説明

金属吸着材

【課題】吸着後の回収が容易で吸着効率が向上する金属吸着材を提供する。
【解決手段】カルボキシル基を含有した親水性化合物と高分子架橋剤とを原料とし繊維状に架橋された親水性高分子化合物を含有する。親水性高分子化合物は、下記式(1)で表される溶解度が80%以下である。
溶解度[%]={(MB−MA)/MB}×100 …(1)
(式(1)中、MAは親水性高分子化合物を水に浸漬した後に乾燥させた親水性高分子化合物の質量を表し、MBは親水性高分子化合物を水に浸漬する前の質量を表す。)
親水性化合物としてポリグルタミン酸、高分子架橋剤としてオキサゾリン基を有する重合体を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子化合物を含有する金属吸着材に関する。
【背景技術】
【0002】
Poly-γ-glutamic acid(γ-PGA)は、納豆の糸に含まれるポリアミノ酸で、バチルス属種のような微生物の作用を利用して生産されるバイオポリマーの一種である。このような非石油由来の素材は、低炭素社会の実現に対し注目が高まっている。
そして、γ-PGAは、生分解性、生体適合性、吸水性、などの様々な特徴を有することから、生体材料、環境素材への活用が期待されている。また特に、γ-PGAは、カルボキシル基によるイオン交換や分子の螺旋構造への誘導で金属吸着性を有している。
この性質を利用し、γ-PGAを用いて水銀や鉛などの人体に障害を引き起こす重金属、産業排水系に含まれ廃棄されている金、プラチナなどの貴金属類を効率よく水中から除去回収することは、水環境の保全および地球資源の有効活用のために非常に重要である。これまで、γ-PGAの架橋ゲルを用いた金属吸着が知られている(特許文献1,2および非特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−29917号公報
【特許文献2】特開2004−174326号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】D. Gonzales, K. Fan and M. Sevoian, J Polym Sci PartA: Polym Chem, 34, 2019(1996)
【非特許文献2】M. Taniguchi, K. Kato, A Shimauchi, X Ping, K. Fuji, T. Tanaka, Y. Tarui and E. Hirasawa. J Biosci Bioeng 99,130(2005)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上述したγ-PGAの架橋ゲルを用いた金属吸着方法では、γ-PGAと金属との凝集沈殿物を回収するためにはろ過処理が必要で、水中から効率良く回収できる方法が求められている。
【0006】
本発明は、吸着後の回収が容易で吸着効率が向上する金属吸着材を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の金属吸着材は、カルボキシル基を含有した親水性化合物と高分子架橋剤とを原料とし、この原料が繊維状に架橋されて得られた親水性高分子化合物の集合体であることを特徴とする。
そして、本発明では、前記親水性高分子化合物は、下記式(1)で表される溶解度が80%以下であることが好ましい。
溶解度[%]={(MB−MA)/MB}×100 …(1)
(式(1)中、MAは親水性高分子化合物を水に浸漬した後に乾燥させた親水性高分子化合物の質量を表し、MBは親水性高分子化合物を水に浸漬する前の質量を表す。)
また、本発明では、前記親水性化合物は、ポリグルタミン酸であることが好ましい。
さらに、本発明では、前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体であることが好ましい。
また、本発明では、前記親水性高分子化合物は、繊維径の平均値が0.01μm以上3μm以下であることが好ましい。
そして、本発明では、前記親水性高分子化合物は、不織布を形成していることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、生分解性、生体適合性および吸湿性および吸水性に優れるとともに、吸湿あるいは吸水した場合に水に溶解しにくい耐水性を備え、水中の重金属や貴金属などの金属を効率よく吸着し回収できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた実施例1の各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を示すグラフ。
【図2】溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた実施例2の各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を示すグラフ。
