、特許文献12に示されるような多層式焼結体とすることも可能である。すなわち、金型下部に、目的濾過精度を達成しうる粒子径を有する熱可塑性樹脂粉体を、目的の厚さが得られる量だけ充てんして恒温炉中で加熱融着により焼結多孔体を成形後、いったん金型を開け、本発明の粒子と粉体との混合物の一定量を充てんし、再度恒温炉中で所定時間加熱して焼結多孔体を成形するという方法を用いる。この方法により、下面(あるいは上面) に細孔径の異なる焼結多孔体層と一体となった焼結多孔体を得ることができる。焼結多孔体と一体となる熱可塑性樹脂の多孔体層の細孔径は、金属吸着性焼結多孔体がもつ細孔径より大きくても、あるいは小さくてもかまわない。
【0045】
本発明により提供される金属吸着性の焼結多孔体は、排水や用水中の重金属除去、環境水や金属処理溶液中からの有価金属の回収、さらには食品や飲料水中からの有害金属の除去などに用いられる。本発明の金属吸着性の焼結多孔体を用いて水溶液中の重金属を吸着・除去する条件は、本発明の記載により限定されるものではないが、例えば、銅、鉛、カドミウム等の吸着に主眼をおく場合は、被処理溶液のpHを3〜7、好ましくは4〜6に調整することにより、それら金属を効率よく吸着することができる。この吸着最適pH域は金属により異なるため、吸着・除去目的金属の吸着特性に合わせて調整すれば種々の金属の吸着に適用することができる。更に、上記のようにして重金属を吸着した金属吸着性の焼結多孔体を、例えば硝酸や塩酸等の酸性水溶液で処理すると、キレートを形成して吸着された重金属は速やかに脱離するので、吸着した重金属を高効率で回収できるとともに、金属吸着性の焼結多孔体の再生を行うことができる。
【0046】
つぎに、実施例によって本発明を説明するが、この実施例によって本発明をなんら限定するものではない。
【実施例1】
【0047】
金属吸着性の焼結多孔体Aの作製
(1)キレート樹脂粒子aの合成
まず、多孔質の架橋高分子担体の合成は、懸濁重合法により行った。グリシジルメタクリレート60g、エチレンジメタクリレート140g、酢酸ブチル200gおよび2,2’−アゾビスイソブチロニトリル2gの混合物を、0.1%ポリビニルアルコール水溶液2,000mL中に加え、油滴径が60μmになるようにプロペラ式の撹拌機により撹拌した。その後、70℃で6時間重合反応を行った。生成した共重合体粒子を濾取し、水、メタノール、水の順で洗浄した。一日風乾後、分級を行い、32〜90μmの多孔質の架橋高分子担体85gを得た。この架橋高分子担体70gを、イソプロピルアルコール200mL、水800mLにポリエチレンイミン300(日本触媒製エポミンSP−003、平均分子量:300、アミン比:一級45%、二級35%、三級20%)150gを溶解した溶液中に加え、50℃で6時間反応させてポリアミノ化を行った。生成したポリアミノ化樹脂を濾取後、水、メタノール、水の順で洗浄した。このポリアミノ化樹脂の全量を、1M NaOH1,000mLにクロロ酢酸ナトリウム250gを溶解した溶液中に加え、40℃で6時間反応させ、カルボキシメチル化を行った。この反応物を濾過して十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥させ、キレート樹脂粒子aを得た。
【0048】
(2)キレート樹脂粒子aの特性評価
前記(1)で得られたキレート樹脂粒子aの250mgをとり、下部に孔径20μmのフィルタを挿入した注射筒型リザーバーに充てんし、充てんベッド上部にも同様のフィルタを挿入した。この充てん済みリザーバーに、アセトニトリル、水、3M硝酸、水および0.1M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5) の順で、それぞれ10mLずつ通液してコンディショニングを行った。その後、0.05M酢酸アンモニウム緩衝液(pH5) で調整された0.5M硫酸銅溶液3mLを通液し、キレート性官能基を銅で飽和させた後、水10mL、0.005M硝酸5mLで洗浄した。吸着された銅を3M硝酸3mLで溶出させあるいは溶出し、溶出液を10mLに定容後、吸光光度計で805nmにおける銅の吸光度を測定し、銅吸着量を求めた。その結果、銅の吸着量は、0.33mmolCu/gであり、十分な金属吸着能を示した。また、架橋高分子担体とキレート樹脂粒子aについて、平均粒子径と分散度 (BeckmanCoulter Multisizer3 CoulterCounterで測定)、比表面積と平均細孔径(Beckman Coulter SA3100 Surface AreaAnalyzerで測定)、乾燥状態のベッド体積とメタノール膨潤ベッド体積から求めた膨潤度を測定した。その結果を表1に示す。キレート樹脂粒子aは、分級精度も良く、十分な細孔径および比表面積を有し、膨潤度も低いことが分かる。
【0049】
【表1】

