金属吸着材の製造方法及び金属吸着材
【課題】 安定供給できる原料を用いて、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造する方法及び金属吸着材を提供する。
【解決手段】 ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とを結合させた基材を所要の反応液に溶解させた溶液に、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤としての過酸化水素を添加し、10℃程度以上60℃程度以下、好ましくは20℃程度以上40℃程度以下の温度に保持し、酵素反応にて各基材を相互に重合させてなる重合体を得る。
【解決手段】 ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とを結合させた基材を所要の反応液に溶解させた溶液に、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤としての過酸化水素を添加し、10℃程度以上60℃程度以下、好ましくは20℃程度以上40℃程度以下の温度に保持し、酵素反応にて各基材を相互に重合させてなる重合体を得る。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、クロム、銅、亜鉛等の金属を吸着する金属吸着材を製造する方法、及び該方法により製造された金属吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼産業をはじめとする種々の産業にあっては、重金属を含む金属廃液の処理が重要である。廃液から金属を除去・回収するには、主に塩化鉄や硫酸アルミニウムなどの無機系凝集剤、又は石灰といった塩基性沈殿剤が用いられているが、凝集・沈殿によって大量に発生する重金属含有スラッジの処理に費用が嵩むという問題があった。
【0003】
一方、廃液からの金属の除去・回収には活性炭を用いる吸着法、又は強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるイオン交換法も広く採用されている。
【0004】
しかしこれらの方法においては、活性炭や樹脂では吸着後の脱離、溶離が困難なため、吸着後にこれらを全て焼却して金属を回収するという非常に高コストな方法が用いられていた。しかもこの場合、活性炭や樹脂の焼却は容易でなく、後処理が面倒なタールやコーク状の物質が発生することが多かった。
【0005】
ところで、取扱いの容易な材料の一つとして植物に含まれるタンニンを利用する金属の吸着分離技術が注目されている。タンニンは植物を構成する有機物の1つで、その分子構造中に多くのフェノール、カテコール、およびピロガロールの部位を有している。
【0006】
例えば、坂口らは柿タンニンがウラニウムやトリウムの吸着・除去に有効であることを後記する非特許文献1等で報告している。
また、ミモザタンニンやワットルタンニンを原料とする吸着材による金属イオンの吸着が後記する非特許文献2及び3でそれぞれ報告されている。
【0007】
しかしながらこれらの吸着材は、上記のタンニン成分を、それらを含有する植物から抽出して調製されたものであり、それらの植物から抽出・回収するコストを要するため高価である。
【0008】
そこで、本発明者等が鋭意検討した結果、渋柿の皮等のタンニン成分を多く含有する植物の該当部分を原料とし、これを硫酸で架橋処理して得られる吸着材により、廃液からの金属の回収が可能であることを見出し、例えば特許文献1等で報告している。
【0009】
かかる天然ポリフェノールを原料とする吸着材は、少ない工程、少ない処理剤で製造することができるため、製造に要するコストを可及的に低減することが出来る。また、かかる吸着材は、それに吸着させた金属の略全量を溶離させることができるのに加え、吸着材を繰り返し使用できるため、金属の除去・回収効率が高く、ランニングコストも低減することができる。
更に、この処理材は容易に焼却処理することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Sakaguchi, A.Nakajima; Separation Science and Technology, 29巻2号、p.205−221 (1994)
【非特許文献2】山口東彦、井浦良徳、樋口光雄、坂田功;木材学会誌、37巻9号、p.815−820 (1991)
【非特許文献3】Y.Nakano, K.Takeshita, T.Tsutsumi; Water Research,35巻2号、 p.496−500 (2001)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−305330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前述した天然ポリフェノールを原料とする金属吸着材にあっては、原料の供給量が限られる上に、季節及び年度で生産量が変動するため、所要量の原料を安定して供給することが困難である。
また、天然ポリフェノールを原料とする吸着材にあっては、原料の基本構造は既に構築されてしまっているため、その性能を更に向上させるのには限界があった。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、安定供給できる原料を用いて、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる金属吸着材の製造方法、及び該方法により製造された金属吸着材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが鋭意検討した結果、適宜のフェノール化合物をペルオキシダーゼの酵素反応にて相互に重合させることによって得た重合体が対象金属を吸着し得るという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、(1)本発明に係る金属吸着材の製造方法は、対象金属が溶解した溶液を接触させて、前記対象金属を吸着させる金属吸着材を製造する方法において、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させることを特徴とする。
【0016】
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材としては、メチルクレゾール、エチルクレゾール、メチルカテコール、エチルカテコール等を用いることができる。
また、ペルオキシダーゼとしては、植物由来、動物由来、又は微生物由来のものを用いることができる。
【0017】
一方、反応補助剤としては過酸化水素、又は過酸化水素を供給できる物質を用いることができる。
これら基材、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤を所要のpHで緩衝作用を示す反応液に溶解させ、ペルオキシダーゼの酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させて金属吸着材を得る。
【0018】
前述した基材は、化学合成によって容易に製造されるため、必要量の基材を安定して得ることができる。
また、このような製造方法にあっては、基材の種類及び反応条件を至適化することによって、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる。
【0019】
一方、本発明に係る金属吸着材の製造方法にあっては、酵素反応により重合体を生成するため、化学重合法のように強酸及び/又は強塩基を用いることなく重合体を得ることができる。従って、耐酸性及び/又は耐塩基性がさほど高くない反応設備を用いることができ、設備コストを廉価にすることができる。また、廃液処理に要するコストも廉価にすることができる。
【0020】
ところで、基材のベンゼン環に疎水性のアルキル基が結合しているため、前述した反応液に対する重合体の溶解性が、アルキル基が結合していない場合に比べて低く、吸着材の回収率が高い。
【0021】
また、アルキル基は電子供与性であるので、アルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上する。
【0022】
(2)本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記ベンゼン環に複数の水酸基が結合した基材を用いることを特徴とする。
このような吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に金属溶液中の金属が配位されるため、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多く、金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が多い。
【0023】
(3)また、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材を用いることを特徴とする。
ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材にあっては、電子供与性であるアルキル基から電子受容体である水酸基との距離を可及的に短くすることができるため、アルキル基から水酸基に供与される電子が割合が向上し、水酸基の金属の配位力が高い。
【0024】
(4)また、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記アルキル基としてメチル基が結合した基材を用いることを特徴とする。