【図3】溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた実施例3の各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を示すグラフ。
【図4】溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた実施例4の各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を示すグラフ。
【図5】溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた比較例1の各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を示すグラフ。
【図6】試料表面のSEM写真およびEDSの分析チャートを示す図。
【図7】試料断面のSEM写真およびEDSの分析チャートを示す図。
【図8】各試料の水に対する溶解度と、最大吸着率との関係を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の一実施形態について説明する。
本実施形態では、カルボキシル基を含有した親水性化合物と、高分子架橋剤と、助剤とを含む溶液を、静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成し、この繊維および繊維集合体を熱架橋して、金属吸着材である繊維架橋体を形成する。
【0011】
(1.原料)
(1−1.カルボキシル基を含有した親水性化合物)
カルボキシル基を含有した親水性化合物の例としては、カルボキシル基を含有する脂肪族、芳香族などの低分子有機化合物、高分子化合物、ビニルモノマー、金属錯体、生体由来化合物など多種多様なものを挙げることができる。
ここで、本実施形態の金属吸着材は、水中の金属を吸着するものであることから、親水性の化合物が用いられる。また、カルボキシル基を含有する親水性化合物を用いるのは、水中の金属イオンがカルボキシル基に良好にイオン結合するので、吸着率を向上するためである。
低分子有機化合物の例としては、酢酸、マレイン酸、フタル酸などを挙げることができる。
高分子化合物としては、ポリ(メタ)アクリル酸や(メタ)アクリル酸を含有する種々の共重合体などの合成高分子や、ポリグルタミン酸などのバイオポリマーを挙げることができる。
生体由来化合物としては、アミノ酸全般、タンパク質、キトサンなどのセルロース誘導体、油脂、ビタミン類、その他の生理活性物質などを挙げることができる。好ましくはアミノ酸などが挙げられる。
【0012】
本実施形態では、カルボキシル基を含有する親水性化合物としてポリグルタミン酸塩を用いる。ポリグルタミン酸は、アミノ酸の一種であるグルタミン酸が直鎖状に連結した高分子で、生分解性、生体適合性などの特性を備えている。
ポリグルタミン酸塩としては、分子量が20万以上であれば特に限定されず、公知の製法で得られたもの、天然物由来のものなどを使用することができる。分子量が20万未満であると、静電紡糸法で繊維化する際に粒子しか生成されず、繊維化することが困難となるおそれがあるためである。ポリグルタミン酸はD体、L体、または種々の誘導体を用いることができる。これらのうち、吸水・保水性があり、工業的に安定的に得られる点からポリ−γ−グルタミン酸ナトリウムを好適に用いることができる。
【0013】
(1−2.高分子架橋剤)
高分子架橋剤は、ポリグルタミン酸のカルボキシル基と架橋可能な高分子として、オキサゾリン基を有する高分子架橋剤、または生分解性に優れた架橋重合体(特開2001−278974号公報に記載の架橋重合体)を用いることができる。すなわち、カルボキシル基を含有した親水性化合物と反応性が高いオキサゾリン基を有する架橋剤が好適である。なお、カルボキシル基が架橋のために多く使われると、水中の金属イオンの吸着性が低下してしまうので、高分子架橋剤に対して親水性化合物が過剰となるように配合することが好ましい。
オキサゾリン基を有する高分子架橋剤としては、下記一般式(1)で表される2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと必要に応じて1種以上の他のビニルモノマーを重合して得られるものを挙げることができる。
【0014】
【化1】

【0015】
上式中、Xは水素原子またはメチル基を表し、R,R、R、及びRはそれぞれ独立に水素原子、アルキル基、フェニル基、置換フェニル基またはハロゲン基を表す。
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーの具体例としては、2−ビニル−2−オキサゾリン、2−ビニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−ビニル−5−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−4−メチル−2−オキサゾリン、2−イソプロペニル−5−メチル−2−オキサゾリンなどが挙げられる。中でも2−イソプロペニル−2−オキサゾリンが工業的にも入手しやすく好適である。