【0050】
(3)金属吸着性の焼結多孔体Aの作製
前記(1) で得られたキレート樹脂粒子aの20gとポリエチレン粉体(平均粒子径125μm)30gを混合して混合物とした、この混合物の一部を直径47mm、厚さ3mmの円盤が得られる金型のキャビティに振動させながら充てんをした。その後、金型に蓋をし、130℃の恒温炉中で20分間加熱した。加熱終了後、金型を空冷し、成型品を取り出し、円盤状の直径47mm、厚さ3mmの金属吸着性焼結多孔体Aのフイルターを得た。
【0051】
(4)金属吸着性焼結多孔体Aの特性評価
前記(3)で得られた金属吸着性の焼結多孔体Aのフイルターを直径13mmに打ち抜き、フィルタホルダに挟み込み、前記(2)と同様の方法で銅の吸着量を調べた。銅吸着量は0.11mmol Cu/gであり、十分な金属吸着能を示した。この金属吸着性の焼結多孔体Aのフイルター中のキレート樹脂粒子の混合量は40%であるので、キレート樹脂粒子a単独で測定した銅の吸着能力の83.3%を維持していることとなり、ポリエチレン粉体との融着による大きな機能低下はなく十分な金属吸着能を示した。このときの各流出液をBeckman CoulterMultisizer 3 Coulter Counterを用いて測定したが、焼結多孔体Aのフイルターからのキレート樹脂粒子の漏出は観察されなかった。
【0052】
(5)評価試験1
金属吸着性焼結多孔体Aの各種金属の吸着特性評価
(3)で得られた金属吸着性焼結多孔体Aのフイルターを直径13mmの円盤状に打ち抜き、フィルタホルダに挟み込み、前記 (2)と同様のコンディショニングを行った。その後、種々のpHに調整した金属混合標準液 (五価ヒ素As(5価)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Zn、各0.1mg/L)を通液し、金属を吸着させた。吸着させた金属は、前記 (2)と同様に3M硝酸3mLで溶出させ、溶出液中の金属濃度を測定して、回収率を求めた。金属濃度の測定には、PerkinElmerOptima 3000DV ICP発光分光分析装置を用いた。また、前記(2)で作製したキレート樹脂aのカートリッジを用いて、同様の測定を行った。これらの測定した結果を図1に示す。金属吸着性焼結多孔体Aの各種金属の吸着特性は、混合した実施例1のキレート樹脂粒子aの吸着特性とほとんど同じであり、本発明による金属吸着性の焼結多孔体は、焼結多孔体内に固定されたキレート樹脂粒子の吸着特性を変化させていないことが分かる。金属吸着性の焼結多孔体Aでは、多くの金属についてpH4以上で高い回収率が得られた。アミノカルボン酸型キレート樹脂で錯形成が遅いといわれる三価クロムCr(III)は中性以上のpHでほぼ100%の回収率が得られた。金属オキソ酸は、汎用のアミノカルボン酸型キレート樹脂と同様に五価ヒ素の回収率が低かったが、モリブデン、バナジウムは、それぞれpH5以下およびpH7以下でほぼ100%の回収率が得られた。
【実施例2】
【0053】
金属吸着性の焼結多孔体Bの製造