アルキル基の分子量が大きい場合、即ち鎖長が長い場合、水酸基への金属の吸着を阻害するので、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いる場合、そのような金属吸着阻害を可及的に防止することができる一方、メチル基から電子が供与された水酸基の金属の配位性が向上する。。
【0025】
(5)更に、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させて前記反応液を調製するに際し、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くすることを特徴とする。
有機溶媒としては、メタノール、エタノオール、ジオキサン、アセトン、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0026】
また、緩衝液としては、リン酸緩衝液又は酢酸緩衝液等、前述したペルオキシダーゼの至適pHを含むpH範囲で緩衝作用を示す緩衝液を用いることができる。
ここで、前述した基材及び重合体を溶解させるために適宜量の有機溶媒を混合した反応液を用いる。
【0027】
この反応液における混合比は、有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くする。これによって、重合反応条件が改善され、得られた金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が増大する。
【0028】
(6)一方、本発明に係る金属吸着材は、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含有し、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着するようになしてあることを特徴とする。
【0029】
本発明の金属吸着材にあっては、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤を所要のpHで緩衝作用を示す反応液に溶解させ、ペルオキシダーゼの酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含み、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着する。かかる基材、ペルオキシダーゼ、反応補助剤、及び緩衝液は前同様のものを用いてある。
【0030】
このような金属吸着材にあっては、前同様、基材が化学合成によって容易に製造され、必要量の基材を安定して得ることができるため、安定供給することができる。
また、電子供与性のアルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上するため、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる。
【0031】
(7)本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させてあることを特徴とする。
本発明の金属吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に金属溶液中の金属が配位されるため、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多く、金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が多い。
【0032】
(8)また、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてあることを特徴とする。
ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材にあっては、電子供与性であるアルキル基から電子受容体である水酸基との距離を可及的に短くすることができるため、アルキル基から水酸基に供与される電子が割合が向上し、水酸基の金属の配位力が高い。
【0033】
(9)一方、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、アルキル基としてメチル基が結合していることを特徴とする。
アルキル基の分子量が大きい場合、水酸基への金属の吸着を阻害するので、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いた場合、金属の吸着を可及的に阻害しない一方、メチル基から電子が供与された水酸基の金属の配位性が向上する。
【0034】
(10)ところで、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記反応液は所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させてなり、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高することによって、前記重合体を粒状になしてあることを特徴とする。
有機系溶媒の性質より水系溶媒の性質の方が強い反応液中においては、複数の基材が疎水基であるアルキル基を内側にして球状に配列しようとする。かかる状態で、酵素反応により各基材が互いに重合されため、粒状の重合体が生成される。
【0035】
このような粒状の重合体にて構成された金属吸着剤にあっては、耐圧性が高いため、カラムに充填された金属吸着剤に圧力を印加することができ、これによって金属吸着処理速度を向上させることができる。また、カラムに金属吸着剤を充填する場合、均一に充填することができるため、対象金属を含む処理液をむら無く均一に処理することができる。
また、吸着材の単位質量当たりの金属吸着量が多い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明方法により製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図2】本発明方法により製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図3】図1に示した基材を用いて作製した吸着材の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー法によって求めた結果を示すグラフである。
【図4】各吸着剤によって金を吸着した結果を示すグラフである。
【図5】基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材によって金溶液中の金を吸着させた状態を示す写真図である。
【図6】基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図7】基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図8】基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図9】基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図10】金の吸着速度を比較した結果を示すグラフである。
【図11】異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの金の吸着量を示すヒストグラムである。
【図12】異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの銅の吸着量を示すヒストグラムである。
【図13】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図14】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図15】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図16】粒状の吸着剤の生成過程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(本発明の実施形態)
以下に本発明に係る実施の形態について説明する。
本発明の吸着材(金属吸着剤)にあっては、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とを結合させた基材を所要の反応液に溶解させた溶液に、ペルオキシダーゼ(以後、HRPともいう。)及び反応補助剤としての過酸化水素を添加し、10℃程度以上60℃程度以下、好ましくは20℃程度以上40℃程度以下の温度に保持して、次式で示される酵素反応にて各基材を相互に重合させてなるオリゴフェノール又はポリフェノール(重合体)を得ることによって製造されている。
【0038】
【化1】
すなわち、ペルオキシダーゼは、過酸化水素を還元する一方、基材と酵素とが結合した複合体から、基材の水酸基が酸化された酸素ラジカルを伴う反応中間物を経て、各反応中間物が相互に結合してなるフェニレンとオキシフェニレンとが混合した重合体が生成される反応を触媒しているのである。
【0039】
なお、上式中、Rはアルキル基を示している。
このような吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に、金属溶液中の金属が配位される。
【0040】
従って、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多いので好ましい。更に、それら複数の水酸基はベンゼン環おいて相隣らせて結合されている場合の方が、複数の水酸基がベンゼン環おいて距離を隔てて結合されている場合より、全体として金属の配位力が向上するのでより好ましい。
【0041】
一方、基材のベンゼン環に疎水性のアルキル基が結合しているため、前述した溶液に対する重合体の溶解性が、アルキル基が結合していない場合に比べて低く、吸着材の回収率が高い。