【0016】
2−オキサゾリン基を有するビニルモノマーと共重合する他のビニルモノマーとしては、2−オキサゾリン基と反応しない、共重合可能なビニルモノマーであれば特に限定はない。例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸メトキシポリエチレングリコール、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−アミノエチルおよびその塩類などの(メタ)アクリル酸エステル類、(メタ)アクリロニトリルなどの不飽和ニトリル類、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−(2−ヒドロキシエチル)(メタ)アクリルアミドなどの不飽和アミド類、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル類、メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテルなどのビニルエーテル類、エチレン、プロピレンなどのα−オレフィン類、塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニルなどの含ハロゲンモノマー、スチレン、α−メチルスチレン、スチレンスルホン酸ナトリウムなどの芳香族官能基含有モノマーなどが挙げられ、これらの1種以上の混合物を使用することができる。
オキサゾリン基を有する重合体の重合方法については特に制限はなく、乳化重合、溶液重合、塊状重合、懸濁重合などの各種の重合法が任意に選択できる。
【0017】
このような高分子架橋剤は、加熱処理を施すことによりポリグルタミン酸と架橋させることができる。特に、固体状態でも熱架橋するため、繊維を保持したまま架橋度を高めることができる。
また、必要に応じて電子線架橋、紫外線架橋、放射線架橋、およびグルタルアルデヒドなどの架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0018】
(1−3.助剤)
必要に応じて、各種助剤を添加してもよい。
例えば、塩酸、酢酸、シュウ酸、りんご酸、クエン酸などの酸で溶液を酸性にすると、ポリグルタミン酸とオキサゾリン基との反応が促進される。
このような酸の配合量は、配合溶液が酸性になる量を加える必要があり、pH7以下が好ましく、pH5以下がより好ましい。なお、pH7を超えると架橋反応が進まなくなる可能性がある。
【0019】
また、必要に応じてバインダーを配合してもよい。ここで用いられるバインダーとしては公知のものが使用可能で、例えば、ポリ乳酸、ポリビニルアルコール、ポリ酢酸ビニル、ポリプロリレンオキサイド、ポリメタクリル酸メチル、ポリアクリロニトリル、ポリウレタン、シリコーン、ポリフッ化ビニリデン、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ナイロン、ポリエチレンサルファイド、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリエチレンテレフタレートなど、溶媒に溶解可能な合成高分子が挙げられる。
また、コラーゲン、ゼラチン、デンプン、セルロース、キチン、キトサン、セリシン、核酸、ヒアルロン酸、エラスチン、ヘパリンなどの天然高分子も使用することができる。
さらに、オルガノシリカやオルガノチタンなどのゾル溶液も挙げられる。
【0020】
そして、ポリグルタミン酸塩を溶解せしめる溶媒には、水と水溶性有機溶媒が用いられる。特に、ポリグルタミン酸ナトリウムは水に可溶であるが、静電紡糸する際の紡糸性を向上させるため、水溶性有機溶媒と併用する。
水溶性有機溶媒としてはポリグルタミン酸塩水溶液と混合しうるものが適宜選択される。例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノールなどのアルコール類以外にも、アセトン、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミドなどを用いることができる。この中でも、取り扱いが容易かつ経済的である点で、特に、炭素数1〜3の脂肪族低級アルコールであるメタノール、エタノール、プロパノールを用いることが好ましい。これらは一種を単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0021】
そして、必要に応じて、界面活性剤、金属塩、色剤、防腐剤、各種安定剤を適宜使用することができる。