実施例1で得られたキレート樹脂粒子aの10g、ポリエチレン粉体 (平均粒子径125μm) 20gおよびエチレン−酢酸ビニル共重合体粉体 (平均粒子径120μm) 20gを混合後、実施例1(3) と同様の条件で成形し、直径47mm、厚さ3mmの円盤状の金属吸着性焼結多孔体Bのフイルターを得た。この金属吸着性の焼結多孔体Bの金属吸着量を実施例1(4) と同様に測定した。銅吸着量は、0.05mmol Cu/gであった。この金属吸着性の焼結多孔体Bのフイルター中のキレート樹脂粒子の混合量は20%であるので、キレート樹脂粒子a単独で測定した銅の吸着能力の75.8%を維持していた。吸着能力の維持率は金属吸着性の焼結多孔体Aのものよりも若干低かったが、使用可能な範囲の吸着能力を示した。なお、エチレン−酢酸ビニル共重合体粉体を混合した金属吸着性焼結多孔体Bは、金属吸着性の焼結多孔体Aよりも濡れ性が改善されており、乾燥状態であっても速やかに水が浸透した。また、柔軟性も金属吸着性の焼結多孔体Aよりも高かった。
【0054】
評価試験2
金属吸着性焼結多孔体Bの吸着特性評価
前記評価試験1と同様の方法で、実施例2で作製した金属吸着性の焼結多孔体Bの吸着特性評価を行った。実施例1で作製した金属吸着性の焼結多孔体Aとの比較の結果(五価ヒ素As(5価)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znの各金属)を図2に示す。図から明らかなように、金属吸着性の焼結多孔体AおよびBの吸着特性はほぼ同じであり、熱可塑性樹脂の材質に大きく依存されることがないことが判明した。
【実施例3】
【0055】
金属吸着性の焼結多孔体Cの作製
(1)キレート樹脂粒子bの合成
グリシジルメタクリレート80g、エチレンジメタクリレート120gとした他は、実施例1(1)と同様の条件で多孔質の架橋高分子担体をまず合成し、得られた架橋高分子担体を20〜45μmに分級した。この分級した架橋高分子担体を用いて、実施例1(1)と同様の条件でキレート樹脂粒子bを合成した。得られたキレート樹脂粒子bの平均粒子径は32μm、比表面積は224m/g、平均細孔径は12.1nm、および膨潤度は1.18であった。また、実施例1(2)と同様の方法で銅の吸着量を求めたところ、0.51mmol Cu/gであった。
【0056】
(2)陰イオン交換樹脂cの合成
前記(1)の途中工程で得られたと同一の架橋高分子担体20gをイソプロピルアルコール100mLに分散し、ついで水400mLにジエチルアミン200gを溶解した溶液を加え、50℃で6時間反応させた。反応終了後、反応物を濾過し、十分に水で洗浄後、メタノールに置換し、乾燥し、陰イオン交換樹脂粒子cを得た。陰イオン交換樹脂粒子cの陰イオン交換容量を逆滴定法により求めたところ、1.1meq/gであった。
【0057】
(3)金属吸着性の焼結多孔体Cの作製
前記(1)のキレート樹脂粒子b 18gと 前記(2)の陰イオン交換樹脂粒子2gを混合し、混合樹脂粒子dを得た。この混合樹脂粒子dを実施例1(2)と同様の方法で銅吸着量を求めたところ、0.45mmolCu/gであり、ほぼ混合比率に見合った銅吸着量を示した。この混合樹脂粒子dの20gとポリエチレン粉体 (平均粒子径125μm)20gを混合して混合物とした。この混合物を実施例1(3)と同様の方法により加熱焼結して円盤状の金属吸着性焼結多孔体Cを得た。実施例1(4)と同様の方法で測定した銅吸着量は0.21mmol Cu/gであった。金属吸着性焼結多孔体C中のキレート樹脂粒子の混合量は50%であるので、混合樹脂粒子dの吸着能力の93.3%を維持していた。
【0058】
評価試験3
金属吸着性焼結多孔体Cの吸着特性評価