【0042】
また、かかるアルキル基は電子供与性であるので、アルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上する。
【0043】
以上より基材としては、例えば3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、3−エチルカテコール、又は4−エチルカテコール等を用いることができる。
ただし、アルキル基の分子量が大きい場合、水酸基への金属の吸着を阻害するため、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いるのが好ましい。
【0044】
また、前述したように、アルキル基の電子がベンゼン環に結合した水酸基に与えられて、金属の配位能が向上するため、ベンゼン環におけるアルキル基の結合位置と水酸基の結合位置とを可及的に近くなしてあることが好ましい。
このような基材にあっては化学合成法により容易に製造することができるため、基材を安定供給することができる。
【0045】
一方、前述した溶液としては、リン酸緩衝液又は酢酸緩衝液等、所要のpHで緩衝作用を示す緩衝液とメタノール、エタノオール、ジオキサン、アセトン、ジメチルホルムアミドといった有機溶媒とを混合させた溶液を用いる。緩衝液の緩衝作用によって、前述した酵素反応を所要のpH範囲内で行わせることができる一方、有機溶媒を混合させることによって重合体が沈殿することを防止し得るため、吸着材の収率を向上させることができる。
【0046】
ところで、前述したペルオキシダーゼとしては、西洋わさびペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ等、種々の植物由来のペルオキシダーゼ以外にも、動物及び/又は微生物由来のペルオキシダーゼを用いることができる。
【0047】
このように、酵素による触媒反応によって基材を重合させて吸着材を製造するため、化学重合法のように強酸及び/又は強塩基を用いることなく基材を重合させることができる。従って、耐酸性及び/又は耐塩基性がさほど高くない反応設備を用いることができ、設備コストを廉価にすることができる。また、廃液処理に要するコストも廉価にすることができる。
【実施例1】
【0048】
次に、吸着材の製造例について説明する。
基材には、メチルクレゾール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、又は4−エチルカテコールを用いた。
また、ペルオキシダーゼには、西洋わさびペルオキシダーゼ(シグマ社 P8375)を用いた。
【0049】
一方、反応液には、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させたものを用いた。
そして、基材を反応液に0.2mol/Lとなるように溶解させ、これにペルオキシダーゼが6U/ml、過酸化水素が0.2mMとなるように添加し、略30℃で6時間程度、重合反応を行わせた。
重合反応によって得られた重合体を濾別し、蒸留水で洗浄した後、メタノールで洗浄することによって脱水し、脱水した重合体を減圧乾燥させて吸着材を得た。
【0050】
図1及び図2は、前述したようにして製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
図1中、aは基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、bは基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、cは基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0051】
一方、図2は基材としてメチルクレゾールを用いた場合を示している。
図1及び図2から明らかな如く、波数が3400cm-1、1290cm-1、及び1150cm-1の位置に吸収が見られており、これらの吸収は(-OH)、(C-O-C)、及び(C-OH)に特有なものであった。
これらの結果より、吸着材にはフェニレン及びオキシフェニレンが混在していることが分かる。
【0052】
図3は、図1に示した基材を用いて作製した吸着材の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー法によって求めた結果を示すグラフである。なお、前同様、図3中、aは基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、bは基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、又はcは基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0053】
ここで、ゲル浸透クロマトグラフィーのカラムとしてはStyagel HR−1(ウォーターズ社製)を用い、このカラムにテトラヒドロフラン(THF)を1.0ml/分の流速で通流させることによって吸着材を溶離させ、溶離液の紫外線吸収を測定した。
図3から明らかな如く、いずれの吸着材もその分子量は1000程度であり、重合度は10程度であった。
【実施例2】
【0054】
次に、異なる組成の反応液を用いて吸着材を製造した結果について説明する。
反応液として、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3、5:5、3:7になるように混合させた溶液を調製した。
そして、3−メチルカテコールを基材とし、各反応液を用いて前同様の操作を行って吸着材を得、使用した基材の質量に対する吸着材の質量を求めて収率を得た。
その結果を次表に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表から明らかな如く、反応液において緩衝液の比率が大きくなるに従って、有機溶媒による酵素活性阻害作用が低下するため、吸着材の収率が向上したが、有機溶媒の比率が小さくなると、反応液に対する重合体の溶解度が低下するため、吸着材の収率が低下していた。
【実施例3】
【0057】
次に、前述した如く製造した各吸着材を用いて金属吸着試験を行った結果について説明する。
図4は、各吸着剤によって金を吸着した結果を示すグラフであり、丸印は基材としてメチルクレゾールを用いた場合を示しており、三角印は基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、四角印は基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、倒立三角印は基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0058】
0.1Mから6Mの塩酸溶液に0.1mMとなるように金(Au)を溶解させた金溶液を15mlずつ容器に分取し、各容器内に吸着材を25mg添加して略30℃で24時間振盪することによって金溶液中の金を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して濾液を得、この濾液中に残存する金の濃度を原子吸光光度計((株)島津製作所 AA−6650)を用いて測定して吸着率を求めた。
【0059】
その結果、図4から明らかな如く、基材として3−メチルカテコール又は4−メチルカテコールを用いた吸着材にあっては、いずれの濃度においても金を略100%吸着していた。
【0060】
一方、基材として4−エチルカテコールを用いた吸着材は、塩酸の濃度が高くなるに従って金の吸着率が低下し、塩酸の濃度が4Mでは金の吸着率は零であった。
これに対し、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着材は、いずれの濃度においても金を殆ど吸着していなかった。
【0061】
図5は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材によって金溶液中の金を吸着させた状態を示す写真図である。
1Mの塩酸溶液に60mMとなるように金(Au)を溶解させた金溶液15mlを容器に分取し、この容器内に吸着材を15mg添加して略70℃で24時間振盪することによって金溶液中の金を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して乾燥させ、吸着材の表面を光学顕微鏡を介して撮像した。
【0062】
図5に示した如く、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材の表面に金が吸着されるとともに、金粒子が形成されていた。
【0063】
以上の結果より、吸着材を構成する基材のベンゼン環には水酸基が複数結合していることが重要であり、また、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてあることが好ましいことが理解できる。また、ベンゼン環に結合させたアルキル基の分子量は可及的に小さい方が好ましいことも理解できる。
【実施例4】
【0064】
次に、金以外の他の金属について吸着試験を行った結果について説明する。
図6は、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図7は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図8は、基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図9は、基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【0065】
これら各図6から図9においてそれぞれ、丸印はCr(VI)を吸着させた場合を示して