界面活性剤としては、特に制限はなく、アニオン界面活性剤、カチオン界面活性剤、ノニオン界面活性剤、両性界面活性剤といった公知の界面活性剤を使用することができ、具体的には、p−ノニルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシスルホン酸ナトリウム、ラウリルオキシリン酸二ナトリウムなどのアニオン界面活性剤や、ラウリルトリメチルアンモニウムクロリド、セチルピリジニウムクロリドなどのカチオン界面活性剤や、ステアリン酸ポリエチレングリコール、ペンタエリスリットステアリン酸モノエステルなどのノニオン界面活性剤や、ラウリルジメチルペタインなどの両性界面活性剤が挙げられ、これらの一種を単独で、または、二種以上を組み合わせて使用することができる。
金属塩としては、塩化物、臭化物、ヨウ化物などの金属塩が挙げられる。
【0022】
(2.製造方法)
ポリグルタミン酸塩としてポリグルタミン酸ナトリウムを用い、高分子架橋剤および助剤を溶媒とともに所定の配合比で混合して溶液を調整する。
【0023】
ここで、高分子架橋剤の配合量は、ポリグルタミン酸に対して固形分比で0.1質量%以上50質量%以下であることが好ましく、0.1質量%以上20質量%以下であることがより好ましい。
さらに、詳細は後述するが、水中の金属の吸着率を増大するため、得られた金属吸着材を構成する繊維である親水性高分子化合物の溶解度を下げには、カルボキシル基を含有した親水性化合物に対する高分子架橋剤の配合割合を1質量%以上、特に4質量%以上とすることが好ましい。
高分子架橋剤の配合量が0.1質量%未満であると、架橋が不十分となり、形成された繊維架橋体は水に溶解してしまうおそれがあるためである。また、高分子架橋剤の配合量が50質量%を超えると、金属イオンの吸着性が悪くなるおそれがあるためである。
【0024】
そして、調整された溶液を帯電させることにより紡糸する静電防止法(エレクトロスピニング法)で繊維および繊維集合体を形成する。なお、各種の紡糸方法を利用できるが、得られる繊維が、後述する径寸法の極細繊維となることから、静電紡糸法が好ましい。
次に、繊維集合体に加熱処理を施すことにより繊維架橋体を形成する。なお、必要に応じて放射線架橋、紫外線架橋、架橋剤に浸漬するなどの公知の架橋処理を併用してもよい。
【0025】
このようにして形成された繊維集合体および繊維架橋体を構成する繊維である親水性高分子化合物は、その径が、0.01μm以上3μm以下となる。なお、繊維径のより好ましい範囲は0.05μm以上1.8μm以下である。
繊維径が3μmを超えると、超極細繊維としての特徴であるフィルター性能および表面積による金属イオンの吸着性が低下する可能性がある。一方、繊維径が0.01μm未満であると、生産性、強度、取り扱いに問題が生じる可能性がある。
したがって、繊維径を上記範囲内とした極細繊維とすることにより、繊維集合体および繊維架橋体の表面積を大きくすることができ、繊維間に多数の細孔が形成される。これは、細孔に水分が取り込まれやすく、水中の金属イオンの吸着性も向上した繊維集合体および繊維架橋体である金属吸着材とすることができる。
【0026】
また、得られた親水性高分子化合物は、下記数式(1)で表される23℃での溶解度が、好ましくは80%以下、より好ましくは30%以下である。
溶解度[%]={(MB−MA)/MB}×100 …(1)
(式(1)中、MAは親水性高分子化合物を水に浸漬した後に乾燥させた親水性高分子化合物の質量を表し、MBは親水性高分子化合物を水に浸漬する前の質量を表す。)
ここで、溶解度が80%より大きくなると、形成された繊維架橋体は水に溶解し、水中の金属の吸着率および回収率が低下してしまうおそれがあるためである。
【0027】
(3.本実施形態の作用効果)
以上の実施形態によれば、以下の作用効果を奏することができる。
本実施形態では、ポリグルタミン酸は生分解性および生体適合性に優れているので、そのポリグルタミン酸からなる繊維架橋体は、生分解性および生体適合性に優れる。
このため、金属吸着材を回収し損なって一部が水中に残留したとしても、生分解されて環境に与える影響が少なくて済む。
【0028】
また、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムと高分子架橋剤とを含む溶液を静電紡糸法により紡糸し、繊維集合体を形成させている。静電紡糸法によれば、電荷の高まりにより糸の細化を促進し、この細化に伴い溶媒の揮散が進むため、極細繊維を得ることができる。
さらに、本実施形態では、溶媒として水および水溶性有機溶媒を用いることができるため、経済的かつ取り扱いや製造を容易に行うことができる。
【0029】
そして、本実施形態では、ポリグルタミン酸ナトリウムに高分子架橋剤を配合する。この混合溶液を静電紡糸法により紡糸して繊維および繊維集合体を形成する。この繊維および繊維集合体に対して加熱処理を施す。架橋は、加熱によりポリグルタミン酸のカルボキシル基と高分子架橋剤の官能基と開環重合することで生じ、繊維架橋体が形成される。