実施例1の評価試験1と同様の方法で、金属吸着性焼結多孔体Cの吸着特性評価を行った。焼結多孔体Cと混合樹脂粒子dとの吸着特性比較の結果(五価ヒ素As(5価)、カドミウムCd、コバルトCo、三価クロムCr(III)、銅Cu、鉄Fe、マンガンMn、モリブデンMo、ニッケルNi、鉛Pb、バナジウムV、亜鉛Znの各金属)を図3に示す。図3から明らかなように、金属吸着性の焼結多孔体Cの吸着特性は、混合樹脂粒子dと同じであり、焼結多孔体内に固定された混合樹脂粒子dの吸着特性を変化させていないことが分かる。
【0059】
評価試験4
金属吸着性焼結多孔体Cにおける吸着特性改善効果の確認
この実施例3の金属吸着性の焼結多孔体Cは、金属捕捉特性を改善させるためにキレート樹脂粒子bに陰イオン交換樹脂粒子cが10%混合されている。そこで、金属吸着性の焼結多孔体Cにおける、陰イオン交換樹脂粒子の添加効果を確認した。評価試験1と同様の方法で、金属吸着性の焼結多孔体Cとキレート樹脂粒子bの吸着特性評価を行った。ただし、測定金属元素は、カドミウムCd、ニッケルNi、鉛Pb、五価ヒ素As(5価)、モリブデンMo、バナジウムVの6種類の金属とした。測定した結果(カドミウムCd、ニッケルNi、鉛Pb、五価ヒ素As(5価)、モリブデンMo、バナジウムVの各金属)を図4に示す。陰イオン交換樹脂粒子cを混合した金属吸着性の焼結多孔体Cにおける重金属元素の吸着特性は、元のキレート樹脂粒子bに比べて、酸性度の高いpH2での回収率が低かったが、pH3以上では元のキレート樹脂粒子bの吸着特性を反映していた。一方、金属オキソ酸である五価ヒ素は全領域で元のキレート樹脂粒子bより高い回収率を示した。また、同じ金属オキソ酸であるモリブデン、バナジウムでは、中性付近の回収率が大幅に改善されており、陰イオン交換樹脂粒子の混合によるイオン交換相互作用が加味されたためと判断された。
【産業上の利用可能性】
【0060】
本発明によれば、アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有する多孔質の架橋性高分子担体に金属吸着性を示すアミン系化合物を反応させてなる金属吸着性の機能性吸着材粒子と熱可塑性樹脂の粉体との混合物を熱可塑性樹脂の融点付近の温度に加熱・焼結して、熱可塑性樹脂の融着により成形される焼結体内部に金属吸着性の機能性吸着材粒子を固定させることにより、単位重量ないし単位表面積当たりの金属吸着量が高く、しかも共存する塩類や有機物の影響を受けることなく、取扱いが容易で、製造が簡便で、しかも各種の要求を満たしやすい金属吸着性の焼結多孔体を製造することが可能となる。本発明の金属吸着性の焼結多孔体は、金型の変更により、平板状や円盤状、円柱状や角柱状、中空の円筒状や角筒状、さらには、これらの一端を閉塞させたカップ状等の多彩な成形体とすることが可能である。この金属吸着性焼結多孔体の使用に当たっては、粒子状の吸着材のように管体に充てんして使用するということも可能ではあるが、本発明の金属吸着性の焼結多孔体を流路に差し込む、あるいは槽内に投入するだけでよく、作業性が大幅に改善される。
【符号の説明】
【0061】
●:実施例1の金属吸着性焼結多孔体A
△:実施例2の金属吸着性焼結多孔体B
◆:実施例3の金属吸着性焼結多孔体C
○:実施例1のキレート樹脂粒子a
◇:実施例3のキレート樹脂粒子bと陰イオン交換樹脂粒子cを混合した混合機能性樹脂粒子d
+:実施例3のキレート樹脂粒子b
【図1】