おり、三角印はCu(II)を吸着させた場合を示しており、四角印はZn(II)を吸着さ
せた場合を示している。
【0066】
pHが1から5に調整した塩酸溶液に0.2mMとなるように各金属を溶解させた金属溶液を15mlずつ容器に分取し、各容器内に吸着材を25mg添加して略30℃で24時間振盪することによって金属溶液中の金属を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して濾液を得、この濾液中に残存する金属の濃度を原子吸光光度計((株)島津製作所 AA−6650)を用いて測定して吸着率を求めた。
【0067】
図6から図9より明らかな如く、Cr(VI)、Cu(II)、又はZn(II)に対する吸
着能は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤が最も高く、Cu(II)の吸着
率は略100%であり、Cr(VI)及びZn(II)の吸着率も略80%であった。
次に吸着能が高かったのは、基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤及び基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤であり、Cr(VI)、Cu(II)及びZn(
II)の吸着率は50%程度〜70%程度であった。
一方、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤にあっては、Cr(VI)を殆ど吸着
することができず、Cu(II)及びZn(II)の吸着率も50%程度であった。
【実施例5】
【0068】
次に、比較試験を行った結果について説明する。
図10は、金の吸着速度を比較した結果を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は単位質量当たりの金の吸着量を示している。図中、丸印は基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤を用いた場合を、三角印は基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤を、四角印はレモン皮から調製した比較用の吸着材を用いた場合をそれぞれ示している。
【0069】
比較用の吸着材は次のようにして調製した。
すなわち、レモン果汁の製造において発生する搾汁残渣をそのままの状態で粉砕し、15gを取って20mlの98%の濃硫酸中に入れ、100℃で24時間加熱撹拌することにより架橋処理を行った。100g/dm3の濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液500mlに反応混合物を加えて中和した後、最初に50℃の蒸留水1000mlで、次いで常温の蒸留水1000mlで洗浄した。その後、1mol/dm3の濃度の塩酸500mlと12時間撹拌し、濾過した後、濾過物をpHが中性になるまで蒸留水で洗浄した。しかる後に70℃の乾燥器に入れ、24時間乾燥したものを吸着剤として用いた。
吸着は実施例3で説明した条件と同じ条件で行った。
【0070】
その結果、図10から明らかな如く、4−メチルカテコールを用いた吸着剤にあっては、吸着開始直後の期間は比較用の吸着材より単位質量当たりの金吸着量が多かったものの、吸着開始から略20分経過した後から単位質量当たりの金吸着量が略一定となっていたのに対し、比較用の吸着材にあっては、吸着開始から略20分経過した後も単位質量当たりの金吸着量が漸次増大していた。
一方、3−メチルカテコールを用いた吸着剤にあっては、吸着開始直後から一貫して単位質量当たりの金吸着量が比較用の吸着材より多かった。
【実施例6】
【0071】
次に、本発明に係る吸着材の製造条件と金属吸着量との関係を検討した結果について説明する。
図11は、異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの金の吸着量を示すヒストグラムであり、図12は、異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの銅の吸着量を示すヒストグラムである。
各吸着材は、実施例2で説明した条件と同じ条件で製造した。
【0072】
すなわち、両図中、aはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果を、bはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果を、cはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果をそれぞれ示している。
【0073】
図11及び図12から明らかな如く、反応液における緩衝液の割合が大きくなるに従って吸着材の単位質量当たりの金、銅の吸着量が増大していた。
【実施例7】
【0074】
次に、吸着材の製造条件と吸着材の構造との関係を検討した結果について説明する。
図13〜図15は異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図であり、いずれの吸着剤にあっても基材として3−メチルカテコールを用いている。
【0075】
各製造条件は重合の際に用いる反応液の組成を異ならせた。すなわち、図13に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した。また、図14に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させた反応液を用いて調製した。そして、図15に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した。なお、他の製造条件は実施例2で説明した条件と同じ条件で製造した。
【0076】
図13から明らかなように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤は、複数の球状粒子が集合した構造であり、球状粒子の平均直径は略1μmであった。
【0077】
これに対して図14及び図15から明らかなように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で5:5又は7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤にあっては、いずれも不定形の構造であった。
【0078】
図13に示したように吸着剤が球状粒子構造を形成するのは、図16に示した如く、有機系溶媒の性質より水系溶媒の性質の方が強い反応液中においては、複数の基材が疎水基であるメチル基を内側にして球状に配列しようとするが、かかる状態で酵素反応により各基材が互いに重合されるので、球状粒子構造の吸着剤が生成されたものと考えられる。
従って、有機溶媒と緩衝液とを混合させる反応液は、有機溶媒の割合より緩衝液の割合が高くなるように適宜定める。
【0079】
図13に示した如き粒状の吸着剤にあっては、耐圧性が高いため、カラムに充填された吸着剤に圧力を印加することができ、これによって金属吸着処理速度を向上させることができる。また、カラムに吸着剤を充填する場合、均一に充填することができるため、当該カラムに充填された吸着剤によって対象金属を含む処理液をムラなく均一に処理することができる。
【0080】
また、実施例6で説明したように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤は、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で5:5又は7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤に比べて、吸着材の単位質量当たりの金属吸着量が多い。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金、クロム、銅、亜鉛等の金属を吸着する金属吸着材を製造する方法、及び該方法により製造された金属吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼産業をはじめとする種々の産業にあっては、重金属を含む金属廃液の処理が重要である。廃液から金属を除去・回収するには、主に塩化鉄や硫酸アルミニウムなどの無機系凝集剤、又は石灰といった塩基性沈殿剤が用いられているが、凝集・沈殿によって大量に発生する重金属含有スラッジの処理に費用が嵩むという問題があった。
【0003】
一方、廃液からの金属の除去・回収には活性炭を用いる吸着法、又は強塩基性陰イオン交換樹脂を用いるイオン交換法も広く採用されている。
【0004】
しかしこれらの方法においては、活性炭や樹脂では吸着後の脱離、溶離が困難なため、吸着後にこれらを全て焼却して金属を回収するという非常に高コストな方法が用いられていた。しかもこの場合、活性炭や樹脂の焼却は容易でなく、後処理が面倒なタールやコーク状の物質が発生することが多かった。
【0005】
ところで、取扱いの容易な材料の一つとして植物に含まれるタンニンを利用する金属の吸着分離技術が注目されている。タンニンは植物を構成する有機物の1つで、その分子構造中に多くのフェノール、カテコール、およびピロガロールの部位を有している。
【0006】
例えば、坂口らは柿タンニンがウラニウムやトリウムの吸着・除去に有効であることを後記する非特許文献1等で報告している。
また、ミモザタンニンやワットルタンニンを原料とする吸着材による金属イオンの吸着が後記する非特許文献2及び3でそれぞれ報告されている。
【0007】
しかしながらこれらの吸着材は、上記のタンニン成分を、それらを含有する植物から抽出して調製されたものであり、それらの植物から抽出・回収するコストを要するため高価である。