このようにして得られる繊維架橋体は、ポリグルタミン酸と高分子架橋剤の官能基とが架橋しているため、上述した式(1)で表される溶解度が80%以下となり、水溶化しにくい。したがって、吸湿あるいは吸水した状態で長時間経過したとしても、水溶化せず耐水性に優れ、金属の吸着率および回収率を向上した製品を提供できる。
また、本実施形態では、繊維および繊維集合体を加熱処理するのみで繊維架橋体を形成することができるので、処理工程としても加熱設備を設けるだけなので、経済的に有利である。
さらに、本実施形態では、極細繊維の集合体である繊維架橋体であり、不織布を構成している。このため、水中の金属を吸着し回収する場合、別途のろ過処理が必要なく、かつ表面積が極めて大きく、金属の吸着性も向上でき、効率よく吸着した金属を、効率よく回収できる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明の効果を実施例および比較例により確認する。
なお、本発明のその要旨を超えない限りこれらの実施例に限定されるものではない。
【0031】
[試料]
ポリグルタミン酸ナトリウム(γ−PGA)として味丹社製「HM−NaFORM」、オキサゾリン基含有高分子架橋剤(OXA)の25%水溶液として株式会社日本触媒社製「WS−770」、エタノール、塩酸、水酸化ナトリウムとして関東化学株式会社製JIS特級を用い、以下の実施例1〜4および比較例1,2に示す配合比(表1)でポリグルタミン酸溶液を調整した。
γ−PGAとOXAとの架橋反応によって得られるγ−PGA/OXA不織布の構造は、以下の一般式(2)で表される。
【0032】
【化2】

【0033】
[不織布の作製]
次に、静電紡糸を行う装置としてエルマルコ社製「NS−LAB200S」を用いた。各種条件は、電極間距離130mm、電圧75kVで、30℃、湿度30%RHの雰囲気下で紡糸した。繊維は、0.1m/minの巻取り速度で流れるポリプロピレン不織布(30g/m)の基材(出光ユニテック株式会社製「RC2030」)に12回堆積させた。この不織布を減圧乾燥機を用いて120℃で1時間熱架橋処理し、基材から剥がして目付け19±2g/mのγ−PGA/OXA不織布(実施例1〜4)を得た。
【0034】
なお、比較例として、原料のポリグルタミン酸ナトリウム100質量%のままを比較例1とした。
また、ポリグルタミン酸ナトリウムを2Mの水酸化ナトリウム水溶液でpH7.1に調製しながら攪拌溶解し、この10質量%の水溶液をナイロン袋に入れ15mmの厚さで密封した。これを日新ハイボルテージ株式会社製「EPS5」で加速電圧4.99MV、電子流5mAの条件で照射エネルギー97.5kGyの電子線を照射して架橋ゲルを得た。このゲルを凍結乾燥、粗砕したものを株式会社セイシン企業社製「ジェットミル STJ−315」で微粒化し、平均粒径18μmの粉末状のゲル乾固物を得た。このゲル乾固物を比較例2とした。
【0035】
[溶解度]
そして、γ−PGAは、水溶性であるため、実施例1〜4、比較例1,2の試料20mgを、それぞれ20mlの蒸留水に浸漬し、室温で1時間攪拌後、水を交換する水洗操作を3回繰返し、不溶分の乾燥質量と処理前の質量とから上記式(1)で表される溶解度を求めた。
【0036】
[銅イオンの吸着試験]
金属イオンとして銅イオンの吸着性を評価する実験を実施した。
CuCl・2HOを純水に溶解し、1.0mmol/l、2.0mmol/lおよび5.0mmol/lの濃度に調製し、各10mlをサンプル瓶に採取し、実施例1〜4、比較例1,2をそれぞれ3.5mg、7mg、15mgおよび30mg投入し、室温で10時間攪拌浸漬させた。
いずれも浸漬後、ICP発光分光分析装置(エスアイアイ・ナノテクノロジー社製 SPS5100)を用いて、浸漬前後の銅イオン濃度から吸着率を下記式(2)で求めた。また、各γ−PGA試料に対する銅イオンの吸着能力を下記式(3)で求めた。
【0037】
吸着率[%]={(Ci−Ca)/Ci}×100 …(2)
(式(2)中、Ciは浸漬前の銅イオン濃度[mmol/l]、Caは浸漬後の銅イオン濃度[mmol/l])
【0038】
吸着能力[mmol/g]={(Qi−Qa)/A}×100 …(3)
(式(3)中、Qiは浸漬前の銅イオン量[mmol]、Qaは浸漬後の銅イオン量[mmol]、Aはγ−PGA試料量[g])
【0039】
[銅イオン吸着後の繊維表面の観察]
銅イオンを吸着させた吸着試験後の実施例1〜4を水洗し、凍結乾燥して、繊維形態および集合構造をSEM(KEYENCE社製 3D Real Surface View Microscope VE−8800、金蒸着あり、印加電圧5kV、倍率1000倍)で観察した。また、SEM−EDS(SEM:日立ハイテクノロジーズ社製「S4700」、EDS:堀場製作所社製「エネルギー分散型X線分析器 EMAX」)で銅イオンの吸着状態を観察した。
【0040】
[実験結果]
溶液中の銅イオン量に対する浸漬させた各試料量の割合P(g[PGA]/mmol[Cu2+])と、吸着率および吸着能力との関係を、図1〜5に示す。