【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】

【図1e】

【図1f】

【図1g】

【図1h】

【図1i】

【図1j】

【図1k】

【図1l】

【図2】

【図2a】

【図2b】

【図2c】

【図2d】

【図2e】

【図2f】

【図2g】

【図2h】

【図2i】

【図2j】

【図2k】

【図2l】

【図3】

【図3a】

【図3b】

【図3c】

【図3d】

【図3e】

【図3f】

【図3g】

【図3h】

【図3i】

【図3j】

【図3k】

【図3l】

【図4】

【図4a】

【図4b】

【図4c】

【図4d】

【図4e】

【図4f】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の(i)または(ii)から選ばれる機能性樹脂粒子10〜70重量%および熱可塑性樹脂粉体90〜30重量%からなる粒子と粉体との混合物を熱可塑性樹脂の融点付近の温度で加熱・焼結することを特徴とする金属吸着性の焼結多孔体を製造する方法。
(i)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマー10〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー90〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られた多孔質の架橋高分子担体粒子を、平均分子量が200〜600のポリエチレンイミンと反応させ、ついでハロゲン化酢酸と反応させてカルボキシメチル化した機能性樹脂粒子。
(ii)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマー0〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー100〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を、溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られる多孔質の架橋高分子担体粒子にさらにアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入して多孔質の架橋高分子担体粒子を製造し、この架橋高分子担体粒子を平均分子量が200〜600のポリエチレンミンと反応させ、ついでハロゲン化酢酸と反応させてカルボキシメチル化した機能性樹脂粒子。
【請求項2】
上記(i)および(ii)の多孔質の架橋高分子担体粒子が水系懸濁重合方法により製造されたものであるか、あるいは塊状重合により製造された多孔質の架橋高分子を粉砕・分級して製造されたものであることを特徴とする請求項1記載の金属吸着性の焼結多孔体を製造する方法。
【請求項3】
熱可塑性樹脂粉体が、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエチレンとポリプロピレンの混合物、およびこれらの樹脂を主成分とする熱可塑性樹脂混合物のいずれかの樹脂よりなるものであることを特徴とする請求項1記載の金属吸着性の焼結多孔体を製造する方法。
【請求項4】
機能性樹脂粒子の30重量%まで以下の(a)または(b)の陰イオン交換樹脂粒子で置換された混合物よりなる機能性樹脂粒子を使用することを特徴とする請求項1ないし請求項3に記載された金属吸着性の焼結多孔体を製造する方法。
(a)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有するビニルモノマー10〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー90〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られた多孔質の架橋高分子担体粒子をアミンと反応させて陰イオン交換基とした陰イオン交換樹脂粒子。
(b)アミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を有しないビニルモノマー0〜70重量%とビニル基を2個以上有する架橋性モノマー100〜30重量%とよりなるモノマー混合物100重量部を、細孔調節剤となる溶媒50〜200重量部の存在下に共重合させて得られる多孔質の架橋高分子担体粒子にさらにアミノ基ないしイミノ基と反応する官能基を導入して多孔質の架橋高分子担体粒子をアミンと反応させて陰イオン交換基とした陰イオン交換樹脂粒子。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載された製造方法により製造された金属吸着性の焼結多孔体。

【公開番号】特開2010−254841(P2010−254841A)
【公開日】平成22年11月11日(2010.11.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−107818(P2009−107818)
【出願日】平成21年4月27日(2009.4.27)
【出願人】(000229818)日本フイルコン株式会社 (58)
【出願人】(309014001)株式会社 染谷製作所 (1)
【Fターム(参考)】