【0008】
そこで、本発明者等が鋭意検討した結果、渋柿の皮等のタンニン成分を多く含有する植物の該当部分を原料とし、これを硫酸で架橋処理して得られる吸着材により、廃液からの金属の回収が可能であることを見出し、例えば特許文献1等で報告している。
【0009】
かかる天然ポリフェノールを原料とする吸着材は、少ない工程、少ない処理剤で製造することができるため、製造に要するコストを可及的に低減することが出来る。また、かかる吸着材は、それに吸着させた金属の略全量を溶離させることができるのに加え、吸着材を繰り返し使用できるため、金属の除去・回収効率が高く、ランニングコストも低減することができる。
更に、この処理材は容易に焼却処理することができる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】T.Sakaguchi, A.Nakajima; Separation Science and Technology, 29巻2号、p.205−221 (1994)
【非特許文献2】山口東彦、井浦良徳、樋口光雄、坂田功;木材学会誌、37巻9号、p.815−820 (1991)
【非特許文献3】Y.Nakano, K.Takeshita, T.Tsutsumi; Water Research,35巻2号、 p.496−500 (2001)
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開2005−305330号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
しかしながら、前述した天然ポリフェノールを原料とする金属吸着材にあっては、原料の供給量が限られる上に、季節及び年度で生産量が変動するため、所要量の原料を安定して供給することが困難である。
また、天然ポリフェノールを原料とする吸着材にあっては、原料の基本構造は既に構築されてしまっているため、その性能を更に向上させるのには限界があった。
【0013】
本発明は、斯かる事情に鑑みてなされたものであって、安定供給できる原料を用いて、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる金属吸着材の製造方法、及び該方法により製造された金属吸着材を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らが鋭意検討した結果、適宜のフェノール化合物をペルオキシダーゼの酵素反応にて相互に重合させることによって得た重合体が対象金属を吸着し得るという知見を得て本発明を完成するに至った。
【0015】
すなわち、(1)本発明に係る金属吸着材の製造方法は、対象金属が溶解した溶液を接触させて、前記対象金属を吸着させる金属吸着材を製造する方法において、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させることを特徴とする。
【0016】
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材としては、メチルクレゾール、エチルクレゾール、メチルカテコール、エチルカテコール等を用いることができる。
また、ペルオキシダーゼとしては、植物由来、動物由来、又は微生物由来のものを用いることができる。
【0017】
一方、反応補助剤としては過酸化水素、又は過酸化水素を供給できる物質を用いることができる。
これら基材、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤を所要のpHで緩衝作用を示す反応液に溶解させ、ペルオキシダーゼの酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させて金属吸着材を得る。
【0018】
前述した基材は、化学合成によって容易に製造されるため、必要量の基材を安定して得ることができる。
また、このような製造方法にあっては、基材の種類及び反応条件を至適化することによって、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる。
【0019】
一方、本発明に係る金属吸着材の製造方法にあっては、酵素反応により重合体を生成するため、化学重合法のように強酸及び/又は強塩基を用いることなく重合体を得ることができる。従って、耐酸性及び/又は耐塩基性がさほど高くない反応設備を用いることができ、設備コストを廉価にすることができる。また、廃液処理に要するコストも廉価にすることができる。
【0020】
ところで、基材のベンゼン環に疎水性のアルキル基が結合しているため、前述した反応液に対する重合体の溶解性が、アルキル基が結合していない場合に比べて低く、吸着材の回収率が高い。
【0021】
また、アルキル基は電子供与性であるので、アルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上する。
【0022】
(2)本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記ベンゼン環に複数の水酸基が結合した基材を用いることを特徴とする。
このような吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に金属溶液中の金属が配位されるため、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多く、金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が多い。
【0023】
(3)また、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材を用いることを特徴とする。
ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材にあっては、電子供与性であるアルキル基から電子受容体である水酸基との距離を可及的に短くすることができるため、アルキル基から水酸基に供与される電子が割合が向上し、水酸基の金属の配位力が高い。
【0024】
(4)また、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、前記アルキル基としてメチル基が結合した基材を用いることを特徴とする。
アルキル基の分子量が大きい場合、即ち鎖長が長い場合、水酸基への金属の吸着を阻害するので、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いる場合、そのような金属吸着阻害を可及的に防止することができる一方、メチル基から電子が供与された水酸基の金属の配位性が向上する。。
【0025】
(5)更に、本発明に係る金属吸着材の製造方法は必要に応じて、所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させて前記反応液を調製するに際し、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くすることを特徴とする。
有機溶媒としては、メタノール、エタノオール、ジオキサン、アセトン、ジメチルホルムアミド等を用いることができる。
【0026】
また、緩衝液としては、リン酸緩衝液又は酢酸緩衝液等、前述したペルオキシダーゼの至適pHを含むpH範囲で緩衝作用を示す緩衝液を用いることができる。
ここで、前述した基材及び重合体を溶解させるために適宜量の有機溶媒を混合した反応液を用いる。
【0027】
この反応液における混合比は、有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くする。これによって、重合反応条件が改善され、得られた金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が増大する。
【0028】
(6)一方、本発明に係る金属吸着材は、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含有し、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着するようになしてあることを特徴とする。
【0029】
本発明の金属吸着材にあっては、ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び反応補助剤を所要のpHで緩衝作用を示す反応液に溶解させ、ペルオキシダーゼの酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含み、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着する。かかる基材、ペルオキシダーゼ、反応補助剤、及び緩衝液は前同様のものを用いてある。
【0030】
このような金属吸着材にあっては、前同様、基材が化学合成によって容易に製造され、必要量の基材を安定して得ることができるため、安定供給することができる。
また、電子供与性のアルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上するため、天然ポリフェノールを原料とする吸着材と同等以上の性能を有する金属吸着材を製造することができる。
【0031】
(7)本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させてあることを特徴とする。
本発明の金属吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に金属溶液中の金属が配位されるため、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多く、金属吸着材の単位質量当たりの金属の吸着量が多い。