γ−PGA/OXA不織布(実施例1〜4)は、図1〜4に示すように、OXAの比率にかかわらずPの増加にともない吸着率が増加し、試料の収縮を伴いながら青色を呈した。この青色は銅イオンの吸着に由来するもので、不織布表面のみならず内部でも吸着されていることが、図6,7に示すSEM−EDSの結果からも認められた。
そして、最大吸着率(実施例1,2でP≒0.8、実施例3でP≒1.5)に達した後は、試料の収縮は見られず、また青色も淡くなっている。これ以降、Pの増加にともなう吸着率の変化はみられなかった。
一方、γ−PGA原料(比較例1)は、添加量が少ない場合は凝集し沈殿を生じるが、銅イオン量に対して試料が過剰(約0.8<P)になると白濁さらには溶解し、図5に示すように、吸着率は44%、吸着能力は1.5mmol/g程度に留まった。
また、比較例2では、金属イオンの吸着は認められたが、過剰になると膨潤して水中に分散する状態となり、回収が困難であった。
【0041】
γ−PGA/OXA不織布(実施例1〜4)ならびにγ−PGA原料(比較例1)の水に対する溶解度と、最大吸着率との関係を、図6に示す。
γ−PGA/OXA不織布(実施例1〜4)の最大吸着率は、γ−PGA原料(比較例1)と比較して高かった。特に、実施例3,4は99%以上の吸着率が認められた。なお、水に対する溶解度が高い実施例1では、84%と高い最大吸着率が得られたものの、未反応のγ−PGAが溶出したために実施例3,4に対してやや低くなったものと考えられる。
また、水中でも繊維形態を保持できる試料(実施例2〜4)の吸着能力を比較すると、実施例2,3では約2.0mmol/gであった。なお、OXAを多く添加し架橋を進めた実施例4では、吸着能力が約1.0mmol/gと、実施例2,3に比べて低かった。これは、銅イオンの吸着に作用するγ−PGAのカルボキシル基がOXAとの架橋反応に使われてしまっているためと考えられる。
これらのことから、本実験の試料では、以下の表1にも示すように、OXAを10質量%配合したγ−PGA/OXA=90/10(実施例3)が最も好ましく、高分子架橋剤にて繊維状に架橋していない比較例1、パスダー状の架橋体である比較例2では金属イオンの良好な吸着または、回収が得られないことが判った。なお、表1において、良好であったものを「○」、多少劣る結果を「△」、期待する結果が得られなかったものを「×」として評価した。
【0042】
【表1】

【0043】
γ−PGA/OXA不織布は、凝集物を濾過するような回収プロセスを必要とせず、回収の容易さでも優位な素材形態であることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明は、水中の金属イオンを吸着し回収するための各種金属吸着材に利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カルボキシル基を含有した親水性化合物と高分子架橋剤とを原料とし、この原料が繊維状に架橋されて得られた親水性高分子化合物の集合体である
ことを特徴とする金属吸着材。
【請求項2】
請求項1に記載の金属吸着材であって、
前記親水性高分子化合物は、下記式(1)で表される溶解度が80%以下である
ことを特徴とする金属吸着材。
溶解度[%]={(MB−MA)/MB}×100 …(1)
(式(1)中、MAは親水性高分子化合物を水に浸漬した後に乾燥させた親水性高分子化合物の質量を表し、MBは親水性高分子化合物を水に浸漬する前の質量を表す。)
【請求項3】
請求項1または請求項2に記載の金属吸着材であって、
前記親水性化合物は、ポリグルタミン酸である
ことを特徴とする金属吸着材。
【請求項4】
請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載の金属吸着材であって、
前記高分子架橋剤は、オキサゾリン基を有する重合体である
ことを特徴とする金属吸着材。
【請求項5】
請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載の金属吸着材であって、
前記親水性高分子化合物は、繊維径の平均値が0.01μm以上3μm以下である
ことを特徴とする金属吸着材。
【請求項6】
請求項1から請求項5までのいずれか一項に記載の金属吸着材であって、
前記親水性高分子化合物は、不織布を形成している
ことを特徴とする金属吸着材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図8】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−78751(P2013−78751A)
【公開日】平成25年5月2日(2013.5.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−221326(P2011−221326)
【出願日】平成23年10月5日(2011.10.5)
【出願人】(500242384)出光テクノファイン株式会社 (55)
【Fターム(参考)】