【0032】
(8)また、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてあることを特徴とする。
ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材にあっては、電子供与性であるアルキル基から電子受容体である水酸基との距離を可及的に短くすることができるため、アルキル基から水酸基に供与される電子が割合が向上し、水酸基の金属の配位力が高い。
【0033】
(9)一方、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記基材は、アルキル基としてメチル基が結合していることを特徴とする。
アルキル基の分子量が大きい場合、水酸基への金属の吸着を阻害するので、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いた場合、金属の吸着を可及的に阻害しない一方、メチル基から電子が供与された水酸基の金属の配位性が向上する。
【0034】
(10)ところで、本発明に係る金属吸着材は必要に応じて、前記反応液は所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させてなり、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高することによって、前記重合体を粒状になしてあることを特徴とする。
有機系溶媒の性質より水系溶媒の性質の方が強い反応液中においては、複数の基材が疎水基であるアルキル基を内側にして球状に配列しようとする。かかる状態で、酵素反応により各基材が互いに重合されため、粒状の重合体が生成される。
【0035】
このような粒状の重合体にて構成された金属吸着剤にあっては、耐圧性が高いため、カラムに充填された金属吸着剤に圧力を印加することができ、これによって金属吸着処理速度を向上させることができる。また、カラムに金属吸着剤を充填する場合、均一に充填することができるため、対象金属を含む処理液をむら無く均一に処理することができる。
また、吸着材の単位質量当たりの金属吸着量が多い。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明方法により製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図2】本発明方法により製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
【図3】図1に示した基材を用いて作製した吸着材の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー法によって求めた結果を示すグラフである。
【図4】各吸着剤によって金を吸着した結果を示すグラフである。
【図5】基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材によって金溶液中の金を吸着させた状態を示す写真図である。
【図6】基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図7】基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図8】基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図9】基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【図10】金の吸着速度を比較した結果を示すグラフである。
【図11】異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの金の吸着量を示すヒストグラムである。
【図12】異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの銅の吸着量を示すヒストグラムである。
【図13】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図14】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図15】異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図である。
【図16】粒状の吸着剤の生成過程を説明する説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0037】
(本発明の実施形態)
以下に本発明に係る実施の形態について説明する。
本発明の吸着材(金属吸着剤)にあっては、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とを結合させた基材を所要の反応液に溶解させた溶液に、ペルオキシダーゼ(以後、HRPともいう。)及び反応補助剤としての過酸化水素を添加し、10℃程度以上60℃程度以下、好ましくは20℃程度以上40℃程度以下の温度に保持して、次式で示される酵素反応にて各基材を相互に重合させてなるオリゴフェノール又はポリフェノール(重合体)を得ることによって製造されている。
【0038】
【化1】
すなわち、ペルオキシダーゼは、過酸化水素を還元する一方、基材と酵素とが結合した複合体から、基材の水酸基が酸化された酸素ラジカルを伴う反応中間物を経て、各反応中間物が相互に結合してなるフェニレンとオキシフェニレンとが混合した重合体が生成される反応を触媒しているのである。
【0039】
なお、上式中、Rはアルキル基を示している。
このような吸着材にあっては、ベンゼン環に結合させた水酸基に、金属溶液中の金属が配位される。
【0040】
従って、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させた基材にあっては金属が配位できる部位が多いので好ましい。更に、それら複数の水酸基はベンゼン環おいて相隣らせて結合されている場合の方が、複数の水酸基がベンゼン環おいて距離を隔てて結合されている場合より、全体として金属の配位力が向上するのでより好ましい。
【0041】
一方、基材のベンゼン環に疎水性のアルキル基が結合しているため、前述した溶液に対する重合体の溶解性が、アルキル基が結合していない場合に比べて低く、吸着材の回収率が高い。
【0042】
また、かかるアルキル基は電子供与性であるので、アルキル基からベンゼン環に電子が供給され、当該ベンゼン環に結合した水酸基の酸素において電子密度が高くなり、これによって当該水酸基の金属を配位させる能力が向上する。
【0043】
以上より基材としては、例えば3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、3−エチルカテコール、又は4−エチルカテコール等を用いることができる。
ただし、アルキル基の分子量が大きい場合、水酸基への金属の吸着を阻害するため、分子量が小さいアルキル基であるメチル基を有する基材を用いるのが好ましい。
【0044】
また、前述したように、アルキル基の電子がベンゼン環に結合した水酸基に与えられて、金属の配位能が向上するため、ベンゼン環におけるアルキル基の結合位置と水酸基の結合位置とを可及的に近くなしてあることが好ましい。
このような基材にあっては化学合成法により容易に製造することができるため、基材を安定供給することができる。
【0045】
一方、前述した溶液としては、リン酸緩衝液又は酢酸緩衝液等、所要のpHで緩衝作用を示す緩衝液とメタノール、エタノオール、ジオキサン、アセトン、ジメチルホルムアミドといった有機溶媒とを混合させた溶液を用いる。緩衝液の緩衝作用によって、前述した酵素反応を所要のpH範囲内で行わせることができる一方、有機溶媒を混合させることによって重合体が沈殿することを防止し得るため、吸着材の収率を向上させることができる。
【0046】
ところで、前述したペルオキシダーゼとしては、西洋わさびペルオキシダーゼ、大豆ペルオキシダーゼ等、種々の植物由来のペルオキシダーゼ以外にも、動物及び/又は微生物由来のペルオキシダーゼを用いることができる。
【0047】
このように、酵素による触媒反応によって基材を重合させて吸着材を製造するため、化学重合法のように強酸及び/又は強塩基を用いることなく基材を重合させることができる。従って、耐酸性及び/又は耐塩基性がさほど高くない反応設備を用いることができ、設備コストを廉価にすることができる。また、廃液処理に要するコストも廉価にすることができる。
【実施例1】
【0048】
次に、吸着材の製造例について説明する。
基材には、メチルクレゾール、3−メチルカテコール、4−メチルカテコール、又は4−エチルカテコールを用いた。
また、ペルオキシダーゼには、西洋わさびペルオキシダーゼ(シグマ社 P8375)を用いた。
【0049】
一方、反応液には、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させたものを用いた。
そして、基材を反応液に0.2mol/Lとなるように溶解させ、これにペルオキシダーゼが6U/ml、過酸化水素が0.2mMとなるように添加し、略30℃で6時間程度、重合反応を行わせた。
重合反応によって得られた重合体を濾別し、蒸留水で洗浄した後、メタノールで洗浄することによって脱水し、脱水した重合体を減圧乾燥させて吸着材を得た。
【0050】
図1及び図2は、前述したようにして製造した吸着材の赤外吸収スペクトルを測定した結果を示すグラフである。
図1中、aは基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、bは基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、cは基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0051】
一方、図2は基材としてメチルクレゾールを用いた場合を示している。
図1及び図2から明らかな如く、波数が3400cm-1、1290cm-1、及び1150cm-1の位置に吸収が見られており、これらの吸収は(-OH)、(C-O-C)、及び(C-OH)に特有なものであった。
これらの結果より、吸着材にはフェニレン及びオキシフェニレンが混在していることが分かる。
【0052】
図3は、図1に示した基材を用いて作製した吸着材の分子量をゲル浸透クロマトグラフィー法によって求めた結果を示すグラフである。なお、前同様、図3中、aは基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、bは基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、又はcは基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0053】
ここで、ゲル浸透クロマトグラフィーのカラムとしてはStyagel HR−1(ウォーターズ社製)を用い、このカラムにテトラヒドロフラン(THF)を1.0ml/分の流速で通流させることによって吸着材を溶離させ、溶離液の紫外線吸収を測定した。
図3から明らかな如く、いずれの吸着材もその分子量は1000程度であり、重合度は10程度であった。
【実施例2】
【0054】
次に、異なる組成の反応液を用いて吸着材を製造した結果について説明する。
反応液として、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3、5:5、3:7になるように混合させた溶液を調製した。
そして、3−メチルカテコールを基材とし、各反応液を用いて前同様の操作を行って吸着材を得、使用した基材の質量に対する吸着材の質量を求めて収率を得た。
その結果を次表に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
表から明らかな如く、反応液において緩衝液の比率が大きくなるに従って、有機溶媒による酵素活性阻害作用が低下するため、吸着材の収率が向上したが、有機溶媒の比率が小さくなると、反応液に対する重合体の溶解度が低下するため、吸着材の収率が低下していた。
【実施例3】
【0057】
次に、前述した如く製造した各吸着材を用いて金属吸着試験を行った結果について説明する。
図4は、各吸着剤によって金を吸着した結果を示すグラフであり、丸印は基材としてメチルクレゾールを用いた場合を示しており、三角印は基材として3−メチルカテコールを用いた場合を示しており、四角印は基材として4−メチルカテコールを用いた場合を示しており、倒立三角印は基材として4−エチルカテコールを用いた場合を示している。
【0058】
0.1Mから6Mの塩酸溶液に0.1mMとなるように金(Au)を溶解させた金溶液を15mlずつ容器に分取し、各容器内に吸着材を25mg添加して略30℃で24時間振盪することによって金溶液中の金を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して濾液を得、この濾液中に残存する金の濃度を原子吸光光度計((株)島津製作所 AA−6650)を用いて測定して吸着率を求めた。
【0059】
その結果、図4から明らかな如く、基材として3−メチルカテコール又は4−メチルカテコールを用いた吸着材にあっては、いずれの濃度においても金を略100%吸着していた。
【0060】
一方、基材として4−エチルカテコールを用いた吸着材は、塩酸の濃度が高くなるに従って金の吸着率が低下し、塩酸の濃度が4Mでは金の吸着率は零であった。
これに対し、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着材は、いずれの濃度においても金を殆ど吸着していなかった。
【0061】
図5は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材によって金溶液中の金を吸着させた状態を示す写真図である。
1Mの塩酸溶液に60mMとなるように金(Au)を溶解させた金溶液15mlを容器に分取し、この容器内に吸着材を15mg添加して略70℃で24時間振盪することによって金溶液中の金を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して乾燥させ、吸着材の表面を光学顕微鏡を介して撮像した。
【0062】
図5に示した如く、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着材の表面に金が吸着されるとともに、金粒子が形成されていた。
【0063】
以上の結果より、吸着材を構成する基材のベンゼン環には水酸基が複数結合していることが重要であり、また、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてあることが好ましいことが理解できる。また、ベンゼン環に結合させたアルキル基の分子量は可及的に小さい方が好ましいことも理解できる。
【実施例4】
【0064】
次に、金以外の他の金属について吸着試験を行った結果について説明する。
図6は、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図7は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図8は、基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフであり、図9は、基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤によって他の金属を吸着させた結果を示すグラフである。
【0065】
これら各図6から図9においてそれぞれ、丸印はCr(VI)を吸着させた場合を示して
おり、三角印はCu(II)を吸着させた場合を示しており、四角印はZn(II)を吸着さ
せた場合を示している。
【0066】
pHが1から5に調整した塩酸溶液に0.2mMとなるように各金属を溶解させた金属溶液を15mlずつ容器に分取し、各容器内に吸着材を25mg添加して略30℃で24時間振盪することによって金属溶液中の金属を吸着材に吸着させた。その後、吸着材を濾別して濾液を得、この濾液中に残存する金属の濃度を原子吸光光度計((株)島津製作所 AA−6650)を用いて測定して吸着率を求めた。
【0067】
図6から図9より明らかな如く、Cr(VI)、Cu(II)、又はZn(II)に対する吸
着能は、基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤が最も高く、Cu(II)の吸着
率は略100%であり、Cr(VI)及びZn(II)の吸着率も略80%であった。
次に吸着能が高かったのは、基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤及び基材として4−エチルカテコールを用いた吸着剤であり、Cr(VI)、Cu(II)及びZn(
II)の吸着率は50%程度〜70%程度であった。
一方、基材としてメチルクレゾールを用いた吸着剤にあっては、Cr(VI)を殆ど吸着
することができず、Cu(II)及びZn(II)の吸着率も50%程度であった。
【実施例5】
【0068】
次に、比較試験を行った結果について説明する。
図10は、金の吸着速度を比較した結果を示すグラフであり、横軸は時間を、縦軸は単位質量当たりの金の吸着量を示している。図中、丸印は基材として3−メチルカテコールを用いた吸着剤を用いた場合を、三角印は基材として4−メチルカテコールを用いた吸着剤を、四角印はレモン皮から調製した比較用の吸着材を用いた場合をそれぞれ示している。
【0069】
比較用の吸着材は次のようにして調製した。
すなわち、レモン果汁の製造において発生する搾汁残渣をそのままの状態で粉砕し、15gを取って20mlの98%の濃硫酸中に入れ、100℃で24時間加熱撹拌することにより架橋処理を行った。100g/dm3の濃度の炭酸水素ナトリウム水溶液500mlに反応混合物を加えて中和した後、最初に50℃の蒸留水1000mlで、次いで常温の蒸留水1000mlで洗浄した。その後、1mol/dm3の濃度の塩酸500mlと12時間撹拌し、濾過した後、濾過物をpHが中性になるまで蒸留水で洗浄した。しかる後に70℃の乾燥器に入れ、24時間乾燥したものを吸着剤として用いた。
吸着は実施例3で説明した条件と同じ条件で行った。
【0070】
その結果、図10から明らかな如く、4−メチルカテコールを用いた吸着剤にあっては、吸着開始直後の期間は比較用の吸着材より単位質量当たりの金吸着量が多かったものの、吸着開始から略20分経過した後から単位質量当たりの金吸着量が略一定となっていたのに対し、比較用の吸着材にあっては、吸着開始から略20分経過した後も単位質量当たりの金吸着量が漸次増大していた。
一方、3−メチルカテコールを用いた吸着剤にあっては、吸着開始直後から一貫して単位質量当たりの金吸着量が比較用の吸着材より多かった。
【実施例6】
【0071】
次に、本発明に係る吸着材の製造条件と金属吸着量との関係を検討した結果について説明する。
図11は、異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの金の吸着量を示すヒストグラムであり、図12は、異なる条件で製造した複数の吸着材の単位質量当たりの銅の吸着量を示すヒストグラムである。
各吸着材は、実施例2で説明した条件と同じ条件で製造した。
【0072】
すなわち、両図中、aはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果を、bはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果を、cはメタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着材の結果をそれぞれ示している。
【0073】
図11及び図12から明らかな如く、反応液における緩衝液の割合が大きくなるに従って吸着材の単位質量当たりの金、銅の吸着量が増大していた。
【実施例7】
【0074】
次に、吸着材の製造条件と吸着材の構造との関係を検討した結果について説明する。
図13〜図15は異なる条件で製造した吸着剤の走査電子顕微鏡写真図であり、いずれの吸着剤にあっても基材として3−メチルカテコールを用いている。
【0075】
各製造条件は重合の際に用いる反応液の組成を異ならせた。すなわち、図13に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した。また、図14に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で5:5になるように混合させた反応液を用いて調製した。そして、図15に示した吸着剤は、メタノールと10mMリン酸緩衝液(pH7.0)とを容量比で7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した。なお、他の製造条件は実施例2で説明した条件と同じ条件で製造した。
【0076】
図13から明らかなように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤は、複数の球状粒子が集合した構造であり、球状粒子の平均直径は略1μmであった。
【0077】
これに対して図14及び図15から明らかなように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で5:5又は7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤にあっては、いずれも不定形の構造であった。
【0078】
図13に示したように吸着剤が球状粒子構造を形成するのは、図16に示した如く、有機系溶媒の性質より水系溶媒の性質の方が強い反応液中においては、複数の基材が疎水基であるメチル基を内側にして球状に配列しようとするが、かかる状態で酵素反応により各基材が互いに重合されるので、球状粒子構造の吸着剤が生成されたものと考えられる。
従って、有機溶媒と緩衝液とを混合させる反応液は、有機溶媒の割合より緩衝液の割合が高くなるように適宜定める。
【0079】
図13に示した如き粒状の吸着剤にあっては、耐圧性が高いため、カラムに充填された吸着剤に圧力を印加することができ、これによって金属吸着処理速度を向上させることができる。また、カラムに吸着剤を充填する場合、均一に充填することができるため、当該カラムに充填された吸着剤によって対象金属を含む処理液をムラなく均一に処理することができる。
【0080】
また、実施例6で説明したように、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で3:7になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤は、メタノールとリン酸緩衝液とを容量比で5:5又は7:3になるように混合させた反応液を用いて調製した吸着剤に比べて、吸着材の単位質量当たりの金属吸着量が多い。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象金属が溶解した溶液を接触させて、前記対象金属を吸着させる金属吸着材を製造する方法において、
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させることを特徴とする金属吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記ベンゼン環に複数の水酸基が結合した基材を用いる請求項1記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材を用いる請求項2記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記アルキル基としてメチル基が結合した基材を用いる請求項1から3のいずれかに記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項5】
所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させて前記反応液を調製するに際し、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くする請求項1から4のいずれかに記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含有し、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着するようになしてあることを特徴とする金属吸着材。
【請求項7】
前記基材は、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させてある請求項6記載の金属吸着材。
【請求項8】
前記基材は、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある請求項7記載の金属吸着材。
【請求項9】
前記基材は、アルキル基としてメチル基が結合している請求項6から8のいずれかに記載の金属吸着材。
【請求項10】
前記反応液は所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させてなり、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高することによって、前記重合体を粒状になしてある請求項5から9のいずれかに記載の金属吸着材。
【請求項1】
対象金属が溶解した溶液を接触させて、前記対象金属を吸着させる金属吸着材を製造する方法において、
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を生成させることを特徴とする金属吸着材の製造方法。
【請求項2】
前記ベンゼン環に複数の水酸基が結合した基材を用いる請求項1記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項3】
前記ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある基材を用いる請求項2記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項4】
前記アルキル基としてメチル基が結合した基材を用いる請求項1から3のいずれかに記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項5】
所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させて前記反応液を調製するに際し、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高くする請求項1から4のいずれかに記載の金属吸着材の製造方法。
【請求項6】
ベンゼン環に水酸基とアルキル基とが結合した基材、ペルオキシダーゼ及び該ペルオキシダーゼの酵素反応を補助する反応補助剤を所要の反応液に溶解させ、前記酵素反応によって各基材を相互に重合させた重合体を含有し、対象金属が溶解した溶液と接触した場合、前記重合体が対象金属を吸着するようになしてあることを特徴とする金属吸着材。
【請求項7】
前記基材は、ベンゼン環に複数の水酸基を結合させてある請求項6記載の金属吸着材。
【請求項8】
前記基材は、ベンゼン環にアルキル基と複数の水酸基とが相隣る位置に結合させてある請求項7記載の金属吸着材。
【請求項9】
前記基材は、アルキル基としてメチル基が結合している請求項6から8のいずれかに記載の金属吸着材。
【請求項10】
前記反応液は所要の有機溶媒と緩衝液とを所要の混合比で混合させてなり、前記混合比を有機溶媒の割合より緩衝液の割合を高することによって、前記重合体を粒状になしてある請求項5から9のいずれかに記載の金属吸着材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図5】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図16】
【図5】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2010−51954(P2010−51954A)
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−176519(P2009−176519)
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日 社団法人化学工学会発行の「2008年 第73年会 研究発表講演プログラム集」に発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年7月29日(2009.7.29)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年2月17日 社団法人化学工学会発行の「2008年 第73年会 研究発表講演プログラム集」に発表
【出願人】(504209655)国立大学法人佐賀大学 (176)
【Fターム(参考)】
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